JP5494815B2 - 飛行体設計方法、安全マップ生成装置および飛行体制御装置 - Google Patents
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Description
本発明は、航空機などの飛行体に用いる飛行体設計方法、安全マップ生成装置および飛行体制御装置に関する。
航空機などの飛行体が空路を飛行する際、安全飛行を行う技術がある(たとえば特許文献1参照)。この技術は、天候等によって避けるべき領域(飛行に不適である領域)を判定し、不適と判定された領域をモデル化し、モデル化された領域を避けて飛行体の経路を設定するというものである。
ところで、この種の飛行体においては、飛行体の設計を行うに当たり、上記特許文献1に開示された技術によって設定される経路の飛行を可能とするように飛行体の設計が行われる。その一方で、飛行体の設計の際には、飛行体が不時着陸した際などに、操縦者などの乗員に与える衝撃を小さくして乗員の保護を図ることが求められる。乗員の保護を図るためには、たとえば、機体に衝撃吸収材を配設したり、操縦席にエアバッグ装置を配置したりする手段がある。
しかし、これらの手段を施す場合、飛行体の機体重量を増大させる要因となり、飛行性能の向上の観点からは設けないことが望まれる。この点、上記特許文献1に開示された技術では、飛行性能を満たすための飛行体の設計を行うこととなるが、乗員の保護を図るため観点からは飛行体の設計については考慮されていないという問題があった。
そこで、本発明の課題は、飛行性能を満たす観点と、飛行体の乗員の保護を図る観点の両方の観点に基づいて飛行体の設計を行うことができる飛行体設計方法およびこれに用いる安全マップ生成装置、さらには設計された飛行体を提供することにある。
上記課題を解決した本発明に係る飛行体設計方法は、飛行体の飛行性能を設計する飛行性能設計ステップと、飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる最下限境界を飛行体の飛行性能に基づいて算出する最下限境界算出ステップと、最下限境界より下方の領域における任意の点を始点とし、飛行体が地面に衝突する際の地面衝突状態値を各々算出する地面衝突状態値算出ステップと、算出された地面衝突状態値に基づいて、飛行体の衝突安全性能を算出する衝突安全性能算出ステップと、を含む工程によって安全マップを生成し、安全マップに基づいて飛行体の設計を行うことを特徴とする。
本発明に係る飛行体設計方法においては、飛行性能を満たすための飛行性能設計を行った後、設計された飛行性能を発揮した際に生じると考えられる地面との衝突に対する衝突安全性能を確保するための衝突安全性能設計を行っている。このため、飛行性能を満たす観点と、飛行体の乗員の保護を図る観点の両方の観点に基づいて飛行体の設計を行うことができる。
また、本発明に係る飛行体設計方法は、飛行体の衝突安全性能を設計する衝突安全性能設計ステップと、衝突安全性能に基づいて衝突安全性能を満たす最上限境界を算出する最上限境界算出ステップと、最上限境界より上方の領域における任意の点を始点とし、飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる飛行性能を算出する飛行性能算出ステップと、を含む工程によって安全マップを生成し、安全マップに基づいて飛行体の設計を行うことを特徴とする。
本発明に係る飛行体設計方法においては、設計された飛行性能を発揮した際に生じると考えられる地面との衝突に対する衝突安全性能を確保するための衝突安全性能設計を行った後、飛行性能を満たすための飛行性能設計を行っている。このため、飛行性能を満たす観点と、飛行体の乗員の保護を図る観点の両方の観点に基づいて飛行体の設計を行うことができる。
ここで、飛行体が実用的に飛行する飛行実用範囲をあらかじめ設定し、任意の点は、飛行実用範囲内の領域に設定される態様とすることができる。
このように、任意の点が、飛行実用範囲内の領域に設定されていることにより、飛行体の設計を簡略化することができ、容易に行うようにすることができる。
さらに、飛行体の侵入が可能となる飛行性能運用範囲をあらかじめ設定し、任意の点は、飛行性能運用範囲内の領域に設定される態様とすることができる。
このように、任意の点が、飛行性能運用範囲内の領域に設定されていることにより、飛行体の設計を簡略化することができ、容易に行うようにすることができる。
また、本発明に係る飛行体設計方法は、飛行体が実用的に飛行する飛行実用範囲および飛行体の侵入が可能となる飛行性能運用範囲をあらかじめ設定し、飛行体の飛行性能を設計する飛行性能設計ステップと、飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる最下限境界を飛行体の飛行性能に基づいて算出する最下限境界算出ステップと、最下限境界より下方の領域における任意の点を始点とし、飛行体が地面に衝突する際の地面衝突状態値を各々算出する地面衝突状態値算出ステップと、算出された地面衝突状態値に基づいて、飛行体に要求される衝突安全性能を算出する衝突安全性能算出ステップと、を行い、または、飛行体の衝突安全性能を設計する衝突安全性能設計ステップと、衝突安全性能に基づいて衝突安全性能を満たす最上限境界を算出する最上限境界算出ステップと、最上限境界より上方の領域における任意の点を始点とし、飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる飛行性能を算出する飛行性能算出ステップと、を行う工程によって安全マップを生成し、安全マップに基づいて飛行体の設計を行うにあたり、任意の点は、飛行実用範囲内の領域および飛行性能運用範囲内の領域に設定されることを特徴とする。
本発明に係る飛行体設計方法においては、飛行性能設計および衝突安全性能設計の一方を行った後、飛行性能設計および衝突安全性能設計の一方を行っている。このため、飛行性能を満たす観点と、飛行体の乗員の保護を図る観点の両方の観点に基づいて飛行体の設計を行うことができる。また、任意の点は、飛行実用範囲内の領域および飛行性能運用範囲内の領域に設定されている。このため、飛行体の設計を簡略化することができ、容易に行うようにすることができる。
さらに、飛行実用範囲内の領域と飛行性能運用範囲内の領域とが重なる領域内における任意の点について、飛行性能または衝突安全性能を算出する性能算出ステップと、算出された飛行性能または衝突安全性能をあらかじめ設定された基準値と比較する比較ステップと、比較ステップにおける比較結果に基づいて、追加安全デバイスが必要となる領域を特定する安全デバイス追加領域特定ステップと、をさらに含む工程によって安全マップを生成し、安全マップに基づいて飛行体の設計を行う態様とすることができる。
