例えば、半導体発光素子の特性を調べるために、顕微分光測定が実施される。顕微分光測定は、特定領域についての精密な局所分析を行う手段として有効である。このほか、特定領域が所定の特性を有しているか否かの判定、或いは、複数の領域の中から所定の特性を有する領域を選別する目的で、顕微分光測定を実施する場合もある。
半導体発光素子は、量子情報処理や量子暗号通信用の光源として用いられる場合がある。量子情報処理や量子暗号通信用の光源には、通常、人工的に制御された量子二準位系を用いる。量子二準位には、単一色素分子、半導体中の欠陥や量子ドット等があるが、いずれも、励起状態からの電子遷移や、電子と正孔の再結合により、光子や光子対が生成される性質を利用するものである。ここでは、これらを総称して孤立量子光源と呼ぶ。
孤立量子光源のうち、量子ドットには、材質、形状、サイズによる波長制御の容易性、集積化の容易性、形成される固体素子の高い安定性等、様々な長所がある。例えば、量子暗号通信の場合、孤立量子光源として、光子1つ1つを規則的に発生できる、いわゆる単一光子光源を用いることが望ましいが、量子ドットを用いれば、光励起又は電流注入により、比較的簡便な構造で単一光子光源を実現することができる。
量子ドットを用いた単一光子光源に要求される性能としては、第1に、所望の波長帯域内において高い発光強度を持つこと(高量子効率)、第2に、その第1の性能を満たす量子ドットが素子内にただ1つ存在すること(量子光源の単一性)、が挙げられる。しかしながら、量子ドットを用い、このような2つの性能を共に満足する単一光子光源を形成することは容易ではない。
その理由として、まず第1に、次のようなことが挙げられる。即ち、量子ドットは、自己組織化成長法等を用いて一度に多数形成することが広く行われている。そのような場合、個々の量子ドットの発光効率(内部量子効率)は、量子ドット界面や近傍の不純物、欠陥によって大きく変化するため、多数の中のある量子ドットが、高い内部量子効率を示すかどうかは、確率的にしか決まらない。
また、第2に、量子ドットを用いる場合には、光の取り出し効率を高めるため、所定形状の半導体構造内に量子ドットを配置した光学構造が採用される。例えば、その形状から、ピラミッド型(A.Hartmann著、“Journal of Physics”、1999年発行、第11巻、5901頁)、メサ型(K.Takemoto著、“Japanese Journal of Applied Physics”、2004年発行、第43巻、L993頁)、ピラー型(M.Pelton著、“Physical Review Letters”、2002年発行、第89巻、233602頁)、ホーン型(K.Takemoto著、“Journal of Applied Physics”、2007年発行、第101巻、081720頁)等と呼ばれる光学構造が知られている。このような光学構造は、いずれも数十nm〜数μm程度の微細なサイズとされ、形成には高い精度が要求される。そのため、光学構造の設計と仕上がりの形状にずれが生じたり、複数の光学構造を形成する場合に、プロセス条件によって個々の光学構造の形状にばらつきが生じたりすることがある。
そして、第3に、上記自己組織化成長法等を用いると、1つの光学構造内に配置される量子ドットの位置や個数も、確率的にしか決まらないことが挙げられる。光学構造内に2個以上の量子ドットが存在すれば、1回の励起で同時に2個以上の光子が生成されてしまうため、それを単一光子光源として用いることは難しくなる。また、量子効率の高い単一光子光源を形成するうえでは、単一の量子ドットが、その設計中心(光学構造の中心)に位置していることが理想的である。
以上の理由から、所定の特性を示す単一光子光源を得るためには、まず、1つの半導体基板に無数の自己組織化量子ドットを成長する。そして、それを適切なサイズ(例えば5mm四方)に切り出した試料に複数の光学構造を形成したうえで、理想形状かそれに近い形状の光学構造の中心に高い内部量子効率を示す量子ドットが1つ含まれるものを選別するのが有効な方法となる。この選別に適した手法が、顕微分光測定である。量子ドットが含まれる光学構造は、数十nm〜数μm程度の大きさであるため、顕微分光測定によって観察エリアを光学的に限定することで、試料に形成した複数の光学構造の中から1つの光学構造を選び出すことが可能である。また、顕微分光測定によれば、1つの光学構造内に含まれる量子ドットからの光学応答を直接的に観測することが可能である。
以下では、試料に形成した複数の光学構造(光源)の中から、顕微分光測定を利用して、所定の特性を示す光学構造を選別する手法について説明していく。
まず、試料の構成例を図1に、顕微分光測定に用い得る装置の構成例を図2に、それぞれ示す。
例えば、図1に示すような、光学構造101を半導体基板102にアレイ状に配置した試料100を準備する。光学構造101には、1つ又は2つ以上の量子ドットが含まれている。このような試料100の各光学構造101について、図2に示すような顕微分光測定装置200を用いて局所分析を実施することを想定する。
この手法では、試料ステージ301上に配置された光学構造101に、対物レンズ等を含む集光装置201を通して励起光源202から励起光を照射し、得られた発光を同一の集光装置201(又は別の対物レンズ等を含む集光装置でもよい)を通して集光する。そして、その集光した発光を含む光(出力光)について、分光器203及び検出器204(分光器と組み合わせたマルチチャネル型の検出器や光電子増倍管等)を用いて発光スペクトルを検出する。1つの光学構造101について発光スペクトルを検出したら、次の光学構造101へと測定対象を移し、順々に発光スペクトルを検出していき、データを蓄積する。試料100に形成した光学構造101の数だけこのような測定を繰り返し、蓄積された発光スペクトルのデータを基に、所定の特性を示す光学構造を選別する。便宜上、ここでは25個の光学構造101が形成された試料100を例にしたが、1つの試料に形成する光学構造は、実際には1千個〜1万個にも及ぶ場合があるため、このような測定及び選別は自動で行うことが好ましい。
ところで、このようにして試料上の複数の光学構造について選別を行う際に重要となる点の1つに、各光学構造の合否判定をどう行うか、ということがある。最も簡便な方法は、得られた発光スペクトルのピークカウント(ピーク強度)を発光強度の指標として利用する方法である。孤立した量子ドットが示すスペクトルは、原子様の鋭い発光輝線となるため、発光スペクトルのピーク強度が、予め設定した閾値を上回れば合格、下回れば不合格とする。しかし、この選別方法では、所定の特性を示す光学構造を選別することができない場合がある。
良質な光学構造の条件としては、次の(1)〜(4)に示すような4つの条件を挙げることができる。尚、発光波長が光学構造の設計帯域内に入っていることを前提条件とする。
(1)量子ドットの内部量子効率が一定の閾値を超えている。
(2)光学構造が設計通りの形状になっている。
