JP5671465B2 - 気分障害および不安障害の治療 - Google Patents

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Description

発明の詳細な説明
〔技術分野〕
本発明は、気分障害および不安障害を治療するための、Elk−1活性化およびMSK−1活性化の選択的な阻害剤の使用に関する。
〔背景技術〕
うつ病は、一般的で、生活を破壊し、死を招く可能性のある疾病であり、性別および全ての年齢の両方に影響を及ぼし得る。そして、うつ病は、悲しさ、興味または喜びの欠失、罪の意識または低い自尊心、睡眠障害または食欲障害、低い活動力および乏しい集中力によって特徴付けられる。これらの問題は、慢性的または再発性であり得、日常生活をおくるための個人の能力を実質的に損なう。最も深刻な場合は、自殺の原因となり得る。治療していない大うつ病は、それゆえ、依然として深刻な公衆衛生問題のままであり、そして、その罹患率は驚くほど高い。
うつ病に関連する、社会に対する経済的損失、並びに個人および家族に対する人的損失は、莫大である。うつ病であると診断されてから15ヶ月以内に、患者は、うつ病を有していない人よりも死亡する可能性が4倍高い。世界保健機関は、大うつ病は、障害調整生存年数(disability-adjusted life years)における損失の、世界で第4番目に重大な原因であり、2020年までに第2番目に重大な原因となるだろうと見積もっている。
うつ病は、原因は一つではなく、多くの場合、要因の組合せに起因する。その原因が何であれ、うつ病は心理状態だけではない。うつ病は、脳における永続的な変化に関連し、そして脳および神経において信号を伝える化学物質の一種の不均衡に関連している。これらの化学物質は、神経伝達物質と称される。うつ病に関連する最も重要な神経伝達物質は、セロトニン(5−HT)、ノルエピネフリン(NE)、およびドーパミン(DA)である。セロトニンは、気分障害、特に不安および憂うつ、攻撃性、および衝動性において非常に重要な役割を担っている。
うつ病のほとんどの症例は、医薬または心理療法を用いて治療され得る。種々の薬理作用のある物質を、うつ病の治療のために利用できる。フルオキセチン(PROZAC(登録商標))などのセロトニン選択的な再取り込み阻害剤(SSRIs)、ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(NERIs)、複合型セロトニン−ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRIs)、モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOIs)、ホスホジエステラーゼ−4(PDE4)阻害剤、または他の化合物を介して、意義深い成功が達成された。しかし、これらの利用可能な選択肢を用いたとしても、多くの患者は治療に対して反応しないか、または治療に対して部分的しか反応しない。さらに、これらの物質の多くは、活性が遅れて発現する。このため、患者は、恩恵を受ける前の数週間または数ヶ月にわたって治療を受ける必要がある。最新の利用し得る抗うつ剤は、反応を発現させるために2〜3週間以上かかる。
従来の治療は、深刻な副作用も有し得る。例えば、SSRIsを服用している患者の3分の1より多くが、性的な機能障害を経験する。他の問題となる副作用は、胃腸の障害を含み、多くの場合に、吐き気および偶発的な嘔吐、興奮、不眠、体重増加、糖尿病の発症、心拍の補正された間隔(QTc)の延長、顆粒球減少症(agranylocytosis)等として現れる。
それゆえ、うつ病および/または他の気分障害および不安障害の治療のための改善された治療の開発が、依然として必要とされている。
〔発明の概要〕
本発明の1つの目的は、気分障害および不安障害の予防および/または治療において使用するための、Elk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤である。
一実施形態において、上記Elk−1活性化の選択的な阻害剤は、
− 少なくとも1つの細胞透過性配列、および
− 配列番号1(SPAKLSFQFPSSGSAQVHI)および配列番号2(KGRKPRDLELPLSPSLL)からなる群より選択される、少なくとも1つのドッキングドメイン配列
を含んでいるペプチドである。
他の実施形態において、上記MSK−1活性化の選択的な阻害剤は、
− 少なくとも1つの細胞透過性配列、および
− 配列番号3(KAPLAKRRKMKKTSTSTE)の群より選択される、少なくとも1つのドッキングドメイン配列
を含んでいるペプチドである。
他の実施形態において、上記細胞透過性配列は、HIV−TAT配列(配列番号4);ペネトラチン(Penetratin)(配列番号5);7個〜11個のアルギニンのアミノ酸配列(配列番号6〜10);配列中に無作為に配置された7個〜11個のアルギニンを含んでいる、7個〜25個のアミノ酸のX7/11R配列;およびDPVsに由来する配列(配列番号15〜19)からなる群より選択される。
他の実施形態において、上記Elk−1活性化の選択的な阻害剤は、配列番号28または配列番号29の配列を有している。
他の実施形態において、上記MSK−1活性化の選択的な阻害剤は、配列番号30の配列を有している。
本発明の他の目的は、気分障害および不安障害の予防および/または治療において使用するための、薬学的組成物であり、当該薬学的組成物は、少なくとも1つのElk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤を含有している。
一実施形態において、上記薬学的組成物は、
a)少なくとも1つのElk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤;
b)Elk−1活性化またはMSK−1活性化の阻害剤ペプチドをコードしている核酸;または
c)上記核酸を含有している発現ベクター
を含有している。
本発明の他の目的は、うつ病の治療において使用するための、Elk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤、または本明細書において上述したような薬学的組成物である。
本発明の他の目的は、治療を必要としている被検体において気分障害および不安障害を治療するための方法であり、当該方法は、治療学的に有効な量の少なくとも1つのElk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤ペプチド、または治療学的な量の本明細書において上述したような薬学的組成物を投与する工程を包含している。
〔発明の詳細な説明〕
〔定義〕
本明細書において使用される場合、上記用語“ペプチド”は、100個よりも少ないアミノ酸を有しているアミノ酸配列をいう。本明細書において使用される場合、上記用語“ペプチド”は、90個よりも少ないアミノ酸、80個よりも少ないアミノ酸、70個よりも少ないアミノ酸、60個よりも少ないアミノ酸、または50個よりも少ないアミノ酸を有しているアミノ酸配列を包含している。好ましくは、上記アミノ酸配列は、20個、21個、22個、23個、24個、25個、…、50個、…、…、75個、…、100個のアミノ酸を含んでいる。
“機能が保存された変異体”は、本明細書において使用される場合、ポリペプチドの全体的な立体構造および機能を変えることなく、タンパク質または酵素における特定のアミノ酸残基が変更(挿入、欠失または置換)されたペプチドをいう。そのような変異体は、欠失、挿入および/または置換といったアミノ酸の改変を有しているタンパク質を包含している。“欠失”は、タンパク質における1以上のアミノ酸の欠如をいう。“挿入”は、タンパク質における1以上のアミノ酸の追加をいう。“置換”は、タンパク質における他のアミノ酸残基による1以上のアミノ酸の置換えをいう。通常、特定のアミノ酸は、よく似た特性(例えば、極性、水素結合能、酸性、塩基性、疎水性、芳香性等)を有しているアミノ酸によって置き換えられる。保存されたアミノ酸以外のアミノ酸は、タンパク質において異なっていてもよい。このため、よく似た機能の任意の2つのタンパク質間でのタンパク質の類似性またはアミノ酸配列の類似性の割合は、異なっていてもよく、そして、クラスター法(Cluster Method)のような方法によるアライメントスキームに従って決定される70%〜99%であってもよい。クラスター法では、類似性は、MEGALIGNアルゴリズムに基づいている。“機能が保存された変異体”は、BLASTまたはFASTAアルゴリズムによって決定されるような、少なくとも60%のアミノ酸の同一性、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは少なくとも90%、より一層好ましくは少なくとも95%のアミノ酸の同一性を有しているポリペプチドであり、天然または元のタンパク質と比較して、同一または実質的によく似た特性または機能を有しているポリペプチドをも包含している。アミノ酸が80%、好ましくは85%、好ましくは90%よりも高い同一性がある場合、または、より短い配列の全長に対して約90%、好ましくは95%よりも高い類似性がある(機能的な同一性がある)場合に、2つのアミノ酸配列は、“実質的に相同”または“実質的に類似”である。好ましくは、類似配列または相同配列は、例えば、GCG(Genetics Computer Group, Program Manual for the GCG Package, Version 7, Madison, Wisconsin)のpileupプログラム、またはBLAST、FASTA等の配列比較アルゴリズムの何れかを用いたアライメントによって決定される。
本書において使用される場合、障害または状態を“治療する”との上記用語は、そのような障害または状態の1以上の症状を緩和させるか、進行を妨げることをいう。障害または状態を“予防する”との上記用語は、そのような障害または状態の1以上の症状を予防することをいう。