このように、追加安全デバイスが必要となる領域を特定することにより、衝突安全性能をたとえば機体の衝突安全構造のみに頼る必要がなくなるので、その分設計の自由度を高くすることができる。
また、本発明に係る安全マップ生成装置は、飛行体の飛行性能を設計する飛行性能設計手段と、飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる最下限境界を飛行体の飛行性能に基づいて算出する最下限境界算出手段と、最下限境界より下方の領域における任意の点を始点とし、飛行体が地面に衝突する際の地面衝突状態値を各々算出する地面衝突状態値算出手段と、算出された地面衝突状態値に基づいて、飛行体の衝突安全性能を算出する衝突安全性能算出手段と、によって安全マップを生成することを特徴とする。
本発明に係る安全マップ生成装置においては、飛行性能設計手段によって飛行性能設計を行った後、衝突安全性能設計手段によって衝突安全性能を確保するための衝突安全性能設計を行っている。このため、飛行性能を満たす観点と、飛行体の乗員の保護を図る観点の両方の観点に基づいて飛行体の設計を行うことができる。
さらに、本発明に係る安全マップ生成装置は、飛行体の衝突安全性能を設計する衝突安全性能設計手段と、衝突安全性能に基づいて衝突安全性能を満たす最上限境界を算出する最上限境界算出手段と、最上限境界より上方の領域における任意の点を始点とし、飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる飛行性能を算出する飛行性能算出手段と、によって安全マップを生成することを特徴とする。
本発明に係る安全マップ生成装置においては、衝突安全性能設計手段によって衝突安全性能を確保するための衝突安全性能設計を行った後、飛行性能設計手段によって飛行性能設計を行っている。このため、飛行性能を満たす観点と、飛行体の乗員の保護を図る観点の両方の観点に基づいて飛行体の設計を行うことができる。
他方、本発明に係る飛行体は、安全マップ生成装置によって生成された安全マップを記憶する安全マップ記憶手段と、飛行体の飛行状態を検出する飛行状態検出手段と、安全マップ生成装置で生成された安全マップを表示するとともに、飛行状態検出手段で検出された現在の飛行体の飛行状態を安全マップ上に表示する表示手段と、備えることを特徴とする。
本発明に係る飛行体は、飛行状態検出手段で検出された現在の飛行体の飛行状態を安全マップ上に表示する表示手段を備えている。このため、飛行体の操縦者は、現在の飛行状態を容易に確認することができるので、飛行状態に応じた飛行体の操縦を容易に行うことができる。
また、本発明に係る飛行体は、上記の安全マップ生成装置によって生成された安全マップを記憶する安全マップ記憶手段と、飛行体の飛行状態を検出する飛行状態検出手段と、飛行状態検出手段で検出された現在の飛行体の飛行状態を安全マップ記憶手段に記憶された安全マップに参照した結果に基づいて、飛行体の飛行支援を行う飛行支援装置と、を備えることを特徴とする。
本発明に係る飛行体は、飛行体の飛行状態を安全マップに参照した結果に基づいて、飛行体の飛行支援を行っている。このため安全マップを考慮した好適な飛行体の制御を行うことができる。なお、飛行体の飛行支援には、たとえば飛行体の操舵支援や経路設定などの態様がある。
さらに、飛行体の飛行領域の各高度における所定風速を超える突風が発生する確率を算出する突風発生確率算出手段と、安全マップ記憶手段に記憶された安全マップの各点における所定風速を超える突風が発生したときの飛行体の飛行状態の変化量を算出する飛行状態変化算出手段と、飛行状態変化算出手段で算出された飛行状態の変化量に基づいて、安全マップにおける最下限境界または最上限境界の移動量である境界移動量を算出する境界移動量算出手段と、をさらに備え、飛行支援装置は、安全マップ記憶手段に記憶された安全マップにおける最下限境界または最上限境界を、境界移動量算出手段によって算出された境界移動量で移動させた境界移動安全マップに飛行状態検出手段で検出された現在の飛行体の飛行状態を参照した結果に基づいて、飛行体の飛行支援を行う態様とすることができる。
このように、全マップ記憶手段に記憶された安全マップの各点における所定風速を超える突風が発生したときの飛行体の飛行状態の変化量を算出する飛行状態変化を算出することにより、突風確率を考慮した運用制御を行うことができる。
また、飛行体の不時着陸時における着陸候補場所の情報を記憶する着陸候補場所記憶手段と、着陸候補場所における飛行体が不時着陸した際の飛行体の着陸状態が所定の着陸状態より高くなる状態で到達可能となる到達可能範囲を算出する到達可能範囲算出手段と、をさらに備え、飛行支援装置は、着陸候補場所記憶手段に記憶された着陸候補場所および到達可能範囲算出手段で算出された到達可能範囲に基づいて、飛行体の飛行支援を行う態様とすることができる。
このように、着陸候補場所記憶手段に記憶された着陸候補場所および到達可能範囲算出手段で算出された到達可能範囲に基づいて、飛行体の飛行支援を行うことにより、不時着陸が必要となるときに飛行体に与える衝撃が小さくなる着陸候補場所に到達させやすくすることができる。
本発明に係る飛行体設計装置、安全マップ生成装置、および飛行体によれば、飛行性能を満たす観点と、飛行体の乗員の保護を図る観点の両方の観点に基づいて飛行体の設計を行うことができる。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
図1は、本発明に係る航空機設計方法に用いられる安全マップを示す図である。図1に示す安全マップは、X軸(横軸)が航空機の速度、Y軸(縦軸)が航空機の高度、斜め軸(Z軸)が航空機の姿勢等のパラメータを表している。
図1に示す例では、本発明の飛行体である航空機の姿勢等について「0」とされており、航空機の速度−航空機の高度の関係で安全マップが生成されている。この安全マップを用いて、航空機の設計を行う。航空機の設計は、飛行性能設計および衝突安全性能設計の両面から行われる。ここで、一般に、飛行性能を高めると衝突安全性能が低下し、衝突安全性能を高めると飛行性能が低下する関係にある。
安全マップには、境界線BLが設けられている。この境界線BLを境として、上側の領域は、所定の飛行性能を発揮する領域(以下「アクティブ領域」という)ASであり、アクティブ領域ASでは、航空機の飛行性能設計が行われる。また、境界線BLよりも下側の領域は、衝突安全性能を発揮する領域(以下「パッシブ領域」と定義する)PSであり、パッシブ領域PSでは、衝突安全性能設計が行われる。衝突安全性能設計は、航空機が落下して地面に衝突する際の乗員の保護を目的として行われる設計である。境界線BLの生成手順については、後に説明する。