(3)量子ドットの位置が光学構造の設計中心に配置されている。
(4)量子ドットが光学構造内に1つ含まれている(但し、結合量子ドットは最小単位で1つと数える。)。
発光スペクトルのピーク強度に基づいて適正に判定できるのは、上記の(1)〜(3)までであり、(4)に示した光学構造内の量子ドットの数については適正に判定できない場合がある。例えば、複数の量子ドットの発光輝線が重畳されている場合には、発光スペクトルのピーク強度が増大されてしまう。そのため、ピーク強度のみでは、その複数の量子ドットの集合を、良質な単一の量子ドットと判定してしまう可能性がある。選別精度を高めるためには、このような発光スペクトルのピーク強度という第1の選別基準に加えて、光学構造内の量子ドットの数に応じた何らかの出力情報を第2の選別基準として用いることが望ましい。
尚、発光スペクトルの発光輝線の本数を第2の選別基準とし、顕微分光測定で得られた発光スペクトルの発光輝線が1本の場合は合格、2本以上の場合は不合格とする方法も考えられる。しかしながら、単一の量子ドットが示す発光輝線は、一本のみではなく、励起準位、励起子分子準位、多励起子準位、荷電励起子準位(正と負)等、多岐にわたる(J.J.Finley著、“Physical Review B”、2001年発行、第63巻、073307頁)。何本の固有準位が発光輝線として観測されるかは、量子ドットの外的・内的環境や励起条件等で変化するため、発光輝線の本数を選別基準に加えると、良質の量子ドットをふるい落としてしまう可能性がある。
また、試料上の複数の光学構造について選別を行う際に上記合否判定のほかに重要となるもう1つ別の点として、測定時の試料の2次元的な配置ずれや、いわゆるアオリと呼ばれる3次元的な配置ずれにどう対応するか、ということがある。このような試料の配置ずれは、その試料が測定時に置かれている環境と関係する。
量子光源の中には、ダイヤモンド中の窒素空孔や窒化ガリウム系量子ドット等のように、室温で動作可能なものもあるが、一般には液体ヘリウム(He)温度等の低温環境まで冷却した方が強い発光強度が得られ、また、スペクトル線が先鋭化する。従って、光学構造を選別するための顕微分光測定では、室温で動作する顕微分光測定装置に、試料を低温環境に保つ冷却装置を組み合わせることが望ましい。
ここで、冷却装置の構成例を図3に示す。
図3に示す冷却装置300は、試料100が載置される試料ステージ301、試料ステージ301に取り付けられた冷却部302、試料ステージ301及び冷却部302が収容されるチャンバ303を備えている。冷却部302には、液体He等の冷媒が、トランスファーチューブ305を介して、流通するようになっている。
測定時に試料を冷却する際には、例えば、試料100をグリース等で試料ステージ301に貼付する。そして、真空状態にしたチャンバ303内の冷却部302に、トランスファーチューブ305を介して冷媒を流通させ、冷却部302上の試料ステージ301を冷却し、試料ステージ301上の試料100を冷却する。このような冷却状態の試料100に対し、チャンバ303の光学窓306から励起光が照射され、それによって生じる出力光が光学窓306から検出される。
ところが、トランスファーチューブ305自体相当な重量があり、また、長さもあるため、測定中に試料100と、顕微分光測定装置200の光学系との間に2次元的或いは3次元的なずれが発生し、顕微分光測定を精度良く行う上での障害となることがある。
また、試料100をグリース等で試料ステージ301に貼付するときは、試料100上にアレイ状に並べた光学構造101の配列方向と、試料ステージ301の駆動軸方向(X軸方向及びY軸方向)が一致するよう事前に調整する。しかし、この調整を目視で行った場合、厳密には、試料100と、試料ステージ301の駆動軸方向との間に、若干のずれが生じる。更に、グリース等で試料ステージ301に貼付した試料100は、室温から冷媒温度まで冷却する際、或いは長時間測定の間に、試料100自体が面内で回転してしまうこともある。このような要因によるずれもまた、顕微分光測定を精度良く行う上での障害となり得る。
尚、試料の位置ずれに関しては、例えば、試料に位置補正用のマーカを配置し、そのマーカを基準にして画像認識処理によって位置ずれ補正を行う手法が考えられる。しかし、光子と量子光源の結合効率を高めるよう設計された光学構造を測定対象とし得る顕微分光測定の場合、光学構造は、光の取り出し効率を確保するために、位置ずれの許容精度(トレランス)が非常に厳しくなる。特に、光学構造からの発光をシングルモード光ファイバに光結合させて検出するような顕微分光測定装置では、光ファイバ端が光学構造の中心から100nm程度ずれただけでも光の取り出し効率が著しく低下してしまう場合がある。従って、マーカの画像認識処理によって位置ずれ補正を行う手法では、高い解像度が要求され、数百nm程度の解像度では、十分な精度の位置ずれ補正が行えない。更に、単一光子光源のように光ファイバへの結合損失を極限まで減らす必要がある場合には、そもそも画像認識用の光学系さえ設けることができない場合もある。
また、試料から発生する近接場光をプローブ光で検知し、検出器の位置を自動でアラインメントする手法も提案されている。しかし、この手法では、試料測定用の顕微光学系に加えて位置補正用の近接場顕微光学系を別途導入する必要がある。そのため、装置自体が大変大がかりになる、試料自体を近接場顕微観察用に合わせて表面で近接場光を発生させるような加工が必要になる、等の課題が残る。
以上の点に鑑み、ここではまず、第1の実施の形態として、次の図4に例示するような構成を有する顕微分光測定装置20を用い、所定の特性を示す光学構造の選別を行う場合について説明する。
図4は第1の実施の形態に係る顕微分光測定装置の一例の説明図、図5は冷却装置の一例の説明図である。
図4に示す顕微分光測定装置20は、試料10の発光スペクトルを検出するための分光光学系、試料10を低温状態に保つ冷却装置30、及び検出された発光スペクトル(スペクトル信号)を用いた処理を実行する信号処理装置40(処理部)を備えている。
顕微分光測定装置20を用いて測定する試料10には、例えば、1つ又は2つ以上の量子ドットを含む光学構造11が、2次元アレイ状に複数形成されたものを用いる。尚、試料10の構造の詳細については後述する。
試料10は、冷却部32に熱的に接続された試料ステージ31上に載置され、冷却装置30により、液体He温度等の低温環境に置かれる。尚、ここでは一例として、試料10の光学構造11形成面側を上方(試料ステージ31側と反対側)に向けて配置している場合を示したが、試料10によっては、光学構造11形成面側を下方(試料ステージ31側)に向けて配置する場合もある。
