まず、本発明者らは、標識物質をコードする遺伝子を導入する前の基本となるプラスミドの一種であるプラスミドpRSS1S(以下、pRSS1S)を構築した。図2は、pRSS1Sの特定構造を示す模式図である。上段の図は、ファージφRSS1のゲノムDNAの構造を示す。下段の図は、pRSS1Sの構造を示す。pRSS1Sは、pRSS12と同じくファージφRSS1に由来する。pRSS1Sには、pRSS12と同様に、ファージφRSS1のDNAから構造モジュールとアセンブリーおよび分泌モジュールとを除くことで構築された複製モジュールを有している。しかし、pRSS12とは異なり、pRSS1Sの有する複製モジュールは、ファージφRSS1のゲノムDNAの配列の1〜1720番目の塩基配列および5800〜6662番目の塩基配列からなる。
なお、複製モジュールは、配列番号1に記載のファージφRSS1のゲノムの1〜1720番目、および、5800乃至6135番目の何れかから6662番目の塩基配列と同一の塩基配列を、または、配列番号1に記載のファージφRSS1のゲノムの1〜1720番目および5800乃至6135番目の何れかから6662番目の塩基配列に、1または数個の塩基が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じている塩基配列であって、配列番号1に記載のファージφRSS1のゲノムの1〜1720番目および5800乃至6135番目の何れかから6662番目の塩基配列と同等の作用を有する塩基配列を、含むものであればよい。
なお、このゲノムDNAの目的領域をPCR法により増幅する際に一方のプライマーに特定の制限酵素により切断される配列(特定制限酵素切断サイト)を付加することにより、増幅されたDNA断片に特定制限酵素切断サイトを付加することが望ましい。pRSS1Sには、増幅された約2.6kbpの断片に特定制限酵素切断サイトとしてEcoRIサイトが付加されている。なお、このような目的で使用される特定制限酵素切断サイトとしては、EcoRIサイト以外にも、BamHI、HindIII、PstIまたはNotI等の制限酵素に対応するサイトがある。
この増幅産物に、選択マーカーをコードする遺伝子(選択マーカーカセット)を連結することによって本発明のプラスミドの好ましい形態の基本となるものが構築される。pRSS1Sでは、カナマイシン耐性カセット(Km cassette)を連結することによって、約4.0kbpのpRSS1Sが構築されている。
次に、本発明者らは、青枯病菌中において、例えばGFP遺伝子等の標識物質をコードする遺伝子をより強く発現させるために、新規プロモーターの検索を行った。青枯病菌に感染する多数のバクテリオファージにおいて、その遺伝子を発現させるプロモーターを検討し、恒常的に高発現するものを検索した。特に、バクテリオファージφRSB2(以下、ファージφRSB2)のプロモーターについて検索を行った。ファージφRSB2は、発明者らが広島県で青枯病菌を宿主として単離した新規なバクテリオファージである。ファージφRSB2は、本発明者らが単離したすでに公知のファージであるファージφRSB1に類似性のあるバクテリオファージであることを確認している。
ファージφRSB2のMCP(major coat protein)、プライメース、DNAポリメラーゼまたはテールタンパク質のそれぞれの遺伝子のプロモーターについて検討したところ、ファージφRSB2のMCP遺伝子のプロモーター領域の塩基配列を利用すると標的遺伝子発現を増強できることを見出した。さらに、標的遺伝子の下流にMCP遺伝子のターミネーター領域の塩基配列を付加すると、発現量がさらに増強されることを見出した。なお、ファージφRSB2のMCPのプロモーター領域の塩基配列は配列番号2に記載の塩基配列からなり、ファージφRSB2のMCPのターミネーター領域の塩基配列は配列番号3に記載の塩基配列からなる。
ファージφRSB2のMCP遺伝子のプロモーター領域とターミネーター領域を用い、先ずはGFP遺伝子を発現させるカセットを構築した。GFP遺伝子としてはGFPuv(特許文献3に係る実施例において使用している遺伝子)またはGFPmut2を使用した。図3は、プラスミドpRSS1S−GFPuv(以下、pRSS1S−GFPuv)の構造の模式図である。pRSS1S−GFPuvは、図2に示すpRSS1SのEcoRIサイトの位置に、MCP遺伝子のプロモーター領域、GFPuv遺伝子およびMCP遺伝子のターミネーター領域からなる発現カセットを挿入して構築している。
図4は、プラスミドpRSS1S−GFPmut2(以下、pRSS1S−GFPmut2)の構造の模式図である。pRSS1S−GFPmut2は、図2に示すpRSS1SのEcoRIサイトの位置に、MCP遺伝子のプロモーター領域、GFPmut2遺伝子およびMCP遺伝子のターミネーター領域からなる発現カセットを挿入して構築している。なお、GFPmut2の詳細については、FACS-optimized mutants of the green fluorescent protein (GFP), Brendan P. Cormack, Raphael H. Valdivia and Stanley Falkow, Gene, 173 (1996) 33-38 を参照されたい。
本発明者らは、本発明のプラスミド、例えばpRSS1S−GFPuv、pRSS1S−GFPmut2等を用いて青枯病菌を形質転換することによって、青枯病菌でGFPuvまたはGFPmut2を発現させ、それぞれの蛍光強度を比較する実験を行った。その結果、ファージφRSB2のMCPプロモーター領域およびMCPターミネーター領域を用いることで、蛍光強度の増強に有効であることが確認できた。また、通常、蛍光実体顕微鏡で行う観察では青色光で励起する場合が多い。そこで、pRSS1S−GFPuvおよびpRSS1S−GFPmut2による蛍光強度の結果を比較すると、青色光励起による観察では蛍光標識にGFPuvよりもGFPmut2を用いた方が蛍光強度の増強に有効であることがわかった。
また、本発明者らは、本発明のプラスミドである、pRSS1S−GFPuv、pRSS1S−GFPmut2等を用いた具体的な青枯病菌のモニタリング方法を開発した。前述したとおり、これらのプラスミドを用いて青枯病菌を形質転換させると、発現したGFPuvまたはGFPmut2によって青枯病菌を蛍光標識化することができる。そこで、例えばトマト等の青枯病菌に感染する植物にこれらのプラスミドによって形質転換した青枯病菌を接種することによって、植物中における青枯病菌のモニタリングを行えることがわかった。具体的には、本発明者らは2つの手法を用いて青枯病菌のモニタリング実験を行った。
第一の具体的手法では、蛍光標識化された青枯病菌を土壌中で栽培した植物(トマト)に接種し、一定時間後に該植物の接種箇所から種種の距離離れた位置における切片を作製した。その作製した切片を蛍光実体顕微鏡で観察した。この観察結果からは、植物内での青枯病菌の上方または下方への移動、および、維管束内での移動について観察することができた。
このような土壌中で栽培した植物の切片を観察することによる青枯病菌のモニタリング手法を用い、経時的にモニタリングする場合に、土壌中で栽培した植物を定期的に堀り出し、その茎を切断し、断面を観察し、その後植え直すという方法も考えられる。しかし、このような方法では、切断および植え直しによる植物への影響が大きく、自然の環境下における青枯病菌のモニタリングとは言い難い。そこで、ある植物に対する青枯病菌の病原性の検定を行う場合、従来の方法では、まず検定する植物を複数株1ヶ月程度土壌で栽培する。その後、これらの茎または根に検定菌を接種し、栽培を継続する。最後に、これらの株での病徴(葉や茎の変色・萎凋など)の出現を指数化し統計処理する。このため、観察・判定のために、さらに2〜4週間程度の日数が必要となる。(堀田光生・土屋健一、微生物遺伝資源マニュアル(12)−青枯病菌 Ralstonia solanacearum−、農業生物資源研究所(2002)参照)。このように、土壌中で栽培した植物について青枯病菌のモニタリングを行う場合には、1ヶ月以上の期間が必要となる。
そこで、本発明者らは、第二の具体的手法として、さらに利便性の高い青枯病菌のモニタリング方法について開発した。このモニタリング方法では、対象となる植物を、水平面に対して15〜75度、好ましくは30〜60度、より好ましくは40〜50度、さらに好ましくは略45度に傾斜させた寒天培地表面に播種し、この傾斜に沿って伸長するように栽培する。その後、播種後7日程度で対象となる植物に本発明のプラスミドで形質転換した青枯病菌を接種する。すると、茎の切片等を作製しなくとも、栽培状態を維持したまま蛍光実体顕微鏡で植物体内の青枯病菌感染部位を観察することができる。このため、青枯病菌の植物体内における経時的なモニタリングをより簡便に、栽培早期から、観察する植物への影響を抑えて行うことができる。
また、本発明者らは、pRSS12またはpRSS1S−GFPmut2を用いて形質転換を行った青枯病菌を使用してこのモニタリングを行ったが、何れを用いた場合であってもモニタリングが可能であることを確認した。中でもpRSS1S−GFPmut2を用いた方がより強い蛍光強度を得ることができた。
この結果から、この第2の具体的モニタリング手法と、青枯病菌以外の例えばFusarium oxysporum等のFusarium属のカビ類、いもち病菌(Magnaporthe grisea)または土壌病原細菌(Erwinia carotovora)等の植物に感染する病原菌に、標識物質をコードする遺伝子を含む外来遺伝子を導入して標識物質を産生する性質を有するようにしたものを組み合わせても、当該病原菌の増殖または移動等を極めて簡便に観察できることが判明した。このような効果を有するため、このモニタリング手法を応用すれば、植物品種における特定病原菌に対する感受性または耐性の評価や特定病原菌に対して有効な被験物質を明瞭かつ簡便にスクリーニングすることができるようになることも判った。
