次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を説明する。
図1は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示す全体構成図である。この図1に示すように、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)1は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット4を備えている。
燃料電池モジュール2は、ハウジング6を備え、このハウジング6内部には、断熱材(図示せず但し断熱材は必須の構成ではなく、なくても良いものである。)を介して密封空間8が形成されている。なお、断熱材は設けないようにしても良い。この密閉空間8の下方部分である発電室10には、燃料ガスと酸化剤(空気)とにより発電反応を行う燃料電池セル集合体12が配置されている。この燃料電池セル集合体12は、10個の燃料電池セルスタック14(図5参照)を備え、この燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16(図4参照)から構成されている。このように、燃料電池セル集合体12は、160本の燃料電池セルユニット16を有し、これらの燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されている。
燃料電池モジュール2の密封空間8の上述した発電室10の上方には、燃焼室18が形成され、この燃焼室18で、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと残余の酸化剤(空気)とが燃焼し、排気ガスを生成するようになっている。
また、この燃焼室18の上方には、燃料ガスを改質する改質器20が配置され、前記残余ガスの燃焼熱によって改質器20を改質反応が可能な温度となるように加熱している。さらに、この改質器20の上方には、改質器20の熱を受けて空気を加熱し、改質器20の温度低下を抑制するための空気用熱交換器22が配置されている。
次に、補機ユニット4は、水道等の水供給源24からの水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク26と、この貯水タンクから供給される水の流量を調整する水流量調整ユニット28(モータで駆動される「水ポンプ」等)を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源30から供給された燃料ガスを遮断するガス遮断弁32と、燃料ガスから硫黄を除去するための脱硫器36と、燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット38(モータで駆動される「燃料ポンプ」等)を備えている。さらに、補機ユニット4は、空気供給源40から供給される酸化剤である空気を遮断する電磁弁42と、空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気流量調整ユニット45(モータで駆動される「空気ブロア」等)と、改質器20に供給される改質用空気を加熱する第1ヒータ46と、発電室に供給される発電用空気を加熱する第2ヒータ48とを備えている。これらの第1ヒータ46と第2ヒータ48は、起動時の昇温を効率よく行うために設けられているが、省略しても良い。
次に、燃料電池モジュール2には、排気ガスが供給される温水製造装置50が接続されている。この温水製造装置50には、水供給源24から水道水が供給され、この水道水が排気ガスの熱により温水となり、図示しない外部の給湯器の貯湯タンクへ供給されるようになっている。
また、燃料電池モジュール2には、燃料ガスの供給量等を制御するための制御ボックス52が取り付けられている。
さらに、燃料電池モジュール2には、燃料電池モジュールにより発電された電力を外部に供給するための電力取出部(電力変換部)であるインバータ54が接続されている。
次に、図2及び図3により、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールの内部構造を説明する。図2は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールを示す側面断面図であり、図3は、図2のIII-III線に沿って断面図である。
図2及び図3に示すように、燃料電池モジュール2のハウジング6内の密閉空間8には、上述したように、下方から順に、燃料電池セル集合体12、改質器20、空気用熱交換器22が配置されている。
改質器20は、その上流端側に純水を導入するための純水導入管60と改質される燃料ガスと改質用空気を導入するための被改質ガス導入管62が取り付けられ、また、改質器20の内部には、上流側から順に、蒸発部20aと改質部20bを形成され、これらの蒸発部20aと改質部20bには改質触媒が充填されている。この改質器20に導入された水蒸気(純水)が混合された燃料ガス及び空気は、改質器20内に充填された改質触媒により改質される。改質触媒としては、アルミナの球体表面にニッケルを付与したものや、アルミナの球体表面にルテニウムを付与したものが適宜用いられる。
この改質器20の下流端側には、燃料ガス供給管64が接続され、この燃料ガス供給管64は、下方に延び、さらに、燃料電池セル集合体12の下方に形成されたマニホールド66内で水平に延びている。燃料ガス供給管64の水平部64aの下方面には、複数の燃料供給孔64bが形成されており、この燃料供給孔64bから、改質された燃料ガスがマニホールド66内に供給される。
このマニホールド66の上方には、上述した燃料電池セルスタック14を支持するための貫通孔を備えた下支持板68が取り付けられており、マニホールド66内の燃料ガスが、燃料電池セルユニット16内に供給される。
次に、改質器20の上方には、空気用熱交換器22が設けられている。この空気用熱交換器22は、上流側に空気集約室70、下流側に2つの空気分配室72を備え、これらの空気集約室70と空気分配室72は、6個の空気流路管74により接続されている。ここで、図3に示すように、3個の空気流路管74が一組(74a,74b,74c,74d,74e,74f)となっており、空気集約室70内の空気が各組の空気流路管74からそれぞれの空気分配室72へ流入する。
空気用熱交換器22の6個の空気流路管74内を流れる空気は、燃焼室18で燃焼して上昇する排気ガスにより予熱される。
空気分配室72のそれぞれには、空気導入管76が接続され、この空気導入管76は、下方に延び、その下端側が、発電室10の下方空間に連通し、発電室10に余熱された空気を導入する。
