JP5599455B2 - 基材のコーティングのための方法及びコーティングを有する基材 - Google Patents

基材のコーティングのための方法及びコーティングを有する基材 Download PDF

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Description

本発明は、それぞれのカテゴリの独立請求項の導入部分による基材のコーティングのための方法及びコーティングを有する基材に関するものである。
熱溶射法は、基材上にコーティング、例えば、腐食保護層又は浸食保護層を堆積することにおいて有効であると確認されている。特に、金属材料又は炭化物材料が熱溶射法に使用され、基材上に金属層若しくは硬質金属層又は炭化物層が形成される。今日、特に典型的には、大気圧プラズマ溶射(APS)プロセス又は高速フレーム(HVOF)プロセスが、硬質金属層又は炭化物層に対して良好に使用されている。
これらの方法においては、直接見通しがきく(direct line of sight)領域内だけでコーティングを行うことができるという事実の中に、これらの方法の制約を認めることができる。これは、プロセス・ジェットの幾何学的な死角領域に位置する、コーティングされるべき基材の内側表面又は隠れた表面を、一般的にコーティングできないということを意味する。
国際公開第03/087422号 米国特許第5,853,815号明細書 欧州特許出願公開第0960954号明細書
そこで、本発明の目的は、プロセス・ジェットの直接見通しがきく領域内に位置しない、基材のこのような表面をコーティングすることが可能な、基材のコーティングのための方法を提供することである。本発明方法は、金属基材上に硬質金属層又は炭化物層を生成することに特に適している。さらに、本発明は、このようにしてコーティングされた基材を提供する。
この目的を満足する本発明の主題は、それぞれのカテゴリの独立請求項によって特徴付けられる。
したがって、本発明によれば、基材のコーティングのための方法が提供される。この方法においては、プロセス・ジェットをデフォーカス(defocus、焦点をぼけさせる)するプラズマ中へ出発材料を注入し、その中において、最大20,000Paの低いプロセス圧力で、出発材料を液相又は流動化(plasticized)した相へ部分的に又は完全に溶融して、出発材料をプラズマ溶射によってプロセス・ジェットの形で基材へ溶射する。出発材料が金属母材又は金属合金を含有しており、プロセス・ジェット中の出発材料Pの温度が金属母材又は金属合金の沸点よりも低くなっており、液相又は流動化した相からの堆積によって、基材が、プロセス・ジェットに対して幾何学的な死角に位置する少なくとも1つの領域においてコーティングされるように、プロセス・ジェット用のガス流を設定する。
この方法は、国際公開第03/087422号、又は米国特許第5,853,815号明細書に一般的に記載されている特定のプラズマ溶射法である。すなわち、いわゆるLPPS(低圧プラズマ溶射)薄膜の形成のための熱溶射である。
これは、特にLPPS薄膜(LPPS−TF)プロセスである。ここで、従来のLPPSプラズマ溶射法は、技術的なプロセスの方法で修正されており、プラズマ(「プラズマ火炎」又は「プロセス・ジェット」)が流れる空間が、その変更に起因して広げられ、最大2.5mの長さに拡張されている。プラズマの幾何学的な広がりによって、キャリア・ガスによってプラズマ中へ注入されるプロセス・ジェットの一様な拡張(「デフォーカシング」)がもたらされる。プロセス・ジェットの材料が、一様な分布で基材10の表面に到達する。プロセス・ジェットの材料は、プラズマ中にクラウド(雲)を形成するために分散され、そこで部分的に又は完全に溶融される、又は少なくとも流動化される。
