JP5702252B2 - 異常検出装置および異常検出方法 - Google Patents

異常検出装置および異常検出方法 Download PDF

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Description

本発明は、プラントの状態を監視し、その異常を検出する異常検出装置および異常検出方法に関する。
プラントの稼動時には様々な動作パラメータに関し、その動作状態が監視され、稼働中に異常を検出した際には、正常稼動に戻すための種々の対応が図られる。このような異常検出には長年に渡って培われた異常状態の見極めが必要であるが、異常検出をオペレータの経験に頼り過ぎると、人的負荷が高まるのみならず、異常か否かの判断が画一的に為されないおそれもあった。
そこで、プラント稼働時の様々な動作パラメータを定期的にプロットし、その絶対値および相対変化を観察する所謂、管理図を通じて自動的に異常を検出する手法が採用されている。管理図は、生産現場における品質管理法として古くから知られている手法であり、製品の仕様に影響を与えるような生産機械の異常を早期に発見するために、例えば、生産された製品の検査値を時々刻々とプロットしたものである。そして、そのプロットした値が、予め定められた仕様や品質のターゲット値に基づく許容範囲に含まれているか否かが判定されることで、生産機械の異常が検出される。
このような管理図を通じた異常検出に関する最も単純な方法としては、ロットごとの製品仕様の平均値をプロットし、それが許容値を外れて上昇または下降していないかを管理するXbarチャートがある。また、平均値のシフトを高感度かつ適切に発見可能な累積和チャートも知られている。例えば、管理対象データと、その管理対象データの指数重み付き移動平均(EWMA)との差分の累積和を計算して、異常を判定する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。ここでは、固定された加重割合λ(例えば0.2)によって管理対象データの累積和への反映速度が定められている。
特開2010−146197号公報
上述した特許文献1の指数重み付き移動平均は1次の低域通過フィルタ(LPF)の特性を有するので、管理対象データの揺動が激しい場合であってもその平均値を適切に抽出できる反面、管理対象データが時定数を伴い遅れて反映されてしまうといった欠点もある。したがって、特許文献1の技術を用い、揺動の激しい管理対象データから適切に異常を検出できるように、加重割合λとして単純に小さい値を採用してしまうと、その分、管理対象データが反映されるのが遅れ、ひいては異常検出にも遅れが生じるおそれがあった。このように移動平均値の計算を行う場合、移動平均値の検出精度と即応性とはトレードオフの関係にあり、適切な加重割合λを定めるのは困難であった。
また、従来の手法では、管理対象データと移動平均との差分を積分して累積和を求め、その累積和が所定の異常判定値以上となると、異常を検出するように構成されている。したがって、ノイズに相当する変動が含まれる管理対象データから平均値の上昇傾向または下降傾向を適切に判断することができる。しかし、管理対象データの上昇傾向や下降傾向が長時間続き、累積されてしまった管理対象データは、その上昇傾向や下降傾向が収まったとしても元の値に戻るまで時間を要する。すると、実質的な異常状態が終わっていても、累積和が所定の異常判定値以上で留まってしまい、見かけの異常検出を維持してしまう問題もあった。
本発明は、このような課題に鑑み、管理対象データに基づいて加重割合自体を可変することで、即応性を維持しつつ適切に異常を検出することが可能な異常検出装置および異常検出方法を提供することを目的としている。
上記課題を解決するために、本発明の異常検出装置は、管理対象データx(i)と、管理対象データの移動平均値の前回値μ(i−1)との差分の絶対値を引数とする数式1の関数f(x)によって、移動平均値における管理対象データの加重割合λに重み付けを行う重み付け実行部と、
Figure 0005702252
…(数式1)
重み付けが行われた加重割合を参照し、数式2に基づいて管理対象データの移動平均値μ(i)を導出する移動平均値導出部と、
Figure 0005702252
…(数式2)
管理対象データと導出された移動平均値との差分を参照し、数式3に基づく正の累積和 (i)、および、数式4に基づく負の累積和 (i)のいずれか一方または両方を導出する累積和導出部と、
Figure 0005702252
…(数式3)
Figure 0005702252
…(数式4)
