図1は、本発明が適用される乱流摩擦抵抗低減装置の一実施形態としての外観構成例を示す図である。
図1において、XYZの3軸から構築される3次元空間において、XZ平面は、乱流摩擦抵抗低減装置1を配置する所定の物体の壁面(図示せず)と略平行な面である。
図1に示されるように、乱流摩擦抵抗低減装置1は、4枚のフィンf1乃至f4と、それらの左右の端部を支持する据え付け板a及びbとを備えている。4枚のフィンf1乃至f4においては、長辺の長さがw(mm)であり、短辺の長さがd(mm)である。複数のフィンf1乃至f4の各々は、その長辺がZ軸方向(XZ平面である壁面と略平行な方向)と略平行となり、かつ、Y軸方向(壁面の法線と略平行な方向)に略等間隔となるように、それぞれの両短辺が据え付け板a及びbに固着されている。これにより、高さがh(mm)であり、奥行きがd(mm)であり、幅がw(mm)である乱流摩擦抵抗低減装置1が構成される。流体はX軸方向に流れる。
或いは、フィンf4と、据え付け板a及びbとにより、略コ字(U字)状の筺体が構成され、この筺体内にフィンf1乃至f3が挿入されることにより、乱流摩擦抵抗低減装置1が構成されると把握してもよい。筐体のX軸と垂直なYZ面と平行な面が省略された構成となっている。そして、フィンf1乃至f3の各々は、その長辺がZ軸(筺体の幅wの方向)と略平行になるように、Y軸方向(筺体の高さhの方向)に略等間隔で、筺体内にそれぞれ固着されている。
図1の例では、下方から上方に向けて(Y軸方向に)、フィンf1、フィンf2、フィンf3、及び、フィンf4がその順番で所定間隔あけて積層されている。そこで、以下、図1中、壁面とフィンf1との間のY軸方向の距離を高さh1(mm)と表わす。その他も同様に、以下、フィンf1とフィンf2との間のY軸方向の距離を高さh2(mm)と、フィンf2とフィンf3との間のY軸方向の距離を高さh3(mm)と、フィンf3とフィンf4との間のY軸方向の距離を高h4(mm)と、それぞれ表わす。
乱流摩擦抵抗低減装置1のうち、フィンf1とフィンf2は、壁面近傍の内層の縦渦運動を抑制するために設けられている。
以下、図2を適宜参照して、はじめにフィンf1とフィンf2、次にフィンf3とフィンf4の詳細について説明する。
図2は、レイノルズ数Reδ2と壁面摩擦速度Uτとの組み合わせを変化させた複数の条件下での、乱流境界層における流れ方向の乱れ強さの測定結果を示す図である。なお、レイノルズ数Reδ2は、主流密度ρw、主流速度Uw、境界層運動量厚さθ、及び壁面粘性係数μwを用いて求められる。
図2において、縦軸は、流速変動を時間平均して壁面摩擦速度Uτで除算した乱れ強さを示し、横軸は、壁無次元長さを示す。壁無次元長さとは、壁面からの距離yを、壁面摩擦速度Uτと動粘性係数νとを用いて無次元化した量をいう。
図2中、レイノルズ数Reδ2=2573、壁面摩擦速度Uτ=0.28の組み合わせによる第1条件下で、乱流境界層における流れ方向の乱れ強さが測定された結果が、×印のプロットとして表わされている。
図2中、レイノルズ数Reδ2=5023、壁面摩擦速度Uτ=0.27の組み合わせによる第2条件下で、乱流境界層における流れ方向の乱れ強さが測定された結果が、▼印のプロットとして表わされている。
図2中、レイノルズ数Reδ2=7140、壁面摩擦速度Uτ=0.42の組み合わせによる第3条件下で、乱流境界層における流れ方向の乱れ強さが測定された結果が、△印のプロットとして表わされている。
図2中、レイノルズ数Reδ2=16080、壁面摩擦速度Uτ=1.07の組み合わせによる第4条件下で、乱流境界層における流れ方向の乱れ強さが測定された結果が、■印のプロットとして表わされている。
図2中、レイノルズ数Reδ2=20920、壁面摩擦速度Uτ=0.68の組み合わせによる第5条件下で、乱流境界層における流れ方向の乱れ強さが測定された結果が、○印のプロットとして表わされている。
図2中、レイノルズ数Reδ2=41260、壁面摩擦速度Uτ=1.25の組み合わせによる第6条件下で、乱流境界層における流れ方向の乱れ強さが測定された結果が、□印のプロットとして表わされている。
図2中、レイノルズ数Reδ2=57720、壁面摩擦速度Uτ=1.88の組み合わせによる第7条件下で、乱流境界層における流れ方向の乱れ強さが測定された結果が、●印のプロットとして表わされている。
なお、図2と後述する図3における右上四角の中のl+は、乱れ強さの計測に用いられた熱線プローブの大きさを無次元化したものを示している。第1乃至第3条件下では熱線プローブの大きさが相対的に小さいために、図2に示されるように、乱れ強さの測定結果を壁面近傍までプロットとして表わすことができる。しかしながら、第6条件及び第7条件下のように熱線プローブの大きさが相対的に大きい場合には、一般的には、図2に示されるように、壁面近傍の乱れ強さの測定結果をプロットとして表わすことは困難となる。
図2に示されるように、第1乃至第7条件下の全ての測定結果とも、壁無次元長さが10程度の領域で、乱れ強さとして最大値が存在する。また、壁無次元長さが100以下の領域では、第1乃至第7条件下の全ての乱れ強さの波形は、相似形状を有している。ここで、乱れ強さの波形とは、同一条件下での各プロットを結んで形成される曲線の形状をいう。
これに対して、壁無次元長さが100より大きい領域では、レイノルズ数Reδ2が大きい条件下で測定されたものほど、乱れ強さの値は大きくなる。
このように、壁無次元長さが100以下の領域では、レイノルズ数の変化による影響を受けずに、乱れ強さは、最大値を示し、その波形の形状が維持される傾向にある。すなわち、壁面近傍の内層の領域、具体的には壁無次元長さが100以下の領域には、強い縦渦運動とそれに伴う低速ストリーク構造が存在していると考えられる。低速ストリーク構造とは、流れ方向の流速変動の極小値が連なっている構造をいう。
このように、壁面近傍の内層の領域、具体的には壁無次元長さが100以下の範囲内では、大きな縦渦運動が生じているが、これは、バッファ層が存在するためである。バッファ層とは、その上部に大きな低速流塊を発生させる乱流エネルギー発生機構である。このため、壁面近傍の内層の領域、具体的には壁無次元長さが100以下の領域において、縦渦運動を抑制するためには、バッファ層自体を抑制すると共に、バッファ層の上部に発生する低速流塊を抑制すればよい。
そこで、本実施形態では、高さh1+高さh2が、壁無次元長さに換算して100以下となる条件下で、フィンf1がバッファ層を抑制可能となるように、高さh1が設定され、かつ、フィンf2が低速流塊を抑制可能となるように、高さh2が設定される。
このように、本実施形態では、フィンf1によりバッファ層が抑制され、かつ、フィンf2により、バッファ層から発生する大きな低速流塊が抑制されるため、結果として、壁面近傍の内層の縦渦運動が抑制される。これにより、乱流摩擦抵抗を低減することができる。