すなわち、本発明者らは、このモニタリング方法を利用した青枯病菌に対する感受性または耐性の評価方法について研究した。まず、pRSS12によって形質転換した青枯病菌を、青枯病菌に対する感受性・耐性が既知の種種のトマト品種に寒天培地表面で接種した。その結果、その品種の青枯病菌に対する感受性または耐性に応じて、青枯病菌の侵入の様子が異なることがわかった。詳細は、実施例に示すが、特に側根への青枯病菌の侵入の割合が、感受性または耐性のいずれかによって大きく異なることがわかったので、上述のような結論となったのである。
以下、本発明の実施の形態に係るプラスミド、青枯病菌、青枯病菌のモニタリング方法、青枯病菌に対する感受性等の評価方法、および、青枯病菌に対して有効な被験物質のスクリーニング方法等について詳細に説明する。なお、本明細書において「含む」(または「有する」)という用語は、「からなる」すなわち「から構成される」という意味も含む。また、本明細書において「接種」と「感染」とは同様の意味を表す。
(プラスミド)
本発明の実施の形態1は、標識物質をコードする遺伝子の発現カセットを有するプラスミドに関する。すなわち、本実施の形態1に係るプラスミドは、青枯病菌に対して感染能を有するファージφRSS1のゲノムの複製モジュールを含むプラスミドであって、ファージφRSB2に由来するMCPプロモーター領域と、該プロモーター領域の下流に標識物質をコードする遺伝子と、該標識物質をコードする遺伝子の下流にファージφRSB2に由来するMCPターミネーター領域と、を含む発現カセットを有する。具体例としては、図3または図4に示すようなpRSS1S−GFPuvまたはpRSS1S−GFPmut2が挙げられる。
用語「複製モジュール」の意味については前述した通りである。また、「ファージφRSS1のゲノムの複製モジュール」としては、好ましくは、配列表の配列番号1に記載された塩基配列の1〜1720番目の配列、および、5800乃至6135番目の何れかから6662番目の配列(好ましくは5800〜6662番目の配列)をいう。しかし、該塩基配列と同一の塩基配列だけでなく、該塩基配列に1または数個の塩基が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じている塩基配列からなるものでも構わない。すなわち、上述の塩基配列と同等の作用を有するもの、具体的には青枯病菌に対する親和性を保持することができる範囲において当業者が適宜配列を変更することができる。
このような変異が生じた配列における相同性としては、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性が挙げられる。相同性の範囲のより具体的な例示としては、60%〜99%、65%〜99%、70%〜99%、75%〜99%、80%〜99%、85%〜99%、90%〜99%、また、60%〜95%、65%〜95%、70%〜95%、75%〜95%、80%〜95%、85%〜95%、90%〜95%などが挙げられる。
なお、この相同性については、以下で述べる塩基配列において変異が生じた配列における相同性についても同様に適用される。
また、本実施の形態1に係るプラスミドにおいて、「ファージφRSB2に由来するMCPプロモーター領域」とは、好ましくは、配列番号2に記載と同一の塩基配列を有するプロモーター配列をいう。しかし、該塩基配列と同一の塩基配列だけでなく、該塩基配列に1または数個の塩基が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じている塩基配列からなるプロモーター領域でも構わない。すなわち、標識物質をコードする遺伝子の発現を増強させるプロモーター領域として機能する範囲において当業者が適宜配列を変更することができる。また、該プロモーター領域の配列には、リボソーム結合配列(SD配列あるいはSD配列と考えられる配列)も含まれる。
また、「ファージφRSB2に由来するMCPターミネーター領域」についても同様であり、好ましくは、配列番号3に記載と同一の塩基配列を有するターミネーター配列をいう。しかし、該塩基配列と同一の塩基配列だけでなく、該塩基配列に1または数個の塩基が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組合せにより配列に変異が生じている塩基配列からなるターミネーター領域でも構わない。すなわち、標識物質をコードする遺伝子の発現を増強させるターミネーター領域として機能する範囲において当業者が適宜配列を変更することができる。
本実施の形態1に係る「プラスミド」とは、宿主染色体とは物理的に独立して自律複製し、安定に遺伝することのできる染色体外遺伝因子であるという、一般的な意味で使用されるものである。また、前述したように、本実施の形態1に係るプラスミドは、ファージφRSS1のゲノムの複製モジュールおよび標識物質をコードする遺伝子等を含む発現カセットを有するものである。すなわち、ファージφRSS1のゲノムの複製モジュールおよび該発現カセットのみからなっていてもよいし、公知の各種のプラスミド、例えば、大腸菌由来のpBR322、pBR325、pUC12、pUC13、pUC19などのプラスミドの中に組み込まれたものも包含している。
さらに、前述したように、本実施の形態1に係るプラスミドは、標識物質をコードする遺伝子を有するため、該標識物質に係る遺伝子を宿主細胞(青枯病菌)に導入することができる。「標識物質をコードする遺伝子」としては、標識として機能できるものであれば特に制限はないが、ルシフェラーゼ遺伝子または緑色蛍光タンパク質(以下、GFP)をコードする遺伝子等のような化学発光タンパク質、または/および、蛍光タンパク質をコードする遺伝子が好ましい。一般的な遺伝子としては、GFPをコードする遺伝子が挙げられる。さらに、GFPの場合、GFPmut2が最も好ましい。
また、本実施の形態1に係るプラスミドにおいて、「ファージφRSS1のゲノムの複製モジュール」および「標識物質をコードする遺伝子等を含む発現カセット」の他に、各種の「選択マーカーをコードする遺伝子」などを含有させることもできる。「選択マーカーをコードする遺伝子」としては、通常使用されるものを常法により用いることができる。例えば、テトラサイクリン、アンピシリン、ネオマイシンまたはカナマイシン等の抗生物質耐性遺伝子等が例示される。なお、図14に、このような構造を有する本実施の形態1に係るプラスミドにおける一般構造の模式図を示す。図14中に於いて、Xは標識物質Xを意味する。
なお、本実施の形態1に係るプラスミドにおいて、「発現カセット」は、MCPプロモーター領域およびMCPターミネーター領域のいずれをも有する。しかし、本実施の形態1に係るプラスミドの他の形態として、MCPプロモーター領域のみを有しても構わない。また、「発現カセット」は、好ましくは、図3または図4に示すように、前述した配列番号1に記載の塩基配列の1〜1720番目の配列および5800乃至6135番目の何れかから6662番目の配列(好ましくは5800〜6662番目の配列)からなる「ファージφRSS1のゲノムの複製モジュール」と「選択マーカーをコードする遺伝子」とを有するpRSS1SのEcoRIサイトの位置に挿入される。図3または図4に示す、本実施の形態1に係るプラスミドの具体例では、「選択マーカーをコードする遺伝子」をカナマイシン耐性遺伝子(Km cassette)、「発現カセット」中の「標識物質をコードする遺伝子」を緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子(GFPuvまたはGFPmut2)として記載している。
このように、本実施の形態1に係るプラスミドでは、「ファージφRSB2に由来するMCPプロモーター領域」および「ファージφRSB2に由来するMCPターミネーター領域」が挿入されている。前述したように、該MCPプロモーター領域を目的遺伝子(「標識物質をコードする遺伝子」)の上流(好ましくは該MCPプロモーター領域および該MCPターミネーター領域を、該MCPプロモーター領域については目的遺伝子の上流および該MCPターミネーター領域については目的遺伝子の下流)に挿入すると、その遺伝子発現を増強することができる。そのため、本実施の形態1に係るプラスミドを青枯病菌に導入し、形質転換すると、「標識物質をコードする遺伝子」の発現を増強することができ、青枯病菌をより明瞭に標識化することができる。
さらに、本実施の形態1に係るプラスミドは、ファージφRSS1のゲノムの複製モジュールを含むため、青枯病菌に容易に取り込まれる。また、薬剤選択がない条件でも青枯病菌は該プラスミドを安定に複製・保持することが可能である(本実施の形態に係るプラスミドの青枯病菌内での安定性については特許文献3参照)。該プラスミドが不要となった場合には、青枯病菌のゲノム情報を変化させることなく除去することも可能である。