低温環境は、図5に示すような冷却装置30によって実現される。図5に示す冷却装置30は、試料ステージ31及び冷却部32が収容されるチャンバ33を備え、冷却部32には、液体He等の冷媒が貯蔵された冷媒コンテナ34との間で、トランスファーチューブ35を介して、冷媒が流通される。顕微分光測定の際には、試料10がグリース等で試料ステージ31に貼付され、チャンバ33内が真空ポンプ37で排気されて真空とされる。そして、そのチャンバ33内にある冷却状態の試料10に対し、チャンバ33の光学窓36を通して励起光が照射され、それによって生じる発光を含む出力光が光学窓36から検出される。
顕微分光測定装置20は、低温環境に置かれた試料10を励起するための励起光を発生する励起光源21と、励起光を試料10に照射すると共に、試料10から発生する発光を含む出力光を集光する集光装置22とを備える。
励起光源21には、測定対象となる光学構造11に含まれる量子ドットの種類に応じて任意のレーザが使用できる。例えば、アルゴン(Ar)レーザ、チタン・サファイアレーザ、ヘリウム−カドミウム(He−Cd)レーザ、各種色素レーザ、半導体レーザ等が使用可能である。
集光装置22は、励起光源21と光ファイバ(シングルモード光ファイバ)28を介して光学的に接続されている。集光装置22は、少なくとも1つの対物レンズ又は非球面レンズを備え、励起光を試料10上の直径1μm程度のスポットに集光すると共に、得られた発光を含む出力光を光ファイバ28のコアに結像する役割を果たす(共焦点光学系)。
集光装置22には、当該集光装置22と試料10との相対位置を変化させるための3軸ステージ23が取り付けられ、3軸ステージ23には、集光装置22の移動を制御するためのステージ駆動信号がステージ駆動装置24から送信される(位置制御部)。3軸ステージ23は、ステージ駆動装置24からの駆動信号を受けて、X,Y,Z軸の3軸方向にそれぞれ独立に移動できるようになっている。3軸ステージ23としては、ステッピングモータ又はピエゾ駆動装置が使用でき、100nm或いはそれ以下の精度で位置決めできるものを用いる。
尚、ここでは3軸ステージ23を集光装置22に取り付けた場合を例示したが、低温環境側(冷却装置30側)全体を3軸ステージで駆動したり、試料ステージ31と冷却部32の間に3軸ステージを取り付けたりすることもできる。
励起光源21からの励起光は、WDM(Wavelength Division Multiplexing)カプラ25を通して集光装置22に導かれ、試料10からの発光を含む出力光は、集光装置22で集光された後、WDMカプラ25で励起光と発光光の2波長が分波・合波される。WDMカプラ25を通過した光は、フィルタ26に導かれ、フィルタ26により、励起光の反射光や不要な背景光が取り除かれた後、分光器27(分光部)に送られる。分光器27には、例えば、ツェルニー・ターナー型分光器を用いることができる。尚、集光装置22と分光器27とは、光ファイバ(シングルモード光ファイバ)28によって光学的に接続されている。
分光器27によって分光された試料10の発光スペクトルは、検出器29(検出部)によって検出される。検出器29には、例えば、1次元リニア型検出器、2次元アレイ型検出器、光電子増倍管等を用いることができる。検出器29で得られた発光スペクトル(スペクトル信号)は、信号処理装置40に送られる。
信号処理装置40は、発光強度評価部41、位置ずれトレランス評価部42、記録部43(データ蓄積部43a、マーカ位置記憶部43b)、補正量算出部44及びステージ制御部45を有している。
第1の評価部である発光強度評価部41は、検出器29からの発光スペクトルのピーク強度(発光強度)を評価する。例えば、発光強度評価部41は、取得した発光スペクトルのピーク強度を求め、求めたピーク強度を、予め設定された閾値(第1選別基準値)と比較し、それらの大小関係を判定する。
第2の評価部である位置ずれトレランス評価部42は、試料10と集光装置22との相対位置の変化に対する発光強度の許容精度(トレランス)を評価する。例えば、位置ずれトレランス評価部42は、試料10と集光装置22との相対位置を変化させたときに、一の測定対象の光学構造11から生じ、集光装置22で集光された発光スペクトルのピーク強度の変化を求め、その変化の程度を表す評価値を生成する。更に、位置ずれトレランス評価部42は、その生成した評価値を、予め設定された閾値(第2選別基準値)と比較し、それらの大小関係を判定する。
記録部43は、例えば、データ蓄積部43a及びマーカ位置記憶部43bを含む。
データ蓄積部43aには、発光強度評価部41及び位置ずれトレランス評価部42での判定結果に関するデータ(試料10上の測定対象(光学構造11)の位置、当該測定対象について得られたピーク強度並びに評価値等)が記録される。
マーカ位置記憶部43bには、試料10と集光装置22との位置関係を補正する際の基準(マーカ)として用いる、試料10上の測定対象(光学構造11)の位置(マーカ位置)、及びそのマーカ位置の評価値(マーカ評価値)等が記録される。マーカ位置記憶部43bには、例えば、マーカ位置及びマーカ評価値の組が、1つ又は2つ以上記録される。
また、記録部43には、例えば、試料10或いは試料10上の各光学構造11の位置(座標)、上記第1,第2選別基準値、試料10の測定時間の閾値(サンプリング時間)等が、その顕微分光測定の実施に先立ち、予め記録される。
補正量算出部44は、記録部43のマーカ位置記憶部43bに記録されているマーカ位置及びマーカ評価値を基に、試料10と集光装置22との位置関係を補正するための補正量を算出する。
ステージ制御部45は、補正量算出部44で算出された補正量を基に、集光装置22のX,Y,Z軸方向の移動量を決定し、ステージ駆動装置24に送信するステージ駆動命令を生成し、生成したステージ駆動命令をステージ駆動装置24に送信する。ステージ駆動装置24は、受信したステージ駆動命令に基づき、3軸ステージ23に対し、ステージ駆動信号を送信する。
上記の発光強度評価部41、位置ずれトレランス評価部42、記録部43、補正量算出部44及びステージ制御部45の各処理機能を含む、信号処理装置40の処理機能は、コンピュータを用いて実現することができる。その場合、信号処理装置40の処理機能を記述したプログラムをコンピュータで実行することにより、当該処理機能がコンピュータ上で実現される。尚、信号処理装置40の処理機能を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体(ハードディスク装置(HDD)等の磁気記録装置、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の光ディスク)に記録しておくことができる。コンピュータは、このような記録媒体に記録されたプログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行する。
以上のような構成を有する顕微分光測定装置20を用い、試料10から所定の特性を示す光学構造11を選別する。ここで、まず試料10の構造について、次の図6及び図7を参照して更に詳しく説明する。