以上、乱流摩擦抵抗低減装置1のうち、壁面近傍の内層の縦渦運動を抑制するために設けられる、フィンf1とフィンf2について説明した。
次に、乱流摩擦抵抗低減装置1のうち、フィンf1とフィンf2の上方に設けられる、フィンf3とフィンf4について説明する。フィンf3とフィンf4は、壁面から離れた外層の横渦運動を抑制するために設けられている。
図2に示されるように、壁無次元長さが10程度の領域で最大値を示した乱れ強さは、それ以降小さくなるが、壁無次元長さが100から250の領域で再び大きくなっている。すなわち、壁面近傍から流れてきた渦運動が壁面から離れた外層の領域、具体的には壁無次元長さ100から250の領域で再び発達し、スケールが大きな横渦運動を発生させていることが考えられる。このため、壁面から離れた外層の領域、具体的には壁無次元長さ100から250の領域において、横渦運動を抑制するためには、内層と外層との連結を弱めて、壁面近傍の内層から流れてくる渦運動が壁面から離れた外層で発達するのを抑制すればよい。
そこで、本実施形態では、高さh1+高さh2+高さh3+高さh4が、境界層厚さ程度となる条件下で、フィンf3とフィンf4が、内層と外層との連結を弱めて、壁面近傍の内層の領域から流れてくる渦運動が壁面から離れた外層の領域で発達するのを抑制可能となるように、高さh3とh4が設定される。すなわち、フィンf4が境界層厚さ程度の高さになり、フィンf3が、フィンf2とフィンf4のほぼ真ん中になるように、高さh3と高さh4が設定されている。
このように、本実施形態では、フィンf3とフィンf4により、内層と外層との連結が弱められ、壁面近傍の内層から流れてくる渦運動が壁面から離れた外層で発達するのが抑制されるため、結果として、壁面から離れた外層の横渦運動が抑制される。これにより、乱流摩擦抵抗を低減することができる。
さらに以下、図3及び図4を適宜参照して、フィンf3とフィンf4の詳細について説明する。
図3は、図2と同一の条件下での、乱流境界層における外層の流れ方向の乱れ強さの測定結果を示す図である。
すなわち、図3は、図2の測定結果を、Rotta厚さΔを用いてスケーリングし、乱流境界層における外層の流れ方向の乱れ強さとして表示した図である。
図3において、縦軸は、外層の流れ方向の乱れ強さを示し、横軸は、Rotta厚さΔを示す。
Rotta厚さΔを用いることにより、乱流境界層の外層の厚さを、主流速度U、境界層内平均速度u、壁面摩擦速度uτを用いて無次元化相似表示することができる。すなわち、Rotta厚さΔは、次の式(1)にしたがって演算される、境界層積分長さスケールである。
なお、Rotta厚さΔは、式(1)を用いずに、後述する排除厚さδ*及び局所摩擦係数Cfを用いて式(11)を用いて求めることもできる。
図3に示されるように、第1乃至第7条件下の全ての測定結果とも、Rotta厚さΔが0.25Δの近傍の領域で、外層の流れ方向の乱れ強さが0となる。すなわち、Rotta厚さΔが0.25Δの近傍の領域は、境界層厚さの程度を示す領域であることを意味している。
また、外層の流れ方向の乱れ強さの波形は、Rotta厚さΔが0.1Δ以上の領域では、第1乃至第7条件下の全ての測定結果が相似形状をしている。ここで、外層の流れ方向の乱れ強さの波形とは、同一条件下での各プロットを結んで形成される曲線の形状をいう。これに対して、Rotta厚さΔが0.1Δよりも小さな領域では、外層の流れ方向の乱れ強さについての、第1乃至第7条件に共通な傾向は見受けられない。
このように、Rotta厚さΔが0.1Δ以上の領域では、外層の流れ方向の乱れ強さは、レイノルズ数の変化に影響を受けずに乱れ強さは維持されることが分かる。
図4は、図2の第1乃至第7条件のレイノルズ数及び主流速度と同様の条件下で、乱流境界層における外層の流れ方向に垂直な方向の乱れ強さの測定結果を示す図である。
すなわち、図4は、図2の測定結果を、Rotta厚さΔを用いてスケーリングし、乱流境界層における外層の流れに垂直な方向の乱れ強さとして表示した図である。
図4において、縦軸は、外層の流れ方向に垂直な方向の乱れ強さを示し、横軸は、Rotta厚さΔを示す。
図4に示されるように、第1乃至第7条件下の全ての測定結果とも、Rotta厚さΔが0.04Δ乃至0.1Δで、外層の流れ方向に垂直な方向の乱れ強さは、最大値を有している。この最大値が存在する理由は、壁面近傍で生成された変動エネルギーが外層に噴出したためである。したがって、Rotta厚さΔが0.04Δの位置は、内層と外層をつなぐ位置であると把握することができる。
また、図4に示されるように、第1乃至第7条件下の全ての測定結果とも、Rotta厚さΔが0.25Δの近傍の領域で、外層の流れ方向に垂直な方向の乱れ強さが0となる。この結果は図3の結果とも一致する。すなわち、図3の説明においても上述したように、この結果は、Rotta厚さΔが0.25Δの近傍の領域は、境界層厚さの程度を示す領域であることを意味している。
また、外層の流れ方向に垂直な方向の乱れ強さは、Rotta厚さΔが0.1Δ以上の領域では、第1乃至第7条件下の全ての測定結果が相似形状をしている。これに対して、Rotta厚さΔが0.1Δよりも小さな領域では、外層の流れ方向に垂直な方向の乱れ強さは、レイノルズ数が大きい条件下で測定された乱れ強さの方が、乱れ強さは大きい値となる。
このように、Rotta厚さΔが0.1Δ以上の領域では、外層の流れ方向に垂直な方向の乱れ強さの値は、レイノルズ数の変化に影響を受けずに乱れ強さは維持されることが分かる。
図3と図4から、Rotta厚さΔが0.1Δ以上の領域では、外層の流れ方向の乱れ強さと外層の流れ方向に垂直な方向の乱れ強さが、ともに相似形状をしていることが分かる。これにより、壁面から離れた外層の領域、具体的にはRotta厚さΔが0.1Δ以上の領域には、スケールの大きな横渦運動が存在していると考えられる。
したがって、内層と外層をつなぐ位置であるRotta厚さΔが0.04Δの位置と境界層厚さの程度であるRotta厚さΔが0.25Δの間の領域にフィンを設置することによって、内層と外層との連結を弱めることができる。すなわち、Rotta厚さΔが0.04Δ乃至0.25Δの領域にフィンを設置することによって、内層と外層との連結を弱めて、壁面近傍から流れてくる渦運動が外層で発達して横渦運動が発生するのを抑制することができる。したがって、本実施形態では、Rotta厚さΔが0.04Δ乃至0.25Δの領域に、フィンf3とフィンf4が壁面近傍の内層から流れてくる渦運動が壁面から離れた外層で発達するのを抑制可能となるように、高さh3と高さh4が設定される。
このように、フィンf3とフィンf4を設置することにより、壁面から離れた外層の横渦運動を抑制し、乱流摩擦抵抗を低減することができる。
以上、乱流摩擦抵抗低減装置1の構成の概略について説明した。
次に、図5乃至図7を適宜参照しつつ、乱流摩擦抵抗低減装置1の具体的な寸法について説明する。すなわち、本発明者は、図5乃至図7に示される実験を行うことによって、乱流摩擦抵抗低減装置1の好適な寸法を見出した。そこで、最適な寸法について、それを見出すまでの経緯も含めて、以下、説明する。