図2は、飛行時の航空機の概要を示す斜視図である。図2に示すように、航空機1は、機体本体10を備えている。機体本体10の先端にエンジンが設けられており、エンジンにはプロペラ11が取り付けられている。また、機体本体10の側方には、主翼12が取り付けられ、主翼12には、エルロン13およびフラップ14が設けられている。
さらに、機体本体10の後端部側方には、水平尾翼15が取り付けられており、水平尾翼15の後部にはエレベータ16が設けられている。また、機体本体10の後端部上方には、垂直尾翼17が取り付けられており、垂直尾翼17の後部には、ラダー18が設けられている。
また、図3は、不時着陸時の航空機の概要を示す側面図である。図3に示すように、機体本体10の前方下方位置は、機体衝撃エネルギー構造21によって構成されている。さらに、機体本体10の略中央部分における下方位置は、衝撃エネルギー吸収シート構造22によって構成されている。
他方、機体本体10には、キャビン23が設けられており、キャビン23の内部には、複数の座席24が配設されている。座席24に操縦者やその他の乗員がそれぞれ着席して航空機1に搭乗可能とされている。座席24には、それぞれシートベルト25が設けられているとともに、座席24の前方にはエアバッグ26が設けられている。
航空機1を設計するにあたり、飛行性能設計については主にエンジンの出力、主翼の諸元(面積、アスペスト比、翼形、対気流角度)、尾翼の諸元(面積、翼形、対気流角度)が対象となる。そのほか、エルロン13、エレベータ16、ラダー18の各モーメントやフラップによる失速防止機能などが対象となる。
一方、衝突安全性能設計については、機体衝撃エネルギー構造21や衝撃エネルギー吸収シート構造22によるエネルギー吸収力、シートベルト25およびエアバッグ26による乗員の拘束保護力などが対象となる。機体衝撃エネルギー構造21や衝撃エネルギー吸収シート構造22によるエネルギー吸収量は、たとえば図4に示す数値となる。乗員にかけられる荷重上限は、図4に示す上限ラインUL上の数値となる。
次に、本実施形態に係る安全マップの生成手順について説明する。図5は、安全マップを生成する第1手順を示すフローチャートである。第1手順で安全マップを生成する際には、図5に示すように、まず、所定の条件によって航空機1の飛行性能を設計する(S1)。ここでの航空機1の飛行性能を設計するための所定の条件は、衝突安全性能についての条件を含まず、たとえば航空機1の最高速度や省燃費を目的とした条件を定めて、この条件を満たすように飛行性能を設計する。
次に、飛行性能に応じた航空機1の運動を算出する(S2)。ここで算出する航空機1の運動は、航空機1が飛行する際の高度、速度、姿勢などのあらゆるパラメータを初期として、その後の運動をあらゆる操舵条件の基に定め、運動方程式やそのモデルを用いて算出する。続いて、図1に示す境界線BLとなる最下限境界を算出する(S3)。最下限境界を算出するにあたっては、図6(a)に示すように、ステップS2で算出した操舵条件として、地上に落ちない操舵条件の初期値が1つでもある領域であるアクティブ領域ASを算出する。その他の初期値域は、地上に落ちない操舵条件がまったくない、言い換えれば、必ず地上に落ちる初期値域となる。そして、アクティブ域の下限として求められた最下限境界MLLを図1に示す境界線BLとする。こうして、安全マップを生成する。
安全マップが生成されたら、図6(b)に示すように、最下限境界MLLよりも下方の領域であるアクティブ領域外領域OASにおいて、アクティブ領域外領域OASにおける航空機1の高度、速度、姿勢などのあらゆるパラメータを初期値として、アクティブ領域外領域OASにおける任意の点からその後のあらゆる操舵条件を基に、運動方程式やそのモデルを用いて、その後の航空機1のあらゆる運動を算出する(S4)。ここでは、航空機1はその後かならず地面に落ちることとなる。また、アクティブ領域外領域OASは、図1に示すパッシブ領域PSとなる。
続いて、航空機1が行いうる運動のもと、航空機1が地面に落ちる際の速度および姿勢に関して、航空機1が取り得る速度および姿勢範囲を算出する(S5)。航空機1が地面に落ちる際の速度および姿勢に関して航空機1がとりうる範囲を算出したら、これらの範囲内の速度および姿勢で航空機1が落ちる際に、航空機1が地面に接触することによって航空機1が地面から受けるエネルギーを吸収する衝突安全性能設計を行う(S6)。
衝突安全性能設計を行う際には、航空機1が落ちる際の速度および姿勢の範囲に基づいて、地面から受けるエネルギーを乗員が生存できる程度以下のエネルギーまで低下させるための乗員保護構造を設計する。たとえば、機体衝撃エネルギー構造21や衝撃エネルギー吸収シート構造22のエネルギー吸収特性や、レイアウト、サイズなどを決定する。
こうして、衝突安全性能設計を行って、処理を終了する。このように、この手順による安全マップを生成した航空機の設計方法では、飛行性能を満たすための飛行性能設計を行った後、設計された飛行性能を発揮した際に生じると考えられる地面との衝突に対する衝突安全性能を確保するための衝突安全性能設計を行っている。このため、飛行性能を満たす観点と、航空機1の乗員の保護を図る観点の両方の観点に基づいて航空機1の設計を行うことができる。
また、この第1手順を変形した他の手順によって航空機1の設計を行うこともできる。図7は、安全マップを生成する第1手順の他の例を示すフローチャートである。図7に示すように、安全マップを生成するここでの手順では、上記の第1手順と同様、まず、所定の条件によって航空機1の飛行性能を設計し(S11)、次に、飛行性能に応じた航空機1の運動を算出する(S12)。続いて、最下限境界MLLを算出し(S13)、安全マップを生成する。その後、アクティブ領域外領域OASにおけるその後の航空機1のあらゆる運動を算出する(S14)。ここまでは、上記の手順と同様である。
それから、アクティブ領域外領域OASにおける航空機1の高度、速度、姿勢などのあらゆるパラメータを初期値として、あらゆる操舵条件で計算した結果から、地面衝突時における最も速度が低くかつ姿勢が基本姿勢に最も近くなる運動を算出する(S15)。ここでの基本姿勢とは、たとえば地面に対してピッチ・ロール・ヨー方向にゼロとなる姿勢である。