なお、「複製モジュール」、「ファージφRSB2に由来するMCPプロモーター領域」、「ファージφRSB2に由来するMCPターミネーター領域」、「標識物質をコードする遺伝子」および「選択マーカーをコードする遺伝子」に係るDNA断片については、後述する実施例に示すような、当業者にとって公知であり一般的なPCR(Polymerase Chain Reaction)技術等を用いて調製することができる。「標識物質をコードする遺伝子」の挿入、「選択マーカーをコードする遺伝子」の挿入、「ファージφRSB2に由来するMCPプロモーター領域」の挿入、または、「ファージφRSB2に由来するMCPターミネーター領域」の挿入等についても、標準的な組換えDNA技術を用いて行うことができる(Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York参照)。例えば、制限酵素およびDNAリガーゼを用いた周知の方法で行うことができる。
「ファージφRSB2に由来するMCPプロモーター領域」および「ファージφRSB2に由来するMCPターミネーター領域」に係るDNA断片についてはそれぞれ、配列番号2および配列番号3に記載の塩基配列を有するDNAを、当業者にとって公知の方法により合成して得ることができる。例えば、ニッポンジーン株式会社等に外注して所望の塩基配列を有するDNAを合成することも可能である。このように合成されたMCPプロモーター領域とおよびMCPターミネーター領域とを、標識物質をコードする遺伝子とライゲートすることによって、目的の発現カセットを得ることができる。また、MCPプロモーター領域の塩基配列を含む、標識物質をコードする遺伝子を増幅するためのプライマー(フォワード)と、MCPターミネーター領域の塩基配列を含む、標識物質をコードする遺伝子を増幅するためのプライマー(リバース)を用いて、標識物質をコードする遺伝子の塩基配列を含むDNAを鋳型としてPCR法によりDNA断片を増幅することによっても目的の発現カセットを取得することができる。
(青枯病菌)
本発明の実施の形態2は、実施の形態1に係るプラスミドによって形質転換された青枯病菌に関する。
実施の形態1に係るプラスミドを青枯病菌に導入する方法としては、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えばエレクトロポーレイション法によって形質転換することができる。実施の形態1に係るプラスミドは、青枯病菌に対して極めて親和性が強く、比較的簡単に青枯病菌中に導入することができる。
プラスミドが導入された青枯病菌は、選択マーカーなどにより、通常の方法により選択することができる。選択培地としては、青枯病菌を培養する栄養培地を用いることができる。選択された形質転換細胞(形質転換された青枯病菌)を栄養培地で培養することにより、導入した遺伝子を当該形質転換細胞の中で発現させることができる。栄養培地は、青枯病菌(形質転換体)の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。
炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)など)を含んでいてもよい。本実施の形態2に係る形質転換された青枯病菌の好ましい栄養培地としては、CPG培地が挙げられる。
本実施の形態2に係る青枯病菌によれば、実施の形態1に係るプラスミドによって形質転換されており、標識物質による発光または蛍光強度等が増強した青枯病菌を得ることができる。しかも、当該青枯病菌中のプラスミドは、薬剤選択圧がない条件でも、長期間青枯病菌中に保持されるという性質を有するため、以下で言及する青枯病菌のモニタリング等に使用するのにも好適である。
(青枯病菌のモニタリング方法)
本発明の実施の形態3は、青枯病菌のモニタリング方法に関する。なお、本明細書において、「青枯病菌のモニタリング」とは、標識物質を観察することによって、青枯病菌の増殖、減少または挙動を観察することをいう。青枯病菌の増殖または減少の観察とは、土壌または植物体内等における青枯病菌の増殖または減少等の量を測定することも含む。なお、青枯病菌の挙動の観察には、土壌または植物体内等における青枯病菌の移動の様子の観察だけでなく、土壌または植物体内等における青枯病菌の所在の観察、すなわち青枯病菌の検出という意味も含む。
本実施の形態3に係る青枯病菌のモニタリング方法は、実施の形態2に係る青枯病菌を、該青枯病菌において発現した標識物質によって、青枯病菌の増殖、減少または挙動を観察することによる。青枯病菌の増殖、減少または挙動の観察とは、土壌中、植物体中または栄養培地上等の様々な場所・条件下において青枯病菌を観察することをいう。
実施の形態2に係る青枯病菌は、標識物質による発光または蛍光強度等が増強しているため、該標識物質を明瞭かつ簡便に観察することができる。これにより、青枯病菌をモニタリングすることができる。前述したように、標識物質には、標識として機能できるものであれば特に制限はないが、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子または緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子などの化学発光タンパク質、または/および、蛍光タンパク質をコードする遺伝子が好ましい。例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)であり、好ましくはGFPmut2である。
標識物質の観察には、それぞれの標識物質を観察する際に適した従来公知の方法を用いて観察することができる。観察器具としては、例えば、実体顕微鏡、光学顕微鏡、暗視野顕微鏡、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡または蛍光実体顕微鏡を用いて観察することができる。すなわち、標識物質によって標識化された青枯病菌を可視化できる手段なら何でもよい。標識物質に緑色蛍光タンパク質(GFP)を用いた場合には、好ましくは、蛍光実体顕微鏡を用いて観察することができる。本明細書において、用語「観察」を用いる場合に関しても、標識物質を観察する際に適した観察器具を用いる場合も含むものとする。
本実施の形態3に係る青枯病菌のモニタリング方法においては、好ましくは、実施の形態2に係る青枯病菌を植物に感染させ、植物体内の青枯病菌において発現した標識物質を観察することによって、植物体内における青枯病菌の増殖、減少または挙動の観察をする。
青枯病菌を植物に感染させる場合には、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、青枯病菌培養液を塗布した針で、植物の茎または根を穿孔して行うことができる。または、例えば、植物が定植している土壌中に青枯病菌培養液をまくことでも行うことができる。この場合、感染させた植物中における青枯病菌の増殖、減少または挙動等を観察する。さらに、実施例で述べるが、本発明者らが新たに開発した、植物の芽生えの根端を切断し形質転換した青枯病菌の培養液をかけるという感染方法でも構わない。(堀田光生・土屋健一、微生物遺伝資源マニュアル(12)−青枯病菌 Ralstonia solanacearum−、農業生物資源研究所(2002)等参照)。
植物に感染させた場合、例えば、標識物質の観察は、該植物の横断切片における標識物質の観察によって行う。ここで、「植物の横断切片」とは、植物の根、葉または茎等を剃刀等の切断手段により切断し、該植物の維管束等の、青枯病菌が通る経路の様子が観察できる切片をいう。
または、好ましくは、植物体内における青枯病菌の増殖、減少または挙動の観察は、青枯病菌を感染させた植物を水平面に対して傾斜角度を付けた寒天培地表面に沿って伸長するよう培養し、該寒天培地表面に培養した植物中の標識物質の観察によって行う。以下、このような傾斜寒天培地について詳細に説明する。
寒天培地の成分としては、植物を栽培させるために従来公知の成分を含めばよい。例えば、実施例に詳細に示すようなアガーと、ハイポネックスパウダー(http://vegetea.naro.affrc.go.jp/kinou/shukakugoseiri/page021.html)や植物培養用の例えば Murashige & Skoog (MS)培地、B5培地、N6培地、AA培地等の自体公知の培地(「生物化学実験法 41、植物細胞工学入門、駒嶺 穆・野村港二 編著、学会出版センター」p17-39参照)の組成に準じた各種必要成分を含むもの等とからなる寒天培地が挙げられる。この寒天培地におけるアガー等の寒天成分の含有量は1〜2w/v%、好ましくは1.3〜1.7w/v%、より好ましくは略1.5w/v%程度である。寒天培地表面の傾斜角度は、植物が寒天培地表面に沿って根または/および茎が伸長するように生育できる角度であれば特に限定されないが、好ましくは水平面に対して15〜75度、より好ましくは30〜60度、さらに好ましくは40〜50度、よりさらに好ましくは略45度程度である。すなわち、植物の根または/および茎が寒天培地表面に沿って伸長するように生育し、その植物中の標識物質を、該植物を掘り出さずに、直接蛍光実体顕微鏡等により観察できる傾斜角度を意味する。この際、傾斜角度については、寒天培地が水平に形成されたシャーレを傾斜面に置き栽培する場合でも、シャーレ内の寒天培地自体に傾斜をつけ水平面に置き栽培する場合でも構わない。
さらに、好ましくは、標識物質の観察を経時的に行い、青枯病菌の増殖、減少または挙動をリアルタイムで観察する。「経時的にリアルタイムで観察する」とは、一定時間が経過する毎に青枯病菌の増殖、減少または挙動について観察を行うことをいう。
本実施の形態3に係る青枯病菌のモニタリング方法のうち、傾斜寒天培地を用いる方法によれば、標識物質によって標識化された青枯病菌の増殖、減少または挙動をより簡便に観察することができる。例えば、この標識化された青枯病菌を植物体内に取り込ませることによって、植物体内における青枯病菌の所在を例えば直接蛍光実体顕微鏡等により観察でき、青枯病についての研究、例えば青枯病に対する薬剤の研究に利用することができる。さらに、標識化された青枯病菌の観察をリアルタイムで行うことによって、植物体内での青枯病菌の感染機構が解明できる。