図6には、試料10の一例の平面模式図を示している。試料10は、半導体基板12、及びその上に形成された複数の光学構造11を含んでいる。光学構造11の内部には、量子光源として、1つ又は2つ以上の量子ドットが埋め込まれている。光学構造11の大きさは、その種類で異なるが、例えば、メサ構造の場合、直径100nm〜1000nm程度である。
試料10には、複数の光学構造11が、アレイ状に配置されている。光学構造11は、X軸方向には、同一サイズ或いはほぼ同一サイズのものが配列され、Y軸方向には、正方向から負方向に向かい、次第に直径が小さくなったものが配列される。各光学構造11は、数十μm間隔で並べられる。
尚、ここでは便宜上、各光学構造11の位置を識別できるように、ラベルを付している。図6の例では、X軸方向に「1」,「2」,「3」,「4」,「5」、Y軸方向に「A」,「B」,「C」,「D」,「E」とラベルを付し、各光学構造11の位置は、「A1」,「A2」,・・・,「E5」と識別する。但し、ラベルは、各光学構造11の位置をデータ上識別可能であればよく、必ずしも試料10表面に実際に付されていることを要しない。
また、ここでは便宜上、大小合わせて25個の光学構造11を図示したが、光学構造11の数はこれに限定されるものではない。例えば、光学構造11を、3mm四方の領域に、X軸方向及びY軸方向にそれぞれ30μm間隔で配列させたとすると、1つの試料10には104個程度の光学構造11が配列されることになる。
図7には、試料10の一例の一断面を模式的に図示している。ここでは、Y軸方向に配列された、平面サイズの異なる、5つのメサ型の光学構造11(上記図6のA段〜E段に対応)を例示している。試料10は、例えば、半導体基板12上に、バッファ層13を介して、1つ又は2つ以上の量子ドット14aを含む量子ドット層14が形成され、その上にキャップ層15が形成された光学構造11(メサ構造部)を有する。
試料10がこのような構造の場合には、例えば、まず半導体基板12の全面にバッファ層13を形成し、次いで自己組織化成長法を用い、バッファ層13の全面に多数の量子ドット14aを含む量子ドット層14を形成する。その後、量子ドット層14の全面にキャップ層15を形成し、半導体基板12まで達するようなエッチングによるメサ加工を施すことで、上記図6に示したような配列の、平面サイズの異なる、複数の光学構造11を形成する。
自己組織化成長法を用いて量子ドット14aを形成する場合、個々の量子ドット14aの配置を制御することは難しく、量子ドット14aのバッファ層13上の面内分布密度は、確率的なものとなる。このように多数の量子ドット14aを確率的に形成した後、メサ加工を施すと、上記図6のA段に示したような比較的平面サイズの大きな光学構造11には、比較的多くの量子ドット14aが含まれ易くなる。逆に、上記図6のE段に示したような比較的平面サイズの小さな光学構造11には、比較的少ない量子ドット14aが含まれ易くなる。即ち、試料10は、上記図6のA段からE段にいくに従って、光学構造11に含まれる量子ドット14aの平均数が、段階的に減少していく可能性が高いものとなっている。
光学構造11は、直径100nm〜1000nm程度の平面サイズとすることができる。自己組織化成長法を用いる場合、その成長条件にもよるが、1平方センチ当たり1010個の量子ドット14aが形成されると仮定すると、メサ加工後の1つの光学構造11内には、1個〜100個程度の量子ドット14aが含まれることになる。
このように試料10は、上記図6のA段からE段にいくに従って、光学構造11に含まれる量子ドット14aの数が、段階的に減少している可能性が高くなる構成になっている。この場合、光学構造11は、上記図6のA段からE段に向かうほど、単一の量子ドットを含む構造となり易いと言える。そのため、上記図6のA段からE段に向かって顕微分光測定を実施していくことにより、単一の量子ドットを含む光学構造11を、効率的に絞り込んでいくことが可能になる。
尚、ここでは、メサ型の光学構造11を例にして述べたが、その他の構造を有する光学構造11を形成した試料10を用いてもよい。例えば、図8に示すような、量子ドット14aを含むホーン型の光学構造11を形成した試料10を用いてもよい。
続いて、顕微分光測定装置20を用いた光学構造11の選別方法について説明する。
顕微分光測定の実施にあたり、まず、試料10を、試料ステージ31上に配置し、冷却装置30を用いて冷却する。試料ステージ31は、冷却部32に熱的に接続されており、冷媒コンテナ34からトランスファーチューブ35を介して流れ込んだ冷媒が冷却部32を冷却し、それにより、試料ステージ31上の試料10が冷却される。冷却部32に流れ込んだ冷媒は、同じトランスファーチューブ35を介して冷媒コンテナ34に回収される。試料ステージ31及び冷却部32は、チャンバ33内に収容されており、試料10の冷却及び顕微分光測定の際、チャンバ33内は真空ポンプ37により真空とされる。
顕微分光測定では、励起光源21の励起光を、光ファイバ28で集光装置22へと導き、集光装置22から、チャンバ33の光学窓36を通して、冷却状態にある試料10の一の測定対象の光学構造11に照射する。それによってその測定対象からの発光を含む出力光は、光学窓36を通して集光装置22に集光され、光ファイバ28、WDMカプラ25、フィルタ26を通って分光器27に運ばれ、検出器29で発光スペクトル(スペクトル信号)が検出される。このような測定を、試料10上の複数の光学構造11について順次実施していき、信号処理装置40により、複数の光学構造11の中から所定の特性を示す光学構造11を選別する。
この顕微分光測定の際、開始点の測定対象には、試料10に形成した複数の光学構造11のうち、含まれる量子ドットの数が多く、確実に発光スペクトルを取得することができるサイズの光学構造11を選択する。そして、その後、順次より小さなサイズの光学構造11へと測定対象を移していく。上記図6に例示したような試料10であれば、「A1」,「A2」,「A3」,「A4」,「A5」,「B1」,「B2」・・・の順で発光スペクトルの測定を行い、「E5」で測定を終了する。測定対象の選択は、信号処理装置40により、予め記録されている試料10の位置(座標)、及びそこに形成されている各光学構造11の位置(座標)を基に、集光装置22に取り付けた3軸ステージ23を移動させることで行う。
顕微分光測定を利用した光学構造の選別フローの一例を図9〜図12に示す。なお、図9は、光学構造選別フローのメインルーチンの一例を示す図、図10〜図12は、図9の光学構造選別フローにおけるサブルーチンの例を示す図である。
図9は光学構造選別フローの一例を示す図である。
まず、信号処理装置40が、集光装置22を最初の測定対象の光学構造11(図6の「A1」)に移動させるよう、ステージ制御部45からステージ駆動装置24にステージ駆動命令を送る(ステップS1)。