次に、マニホールド66の下方には、排気ガス室78が形成されている。また、図3に示すように、ハウジング6の長手方向に沿った面である前面6aと後面6bの内側には、上下方向に延びる排気ガス通路80が形成され、この排気ガス室通路80の上端側は、空気用熱交換器22が配置された空間と連通し、下端側は、排気ガス室78と連通している。また、排気ガス室78の下面のほぼ中央には、排気ガス排出管82が接続され、この排気ガス排出管82の下流端は、図1に示す上述した温水製造装置50に接続されている。
図2に示すように、燃料ガスと空気との燃焼を開始するための点火装置83が、燃焼室18に設けられている。
次に図4により燃料電池セルユニット16について説明する。図4は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
図4に示すように、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の上下方向端部にそれぞれ接続された内側電極端子86とを備えている。
燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を形成する円筒形の内側電極層90と、円筒形の外側電極層92と、内側電極層90と外側電極層92との間にある電解質層94とを備えている。この内側電極層90は、燃料ガスが通過する燃料極であり、(−)極となり、一方、外側電極層92は、空気と接触する空気極であり、(+)極となっている。
燃料電池セル16の上端側と下端側に取り付けられた内側電極端子86は、同一構造であるため、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86について具体的に説明する。内側電極層90の上部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、導電性のシール材96を介して内側電極層90の外周面90bと接続され、さらに、内側電極層90の上端面90cとは直接接触することにより、内側電極層90と電気的に接続されている。内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する燃料ガス流路98が形成されている。
内側電極層90は、例えば、Niと、CaやY、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニアとの混合体、Niと、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリアとの混合体、Niと、Sr、Mg、Co、Fe、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレードとの混合体、の少なくとも一種から形成される。
電解質層94は、例えば、Y、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニア、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリア、Sr、Mgから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレート、の少なくとも一種から形成される。
外側電極層92は、例えば、Sr、Caから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンマンガナイト、Sr、Co、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンフェライト、Sr、Fe、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンコバルタイト、銀、などの少なくとも一種から形成される。
次に図5により燃料電池セルスタック14について説明する。図5は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
図5に示すように、燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16を備え、これらの燃料電池セルユニット16の下端側及び上端側が、それぞれ、セラミック製の下支持板68及び上支持板100により支持されている。これらの下支持板68及び上支持板100には、内側電極端子86が貫通可能な貫通穴68a及び100aがそれぞれ形成されている。
さらに、燃料電池セルユニット16には、集電体102及び外部端子104が取り付けられている。この集電体102は、燃料極である内側電極層90に取り付けられた内側電極端子86と電気的に接続される燃料極用接続部102aと、空気極である外側電極層92の外周面全体と電気的に接続される空気極用接続部102bとにより一体的に形成されている。空気極用接続部102bは、外側電極層92の表面を上下方向に延びる鉛直部102cと、この鉛直部102cから外側電極層92の表面に沿って水平方向に延びる多数の水平部102dとから形成されている。また、燃料極用接続部102aは、空気極用接続部102bの鉛直部102cから燃料電池セルユニット16の上下方向に位置する内側電極端子86に向って斜め上方又は斜め下方に向って直線的に延びている。
さらに、燃料電池セルスタック14の端(図5では左端の奥側及び手前側)に位置する2個の燃料電池セルユニット16の上側端及び下側端の内側電極端子86には、それぞれ外部端子104が接続されている。これらの外部端子104は、隣接する燃料電池セルスタック14の端にある燃料電池セルユニット16の外部端子104(図示せず)に接続され、上述したように、160本の燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されるようになっている。
次に図6により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)に取り付けられたセンサ類等について説明する。図6は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示すブロック図である。
図6に示すように、固体電解質型燃料電池1は、制御部110を備え、この制御部110には、使用者が操作するための「ON」や「OFF」等の操作ボタンを備えた操作装置112、発電出力値(ワット数)等の種々のデータを表示するための表示装置114、及び、異常状態のとき等に警報(ワーニング)を発する報知装置116が接続されている。なお、この報知装置116は、遠隔地にある管理センタに接続され、この管理センタに異常状態を通知するようなものであっても良い。
次に、制御部110には、以下に説明する種々のセンサからの信号が入力されるようになっている。