先ず、最適な寸法の決定にあたり、乱流摩擦抵抗低減装置1の配置場所となる乱流境界層の位置を測定した。
図5は、乱流摩擦抵抗低減装置1の配置場所と流速の計測位置を示す平面図である。
本発明者は、低乱風洞(乱れ強さ0.2%以下、流速一様性1%以下)を用いて、平板11上に自然遷移による乱流境界層を発達させた。この場合の流れの方向としては、図5中左から右に向かう方向が採用された。本発明者は、この状態で、I型熱線プローブを用いた定温度型熱線流速計を用いて流速を計測し、その計測結果に基づいて、平均値分布と流速変動(すなわち乱れ強さ)を演算した。なお、当該演算結果を、以下、測定結果と称する。
具体的には、はじめに、乱流摩擦抵抗低減装置1の配置位置となる乱流境界層の位置を特定すべく、平板11の各位置における流速変動を求めた。なお、平板11の下に図示された横軸は、平板11の前縁(x=0)からの距離x(mm)を示している。
図6は、平板11の各位置における流速変動の測定結果を示す図である。
本発明者は、主流速度U∞を4(m/s)に設定し、平板11の前縁(x=0)からの距離xがそれぞれ510mm、600mm、700mm、800mmの位置において流速変動を求めた。なお、図6において、横軸は平板11上の流れ方向に垂直な方向の幅(mm)を示し、縦軸は、平板11からの高さ(mm)を示す。
図6Aは、x=510mmの位置における流速変動を示す図である。図6Aに示されるようにx=510mmの位置では乱れは小さく、中心断面(Z=0)では変動実効値Urmsが主流速度U∞の0.6%の流速変動が求められる。したがって、x=510mmの位置においては、境界層はまだ乱流境界層に遷移していないことが分かる。
図6Bは、x=600mmの位置における流速変動を示す図である。図6Bに示されるように、x=600mmの位置では乱れが発達し始めており、中心断面では変動実効値Urmsが主流速度U∞の1.5%の流速変動が求められる。したがって、x=600mmの位置においては、部分的に大きな乱れ強さが存在し、乱流境界層が発達し始めていることが分かる。
図6Cは、x=700mmの位置における流速変動を示す図である。図6Cに示されるように、x=700mmの位置では乱れが発達しており、断面内で変動実効値Urmsが主流速度U∞の10%を超える流速変動が求められる。したがって、x=700mmの位置においては、乱れ強さ分布が一様化して乱流境界層に遷移していることが分かる。
図6Dは、x=800mmの位置における流速変動を示す図である。図6Dに示されるように、x=800mmの位置では乱れが大きくなっており、壁面近傍の底層y=1mmの位置では、最大で、変動実効値Urmsが主流速度U∞の14%の大きな流速変動が求められる。また、底層y=1mmの位置からバッファ層y=5mmの位置にかけて、断面内で変動実効値Urmsが主流速度U∞の10%を超える流速変動が求められる。したがって、x=800mmの位置においては、境界層は乱流境界層であることが分かる。なお、境界層厚さは9mmであることが測定された。
以上の測定結果から、層流境界層から乱流境界層への遷移点chはx=600mm乃至x=700mmの間であり、乱流境界層の発生位置はx=700mmの位置であることが分かる。したがって、本発明者は、図5に示されるように、乱流摩擦抵抗低減装置1の配置場所として、乱流境界層の発生位置であるx=700mmの位置を採用した。
また、本発明者は、乱流摩擦抵抗低減装置1を配置することによる流速変動の変化を測定する計測位置mとして、乱流摩擦抵抗低減装置1の配置位置よりも下流のx=800mmの位置を採用した。
そして、本発明者は、流速変動の変化を測定するための乱流摩擦抵抗低減装置1の暫定的な寸法として、次のような寸法を採用した。すなわち、乱流の変動場は境界層厚さの1.3倍(9×1.3=11.7mm)程度上方まで存在するため、本発明者は、暫定的な高さhとして、それよりも大きい12mmを採用した。また、本発明者は、暫定的な奥行きdとして、境界層厚さ9mmよりもやや大きい10mmを採用した。また、本発明者は、暫定的な幅wとして、境界層厚さ9mmの4倍以上の寸法、より具体的には50mmを採用した。さらに、本発明者は、乱流摩擦抵抗低減装置1内に設置するフィンf1乃至f4の高さh1乃至h4として、それぞれ3mmを採用した。
図7は、x=700mmの位置(乱流境界層の位置)に乱流摩擦抵抗低減装置1を配置しない場合と、配置した場合との、x=800mmの位置におけるそれぞれの流速変動の測定結果の比較を示す図である。
図7Aは、x=700mmの位置に乱流摩擦抵抗低減装置1を配置しない場合のx=800mmの位置における流速変動の測定結果を示す図である。
乱流摩擦抵抗低減装置1を配置しない場合には、図6Dと同様の測定結果となる。すなわち、壁面近傍の底層y=1mmの位置では、最大で、変動実効値Urmsが主流速度U∞の14%となる大きな流速変動となっていることが分かる。また、底層y=1mmからバッファ層y=5mmの位置にかけても、変動実効値Urmsが主流速度U∞の10%よりも大きい流速変動となっていることが分かる。
これに対して、図7Bは、x=700mmの位置に乱流摩擦抵抗低減装置1を配置した場合のx=800mmの位置における流速変動の測定結果を示す図である。なお、図中の点線は、x=700mmの位置に配置した乱流摩擦抵抗低減装置1を表わしている。
図7Bに示されるように、x=700mmの位置に乱流摩擦抵抗低減装置1を配置した場合には、x=800mmの位置では、特に壁面近傍の大きな流速変動が低減していることが分かる。また、壁面近傍の底層y=1mmの位置では、変動実効値Urmsが主流速度U∞の8%の流速変動にまで低減していることが分かる。さらにまた、壁面近傍から離れた場合には、変動実効値Urmsが主流速度U∞の5%の流速変動となっていることが分かる。なお、乱流摩擦抵抗低減装置1を乗り越えた乱流の影響により、変動実効値Urmsが主流速度U∞の1%程度の流速変動が外層に広がっていることも分かった。
このように、x=700mmの位置に乱流摩擦抵抗低減装置1を配置することにより、その下流での流速変動の低減の効果が認められた。具体的には、乱流摩擦抵抗低減装置1の範囲内、すなわち幅w=50mmから±25mmの範囲内においてのみ、底層y=1mmの位置からバッファ層y=5mmの位置にかけて、流速変動が最大で45%も低減する効果が認められた。
以上まとめると、本発明者は、乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法として、上述の暫定的な寸法を採用して、図5乃至図7の実証実験をしたところ、その下流での流速変動が低減するという効果を奏することを検証することができた。この検証結果は、乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法として、上述の暫定的な寸法は好適であることを意味している。