そして、最初の測定対象の光学構造11に対し、顕微分光測定装置20により、顕微分光測定が行われ、その光学構造11から生じ、集光装置22で集光された発光の発光スペクトル(スペクトル信号)が信号処理装置40に取り込まれる(ステップS2)。その後、信号処理装置40は、取得した発光スペクトルを用いて第1判別処理を実行する(ステップS3)。
図10は第1判別処理のフローの一例を示す図である。
第1判別処理では、まず、信号処理装置40が、取得された発光スペクトルのピーク強度(発光強度)に関係なく、位置ずれトレランス評価部42により、最初の測定対象の光学構造11について、位置ずれトレランスの評価を実施する(ステップS11)。更に、この最初の測定対象の光学構造11を、試料10と集光装置22との位置関係を補正する際の基準(マーカ)として仮設定する(ステップS12)。
ステップS11の位置ずれトレランスの評価は、次のようにして実施される。即ち、まず、信号処理装置40が、ステージ制御部45からステージ駆動装置24にステージ駆動命令を送り、集光装置22による試料10への励起光のスポット位置を、X軸方向又はY軸方向に一定間隔で移動させる。そして、信号処理装置40は、各スポット位置のときに最初の測定対象の光学構造11から生じて集光装置22で集光される発光スペクトルを取得し、発光強度評価部41により、その取得した発光スペクトルのピーク強度を求める。
ここで、スポット位置とピーク強度との関係の一例を、図13及び図14に示す。尚、ここでは、光学構造11として、インジウムリン(InP)層上にインジウムヒ素(InAs)の量子ドット14aが形成されている、ホーン型のものを用いている。
図13(A)に示すように、直径が比較的大きく、量子ドット14aが比較的多く含まれる光学構造11では、図13(B)に示すように、多数の発光スペクトル線が観測される。これに対し、図14(A)に示すように、直径が比較的小さく、含まれる量子ドット14aが1つのみの光学構造11では、図14(B)に示すように、ごく少数の発光スペクトル線しか観測されない。図13(B)と図14(B)とを比較した場合、メイン発光スペクトル線(図の▽)のピーク強度は同程度である。従って、ピーク強度だけでは、単一量子ドット14aを含む光学構造11(即ち、図13(A)と図14(A)のうち、図14(A)の方)の選別は行えない。
一方、位置ずれトレランスを評価するため、X方向に±1μmの範囲でスポット位置を移動させたときのピーク強度をプロットしたものが、図13(C)及び図14(C)である。図13(C)及び図14(C)に示すように、ピーク強度は、中心(X=0.0)から離れるに従って小さくなる傾向が見られる。スポット位置の変化に対するピーク強度の減少の程度は、図14(C)、即ち、含まれる量子ドット14aが1つのみの光学構造11の場合の方が、大きくなる。
図13及び図14より、単一の量子ドット14aを含む光学構造11の方が、位置ずれトレランスが厳しい傾向にあり、ピーク強度が、スポット位置の変化(試料10と集光装置22の相対位置の変化)に対して、より敏感に変化する傾向にあると言える。換言すれば、位置ずれトレランスは、単一の量子ドット14aを含む光学構造11を選別するための基準の1つとして利用可能であると言える。
そこで、第1判別処理における上記ステップS11の位置ずれトレランスの評価では、まず、位置ずれトレランス評価部42により、スポット位置をX軸方向又はY軸方向に移動させて取得した発光スペクトルのピーク強度を、スポット位置に対してプロットする。そして、位置ずれトレランス評価部42により、そのプロットを、次式(1A)又は(1B)に示す二次関数でフィッティングし、係数(評価値)αを求める。
I(x)=−α(x−x0)2+β ・・・(1A)
I(y)=−α(y−y0)2+β ・・・(1B)
式(1A),(1B)において、I(x),I(y)はそれぞれ、座標(x,y)における発光スペクトルのピーク強度であり、α,β,x0,y0はそれぞれ、フィッティングパラメータである。座標(x0,y0)はピーク座標を表す。
このようにして位置ずれトレランス評価部42で求められたパラメータのうちα,x0,y0は、マーカ位置記憶部43bに記録される。
尚、この手法を用いると、上記図13(C)の例では、評価値α=0.12となり、上記図14(C)の例では、評価値α=0.51となる。
位置ずれトレランスの評価では、例えば、スポット位置の変化に対するピーク強度の変化が、スポット位置の移動方向がX軸方向かY軸方向かによらず、等方的であるとすることができる。その場合は、スポット位置をX軸方向又はY軸方向のいずれかに移動させ、取得した発光スペクトルを基に、位置ずれトレランス評価部42により、式(1A)又は(1B)を用いて評価値αを求めるようにすればよい。
また、位置ずれトレランスの評価では、スポット位置の変化に対するピーク強度の変化が、スポット位置の移動方向がX軸方向かY軸方向かによって異なる、非等方的な変化を示すとすることもできる。その場合は、スポット位置をX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動させ、取得した発光スペクトルを基に、位置ずれトレランス評価部42により、式(1A)及び(1B)を用いてそれぞれ評価値αを求めるようにすればよい。更に、X軸方向及びY軸方向についてそれぞれ求められた評価値αの平均値を求め、その平均値を、現在測定対象にしている光学構造11の代表値として用いるようにしてもよい。
また、ここでは、スポット位置の変化に対するピーク強度の変化を、二次関数でフィッティングするようにしたが、ガウシアン関数を用いてフィッティングを行うようにしてもよい。
このように、第1判別処理では、ステップS11,S12において、最初の測定対象の光学構造11について、上記のような位置ずれトレランス評価を実施したうえで、その光学構造11をマーカとして仮設定する。マーカとして仮設定する光学構造11の位置(マーカ位置)は、位置ずれトレランス評価部42で求められた評価値(マーカ評価値)、ピーク座標と共に、マーカ位置記憶部43bに記録される。
次に、信号処理装置40は、発光強度評価部41により、その最初の測定対象の光学構造11について取得された発光スペクトルのピーク強度(スポット位置変化前のピーク強度、又はスポット位置を変化させたときのピーク座標でのピーク強度)を求める(ステップS13)。そして、発光強度評価部41により、求めたピーク強度と、予め設定されている第1選別基準値とを比較し、そのピーク強度が第1選別基準値を上回っているか否かを判定する(ステップS14)。
信号処理装置40は、ステップS14において、求めたピーク強度が第1選別基準値を上回ると判定した場合には、位置ずれトレランス評価部42により、先に求めた位置ずれトレランスの評価値が第2選別基準値を上回るか否かを判定する(ステップS15)。
信号処理装置40は、ステップS15において、その評価値が第2選別基準値を上回ると判定した場合には、最初の測定対象の光学構造11を良質な単一量子ドット光源として、その位置をデータ蓄積部43aに記録する(ステップS16)。尚、このとき、データ蓄積部43aには、この最初の測定対象の光学構造11について得られたピーク強度及び評価値を、その光学構造11の位置と関連付けて記録するようにしてもよい。データ蓄積部43aへの記録後は、図9のメインルーチンの処理に戻る。