それから、地面衝突時における最も速度が低くかつ姿勢が基本姿勢に最も近くなる運動のもと、航空機1が地面に落ちる際の速度および姿勢に関して、航空機1が取り得る速度および姿勢範囲を算出する(S16)。ここでの算出は、図5に示すフローチャートのステップS5と同様にして行われる。それから、これらの範囲内の速度および姿勢で航空機1が落ちる際に、航空機1が地面に接触することによって航空機1が地面から受けるエネルギーを吸収する衝突安全性能設計を行い(S17)、処理を終了する。
この手順では、上記の手順と同様、飛行性能を満たすための飛行性能設計を行った後、設計された飛行性能を発揮した際に生じると考えられる地面との衝突に対する衝突安全性能を確保するための衝突安全性能設計を行っている。このため、飛行性能を満たす観点と、航空機1の乗員の保護を図る観点の両方の観点に基づいて航空機1の設計を行うことができる。衝突安全性能設計を行う際に、地面衝突時における最も速度が低くかつ姿勢が基本姿勢に最も近くなる運動の算出結果を用いている。このため、衝突エネルギーをより好適に吸収する衝突安全性能設計を行うことができる。
次に、安全マップを生成する第2手順について説明する。図8は、安全マップを生成する第2手順を示すフローチャートである。第1手順で安全マップを生成する際には、図8に示すように、まず、所定の条件によって航空機1の衝突安全性能設計を行う(S21)。ここでの衝突安全性能を設計するための所定の条件は、飛行性能についての条件を含まず、たとえば航空機1の総重量やコスト、商品性や材料入手の容易性などの条件を定めて、この条件を満たすように衝突性能を設計する。衝突安全性能設計では、たとえば、機体衝撃エネルギー構造21や衝撃エネルギー吸収シート構造22のエネルギー吸収特性や、レイアウト、サイズなどを決定する。
次に、衝突安全性能設計の結果に基づいて、最上限境界MULを算出する(S22)。最上限境界MULを算出するにあたっては、図9(a)に示すように、衝突安全性能を発揮するパッシブ領域PSを設定する。パッシブ領域PSは、航空機1が落ちた際に航空機1が地面から受けるエネルギーを、乗員に乗員が生存できる程度以下のエネルギーまで低下させることができる領域に設定する。そして、算出した最上限境界MULを図1に示す境界線BLとする。こうして安全マップを生成する。
最上限境界MULを算出し、安全マップを生成したら、図9(b)に示すように、最上限境界MULよりも上方の領域であるパッシブ領域外領域OPSにおいて、パッシブ領域外領域OPSにおける航空機1の高度、速度、姿勢などのあらゆるパラメータを初期値として、その後のあらゆる操舵条件を基に、運動方程式やそのモデルを用いて、その後の航空機1のあらゆる運動を算出する(S23)。パッシブ領域外領域OPSは、図1に示すアクティブ領域となる。
その後、航空機1の飛行性能を設定する(S24)ここでは、パッシブ領域外領域OPSにおける航空機1の運動を行うことができるように航空機1の飛行性能を設計する。航空機1の飛行性能は、エンジンの出力や主翼、尾翼の諸元によって設計される。こうして、航空機1の飛行性能を設定した後、処理を終了する。
このように、この手順による安全マップを生成した航空機1の設計方法では、衝突安全性能を確保するための衝突安全性能設計を行った後、衝突安全性能を満たしながら、航空機1が飛行するにあたって求められる飛行性能を発揮しうる飛行性能設計を行う。このため、飛行性能を満たす観点と、航空機1の乗員の保護を図る観点の両方の観点に基づいて航空機1の設計を行うことができる。
続いて、安全マップの第2の態様について説明する。図10は、第2の安全マップを示す図である。図10に示すように、第2の安全マップには、アクティブ領域ASおよびパッシブ領域PSのほかに、実用範囲制限領域USが設定されている。実用範囲制限領域USは、飛行運用マニュアル、運動方程式やそのモデルを用いて導出し、初期状態値としてありえる範囲を絞り込んで生成する。また、実用範囲制限領域US以外の領域が本発明の飛行実用範囲となる。
航空機1は、通常飛行を行う前後に離着陸を行う。このため、図11に示すように、離陸時および着陸時に低高度の領域を高速度で飛行する。実用範囲制限領域USが設定されている低高度かつ高速度の領域は、航空機1が離着陸する際に生じる領域である。このため、実運用上、通常飛行中の航空機1がこの領域を飛行することはないことになる。
したがって、実運用を考慮し、飛行実用制限範囲制限を導出し、初期状態値とはなりえない領域として、実用範囲制限領域USを設定している。実用範囲制限領域USを設定することにより、飛行性能設計および衝突安全性能設計を簡略化することができ、容易に行うようにすることができる。アクティブ領域ASおよびパッシブ領域PSの設定については、第1の安全マップを生成する手順と同様の手順によることができる。
さらに、安全マップの第3の態様について説明する。図12は、第3の安全マップを示す図である。図12に示すように、第3の安全マップは、アクティブ領域ASおよびパッシブ領域PSのほかに、運用制限領域MSが設定されている。運用制限領域MSが設定されている境界線BLよりも下方であり、低高度かつ高速度の領域は、通常飛行では運用されない、たとえばアクロバット飛行などを行う場合にしかない領域である。このため、飛行性能設計の際には考慮されない領域であり、通常飛行を行う航空機1がこの領域を飛行することはないことになる。また、運用制限領域MS以外の領域が本発明の飛行性能運用範囲となる。
したがって、飛行運用範囲制限を導出し、初期状態値とはなりえない領域として、運用制限領域MSを設定している。運用制限領域MSを設定することにより、飛行性能設計および衝突安全性能設計を簡略化することができ、容易に行うようにすることができる。アクティブ領域ASおよびパッシブ領域PSの設定については、第1の安全マップを生成する手順と同様の手順によることができる。
続いて、安全マップの第4の態様について説明する。図13は、第4の安全マップを示す図である。図13に示すように、第4の安全マップには、アクティブ領域ASおよびパッシブ領域PSのほかに、第2の安全マップにおける実用範囲制限領域USおよび第3の安全マップにおける運用制限領域MSが設定されている。
第2の安全マップおよび第3の安全マップを生成する際に説明したように、航空機1が飛行する際には、航空機1の飛行がない実用範囲制限領域USおよび運用制限領域MSが生じる。したがって、実運用を考慮し、飛行実用制限範囲制限および飛行運用範囲制限を導出し、初期状態値とはなりえない領域として、実用範囲制限領域USおよび運用制限領域MSを設定している。実用範囲制限領域USを設定することにより、飛行性能設計および衝突安全性能設計を簡略化することができ、容易に行うようにすることができる。アクティブ領域ASおよびパッシブ領域PSの設定については、第1の安全マップを生成する手順と同様の手順によることができる。