累積和に応じて異常か否か判定する異常判定部と、を備えることを特徴とする。ただし、σ(i)は管理対象データと移動平均の差分の標準偏差であり、σ(i−1)はσ(i)の前回値であり、Mは正の値をとる任意の上限値であり、Nは負の値をとる任意の下限値である。
上記課題を解決するために、本発明の異常検出方法は、管理対象データx(i)と、管理対象データの移動平均値の前回値μ(i−1)との差分の絶対値を引数とする数式1の関数f(x)によって、移動平均値における管理対象データの加重割合に重み付けを行い、重み付けが行われた加重割合を参照し、数式2に基づいて管理対象データの移動平均値μ(i)を導出し、管理対象データと導出された移動平均値との差分を参照し、数式3に基づく正の累積和 (i)、および、数式4に基づく負の累積和 (i)のいずれか一方または両方を導出し、累積和に応じて異常か否か判定することを特徴とする。ただし、σ(i)は管理対象データと移動平均の差分の標準偏差であり、σ(i−1)はσ(i)の前回値であり、Mは正の値をとる任意の上限値であり、Nは負の値をとる任意の下限値である。
本発明によれば、管理対象データに基づいて加重割合自体を可変することで、即応性を維持しつつ適切に異常を検出することが可能となる。
管理対象データの時間推移を示した説明図である。 異常検出装置の電気的構成を示した機能ブロック図である。 異常検出方法の全体的な流れを示したフローチャートである。 指数重み付き移動平均によるガスタービンの潤滑油温度の時間推移を示した説明図である。 本実施形態による重み可変型移動平均によるガスタービンの潤滑油温度の時間推移を示した説明図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
本実施形態では、管理図を通じてプラントの状態を監視し、その異常を検出する。かかる異常検出の対象としては、ガスタービンやガスエンジン、その他、様々なものが適用可能である。本実施形態では、管理図にプロットされた管理対象データの重み可変型移動平均を導出し、その重み可変型移動平均を基準にした管理対象データの変動値の累積和により異常を検出することで即応性を高める。また、累積和の計算を工夫することで、異常を検出すべき適切なタイミングを計る。ここでは、まず、本実施形態の前提となる累積和の導出処理を説明し、その後、本実施形態の詳細な処理を説明する。
図1は、管理対象データの時間推移を示した説明図である。図1(a)に示すように、管理対象データ自体は取得する毎に上下に揺動している。本実施形態が管理対象としているプラント等では、管理すべきターゲットが固定値ではなく、長期的にみて変動する(移動平均値)。そして、本実施形態では、長期に渡る管理対象データの変動は許容し、短期の変動のみを異常と認識することとする。ただし、短期の変動であってもノイズに相当する変動は無視する。管理対象データが長期的に変動しているのか短期的に変動しているのかは、管理対象データが、管理対象データの移動平均値に沿って変動しているか否かに基づいて判定する。そこで、まずは、管理対象データの移動平均値について詳述する。
例えば、以前から知られている指数重み付き移動平均(EWMA)を用いると、順次定期的に取得された管理対象データをx(i)としたときの移動平均値μ(i)は以下の数式5に示すように求められる。ただし、iは管理対象データを取得したタイミングを時系列で表すための整数であり、特に断らない限り、直近の取得タイミングをiとし、n回前(nも整数)の取得タイミングをi−nで示す。
Figure 0005702252
…(数式5)
ここで、μ(i−1)はμ(i)の前回値であり、λ(0<λ<1)は加重割合を示す。
移動平均値μ(i)の計算において、計算結果である移動平均値μ(i)の精度と即応性とはトレードオフの関係にあり、管理対象に応じて適切な加重割合λを定める。例えば、加重割合λを0.014として、当該移動平均値μ(i)を計算すると、図1(a)の管理対象データから、図1(b)のような移動平均値μ(i)が求まる。
そして、管理対象データx(i)から移動平均値μ(i)を差し引き(計測値のずれ)、標準偏差σ(i)で除した値から所定の閾値k(kは定数)を差し引き、それを異常の候補値として累積する。そして、その累積和が、例えば、所定の異常判定値を超えたとき異常と認識する。累積和は、ターゲットに相当する移動平均値から上方にずれた場合の正の累積和(以下、累積和S(i)で表す)と下方にずれた場合の負の累積和(以下、累積和S(i)で表す)いずれも検出するとし、その導出式は以下の数式6、7のようになる。
Figure 0005702252
…(数式6)
Figure 0005702252
…(数式7)