先ず、可燃ガス検出センサ120は、ガス漏れを検知するためのもので、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4に取り付けられている。
CO検出センサ122は、本来排気ガス通路80等を経て外部に排出される排気ガス中のCOが、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4を覆う外部ハウジング(図示せず)へ漏れたかどうかを検知するためのものである。
貯湯状態検出センサ124は、図示しない給湯器におけるお湯の温度や水量を検知するためのものである。
電力状態検出センサ126は、インバータ54及び分電盤(図示せず)の電流及び電圧等を検知するためのものである。
発電用空気流量検出センサ128は、発電室10に供給される発電用空気の流量を検出するためのものである。
改質用空気流量センサ130は、改質器20に供給される改質用空気の流量を検出するためのものである。
燃料流量センサ132は、改質器20に供給される燃料ガスの流量を検出するためのものである。
水流量センサ134は、改質器20に供給される純水(水蒸気)の流量を検出するためのものである。
水位センサ136は、純水タンク26の水位を検出するためのものである。
圧力センサ138は、改質器20の外部の上流側の圧力を検出するためのものである。
排気温度センサ140は、温水製造装置50に流入する排気ガスの温度を検出するためのものである。
発電室温度センサ142は、図3に示すように、燃料電池セル集合体12の近傍の前面側と背面側に設けられ、燃料電池セルスタック14の近傍の温度を検出して、燃料電池セルスタック14(即ち燃料電池セル84自体)の温度を推定するためのものである。
燃焼室温度センサ144は、燃焼室18の温度を検出するためのものである。
排気ガス室温度センサ146は、排気ガス室78の排気ガスの温度を検出するためのものである。
改質器温度センサ148は、改質器20の温度を検出するためのものであり、改質器20の入口温度と出口温度から改質器20の温度を算出する。
外気温度センサ150は、固体電解質型燃料電池(SOFC)が屋外に配置された場合、外気の温度を検出するためのものである。また、外気の湿度等を測定するセンサを設けるようにしても良い。
これらのセンサ類からの信号は、制御部110に送られ、制御部110は、これらの信号によるデータに基づき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38、改質用空気流量調整ユニット44、発電用空気流量調整ユニット45に、制御信号を送り、これらのユニットにおける各流量を制御するようになっている。
また、制御ユニット110は、インバータ54に、制御信号を送り、電力供給量を制御するようになっている。
次に図7により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)による起動時の動作を説明する。図7は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の起動時の動作を示すタイムチャートである。
最初は、燃料電池モジュール2を温めるために、無負荷状態で、即ち、燃料電池モジュール2を含む回路を開いた状態で、運転を開始する。このとき、回路に電流が流れないので、燃料電池モジュール2は発電を行わない。
先ず、改質用空気流量調整ユニット44から改質用空気を第1ヒータ46を経由して燃料電池モジュール2の改質器20へ供給する。また、同時に、発電用空気流量調整ユニット45から発電用空気を第2ヒータ48を経由して燃料電池モジュール2の空気用熱交換器22へ供給し、この発電用空気が、発電室10及び燃焼室18に到達する。
この直ぐ後、燃料流量調整ユニット38からも燃料ガスが供給され、改質用空気が混合された燃料ガスが、改質器20及び燃料電池セルスタック14、燃料電池セルユニット16を通過して、燃焼室18に到達する。
次に、点火装置83により着火して、燃焼室18にある燃料ガスと空気(改質用空気及び発電用空気)とを燃焼させる。この燃料ガスと空気との燃焼により排気ガスが生じ、この排気ガスにより、発電室10が暖められ、また、排気ガスが燃料電池モジュール2の密封空間8内を上昇する際、改質器20内の改質用空気を含む燃料ガスを暖めると共に、空気熱交換器22内の発電用空気も暖める。
このとき、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、改質用空気が混合された燃料ガスが改質器20に供給されているので、改質器20において、式(1)に示す部分酸化改質反応POXが進行する。この部分酸化改質反応POXは、発熱反応であるので、起動性が良好となる。また、この昇温した燃料ガスが燃料ガス供給管64により燃料電池セルスタック14の下方に供給され、これにより、燃料電池セルスタック14が下方から加熱され、また、燃焼室18も燃料ガスと空気が燃焼して昇温されているので、燃料電池セルスタック14は、上方からも加熱され、この結果、燃料電池セルスタック14は、上下方向において、ほぼ均等に昇温可能となっている。この部分酸化改質反応POXが進行しても、燃焼室18では継続して燃料ガスと空気との燃焼反応が持続される。
CmHn+xO2 → aCO2+bCO+cH2 (1)
部分酸化改質反応POXの開始後、改質器温度センサ148により改質器20が所定温度(例えば、600℃)になったことを検知したとき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、燃料ガスと改質用空気と水蒸気とを予め混合したガスを改質器20に供給する。このとき、改質器20においては、上述した部分酸化改質反応POXと後述する水蒸気改質反応SRとが併用されたオートサーマル改質反応ATRが進行する。このオートサーマル改質反応ATRは、熱的に内部バランスが取れるので、改質器20内では熱的に自立した状態で反応が進行する。即ち、酸素(空気)が多い場合には部分酸化改質反応POXによる発熱が支配的となり、水蒸気が多い場合には水蒸気改質反応SRによる吸熱反応が支配的となる。この段階では、既に起動の初期段階は過ぎており、発電室10内がある程度の温度まで昇温されているので、吸熱反応が支配的であっても大幅な温度低下を引き起こすことはない。また、オートサーマル改質反応ATRが進行中も、燃焼室18では燃焼反応が継続して行われている。
式(2)に示すオートサーマル改質反応ATRの開始後、改質器温度センサ146により改質器20が所定温度(例えば、700℃)になったことを検知したとき、改質用空気流量調整ユニット44による改質用空気の供給を停止すると共に、水流量調整ユニット28による水蒸気の供給を増加させる。これにより、改質器20には、空気を含まず燃料ガスと水蒸気のみを含むガスが供給され、改質器20において、式(3)の水蒸気改質反応SRが進行する。