本実施の形態3に係る青枯病菌のモニタリング方法によると、植物体内における観察以外でも、標識物質によって標識化された青枯病菌を土壌中に散布することによって、土壌中における青枯病菌の所在、量、さらには増殖の様子をも観察することができる。この観察結果は、土壌から植物への青枯病菌の感染機構の研究に利用することができる。また、青枯病菌を感染させた植物を傾斜寒天培地において培養する方法では、実験室レベルでの青枯病菌の研究に適しており、土壌において栽培した植物に青枯病菌を接種しモニタリングする場合と比較すると、短期間で実験(モニタリング)を行うことができる。さらに、実施の形態2に係る青枯病菌を使用しており、標識物質による発光強度が増強しているため、明瞭かつ簡便に青枯病菌のモニタリングを行うことができる。
(青枯病菌に対する評価方法)
本発明の実施の形態4は、青枯病菌に対する評価方法に関する。本実施の形態4に係る青枯病菌に対する評価方法は、実施の形態3に係るモニタリング方法を用い、青枯病菌の増殖、減少または挙動を指標として、植物品種による青枯病菌に対する感受性、または、耐性を評価する。好ましくは、上述したごとく、指標とする植物体内における青枯病菌に対する増殖、減少または移動の観察は、青枯病菌を感染させた植物を水平面に対して傾斜角度を付けた寒天培地表面に沿って伸長するよう培養し、該寒天培地表面に培養した植物中の標識物質の観察によって行うことが好ましい。
実施例に詳細に示すが、青枯病菌に対して感受性または耐性を有する植物品種では、青枯病菌を感染させた場合の増殖または移動が大きく異なることがわかった。特に、感受性を有する品種では主根から側根へ青枯病菌が短期間で侵入するが、耐性を有する品種では側根へ短期間で侵入することはなかった。さらに、感受性を有する品種では葉脈を含む植物全体において侵入し、品種によっては側根の根端から青枯病菌由来の緑色蛍光の漏出が観察されることもわかった。そこで、本実施の形態4に係る青枯病菌に対する評価方法では、青枯病菌の増殖、減少または移動を指標とし、実施の形態3に係るモニタリング方法を用いることで、植物が青枯病菌に対して感受性を有するのか、耐性を有するのかを評価する。
例えば、実施例に示すポンデローザや大型福寿の実験結果のように、側根への侵入が多く観察される場合には、青枯病菌に対して感受性を有するということができる。一方、B−バリアーの実験結果のように、側根への侵入があまり観察されないのであれば、青枯病菌に対して耐性を有するということができる。そこで、好ましくは、本実施の形態4に係る評価方法において、指標となる青枯病菌の増殖、減少または挙動とは、実施の形態2に係る青枯病菌の植物の側根への侵入(割合)をいい、これにより青枯病菌に対する感受性または耐性の評価を行う。
本実施の形態4に係る青枯病菌に対する評価方法によれば、各植物品種が青枯病菌に対して感受性であるか耐性であるかを判断することができる。そのため、青枯病菌に対して耐性のある植物品種の開発に利用することができ、青枯病に対する被害の減少にもつなげることができる。また、実施の形態2に係る青枯病菌を使用しており、標識物質による発光または蛍光強度等が増強するため、明瞭かつ簡便に青枯病菌に対する感受性または耐性の評価を行うことができる。
(青枯病菌に対して有効な被験物質のスクリーニング方法)
本発明の実施の形態5は、青枯病菌に対して有効な被験物質のスクリーニング方法に関する。本実施の形態5に係る青枯病菌に対して有効な被験物質のスクリーニング方法は、実施の形態2に係る青枯病菌に感染、発病した植物に、被験物質を与え、実施の形態3に係る青枯病菌のモニタリング方法を用いて観察することにより、青枯病菌に対して有効な被験物質をスクリーニングする。好ましくは、実施の形態3に係る青枯病菌のモニタリング方法では、傾斜寒天培地を用いたモニタリング方法を用いる。
与える「被験物質」は、様々な分子サイズの有機化合物(核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質または複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリドまたはセレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペンまたはステロイド等))、もしくは、無機化合物を用いることができる。「被験物質」は、天然物由来であっても合成によるものであってもよい。後者の場合には、例えば、コンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。なお、細胞抽出液または培養上清等を被験物質として用いてもよい。
「青枯病菌に対して有効な被験物質」とは、例えば、実施の形態4に係る青枯病菌に対する評価方法において青枯病菌に対して感受性を有すると判断した植物品種の場合、その「被験物質」によって、その植物品種の体内(側根や葉脈)への青枯病菌の広がりを抑制することができる物質のことをいう。また、青枯病菌に対して耐性を有すると判断した植物品種であっても、さらに植物体内への枯病菌の広がりを抑制することができる物質ならば該当する。
土壌に植えられた植物に対してこの「被験物質」の有効性を確かめる場合には、例えば、該植物周辺の土壌に「被験物質」を混ぜることによって確かめることができる。また、前述したような、寒天培地表面の植物に対してこの「被験物質」の有効性を確かめる場合には、例えば、寒天培地の成分中に「被験物質」を含ませることによって確かめることができる。
本実施の形態5に係る青枯病菌に対して有効な被験物質のスクリーニング方法によれば、青枯病(菌)に対して有効な被験物質を発見することができる。この発見された被験物質を利用することで、青枯病の被害の減少につなげることができる。また、実施の形態2に係る青枯病菌を使用しており、標識物質による発光、または/および、蛍光強度が増強するため、明瞭かつ簡便に青枯病菌に対して有効な被験物質のスクリーニングを行うことができる。
(モニタリング方法、評価方法およびスクリーニング方法)
本発明の実施の形態6は、傾斜寒天培地を使用したモニタリング方法、評価方法およびスクリーニング方法に関する。
本発明の実施の形態6に係るモニタリング方法は、植物に感染する病原菌に標識物質をコードする遺伝子を含む外来遺伝子を導入して標識物質を産生する性質を有するものとし、当該病原菌の植物体内における増殖、減少または挙動の観察を、当該病原菌を感染させた植物を水平面に対して傾斜角度をつけた寒天培地表面に沿って根または/および茎が伸長するよう培養し、該寒天培地表面に培養した植物体内において産生された前記標識物質を観察することによって行うことを特徴とする。
さらにこのモニタリング方法の応用として、植物品種による病原菌に対する感受性、または、耐性を評価する評価方法、さらには病原菌に対して有効な被験物質をスクリーニングする方法がある。
これら本発明の実施の形態6にかかるモニタリング方法ならびにこれを応用した評価方法およびスクリーニング方法の好ましい実施形態は、使用する病原菌が、本発明の形質転換された青枯病菌を含む「植物に感染する病原菌に標識物質をコードする遺伝子を含む外来遺伝子を導入して標識物質を産生する性質を有するものとした当該病原菌」であることを除いて、上述した青枯病菌に係るモニタリング方法ならびにこれを応用した評価方法およびスクリーニング方法の好ましい実施の形態と実質同一である。
ここで、病原菌に導入する「標識物質をコードする遺伝子を含む外来遺伝子」としては、簡便に病原菌に導入し得、かつ導入された病原菌内で標識物質を産生する作用を発揮し得るものであれば特に限定されず、そのような外来遺伝子の調製方法や病原菌への導入方法もこの分野で一般に用いられる方法が特に限定されることなく使用し得る。好ましい一例を示せば、本発明のプラスミドのように、病原菌に対応した、バクテリオファージ由来の「複製モジュール」と「標識物質をコードする遺伝子」とを構成要素として有するもの、具体的に例示すれば例えば上述したpRSS12、pRSS1S−GFPuv、pRSS1S−GFPmut2等が挙げられる。
また、これら本発明の実施の形態6にかかるモニタリング方法ならびにこれを応用した評価方法およびスクリーニング方法が適用できる、「植物に感染する病原菌」としては、例えばFusarium oxysporum等のFusarium属のカビ類、いもち病菌(Magnaporthe grisea)、土壌病原細菌(Erwinia carotovora)等この分野でよく知られた病原菌が挙げられる。
なお、本発明の実施の形態3〜6において「植物」とは、例えばトマト、ナスまたはタバコ等の青枯病菌に感染すると報告されている33科200種以上の植物を少なくとも含み(堀田光生・土屋健一、微生物遺伝資源マニュアル(12)−青枯病菌 Ralstonia solanacearum−、農業生物資源研究所(2002)等参照)、本発明の実施の形態6においては、さらに上述したFusarium属のカビ類、いもち病菌、土壌病原細菌等に感染すると報告されている植物も含む。