また、ステップS14でピーク強度が第1選別基準値を下回ると判定した場合、ステップS15で評価値が第2選別基準値を下回ると判定した場合には、この最初の測定対象の光学構造11は、単一量子ドット光源としては不適格であるとする。これらの場合、信号処理装置40は、データ蓄積部43aへの記録は行わず、図9のメインルーチンの処理に戻る。
信号処理装置40は、第1判別処理の終了後、集光装置22を次の測定対象の光学構造11(図6の「A2」)に移動させるよう、ステージ制御部45からステージ駆動装置24にステージ駆動命令を送る(ステップS4)。
そして、顕微分光測定装置20により、次の測定対象の光学構造11について顕微分光測定が行われ、その発光スペクトル(スペクトル信号)が信号処理装置40に取り込まれる(ステップS5)。その後、信号処理装置40は、取得した発光スペクトルを用いて第2判別処理を実行する(ステップS6)。
図11は第2判別処理のフローの一例を示す図である。
第2判別処理では、まず、信号処理装置40が、発光強度評価部41により、次の測定対象の光学構造11について取得された発光スペクトルのピーク強度(発光強度)を求める(ステップS21)。そして、発光強度評価部41により、求めたピーク強度と、予め設定されている第1選別基準値とを比較し、ピーク強度が第1選別基準値を上回っているか否かを判定する(ステップS22)。
信号処理装置40は、ステップS22において、求めたピーク強度が第1選別基準値を下回る場合には、この測定対象の光学構造11は、単一量子ドット光源として不適格であるとし、図9のメインルーチンの処理に戻る。
信号処理装置40は、ステップS22において、求めたピーク強度が第1選別基準値を上回る場合には、位置ずれトレランス評価部42により、この測定対象の光学構造11について、位置ずれトレランスの評価を実施する(ステップS23)。即ち、上記ステップS11で述べたのと同様にして、スポット位置を変化させ、スポット位置の変化に対するピーク強度の変化を取得し、スポット位置に対するピーク強度のプロットに所定のフィッティングを行って、評価値(係数α)を求める。
信号処理装置40は、位置ずれトレランス評価部42により、求めた位置ずれトレランスの評価値が第2選別基準値を上回るか否かを判定する(ステップS24)。
信号処理装置40は、ステップS24において、求めた評価値が第2選別基準値を下回ると判定した場合には、この測定対象の光学構造11は、単一量子ドット光源として不適格であるとし、図9のメインルーチンの処理に戻る。
信号処理装置40は、ステップS24において、その評価値が第2選別基準値を上回ると判定した場合には、この測定対象の光学構造11を良質な単一量子ドット光源として、その位置をデータ蓄積部43aに記録する(ステップS25)。尚、このとき、データ蓄積部43aには、この測定対象の光学構造11について得られたピーク強度及び評価値を、その光学構造11の位置と関連付けて記録するようにしてもよい。
次に、信号処理装置40は、位置ずれトレランス評価部42により、ステップS23で求めた評価値が、マーカ位置記憶部43bに記録されている評価値(マーカ評価値)を上回るか否かを判定する(ステップS26)。このとき、ステップS23で求めた評価値は、この判定時点において、最も新しく設定(仮設定又は再設定)されていて、マーカ位置記憶部43bに記録されている評価値(マーカ評価値)と比較される。例えば、現在の測定対象が「A2」の光学構造11であれば、上記ステップS12でマーカとして仮設定した、最初の測定対象「A1」の光学構造11の評価値と比較される。
信号処理装置40は、ステップS26において、ステップS23の評価値がマーカ位置記憶部43bのマーカ評価値を上回ると判定した場合には、ステップS23で評価値を求めた測定対象の光学構造11をマーカに再設定する(ステップS27)。即ち、ステップS23で評価値を求めた測定対象の光学構造11の位置を、最新のマーカ位置としてマーカ位置記憶部43bに記録し、その評価値を、最新のマーカ評価値としてマーカ位置記憶部43bに記録する。尚、この再設定前のマーカ位置記憶部43bに既存のマーカ位置及びマーカ評価値は、再設定時にもマーカ位置記憶部43bからは消去しないようにすることができる。
信号処理装置40は、ステップS26において、ステップS23の評価値がマーカ位置記憶部43bのマーカ評価値を下回ると判定した場合には、この測定対象の光学構造11を不適格とし、マーカの再設定は行わず、図9のメインルーチンの処理に戻る。
このような第2判別処理の終了後、信号処理装置40は、現在の測定対象の光学構造11が試料10上の最後の測定対象の光学構造11(図6の「E5」)であるか否かを判定する(ステップS7)。信号処理装置40は、ステップS7において、最後の測定対象の光学構造11であると判定した場合には、選別処理を終了する。
信号処理装置40は、ステップS7において、最後の測定対象の光学構造11でないと判定した場合には、選別処理の開始からこの時点までで、予め設定された時間(サンプリング時間)が経過しているか否かを判定する(ステップS8)。サンプリング時間には、例えば、顕微分光測定に影響を与えるような試料10の配置ずれ(位置ずれ、角度ずれ、アオリ)が発生する時間(或いはその平均時間)よりも短い時間を予め設定する。
信号処理装置40は、ステップS8において、サンプリング時間が経過していないと判定した場合には、ステップS4に戻り、ステップS4以降の処理を実行する。
また、信号処理装置40は、ステップS8において、選別処理開始から一定サンプリング時間が経過していると判定した場合には、試料10と集光装置22との位置関係を補正する補正処理を行う(ステップS9)。
前述のように、試料10は、トランスファーチューブ35の重量のため、或いは顕微分光測定時に置かれる環境(グリース等で試料ステージ31に貼付され低温環境に置かれる等)のために、2次元的或いは3次元的な配置ずれを招くおそれがある。このような配置ずれが生じる結果、試料10と集光装置22との位置関係にずれが生じ、その試料10についての以後の顕微分光測定を精度良く実施することができないことが起こり得る。試料10のこのような配置ずれは、選別処理開始から経過した時間(サンプリング時間)が長くなるほど発生し易くなり、また、そのずれも大きくなり易い。そのため、信号処理装置40は、選別処理の開始から所定のサンプリング時間が経過しているか否かを判定し、経過していると判定した場合に、試料10と集光装置22との位置関係を補正する。
図12は補正処理のフローの一例を示す図である。
