JP5580544B2 - がん治療用の遊走阻害剤 - Google Patents

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Description

本発明は、放射線等を用いてのがん治療における腫瘍細胞の遊走性の亢進を抑制、阻害する遊走阻害剤に関するものである。
従来より、がん治療を目的として臨床の現場で放射線の照射が行われてきており、近年では、X線だけでなくα線(陽子線)、炭素線、ネオン線など、多様な重粒子線の照射の有効性が注目されてきている。
ただ、放射線治療についての臨床的な検討が進むにつれて、改めてその有効性をより確実なものとし、また、より高めるための方策が求められてきている。実際、本発明者によって行われた実験的検討によれば、X線や多種類の重粒子線(炭素線、ネオン線、アルゴン線)を用いて腫瘍細胞に対して照射を行うと、放射線の照射が、逆に、腫瘍細胞の遊走性を亢進させるという現象が確認されてもいるからである。
また、これまでにも、臨床においては、難治性のがんはX線抵抗性であることが知られている。たとえば、文献的に低線量の放射線(X線で1〜3Gy)がラットの腫瘍細胞の遊走と浸潤を亢進することが知られている(非特許文献1)。
また、マウスLM8osteosarcoma細胞では、X線を照射した細胞では腹腔内接種した腫瘍細胞の肺転移が促進されるとともに、重粒子線の一種である炭素線を照射した細胞では肺転移が減じると報告されている(非特許文献2)。
しかしながら、ヒトのがん細胞においてX線や複数の重粒子線が細胞の走行性にどのような生物学的効果をもたらすか詳細に解析した報告は見当らないのが実情である。本発明者の確認したところでは、従来よりX線抵抗性とされている難治性の神経膠芽腫細胞にX線と多種類の重粒子線(炭素線、ネオン線、アルゴン線)を低線量および高線量(10Gy)照射しても、細胞の遊走性が返って亢進することを、腫瘍細胞の走行性を解析する複数の実験系を用いて見出しているが、特に照射後3日まではX線10Gy照射により通常の2倍、重粒子線(炭素線、ネオン線、アルゴン線ともに10Gy)照射では3倍の速度で腫瘍細胞の遊走性が促進される現象が見られる。また、照射後の長期解析では高線量(10Gy)の重粒子線照射後10日目においても遊走する紡錘形腫瘍細胞を確認できる。
このことは、照射野内に存在する細胞が照射野外に移動しそこで腫瘍形成する可能性を示唆している。してみると、高い生物学的効果を持つとされる重粒子線を用いても単独では腫瘍細胞の根治は難しく、逆に髄腔内播種や浸潤性増殖を促進する可能性がある。このことは大きな問題であって、21世紀のがん治療を担うと期待される重粒子線がその高い生物学的効果から逆に腫瘍を強力に照射外に追い立て、その結果、治療を行うと返って播種や転移が従来のX線治療よりも出現し易くなることになる。このため、放射線治療における放射線増感や遊走阻害を可能とする方策が強く求められている。
従来、がんの治療や研究はもっぱら細胞増殖を抑制すると言う観点から推進されてきており、抗がん剤や放射線は現在でもがん治療の主要な治療手段であり、DNAに障害をもたらし細胞増殖を抑制するという観点からの研究開発がなされてきている。このような従来の観点では、放射線治療に反応せず照射野外に浸潤あるいは転移した腫瘍に関しては放射線抵抗性細胞として片付けられてきている。たとえば、悪性脳腫瘍の代表であるグリオーマにしても、放射線抵抗性である理由としてDNA合成を活発に行う細胞と遊走する細胞とは別物であるという、Go(遊走)or Grow(増殖)hypothesisまたはproliferation(増殖)とmigration(遊走)のDichotomy(二元論)が主張されている(非特許文献3、4)。すなわち、神経膠芽腫細胞のうちの分裂し増殖している細胞は放射線感受性が比較的高く、一方、遊走している細胞は別物で放射線抵抗性でありアポトーシスに陥りづらいので照射野外に浸潤し増殖すると考えられている。
しかし、これは現状での認識の限界を示しているに過ぎないと言える。放射線照射に伴う「遊走」による転移、浸潤の機序や、これを抑止し阻害するための方策の手掛かりが解明されていないからである。
Cancer Res. 65, 113-120, 2005 Cancer Res. 61, 2744-2750, 2001 J. Clin. Oncol. 21, 1624-1636, 2003 Int. J. Cancer 67, 275-282, 1996
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、固形がんで解決しなければならない転移、浸潤、播種に対する、放射線増感剤、遊走阻害を兼ねるがん治療剤、がん転移予防剤を提供することを課題としている。
