JP5527134B2 - 積層体鉄心の振動モデル決定方法 - Google Patents

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本発明は、電磁鋼板を積層した積層体鉄心(積層構造の鉄心)の振動モデルの決定方法に関する。
電磁鋼板は積層されて、変圧器の鉄心(積層体鉄心)として用いられるが、励磁すると磁歪や磁力の作用によって振動が生じ、騒音源となる。騒音の小さい変圧器(積層体鉄心)を製造する場合、一般に磁歪の小さい電磁鋼板を鉄心材料として使用する。しかし、磁歪の小さい電磁鋼板を使用しているにもかかわらず、変圧器の騒音が要求仕様を満たせない場合がある。
その原因の多くは、変圧器鉄心(積層体鉄心)の固有振動と電磁鋼板の磁歪振動の共振現象である。このため、変圧器鉄心(積層体鉄心)の固有振動数に着目して変圧器を設計する方法が検討されてきた。
もし、励磁周波数のN次高調波と固有振動が共振する場合には、共振を回避するように積層体鉄心の剛性に関するパラメータを変更することになる。すなわち、積層体鉄心の固定条件を調整あるいは再設計、あるいは積層枚数を変更する。
なお、積層体鉄心の固有振動数を測定する方法については、例えば特許文献1に記載されている。励磁周波数を段階的に変化させて、その際に積層体鉄心が発生する騒音を測定することで、積層体鉄心の固有振動数を知るものである。
特開2008−82778号公報
しかしながら、電磁鋼板を積層した積層体鉄心は複雑な構造物であり、騒音の対象となりうる50〜20000Hzの周波数帯域に無数の固有振動数を有する。一般に、複数の固有振動数を有する構造物の特定の固有振動数のみを変化させることは困難であり、剛性を変化させると固有振動数全体がシフトする。このため、上記のように剛性を変化させる方法では、ある固有振動数とN次高調波との共振を回避させても、別の固有振動数がN次高調波あるいはM次高調波とあらたに共振する可能性が極めて高い。そして、そもそも現実の変圧器の設計では、積層体鉄心の固有振動以外の仕様もあるため、このような設計を実施することは困難である。
さらに、変圧器においては積層体鉄心の質量が占める割合が支配的であり、積層体鉄心の振動周波数スペクトルと変圧器の外殻構造すなわちタンクの振動周波数スペクトルがほぼ一致するケースが多い。すなわち、積層体鉄心による強制振動が多い。強制振動成分が支配的であって、共振振動成分が相対的に小さいと、固有振動数の変化による共振回避の効果は小さい。
以上述べたように、変圧器の低騒音化・低振動化のためには積層体鉄心そのものの振動を低減する必要がある。
積層体鉄心の振動を低減するためには、電磁鋼板単板の磁歪が小さくなれば良い。このため、単板の磁歪が小さくなるような電磁鋼板の開発が電磁鋼板メーカー各社で研究開発が進められてきた。近年、極めて磁歪特性の優れた低磁歪の電磁鋼板が市販されており、この技術開発の方向性は一定の成果をあげている。
ところで、人間の耳の感度には周波数特性があると言われており、騒音はその周波数によって人間が感じる不快感は異なる。このため変圧器騒音の問題に取り組む際には周波数スペクトル特性を無視することはできない。
先に述べたように、積層体鉄心の励磁振動周波数スペクトル特性が変圧器の騒音周波数スペクトル特性に一致することは多い。一方、電磁鋼板単板の磁歪振動周波数スペクトル特性が積層体鉄心の励磁振動周波数スペクトル特性に一致することは殆ど無い。このメカニズムを考察すると、積層体鉄心は電磁鋼板単板を積層して構成するため、各層間の摩擦や単板端部同士の接触といった機械的に非線形な振動現象が生じていると考えられる。さらに、磁歪方向は面内方向であるが、複数の電磁鋼板が積層され締結されることで、結果として面外方向の振動現象が生じることも多い。このように電磁鋼板単板では一方向の磁歪現象であるが、積層体鉄心に組み上げられると極めて複雑な振動現象となっている。
よって、低磁歪の電磁鋼板を開発したとしても、積層体鉄心に組み上げて励磁させると単板での磁歪の周波数特性とは全く無関係な傾向を示す。ある特定の周波数で騒音が大きくなり、騒音オーバーオール値としては悪化する。このような現象のため、単純に磁歪が小さい電磁鋼板を開発するだけでは騒音が小さくならず、電磁鋼板の開発を難しくしている。