本明細書において使用される場合、“気分障害”は、長期間にわたり個人によって経験される、情調または情動状態の混乱をいう。気分障害は、限定されないが、大うつ病障害(すなわち、単極性障害)、躁病、抑うつ、双極性障害、気分変調症、気分循環症および多くの他の症状を包含している。例えば、精神疾患の診断おとび統計マニュアル第4版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition(DSM IV))を参照。
本明細書において使用される場合、不安障害は、実在しない危険または想像上の危険を予感することに対する精神生理学的な反応を含む不快な情動状態をいい、これは、表面上は、認識されていない精神内部の葛藤(intrapsychic conflict)の結果生じる。生理学的な付随は、増加した心拍数、変化した呼吸速度、発汗、震え、衰弱、および疲労を含む。心理学的な付随は、差し迫った危機感、無力感、不安、および緊張を含む。不安障害は、限定されないが、パニック障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、対人恐怖、社会不安障害、特定恐怖症、全般性不安障害を含む。
“強迫性障害”または“OCD”は、個人において著しい苦痛をもたらすに十分な再発性の強迫観念または切迫感によって特徴付けられる不安障害である。これらは、通常、時間がかかり、および/または個人の正常な機能、社会活動、または関係を著しく妨げる。強迫観念は、心に浮かび、持続的で、煩わしく、そして、歓迎されない、再発性の考え、思想、心証、または衝動である。多くの場合、考えを無視または抑制するように試みられる。または、いくつかの他の考えもしくは行動によって考えが中和される。個人は、彼自身または彼女自身の心の産物として強迫観念を認識するかもしれない。切迫感は、強迫観念に反応して行われる反復的で目的のある振舞いまたは行動であり、そして、通常、不快またはいくつかの恐ろしい出来事もしくは状況を中和するまたは防ぐことを意図している。例えば、よく起こる強迫観念は、汚染の考えと関係がある。すなわち、過度の、反復的な、目的のない手洗いは、よく起こる切迫感である。
“大うつ病障害”、“大うつ病性の障害”、または“単極性障害”は、以下の症状何れか、すなわち、持続性の悲しく、心配な、または“空虚な”気分;絶望感または悲観;罪悪感、無気力、または無力感;性交を含む、かつては楽しんでいた趣味や活動における興味または喜びの欠失;低下した活動力;“減退”されている疲労;集中、想起、または決断する困難性;不眠、早朝の覚醒、または寝過ぎ;食欲および/または体重の減少または過食および体重増加;死もしくは自殺の考え、または自殺未遂;情動不安もしくは興奮性、または頭痛、消化器系の障害、および慢性の痛みのような、治療に対して反応しない持続性の身体的な症状を含んでいる気分障害をいう。うつ病の種々の亜型は、例えば、DSM IVにおいて記載されている。
“双極性障害”は、極端な感情が交互に起こる時期によって特徴付けられる。双極性障害を有している個人は、気分の繰返しを経験する。これは、過度に高揚するまたは激し易い状態(躁病)から、悲しく絶望的な状態(うつ病)となり、その後再び戻るように揺れ動き、2つの状態の間には正常な気分の期間を有している。双極性障害の診断は、例えば、DSM IVにおいて記載されている。双極性障害は、双極性障害I(大うつ病の有無に関わらない躁病)、および双極性障害II(大うつ病を有している軽躁)を含んでいる。例えば、DSM IVを参照。
本明細書において使用される場合、上記用語“被検体”は、げっ歯類、ネコ科の動物、イヌ科の動物、および霊長類といった哺乳類を意味している。好ましくは、本発明に係る被検体は、ヒトである。
“治療学的に有効な量”は、本明細書において使用される場合、被検体に対して治療学的な利益を与えるために必要な、活性剤の最小の量を意図している。例えば、被検体に対する“活性剤の治療学的に有効な量”は、病理学的な症状、疾患の進行、または被検体に影響を及ぼしている疾患に関連した体調における改善を誘発する、改善する、または改善をもたらす、活性剤の量である。
〔発明〕
MERK−ERKシグナル経路は、うつ病に関連する環境的および遺伝学的な制御に影響されやすいため、最近、MERK−ERKシグナル経路は、新しい治療を開発するための標的を提供するために調査された。しかし、うつ病におけるMEK阻害剤SL327を用いた研究は、時々相反する結果を有しており、結論が出ていない(Duman et al., Biol Psychiatry 2007; Einat et al, J Neurosci, 2003)。ERK活性化の阻害後に抗うつ剤様の作用を実証したEinat等とは対照的に、ERK活性化の阻害剤を用いたDumanの研究は、MERK−ERKシグナルの急性な妨害は、うつ病の3つのモデルにおいてうつ病様の表現型を示すことを実証した。この著者は、それゆえ、MERK−ERK経路を活性化する薬剤は、抗うつ剤反応を示すはずであることを示唆した。
うつ病を治療するための新しい薬物療法学を探索する一方で、発明者らは、上記で用いられた(SL327およびPD184161のような)MEK阻害剤が、ERKの複数の下流の基質間の違いを許容しない非選択的な手段であることを主張した。そしてそれゆえ、発明者らは、ERKによって媒介される遺伝子制御の阻害が、抗うつ剤反応をもたらすか否かを調査した。
ERKによって媒介される遺伝子制御は、主として、2つの因子、すなわちElk−1およびMSK−1によって制御される。Elk−1は、核に存在する転写因子であり、血清反応性配列(SRE)を有しているプロモーターを介して遺伝子発現を制御する。MSK−1も、c−AMP反応性配列結合タンパク質(CREB)およびヒストンH3のリン酸化を介して遺伝子発現を制御し、そしてそれ故にクロマチンの再構築を制御する。
発明者らは、その後、驚くべきことに、ERKによって媒介される遺伝子制御において暗示される、Elk−1活性化の選択的な阻害剤が、抗うつ剤として働き、そしてそれ故、気分障害および不安障害に対する効果があることを見出した。
本発明の1つの目的は、不安障害および気分障害の予防および/または治療のための、Elk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤である。
本発明の他の目的は、不安障害および気分障害の予防および/または治療において使用するための、Elk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤である。
本発明によれば、上記“Elk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤”は、ERK、またはp90RSK、シナプシン(synapsin)、PLP2A、チロシン水酸化酵素を含む、ERKの他の目的の活性を改変することなく、Elk−1またはMSK−1それぞれの活性を特異的に阻害する阻害剤をいう。
本発明の一実施形態において、上記Elk−1活性化の選択的な阻害剤は、Hancock et al., Journal of Medicinal Chemistry, 2005, 48(14): 4586-4595において記載された化合物76である。
本発明の一実施形態において、不安障害および気分障害の予防および/または治療のための上記Elk−1活性化の選択的な阻害剤は、
− 少なくとも1つの細胞透過性配列、および
− 配列番号1(SPAKLSFQFPSSGSAQVHI)および配列番号2(KGRKPRDLELPLSPSLL)からなる群より選択される、少なくとも1つのドッキングドメイン配列
を含んでいるペプチドである。
本発明の一実施形態において、不安障害および気分障害の予防および/または治療のための、上記MSK−1活性化の選択的な阻害剤は、
− 少なくとも1つの細胞透過性配列、および
− 配列番号3(KAPLAKRRKMKKTSTSTE)の群より選択される、少なくとも1つのドッキングドメイン配列
を含んでいるペプチドである。
上記Elk−1活性化またはMSK−1活性化の阻害剤ペプチドは、WO2006/087242において記載されている。
本発明の一実施形態において、上記細胞透過性配列は、HIV−TAT配列(配列番号4);ペネトラチン(Penetratin)(配列番号5);7個〜11個のアルギニンのアミノ酸配列(配列番号6〜10);配列中に無作為に配置された7個〜11個のアルギニンを含んでいる、7個〜25個、好ましくは7個〜20個のアミノ酸配列であるX7/11R配列;並びにDe Coupade et al. Biochem J (2005) 390, 407-418およびWO01/64738において記載された細胞透過性配列としてのVectocell(登録商標)(または、ディアトスペプチドベクター(Diatos peptide vectors):DPVs)に由来する配列からなる群より選択される。
X7/11R配列およびDPV配列の例は、以下の表において与えられる。
Figure 0005671465
本発明の一実施形態において、本発明の阻害剤ペプチドの上記細胞透過性配列および上記ドッキングドメインは、この分野において知られる任意の適切な方法にて化学結合によって連結され得る。
連結特異性を向上させる1つの方法は、架橋されるポリペプチドの一方または両方において、1回または数回認められる官能基を、直接、化学的に連結することである。例えば、多くのタンパク質において、チオール基を含んでいる唯一のタンパク質のアミノ酸であるシステインは、数回だけ現れる。また、例えば、もしポリペプチドがリジン残基を含んでいない場合は、1級アミンに特異的な架橋剤が、そのポリペプチドのアミノ末端にとって選択的であるだろう。連結特異性を向上させるためのこのアプローチの成功した利用は、ポリペプチドが、分子の生物活性を失うことなく改変されてもよい分子の領域において、適切な、まれにしか存在しない反応性の残基を有していることを要求する。