さらに、本発明者は、この暫定的な寸法を有する乱流摩擦抵抗低減装置1で、壁面の突起や粗さによるその背後の一時的な乱れ強さの増加を急激に抑制することができる効果が認められるか否かの実証実験を、図8乃至図10に示されるように行った。
図8は、スタッド21と乱流摩擦抵抗低減装置1の配置場所と流速の計測位置を示す平面図である。
実証実験は、突起としてのスタッド21を平板11の前縁(x=0)からの距離xが410mmの位置に配置し、乱流摩擦抵抗低減装置1の配置場所として、その下流の位置であるx=460mmの位置を採用した。スタッド21の高さは3.5mmであり、これはレイノルズ数Reθ=130ほどの層流境界層内の排除厚さと同程度である。また、スタッド21の幅は20mmであり、境界層内の突起がある程度の大きさを有していると仮定したものである。
そして、本発明者は、主流速度U∞を1.2(m/s)に設定し、平板11の前縁(x=0)からの距離xがそれぞれ510mm、600mm、700mm、800mmの位置において流速変動を求めた。そして、乱流摩擦抵抗低減装置1を配置しない場合と配置した場合との、それぞれの計測位置mにおける流速変動を測定した。
図9は、乱流摩擦抵抗低減装置1を配置しない場合の所定の計測位置における流速変動の測定結果を示す図である。
なお、図9と後述する図10において、横軸は平板11上の流れ方向に垂直方向の幅(mm)を示し、縦軸は、平板11からの高さ(mm)を示す。
図9Aは、x=510mmの位置における流速変動の測定結果を示す図である。図9Aに示されるようにx=510mmの位置では、スタッド21の背後で乱れが強く発生していることが分かる。
図9Bは、x=600mmの位置における流速変動の測定結果を示す図である。図9Bに示されるように、x=600mmの位置では、スタッド21による乱れが広範囲に拡散していることが分かる。
図9Cは、x=700mmの位置における流速変動の測定結果を示す図である。図9Cに示されるように、x=700mmの位置では、スタッド21による広範囲の乱れが維持されていることが分かる。
図9Dは、x=800mmの位置における流速変動の測定結果を示す図である。図9Dに示されるように、x=800mmの位置では、スタッド21による乱れが強まっており、境界層が乱流境界層に遷移したことが分かる。
以上の測定結果から、スタッド21の背後では、乱れ強さが一時的に強くなり、その後いったんは弱まるものの、その後再び乱れが発達して乱流境界層に遷移することが分かる。
図10は、乱流摩擦抵抗低減装置1を配置した場合の所定の計測位置における流速変動の測定結果を示す図である。なお、図中の点線は、x=460mmの位置に配置した乱流摩擦抵抗低減装置1を表わしている。
図10A乃至Dに示されるように、乱流摩擦抵抗低減装置1を配置した場合には全ての計測位置において、流速変動がほぼ抑制されていることが分かる。すなわち、暫定的な寸法を有する乱流摩擦抵抗低減装置1を配置することにより、スタッド21によるその背後の流速変動の増加が抑制されるという効果を奏することも検証することができた。
以上説明したように、本発明者は、乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法として、上述の暫定的な寸法を採用して、図5乃至図7の実証実験をしたところ、その下流での流速変動が低減するという効果を奏することを検証することができた。さらに、本発明者は、図8乃至図10の実証実験をしたところ、スタッド21によるその背後の流速変動の増加が抑制されるという効果を奏することも検証することができた。これらの検証結果は、乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法として、上述の暫定的な寸法は好適であることを意味している。
本発明者は、さらに、乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法として、上述の暫定的な寸法以外に好適な寸法があるのか否か、換言すると、好適な寸法の範囲のようなものが存在するのか否かについて、次のような実験を通じて検討した。
すなわち、本発明者は、高さh、幅w、フィンの数の組み合わせを変えた複数の乱流摩擦抵抗低減装置1を用意した。そして、本発明者は、これら複数の乱流摩擦抵抗低減装置1を、x=410mmの位置に配置したスタッド21から50mm下流に順次配置させ、x=510mmの位置における流速変動をそれぞれ測定した。このような各種各様の乱流摩擦抵抗低減装置1の測定結果を全て示すのは紙面の関係上困難であるので、ここでは、代表的な5つの例の乱流摩擦抵抗装置1の測定結果のみ示すことにする。
本発明者は、先ず初期状態として、乱流摩擦抵抗低減装置1が配置されない場合における、x=510mmの位置における流速変動を求めた。その結果、変動実効値Urmsが主流速度U∞の3.25%の流速変動が求められた。なお、流速変動は、x=510mmの位置における最大値を示しており、以下、5つの例においても同様であるとする。
そして、本発明者は、高さh=6mm、幅w=20mmの寸法を有し、h1=3mmの位置にフィンf1を、h2=3mmの位置にフィンf2を、それぞれ有する乱流摩擦抵抗低減装置1を第1の例として用意した。そして、本発明者は、当該第1の例の乱流摩擦抵抗低減装置1をスタッド21から50mm下流に配置させ、x=510mmの位置における流速変動を測定した。その結果、変動実効値Urmsが主流速度U∞の3.65%の流速変動が求められた。
ここで、流速変動が増加したのは、乱流摩擦抵抗低減装置1の高さhが、境界層の厚さ(9mm)よりも小さかったために、横渦が乱流摩擦抵抗低減装置1を乗り越えてしまったためであると考えられる。これにより、本発明者は、乱流摩擦抵抗低減装置1の高さhとして、境界層の厚み(9mm)以上を採用する必要があるという知見を得た。
また、本発明者は、高さh=9mm、幅w=20mmの寸法を有し、h1=3mmの位置にフィンf1を、h2=3mmの位置にフィンf2、h3=3mmの位置にフィンf3をそれぞれ有する乱流摩擦抵抗低減装置1を第2の例として用意した。そして、本発明者は、当該第2の例の乱流摩擦抵抗低減装置1をスタッド21から50mm下流に配置させ、x=510mmの位置における流速変動を求めた。その結果、変動実効値Urmsが主流速度U∞の1.21%の流速変動が求められた。したがって、乱流摩擦抵抗低減装置1の高さhを、境界層の厚み(9mm)と同一として、フィンの数を増やすことにより、流速変動が抑制されることが分かった。
