JP5623779B2 - 落雷被害軽減衣類素材および落雷被害軽減服 - Google Patents

落雷被害軽減衣類素材および落雷被害軽減服 Download PDF

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Description

本発明は、落雷を誘引しない材質で構成して人体への落雷を回避するとともに、万が一落雷した際には導電経路を形成し、さらには発生する誘起電圧や発熱を抑制する機能をもつ繊維あるいはフィルム素材、および人体を落雷から保護する落雷被害軽減服である。
落雷による被害から身を守るにはまずは安全な場所に避難することが第一であるが、ゴルフ場や登山中などは、安全に避難できる場所は少ない。多くの人は避雷針の保護角や木に落雷した場合の側撃についての知識はあまり持っておらず、雷が発生しているにも関わらず雨宿りのためと思って大きな木の下に逃げ込んでしまうことがある。また深い森の中では、どこまで逃げても周りは木ばかりである。このためゴルフ場や登山中などは他の場所に比べて雷の被害に遭う確率が高く、命を落としてしまう事故が後を絶たない。一方で、落雷から命を守るための構造を備え、かつ安価に広く普及しているウェア類は市場に存在しないのが実情である。
落雷の直撃を受けると8割は即死とも言われているが、一方で命が助かった事例はたくさんある。落雷の電流が心臓を通過しなかったと思われ、その後心肺機能が蘇生した事例である。例えば2005年5月に米国マサチューセッツ州のゴルフ場で落雷の直撃を受けた男性や、2009年6月に英国エセックス州にて木の下で側撃雷を受けた女性の例がある。前者の場合、右手に握っていたゴルフクラブに落雷し、そのときに大量の汗をかいていたため電流が体内ではなく体表面や服を流れたと思われる。後者の場合、身につけていた携帯音楽プレーヤーのイヤフォンケーブルを伝って電流が流れたと思われ、前者同様に心臓にダメージが少なかったと思われる。
雷の電撃電流は絶縁層を突き破る破壊力があり、導電性にあまり関係なくより高い(近い)構造物に雷は落ちるが、その電流は雷が落ちた構造物の導電性と全く無関係に流れるのではなく、より導電性の高い経路を流れる。これは、高い木の下で雨宿りをしていた人が落雷(側撃雷)に遭う事例からも明らかである。つまり高い木のそばに人がいる場合、導電性は人体よりも低いが高さが人より高い木に雷は落ち、しかし電流はそのまま木を伝って地面まで流れるのではなく、途中で木より電流の流れやすい人体に移って地面に流れる。
上記の事例を考えると安全な場所の少ない野外においては、まずは落雷を受けないよう対策を施すのはもちろんであるが、万が一落雷を受けた場合に心臓へ電流が流れることを防止し、ダメージを最小限に抑えるための工夫をすることにより、生存率を高めることができると考えられる。通常の衣類や装飾物を身につけている状態では、雷の電撃電流は身体のどの部分を流れてもおかしくはない。しかしながら、あらかじめ服などの表面の心臓から遠い位置に電流の流れやすい経路を用意しておくことで、落雷に遭っても心臓へのダメージを軽減できると考えられる。
従来、一般的に落雷に対し保護対象の構造物を保護する避雷システムとして、落雷電流を被雷部から大地へと導く引下導線を備えたシステムが広く用いられている。保護対象が人体の場合も同様に考えられ、落雷時に衣類に優先的に雷電流が流れて人体に流れることを避ける従来の方法としては、合羽の構成素材に導電性材料を有し接地電極を設けた雨合羽(特許文献1)のほか、同じく導電性材料で導電経路を設けた耐雷服(特許文献2)や雷撃回避救命衣服(特許文献3)が挙げられる。しかしながら特許文献1の防雷雨合羽は雨合羽全体が導電性材料で覆われているため、周囲の構造物が人体と同じ程度の高さである場合、この雨合羽が落雷を誘引する可能性がある。また、落雷時に雷電流が雨合羽上を流れても雨合羽上のどこを通るかはわからず、心臓近くを通る可能性がある。さらにこれらの衣類に使用する導電性材料の抵抗値やインダクタンスは雷の特性を考えると十分に小さいとは言えず、インダクタンスで発生する高電圧やジュール熱による身体へのダメージは避けられない可能性がある。特許文献2や3も同様の問題点がある。
一方で、被雷しても人体への感電を完全に回避する方法として、特許文献4が知られている。しかしながらこの方法は、服全体が導電層で覆われているため前出の方法同様に落雷しやすい可能性を否定できない。また頭の先から靴底まで当該構造を施す必要があり、大掛かりな装備となる。ゴルフや登山などの実施時に手軽に着用でき、既存のレインウェアなどに改良を加える程度で比較的安価に効果を得られることが望ましいという課題に対しては有効で無い。