CmHn+xO2+yH2O → aCO2+bCO+cH2 (2)
CmHn+xH2O → aCO2+bCO+cH2 (3)
この水蒸気改質反応SRは吸熱反応であるので、燃焼室18からの燃焼熱と熱バランスをとりながら反応が進行する。この段階では、燃料電池モジュール2の起動の最終段階であるため、発電室10内が十分高温に昇温されているので、吸熱反応が進行しても、発電室10が大幅な温度低下を招くこともない。また、水蒸気改質反応SRが進行しても、燃焼室18では継続して燃焼反応が進行する。
このようにして、燃料電池モジュール2は、点火装置83により点火した後、部分酸化改質反応POX、オートサーマル改質反応ATR、水蒸気改質反応SRが、順次進行することにより、発電室10内の温度が徐々に上昇する。次に、発電室10内及び燃料電池セル84の温度が燃料電池モジュール2を安定的に作動させる定格温度よりも低い所定の発電温度に達したら、燃料電池モジュール2を含む回路を閉じ、燃料電池モジュール2による発電を開始し、それにより、回路に電流が流れる。燃料電池モジュール2の発電により、燃料電池セル84自体も発熱し、燃料電池セル84の温度も上昇する。この結果、燃料電池モジュール2を作動させる定格定格温度、例えば、600℃〜800℃になる。
この後、定格温度を維持するために、燃料電池セル84で消費される燃料ガス及び空気の量よりも多い燃料ガス及び空気を供給し、燃焼室18での燃焼を継続させる。なお、発電中は、改質効率の高い水蒸気改質反応SRで発電が進行する。
次に、図8により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を説明する。図8は、本実施形態により固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
図8に示すように、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、先ず、燃料流量調整ユニット38及び水流量調整ユニット28を操作して、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させる。
また、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させると同時に、改質用空気流量調整ユニット44による発電用空気の燃料電池モジュール2内への供給量を増大させて、燃料電池セル集合体12及び改質器20を空気により冷却し、これらの温度を低下させる。その後、改質器20の温度が所定温度、例えば、400℃まで低下したとき、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給を停止し、改質器20の水蒸気改質反応SRを終了する。この発電用空気の供給は、改質器20の温度が所定温度、例えば、200℃まで低下するまで、継続し、この所定温度となったとき、発電用空気流量調整ユニット45からの発電用空気の供給を停止する。
このように、本実施形態においては、燃料電池モジュール2の運転停止を行うとき、改質器20による水蒸気改質反応SRと発電用空気による冷却とを併用しているので、比較的短時間に、燃料電池モジュールの運転を停止させることができる。
次に、図9乃至14を参照して、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池1の作用を説明する。
まず、図9乃至12を参照して、固体電解質型燃料電池1の負荷追従運転及び燃料電池モジュール2の劣化判定を説明する。
図9は、本実施形態の固体電解質型燃料電池における劣化判定を説明するタイムチャートである。図10は、制御部110に入力される要求発電量と、要求発電量を生成するために必要な燃料供給量の関係の一例を示すグラフである。図11は、要求発電量の変更に対する燃料供給量の時間的変化の一例を示すグラフである。図12は、劣化判定手段による劣化判定の手順を示すフローチャートである。
図9の時刻t0〜t1においては、固体電解質型燃料電池1は、インバータ54(図6)からの要求発電量に応じた出力電力が得られるように負荷追従運転を行っている。即ち、図6に示すように、制御手段である制御部110は、インバータ54からの要求発電量に応じて、燃料供給手段である燃料流量調整ユニット38、酸化剤ガス供給手段である発電用空気流量調整ユニット45、及び水供給手段である水流量調整ユニット28に信号を送り、必要な流量の燃料、空気、水を燃料電池モジュール2に供給している。これにより、図9に示すように、インバータ54からの要求発電量に追従するように固体電解質型燃料電池1の出力電力が変化する。ここで、燃料供給量等に対する出力電力の応答には遅れをもたせており、燃料供給量等の変化に対して出力電力は遅れて変化し、要求発電量の急激な変化に対しては、出力電力は殆ど変化しない。
制御部110は、インバータ54からの要求発電量に応じて、図10に一例を示すグラフによって燃料供給量を決定し、決定した流量の燃料が燃料電池モジュール2に供給されるように燃料流量調整ユニット38を制御する。固体電解質型燃料電池1の初期の使用開始後、燃料電池モジュール2が劣化したことが判定されるまでの間は、制御部110は、図10の曲線F0に従って、要求発電量に対する燃料供給量を決定する。図10に示すように、燃料供給量は、要求発電量の増大に伴って単調に増加するように決定されるが、要求発電量約200W未満では燃料供給量はほぼ一定値にされる。
また、要求発電量が変更された場合に、燃料供給量を急激に変化させると燃料電池モジュール2の劣化を早めることがあるので、図11に示すように、燃料供給量は漸増又は漸減される。図11は、要求発電量が500Wから700Wにステップ状に変化された場合における、燃料供給量の時間に対する変化の一例を示すグラフである。図11に示すように、時刻t10において、要求発電量が500Wから700Wに変更されると、必要な燃料供給量は、500Wの電力出力に対応する供給量から700Wに対応する供給量に急激に変化される。これに対して、制御部110は、燃料供給量が急激に増加することがないよう、図11に想像線で示すように、燃料供給量が緩やかに増加されるように燃料流量調整ユニット38を制御する。なお、固体電解質型燃料電池1の初期の使用開始後、燃料電池モジュール2が劣化したことが判定されるまでの間は、制御部110は、図11の線F10に従って燃料供給量を増加させる。
同様に、時刻t11において、要求発電量が700Wから500Wに変更された場合にも、制御部110は燃料供給量が急激に減少することがないよう、図11の線F10に従って緩やかに燃料供給量を減少させる。なお、燃料供給量の変化率は、供給量を増加させる場合の方が、供給量を減少させる場合よりも緩やかに設定されている。
