以下、本発明の各実施形態について、図1〜図15を参照して説明する。本実施形態においては、本発明を、一辺が1mを越える大面積な基板Sに対して、アモルファス太陽電池や微結晶太陽電池等に用いられる非晶質シリコン、微結晶シリコン等の結晶質シリコン、窒化シリコン等からなる膜の製膜処理をプラズマCVD法によって行うことが可能な、リッジ型電極構造の製膜装置(真空処理装置)に適用した場合について説明する。
〔第1実施形態〕
まず、本発明の第1実施形態を図1〜図9に基づいて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る製膜装置1の概略構成を説明する模式的な斜視図であり、図2は特に製膜装置1の放電室付近における、より詳細かつ模式的な分解斜視図である。また、図3は図2のIII-III矢視断面による製膜装置1の縦断面図である。
この製膜装置1は、放電室2と、この放電室2の両端に隣接して配置された変換器3A,3Bと、これらの変換器3A,3Bに一端が接続される電源ラインとしての同軸ケーブル4A,4Bと、これらの同軸ケーブル4A,4Bの他端に接続される高周波電源5A,5B(電源手段)と、同軸ケーブル4A,4Bの中間部に接続された整合器6A,6Bおよびサーキュレータ7A,7Bと、放電室2に接続される排気手段9および材料ガス供給手段10と、均熱温調器11と、熱吸収温調ユニット12を主な構成要素として備えている。排気手段9としては、公知の真空ポンプ等を用いることができ、本発明において特に限定されるものではない。
図1〜図4において、製膜装置1は図示しない函状の真空容器に収納されるものである。この図示しない真空容器は、その内外の圧力差に耐え得る構造とされている。例えば、ステンレス鋼(JIS規格におけるSUS材)や、一般構造用圧延材(JIS規格におけるSS材)などから形成され、リブ材などで補強された構成を用いることができる。上記の真空容器の内部や、放電室2、変換器3Aおよび変換器3Bの内部は、排気手段9により真空状態とされる。この排気手段9は、本発明において特に限定されることはなく、たとえば公知の真空ポンプ、圧力調整弁と真空排気配管等を用いることができる。
放電室2は、アルミニウム合金材料等の、導電性を有し非磁性または弱磁性を有する材料から形成された容器状の部品であって、所謂ダブルリッジ型の導波管状に形成されたものである。図1〜図4に示すように、放電室2には、後述するE方向に重なる上下一対の放電用のリッジ電極21a(一方のリッジ電極)と、リッジ電極21b(他方のリッジ電極)が設けられている。これらの一対のリッジ電極21a,21bは、ダブルリッジ導波管である放電室2における主要部分となるリッジ形状を構成するものであり、互いに平行に対向配置された平板状の部分である。
リッジ電極21a,21bは、厚さ0.5mm以上3mm以下の、比較的薄い金属板で形成されている。リッジ電極21a,21bの材質としては、線膨張率が小さく、熱伝達率が高いことが望ましい。具体的にはSUS304等が好適であるが、線膨張率が大きい反面熱伝達率が格段に大きいアルミニウム系金属を用いてもよい。これらのリッジ電極21a,21bには複数の通気孔23a,23b(図3参照)が穿設されていて、ガスの通過が可能である。
なお、本実施形態では、放電室2が延びる方向をL方向(図1における左右方向)とし、リッジ電極21a,21bの面に直交してプラズマ放電時に電気線が延びる方向をE方向(図1における上下方向)とし、リッジ電極21a,21bに沿い、かつE方向と直交する方向をH方向(図1における紙面に対して直交する方向)とする。
図2に示すように、リッジ電極21a,21bの幅方向の寸法(H方向寸法)は、後述するリッジ導波管の特性により電界の均一性が得られるので、定在波による電界分布が生じ易い長さ方向の寸法(L方向寸法)の寸法よりも設定の自由度が大きい。このため、リッジ電極21a,21bの幅方向(H方向)のサイズを長さ方向(L方向)より大きくしてもよい。また、一方のリッジ電極21aから他方のリッジ電極21bまでの距離がリッジ対向電極間隔:d1(mm)と定められる。このリッジ対向電極間隔d1は、高周波電源5A,5Bの周波数、基板Sの大きさやプラズマ製膜処理の種類等に応じて、凡そ3〜30mm程度の範囲に設定される。そして、これら一対のリッジ電極21a,21bの両側に、一対の非リッジ部導波管22a,22bが設けられている。上下のリッジ電極21a,21bと、左右の非リッジ部導波管22a,22bによって、放電室2の縦断面形状が略「H」字形状に形成されている。
一方、図1に示すように、変換器3A,3Bは、放電室2(リッジ電極21a,21b)の長さ方向(L方向)に沿って放電室2の両端に隣接して配置されており、放電室2と同様に、アルミニウム合金材料等の導電性を有し非磁性または弱磁性を有する材料から形成された容器状の部品であって、放電室2と同じくダブルリッジ導波管状に形成されている。
変換器3A,3Bには、図1および図4に示すように、それぞれ上下一対の平板状のリッジ部31a,31bが設けられている。これらのリッジ部31a,31bは、ダブルリッジ導波管である変換器3A,3Bにおけるリッジ形状を構成するものであり、互いに平行に対向して配置されている。ここで、一方のリッジ部31aから他方のリッジ部31bまでの距離がリッジ対向間隔:d2(mm)と定められる(図1参照)。また、これら一対のリッジ部31a,31bの両側に、一対の非リッジ部導波管32a,32bが設けられている。上下のリッジ部31a,31bと、左右の非リッジ部導波管32a,32bによって、変換器3A,3Bの縦断面形状が放電室2と同じく略「H」字形状に形成されている。
変換器3A,3Bにおけるリッジ対向間隔d2は、高周波電源5A,5Bの周波数、基板Sの大きさやプラズマ製膜処理の種類等に応じて、凡そ50〜200mm程度の範囲に設定される。即ち、変換器3A,3Bにおけるリッジ部31a,31b間のリッジ対向間隔d2(凡そ50〜200mm)よりも、放電室2におけるリッジ電極21a,21b間のリッジ対向電極間隔d1(凡そ3〜30mm)の方が狭く設定されているため、リッジ部31a,31bとリッジ電極21a,21bとの境界部に数十〜百数十ミリのリッジ段差D(図1参照)が存在している。
ところで、同軸ケーブル4A,4Bは、外部導体41および内部導体42を有しており、外部導体41が変換器3A,3Bの例えば上側のリッジ部31aに電気的に接続され、内部導体42が上側のリッジ部31aと変換器3A,3Bの内部空間を貫通して下側のリッジ部31bに電気的に接続されている。同軸ケーブル4A,4Bは、それぞれ、高周波電源5A,5Bから供給された高周波電力を変換器3A,3Bに導くものである。なお、高周波電源5A,5Bとしては、公知のものを用いることができ、本発明において特に限定されるものではない。
変換器3A,3Bは、リッジ導波管の特性を利用して高周波電力の伝送モードを同軸伝送モードであるTEMモードから方形導波管の基本伝送モードであるTEモードに変換して放電室2に伝送する。変換器3A,3Bのリッジ部31a,31bと放電室2のリッジ電極21a,21bとの境界部にリッジ段差Dが存在しているため、リッジ電極21a,21bの間隔を狭く設定することで強い電界を発生し、リッジ電極21a,21bの間に材料ガスを導入することで材料ガスが電離されてプラズマが発生する。
本発明では、高周波電源5A,5Bは、周波数が13.56MHz以上、好ましくは30MHzから400MHz(VHF帯からUHF帯)である。これは、13.56MHzより、周波数が低いとダブルリッジ導波管(放電室2と変換器3A,3B)のサイズが基板サイズに対して大型化するために装置設置スペースが増加し、周波数が400MHzより高いと放電室2が延びる方向(L方向)に生じる定在波の影響が増大してプラズマの均一性が低下するためである。
さらに、導波管の特性により、このリッジ電極21a,21bの間ではリッジ電極に沿う方向(H方向)の電界強度分布がほぼ均一になる。リッジ導波管を用いることにより、このリッジ電極21a,21bの間ではプラズマを生成可能な程度の強い電界強度を得ることができる。なお、放電室2、変換器3Aおよび変換器3Bは、図1〜図4に示すようにダブルリッジ導波管により構成されていてもよいし、シングルリッジ導波管より構成されていてもよい。