システイン残基を置換しなければ、架橋反応におけるシステイン残基の関与が生物活性を妨げるだろうポリペプチド配列の部分にシステイン残基が現れる場合に、システイン残基は置換されてもよい。システイン残基が置換される場合に、ポリペプチドの折畳みにおいて生じる変化を最小にすることが通常望ましい。ポリペプチドの折畳みにおける変化は、置換基が、システインに対して化学的および立体的に類似している場合に最小にされる。このような理由で、セリンは、システインの置換基として好ましい。以下の実施例において実証したように、システイン残基は、架橋する目的のために、ポリペプチドのアミノ酸配列に導入されてもよい。システイン残基が導入される場合、アミノ末端もしくはカルボキシ末端またはアミノ末端もしくはカルボキシ末端の近傍への導入が好ましい。関心があるポリペプチドが化学合成または組換えDNAの発現によって産生されるか否かに関わらず、従来の方法は、そのようなアミノ酸配列の改変のために使用可能である。
2つの構成要素の連結は、連結剤または結合剤を介して達成され得る。使用され得る分子間架橋剤は、この分野において知られている。これらの薬剤は、例えば、J−サクシニミジル3−(2−ポリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)またはN,N’−(1,3−フェニレン)ビスマレイミド(どちらも、スルフヒドリル基に対して高い特異性を有し、そして不可逆の連結を形成する。);N,N’−エチレン−ビス−(ヨードアセトアミド)または6個〜11個の炭素メチレン架橋を有している他のそのような薬剤(これは、スルフヒドリル基に対して比較的特異的である。);および1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン(これは、アミノ基およびチロシン基を有する不可逆の連結を形成する。)。この目的のために役に立つ他の架橋剤は、p,p’−ジフルオロ−m,m’ジニトロジフェニルスルホン(これは、アミノ基およびフェノール基を有する不可逆の架橋を形成する。);アジプイミド酸ジメチル(これは、アミノ基に対して特異的である。);フェノール−1,4ジスルホニルクロリド(これは、主にアミノ基と反応する。);ヘキサメチレンジイソシアネートもしくはジイソチオシアネート、またはアゾフェニル−p−ジイソシアネート(これは、主にアミノ基と反応する。);グルタルアルデヒド(これは、数個の異なる側鎖と反応する。)およびジスジアゾベンジジン(disdiazobenzidine)(これは、最初にチロシンおよびヒスチジンと反応する。)を包含している。
架橋剤は、ホモ二官能性であってもよい。すなわち、同じ反応を受ける2つの官能基を有していてもよい。好ましいホモ二官能性の架橋剤は、ビスマレイミドヘキサン(“BMH”)である。BMHは、2つのマレイミド官能基を含み、穏やかな条件下(pH6.5〜7.7)において、スルフヒドリル含有化合物と特異的に反応する。2つのマレイミド基は、炭化水素鎖によって連結されている。それゆえ、BMHは、システイン残基を含んでいるポリペプチドを不可逆的に架橋するために有用である。
架橋剤は、ヘテロ二官能性であってもよい。ヘテロ二官能性の架橋剤は、2つの異なる官能基、例えば、アミン反応基およびチオール反応基を有し、遊離のアミンおよびチオールをそれぞれ有している2つのタンパク質を架橋する。ヘテロ二官能性の架橋剤の例は、サクシニミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(“SMCC”)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(“MBS”)、およびスクシンイミド4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート(“SMPB”)、MBSの延長された鎖のアナログである。これらの架橋剤のサクシニミジル基は、1級アミンと反応し、そしてチオール反応性マレイミドは、システイン残基のチオールと共有結合を形成する。
架橋剤は、多くの場合、水における低い溶解性を有している。スルホネート基のような親水性の成分が、架橋剤の水溶性を改質するために架橋剤に添加されてもよい。スルホ−MBSおよびスルホ−SMCCは、水溶性を改変された架橋剤の例である。
多くの架橋剤は、細胞条件下において基本的に開裂しない接合を生じる。しかし、いくつかの架橋剤は、ジスルフィドのような共有結合を含み、細胞条件下において開裂する。例えば、トラウトの試薬であるジチオビス(サクシニミジルプロピオネート)(“DSP”)、およびN−サクシニミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(“SPDP”)は、周知の開裂性の架橋剤である。開裂性の架橋剤の使用によって、標的細胞へと届けられた後に、輸送ポリペプチドから積荷成分を分離することが可能となる。直接のジスルフィド結合が役に立ってもよい。
化学的な架橋は、スペーサーアーム(Spacer arm)の使用を含んでいてもよい。スペーサーアームは、分子内の柔軟性をもたらすか、または連結された成分間の分子内の距離を調整し、そしてその結果、生物活性を保つことを助けてもよい。スペーサーアームは、スペーサーアミノ酸、例えばプロリンを含む、ポリペプチド成分の形態であってもよい。例えば、上記スペーサーは、1以上のプロリン、好ましくは2個、3個、または4個のプロリンを含んでいる。
また、“長鎖SPDP”におけるスペーサーアームのように、スペーサーアームは、架橋剤の一部であってもよい。
本発明の他の実施形態において、上記Elk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤ペプチドは、さらに核移行シグナル(NLS)配列および/または核外移行配列(NES)配列を含んでいる。
上記NLSおよびNES配列は、この分野において周知であり、そして2個〜20個のアミノ酸、好ましくは、3個、4個、5個、…、18個、19個、または20個のアミノ酸を含んでいる。
一実施形態において、上記NLSおよびNES配列は、以下の表より選択される。
Figure 0005671465
他の実施形態において、Elk−1活性化またはMSK−1活性化の阻害剤ペプチドは、さらに酵素切断部位を含み、これによって、細胞透過性配列と阻害剤ペプチドの残りの配列との間を、細胞内において開裂することを可能とする。
一実施形態において、上記酵素切断部位は、2つの連続したシステイン残基を含み、これによって、細胞質グルタチオンによる分子内開裂を可能とする。
一実施形態において、上記Elk−1活性化の選択的な阻害剤ペプチドは、配列番号28(GRKKRRQRRRPPSPAKLSFQFPSSGSAQVHI)に示す配列を有している。
一実施形態において、上記Elk−1活性化の選択的な阻害剤ペプチドは、配列番号29(GRKKRRQRRRPPKGRKPRDLELPLSPSLL)に示す配列を有している。
一実施形態において、上記MSK−1活性化の選択的な阻害剤ペプチドは、配列番号30(GRKKRRQRRRPPKAPLAKRRKMKKTSTSTE)に示す配列を有している。
通常、本発明は、機能的に類似した残基を用いて1以上の残基を保存的に置換した本発明の阻害剤ペプチドと実質的に同一であり、そして本明細書において上述したような本発明の阻害剤ペプチドの機能的な側面を表すペプチド、すなわち本明細書において上述したような阻害剤ペプチドとして、実質的に同じ方法にてElk−1活性化またはMSK−1活性化を阻害することができるペプチドを含んでいる。
保存的な置換の例は、イソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニンのような1つの非極性の(疎水性の)残基の他の残基への置換、アルギニンおよびリジンの間、グルタミンおよびアスパラギンの間、グリシンおよびセリンの間のような、1つの極性の(親水性の)残基の他の残基への置換、リジン、アルギニンまたはヒスチジンのような1つの塩基性の残基の他の残基への置換、またはアスパラギン酸またはグルタミン酸のような1つの酸性の残基の他の残基への置換を含む。
上記用語“保存性の置換”は、誘導体化されていない残基の代わりに、化学的に誘導体化された残基を用いることも含んでいる。“化学的な誘導体”は、機能的な側基の反応によって化学的に誘導体化された1以上の残基を有している対象ペプチドをいう。そのような誘導体化された分子の例は、例えば、アミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基またはホルミル基を形成するために遊離のアミノ基が誘導体化されたこれらの分子を含んでいる。遊離のカルボキシル基は、塩、メチルおよびエチルエステルもしくは他の型のエステル、またはヒドラジドを形成するために誘導体化されてもよい。遊離のヒドロキシル基は、O−アシルまたはO−アルキル誘導体を形成するために誘導体化されてもよい。ヒスチジンのイミダゾール窒素は、N−イム−ベンジルヒスチジンを形成するために誘導体化されてもよい。化学的な誘導体は、20個の基本的なアミノ酸の1以上の天然のアミノ酸誘導体を含んでいるペプチドも含む。例えば、4−ヒドロキシプロリンは、プロリンに対して置換されてもよく;5−ヒドロキシリジンは、リジンに対して置換されてもよく;3−メチルヒスチジンは、ヒスチジンに対して置換されてもよく;ホモセリンは、セリンに対して置換されてもよく;そして、オルニチンは、リジンに対して置換されてもよい。
本発明の一実施形態において、Elk−1活性化またはMSK−1活性化の阻害剤ペプチドは、配列番号28〜30に係るアミノ酸配列またはその変異体から基本的に成る。
本発明によれば、“基本的に成る”は、配列番号28〜30の何れかに係る配列またはその変異体に加えて、本発明に係るペプチドが、さらにN−および/またはC−末端に局在するアミノ酸の伸長を含んでいる意味とすべきである。このアミノ酸の伸長は、結合モチーフを含むペプチドのコア配列および免疫原性エピトープとして機能するペプチドの部分を必ずしも形成していない。
