特許文献1に記載される技術では、脈波センサーは、人の指、手のひら、手首等に装着される。指、手のひら、手首等は、身体の中でも特に動きの多い部位である。よって、それらの部位に脈波センサーを装着した場合には、脈波センサーから出力される脈波信号には、多くのノイズが混在する。例えば、装着者が、手、あるいは手の周辺の部位を動かすと、心拍による血流とは独立して別の血流の変化が発生し、脈波センサーがキャッチする信号にノイズが混入する。
また、例えば、装着者が、手を物や装着者自身の別の身体部位へぶつけることによって、心拍による血流変動とは独立して別の血流の変化が発生する。脈波センサーはこの血流変化をキャッチすることから、脈波センサー出力信号にノイズが混入する。
特に、手首型の拍動検出装置(人等の手首に装着するタイプの拍動検出装置)は、指型の拍動検出装置(人等の指に装着するタイプの拍動検出装置)に比べて、得られる脈波信号が弱いことから、十分なノイズ対策が必要となる。
例えば、手首には尺骨、擁骨(トウコツ)などの骨と腱、筋肉が集まっており、指、手、手首等を動かすことによって、腱や筋肉の形状が大きく変化する。この際、血流の変化が生じる。動脈や静脈の血液の流れを観察すると、動脈は、静脈よりも心拍による血流変化がより鮮明に現れ、よって、脈波信号にも、心拍のリズムがより明確に現れる。静脈の血流では、心拍の動きは見にくい。しかしながら、手首外側の皮下組織(浅い部位)には、動脈血管が少ない。つまり、手首には動脈が少なく、また、動脈はより深い位置にある場合が多い。よって、脈波センサーで血流の変化を捕捉しようとしたときに、心拍による血流変化よりも、外的な要因による血流変化のほうが支配的となり易い。そのため、手の動きや手周辺への衝撃が入ると、心拍による血流変化が見えにくくなる可能性が高い。
また、特許文献2に記載される技術では、複数のバンドパスフィルターの中から、その時点における脈拍を示す周波数に近い周波数の信号を通過させるバンドパスフィルターを選択する。但し、このような処理を実現するためには、例えば、ソフトウエア上にて、多数の判断処理を実施する必要があり、処理上の負担が増加し、また、処理に要する時間が長くなるのは否めない。このことは、拍動検出装置の大型化、消費電力の増大につながる。例えば、腕時計程度の大きさの拍動検出装置を実現するためには、装置の処理負担や消費電力を低減しつつ、効果的なノイズ対策を実行することが重要である。
本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、装置の処理負担を低減しつつ、効果的なノイズ対策を実行できる拍動検出装置を実現することができる。また、例えば、脈波センサーを手首外側(腕時計の裏蓋面と接触する部位)など、脈波信号を取得しにくい部位に装着するタイプの拍動検出装置において、拍動信号を表す拍動呈示スペクトルの特定性能を向上させることができる。
(1)本発明の拍動検出装置の一態様は、被検体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置であって、前記拍動信号と、前記被検体の体動に由来する体動ノイズ信号を含むノイズ信号とが混在した脈波信号を出力する脈波センサーと、前記脈波信号をフィルタリングするフィルターであって、周波数応答特性を自己適応させる適応フィルターと、前記適応フィルターが継続動作している期間における第1時点において、前記適応フィルターの状態を、前記第1時点よりも前の時点であり、かつ前記適応フィルターが動作を開始した時点を含む第2時点の状態に再構成させる適応フィルター再構成部と、を含む脈波信号フィルタリング部と、前記脈波信号フィルタリング部から出力される信号に基づいて、所定時間毎に周波数解析処理を行って、前記拍動信号を表す拍動呈示スペクトルを検出する周波数解析部と、を含む。
適応フィルターは、入力信号に基づいて、伝達関数を自己適応的に変化させることができるデジタルフィルターである。すなわち、適応フィルターは、周波数応答特性を自己適応させるフィルターである。適応フィルターは一般にデジタル信号処理を行うデジタルフィルターとして実装される。フィルターの所望の性能(例えば、入力信号に含まれるノイズ成分を最小化するといった性能)を維持するために、所定のアルゴリズム(例えば最適化アルゴリズム)が使用される。所定のアルゴリズムには、フィルタリング後の信号に基づいて得られる信号がフィードバックされ、そのアルゴリズムによる適応処理によってフィルター係数が適応的に変化し、その結果として、適応フィルターの周波数応答特性が変化する。適応フィルターが継続的に動作している期間では、アルゴリズムによる適応処理が継続的(断続的)に行われ、適応フィルターの所望の性能が維持される。
但し、適応フィルターが、ある程度の時間にわたって継続的に動作すると、適応フィルターの性能が、所望のレベルよりも低下する場合がある。これは、脈波センサーから出力される脈波信号に、拍動信号(定常的成分)と、被検体の体動に由来する体動ノイズ信号を含むノイズ信号(非定常的成分)とが混在していることに起因する。つまり、適応フィルターの性能は、拍動信号(定常的成分)に追従して変化するが、その一方で、ノイズ信号にも追従する可能性がある。拍動信号ならびにノイズ成分のレベル(信号振幅)は、時間経過と共に変動し、また、例えば、突発的かつ非定常的な変動もあり得る。よって、例えば、突発的に拍動成分のレベルが低下し、同時に、ノイズ成分のレベルが上昇した場合には、適応フィルターの性能は、ノイズ成分に追従して変化する。適応フィルターは、入力信号の中から、自己相関性の高い信号を選別して出力することから、時間経過と共に、少しずつノイズへの追従が進行し、徐々にノイズ信号も通過させるようになる。この場合には、ある程度の時間が経過すると、適応フィルターの性能はかなり低下して、正常な状態への復帰がむずかしくなる。
例えば、腕時計型の拍動検出装置は、被検体の手首に装着して使用され、例えば、被検体の経時的な動作状態の変化を記録するために、長時間にわたって継続的に使用される場合がある。よって、長時間にわたって継続的に使用しても、適応フィルターの性能が低下しないようにすることが好ましい。
そこで、本態様では、適応フィルター再構成部を設けて、適切なタイミングで、適応フィルターを再構成させるようにした。すなわち、適応フィルター再構成部は、脈波信号フィルタリング部が継続的に動作している期間における第1時点において、適応フィルターの状態を、第1時点よりも前の時点であり、かつ適応フィルターが動作を開始した時点を含む第2時点の状態に再構成させる。
ここで、フィルターの再構成には、例えば、フィルター係数の初期化(フィルター係数の値を、動作開始時点のフィルター係数値に戻すこと)や、フィルター係数の値を、フィルターの動作期間中における過去の時点(例えば、好ましいフィルター係数が得られていた時点)のフィルター係数値に設定することが含まれる。すなわち、第2時点は、動作開始時点を含む、第1時点よりも前の時点である。また、例えば、一対の適応フィルターを用意し、一方のフィルターから他方のフィルターに切り換えるような場合もフィルターの再構成に含まれる。
仮に、適応フィルターの継続的な使用によってフィルターの性能が低下したとしても(例えば、ノイズ成分への追従が支配的になることによって、拍動信号に追従しないような場合が生じたとしても)、適応フィルターの再構成を実行することによって、適応フィルターは、再構成後に、新たに適応処理を開始することができ、この結果、拍動信号を捕捉するように自己適応がすすむ。よって、適応フィルターは、拍動信号に追従する正常な状態に復帰することができる。
本態様では、適応フィルターを使用することから、複数のバンドパスフィルターを使用する必要がない。また、フィルターの再構成は、フィルター係数の初期化等によって実現でき、装置の処理負担の増加は少なく、また、装置の消費電力の増加も特に問題とならない。