補正処理では、まず、マーカ位置記憶部43bに記録されている評価値(マーカ評価値)のうち、その値が最大である測定対象(光学構造11)の位置(マーカ位置)を、試料10と集光装置22との位置関係を補正するための基準に用いる。即ち、位置ずれトレランスが最も厳しい測定対象の位置に基づき、その光学構造11の発光スペクトルのピーク強度が最大となる位置に、集光装置22をアライメントする補正を行う(ステップS31)。
このステップS31において、信号処理装置40は、補正量算出部44により、集光装置22の、マーカ位置の発光スペクトルのピーク強度が最大となる位置までの移動量(補正量)を算出する。信号処理装置40は、補正量算出部44で算出した補正量を基に、ステージ駆動装置24に送信するステージ駆動命令をステージ制御部45により生成し、生成されたステージ駆動命令をステージ制御部45によりステージ駆動装置24に送信する。
ステージ駆動装置24は、受信したステージ駆動命令に基づき、3軸ステージ23に対し、ステージ駆動信号を送信し、それにより、集光装置22が試料10の所定位置にアライメントされる。このような補正を行い、以後は集光装置22をその補正後の位置を基準にして移動させることで、顕微分光測定を精度良く実施していくことが可能になる。
また、信号処理装置40は、ステップS31の補正後、補正量算出部44により、マーカ位置記憶部43bに記録されている評価値(マーカ評価値)が2つ以上存在するか否かを判定する(ステップS32)。
信号処理装置40は、ステップS32において、マーカ評価値が2つ以上存在すると判定した場合には、次のような処理を実行する。即ち、2つ以上存在するマーカ評価値のうち、上位2つのマーカ評価値が得られた測定対象(光学構造11)の位置(マーカ位置)を基に、試料10のXY面内における角度ずれに対する補正を行う(ステップS33)。
このステップS33において、信号処理装置40は、上位2つのマーカ評価値が得られた測定対象の位置関係と、それらの測定対象の光学構造11について予め記録されている配置データの位置関係とから、試料10に生じているXY面内の角度ずれを求める。そして、信号処理装置40は、求めた角度ずれを基に、補正量算出部44で補正量を算出し、その補正量を用いて、試料10と集光装置22との位置関係を補正する。
信号処理装置40は、ステップS32において、マーカ評価値が2つ以上存在しないと判定した場合には、補正処理を終了し、図9のメインルーチンの処理に戻る。そして、信号処理装置40は、ステップS4に戻り、ステップS4以降の処理を実行する。
また、信号処理装置40は、ステップS33の補正後、補正量算出部44により、マーカ位置記憶部43bに記録されている評価値(マーカ評価値)が3つ以上存在するか否かを判定する(ステップS34)。
信号処理装置40は、ステップS34において、マーカ評価値が3つ以上存在すると判定した場合には、それらのマーカ評価値のうち、上位3つのマーカ評価値が得られた測定対象(光学構造11)が、一直線上にないかを判定する(ステップS35)。
信号処理装置40は、ステップS35において、上位3つのマーカ評価値が得られた測定対象が一直線上にないと判定した場合には、次のような処理を実行する。即ち、それらの測定対象について得られたマーカ評価値を用い、試料10のZ軸方向のずれ、即ちアオリに対する補正を行う(ステップS36)。
このステップS36において、信号処理装置40は、上位3つのマーカ評価値が得られた測定対象の焦点位置の関係から、試料10に生じているZ軸方向のアオリを求める。そして、信号処理装置40は、求めたアオリを基に、補正量算出部44で補正量を算出し、その補正量を用いて、試料10と集光装置22との位置関係を補正する。
信号処理装置40は、ステップS34でマーカ評価値が3つ以上存在しないと判定した場合、ステップS35で上位3つのマーカ評価値の得られた測定対象が一直線上にあると判定した場合には、補正処理を終了し、図9のメインルーチンの処理に戻る。そして、信号処理装置40は、ステップS4に戻り、ステップS4以降の処理を実行する。
以上説明したように、上記顕微分光測定装置20では、顕微分光測定により得られる発光スペクトルのピーク強度(発光強度)と、位置ずれトレランスとに基づき、所定の特性を示す光学構造11(光源)を選別する。これは、単一量子ドットを含む良質な光学構造11が、高いピーク強度を示し、且つ、ピーク強度の位置ずれトレランスが厳しいという性質を利用するものである。このような手法を用いることにより、試料10内の各測定対象の光学構造11の特性を適正に把握し、所定の特性を示す光学構造11を精度良く選別することができる。
また、上記顕微分光測定装置20では、最初の測定対象の光学構造11をマーカに仮設定した後、以後測定される測定対象の光学構造11のうち、より厳しい位置ずれトレランスを示すものを、新しいマーカに再設定していく。そして、そのマーカを用いて、試料10と集光装置22との位置関係を補正する。これにより、適切なマーカを基準にして、高い精度で、補正を行うことができる。また、常にマーカが設定されている状態にあるため、適切なタイミングで、迅速に、補正を行うことができる。
更に、上記顕微分光測定装置20では、含まれる量子ドット14aが比較的多い光学構造11から、比較的少ない光学構造11へと、測定対象を移動させるため、良質な光学構造11(光源)を順に絞り込んでいくことができる。また、このような測定の過程で、より厳しい位置ずれトレランスを示す新しいマーカを再設定していき、そのマーカを用いて試料10と集光装置22との位置関係を補正するため、光学構造のサイズに応じた精度で補正を行っていくことができる。
上記顕微分光測定装置20によれば、良質な光学構造11(光源)を精度良く選別していく過程で、試料10と集光装置22との位置関係のずれを検知し、そのずれを精度良く補正することができる。尚、上記顕微分光測定装置20によれば、このようなずれの補正にあたり、複雑な画像処理や、付加的な試料加工を施すことを要しない。
以上、第1の実施の形態に係る顕微分光測定装置20について説明した。以下には、顕微分光測定装置の他の構成例について、第2,第3の実施の形態として説明する。
図15は第2の実施の形態に係る顕微分光測定装置の一例の説明図である。
図15に示す顕微分光測定装置20aは、上記励起光源21及びWDMカプラ25に替えて、試料10に電流注入を行う外部電源51が設けられている点で、上記顕微分光測定装置20と相違している。試料10と外部電源51とは、同軸ケーブル等の電線を用いて電気的に接続する。このような電線は、外部電源51から、試料10が収容されている図示しないチャンバ内に引き込まれ、ボンディング等により試料10に電気的に接続される。
外部電源51を用いた電流注入により生成された電子と正孔が光学構造11内の量子ドット14aで再結合することで、エレクトロルミネッセンスが発生する。顕微分光測定装置20aは、発生したエレクトロルミネッセンスを、集光装置22によって光ファイバ28に集光し、フィルタ26で不要な背景光を除去した後、分光器27に取り入れる。