その一方で、放電室2には、高周波電源5Aから供給された高周波電力と、高周波電源5Bから供給された高周波電力により、定在波が形成される。このとき、電源5Aおよび電源5Bから供給される高周波電力の位相が固定されていると、定在波の位置(位相)が固定され、リッジ電極21a,21bにおける放電室2が延びる方向であるL方向の電界強度の分布に偏りが生じる。そこで、高周波電源5Aおよび高周波電源5Bの少なくとも一方から供給される高周波電力の位相を調節することにより、放電室2に形成される定在波の位置の調節が行われる。これにより、リッジ電極21a,21bにおけるL方向の電界強度の分布が時間平均的に均一化される。
具体的には、定在波の位置が、時間の経過に伴いL方向に、sin波状や、三角波状や、階段(ステップ)状に移動するように高周波電源5Aおよび高周波電源5Bから供給される高周波電力の位相が調節される。定在波が移動する範囲や、定在波を移動させる方式(sin波状、三角波状、階段状等)や、位相調整の周期の適正化は、電力の分布や、プラズマからの発光の分布や、プラズマ密度の分布や、製膜された膜に係る特性の分布等に基づいて行われる。膜に係る特性としては、膜厚や、膜質や、太陽電池等の半導体としての特性などを挙げることができる。
このように、リッジ部を形成したリッジ導波管の特性と、高周波電源5A,Bから供給された高周波電力の位相変調により、基板Sに対してH方向とL方向のいずれの方向にも均一なプラズマを広い範囲に生成することができ、大面積基板へ製膜するにあたり、高品質な膜を均一に製膜することができる。
図2〜図4に示すように、一対のリッジ電極21a,21bは、上側(+E方向)が排気側リッジ電極21aであり、下側(−E方向)が基板側リッジ電極21bとして構成されている。また、均熱温調器11が基板側リッジ電極21bの下方(−E方向)に設けられている。この均熱温調器11は、その上面11aが平坦で基板側リッジ電極21bに平行しており、熱媒体流通路11bが接続されて内部に純水やフッ素系オイル等の熱媒が循環する。そして、この均熱温調器11の上面11aに、プラズマ製膜処理が施される基板Sが載置される。つまり、基板Sは放電室2の外部に配置され、均熱温調器11によって所定温度に均等に加熱されながらプラズマ製膜処理を受ける。均熱温調器11は図示しないアクチュエータの駆動力により±E方向である上下に昇降することができ、基板Sのプラズマ製膜処理時には、その上面11aが基板側リッジ電極21bの下面に対して数mmから数十mm程度の間隔となる高さまで上昇する。
基板Sとしては透光性ガラス基板を例示することができる。例えば、太陽電池パネルに用いられるものでは、縦横の大きさが1.4m×1.1m、厚さが3.0mmから4.5mmのものが挙げられる。
一方、熱吸収温調ユニット12は、真空排気の均一化が可能な多岐管状のマニホールド12aと、熱吸収が可能な温調器12bとが一体化された構造であり、排気側リッジ電極21aの外面側(上部)に密着して設置され、排気側リッジ電極21aの温度を制御することでプラズマ処理が施される基板Sの板厚方向を通過する熱流束を制御するものであり、基板Sの反り変形を抑制することができる。
熱吸収温調ユニット12のマニホールド12aと温調器12bは、アルミ合金の機械加工やアルミダイキャスト製法等によって剛性のある一体構造物として形成され、その平面形状が排気側リッジ電極21aの平面形状と略同一の平面形状を有している。熱吸収温調ユニット12の下面には排気側リッジ電極21aに対向する平坦な平面部12cが形成され、この平面部12cに排気側リッジ電極21aが強く熱的に接触されつつ保持される。排気側リッジ電極21aは、熱吸収温調ユニット12の平面部12cに密着して一体となり、排気側リッジ電極21aが変形しないよう固定される。もしくは、排気側リッジ電極21aは平面部12cから離れないように図示しない固定部材によって保持され、その熱膨張時には平面部12cに対して面方向に相対移動可能に保持され、寸法差を吸収可能にされてもよい。
図3に示すように、マニホールド12aの内部には水平方向に拡がる広い共通空間12dが形成されている。そして、マニホールド12aの上面中央部に、マニホールド12aのヘッダー部となる排気管12eが立設され、この排気管12eに排気手段9、即ち図示しない真空ポンプ等が接続される。さらに、マニホールド12aの下面(平面部12c)には複数の吸引口12fが開口形成されている(図2も参照)。これらの吸引口12fは共通空間12dを介して排気管12eに連通する。
熱吸収温調ユニット12の共通空間12dは、吸引口12fと、排気側リッジ電極21aに設けられた多数の通気孔23aとを経て放電室2に連通している。さらに、熱吸収温調ユニット12の内部には、温調器12bの主要部となる熱媒(温調媒体)が流通する温調媒体流通路12gが配設されている(図2、図3参照)。この温調媒体流通路12gは、一端部の中央付近に設けた熱媒流路入口より導入され、マニホールド12aの内部において各吸引口12fの周囲を取り巻き、再び外周側に出るようにレイアウトされ、その内部には純水やフッ素系オイル等の熱媒が循環する。このため、平面部12bに密着して設けられた排気側リッジ電極21aの温度の均一化が図られる。
さらに、熱吸収温調ユニット12は、セルフクリーニング時の反応(Si(膜や粉)+4F→SiF4(ガス)+1439kcal/mol)による発熱を吸収するので、構造物の温度が高温化して構成材料がセルフクリーニング時にF系ラジカルで腐食が加速されないためにも有効である。熱吸収温調ユニット12は、放電室2内のヒートバランスを考慮して所定の温度に制御した熱媒を所定の流量で循環すること等による熱吸収や加熱を行うことで、排気側リッジ電極21aの温調が可能となっている。従って、熱吸収温調ユニット12は、高周波電源5A,5Bから供給されプラズマで発生するエネルギーを適切に吸収するとともに、リッジ電極21a,21bのプラズマから基板Sを設置する均熱温調器11への通過熱量や、均熱温調器11から基板Sを通過して熱吸収温調ユニット12へ通過する熱量に伴って基板Sの表裏に生じる温度差の発生を低減するので、基板Sが凹や凸に熱変形することの抑制に有効である。
他方、材料ガス供給手段10は、例えば放電室2の両端に設けられた非リッジ部導波管22a,22bの内部に収容され、その内部空間の長手方向に沿って配設された材料ガス供給管10aと、この材料ガス供給管10aから放電室2の内部においてリッジ電極21a,21bの間に、基板Sの表面にプラズマ製膜処理を施すのに必要な原料ガスを含む材料ガス(例えば、SiH4ガス等の材料ガス)を噴き出させる複数の材料ガス噴出孔10bとを備えている。ガス噴出孔10bは、リッジ電極21a,21bの間に材料ガスを略均一に噴き出せるように、その孔径が適正化されて複数設けられている。なお、材料ガス噴出孔10bから噴出した材料ガスがすぐに拡散せずに、上下のリッジ電極21a,21bの間を奥まで進んで均等に拡散するように、材料ガス供給管10aの側面に一列に形成された複数の材料ガス供給管10aの上下に、庇状のガイド板10cが設けられている。
例えば、各ガス噴出孔10aが噴出すガス流速は、音速を超えることによりチョーク現象を発生させることで均一なガス流速になるので好ましい。材料ガス流量と圧力条件によるが、このような噴出し径としてφ0.3mm〜φ0.5mmを用いてガス噴出孔10aの数量を設定することが例示される。また、庇状のガイド板10cは、そのスリット状のガイド板対の間隔が0.5mmから2mm程度で、ガス助走長となるガイド板10cの幅(図3ではH方向)は、材料ガス供給管10の径の1倍から3倍程度が例示される。
先述のように、一対のリッジ電極21a,21bは厚さ0.5mm〜3mm程度の薄い金属板である。排気側リッジ電極21aは、熱吸収温調ユニット12の下面(平面部12c)に密着保持されているため、このリッジ電極21aが撓んだり、反ったりする懸念はない。しかし、基板側リッジ電極21bは、その両面が何にも接していないため、そのままでは特に中央部が自重により下方に撓んでしまう。このため、図3に示すように、放電室2における上下のリッジ電極21a,21bの間を平行に保った状態で、これら両方のリッジ電極21a,21b間の間隔(リッジ対向電極間隔d1)を調整可能にするリッジ電極支持調整機構24が設けられている。このリッジ電極支持調整機構24は、下側のリッジ電極21bを、上方から複数の吊持索25により均等に吊持して上側のリッジ電極21aに対し平行に移動させる構成となっている。吊持部材25の材質は、放電室2内における電界を乱さないように、セラミックス等の誘電体か、金属棒の周囲を誘電体で覆った径の細いものにするのが望ましい。
