以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。
(第1実施形態)
本実施形態では、断層画像上の各A-scanラインに沿って眼底表面から網膜の奥側に進む向き(順方向)に画像解析をして層境界候補を検出する。次に、A-scanライン上で異常部位が検出された場合には、さらに網膜の奥側から眼底表面に進む向き(逆方向)に画像解析をして層境界候補を検出する。そして、検出された異常部位よりも網膜手前側の領域(異常部手前領域)は順方向、網膜奥側の領域(異常部奥領域)は逆方向の検出結果を層境界として特定する。これにより、異常部位周辺で生じる網膜の層構造の異常に影響されることなく、層境界を特定できる仕組みを提供する。
以下の実施形態では、取得する複数の断層画像群からなる三次元画像データに対して解析処理を行う場合について説明する。しかし、複数の三次元画像データの中から注目すべき二次元の断層画像を選択して、選択された二次元の断層画像に対して処理を行う構成であってもよい。例えば、予め定めた眼底の特定部位(例えば中心窩)を含む断層画像に対して処理を行ってもよい。この場合、検出される層の境界等は、いずれも断面上における二次元のデータとなる。
(画像処理装置10の構成)
図1の参照により、本実施形態に係る画像処理装置10の構成を説明する。画像処理装置10は、画像取得部101、記憶部102、画像変換部103、順方向検出部104、異常部位検出部105、逆方向検出部106、層境界特定部107および表示部108を備える。また、画像処理装置10は断層画像取得装置20と接続されている。断層画像取得装置20は不図示の操作者による操作に応じて、不図示の被検眼の撮影を行い、得られた画像を画像処理装置10へと送信する。
(画像処理装置10の処理)
図2の参照により画像処理装置10が実行する具体的な処理手順を説明する。ステップS201において、画像取得部101は、断層画像取得装置20で撮像されたOCT断層画像を取得し、記憶部102へ格納する。以降、このOCT断層画像を「原画像」と呼ぶものとする。
ステップS202において、画像変換部103は記憶部102に保存された原画像に対して画像変換を行う。本実施形態では画像における層境界の強調を目的として、断層画像(原画像)に対して深度方向の輝度変化を強調するSobelフィルタを適用する。このSobelフィルタは、深度方向に沿って輝度値の低い画素から高い画素へのエッジ及び、輝度値の高い画素から低い画素へのエッジの両方を強調する性質を持つ。本ステップでは画像変換により、Sobel画像を作成し、順方向検出部104及び逆方向検出部106へと送信する。
画像変換の方法はこれに限定されるものではなく、前処理として画像のノイズ除去を目的としたメディアンフィルタや平均値フィルタのような平滑化フィルタを用いてもよい。その他、ガンマ補正のような階調変換フィルタやモルフォロジーフィルタなどを用いて画像変換を行ってもよい。また、画像変換を行わず、原画像の輝度値のまま、次ステップの入力としてもよい。さらに、次ステップの入力とする画像の数は限定されるものではなく、1つ以上の画像が次ステップの入力とされてもよい。
ステップS203において、順方向検出部104は画像変換部103から取得したSobel画像をA-scanラインに沿って順方向に解析することで網膜層境界の候補(層境界候補)を検出する。
本実施形態では、Sobel画像を対象として、各A-scanラインに沿って順方向に1画素単位で輝度値を参照し、輝度値が所定の閾値を超えたときにその位置を層境界候補として順次検出する。所定の閾値は経験的に決定することが可能である。また、判別分析法やP-tile法を用いてSobel画像を高輝度なエッジ領域と低輝度なその他の領域に分割する閾値を適用することで、症例に応じて可変となる閾値としてもよい。
層境界候補の検出方法はこれに限定されるものではなく、例えば各A-scanラインにおいて1画素単位ではなく、複数の画素からなるブロック領域の輝度値を参照しながら順方向に解析してもよい。さらに、層境界候補を検出する特徴として、Sobel画像を用いた原画像のエッジ強度以外にも、原画像においてブロック領域を設定し、例えば、ブロック領域の上側半分と下側半分の輝度値の差などを用いてもよい。
次に、順方向検出部104は、検出した層境界候補の位置情報(順方向検出情報)を層境界特定部107へと送信する。
ステップS204において、異常部位検出部105は記憶部102に格納された原画像を解析し異常部位の位置を検出する。本実施形態では、一例として異常部位が嚢胞である場合の検出方法を説明する。嚢胞は網膜内に発生する空洞領域であるため、例えば、図11(b)のCYが示すように、画像上では周囲の網膜領域に比べ非常に低い輝度値を示す。そこで、原画像の輝度値に対して所定の閾値による閾値処理を施し、閾値以下の領域を取り出すことで、嚢胞領域の候補(嚢胞領域候補)を抽出することができる。このとき、所定の閾値は、経験的に決定することが可能である。
また、嚢胞領域の輝度値は、断層画像上の硝子体領域などの背景領域に近いため、判別分析法やP-tile法を用いて断層画像を高輝度な網膜層領域と低輝度な背景領域に大まかに分割する閾値を適用することで、症例に応じて可変となる閾値としてもよい。
次に、抽出した嚢胞領域候補に対して、その領域の輝度情報や形態情報を解析することで嚢胞領域か否かを判別する。本実施形態では、それらの輝度情報や形態情報を特徴量として、予め多数の症例で学習を行った識別器に入力することで、嚢胞領域か否かの判別を行う。具体的には、輝度情報に基づく特徴量として、領域内の平均輝度値、分散、歪度、尖度、領域の境界の内外におけるコントラスト差を用いることが可能である。形態情報に基づく特徴量として、領域のサイズや領域の円形度を用いることが可能である。識別器としては、ニューラルネットワークやサポートベクターマシンを用いることが可能である。
但し、嚢胞領域の判別方法はこれに限定されるものではなく、例えば上記の輝度情報や形態情報に基づく特徴量が所定の範囲に収まる場合のみを嚢胞領域と判別する方法をとってもよい。このとき、所定の範囲は、経験的に決定してもよいし、臨床知識に基づいて決定してもよい。
また、異常部位検出部105が検出する異常部位は、嚢胞に限定されるものではない。例えば、異常部位が白斑である場合、白斑領域は通常の層組織よりも高輝度で描出されるため、原画像の輝度値に対して所定の閾値による閾値処理を施し、閾値以上の領域を取り出すことで、白斑領域の候補を抽出する。そして、嚢胞領域の場合と同様に識別器を用いて白斑領域の候補を白斑領域か否かに分類することが可能である。その他、層と層が剥離した剥離領域に関しても、剥離領域は周囲の層組織よりも非常に低輝度で描出されるため、嚢胞領域の検出と同様の方法で検出を行うことが可能である。