寒天培地の成分としては、植物を栽培させるために従来公知の成分を含めばよい。例えば、実施例に詳細に示すようなアガーと、ハイポネックスパウダー(http://vegetea.naro.affrc.go.jp/kinou/shukakugoseiri/page021.html)や植物培養用の例えば Murashige & Skoog (MS)培地、B5培地、N6培地、AA培地等の自体公知の培地(「生物化学実験法 41、植物細胞工学入門、駒嶺 穆・野村港二 編著、学会出版センター」p17-39参照)の組成に準じた各種必要成分を含むもの等とからなる寒天培地が挙げられる。この寒天培地におけるアガー等の寒天成分の含有量は1〜2w/v%、好ましくは1.3〜1.7w/v%、より好ましくは略1.5w/v%程度である。寒天培地表面の傾斜角度は、植物が寒天培地表面に沿って根または/および茎が伸長するように生育できる角度であれば特に限定されないが、好ましくは水平面に対して15〜75度、より好ましくは30〜60度、さらに好ましくは40〜50度、よりさらに好ましくは略45度程度である。すなわち、植物の根または/および茎が寒天培地表面に沿って伸長するように生育し、その植物中の標識物質を、該植物を掘り出さずに、直接蛍光実体顕微鏡等により観察できる傾斜角度を意味する。この際、傾斜角度については、寒天培地が水平に形成されたシャーレを傾斜面に置き栽培する場合でも、シャーレ内の寒天培地自体に傾斜をつけ水平面に置き栽培する場合でも構わない。
本実施の形態6に係るモニタリング方法、評価方法およびスクリーニング方法においては、本発明者らの一部が発明したpRSS12を用いることも出来るので、この構造についても参考までに記載しておく。
図1は、このpRSS12の特定構造を示す模式図である。すなわち、図1は、前述した特許文献3に記載のpRSS12とその元となるファージφRSS1ゲノムDNAの構造を示す。図1の上段の図は、ファージφRSS1のゲノムDNAの構造である。図1の下段の図は、pRSS12の構造である。ファージφRSS1の全塩基配列はDDBJに、アクセッション番号AB259124として登録されている。アクセッション番号AB259124のファージφRSS1のゲノムDNAの6662塩基からなる全配列を配列表の配列番号1に示す。
一般に、ファージφRSS1のようなFf様ファージのゲノムは、関連する機能を有する遺伝子同士がまとまった「モジュール」と呼ばれる構造を複数含んでいる。例えば、「複製モジュール」は、ローリングサークルDNA複製に関与する遺伝子gII、gV、およびgXを含有している。Ff様ファージのゲノムは共通して、「複製モジュール」、「構造モジュール」、および、「アセンブリーおよび分泌モジュール」の3種類を有している。これらのモジュールは上記の順番でゲノム上に並んでおり、この配置はファージφRSS1でも維持されている。本明細書において、用語「複製モジュール」とは、ローリングサークルDNA複製に関与する遺伝子gII、gV、およびgXを含有しているモジュールのことを意味し、または、Ff様ファージのゲノム構造から「構造モジュール」および「アセンブリーおよび分泌モジュール」を除いた部分のことを意味する。
pRSS12を作製するには、まず、ファージφRSS1のDNAから構造モジュールとアセンブリーおよび分泌モジュールと(ORF4〜ORF11)を除くことで、ファージφRSS1のDNAの約1/3(2248塩基)からなるプラスミドを構築する。この2248塩基からなる部分には、ファージφRSS1のDNAのORF1〜ORF3およびIGがコードされている。この配列は、ファージφRSS1のゲノムDNAの配列の1〜1720番目の塩基配列および6135〜6662番目の塩基配列からなるものである。
図1の下段の図に示すように、pRSS12は、ファージφRSS1の約3分の1のDNA(2248塩基)の1720番目と1721番目の間にGFP−Km(GFP遺伝子(GFPuv遺伝子)およびカナマイシン耐性カセットが結合したもの)を含有する約4.7kbpのプラスミドである。念のために付記すれば、pRSS12ではGFP遺伝子の発現に大腸菌由来のlacプロモーターを使用している(特許文献3)。なお、pRSS12の詳細な調製方法等については、特許文献3および非特許文献1乃至3を参照されたい。
本実施例および参考例において使用するバクテリオファージ(ファージφRSS1およびファージφRSB2)は、青枯病菌(ラルストニア・ソラナセアラム(Ralstonia solanacearum))から単離されるものである。ファージφRSS1は、青枯病菌の菌株C319を用いて繁殖させた。なお、菌株C319はタバコより分離されたレース1の菌株であり、山陰建設工業株式会社(島根県出雲市)より分譲された菌株である。なお、ファージφRSB2は、本発明者らが広島県より単離した青枯病菌を宿主とする新規なバクテリオファージである。
本実施例および参考例で使用する青枯病菌の菌株MAFF106611株は、農林水産省生物資源研究所発行の微生物遺伝資源利用マニュアル(12)、堀田光生・土屋健一、平成14年3月に記載の菌株で、農林水産省生物資源研究所農業生物資源ジーンバンクより分譲が可能である。各ファージ単離方法および各菌株の詳細については、背景技術に記載の特許文献1乃至3および非特許文献1乃至3を参照されたい。
各種の青枯病菌の菌株は、28℃で200〜300rpmで撹拌してCPG培地で培養した。CPG培地は、0.1%のカザミノ酸、1%のペプトンおよび0.5%のグルコースを含有するものを使用した。各ファージは、単一プラーク単離法により繁殖させ、精製した。細菌細胞の培養液のOD600が0.1ユニットに達したときに、ファージを0.01〜0.05moi(菌数に対するファージの相対数)加えた。その後、16〜18時間、培養して遠心分離により細胞を除去し、0.45μmのフィルターを通した後、このファージ懸濁液に、CsCl(9.4g/20mL)を加え、超遠心分離を行って、さらなる精製を行った。精製されたファージは、使用されるまで4℃で保存した。
また、蛍光実体顕微鏡での観察は、GFP2およびGFP3 filterを用いたMF16F fluorescence stereomicroscope(Leica Microsystems, Heidelberg, Germany)、および/または、Olympus BH2 fluorescence microscope(Olympus, Tokyo, Japan)を用い、CCD camera(Keyence VB-6010; Osaka, Japan)を用いて記録した。
以下、pRSS12,pRSS1S−GFPuvおよびpRSS1S−GFPmut2の調製方法、これらのプラスミドによって形質転換された青枯病菌、ならびに、これらの青枯病菌を用いたモニタリング方法等に係る実施例および参考例について説明する。まず、pRSS12の調製方法および青枯病菌への形質転換について説明する。
(参考例1)
pRSS12を調製するため、まず、ファージφRSS1のゲノム配列から構造タンパク質および形態形成のモジュール部分が欠落した約1/3の長さ(約2248塩基)のDNA断片をPCR(Polymerase Chain Reaction)法により増幅した。ファージφRSS1の全配列はDDBJに、アクセッション番号AB259124としてそれぞれ登録されている。ファージφRSS1の全ゲノムDNA配列を、配列番号1に示す。図1に示すように、プライマーには、ファージφRSS1のゲノムにおけるORF11の3’末端部分に相当する塩基配列を有するフォーワードプライマー12−F1(配列番号4、5’−cggaattctatccggagtaacgaaaag−3’)、および、ORF4の5’末端部分に相当する塩基配列を有するリバースプライマー12−R1(配列番号5、5’−atggaattctccttgagatggaggttgag−3’)を用いた。これらのプライマーにはいずれにもEcoRIサイトが付加されている。このPCRは、MY-Cycler(バイオラッド社製)を用い、標準的な条件下で行った。テンプレートとしては、ファージφRSS1のRF−DNA(1ng)を用いて、25サイクルで行った。得られたDNA断片を常法に従い、精製した。
また、プラスミドpUC4−KIXX(アマーシャムバイオサイエンス社製)からカナマイシン耐性カセットをEcoRIにより切り出した。このカナマイシン耐性カセットの断片を、GFP遺伝子を含有しているpGFPuv(タカラバイオ株式会社製)のEcoRIサイトに挿入して、カナマイシン耐性カセットとGFP遺伝子(GFPuv)が結合したpGFPuv−Kmを構築した。各々の遺伝子の向きは、制限酵素マッピング法により確認した。
さらに、構築したpGFPuv−Kmをテンプレートとして、カナマイシン耐性カセットとGFPuvの結合部分に係るDNA配列断片(以下、GFPuv−Km)をPCRによって増幅した。プライマーは、フォワードプライマー12−F2(配列番号6、 5’−gagcgccgaattcgcaaaccgcctctcc−3’)、および、リバースプライマー12−R2(配列番号7、5’−ttgacaccagacaagttggtaatggtag−3’)を用いた。図1の下段の図に示すように、このPCR産物(GFPuv−Km)を、前述したファージφRSS1由来の増幅断片に結合させることにより、pRSS12を構築した。このようにして構築されたpRSS12は、ファージφRSSのゲノムの1〜1720番目の塩基配列、同ゲノムの6135〜6662番目の塩基配列、カナマイシン耐性カセット、および、GFPuv遺伝子を有するプラスミドとなる。
得られたpRSS12に係る青枯病菌への導入については、Gene Pulser Xcell(バイオラッド社製)を用いてメーカーの使用説明書の記載にしたがって、2.5kVで2mmキュベットで、青枯病菌MAFF106611株にエレクトロポーレーション法により導入した。得られた形質転換体は、15μg/mLのカナマイシンを含有するCPG培地で選択した。