一実施形態において、本発明は、本発明のペプチドの塩も包含している。上記用語“塩”は、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等のような有機酸を用いて形成された酸付加塩を含む。上記用語は、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、およびカルシウムのような無機塩基、並びにイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン等の有機塩基から形成された塩基付加塩も含む。
本発明の一実施形態において、阻害剤ペプチドを作り出すアミノ酸は、L型光学異性体である。本発明の他の実施形態において、ペプチド配列の1以上のアミノ酸は、そのD型光学異性体を用いて置換され得る。本発明の他の実施形態において、阻害剤ペプチドは、ペプチド配列の全てのDレトロインベルソ型(D retro-inverso version)である。
本発明の阻害剤ペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸、または両方の組合せの重合体であり得る。例えば、ペプチドは、Dレトロインベルソペプチドである。上記用語“レトロインベルソ異性体”は、配列の方向が逆向きであり、且つそれぞれのアミノ酸残基のキラリティーが反転されている直鎖状ペプチドの異性体をいう。D型光学異性体と逆合成との組合せの最終結果は、それぞれのアミド結合におけるカルボニル基およびアミノ基の位置が変更されるものであるが、一方で、それぞれのα炭素における側鎖基の位置は保存されている。他に具体的に述べていない限り、本発明のあらゆる特定のL−アミノ酸配列は、対応する天然のL−アミノ酸配列に対する逆の配列を合成することによってDレトロインベルソペプチドにされてもよいことが推定される。
上記Elk−1活性化またはMSK−1活性化の阻害剤ペプチドは、この分野において知られた従来技術によって取得されてもよい。例えば、上記阻害剤ペプチドは、従来の固相合成または液相合成のような化学合成によって取得されてもよい。Boc(t−ブチルオキシカルボニル)またはFmoc(9−フルオレニルメトキシカルボニル)をアミノ保護基として用いる固相合成が適している。
上記阻害剤ペプチドは、遺伝工学的方法によって生合成されてもよい。この手法は、比較的長いペプチド鎖を有するポリペプチドを生成するときに適している。すなわち、DNAは、所望の阻害剤ペプチドのアミノ酸配列をコードしているヌクレオチド配列(ATG開始コドンを含む)を用いて合成される。宿主細胞においてアミノ酸配列を発現することを要求される、種々の調製エレメント(発現レベルを調製するための、プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、エンハンサー、および種々のシスエレメントを含む)と共にこのDNAからなる遺伝子発現コンストラクトを有している組換えベクターは、その後、宿主細胞に準じて構築される。一般的な技術は、この組換えベクターを、特定の宿主細胞(酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、細菌細胞または動物(哺乳類)細胞等)に導入することであり、そしてその後、これらの宿主細胞またはこれらの細胞を含む組織もしくは器官を特定の条件下において培養することである。この方法において、目的のポリペプチドは、細胞内において発現されそして産生され得る。ポリペプチドは、その後、単離され、そして宿主細胞から(または、もしそれが排出されている場合は培地から)精製され、その結果、所望の阻害剤ペプチドが取得される。この分野において従来用いられている方法は、組換えベクターを構築し、そして構築されたベクターを宿主細胞へと導入するために採用され得る。例えば、融合タンパク質発現系は、宿主細胞における効率的で多量の生成を達成するために用いられ得る。すなわち、阻害剤ペプチドのアミノ酸配列をコードしている遺伝子(DNA)は、化学的に合成され、そしてこの合成DNAは、適切な融合タンパク質発現ベクター(例えば、Novagen pETシリーズまたはAmersham Biosciences pGEXシリーズベクターのような、GST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)融合タンパク質発現ベクター)における適切な部位に対して導入される。宿主細胞(通常は、E.coli)は、その後、ベクターを用いて形質転換される。生じた形質転換体は、目的の融合タンパク質を調製するために培養される。タンパク質は、抽出され、そして精製される。生じた精製された融合タンパク質は、特異的な酵素(プロテアーゼ)を用いて開裂され、そして放出された目的のペプチド断片は、親和性クロマトグラフィー等の方法によって回収される。本発明の阻害剤ペプチドは、そのような従来の融合タンパク質発現系を用いて(例えば、Amersham Biosciences製のGST/His系を用いて)生成され得る。また、無細胞タンパク質合成系のための鋳型DNA(すなわち、阻害剤ペプチドのアミノ酸配列をコードしているヌクレオチド配列を含んでいる合成DNAフラグメント)は、構築され得、そして目的のポリペプチドは、ペプチド合成に必要な種々の化合物(ATP、RNAポリメラーゼ、アミノ酸等)を用いた無細胞タンパク質合成系の手段によって、in vitroで合成され得る。
本明細書において上述したようなElk−1活性化またはMSK−1活性化の阻害剤ペプチドをコードしている核酸配列は、この分野において知られている任意の方法によって(例えば、配列の3’および5’末端にハイブリダイズし得る合成プライマーを用いたPCR増幅法、および/または特定の遺伝子配列に対して特異的なオリゴヌクレオチド配列を用いたcDNAまたはゲノミックライブラリーからのクローニングによって)取得されてもよい。
発現ベクターは、また、上記で規定されたような1以上のElk−1活性化またはMSK−1活性化の阻害剤ペプチドの組換え発現のために提供される。上記用語“発現ベクター”は、環状もしくは線状のDNAまたはRNAのどちらかを指定するために、本明細書において用いられ、二本鎖または一本鎖のどちらかである。それは、宿主細胞または単細胞もしくは多細胞の宿主の器官へと移行されるための、本明細書において上述したような少なくとも1つの核酸をさらに含む。
発現ベクターは、好ましくは、上記で規定されたような1以上のElk−1活性化またはMSK−1活性化の阻害剤ペプチド、またはその機能的に保存された変異体、をコードしている核酸を含む。さらに、本発明に係る発現ベクターは、好ましくは、ウイルス、細菌、植物、哺乳類、および他の真核生物起源であり、そしてエンハンサー/プロモーターのような種々の調製エレメントを含む、発現を支持するための適切なエレメントを含む。これらは、インスレーター、境界エレメント(boundary element)、またはマトリックス/足場接着などの、宿主細胞において挿入されたポリヌクレオチドの発現を促進する。いくつかの実施形態において、調製エレメントは、異種性である(すなわち、生来の遺伝子プロモーターではない)。また、必要な転写および翻訳シグナルは、遺伝子および/またはその隣接している領域に対する生来のプロモータ−によって与えられてもよい。
上記用語“プロモーター”は、本明細書において使用される場合、1以上の本発明の核酸配列の転写を制御するために機能し、そして、プロモーター機能を制御するために相互作用している、DNA依存的なRNAポリメラーゼのための結合部位と他のDNA配列の存在とによって構造的に特定される、DNAの領域をいう。プロモーターの機能的な発現を促進している断片は、プロモーターとしての活性を保持している、縮小されるかまたは切断されたプロモーター配列である。プロモーター活性は、この分野において知られた任意のアッセイによって測定されてもよい。
“エンハンサー領域”は、本明細書において使用される場合、通常は、1以上の遺伝子の転写を増加させるために機能するDNAの領域をいう。より具体的には、上記用語“エンハンサー”は、本明細書において使用される場合、発現される遺伝子に対するその局在および方向性に関わりなく、遺伝子の発現を増強、増加、向上、または改善するDNA調製エレメントであり、そして、2以上のプロモーターの発現を増強、増加、向上、または改善してもよい。本発明の発現ベクターに関して上記で規定されたようなプロモーター/エンハンサー配列は、植物、動物、昆虫、または真菌の調節配列を用いてもよい。例えば、プロモーター/エンハンサーは、酵母および他の菌類から用いられ得る(例えば、GAL4プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター、ホスホグリセロキナーゼプロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター、ニューロン特異的エノラーゼプロモーター、カルシウムカルモジュリンキナーゼII、DARPP32プロモーター、ネスチンプロモーター、vGlut1プロモーター、GADプロモーター、セロトニン(1−5)−受容体プロモーター)。また、さらに、これらは、動物の転写制御領域を含んでいてもよい。
さらに、発現ベクターは、増幅マーカーを含んでいてもよい。この増幅マーカーは、例えば、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、多剤耐性遺伝子(MDR)、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)およびN−(フォスホノアセチル)−L−アスパラギン酸耐性(CAD)からなる群より選択されてもよい。
本発明に適した、例となる発現ベクターまたはその派生物は、特に、例えば、ヒトまたは動物のウイルス(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、レンチウイルス);昆虫のウイルス(例えば、バキュロウイルス);酵母ベクター;バクテリオファージベクター(例えば、ラムダファージ);pcDNA3のようなプラスミドベクターおよびコスミドベクターを包含している。本発明に適した好ましい発現ベクターは、ヘルパー依存性のアデノウイルスベクターのようなアデノウイルスベクター、およびレンチウイルスベクターである。