例えば熱吸収温調ユニット12の上部には、枠状に形成されて図示しない上下スライド機構により上下(±E方向)に昇降する吊持枠材26が設けられている。この吊持枠材26に、例えば総数8本の吊持部材25の上端部が接続され、これらの吊持部材25は吊持枠材26から下方(−E方向)に延びて、熱吸収温調ユニット12の内部の気密を保ち吊持部材25を軸方向にスライド自在に保持するシール支持部材27を通過し、排気側リッジ電極21aと放電室2の内部空間を貫通して、その下端部が基板側リッジ電極21bの、少なくとも中央部付近と周囲部付近を含む8箇所に接続されている。
また、基板側リッジ電極21bのH方向の両辺部が、非リッジ部導波管22a,22bの電極固定部22cに締結固定されている。電極固定部22cの位置は、スライド調整部29とボルト、ナット等の締結部材30によって、非リッジ部導波管22a,22bに対して上下(±E方向)にスライドさせて固定することができる。このように基板側リッジ電極21bのE方向の高さを可変させることにより、リッジ電極21a,21b間のリッジ対向電極間隔d1を調整することができる。その際、電極固定部22cの位置をスライドさせても、非リッジ部導波管22a,22bのL方向断面形状が変化しないため、その導波管特性が維持され、伝送特性は変化しないので好ましい。
上記構成によれば、一対のリッジ電極21a,21bの間を平行に保ちながらリッジ電極対向間隔d1を最適値に設定できる。また、基板側リッジ電極21bが複数の吊持部材25によって水平かつ平面度を維持した状態で、電極面方向で拘束することなく吊持されるため、基板側リッジ電極21bの厚みが薄くても、自重による湾曲や反り等の変形が起こらず、これによって基板側リッジ電極21bを薄板化させて熱伝達率を高め、表裏温度差や熱膨張による変形を抑制することができる。さらに、リッジ電極21bの表裏面には細い吊下部材25を除いて構造物がないため、放電室2内でプラズマを発生させ、製膜種を基板Sへと拡散させるのに影響がない。これらのため、放電室2内において均一なプラズマを発生させ、基板Sに高品質なプラズマ製膜処理を行うことができる。
さらに、図3に示すように、基板側リッジ電極21bと、均熱温調器11とを下方から(−E方向から+E方向へ)囲む形状の防着板33が設けられている。この防着板33は均熱温調器11の下面から延びる支持柱34に対して軸方向(±E方向)に摺動可能に設けられるとともに、支持柱30の中間部に形成された鍔状のストッパ34a,34b間に介装された防着板押圧部材34cとの間に弾装されたスプリング34dによって基板側リッジ電極21b側に常時付勢されている。なお、支持柱34は、均熱温調器11を支持しつつ、製膜装置1が収容される真空容器(第2実施形態で述べる製膜チャンバ52等)の外側(大気側)からOリングシールなどで真空シールを維持されながら、±E方向である上下に昇降することができ、基板Sの搬送時などにおいて均熱温調器11を±E方向へ移動させるとともに、均熱温調器11へ熱媒など循環供給するための配管を内部に設置することが可能である。
この防着板33を設けることにより、均熱温調器11の上面11aに載置された基板Sへの製膜時に拡散する製膜ラジカルおよび粉類が付着したり蓄積される場所を限定し、製膜装置1の製膜に関与しない領域への製膜材料の付着が抑制される。防着板33は、スプリング34dの付勢力に抗して下方(−E方向へ)スライドして押し下げることで、基板搬送時など必要に応じて均熱温調器11との位置関係を変更ができ、これによって防着板33と下側のリッジ電極21bとの間に間隔が空くので、均熱温調器11の上面11aに載置する基板Sの搬入、搬出を容易にすることができる。なお、上述した均熱温調器11は、所定温度と所定流量の熱媒の循環により温度を制御された均熱板と基板テーブルとにより構成される従来構造を採用してもよい。また、均熱温調器11を一定の温度に加熱維持し、吸熱が不要な製膜条件で運用する製膜装置には、熱媒循環ではなく電気ヒータを保有した均熱板であってもよく、コスト削減と制御の簡易化が可能となる。
この製膜装置1には、基板搬送装置35(基板搬送手段)が設けられている。基板搬送装置35は、プラズマ処理前の基板Sを、基板側リッジ電極21bの下方(−E方向)の位置(後述するプロセス室40a)に順次送り込み、ここでプラズマ処理がなされた後の基板Sを、リッジ電極21bの下方から送り出すコンベアラインであり、放電室2の長さ方向(L方向)に沿って延びる2本の搬送レール36が設けられ、この搬送レール36の対向する内面に多数の搬送ローラ37が軸支され、搬送ローラ37が同期して回転することで、これらの搬送ローラ37の上を基板Sが走行するようになっている。このため、図4に示すように、基板Sの搬送方向Cがリッジ電極21a,21bの長さ方向(L方向)に沿うように設置されている。
さらに、基板搬送装置35の少なくとも一部は、放電室2および一対の変換器3A,3Bの、その各々のリッジ導波管断面形状における、リッジ電極21a,21bおよびリッジ部31a,31bの厚み方向に隣接する凹部空間40に収容されている(図4参照)。
前記凹部空間40のうち、放電室2の下部に隣接する凹部空間がプロセス室40aとされ、放電室2に対して基板搬送装置35による搬送方向Cの上流側に位置する変換器3Aに隣接する凹部空間が前工程室40bとされ、放電室2に対して搬送方向Cの下流側に位置する変換器3Bに隣接する凹部空間が後工程室40cとされている。
プロセス室40aは、基板搬送装置35により搬送されてきた基板Sが、リッジ電極21a,21bの位置に整合し、均熱温調器11の上で温調されながらプラズマ処理を施される部屋である。一方、前工程室40bは、基板Sにプラズマ処理の前工程が施される部屋であり、例えばその内部に基板予熱器44が設置され、基板搬送装置35により搬送されてきた基板Sが基板予熱器44の上でプロセス室40aへの搬入可能なタイミングまで待機しながら適温になるまで予熱される。他方、後工程室40cは、基板Sにプラズマ処理の後工程が施される部屋であり、例えばその内部に基板温調器45が設置され、プラズマ処理を終えて高温になった基板Sが基板温調器45の上で所定の温度に降下するまで徐冷されてから外部に搬出され、外部搬出時における急激な冷却による熱割れが防止されるようになっている。
プロセス室40a,前工程室40b,後工程室40cの内部に設けた、均熱温調器11と基板予熱器44と基板温調器45は、図示しないアクチュエータの駆動力により、製膜装置1が収容される真空容器の外側(大気側)からOリングシールなどで真空シールを維持されながら、±E方向である上下に昇降することができ、基板Sに対して加熱や冷却の温度処理を可能としている。
ここで、均熱温調器11に基板Sを載設するにあたり、基板Sを自動的に搬送するために、図5に示すように、2本の搬送レール36の間に挟まるようにして四角い枠状の搬送体159が移動自在に設けられている。この搬送体159は、2本の搬送レール36の内側に設けられた直動レール160に、リニヤベアリングを内蔵した直動ガイド161を掛止させて±L方向へスムーズに走行でき、この搬送体159の上面に多数の支持ローラ162を介して基板Sが載置される。
搬送体159は、駆動部163に駆動されて搬送レール36沿いに移動し、前工程室40bとプロセス室40aの間、およびプロセス室40aと後工程室40cの間を移動する。図5では便宜上、前工程室40bとプロセス室40aの間の搬送体159の移動について記載してあるが、プロセス室40aと後工程室40cの間は搬送体159の記載を省略しており、同様である。駆動部163としては、例えば搬送体159の側面に固定された長い水平ラックレール164と、この水平ラックレール164に歯車噛合する鉛直ピニオン軸165と、鉛直ピニオン軸165を回転させる図示しないアクチュエータとからなる。後述する製膜チャンバ52の外側(大気側)からOリングシールなどで真空シールを維持しながら、鉛直ピニオン軸165を回転することができる。なお、搬送体159の幅は基板Sの幅よりも狭くなっており、基板Sの両端が搬送体159の外周輪郭から突出する。