なお、図10及び11は、燃料供給量に関するものであるが、空気供給量、水供給量も、要求発電量に応じて、同様に変更される。
次に、図9の時刻t1において、制御部110に内蔵された劣化判定手段110a(図6)は劣化判定モードの運転を開始する。なお、劣化判定手段110aは、マイクロプロセッサ、メモリ及びこれらを作動させるプログラム(以上図示せず)等により構成されている。図12は、劣化判定手段110aによる処理を示すフローチャートである。
図12に示すフローチャートは、劣化判定手段110aにより所定時間毎に実行される。まず、ステップS1においては、前回の劣化判定モードの運転からの経過時間が判断される。前回の劣化判定モード運転から所定の劣化判定間隔である2週間経過していない場合には、ステップS9に進み、このフローチャートの一回の処理を終了する。この処理により、劣化判定モード運転が不必要に頻繁に実行され、燃料等が浪費されるのを防止することができる。
前回の劣化判定モード運転から2週間以上経過している場合には、ステップS2に進み、固体電解質型燃料電池1の外部環境が、劣化判定モード運転に適する所定の劣化判定外気状態であるか否かが判断される。具体的には、外気温度センサ150(図6)及び外気湿度センサ(図示せず)によって検出された外気温及び外気の湿度が、所定の条件に適合しているか否かが判断される。本実施形態においては、外気温度5〜30゜C、外気湿度30〜70%である場合に、外部環境が劣化判定モード運転に適する劣化判定外気状態であると判断される。外部環境が劣化判定外気状態でないと判断された場合には、ステップS9に進み、このフローチャートの一回の処理を終了する。
外部環境が劣化判定モード運転に適している場合には、ステップS3に進み、劣化判定モードの運転が開始される。さらに、ステップS4においては、燃料供給量、空気供給量、水供給量が予め定められた所定の供給量に固定される。即ち、劣化判定モード運転において、劣化判定手段110aは、制御部110に対する要求発電量に関わらず、燃料流量調整ユニット38、発電用空気流量調整ユニット45、水流量調整ユニット28が一定の供給量を維持するように、これらの調整ユニットを制御する。本実施形態においては、図9の時刻t1において、劣化判定燃料供給量3L/min、劣化判定酸化剤ガス供給量100L/min、劣化判定水供給量8mL/minに固定される。
これら燃料供給量、空気供給量、水供給量の固定値は、本実施形態による固体電解質型燃料電池1の定格発電量である700Wを発電可能な量として予め実験によって求めた供給量である。従って、固定値により燃料、空気、水が供給されている間は、燃料電池セルの個体差もあるが固体電解質型燃料電池1は、700Wの電力を出力する能力を有しているものである。しかしながら、燃料供給量等が固定されていても、燃料電池モジュール2から取り出される電力が要求発電量に応じて変化すると、燃料電池モジュール2の運転状態は十分に安定しない。このため、本実施形態においては、劣化判定モード運転中は要求発電量に関わらず一定の電力を燃料電池モジュール2から取り出している。また、要求発電量に関わらず一定の電力を取り出すことにより、余剰電力が発生した場合には、この電力は補機ユニット4を作動させるために使用される。或いは、固体電解質型燃料電池1により発電した電力を売電可能な環境においては、取り出した電力を売電しても良い。また、劣化判定モード運転中に生成された電力を消費するためのヒーター等のダミー負荷(図示せず)を固体電解質型燃料電池1に備えておき、生成された電力をこれに消費させても良い。
なお、本実施形態においては、燃料供給量等の固定値は定格発電量に対応する値に設定されているが、これらの固定値は任意に設定することができる。好ましくは、燃料電池モジュール2が熱的に自律することができ、且つ燃料電池モジュール2の劣化の度合いにより温度が十分に大きく変化する、定格発電量に近い電力を発生可能な値に設定する。また、劣化判定モード運転中に燃料電池モジュール2から取り出す電力も、定格発電量に近い値にするのが良い。
次に、図12のステップS5においては、固定値による運転が開始された後、十分な時間が経過し、安定した運転状態になったか否かが判断される。本実施形態においては、固定値による運転が開始された後、劣化判定時間である5時間が経過すると運転状態が安定し、所定の劣化判定運転条件が満足されたと判断される。固定値による運転開始後5時間経過していない場合には、ステップS5の処理が繰り返される。これにより、ステップS4において開始された固定値による運転が5時間に亘って維持される(図9、時刻t1〜t2)。
固定値による運転が5時間継続された後、図9の時刻t2において、ステップS6に進み、温度検出手段である発電室温度センサ142により測定された燃料電池セルユニット16の温度が所定温度以上か否かが判断される。即ち、燃料電池モジュール2を安定した運転状態で運転した運転結果である燃料電池セルユニット16の温度と、基準温度を比較することにより、燃料電池モジュール2の劣化を判定する。本実施形態の固体電解質型燃料電池1は、初期状態で700Wの定格出力運転を行った場合の燃料電池モジュール2の基準温度T0は約700゜Cであり、燃料電池モジュール2の劣化が進行すると、この温度が上昇する。これは、固体電解質型燃料電池セルである燃料電池セルユニット16自体の劣化、及び各燃料電池セルユニット16を電気的に接続する接点部分の劣化により燃料電池セルスタック14の内部抵抗が増大することによるジュール熱等に起因している。
本実施形態においては、劣化判定の判定基準として、基準温度T0からの温度上昇分に閾値を設け、温度上昇が閾値を超えている場合に燃料電池モジュール2が劣化したと判定する。具体的には、劣化判定手段110aは、発電室温度センサ142により測定された温度T1が、基準温度T0よりも、閾値である30゜C以上高い場合に、燃料電池モジュール2が劣化したと判定する。燃料電池モジュール2が劣化していない場合には、ステップS10に進み、このフローチャートの一回の処理を終了し、燃料供給量等の運転条件の変更は行われない。
燃料電池モジュール2が劣化したと判定された場合には、ステップS7に進み、劣化処理が開始される。ステップS7においては、制御部110に内蔵された燃料補正手段110b(図6)による燃料供給補正が実行され、要求発電量に対する燃料供給量及び燃料供給量のゲインが変更される。即ち、燃料補正手段110bは、固体電解質型燃料電池1の使用開始後、燃料電池モジュール2が劣化したことが初めて判定された場合に、要求発電量に対する燃料供給量を、燃料供給補正により図10の曲線F0から曲線F1に変更し、以後、曲線F1を使用して燃料供給量を決定する。また、燃料供給量を変更する際の変化率は、図11の線F10から、より緩やかな線F11に変更され、以後、この変化率により燃料供給量が変更される。燃料供給補正により変更された燃料供給量は、燃料電池モジュール2がさらに劣化したことが判定されるまで維持される。なお、燃料補正手段110bは、マイクロプロセッサ、メモリ及びこれらを作動させるプログラム(以上図示せず)等により構成されている。