よって、本態様によれば、例えば、装置の処理負担を低減しつつ、効果的なノイズ対策を実行できる拍動検出装置(例えば、長時間の使用に耐える拍動検出装置)を実現することができる。また、例えば、脈波センサーを手首外側(腕時計の裏蓋面と接触する部位)など、脈波信号を取得しにくい部位に装着するタイプの拍動検出装置において、拍動信号を表す拍動呈示スペクトルの特定性能を向上させることが可能となる。
(2)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記適応フィルターが動作を開始した時点あるいは前記適応フィルターが再構成された直近の時点から、第1時間が経過した第3時点までを、前記適応フィルターの再構成が不要な第1期間とし、前記第3時点から、第2時間が経過した第4時点までを前記適応フィルターの再構成可能な第2期間としたとき、前記第2時点は、前記第1期間において設定され、前記第1時点は、前記第2期間において設定される。
本態様では、適応フィルターの再構成が不要な第1期間と、適応フィルターの再構成が可能な第2期間とを設定し、適応フィルターの再構成は、第2期間において行う。また、適応フィルターの再構成によって、適応フィルターの状態は、過去の第1時点の状態に変化するが、この第1時点は、第1期間において設定される。適応フィルターは、再構成後に、好ましい状態から、新たに適応処理を開始することができ、この結果、拍動信号を捕捉するように自己適応がすすむ。よって、適応フィルターは、適切な性能を、継続的に維持することができる。
なお、下記の(4)〜(7)の態様では、適応フィルターの再構成の可否を、所定の条件によって判定することとしている。この場合、第2期間(適応フィルターの再構成可能期間)において、所定の条件が充足されない場合があり得る。この場合には、第2期間の終点である第4時点に達した時点で、所定条件の充足/非充足に関係なく、強制的に適応フィルターを再構成することができる。このようにすれば、適応フィルターの再構成ができない期間が長く続くというような、好ましくない状況が生じない。
(3)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記第1時点は、前記適応フィルターが動作を開始した時点を基準として、所定の周期で設定される。
本態様では、適応フィルターの再構成を、適応フィルター(脈波信号フィルタリング部)の動作開始時点を基準として、所定の周期で周期的(定期的)に実行する。本態様では、適応フィルターの再構成のタイミングは、例えば、タイマーによって簡単に管理することができ、実現が容易である。
(4)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記適応フィルター再構成部は、前記第1時点よりも前の直近の時点における前記周波数解析処理によって、前記拍動呈示スペクトルが検出されていることを条件として、前記適応フィルターを再構成させる。
適応フィルターの再構成は、適応フィルターの再構成が可能な第2期間において行われるが、本態様では、フィルターの再構成は第2期間において、いつでも行えるというものではなく、所定の条件を満たす場合に行うことができる。すなわち、本態様では、脈波周波数解析部による前回の周波数解析によって、拍動呈示スペクトルが検出されていることが、適応フィルター再構成の条件となる。
すなわち、脈波周波数解析部は、脈波信号フィルタリング部から出力されるフィルタリング後の信号に基づいて、所定時間毎(例えば4秒毎)に周波数解析処理を行って拍動呈示スペクトルを特定する。適応フィルター再構成部は、第1時点においてフィルター再構成処理を実行しようとする場合、第1時点前の直近の時点における周波数解析(つまり、第1時点を基準とした場合における前回の周波数解析処理)において、拍動呈示スペクトル(拍動の周期及びその信号強度を示す周波数スペクトル)の検出に成功しているかを確認し、その条件を満たすときに、第1時点において適応フィルターの再構成を実行する。
適応フィルターを再構成すると、適応フィルターは過去の第2時点の状態に戻って、新たに適応動作を開始する。この新たな動作の開始時点において、例えば、脈波信号に混入しているノイズが少なく、脈波信号の波形のきれいさの程度が許容範囲である場合には、適応フィルターは、適切な自己適応が可能である。一方、脈波信号に混入しているノイズが多く、脈波信号の波形のきれいさの程度が、許容範囲外である場合には、適応フィルターはノイズに追従する可能性が高い。適応フィルターの再構成は、その時点で捕捉している自己相関性が高いと考えられる信号への追従を断つ処理でもあるため、再構成の直後における拍動呈示スペクトルの捕捉に失敗すると、例えば、第1時点の直前まで検出できていた拍動信号成分をカットしてしまうという結果となり、かえって悪い結果となる。
ここで、前回の周波数解析にて、拍動信号成分の検出に成功している場合には、第1時点における脈波信号のきれいさの程度が、許容範囲内であると推定することができる。よって、本態様では、前回の周波数解析によって拍動呈示スペクトルが検出されていることを、適応フィルター再構成の条件とした。
(5)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記脈波信号の周波数解析結果に基づいて、前記ノイズ信号のノイズ量の程度を判定する信号評価部を有し、前記適応フィルター再構成部は、前記第1時点前の直近の時点における、前記周波数解析処理によって、前記拍動呈示スペクトルが検出されており、かつ、前記信号評価部によって、前記ノイズ量が所定の基準以下であると判定されたことを条件として、前記適応フィルターを再構成させる。
本態様では、上記(4)の態様における条件に加えて、信号評価部によって、脈波信号に混入されるノイズ量(外乱ノイズ成分のノイズ量)が所定の基準以下であると判定されたことを、フィルター再構成の条件とした。信号評価部によるノイズ量の判定によって、脈波信号のきれいさの程度を、より正確に推定することができる。
つまり、外乱ノイズの少ない状態のときにフィルターを再構成することによって、再構成後の適応フィルターによって適切な自己適応が実行され、拍動成分をノイズ成分と区別することができる。よって、適応フィルターの再構成の可否を、より的確に判断することができる。
(6)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記脈波信号の周波数解析結果に基づいて、前記被検体の運動状態を判別する信号評価部を有し、前記適応フィルター再構成部は、前記第1時点前の直近の時点における、前記周波数解析処理によって、前記拍動呈示スペクトルが検出されており、かつ、前記信号評価部によって、前記被検体の運動状態が安定状態であると判定されたことを条件として、前記適応フィルターを再構成させる。
被検体(人や動物)の運動状態は、絶えず変化する可能性がある。定常的な運動状態では、拍動信号も安定しているが、運動状態が急に変化したとき(運動状態の変化の過渡期)においては、拍動信号の振幅や周波数が不安定化し、例えば突発的に大きく変化する場合もあり得る。このような場合に、適応フィルターの再構成を実行すると、拍動信号成分のみならず、ノイズ成分に対しても適応処理の追従をする可能性が高くなる。
よって、本態様では、上述の(4)の態様の条件に、さらに、信号評価部による周波数解析の結果として、被検体の運動状態が安定状態であることが確認されるという条件を追加(加重)する。よって、適応フィルターの再構成の可否を、より的確に判断することができる。