ここで、移動平均値μ(i)はターゲット値に相当し、σ(i)は管理対象データx(i)と移動平均値μ(i)の差分の標準偏差であり、σ(i)=σ(i−1)または後述する適切な式によって更新される。また、max()は、括弧内の複数の値から最大値を抽出する関数であり、min()は、括弧内の複数の値から最小値を抽出する関数である。
したがって、累積和S(i)の最小値は0となり、累積和S(i)が0のときに、上記異常の候補値が負の値を示したとしても累積和S(i)は常に0に維持され、異常の候補値が正の値を示してはじめて累積処理が遂行される。同様に、累積和S(i)の最大値は0となり、累積和S(i)が0のときに、上記異常の候補値が正の値を示したとしても累積和S(i)は常に0に維持され、異常の候補値が負の値を示してはじめて累積処理が遂行される。
数式6および数式7は、正常値と見なされるターゲット値(=移動平均値μ(i))から計測値がkσ以上離れた場合に、S(i)には加算、S(i)からは減算することを意味している。ただし、計測値のずれがkσ未満のときは、S(i)からは減算、S(i)には加算が行われ、S(i)、S(i)はいずれも0に収束する。即ち、多くの計測値(管理対象データx(i))と移動平均値μ(i)とのずれの絶対値がkσに満たない状態で推移する場合、例えば、計測値が横ばいに推移すると、累積和S(i)、S(i)の絶対値は小さくなり、やがて異常と検出されなくなる。このとき、kの値としては通常「0.5」が用いられる。したがって、μ+kσおよびμ−kσは図1(c)のように表され、その幅から計測値が上方に逸脱した場合は累積和S(i)に加算され、逸脱しなかった場合は累積和S(i)から減算されて、累積和S(i)は、図1(d)のように、管理対象データx(i)が上昇傾向にあるときには、値が累積され(上昇し)、横ばい、もしくは、下降傾向にあるときには、値が減少する。
このような累積和S(i)を管理図とすることで、管理対象データx(i)に関する短期的な変動を判定することが可能となる。例えば、図1(d)における累積和S(i)の値が異常判定値である40を超えたことをもって、異常を検出することができる。かかる異常判定値は、管理対に基象データx(i)の分散(標準偏差)、後述する数式2に従う移動平均値μ(i)の変動や、加重割合λに基づいて適切に選択するとよい。
しかし、上述したように、数式5による指数重み付き移動平均は1次の低域通過フィルタ(LPF)の特性を有するので、その管理対象データx(i)が移動平均値μ(i)に反映されるのは長い時定数を伴って遅れることとなる。したがって、定期的なメンテナンス等により管理対象データx(i)が意図せず段階的に大きく変化した場合、その変化量が移動平均値μ(i)に反映されるのが非常に遅くなる。即ち、移動平均値μ(i)が管理対象データx(i)に追従するまでに時間を要する。そうすると、移動平均値μ(i)が本来のターゲット値となるのも遅れるので、その間に異常が生じたとしても管理対象データx(i)と移動平均値μ(i)との変位に埋もれ、異常を適切に検知できなくなってしまう。
そこで、管理対象データx(i)と前回の移動平均値μ(i−1)とが大幅にずれている場合、移動平均値μ(i)の収束速度を速める(時定数を短縮する)ことが考えられる。本実施形態では、管理対象データx(i)と前回の移動平均値μ(i−1)との差分の絶対値に応じて、以下に示す数式1における管理対象データx(i)と前回の移動平均値μ(i−1)との重み付けを変えることで、移動平均値μ(i)の収束速度を変化させることとする。例えば、管理対象データx(i)と前回の移動平均値μ(i−1)との差分の絶対値が小さいときには、定常時として、移動平均値μ(i−1)の重み付けを重くし、管理対象データx(i)と前回の移動平均値μ(i−1)とが大幅にずれているときには、管理対象データx(i)の重み付けを重くする。
ここで、例えば、管理対象データx(i)と前回の移動平均値μ(i−1)との差分の絶対値|x(i)−μ(i−1)|に比例して連続的に単調増加する以下の関数を加重割合λの重み付けとする(加重割合λに乗算する)。
Figure 0005702252
…(数式1)
かかる数式1を数式5に適応すると、数式2を導出することができる。当該数式2による計算を重み可変型移動平均と呼ぶ。
Figure 0005702252
…(数式2)
本実施形態では、管理対象データx(i)と前回の移動平均値μ(i−1)との差分の絶対値|x(i)−μ(i−1)|に応じて移動平均値μ(i)自体の収束速度を変更する。こうして、管理対象データx(i)が段階的に大きく変化した場合であっても、その変化量に応じて移動平均値μ(i)も管理対象データx(i)に迅速に追従することとなる。