さらに、異常部位検出部105による異常部位検出は全自動の処理に限定されるものではなく、例えば、操作者によって指定された異常部位の位置に基づき、同種の輝度値の領域を抽出するような半自動の検出処理であってもよい。次に、異常部位検出部105は、検出した異常部位の位置情報(異常位置情報)を層境界特定部107へと送信する。
ステップS205において、異常部位検出部105は、ステップS204で検出された異常位置情報を調べ、各A-scanラインに異常部位が存在するか否かを判定する。そして、異常部位が存在すると判定された場合は(S205−Yes)、異常部位が存在すると判定されたA-scanラインの位置情報を逆方向検出部106に送信してステップS206に処理を進める。異常部位が存在しないと判定された場合(S205−No)は、ステップS207へと処理を進める。
ステップS206において、逆方向検出部106は、異常部位検出部105から取得したA-scanラインの位置情報と、画像変換部103からSobel画像と、を取得する。そして、位置情報を取得したA-scanラインのみを対象として、A-scanラインに沿って逆方向に解析することで層境界候補を検出する。
本実施形態では、Sobel画像を対象として、各A-scanラインに沿って逆方向に1画素単位で輝度値を参照し、輝度値が所定の閾値を超えたときにその位置を層境界候補として順次検出する。所定の閾値はステップS203と同様に経験的に決定してもよいし、判別分析法やP-tile法を用いて症例に応じた可変の閾値としてもよい。また、層境界候補の検出方法はこれに限定されるものではなく、例えば、ステップS203に例示したものと同様の手法を用いてもよい。
次に、逆方向検出部106は、検出した層境界候補の位置情報(逆方向検出情報)を層境界特定部107へと送信する。
ステップS207において、層境界特定部107は、順方向検出部104から順方向検出情報を、異常部位検出部105から異常位置情報を、逆方向検出部106から逆方向検出情報を、それぞれ取得し、網膜層境界を特定する。
図3は、網膜内に異常部位を含む症例において層境界を特定する様子を示す図である。図3を用いて具体的な網膜層境界の特定方法を説明する。図3において、L1〜L6は、図11(a)と同様に、順に内境界膜、神経線維層境界、内網状層境界、外網状層境界、視細胞内節外節接合部、網膜色素上皮層境界を表している。このとき、異常部位が存在しないA-scanラインでは、網膜の層構造が正常であり層境界が順に存在することから、層境界特定部107は、順方向検出情報をそのまま網膜層境界として特定する。図3においてA1は、断層画像上の異常部位が存在しないA-scanラインを表し、DP1は、A1を順方向に解析したときに検出された複数の層境界候補の位置(図3では6点)を表している。この例では、層境界特定部107は、層境界候補DP1の各点をA-scanラインの順方向に沿って順にL1、L2、・・・、L6の層境界と決定する。
一方、異常部位が存在するA-scanラインでは、網膜の層構造が正常と異なり、異常部位付近では層境界が画像上で消失していたり、異常部位の端部で周囲の層組織との輝度差による強いエッジが生じていたりする可能性がある。そのため、本実施形態では、異常部位よりも網膜の手前側の領域(異常部手前領域)は順方向検出情報を網膜層境界として特定する。また、網膜の奥側の領域(異常部奥領域)は逆方向検出情報を網膜層境界として特定する。
ここで、異常部手前領域と異常部奥領域は、異常部位検出部105から取得した異常位置情報に基づき、A-scanラインを異常部位の領域を挟んで手前側と奥側に分割することで求めることができる。図3においてA2は、断層画像上の異常部位が存在するA-scanラインを表し、CYは図11(b)と同様、異常部位の一例である嚢胞領域を表す。また、DP2は、A2を順方向に解析したときに異常部手前領域で検出された層境界候補の位置(図3では3点)を表し、UP2はA2を逆方向に解析したときに異常部奥領域で検出された層境界候補の位置(図3では2点)を表す。この例では、DP2の各点をA-scanラインの順方向に沿って順にL1、L2、L3と決定し、UP2の各点をA-scanラインの逆方向に沿って順にL6、L5と決定する。
このように、嚢胞CYの手前側と奥側でそれぞれ順方向と逆方向に沿って層境界を特定することで、A2のライン上でのL4の層境界の消失や、嚢胞CYの端部で発生するエッジの影響を受けることなく、精度良く異常部奥領域のL5やL6の層境界を特定できる。
このとき、上述の方法では画像上で消失している層境界L4は特定されないが、L4を特定しないままにしてもよいし、以下の方法によりA2の周囲で特定されたL4の位置を利用して補間することで特定してもよい。例えば、A2のラインよりも画像左側の領域内で特定されたL4の位置の中で最もA2に近いものを点PLとし、A2のラインよりも画像右側の領域内で特定されたL4の位置の中で最もA2に近いものを点PRとする。そして、この点PLとPRの間を線形補間することで、A2のような嚢胞の影響で層境界が消失した領域においてもL4に対応する層境界を特定することができる。
また、他の手法として、画像上で消失しているL4は嚢胞の端部に接合していると仮定し、A2のライン上の嚢胞における上下の端部の位置をそれぞれ点PU及びPDとし、2点のうち点PL及びPRからの距離が短い方をL4上の点として特定してもよい。これにより、層境界が消失した領域においても、周囲で特定できた層境界のラインにより近い異常部位の端部をなぞって層境界とすることができる。
上述の方法では、異常部位として嚢胞がA-scanラインに含まれる場合の層境界を特定する例を述べたが、異常部位としてステップS204で述べた白斑や剥離領域がA-scanラインに含まれる場合も同様の方法で層境界を特定できる。図3において、A3は、断層画像上の白斑が存在するA-scanラインを表し、EXは白斑領域、SHは白斑によって深度方向に信号が遮られることによって生じる影領域を表す。この影領域SHは、白斑領域の奥側にしばしば発生し、SHが発生した箇所では画像上に層境界は現れない。また、DP3は、A3を順方向に解析したときに異常部手前領域で検出された層境界候補の位置を表し、UP3は、A3を逆方向に解析したときに異常部奥領域で検出された層境界候補の位置を表す。