(実施例1)
pRSS1S−GFPuvおよびpRSS1S−GFPmut2の調製方法等に係る実施例について説明する。まず、これらのプラスミドの基礎となるpRSS1Sを調製するために、前述したpRSS12の場合と同様に、ファージφRSS1のゲノム配列から構造タンパク質および形態形成のモジュール部分が欠落した約1/3の長さ(2583塩基)のDNA断片をPCR法により増幅した。なお、pRSS12の場合と比較するとフォワードプライマーの配列が少し異なっている。図2の上段の図に示すように、プライマーには、ファージφRSS1のORF11の付近に相当する塩基配列を有するフォーワードプライマー1S−R(配列番号8、5’−agacatcgacattcggcacatcgc−3’)、および、ORF4の5’末端部分に相当する塩基配列を有するリバースプライマー1S−L(配列番号9、5’−atggaattctccttgagatggaggttgag−3’)を用いた。なお、1S−LプライマーにはEcoRIサイトが導入されている。
このPCRは、MY-Cycler(バイオラッド社製)を用い標準的な条件下で行った。テンプレートとしては、ファージφRSS1のRF−DNA(1ng)を用いて、25サイクルで行った。得られたDNA断片を常法に従い、精製した。このDNA断片に、カナマイシン耐性カセットの断片を結合させて、図2の下段の図に示すように、pRSS1Sを構築した。カナマイシン耐性カセットは、プラスミドpUC4−KIXX(アマシャムバイオサイエンス社製)からEcoRIにより切り出し、平滑末端化およびリン酸化処理を行うことにより取得した。このようにして構築されたpRSS1Sは、ファージφRSSのゲノムの1〜1720までの塩基配列、同ゲノムの5800〜6662までの塩基配列、および、カナマイシン耐性カセット(Km cassette)を有するプラスミドとなる。
次に、ファージφRSB2のMCP(major coat protein)遺伝子プロモーター(配列番号2)、GFP(GFPuvまたはGFPmut2)遺伝子、および、MCP遺伝子ターミネーター(配列番号3)からなる発現カセットを作製した。ファージφRSB2は、青枯病菌を宿主とする新規なバクテリオファージであり、発明者が広島県より単離したものである。まず、調製したファージφRSB2のDNAを鋳型として、PCR法により、MCP遺伝子のプロモーター配列を増幅した。その際、フォワードプライマーにはMCP−F−72(配列番号10、5’−cccgaattctggaacgccgcgtcgctgcctcgtaag−3’)、リバースプライマーにはMCP−R−74(配列番号11、5’−tgtggttctccttgaaaagtgatcagggac−3’)を用いた。フォワードプライマーMCP−F−72には、EcoRIサイトが導入されている。PCRは、25サイクルで、MY-Cycler(バイオラッド社製)を用い標準的な条件下で行った。
同様に、ファージφRSB2のDNAを鋳型として、PCR法により、MCP遺伝子のターミネーター配列を増幅した。その際、フォワードプライマーにはTerm−F−77(配列番号12、5’−tggccgtcctccaacccaagcata−3’)、リバースプライマーにはTerm−R−Rl−71(配列番号13、5’−cctgaattctccctgctgggtccccttggggtggtgc−3’)を用いた。リバースプライマーTerm−R−Rl−71には、EcoRIサイトが導入されている。PCRの条件は、プロモーター配列のPCRの場合と同様である。
次に、増幅したMCPプロモーター、およびMCPターミネーターの間に、GFP(GFPuvまたはGFPmut2)遺伝子をライゲーションし、EcoRIサイトで切断することにより、発現カセットを作製した。GFPuvおよびGFPmut2については、pGFPuv(タカラバイオ株式会社製)およびGFPmut2をコードする遺伝子を含むプラスミドであるpMRP9−1(Davies, D. G. et al. The involvement of cell-to-cell signals in the development of a bacterial biofilm. Science 280, 295-298 (1998).)を用いて調製した。pGFPuvおよびpMRP9−1を鋳型に、各GFPのコード領域を増幅するプライマーを用いて、PCR法によりGFPuvおよびGFPmut2のDNA断片をそれぞれ増幅した。また、これらのDNA配列断片(MCPプロモーター、GFPuvまたはGFPmut2、および、MCPターミネーター)のライゲーションについては、Ligation High(東洋紡績株式会社製)を用いてT4DNAリガーゼにより連結した。なお、GFPuvまたはGFPmut2、MCPプロモーター領域、および、MCPターミネーター領域の向きは、PCR法により確認した。
このようにして作製したGFPuvまたはGFPmut2の発現カセットを、前述したpRSS1SのEcoRIサイトに導入した。なお、ライゲーションの方法については前述と同様である。GFPuvの発現カセットを導入すると、図3に示すように、ファージφRSSのゲノムの1〜1720番目の塩基配列、同ゲノムの5800〜6662番目の塩基配列、MCPプロモーター領域、GFPuv遺伝子、MCPターミネーター領域、および、カナマイシン耐性カセットを有するpRSS1S−GFPuvとなる。一方、GFPmut2の発現カセットを導入すると、図4に示すように、ファージφRSSのゲノムの1〜1720番目の塩基配列、同ゲノムの5800〜6662番目の塩基配列、MCPプロモーター領域、GFPmut2遺伝子、MCPターミネーター領域、および、カナマイシン耐性カセットを有するpRSS1S−GFPmut2となる。
得られたpRSS1S−GFPuvまたはpRSS1S−GFPmut2に係る青枯病菌への導入については、Gene Pulser Xcell(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)を用い、メーカーの使用説明書の記載にしたがって、2.5kVで2mmキュベットで、青枯病菌MAFF106611株にエレクトロポーレーション法により導入した。得られた形質転換体を、15μg/mLのカナマイシンを含有するCPG培地で選択した。
(実施例2)
以下、pRSS12とpRSS1S−GFPuvとを用いて形質転換した青枯病菌における、蛍光発光の定量比較に係る実施例について説明する。
参考例1および実施例1に記載したように、調製したpRSS12およびpRSS1S−GFPuvを青枯病菌MAFF106611株にエレクトロポーレーション法により導入した。次に、各プラスミドを含む菌株を、対数増殖期までCPG培地で培養し、遠心後蒸留水に懸濁した。菌の濃度はOD600=0.5(1.5×108cells/ml)になるように調整した。懸濁液の希釈系列を作成し、マルチプレートリーダー(Infinit M200,Tecan)を用いて菌の懸濁液の蛍光強度を測定した。測定には200μlの懸濁液を用い、485nmの青色光で励起し、518nmの緑色蛍光を測定・定量した。
図5は、pRSS12とpRSS1S−GFPuvとの蛍光強度の定量比較データである。すなわち、図5には、各細胞濃度(cell/ml)における、pRSS12またはpRSS1S−GFPuvを含む菌の懸濁液の蛍光強度(相対値)が示されている。なお、pRSS12を用いて形質転換を行った青枯病菌の細胞濃度1.5×108cells/mlの懸濁液の蛍光強度を1とした。図5に示すように、pRSS1S−GFPuvを用いて形質転換を行った青枯病菌の細胞濃度1.5×108cells/mlの懸濁液は、pRSS12と比較して約1.6倍程度に蛍光強度が増強されている。
図1および図3に示すように、pRSS12とpRSS1S−GFPuvとは、MCPプロモーターおよびMCPターミネーターが組み込まれているか否かという点で異なる。pRSS12ではGFP遺伝子の発現に大腸菌由来のlacプロモーターを使用している。また、いずれのプラスミドでも蛍光標識として用いられている遺伝子はGFPuvである。以上の結果から、青枯病菌を蛍光標識する場合、ファージφRSB2のMCPプロモーターおよびMCPターミネーターを用いることで、蛍光強度の増強に有効であることがわかった。すなわち、該プロモーターおよびターミネーター配列を組み込んだプラスミドを用いることで、青枯病菌の検出・植物内でのモニタリングをより明瞭かつ簡便に観察できることがわかった。
(実施例3)
以下、pRSS1S−GFPuvとpRSS1S−GFPmut2とを用いて形質転換した青枯病菌における、蛍光発光の定量比較に係る実施例について説明する。
実施例1に記載したように、調製したpRSS1S−GFPuvおよびpRSS1S−GFPmut2を青枯病菌MAFF106611株にエレクトロポーレーション法により導入した。次に、実施例2と同様に、各プラスミドを含む菌株を、対数増殖期までCPG培地で培養し、遠心後蒸留水に懸濁した。菌の濃度はOD600=0.5(1.5×108cells/ml)になるように調整した。懸濁液の希釈系列を作成し、マルチプレートリーダーを用いて菌の懸濁液の蛍光強度を測定した。測定には200μlの懸濁液を用い、485nmの青色光で励起し、518nmの緑色蛍光を測定・定量した。