このような数式1や数式2によって導出された移動平均値μ(i)を、数式3や数式4に適用し、管理対象データx(i)とμ(i)との差分を累積することで、管理対象データx(i)が上昇傾向や下降傾向を示したときの異常の検出開始タイミングを適切に計ることができる。しかし、数式6や数式7に従って管理対象データx(i)と移動平均値μ(i)との差分を単純に累積するだけでは、異常の検出終了タイミングを適切に計ることができない場合が生じ得る。
例えば、図1(c)のように、管理対象データx(i)の上昇傾向が長時間続き、図1(d)のように、その累積和S(i)が異常判定値40を超えた後も長時間累積されてしまうと、管理対象データx(i)の異常な上昇傾向が収まったとしても、累積和S(i)が異常判定値以下の元の値に戻るまで時間を要することとなる。したがって、実質的な異常状態が終わっていても、累積和S(i)が異常判定値以上で留まってしまい、見かけの異常検出を維持してしまう。仮に、累積和S(i)が異常判定値以上であれば一律に警報を発するようにした場合、オペレータは、管理対象データx(i)の異常な上昇傾向が続く状態と、それが収まった状態とを識別することができないので、その警報の継続により管理対象データx(i)の異常な上昇傾向が継続していると判断してしまうおそれがある。
そこで、本実施形態では、数式6、数式7に対し、以下の数式3、数式4のように上限や下限を設け、累積和S(i)、S(i)の不要な累積を抑制する。
Figure 0005702252
…(数式3)
Figure 0005702252
…(数式4)
ここで、Mは正の値をとる任意の上限値、Nは負の値をとる任意の下限値であり、何らの制限がない場合、N=−Mとしてもよい。ここで、このような上下限を設ける以外にも閾値kの値を変化させることも考えられるが、その場合、管理対象データx(i)が上昇傾向や下降傾向にあるかどうかを判断して閾値kを切り換えなければならず、計算が煩雑になる。本実施形態では、上記数式3や数式4のように一義的な式によって対策することで処理負担の軽減を図っている。
上述した数式2〜数式4を用いることで、移動平均値μ(i)の即応性を維持しつつ、異常の検出開始および検出終了のいずれのタイミングも適切に計ることが可能となる。以下、かかる異常検出を実現する具体的な構成について述べる。
(異常検出装置100)
図2は、異常検出装置100の電気的構成を示した機能ブロック図である。異常検出装置100は、データ取得部110と、データ保持部112と、操作部114と、表示部116と、制御部118とを含んで構成される。
データ取得部110は、管理対象であるプラントの任意のパラメータに関するデータである管理対象データx(i)を取得する。ここでは、仮に、ガスタービンやガスエンジンの潤滑油の温度情報を取得するとする。データ保持部112は、HDD、フラッシュメモリ、RAM等の記憶媒体で構成され、制御部118で利用するプログラムおよび種々のデータを保持する。
操作部114は、キーボード、ポインティングデバイス、十字キー、ジョイスティック、タッチパネル等で構成され、オペレータの操作入力を受け付ける。表示部116は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成され、管理図等を表示したり、異常を検知した場合の報知表示を行ったりする。
制御部118は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成され、データ保持部112や他の電子回路と協働して異常検出装置100全体を管理および制御する。また、制御部118は、重み付け実行部130、移動平均値導出部132、累積和導出部134、異常判定部136としても機能する。
重み付け実行部130は、データ取得部110が取得した管理対象データx(i)と、前回の計算時に移動平均値導出部132によって導出されデータ保持部112に保持された移動平均値μ(i−1)との差分の絶対値|x(i)−μ(i−1)|が増加したとき単調に増加する任意の次数の関数f(x)によって加重割合λに重み付けを行う。
ここで、関数f(x)は、|x(i)−μ(i−1)|の増加に伴い漸増する関数(すなわち|x(i)−μ(i−1)|が減少すると漸減する関数)であり、単純に増加さえすれば関数の次数は問わない。また、次数は、指数が1以上の場合のみならず、指数が1未満の場合も含む。本実施形態において、重み付け実行部130は、加重割合λに、x(i)の1次関数f(x)によって重み付けを行うとする。
Figure 0005702252
…(数式1)
勿論、数式8のように|x(i)−μ(i−1)|のn次関数f(x)によって重み付けを行ってもよい。
Figure 0005702252
…(数式8)
ここで、a(k=0,1,2…n)は0以上の係数である。