この例では、DP3の各点をA-scanラインの順方向に沿って順にL1、L2、L3と決定する。一方、UP3に関しては、異常部奥領域(白斑よりも網膜奥側)には検出点が存在しないため層境界を決定しない。このように、白斑EXの手前側と奥側でそれぞれ順方向と逆方向に沿って層境界を特定することで、白斑EXによるL4の層境界の消失や、白斑EXの端部で発生するエッジの影響を受けることなく層境界を特定できる。また、影領域SHによって層境界が消失している場合でも、網膜奥側から白斑EXに到達するまでの領域を逆方向に走査して層境界を特定することで、誤った箇所をL5やL6として特定せず、それらの層境界を特定しないままにすることができる。白斑の存在により消失したL4、L5、L6の層境界は、嚢胞の場合と同様の方法で補間しても良い。
さらに、図3において、A4は、断層画像上の層の剥離領域が存在するA-scanラインを表し、DTは剥離領域を表す。また、DP4は、A4を順方向に解析したときに異常部手前領域で検出された層境界候補の位置を表し、UP4は、A4をそれぞれ逆方向に解析したときに異常部奥領域で検出された層境界候補の位置を表す。この例では、DP4の各点をA-scanラインの順方向に沿って順にL1、L2、L3、L4、L5と決定し、UP4の各点をA-scanラインの逆方向に沿って順にL6と決定する。このように、剥離領域DTの手前側と奥側でそれぞれ順方向と逆方向に沿って層境界を特定することで、剥離した層と剥離領域DTの境界で発生するエッジの影響を受けることなくL6の層境界を特定できる。
本実施形態では、上記L1〜L6の6層を特定したが、特定する層は必ずしもこれらに限定されるものではない。実際の網膜層は、眼底表面から網膜の奥に向かって順に、内境界膜、神経線維層、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層、外境界膜、視細胞層、網膜色素上皮層を有している。層境界特定部107は、これらの層の間に存在する層境界のうち少なくとも一つの位置を特定することが可能である。
そして、層境界特定部107は、A-scanラインごとに特定した網膜層境界の位置情報(層境界位置情報)を記憶部102に格納する。
ステップS208において、表示部108は、記憶部102から原画像と層境界位置情報を取得し、層境界位置情報を原画像上に重畳させて不図示のモニタ上に表示する。
以上の構成により、異常部位が存在する断層画像においても、異常部位周辺の層構造の異常に影響されることなく、異常部位よりも網膜の奥に存在する層境界を精度良く特定することができる。
(第2実施形態)
本実施形態は、断層画像上のA-scanラインに沿って順方向または逆方向に走査して層境界候補を検出すると同時に異常部位の存在も検出し、両方向の検出結果に基づき層境界を特定するものである。
より具体的には、第1実施形態では、層境界候補の検出とは別処理として異常部位を検出するため、処理に余分な手間がかかっていた。また、第1実施形態では、順方向での異常部奥領域の検出結果、逆方向での異常部手前領域の検出結果は、層境界の特定には採用されないにも関わらず、両方向共に一旦A-scanラインを画像の上端から下端(または下端から上端)まで走査していた。従って、それが余分な処理時間に繋がっていた。
そこで、本実施形態は、断層画像上のA-scanラインに沿って順方向に走査して層境界候補を検出しながら同時に異常部位の存在も検出し、異常部位が検出された場合は順方向の走査を停止して逆方向の走査に切り替える。そして、順方向と同様に、逆方向に走査して層境界候補を検出しながら同時に異常部位の存在も検出し、異常部位が検出された箇所で逆方向の走査を停止する。そして、順方向と逆方向のそれぞれについて異常部位の検出により走査を停止するまでに検出した層境界候補を、それぞれ最終的な層境界として特定する。これにより、第1実施形態と同様、異常部位の周辺で生じる網膜の層構造の異常に影響されることなく、層境界を特定できる仕組みを提供する。それに加え、層境界候補と同時に異常部位の存在も検出するため、別処理として異常部位を検出する手間を省くことができる。さらに、順方向・逆方向共に異常部位の存在を検出した時点で走査を停止するため、解析の処理時間を短縮することができる。
(画像処理装置40の構成)
図4に本実施形態に係る画像処理装置40の構成を示す。画像処理装置40は、画像取得部401、記憶部402、画像変換部403、順方向検出部404、異常部位検出部405、逆方向検出部406、層境界特定部407および表示部408を備える。また、画像処理装置40は断層画像取得装置50と接続されている。断層画像取得装置50は第1実施形態の断層画像取得装置20と同様の機能を有するため、説明は省略する。
(画像処理装置40の処理)
図5は本実施形態のフローチャートであり、画像処理装置40が実行する具体的な処理手順をこのフローチャートに沿って説明する。但し、ステップS501、S502、S511はそれぞれ、図2のステップS201、S202、S208と同様であるため、説明は省略する。
ステップS503において、順方向検出部404は、画像変換部403から取得したSobel画像をA-scanラインに沿って順方向に解析することで網膜層境界の候補を検出する。本ステップにおける具体的な解析処理の内容は、図2におけるステップS203と同様であるため、説明は省略する。
また、順方向検出部404は、順方向に解析中のA-scanラインにおける異常部位の有無を表す順方向異常検出フラグD_FLG(順方向異常検出情報)の値を保持している。順方向異常検出情報が指す参照画素が異常部位でないことを示す場合(D_FLG=FALSE)は、解析を続行する。順方向異常検出情報が指す参照画素が異常部位であることを示す場合(D_FLG=TRUE)の処理については、ステップS506で説明する。次に、順方向検出部404は、解析で参照中の画素の位置情報(順方向位置情報)を記憶部402へ送信する。
ステップS504において、順方向検出部404は、記憶部402に格納された順方向位置情報を調べ、画像の下端にまだ到達していない場合は、順方向位置情報を常に異常部位検出部405へと送信し、ステップS505へと進む。一方、画像の下端に到達している場合は、記憶部402に格納された順方向検出情報を層境界特定部407へと送信し、ステップS510へと進む。