また、基板搬送装置35の一部として、プロセス室40a内に基板昇降機構167が設けられている。この基板昇降機構167は、搬送方向C(L方向)への基板Sの搬送に支障がないように均熱温調器11の±H方向の両側に位置して直動ガイド168により鉛直方向(E方向)に昇降自在な一対の基板支持板保持プレート169と、これら一対の基板支持板保持プレート169の内面に固定された複数の逆L字形ブラケット170および基板支持板171と、基板支持板保持プレート169を昇降させる昇降部172とを有して構成されている。
昇降部172は、例えば基板支持板保持プレート169の内面に固定された鉛直ラックレール173と、この鉛直ラックレール173に噛合する2本の水平ピニオン軸174と、これら2本の水平ピニオン軸174を同時に逆回転させる逆回転駆動部175を備えている。逆回転駆動部175は、図示しないアクチュエータの回転を、後述する製膜チャンバ52の外側(大気側)からOリングシールなどで真空シールを維持しながら導入し、一対の傘歯車176を介して2本の水平ピニオン軸174に伝達し、2本の水平ピニオン軸174を逆方向に回転駆動する構成である。これにより、一対の基板支持板保持プレート169が同時に鉛直方向(±E方向)に昇降し、逆L字形ブラケット170および基板支持板171も昇降する。
このように構成された基板昇降機構167において、基板Sは搬送体159上に載置されて搬送方向C(+L方向)に移動し、プロセス室40aに搬入されて、基板Sは均熱温調器11の上面側、且つ複数の基板支持板171よりも鉛直方向(+E方向)に高い位置に停止する。基板Sは必ずしも1枚だけではなく、例えば2枚が隙間を小さくして並んでいてもよく、限定されるものではない。この時、均熱温調器11の鉛直方向(E方向)の高さは搬送レール36よりも低い位置にあって基板Sの搬入を妨げない。均熱温調器11は基板Sの定位置停止後に上昇する。搬送体159上に載置された基板Sは、一対の基板支持板保持プレート169の内面に固定された複数の逆L字形ブラケット170の先端にある基板支持板171で支持されると、搬送体159は搬送方向Cと逆方向(−L方向)に戻り移動する。
均熱温調器11の上面11aには基板支持板171が没入する図示しない複数の溝が刻設されているため、一対の基板支持板保持プレート169と複数の逆L字形ブラケット170と基板支持板171が鉛直下方向(−E方向)に下降することで、上面11aは基板Sの下面に密着でき、基板Sの温調を行うことができる。均熱温調器11は、基板Sのプラズマ製膜処理時に、その上面11aが基板側リッジ電極21bの下面に対して数mm〜数十mm程度の所定の間隔となる高さまで上昇し、基板Sへの製膜などプラズマ処理が可能となる。基板Sへの製膜等のプラズマ処理が終了した後は、上述の逆動作を行い、基板Sを搬送体159上に戻すことができるが、搬送体159はプロセス室40aと後工程室40cの間のものを用いる。
また、基板昇降機構167に加えて、搬送体159自体にも昇降機能を持たせたい場合には、図6に示すように、例えば搬送体159を、搬送レール36に沿って移動する下部搬送体159aと、その上に位置して上下に昇降できる上部搬送体159bとを有するように構成してもよい。例えば下部搬送体159aは、図5の搬送体159と同様に、2本の直動レール179に、リニヤベアリングを内蔵した直動ガイド180を掛止させて長手方向(L方向)にスムーズに移動でき、その外側面に固定された長い水平ラックレール181と、この水平ラックレール181に歯車噛合する鉛直ピニオン軸182によって搬送レール36沿いに駆動される。
上部搬送体159bは四角い枠状に形成され、下部搬送体159aに立設された直動レール183に、リニヤベアリングを内蔵した直動ガイド184を掛止させて鉛直方向(±E方向)にスムーズに移動でき、その上面に支持ローラ185を介して基板Sが載置される。この上部搬送体159bは昇降部186により鉛直上下方向(±E方向)に駆動される。昇降部186は、例えば上部搬送体159bの外側面に固定された鉛直ラックレール187と、この鉛直ラックレール187に噛合する水平ピニオン軸188と、図示しないアクチュエータの回転を、図示しない真空容器の外側(大気側)からOリングシールなどで真空シールを維持しながら導入し、傘歯車189を介して水平ピニオン軸188に伝達する回転駆動軸190を備えている。水平ピニオン軸188は、スプライン軸188aと、このスプライン軸188aの軸方向に摺動自在で、且つスプライン軸188aと一体に回転するピニオンギヤ188bとから構成されている。
上記構成において、回転駆動軸190が回転すると、水平ピニオン軸188のスプライン軸188aとピニオンギヤ188bとが一体に回転して鉛直ラックレール187を鉛直上下方向に駆動し、これによって上部搬送体159bが基板Sを載置したまま上下に昇降する。このため、例えば搬送レール36の鉛直方向高さに対して放電室2(基板側リッジ電極21b)の鉛直方向高さが高い場合や、基板昇降機構167を省略する場合等に、基板Sを基板側リッジ電極21bの直下の高さまで上昇させることができる。また、均熱温調器11の上下方向(±E方向)の移動ストロークを小さくすることが可能となり、装置全体の小型化に貢献できる。なお、前述の鉛直ピニオン軸165、逆回転駆動部175の入力回転軸、鉛直ピニオン軸182、回転駆動軸190等の回転軸が、製膜装置1を収容する真空容器の外側(大気側)から内部に挿通される場合には、これらの回転軸が真空容器を貫通する部分に磁性流体シールやOリングシール等を介装することにより、回転アクチュエータ(サーボモータ等)を大気側に設置することができ、その取り扱いが容易になるため、真空容器内部の真空状態を維持しやすい。
以上のように構成された製膜装置1において、基板Sにプラズマ製膜処理が施される順序を説明する。製膜装置1は図示しない真空容器の内部に設けられている。まず基板Sは基板搬送装置35によって前工程室40bに搬送され、ここで基板予熱器44が上方向(+E方向)に上昇し、その上面44aが基板Sに密着して、基板予熱器44により前工程である予熱処理が施される。この予熱処理を短時間で高速に行うにはIRランプヒータを利用するが、タクトタイムに余裕がある場合は、基板予熱器44を均熱温調器11に類する平板状のヒータとし、これに基板Sを密着もしくは近接させることにより温度分布を均一化させる。予熱処理が完了すると、基板予熱器44は下方向(−E方向)に下降して基板Sから離れる。なお、基板Sは必ずしも1枚単位に限定されるものではなく、複数枚が隙間少なく並んでいてもよい。
次に、基板搬送装置35の搬送ローラ37の回転によって基板Sがプロセス室40aに搬送され、搬送体159へと搬送される。この時には前述したように防着板33が鉛直下方側に下がり、均熱温調器11と基板側リッジ電極21bの間に基板Sが搬送され易いようにする。そして、基板Sは搬送体159から、基板昇降機構167の基板支持板保持プレート169に設置された基板支持板171へと移載し、基板支持板171により基板Sが保持されて基板側リッジ電極21bの近傍まで鉛直上方向(+E方向)に上昇し、同時に均熱温調器11も上昇することで均熱温調器11の上面11aに基板Sが密着して、基板Sがプラズマ処理の所定位置に設置される。その後、再び防着板33が上昇して基板側リッジ電極21bに鉛直下方から当接し、基板Sと均熱温調器11が防着板33に覆われる(図3の状態となる)。
ここで、排気手段9により放電室2、変換器3A,3B、およびプロセス室40aの空気は排気されていて、真空状態になっている。排気される空気は一対のリッジ電極21a,21bに穿設された通気口23a,23bから熱吸収温調ユニット12(マニホールド12a)の吸引口12fを経由し、その後、共通空間12dと排気管12eを通り、図示しない圧力調整弁と真空ポンプを経て外部に排気される。
次に、材料ガス供給手段10から一対のリッジ電極21a,21b間に、例えばSiH4ガス等の材料ガスが供給される。この材料ガスが放電室2(プロセス室40a)内に行き渡るとともに、排気手段9で排気量が制御されて放電室2等の内部が所定の圧力(0.1kPaから10kPa程度)に保たれていて、高周波電源5A,5Bからは高周波電力が変換器3A,3Bに供給される。高周波電源5A,5Bは、周波数が13.56MHz以上、好ましくは30MHzから400MHzの高周波電力をサーキュレータ7A,7Bおよび整合器6A,6Bおよび同軸ケーブル4A,4Bを介して変換器3A,3Bに供給し、ここで高周波電力の伝送モードが同軸伝送モードであるTEMモードから方形導波管の基本伝送モードであるTEモードに変換されて放電室2に伝送され、リッジ電極21a,21bに供給される。