数式1におけるσ(i−1)は管理対象データと移動平均値の差分の標準偏差であり、数式9を用いて導出できる。
Figure 0005702252
…(数式9)
しかし、実際に標準偏差σ(i−1)が変化する理由は考えにくく、標準偏差σ(i−1)を更新することの効果に乏しいので、本実施形態においては、λ=1とし、σ(i−1)は固定値とする。したがって、σ(i)もσ(i)=σ(i−1)となり、固定値で表される。
移動平均値導出部132は、重み付け実行部130によって重み付けが行われた加重割合λに基づいて、数式2に従い、管理対象データx(i)の移動平均値μ(i)を導出する。導出された移動平均値μ(i)は累積和導出部134に用いられると共に、次回の重み付け実行部130の重み付けのためデータ保持部112に保持される。
Figure 0005702252
…(数式2)
累積和導出部134は、管理対象データx(i)と、移動平均値導出部132が導出した移動平均値μ(i)との差分に基づいて累積した累積和S(i)および累積和S(i)を導出する。
例えば、本実施形態において、累積和導出部134は、管理対象データx(i)と導出された移動平均値μ(i)との差分が所定の値kσ(kは例えば0.5)を超えるか否かによって変化の符号が変わるように累積和S(i)、S(i)として累積している。
このように、管理対象データx(i)のμ(i)からの距離kσ内の揺動については累積和の絶対値が減少するような方向の累積計算を行うことで、管理対象データx(i)とμ(i)との差分がkσに満たない、例えば、横ばいに推移した場合にも累積和S(i)、S(i)を0に収束させ、意図に反して累積和S(i)、S(i)の大きさが大きくなってしまう事象を回避することができる。また、真に抽出したい短期間の異常に関してはkσを超える値として確実に累積することができ、また、その値が大きいほど、累積和S(i)、S(i)への影響も高くなる。したがって、累積和S(i)、S(i)を通じて適切に異常を検出することが可能となる。
さらに、本実施形態では、累積和S(i)、S(i)に上限および下限を設けることで、累積和S(i)、S(i)の不要な累積を抑制している。具体的に、累積和導出部134は、数式3に基づいて累積和S(i)を、また、数式4に基づいて累積和S(i)を導出する。
Figure 0005702252
…(数式3)
Figure 0005702252
…(数式4)
例えば、数式3を参照すると、max()によって、累積和S(i)が正の値を維持する間、管理対象データx(i)と移動平均値μ(i)との差分に基づく値が累積され、min()によって、その上限が上限値Mに制限される。したがって、管理対象データx(i)の上昇傾向が長時間続いた場合であっても、その累積和S(i)は上限値Mに留まり、管理対象データx(i)が横ばい、もしくは、下降傾向に転じると直ちに累積和S(i)が減少するので、異常の検出開始タイミングおよび検出終了タイミングのいずれも適切に計ることができる。
また、上限値Mや下限値N(ここでは、N=―M)を異常判定値に基づき、異常判定値以上の範囲で適切に選択することで、管理対象データx(i)の上昇傾向が衰えて、どの程度の時間で異常の検出を終了するか調整することができる。例えば、本実施形態では、異常判定値40に対して上限値を50とし、下限値を−50とすることで、管理対象データx(i)が横ばい、もしくは、下降傾向に転じて直ぐに、累積和S(i)、S(i)の絶対値を異常判定値以下とする、即ち、警報を発している状態を解除することができる。こうして、オペレータが、管理対象データx(i)の異常な上昇傾向が継続していると誤認識してしまう事態を回避することが可能となる。
ただし、累積和S(i)、S(i)に上限および下限を設けることで、累積和S(i)、S(i)の真の累積がキャンセルされ、管理対象データx(i)の上昇傾向または下降傾向がどのぐらい続いたのか、または、どの程度の上昇率または下降率であったのかといった情報を得られなくなってしまう。そこで、累積和導出部134は、相異なる複数の上限値M(下限値N)を準備し(例えば、M=50、100、150)、この複数の上限値M(下限値N)それぞれに対応した数式3および数式4による導出式を設け、その複数の導出式を並行して計算するとしてもよい。ただし、複数の導出式の異常判定値は、それぞれ等しくしてもよいし、上限値Mに応じて異なる値としてもよい。また、ここでは、複数の上限値Mとして3つの数値(50、100、150)を挙げているが、任意の正の値を用いることができ、その数が限定されないのは言うまでもない。