そこで、新型の電磁鋼板が開発された場合には、それを用いて積層体鉄心を組み上げ、振動・騒音測定を実施してみて初めて評価される。
すなわち、積層体鉄心の励磁振動周波数スペクトルと電磁鋼板の磁歪振動周波数スペクトルとの相関が不明確なため、電磁鋼板の周波数特性(磁歪振動周波数スペクトル特性)をどのようにすれば積層体鉄心では理想的なのかの指針が無く、試行錯誤的な実験の繰り返しとなってしまう。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、電磁鋼板単板の磁歪振動周波数スペクトル特性から積層体鉄心の励磁振動周波数スペクトル特性を予測するための積層体鉄心の振動モデル決定方法を提供することを目的とするものである。
前記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
[1]電磁鋼板を積層した積層体鉄心を励磁した時の振動特性を予測する振動モデルを決定する方法であって、積層体鉄心を周波数2f×kの正弦波(f:積層体鉄心励磁周波数、k:整数=1、2、3、・・・)別に機械加振し、その加振周波数2f×k別に2f×m(m=k、2k、3k、・・・)の周波数で積層体鉄心振動の周波数応答を測定するとともに、積層体鉄心を構成している電磁鋼板を単板で周波数fで励磁した時に周波数2f×kの間隔で発生する磁歪振動スペクトルを予め測定して周波数2f×k毎の磁歪振動強度に基づく重みデータ列を得ておき、前記積層体鉄心振動の周波数応答データと前記重みデータ列を用いて、加振周波数2f×k別の周波数応答データの成分同士の重み付き線形和を計算し、この重み付き線形和をもって積層体鉄心を励磁した時の振動スペクトル予測モデルとすることを特徴とする積層体鉄心の振動モデル決定方法。
[2]前記2f×m(m=k、2k、3k、・・・)の周波数に代えて、2f×m(m=2k、3k、・・・)の周波数で積層体鉄心振動の周波数応答を測定することを特徴とする前記[1]に記載の積層体鉄心の振動モデル決定方法。
[3]前記積層体鉄心励磁周波数fは50Hzまたは60Hzであることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の積層体鉄心の振動モデル決定方法。
[4]2f×k≦24000Hzであることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の積層体鉄心の振動モデル決定方法。
[5]積層体鉄心はUVWの3相形状であって、機械加振を行う際の加振点はV脚とヨークの境界であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の積層体鉄心の振動モデル決定方法。
本発明においては、電磁鋼板単板の磁歪振動周波数スペクトル特性から積層体鉄心の励磁振動周波数スペクトル特性を予測するための積層体鉄心の振動モデルを決定することができる。
そして、本発明によって決定された積層体鉄心の振動モデルでは、予め有している積層体鉄心の励磁振動周波数特性を用い、その積層体鉄心を構成する電磁鋼板単板の磁歪振動周波数特性(ここでは、周波数2f×k毎の磁歪振動強度に基づく重みデータ列)をパラメータとして、積層体鉄心の周波数特性(励磁振動周波数スペクトル特性)を予測することが可能になる。最初に積層体鉄心の機械加振による振動周波数特性をデータベースとして有しておき、新しく開発した電磁鋼板の磁歪振動周波数特性パラメータ(周波数2f×k毎の磁歪振動強度に基づく重みデータ列)を入力として入れれば、積層体鉄心の励磁振動周波数スペクトルを得ることができる。新開発の電磁鋼板による積層体鉄心を組む必要がないため、開発スピードが格段に早くなり、開発経費も低廉化できる。
本発明の一実施形態における基本的な考え方を示す図である。 本発明の一実施形態において機械加振による積層体鉄心振動の周波数応答を測定している状態を示す図である。 本発明の一実施形態において用いる積層体鉄心を示す図である。 本発明の一実施形態における重みデータ列を示す図である。 本発明の一実施形態における積層体鉄心の励磁時の振動スペクトル予測モデルによる計算結果と、実際の積層体鉄心の励磁時の振動スペクトルの測定結果とを比較した図である。 本発明の一実施形態における積層体鉄心の励磁時の振動スペクトル予測モデルによる計算結果と、実際の積層体鉄心の励磁時の振動スペクトルの測定結果とを比較した図である。 本発明の実施例1おいて用いた積層体鉄心を示す図である。