ステップS505において、異常部位検出部405は、記憶部402に記憶された原画像と、順方向検出部404から常時取得する位置情報(順方向の解析位置を示す順方向位置情報)と、に基づき、異常部位の有無を判定する。異常部位検出部405は、順方向の解析位置(順方向位置情報)と対応付けて、断層画像を解析することにより異常部位の位置を検出する第1異常検出手段として機能する。順方向位置情報が指す参照画素が異常部位であると判定した場合は、順方向異常検出フラグD_FLG=TRUEと設定して順方向検出部404へと送信し、ステップS506へと進む。一方、参照画素が異常部位ではないと判定した場合は、D_FLG=FALSEと設定して順方向検出部404へと送信し、ステップS503へと進む。
本実施形態では、図3や図11(b)に示すような嚢胞領域が断層画像上に存在する場合の異常部位の検出方法について説明する。図2のステップS204で説明したとおり、嚢胞は網膜内に発生する空洞領域であるため、画像上では周囲の網膜領域に比べ非常に低い輝度値を示す。そこで、取得した順方向位置情報に対応する原画像上の画素を参照し、画素が所定の閾値以下になったときに、異常部位であると判定する。このとき、所定の閾値は、図2のステップS204と同様の方法で決定する。
ここで、異常部位検出部405が検出する異常部位は、嚢胞に限定されるものではない。例えば、通常の層組織よりも高輝度で描出される白斑領域に関しては、図2のステップS204と同様に、原画像の輝度値に対して所定の閾値による閾値処理を施し、閾値以上の領域を取り出すことで、白斑領域の候補を抽出する。その他、層と層が剥離した剥離領域に関してもステップS204と同様の方法で検出できる。このような処理により、ステップS503の順方向の層境界候補検出と同時に異常部位の検出が行えるため、全くの別処理で異常部位を検出するよりも、処理の手間を省くことができる。
ステップS506において、順方向検出部404は、異常部位検出部で設定された順方向異常検出フラグD_FLGの値を調べる。そして、順方向検出部404は、D_FLG=TRUE(参照画素が異常部位であることを示す)であることを確認した後、A-scanラインの順方向に沿った解析を停止する。そして、検出した順方向検出情報を層境界特定部407へ、走査中のA-scanラインの位置情報(A-scan位置情報)を記憶部402へと送信し、ステップS507へと進む。このように、順方向の走査中に異常部位を検出した時点で走査を停止し、それよりも網膜の奥側領域の解析を行わないことで、解析の処理時間を短縮することができる。
ステップS507において、逆方向検出部406は、画像変換部403から取得したSobel画像を、記憶部402に格納されたA-scan位置情報が指すA-scanラインに沿って逆方向に解析することで網膜層境界の候補を検出する。本ステップにおける具体的な解析処理の内容は、図2におけるステップS206と同様であるため、説明は省略する。
また、逆方向検出部406は、逆方向に解析中のA-scanラインにおける異常部位の有無を表す逆方向異常検出フラグU_FLG(逆方向異常検出情報)の値を保持している。逆方向異常検出情報が指す参照画素が異常部位でないことを示す場合(U_FLG=FALSE)は、解析を続行する。逆方向異常検出情報が指す参照画素が異常部位であることを示す場合(U_FLG=TRUE)の処理については、ステップS509で説明する。
次に、逆方向検出部406は、解析で参照中の画素の位置情報(逆方向位置情報)を記憶部402へ送信する。
ステップS508において、異常部位検出部405は、記憶部402に記憶された原画像と、逆方向検出部406から常時取得する位置情報(逆方向の解析位置を示す逆方向位置情報)と、に基づき、異常部位の有無を判定する。異常部位検出部405は、逆方向の解析位置(逆方向位置情報)と対応付けて、断層画像を解析することにより異常部位の位置を検出する第2異常検出手段として機能する。逆方向位置情報が指す参照画素が異常部位であると判定した場合は、逆方向異常検出フラグU_FLG=TRUEと設定して逆方向検出部406へと送信し、ステップS509へと進む。一方、参照画素が異常部位ではないと判定した場合は、U_FLG=FALSEと設定して逆方向検出部406へと送信し、ステップS507へと進む。異常部位の検出方法は、ステップS505に記載した、順方向に解析中の異常部位の検出方法と同様であるので、説明は省略する。
このような処理により、ステップS507の逆方向の層境界候補検出と同時に異常部位の検出が行えるため、全くの別処理で異常部位を検出するよりも、処理の手間を省くことができる。
ステップS509において、逆方向検出部406は、異常部位検出部で設定された逆方向異常検出フラグU_FLGの値を調べ、U_FLG=TRUEであることを確認した後、A-scanラインの逆方向に沿った解析を停止する。そして、検出した逆方向検出情報を層境界特定部407へと送信し、ステップS507へと進む。このように、逆方向の走査中に異常部位を検出した時点で走査を停止し、それよりも網膜の手前側領域の解析を行わないことで、解析の処理時間を短縮することができる。
ステップS510において、層境界特定部407は、順方向検出部404から順方向検出情報を、逆方向検出部406から逆方向検出情報をそれぞれ取得し、網膜層境界を特定する。
図3を用いて具体的な網膜層境界の特定方法を説明する。A1のように、A-scan上に異常部位を含まない場合、ステップS503で順方向に走査しながら解析した結果、ステップS504で画像の下端への到達が判定され、順方向検出情報のみが層境界特定部407に送信されている。この場合は、順方向の解析が失敗するような異常部位が存在しないため、そのまま順方向検出情報における層境界候補DP1の各点に対して、順方向にL1〜L6の層境界を割り当て、最終的な層境界として特定する。
一方、A2のようにA-scan上に異常部位を含む場合は、順方向走査で異常部位を検出するまでの順方向検出情報と、逆方向走査で異常部位を検出するまでの逆方向検出情報が、層境界特定部407に送信されている。この場合は、順方向検出情報における層境界候補DP2の各点に対して順方向に層境界を割り当て、逆方向検出情報における層境界候補UP2の各点に対して逆方向に層境界を割り当て、最終的な層境界として特定する。より具体的には、DP2の各点に対して、A-scanの順方向から順にL1、L2、L3の層境界を割り当て、UP2の各点に対して、A-scanの逆方向から順にL6、L5の層境界を割り当てる。
これにより、A2のライン上でのL4の層境界の消失や、嚢胞CYの端部で発生するエッジの影響を受けることなく、異常部奥領域でも精度良くL5やL6の層境界を特定することができる。このとき、上述の方法では画像上で消失している層境界L4は特定されないが、L4を特定しないままにしてもよいし、図2のステップS207に記載した方法により、A2の周囲で特定されたL4の位置を利用して補間することで特定してもよい。
