JP5637354B2 - 精製転写因子の調製法と細胞導入技術 - Google Patents
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Description
現精製し、化学修飾を施すことにより溶解性を高め、そして細胞内に取り込ませてターゲットのプロモーターを活性化し、iPS細胞を作製する技術に関する。
ならない問題点として、以下の3つが挙げられる:
1)レトロウィルスベクターの利用:現在、iPS細胞の作製にはウィルスベクターによる
転写因子の遺伝子導入が必要である。レトロウィルスを利用する場合には導入遺伝子がゲノムに組み込まれるために、発癌などの意図せぬ悪性化を生じる可能性があり、医療用として用いることは危険である。そのため、遺伝子を細胞に導入する方法でiPS作製をする
場合には、ゲノムに遺伝子を導入しないアデノウィルスの使用や物理・化学的な遺伝子導入法を用いる技術開発が必要である。しかし、アデノウイルスの発現は一過性であり、このウイルスによるiPS作製の報告はない。また、たとえ遺伝子を細胞に物理的に導入して
も、安定した遺伝子発現細胞は導入遺伝子が染色体に取り込まれることも報告されている。
るべきである。また、比較的安全と考えられていたアデノウィルスを利用した遺伝子治療でも不慮の事故が起きており、ウィルスの臨床利用には不確実性を伴うとの不安も未だ強い。
胞の品質管理が極めて重要である事は言を待たない。遺伝子導入を行う場合、核酸及びウィルスの品質を厳密に管理する必要がある。核酸およびウィルス医薬は現時点では限定的に用いられるのみであり、生産と品質管理においては手探りで行われている現状である。
ている(非特許文献2)。しかし、薬剤を用いることから予期せぬ蛋白質を活性化し、癌化の恐れも拭いきれない。
技術を開発することである。精製蛋白質の利用では、遺伝物質を完全に排除した状態でiP
S細胞を作製、利用する事が可能である。組み換え蛋白の歴史では組換えインスリンをは
じめとする数多くの組換え蛋白質が実際に医薬として利用されており、既に必須なものとして社会的にも認知されている。これにより、1)レトロウィルスを使用する事による潜在的腫瘍化の危険性、2)一般の組換え細胞利用についての社会的背景、3)iPS細胞化
工程の品質管理問題等を解決し、広汎な分野でのiPS細胞医療の実用化に資することがで
きる。
そのターゲットプロモーターの駆動を行わせるために、SOX2やOCT3/4蛋白質に1)細胞導入タグの付加2)精製を容易にするための精製タグの付加を行い、そして3)溶解度を高めるため化学修飾を行った組換えSOX2およびOCT3/4蛋白質を用いて細胞導入に成功すると共に標的プロモーターの活性化にも成功した。更にiPS細胞作製に利用できるだけでなく
、時計遺伝子のリズム位相にも影響を及ぼすことも明らかとなり概日リズムの解析および制御にも利用できることが示唆された。
項1.精製用タグと細胞導入タグを連結し、かつ、ポリエチレンイミンで修飾した転写因子
項2.転写因子がSOX2又はOCT3/4蛋白質である、項1に記載の転写因子。
項3.前記精製用タグがHisタグである、項1または2に記載の転写因子。
項4.前記細胞導入タグがアルギニンタグである、項1〜3のいずれかに記載の転写因子。
項5.項1〜4のいずれかに記載の転写因子をコードする遺伝子。
項6.項1〜5のいずれかに記載の転写因子を細胞に導入して細胞を形質転換することを特徴とする、形質転換細胞の作製方法。
項7.形質転換細胞がiPS細胞である、項6に記載の方法。
できる。また、組換え蛋白質の利用と生産は長期にわたり行われているため、品質管理上の問題点が既に洗い出されている。そのため、本申請技術の確立によりiPS細胞の安全性
は飛躍的に高まり、iPS細胞医療の広汎な利用が進むものと期待される。このような技術
を実現可能にするためにはまずiPS細胞を誘導することのできる蛋白質を実際に取り込ま
せ、転写活性化を行わせる事が基盤開発技術として重要である。本研究開発ではこの目標に向かうため、精製転写因子蛋白質を細胞に導入して標的プロモーターの駆動に成功した。すなわち本研究開発によるロジックは直ちに他のiPS細胞誘導に必要な蛋白質に応用す
ることができ、遺伝子によらないiPS細胞の樹立を可能にするものである。
を用いてもiPS細胞の樹立は可能であることを示している[Blelloch R, et al, Cell Stem
Cell 1: 245-247. (2007)]。さらに、山中教授らのグループによって、c-Mycの遺伝子導入をせずにOct-4・Sox2・Klf4の3因子だけでも、マウスおよびヒトにおいてiPS細胞の樹
