JP5609273B2 - 血小板解析方法及び血小板解析システム - Google Patents

血小板解析方法及び血小板解析システム Download PDF

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Description

本発明は、血小板解析方法及び血小板解析システムに関し、特に、生体内イメージングによる血小板の解析に関する。
心筋梗塞や脳卒中等の脳・心血管疾患の多くは、血栓性疾患(アテローム血栓症)である。血栓の形成においては、血小板が重要な役割を果たしている。したがって、血栓症の治療薬や治療法を開発するためには、血小板の機能解析が欠かせない。
そこで、従来、例えば、非特許文献1及び非特許文献2に記載されているように、生きた動物の血管にレーザーを照射して内皮細胞を傷つけることにより人為的に血栓形成を誘発し、誘発された血栓の形成を共焦点レーザー顕微鏡により解析することが試みられていた。
具体的に、非特許文献1には、血栓形成を誘発するためのパルス窒素色素レーザーを照射する光源と、顕微鏡観察用の入射光としてアルゴン−クリプトンレーザーを照射する光源と、をそれぞれ準備し、まず、生きたマウスの血管にパルス窒素色素レーザーを照射して血栓形成を誘発し、その後、当該血管にアルゴン−クリプトンレーザーを照射して当該血栓形成を観察することが記載されている。
このような従来の血栓形成誘発法は、レーザー誘発血管壁傷害(laser−induced vessel−wall injury)又はレーザー誘発内皮傷害(laser−induced endothelial injury)と呼ばれ、顕微鏡観察用のレーザーとは異なる比較的強いレーザーを血管に照射することによって内皮細胞を破壊し、当該内皮細胞下の組織に含まれる細胞外マトリックスを血液中に露出させることで、血栓形成を強力に誘発していた。
一方、非特許文献3においては、生きた肥満マウスの脂肪組織における血液細胞の動態を高い時空間解像度の生体内イメージング(in vivo imaging)で解析することが記載されている。ただし、この非特許文献3においては、人為的に血栓形成を誘発することについては何ら記載されていない。
Falati S, et al. Nat Med. 2002;8(10):1175-1181. Furie B, et al. J Thromb Haemost. 2007;5(Suppl 1):12-17. Nishimura S, et al. J Clin Invest. 2008;118(2):710-721.
上記従来の血栓形成誘発法によって強力に誘発される血栓形成は、血小板のみならず、内皮細胞の破壊及び細胞外マトリックスの露出に起因する様々な他の因子も関与し、血栓には白血球や赤血球も混入するといった、複雑な機構によるものであった。
しかしながら、例えば、血小板に特異的に作用する医薬品(例えば、抗血小板薬)を開発し、その薬効を判定する場合においては、シンプルな機構の血栓形成を誘発し、単一の血小板の挙動を解析することが有用である。この点、上記従来技術においては、上述のとおり、血小板に加えて多様な因子が関与する複雑な機構の血栓形成が誘発されるため、単一の血小板の挙動を解析することは困難であった。
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、人為的に誘発した血栓形成における単一の血小板の解析を実現する血小板解析方法及び血小板解析システムを提供することをその目的の一つとする。
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る血小板解析方法は、生きた動物の血管に対する入射光の照射に伴う前記血管からの出射光に基づき前記血管内の血小板を解析する方法であって、前記入射光の照射により活性酸素の生成を誘導するイニシエーター化合物が前記血管内に投与された前記生きた動物を準備し、前記イニシエーター化合物を含む血液が流通する前記生きた動物の前記血管に前記入射光を照射することによって、前記血管内における活性酸素の生成及び血栓形成の誘発と、前記血管からの前記出射光の検出と、を並行して行うことを特徴とする。本発明によれば、人為的に誘発した血栓形成における単一の血小板の解析を実現する、血小板解析方法を提供することができる。
また、前記血小板解析方法においては、前記入射光をマルチビームスキャンにより照射することとしてもよい。また、前記血小板解析方法においては、前記生きた動物の前記血管の少なくとも一部の径方向全域を含む観察視野を設定し、前記観察視野の全体に前記入射光を照射することとしてもよい。
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る血小板解析システムは、生きた動物の血管に対する入射光の照射に伴う前記血管からの出射光に基づき前記血管内の血小板を解析するシステムであって、前記入射光の照射により活性酸素の生成を誘導するイニシエーター化合物が前記血管内に投与された前記生きた動物の前記血管を保持する保持部と、前記血管内における活性酸素の生成及び血栓形成の誘発と、前記血管からの前記出射光の検出と、を並行して行うために、前記イニシエーター化合物を含む血液が流通する前記生きた動物の前記血管に前記入射光を照射する照射部と、前記血管からの前記出射光を検出する検出部と、を備えたことを特徴とする。本発明によれば、人為的に誘発した血栓形成における単一の血小板の解析を実現する、血小板解析システムを提供することができる。
また、前記血小板解析システムは、前記入射光をマルチビームスキャンにより照射することとしてもよい。また、前記血小板解析システムは、前記生きた動物の前記血管の少なくとも一部の径方向全域を含むように設定された観察視野の全体に前記入射光を照射することとしてもよい。