例えば、被検体である人の運動状態が、歩行中、ジョギング中などの定常的な運動をしている状態、もしくは安静状態のいずれかに該当しない状態である場合(例えば球技をしている、体操している状態等の場合)には、適応フィルターの再構成が実行されない。よって、拍動検出の失敗や誤検出の発生を低減することができる。
(7)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記脈波信号の周波数解析結果に基づいて、前記ノイズ信号のノイズ量の程度ならびに前記被検体の運動状態を判別する信号評価部を有し、前記適応フィルター再構成部は、前記第1時点前の直近の時点における、前記周波数解析処理によって、前記拍動呈示スペクトルが検出されており、前記信号評価部によって、前記ノイズ量が所定の基準以下であると判定され、かつ、前記被検体の運動状態が安定状態であると判定されたことを条件として、前記適応フィルターを再構成させる。
本態様では、適応フィルターの再構成の条件として、上述の(6)の態様の条件に、さらに、上述の(5)の条件を追加(加重)する。これによって、適応フィルターの再構成の可否を、さらに的確に判断することができる。
(8)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記脈波信号フィルタリング部は、前記脈波信号を、所定時間遅延させる遅延処理部と、前記適応フィルターの係数を更新するフィルター係数更新部と、減算部と、を有し、前記適応フィルターは、前記遅延処理部の出力信号の中から、自己相関性が高い第1信号を出力し、前記減算部は、前記脈波信号から前記第1信号を減算して、前記第1信号よりも自己相関性が低い第2信号を生成し、前記第2信号を前記フィルター係数更新部に供給し、前記フィルター係数更新部は、前記第2信号が抑制されるように、前記適応フィルターの係数を更新し、前記適応フィルター再構成部は、前記第1時点において前記適応フィルターを再構成させる場合に、前記適応フィルターの係数を、前記適応フィルターが動作を開始した時点における係数に設定する。
本態様では、脈波信号フィルタリング部は、遅延処理部と、適応フィルターと、フィルター係数更新部と、減算部とを有する。フィルター係数更新部は、減算部から出力される第2信号(相関性が低い信号であり、エラー信号と呼ばれることがある)が抑制されるように(例えば最小化されるように)、フィルター係数を更新する。また、本態様では、適応フィルター再構成部は、適応フィルターの再構成を実行させる場合には、フィルター係数を初期化する。すなわち、フィルター係数を、適応フィルターの動作開始時点におけるフィルター係数値に設定する(例えば、フィルター係数値をオールゼロとする)。
本態様によれば、脈波信号フィルタリング部に含まれる適応フィルターを、適切なタイミングで再初期化することができる。よって、長時間の連続計測を行う場合であっても、適応フィルターの性能を、適切なレベルに維持することができる。これにより拍動検出の失敗や誤検出の発生を低減することができる。
このように、上述の本発明の態様の少なくとも一つによれば、例えば、脈波信号フィルタリング部を構成する適応フィルターを適切なタイミングで再構成することによって、適応フィルターの性能を適切なレベルに維持することができる。また、例えば、適応フィルターを有効活用することから、フィルター構成を簡素化でき、また、適応フィルターの再構成を行うことは比較的容易であり、したがって、装置の処理負担を低減しつつ、効果的なノイズ対策を実行できる拍動検出装置を実現することができる。
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
(第1実施形態)
(全体構成例)
図1は、本発明の拍動検出装置の一例の構成を示す図である。図1に示される拍動検出装置100は、被検体(人や動物を含む)の拍動に由来する拍動信号、拍動信号に対応する心拍等の生体情報等を検出するセンサー装置の一種である。
ここで、拍動とは、医学的には心臓のみならず内臓一般の周期的な収縮、弛緩が繰り返された場合に起こる運動のことをいう。ここでは、心臓が周期的に血液を送るポンプとしての動きを拍動と呼ぶ。なお、心拍数とは、1分間の心臓の拍動の数をいう。また、脈拍数は、末梢血管における脈動の数をいう。心臓が血液を送り出す際に、動脈に脈動が生じるので、この回数を数えたものを脈拍数あるいは単に脈拍と呼ぶ。腕で脈を計測する限りは、医学的には心拍数とは呼ばずに脈拍数と呼ぶのが通常である。また、以下の説明では、体動という用語が使用される。体動とは、広い意味では、体を動かすことすべてを意味する。また、被検体の定常的、周期的な体動を狭義の体動といってもよい。狭義の体動は、例えば、歩行・ジョギングなどに伴う定常的、周期的な腕(脈拍計の装着部位近辺)の動きである。
図1に示される拍動検出装置100は、脈波センサー10と、脈波信号蓄積部(4秒分の脈波信号dのデータを蓄積する第1バッファメモリー13および16秒分の脈波信号dのデータを蓄積する第2バッファメモリー15を有する)12と、適応フィルター再構成部17を含む脈波信号フィルタリング部200と、体動センサー(加速度センサーやジャイロセンサー等)11と、体動ノイズ除去処理部300と、脈波周波数解析部400と、検出結果等を表示する表示部(液晶パネル等を含む)600と、を有する。
脈波センサー10は、例えば、光電脈波センサー及びその原理に基づく脈波センサーである。脈波センサー10は、拍動信号と、被検体(人や動物)の体動に由来する体動ノイズ信号を含むノイズ信号とが混在した脈波信号dを出力する。
ここで、脈波信号dは、例えば、拍動成分信号(定常的成分あるいは周期的成分)と、体動ノイズ成分(定常的あるいは周期的成分)と、外乱ノイズ成分(衝撃ノイズ等の、非定常的あるいは非周期的成分)とを含む。
脈波センサー10から出力される脈波信号dの、4秒分の信号が、第1バッファメモリー13に蓄積される。4秒分の脈波信号dは、4秒周期で、第2バッファメモリー15に転送される。第2バッファメモリー15はFIFO(ファーストイン・ファーストアウト)メモリーであり、16秒分の脈波信号は、4秒分ずつ更新される。16秒分の脈波信号を蓄積するのは、周波数解析によって拍動成分を特定するとき、ある程度の時間幅で信号の推移を観測し、相関の有無等を慎重に検討する必要があるからである。
脈波信号フィルタリング部200は、入力信号に、定常的な周波数成分とその他の非定常な成分が含まれるときに、それらを分離して出力することのできる適応フィルターの一種である。
脈波信号フィルタリング部200は、脈波信号を、所定時間(ここでは1サンプル時間)遅延する遅延処理部201と、遅延処理部201の出力信号の中から、自己相関性が高い第1信号yを選別して出力する適応フィルター202と、適応フィルター202の係数を更新するフィルター係数更新部(nLMSフィルター係数更新部)210と、脈波信号dから第1信号yを減算して、第1信号yよりも自己相関性が低い第2信号e(=d−y)を生成し、第2信号eをフィルター係数更新部(nLMSフィルター係数更新部)210に供給(フィードバック)する減算部204と、を有している。
なお、遅延処理部201と、適応フィルター202と、フィルター係数更新部(nLMSフィルター係数更新部)210と、を含む機能ブロックは、適応線スペクトル強調器と呼ばれることがある。
nLMSフィルター係数更新部210は、第2信号eの値が抑制されるように(例えば、最小化されるように)、適応フィルターの係数(ここでは、正規化最小平均自乗係数(nLMS係数))を、適応的に更新する。