ここで、出発材料中の金属母材に関して又は金属合金に関して、プロセス・ジェットに対して幾何学的な死角にある領域において、液相からの堆積が実現されるように、プロセス・ジェット用のガス流を設定するという認識が、本発明にとって重要である。したがって、プロセス・ジェットの直接見通しがきく領域内にはない(見通しがきく領域外の)隠れた領域又は内側領域内に、プロセス・ジェットの液相から堆積させることが、やはり可能である。ここで、プロセス・ジェット中の金属出発材料の温度が金属母材又は金属合金の沸点よりも低くなるように、プラズマのエネルギー含有量を設定することが重要である。金属成分を、単に流動化させる又は溶融させるべきであり、金属成分の蒸発を回避すべきである(大部分の蒸発を少なくとも回避すべきである)。出発材料の粒子温度は、金属母材又は金属合金の沸点の90%、好ましくは80%、特に70%を超えるべきではない。
プラズマのエネルギー含有量に加えて、プロセス・ジェット中の出発材料の粒子温度に影響を与えるさらなるパラメータは、出発材料がプラズマ中へ運ばれる供給速度である。供給速度が大きいと、プラズマ火炎中の出発材料の滞留時間が非常に短くなり、出発材料の粒子中への熱入力が平均的に小さくなり、供給速度を介して、プロセス・ジェット中の出発材料の温度を金属母材又は金属合金の沸点よりも確実に低くすることができる。これによって、金属成分が蒸発することも回避することができる。実際、それは、それを介して粒子温度が設定される供給速度とプラズマ・パラメータとの組み合わせである。
出発材料をプロセス・ジェット中へと導入する供給角度も、プロセス・ジェット中の出発材料の粒子温度に影響を与える。一般的に、吐出ノズルの内部の出発材料をプロセス・ジェット中へと注入することが通例である。この点において、出発材料をプロセス・ジェットの流れ方向に垂直に−即ち、半径方向に−プロセス・ジェット中へと導入するか、または、出発材料をプロセス・ジェットの流れ方向に斜めに注入することのどちらかが可能である。このケースでは、「下流方向」及び「上流方向」の2つの変化形がある。上流方向注入では、プロセス・ジェットの流れ方向に対して斜め方向に逆らって出発材料を注入する。下流方向注入では、プロセス・ジェットの流れ方向の方向に斜めに出発材料を注入する。上流方向注入では、プラズマ中の、特に、吐出ノズル内の高エネルギー領域中の滞留時間が、下流方向注入の場合よりも長いために、出発材料中へのより大きな熱入力が生じる。したがって、金属成分が実質的に気相になることを回避することに関して、下流方向注入がより有利であるため、本発明方法にとって下流方向注入が好ましい。
プロセス圧力は、少なくとも50Paであり、最大10,000Paであることが好ましい。
プロセス・ジェットのガス流が50〜200SLPM(標準リットル毎分)の全流量を有するとき、隠れた領域のコーティングが特に良好であることが見出されている。
プロセス・ジェット用の吐出ノズルと基材との間の溶射距離が、50mm〜1500mmであり、好ましくは400mmよりも大きく、特に好ましくは700mm〜1000mmである場合には、距離に関して好都合である。
粉末供給に関して、供給速度が選択されると好ましい。
本発明方法は、基材上に腐食保護層又は浸食保護層を形成するのに適している。
本発明方法を用いて、金属層、硬質金属層、又は炭化物層が、形成されることが好ましい。
好ましい実施形態では、出発材料は、MCrAlXタイプの金属合金であり、ここでは、Mがニッケル(Ni)及び/又はコバルト(Co)及び/又は鉄(Fe)を表し、Xがイットリウム(Y)及び/又はジルコニウム(Zr)及び/又はハフニウム(Hf)を表す。これらのMCrAlX化合物のXについて、イットリウムを使用することが特に好ましい。これらの化合物を用いて、非常に良好な腐食保護層を生成することができる。ここで、本発明によれば、これらのMCrAlX化合物は、プロセス・ジェットの幾何学的な死角の液相からも生成されることができる。
本発明方法は、層が炭化タングステン又は炭化クロム、及びニッケル−クロム又はコバルト−クロムを含有する基材上に形成されるときにも特に適している。
さらに好ましい変形例は、ニッケル−クロム層又はニッケル−炭化クロム層が、基材上に形成されるときである。
出発材料は、2つの金属及び炭素を各々が実質的に有する粒子を含む溶射粉末であり、第1の金属が、第2の金属と合金を作る部分、及び炭素と炭化物を形成する別の部分を含むことが好ましい。
この点において、第1の金属は、好ましくはクロム、2番目に好ましくはニッケルであり、炭化物が析出物の形で金属母材中に一様に分布する。