燃料電池モジュール2が劣化すると、同一の電力を出力している時の燃料電池セルユニット16の温度が高くなるので、固体電解質型燃料電池1の初期使用時と同じ定格電力を得ようとすると燃料電池セルユニット16の温度が上昇し、劣化をさらに進行させることになる。そこで、燃料電池モジュール2が劣化したことが判定されると、燃料供給補正により燃料供給量を決定する曲線が、図10の曲線F0から、曲線F0に対して10%燃料供給量が減少された曲線F1に変更される。この燃料供給補正以後は、同一の要求発電量に対する燃料供給量が減少され、要求発電量に対して実際に出力される電力が低下する。燃料供給補正後は、初期の定格出力電力である700Wの要求電力に対する燃料電池モジュール2の実際の出力電力が、低下された新たな定格出力電力とされる。燃料供給量を減少させることにより、燃料電池モジュール2の過度の温度上昇が防止される。また、劣化した燃料電池モジュール2の燃料供給量を急激に変化させると、劣化をさらに進行させることに繋がるため、燃料供給量の変化率は、より小さくされる。
本実施形態の固体電解質型燃料電池1においては、燃料電池モジュール2が劣化したことが初めて判定されたときは、上記のように、燃料供給量が減少されるように、定格出力電力を低下させる補正が実行される。また、燃料電池モジュール2の劣化が進行し、燃料電池モジュール2が更に劣化したことが判定された場合には、燃料補正手段110bにより、後述する条件に従って補正が実行される。
なお、燃料補正手段110bが燃料供給量をもう一度減量補正する場合には、燃料供給量は曲線F1から曲線F2に、さらに減量補正する場合には曲線F2から曲線F3に、さらに減量補正する場合には曲線F3から曲線F4に、順次変更される。本実施形態においては、曲線F2は曲線F0に対して18%、曲線F3は曲線F0に対して23%、曲線F4は曲線F0に対して26%燃料供給量が減量されている。従って、各減量補正時の下げ幅は、曲線F0から曲線F1の1回目の減量補正が曲線F0の10%分、曲線F1から曲線F2の2回目の減量補正が曲線F0の8%分、曲線F2から曲線F3の3回目の減量補正が曲線F0の5%分、曲線F3から曲線F4の4回目の減量補正が曲線F0の3%分になっている。この燃料供給量の減量に伴い、実際に燃料電池モジュール2から出力される最大の電力である定格出力電力も低下される。
また、一回の補正による燃料供給量の下げ幅、及びそれに伴って低下する定格出力電力の下げ幅は、後で実行される補正ほど小さくなるようになっている。換言すれば、燃料電池モジュール2が劣化したことが判定された第1劣化判定時における燃料供給量及び定格出力電力の下げ幅は、第1劣化判定時よりも後に劣化したことが判定された第2劣化判定時における下げ幅よりも大きくなるように、燃料供給量が補正される。これにより、劣化が進行している燃料電池セルユニット16の温度が上昇して過度の負担がかかるのを防止している。また、燃料供給量のゲインも、2回目に減量補正が実行される場合には線F11から線F12に、3回目に減量補正が実行される場合には線F12から線F13に、4回目に減量補正が実行される場合には線F13から線F14に変更される。
このように、本実施形態においては、減量補正を実行する際の燃料供給量の減少分は予め設定された固定値とされており、減量補正が実行される回数に応じて減少分が決定される。このため、例えば、燃料電池セルユニット16の温度上昇に基づいて燃料供給量の補正量を計算したり、出力電力の低下量に基づいて補正量を計算する場合とは異なり、大きく誤った補正がなされるのを防止することができる。即ち、燃料電池セルユニット16の温度や、出力電力は、種々のファクターにより影響されて値が変化するので、何らかの要因により異常な温度や出力電力が測定された場合には、この値に基づいて補正量を計算すると、異常な補正が実行されることになる。
また、本実施形態においては、減量補正を行う下げ幅が、燃料電池モジュール2の劣化が進行していない初期において大きく、劣化が進行した後期においては小さくなっている。これにより、劣化があまり進行しておらず、まだ十分な発電能力がある段階で燃料電池モジュール2にかかる負担が軽減されるので、燃料電池セルユニット16の温度上昇も少なく、大きな劣化抑制効果を得ることができる。
燃料供給量の補正が行われた後ステップS8に進み、ステップS8においては、補正後の燃料供給量で固体電解質型燃料電池1を運転したときの燃料電池セルユニット16の温度T2が、発電室温度センサ142により測定される。測定された温度T2は、新たな基準温度T0として劣化判定手段110aのメモリ(図示せず)に記憶される。この新たな基準温度T0は、次回の劣化判定の際に基準温度として使用される。好ましくは、燃料供給量の補正を実行した後、所定時間、燃料供給量を一定にして運転を行い、その後、燃料電池セルユニット16の温度T2を測定する。これにより、補正による燃料供給量の変更の影響が排除された正確な温度を測定することができる。
以上の劣化処理が終了すると、劣化判定手段110aは劣化判定モード運転を終了させ、制御部110は要求発電量に対応した通常の運転を再開する(図9、時刻t2)。
次に、図13及び14を参照して、燃料補正手段110bによる燃料補正の詳細を説明する。図13は、燃料補正手段110bによる燃料供給量の一例を示すタイムチャートである。図14は、定格出力電力の低下を説明するための概念図である。なお、図13は、横軸に時間、縦軸に定格出力電力、実発電電力、燃料供給量、及び燃料電池セルユニットの温度を示すタイムチャートであるが、図9に示したタイムチャートよりも非常に長い期間の燃料電池の運転状態を模式的に示すものである。また、タイムチャートを簡略化するために、固体電解質型燃料電池1が常に定格出力電力で運転されているものとして描かれている。
まず、図13の時刻t100において、固体電解質型燃料電池1の初期使用が開始される。この初期運転時においては、規定の燃料供給量で固体電解質型燃料電池1を運転することにより、初期の定格出力電力である700Wが得られ、このときの温度が燃料電池セルユニット16の初期の基準温度T0として、劣化判定手段110aに記憶される。固体電解質型燃料電池1の使用期間が長くなると、燃料電池モジュール2の劣化が始まり、同一の燃料供給量に対する実発電電力が低下すると共に、燃料電池セルユニット16の温度も上昇する(図13の時刻t101〜t102)。