また、第1信号yおよび第2信号e(=d−y)の各々に、ゲイン係数h1,h2の各々を乗算し(この処理は、ゲイン調整部206に含まれる係数乗算器207a,207bによって実行される)、その後、両信号は、合算器208によって合算される。例えば、h1≧1.0に設定され、h2<1.0に設定される。これによれば、衝撃による影響を軽減するとともに、拍動成分や体動成分の急変化への追従性を高めることができる。例えば、安静中の脈拍が60だった人が速いぺースのジョギングを開始し、脈拍が150まで急上昇していくようなとき、適応フィルター202の追従性が、脈拍の上昇より遅れてしまうと、適応フィルター202は、急上昇中の心拍成分の信号を遮断してしまう可能性がある。これを排除することができる。
適応フィルター202は、入力信号に基づいて、伝達関数を自己適応的に変化させることができる。適応フィルター202は、一般にデジタル信号処理を行うデジタルフィルターとして実装される。フィルターの所望の性能(例えば、入力信号に含まれるノイズ成分を最小化するといった性能)を維持するために、所定のアルゴリズム(例えば最適化アルゴリズム)が使用される。所定のアルゴリズムには、フィルタリング後の信号に基づいて得られる信号がフィードバックされ、そのアルゴリズムによる適応処理によってフィルター係数が適応的に変化し、その結果として、適応フィルターの周波数応答特性が変化する。適応フィルターが継続的に動作している期間では、アルゴリズムによる適応処理が継続的(断続的)に行われ、適応フィルター202の所望の性能が維持される。
但し、適応フィルター202が、ある程度の時間にわたって継続的に動作すると、適応フィルター202の性能が、所望のレベルよりも低下する場合がある。これは、脈波センサー10から出力される脈波信号dに、拍動信号(定常的成分)と、被検体の体動に由来する体動ノイズ信号を含むノイズ信号(非定常的成分)とが混在していることに起因する。つまり、適応フィルター202の性能は、拍動信号(定常的成分)に追従して変化するが、その一方で、ノイズ信号にも追従する可能性がある。拍動信号ならびにノイズ成分のレベル(信号振幅)は、時間経過と共に変動し、また、例えば、突発的かつ非定常的な変動もあり得る。よって、例えば、突発的に拍動成分のレベルが低下し、同時に、ノイズ成分のレベルが上昇した場合には、適応フィルター202の性能は、ノイズ成分に追従して変化する。適応フィルター202は、基本的には、入力信号の中から、自己相関性の高い信号を選別して出力することから、時間経過と共に、少しずつノイズへの追従が進行し、徐々にノイズ信号も通過させるようになる。この場合、ある程度の時間が経過すると、適応フィルター202の性能はかなり低下して、正常な状態への復帰がむずかしくなることがある。
そこで、本実施形態では、適応フィルター再構成部17が、適切なタイミングで、適応フィルター202の再構成を実行する。図1に示されるように、適応フィルター再構成部17は、FFT(高速フーリエ変換)を実行する高速フーリエ変換部212と、必要に応じて設けることができる高速フーリエ変換部213,215と、信号評価部214と、タイミング判定部(タイマー)216と、フィルター再構成処理部218と、を有する。
高速フーリエ変換部212は、脈波信号dを高速フーリエ変換する。なお、高速フーリエ変換部213、215が設けられる場合、高速フーリエ変換部213は、体動センサー11から出力される加速度信号(X方向成分)を高速フーリエ変換し、高速フーリエ変換部215は、体動センサー11から出力される加速度信号(Y方向成分)を高速フーリエ変換する。
信号評価部214は、適応フィルター202の再構成の可否を判定するための基礎情報としての、脈波信号dのきれいさの程度(すなわちノイズ量の程度)を判定する、信号のきれいさ判定部(ノイズ量の程度判定部)217と、被検体の運動状態を判定する運動状態判定部219と、を有する。信号のきれいさ判定部(ノイズ量の程度判定部)217ならびに運動状態判定部219の動作については、図2および図3を参照して後述する。
タイミング判定部(タイマー)216は、適応フィルター202の再構成のタイミングを決定する上で必要となるタイミング情報を出力する。フィルター再構成処理部218は、時期的な条件を満足し、かつ、脈波信号のきれいさの程度等に関係する、所定の実体的条件を満足する場合に、適応フィルター202を再構成する。
フィルター再構成処理部218には、脈波周波数解析部400に含まれる拍動成分特定部408から、拍動呈示スペクトル(拍動成分)の検出ができたか否かの情報が、拍動成分の検出処理が行われる毎に供給される。フィルター再構成処理部218には、メモリー(不図示)が設けられており、拍動呈示スペクトルの検出の成功/失敗の情報が、履歴情報として、そのメモリーに蓄積される。フィルター再構成処理部218は、例えば、タイミング判定部(タイマー)216からのタイミング情報や、前回の検出における拍動呈示スペクトルの検出の成功/失敗の情報等に基づいて、適応フィルター202の再構成の可否を判定し、可能と判定したときに、適応フィルター202を再構成する(例えば、フィルター係数をオールゼロとして初期化する)。
例えば、フィルター再構成処理部218は、脈波信号フィルタリング部200が継続的に動作している期間における第1時点において、適応フィルター202の状態を、第1時点よりも前の時点であり、かつ適応フィルター202が動作を開始した時点を含む第2時点の状態に変化させる。ここで、適応フィルター202の再構成には、例えば、フィルター係数の初期化(フィルター係数の値を、動作開始時点のフィルター係数値に戻すこと)や、フィルター係数の値を、フィルターの動作期間中における過去の時点(例えば、好ましいフィルター係数が得られていた時点)のフィルター係数値に設定することが含まれる。すなわち、第2時点は、動作開始時点を含む、第1時点よりも前の時点である。また、例えば、一対の適応フィルターを用意し、一方のフィルターから他方のフィルターに切り換えるような場合もフィルターの再構成に含まれる。
適応フィルター202の再構成を実行することによって、適応フィルターを継続使用することで、仮に、フィルターの性能が低下したとしても(例えば、ノイズ成分への追従が支配的になることによって、拍動信号に追従しないような場合が生じたとしても)、適応フィルターは、再構成後に、新たに適応処理を開始することができ、この結果、拍動信号を捕捉するように自己適応がすすむ。よって、適応フィルター202は、拍動信号に追従する正常な状態に復帰することができる。なお、詳細については後述する。
また、図1において、体動センサー11は、被検体の体動、例えば、歩行やジョギングなどに伴う定常的、周期的な腕(脈拍計の装着部位近辺)の動きを検出するセンサーであり、例えば、加速度センサーやジャイロセンサーを含むことができる。
また、体動ノイズ除去処理部300は、体動ノイズ除去用の、第1適応フィルター302および第2適応フィルター304を有する。体動ノイズ(体動ノイズ成分)は、脈波信号(より正確には、合算部208の出力信号)に含まれる、人間等の定常的な運動や動作(体動)に起因して生じた血管の容積変化を示すノイズ成分である。腕や指に装着する脈拍計の場合、歩行中やジョギング中における腕振りの影響で、その腕振りのリズムに合わせて血管に容積変化が生じる。人間が定常的な動作をすることにより、脈波信号は、その動作の周波数を持った成分信号となる。体動ノイズ成分は、脈波センサー装着部位近辺に装着した加速度センサーが出力する信号の波形と相関性が高いことがわかっている。
また、脈波周波数解析部400は、体動ノイズ除去後の脈波信号が入力される高速フーリエ変換部402と、体動センサー11からの加速度信号(X軸方向成分)が入力される高速フーリエ変換部404と、体動センサー11からの加速度信号(Y軸方向成分)が入力される高速フーリエ変換部406と、拍動成分特定部(拍動呈示スペクトル特定部)408と、脈拍数算出部410と、を有し、必要に応じて、さらに運動状態判定部412を有することができる。