次に、本発明者は、高さh=12mm、幅w=20mmの寸法を有し、h1=3mmの位置にフィンf1を、h2=3mmの位置にフィンf2を、h3=3mmの位置にフィンf3を、h4=3mmの位置にフィンf4をそれぞれ有する乱流摩擦抵抗低減装置1を第3の例として用意した。そして、本発明者は、当該第3の例の乱流摩擦抵抗低減装置1をスタッド21から50mm下流に配置させ、x=510mmの位置における流速変動を求めた。その結果、変動実効値Urmsが主流速度U∞の1.13%の流速変動が求められた。したがって、乱流摩擦抵抗低減装置1の高さhを境界層の厚み(9mm)以上として、フィンの数を増やすことにより、流速変動がさらに抑制されることが分かった。すなわち、境界層の厚み(9mm)を、横渦による乱れ強さが極大値を示す高さとして、横渦が流れてくるのを抑制するために、乱流摩擦抵抗低減装置1の高さhを境界層の厚み(9mm)以上とする。
次に、本発明者は、高さh=12mm、幅w=30mmの寸法を有し、h1=3mmの位置にフィンf1を、h2=3mmの位置にフィンf2を、h3=3mmの位置にフィンf3を、h4=3mmの位置にフィンf4をそれぞれ有する乱流摩擦抵抗低減装置1を第4の例として用意した。そして、本発明者は、当該第4の例の乱流摩擦抵抗低減装置1をスタッド21から50mm下流に配置させ、x=510mmの位置における流速変動を求めた。その結果、変動実効値Urmsが主流速度U∞の0.71%の流速変動が求められた。したがって、乱流摩擦抵抗低減装置1の高さhを変えなくても、幅wを大きくすることにより、流速変動がさらに抑制されることが分かった。
次に、本発明者は、高さh=12mm、幅w=50mmの寸法を有し、h1=3mmの位置にフィンf1を、h2=3mmの位置にフィンf2を、h3=3mmの位置にフィンf3を、h4=3mmの位置にフィンf4をそれぞれ有する乱流摩擦抵抗低減装置1を第5の例として用意した。そして、本発明者は、当該第5の例の乱流摩擦抵抗低減装置1をスタッド21から50mm下流に配置させ、x=510mmの位置における流速変動を求めた。その結果、変動実効値Urmsが主流速度U∞の0.56%の流速変動が求められた。したがって、乱流摩擦抵抗低減装置1の高さhを変えなくても、幅wを大きくすることにより、流速変動がさらに抑制されることが分かった。第5の例の乱流摩擦抵抗低減装置1を用いた場合、流速変動の最大値(変動実効値Urmsが主流速度U∞の0.56%)が求められた局所的な領域以外では、流速変動は、層流境界層内の乱れ強さと同程度の流速変動(変動実効値Urmsが主流速度U∞の0.2%)にまで抑制された。したがって、第5の例の乱流摩擦抵抗低減装置1を用いることにより、流速変動は十分に抑制されることが分かった。
以上の知見により、乱流摩擦抵抗低減装置1の最適な寸法は、高さhと幅wの組み合わせが高さh=12mm、幅w=50mmであることが判明した。これは、暫定的な寸法と一致している。このことは、暫定的な寸法を決定した理由は、最適な寸法を決定する理由としてそのまま採用できることが、上述の検証実験により検証されたことを意味する。
すなわち、高さhは、境界層の厚み(9mm)以上が必要であり、上述の効果を顕著に奏するためには、横渦が流される境界層厚さの1.3倍(9×1.3=11.7mm)程度上方まで存在する乱れの変動場よりも大きくなる高さが望ましい。よって、高さhとしては、12mmが最適な寸法になる。
また、幅wは、上述の検証実験により、50mmが最適な寸法になる。すなわち、幅wは、境界層の厚さ(9mm)の4倍以上であると、上述の効果を顕著に奏することができる。よって、幅wとしては、50mmが最適な寸法になる。なお、最適な幅wを壁無次元長さで表わすと、最適な幅wとしては、壁無次元長さ800以上が最適な寸法になる。
なお、奥行きdは、熱線流速計を用いて速度相関値計測をして、流れ方向の流速変動の2点相関をとることにより求めることができる。奥行きdを境界層の厚み(9mm)よりも小さくした場合に、相関値が急激に下がる結果を得た。したがって、奥行きdは、境界層の厚み(9mm)以上であると、上述の効果を奏することができる。よって、奥行きdとしては10mmが最適な寸法になる。なお、最適な奥行きdを壁無次元長さで表わすと、最適な奥行きdとしては、壁無次元長さ250以上が最適な寸法になる。
乱流摩擦抵抗低減装置1は、例えば航空機に設置することにより、航空機の壁面の乱流境界層の発達を抑制して乱流摩擦抵抗を低減することができる。
図11は、乱流摩擦抵抗低減装置1の航空機31への適用例を示す図である。
図11は、航空機31を下から見た図である。図11に示されるように、乱流摩擦抵抗低減装置1は、航空機31の胴体部41、及び左右の翼面42に設置する。
胴体部41には、流速計等の機器が設置されているので、その背後は一時的に乱れ強さが増加する。したがって、流速計等の機器の下流に乱流摩擦抵抗低減装置1を設置することにより、流速計等の機器の背後の一時的な乱れ強さを抑制することが可能となる。
航空機31が小型飛行機である場合、全抵抗のうちの約70%が摩擦抵抗によるものであり、航空機31が音速の約0.8倍の速度の大型高亜音速飛行機である場合、全抵抗のうちの約48%が摩擦抵抗によるものである。さらに、航空機31が超音速機である場合でも、全抵抗のうちの約40%が摩擦抵抗によるものである。したがって、左右の翼面42に乱流摩擦抵抗低減装置1を設置し、乱流境界層の発達を抑制して乱流摩擦抵抗を低減することにより、航空機31の燃費を向上させることが可能となる。
なお、乱流摩擦抵抗低減装置1は、航空機31が巡航速度に達した時に使用されると乱流摩擦抵抗の低減の効果が大きくなる。また、離着陸時の安全面を考えて、乱流摩擦抵抗低減装置1は設置位置に可動式で設置されるとよい。航空機31に適用する場合の乱流摩擦抵抗低減装置1の材料としては、例えば、アルミニウム合金材等を採用することができる。
乱流摩擦抵抗低減装置1を航空機31の翼面42に設置する場合の乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法は次のように求めることができる。すなわち、乱流摩擦抵抗低減装置1の高さhと奥行きdは、境界層厚さ以上であり、幅wは、境界層厚さの4倍以上である。したがって、航空機31の翼面42における境界層厚さを求めれば、翼面42に設置する場合の乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法を求めることができる。したがって、以下、航空機31が小型飛行機である場合と大型高亜音速飛行機である場合との、翼面42におけるそれぞれの境界層厚さを求める。
翼の前縁からの距離をx、流速をUとした場合、レイノルズ数Rel(Rel=Ux/ν)が十分大きな領域(Rel>5×105)においては、速度分布は次の式(2)で示される1/7乗則で近似することができる。
この場合、レイノルズ数Rel(Rel=Ux/ν)が十分大きな領域(Rel>5×105)においては、境界層厚さδ、排除厚さδ*、運動量厚さθ、壁面せん断応力τ0、局所摩擦係数cfの大きさは、それぞれ次の式(3)乃至式(7)により示される。
はじめに、航空機31が小型飛行機である場合の、翼の後縁Lの位置における境界層厚さδの求め方について説明する。