図6は、pRSS1S−GFPuvとpRSS1S−GFPmut2との蛍光強度の定量比較データである。すなわち、図6には、各細胞濃度(cell/ml)における、ppRSS1S−GFPuvまたはpRSS1S−GFPmut2を含む菌の懸濁液の蛍光強度(相対値)が示されている。なお、pRSS1S−GFPuvを用いて形質転換を行った青枯病菌の細胞濃度1.5×108cells/mlの懸濁液の蛍光強度を1とした。図6に示すように、pRSS1S−GFPmut2を用いて形質転換を行った青枯病菌の細胞濃度1.5×108cells/mlの懸濁液は、pRSS1S−GFPuvと比較して10倍以上に蛍光強度が増強されている。
図3および図4に示すように、pRSS1S−GFPuvとpRSS1S−GFPmut2とは、蛍光標識として用いられている遺伝子がGFPuvであるかGFPmut2であるかの点で異なる。MCPプロモーターおよびMCPターミネーターについてはいずれも組み込まれている。以上の結果から、青枯病菌を蛍光標識によって標識化する場合、GFPmut2を用いると、蛍光強度をさらに増強することができた。
(参考例2)
以下、pRSS12を用いて形質転換した青枯病菌をトマトの茎に接種し、植物の横断切片によって青枯病菌をモニタリングする場合に係る参考例について説明する。
参考例1に記載した方法で、pRSS12を調製後、青枯病菌MAFF106611株を形質転換した。得られた青枯病菌の形質転換菌を、播種後4週間土壌で栽培し4〜6枚の葉を付けたトマト(品種:大型福寿、タキイ種苗株式会社)の苗木の茎に接種させ、青枯病菌のモニタリングを行った。なお、接種に使ったトマトの苗木は、ピートモスおよびバーミキュライトを含有する土壌において25±3度で播種した。菌の接種は、青枯病菌培養液を塗布した針で、茎を穿孔して行った(堀田光生・土屋健一、微生物遺伝資源マニュアル(12)−青枯病菌 Ralstonia solanacearum−、農業生物資源研究所(2002)、17〜21頁参照)。なお、該青枯病菌培養液は、CPG培地で培養し、菌の濃度が1.0×108cells/mlになるよう蒸留水で希釈した。
接種後、120時間後に茎の横断切片を作製し、蛍光実体顕微鏡で観察した。図7は、本参考例2に係るpRSS12を用いて形質転換した青枯病菌を感染させた茎の横断切片の蛍光実体顕微鏡による図面に代わる写真である。茎の横断切片は、カミソリにより穿孔箇所(injection point)から10mmの間隔で、作製した。図7のAは、感染箇所より20mm上方の切片である。図7のBは、 感染箇所より10mm上方の切片である。図7のCは、感染箇所(穿孔箇所、injection point)の切片である。図7のDは、 感染箇所より10mm上方の切片である。図7のEは、感染箇所より20mm下方の切片である。図7のFは、青枯病菌を接種していないコントロールの切片である。図7においては、青枯病菌由来の蛍光(GFPuv)が緑色に検出される。一方、植物の葉緑体に由来する自家蛍光は、赤色に検出される。なお、図中のスケールは1mmである。
本実施例に係る観察期間における、青枯病菌の移動距離および移動速度は、感染箇所と最も遠い蛍光(GFPuv)が観察される切片との距離から決定される。また、図7に示すように、感染箇所から上方に20mm離れた切片では蛍光(GFPuv)が観察されるが、感染箇所から下方に20mm離れた切片では蛍光(GFPuv)が観察されていない。
図7のA乃至Eに示すように、青枯病菌がトマトの茎を移動する際に、上方への移動速度は下方への移動速度よりも速いことがわかった。詳細には、上方への移動速度は0.4から0.8mm/hであり、下方への移動速度は0.1から0.2mm/hであることがわかった。このように、pRSS12を用いて形質転換した青枯病菌を植物の茎に接種し(感染させ)、植物の茎の切片の蛍光(GFPuv)を観察することによって、青枯病菌の検出、移動、追跡または増殖等の観察(すなわちモニタリング)を行えることがわかった。なお、本参考例2ではpRSS12を用いて形質転換した青枯病菌を使用しているが、同様の方法でpRSS1S−GFPuvおよびpRSS1S−GFPmut2でもこのようなモニタリングが行えることが示唆される。特に、実施例2および3の結果を考慮すると、pRSS1S−GFPuvやpRSS1S−GFPmut2、好ましくはpRSS1S−GFPmut2を用いると、より明瞭かつ簡便にモニタリングが行えることが示唆される。
(参考例3)
参考例2において述べた、感染箇所から上方と下方との青枯病菌の移動速度の違いは、木部導管を通る水の移動が影響していると考えられる。そこで、本発明者らは、さらなる青枯病菌のモニタリングに関する実験を行った。以下、pRSS12を用いて形質転換した青枯病菌をトマトの茎に接種し、植物の横断切片によって青枯病菌をモニタリングする場合に係るさらに詳細な参考例について説明する。
参考例1に記載した方法で、pRSS12を調製後、青枯病菌MAFF106611株を形質転換した。得られた青枯病菌の形質転換菌を、播種後4週間の土壌で栽培したトマト(品種:大型福寿、タキイ種苗株式会社)の茎に穿孔法により接種させ(堀田光生・土屋健一、微生物遺伝資源マニュアル(12)−青枯病菌 Ralstonia solanacearum−、農業生物資源研究所(2002)、17〜21頁参照)、4〜6日後に横断切片を作製し青枯病菌のモニタリングを行った。図8は、本参考例3に係るpRSS12を用いて形質転換した青枯病菌を感染させた茎の横断切片の蛍光実体顕微鏡による図面に代わる写真である。以下に述べる色彩については物件提出書の写真を参照されたい。
図8のAは、本参考例3に係る感染実験の模式図を示す。図8のAにおいて、黄色の線はトマトの茎における維管束を模式的に示す。矢印は、穿孔法により青枯病菌をトマトの茎の維管束に感染させた位置を示す。図8のBまたはDは、Aの破線BまたはDに示す葉柄の分岐点の下部の茎の横断切片の蛍光実体顕微鏡による写真である。図8のCは、Aの破線Cに示す葉柄の分岐点における茎の横断切片の蛍光実体顕微鏡による写真である。図8のEは、Aの破線Eに示す葉柄の分岐点における茎の横断切片の蛍光実体顕微鏡による写真である。なお、図中のスケールは1mmである。
図8のB乃至Eに示すように、青枯病菌が感染した維管束が緑色蛍光として観察される(矢頭に示す)。植物の葉緑体に由来する自家蛍光は、赤色に検出される。図8のCに示すように、青枯病菌が感染した維管束が葉柄に接続している場合葉柄でも感染が観察された。また、葉柄に接続する以外の維管束では、蛍光(GFPuv)は観察されない。一方、図8のEに示すように、蛍光(GFPuv)は葉柄に接続している維管束に感染させないと葉柄での感染は観察されない。
以上の結果から、植物体内での青枯病菌の移動は、主に維管束に沿って縦方向に行われることがわかった。また、維管束間での移動は限定されていること、すなわち、植物の茎を構成する複数の維管束間での青枯病菌の移動は短期間では行われないことが確認された。例えば、図8のCに示すように、青枯病菌が感染した維管束が葉柄に進入する場合には、他の維管束では青枯病菌は観察されない。
このような本参考例3の実験結果により、参考例2で述べたような植物の茎の切片での蛍光(GFPuv)の観察のみではなく、植物体内での維管束の連続性を検討・考慮することにより、植物の茎、葉および根等様々な部位の横断切片を観察することで、さらに詳細に青枯病菌の検出、移動、追跡または増殖等の観察(すなわちモニタリング)を行うことができることが示唆された。なお、本参考例3ではpRSS12を用いて形質転換した青枯病菌を使用しているが、同様の方法でpRSS1S−GFPuvおよびpRSS1S−GFPmut2でもこのようなモニタリングが行えることが示唆される。特に、実施例2および3の結果を考慮すると、pRSS1S−GFPuvやpRSS1S−GFPmut2、好ましくはpRSS1S−GFPmut2を用いると、より明瞭かつ簡便にモニタリングが行えることが示唆される。
(実施例4)
以下、pRSS12を用いて形質転換した青枯病菌を寒天培地表面で発芽させたトマトに感染させた場合に係る実施例について説明する。
トマト(品種:大型福寿、タキイ種苗株式会社)種子を表面滅菌し、角形シャーレ中の寒天培地表面で発芽させ、無菌的に培養した。寒天培地の成分は、0.15w/v%ハイポネックスパウダー(株式会社ハイポネックスジャパン)、0.5w/v%スクロースおよび1.5w/v%アガーを含み、pH5.8に調節をした。培養中の角形シャーレは、28度の温室中で、16時間の明期および8時間の暗期の明暗周期において、7〜21日間人工気象器(サンヨー製)栽培した。栽培中は寒天培地を45度に傾けて培養し、トマトの根が寒天培地に沿って、真っすぐに伸長するように栽培した。
実施例1に記載した方法で、pRSS12を調製後、青枯病菌MAFF106611株を形質転換した。得られた青枯病菌の形質転換菌を、寒天培地表面の播種後7日のトマトに感染させた。感染方法には、トマトの芽生えの根端を切断し、形質転換した青枯病菌の培養液(2μl、1×108cell/ml)をかけることで、青枯病菌を感染させる方法を新しく開発した。この方法で青枯病菌を感染させ、蛍光実体顕微鏡で観察を行った。
図9は、実施例4に係るpRSS12を用いて形質転換した青枯病菌を、トマトに感染させ、寒天培地表面で培養した様子を示す図面に代わる写真である。図9のAは、 播種後7日経過した感染前のトマトの芽生えの写真である。以下に述べる図9のB乃至Fの蛍光実体顕微鏡による写真では、青枯病菌由来の蛍光が緑色に検出され、植物の葉緑体に由来する自家蛍光は赤色に検出される。