かかる構成により、例えば、上限値M=50の導出式によって、管理対象データx(i)の上昇傾向が終了したことを早期に把握できると共に、上限値M=100や150によって、管理対象データx(i)の上昇傾向における継続時間やその上昇率(下降率)を知ることができる。例えば、上限値M=50の導出式における累積和S(i)、S(i)が異常判定値以上となる時間より、上限値M=100の導出式における累積和S(i)、S(i)が異常判定値以上となる時間が長い場合、オペレータは、管理対象データx(i)の上昇傾向における継続時間が長かったこと、もしくは、その上昇率(下降率)が高かったことを知ることができる。かかる内容は、上限値M=100の導出式より、上限値M=100の導出式における累積和S(i)、S(i)が異常判定値以上となる時間より、上限値M=150の導出式における累積和S(i)、S(i)が異常判定値以上となる時間が長い場合も同様である。そして、導出式の上限値が高ければ高いほど、継続時間が長いことや上昇率(下降率)が高いことを累積できることとなるので、上限値Mの高い導出式において、異常判定値以上の状態が長く継続すると、その異常は重度の異常と判定される。
また、累積和S(i)、S(i)の累積値を上限や下限に制限することなく、完全に残したい場合、上記複数の上限値Mの1つを、到達不能な大きな値か無限大∞にすればよい。こうして、累積和S(i)、S(i)を、管理対象データx(i)と移動平均値μ(i)との差分に基づく値の完全な累積値とすることができる。
累積和導出部134は、このようにして導出した累積和S(i)、S(i)を次回の計算に利用すべくデータ保持部112に保持する。
異常判定部136は、累積和導出部134が導出した累積和S(i)、S(i)に基づいて、現在のプラントの状態が異常か否か判定し、その結果を表示部116に表示する。以下に、異常検出装置100の全体的な動作の流れを説明する。
(異常検出方法)
図3は、異常検出方法の全体的な流れを示したフローチャートである。当該異常検出方法は、予め定められた時間間隔の定期的なタイマ割込によって処理が開始される。タイマ割込が生じると、まず、異常検出装置100のデータ取得部110は、管理対象データx(i)を取得する(S200)。
そして、重み付け実行部130は、データ保持部112に保持された前回の移動平均値μ(i−1)を読み出し(S202)、データ取得部110が取得した管理対象データx(i)と、読み出した移動平均値μ(i−1)との差分の絶対値|x(i)−μ(i−1)|が増加したとき単調に増加する任意の次数の関数f(x)によって加重割合λに重み付けを行う(S204)。続いて、移動平均値導出部132は、数式2に従い移動平均値μ(i)を導出して(S206)、導出された移動平均値μ(i)をデータ保持部112に保持する(S208)。
次に、累積和導出部134は、データ保持部112に保持された前回の累積和S(i−1)、S(i−1)を読み出し(S210)、数式3および数式4に基づいて累積和S(i)および累積和S(i)を導出して(S212)、導出された累積和S(i)、S(i)をデータ保持部112に保持する(S214)。異常判定部136は、累積和導出部134が導出した累積和S(i)、S(i)に応じて異常か否か判定し、その結果を表示部116に表示する(S216)。こうして、オペレータは、プラントの異常を迅速かつ容易に把握することができる。
以上説明した異常検出装置100により、管理対象データx(i)に基づいて加重割合λ自体を可変することで、管理対象データx(i)が段階的に大きく変化した場合においても、移動平均値μ(i)の時定数を下げ、管理対象データx(i)に迅速に追従することができる。また、累積和S(i)、S(i)に上限および下限を設けることで、累積和S(i)、S(i)の不要な累積を抑制し、異常の検出終了タイミングを適切に計ることもできる。したがって、即応性を維持しつつ適切に異常を検出することが可能となる。
(効果の検討)
以下、本実施形態の効果を示すべく、従来の指数重み付き移動平均(EWMA)による異常検出と、本実施形態の重み可変型移動平均による異常検出とを比較し、さらに、従来の単純累積和と、本実施形態の上下限を有する累積和とを比較する。
(指数重み付き移動平均と重み可変型移動平均の比較)
図4は、従来の指数重み付き移動平均によるガスタービンの潤滑油温度の時間推移を示した説明図である。ここでは、数式5に基づいて移動平均値μ(i)が求められる。したがって、移動平均値μ(i)は図4(a)の点線のように推移し、その移動平均値μ(i)に対して±kσの範囲は上限を1点鎖線、下限を2点鎖線として推移する。このとき累積和S(i)、S(i)の大きさは、計測値が±kσを超えた場合に大きくなり、超えない場合は小さくなる。その結果、累積和S(i)は、図4(b)のように、累積和S(i)は、図4(c)のようになる。