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
第1:マトリックスメタロプロテアーゼの産生抑制活性を有する化合物を有効成分として含有することを特徴とする放射線がん治療用の放射線増感性遊走阻害剤。
第2:前記化合物は、少なくともマトリックスメタロプロテアーゼ-3の産生抑制活性を有することを特徴とする上記第1の放射線がん治療用の放射線増感性遊走阻害剤。
第3:前記化合物は、Marimastat、AG3340、CGS27023A、Bay 12-9566、Neovastat、BMS 275-291、テトラサイクリン類、Matristatin、およびカテキンから選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする上記第1または第2の放射線がん治療用の放射線増感性遊走阻害剤。
第4:前記化合物は、Ac-RCGVPD-NH2、N-isobutyl-N-(4-methoxyphenylsulfonyl)-glycylhydroxamic Acid;NNGH、N-[[(4,5-dihydro-5-thioxo-1,3,4-thiadiazol-2-yl)amino]carbonyl]-L-phenylalanine、α-[[[(4,5-dihydro-5-thioxo-1,3,4,-thiadiazol-2-yl)amino]carbonyl]amino]-N-(cyclohexylmethyl)-(S)-benzenepropanamide、4-dibenzofuran-2-yl-4-hydroximino-butyric acid、4-(4-biphenyl)-4-hydroxyimino-butyric acid、3-[4-(4-cyanophenyl)phenoxy]propanohydroxamic acid、および{N-hydroxy-2(R)-[(4-methoxyphenyl)sulfonyl]-[benzylamino]}-4-methypentanamideから選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする上記第1または第2の放射線がん治療用の放射線増感性遊走阻害剤。
第5:マトリックスメタロプロテアーゼの産生抑制活性を有する化合物を有効成分として含有することを特徴とするがん治療用の遊走阻害剤。
第6:前記化合物は、少なくともマトリックスメタロプロテアーゼ-3の産生抑制活性を有することを特徴とする上記第3のがん治療用の遊走阻害剤。
第7:前記化合物は、Marimastat、AG3340、CGS27023A、Bay 12-9566、Neovastat、BMS 275-291、テトラサイクリン類、Matristatin、およびカテキンから選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする上記第5または第6のがん治療用の遊走阻害剤。
第8:前記化合物は、Ac-RCGVPD-NH2、N-isobutyl-N-(4-methoxyphenylsulfonyl)-glycylhydroxamic Acid;NNGH、N-[[(4,5-dihydro-5-thioxo-1,3,4-thiadiazol-2-yl)amino]carbonyl]-L-phenylalanine、α-[[[(4,5-dihydro-5-thioxo-1,3,4,-thiadiazol-2-yl)amino]carbonyl]amino]-N-(cyclohexylmethyl)-(S)-benzenepropanamide、4-dibenzofuran-2-yl-4-hydroximino-butyric acid、4-(4-biphenyl)-4-hydroxyimino-butyric acid、3-[4-(4-cyanophenyl)phenoxy]propanohydroxamic acid、および{N-hydroxy-2(R)-[(4-methoxyphenyl)sulfonyl]-[benzylamino]}-4-methypentanamideから選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする上記第5または第6のがん治療用の遊走阻害剤。
本発明によれば、重粒子線をはじめとする放射線の照射によるがん治療において、放射線照射にともなう腫瘍細胞の遊走性の亢進を抑制、阻害することのできる、放射線増感性の遊走阻害剤が提供され、さらには、薬剤等によるがん治療一般においても腫瘍細胞の遊走性の亢進を抑制、阻害することも可能となる。