さらに、安全マップの第5の態様について説明する。図14は、第5の安全マップを示す図である。図14に示すように、第5の安全マップには、図13に示す第4の安全マップと同様、アクティブ領域ASおよびパッシブ領域PSのほかに、第2の安全マップにおける実用範囲制限領域USおよび第3の安全マップにおける運用制限領域MSが設定されている。さらに、第5の安全マップには、プリクラッシュ領域CSが設定されている。
航空機1では、境界線BLの下側であっても、機体衝撃エネルギー構造21や衝撃エネルギー吸収シート構造22によって衝突安全性能を確保しようとすると、構造の複雑化や高コスト化が大きくなり、実現性が低くなることがある。特に、低速度かつ境界線BLよりも下側のうちの高度が高い領域でその傾向が顕著となる。
この点を加味して、低速度かつ境界線BLよりも下側のうちの高度が高い領域にプリクラッシュ領域CSを設定し、衝突安全性能を確保する。プリクラッシュ領域CSにおける衝突安全性能の設計には、追加デバイスを用いる。ここで用いられる追加デバイスとしては、図15(a)に示す瞬間ヨーモーメント発生装置となる瞬間追加翼構造30や図15(b)に示す機体用大型機体エアバッグ31などを用いることができる。このうち、瞬間追加翼構造30は、火薬や圧縮気体などで運動量を発生させるものである。
このように、プリクラッシュ領域CSを設定することにより、飛行性能設計および衝突安全性能設計を簡略化することができ、容易に行うようにすることができる。アクティブ領域ASおよびパッシブ領域PSの設定については、第1の安全マップを生成する手順と同様の手順によることができる。このように、追加デバイスを用いることにより、機体衝撃エネルギー構造21や衝撃エネルギー吸収シート構造22のみで衝突安全性能を確保する必要がなくなる。したがって、その分衝突安全性能設計の自由度を高くすることができる。
次に、本発明に係る安全マップの作成装置について説明する。図16(a)、(b)は、本発明に係る安全マップの生成装置のブロック構成図である。図16(a)に示す安全マップ生成装置4は、上記第1手順で安全マップを生成するものであり、図16(b)に示す安全マップ生成装置5は、上記第2手順で安全マップを生成するものである。
図16(a)に示すように、安全マップ生成装置4には、要求飛行性能入力手段41が接続されている。要求飛行性能入力手段41は、オペレータ等の安全マップの生成を行う者等が航空機1に要求される飛行性能を入力することができる装置である。また、安全マップ生成装置4は、飛行性能設計部42、境界線算出部43、および要求衝突安全性能算出部44を備えている。
飛行性能設計部42は、要求飛行性能入力手段41から入力された要求飛行性能に基づいて、航空機1の飛行性能を設計している。また、境界線算出部43は、飛行性能設計部42で算出された飛行性能に基づいて、図1に示す境界線BLとなる最下限境界MLLを算出する。要求衝突安全性能算出部44は、最下限境界MLLより下方の位置から航空機1が落ちた際の衝突安全を確保する衝突安全性能を算出する。この安全マップ生成装置4によって、図1に示す安全マップが算出される。
また、図16(b)に示すように、安全マップ生成装置5には、要求衝突安全性能入力手段51が接続されている。要求衝突安全性能入力手段51は、オペレータ等の安全マップの生成を行う者等が航空機1に要求される飛行性能を入力することができる装置である。また、安全マップ生成装置5は、衝突安全性能設計部52、境界線算出部53、および要求飛行性能算出部55を備えている。
衝突安全性能設計部52は、要求衝突安全性能入力手段51から入力された要求衝突安全性能に基づいて、航空機1の衝突安全性能を設計している。また、境界線算出部53は、衝突安全性能設計部52で算出された衝突安全性能に基づいて、図1に示す境界線BLとなる最上限境界MULを算出する。要求飛行性能算出部55は、最上限境界MULより上方の位置において、航空機1が運動を行うことができるように航空機1の飛行性能を算出する。この安全マップ生成装置5によって、図1に示す安全マップが算出される。
また、安全マップ生成装置としては、このようなオペレータの入力によることなく、航空機の実飛行に伴って安全マップを生成する装置とすることもできる。以下、その例について説明する。また、この安全マップ生成装置を搭載する航空機の例について合わせて説明する。図17は、他の例の安全マップ生成装置を搭載する航空機のブロック構成図である。本実施形態に係る安全マップ生成装置6は、航空機1に搭載されている。
図17に示すように、本実施形態に係る安全マップ生成装置6には、高度センサ61、速度センサ62、機体姿勢センサ63、および外乱取得手段64が接続されている。また、安全マップ生成装置6には、生成した安全マップを表示する表示手段65が接続されている。安全マップ生成装置6は、上記図16(a)に示す安全マップ生成装置4と同様の要求飛行性能算出部および境界線算出部を備えている。
高度センサ61は、航空機1の機体に取り付けられている。高度センサ61は、航空機の高度である機体高度を検出し、検出した機体高度を安全マップ生成装置6に送信している。速度センサ62は、航空機1の機体に取り付けられている。速度センサ62は、航空機の速度である機体速度を検出し、検出した機体速度を安全マップ生成装置6に送信している。機体姿勢センサ63は、航空機1の機体に取り付けられたジャイロセンサなどを備えている。機体姿勢センサ63は、航空機1の姿勢である機体姿勢を検出し、検出した機体姿勢を安全マップ生成装置6に送信している。
外乱取得手段64は、ATIS(Automatic Terminal Information Service)受信器などからなり、空港における管制塔からの対空送信等によって、風向き、風速、天候状態、雲の種類、その他の外乱情報を取得する。外乱取得手段64は、取得した外乱情報を安全マップ生成装置6に送信している。
安全マップ生成装置6においては、高度センサ61から送信される機体高度、速度センサ62から送信される機体速度、さらには機体姿勢センサ63から送信される機体姿勢に基づいて、安全マップを生成する。安全マップの生成手順は、図6に示すフローチャートの手順と同様にして行われる。また、安全マップ生成装置6では、複数の機体姿勢における安全マップを生成している。安全マップ生成装置6は、生成した安全マップを表示手段65に送信している。