上記問題点を解決する方法としては特許文献5に示された方法が挙げられる。つまり、「通常は導電性が低い一方で、被雷時には低抵抗で低インダクタンスの導電経路が形成されて、その経路に雷電流を流す」構造である。具体的には、風力発電機など避雷対象の構造物の表面に樹脂下地層を設け、この樹脂下地層に微小な導電性粒子を微小な間隔で固定した構造である。この避雷構造は所定の電圧以下では高抵抗であり、所定の電圧を超えると粒子間に放電が発生し高導電性となる。これにより被雷時には落雷部から接地地点まで低抵抗で低インダクタンスの電流経路が形成され、雷電流はこの経路を低電圧で流れる。
しかしながら上記の方法を衣類に応用した場合、以下のように樹脂下地層が通気性を損ねてしまう。つまり特許文献5によると、落雷点に上記避雷構造が施されていない場合であっても沿面放電により落雷電流が避雷構造部分に到達できればよいとしているが、人体に落雷した場合には雷電流が心臓付近を極力流れないようにする必要があるため、落雷点となりやすい少なくとも衣類の人体上部(肩から上)部分は全面的に上記避雷構造を施す必要がある。望ましくは、上部のみならず衣類全体に上記避雷構造を施したほうがより確実に身体の安全が守られる。しかしながらこれにより、通気性が損なわれて体から蒸発した水分を外に逃がすことができなくなる。
特開平11−181605号公報 特開平6−235103号公報 特開2004−149946号公報 特許第2994521号 特開2007−48896号公報
解決しようとする課題は、まず第一に人体に落雷を誘導せず、万が一落雷に遭い雷電流が流れた場合でも人体ではなく衣類上の導電経路に雷電流が流れるようにし、かつこの導電経路に雷電流が流れた場合の誘起電圧や発熱を低く抑えることにより、身体へのダメージを軽減するという機能および通気性を備えた衣類を提供することである。
落雷を誘導せず、万が一落雷に遭い雷電流が流れた場合でも人体に電流を流さず、かつ雷電流が流れることによる誘起電圧や発熱を低く抑えるという課題は、以下のような仕組み、すなわち落雷を受ける前は絶縁性であるが被雷時には衣類上に低抵抗で低インダクタンスの導電経路が形成されるような仕組みを作ることにより解決できる。
まずは微小な導電性粒子を、導電性の低い繊維原料あるいはフィルム原料等の中あるいは表面に微小間隙を保って分散配置させることにより「通常は導電性が低い一方で、被雷時には導電性を有する」ような繊維素材あるいはフィルム素材を構成することができる。この繊維素材あるいはフィルム素材を単独で、または他の繊維素材と組み合わせて使用することにより、落雷を誘導することなくかつ万が一の被雷時には導電経路が形成され、かつ通気性も備えた衣類を提供することができる。
被雷時に低抵抗で低インダクタンスの導電経路が形成されることの説明は以下の通りである。すなわち落雷により電圧が印加されると、まず衣類の上記素材使用部分に配置された導電性粒子間の放電が比較的低い電圧で始まり、放電路が形成される。雷電流はこの放電路により放電され、導電性粒子間の微小間隙がひとたび尖絡すると次々に尖絡が進み、電流経路が形成される。この電流経路はいったん放電が始まると急激に電気抵抗が小さくなるという性質(気中アークの非線形性)のために、雷電流は放電を開始した経路に集中するようになり、分流を生じることもない。このため経路の微小導電性粒子は溶融気化し、アークプラズマへと進展する。本発明においては被雷時に低抵抗で低インダクタンスの導電経路が形成されることが重要であるため、導電性粒子の大きさや間隔は、絶縁性の原料とともに適宜設定することが出来る。例えば、低抵抗で低インダクタンスの導電経路が形成される電圧条件を500Vと設定するなど電圧を設定してそれに適合するよう導電性粒子や絶縁性の原料を選択することができる。
プラズマ化するとアーク断面が増しプラズマの温度が上昇するので、プラズマ化した雷電流に対する電気抵抗は、特許文献1〜4などの導電体を流れる場合よりも十分に小さいものとなり、発生する熱も比較的少ない。また、電流が増すとともにアークの直径は大きくなるので、これに伴ってインダクタンスも小さくなる。従って、雷電流が流れたときの誘起電圧も低いものとなる。