ここで、高周波電源5A,5Bから変換器3A,3Bに供給される電力は、少なくとも一方から供給される高周波電力の位相が時間的に変調され、これによって放電室2に形成される定在波の位置を変化させ、定在波の位相位置により電界の強度分布が不均一になやすいリッジ電極21a,21bの長さ方向(L方向)における電界強度の時間的分布が均一化される。その際、整合器6A,6Bでは高周波電力を伝送する系統におけるインピーダンス等の値が調節される。そして、変換器3A,3Bにおいて同軸伝送モードであるTEMモードから方形導波管の基本伝送モードであるTEモードに変換されてからリッジ電極21a,21bに伝達される。
このような状態において、リッジ電極21a,21bの間で材料ガスを導入して材料ガスが電離(分解)されてプラズマが発生する。このプラズマにより材料ガスが分解や活性化して製膜種が生成され、基板側リッジ電極の鉛直下側に設置した基板Sの上に均一な膜、例えばアモルファスシリコン膜や結晶質シリコン膜が均一に形成される。この時、長寿命ラジカル(SiH3等)は基板側リッジ電極21bに設けられた通気孔23bを通過して、基板Sの表面に到達して製膜が行われる。一方、製膜に寄与しなかったガス成分は、ナノクラスタなど高次シランガスとともに排気側リッジ電極21aの通気孔23aを通過して排気管12eから真空排気される。
なお、排気側リッジ電極21aの鉛直上部に熱吸収温調ユニット12が設置され、この熱吸収温調ユニット12によって一対のリッジ電極21a,21bの温度を制御することで、基板Sの板厚方向(E方向)を通過する熱流束が制御されるため、基板Sの表裏温度差による変形(反り)が抑制される。また、一対のリッジ電極21a,21bも、固定方向や支持方法を熱膨張による拘束がない構造にするとともに、薄い金属板として表裏温度差の発生を防止し、変形(反り)を抑制する。これにより、一対のリッジ電極21a,21b間の均一なプラズマ特性を確保し、高品質なプラズマ製膜処理を行うことができる。
また、基板Sの製膜時においては、基板Sと均熱温調器11とが防着板33に覆われるため、拡散してきた製膜ラジカルや粉類等の製膜材料が防着板33によって遮蔽され、これらの製膜材料が製膜に関与しない領域に付着、蓄積して基板Sの搬送に支障が生じること等を防止できる。
プラズマ製膜処理の終了後、排気手段9で放電室2(プロセス室40a)の内部が高真空へと排気される。また、基板Sと基板支持板171と均熱温調器11が一体となって鉛直下方向(−E方向)へ下降し、所定位置で基板支持板171のみにより基板Sが支持され、均熱温調器11はさらに下降する。同時に防着板33も下降して基板側リッジ電極21bから離間し、基板側リッジ電極21bと均熱温調器11の間から基板Sが搬出され易いようにする。基板Sの下には後工程室40c側より搬送体159が挿入され、基板支持板171は基板Sを搬送体159の上に載置し、搬送体159によって基板Sが後工程室40cに搬送される。
後工程室40cでは、基板Sを搬出するタイミングが図られるとともに、基板温調器45が上方向(+E方向)に上昇し、その上面45aが基板Sに密着して、基板温調器45により、後工程である基板冷却処理(徐冷処理)または基板温調処理が施される。基板Sを冷却する場合は、例えば冷却水循環による輻射冷却と、ベントN2ガス噴き付けにより基板Sの冷却を行い、基板Sの搬出時における急速な冷却による温度分布で基板Sが熱割れしないよう100℃以下へ冷却することが望ましい。基板冷却処理が完了すると、基板温調器45は下方向(−E方向)に下降して基板Sから離れ、基板Sは基板搬送装置35により搬出される。
前工程室40b,プロセス室40a,後工程室40cは、排気管12eより真空排気が行なわれる。即ち、前工程室40bの基板予熱と、プロセス室40aのプラズマ製膜処理と、後工程室40cの基板温調とが同じ圧力雰囲気にて行なわれている。一般にプラズマ製膜処理は数10Pa〜数1000Paの間で処理され、高真空状態より高い圧力雰囲気であるため、基板予熱と基板温調においても熱伝導率を向上できる圧力雰囲気となり、温度調整の時間を短縮できる。プラズマ製膜処理時間に対して、基板予熱時間と基板温調時間を短く達成できるようシステム設計することで、プラズマ製膜処理工程時間を短縮してタクトタイムを短縮することができる。
以上のように構成された製膜装置1によれば、対向するリッジ電極21a,21bの幅方向(H方向)においては、リッジ導波管の特性として電界強度の分布が均一になるため、リッジ電極21a,21bの幅に沿って均一な膜質が得られる。また、高周波電源5Aおよび高周波電源5Bの少なくとも一方から供給される高周波電力の位相を時間的に変調することにより、放電室2に形成される定在波の位置を変化させ、リッジ電極21a,21bにおけるL方向の電界強度の分布が時間平均的に均一化される。このため、本実施形態のようにリッジ電極21a,21bの幅方向の寸法を長さ方向の寸法よりも大きく設定し、基板搬送装置35による基板Sの搬送方向Cをリッジ電極21a,21bの長さ方向(L方向)に沿わせることにより、リッジ電極21a,21bの幅方向(H方向)に沿って基板Sのサイズを大きくすることができ、基板Sの面積を1m2以上の大面積にしても歩留まり良く安定したプラズマ製膜処理を行うことができる。
これに加えて、変換器3A,3Bに供給される高周波電源5Aおよび高周波電源5Bの少なくとも一方から供給される高周波電力の位相を時間的に変調することにより、放電室2に形成される定在波の位置を変化させ、リッジ電極21a,21bにおけるL方向の電界強度の分布が時間平均的に均一化される。さらに、リッジ導波管を用いることにより、伝送損出が小さい効果も加わり、H方向とL方向ともに電界強度分布がほぼ均一化された領域を容易に大面積化できる。このため、基板Sのサイズをリッジ電極21a,21bの長さ方向(L方向)にも拡大することができ、基板Sをより大面積にして効率のよいプラズマ処理基板の製造を行うことができる。
一例として、基板SのH方向のサイズをL方向のサイズの1〜3倍程度、例えばL方向の長さを1100mm、H方向の長さを1400mmに設定し、この基板SをL方向に搬送させてプラズマ製膜処理を実施することにより、基板Sの全面に亘って均一な製膜を得ることができる。さらに大面積な基板としては、例えばH方向の長さを2800mm、L方向の長さを1100mm×2=2200mmに設定し、2800mm×1100mmの基板Sを2枚並べてL方向に搬送させてプラズマ製膜処理を実施してもよい。このようにH方向に寸法の長い基板SをL方向に複数枚並べて同時に製膜処理を施すようにしてもよい。これにより、基板Sの生産性を格段に向上させることができる。
また、この製膜装置1では、放電室2および変換器3A,3Bの、その各々のリッジ導波管断面形状における、リッジ電極21a,21bおよびリッジ部31A,31Bの厚み方向に隣接する凹部空間40に基板搬送装置35の少なくとも一部を収容したため、本来なら放電室2および変換器3A,3Bのリッジ導波管断面形状におけるデッドスペースとなる部分に基板搬送装置35が収容されるため、製膜装置1の特に高さ方向(E方向)の寸法を小型化することができる。しかも、放電室2において基板Sをリッジ電極21a,21bに対し離接方向(E方向)に昇降させる距離を小さくする、あるいは昇降させなくてもよくなり、専用の昇降機構等が不要になるため、この点でも装置構成を小型化・簡略化することができる。
また、凹部空間40のうち、放電室2に隣接する凹部空間をプロセス室40aとし、放電室2に対して基板搬送方向Cの上流側に位置する変換器3Aに隣接する凹部空間を前工程室40bとし、放電室2に対して基板搬送方向Cの下流側に位置する変換器3Bに隣接する凹部空間を後工程室40cとしたため、放電室2および変換器3A,3Bのリッジ導波管断面形状におけるデッドスペースとなる部分が、プロセス室40a、前工程室40b、後工程室40cとして有効に活用される。このため、製膜装置1の特に高さ方向(E方向)の寸法を大幅に小型化することができる。