表示手段65は、安全マップ生成装置6で生成された安全マップを表示可能なモニタを備えている。表示手段65には、安全マップ生成装置6から送信された安全マップが表示される。ここで、安全マップ生成装置6は、図18に示すように、表示手段65に対して、機体姿勢センサ63から送信される機体姿勢に応じた速度−高度の2次元の安全マップを送信する。
さらに、安全マップ生成装置6は、安全マップのほか、高度センサ61から送信された機体高度および速度センサ62から送信された機体速度を表示手段65に送信している。表示手段65には、安全マップ上に、現在の高度および速度の位置を示す高度−位置ポイントPが表示される。
このように、本例に係る安全マップ生成装置6では、航空機1が飛行している間に、機体高度、機体速度、機体姿勢などの情報を取得してこれらの情報を用いて安全マップを生成している。このため、オペレータ等が入力を行うことなく安全マップを生成できるので、安全マップを容易に生成することができる。
さらに、本例に係る航空機1では、安全マップを生成するとともに、生成した安全マップに基づく飛行制御を行うことができる。以下、その例について説明する。図19は、本実施形態に係る飛行体のブロック構成図である。図19に示すように、本実施形態に飛行体は、航空機制御装置7を備えている。航空機制御装置7には、図17に示す安全マップ生成装置5と同様に、高度センサ61、速度センサ62、機体姿勢センサ63、および外乱取得手段64が接続されている。また、航空機制御装置7には、表示手段65が接続されている。
さらに、航空機制御装置7は、飛行状態取得部71、安全マップ記憶部72、飛行制御量算出部73、および表示制御部74を備えている。飛行状態取得部71は、高度センサ61、速度センサ62、機体姿勢センサ63、および外乱取得手段64から送信される各情報に基づいて航空機1の飛行状態を算出して取得する。飛行状態取得部71は、取得した飛行状態を飛行制御量算出部73に出力する。
安全マップ記憶部72は、上記のいずれかの安全マップ生成装置で生成された安全マップを記憶している。安全マップ記憶部72は、飛行制御量算出部73からの読み出しに応じて、記憶している安全マップを飛行制御量算出部73に出力する。
飛行制御量算出部73は、飛行状態取得部71から出力された飛行状態および安全マップ記憶部72から読み出した安全マップに基づいて、航空機1の飛行制御の際の飛行制御量を算出する。飛行制御量算出部73は、算出した飛行制御量に基づいて、図2、図3、および図15に示す機体の各装置の制御を行う。さらに、飛行制御量算出部73は、算出した飛行量を飛行状態および安全マップとともに表示制御部74に出力する。
表示制御部74は、飛行制御量算出部73から出力される飛行制御量、飛行状態、および安全マップに基づいて、表示手段65の表示内容を決定する。ここでは、表示内容としては、安全マップや機体の状態、さらには、飛行制御が行われる旨の報知や警告等が決定される。表示制御部74は、決定した表示内容に基づいて表示手段65に対して表示信号を送信し、表示手段65の表示制御を行う。
本実施形態に係る航空機制御装置7においては、高度センサ61、速度センサ62、および機体姿勢センサ63から送信される各情報に基づいて、航空機1の現在の現在位置や飛行状態を取得して安全マップに参照し、安全マップ上における航空機1の位置を把握している。ここで、飛行制御量算出部73では、安全マップ上で航空機1の位置がアクティブ領域ASにある場合には、安全飛行状態を確保するアクティブ運用となる制御を行う。また、表示制御部74は、その旨を表示手段65に表示させる。
一方、航空機の位置が境界線BLより下方にある場合、飛行制御量算出部73は、安全マップ上における航空機1の位置がプリクラッシュ領域CSにある場合には、プリクラッシュ対応と判断し、衝撃の小さい地面衝突状態に航空機1を導くようにプリクラッシュ運用となる制御を行う。また、追加デバイスを必要とする際には、追加デバイスの準備を行うなどのプリクラッシュ運用となる制御を行う。さらに、表示制御部74は、これらを行う旨を表示手段65に表示させる。こうして、航空機の運用制御を行うこともできる。
さらに、安全マップ記憶部72に代えて、図16、図17に示す安全マップ生成装置を搭載する態様とすることができる。この場合には、安全マップ生成装置で生成された安全マップに基づく制御が行われる。また、飛行制御量算出部73は、図2、図3、および図15に示す機体の各装置の制御を行う代わりに、またはこれと並行して、航空機1の通る経路を設定し、設定した経路を表示制御部74に出力する態様とすることもできる。この場合、表示制御部74は、出力された経路を表示手段65に表示させる制御を行う。
このように、本実施形態に係る航空機1においては、航空機制御装置7が飛行状態を取得し、取得した飛行状態を安全マップに参照して航空機1の制御を行っている。このため、安全マップの種類に応じて航空機1を制御することができるので、航空機1を好適に制御することができる。
他方、実際に航空機1が飛行状態にある場合には、突風などの外乱がある場合には、飛行性能も変化することとなり、安全マップを修正することが求められる。このような突風を考慮して安全マップを修正することもできる。突風を考慮する際には、たとえば、図20に示す突風モデルを用いて、各高度における突風速度と確率を把握することもできる。かかる例では、上記の安全マップにおいて、突風を受けた時に前後の状態値変化を運動方程式やモデルを用いて算出する。図21に示す安全マップMは、機体姿勢ごとに生成された速度−高度の2次元安全マップM1〜M5を備えている。2次元マップは1枚でもよし、2枚以上の複数枚でもよい。
そして、図21に示すように、突風後の状態値をベースとなる安全マップとし、安全マップ上で突風前状態値を包絡する。この状態値は、確率論でまとめることができる。そして、突風後の境界線BL、アクティブ領域AS、パッシブ領域PS、さらにはプリクラッシュ領域CSを表現する。図21に示す例では、σ=3の場合の例を突風後の状態を破線によって示している。突風が生じる可能性が高い場合には、境界線BLを上方に移動させ、パッシブ領域PSが広くなり、アクティブ領域ASが狭くなるようにする。それから、航空機1が飛行状態にある場合に、このような突風を考慮した安全マップを生成することにより、突風確率を考慮した運用制御を行うことができる。
さらに、航空機1の飛行場所よっては、飛行特性の変化は小さいものの、不時着陸した際に航空機1に与える衝撃の大きさが異なることとなる。たとえば、図22に示すように、航空機1の不時着陸候補として、岩場G、森W、住宅地J、平地Hがあるとする。この場合、不時着陸時における航空機1に対する衝撃は、平地Hが最も小さく、岩場Gは大きくなることとなる。また、住宅地Jには、不時着陸を避ける必要がある。