実施例1の臨床検体を用いた遊走能評価の結果を示した図である。 実施例1の臨床検体を用いた遊走能評価の結果を示した図である。 実施例1の臨床検体を用いた遊走能評価の結果を示した図である。 実施例1の臨床検体を用いた遊走能評価の結果を示した図である。 実施例1の臨床検体を用いた遊走能評価の結果を示した図である。 実施例2において、選択したプローブを、正のLog2値を持つ増加遺伝子と負のLog2値を持つ減少遺伝子とに区分けしLog2値の絶対値に従ってランク付けした結果を示した図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
12C、20Ne、40Arイオンビーム等の高線エネルギー付与(LET)荷電粒子線は、低LET X線と比べて相対的に高い生物学的活性を持つ。従ってグリア芽腫細胞などの最も未分化であり侵襲的であるヒト癌は従来のX線療法に通常は抵抗性を有することから、それらの癌の治療に対して高LET放射線療法という新手法が有望である。さらに高LET荷電粒子線はBraggピークが鋭いために空間分布が一層正確になり、定位がよく定まることから、周辺の生体構造に及ぼす有害作用を最小限にしながら病変部の治療を行うことが可能となる。
12Cイオンビーム、20Neイオンビーム、40Arイオンビームなどの高線エネルギー付与(LET)荷電粒子線は、X線抵抗性癌の治療に用いる新しい療法となる可能性を有しているが、本発明では、腫瘍の放射線反応性が、腫瘍細胞増殖と転移の両者に対する放射線感受性により決定されることが確認されている。高LET放射線はヒトグリア芽腫細胞株であるCGNH-89に対して顕著な細胞毒性作用を示す。12C、20Neならびに40ArイオンビームのX線に対する相対的な生物学的作用を、D10、すなわちクローン化可能細胞の10%生存率を示す線量としてそれぞれ計算したところ、3.4、4.5ならびに6.2Gyになった。高LETならびに低LET放射線の単回大量10Gy線量により腫瘍細胞の転移が促進される。
本発明において有効成分として用いられるマトリックスメタロプロテアーゼの産生抑制活性を有する化合物(以下、「MMP阻害剤」という。)の具体例としては、マリマスタット(Marimastat(BB-2516))、AG3340、CGS27023A、Bay 12-9566、Neovastat、BMS 275-291、テトラサイクリン類、Matristatin(三共)、カテキン等が挙げられる。これらの物質は、公知文献に記載された合成方法を参照し、あるいは通常の合成法を用いることにより製造することができ、また、これらの物質の製造、販売、開発会社等から入手することもできる。
また、選択的MMP-3阻害剤として以下のものを挙げることができ、メルク株式会社より購入できる。
Ac-RCGVPD-NH2;Stromelysin-1 阻害剤
N-isobutyl-N-(4-methoxyphenylsulfonyl)-glycylhydroxamic Acid;NNGH
N-[[(4,5-dihydro-5-thioxo-1,3,4-thiadiazol-2-yl)amino]carbonyl]-L-phenylalanine
α-[[[(4,5-dihydro-5-thioxo-1,3,4,-thiadiazol-2-yl)amino]carbonyl]amino]-N-(cyclohexylmethyl)-(S)-benzenepropanamide
4-dibenzofuran-2-yl-4-hydroximino-butyric acid
4-(4-biphenyl)-4-hydroxyimino-butyric acid
3-[4-(4-cyanophenyl)phenoxy]propanohydroxamic acid
{N-hydroxy-2(R)-[(4-methoxyphenyl)sulfonyl]-[benzylamino]}-4-methypentanamide
これらの物質に対する1時間曝露後に放射線に曝露した細胞では、細胞増殖と細胞運動の阻害が顕著に促進されることが示された。これらの結果から、新しい放射線療法は細胞移動阻害剤の投与と組み合わせるべきであることが確認されている。
本発明においては、以上のような放射線がん治療用の放射線増感性遊走阻害剤が提供されるとともに、薬剤等による他のがん治療用の遊走阻害剤も提供される。
MMP阻害剤を照射誘発遊走阻害剤として用いる場合は、照射によるMMP-3遺伝子への選択的高発現から考えてもMMP阻害剤の役割は非常に高いと考えられる。
MMP阻害剤による治療は照射前後の限定された短期間の内服で良く、MMP-3に的を絞り(マリマスタットはMMP-1,2,3,9を阻害する)より副作用の少ない薬剤の選択も可能である。