本発明によれば、人為的に誘発した血栓形成における単一の血小板の解析を実現する血小板解析方法及び血小板解析システムを提供することができる。
本発明の一実施形態に係る血小板解析システムの一例を示す説明図である。 本発明の一実施形態に係る血小板解析における血栓形成誘発の一例を示す説明図である。 従来の血栓形成誘発を示す説明図である。 本発明の一実施形態に係る血小板解析において設定される観察視野の一例を示す説明図である。 本発明の一実施形態に係る実施例において血小板を解析した結果の一例を示す説明図である。 本発明の一実施形態に係る実施例において血管壁に接着する血小板を定量した結果の一例を示す説明図である。 本発明の一実施形態に係る実施例において血栓の発達を定量した結果の一例を示す説明図である。
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
まず、本実施形態に係る血小板解析システム(以下、「本システム」という。)について説明する。図1は、本システムの一例を示す説明図である。図1に示す例において、本システム100は、生きた動物10の血管11に対する入射光Liの照射に伴う当該血管11からの出射光Loに基づき当該血管11内の血小板を解析するシステムであって、当該入射光Liの照射により活性酸素の生成を誘導するイニシエーター化合物が当該血管11内に投与された当該生きた動物10の当該血管11を保持する保持部110と、当該血管11内における活性酸素の生成及び血栓形成の誘発と、当該血管11からの当該出射光Loの検出と、を並行して行うために、当該イニシエーター化合物を含む血液が流通する当該生きた動物10の当該血管11に当該入射光Liを照射する照射部120と、当該血管11からの当該出射光Loを検出する検出部130と、を備えている。
保持部110は、生きた動物10の血管11に対する入射光Liの照射及び当該血管11からの出射光Loの出射が可能となるように当該動物10の当該血管11を保持する。保持部110は、例えば、顕微鏡の試料ステージとすることができ、好ましくは倒立顕微鏡の試料ステージとすることができる。
保持部110が倒立顕微鏡の試料ステージであり、動物10がマウス等の小動物である場合には、当該試料ステージ上に血管11が露出した当該動物10を載せるだけで、当該血管11を簡便に安定して保持しつつ、入射光Liの照射及び出射光Loの検出を行うことができる。
照射部120は、血管11から検出用の出射光Loを得ることに加えて、後述するイニシエーター化合物による活性酸素の生成を誘導することをも目的とした入射光Liを照射する。照射部120は、例えば、顕微鏡観察用の入射光Liを照射する装置とすることができ、好ましくは共焦点レーザー顕微鏡等のレーザー顕微鏡による観察用の入射光Liとして用いられるレーザーを照射する装置とすることができる。
レーザーの種類及び出力は、血管11から出射光Loを得ることができ、且つイニシエーター化合物による活性酸素の生成を誘導できる範囲であれば特に限られず、任意に選択することができる。すなわち、レーザーとしては、例えば、アルゴン−クリプトンレーザー、固体半導体レーザーを用いることができる。また、レーザーの出力は、例えば、生体適合性の観点から5〜50mWとすることが好ましい。
検出部130は、入射光Liの照射に対応して血管11から出射される出射光Lo(例えば、蛍光又は反射光)を検出する。検出部130は、例えば、CCD(charge−coupled device)カメラ又はCMOS(complementary metal oxide semiconductor)カメラとすることができ、好ましくはCCDカメラとすることができる。
また、本システム100は、入射光Liをマルチビームスキャンにより照射することもできる。すなわち、図1に示すように、本システム100は、入射光Liをマルチビームスキャンにより照射するための光学系を備えている。
具体的に、本システム100は、ピンホールアレイディスク(いわゆるニポウ(nipkow)ディスク)140を備えている。ピンホールアレイディスク140は、多数(例えば、数百個)のピンホール140aが所定のパターン(図1に示す例では渦巻状)で形成され、回転可能に設けられた円板状の部材である。
マルチビームスキャンにおいては、照射部120から出力された入射光Li(例えば、1本のレーザー)を複数(例えば、数百本)に分割して、分割により得られた複数の入射光Li(例えば、分割前の1本のレーザーより強度が弱い複数本のレーザー)により血管11の観察対象とする範囲をスキャンする。
また、図1に示す例において、本システム100は、さらにマイクロレンズアレイディスク141を備えている。マイクロレンズアレイディスク141は、ピンホールアレイディスク140のピンホール140aに対応する多数のマイクロレンズ141aが、当該ピンホール140aに対応するパターン(図1に示す例では同一のパターン(渦巻状))で形成され、回転可能に設けられた円板状の部材である。マイクロレンズアレイディスク141は、ピンホールアレイディスク140よりも入射光Liの下流側に配置される。
照射部120から出力された入射光Liは、マイクロレンズアレイディスク141の各マイクロレンズ141aを通過して、ピンホールアレイディスク140の対応する各ピンホール140aに集光される。
また、図1に示す例において、本システム100は、さらに処理部150及び表示部151を備えている。処理部150は、検出部130が出射光Loの検出に基づき生成した電気信号を受け入れて、当該電気信号に基づき画像データを生成する。表示部151は、処理部150が生成した画像データに基づき形成された画像を表示する。
処理部150は、例えば、CPU(central processing unit)等の処理装置や、RAM(random access memory)等の主記憶装置を備えたコンピュータとすることができる。表示部151は、例えば、液晶ディスプレイ等の表示装置とすることができる。