航空機1では、外乱取得手段54によって航空機1の位置を把握するとともに、飛行中の地形情報を監視している。そして、安全マップの各点において、航空機1が不時着陸したときに機体衝撃エネルギー構造21や衝撃エネルギー吸収シート構造22によって衝撃吸収できる範囲内の状態にあり、到達可能な範囲を運動方程式やモデル等を用いて算出し、到達可能範情報を記憶しておく。その一方で、航空機1は、図23に示すように、航空機1が不時着陸を行うことができる場所の候補としての地面不時着陸場所の候補である地面不時着陸候補を複数地面不時着陸候補データベースに記憶しておく。
そして、飛行運用時にリアルタイムで個々の飛行地点において、地面衝突場所候補データベースに基づいて、安全マップ上の到達可能範囲から地面不時着陸候補に到達できる初期状態値を逆算し、その結果分だけアクティブ領域やプリクラッシュ領域にマージンを持たせた安全マップ生成することができる。さらには、この安全マップを用いることにより、不時着陸が必要となるとき航空機に与える衝撃が小さくなる着陸候補場所に到達させやすくすることができる。
さらに、上記の安全マップ生成装置によって生成した安全マップを用いて航空機を設計する手順について説明する。図24は、航空機の設計方法の概要を示す説明図である。図24に示すように、航空機の設計工程としては、安全保障確保工程、安全達成手段決定工程、飛行諸元設計工程、および衝突安全性能設計工程がある。
航空機の設計にあたっては、まず、安全保障確保工程において、上記の安全マップ生成装置を用いて安全マップを生成する。安全マップを生成したら、飛行性能と機体衝突安全性能との設計を行うが、ここでは、飛行性能と衝突安全性能との解は無数にある。安全達成手段決定工程では、飛行性能と衝突安全性能との組み合わせについて、評価関数を用いて安全達成手段を備える航空機を設計する。ここでの評価関数としては、機体の重量、製造コスト、その他の商品性を例示することができる。
そして、評価関数を用いた評価結果が最も高い、あるいは評価結果が高い方のうちのいずれかの飛行性能と衝突安全性能との組み合わせ等として、飛行性能と衝突安全性能とを決定する。こうして決定した飛行性能に基づいて、飛行性能設計工程において、飛行性能諸元を決定し、衝突安全性能設計工程において、機体の安全性能を決定する。飛行性能諸元としては、エンジン出力や主翼、尾翼の大きさなどがあり、衝突安全性能構造としては、機体衝撃エネルギー構造や衝撃エネルギー吸収シート構造の性状などがある。
このように、安全マップを用いて飛行性能諸元や衝突安全性能構造を設計することにより、相反する関係にある飛行性能諸元や衝突安全性能構造を容易に両立させるようにして航空機を設計することができる。
また、飛行体として、ホバークラフト等の走行性能を有する航空機(以下、「走行可能航空機」という)の設計を行うこともできる。図25は、走行可能航空機の設計方法の概要を示す説明図である。図25に示すように、走行可能航空機の設計工程としては、安全保障確保工程、安全達成手段決定工程、飛行諸元設計工程、および衝突安全性能設計工程のほか、自動車法規確保行程がある。
走行可能航空機の設計にあたっては、まず、安全保障確保工程において、上記の安全マップ生成装置を用いて安全マップを生成する。ただし、安全マップとしては、走行可能航空機では、地上を走行することが考えられるので、図26に示すように、安全マップとして、車両走行用プリクラッシュ領域XSを設定する。この車両走行用プリクラッシュ領域XSについては、操縦席におけるエアバッグ等によって衝突安全性能を確保する。
さらに、自動車法規確保工程において、自動車法規を確保する条件を設定する。安全マップを生成し、自動車法規を確保する条件を設定したら、飛行性能と機体衝突安全性能との設計を行う。このとき、安全マップから、自動車法規を確保する条件を外れる領域を除外する。また、航空機の設計の場合と同様、飛行性能と衝突安全性能との解は無数にある。安全達成手段決定工程では、飛行性能と衝突安全性能との組み合わせについて、評価関数を用いて安全達成手段を備える航空機を設計する。ここでの評価関数としては、機体の重量、製造コスト、その他の商品性を例示することができる。ただし、走行可能航空機独自の評価関数の解が存在する。たとえば、地面衝突時に正突する姿勢となる解である。
そして、評価関数を用いた評価結果が最も高い、あるいは評価結果が高い方のうちのいずれかの飛行性能と衝突安全性能との組み合わせ等として、飛行性能と衝突安全性能とを決定する。こうして決定した飛行性能に基づいて、飛行性能設計工程において、飛行性能諸元を決定し、衝突安全性能設計工程において、機体の安全性能を決定する。飛行性能諸元としては、エンジン出力や主翼、尾翼の大きさなどがあり、衝突安全性能構造としては、機体衝撃エネルギー構造や衝撃エネルギー吸収シート構造の性状などがある。
このように、安全マップを用いて飛行性能諸元や衝突安全性能構造を設計することにより、相反する関係にある飛行性能諸元や衝突安全性能構造を容易に両立させるようにして航空機を設計することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では、姿勢等を「0」とした安全マップを生成している例があるが、それらの例に対しても、姿勢等を複数設定した安全マップを設定する態様とすることもできる。
本発明は、飛行性能を満たす観点と、飛行体の乗員の保護を図る観点の両方の観点に基づいて飛行体の設計を行うことができる飛行体設計方法およびこれに用いる安全マップ生成装置、さらには設計された飛行体に利用することができる。
1…航空機、4〜6…安全マップ生成装置、7…航空機制御装置、10…機体本体、11…プロペラ、12…主翼、13…エルロン、14…フラップ、15…水平尾翼、16…エレベータ、17…垂直尾翼、18…ラダー、21…機体衝撃エネルギー構造、22…衝撃エネルギー吸収シート構造、30…瞬間追加翼構造、31…機体用大型機体エアバッグ、AS…アクティブ領域、BL…境界線、CS…プリクラッシュ領域、M…安全マップ、MS…運用制限領域、PS…パッシブ領域、US…実用範囲制限領域、XS…車両走行用プリクラッシュ領域。
Claims (12)
- 飛行体の飛行性能を設計する飛行性能設計ステップと、
前記飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる最下限境界を前記飛行体の飛行性能に基づいて算出する最下限境界算出ステップと、
前記最下限境界より下方の領域における任意の点を始点とし、前記飛行体が地面に衝突する際の地面衝突状態値を各々算出する地面衝突状態値算出ステップと、