本発明に係る遊走阻害剤の製剤は、通常製剤化に用いられる担体や賦形剤、その他の添加剤を用いて調製される。製剤用の担体や賦形剤としては、固体または液体のいずれであってもよく、たとえば、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、スターチ、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、オリーブ油、ゴマ油、カカオバター、エチレングリコール、その他常用のものが挙げられる。
投与は、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤などによる経口投与、あるいは静注、筋注などの注射剤、坐剤、経皮などによる非経口投与のいずれの形態であってもよい。
放射線がん治療においては、たとえば、MMP阻害剤の使用方法は分割照射の場合は連日照射直前に内服または注射を行い、単回照射の場合は照射直前および照射後も最低2週間は連日投与することが好ましい。特に重粒子線照射を病巣部に限局して照射する場合は激しく腫瘍細胞が遊走することを考慮し十分な照射前後のMMP阻害剤の投与が必要である。
また、X線と重粒子線照射を併用する場合は、従来技術により安全な線量が開示されているX線をMMP阻害剤と併用して腫瘍塊中心部と浸潤領域を含む範囲に比較的広く分割照射したのち、重粒子線照射はX線照射後に腫瘍塊中心部に限局してやはりMMP阻害剤と併用して照射を行い、照射後も2週間以上投与するのが効果的である。
高線量の重粒子線は脳壊死を引き起こし、また低線量でも広範囲に重粒子線照射を行うと顕著な脳萎縮、水頭症の発現など重篤な副作用が出現する可能性があるため、安全性が確立されているX線照射をまず広範囲に行った後に、腫瘍塊限局重粒子線照射を行うのが安全性が高く効果的な治療法であると考えられる。
この際MMP阻害剤との併用が必要で、照射単独では従来技術の成果しか望めず、したがって照射野内における局所再発や髄空内播種、および浸潤性増殖が起こり得る。重粒子線照射装置は限られた施設のみで使用可能であるが、従来のX線照射装置を用いても1回線量を3.6Gy(1.8Gyを1日2回)程度に上昇しMMP阻害剤を併用すると炭素線3.6Gy相当の抗腫瘍効果が期待できる。
サイバーナイフなど比較的高線量・分割照射可能な装置を用いてMMP阻害剤の併用を行うとさらに治療効果が上がる。具体的には、サイバーナイフ装置にて1回線量5Gyで6〜8分割にて照射しMMP阻害剤と併用して行い、さらに照射後も2週間MMP阻害剤を投与する。また、比較的病変が広範で浸潤領域が広い場合には、通常のX線照射を浸潤部位を含む領域に広範囲に40Gy(2Gy/日×20回)照射し、その後サイバーナイフ装置を用いて腫瘍塊に限局して20Gy(5Gy/回×4)照射を行う。この際も、照射単独では照射による腫瘍細胞の遊走と浸潤性の亢進を引き起こすので、照射直前より照射後2週間は連日MMP阻害剤を併用するのがよい。
臨床的には薬剤の副作用を軽減するためには、ブロードなMMP阻害剤よりMMP-3を標的とした阻害剤がより好ましく、さらに、副作用が懸念される場合は特に分割照射開始から初期10日間に限り薬剤を施行するのも良い。現行の標準治療であるtemozolomide (テモダール(R))、インターフェロン(フェロン(R))、さらにはAMPA型受容体拮抗薬(タランパネル(R))などの遊走阻害剤と併用するのも効果的である。
本発明の遊走阻害剤の投与量は、症状、投与対象の年齢、性別などを考慮して、個々の場合に応じて適宜に決定されるが、通常成人1日当たり10〜2000mg、好ましくは1日当たり150mg程度である。成人1日当たり10〜2000mgを、1回で、あるいは2〜4回に分けて投与してもよい。静脈内投与や、持続的静脈内投与の場合には、一日当たり1〜24時間で投与してもよい。投与量は、有効成分の種類や遊走阻害剤の形態などに応じて決められるが、有効である場合には上記の範囲よりも少ない投与量を用いることもできる。
本発明の遊走阻害剤は、主に非経口投与、具体的には、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、髄腔内投与、硬膜外、関節内、および局所投与、あるいは可能であれば経口投与など、種々の投与形態で投与可能である。
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性または非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤などが挙げられる。水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば注射用蒸留水および生理食塩水などが挙げられる。非水溶性の溶液剤、懸濁剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類、ポリソルベート80(商品名)などが挙げられる。