なお、処理部150は、例えば、保持部110(例えば、顕微鏡の試料ステージ)の移動や位置決定、照射部120による入射光Liの照射のオン/オフ、当該入射光Liの照射強度、ピンホールアレイディスク140やマイクロレンズアレイディスク141を含む光学系の条件設定等の処理を行うこととしてもよい。
ここで、図1を参照しながら、マルチビームスキャンを行うための共焦点光学系を備えた本システム100の動作について説明する。まず、照射部120は、保持部110に保持された生きた動物10の血管11に向けて入射光Liを出力する。
入射光Liは、励起フィルター142、回転するマイクロレンズアレイディスク141、ダイクロイックミラー143、回転するピンホールアレイディスク140、及び対物レンズ144を順次通過して、動物10の血管11に照射される。
入射光Liの照射によって血管11から出射された出射光Loは、対物レンズ144、回転するピンホールアレイディスク140を順次通過し、ダイクロイックミラー143により反射され、エミッションフィルター145を通過して検出部130に到達する。
出射光Loを検出した検出部130は、当該出射光Loの検出結果に対応する電気信号を生成し、当該電気信号を処理部150に出力する。処理部150は、検出部130から受け入れた電気信号に基づいて画像形成用の画像データを生成する。表示部151は、処理部150から受け入れた画像データに基づいて、血管11の画像を表示する。
本システム100のユーザは、処理部150(例えば、画像解析用のソフトウェアがインストールされたコンピュータ)を操作することにより、表示部151に表示された血管11の画像について、様々な解析を行うことができる。
次に、本実施形態に係る血小板解析方法(以下、「本方法」という。)について説明する。本方法は、上述した本システム100を用いることにより好ましく実施することができる。
本方法は、生きた動物10の血管11に対する入射光Liの照射に伴う当該血管11からの出射光Loに基づき当該血管11内の血小板を解析する方法であって、当該入射光Liの照射により活性酸素の生成を誘導するイニシエーター化合物が当該血管11内に投与された当該生きた動物10を準備し、当該イニシエーター化合物を含む血液が流通する当該生きた動物10の当該血管11に当該入射光Liを照射することによって、当該血管11内における活性酸素の生成及び血栓形成の誘発と、当該血管11からの当該出射光Loの検出と、を並行して行う方法である。
本方法においては、まず、生きた動物10を準備する。動物10は、ヒト以外の動物であれば特に限られない。すなわち、動物10としては、例えば、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類を用いることができ、哺乳類を好ましく用いることができる。
哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコを用いることができ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等の小動物を好ましく用いることができる。図1に示す例では、動物10としてマウスを用いている。また、動物10としては、その種類にかかわらず、体重が1kg以下のものを好ましく用いることができる。
動物10には麻酔をかける。麻酔の方法は、特に限られず、例えば、ウレタン、ペントバルビタール、イソフルラン等の麻酔剤を注射や吸入等の方法で動物10に投与する。
次に、麻酔をかけた動物10の血管11を観察可能となるように露出させる。すなわち、例えば、動物10の体内(例えば、腹腔内)の血管11を解析する場合には、麻酔をかけた当該動物10の体の一部(例えば、腹部)を切開して、当該血管11を外部から観察できるように一部露出させる。
解析の対象とする血管11としては、内部の血小板を観察できるものであれば特に限られず、動物10の任意の臓器又は組織に含まれる任意の血管11を解析の対象とすることができる。すなわち、血管11としては、比較的細いものが好ましく、例えば、外径が10μm以下のものが好ましい。具体的に、血管11としては、例えば、毛細血管、細動脈、後毛細血管細静脈が好ましい。このような細い血管11を含む組織としては、例えば、腸間膜、脂肪組織、骨格筋等が挙げられる。
次に、血管11を露出した生きた動物10を観察に適した位置に配置する。すなわち、図1に示すように、動物10の血管11を本システム100の保持部110に保持する。図1に示す例では、保持部110として倒立顕微鏡の試料ステージを用いているため、血管11が露出している切開部位を鉛直方向下方に向けて動物10を当該保持部110に載せるだけで、当該動物10の自重によって、当該血管11を当該保持部11に近接して安定に保持することができる。
血管11を含む観察部位は、湿潤状態に保つことが好ましい。すなわち、例えば、生理食塩水等の水溶液を用いて観察部位を湿らせ、さらに当該観察部位を非透水性で且つ透明なフィルムで覆うことにより、当該観察部位を湿潤状態で観察可能に保つことができる。
動物10の体温は、適切な範囲に維持することが好ましい。すなわち、例えば、ヒーティングプレート等の保温装置を用いて、動物10の体温を正常時の範囲(例えば、37℃)に維持する。
また、動物10の血管11内にイニシエーター化合物を投与する。イニシエーター化合物は、入射光Liの照射により活性酸素の生成を誘導する化合物であれば特に限られない。
すなわち、イニシエーター化合物としては、例えば、フォトダイナミックセラピー(PDT)において活性酸素の生成のために用いられ得る光感受性化合物を用いることができる。具体的に、例えば、ヘマトポルフィリン又はその誘導体(例えば、フォトフリン(登録商標)、レザフィリン(登録商標)、ビスダイン(登録商標))を用いることができる。