立が可能であることを示した[Nakagawa Mら, Nat Biotechnol 26: 101-106(2008)]。これまで種々のiPS細胞の樹立方法が確立されているが、Sox2およびOct3/4はいずれの方法に
おいても用いられていることから、これらの転写因子の使用はiPS細胞作製には必須であ
る。
入する転写因子の由来は、ヒト、マウス、ラット、サルなどが好ましい。また、導入され
る細胞としては、初代細胞、幹細胞、株化細胞などが挙げられ、初代細胞が好ましい。ヒトやマウスでiPS細胞を作成するために導入される転写因子の組み合わせとしては、例え
ばOCT3/4・SOX2・KLF4・C-MYC、OCT3/4・SOX2・KLF4などが挙げられ、ヒトでiPS細胞を作成するために導入される転写因子の組み合わせは前記に加えてOCT3/4・SOX2・NANOG・LIN28(Yu, J. et al. Science 318: 1917-1920(2007))などが挙げられる。
グ、NusA、Sタグ、SBPタグ、Strepタグなどが挙げられる。
ースとするペプチドなどを例示できる。
発明に明示した方法を用いることにより細胞導入を行い、転写制御を行わせる事が可能であることは容易に推測することができる。
工合成遺伝子を作製した(配列番号1、2、3、4、5、6)。
蛋白質のシステイン残基にS-S結合で付与したSOX2蛋白質を開発した(図1)。このPEI処理により細胞導入に必要な細胞培養液中での溶解度(少なくとも数百μM以上)を上げたSOX2
およびOCT3/4蛋白質を開発することができた。
同様にPEIを結合させることができる。
ことは言うまでもない。
実験方法
・合成マウス、ヒトSOX2(mSOX2, hSOX2)および合成マウスOCT3/4(mOCT3/4)遺伝子の合成
コドン暗号表のうち大腸菌でよく利用されているコドンを用いmSOX2およびヒトSOX2遺
伝子のデザインを行い、化学合成を行った(配列番号1、3)。同様に(mOCT3/4)遺伝子の
デザインを行い、化学合成をおこなった(配列番号5)。この際、アルギニンが11回繰り返
した細胞導入タグをコードするDNAとヒスチジンが6回繰り返したHisタグをコードするDNA配列をそれぞれC末端に付与した(mSOX2:配列番号1,2、hSOX2:配列番号3,4、mOCT3/4:配列番号5,6)。
具体的には
(i)配列mSOX2、hSOX2およびmOCT3/4にNdeI/EcoRIサイトを付加し、合成を行う
(ii)配列mSOX2、hSOX2およびmOCT3/4をpBluescriptIISK(+):(マルチクローニングサイト
を欠失)のSmaIサイトへクローニング
(iii)配列mSOX2、hSOX2およびmOCT3/4をpAED4(文献番号1)のNdeI/EcoRIサイトへクローニング
(iv)シークエンスの確認
の手順により発現ベクターの構築を行った。
1.5 ml容チューブ内に、大腸菌(E. coli)BL21plys株(Novagen社)のコンピテントセル0.04 ml(20,000,000 cfu/mg)と、上記調製した触媒ドメイン遺伝子含有プラスミドDNA溶液0.003 ml(プラスミドDNA 8.4ng)を加え氷中に30分間放置した後、42℃で30秒間ヒートショックを与えた。次いで、チューブ内にSOC 培地を0.25 ml加え、37℃で1時間振とう培養した。次いで、アンピシリンを含むLB寒天プレートに塗布し、37℃で一晩培養することにより形質転換体を得た。
得られた形質転換体をアンピシリンを含むLB培地に接種し、600 nmにおける吸光度が0.5に達するまで37℃で培養した後、発現を誘導するためIPTG(isopropyl-b-D-thiogalactopyranoside)を加え(最終濃度1 mM)さらに一晩、培養した。培養液を8,000rpmで10min遠
心分離することにより集菌した。集菌した菌体10 gに、緩衝液A(20 mM Tris-Cl 6M 塩酸
グアニジン pH 8.0)を100 mlを加え、菌体を90Wの出力で30分間超音波破砕した。破砕し
た菌液を 15,000rpmで30分間遠心分離し、上清を採取した。緩衝液Aで平衡化した金属キ
レートカラムHiTrap-Chelating(GEヘルスケア社製)カラムを用いてカラムクロマトグラフィーを行った。溶出は0.5Mイミダゾールを含む緩衝液Aの直線グラジエントを用いた。得
られた目的分画を透析チューブ(分画サイズMw.3500)に入れ、緩衝液B(8M尿素、20 mM Tris-HCl、25 mM NaCl pH8.5)溶液で一晩、室温で透析を行なった。