前提事項として、小型飛行機は、飛行速度100m/sで巡航しているとする。また、小型飛行機の左右それぞれの翼は、幅3m、長さ15mの平板であるとみなす。ただし、翼の前縁から乱流境界層が発達しているものとする。また、小型飛行機の飛行の高度は大型高亜音速飛行機の飛行の高度と比較して高くないことから、空気の動粘性係数νは1.5×10-5m2/sであり、密度ρは1.2kg/m3であるとする。なお、小型低亜音速飛行機の場合、図2乃至図4において壁面粘性係数μwを用いて示されるレイノルズ数Reδ2と、後述する式(10)で定義される主流粘性係数μeを用いて示されるレイノルズ数Reθとは等しくなる。
翼の後縁L(すなわち、翼の前縁から3m)の位置における、レイノルズ数Rexは、次の式(8)により示される。
このように、翼の後縁Lの位置におけるレイノルズ数Rexは、臨界レイノルズ数Recr(Recr=5×105)よりも十分に大きい。したがって、翼の後縁Lの位置における境界層厚さδは、式(3)により求めることができる。具体的には、翼の後縁Lの位置における境界層厚さδは、次の式(9)を用いて3.9cmと求めることができる。なお、航空機31においては翼面に発生する境界層は層流(厳密には3次元流れ)から始まり、境界層には緩やかな圧力勾配が影響するが、次の式(9)は、これらの影響を無視した近似式である。しかしながら、実際の境界層厚さδの値と、このような近似式(9)により求められた境界層厚さδの値とは比較的差が小さく、少なくともcmオーダーは一致していることが知られている。
ここで、図3と図4で上述したように、Rotta厚さΔの0.25倍、詳細には、およそ0.25倍乃至0.28倍が境界層厚さに対応する。したがって、式(9)を用いて求めた境界層厚さδ=3.9cmが、Rotta厚さΔのおよそ0.25倍乃至0.28倍の範囲内となることを説明する。
翼の後縁L(すなわち、翼の前縁から3m)の位置に設置された乱流摩擦抵抗低減装置1についての、レイノルズ数Reθを求めてみると、上述の式(5)より運動量厚さθは0.38cmとなる。運動量厚さθを代表厚さにしたレイノルズ数Reθは、次の式(10)により示される。
したがって、運動量厚さθを代表厚さにしたレイノルズ数Reθは、式(10)を用いて25229と求めることができる。また、この場合のRotta厚さΔは、排除厚さδ*及び局所摩擦係数Cfを用いて、次の式(11)により示される。
排除厚さδ*は、式(4)を用いて0.48cmと求めることができる。したがって、式(11)を用いてRotta厚さΔを求めると、Rotta厚さΔは15cmと求めることができる。Rotta厚さΔ=15cmの0.25倍乃至0.28倍は、3.75cm乃至4.2cmとなり、上述した境界層厚さδの3.9cmはこの範囲内となることが分かる。
次に、航空機31が大型高亜音速飛行機である場合の、翼の後縁Lの位置における境界層厚さδの求め方について説明する。
前提事項として、大型高亜音速飛行機は、音速の0.8倍の飛行速度で巡航しているとする。また、大型高亜音速飛行機の飛行の高度を11kmであるとし、空気の動粘性係数νを4.0×10-5m2/sであるとする。なお、大型高亜音速飛行機の場合、図2乃至図4において壁面粘性係数μwを用いて示されるレイノルズ数Reδ2は、式(10)で定義される主流粘性係数μeを用いて示されるレイノルズ数Reθよりも一般的に小さくなる。これは、一般的に、壁面粘性係数μwが主流粘性係数μeよりもやや大きくなるためである。
翼の前縁から3mの位置における、レイノルズ数Rexは、次の式(12)により示される。
このように、翼の前縁から3mの位置におけるレイノルズ数Rexは、臨界レイノルズ数Recr(Recr=5×105)よりも十分に大きい。したがって、翼の前縁から3mの位置における乱流境界層における境界層厚さδは、式(3)により求めることができる。具体的には、翼の前縁から3mの位置における境界層厚さδは、式(3)を用いて4.0cmと求めることができる。
上述したように、航空機31が小型飛行機の場合、翼の後縁Lの位置(すなわち、翼の前縁から3m)における境界層厚さδは3.9cmであった。したがって、翼の前縁から3mにおける境界層厚さδは、動粘性係数が大きく異なることにより、航空機31が小型飛行機の場合も大型高亜音速飛行機の場合も、ほとんど変わらないことが分かる。
したがって、以下、航空機31が大型高亜音速飛行機の場合に、翼面42に設置する乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法について説明する。
ここでは、乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法として、航空機31の翼の前縁から1mの位置に設置される場合の寸法と、それよりも下流の翼の前縁から3mの位置に設置される場合の寸法との2つの例について説明する。
はじめに、翼の前縁から1mの位置に設置される乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法について説明する。
先ず、乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法のうち、高さhについて説明する。翼の前縁から1mの位置における乱流境界層における境界層厚さδは、式(3)により求めることができる。具体的には、翼の前縁から1mの位置における境界層厚さδは、式(3)を用いて1.3cmと求めることができる。上述したように、乱流の変動場は境界層厚さの1.3倍(1.3×1.3=1.69mm)程度上方まで存在するため、高さhは、翼の前縁から1mの位置では、2.0cm程度を採用すると好適である。
次に、乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法のうち、フィンf1乃至f4の各々の配置位置を決定付ける高さh1乃至h4について説明する。
高さh1+高さh2は、上述したように壁無次元長さに換算して100以下が好適である。壁無次元長さが100の位置は、測定により、9mmであることが分かった。したがって、高さh1+高さh2が9mm以下となるように、高さh1と高さh2とを採用すると好適である。例えば、高さh1=4.5mm、高さh2=4.5mmを採用すると好適である。
次に、高さh3と高さh4の好適な値について説明する。
ここで、図3と図4を参照して説明したように、フィンf3とフィンf4は、内層と外層をつなぐ位置であるRotta厚さΔが0.04Δの位置と境界層厚さの程度であるRotta厚さΔが0.25Δの間の領域に設置するとした。
例えば、乱流摩擦抵抗低減装置1について、高さhとして上述した20mmが採用され、高さh1+高さh2として9mmが採用されている場合、レイルズ数Reθが高い値であれば、9mm乃至20mmの範囲内に、Rotta厚さΔが0.04Δ乃至0.25Δの間の領域が存在する。この場合、高さh3+高さh4は、高さh−(高さh1+h2)=20−9=11mmとなるので、例えばフィンf3とフィンf4とをほぼ等間隔に配置されるように、高さh3=5mm、高さh4=6mmを採用すればよい。