出発材料Pは、好ましくは5〜50マイクロメートル、特に10〜20マイクロメートルのサイズの粒子を含む溶射粉末である。このサイズは、個々の粒子がより小さな粒子へ分解することを防止することに有効であることが確認されている。それに加えて、炭化物の場合には、この粒子サイズによって炭化物の熱分解が起きることを防止することができる。
本発明方法は、基材が回転機械、特にポンプのロータであるときに特に適している。
さらに本発明によって、プラズマ溶射によって形成されるコーティングを有する基材が提供される。出発材料がプロセス・ジェットをデフォーカスするプラズマ中へ注入され、その中において、最大20,000Paの低いプロセス圧力で、液相又は流動化した相へ部分的に又は完全に溶融されて、出発材料がプロセス・ジェットの形で基材上へ溶射される。出発材料Pが金属母材又は金属合金を含有しており、プロセス・ジェット2中の出発材料Pの温度が金属母材又は金属合金の沸点よりも低くなっており、コーティングが液相又は流動化した相からの堆積によって形成され、コーティングがプロセス・ジェットに対して幾何学的な死角に位置する少なくとも1つの領域に形成される。
好ましい実施形態では、コーティングは、硬質金属コーティング又は炭化物コーティングである。
本発明のさらなる有益な手段及び好ましい実施形態が、従属請求項からもたらされる。
実施例及び図面を参照して本発明をより詳細に下記に説明する。これらは、概略的な図面であり、一部は断面で示されている。
本発明方法を実行するための装置の概略図である。 本発明方法を使用してコーティングしたポンプのロータの平面図である。 図2のロータの上半分(カバー)の一部の概略的な断面図である。
基材のコーティングのための本発明方法は、真空にすることができるプロセス・チャンバを含むプラズマ溶射装置によって実行される。
図1は、プラズマ溶射装置を非常に概略的な図で示す。プラズマ溶射装置は、全体を参照番号1によって示されており、このプラズマ溶射装置は、本発明方法を実行するのに適している。さらに、図1には、その上に層11が堆積した基材10が概略的に示されている。
本発明方法は、国際公開第03/087422号又は米国特許第5,853,815号明細書に一般的に記載されているプラズマ溶射を含むことが好ましい。このプラズマ溶射法は、いわゆるLPPS(低圧プラズマ溶射)薄膜の形成のための熱溶射である。
LPPS薄膜(LPPS−TF)プロセスは、図1に示されたプラズマ溶射装置を使用して具体的に実行される。ここで、従来のLPPSプラズマ溶射法は、技術的なプロセスの方法で修正されており、プラズマ(「プラズマ火炎」又は「プロセス・ジェット」)が流れる空間が、その変更に起因して広げられ、最大2.5mの長さに拡張されている。
プラズマの幾何学的な広がりによって、キャリア・ガスによってプラズマ中へ注入されるプロセス・ジェットの一様な拡張(「デフォーカシング」)がもたらされる。プロセス・ジェットの材料が、一様な分布で基材10の表面に到達する。プロセス・ジェットの材料は、プラズマ中にクラウドを形成するために分散され、そこで部分的に又は完全に溶融される。
図1に示されたプラズマ溶射装置1は、プラズマの発生用のプラズマ・トーチを含むプラズマ発生器3を含む。プラズマ発生器3は、それ自体は公知であり、これ以上詳細には示さない。出発材料P、プロセス・ガス混合物G、及び電気エネルギーEから、プラズマ発生器3を使用して、それ自体公知の方法でプロセス・ジェット2を発生させる。図1では、これらの構成要素E、G、Pの供給が、矢印4、5、6によって表示されている。発生させられたプロセス・ジェット2は、吐出ノズル7を介して吐出される。プロセス・ジェット2は、プロセス・ジェット2の形態で出発材料Pを搬送する。プロセス・ジェット2において、コーティング材料21、22がプラズマ中に分散されている。この搬送が、矢印24によって表示されている。コーティング材料が複数の相で存在できる−しかし必ずしもその必要はない−ということが、異なる参照番号21、22によって示されている。少なくとも1つの液相21は存在する。さらに、固相及び/又は気相22が、プロセス・ジェット2中に含有されることができる。基材10上に堆積した層11の形態は、プロセス・パラメータ、並びに特に出発材料P、プロセス・エンタルピー、及び基材10の温度に依存する。図1には、真空にすることができるプロセス・チャンバは示されていない。