具体的には、燃料電池モジュール2からインバータ54に定格出力電力を取り出すために、インバータ54によって取り出す電流を増加させていくと、燃料電池モジュール2が劣化している場合には、燃料電池モジュール2の出力電圧が大きく低下する。このように、燃料電池モジュール2に大きな電圧降下が起きている状態でインバータ54によって取り出す出力電流を増加させると、燃料電池セルユニット16が損傷される虞があるので、所定値以上の電圧降下が発生した場合には、出力電流の増加を停止する。このため、燃料電池モジュール2が劣化すると、燃料電池モジュール2からインバータ54に実際に出力される電力である実発電電力は、定格出力電力よりも小さくなる。
次に、時刻t103において、劣化判定が行われ、図12に示したフローチャートが実行される。時刻t103においては、定格出力運転時の燃料電池セルユニット16の温度が、基準温度T0(時刻t100における温度)よりも30゜C以上上昇しているので、図12のステップS6からステップS7に処理が移行し、燃料供給量の減量補正が実行される。また、初期使用開始後、燃料供給量の減量補正が実行された回数は、燃料補正手段110bの減量補正回数カウンタ(図示せず)によりカウントされる。
ここで、減量補正が1回目である場合には、燃料供給量を決定する曲線は図10の曲線F0に対して10%減量された曲線F1に変更され、定格出力電力は700Wから600Wに低下され、減量補正回数カウンタの値は0から1に変更される。なお、本実施形態においては、減量補正による燃料供給量の下げ幅は、1回目に減量補正が実行される際の下げ幅が最大である。また、燃料供給量の減量補正の後、所定時間経過したときの温度(図13の時刻t104〜t105における温度)は、新たな基準温度T0として更新記憶される(図12のステップS8)。この燃料供給量の減量補正及び定格出力電力の変更により、固体電解質型燃料電池1が実際に出力する実発電電力は低下され、燃料電池セルユニット16の温度も低下する(図13の時刻t103〜t105)。
固体電解質型燃料電池1の使用期間がさらに経過すると、燃料電池モジュール2の更なる劣化が進行し、変更された定格出力電力に対して実発電電力が低下すると共に、燃料電池セルユニット16の温度も上昇する(図13の時刻t105〜t106)。次いで、時刻t107において、劣化判定が行われる。時刻t107においては、定格出力運転時の燃料電池セルユニット16の温度が、更新された基準温度T0(時刻t104〜t105における温度)よりも30゜C以上上昇しているので、図12に示すフローチャートのステップS6からステップS7に処理が移行する。ステップS7では、燃料供給量の減量補正が実行される。ここで、減量補正が2回目である場合には、燃料供給量を決定する曲線は図10の曲線F1から曲線F2に、減量補正回数カウンタの値は1から2に変更される(図13の時刻t107)。これにより、燃料供給量は曲線F0に対して18%減量された曲線F2に減量補正され、定格出力電力は600Wから520Wに低下される。この燃料供給量の減量補正により、燃料電池セルユニット16の温度が低下する(図13の時刻t107〜t108)。
更に燃料電池モジュール2の劣化が進行すると、固体電解質型燃料電池1の実発電電力は低下し、燃料電池セルユニット16の温度は上昇する(図13の時刻t109〜t110)。次いで、時刻t111において、劣化判定が行われる。
時刻t111においては、定格出力運転時の燃料電池セルユニット16の温度が、更新された基準温度T0(時刻t108〜t109における温度)よりも30゜C以上上昇しているので、図12に示すフローチャートのステップS6からステップS7に処理が移行する。ステップS7では、燃料供給量の減量補正が実行される。
ここで、減量補正が3回目である場合には、燃料供給量を決定する曲線は図10の曲線F2から曲線F3に、減量補正回数カウンタの値は2から3に変更される(図13の時刻t111)。これにより、燃料供給量は曲線F0に対して23%減量された曲線F3に減量補正され、定格出力電力は520Wから480Wに低下される。この燃料供給量の減量補正により、燃料電池セルユニット16の温度が低下する(図13の時刻t111〜t112)。
更に燃料電池モジュール2の劣化が進行すると、固体電解質型燃料電池1の実発電電力は低下し、燃料電池セルユニット16の温度は上昇する(図13の時刻t113〜t114)。次いで、時刻t115において、劣化判定が行われる。
時刻t115においては、定格出力運転時の燃料電池セルユニット16の温度が、更新された基準温度T0(時刻t112〜t113における温度)よりも30゜C以上上昇しているので、図12に示すフローチャートのステップS6からステップS7に処理が移行する。ステップS7では、燃料供給量の減量補正が実行される。
ここで、減量補正が4回目である場合には、燃料供給量を決定する曲線は図10の曲線F3から曲線F4に、減量補正回数カウンタの値は3から4に変更される(図13の時刻t115)。これにより、燃料供給量は曲線F0に対して26%減量された曲線F4に減量補正され、定格出力電力は480Wから450Wに低下される。この燃料供給量の減量補正により、燃料電池セルユニット16の温度が低下する(図13の時刻t115〜t116)。
本実施形態においては、減量補正が4回実行されると、更なる劣化判定及び減量補正は実行されずに燃料供給量及び定格出力電力は下げ留められ、4回目の減量補正後の燃料供給量が維持される。さらに劣化が進行すると、固体電解質型燃料電池1の実発電電力は低下し、燃料電池セルユニット16の温度は上昇する(図13の時刻t117〜t118)。時刻t118において、実発電電力が所定の下限電力Wmin以下になると、制御部110は、警報装置116に信号を送って、固体電解質型燃料電池1の製品寿命が到来したことを使用者に報知すると共に、燃料電池モジュール2の運転を停止する。
次に、図14を参照して、本実施形態による固体電解質型燃料電池の作用の概略を説明する。なお、上述した実施形態及び図14において、補正による定格出力電力の下げ幅は、説明に使用する数値を簡単にするために、実際の値よりも大きくされている。
まず、固体電解質型燃料電池1の初期使用開始時においては、設計値である定格出力電力700Wで燃料電池モジュール2が運転される。次いで、燃料電池モジュール2が劣化したことが初めて判定された第1劣化判定時において、燃料供給量が低下され、定格出力電力も600Wに減少され、以後は、この定格出力電力の範囲内で燃料電池モジュール2が運転される。本実施形態においては、この第1劣化判定時における最初の定格出力電力の下げ幅が最も大きく、100Wに設定されている。