図4に示されている潤滑油温度の推移は正常であり、その変移をもって直ちに異常であると判定されるべきものではない。しかし、例えば図4(a)における期間Aや期間Cのように比較的短期間に潤滑油温度の上昇傾向が見られる場合、オペレータがこれを把握しておき、その上昇が継続した際に即座に対応可能なように準備しておく必要がある。
指数重み付き移動平均を用いた場合、図4(a)の期間Aにおける短期間の温度上昇は図4(b)に示す累積和S(i)にも現れ、容易に把握できることが理解できる。しかし、B時点で定期的なメンテナンスを行い、潤滑油温度が段階的に低下した場合、その後、期間Cにおいて温度が短期的に上昇しているにも拘わらず、その上昇する現象を図4(b)に示す累積和S(i)で捉えるのは困難である。
これは、移動平均値μ(i)を、加重割合λを固定したまま数式5に基づいて計算しているので、管理対象データx(i)がB時点のように急変した場合、移動平均値μ(i)が管理対象データx(i)に十分追従するまで(収束するまで)に時間を要することを原因とする。そして、管理対象データx(i)がB時点で急変した後、移動平均値μ(i)は緩やかに管理対象データx(i)に近づき、期間Cの中間でようやく管理対象データx(i)周辺に落ち着いている。このように、移動平均値μ(i)がその時点の管理対象データx(i)を十分によく表す値に収束するまでに時間を要すと、期間Cでは一様に温度が上昇傾向にあっても、図4(b)の累積和S(i)は即座に上昇せず、期間Cの後半になってようやく上昇することとなる。この遅れを本実施形態の重み可変型移動平均によって解消する。
図5は、本実施形態による重み可変型移動平均によるガスタービンの潤滑油温度の時間推移を示した説明図である。ここでは、数式2に基づいて移動平均値μ(i)が求められる。したがって、移動平均値μ(i)は図5(a)の点線のように推移し、その移動平均値μ(i)に対して±kσの範囲は上限を1点鎖線、下限を2点鎖線として推移する。このとき累積和S(i)、S(i)の大きさは、計測値が±kσを超えた場合に大きくなり、超えない場合は小さくなる。その結果、累積和S(i)は、図5(b)のように、累積和S(i)は、図5(c)のようになる。
図5(a)の期間Aにおいて、図4(b)同様、短期間の温度上昇は図5(b)に実線で示す累積和S(i)に現れ、容易に把握できることが理解できる。また、指数重み付き移動平均を用いた場合、図4(b)のように、その上昇を累積和S(i)から捉えるのは困難であったが、当該重み可変型移動平均を用いると、管理対象データx(i)が時点Bで急変した後、移動平均値μ(i)が迅速に管理対象データx(i)に追従し、図5(b)のように累積和S(i)が期間Cの前半で上昇するのが理解できる。
ここで、累積和S(i)の異常判定値を仮に「40」とすると、期間Aにおける短期間の上昇に関しては、従来の指数重み付き移動平均値においても、本実施形態の重み可変型移動平均値においても6/30に同時に異常を検出できる。ただし、時点Bを経由した後の期間Cにおける短期間の上昇に関しては、その異常値を検出できるのが、従来の指数重み付き移動平均では8/9(図4(b)参照)となっているのに対し、本実施形態の重み可変型移動平均では、8/4(図5(b)実線参照)にはその異常を発見できることとなる。このように、管理対象データに基づいて加重割合自体を可変することで、即応性を維持しつつ適切に異常を検出することが可能となる。
また、累積和S(i)は、図4(c)と図5(c)の実線とを見比べて分かるように、累積和S(i)の異常判定値を仮に「−40」とすると、従来の指数重み付き移動平均においても、本実施形態の重み可変型移動平均においても大凡同時(7/25)に異常を検出しているのが理解できる。ここでは、短期間の上昇について、本実施形態の重み可変型移動平均が有利な点を述べたが、本実施形態による移動平均値μ(i)の重み付けは累積和S(i)と累積和S(i)に同等に影響するため、短期間の下降に関しても本実施形態の重み可変型移動平均が有利なのは言うまでもない。
(単純累積和と上下限を有する累積和の比較)
また、上述したように、オペレータは、図4(a)の期間Aにおける管理対象データx(i)の温度の上昇傾向を6/30に容易に把握することができる。しかし、温度の上昇傾向が継続した期間Aの後、7/7〜7/22の期間Dでは、管理対象データx(i)はほぼ一定の値(およそ90℃)を中心に温度が揺いでいるだけであり、この期間Dでは管理対象データx(i)は異常と判断されるべきではない。しかしながら、数式6を用いた図4(b)の単純累積和では、累積和S(i)が大凡140近くまで累積されているため、管理対象データx(i)の上昇傾向が収まったとしても、累積和S(i)が徐々にしか小さくならず、正常な値(異常判定値40以下)に戻るのは7/16まで待たなければならない。即ち、7/7頃からデータの上昇傾向は止まっているにも拘わらず、それを知るのが遅れてしまう。