本発明の他の目的は、気分障害および不安障害の予防および/または治療のための、少なくとも1つのElk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤を含有している薬学的組成物である。
本発明の他の目的は、気分障害および不安障害の予防および/または治療において使用するのための、少なくとも1つのElk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤を含有している薬学的組成物である。
本発明の他の目的は、気分障害および不安障害の予防および/または治療のための薬学的組成物を調製するための、少なくとも1つのElk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤の、使用である。
本発明の一実施形態において、上記薬学的組成物は、
a)本明細書において上述したような少なくとも1つの選択的な阻害剤ペプチド;
b)本明細書において上述したような上記ペプチドをコードしている、核酸;または、
c)本明細書において上述したような上記核酸を含んでいる、発現ベクター
を含有している。
本発明の一実施形態において、気分障害は、大うつ病障害(すなわち、単極性障害)、躁病、抑うつ、双極性障害、気分変調症、および気分循環症を包含している。
本発明の一実施形態において、不安障害は、パニック障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、対人恐怖、社会不安障害、特定恐怖症、全般性不安障害を包含している。
本発明の他の実施形態において、本発明の阻害剤ペプチドまたは本発明の薬学的組成物は、うつ病を予防および/または治療するのためのものである。
大うつ病は、その初期の臨床的な徴候として、臨床的に深刻な気分の低下および機能の障害によって特徴付けられる。その臨床的な徴候および現在の治療は、パニック−広場恐怖症症候群(panic-agorophobia syndrome)、重度の恐怖症、全般性不安障害、社会不安障害、心的外傷後ストレス障害および強迫性障害を含む不安障害と重複している。両極端な気分は、精神病に関連し、異常なまたは妄想性の思考および認識を示し、多くの場合、支配的な気分と一致しているかもしれない。うつ病は、多くの場合、不安障害に付随して発症し、その上、治療される必要がある。うつ病の症状は、悲しみの感情、絶望、食欲または睡眠における変化、低い活動力、および集中する困難性を含む。うつ病を有しているほとんどの人は、抗うつ剤、ある種の心理療法、またはこれらの組合せを用いて効果的に治療され得る。
抑うつ性の障害は、異なる形態において発現される。すなわち、大うつ病は、働く、勉強する、寝る、食べる、およびかつての楽しい活動を享受する能力を妨げる、症状の組合せによって示される。そのようなうつ病の日常生活に支障を来たす症状は、より一般的には、生涯において数回現れるが、一度だけ現れてもよい。
うつ病、気分変調症のそれほど重症ではないタイプは、長期で、慢性的な症状を含む。この症状は、患者を十分に働かせない、または心地よくさせないようにするが、日常生活には支障を来たさない。気分変調症を有している多くの人は、生涯において、そのうち、大うつ病の症状の発症も経験する。
気分障害の他のタイプは、双極性障害であり、躁うつ病とも称される。抑うつ性の障害の他の形態ほど一般的ではないが、双極性障害は、繰り返しの気分の変化、すなわち、重度のハイ(躁病)およびロウ(うつ病)によって特徴付けられる。時々、気分の切替えが劇的であり、そして急激である。しかし、ほとんどの場合、段階的である。うつ病のサイクルにあるときは、その個人は、抑うつ性の障害のいくつかまたは全ての症状を有し得る。躁病のサイクルにあるときは、その個人は、活動し過ぎ、多弁になる、すなわち、非常に活発であるかもしれない。躁病は、多くの場合、深刻な問題および困惑をもたらすやり方で、思考、判断および社会的な振舞いに影響する。例えば、躁病のサイクルにある個人は、高揚感を感じ、思慮が足りない業務上の決定や空想にふけるといった尊大なたくらみに満ちているかもしれない。治療されていない躁病は、精神病の状態を悪化させるかもしれない。
本発明のElk−1活性化およびMSK−1活性化の阻害剤ペプチド、これらをコードしている核酸配列、または当該核酸配列を含んでいる発現ベクターは、薬学的組成物において製剤化され得る。これらの組成物は、さらに、上記の物質、薬学的に許容され得る賦形剤、担体、緩衝剤、安定化剤、またはこの分野において当業者に周知の他の材料の1つを含有していてもよい。そのような材料は、毒性を有さないものであるべきであり、そして、有効成分の効能を妨げないものであるべきである。担体または他の材料の正確な性質は、投与経路、例えば、経口投与、静脈内投与、皮膚もしくは皮下投与、経鼻投与、筋肉内投与、腹腔内投与またはパッチ経路(patch routes)に依存していてもよい。
経口投与のための薬学的組成物は、錠剤、カプセル、粉末または液体の形態であってもよい。錠剤は、ゼラチンまたはアジュバントのような固体の担体を含有していてもよい。液体の薬学的組成物は、一般に、水、鉱油、動物性もしくは植物性の油、鉱物油、または合成された油などの液体の担体を含有していてもよい。生理食塩水、ブドウ糖もしくは他の単糖類の溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールのようなグリコールが含有されていてもよい。静脈内、皮膚もしくは皮下注射、または患部における注射のために、有効成分は、発熱物質を含まず、適切なpH、等張性および安定性を有している、非経口的に許容され得る水溶液の形態であるだろう。当業者は、例えば、塩化ナトリウム液、リンガー液、乳酸加リンガー液といった等張性の媒体を用いて適切な溶液を調製するための十分な能力を有している。保存料、安定化剤、緩衝剤、酸化防止剤および/または他の添加剤は、必要に応じて含有されていてもよい。
治療の処方、例えば、投与量の決定等は、一般的な施術者および他の医師の職責の範囲内であり、通常、治療される障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法および施術者に知られている他の要因を考慮する。
治療学的な用途において、本発明の選択的な阻害剤ペプチドは、非経口、局所、経口、経肺(例えば、吸入)または局所の投与を含む、任意の有効な手段による投与を対象とした薬学的組成物において具体化される。好ましくは、薬学的組成物は、非経口的、例えば、静脈内、皮下、皮内、もしくは筋肉内、または鼻腔内に投与される。
本発明の一実施形態において、本発明の薬学的組成物は、鼻腔内経路によって投与される。
本発明の他の実施形態において、本発明の薬学的組成物は、静脈内に投与される。
一実施形態において、血液脳関門を通過する能力を有しているペプチドは、当業者に公知の方法を用いて、例えば、全身的、経鼻的に投与され得る。他の実施形態において、血液脳関門を通過する能力を有していない、より大きいペプチドは、脳室内の(ICV)投与またはカニューレを介して、当業者に周知の方法を用いて、哺乳類の脳に投与され得る。
一実施形態において、本発明は、非経口投与のための組成物を提供し、当該組成物は、許容され得る担体、好ましくは水性の担体に溶解または懸濁された、上述したような本発明の阻害剤ペプチドの溶液を含有している。例えば、水、緩衝化された水、0.4%食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等を含む、種々の水性の担体が用いられてもよい。これらの組成物は、従来の周知の滅菌法によって滅菌されてもよく、ろ過されて滅菌されてもよい。生じた水溶液は、そのまま使用するために包装されてもよく、凍結乾燥されてもよい。凍結乾燥された標品は、投与の前に、滅菌された溶液と組み合わせられる。組成物は、おおよそ生理学的な状態に必要とされるような補助物質を含有していてもよく、当該補助物質は、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンオレート等のような、pH調整剤および緩衝剤、等張性調整剤、湿潤剤等を含む。
固体の組成物に関して、従来の毒性のない固体の担体が用いられてもよく、例えば、医薬グレードのマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石粉、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウム等を含む。経口投与のために、薬学的に許容され得る毒性のない組成物は、これまでに記載した担体のような通常用いられる賦形剤の何れかと、通常は10〜95%、さらに好ましくは25%〜75%の濃度の有効成分と、を組み込むことによって形成される。
エアロゾル投与のために、NAPまたはADNFポリペプチドは、界面活性剤および噴霧剤と共に、最終的にはこれらから分離されて、好ましく供給される。界面活性剤は、もちろん、毒性のないものであり、そして、好ましくは、噴霧剤に溶解し得る必要がある。そのような薬剤を代表するものとして、カプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、オレステリン酸(olesteric acid)およびオレイン酸のような6個〜22個の炭素原子を含んでいる脂肪酸と、脂肪族多価アルコールまたはその環状無水物とのエステルまたは部分的なエステルである。混合されたグリセリドまたは天然のグリセリドのような、混合されたエステルが採用されてもよい。また、必要であれば、例えば鼻腔内送達のためのレシチンと同様に、担体を含めることができる。例は、1mlあたり、7.5mg NaCl、1.7mg クエン酸一水和物、3mg リン酸ナトリウム二水和物および0.2mg 塩化ベンザルコニウム溶液(50%)を含む溶液を含有している(Gozes et al., J Mol Neurosci. 19(1-2):167-70 (2002))。