以後、この顕微分光測定装置20aにおいても、上記顕微分光測定装置20の場合と同様に、検出器29からのスペクトル信号を用いた信号処理装置40による光学構造11の選別処理、補正処理等が行われる。
このような顕微分光測定装置20aによっても、試料10内の各測定対象の光学構造11の特性を適正に把握し、所定の特性を示す光学構造11を精度良く選別することができる。
続いて、第3の実施の形態について説明する。
図16は第3の実施の形態に係る顕微分光測定装置の一例の説明図である。
図16に示す顕微分光測定装置20bは、共焦点光学系に光ファイバ(シングルモード光ファイバ)28を用いず、アパーチャ61を用いて共焦点光学系を構成している点で、上記顕微分光測定装置20,20aと相違している。
励起光源21から出射した励起光は、レンズ62により平行光にコリメートされ、ダイクロイックミラー63で反射された後、対物レンズ64(集光部)によって試料10の一の測定対象(光学構造11)に照射される。得られた出力光は、同じ対物レンズ64により集光され、コリメートされた後、ダイクロイックミラー63を通過し、レンズ65によりアパーチャ61上に結像される。アパーチャ61の開口により観察領域を限定した後、アパーチャ61を通過した光は、レンズ66によりコリメートされ、フィルタ67通過後、ミラー68で反射され、レンズ69を通して分光器27に取り入れられる。
以後、この顕微分光測定装置20bにおいても、上記顕微分光測定装置20の場合と同様に、検出器29からのスペクトル信号を用いた信号処理装置40による光学構造11の選別処理、補正処理等が行われる。
但し、この顕微分光測定装置20bでは、光学系全体を3軸ステージによって移動させるのは困難な場合があるため、図16に例示するように、光学系は固定し、冷却装置30側を3軸ステージ23により動かすことが好適である。
このような顕微分光測定装置20bによっても、試料10内の各測定対象の光学構造11の特性を適正に把握し、所定の特性を示す光学構造11を精度良く選別することができる。
尚、以上の説明では、異なるサイズの光学構造11を形成した試料10を用い、所定の特性を示す光学構造11を選別する場合を例示したが、測定可能な試料は、必ずしもこのような試料10に限定されるものではない。例えば、上記図1に示したような、同等サイズの光学構造101を複数形成した試料100でも、上記顕微分光測定装置20,20a,20bを用い、上記同様の光学構造101の選別を行うことは可能である。
また、以上の説明では、量子光源として量子ドットを用いたが、ダイヤモンド中の窒素空孔や窒化ガリウム系量子ドット等、室温で動作可能なものを含む試料にも、上記顕微分光測定装置20,20a,20bは利用可能である。そのような試料を対象とする場合には、冷却装置30は不要になる。
また、孤立量子光源には、単一光子光源のほかにも、量子もつれ光源や、高度な量子演算処理を実現するための結合量子ドット等があるが、これらを含むような試料にも、上記顕微分光測定装置20,20a,20bは利用可能である。
また、光子を吸収して一対の電子−正孔対を生成させる、光電変換素子として用いられる構造を含む試料にも、上記顕微分光測定装置20,20a,20bは利用可能である。
以上説明した実施の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) 試料を励起する励起部と、
前記励起部による励起によって前記試料から生じる光を集光する集光部と、
前記試料と前記集光部との相対位置を制御する位置制御部と、
前記位置制御部によって前記試料と前記集光部との相対位置を変化させ、前記励起部によって励起された前記試料の一の測定対象から生じて前記集光部により集光される光の強度変化を評価する処理部と、
を含むことを特徴とする顕微分光測定装置。
(付記2) 前記集光部で集光された光を分光する分光部と、
前記分光部で分光された光を検出する検出部と、
を更に含み、
前記処理部は、前記分光部によって分光され、前記検出部によって検出された光を基に光の強度変化を評価することを特徴とする付記1に記載の顕微分光測定装置。
(付記3) 前記位置制御部は、前記集光部を移動させる駆動部と、前記駆動部に駆動信号を送信する駆動装置とを含むことを特徴とする付記1又は2に記載の顕微分光測定装置。
(付記4) 前記処理部は、
前記一の測定対象から生じて前記集光部により集光される光の強度を、予め設定された第1の閾値と比較する第1の評価部と、
前記一の測定対象から生じて前記集光部により集光される光の強度変化の程度を表す評価値を生成し、生成した前記評価値を、予め設定された第2の閾値と比較する第2の評価部と、
を含むことを特徴とする付記1乃至3のいずれかに記載の顕微分光測定装置。
(付記5) 前記処理部は、前記一の測定対象から生じて前記集光部により集光される光の強度が、前記第1の閾値を上回り、且つ、前記評価値が、前記第2の閾値を上回る場合に、前記一の測定対象の位置及び前記評価値を記録する記録部を更に含むことを特徴とする付記4に記載の顕微分光測定装置。
(付記6) 前記記録部には、前記試料の測定対象のうちマーカとして用いられる測定対象の位置であるマーカ位置、及び、当該測定対象から生じて前記集光部により集光される光の強度変化の程度を表す評価値であるマーカ評価値が記録され、
前記処理部は、前記一の測定対象の前記評価値と、前記マーカ評価値とを比較し、前記評価値が前記マーカ評価値を上回る場合には、前記マーカ位置及び前記マーカ評価値を、前記一の測定対象の位置及び前記評価値に再設定することを特徴とする付記5に記載の顕微分光測定装置。
(付記7) 前記処理部は、
前記記録部に記録されている前記マーカ位置を用い、前記試料と前記位置制御部との位置関係を補正する補正量を算出する算出部と、
前記算出部によって算出された前記補正量を基に駆動命令を生成し、生成した前記駆動命令を前記位置制御部に送信する駆動制御部と、
を更に含むことを特徴とする付記6に記載の顕微分光測定装置。
(付記8) 前記算出部は、前記マーカ位置と、前記マーカ評価値よりも小さな評価値が得られた1つ又は2つの測定対象の位置とを用い、前記補正量を算出することを特徴とする付記7に記載の顕微分光測定装置。
(付記9) 前記試料の測定対象には、1つ又は2つ以上の量子光源が含まれていることを特徴とする付記1乃至8のいずれかに記載の顕微分光測定装置。
(付記10) 試料を励起する励起部と、前記励起部による励起によって前記試料から生じる光を集光する集光部と、前記試料と前記集光部との相対位置を制御する位置制御部と、前記集光部によって集光される光を評価する処理部とを含む測光装置を用い、
前記処理部により、前記位置制御部によって前記試料と前記集光部との相対位置を変化させ、前記励起部によって励起された前記試料の一の測定対象から生じて前記集光部により集光される光の強度変化を評価することを特徴とする顕微分光測定方法。
(付記11) 前記試料の測定対象には、それぞれ、1つ又は2つ以上の量子光源が含まれていることを特徴とする付記10に記載の顕微分光測定方法。