本発明で用いる素材は、繊維及び/又はフィルム状であることが特に好ましい。繊維の場合は、レインウェアやゴルフウェアなど衣類素材として利用する上で適した素材である。またフィルム状の場合は、衣類やテント生地などの上に貼り付けて使用する上で加工しやすい。さらにゴアテックス素材のように繊維素材とフィルム素材を組み合わせた素材として利用する際には、フィルム状に加工できることは必要である。
本発明の素材は、衣類及び/又はキャンプ用品に利用できることが重要である。本発明で言う衣類とは、服、帽子、手袋、靴など身に付けるものを指し、ゴルフウェアやレインウェアなどの服も含まれる。衣類に用いる事で身体を雷電流から保護し、かつ通気性を保つ必要があるため、繊維及び/又はフィルム状であることが好ましい。また本発明で言うキャンプ用品とはテント、ツェルト、タープなどを指し、これらの生地として利用する上では繊維及び/又はフィルム状であることが好ましい。
本発明の衣類は、通常時には絶縁性である構造で構成されているため、雷の直撃のみならず、そばにある木などの構造物からの側撃雷や地面からの雷電流を誘導することなく、仮に被雷した場合でも衣類上に放電経路が形成されて雷電流を流し、かつこの経路は低抵抗で低インダクタンスであるため雷電流に伴う誘起電圧や発生する熱を低く抑え、さらに心臓から遠い位置に流れるよう誘導する経路であるため心臓へのダメージを軽減することができる。
図1は落雷被害軽減服の実施例を示した図であり、服を身体前方(顔側)から見たものである。(実施例1) 図2は落雷被害軽減服の実施例を示した図であり、服を身体後方(背中側)から見たものである。(実施例1) 図3は本発明の素材(断面が円形)の模式図である。(実施例2) 図4は本発明の素材(断面が多角形)の模式図である。(実施例2) 図5は本発明の素材の編みこみ方の一例である。(実施例1)
落雷時の人体への被害を最小限に抑えるという目的を、落雷時に形成される低抵抗で低インダクタンスの経路を備え、雷電流を人体ではなくその経路に誘導することにより実現した。
図1は、本発明の衣類への実施例の図である。1で示した斜線領域部分は本発明の素材が衣服の表面の広範囲に渡って編みこまれている部分、2は衣類の一部分にのみ線状に、身体に対して縦方向に施されている部分である。本発明の素材は1本または複数本使用して構成することができる。あるいは本発明の素材を、既製衣類の上に例えば幅1cm程度の帯状に貼り付けて図2の構造部分とすることもできる。1は落雷点となる可能性の高い身体上方部分すべてを覆うものであり、2は落雷点から雷電流を地面に誘導する役割をもつ。また、2の構造部分は心臓とは反対側の身体右側に配置されている。図2は図1の衣類を身体後方(背中側)から見た図である。
本発明の衣類素材は通常時には絶縁性であるため、雷を誘導しやすいということはない。しかしながら図1および図2の衣類を着用している人間の周囲に高い構造物がなく、万が一被雷した際には1の領域部分のいずれかの部分が落雷点となり、1から2の部分にかけて低抵抗で低インダクタンスの導電経路が形成されて雷電流が流れる。2の線状部分は、ズボン下端において靴に施した2の線状部分と接触しており、靴を伝って雷電流は地面に流れる。
2の線状構造を、複数本の素材を編みこむことによって施す場合、図5に示すように繊維による導電経路aが全体的な電流方向bに対して斜交するように、織目を菱形に形成することもできる。これにより局部的な電流方向が逆向きとなるため、相互誘導により互いに磁界を打ち消しあって全体的な電流方向bに生じるインダクタンスをより小さくすることも可能である。
アークプラズマは超高温になるので一般的には熱対策が必要であるが、被雷により形成される導電経路には電気抵抗がほとんどなく、雷撃電流のアーク熱を受けた際でも暴露時間は短時間であり衣類が長時間高温にさらされることはない。実際に、落雷による40μsの短時間のアークに暴露された強化プラスチック(FRP)は、表面に痕跡が見られるだけで構造的には損傷が生じないとの報告もある。とはいえ以下のように熱対策を講じることは可能であり、より身体の安全性を高めることができる。すなわち、本発明の衣類素材に使用する導電性粒子として例えば亜鉛を加えることにより、雷撃電流のアーク熱を受けた際に亜鉛が気化し、気化熱を奪うことから高温になることを防ぐことができる。さらには、導電経路に用いる素材としてPBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維等の耐熱性の素材を使用することにより身体を熱から守る効果がより期待できる。