しかし、本実施形態では、図5(b)の実線で示すように、累積和S(i)が上限値50に制限されているので、管理対象データx(i)の上昇傾向が収まってすぐの7/8には異常判定値40を下回る正常値を示すことができ、オペレータは、より正確に管理対象データx(i)のトレンドを把握することができる。
また、本実施形態を用いた図5(c)においても、図4(c)では、累積和S(i)が正常な値(異常判定値−40以上)となるのに8/10までかかるのに対し、本実施形態では、図5(c)の実線で示すように、累積和S(i)が下限値−50に制限されているので、管理対象データx(i)の下降傾向が収まって直ぐの7/30には異常判定値−40を上回る正常値を示すことができる。このような累積和S(i)、S(i)の上限値や下限値は、管理対象データx(i)が上昇傾向や下降傾向にあるときの累積和S(i)、S(i)の累積処理に影響を及ぼさないので、上述した移動平均値μ(i)の管理対象データx(i)への迅速な追従を阻害することはない。
以上説明した、異常検出装置100および異常検出方法により、管理対象データx(i)に基づいて加重割合自体を可変することで、即応性を維持しつつ適切に異常を検出することが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
なお、本明細書の異常検出方法における各工程は、必ずしもフローチャートして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
本発明は、プラントの状態を監視し、その異常を検出する異常検出装置および異常検出方法に利用することができる。
100 …異常検出装置
110 …データ取得部
112 …データ保持部
130 …重み付け実行部
132 …移動平均値導出部
134 …累積和導出部
136 …異常判定部

Claims (2)

  1. 管理対象データx(i)と、該管理対象データの移動平均値の前回値μ(i−1)との差分の絶対値を引数とする数式1の関数f(x)によって、移動平均値における管理対象データの加重割合λに重み付けを行う重み付け実行部と、
    Figure 0005702252
    …(数式1)
    前記重み付けが行われた加重割合を参照し、数式2に基づいて管理対象データの移動平均値μ(i)を導出する移動平均値導出部と、
    Figure 0005702252
    …(数式2)
    前記管理対象データと導出された前記移動平均値との差分を参照し、数式3に基づく正の累積和 (i)、および、数式4に基づく負の累積和 (i)のいずれか一方または両方を導出する累積和導出部と、
    Figure 0005702252
    …(数式3)
    Figure 0005702252
    …(数式4)
    前記累積和に応じて異常か否か判定する異常判定部と、
    を備えることを特徴とする異常検出装置。
    ただし、σ(i)は管理対象データと移動平均の差分の標準偏差であり、σ(i−1)はσ(i)の前回値であり、Mは正の値をとる任意の上限値であり、Nは負の値をとる任意の下限値である。
  2. 管理対象データx(i)と、該管理対象データの移動平均値の前回値μ(i−1)との差分の絶対値を引数とする数式1の関数f(x)によって、移動平均値における管理対象データの加重割合に重み付けを行い、
    Figure 0005702252
    …(数式1)
    前記重み付けが行われた加重割合を参照し、数式2に基づいて管理対象データの移動平均値μ(i)を導出し、
    Figure 0005702252
    …(数式2)
    前記管理対象データと導出された前記移動平均値との差分を参照し、数式3に基づく正の累積和 (i)、および、数式4に基づく負の累積和 (i)のいずれか一方または両方を導出し、
    Figure 0005702252
    …(数式3)
    Figure 0005702252
    …(数式4)
    前記累積和に応じて異常か否か判定することを特徴とする異常検出方法。
    ただし、σ(i)は管理対象データと移動平均の差分の標準偏差であり、σ(i−1)はσ(i)の前回値であり、Mは正の値をとる任意の上限値であり、Nは負の値をとる任意の下限値である。
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