また、イニシエーター化合物としては、例えば、光増感剤として用いられ得る色素化合物を用いることができる。具体的に、例えば、ローズベンガル、メチレンブルーを用いることができる。
なお、イニシエーター化合物の使用により生成される活性酸素は、血栓形成を誘発できるものであれば特に限られず、例えば、一重項酸素やスーパーオキシドアニオンラジカル等の酸素原子からなる活性酸素や、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素が挙げられ、特に当該酸素原子からなる活性酸素が好ましい。
また、動物10の血管11内に、血漿に溶解又は分散し且つ細胞を染色しない色素化合物を投与することもできる。この色素化合物としては、例えば、蛍光化合物を用いることができる。
蛍光化合物は、血漿に溶解又は分散し且つ細胞を染色せず、入射光Liの照射により蛍光を発する化合物であれば特に限られず、例えば、蛍光物質で標識された多糖類又はタンパク質を好ましく用いることができる。具体的に、例えば、FITC(fluorescein isothiocyanate)で標識されたデキストランを用いることができる。
このような色素化合物を血管11内に投与することにより、血液のうち細胞以外の成分(すなわち、血漿)を選択的に染色し、当該血液中の細胞を非染色部分として簡便且つ明瞭に可視化することができる。
また、このような色素化合物として、血管11の内皮細胞が破壊された場合に血液中から溢出するもの(例えば、分子量が比較的小さいFITC−デキストラン)を用いることにより、当該内皮細胞の破壊の有無を簡便且つ明瞭に可視化することができる。
また、動物10の血管11内に、特定の細胞を特異的に染色する色素化合物を投与することもできる。この色素化合物としては、例えば、蛍光化合物を用いることができる。
蛍光化合物は、特定の細胞に特異的に結合し、入射光Liの照射により蛍光を発する化合物であれば特に限られず、例えば、当該特定の細胞の表面に特異的に結合する、蛍光物質で標識された抗体や、核酸を特異的に染色する蛍光化合物を好ましく用いることができる。具体的に、例えば、血小板を染色するためにFITC又はR−フィコエリスリンで標識された抗CD41抗体を用いることができ、白血球を染色するためにアクリジンオレンジを用いることができる。
このような色素化合物を血管11内に投与することにより、血液中の特定の細胞を特異的に染色して簡便且つ明瞭に可視化することができる。
動物10の血管11内に、血漿に溶解又は分散し且つ血小板を染色しない色素化合物を投与し、且つ当該血小板を何ら染色しない場合には、染色による影響(例えば、抗体が細胞表面に結合することによる影響)を何ら受けない自然な単一の血小板を、当該血管11内の非染色部分として簡便且つ明瞭に可視化することができる。動物10の血管11内にイニシエーター化合物や上述の色素化合物を投与する方法は特に限られず、例えば、静脈への注射による全身投与を好ましく用いることができる。
次に、本方法においては、イニシエーター化合物を含む血液が流通する血管11に、入射光Liを照射する。すなわち、本システム100の保持部110に保持された生きた動物10の血管11に対して、照射部120から入射光Liを照射する。
入射光Liは、血管11から出射光Loを得ることができ、且つイニシエーター化合物による活性酸素の生成を誘導できる光であれば特に限られず、例えば、レーザーを好ましく用いることができる。
レーザーの種類及び強度は、本システム100の照射部120について上述したのと同様、血管11から出射光Loを得ることができ、且つイニシエーター化合物による活性酸素の生成を誘導できる範囲であれば特に限られず、任意に選択することができる。すなわち、レーザーとしては、例えば、アルゴン−クリプトンレーザー、固体半導体レーザーを用いることができる。また、レーザーの出力は、例えば、生体適合性の観点から5〜50mWとすることが好ましい。
ここで、本発明において特徴的な点の一つは、出射光Loを得るための観察用の入射光Liを、血管11内における血栓形成の誘発に用いることである。
図2Aは、本実施形態に係る血小板解析における血栓形成誘発の一例を示す説明図である。図2Bは、従来の血栓形成誘発を示す説明図である。図2A及び図2Bには、解析の対象となる血管11の一部を模式的に示している。
血管11は、その内面を覆う内皮細胞12と、当該内皮細胞12下の組織(以下、「内皮下組織13」という。)と、を有している。内皮下組織13は、平滑筋細胞等の他の細胞及びコラーゲン等の細胞外マトリックスを含んでいる。血管11内には、血液20が流通している。血液20は、血小板21a,21b,21c、白血球22、赤血球23等の血液細胞と、当該血液細胞以外の液体成分である血漿と、を含んでいる。
従来の血栓形成誘発法においては、上述のとおり、顕微鏡観察用のレーザーとは別途独立に準備された、血栓形成誘発縫い特化した比較的強いレーザーを血管11に照射していた。したがって、図2Bに示すように、強力なレーザーの照射によって血管11の内皮細胞12の一部が破壊され、その下の内皮下組織13(特に、コラーゲン等の細胞外マトリックス)が露出して血液20と接触することによって、血栓形成が強力に誘発されていた。
これら内皮細胞12の破壊及び内皮下組織13(特に、コラーゲン等の細胞外マトリックス)の露出という強力なトリガーにより誘発された血栓形成においては、露出した内皮下組織13に血小板21cが次々に接着し、積み上がっていく。
血管11の内壁に接着した血小板21cは、図2Bに示すように、血液20中を流れる血小板21aのような円板状から、とげのあるいびつな形状に変形し、活性化される。また、こうして強力に誘発された血栓形成には、内皮細胞12の破壊及び内皮下組織13の露出に起因する様々な因子(例えば、コラーゲンや組織因子)が関与し、形成された血栓には、白血球22や赤血球23等の他の血液細胞が混入する。このように、従来の血栓形成誘発法においては、必然的に、複雑な機構による血栓形成が誘発されていた。