算出された地面衝突状態値に基づいて、前記飛行体の衝突安全性能を算出する衝突安全性能算出ステップと、
を含む工程によって安全マップを生成し、
前記安全マップに基づいて前記飛行体の設計を行うことを特徴とする飛行体設計方法。 - 飛行体の衝突安全性能を設計する衝突安全性能設計ステップと、
前記衝突安全性能に基づいて前記衝突安全性能を満たす最上限境界を算出する最上限境界算出ステップと、
前記最上限境界より上方の領域における任意の点を始点とし、前記飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる飛行性能を算出する飛行性能算出ステップと、
を含む工程によって安全マップを生成し、
前記安全マップに基づいて前記飛行体の設計を行うことを特徴とする飛行体設計方法。 - 前記飛行体が実用的に飛行する飛行実用範囲をあらかじめ設定し、
前記任意の点は、前記飛行実用範囲内の領域に設定される請求項1または請求項2に記載の飛行体設計方法。 - 前記飛行体の侵入が可能となる飛行性能運用範囲をあらかじめ設定し、
前記任意の点は、前記飛行性能運用範囲内の領域に設定される請求項1または請求項2に記載の飛行体設計方法。 - 飛行体が実用的に飛行する飛行実用範囲および前記飛行体の侵入が可能となる飛行性能運用範囲をあらかじめ設定し、
前記飛行体の飛行性能を設計する飛行性能設計ステップと、
前記飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる最下限境界を前記飛行体の飛行性能に基づいて算出する最下限境界算出ステップと、
前記最下限境界より下方の領域における任意の点を始点とし、前記飛行体が地面に衝突する際の地面衝突状態値を各々算出する地面衝突状態値算出ステップと、
算出された地面衝突状態値に基づいて、前記飛行体に要求される衝突安全性能を算出する衝突安全性能算出ステップと、を行い、
または、
前記飛行体の衝突安全性能を設計する衝突安全性能設計ステップと、
前記衝突安全性能に基づいて前記衝突安全性能を満たす最上限境界を算出する最上限境界算出ステップと、
前記最上限境界より上方の領域における任意の点を始点とし、前記飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる飛行性能を算出する飛行性能算出ステップと、を行う工程によって安全マップを生成し、
前記安全マップに基づいて前記飛行体の設計を行うにあたり、
前記任意の点は、前記飛行実用範囲内の領域および前記飛行性能運用範囲内の領域に設定されることを特徴とする飛行体設計方法。 - 前記飛行実用範囲内の領域と前記飛行性能運用範囲内の領域とが重なる領域内における任意の点について、飛行性能または衝突安全性能を算出する性能算出ステップと、
算出された飛行性能または衝突安全性能をあらかじめ設定された基準値と比較する比較ステップと、
前記比較ステップにおける比較結果に基づいて、追加安全デバイスが必要となる領域を特定する安全デバイス追加領域特定ステップと、
をさらに含む工程によって安全マップを生成し、
前記安全マップに基づいて前記飛行体の設計を行う請求項5に記載の飛行体設計方法。 - 飛行体の飛行性能を設計する飛行性能設計手段と、
前記飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる最下限境界を前記飛行体の飛行性能に基づいて算出する最下限境界算出手段と、
前記最下限境界より下方の領域における任意の点を始点とし、前記飛行体が地面に衝突する際の地面衝突状態値を各々算出する地面衝突状態値算出手段と、
算出された地面衝突状態値に基づいて、前記飛行体の衝突安全性能を算出する衝突安全性能算出手段と、
によって安全マップを生成することを特徴とする安全マップ生成装置。 - 飛行体の衝突安全性能を設計する衝突安全性能設計手段と、
前記衝突安全性能に基づいて前記衝突安全性能を満たす最上限境界を算出する最上限境界算出手段と、
前記最上限境界より上方の領域における任意の点を始点とし、前記飛行体の高度が低下した際に地面衝突を回避して飛行復帰可能となる飛行性能を算出する飛行性能算出手段と、
によって安全マップを生成することを特徴とする安全マップ生成装置。 - 請求項7または請求項8に記載の安全マップ生成装置によって生成された安全マップを記憶する安全マップ記憶手段と、
飛行体の飛行状態を検出する飛行状態検出手段と、
前記安全マップ生成装置で生成された安全マップを表示するとともに、飛行状態検出手段で検出された現在の前記飛行体の飛行状態を前記安全マップ上に表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする飛行体。 - 請求項7または請求項8に記載の安全マップ生成装置によって生成された安全マップを記憶する安全マップ記憶手段と、
飛行体の飛行状態を検出する飛行状態検出手段と、
前記飛行状態検出手段で検出された現在の前記飛行体の飛行状態を前記安全マップ記憶手段に記憶された安全マップに参照した結果に基づいて、前記飛行体の飛行支援を行う飛行支援装置と、
を備えることを特徴とする飛行体。 - 前記飛行体の飛行領域の各高度における所定風速を超える突風が発生する確率を算出する突風発生確率算出手段と、
前記安全マップ記憶手段に記憶された安全マップの各点における前記所定風速を超える突風が発生したときの前記飛行体の飛行状態の変化量を算出する飛行状態変化算出手段と、
前記飛行状態変化算出手段で算出された飛行状態の変化量に基づいて、前記安全マップにおける最下限境界または最上限境界の移動量である境界移動量を算出する境界移動量算出手段と、をさらに備え、
前記飛行支援装置は、前記安全マップ記憶手段に記憶された安全マップにおける最下限境界または最上限境界を、前記境界移動量算出手段によって算出された境界移動量で移動させた境界移動安全マップに前記飛行状態検出手段で検出された現在の前記飛行体の飛行状態を参照した結果に基づいて、前記飛行体の飛行支援を行う請求項10に記載の飛行体。 - 前記飛行体の不時着陸時における着陸候補場所の情報を記憶する着陸候補場所記憶手段と、
前記着陸候補場所における前記飛行体が不時着陸した際の前記飛行体の着陸状態が所定の着陸状態より高くなる状態で到達可能となる到達可能範囲を算出する到達可能範囲算出手段と、をさらに備え、
前記飛行支援装置は、前記着陸候補場所記憶手段に記憶された着陸候補場所および前記到達可能範囲算出手段で算出された到達可能範囲に基づいて、前記飛行体の飛行支援を行う請求項10または請求項11に記載の飛行体。
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