拍動成分特定部(拍動呈示スペクトル特定部)408は、FFT後の、16秒分の脈波信号について4秒毎に周波数解析を行い、スペクトル値やスペクトルの分布等に基づいて、過去に得られた拍動成分との相関性等を検討し、拍動呈示スペクトルを特定する。拍動呈示スペクトルとは、一定期間の拍動成分信号のFFT結果として得られる周波数スペクトルのうち、拍動の周期およびその信号強度を示す周波数スペクトルである。なお、体動呈示スペクトルとは、一定期間の体動ノイズ成分信号のFFT結果として得られるスペクトルのうち、体動(例えば歩行中の腕振)の周期およびその信号強度を示す周波数スペクトルである。
脈拍数算出部410は、脈拍数を算出する。周波数軸上における拍動呈示スペクトルの位置(周波数)が定まれば、そのスペクトルの位置に対応して、脈拍数が一義的に定まる。運動状態判定部412は、脈波信号や体動信号に基づいて、被検体の運動状態(定常運動状態、非定常運動状態、安静状態等)を判定する。表示部600には、検出された脈拍数や拍動を示す波形、検出された運動状態、被検体の消費カロリー、現在の時刻等を表示することができる。
図1に示される拍動検出装置100では、適応フィルター202の再構成が適切なタイミングで実行される。よって、適応フィルター202の継続的な使用によって、仮に、フィルターの性能が低下したとしても(例えば、ノイズ成分への追従が支配的になることによって、拍動信号に追従しないような場合が生じたとしても)、適応フィルター202は、再構成後に、新たに適応処理を開始することができ、この結果、拍動信号を捕捉するように自己適応がすすむ。よって、適応フィルター202は、拍動信号に追従する正常な状態に復帰することができる。
図1の拍動検出装置100では、適応フィルター202を使用することから、複数のバンドパスフィルターを使用する必要がない。また、フィルターの再構成は、フィルター係数の初期化等によって実現でき、装置の処理負担の増加は少なく、また、装置の消費電力の増加も特に問題とならない。
よって、本実施形態によれば、例えば、装置の処理負担を低減しつつ、効果的なノイズ対策を実行できる拍動検出装置100(例えば、長時間の使用に耐える拍動検出装置100)を実現することができる。また、例えば、脈波センサー10を手首の外側(腕時計の裏蓋面と接触する部位)など、脈波信号を取得しにくい部位に装着するタイプの拍動検出装置において、拍動呈示スペクトルの特定性能を向上させることが可能となる。
(腕時計型脈拍計の例)
図2(A)〜図2(C)は、脈波センサーならびに拍動検出装置の構成の一例を示す図である。図2(A)は、脈波センサー10の一例の断面構造を示している。図2(A)に示される脈波センサー10は、基板3の裏面(下面)に設けられている発光素子1と、透明カバー(光透過性の材料で構成される接触部材)2と、光反射ドーム(光反射部)4と、基板3の表面(上面)に設けられる受光部5と、を有する。発光素子1から出射された光R1は、被検出部位SA(ここでは手首とする)における血管(生体情報源)Oに到達し、反射される。血管Oの容積は、拍動に伴って周期的に変動することから、反射光R1’の強度は、拍動に対応して周期的に変動する。反射光R1’は、反射ドーム4で反射された後、受光部5に入射する。受光部5は、入射光を電気信号に変換する。
図2(B)は、脈波センサー10における回路構成の一例を示している。発光部1の発光は、制御回路161によって制御される。また、受光部5から出力される受光信号は、増幅回路162によって増幅された後、A/D変換回路163によってデジタル信号に変換される。このようにして、脈波信号dが得られる。
図2(C)は、腕時計型の脈拍計(本実施形態の拍動検出装置を内蔵する)の使用例を示している。脈拍計は、リストバンド500と、表示部600と、本実施形態の拍動検出装置100(内蔵されている)と、を有している。図2(C)の例では、脈拍計(すなわち拍動検出装置100)は、被検体である人(ユーザー)の左手首に装着されている。
(脈波信号のきれいさの程度(ノイズ量の程度)の判定と、被検体の運動状態の判定について)
適応フィルター202の再構成の可否を判定する際に、脈波信号のきれいさの程度(ノイズ量の程度)の判定や、被検体の運動状態の判定等が必要となる場合がある。以下、これらの判定動作について、図3および図4を参照して説明する。
まず、脈波信号のきれいさの程度(ノイズ量の程度)の判定について説明する。図3(A)〜図3(C)は、脈波信号のきれいさの程度(ノイズ量の程度)の判定動作を説明するための、FFT前の信号の波形および周波数スペクトルの一例を示す図である。
図3(A)〜図3(C)において、上側には、16秒間のFFT前の脈波信号dの信号波形が示されている。横軸は時間を示し、縦軸は信号の振幅を示す。また、下側には、0から4Hzの周波数帯域における周波数スペクトルが示されている。横軸は周波数を示し、縦軸はスペクトル値を示す。
ここで、図3(A)は、ノイズ少(きれい)の場合における脈波信号dの波形と周波数スペクトルを示し、図3(B)は、ノイズが中程度(まあまあ)の場合における脈波信号の波形と周波数スペクトルを示しており、図3(C)は、脈波信号dに多くのノイズが含まれる場合(ノイジー)における脈波信号dの波形と周波数スペクトルを示している。図3(A)〜図3(C)の各々の比較から明らかなように、脈波信号dの波形と周波数スペクトルとは密接に関連しており、脈波信号の波形に対応して、周波数スペクトルの分布状態やスペクトル値が変化する。よって、FFTによって得られる周波数スペクトルに基づいて、脈波信号dにする重畳するノイズの状態(ノイズ量の程度)を推定することが可能である。
本実施形態では、ノイズ量の程度の推定のための指標として、主要な周波数スペクトルのスペクトル値の比(つまり、基線の高さの比)を用いる。具体的には、r5およびr10という指標を用いる(ただし、一例であり、他の統計的指標、例えば、標準偏差等を用いてもよい)。ここで、r5とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に5本のスペクトルを並べたとき(つまり、ソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第5番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。
また、r10とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に10本のスペクトルを並べたとき(つまりソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第10番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。
ここでは、一例として、r5<0.5かつr10<0.2のときをノイズ少(きれい)とし、r5>0.7かつr10<0.5のときをノイズ多(ノイジー)とし、上記いずれでもない場合をノイズが中程度(まあまあ)とする。
図3(A)の例では、r5=0.14かつr10=0.08であることから、ノイズ少(きれい)と判定される。また、図3(B)の例では、r5=0.56かつr10=0.35であることから、ノイズが中程度(まあまあ)と判定される。図3(C)の例では、r5=0.82かつr10=0.62であることから、ノイズ多(ノイジー)と判定される。
このような判定処理が、図1に示される信号評価部214に含まれる信号のきれいさ判定部(ノイズ量の程度判定部)217によって実行される。