これに対し、本方法においては、観察用の比較的弱い入射光Li(例えば、レーザー顕微鏡における観察用のレーザー)を、イニシエーター化合物が投与された血管11に照射することにより、血栓形成を穏やかに誘発する。
すなわち、血管11内を流通する血液20に含まれるイニシエーター化合物に観察用の入射光Liを照射することにより、当該血管11内において活性酸素を生成する。より具体的に、血管11の解析対象とする範囲に入射光Liを継続的に照射することにより、当該範囲において、活性酸素を継続的に生成する。
このとき、照射される入射光Liは、観察用の出射光Loの取得に適した比較的弱いものであるため、図2Aに示すように、血管11の内皮細胞12は、破壊されない。したがって、上記従来法とは異なり、内皮細胞12の破壊及び内皮下組織13の露出に起因する様々な因子の関与や、血小板21a,21b以外の血液細胞の混入を効果的に低減又は回避することができる。
そして、継続的な活性酸素の生成をトリガーとして、血小板21bは、血管11の内面を覆っている内皮細胞12の表面に接着し、積み上がっていく。このとき、血管11の内壁に接着した血小板21bは、図2Aに示すように、血液20中を流れる血小板21aと同様に、円板状の形状を維持している。すなわち、円板状の血小板21bが内皮細胞12上に積み上がることにより、実質的に当該血小板21bのみからなる血栓が形成される。
したがって、本方法によれば、単一の血小板21bの挙動を観察するのに適した、シンプルな機構による血栓形成を簡便に且つ確実に誘発することができる。なお、血小板21bの形状が円板状に保たれたまま血栓形成が促進される機構の詳細は明らかでないが、例えば、従来法とは異なり、内皮細胞12を破壊することなく、イニシエーター化合物を介して生成された活性酸素のみをトリガーとして用いることにより、血小板21bが穏やかに活性化されることによるものと考えられる。
また、本発明において特徴的な点の他の一つは、血管11内における活性酸素の生成及び血栓形成の誘発と、当該血管11からの当該出射光Loの検出と、を並行して行うことである。
すなわち、本方法においては、上述のとおり、血栓形成の誘発に観察用の入射光Liを用いるため、当該血栓形成の誘発と同時に、血管11から観察用の出射光Loを得ることができる。したがって、血管11内における血栓形成の開始前又は開始時から、単一の血小板21bの挙動を確実に観察することができる。
また、本方法においては、極めて短時間で血栓を形成することができる。すなわち、例えば、入射光Liの照射開始から5〜20秒程度の間に、血小板21bの血管壁への接着、積み上がり、凝集及び血管11の閉塞といった、血栓形成の全過程を実現することができる。
したがって、血管11内に投与された色素化合物の退色を効果的に低減しつつ、血栓形成の全過程における単一の血小板21bの挙動を明瞭且つ確実に観察することができる。
また、本方法においては、入射光Liをマルチビームスキャンにより照射することもできる。この場合、図1に示すように、マルチビームスキャンを行うための光学系を備えた本システム100を好ましく用いることができる。
マルチビームスキャンにおいては、上述のとおり、複数の比較的弱い入射光Liにより血管11の所定範囲をスキャンするため、当該血管11の各照射点における照射強度を低く抑えながら、当該血管11の当該所定範囲に高速で入射光Liを照射することができる。
したがって、血管11内に投与された色素化合物の退色を効果的に低減しつつ、上述の穏やかな血栓形成を短時間で効率よく誘発するとともに、当該血栓形成における単一の血小板21bの挙動を明瞭且つ確実に観察することができる。
また、本方法においては、血管11の少なくとも一部の径方向全域を含む観察視野を設定し、当該観察視野の全体に入射光Liを照射することもできる。図3は、本発実施形態に係る血小板解析において設定される観察視野の一例を示す説明図である。
図3に示す例において、生きた動物10において露出させた血管11は、第一の分岐部分11aと、第二の分岐部分11bと、これら2つの分岐部分11a,11bが下流端で合流して形成された合流部分11cと、を含んでいる。そして、この例においては、図3に示すように、第一の分岐部分11a、第二の分岐部分11b及び合流部分11cのそれぞれの径方向全域を含む観察視野30(図3において破線で囲まれた矩形範囲)を設定し、当該観察視野30の全体に入射光Liを照射する。
したがって、この観察視野30に含まれる血管11の各部分11a,11b,11cの径方向全域において、活性酸素を効率よく生成させて速やかに血栓形成を誘発するとともに、当該血栓形成における単一の血小板の挙動を確実に観察することができる。なお、図3に示すような血管11について、例えば、合流部分11cの径方向全域を含み、第一の分岐部分11a及び第二の分岐部分11bを含まない観察視野30を設定することもできる。
また、このような観察視野30の全体に、上述のマルチビームスキャンによって入射光Liを照射することにより、血管11内に投与された色素化合物の退色を効果的に低減しつつ、血管11の径方向全域において、血栓形成を短時間で効率よく誘発するとともに、当該血栓形成における単一の血小板21bの挙動を明瞭且つ確実に観察することができる。
なお、図1に示すような本システム100を用いて観察視野30を設定する場合には、例えば、画像解析用ソフトウェアがインストールされたコンピュータを処理部150として用い、液晶ディスプレイ等の表示部151に表示された血管11の画像の所望の範囲を座標値等に基づき当該観察視野30として指定する。
そして、本方法においては、血管11からの出射光Loを検出し、当該検出の結果に基づいて、生きた動物10の血管11内における単一の血小板21a,21b(図2A参照)を解析する。