非経口投与のための組成物はさらに、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤(例えば、ラクトース)、溶解補助剤(例えば、メグルミン酸)などの補助剤を含んでいてもよい。これらは、たとえばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、または光照射によって無菌化される。また、非経口投与のための組成物は、無菌の固体組成物を製造しておき使用前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解して調製することもできる。
本発明の遊走阻害剤を経口投与のための固体組成物とする場合、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤などの形態とすることができる。このような固体組成物は、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸、アルミン酸マグネシウムなどの不活性な希釈剤を、有効成分としての活性物質と混合して調製することができる。
固体組成物には、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えばステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、繊維素グリコール酸カルシウム等の崩壊剤、ラクトース等の安定化剤、グルタミン酸およびアスパラギン酸等の溶解補助剤などを配合することができる。錠剤や丸剤には、必要に応じて、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等の糖衣、あるいは、胃溶性または腸溶性物質のフィルムを被膜してもよい。
本発明の遊走阻害剤を経口投与のための液体組成物とする場合、薬理上許容される乳濁剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水、エタノールを含む。この組成物は不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有してもよい。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例においては次の手段が採用されている。
1)外科標本と細胞培養
本実施例で調べた外科標本は、世界保健機関の分類に従って組織学的に多形性グリア芽腫細胞であることが同定された。細胞培養は既報に従い調製した。CGNH-89の亜系統であるCGNH-PMも使用した。細胞培養は10%ウシ胎児血清と2mMグルタミンを添加したイーグル最少必須培地(Life Technologies, Rockville, MD)中で行った。
2)X線照射
細胞に対する放射線照射は、140kV、4.5mAで運転するMBR-1505R X線装置(日立製)に0.5mm Al濾過を用い、焦点源距離30cm、1.11Gy/分の条件で既報(Akimoto, T. et al. Int. J. Radiat. Oncol. Bial. Phys. 50, 195-201(2001))に従って実施した。
3)炭素線照射
炭素線照射は日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所 AVFサイクロトロンより作られた12C イオン線(220 MeV),LET;linear energy transfer, 108KeV/μm broad beamを用いて照射した。照射中は培養上清を抜き腫瘍細胞は、このための乾燥を防ぐために8-μmの厚さのポリイミド・フィルム(Kapton; DuPont-Toray Co., Ltd.)を被せた。
4)免疫蛍光法
間接蛍光抗体染色は既報に従い実施した(Huang, X. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 1065-1070(2005))。二重免疫蛍光法には、フルオレセインイソチオシアネートならびにローダミン結合二次抗体(Molecular Probes, Inc.)を用いて結合抗体を可視化した。染色細胞はレーザー走査共焦点顕微鏡(Pascal LSM5; Carl Zeiss)を用いて検査した。デオキシリボ核酸対比染色はDAPIを用いて実施した。
5)遊走アッセイ
遊走アッセイでは、一端をシリコングリスでコーティングしたガラス製クローニングシリンダ(直径7mm)を培養皿の中央に配置した。このシリンダ内に5×104個の細胞を蒔いた。このプレーティング後24時間の時点で、細胞に放射線照射を行い、このクローニング環を除去した。細胞をさらに48時間にわたり培養した。続いてこのクローニング環の境界を越えた細胞数を計数した。