本発明の他の目的は、それを必要とする被検体において、不安障害および気分障害を治療するための方法であり、当該方法は、本明細書において上述してような、治療学的に有効な量の少なくとも1つのElk−1活性化またはMSK−1活性化の選択的な阻害剤ペプチド、または本明細書において上述したような、治療学的に有効な量の薬学的組成物を投与する工程を包含している。
一実施形態において、本発明のElk−1活性化またはMSK−1活性化の阻害剤ペプチドは、不安障害および気分障害を予防および/または治療するに十分な量にて、患者に対して投与される。これを達成するために適した量は、“治療学的に有効な投与量”として規定される。この使用のために有効な量は、例えば、使用する特定の阻害剤ペプチド、予防される疾患または障害のタイプ、投与方法、患者の体重および全身の健康状態、および処方医の判断によるだろう。
例えば、1日1回(例えば、夕方に)、経鼻的に与えられる100ng〜10mgの投与量の範囲を満足する阻害剤ペプチドの量が、治療学的に有効な量であるだろう。また、用量は、この範囲を外れてもよいし、または異なるスケジュールであってもよい。例えば、用量は、0.0001mg/kg〜10,000mg/kgの範囲であってもよく、そして、好ましくは、一回の投与あたり、約0.001mg/kg、0.1mg/kg、1mg/kg、5mg/kg、50mg/kgまたは500mg/1gであるだろう。投与は、1時間に1度、4時間毎、6時間毎または12時間毎に投与されてもよく、食事と一緒に投与されてもよく、毎日投与されてもよく、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎に投与されてもよく、7日間にわたって投与されてもよく、1週間に1度、2週間毎、3週間毎、4週間毎、1ヶ月に1度、2ヶ月毎、3ヶ月毎もしくは4ヶ月毎、またはこれらの任意の組合せで投与されてもよい。投与の継続期間は、治療される状態に応じて、単回(急性の)投与であってもよく、または数日間、数週間、数ヶ月間、または数年間にわたってもよい。
本発明の一実施形態において、Elk−1およびMSK1の選択的な阻害剤は、フルオキセチン(PROZAC(登録商標))のような、セロトニン選択的な再取り込み阻害剤(SSRIs)、ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(NERIs)、複合型セロトニン−ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRIs)、モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOIs)、ホスホジエステラーゼ−4(PDE4)阻害剤、またはチアネプチン(Tianeptine)、ミルタザピン(Miltazapine)のような、他の非定型抗うつ剤を含む古典的な抗うつ剤と組み合わせて用いられる。
本発明の一実施形態において、その必要性がある被検体において不安障害および気分障害を治療するための上記方法は、限定されないが、セロトニン−選択的再取り込み阻害剤(SSRIs)、ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(NERIs)、複合型セロトニン−ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRIs)、モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOIs)、ホスホジエステラーゼ−4(PDE4)阻害剤、または他の非定型抗うつ剤を含む少なくとも1つの古典的な抗うつ剤を組み合わせて投与する工程をさらに含んでいる。
〔図の簡単な説明〕
〔図1〕 TSTにおいて、TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、古典的な抗うつ剤であるフルオキセチンおよびデシプラミンと類似した抗うつ剤様の作用を誘発する。
(A)ペプチドを、試験の90分前に注射した;標準のプロトコルに従って、デシプラミンおよびフルオキセチンを30分前に注射した。混ぜ合わせたコントロールペプチド(B)およびMEK阻害剤SL327(C)は、このパラダイムにおいて効果を示さない。データは、一元配置ANOVA(one-way ANOVA)およびダンカンのpost−hoc(Duncan’s post-hoc)を用いて分析した(*は、p<0.05を表している。)。
〔図2〕 FSTにおいて、TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、古典的な抗うつ剤であるデシプラミンと類似した抗うつ剤様の作用を誘発する。
ペプチドを、試験の90分前に注射した;標準のプロトコルに従って、デシプラミンを30分前に注射した(A)。混ぜ合わせたコントロールペプチド(B)およびMEK阻害剤SL327(C)は、このパラダイムにおいて効果を示さない。TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、水平の移動運動に影響を及ぼさない(D)。データは、一元配置ANOVAおよびダンカンのpost−hocを用いて分析した(*は、p<0.05を表している。)。
〔図3〕 予測できない慢性緩和ストレスプロトコルおよび実験群。
〔図4〕 UCMSパラダイムにおいて、TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、抗うつ剤様の作用を誘発する。
(A)ストレスを与えなかった動物(白色の丸)と比較して、ストレスを与えた動物(黒色の三角)において進行性の体重減少がある。この減少は、UCMSの間にわたるペプチドの投与によって好転する(灰色の四角)。(B)ストレスを与えなかった動物(白色の丸)と比較して、ストレスを与えた動物(黒色の三角)において進行性の毛並みの劣化がある。この劣化は、UCMSの間にわたるペプチドの投与によって好転する(灰色の四角)。データは、反復測定ANOVA(repeated measures)およびダンカンのpost−hocを用いて分析した(*は、ストレスを与えなかった動物と比較した場合のp<0.05を表している。#は、ストレスを与えた動物と比較した場合のp<0.05を表している。)。
〔図5〕 UCMSパラダイムにおいて、TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、抗うつ剤様の作用を誘発する。
(A)ストレスを与えなかった動物(白色のバー)と比較して、ストレスを与えた動物(黒色のバー)において、TSTにおける静止(immobility)が増加する。これは、UCMSの間にわたるペプチドの投与によって軽減される(灰色のバー)。(B)ストレスを与えなかった動物(白色のバー)と比較して、ストレスを与えた動物(黒色のバー)におけるショ糖嗜好性の低下(動物の合計の消費(糖+水)に対する糖の%として表される。)がある。これは、UCMSの間にわたるペプチドの投与によって好転する(灰色のバー)。データは、一元配置ANOVAおよびダンカンのpost−hocを用いて分析した(*は、ストレスを与えなかった動物と比較した場合のp<0.05を表している。#は、ストレスを与えた動物と比較した場合のp<0.05を表している。)。
〔図6〕 TAT−DEF−Elk1ペプチドと、参照となる抗うつ剤であるデシプラミンとの組合せは、新しい食欲不振試験(novelty hypophagia test)における作用の発現の遅れを、顕著に、そして投与量依存的に軽減する。
データは、ストレスの多い環境における動物に対して、味のよい食事が与えられた場合に、食事を消費するための待ち時間の平均値+/−SEを表す。食塩水処理された動物と比較した場合の*p<0.05。
〔図7〕 TAT−DEF−Elk1ペプチドは、社会的敗北ストレス(social defeat stress)(SDS)試験における社会的回避を軽減する。
(A)データは、標的の存在下(斜線ではないバー)または標的の存在下(斜線のバー)において、ケージを用いた相互に作用した時間(time spend interacting)(TSI)の平均値+/−SEを表す。標的が存在する場合、TSIの増加として認められるように、コントロールマウスは、活発な社会行動に携わる(パネルa)。一方、媒体によって処理した、ストレスを与えたマウス(パネルb;白色のバー)は、より短いTSIを示し、これは、社会的回避を示している。TAT−DEF−Elk1(灰色のバー)を用いた治療は、この行動を完全に好転させる。標的の存在下におけるTSIに対する*p<0.05。
(B)同じ結果を百分率値としてプロットした。ストレスを与えなかったマウスに対する*p<0.01、媒体を用いて処理したストレスを与えたマウスに対する#p<0.05。
〔図8〕 TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、内側前頭前野(medial prefrontal cortex)(mPFCx)において尾懸垂によって誘発されるElk1リン酸化を低下させる。
同じ治療を受けているストレスを与えなかったマウスと比較した場合の*p<0.05
媒体を用いて処理した、ストレスを与えなかったマウスまたはストレスを与えたマウスと比較した場合の#p<0.05。
〔図9〕 TAT−DEF−Elk1ペプチドは、ストレスによって誘発される、血漿コルチコステロンにおける増加を顕著に低下させる。
データは、平凡な状態(ストレスを与えていない状態、薄灰色のバー)および30分間の拘束ストレス直後(濃い灰色のバー)における血漿コルチコステロンの、平均値+/−SEを表す。媒体またはTAT−DEF−Elk1ペプチドを、ストレス開始1時間前に投与した。ストレスを与えなかったマウスと比較した場合の*p<0.05、媒体処理したマウスと比較した場合の#p<0.05。
〔実施例〕
TAT−DEF−Elk−1ペプチド(GRKKRRQRRRPPSPAKLSFQFPSSGSAQVHI)を、2つの異なる学習性無力試験、マウスの尾懸垂試験(TST)およびマウスの強制水泳試験(FST)において試験した。