図9のBは、 感染後12時間後の根の蛍光実体顕微鏡による写真である。青枯病菌の増殖が緑色の蛍光(GFPuv)として観察される。図9のCは、感染後24時間後の根と胚軸の境界の蛍光実体顕微鏡による写真である。図9のDは、感染後48時間後の胚軸の蛍光実体顕微鏡による写真である。青枯病菌が胚軸まで侵入している様子がわかる。図9のEは、感染後48時間後の側根の蛍光実体顕微鏡による写真である。青枯病菌が側根へも侵入を開始していることがわかる。図9のFは、pRSS12を含まない青枯病菌を感染させた芽生えの根と胚軸の蛍光実体顕微鏡による写真であり、コントロールである。GFPuvによる緑色蛍光は観察されない。なお、図9中のスケールは、Aは2cmであり、 B乃至Fは2mmである。
以上の結果から、このような方法で寒天培地を用いて栽培した植物に、pRSS12によって形質転換した青枯病菌を感染させることによって、青枯病菌の検出、移動、追跡または増殖等の観察(すなわちモニタリング)を、経時的により簡便に行うことができる。すなわち、前述した参考例で示したような茎の切片を作製する必要はなく、観察の度に植物を切断する必要がない。また、寒天培地の中に根が侵入しないために蛍光実体顕微鏡による観察の解像度を向上でき、さらに、寒天培地表面の栽培であるため短期間で観察を行うことができる。なお、本実施例4ではpRSS12を用いて形質転換した青枯病菌を使用しているが、同様の方法でpRSS1S−GFPuvやpRSS1S−GFPmut2でもこのようなモニタリングが行えることが示唆される。特に、実施例2および実施例3の結果を考慮すると、より明瞭かつ簡便なモニタリングが行えることが示唆される。なお、pRSS1S−GFPmut2に係る同様の実施例は、以下の実施例5に示す。
(実施例5)
以下、pRSS1S−GFPmut2を用いて形質転換した青枯病菌をトマトに感染させ、寒天培地表面で培養した場合に係る実施例について説明する。
実施例1に記載した方法で、pRSS1S−GFPmut2を調製後、青枯病菌MAFF106611株を形質転換した。得られた青枯病菌の形質転換菌を、寒天培地表面の播種後7日のトマトに感染させた。なお、寒天培地の成分、トマトの栽培方法および青枯病菌の感染方法など詳細については実施例4と同様である。
図10は、実施例5に係るpRSS1S−GFPmut2を用いて形質転換した青枯病菌をトマトに感染させ、寒天培地表面で培養し、実体顕微鏡によって明視野で観察した様子を示す図面に代わる写真である。図11は、実施例5に係るpRSS1S−GFPmut2を用いて形質転換した青枯病菌をトマトに感染させ、寒天培地表面で培養し、蛍光実体顕微鏡によって観察した様子を示す図面に代わる写真である。図10および図11中のスケールはAは3mmである。図11においては、青枯病菌由来の蛍光が緑色に検出され、植物の葉緑体に由来する自家蛍光は赤色に検出される。
本実施例5では、感染後12時間後、18時間後、24時間後および48時間後において、青枯病菌の経時的なモニタリングを行った。実施例4において述べたpRSS12の場合と同様、図11に示すように、感染後12時間後には青枯病菌の根への増殖が観察された。感染後18,24時間後には、側根への侵入も観測され、かつ、GFPmut2による蛍光標識はより強く表れている。感染後48時間後には、胚軸および茎にも蛍光標識はより強く表れている。
以上の結果から、実施例4と同様、このような方法で寒天培地を用いて栽培した植物に、pRSS1S−GFPmut2によって形質転換した青枯病菌を感染させることによって、青枯病菌の検出、移動、追跡または増殖等の観察(すなわちモニタリング)を、経時的により簡便に行うことができることが判る。すなわち、前述した参考例で示したような茎の切片を作製する必要はなく、観察の度に植物を切断する必要がない。また、寒天培地の中に根が侵入しないために蛍光実体顕微鏡による観察の解像度を向上でき、さらに、寒天培地表面の栽培であるため短期間で観察を行うことができる。
また、図9のEに示す感染後48時間後の側根と、図11に示す感染後48時間後の側根とを比較すると、感染条件および培養条件等は同様であるのに図11に示すpRSS1S−GFPmut2を用いて形質転換した場合の方がより強い蛍光強度を得ている。すなわち、pRSS12を用いる場合よりも、より簡便かつ明瞭に青枯病菌をモニタリングすることができることがわかった。これは、実施例3に係る結果と一致している。
(実施例6)
以下、pRSS12によって形質転換した青枯病菌を用いた、寒天培地表面で栽培したトマトの品種別による青枯病菌への感受性または耐性の評価に係る実施例について説明する。
参考例1に記載した方法で、pRSS12を調製後、青枯病菌MAFF106611株を形質転換した。得られた青枯病菌の形質転換菌を、寒天培地表面の播種後1または3週間のトマトに感染させた。なお、寒天培地の成分、トマトの栽培方法および青枯病菌の感染方法など詳細については実施例4と同様である。トマトには、ポンデローザ、大型福寿およびB−バリアー(いずれもタキイ種苗株式会社)の品種を用いた。このうち、ポンデローザおよび大型福寿は青枯病菌に感受性を有する品種であり、B−バリアーは青枯病菌に耐性を有する品種である。
図12は、実施例6に係るpRSS12を用いて形質転換した青枯病菌をトマトに感染させ寒天培地表面で培養した様子を示す蛍光実体顕微鏡による図面に代わる写真である。青枯病菌由来の蛍光(GFPuv)は緑色に検出され、植物の葉緑体に由来する自家蛍光は赤色に検出される。
図12のAは、播種後1週間のポンデローザ(感受性品種)に感染させた場合の、感染後96時間経過後の芽生えの様子を示す。既に、葉脈への侵入が観察された。図12のBは、播種後1週間のポンデローザに感染させた場合の感染後96時間経過後の根端の様子を示す。側根の根端より、青枯病菌が漏出している様子が観察された。なお、写真には示していないが、播種後1週間に青枯病菌を感染させた場合には、いずれの品種においても根端、側根および胚軸に蛍光(GFPuv)で確認された。
図12のCは、播種後3週間のポンデローザに感染させ、120時間経過した後の根の様子を示す。青枯病菌の増殖が緑色の蛍光(GFPuv)で確認され、側根への侵入も生じていた。図12のDは、播種後3週間のポンデローザに青枯病菌を感染させ、120時間経過した後の胚軸の様子を示す。青枯病菌の増殖が緑色の蛍光(GFPuv)で確認された。図12のEは、播種後3週間のB−バリアー(耐性品種)に青枯病菌を感染させ、120時間経過した後の根の様子を示す。主根での青枯病菌の増殖が蛍光(GFPuv)で確認された。側根への侵入は生じていなかった。図12のFは、 播種後3週間のB−バリアーに青枯病菌を感染させ、120時間経過した後の胚軸の様子を示す。胚軸では蛍光(GFPuv)は、ほとんど観察されなかった。なお、写真中のスケールは、2mmである。
以上の結果から、播種後1週間の植物に感染させた場合には青枯病菌への感受性または耐性が判断できず、播種後3週間の植物に感染させた場合には青枯病菌への感受性または耐性によって菌の侵入割合が異なることがわかった。播種後3週間で感染させた場合、感受性品種では、葉脈を含む植物体の全般で青枯病菌由来の緑色蛍光が観察され、また品種によっては側根の根端から青枯病菌の漏出が観察されることがわかった。一方、耐性の品種では、菌の増殖は主に主根に限定され、側根への侵入は観察されなかった。そこで、青枯病菌への感受性または耐性による菌の侵入割合について詳細に調べるため、青枯病菌の側根への侵入についてのさらなる実験を行った。
図12の場合と同様、まず、3週間寒天培地表面で栽培したトマト(ポンデローザ、大型福寿およびB−バリアー)の芽生えの根端に青枯病菌を接種した。その後、各品種での側根への青枯病菌の侵入を経時的に観察しモニタリングを行った。図13は、実施例6に係るトマト品種別による青枯病菌の侵入割合を示す表である。それぞれの品種において、青枯病菌の接種後(Time after infection)72時間後、90時間後および108時間後において観察を行った。なお、ポンデローザ(Ponderosa)は12個、大型福寿(Oogata-fukujyu)は16個、B−バリアー(B-barrier)は14個の側根を用いて観察を行った。
その結果、図13に示すように、感染後72時間では、青枯病菌に感受性の品種であるポンデローザおよび大型福寿では側根への菌の侵入が高い割合で観察された。一方、青枯病菌に耐性の品種であるB−バリアーでは、菌の侵入の割合は低かった。感染後90時間および感染後108時間でも同様の結果が観察された。
本実施例6に係る結果から、青枯病菌の検出、移動、追跡または増殖等の観察(すなわちモニタリング)を行い、そのモニタリング結果を指標として、植物品種による青枯病菌に対する感受性または耐性を評価できることが示唆された。具体的には、感染後72時間程度での、側根への青枯病菌の侵入割合を調べることで、青枯病菌に対する感受性または耐性を調べることができることがわかった。なお、本実施例6ではpRSS12を用いて形質転換した青枯病菌を使用しているが、同様の方法でpRSS1S−GFPuvおよびpRSS1S−GFPmut2でもこのようなモニタリングを利用した評価方法が行えることが示唆される。特に、実施例2および3の結果を考慮すると、pRSS1S−GFPmut2を用いると、より明瞭かつ簡便に、しかも従来行われていた方法よりも短時間でモニタリングが行えるため感受性または耐性の評価を容易に行えることが示唆される。
さらに言えば、上述の結果は、本発明の形質転換された青枯病菌を含む「植物に感染する病原菌に標識物質をコードする遺伝子を含む外来遺伝子を導入して標識物質を産生する性質を有するものとした当該病原菌」を用いれば、上述した青枯病菌に係るモニタリング方法ならびにこれを応用した評価方法およびスクリーニング方法に準じて各種病原菌についてのモニタリング方法ならびにこれを応用した評価方法およびスクリーニング方法を実施し得ることを示している。