本明細書において記載されたLPPS−TFプロセスでは、出発材料Pがプラズマ中へ注入される。プラズマは、低いプロセス圧力でプロセス・ジェットをデフォーカスする。その圧力は、最大20,000Paであり、好ましくは最大10,000Paである。そして、出発材料Pは、液相21が生じるように部分的に又は完全にプラズマ中で溶融されている。この目的のために、非常に高密度の層11が基材上に生じるように、十分に大きな比エンタルピーを有するプラズマが発生させられる。層組織などの層の構造は、コーティング条件によって、特にプロセス・エンタルピー、プロセス・チャンバ内及びプロセス・ジェット内の動作圧力によって、実質的に影響され制御可能である。したがって、プロセス・ジェット2は、制御可能なプロセス・パラメータによって決定される特性を有する。
図1に示されているように、基材10は、プロセス・ジェット2に対して幾何学的な死角に位置する少なくとも1つの領域101を有する。この領域は、例えば、基材の隠れた領域101又は内側表面である。これらの幾何学的な死角領域又は隠れた領域若しくは覆われた領域は、プラズマ溶射のプロセス・ジェット2によって、幾何学的な意味で直接作用を受けない(見通しがきく領域外の)幾何学的な死角領域101又は隠れた領域若しくは覆われた領域101という意味である。プロセス・ジェット2中で基材10を回転させても、又はプロセス・ジェット2と基材10との間で他の相対的な運動をさせても、やはりこのような領域101に到達することができないということはよくあることである。
本発明によれば、プロセス・ジェットに対して幾何学的な死角に位置する領域101のうちの少なくとも1つにおいて、液相21からの堆積によって基材10がコーティングされるように、プロセス・ジェット2用のガス流を設定する。プロセス・ジェット2の幾何学的な死角領域内にも液相21からの堆積物をもたらすことが可能であるという点の認識が重要であり驚くべきものである。
ここで、LPPS−TFによる層11の生成をより詳細に説明する。
出発材料Pとして、下記にさらに説明するような適切な組成の粉末が選択される。この粉末は、金属母材又は金属合金、好ましくはMCrAlXタイプの金属合金を含有する。ここで、Mはニッケル(Ni)及び/又はコバルト(Co)及び/又は鉄(Fe)を表し、Xはイットリウム(Y)及び/又はジルコニウム(Zr)及び/又はハフニウム(Hf)を表す。この点において、出発材料Pが単一の粉末の形で存在するということも可能である。他にも、出発材料として2つ以上の異なる粉末状の材料を使用することも可能である。出発材料は、粉末混合物として存在することができる。または、出発材料は、2つの異なる粉末供給部を介して同時に若しくは時間的に次々とプラズマ火炎中へ注入される。
既述の通り、LPPS−TFプロセスでは、プロセス・パラメータ設定に起因して、従来のプラズマ溶射プロセスと比較して、プラズマ火炎が非常に長い。それに加えて、プラズマ火炎が大きく広げられる。例えば最大15,000kJ/kgの大きな比エンタルピーを有するプラズマが発生させられる。それによって高いプラズマ温度になる。プラズマ火炎の大きなエンタルピー及び長さ又はサイズのために、コーティング材料21、22への非常に大きなエネルギー入力が生じる。それによって、前記コーティング材料が、一方で大きく加速され、他方では、コーティング材料を非常に良く溶融することができる又は柔軟にすることができるように高温にされる。
しかしながら、金属成分の蒸発を防止すべきであるので、プラズマ温度及び粉末の溶射速度を互いに整合させ、プロセス・ジェット2中の出発材料Pの粒子の温度が、金属母材又は金属合金の沸点よりも低くなるようにすることが重要である。
例えば、DC電流を用いて並びに1つ又は複数の陰極及び環状陽極によってプラズマ発生器3のそれ自体公知のプラズマ・トーチにおいて、プラズマを発生させる。プラズマに供給する電力、有効電力を、経験的に決定することができる。電力と冷却によって取り去られる熱との間の差によって与えられる有効電力は、経験的には、例えば80kWまでの範囲内である。システムの全電力が20〜200kWである場合には、この目的に対して有効であると確認されている。