また、被検体の運動状態も、上述の指標r5、r10を用いて推定することができる。被検体の運動状態によって脈波信号dの波形が変化すると、その変化は、周波数スペクトルの変化となって現れ、周波数スペクトルの変化は、指標r5,r10に反映されるからである。
被検体の運動状態は、図1に示される信号評価部214に含まれる運動状態判定部219によって実行される。また、後処理を実行する脈波周波数解析部400にも、運動状態判定部412が含まれており、この運動状態判定部412も同様の処理を実行して、被検体の運動状態を判定する。
図4は、被検体の運動状態の判定処理の一例を示すフローチャートである。まず、16秒間に対応する256サンプルの脈波信号データを取得する(ステップST1)。次に、脈波信号データにFFT処理を施す(ステップST2)。
続いて、例えば、信号評価部214に含まれる、信号のきれいさ判定部(ノイズ量の程度判定部)217が、周波数スペクトルのソーティング処理を実行(ステップST3)する。ここで、ソーティング処理は、例えば、複数の周波数スペクトルを、スペクトル値が大きい順に並べる処理である。次に、指標r5,r10を算出する(ステップST4)。
次に、信号のきれいさ判定部(ノイズ量の程度判定部)217は、r5>0.7かつr10<0.5であるか、すなわち、ノイズ多(ノイジー)の状態であるかを判定する(ステップST5)。そうであるならば(Yの場合)、非定常的なノイズが多い状態であるため、非定常的運動中と判定する(ステップST6)。
ステップST5において、Nの場合は、次に、信号のきれいさ判定部(ノイズ量の程度判定部)217は、r5<0.5かつr10<0.2であるか、すなわち、ノイズ少(きれい)の状態であるかを判定する(ステップST7)。そうであるならば(Yの場合)、次に、ステップST3で周波数スペクトルがソーティングされたスペクトルソート結果上位10本以内に、体動(例えば、腕振りのような周期性のある体動)に相当する周波数スペクトルがあるかを判定する(ステップST8)。この判定に際して、体動センサー11から得られる体動信号を参照して、体動スペクトルを特定することによって、判定の精度が向上する。なお、この場合には、図1において、破線で示される構成(体動センサー11から出力されるX,Yの各方向の加速度信号を高速フーリエ変換部213,215に供給する構成)を使用することができる。
ステップST8にて、Yの場合は、ノイズ少(きれい)の状態で、かつ体動スペクトルが特定できる状態であるため、定常的運動中(例えば、同じ速度でウォーキング中)と判定する(ステップST9)。ステップST8にて、Nの場合は、ノイズ少(きれい)の状態で、かつ体動スペクトルが見あたらない状態であるため、安静状態と判定する(ステップST10)。
また、ステップST7において、Nの場合は、次に、スペクトルソート結果上位10本以内に、体動(例えば、腕振りのような周期性のある体動)に相当する周波数スペクトルがあるかを判定する(ステップST11)。この判定に際して、体動センサー11から得られる体動信号を参照して、体動スペクトルを特定することによって、判定の精度が向上する。なお、この場合には、図1において、破線で示される構成(体動センサー11から出力されるX,Yの各方向の加速度信号を高速フーリエ変換部213,215に供給する構成)を使用することができる。
ステップST11において、Yである場合には、ノイズ量が中程度(まあまあ)であり、かつ、体動スペクトルが特定できる状態であることから、定常運動中、但し非定常要素あり(例えば、同じ速度でウォーキング中であるが、腕時計を見るといった非定常動作が行われているような状態)と判定する(ステップST12)。
また、ステップST11において、Nである場合には、ノイズ量が中程度(まあまあ)であり、かつ、体動スペクトルが見あたらない状態であることから、安静中、但し非定常要素あり(例えば、ベッドに横たわっているが、寝返りをうつといった非定常的動作をしているような状態)と判定する(ステップST13)。
このようにして、被検体の運動状態を推定することができる。但し、上述の例は一例であり、これに限定されるものではない。
(適応フィルターの再構成タイミングに関する時期的条件について)
図5は、適応フィルターの再構成が実行されるタイミングの一例を示す図である。例えば、図2に示されるような腕時計型の拍動検出装置は、被検体の手首に装着して使用され、例えば、被検体の経時的な動作状態の変化を記録するために、長時間にわたって継続的に使用される場合がある。よって、長時間にわたって継続的に使用しても、適応フィルター202の性能が低下しないようにすることが好ましい。よって、適応フィルター202が継続的に動作している期間中における適切なタイミングで、適応フィルター202を再構成する。
図5において、適応フィルターが動作を開始した時点(時刻t1)から、第1時間(例えば10分)が経過した第3時点(時刻t2)までを、適応フィルター202の再構成が不要な第1期間TAとし、第3時点(時刻t2)から、第2時間(例えば5分)が経過した第4時点(時刻t4)までを適応フィルターの再構成可能な第2期間TCとする。なお、時刻t1から時刻t4までの期間TBは、適応フィルター202を、再構成することなく使用可能な最大の期間である。
適応フィルター202が再構成されるタイミング(第1時点)は、第2期間TCにおいて設定される。適応フィルター202の状態は、再構成の結果として、過去の第2時点の状態に戻るが、この第2時点は、第1期間TAにおいて設定される。
適応フィルター再構成部17は、時刻t2からフィルター再構成の可否を、他の条件(後述)を考慮しつつ判定し、再構成可と判定すると、適応フィルター202の再構成処理を実行する。図5の例では、時刻t3において、第1回目の適応フィルター202の再構成が実行されている。時刻t3は、フィルター再構成の可否を判断するための所定の条件(判断要件)を満足する最初のタイミングである。適応フィルター202は、再構成後に、好ましい状態から、新たに適応処理を開始することができ、この結果、拍動信号を捕捉するように自己適応がすすむ。よって、適応フィルター202は、適切な性能を、継続的に維持することができる。
なお、適応フィルターの再構成の可否を、所定の条件(時期的条件以外の条件:図6を参照して後述する)によって判定した結果、所定条件が満足されず、その状態が、第2期間(適応フィルターの再構成可能期間)TCにわたって継続する場合がある。この場合には、第2期間TCの終点である第4時点(時刻t4)を限界時点とし、この第4時点(時刻t4)に達した時点で、所定条件の充足/非充足に関係なく、強制的に適応フィルター202を再構成することができる。このようにすれば、適応フィルター202の再構成ができない期間が長く続くというような、好ましくない状況が生じない。以上の動作が、その後、繰り返される。
次に、適応フィルターが再構成された直近の時点(ここでは時刻t3)から、第1期間TAが開始される。時刻t5から時刻t7までが第2期間TCとなる。なお、時刻t6は、第2回目のフィルター再構成タイミングである。このような動作が、時刻t7以降の、適応フィルター202の継続動作期間(TD)において、繰り返し実行される。適応フィルター202の動作は、時刻t8に終了する。
また、適応フィルター202の再構成タイミングである第1時点(図5の例では時刻t3)は、適応フィルター202の動作開始時点(時刻t0)を基準として、周期的(定期的)に設定することもできる。この場合、適応フィルターの再構成のタイミングは、例えば、タイミング判定部(タイマー)216(図1参照)によって簡単に管理することができ、実現が容易である。
(フィルター再構成処理の具体的処理手順の例について)
図6は、適応フィルターの再構成処理の手順例を示すフローチャートである。まず、16秒間の、256サンプルに相当する脈波信号データ、ならびに体動信号データが取得される(ステップST101)。次に、時期的条件(図5を用いて説明した条件)が満足されるか否かが判定される(ステップST102)。