6)NO産生細胞の同定および標識
NO産生細胞の同定および標識はdiaminofluorescein-2 diacetate (DAF-2 DA、10μMで使用、第一化学薬品株式会社)を用いて行った(Nakatsubo, Kojima FFBS Letters 427,273-266,1998)。NO産生細胞の分布はNO存在下でDAF-2より変換したDAF-2T fluorescenceを共焦点顕微鏡(Pascal LSM5; Carl Zeiss)で可視化することで捉えた。
7)データ分析
データは平均±標準誤差で示している。統計比較は対応のないt検定、または一元配置分散分析(事後分析のためにはSchaffeの試験)を用いて実施した。
<実施例1>
MMP-3は第一ファインケミカル社の抗ヒトMMP-3抗体を200倍希釈で用いた。一酸化窒素(NO)の蛍光測定はDiaminofluorescein-2 diacetate (DAF-2 DA、第一化学薬品(株)製)を10μMで用いた。
MMP-3阻害剤はカルビオケム社のMMP-3 inhibitor VIIIを用いた。
図1の遊走能評価試験では、10Gyの放射線を投与した場合に、NOの発現に一致しMMP-3の発現を認め非照射に比較して遊走亢進した。NO中和剤(C-PTIO)やNOの合成阻害剤L-NAMEを投与するとNO産生の低下と共にMMP-3の発現が低下し遊走が抑制された。
このように、MMP-3は照射により増強しNO阻害剤併用にてその発現増強を抑制することができることを確認した。
図2(a)に示すように、放射線(X線 10Gy)にて細胞が紡錘型となり、細胞の細胞間結合が離れ遊走が亢進した。しかしMMP-3阻害剤は細胞間結合を高め遊走を阻害した。また図2(b)に示すように、X線10GyはMMP-3の蛋白発現を約3倍高めた。またMMP-3阻害剤はNOの発現に影響を与えなかった。
図3(a)、(b)より、X線10Gy照射により細胞の遊走性は2倍に増加した。図4(a)、(b)は、MMP-3阻害剤は、容量依存性に1〜100μMで照射が誘発する遊走亢進を阻害することを示している。
図5に示すように、X線46Gy照射後、手術にて摘出した標本について、GFAP(赤)(グリアマーカー)とMMP-3(緑)抗体による2重染色を行った。核はDAPI(青)にて染色した。壊死周囲(N)の浸潤最先端でMMP-3陽性像を認めた。なお、非照射摘出標本では、MMP-3は腫瘍細胞に染色されなかった。
<実施例2>
照射による腫瘍細胞の遊走亢進の分子機構をAffymetrix社のジーンチップにて解析した。X線、炭素線照射細胞の遺伝子解析結果を表1に示す。Venn diagramは偽処理細胞に対するX線照射および炭素線照射CGNH細胞から得られたマイクロアレイデータを纏めたものである。有意に変化したプローブに関する値は、Welch t-test、ミスマッチプローブに対する検出有意性、および倍変化基準を組み合わせた選択により決定された。
マイクロアッセイの方法は次のとおりである。CGNH-89細胞の全RNAはIsogen試薬(Nippon Gene, Tokyo, Japan)を用い、X線10Gy処理または炭素線10Gy処理し24時間後に抽出した。X線アレイチャンバー内の未照射のセルセットをコントロールとして採取した。それぞれの条件ごとに6枚の培養ディッシュを用いて照射実験を行い、RNA抽出を行った後、3ディッシュ分のRNAをまとめて、各条件ごとに2つのRNAプールを作製した。
これらを以下の手順に従って処理した。RNAの質はAgilient 2100バイオアナライザ(Agilent Technologies, Santa Clara, CA)を用いて分析した。ターゲットの用意およびハイブリダイゼーションはAffymetrix基準プロトコル(Affymetrix, Santa Clara, CA, GeneChip Eukaryotic Target Preparation & Hybridization Manual)に従って行った。すなわち、各プールからの全RNAの3つのマイクログラムをテンプレートとして用い、GeneChip Expression 3’-Amplification Reagents for IVT Labeling Kit (Affymetrix)を用いてcDNAおよびビオチン化cRNAを合成した。その後、ビオチン化cRNAをGeneChip Hybridization Oven 640 (Affymetrix)中にて45℃で16時間、Affymetrix GeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 arrayにハイブリダイズした。