プラズマの発生のための電流は2000〜2600Aであることが好ましい。
50〜2000Pa、好ましくは100〜1000Pa、具体的には150Paの範囲で、処理チャンバ内のLPPS−TFプラズマ溶射のプロセス圧力の値が選択される。
キャリア・ガス、好ましくは、アルゴン、ヘリウム、水素、又はこれらのガスのうちの少なくとも2つの混合物を使用して、出発材料Pが粉末ジェットとしてプラズマ中へ注入される。キャリア・ガスの流量は、5〜40SLPM(標準リットル毎分)になることが好ましい。
出発材料Pの粒子サイズは、好ましくは5〜50マイクロメートルであり、10〜20マイクロメートルの範囲にあることが特に好ましい。
プラズマの発生のためのプロセス・ジェット2用のガスであるプロセス・ガスは、不活性ガスの混合物であることが好ましく、特にアルゴンAr、水素H、ヘリウムHeの混合物であることが好ましい。とりわけ、実際、下記のプロセス・ガスのガス流量は有効であると確認されている。
Ar流量:50〜120SLPM
流量:ゼロ〜12SLPM
He流量:ゼロ〜40SLPM
ここで、プロセス・ガスの全流量は、少なくとも50SLPMで、200SLPM未満になることが好ましい。
出発材料Pを運搬する供給速度は、特に、少なくとも20g/minで多くとも160g/minであり、好ましくは40〜80g/minである。粉末供給用の2つ以上の注入器を用いる構成においては、これらの流量が、すべての注入器にわたり均等に分配されることが好ましい。すなわち、2つの注入器を用いた場合、注入器1つ当たりの粉末供給速度を20g/min〜40g/minとして作業を実行することが好ましく、その結果、全体の供給速度は2×20g/min〜2×40g/minとなる。
材料散布中にプロセス・ジェットに対して相対的に回転運動又はピボット運動によって基材を動かすと有利な場合がある。勿論、基材10に対してプラズマ発生器3を相対的に動かすことも可能である。
吐出ノズル7と基材10との間の距離Dである溶射距離は、好ましくは50〜1500mm、とりわけ400mmより大きく、特に700〜1000mmになる。
本発明方法は、金属腐食保護層又は浸食保護層の形成のために特に適している。
本発明方法は、特に内部領域又は隠れた領域101を有する基材上に、硬質金属層又は炭化物層を形成することにとりわけ適している。この目的のために、欧州特許出願公開第0960954号明細書に記載されているような出発材料Pとして、粉末が特に適している。
この熱溶射粉末は、各々がニッケル、クロム、及び炭素を実質的に含む粒子を含む。クロムは、母材を形成するニッケルと共に合金を形成する第1の部分、及び炭素と炭化物を形成し堆積物の形で母材中に一様に分布する第2の部分を含む。
勿論、このような硬質金属コーティング又は炭化物コーティング、例えば炭化タングステンに対して他の金属も適している。既述のニッケル−クロム母材に加えて、炭化タングステン又は炭化クロムをコバルト−クロム母材中に埋め込むこともできる。
炭化物のない金属合金、例えば、ニッケル−クロム合金又はやはり亜鉛などの金属を、耐腐食層の形成のためにやはり使用することができるということが理解される。
回転機械のロータ、特にポンプのロータに硬質金属コーティングが設けられた実施例を下記に示す。
図2は、既にコーティングしてあるポンプロータの平面図を示す。このポンプロータは、全体として参照番号50で示され、湾曲した形に形成された複数の翼51を含む。したがって、コーティング・プロセスにおいてプロセス・ジェット2の幾何学的な死角領域に位置する隠れた領域101が、これらの翼51の間に生じる。
図3は、図2のロータの半分(カバー)の一部の概略的な断面表示であり、その上部を表示している。ロータがその周りを回転する軸に対して垂直な断面を表わしている。図3では、実施例によって、コーティング中にプロセス・ジェット2の幾何学的な死角領域に位置する内側表面又は隠れた領域を表す3つの異なる領域101が示されている。