交換カラムHiTrap-S(GEヘルスケア社製)に添加し、1M NaClを含む緩衝液Cの直線グラジエントを用いて精製を行った。システイン側鎖を還元状態に保つため得られた目的分画に最終濃度0.1 mMとなるようにDTTを加えた。SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により単一バンドを与える均一標品が含まれていた。
SPDP修飾したPEI600を調製するため、SPDPはエタノールに溶解、PEI600は水で希釈しpH8になるように塩酸で調製した。SPDP/PEI600溶液をモル比で5:1になるように混合し室温
で30分放置することによりSPDP修飾PEI600(SPDP-PEI600)を調製した。SPDP-PEI600でSOX2
を修飾するためSOX2が溶けている8M尿素を含む緩衝液にSPDP-PEI600を最終濃度1 mM以上
となるように加え37℃で一時間反応を行った。基本操作は文献番号2に従った。反応終了後、0.1%酢酸溶液に対し透析を行うことで未反応のSPDP-PEI600を除き、遠心濃縮法によ
り少なくとも数百μM以上になるように濃縮を行った。
SOX2あるいはOCT3/4蛋白質によるターゲットプロモーターの活性化は、プロモーターの下流にルシフェラーゼを配したベクターを導入した安定細胞株を用い、発光量の変化をリアルタイムに計測することで確認した。レポーターベクターは、(SV40ポリAシグナル)
―(マウスNanogプロモーター内Sox2/Oct3/4結合配列)―(チミジンキナーゼ最少プロモーター)―(ルシフェラーゼ)を、CMVプロモーターを除去したpcDNA5-FRTベクター(Invitrogen社)に挿入し作製した。ルシフェラーゼは、甲虫ルシフェラーゼ(ELuc、東洋紡
績)からペルオキシソーム移行配列(SKL)を除去したものを用いた。レポーターベクタ
ー及びpOG44ベクター(Invitrogen社)をFlpIn-3T3細胞(Invitrogen社)にコトランスフェクションし、ハイグロマイシン耐性を示す細胞を選抜することで、レポーターベクターを導入した安定株を得た。この安定株を96ウェルプレートに播種し1日後、精製転写因子蛋白質、100μM D-ルシフェリンカリウム塩(東洋紡績)、25 mM Hepes/NaOH (pH 7.0)を含むDulbecco's Modified Eagle medium (DMEM)培地に交換した。発光は、マイクロプ
レート用発光測定装置(AB2350、アトー社)もしくはディッシュタイプ発光測定装置(AB2500、アトー社)を用い、1ウェルあたり10秒間の積算を15分間隔、37℃で30時間連続測定した。
マウス概日時計遺伝子Period2のプロモーター領域とルシフェラーゼを連結したレポー
ターベクターをNIH3T3細胞のゲノムに導入した安定株細胞を作製した。この細胞を35 mm
ペトリディッシュで培養し、播種2日後、500 nM SOX2蛋白質、100μM D-ルシフェリンカ
リウム塩(東洋紡績)、25 mM Hepes/NaOH (pH 7.0)を含むDMEM培地に交換し、発光を発
光測定装置(AB2500、アトー社製)を用い、1分間の積算を9分間隔、37℃で96時間連続して測定した。
文献番号1:Doering, D.S. & Matsudaira, P. Biochemistry, 35, 12677-12685. (1996)文献番号2:Murata, H. et al., Biochemistory, 45, 6124-6132. (2006)
・mSOX2によるプロモータ活性化の計測
以下の実験は96ウェルプレートおよびマイクロプレート用発光測定装置を用いて行った。図2に示しているように精製mSOX2蛋白質の添加により、濃度依存的な転写活性化が
観察され、明らかに優位なプロモーター活性化がみられた。添加後約10時間でその活性は最大値になることが分かった。その後、発光は減衰するが細胞計測には二酸化炭素の供給をしていない点や、無血清培地を使用していることから細胞自身の活力の低下が原因の一つと考えられる。コントロールと定量的に比較するため図2に示す各発光曲線の時間積分を行い、コントロールとの比を計算した。図2(下図)に示すとおり500 nM程度の濃度で最大値の80%近くプロモーターを活性化していることが分かった。
また、精製mSOX2蛋白質による転写活性化の特異性を検討するため、転写活性化能を示
さないmSOX2ドミナントネガティブ型蛋白質を作成し、同様のアッセイに供した。標的遺
伝子と発光レポーター遺伝子を導入した発光NIH3T3細胞を96ウェルプレートに播種し、50〜1000 nMの精製ドミナントネガティブmSOX2蛋白質を含む培養液中で発光を経時的に測定したところ、図3に示すように、発光細胞にドミナントネガティブ型SOX2蛋白質を処理しても、有意なプロモーターの活性化は認められなかった。この結果から図2で示したプロモーターの活性化は精製mSOX2蛋白質により特異的に引き起こされていることが明らか