チップを洗浄しGeneChip Fluidics Station 450 (Affymetrix)を用いて染色した。生データはGeneChip Scanner 3000 7Gを経由して取得し、GCOSソフトウェア(GCOS ver. 1.4, Affymetrix)を用いて処理した。生データ(Affymetrix CEL fines)は、R関数(R project, http://www.r-project.org/)およびBioconductor (http://www.bioconductor.org/)によりRMA(Irizarry et al., Biostatistics, 2003)およびAffymetrixのMicro Array Suite 5(MAS 5.0, Hubbell et al., Bioinformatics, 2002)を用いてバックグラウンド調整および標準化を行った。RMA標準化値はハイブリダイゼーションを並行して平均化した。
有意に変化したプローブセットは次の3ステップに従って選択した。第一のステップとして、照射群およびコントロール群のlog2スケールのRMAの結果は、低stringency (P<0.2)にてtwo-tail Welch t-test (B.L. Welch, Biometrika 34, 28 (1947))に供された。
第二のステップとして、MASの結果について検出有意性を調べた。照射および未照射試料の両方のプローブのうち有意に検出されなかったものは排除した。
第三のステップとして、RMA log2比の絶対値をランク付けした。照射群のRMA平均値はコントロール群のRMA平均値により区分けし、この値のbase-2 logarithm(Log2)をlog比として構成した。P値、log比の計算値および重みを各々同じ重要性で組み合わせるために、カットオフを設定して第二のステップにおける同じ数のプローブセットを取得した。P値およびlog比の両方についての閾値を満たすプローブセットを有意な変化として選択した(M.J. Friedeman, et al., Nature Neurosci. 10, 1519 (2007))。その結果、443プローブおよび397プローブの発現が、X線および炭素線の各々について有意に変化したことが確認された。
最後に、選択したプローブを、正のLog2値を持つ増加遺伝子と負のLog2値を持つ減少遺伝子とに区分けしLog2値の絶対値に従ってランク付けしたところ、X線および炭素線プローブは同方向に有意に変化し(表1および図6参照)、例えばX線について増加し炭素線について増加した。X線により有意に増加し炭素線により有意に減少したプローブは見出されず、X線により有意に減少し炭素線により有意に増加したプローブは1つのみであった。
このように、照射による腫瘍細胞の遊走亢進機構をAffymetrix社のジーンチップにて解析したところ、遺伝子の変化はX線照射群、炭素照射群共に同じ動きをした。双方共に有意に増幅した遺伝子の上位にMatrix Metallo Proteinases 3 (M.D. Sternlicht, et al., Cell 98, 137 (1999)、IL-13Rα2 (J.S. Jarboe, K.R. Johnson, Y. Choi, R.R. Lonser, J.K. Park, Cancer Res. 67, 7983 (2007))、ID4 (Y. Liang, A.W. Bollen, M.K. Nicholas, N. Gupta, BMC Clinical Pathology 5, 6 (2005))、galectine-8 (I. Camby, et al., Brain Pathology 11, 12 (2001))を認めた。
これらの新たに同定された4遺伝子は腫瘍細胞の湿潤性に関連し治療の標的遺伝子として重要である。特にMMP-3はmRNA発現量の変化をGeneChipデータのRMA正規化を行って調べたところX線照射で1.71倍、炭素線照射で1.64倍増強しているので(表1)、この遺伝子を抑制することは遊走性の制御に繋がる。
以上の実施例1、2の結果より、MMP阻害剤は照射による遊走亢進の抑制剤となることが明らかになった。

Claims (1)

  1. N-ヒドロキシ-2(R)-{[(4−メトキシフェニル)スルフォニル]-[ベンジルアミノ]}-4-メチルペンタンアミド(N-Hydroxy-2(R)-{[(4-methoxyphenyl)sulfonyl]-[benzylamino]}-4-methylpentanamide)を有効成分として含有することを特徴とする放射線がん治療用の放射線増感性遊走阻害剤。
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