例えば、基材の表面のクリーニング、サンドブラスト又はショット−ピーニング、イオン・クリーニング等、それ自体公知の方法でコーティングするために、ここではポンプのロータ50である基材10を準備した後、基材をプロセス・チャンバ内へ導入し、可動ホルダ、例えば回転可能なホルダに固定する。実際のコーティング・プロセスを始める前に、プロセス・チャンバ内において、プラズマ源によって、ロータの予熱をすることによって、それ自体公知の方法で追加のイオン・クリーニングを行うことができる。基材10の予熱は、コーティングと基材との間のより良い結合を実現するように働く。
プロセス・ジェット2の長さ及び直径の両方がプロセス圧力の関数であるので、プロセス・チャンバ内のプロセス圧力に応じて吐出ノズル7間の溶射距離を選択する。本実施例では、プロセス圧力が150Paであり、溶射距離Dが700mmになる。これによって、広いプラズマ火炎で大きな表面を覆い、プラズマ流又はプロセス・ジェット2がロータの複雑な幾何学形状を通り抜けるようにさせることが可能である。
プラズマ・トーチが基材10に対して相対的に可動であるように、プラズマ・トーチを主軸上に配置する。それによって、プラズマによって制御された方法で全基材10を加熱することができる。そして、コーティング中にロータ50全体にわたってプロセス・ジェット2を掃射することができる。このようにして、堆積したコーティングの厚さ及び品質も監視することができる。
プラズマによるロータ50の予熱を、例えば、次のコーティングと同じプラズマ・パラメータを用いて行うことができる。予熱のためにロータ50全体にわたってプラズマ火炎を複数回動かす。そして、一様な加熱を確実にするためにこのプロセスでは前記ロータを回転させる。典型的には300K〜500Kの温度にロータを予熱する。
NiCr−CrC(ニッケル・クロム−炭化クロム)を、コーティング材料として選択する。この点において、出発材料Pは、欧州特許出願公開第0960954号明細書に開示されている既述の粉末である。すなわち、出発材料Pでは、各粒子が、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、及び炭素(C)を実質的に含む熱溶射粉末である。クロムの第1の部分が、母材を形成するニッケルと共に合金を形成し、クロムの第2の部分が、堆積物の形態でNiCr母材中に実質的に一様に分布する炭素と1つ又は複数の炭化クロム(例えば、Cr又はCr)を形成する。堆積物の典型的なサイズは、0.1μm〜5μmである。2つの粉末キャリア及びキャリア・ガス、ここではアルゴンによって、それ自体公知の方法で出発材料Pをプラズマ中へ導入する。
アルゴン(Ar)及び水素(H)の混合物が、プロセス・ガスに使用される。プロセス・ガスによってプラズマ又はプロセス・ジェット2が発生させられる。そのガス流量は、Arが60SLPM及びHが12SLPMになる。43.75Vの電圧をもたらす2400Aの電流でプラズマを発生させる。そのとき、全電力は105kWになる。プラズマ・トーチを水冷し、電力の一部を冷却システムへ出力する。そして、全電力の約45%〜55%の低下された電力が、プラズマ火炎をもたらす。直接プラズマ火炎中へ、すなわち、大きなエンタルピーの領域中へ粉末状の出発材料Pの注入を行う。2つの粉末キャリアを互いに反対側に配置する。出発材料をプラズマ中へ導入する供給速度は、2×30g/min、すなわち、全量60g/minになる。キャリア・ガス、ここではアルゴンの流量を2×5SLPMに設定する。コーティング時間は2〜10分になる。
コーティングの後、ロータ50を冷却する。これを、例えば、プロセス・チャンバとは異なるチャンバ内で行うことができる。中でロータ50が冷却されるこのチャンバを、不活性ガス、特にアルゴンで満たし、事前設定可能な圧力にすることが好ましい。冷却中の内部歪及びひび割れを回避するように、基材10のタイプ及び適用するコーティングのタイプに応じて冷却時間及び圧力を選択する。本実施例では、アルゴン圧力50,000Pa、冷却時間10分を選択している。
噴霧されたNiCr−CrCの出発材料からの本実施例のような、この発明方法で生成されたコーティングは、典型的にはHv(0.3)=900〜950のミクロ硬度を有する。