さらに、図3の白斑EXを含むA-scanラインA3や、剥離領域DTを含むA-scanラインA4の場合も、同様の方法で層境界の特定を行うことができる。また、本実施形態では、上記L1〜L6の6層を特定したが、特定する層は必ずしもこれらに限定されるものではなく、図2のステップS207に記載した層を特定してもよい。そして、層境界特定部407は、A-scanラインごとに特定した層境界位置情報を記憶部402に格納する。
以上の構成により、異常部位が存在する断層画像においても、異常部位周辺の層構造の異常に影響されることなく、異常部位よりも網膜の奥に存在する層境界を精度良く特定することができる。それに加え、層境界候補と同時に異常部位の存在も検出するため、別処理として異常部位を検出する手間を省くことができる。さらに、順方向・逆方向共に異常部位の存在を検出した時点で走査を停止するため、解析の処理時間を短縮することができる。
(第3実施形態)
本実施形態は、断層画像上のA-scanラインに沿って順方向と逆方向の双方向で解析し、各解析結果(検出結果)が示す特徴を、正しい層境界の特徴と比較し、より正しい層境界の特徴に近い検出結果を選択することで層境界を特定するものである。
より具体的には、被験眼が強度の近視の場合に被験眼のボリューム画像を取得すると、ボリューム画像の端部の断層画像において、画像の上端や下端で網膜層がしばしば途切れてしまう。例えば、そのような画像上端で網膜層が途切れた断層画像から網膜層境界を特定する際、A-scanラインに沿って順方向に解析すると、通常のように内境界膜から層境界が出現するのではなく途中の層境界から出現するため、誤って層境界を特定してしまう。
そこで本実施形態では、断層画像上の各A-scanラインに沿って順方向と逆方向の双方向に解析してそれぞれの層境界候補を検出する。次に、それら2つの方向の検出結果に対して、各方向で順に層境界を仮に割り当てる。そして、割り当てられた各方向の層境界の特徴を、予め記憶された正しい層境界の特徴と比較し、正しい層境界の特徴により類似する方向の層境界を選択し、最終的な層境界として特定する。これにより、網膜層が画像端部で途切れている場合、途切れている側の画像端部から解析した場合は層境界を誤って割り当てるため正しい層境界との類似度が低くなるが、逆向きから解析した場合は層境界を正しく割り当てられるため類似度が高くなる。その結果、間違うことなく層境界を特定できる画像処理技術を提供できる。
(画像処理装置60の構成)
図6に本実施形態に係る画像処理装置60の構成を示す。画像処理装置60は、画像取得部601、記憶部602、画像変換部603、順方向検出部604、逆方向検出部605、検出結果評価部606、層境界特定部607および表示部608を備える。また、画像処理装置60は断層画像取得装置70と接続されている。断層画像取得装置70は図2の断層画像取得装置20と同様の機能を有するため、説明は省略する。
(画像処理装置60の処理)
図7は本実施形態のフローチャートであり、画像処理装置60が実行する具体的な処理手順をこのフローチャートに沿って説明する。但し、ステップS701、S702、S707はそれぞれ、図2のステップS201、S202、S208と同様であるため、説明は省略する。
ステップS703において、順方向検出部604は、Sobel画像を画像変換部603から取得し、画像をA-scanラインに沿って順方向に解析することで網膜層境界の候補を検出する。本ステップにおける具体的な解析処理の内容は、図2におけるステップS203と同様であるため、説明は省略する。次に、順方向検出部604は、検出した順方向検出情報を検出結果評価部606へと送信する。
ステップS704において、逆方向検出部605は、Sobel画像を画像変換部603から取得し、画像をA-scanラインに沿って逆方向に解析することで網膜層境界の候補を検出する。本ステップにおける具体的な解析処理の内容は、図2におけるステップS206と同様であるため、説明は省略する。次に、逆方向検出部605は、検出した逆方向検出情報を検出結果評価部606へと送信する。
ステップS705において、検出結果評価部606は、順方向検出部604から取得した順方向検出情報、及び逆方向検出部605から取得した逆方向検出情報を、予め記憶部602に記憶されている層境界の特徴と比較する。ここで、記憶部602には、予め画像から特定すべき対象となる層境界の正しい特徴量が保存されている。
正しい特徴量とは、予め医師などの専門家が断層画像上で正しい層境界の位置を指定し、その位置に基づき画像から抽出した特徴量のことを指す。以降、これを「正解特徴量」と呼ぶ。各層境界の特徴量として、例えば、層境界上側の層と下側の層それぞれの輝度平均・分散・尖度・歪度や、上側層と下側層間の輝度平均の差、層境界のエッジ強度を適用することが可能である。尚、特徴量として列記したものは例示的なものであり、輝度平均・分散・尖度・歪度や、上側層と下側層間の輝度平均の差、層境界のエッジ強度のすべてを用いる必要はない。列記したものの中から少なくとも何れか一つを用いて特徴量を定めることが可能である。
本実施形態では、A-scanラインごとに順方向検出情報と逆方向検出情報のそれぞれの検出結果(層境界候補の位置)に対して、各方向で順に層境界を仮に割り当てる。これらを、それぞれ順方向層境界と逆方向層境界と呼ぶ。次に、割り当てられた各方向の層境界に対して、その位置に基づき原画像から各方向の層境界に対応する上記特徴量を抽出する。そして、抽出された各方向の特徴量と、正解特徴量との類似度を計算し、計算結果を比較する。以降、順方向の特徴量と正解特徴量との類似度(第1類似度)、逆方向の特徴量と正解特徴量との類似度(第2類似度)をそれぞれ、「順方向類似度」、「逆方向類似度」と呼ぶ。
図8(a)は、画像上端で網膜層が途切れた症例において層境界を特定する様子を示す図である。図8(a)を用いて本実施形態における順方向検出情報と正解特徴量との比較方法と、逆方向検出情報と正解特徴量との比較方法を具体的に説明する。図8(a)のL1〜L6は図11(b)と同様に、順に内境界膜、神経線維層境界、内網状層境界、外網状層境界、視細胞内節外節接合部、網膜色素上皮層境界を表している。本実施形態ではこれらを、特定すべき対象となる層境界とする。このとき、記憶部602には、L1〜L6までの正解特徴量が保存されており、各層境界に対応する正解特徴量のベクトルをそれぞれf1、f2、・・・、f6とする。ここで、i番目の層境界(iは1<=i<=6を満たす)に対応する特徴量ベクトルfiは、上述のような複数の特徴量からなるベクトルであり、(1)式で表す。