こうして、面積が1m2を超える大型の基板Sにも安定したプラズマ処理を行えるようにし、しかも製膜装置1を小型化して工場敷地内に多数配置できるようにし、プラズマ処理基板の生産量を向上させることができる。
(第1応用例)
図7は、第1実施形態における製膜装置1の基本構造を応用し、その放電室2における基板側リッジ電極21bの支持方法が異なる製膜装置101を示す縦断面図である。この製膜装置101では、基板側リッジ電極21bを下方(−E方向)から支える電極支持部材153が設けられており、この電極支持部材153は、例えば外枠部153aと、この外枠部153aの内側にて十字状に架設された桟部153bとを有して、平面視で略「田」の字形に形成され、その上面の平面度が正確に出されている。
この電極支持部材153の上面に、基板側リッジ電極21bが載置され、複数のスライドピン154によって電極支持部材153に保持されている。基板側リッジ電極21bにはスライドピン154を挿通させる複数のピン孔155が穿設されており、これらのピン孔155は、1箇所の円孔状の位置決めピン孔と、位置決めピン孔から熱伸方向である放射方向に延びる長孔状に形成されており、リッジ電極21bは電極支持部材153上に相対位置を保ちながら密着するように平面度を維持して保持された状態で、熱膨張を起こしても拘束されないので、反りや歪を生じることがない。なお、またスライドピン154の頭が電極面内側(プラズマ生成側)へ突出しないよう、スライドピン154の頭が薄く曲面を持つなどの工夫がされ、桟部153bは、スライドピン154を固定できる範囲で幅が狭いことが好ましい。
以上のように構成された製膜装置101によれば、基板側リッジ電極21bが排気側リッジ電極21aに対して平行かつ平坦に支持され、しかも基板側リッジ電極21bの表裏面がプラズマ処理に差し支えない程度に露出しているため、薄い金属板でなる基板側リッジ電極21bが自重により撓むことを防止して平面度を高い精度で保ちながら、放電室2内において均一なプラズマを発生させ、基板Sに高品質なプラズマ製膜処理を行うことができる。
一方、基板側リッジ電極21bのH方向の両辺部は、非リッジ部導波管22a,22bの電極固定部22cに締結固定され、電極固定部22cの位置を非リッジ部導波管22a,22bに対して上下(±E方向)にスライドさせるスライド調整部147が設けられ、締結部材148に締結されることによりその高さが固定される。このため、電極固定部22cの位置をスライドさせ、非リッジ部導波管22a,22bのL方向断面形状を変化させることがなく、導波管特性を維持して伝送特性は変化せずに、基板側リッジ電極21bの高さを調整することで、リッジ電極対向間隔が所定の間隔:d1となる。
他方、材料ガス供給手段としては、図3に示すように非リッジ部導波管22a,22bの内部に材料ガス供給管10aを収容して構成する代わりに、熱吸収温調ユニット12の内部の共通空間12d内に材料ガス分配部263として設けてもよい。材料ガス分配部263は、共通空間12d内にてリッジ電極21aの面方向に沿って複数本平行に張り巡らされた材料ガス供給管263aと、これら各材料ガス供給管263aの両端部が集合するヘッダー管263bと、各材料ガス供給管263aの下面に穿設された複数の材料ガス噴出孔263cと、両ヘッダー管263bにそれぞれ接続される材料ガス導入管263dとを備えて構成されている。複数の材料ガス供給管263aと一対のヘッダー部263bはラダー状に組み立てられている。
材料ガス導入管263dは図示しない主配管から分岐して均一に材料ガスが供給され、この材料ガスが材料ガス噴出孔263cから熱吸収温調ユニット12の内部を経て上下のリッジ電極21a,21bの間に均一に噴き出される。各材料ガス噴出孔263cには、排気側リッジ電極21aまで材料ガスを逆流させずに導通させるように、熱吸収温調ユニット12の吸引口12fを通って下方に延びるガイドパイプ263eが設けられ、材料ガス噴出孔263cから噴き出す材料ガスが、真空排気ガスが通過する吸引孔12fや排気側リッジ電極21aの通気孔23aにおいても、拡散しないでリッジ電極21aと21bとの間の空間に入るようにされ、これによって均一なプラズマ分布と均一な製膜種の形成が行なわれる。
本構成によれば、プラズマ生成時にリッジ電極21a,21bの間で生成されるSiナノクラスター等の高次シランガス成分を、その流れ方向をそのままUターンさせて素早く製膜雰囲気から排出できるため、SiH3ラジカル拡散主体とした高性能、高品質製膜を得ることができる。しかもこの場合、各材料ガス噴出孔263cから噴出した材料ガスは、排気側リッジ電極21aよりも上方から、一旦排気側リッジ電極21a下方の略全面の広い面積に略均一に排出された後に、通気孔23aから吸引孔12fを経由して排気口12eより排気手段9により真空排気されるので、基板Sの全面にわたり製膜条件を維持し管理できるので、さらに好ましい。
(第2応用例)
図8は、第1実施形態における製膜装置1の基本構造を応用し、その放電室2における基板側リッジ電極21bの支持方法が異なる製膜装置201を示す縦断面図である。この製膜装置201では、プラズマ製膜処理を施す基板Sが排気側リッジ電極21aと基板側リッジ電極21bとの間に挟まれるように設置され、基板側リッジ電極21bの上に載置される。これにより、プラズマと基板Sとの距離が短くなるので、プラズマ処理の迅速化(製膜速度の向上)および安定化を図り、高品質な製膜をより高速で施すことができる。基板側リッジ電極21bは、均熱温調器11の上面11aと一体となるように形成することで、剛体構造化により変形がないものとしてもよい。または、基板側リッジ電極21bは、図7で示した第1応用例と同様に、スライドピン154と長孔状に形成された複数のピン孔155により、熱膨張差を許容できるように保持されても良い。
また、基板搬送時には、基板側リッジ電極21bを降下させて排気側リッジ電極21aと基板側リッジ電極21bとの間隔を広げ、両リッジ電極21a,21bに干渉することなく基板Sの搬入・搬出を容易に実施できる。この時、両端部分の矩形状の非リッジ部導波管22a,22bは、例えばオーバーラップ構造を採用することにより、固定側の上部非リッジ部導波管22a’,22b’に対して下部非リッジ導波管22a”,22b”が下方向(−E方向)へ分離・移動するので、基板Sの搬送に支障が生じることはない。なお、非リッジ部導波管22a,22bの上下分離部分には、電位均一性のため、金属ウールや薄板によるシールド材を設けてプラズマ発生時には上部非リッジ部導波管22a’,22b’対して下部導波管22a”,22b”の電気的接触特性を維持しても良い。
(第3応用例)
図9は、第1実施形態における製膜装置1の基本構造を応用し、その放電室2における基板側リッジ電極21bの支持方法が異なる製膜装置301を示す縦断面図である。この製膜装置301では、基板側リッジ電極21bが均熱温調器11Aで支持され、この基板側リッジ電極21bの上にプラズマ製膜処理を施す基板Sが載置されるとともに、リッジ電極21a,21bの両端部分が繋がる矩形状の非リッジ部導波管がシングルリッジ型に形成されて上部非リッジ部導波管22a’,22b’とされ、均熱温調器11Aの両端が上部非リッジ部導波管22a’,22b’の部分まで拡大されている。
この場合、基板Sの搬送時には、均熱温調器11Aが±E方向へ上下動するように構成されており、基板Sの搬入・搬出時においては、均熱温調器11Aが降下して上部非リッジ部導波管22a’,22b’から分離することで、排気側リッジ電極21aと基板側リッジ電極21bとの間隔を広げ、基板Sの搬入・搬出を容易に実施できる。このような均熱温調器11Aの上下動に伴い、均熱温調器11Aの両端が上部非リッジ部導波管22a’,22b’から分離する部分は、均熱温調器11Aの表面(上面)になるので、図8に示す第2応用例のオーバーラップ構造と比較して簡易な構造とすることができる。
また、均熱温調器11Aは剛性が高く変形が少ないので、両端の上部非リッジ部導波管22a’,22b’を閉動作した状態では、電気的接触安定性が向上し、上部非リッジ部導波管22a’,22b’内の電位分布を低減し、プラズマの均一化に好ましい。さらに、上部非リッジ部導波管22a’,22b’の、均熱温調器11Aの表面(上面)との接触部分は、電位均一性のため、金属ウールや薄板によるシールド材を設けてプラズマ発生時には均熱温調器11Aとの電気的接触特性を向上させても良い。なお、基板側リッジ電極21bは、剛体構造の均熱温調器11Aと一体の構造としても良いし、図7に示す第1応用例と同様に、スライドピン154と長孔状に形成された複数のピン孔155により、熱膨張差を許容できるように保持させても良い。