ステップST102において、時期的条件が満足される場合(ステップST102:Y)には、次に、現在が、限界時点(図5における時刻t4や時刻t7)に達しているか否か、つまり、適応フィルター202の、累積使用時間が、第2期間TCに相当する時間以上であるかが判定される(ステップST103)。限界時点に達している場合(ステップST103:Y)には、適応フィルター再構成部17は、適応フィルター202を再構成する(ステップST105)。
ステップST103において、Noの場合には、ステップST104にすすみ、時期的条件以外の所定条件が満足されるか否かが判定される。所定条件は様々な条件が考えられるが、例えば、条件Iを満足する場合、条件IおよびIIを満足する場合、条件IおよびIIIを満足する場合、条件I,IIおよびIIIの全部を満足する場合等を考えることができる。ステップST104で所定条件を満足すれば(ステップST104:Y)、適応フィルター再構成部17は、適応フィルター202を再構成する(ステップST105)。以下、所定条件I〜IIIの内容と、各条件を組み合わせて判定する複数の例について説明する。
(ステップST104における判定例A:条件Iで判定)
適応フィルター再構成部17は、第1時点前の直近の時点における、脈波周波数解析部400(図1参照)による周波数解析によって、拍動呈示スペクトルが検出されていることを条件として(これが条件Iである)、適応フィルター202の再構成を実行する。
適応フィルター202の再構成は、適応フィルター202の再構成が可能な第2期間TCにおいて行われるが、適応フィルター202の再構成は第2期間TCにおいて、いつでも行えるというものではなく、所定の条件を満たす場合に行うことができる。ここでは、脈波周波数解析部400による前回の周波数解析によって、拍動呈示スペクトルが検出されていることが、適応フィルター再構成の条件(条件I)となる。
すなわち、脈波周波数解析部400は、脈波信号フィルタリング部から出力されるフィルタリング後の信号に基づいて、所定時間毎(例えば4秒毎)に周波数解析処理を行って拍動呈示スペクトルを特定する。適応フィルター再構成部17は、第1時点においてフィルター再構成処理を実行しようとする場合、第1時点前の直近の時点における周波数解析(つまり、第1時点を基準とした場合における前回の周波数解析処理)において、拍動呈示スペクトル(拍動に対応する拍動基線の周波数スペクトル)の検出に成功しているかを確認し、その条件(条件I)を満たすときに、第1時点において適応フィルターの再構成を実行する。
適応フィルター202を再構成すると、適応フィルター202は過去の第2時点の状態に戻って、新たに適応動作を開始する。この新たな動作の開始時点において、例えば、脈波信号dに混入しているノイズが少なく、脈波信号の波形のきれいさの程度が許容範囲である場合には、適応フィルターは、適切な自己適応が可能である。
(ステップST104における判定例B:条件Iおよび条件IIで判定)
一方、脈波信号dに混入しているノイズが多く、脈波信号の波形のきれいさの程度が、許容範囲外である場合には、適応フィルター202はノイズに追従する可能性が高い。適応フィルター202の再構成は、その時点で捕捉している自己相関性が高いと考えられる信号への追従を断つ処理でもあるため、再構成の直後における拍動呈示スペクトルの捕捉に失敗すると、例えば、第1時点の直前まで検出できていた拍動信号成分をカットしてしまうという結果となり、かえって悪い結果となる場合がある。
適応フィルター再構成部17は、第1時点前の直近の時点における、脈波周波数解析部400による周波数解析によって、拍動呈示スペクトルが検出されており(条件Iを満足)、かつ、信号評価部214によって、ノイズ量が所定の基準以下であると判定されたこと(条件II)が満足される場合に、適応フィルター202を再構成する。ノイズ量の判定にあたっては、図3(A)〜図3(C)を用いて説明した判定方法を利用することができる。
つまり、この判定例Bでは、条件Iに加えて、信号評価部214によって、脈波信号dに混入されるノイズ量(外乱ノイズ成分のノイズ量)が所定の基準以下であると判定されること(条件II)も満足することが要求される。信号評価部214によるノイズ量の判定によって、脈波信号dのきれいさの程度を、より正確に推定することができる。
この例では、外乱ノイズの少ない状態のときにフィルターを再構成することによって、再構成後の適応フィルターによって適切な自己適応が実行され、拍動成分をノイズ成分と区別することができる。よって、適応フィルターの再構成の可否を、より的確に判断することができる。
(ステップST104における判定例C:条件Iおよび条件IIIで判定)
この例では、適応フィルター再構成部17は、第1時点前の直近の時点における、脈波周波数解析部400による周波数解析によって、拍動呈示スペクトルが検出されており(条件Iが満足される)、かつ、運動状態判定部412(図1参照)によって、被検体の運動状態が安定状態である場合(つまり、条件IIIも満足される場合)に、適応フィルター202を再構成する。
被検体(人や動物)の運動状態は、絶えず変化する可能性がある。定常的な運動状態では、拍動信号も安定しているが、運動状態が急に変化したとき(運動状態の変化の過渡期)においては、拍動信号の振幅や周波数が不安定化し、例えば突発的に大きく変化する場合もあり得る。このような場合に、適応フィルターの再構成を実行すると、拍動信号成分ではなく、ノイズ成分に追従する可能性が高くなる。
よって、判定例Cでは、上述の条件Iに、さらに、被検体の運動状態が安定状態であることが確認されるという条件(条件III)を追加(加重)する。よって、適応フィルター202の再構成の可否を、より的確に判断することができる。被検体の運動状態の判定にあたっては、図4を用いて説明した判定方法を利用することができる。
例えば、被検体である人の運動状態が、歩行中、ジョギング中などの定常的な運動をしている状態、もしくは安静状態のいずれかに該当しない状態である場合(例えば球技をしている、体操している状態等の場合)には、適応フィルター202の再構成が実行されない。よって、拍動検出の失敗や誤検出の発生を低減することができる。
(ステップST104における判定例D:条件I、条件IIおよび条件IIIで判定)
本例では、適応フィルター再構成部17は、第1時点前の直近の時点における、脈波周波数解析部による周波数解析によって、拍動呈示スペクトルが検出されており(条件Iを満足する)、信号評価部214によって、ノイズ量が所定の基準以下であると判定され(条件IIを満足する)、かつ、被検体の運動状態が、定常的運動状態および安静状態を含む安定状態である場合(つまり、条件IIIを満足する場合)に、適応フィルター202を再構成する。
判定例Dでは、適応フィルター202の再構成の条件として、条件I,IIならびにIIIをすべて満たすか否かを判定する。よって、適応フィルター202の再構成の可否を、さらに的確に判断することができる。
次に、適応フィルタリング処理(周波数解析前において、脈波信号フィルタリング部200によって実行される前処理)と、脈波周波数解析部400によって行われる周波数解析処理(後処理)の手順について説明する。
図7は、適応フィルタリング処理(前処理)ならびに周波数解析処理(後処理)の手順の一例を示すフローチャートである。前処理では、まず、遅延処理部201にて、脈波信号dを遅延させる(ステップST106)。次に、処理したデータ数が、全サンプル数に到達しているかを判定し(ステップST107)、到達していない場合(ステップST107:Y)には、適応フィルター202による処理を行って、自己相関性が高い信号である第1信号(定常的成分)yを出力する(ステップST108)。続いて、脈波信号dから第1信号yを減算することによって、自己相関性が低い信号eを出力する(ステップST109)。