(1)式において、Nは特徴ベクトルの要素数を表す。
ここで、図8(a)のRNは画像から網膜層が途切れていない正常の撮像領域(正常領域)を表し、A1は正常領域に含まれるA-scanラインを表す。DP1は、A1を順方向に解析したときに検出された順方向検出情報(6点の層境界候補の位置)を表している。UP1は、A1を逆方向に解析したときに検出された逆方向検出情報(6点の層境界候補の位置)を表している。DP1の各点に対してA-scanラインの順方向に沿って順にL1〜L6の層境界を仮に割り当て、これを順方向層境界とする。そして、順方向層境界の各点を順にPd1、Pd2、・・・、Pd6とする。同様に、UP1の各点に対して逆方向に沿って層境界を割り当てた逆方向層境界の各点を順にPu6、Pu5、・・・、Pu1とする。次に、正解特徴量の場合と同様にこれらの層境界に対応する特徴量を画像から抽出する。そして、点Pd1〜Pd6と点Pu6〜Pu1に対応する特徴量ベクトルをそれぞれd1、d2、・・・、d6、とu6、u5、・・・、u1とする。ここで、i番目の層境界に対応する順方向と逆方向の特徴ベクトルdiとuiはそれぞれ次の(2)、(3)式で表される。
このとき、diとfiの類似度sd,i(順方向類似度)は、本実施形態では両者のユークリッド距離に基づき(4)式で求めることができる。
同様に、uiとfiの類似度su,i(逆方向類似度)は、(5)式で求めることができる。
以上のようにして、1<=i<=6を満たす全てのiに関して、順方向層境界の点Pdiに対応する順方向類似度sd,iと、逆方向層境界の点Puiに対応する逆方向類似度su,iを求める。
一方、図8(a)のRUは画像上端で網膜層が途切れている部位の領域を表し、A2はその部位に含まれるA-scanラインを表す。DP2は、A2を順方向に解析したときに検出された順方向検出情報(4点の層境界候補の位置)を表している。UP2は、A2を逆方向に解析したときに検出された逆方向検出情報(4点の層境界候補の位置)を表している。このとき、DP2及びUP2の各点を、A1の場合と同様に順方向層境界と逆方向層境界として割り当てる。この場合、画像からの網膜層の途切れによって層境界が欠損しているため、順方向層境界は点Pd1〜Pd4、逆方向層境界は点Pu6〜Pu3となり、それぞれ本来存在する層境界の数(6点)よりも少ない。
従って、本実施形態では、割り当てられた層境界と、正解特徴量(f1〜f6)のうち共通する特徴量(割り当てられた層境界に対応する特徴量)のみと、を比較して類似度を算出する。具体的には、順方向層境界の場合は、L1〜L4に対応する層境界のみが共通するため特徴量ベクトルd1〜d4とf1〜f4とを比較する。逆方向層境界の場合は、L3〜L6に対応する層境界のみが共通するため特徴量ベクトルu3〜u6とf3〜f6とを比較する。そして、それぞれ(4)式と(5)式に基づき類似度を算出する。このようにして、順方向の場合は、1<=i<=4を満たす全てのiに関して点Pdiに対応する順方向類似度sd,iを求め、一方、逆方向の場合は、3<=i<=6を満たす全てのiに関して点Puiに対応する逆方向類似度su,iを求める。
そして、検出結果評価部606は、本ステップでA-scanラインごとに層境界の割り当てにより求められた順方向層境界及び逆方向層境界のデータと、それらの各点に対応する順方向類似度及び逆方向類似度の値を層境界特定部607へと送信する。
ステップS706において、層境界特定部607は、検出結果評価部606から順方向層境界及び逆方向層境界のデータと、それらの各点に対応する順方向類似度及び逆方向類似度の値を取得する。そして、順方向と逆方向のそれぞれの類似度を比較してより類似度の値が高い方向、つまり正常の層境界に近い方向の層境界データを選択し、最終的な層境界として特定する。
本実施形態では、順方向層境界の各点の順方向類似度sd,iの平均値sd,aveと、逆方向層境界の各点の逆方向類似度su,iの平均値su,aveを算出し、値が大きい方に対応する方向のデータを用いて最終的な層境界として特定する。例えば、図8(a)のA2のように網膜層が画像上端で途切れている場合、順方向層境界は、実際は画像上で欠損している内境界膜から順に層境界候補に対して割り当てられるため誤りが生じる。一方、逆方向層境界は、画像上に写っている網膜色素上皮層境界から順に層境界候補に対して層境界が割り当てられるため誤りが生じない。従って、順方向の平均値sd,aveが非常に低い値になる一方、逆方向の平均値su,aveが高い値となるため、類似度の高い逆方向層境界が、最終的な層境界として選択される。これにより、画像上端で網膜層が途切れている場合でも、間違えることなく層境界を特定することができる。
一方、逆に画像下端で網膜層が途切れている場合でも同様の効果が期待できる。図8(b)は、画像下端で網膜層が一部途切れた症例において層境界を特定する様子を示す図である。図8(b)のL1〜L6は図11(b)と同様に、順に内境界膜、神経線維層境界、内網状層境界、外網状層境界、視細胞内節外節接合部、網膜色素上皮層境界を表している。図8(b)のRNは、正常の撮像部位の領域を表し、A3はその部位におけるA-scanラインを表している。DP3は順方向検出情報、UP3は逆方向検出情報を表している。図8(b)のRDは、図8(a)の領域RUとは逆に画像下端で網膜層が途切れている部位を表し、A4はその部位に含まれるA-scanラインを表す。DP4は順方向検出情報を表し、UP4は逆方向検出情報を表している。この場合、逆方向層境界は、実際は画像上で欠損している網膜色素上皮層境界から順に層境界候補に対して層境界が割り当てられているため誤りが生じる。一方、順方向層境界は、画像上に写っている内境界膜から順に層境界候補に対して層境界が割り当てられているため誤りが生じない。従って、逆方向の平均値su,aveが非常に低い値になる。一方、順方向の平均値sd,aveが逆方向の平均値su,aveに比べて高い値となるため、類似度の高い順方向層境界が、最終的な層境界として選択される。これにより、画像下端で網膜層が途切れている場合でも、間違えることなく層境界を特定することができる。
また、図8(a)のA1や図8(b)のA3のような正常の撮像部位のA-scanラインにおいては、ステップS703及びS704での層境界候補の検出に誤りが出なければ、順方向と逆方向のどちらでも層境界を間違わずに割り当てることができる。従って、順方向の平均値sd,aveと順方向の平均値sd,aveの両方が高い値となり、どちらが選択されても、正しい層境界を特定することができる。また、順方向と逆方向の層境界候補検出のどちらかに誤りが出た場合は、より正解特徴量に近い方の結果が選択されるため、層境界の最終的な特定で誤りを防ぐことができる。