本発明方法は、プロセス・ジェットの見通しがきく領域内ではなくプロセス・ジェットの幾何学的な死角領域に位置する内側表面又は隠れた表面を有する基材上に、硬質金属層又は炭化物層などの金属腐食保護層又は浸食保護層を形成することに特に適している。
さらに、本発明方法は、MCrAlXの層等を堆積するのに適している。ここで、Xは、イットリウムであることが特に好ましい。
既述のポンプのロータ50に加えて、例えば、タービン部品に適用することができる。例えば、蒸気タービン、定置型ガス・タービン、又は航空機エンジン等のタービンは、通常、複数の回転ロータ及び静止ガイド部材を含む。ロータ及びガイド部材は、共に、複数のタービン翼をそれぞれ含む。タービン翼は、その根元の位置でタービンの共通主軸にそれぞれ取り付けられる。または、タービン翼は、複数のタービン翼をそれぞれが含むセグメントの形で設けられることができる。この設計は、クラスタ(cluster)翼セグメント、又は、タービン翼の数に応じて、二枚翼セグメント、三枚翼セグメント等と呼ばれることが多い。
これらの方法を用いてコーティングを死角領域にも行うことができるので、本発明方法を、特に、クラスタ翼セグメントに有利に使用することができる。クラスタ翼部材においては、プロセス・ジェットが幾何学的な意味で直接作用することができない幾何学的な死角領域又は隠れた領域若しくは覆われた領域がある。プロセス・ジェット中で基部本体を回転させても、又はプロセス・ジェットと基部本体との間で他の相対的な運動をさせても、やはりこのような領域に到達することができないということはよくあることである。本発明方法を使用することによって、プロセス・ジェットの見通しがきく領域内になく、プロセス・ジェットの幾何学的な死角に位置するこれらの領域に、コーティングを形成することができる。したがって、本発明方法により、角、端、及び円形部分をコーティングすることも可能である。
したがって、例えば、タービン翼を、単独ではなく既に組み立てられた大きな塊の状態でコーティングすることが可能である。
基材をコーティングするための方法において、プロセス・ジェット2をデフォーカスするプラズマへ注入し、その中において、最大20,000Paの低いプロセス圧力で、液相21へ部分的に又は完全に溶融して、出発材料Pをプラズマ溶射によってプロセス・ジェット2の形で基材10;50へ溶射し、液相21からの堆積によって、基材10;50が、プロセス・ジェット2に対して幾何学的な死角に位置する少なくとも1つの領域101においてコーティングされるように、プロセス・ジェット2用のガス流を設定する。

Claims (18)

  1. 基材のコーティングのための方法であって、前記方法においては、プロセス・ジェット(2)をデフォーカスするプラズマ中へ出発材料(P)を注入し、その中において、最大20,000Paの低いプロセス圧力で、前記出発材料(P)を液相又は流動化した相(21)へ部分的に又は完全に溶融して、出発材料(P)をプラズマ溶射によってプロセス・ジェット(2)の形で基材(10;50)へ溶射する、方法において、
    前記出発材料(P)が金属母材又は金属合金を含有しており、前記プロセス・ジェット(2)中の前記出発材料(P)の温度が前記金属母材又は金属合金の沸点よりも低くなっており、前記プロセス・ジェット(2)に対して幾何学的な死角に位置する少なくとも1つの領域(101)において、前記液相又は流動化した相(21)からの堆積によって、前記基材(10;50)がコーティングされるように、前記プロセス・ジェット(2)用のガス流を設定し、前記プロセス・ジェット(2)用のガス流が、50〜200SLPMの全流量を有することを特徴とする、方法。
  2. 前記プロセス圧力が、少なくとも50Pa、最大10,000Paである、請求項1に記載された方法。
  3. 前記プロセス・ジェット(2)用の吐出ノズル(7)と前記基材(10;50)との間の溶射距離(D)が、50mm〜1500mmである、請求項1又は請求項2に記載された方法。
  4. 前記プロセス・ジェット(2)用の吐出ノズル(7)と前記基材(10;50)との間の溶射距離(D)が、400mmより大きい、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載された方法。