これらの試験において、実験動物は、回避できない嫌悪状況(尾部によって吊るす、水中に入れる)に曝され、そして、それに応じて、動揺および静止の交互の期間を示す。これらは、それぞれ、“逃避しようとする試み”および“行動性の断念”を反映している。FSTおよびTSTは、抗うつ剤活性を予測するために広く用いられている;抗うつ剤を用いた急性の治療は、活発な逃避の試みを増加させ、それ故、静止を減少させる(例えば、Svenningsson et al., PNAS, 2002; Li et al., Neuropharmacol, 2001)。
用いた実験プロトコルの詳細は、以下のとおりである:マウスは、試験の前の適切な時期に、媒体、異なる投与量のペプチドTAT−DEF−Elk−1、混ぜ合わせたペプチド(コントロールとして用いた。)、MEK阻害剤SL327を用いて、または参照としての抗うつ剤であるフルオキセチン(20mg/kg)またはデシプラミン(20mg/kg)を用いて、腹腔内に注射された。
TSTにおいて、床から80cm上で、尾部(先端から1.5〜2cm)を包み込む接着テープを用いてテールハンガーから吊るした状態で、それぞれのマウスを、個々の小個室において試験した。試験は、5分間にわたって実施し、その間、静止時間の持続を自動的に測定した(BIOSEB,France)。FSTのために、6cmの高さに水(22〜25℃)を満たした透明なプラスチックの円筒(直径10cm;高さ25cm)の中に、マウスを6分間入れた。盲検観察者(blinded observer)は、6分間の試験の内、少なくとも4分間にわたって、手作業で静止時間の持続を観察した。
図1に示したように、TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、古典的な抗うつ剤と同様に、TSTにおける静止を軽減した。すなわち、TAT−DEF−Elk−1ペプチドの最大の効果は、フルオキセチンおよびデシプラミンの効果と同程度であった。TAT−DEF−Elk−1ペプチドの作用の逆U型曲線は、高い投与量のペプチドを用いて認められた非特異的な作用と関連しているかもしれない。
さらに、TAT−DEF−Elk1ペプチドは、また、TSTにおいて有効であった同じ投与量において、FSTにおける抗うつ剤様の作用を誘導した(図2A)。一方、混ぜ合わせたコントロールペプチドおよびSL327は、FSTにおいて効果を示さなかった(図2B、2C)。
これらの投与量では、TAT−DEF−Elk1ペプチドは自発運動活性に影響を与えないので、TSTおよびFSTにおいて認められる静止の増加は、TAT−DEF−Elk1ペプチドの抗うつ剤作用を反映している(図2D)。
我々は、また、予測できない慢性緩和ストレスパラダイム(UCMS)において、TAT−DEF−Elk1ペプチドの作用を評価した。UCMSは、病原学的な妥当性を有しているうつ病の適切なモデルとして用いられる。UCMSプロトコルにおいて、動物は、異なる予測できないストレス因子に対して、長期間に渡ってさらされる。ストレスに対する慢性的な曝露は、うつ病の症状を再現しているマウスにおける症候群をもたらす。当該症候群は、放棄の増加、不安様行動、味のよい食べ物の消費の減少、および生理学的な変化を含む。抗うつ剤活性を有している化合物の慢性の投与は、これらの変化を好転させる。
我々が用いたプロトコルは、3週間のUCMSからなり、その間に、マウスを、“ランダム”スケジュールに従った種々のストレス因子にさらした。UCMSによって誘発される症候群の進行のマーカーとして、体重および毛並みを、週に1度、評価した。3週間の期間の終わりに、情動性の行動試験およびうつ病様行動の行動試験においてマウスの感情の状態を試験した(図3A)。
マウスの実験群は以下のとおりである:
(i)ストレスを与えていないマウス:これらのマウスは集団で飼育した。そして、標準的な実験室の状態において取り扱い、そして維持した(グループ1;図3B);
(ii)ストレスを与えたマウス:これらのマウスは標準的な実験室の状態において取り扱うが、小さな個別のケージに隔離した。3週間のプロトコルの間に、これらのマウスを、1日当たり、3つの軽度のストレス因子に曝した。ストレスを与えたマウスは、媒体(グループ2;図3B)、ペプチド(1mg/kg;1日1回)、または参照となる抗うつ剤であるフルオキセチン(20mg/kg;1日1回)(グループ3;図3B)の何れかを用いて処理した。媒体または化合物を用いた処理は、UCMSの開始から始め、3週間の期間をとおして継続した。
図4において示したように、TAT−DEF−Elk1ペプチドは、UCMSパラダイムにおいて抗うつ剤様の側面を有していた。
すなわち、TAT−DEF−Elk1ペプチドを用いた治療は、UCMSによって誘発される進行性の体重減少を好転させた(図4A)。体重減少の完全な好転は、ストレス後の第3週の終わりに現れた。これは、古典的な抗うつ剤と同様に、TAT−DEF−Elk1ペプチを延長して投与することが、この作用を誘発するために必要であることを表している。TAT−DEF−Elk1ペプチドは、また、UCMSによって誘導される毛並みの劣化を軽減した(図4B)。毛並み劣化の部分的な好転も、古典的な抗うつ剤と同様に、TAT−DEF−Elk1ペプチドの投与の2週間後にのみ認められた。
UCMSパラダイムの終わりに、尾懸垂試験における静止の増加として測定される無抵抗および放棄や、ショ糖に対する嗜好性として測定される無快感症のような、うつ病様の反応に関して、マウスを試験した。
TAT−DEF−Elk1ペプチドは、参照となる抗うつ剤であるフルオキセチンと同様に、TSTにおいて、UPMSによって誘発された静止を軽減し(図5A)、そして、UPMSによって鈍くなったショ糖の嗜好性を完全に回復させた(図5B)。
TAT−DEF−Elk1ペプチドの抗うつ病作用を、2つのさらなるモデル、すなわち(i)新しい食欲不振試験、および(ii)社会的敗北試験を用いて確認した。
新しい食欲不振試験において、TAT−DEF−Elk1ペプチド(0.5mg/kg、1mg/kg、および2mg/kg)、デシプラミン(5mg/kg、10mg/kg、および15mg/kg)、2つの組合せ、または媒体を、図6において示したように、試験の前に6日間または21日間投与した。結果は、TAT−DEF−Elk1ペプチドと参照となる抗うつ剤であるデシプラミンとの組合せが、顕著に、そして投与量依存的に新しい食欲不振試験における作用の発現の遅れを軽減することを示す。慢性の投与後(21日間)、TAT−DEF−Elk1ペプチドの効果は、デシプラミンの効果と同様である。しかし、TAT−DEF−Elk1ペプチドとデシプラミンとの組合せの投与を用いた亜慢性の治療後(6日間)にのみ、試験における作用の発現の遅れが観察される。
社会的敗北ストレス試験(SDS)において、マウスを、攻撃的なマウスに対して繰り返して(2週間)さらした;コントロールは、穏やかに取り扱った。その後、攻撃者を取り除いた。マウスを、媒体またはTAT−DEF−Elk1(1mg/kg)を用いて、15日間または21日間にわたって治療し、そしてその後、SDSによって誘発される社会的回避について試験した。試験箱は、第1回目の試験期間の間は空であり、そして第2回目の試験期間の間は、中立のマウス(neutral mouse)(標的)を入れた、穴のあいたプラスチックケージを収容した。
結果は、治療の15日後または21日後の何れかにおいて、デシプラミンがSDSによって誘発される社会的回避に対して全く効果を有していなかったことを示す(データは示さない)。図7は、TAT−DEF−Elk1ペプチドが、投与のわずか15日後に作用することを示した。これは、作用の発現の遅れの軽減と一致する。比較のために、インプラミンは、投与の39日後にのみ、SDS試験における抗うつ剤活性を有していることが文献において記載されている。
図8および図9において提示した結果は、気分障害に関連する分子基質を標的とすることにおいて、TAT−DEF−Elk1ペプチドの作用の有効性および特異性におけるin vivoの生化学的な証拠を提供する。
第1の実験において、TAT−DEF−Elk−1ペプチド(2mg/kg)または媒体を、10分間の尾懸垂試験(TST)の1時間30分前に投与した。マウスを、TST試験開始20分後にかん流し、そして、ERKおよびElk1のリン酸化を、免疫化学を用いて評価した。
図8に示した結果は、TAT−DEF−Elk1ペプチドは、尾懸垂によって誘発されるERKリン酸化を阻害しないが、TAT−DEF−Elk1ペプチドは、内側前頭前野(mPFCx)において尾懸垂によって誘発されるElk1リン酸化を選択的に低下させることを実証している。
第2の実験において、C57BL/6Jマウス(10週齢)を、TAT−DEF−Elk1ペプチドまたは媒体を用いて注射した;注射から1時間30分後に、マウスを30分間の拘束ストレスにさらした。すなわち、マウスが呼吸をするために上端に穴を設けた50mlファルコンチューブに、マウスを個別に閉じ込めた。マウスは、拘束後に直ちに頭を切り落とし、4℃にて、EDTAを含んでいる2mlのエッペンドルフに、血液を回収した。試料を、15分間、760gにて遠心分離し、血漿を回収し、そしてコルチコステロンをCorticosterone Double Antibody 125-I RIA kit(MP BIOMEDICAL)を用いて評価した。
図9において示した結果は、TAT−DEF−Elk1ペプチドは、基礎の血漿レベルコルチコステロンには影響を及ぼさないが、血漿レベルコルチコステロンにおけるストレスによって誘発される上昇を顕著に軽減することを実証している。
〔引用文献〕
Svenningsson P et al. (2002) Involvement of striatal and extrastriatal DARPP-32 in biochemical and behavioral effects of fluoxetine (Prozac). Proc Natl Acad Sci USA 99:3182-87.