次に、サンプリング区間内の脈波信号に過大振幅が検出されたか否かを判定する(ステップST110)。過大振幅が検出された場合(ステップST110:Y)には、衝撃ノイズが加わった可能性が高いことから、衝撃検出モードのゲイン係数(例えば、h1=1.2,h2=0)が選択され、選択されたゲイン係数に基づいて出力値が算出される(ステップST111)。
ステップST110において、過大振幅が検出されない場合(ステップST110:N)には、最後に過大振幅が検出されてから、一定期間、過大振幅が検出されていないかを判定し(ステップST112)、検出されていないならば(ステップST112:Y)、適応フィルター係数更新処理を実行し(ステップST113)、次に、通常モードのゲイン係数(例えば、h1=1.0,h2=0.5)が選択され、選択されたゲイン係数に基づいて出力値が算出される(ステップST114)。
次に、後処理の手順について説明する。まず、フィルタリング後の信号と、加速度信号等(体動信号)とが取得される(ステップST115)。次に、体動ノイズ除去処理部300(図1参照)による、体動除去適応フィルタリング処理が実行される(ステップST116)。次に、脈波周波数解析部400によって、周波数解析処理が実行される(ステップST117)。次に、脈拍数算出部410によって、脈拍数が算出される(ステップST118)。
(実際の処理例)
図8(A)〜図8(C)は、実際の処理における脈波信号波形と、FFTによって得られる周波数スペクトルの一例を示す図である。図8では、16秒分の脈波信号の波形(上段)と、そのFFT結果(下段)を示している。なお、この例で取り扱っている脈波信号は、歩行やジョギング等の周期的運動を行っていないときに得られた脈波信号である。
図8(A)の上段の波形では、16秒分の信号の終端部分付近において、外乱ノイズ成分と思われる信号の混入が見られる(点線で囲んで示される部分A)。下段のFFT結果においては、脈波信号には、検出対象成分である拍動信号成分MP1aと、外乱ノイズ信号成分SP1aとが混在している。
次に、図8(B)を参照する。図8(B)は、図8(A)の上段に示される波形をもつ脈波信号を、フィルター再構成処理が実施されない適応フィルターにてフィルタリングして得られる脈波信号と、そのFFT結果を示している。ここでは、適応フィルターは、計測開始から40分程度、継続的に動作している状態(フィルター係数を適応的に更新しながら使用してきた状態)となっている(但し、フィルター再構成処理は実施されていない)。
図8(B)から明らかなように、外乱ノイズ成分(ノイズ信号成分)SP1bは、カットしきれずに残存している。たまたま、図8(B)の例では、拍動呈示スペクトルMP1bのスペクトル値が最も大きいため、各スペクトルのピーク値に基づくソーティング処理等によって、信号MP1bを、拍動呈示スペクトルであると判定することは可能である。但し、拍動呈示スペクトルMP1bが小さい場合には、外乱ノイズ成分(ノイズ信号成分)SP1bと区別することが困難となり、拍動成分の検出が失敗に終わる可能性が高くなる。
次に、図8(C)を参照する。図8(C)は、図8(A)の上段に示される波形をもつ脈波信号を、適応フィルター202(フィルター再構成処理を例えば10分間隔で実施した場合)にてフィルタリングして得られる脈波信号と、そのFFT結果を示している。ここでは、適応フィルター202は、計測開始から40分程度、継続的に動作している状態(フィルター係数を適応的に更新しながら使用してきた状態)となっている(フィルター再構成処理は、例えば10分間隔で実施されたものとする)。
図8(C)から明らかなように、外乱ノイズ成分SP1cは、適応フィルタリング処理によって十分に抑制され、その一方、拍動呈示スペクトルMP1bは強調されており、よって、拍動成分を、確実に特定することができる。
フィルタの性能は、S/N指標を利用して客観的に評価することが可能である。以下、S/N指標に基づく評価によって、本実施形態の効果を実証する。なお、以下の説明では、S/N指標として、SN3と呼ばれる評価値を利用する。ここで、SN3は、以下の算出式によって表すことができる。
SN3=(拍動呈示スペクトルとその左右1本のスペクトル値の合計)/(全周波数0〜4Hzにおけるスペクトル値の合計)(単位:%)
図8(A)に示される脈波信号(原信号)におけるS/N指標(SN3)は、13.8%であった。図8(B)に示される脈波信号(適応フィルターの再構成無し)におけるS/N指標(SN3)は、13.3%であり、原信号に比べて、やや低下している。これに対して、図8(C)に示される脈波信号(適応フィルターの再構成有り)におけるS/N指標(SN3)は、18.7%であり、S/Nは大幅に改善されている。このS/N指標の改善の事実によって、適応フィルター202を再構成することによる効果が、数値的に確認できた。
(第2実施形態)
図9(A)および図9(B)は、適応フィルターの再構成処理を実行する例と、しない場合の例(比較例)の各々におけるS/N指標(SN3)の、時間経過に対応した変動を調べた結果を示す図である。
ここでは、被検体である人が腕時計型の脈拍計(すなわち拍動検出装置100)を装着し、被検体が20分間にわたって歩行し、脈波信号を適応フィルターによってフィルタリングし、そして、フィルタリング後の信号について、S/N指標(SN3)を算出し、その算出結果を、時間軸上でプロットした。図9(A)および図9(B)において、横軸が時間軸であり、縦軸がS/N指標であるSN3の値(%)を示す軸である。図9(A)は、被検体であるユーザーが歩行を開始してから、10分経過するまでのSN3の経時的変化が示されている。また、図9(B)は、15分経過時点から、20分経過するまでのSN3の経時的変化が示されている。また、本実施形態に対応するデータは、黒塗りの四角形で示され、比較例のデータは、白抜きの菱形で示されている。
計測開始から10分経過頃の時点まで(図9(A))においては、本実施形態と比較例との間には、SN3の値には差異は、ほとんど現れない。しかしながら、図9(B)から明らかなように、15分経過頃までには差異がはっきりと現れる。
図9(A)および図9(B)によって、脈波信号フィルタリング部(適応線スペクトル強調器)を構成する適応フィルター202を、適切なタイミングで再構成することによって、適応フィルター202の性能を適切なレベルに維持することができることが裏付けされた。よって、長時間の連続計測を行う場合であっても、適応フィルター202の性能を、適切なレベルに維持することができ、拍動検出の失敗や誤検出の発生を低減することができる。
以上説明したように、本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、脈波信号フィルタリング部を構成する適応フィルターを適切なタイミングで再構成することによって、適応フィルターの性能を適切なレベルに維持することができる。よって、例えば、長時間の連続計測を行う場合であっても、適応フィルターの性能を、適切なレベルに維持することができる。これにより拍動検出の失敗や誤検出の発生を低減することができる。
また、例えば、適応フィルターを有効活用することから、フィルター構成を簡素化でき、また、適応フィルターの再構成を行うことは容易であり、よって、装置の処理負担を低減しつつ、効果的なノイズ対策を実行できる拍動検出装置を実現することができる。
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。