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態を図10および図11に基づいて説明する。図10は、本発明の第2実施形態に係る製膜装置401の斜視図であり、図11は図10のXI-XI線に沿う製膜装置の縦断面図である。
この製膜装置401では、ステンレス(SUS材)やアルミニウム合金等や一般構造用圧延材(SS材)の金属板で矩形の函体状に形成された真空容器(圧力容器)である製膜チャンバ52の中に、放電室2、変換器3A,3B、材料ガス供給手段10、均熱温調器11、熱吸収温調ユニット12、基板搬送装置35等がまとめて気密的に収容されて複数基のプラズマ処理ユニットが構成される。本実施例では、3基のプラズマ処理ユニット53A,53B,53Cが構成されている。製膜チャンバ52内に収容されている各部材の構成および作用は第1実施形態の製膜装置1と同様である。また、基板搬送装置66の搬送方向も同様にリッジ電極21a,21bの長さ方向(L方向)に沿うように設置されている。なお、製膜チャンバ52の内部は、0.1kPaから10kPa程度の真空状態とされるため、製膜チャンバ52はその内外の圧力差に耐え得る構造とされ、リブ材などで補強された構成を用いることができる。
各プラズマ処理ユニット53A,53B,53Cにおいて、熱吸収温調ユニット12の各々の排気管12eは、製膜チャンバ52の上面を気密的に貫通して外部に突出し、その先に前述の通り真空ポンプ等の排気手段9が接続される。このため、各々の排気手段9が作動すると、プラズマ処理ユニット53A,53B,53C(製膜チャンバ52)の内部全体の気体が各々に排気され、これにより、放電室2および変換器3A,3Bの内部と、防着板29の内部(放電室2の基板側リッジ電極21bと、均熱温調器11および基板Sとの間)の気体も排気されて真空化され、基板Sへのプラズマ製膜処理が可能になる。
これら3基のプラズマ処理ユニット53A,53B,53Cは並列に配列され、その各々の前後両端が、それぞれプラズマ処理ユニット53A,53B,53Cに対して直交する方向に延びる共通搬送室55(第1の共通搬送室)と共通搬送室56(第2の共通搬送室)に連通している。各プラズマ処理ユニット53A,53B,53Cの両端と共通搬送室55,56との境界部には、それぞれゲート弁61,62が設けられている。これらのゲート弁61,62の閉鎖時には、各プラズマ処理ユニット53A,53B,53C内における真空気密性が個別に維持されるようになっている。さらに、共通搬送室55の一端には、プラズマ処理前の基板Sを待機させるロード室58が設けられ、共通搬送室56の一端には、プラズマ処理後の基板Sを待機させるアンロード室59が設けられている。
図11に示すように、各製膜チャンバ52の内部は、放電室2の下部に隣接するプロセス室40aと、放電室2に対して基板Sの搬送方向Cの上流側に位置する変換器3Aに隣接する前工程室40bと、放電室2に対して搬送方向Cの下流側に位置する変換器3Bに隣接する後工程室40cが形成されており、プロセス室40aに均熱温調器11が設置され、前工程室40bに基板予熱器44が設置され、後工程室40cに基板温調器45が設置されている。各室40a,40b,40cおよび基板予熱器44、基板温調器45等の用途、作用等は第1実施形態と同様である。
共通搬送室55,56の内部には、一対の搬送レール64と、その上を走行する基板搬送台65からなる基板搬送システム66が内蔵されている。また、ロード室58とアンロード室59は、それぞれゲート弁68,69を介して共通搬送室55,56に連通している。ロード室58とアンロード室59には、それぞれ外部に通じるゲート弁71,72が設けられるとともに、多数の基板Sをストックできる基板カセット73,74が内蔵されている。さらに、共通搬送室55,56とロード室58とアンロード室59は、その各々の下面に設けられた排気管55a,56a,58a,59aから各々の排気手段9により真空排気がなされる。
このように構成された製膜装置401において、プラズマ製膜処理を施される基板Sは、基板カセット単位、または複数枚まとめて基板カセット73に格納され、ゲート弁71からロード室58に搬入される。そして、基板搬送システム66により、基板Sを1枚ずつ、もしくは複数枚ずつゲート弁68を通って共通搬送室55に送られ、さらにゲート弁61を通って目的とするプラズマ処理ユニット53A,53B,53Cの何れかに搬送され、所定のプラズマ製膜処理を施された後、ゲート弁62、共通搬送室56、ゲート弁69を経てアンロード室59に搬送され、基板カセット74にストックされ、複数枚まとめてゲート弁72から外部に搬出される。
なお、3基のプラズマ処理ユニット53A,53B,53Cによって、1枚の基板Sに異なる3種類のプラズマ製膜処理を行う場合は、ロード室58→共通搬送室55→プラズマ処理ユニット53A→共通搬送室56→プラズマ処理ユニット53B→共通搬送室55→プラズマ処理ユニット53C→共通搬送室56→アンロード室59の順に基板Sが搬送されることで、3種類の積層膜が形成される。したがって、例えばこの製膜装置401によって太陽電池(光電変換パネル)の基板光電変換層を製膜する時には、3基のプラズマ処理ユニット53A,53B,53Cによって、基板光電変換層のp層,i層,n層を順次形成することができる。なお、各プラズマ処理ユニット53A,53B,53Cの内部に設けられた前工程室40bおよび後工程室40cに基板Sを待機させることで、基板搬送システム66における基板搬送の待ち時間を吸収し、製膜装置401全体のタクトタイムを大幅に短縮することができる。
また、各プラズマ処理ユニット53A,53B,53Cにおいて、前工程室40bの基板予熱器44と、後工程室40cの基板温調器45とが兼用の構造を持つようにすれば、プラズマ処理ユニット53A,53B,53Cの基板搬送方向を+L方向と−L方向のいずれでも選択が可能となる。このため、製膜処理の順番を固定せずに自由な運用が可能となり、さらに好ましい。
以上のように構成された製膜装置401によれば、ロード室58とアンロード室59とこの排気手段9を1つずつ設けるだけで、複数のプラズマ処理ユニット53A,53B,53Cにてプラズマ製膜処理が施される基板Sの全てを、待機させたり、あるいは前後処理することができる。このため、複数のプラズマ処理ユニット53A,53B,53Cが設けられていても、ロード室58とアンロード室59は1つずつ設ければよい。しかも、各プラズマ処理ユニット53A,53B,53Cの間に無駄スペースが無くなるので、製膜装置401のフットプリントを低減させることができ、これらによって製膜装置401全体を小型化することができる。そして、その分設置台数を多くしてプラズマ製膜基板の生産量を向上させることができる。しかも、第1実施形態の製膜装置1と同じく、基板Sの幅方向であるH方向に電界強度が均一に確保できているので、幅広の大面積基板の処理においても、歩留まり高く安定性の高い生産を得ることができる。
なお、共通搬送室55,56は、その各々に設けた排気管55a,56aから排気手段9により真空排気がなされるが、元々浅底で容積の小さい真空容器となるため、各プラズマ処理ユニット53A,53B,53Cや、ロード室58、アンロード室59と一緒に真空排気をするようにしてもよい。また、共通搬送室55,56とロード室58とアンロード室59を個別に真空排気して、各基板搬送と各製膜工程での並列処理を可能とし、生産性を向上させることもできる。さらに、各プラズマ処理ユニット53A,53B,53Cが並列に配置されたパラレル構造であるため、例えばプラズマ処理ユニット53A,53Bでプラズマ製膜処理を行いながら、プラズマ処理ユニット53Cでセルフクリーニングなどのメンテナンスを行うことも可能となり、製膜装置51の稼働率を向上させることができる。
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態を図12および図13に基づいて説明する。図12は、本発明の第3実施形態に係る製膜装置501の斜視図であり、図13は図12のXIII-XIII線に沿う製膜装置501の縦断面図である。