すなわち、例えば、出射光Loの検出結果に基づき、血管11内における単一の血小板21a,21bの経時的な挙動を示す画像を逐次的に取得する。具体的に、例えば、本システム100においては、検出部130による出射光Loの検出結果に基づき、処理部150が所定の時間間隔で得られた当該検出結果に対応する複数の画像データを生成し、表示部151が当該複数の画像データに対応する画像を、当該所定の時間間隔で撮影された複数の画像(静止画又は動画)として表示する。
また、こうして所定の時間間隔で得られた複数の画像に基づき、血栓形成における単一の血小板21bを定性的又は定量的に解析することもできる。すなわち、例えば、上述のように誘発されたシンプルな血栓形成において、単一の血小板21bが血管壁に接着し、積み上がり、血栓が発達し、安定化していく過程の全部又は一部における当該単一の血小板21bの挙動を定性的又は定量的に解析する。
具体的に、例えば、血漿に溶解又は分散し且つ血小板21a,21bを染色しない色素化合物を血管11に投与し、且つ当該血小板21a,21bを何ら染色しない場合には、単一の血小板21a,21bは、染色された血漿のバックグラウンド中で染色されていない粒子として、明瞭に可視化されるため、個々の血小板21bの形状及び数を経時的に評価することができる。
なお、白血球22や赤血球23等の他の血液細胞を染色しない場合であっても、単一の血小板21a,21bは、細胞のサイズによって簡便に且つ確実に、当該他の血液細胞と区別することができる。
定性的又は定量的な解析は、例えば、図1に示すような本システム100において、処理部150として、解析用のソフトウェアがインストールされたコンピュータを用いることにより行うことができる。
このように、本方法及び本システム100によれば、シンプルな機構による血栓形成を誘発することができ、且つ当該血栓形成における単一の血小板21bの挙動を簡便に且つ効率よく解析することができる。
すなわち、本方法及び本システム100によれば、単一の血小板が血栓を形成する様子を手に取るように可視化できる、従来にない、生体内イメージング(in vivo imaging)による単一血小板の機能評価システムを実現することができる。その結果、従来の「血小板凝集塊のイメージング」ではなく、「単一血小板のイメージング」が可能となった。
しかも、本方法で形成される血栓は、白血球や赤血球が混入しない、実質的に血小板のみからなる血栓である。この点、例えば、抗血小板薬の薬効判定においては、シンプルなモデルの方が薬効の差異を検出しやすい。
したがって、血小板のみからなるシンプルな血栓形成を人為的に実現する本方法及び本システム100は、例えば、抗血小板薬等の血小板を標的とした新規医薬品の薬効判定の評価系として極めて有用である。
また、本方法及び本システム100によれば、従来の止血時間の測定や、頸動脈の閉塞時間の測定等の評価とは異なり、単一血小板の動態を可視化することができる。すなわち、血小板が血管壁に付着し、積み上がり、血栓が発達し、安定化してく、血栓形成に関する全ての過程を定量的に解析することができる。具体的に、例えば、入射光Liの照射後に血栓形成に寄与した血小板の数を測定することにより、当該血小板の血栓形成能を定量することができる。
この定量結果は、従来の生きた動物の頸動脈に塩化鉄による傷害を起こすモデルにおける血栓による閉塞時間と強い相関を示しており、生体内の血小板機能を極めて鋭敏に示していると考えられる。しかも、上述のとおり、従来の止血時間の計測では分からなかった、血栓形成の素過程を可視化することができる。
したがって、本方法及び本システム100は、例えば、遺伝子改変された動物において、当該遺伝子改変が血栓形成のどの過程に影響を及ぼしているかの評価系等、血小板機能の評価系としても極めて有用である。
次に、本実施例形態に係る具体的な実施例について説明する。
[解析システム]
図1に示すような本システム100を用いた生体内イメージングにより、単一の血小板の挙動及び血栓形成の過程を可視化した。すなわち、倒立顕微鏡の試料ステージである保持部110と、アルゴン−クリプトンレーザー(励起波長λmaxが488nm又は568nm、出力30mW)を照射するレーザー発振装置である照射部120と、ピンホールアレイディスク140及びマイクロレンズアレイディスク141を含む光学系と、を備えたニポウ式スピニングディスク共焦点顕微鏡(CSU−X1、横河電機株式会社製)を用いた。この光学系は、対物レンズ144(100倍油浸、開口数1.40)、マルチダイクロイックミラー(ダイクロイックミラー143)及び適切なバンドパスフィルター(励起フィルター142、エミッションフィルター145)を含んでいた。
検出部130としては、EM−CCD(electron multiplying charge−coupled device)カメラ(iXon、Andor社製)を用いた。処理部150としては、解析用ソフトウェア(IpLab software version 3.6、Scanalytics Inc.)がインストールされたコンピュータを用いた。表示部151としては、液晶ディスプレイを用いた。
これらの構成を備えた本システム100は、高い時空間解像度(80nm/ピクセル)を有しており、ピンホールアレイディスク140及びマイクロレンズアレイディスク141を5000rpmで回転させることにより、1000フレーム/秒までの高速で画像取得が可能であった。
また、本システム100は、動物10の臓器や組織の表面から100μm程度の深さまでであれば、細胞や血流を明瞭に観察することが可能であった。なお、本システム100の空間解像度は、光を用いた観察における解像度の理論的な最大値(回折限界)にほぼ達していた。
[血栓形成における単一血小板の可視化]