  5. 前記プロセス・ジェット(2)用の吐出ノズル(7)と前記基材(10;50)との間の溶射距離(D)が、700mm〜1000mmである、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載された方法。
  6. 前記プロセス・ジェット(2)の供給範囲が、最大160g/minで、少なくとも20g/minの範囲から選択される、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載された方法。
  7. 腐食保護層又は浸食保護層(11)が、前記基材(10;50)上に形成される、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載された方法。
  8. 前記出発材料(P)が、MCrAlXタイプの金属合金であり、ここで、Mがニッケル(Ni)及び/又はコバルト(Co)及び/又は鉄(Fe)を表し、Xがイットリウム(Y)及び/又はジルコニウム(Zr)及び/又はハフニウム(Hf)を表す、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載された方法。
  9. 硬質金属層(11)又は炭化物層(11)が、前記基材(10;50)上に形成される、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載された方法。
  10. 層(11)が、炭化タングステン又は炭化クロム、及びニッケル−クロム又はコバルト・クロムを含有する前記基材(10;50)上に形成される、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載された方法。
  11. ニッケル・クロム層又はニッケル−炭化クロム層が、前記基材(10;50)上に形成される、請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載された方法。
  12. 前記出発材料(P)が、2つの金属及び炭素を各々が実質的に含む粒子を含む溶射粉末であり、第1の金属が、第2の金属との合金になる一部分、及び炭素と炭化物を形成する別の一部分を含む、請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載された方法。
  13. 前記第1の金属が、クロムであり、前記第2の金属が、ニッケルであり、前記炭化物が、析出物の形で前記金属母材中に一様に分布する、請求項12に記載された方法。
  14. 前記出発材料(P)が、5〜50マイクロメートルのサイズの粒子を含む溶射粉末である、請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載された方法。
  15. 前記出発材料(P)が、10〜20マイクロメートルのサイズの粒子を含む溶射粉末である、請求項1から請求項14までのいずれか一項に記載された方法。
  16. 前記基材が、回転機械のロータ(50)である、請求項1から請求項15までのいずれか一項に記載された方法。
  17. 前記基材が、ポンプのロータ(50)である、請求項1から請求項16までのいずれか一項に記載された方法。
  18. プラズマ溶射によって形成されるコーティングを有する基材であって、出発材料がプロセス・ジェット(2)をデフォーカスするプラズマ中へ注入され、その中において、最大20,000Paの低いプロセス圧力で、液相又は流動化した相(21)へ部分的に又は完全に溶融されて、出発材料(P)がプロセス・ジェット(2)の形で前記基材(10;50)上へ溶射される、基材において、
    前記出発材料(P)が金属母材又は金属合金を含有しており、前記プロセス・ジェット(2)中の前記出発材料(P)の温度が前記金属母材又は金属合金の沸点よりも低くなっており、前記コーティングが前記液相又は流動化した相(21)からの堆積によって形成され、前記コーティングが前記プロセス・ジェット(2)に対して幾何学的な死角に位置する少なくとも1つの領域(101)に形成されることを特徴とする、基材。
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