このように、燃料電池モジュール2の劣化があまり進行していない段階で燃料電池モジュール2にかかる負担を軽減することにより大きな劣化抑制効果を得ることができるが、好ましくは、この下げ幅は、補正前の定格出力電力の半分よりも小さく設定する。即ち、補正前の定格出力電力700Wに対して、定格出力電力の下げ幅を、その半分よりも大きい350W以上とすれば、劣化抑制効果は得られるものの、固体電解質型燃料電池1の出力の低下が著しく、固体電解質型燃料電池1の利用価値が低下してしまう。定格出力電力の下げ幅を上記のように設定することにより、劣化抑制と出力性能の維持のバランスを取ることができる。
さらに劣化が進行し、燃料電池モジュール2が劣化したことが2回目に判定された第2劣化判定時には、燃料供給量がさらに低下され、定格出力電力は5200Wに減少される。以後は、この定格出力電力の範囲内で燃料電池モジュール2が運転される。このように、燃料電池モジュール2が劣化したことが判定される毎に定格出力電力が減少されるが、定格出力電力の下げ幅は、順次小さくなるように設定されている。図14においては、第2劣化判定時における下げ幅は80Wであり、その後、下げ幅は40W、30W...と順次減少される。また、上述した実施形態においては、燃料供給量の減量補正は4回目で打ち切られ、以後の燃料供給量は維持されていたが、図14に示すように、下げ幅を縮小しながら減量補正を継続しても良い。
燃料供給量の減量補正が打ち切られた後は、燃料供給量が維持され、定格出力電力も同一の値に下げ留められる。しかしながら、燃料電池モジュール2から実際に取り出される実発電電力は、燃料電池モジュール2の劣化と共に少しずつ低下する。なお、本明細書において「定格出力電力の低下」とは、燃料供給量の減量補正に伴う定格出力電力の低下を意味し、燃料供給量が維持されている場合における実発電電力の低下とは無関係である。
本発明の実施形態の固体電解質型燃料電池によれば、第1劣化判定時の方が、第2劣化判定時よりも大きい下げ幅で定格出力電力が低下されるので、燃料電池モジュールの劣化を十分に抑制することができる。即ち、燃料電池モジュールの劣化があまり進行していない初期において、より大きく燃料電池モジュールの負担を軽減するので、燃料電池モジュールに十分な発電能力がある状態で負荷が軽くなり、燃料電池モジュールの劣化を十分に抑制することができる。これにより、固体電解質型燃料電池セルの耐用年数を延長することができる。
また、本実施形態の固体電解質型燃料電池によれば、最も劣化が進行していない状態である、劣化したことが最初に判定された際の補正において最大の下げ幅で定格出力電力を低下させるので、最大の劣化抑制効果を得ることができる。
さらに、本実施形態の固体電解質型燃料電池によれば、定格出力電力を低下させる補正の下げ幅が、後で実行される補正ほど小さくなるので、初期において、定格出力電力を大きく低下させることにより十分に劣化を抑制すると共に、ある程度劣化が進行した状態では、定格出力電力をあまり大きく低下させずに、燃料電池モジュールから電力を取り出して必要な出力電力を確保することができる。また、定格出力電力を低下させる補正の下げ幅が、補正実行時の定格出力電力の半分以下に抑えられているので、徒に定格出力電力が低下されることがなく、実用上十分な定格出力電力を長期間確保することができる。
また、上述した本発明の実施形態においては、燃料電池モジュール2が劣化したことが判定される毎に燃料供給量が減量補正されていたが、変形例として、減量補正は、劣化したことが判定されたとき必ず行わなくても良い。例えば、燃料電池モジュール2が劣化したことが複数回続けて判定されたとき、減量補正を実行するように本発明を構成することもできる。好ましくは、定格出力電力を低下させる第1劣化判定時は、初期使用開始から3回目以内に劣化したことが判定されたときにする。
さらに、上述した本発明の実施形態においては、定格出力電力の下げ幅は、毎回減少されていたが、変形例として、下げ幅を段階的に減少させることもできる。表1は、本発明の変形例における定格出力電力の下げ幅を示した表である。
表1に示すように、本変形例においては、第1回から第3回の燃料の減量補正においては、定格出力電力は何れも100W低下される。この3回の補正により、定格出力電力は初期の700Wから400Wまで低下される。さらに、第4回から第6回の燃料の減量補正においては、定格出力電力は何れも50W低下される。この3回の補正により、定格出力電力は初期の400Wから250Wまで低下される。次いで、第7回以降の減量補正においては、定格出力電力は25Wずつ低下される。この変形例においては、第1回から第3回目に燃料電池モジュール2が劣化したことが判定された時が第1劣化判定時に該当し、これらの第1劣化判定時よりも後に燃料電池モジュール2が劣化したことが判定された第4回目以降が第2劣化判定時に該当する。このように、第2劣化判定時における定格出力電力の下げ幅は、第1劣化判定時よりも減少されている。
また、上述した実施形態においては、劣化判定の判定基準として、燃料電池モジュール2の基準温度T0からの温度上昇が30゜C以上であるとき、燃料電池モジュール2が劣化したと判定していたが、この温度上昇の閾値を変更することできる。表1に示す変形例においては、劣化したことが3回判定されるまでは温度上昇の閾値は30゜Cであり、劣化したことが6回判定されるまでは温度上昇の閾値は25゜Cであり、それ以降は温度上昇の閾値は20゜Cである。このように、本変形例においては、劣化判定の判定基準は、初期の劣化判定時よりも、劣化が進行した後の劣化判定時の方が劣化が判定されやすく設定されている。
また、上述した実施形態においては、一定の時間間隔で劣化判定が行われていたが、劣化判定の頻度を変更することもできる。表1に示す変形例においては、劣化したことが3回判定されるまでは劣化判定は2年毎に実行され、劣化したことが6回判定されるまでは劣化判定は1年毎に実行され、それ以降は6ヶ月毎に劣化判定が実行される。このように、本変形例においては、劣化判定は、初期よりも、劣化が進行した後の方が高頻度で実行される。
本変形例においては、劣化の初期よりも後期の方が定格出力電力の下げ幅が小さくされるので、後期における補正の方が劣化の抑制効果は減少する。しかしながら、劣化が進行した後の方が劣化を判定する温度上昇の閾値が低下し、判定されやすくなると共に、劣化が進行した後の方が頻繁に劣化判定が実行される。このため、一回の補正による抑制効果が減少した状態においても、燃料電池モジュールの状態応じて敏感に劣化に反応して補正が実行され、きめ細かく劣化を抑制することができる。
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、固体電解質型燃料電池は、要求電力に応じて出力電力を変更するように構成されていたが、常に一定の定格出力電力を出力する固体電解質型燃料電池に本発明を適用することもできる。