動物としては、オスのC57BL/6マウスを使用した。尾静脈への注射により1.5g/kg−BW(body weight)のウレレタンを全身投与することでマウスを麻酔した。麻酔したマウスの腹部に、腸間膜を体外から観察できる程度の小さな切開を形成した(観察窓のサイズは5mm程度であった)。切開部分は、生理食塩水で湿らせるとともに非透水性で透明な樹脂フィルムで覆うことにより、湿潤状態に維持した。
細胞をネガティブイメージで可視化するため、尾静脈への注射により20mg/kg−BWのFITC−デキストラン(分子量140000)をマウスに全身投与した。腹部の切開部分が試料ステージに近接するように、マウスをうつぶせにして当該試料ステージに載せた。また、ヒーティングプレートを用いて、試料ステージ上のマウスの体温を37℃に維持した。また、レーザー照射により活性酸素(ROS:reactive oxygen species)を生成するため、尾静脈への注射により、1.8mg/kg−BWのヘマトポルフィリンを、マウスに全身投与した。解析の対象とした毛細血管の直径は2〜10μmであった。コンピュータ上で、毛細血管の一部の径方向全域を含む観察視野を設定した。
そして、マルチビームスキャンにより、この観察視野全体に、アルゴン−クリプトンレーザー(励起波長488nm、出力30mW)を20秒間照射した。このレーザー照射によって、観察視野内の毛細血管の径方向全域において、活性酸素の生成を介した血栓形成の誘発及び進行と、当該毛細血管内における血小板の挙動を示す逐次的な画像の取得と、を並行して行った。画像は、30フレーム/秒で取得した。また、各画像を得るためのレーザー照射時間は10ミリ秒であった。
図4は、本実施例において血小板を解析した結果の一例を示す説明図である。図4には、レーザー照射の開始後、2秒(2s)、4秒(4s)、8秒(8s)、12秒(12s)及び16秒(16s)が経過した時点において得られた画像を示している。右列の画像は、対応する左列の画像の一部(左列最上の画像において四角の枠で囲まれた部分及び左列他の画像における対応する部分)を拡大した部分画像である。なお、毛細血管内において血液は、左列最上の画像に示す矢印の指す方向に流れていた。
図4に示すように、毛細血管内は血液に含まれるFITCの蛍光により染色され、血小板を含む血液細胞は、当該蛍光のバックグラウンド中において染色されていない黒い粒子として可視化された。個々の血小板は、そのサイズに基づいて他の血液細胞から区別され、染色されていない円板状の黒い粒子として明瞭に可視化された。
図4に示すように、腸間膜の毛細血管に対するレーザー照射を開始してから少なくとも4秒後には、当該毛細血管内において、血小板が円板状のまま血管壁に接着し始めた。すなわち、レーザー照射開始後数秒以内に起こる、血栓形成の極めて初期の段階を観察することができた。
その後、血液中を流れる血小板がさらに急激に積み重なった(pile−up)。積み重なった血小板は、図2Aにも示したように、円板状の形状を保っていた。さらに、形成された血栓により、毛細血管の内径が低減され、血液の流速も低減された。そして、レーザー照射開始から16秒後には、円板状の血小板が凝集して形成された血栓により、毛細血管はほぼ閉塞された。
本実施例に係る生体内イメージングによれば、図4に示すように、血管壁に接着する単一の血小板及び血栓を形成する単一の血小板を明瞭に可視化できるため、積み重なった血小板の数(血栓形成の間に血管壁に接着した血小板の数)、及び血小板により形成される血栓の発達は、得られた画像に基づき定量的に評価することができた。すなわち、得られた画像中に示されている、毛細血管と相互作用して内皮細胞の表面に接着する血小板の数を数えることにより、血小板の血管壁への接着(adhesion)を定量評価した。また、画像中に示されている、血栓を構成する血小板の数を数えることにより、血栓の発達を定量評価した。なお、解析の対象が血小板であることを確認するために、血管内に抗GPIbα抗体(GPIbα中和抗体)を投与した場合と、投与しない場合と、で定量評価を行った。
図5には、血小板の血管壁への接着を定量評価した結果を示す。図6には、血栓の発達を定量評価した結果を示す。図5及び図6の横軸において、抗GPIbα抗体「あり」は当該抗GPIbα抗体を投与した場合の結果であることを示し、「なし」は当該抗GPIbα抗体を投与しなかった(厳密には、当該抗GPIbα抗体に代えて、血小板に結合しないIgGを対照として投与した)場合の結果であることを示す。図5の縦軸は、毛細血管の単位長さ(1μm)あたり、且つ単位ミリ秒(1ms)あたりに血管壁に接着した血小板の数(platelets/μm/ms)を示している。図6の縦軸は、毛細血管の単位長さ(1μm)あたりに形成された血栓に含まれる血小板の数(platelets/μm)を示している。また、図6には、レーザー照射を開始した直後、すなわち0秒後(0s)と、当該レーザー照射を開始してから10秒後(10s)及び20秒後(20s)の定量結果を示す。図6に示す複数の点は、毛細血管の複数の場所における定量結果を示す。
図5に示すように、血管壁に付着した血小板の数を数えることにより、血小板の接着を定量的に評価することができた。すなわち、レーザー照射による血栓形成の誘発により、毛細血管1μmあたり且つ1ミリ秒あたり約30個の血小板が血管壁に接着した。これに対し、抗GPIbα抗体を投与した場合には、レーザー照射を行っても、血小板はほとんど血管壁に接着しなかった(すなわち、抗GPIbα抗体によって血管壁への血小板の接着が抑制された)。このように、様々な血液細胞のうち、レーザー照射によって血管壁に接着し始める単一の血小板を特異的に定量評価することができた。
また、図6に示すように、血栓に含まれる血小板の数の経時的な変化を評価することにより、血栓の発達を定量的に評価することができた。すなわち、図6に示すように、レーザー照射を開始してから20秒間という短時間で、血栓を構成する血小板の数が急激に増加した(すなわち、血小板により形成される血栓が急激に発達した)。これに対し、抗GPIbα抗体を投与した場合には、血栓を形成する血小板はほとんど見られなかった(すなわち、抗GPIbα抗体によって血栓形成が抑制された)。このように、血小板により形成される血栓の発達を特異的に定量評価することができた。