本実施形態では、順方向層境界と正解特徴量との類似度の平均値と、逆方向層境界と正解特徴量との類似度の平均値を比較し、値が高い方の層境界データをそのまま最終的な層境界として特定している。しかしながら、層境界の特定方法はこれに限られるものではない。例えば、順方向層境界と逆方向層境界の各点(PdiとPui)について、対応する類似度(sd,iとsu,i)を個別に比較し、それぞれにおいて類似度が大きい方向に対応する点を選択する方法を用いてもよい。このとき、例えば、順方向層境界と逆方向層境界の各点について、A-scanの順方向に沿って並んでいる順にペアを作って類似度を比較してもよいし、各点の座標が近いもの同士をペアにして類似度を比較する方法をとってもよい。
この方法により、A-scanライン上で、ある部分は順方向層境界の割り当てが正しく、別の部分は逆方向層境界の割り当てが正しい場合に、正しい割り当て結果を最終的に特定する層境界に反映させることができる。第1実施形態に記載した網膜層内に異常部位を含む症例がこれに該当する。この場合、異常部位を挟んで網膜手前側の領域は順方向の検出結果、網膜奥側の領域は逆方向の検出結果がより高い類似度の点となり、層境界として採用することができる。予め異常部位の存在が分からない場合であれば、このように部分的に順方向と逆方向の結果が採用されているA-scanラインを検出することで、網膜内の異常部位の存在を検出することもできる。さらに、層境界として順方向で採用された点と逆方向で採用された点で挟まれた領域を、異常部位の領域として特定することが可能となる。
そして、層境界特定部607は、A-scanラインごとに特定した層境界位置情報を記憶部602に格納する。以上の構成により、画像の上端または下端において網膜層に途切れが生じている症例においても、網膜層の途切れによる層境界の欠損に影響されることなく、層境界を精度良く特定することができる。
(第4実施形態)
本実施形態では、断層画像上のA-scanラインに沿って順方向と逆方向の双方向で層境界候補を検出する。次に、検出結果に基づき層境界の欠損領域が判定された場合は、各方向の検出結果を対象画像内の正常領域の層境界から抽出した特徴と比較することで、層境界を特定する。
より具体的には、第3実施形態では、順方向層境界及び逆方向層境界と比較する正解特徴量は予め記憶されており決まったものであるため、症例ごとに存在する層境界の特徴のばらつきに対応した比較ができない。
そこで本実施形態では、断層画像上の各A-scanラインに沿って順方向と逆方向の双方向に解析してそれぞれの層境界候補を検出する。次に、それら2つの方向の検出結果に対して、各方向で順に層境界を仮に割り当てて互いの対応関係を比較することで層境界の欠損の有無を判定する。このとき、層境界が欠損していると判定された領域を「層境界欠損領域」と呼ぶ。そして、層境界の欠損があると判定された場合は、各方向で割り当てたそれぞれの層境界の特徴を、上述で判定した層境界欠損領域ではない領域(正常領域)で検出した層境界の特徴と比較する。その結果、正常領域の層境界の特徴に、より類似する方向の層境界を選択し、最終的な層境界として特定する。これにより、網膜層が途切れた画像端部で途切れた場合、その画像端部から順に解析した結果は層境界を誤って割り当てるため正しい層境界との類似度が低くなるが、逆向きから解析した結果は層境界を正しく割り当てられるため類似度が高くなる。その結果、間違うことなく層境界を特定できる画像処理技術を提供できる。それに加え、各方向の検出結果を、対象画像における正常領域の層境界の特徴と比較するため、症例ごとに存在する層境界の特徴のばらつきに対応した比較が可能になる。
(画像処理装置90の構成)
図9に本実施形態に係る画像処理装置90の構成を示す。画像処理装置90は、画像取得部901、記憶部902、画像変換部903、順方向検出部904、逆方向検出部905、検出結果評価部906、層境界特定部907、表示部908、欠損検出部909を備える。また、画像処理装置90は断層画像取得装置110と接続されている。断層画像取得装置110は第3実施形態の断層画像取得装置70と同様の機能を有するため、説明は省略する。
(画像処理装置90の処理)
図10は本実施形態のフローチャートであり、画像処理装置90が実行する具体的な処理手順をこのフローチャートに沿って説明する。但し、ステップS1001、S1002、S1009はそれぞれ、第3実施形態のステップS701、S702、S707と同様であるため、説明は省略する。
ステップS1003において、順方向検出部904は、画像変換部903から取得したSobel画像を、A-scanラインに沿って順方向に解析することで網膜層境界の候補を検出する。本ステップにおける具体的な解析処理の内容は、第3実施形態におけるステップS703と同様であるため、説明は省略する。次に、順方向検出部904は、検出した順方向検出情報を欠損検出部909へと送信する。
ステップS1004において、逆方向検出部905は、画像変換部903から取得したSobel画像を、A-scanラインに沿って逆方向に解析することで網膜層境界の候補を検出する。本ステップにおける具体的な解析処理の内容は、第3実施形態におけるステップS704と同様であるため、説明は省略する。次に、逆方向検出部905は、検出した逆方向検出情報を欠損検出部909へと送信する。
ステップS1005において、欠損検出部909は、順方向検出部904から取得した順方向検出情報と、逆方向検出部905から取得した逆方向検出情報とに基づき、A-scanラインごとに層境界の欠損の有無を判定する。そして、層境界が欠損していると判定した場合は、順方向検出情報と逆方向検出情報とを検出結果評価部906へと送信し、ステップS1007へと進む。また、層境界が欠損していない(正常領域である)と判定した場合は、順方向検出情報(または逆方向検出情報でもよい)を層境界特定部907へと送信し、処理をステップS1006へと進む。
本実施形態では、欠損検出部909は、順方向の層境界候補が検出された領域が正常な領域か否かを、順方向の層境界候補と逆方向の層境界候補との対応関係、および順方向の層境界候補と逆方向の層境界候補との位置関係により判定する。順方向と逆方向のそれぞれの検出結果に対して、各方向で順に層境界を仮に割り当て、それぞれ順方向層境界と逆方向層境界とする。そして、順方向と逆方向の間で対応する層境界の位置をそれぞれ比較し、層境界が互いに全て対応しており、かつそれらの位置が一致する場合は正常領域であると判定する。逆に、割り当てられた層境界の対応関係にずれがある、或いは対応する層境界の位置が一致しない場合は層境界の欠損であると判定する。