この製膜装置501の構成部品および基本レイアウト、ならびに基板Sへのプラズマ製膜処理の順序や、基板Sの搬送方向C等は、第1実施形態の製膜装置1と同様であるが、製膜装置1と異なる点は、放電室2および変換器3A,3Bが、製膜装置1のように水平に設置されておらず、ほぼ鉛直方向に起立した縦型配置となっている点である。つまり、プラズマ製膜処理を施される基板Sの面方向は水平ではなく、そのH方向が鉛直方向に対して傾斜角度θだけ傾斜している。それ以外の構成は製膜装置1と同様であるため、各部に同一符号を付して説明を省略する。傾斜角度θは、鉛直方向に対して0°〜15°の角度に設定するのが望ましいが、鉛直方向に対して7°〜15°の角度がより好ましい。
このように放電室2および変換器3A,3Bがほぼ起立した状態で配置されているため、放電室2および変換器3A,3B内において、基板Sは、その自重のsinθ成分で均熱温調器11の基板載置面に安定して支持されながらプラズマ製膜処理される。リッジ電極21a,21bや基板Sにとっては、(自重×sinθ)が自重変形に影響する成分となるので、その傾斜角度θを15°以下に設定することにより、リッジ電極21a,21bおよび基板Sの自重変形量を大幅に減らすことができ、各構造部の適正化を図る上で好ましい。しかも、基板搬送時においても、基板Sをほぼ鉛直方向に起立させた縦型搬送となるため、基板Sの自重変形が少なくなるとともに、自重のsinθ成分で安定して支持されるので搬送が容易である。なお、放電室2での基板支持は、図5に示した基板支持板171に基板Sの下端面部を支持する突起を設けることで、容易に対応が可能である。
さらに、大面積の基板Sにプラズマ処理を施すべく大型に形成された放電室2や変換器3A,3B等が全て略鉛直方向を向くため、高さ方向の空間を有効に利用して、製膜装置501のフットプリントを著しく減少させ、同じ敷地面積であればより多くの製膜装置501を整列させることができる。このため、プラズマ製膜処理基板の生産量を向上させることができる。
基板Sの傾斜角度θは、0°〜15°の範囲が適切であり、15°を越えると装置のフットプリントが増大し、縦型配置である効果が低減する。基板Sの搬送時における安定性を考慮するとθは7°以上が好ましいが、基板Sの鉛直上下部の基板面をローラ等で支持して基板Sの傾斜角度θを維持できるようにすればθ=0°でも可能である。
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態を図14に基づいて説明する。図14は、本発明の第4実施形態に係る製膜装置601の斜視図である。この製膜装置601の構成部品および基本レイアウト、ならびに基板Sへのプラズマ製膜処理の順序や、基板Sの搬送方向C等は、第2実施形態の製膜装置51と同様であるが、製膜装置51と異なる点は、複数基(本実施例では3基)設けられたプラズマ処理ユニット53A,53B,53Cが、製膜装置51のように水平に設置されておらず、第3実施形態における製膜装置501の放電室2および変換器3A,3Bのように、ほぼ鉛直方向に起立した縦型配置となっている点である。つまり、ここでもプラズマ製膜処理を施される基板Sの面方向は水平ではなく、そのH方向が鉛直方向に対して傾斜角度θだけ傾斜している。それ以外の構成は製膜装置51と同様であるため、各部に同一符号を付して説明を省略する。傾斜角度θは、鉛直方向に対して0°〜15°の角度に設定される。
このように、各プラズマ処理ユニット53A,53B,53Cが、その傾斜角度θを鉛直方向に対して0°〜15°の角度に設定され、ほぼ起立した状態で配置されているため、各プラズマ処理ユニット53A,53B,53C内において、基板Sは、第3実施形態の製膜装置501の場合と同じく、その自重のsinθ成分で均熱温調器11の基板載置面に安定して支持されながらプラズマ製膜処理される。このため、リッジ電極21a,21bおよび基板Sの自重変形量を大幅に減らすことができ、各構造部の適正化を図ることができる。
しかも、大面積の基板Sにプラズマ処理を施すべく大型に形成された3基のプラズマ処理ユニット53A,53B,53Cが全て略鉛直方向を向くため、高さ方向の空間を有効に利用して、製膜装置601のフットプリントを更に減少させることができる。なお、図14における基板搬送システム66は一例として、基板Sを複数枚同時搬送できるようにすることで、搬送時間の待ち時間縮小を図っている。ここで、ロード室58とアンロード室59において、複数枚の基板Sを同時にセットして搬入・搬出するようにすれば、大気/真空を繰り返す時間を有効に活用できる。
〔第5実施形態〕
次に、本発明の第5実施形態を図15に基づいて説明する。図15は、本発明の第5実施形態に係る製膜装置701の斜視図である。この製膜装置701の構成部品および基本レイアウト、ならびに基板Sへのプラズマ製膜処理の順序や、基板Sの搬送方向C等は、第1実施形態の製膜装置1と同様であるが、製膜装置51と異なる点は、放電室2が、そのリッジ電極21a,21bの長さ方向(L方向)に複数基(例えば3基)直列的(インライン)に連設されていて、その両端に変換器3A,3Bが設けられ、3基の放電室2における各々のリッジ電極21a,21bの間隔(リッジ対向間隔)を個別に設定可能になっている点である。
各放電室2には、リッジ電極21a,21bの対向間隔を可変させる図示しないリッジ電極間変更機構があり、製膜処理が必要な特定の放電室2のみ、リッジ電極間距離を変換器3A,3Bのリッジ距離より短縮することで、リッジ電極21a,21b間の電界を大きくして、ここに材料ガスを導入し、プラズマを発生させる。他の放電室2では、リッジ電極間距離が変換器3A,3Bのリッジ距離と等しく、もしくは等しいと見なせるよう十分に広くすることで、プラズマを発生させないようにする。材料ガス供給手段10、均熱温調器11、熱吸収温調ユニット12等の構成部材は放電室2の数と同数設けられている。それ以外の構成は製膜装置1,401,501と同様であるため、各部に同一符号を付して説明を省略する。なお、放電室2および変換器3A,3Bを、第3実施形態の製膜装置501のようにほぼ鉛直方向に起立した縦型配置としてもよい。
このように構成された製膜装置701によれば、複数の放電室2において搬送されてきた基板Sに対して、各放電室2おけるプラズマ発生条件や材料ガス種類を異ならせて、それぞれ種類の異なるプラズマ処理を実行することができる。例えば、各放電室2の間で、リッジ電極21a,21bの対向間隔を異ならせたり、材料ガス供給手段10から供給される材料ガスの種類を異ならせる等して、1枚の基板Sに複数種類の製膜を連続形成することができる。一例として、太陽電池(光電変換パネル)の基板光電変換層を製膜する場合には、最初の放電室2において基板光電変換層のp層を製膜し、次の放電室2においてi層を製膜し、最後の放電室2においてn層を製膜するという具合である。あるいは、複数の基板Sに同時にプラズマ製膜処理を施してプラズマ製膜処理基板の生産量を向上させることができる。
こうして、製膜装置701の高機能化を図りつつ、複数連設された放電室2の前後両端に変換器3a,3bおよび高周波電源5A,5B等を1セットずつ設けるだけで、全部の放電室2に電力供給が可能であるため、製膜装置701全体の小型化とコストダウンを図ることができる。しかも、第1実施形態の製膜装置1と同じく、基板Sの幅方向であるH方向に電界強度が均一に確保できているので、大面積基板処理においても、歩留まり高く、安定性のよい生産を得ることができる。
さらに、いずれかの放電室2においてセルフクリーニング等のメンテナンスを行う場合は、メンテナンスのタイミングまで対象の放電室2を休止しておき、メンテナンスが不要な他の放電室2を稼働させておくことができるため、製膜装置701全体を休止する必要がなく、稼働率が大きく低下することがない。なお、上述したように光電変換パネルの基板光電変換層を製膜する時には、メンテナンス頻度が高いi層を製膜する放電室2を複数設けておき、製膜対応室と休止(基板スルー搬送)室を区分けすることで、装置の稼働率を維持することができる。
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、本発明はダブルリッジ導波管状の製膜装置のみには限定されず、シングルリッジ導波管状の製膜装置にも適用することができる。また、導波管断面は正方形でも長方形でも、またシングルリッジ型でも良い。