しかしながら、レイルズ数Reθが低い値であれば、このように単純に高さh3と高さh4とを決定することはできない。レイノルズ数Reθが低い場合には、外層が十分に発達せずに、内層と外層が重なる領域が発生するからである。すなわち、レイノルズ数Reθが低い場合には、外層の長さは短くなり、内層と外層をつなぐ位置であるRotta厚さΔの位置が、0.04Δよりも大きなRotta厚さΔの位置に変わってしまう。したがって、内層と外層をつなぐ位置であるRotta厚さΔが0.04Δの位置が変わるのにあわせて、フィンf3とフィンf4の設置位置、すなわち高さh3と高さh4とも変化させる必要がある。
そこで、翼の前縁から1mの位置に設置された乱流摩擦抵抗低減装置1についての、レイノルズ数Reθを求めてみると、上述の式(5)より運動量厚さθは0.16cmとなるため、式(10)よりレイノルズ数Reθは9440と低い値になった。
この場合、Rotta厚さΔは、次の式(13)に示されるように、6.3cmとなる。
このように、Rotta厚さΔが6.3cmの場合の内層と外層をつなぐ位置であるRotta厚さΔが0.04Δの位置は2.52mm(6.3cm×0.04=2.52mm)となり、フィンf1とフィンf2の設置位置の範囲内(壁無次元長さが100に対応する9mm)となってしまう。すなわち、内層と外層が重なる領域が発生していることを示す。したがって、レイノルズ数Reθが低い場合には、内層と外層をつなぐ位置であるRotta厚さΔを、0.04Δよりも大きな0.16Δとみなす。したがって、フィンf3とフィンf4は、Rotta厚さΔ=0.16Δから境界層厚さの程度であるRotta厚さΔ=0.25Δの領域に配置するとよい。例えばフィンf3とフィンf4とを10.08mm(6.3cm×0.16=10.08)から15.75mm(6.3cm×0.25=15.75)の領域にほぼ等間隔に配置されるように高さh3と高さh4を採用すればよい。
乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法のうち、奥行きdについて説明する。奥行きdは、上述したように、境界層厚さδ以上とするため、翼の前縁から1mの位置では、2.0cm以上を採用すると好適である。
乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法のうち、幅wについて説明する。幅wは、上述したように、境界層厚さδの4倍以上または壁無次元長さ800以上とするため、8.0cm以上を採用すると好適である。
次に、翼の前縁から3mの位置に設置される乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法について説明する。
先ず、乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法のうち、高さhについて説明する。高さhは、境界層厚さδ以上とするため、翼の前縁から3mの位置では、4.0cm程度を採用すると好適である。
次に、乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法のうち、フィンf1乃至f4の各々の配置位置を決定付ける高さh1乃至h4について説明する。
高さh1+高さh2は、上述したように壁無次元長さに換算して100以下が好適である。壁無次元長さが100の位置は、測定により、6mmであることが分かった。したがって、高さh1+高さh2が6mm以下となるように、高さh1と高さh2とを採用すると好適である。例えば、高さh1=3.0mm、高さh2=3.0mmを採用すると好適である。
次に、高さh3と高さh4の好適な値について説明する。
ここで、図3と図4を参照して説明したように、フィンf3とフィンf4は、内層と外層をつなぐ位置であるRotta厚さΔが0.04Δの位置と境界層厚さの程度であるRotta厚さΔが0.25Δの間の領域に設置するとした。
例えば、乱流摩擦抵抗低減装置1について、高さhとして上述した40mmが採用され、高さh1+高さh2として6mmが採用されている場合、レイルズ数Reθが高い値であれば、6mm乃至40mmの範囲内に、Rotta厚さΔが0.04Δ乃至0.25Δの間の領域が存在する。この場合、高さh3+高さh4は、高さh−(高さh1+h2)=40−6=34mmとなるので、例えばフィンf3とフィンf4とをほぼ等間隔に配置されるように、高さh3=17mm、高さh4=17mmを採用すればよい。
しかしながら、レイルズ数Reθが高い値であれば、このように単純に高さh3と高さh4とを決定することはできない。レイノルズ数Reθが高い場合には、外層は十分に発達して外層の長さは下流方向に長くなってしまうからである。すなわち、レイノルズ数Reθが高い場合には、2枚のフィンだけでは、壁面近傍から流れてくる渦運動が外層で発達するのを抑制することができない。したがって、外層の長さが長くなるのにあわせて、外層に設置するフィンの枚数を増やす必要がある。
そこで、翼の前縁から3mの位置に設置された乱流摩擦抵抗低減装置1についての、レイノルズ数Reθを求めてみると、上述の式(5)より運動量厚さθは0.39cmとなるため、式(10)よりレイノルズ数Reθは22944と高い値になった。
この場合、Rotta厚さΔは、次の式(14)に示されるように、15.8cmとなる。
このように、Rotta厚さΔが15.8cmの場合の内層と外層をつなぐ位置であるRotta厚さΔが0.04Δの位置は6.32mm(15.8×0.04=6.32mm)となり、フィンf1とフィンf2の設置位置の範囲内の壁無次元長さが100に対応する6mmの範囲外となることが確認できる。すなわち、内層と外層とが重なる領域は発生していないことを示している。したがって、Rotta厚さΔが0.04Δから境界層厚さδが40mmまでは乱れ強さが相似形状に減衰することを利用して、この領域にフィンを複数枚、等間隔に設置するとよい。例えば、フィンf2とフィンf3の距離をほぼ0.04Δ=6.32mmとして、高さh3=7mm、高さh4=13mm、高さh5=14mmとすると好適である。すなわち、壁面からそれぞれ3.0mm、6.0mm、13.0mm、26.0mm、40.0mmの位置にフィンf1乃至f5を設置すると好適である。
乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法のうち、奥行きdについて説明する。奥行きdは、上述したように、境界層厚さδ以上とするため、翼の前縁から3mの位置では、4.0cm以上を採用すると好適である。
乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法のうち、幅wについて説明する。幅wは、上述したように、境界層厚さδの4倍以上または壁無次元長さ800以上とするため、16.0cm以上を採用すると好適である。