Li X et al. (2001) Antidepressant-like actions of an AMPA receptor potentiator (LY392098). Neuropharmacology 40:1028-33.
Manji HK et al. (2003) Enhancing neuronal plasticity and cellular resilience to develop novel, improved therapeutics for difficult-to-treat depression. Biol Psychiatry 53:707-42. Review
TSTにおいて、TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、古典的な抗うつ剤であるフルオキセチンおよびデシプラミンと類似した抗うつ剤様の作用を誘発する。(A)ペプチドを、試験の90分前に注射した;標準のプロトコルに従って、デシプラミンおよびフルオキセチンを30分前に注射した。混ぜ合わせたコントロールペプチド(B)およびMEK阻害剤SL327(C)は、このパラダイムにおいて効果を示さない。データは、一元配置ANOVA(one-way ANOVA)およびダンカンのpost−hoc(Duncan’s post-hoc)を用いて分析した(*は、p<0.05を表している。)。 FSTにおいて、TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、古典的な抗うつ剤であるデシプラミンと類似した抗うつ剤様の作用を誘発する。ペプチドを、試験の90分前に注射した;標準のプロトコルに従って、デシプラミンを30分前に注射した(A)。混ぜ合わせたコントロールペプチド(B)およびMEK阻害剤SL327(C)は、このパラダイムにおいて効果を示さない。TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、水平の移動運動に影響を及ぼさない(D)。データは、一元配置ANOVAおよびダンカンのpost−hocを用いて分析した(*は、p<0.05を表している。)。 予測できない慢性緩和ストレスプロトコルおよび実験群。 UCMSパラダイムにおいて、TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、抗うつ剤様の作用を誘発する。(A)ストレスを与えなかった動物(白色の丸)と比較して、ストレスを与えた動物(黒色の三角)において進行性の体重減少がある。この減少は、UCMSの間にわたるペプチドの投与によって好転する(灰色の四角)。(B)ストレスを与えなかった動物(白色の丸)と比較して、ストレスを与えた動物(黒色の三角)において進行性の毛並みの劣化がある。この劣化は、UCMSの間にわたるペプチドの投与によって好転する(灰色の四角)。データは、反復測定ANOVA(repeated measures)およびダンカンのpost−hocを用いて分析した(*は、ストレスを与えなかった動物と比較した場合のp<0.05を表している。#は、ストレスを与えた動物と比較した場合のp<0.05を表している。)。 UCMSパラダイムにおいて、TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、抗うつ剤様の作用を誘発する。(A)ストレスを与えなかった動物(白色のバー)と比較して、ストレスを与えた動物(黒色のバー)において、TSTにおける静止が増加する。これは、UCMSの間にわたるペプチドの投与によって軽減される(灰色のバー)。(B)ストレスを与えなかった動物(白色のバー)と比較して、ストレスを与えた動物(黒色のバー)におけるショ糖嗜好性の低下(動物の合計の消費(糖+水)に対する糖の%として表される。)がある。これは、UCMSの間にわたるペプチドの投与によって好転する(灰色のバー)。データは、一元配置ANOVAおよびダンカンのpost−hocを用いて分析した(*は、ストレスを与えなかった動物と比較した場合のp<0.05を表している。#は、ストレスを与えた動物と比較した場合のp<0.05を表している。)。 TAT−DEF−Elk1ペプチドと、参照となる抗うつ剤であるデシプラミンとの組合せは、新しい食欲不振試験(novelty hypophagia test)における作用の発現の遅れを、顕著に、そして投与量依存的に軽減する。データは、ストレスの多い環境における動物に対して、味のよい食事が与えられた場合に、食事を消費するための待ち時間の平均値+/−SEを表す。食塩水処理された動物と比較した場合の*p<0.05。 TAT−DEF−Elk1ペプチドは、社会的敗北ストレス(social defeat stress)(SDS)試験における社会的回避を軽減する。(A)データは、標的の存在下(斜線ではないバー)または標的の存在下(斜線のバー)において、ケージを用いた相互に作用した時間(time spend interacting)(TSI)の平均値+/−SEを表す。標的が存在する場合、TSIの増加として認められるように、コントロールマウスは、活発な社会行動に携わる(パネルa)。一方、媒体によって処理した、ストレスを与えたマウス(パネルb;白色のバー)は、より短いTSIを示し、これは、社会的回避を示している。TAT−DEF−Elk1(灰色のバー)を用いた治療は、この行動を完全に好転させる。標的の存在下におけるTSIに対する*p<0.05。(B)同じ結果を百分率値としてプロットした。ストレスを与えなかったマウスに対する*p<0.01、媒体を用いて処理したストレスを与えたマウスに対する#p<0.05。 TAT−DEF−Elk−1ペプチドは、内側前頭前野(medial prefrontal cortex)(mPFCx)において尾懸垂によって誘発されるElk1リン酸化を低下させる。同じ治療を受けているストレスを与えなかったマウスと比較した場合の*p<0.05媒体を用いて処理した、ストレスを与えなかったマウスまたはストレスを与えたマウスと比較した場合の#p<0.05。 TAT−DEF−Elk1ペプチドは、ストレスによって誘発される、血漿コルチコステロンにおける増加を顕著に低下させる。データは、平凡な状態(ストレスを与えていない状態、薄灰色のバー)および30分間の拘束ストレス直後(濃い灰色のバー)における血漿コルチコステロンの、平均値+/−SEを表す。媒体またはTAT−DEF−Elk1ペプチドを、ストレス開始1時間前に投与した。ストレスを与えなかったマウスと比較した場合の*p<0.05、媒体処理したマウスと比較した場合の#p<0.05。

Claims (5)

  1. 気分障害および不安障害の予防および/または治療において使用するための、Elk−1活性化の選択的な阻害剤であって、
    上記Elk−1活性化の選択的な阻害剤は、
    少なくとも1つの細胞透過性配列、および
    配列番号1(SPAKLSFQFPSSGSAQVHI)に示されている通りのドッキングドメイン配列を含んでいるペプチドである、Elk−1活性化の選択的な阻害剤。
  2. 上記細胞透過性配列は、HIV−TAT配列(配列番号4);ペネトラチン(配列番号5);7個〜11個のアルギニンのアミノ酸配列(配列番号6〜10);配列中に無作為に配置された7個〜11個のアルギニンを含んでいる、7個〜25個のアミノ酸のX7/11R配列;およびDPVsに由来する配列(配列番号15〜19)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載のElk−1活性化の選択的な阻害剤。
  3. 上記ペプチドは、配列番号28の配列を有していることを特徴とする、請求項2に記載のElk−1活性化の選択的な阻害剤。
  4. 不安障害および気分障害の予防および/または治療において使用するための薬学的組成物であり、
    少なくとも1つの、請求項1から3の何れか1項に記載のElk−1活性化の選択的な阻害剤を含有していることを特徴とする、薬学的組成物。
  5. うつ病の予防および/または治療において使用するための、請求項1から3の何れか1項に記載のElk−1活性化の選択的な阻害剤、または請求項4に記載の薬学的組成物。
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