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、図1は、本発明の一実施形態における基本的な考え方を示す図である。
図1に示すように、この実施形態においては、電磁鋼板を積層した積層体鉄心を励磁した時の振動特性を予測する振動モデルを決定するに際して、積層体鉄心を構成している電磁鋼板を単板状態で周波数f(ここでは50Hz)で励磁した時に周波数2f×k(k:整数=1、2、3、・・・)の間隔で発生する振動スペクトル(磁歪振動周波数スペクトル)に対応させて、積層体鉄心を周波数2f×kの正弦波別に単一周波数で機械加振し、その加振周波数2f×k別に2f×m(m=k、2k、3k、・・・)の周波数(測定周波数1)で積層体鉄心振動の周波数応答を測定するとともに、上記の単板状態の電磁鋼板に発生する磁歪振動周波数スペクトルを予め測定して周波数2f×k毎の磁歪振動強度に基づく重みデータ列Wk(k:整数=1、2、3、・・・)を得ておき、前記積層体鉄心振動の加振周波数2f×k別の周波数応答データの成分に、対応する前記周波数2f×k毎の重みWkを乗じてから、加振周波数2f×k別に周波数応答データの成分を足し合わせることによって、加振周波数2f×k別の周波数応答データの成分同士の重み付き線形和を計算し、この重み付き線形和をもって積層体鉄心を励磁した時の振動スペクトル予測モデルとしている。
次に、本発明の一実施形態を具体的に説明する。
図2は、本発明の一実施形態おいて機械加振による積層体鉄心振動の周波数応答を測定している状態を示す図である。
図2に示すように、ベークライト12を介してばね13によって締結力を設定した積層体鉄心(小型モデル)11に対して、信号発生器21によって生成された周波数2f×kの正弦波(f:50Hz、k:整数=1、2、3、・・・)別に単一周波数で機械的加振力で加振する。なお、加振力はロードセル23によって測定する。なお、周波数2f×kは、人間の可聴上限である24000Hz以下としている。
そして、振動センサ24によって変位、速度、加速度を測定し、時系列波形を得る。得られた時系列波形を周波数解析装置25で周波数解析し、単一周波数2f×kに対する周波数応答(応答スペクトル:変位スペクトル、速度スペクトル、加速度スペクトル)を測定し記録する。応答スペクトルの範囲は2000Hzまでとしている。そして、この応答スペクトルは2f×m(m=k、2k、3k、・・・)の周波数(測定周波数1)となっている。
なお、ここで用いる積層体鉄心(小型モデル)11は、図3に示すように、UVWの3相形状である。そして、機械加振を行う際の加振点はV脚とヨークの境界であり、振動を測定する応答点(振動センサの設置箇所)は第1応答点、第2応答点、第3応答点の3箇所である。この3箇所の平均値または3箇所のいずれかを代表点位置としてその代表位置での値を採用する。
そして、この周波数2f×k別の応答スペクトルデータの周波数成分同士の線形和を計算するが、その際に各周波数2f×kに対応する重みWkを付けて計算する。この計算結果が、この実施形態における積層体鉄心励磁時の振動スペクトル予測モデルによる計算結果ということになる。
ここで、この各周波数2f×kに対応する重みWkについては、積層体鉄心11を構成している電磁鋼板の単板状態での磁歪振動周波数特性が予め測定されており、この磁歪振動周波数特性における各周波数2f×kの磁歪振動強度から、図4に示すような各周波数2f×k(100Hz、200Hz、・・・)に対応する重みWkが得られている。なお、図4における重みWkは、2000Hzまでのオーバーオール値を1として正規化された値となっている。
このようにして計算した、この実施形態における積層体鉄心励磁時の振動スペクトル予測モデルによる振動速度スペクトルの計算結果(モデル計算結果)を図5に示す。なお、比較のために、実際に積層体鉄心を励磁した時の振動速度スペクトルの実測結果(励磁測定結果)も記載している。
この実施形態におけるモデル計算結果によると、基本周波数(2×50Hz×1=100Hz)に近い低周波域では実測結果と合致しないが、300Hz以上の高周波域では実測結果と良く合致する。