となった。
さらに、精製hSOX2蛋白質を作成し、500 nMの精製蛋白質をNIH3T3発光細胞に処理した
ところ、図4に示すように、mSOX2と同様、顕著な転写活性化が認められ、その値はコン
トロールの2.2倍であった。
以下の実験は35 mm培養ディッシュおよびディッシュタイプ発光測定装置を用い、5% CO2存在下で行った。35 mm培養ディッシュに播種したNIH3T3発光細胞を培養後、精製mOCT3/4蛋白質を含む培養液に交換し、発光測定を行ったところ、図5に示すように、添加蛋白
質の濃度に依存した転写活性化が観察された。転写活性化のキネティックは、いずれの添加蛋白質の濃度においても同一であり、そのピークは蛋白質添加後、約22時間であった。コントロールと定量的に比較するため図5(下図)に示す各発光曲線の時間積分を行い、コントロールとの比を計算したところ、1000 nMで約1.8倍の活性化を示すことが明らかとなった。
以上の測定から今回開発したマウスOCT3/4、SOX2蛋白質は、細胞培養液に添加することで細胞導入タグの作用により細胞に取り込まれ、ターゲットのプロモーターを活性化したと結論づけられる。
これらの結果から、OCT3/4及びSOX2蛋白質に加え、KLF4を本発明に従い同時に添加することでマウスやヒトのiPS細胞を作成することができると考えられる。また、OCT3/4及びSOX2蛋白質に加え、NANOG・LIN28(Yu, J. et al. Science 318: 1917-1920(2007))を本発
明に従い同時に添加することでヒトのiPS細胞を作成することができると考えられる。
図6に示しているように、SOX2蛋白質の添加により、概日時計遺伝子プロモーターPer2の日周性発現の位相がコントロールと比較して約3時間前進することが判明した。一方、振幅の顕著な低下は見られないことから、SOX2蛋白質は体内時計を乱すことなく位相変化を誘起すると考えられ、SOX2蛋白質の添加により概日リズムの調節が可能であることが示唆された。
この結果、概日リズムの変調により引き起こされる、睡眠覚醒、体温調整、循環器系調節、ホルモン分泌等の生理現象の異常に対し、SOX2がこれらの予防・改善に使用することができると考えられる。
配列番号1 マウスSOX2の合成遺伝子配列
細胞導入タグをコードするDNA配列(CGTCGTCGTCGCCGTCGCCGCCGCCGCCGGCGC)を二重下線で、Hisタグ部分をコードするDNA配列(CACCATCACCATCATCAC)をイタリック体で示す。
細胞導入タグのアミノ酸配列(RRRRRRRRRRR)は二重下線で、Hisタグ部分(HHHHHH)のアミノ酸配列はイタリック体で示す。枠内の「C」は、PEIが結合するCys残基を示す。
配列番号3 ヒトSOX2の合成遺伝子配列
細胞導入タグをコードするDNA配列(CGTCGTCGTCGCCGTCGCCGCCGCCGCCGGCGC)を二重下線で、Hisタグ部分をコードするDNA配列(CACCATCACCATCATCAC)をイタリック体で示す。
細胞導入タグのアミノ酸配列(RRRRRRRRRRR)は二重下線で、Hisタグ部分(HHHHHH)のアミノ酸配列はイタリック体で示す。枠内の「C」は、PEIが結合するCys残基を示す。
配列番号5 mOCT3/4の合成遺伝子
細胞導入タグをコードするDNA配列(CGTCGTCGCCGTCGGCGTCGGCGTCGTCGT)を二重下線で、Hisタグ部分をコードするDNA配列(CACCATCATCACCACCAT)をイタリック体で示す。
細胞導入タグのアミノ酸配列(RRRRRRRRRRR)は二重下線で、Hisタグ部分(HHHHHH)のアミノ酸配列はイタリック体で示す。枠内の「C」は、PEIが結合するCys残基を示す。
Claims (5)
- 精製用タグと細胞導入タグを連結し、かつ、ポリエチレンイミンで修飾した、SOX2又はOCT3/4蛋白質である転写因子。
- 前記精製用タグがHisタグである、請求項1に記載の転写因子。
- 前記細胞導入タグがアルギニンタグである、請求項1または2に記載の転写因子。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の転写因子を細胞に導入して細胞を形質転換することを特徴とする、形質転換細胞の作製方法。
- 形質転換細胞がiPS細胞である、請求項4に記載の方法。
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