絶縁素材の形状としては織布、不織布、またはフィルムなどのシート体を利用することができる。絶縁素材としてはポリエステル類、ポリアミド類(ナイロン等)のほかメタ系アラミド、PBO等の合成繊維やグラスウール等が挙げられる。導電性粒子としては、銀粉や亜鉛などの金属粒子のほか、カーボンブラックなどの炭素粒子、半導体粒子などを利用することができる。衣類やキャンプ用品に用いると言う点から、繊維素材としては強度や耐熱性の理由で特にPBOが、また導電性粒子としては電気抵抗が小さいことから特に銀が、また沸点が低く気化しやすいという点から特に亜鉛が好ましい。図3は本発明の素材の模式図であり、3は1本の繊維を、4は導電性粒子を示したものである。
製法の一例を以下に示す。ポリエステルの中間原料を加熱溶融して、そこに導電性粒子としてアトマイズ法で製造された平均粒子径が10μm程度の銀粉を溶媒に分散したものを混合する。これを窒素気流中で小さな孔から押し出して繊維とすることができる。この単繊維を耐熱性あるいは難燃性繊維と混紡して利用する方法のほか、ポリエステルのかわりに耐熱性・難燃性繊維の原料を母体となる繊維素材として利用することにより、より耐熱性・難燃性の高い衣類素材とすることもできる。さらには、上記工程において小さな孔から押し出して繊維とする代わりに、薄く延ばしてフィルムとして利用することもできる。
これらの繊維あるいはフィルムは、導電性粒子が適切な間隔で配置され、全体として絶縁性であるが電圧が印加された際には比較的低電圧で導電性粒子間の放電が始まる必要がある。そのため母体となる繊維あるいはフィルム素材に、それらの耐電圧にあわせて適切な濃度の導電性粒子を分散させた溶媒を混合することにより、比較的低電圧で放電が始まる素材を得ることができる。
あるいは、導電性粒子を含まない通常の繊維あるいはフィルム素材に、導電性粒子を表面にコーティングする方法も考えられる。すなわち、まず繊維あるいはフィルム素材が未硬化の状態のうちに、導電性粒子を分散させた溶媒の中を通すことにより素材表面に導電性粒子を接着させる。導電性粒子の表面周囲は溶媒で満たされており、粒子の表面張力によってほぼ等間隔に自己組織化されて並ぶ。溶媒が蒸発した後には、微小な間隔を保って配列された導電性粒子が表面に残り、当該の繊維あるいはフィルムを得ることができる。
さらには図4のように、コーティング前の未硬化の繊維を成型する際に断面を星型や十字など多角形にすることによって、表面積の大きなすなわち導電性粒子が表面により多く存在するような繊維を形成することもできる。
実際に、平均粒子径が10μmの銀粉を用いて絶縁性の樹脂表面をコーティングし、50mmの電極間距離における放電開始電圧を測定したところ、10回の測定における平均放電開始電圧が880V、その標準偏差が40Vであるとの報告もある。
本発明の素材を使用することにより、登山、ゴルフなど野外でのレジャーのほか、送電線での作業時などにも有用であると考えられる。
1 衣服のうち、本発明の素材が衣服の表面の広範囲に渡って施されている部分
2 本発明の素材が衣類の一部分にのみ線状に、身体に対して縦方向に施されている部分
3 本発明の素材とその断面の模式図
4 導電性粒子

Claims (6)

  1. 絶縁性の原料の中あるいは表面に導電性粒子を分散させることにより、通常時は絶縁性であるが、被雷時に導電性粒子間に放電が発生して導電経路を形成し、導電性となることを特徴とする繊維素材。
  2. 請求項1記載の繊維素材を使用することを特徴とする衣類
  3. 請求項1記載の繊維素材を使用することを特徴とするキャンプ用品
  4. 絶縁性の原料の中あるいは表面に導電性粒子を分散させることにより、通常時は絶縁性であるが、被雷時に導電性粒子間に放電が発生して導電経路を形成し、導電性となることを特徴とするフィルム素材を使用することを特徴とする衣類
  5. 絶縁性の原料の中あるいは表面に導電性粒子を分散させることにより、通常時は絶縁性であるが、被雷時に導電性粒子間に放電が発生して導電経路を形成し、導電性となることを特徴とするフィルム素材を使用することを特徴とするキャンプ用品
  6. 絶縁性の原料の中あるいは表面に導電性粒子を分散させることにより、通常時は絶縁性であるが、被雷時に導電性粒子間に放電が発生して溶融気化しアーク状態に移行して導電経路を形成し、導電性となることを特徴とする繊維素材
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