以上、乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法とフィンの配置位置をまとめると、乱流摩擦抵抗低減装置1の高さhと奥行きdは、ともに境界層厚さ以上、幅wは、境界層厚さの4倍以上または壁無次元長さ800以上とすると好適である。また、フィンの配置位置は、高さh1+高さh2が、壁無次元長さ100以下となる条件下で、フィンf1がバッファ層を抑制可能となるように、高さh1が設定され、かつ、フィンf2が低速流塊を抑制可能となるように、高さh2を設定すると好適である。特に、壁無次元長さ50の位置にフィンf1を設置し、壁無次元長さ100の位置にフィンf2を設置するとよい。また、外層に設置するフィンf3とフィンf4は、Rotta厚さΔが0.04Δ乃至0.25Δの領域に設置すると好適である。なお、フィンf3とフィンf4は、レイノルズ数の値に応じて設置位置を変えるとよい。また、外層に設置するフィンは2枚に限定されず、境界層の厚みに応じて設置枚数を変えるとよい。さらに、レイノルズ数が高い場合、外層に設置するフィンの奥行きdを長くするとよい。
以上、乱流摩擦抵抗低減装置1を航空機31に設置する例について述べた。しかしながら、乱流摩擦抵抗低減装置1の適用例は航空機31に限られない。乱流摩擦抵抗低減装置1は、例えば新幹線等の鉄道車両に適用することにより、鉄道車両の壁面の乱流境界層の発達を抑制して乱流摩擦抵抗を低減するとともに、鉄道車両の壁面近傍の乱れ強さが大幅に減衰する。鉄道車両の壁面近傍の乱れ強さが減衰すると圧力変動も小さくなり、鉄道車両の壁面近傍から発生する比較的周波数の低い騒音を抑制することができる。さらに、鉄道車両が高速(300km/h以上)で移動している場合、その遠方場で減衰が遅い比較的低周波な帯域の騒音が発生するが、乱流摩擦抵抗低減装置1は、このような騒音も低減することができる。
図12は、乱流摩擦抵抗低減装置1の鉄道車両51への適用例を示す図である。鉄道車両51においては、全抵抗のうちの約50%が摩擦抵抗によるものである。また、乱れ強さが大きい鉄道車両の壁面近傍に圧力変動が大きい流れが形成され、音響場Sdが発生している。したがって、摩擦抵抗を低減するとともに、圧力変動を小さくして音響場Sdを小さくする必要がある。
図12に示されるように、例えば、鉄道車両51の先頭部で層流境界層Laが発達した場合にその下流では、鉄道車両51の屋根のパンタグラフ支持部の下流で乱流境界層Tuが発達するとする。この場合、乱流摩擦抵抗低減装置1は、鉄道車両51の屋根のパンタグラフ支持部の下流に設置される。新幹線等の鉄道車両51における乱流境界層は、鉄道車両51の先頭の3次元形状により急激に発達するので、平板上に発生する平板の層流境界層から乱流境界層への遷移の状態とは大きく異なる。しかしながら、鉄道車両51において発達した乱流境界層の壁面の摩擦係数と運動量厚さθを代表厚さにしたレイノルズ数Reθとの関係は、平板乱流境界層において発達した乱流境界層におけるものと比較すると、その比較の結果はほぼ一致する。なお、鉄道車両51の屋根におけるレイノルズ数は、図2乃至図4に示される第5条件程度のレイノルズ数となる。
鉄道車両51では、乱流境界層の発生により、摩擦抵抗が増大するだけでなく、乱流境界層から発生される音波は、100Hz程度までの低周波で減衰が遅いため、遠方で比較的大きな騒音が発生する。したがって、鉄道車両51に乱流摩擦抵抗低減装置1を設置することにより、鉄道車両51の壁面の乱流境界層の発達が抑制され、乱流摩擦抵抗が低減されるとともに、騒音を抑制することも可能となる。鉄道車両51に適用する場合の乱流摩擦抵抗低減装置1の材料としては、例えば、アルミニウム合金圧延材等を採用することができる。
なお、鉄道車両51において発達する乱流境界層の厚さは1m以上となる場合がある。このような場合、境界層厚さに合わせて乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法を決定すると、設置が困難となる可能性もある。したがって、設置可能な乱流摩擦抵抗低減装置1の寸法に合わせて適宜フィンの数を変更するとよい。例えば、乱流摩擦抵抗低減装置1の高さhを、フィンf1とフィンf2のみを設置した高さh1+高さh2として、壁面近傍の内層の乱れを抑制させ、全体として乱流摩擦抵抗を低減させることもできる。
さらに、乱流摩擦抵抗低減装置1は、例えば上水道等のような流体の流れる円管内に設置することにより、円管内の乱流の発達を抑制して乱流摩擦抵抗を低減し、効率を向上させることができる。
図13は、乱流摩擦抵抗低減装置1の円管61への適用例を示す図である。
図13Aに示される円管61の内部においては、図13Bに示される円管61の断面図から分かるように、乱流が発生する。したがって、円管61の内部においては、管内乱流により乱流摩擦抵抗が増大し、円管61の内部を通過する気体や液体の輸送の効率が低下する。管内乱流の乱れ強さは、内層においては、図2に示される乱れ強さの特徴と類似する。すなわち、管内乱流の乱れ強さは、壁無次元長さが10程度の領域で最大値を示し、壁無次元長さが大きい領域ではレイノルズ数が大きいほど乱れ強さの値は大きくなる。なお、円管61の管軸での乱れ強さは大きく、壁面近傍の乱れ強さの大きさは乱流境界層と同程度である。
そこで、乱流摩擦抵抗を軽減し、気体や液体の輸送の効率の低下を防止すべく、図13Cに示されるように、円管61内に筒型の乱流摩擦抵抗低減装置1を設置するとよい。この場合、円管61の内部の直径と略同一の直径を有し、速度変動相関値計測より、長手方向の長さとして管半径の2倍以上の長さを有し、円管61の同心円上に設置される複数枚のフィンを有する、筒型の乱流摩擦抵抗低減装置1を採用すればよい。設置するフィンの間隔を最適にすることによって、フィンの枚数を少なくすることができる。したがって、フィンによる圧力降下を非常に小さくすることができ、また、その下流で摩擦抵抗が減少することによって全体として抵抗を低減することができる。
このように、円管61内に筒型の乱流摩擦抵抗低減装置1を設置することによって、筒型の乱流摩擦抵抗低減装置1の直径の10倍程度の距離の下流まで、乱流摩擦抵抗が低減する。そこで、図13Dに示されるように、筒型の乱流摩擦抵抗低減装置1の直径の10倍程度の距離毎に、筒型の乱流摩擦抵抗低減装置1を1つずつ設置するとよい。これにより、管内乱流の発達が抑制され、乱流摩擦抵抗が低減する。その結果、円管61の内部を通過する気体や液体の輸送の効率の低下を防止することが可能になる。
なお、円管61に適用する場合の乱流摩擦抵抗低減装置1の材料としては、例えば管路材等を採用することができる。
また、この他にも乱流摩擦抵抗低減装置1は、タンカー等の船舶等にも適用することができる。しかしながら、乱流摩擦抵抗低減装置1の適用例は、上述した例に限定されない。
本発明は、乱流境界層が発生する壁面に適用することができる。