また、レーザー照射による血栓誘発後の毛細血管内面のイソレクチンIB4(Griffonia simplicifolia IB4 isolectin:血管内皮細胞のマーカー)を染色した結果、当該毛細血管の内皮細胞は損傷を受けていないことが確認された。
また、低分子量のFITC−デキストラン(分子量4000)を毛細血管内に投与して同様の解析を行ったところ、レーザー照射による血栓形成誘発後において、蛍光色素の溢出は観察されず、当該レーザー照射によって毛細血管の透過性は影響を受けなかった(すなわち、内皮細胞は破壊されていなかった)ことも確認された。
[Lnkアダプタータンパク質に関する解析]
また、Lnk(lymphocyte adaptor protein、Sh2b3としても知られている。)というアダプタータンパク質に関する検討も行った。Lnkは、血球系幹細胞の維持に重要なタンパク質であるが、巨核球及び血小板にも発現している。興味深いことに、Lnkの欠損した遺伝子改変動物では、流血中の末梢血小板数が野生型の5倍になるにもかかわらず血栓が形成されず、止血時間はむしろ延長しており、Lnkの欠損が血小板機能に影響をもたらしていると考えられた。
そこで、骨髄移植を行うことにより作製したLnkキメラマウスを用い、上述したのと同様の生体内イメージングにより血栓形成過程を観察した。すなわち、まず、麻酔したLnkキメラマウスにFITC−デキストラン及びヘマトポルフィリンを静脈投与した。
次いで、上述した共焦点レーザー顕微鏡及びCCDカメラを備えた本システム100を用いて、当該キメラマウスの腸間膜の毛細血管にアルゴン−クリプトンレーザーを照射して、当該毛細血管内の血小板の挙動を可視化した。また、比較として、ワイルドタイプのマウスについても同様の解析を行った。
その結果、ワイルドタイプのマウスでは、図4に示す上述の例と同様、レーザー照射によって、円板状の血小板が血管内皮細胞に接着し、積み重なって安定な血栓を形成することが確認された。
これに対し、Lnkキメラマウスでは、レーザー照射によって、円板状の血小板は血管内皮細胞に接着するものの、血小板の積み重なり及び血栓の安定化は起こらず、血管壁に接着した血小板は血流に押し流され、血小板血栓の発達が阻害されていることが確認された。
すなわち、Lnkは、血栓の安定化に寄与していることが示された。なお、分子生物学的機序については、リン酸化したLnkが、インテグリンのシグナリングにC−Src、Fyn等と協同して関与していた。
このように、本方法及び本システム100は、人為的に誘発された血栓形成に関連する単一の血小板の機能を簡便に且つ効率よく評価することのできる、従来にない手法を提供するものであった。
10 動物、11 血管、11a 第一の分岐部分、11b 第二の分岐部分、11c 合流部分、12 内皮細胞、13 内皮下組織、20 血液、21a,21b,21c 血小板、22 白血球、23 赤血球、30 観察視野、100 血小板解析システム、110 保持部、120 照射部、130 検出部、140 ピンホールアレイディスク、140a ピンホール、141 マイクロレンズアレイディスク、141a マイクロレンズ、142 励起フィルター、143 ダイクロイックミラー、144 対物レンズ、145 エミッションフィルター、150 処理部、151 表示部。

Claims (4)

  1. 生きた動物の血管に対する入射光の照射に伴う前記血管からの出射光に基づき前記血管内の血小板を解析する方法であって、
    前記入射光の照射により活性酸素の生成を誘導するイニシエーター化合物と、血漿に溶解又は分散し且つ細胞を染色しない色素化合物とが前記血管内に投与された前記生きた動物を準備し、
    前記生きた動物の前記血管の少なくとも一部の径方向全域を含む観察視野を設定し、
    前記イニシエーター化合物と前記色素化合物とを含む血液が流通する前記生きた動物の前記血管の前記観察視野の全体に、前記血管の内皮細胞を破壊しない前記入射光を照射することによって、前記内皮細胞を破壊することなく、前記血管内における前記イニシエーター化合物による活性酸素の生成及び血栓形成の誘発と、前記色素化合物により前記血漿が染色された前記血管からの前記出射光の検出と、を並行して行う
    ことを特徴とする血小板の解析方法。
  2. 前記入射光をマルチビームスキャンにより照射する
    ことを特徴とする請求項1に記載された血小板の解析方法。
  3. 生きた動物の血管に対する入射光の照射に伴う前記血管からの出射光に基づき前記血管内の血小板を解析するシステムであって、
    前記入射光の照射により活性酸素の生成を誘導するイニシエーター化合物と、血漿に溶解又は分散し且つ細胞を染色しない色素化合物とが前記血管内に投与された前記生きた動物の前記血管を保持する保持部と、
    前記血管の内皮細胞を破壊することなく、前記血管内における前記イニシエーター化合物による活性酸素の生成及び血栓形成の誘発と、前記色素化合物により前記血漿が染色された前記血管からの前記出射光の検出と、を並行して行うために、前記イニシエーター化合物と前記色素化合物とを含む血液が流通する前記生きた動物の前記血管の少なくとも一部の径方向全域を含むように設定された観察視野の全体に、前記内皮細胞を破壊しない前記入射光を照射する照射部と、
    前記血管からの前記出射光を検出する検出部と、
    を備えた
    ことを特徴とする血小板の解析システム。
  4. 前記入射光をマルチビームスキャンにより照射する
    ことを特徴とする請求項3に記載された血小板の解析システム。
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