図8(a)を用いてこの処理を具体的に説明する。図8(a)では、L1〜L6の6つの層境界が特定すべき対象である。A1のラインに対して層境界の欠損の判定を行う場合、A1のラインでは順方向の層境界候補DP1は6点検出されているため、各点に対して、順方向に沿って順にL1〜L6の層境界を割り当てることができる。これを第3実施形態のステップS705と同様に順方向層境界(各点が順にPd1、Pd2、・・・、Pd6)とする。また、逆方向の層境界候補DP2も6点検出されているため、各点に対して、逆方向から順にL6〜L1の層境界を割り当てることができる。同様にこれを逆方向層境界(各点が順にPu6、Pu5、・・・、Pu1)とする。このとき、双方で層境界の対応関係を見ると、それぞれPd1とPu1、Pd2とPu2、・・・、Pu6とPu6、が対応し、L1〜L6の全ての層境界が対応している。さらに、これらの位置を互いに比較すると、DP1とDP2の各点の位置が示すように全て一致するため、A1ラインは正常領域であると判定される。
一方、A2ラインに対して層境界の欠損の判定を行う場合、層境界候補DP2とUP2はそれぞれ4点ずつしか検出されない。従って、順方向の層境界候補DP2の各点に対して層境界を割り当てると、L1〜L4に対応するPd1〜Pd4のみが割り当てられる。また、逆方向の層境界候補UP2の各点に対しては、L6〜L3に対応するPu6〜Pu3のみが割り当てられる。このとき、互いの層境界の対応を見ると、L3とL4のみしか対応せず(Pd3とPu3及びPd4とPu4のみが対応)、割り当てられた層境界の対応関係がずれている。従って、A2ラインは層境界欠損領域であると判定される。
また、割り当てられた層境界は互いに全て対応していても、各点の位置を比較したときにそれらの位置が異なる場合、本実施形態では層境界欠損領域と判定される。これは、実際には正常領域であっても、順方向と逆方向の検出結果のどちらかに誤りがある場合が考えられる。この段階では順方向と逆方向のどちらの検出結果が正しいか判断できないため、ここでは層境界欠損領域として扱う。これは、正常領域と判定した場合、後述のステップS1006において、処理に利用する検出結果が信頼性の高いものとして扱われるためである。
ステップS1006において、層境界特定部907は、欠損検出部909から取得した順方向検出情報(または逆方向検出情報)に基づき、層境界を特定する。本ステップで取得される順方向検出情報は、ステップS1005で順方向と逆方向のそれぞれの層境界候補が対応し、かつ、それぞれの検出結果の位置が一致した結果、正常領域と判定されたものであるため、検出結果の信頼性は高いと考えられる。従って、本実施形態では、順方向検出情報に対して、層境界を割り当てた結果(順方向層境界)をそのまま、最終的な層境界として特定する。次に、層境界特定部907は、特定した正常領域の層境界の位置情報(正常層境界情報)を検出結果評価部906へと送信する。
ステップS1007において、検出結果評価部906は、欠損検出部909から取得した層境界欠損領域の順方向検出情報と逆方向検出情報とを、層境界特定部907から取得した正常層境界情報から抽出される層境界の特徴と比較する。
本実施形態では、記憶部902に格納された原画像上で、正常層境界情報が示す正常領域における層境界の位置情報からA-scanラインごとに各層境界の特徴量を抽出する。そして、抽出した各層境界の特徴量に関して、正常領域全体での平均値を求め、これを各層境界の正解特徴量とする。これは、ステップS1006に記載した通り、正常領域では信頼性の高い検出結果から層境界が特定されているためである。また、特徴量としては、第3実施形態のステップS705に記載した特徴量と同様のものを抽出する。
図8(a)では、A1のA-scanラインはステップS1005において正常領域と判定されているため、A1のA-scanライン上の層境界候補DP1に層境界を割り当てた、順方向層境界の各点(Pd1、Pd2、・・・、Pd6)から特徴量を抽出する。また、A1と同様に、正常領域RNに含まれる任意のA-scanラインにおいて、A-scanライン上の順方向層境界の各点に対応する特徴量ベクトルを抽出する。そして、RNに含まれるこれら全ての特徴量ベクトルの平均値を層境界ごとに算出し、正解特徴量f1、f2、・・・、f6とする。このように、対象画像の正常領域RNから正解特徴量を算出することで、症例ごとに存在する層境界の特徴のばらつき(個人差)に対応した正解特徴量を利用することが可能になる。
次に、層境界欠損領域(図8(a)では領域RU)における順方向及び逆方向の検出結果に対して、それらの位置に基づきA-scanラインごとに原画像から上記特徴量を抽出する。そして、抽出された各方向の特徴量を、上記で求めた正解特徴量との類似度を計算することで比較する。ここで、類似度の計算方法は、第3実施形態のステップS705と同様であるため、説明を省略する。また、順方向の特徴量と正解特徴量との類似度を順方向類似度、逆方向の特徴量と正解特徴量との類似度を逆方向類似度とする。そして、検出結果評価部906は、層境界欠損領域における順方向層境界及び逆方向層境界のデータと、それらの各点に対応する順方向類似度及び逆方向類似度の値を層境界特定部907へと送信する。
ステップS1008において、層境界特定部907は、検出結果評価部906から層境界欠損領域における順方向層境界及び逆方向層境界のデータと、それらの各点に対応する順方向類似度及び逆方向類似度の値を取得する。そして、順方向と逆方向のそれぞれの類似度を比較してより類似度の値が高い方向、つまり正常の層境界に近い方向の層境界データを選択し、最終的な層境界として特定する。本ステップにおける層境界の特定方法は、対象領域が層境界欠損領域のみであること以外は、第3実施形態におけるステップS706と同様であるので、説明を省略する。
以上の構成により、画像の上端または下端において網膜層に途切れが生じている症例においても、網膜層の途切れによる層境界の欠損に影響されることなく、層境界を精度良く特定することができる。さらに、順方向と逆方向の検出結果を、対象画像における正常領域の層境界の特徴と比較して類似度を算出するため、症例ごとに存在する層境界の特徴のばらつきに対応した比較が可能になる。
(その他の実施形態)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。