次に、周波数2f×k別の応答スペクトルデータの周波数成分同士の重み付き線形和を計算するに際して、2f×m(m=k、2k、3k、・・・)の周波数になっている応答スペクトルデータの内、加振周波数(2f×k)の成分は除いて、2f×m(m=2k、3k、・・・)の周波数(測定周波数2)の高調波成分のみ残して測定・記録し、その高調波成分を用いて重み付き線形和(振動速度スペクトル)を計算する。
それによる振動速度スペクトルの計算結果(モデル計算結果)を図6に示す。低周波域(200Hz)も実測結果と良く合致している。
なお、このモデル計算結果では、100Hzにおける振動速度が得られないが、100Hzは人間の可聴下限以下の周波数であるので、騒音の評価に関しては特に問題ない。
ちなみに、この実施形態では、交流周波数が50Hzである地域で使用することを前提にして、励磁周波数fを50Hzとしているが、交流周波数が60Hzである地域で使用する場合場合には、励磁周波数fを60Hzとすればよい。
なお、上述の加振周波数(2f×k)、応答測定周波数(2f×m)である測定周波数1、測定周波数2の関係を下記の表1に示す。
本発明の実施例1を述べる。
この実施例1において用いた積層体鉄心を図7に示す。板厚0.2mmの電磁鋼板を70枚積層して、図7に示す寸法の積層体鉄心を作成し、小型の三相変圧器のモデル機(モデルトランス)を製作した。その際に、電磁鋼板を積層後、0.5〜1.2kg/cm程度の面圧となるように積層体を締結した。積層体鉄心の重量は50kg程度である。加振機の加振力は、検討の結果15〜30N程度であれば十分であることがわかった。
この小型のモデルトランスを加振して、上述した本発明の一実施形態における振動モデルを用いて得られた振動スペクトル予測値が、大型機でも同傾向であることを数例調査して確認した。大型機はモデルトランスと同じ電磁鋼板を用いているが、総重量は30ton程度あり、変圧器の外観寸法は5m×5m×5m程度ある。標準的な使用時の騒音と振動のスペクトルを調査したところ、モデルトランスの周波数特性との対応が確認できた。
本発明により大型機を製作することなく、小型ラボモデル(モデルトランス)によって振動・騒音の性能を予測することができた。
11 積層体鉄心(モデル)
12 ベークライト
13 ばね
21 信号発生器
22 加振機
23 ロードセル
24 振動センサ
25 周波数解析装置

Claims (5)

  1. 電磁鋼板を積層した積層体鉄心を励磁した時の振動特性を予測する振動モデルを決定する方法であって、積層体鉄心を周波数2f×kの正弦波(f:積層体鉄心励磁周波数、k:整数=1、2、3、・・・)別に機械加振し、その加振周波数2f×k別に2f×m(m=k、2k、3k、・・・)の周波数で積層体鉄心振動の周波数応答を測定するとともに、積層体鉄心を構成している電磁鋼板を単板で周波数fで励磁した時に周波数2f×kの間隔で発生する磁歪スペクトルを予め測定して周波数2f×k毎の磁歪振動強度に基づく重みデータ列を得ておき、前記積層体鉄心振動の周波数応答データと前記重みデータ列を用いて、加振周波数2f×k別の周波数応答データの成分同士の重み付き線形和を計算し、この重み付き線形和をもって積層体鉄心を励磁した時の振動スペクトル予測モデルとすることを特徴とする積層体鉄心の振動モデル決定方法。
  2. 前記2f×m(m=k、2k、3k、・・・)の周波数に代えて、2f×m(m=2k、3k、・・・)の周波数で積層体鉄心振動の周波数応答を測定することを特徴とする請求項1に記載の積層体鉄心の振動モデル決定方法。
  3. 前記積層体鉄心励磁周波数fは50Hzまたは60Hzであることを特徴とする請求項1または2に記載の積層体鉄心の振動モデル決定方法。
  4. 2f×k≦24000Hzであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体鉄心の振動モデル決定方法。
  5. 積層体鉄心はUVWの3相形状であって、機械加振を行う際の加振点はV脚とヨークの境界であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層体鉄心の振動モデル決定方法。
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