本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1実施形態であるプレス成形金型の概略構成を示す図であり、図1(a)は全体斜視図、図1(b)はプレス成形金型を構成するパンチ金型の上面図である。図1(a)中、符号1は本発明のプレス成形金型を示す。
本発明のプレス成形金型1は、パンチ金型10、ダイ20、しわ押さえ金型25a、25bを有する。パンチ金型10は、パンチ部12とプレート部14とを有する。パンチ部12とプレート部14とは、図示しない締結部材で固定され、パンチ金型10となる。パンチ部12とプレート部14とを一体物としてパンチ金型10を形成してもよい。図1(b)に示すように、プレート部14には、しわ押さえ力増加装置16a、16bが配設される。
パンチ金型10のパンチ部12と一対をなすダイ20が、パンチ金型10に対向して配設される。しわ押さえ金型25a、25bは、パンチ金型10に対向する第一面31aと、ダイ20に対向する第二面32aを有する。プレス成形終了点で、プレート部14と第一面31aとが接触し、ダイ20と第二面32aが接触する。
第一面31aと第二面32aとを結ぶ側面33aは、パンチ部と所定の間隙(クリアランス)を介して隣接する。この間隙を、適正に設定することで、プレス成形品へのしわの発生や、プレス成形品の割れを防止することができるが、常法に従って決定すればよい。また、しわ押さえ力増加手段16a、16bが、図1(b)に示したように、プレート部14に配設される。
図2は、しわ押さえ金型25a、25bの第一面31aの側から見た斜視図である。図2に示すように、しわ押さえ金型25a、25bはそれぞれ、第一面31a、31bに、溝部30a、30bを有する。プレス成形終了時に、しわ押さえ力増加装置16a、16bそれぞれが、溝部30a、30bと接触する。
図3は、ブランク材5をプレス成形するときのパンチ金型10、ダイ20及びしわ押さえ金型25a、25bの動きを模式的に示した説明図である。図3(a)はプレス成形開始時、図3(b)はプレス成形中を示す。
しわ押さえ金型25a、25bを、しわ押さえ金型25a、25bの第二面32a、35bとパンチ12の先端面13とが同じ高さになるようにした状態で、ブランク材5が載置される。
図3(a)に示したように、ダイ20が下降し、ダイ20としわ押さえ金型25a、25bによりブランク材5のフランジ部が拘束され、フランジ部が一定の荷重で把持される。
そして、図3(b)に示すように、ブランク材5が、ダイ20としわ押さえ金型25a、25bとに把持された状態で、ダイ20がパンチ金型10のプレート部14の方向(図3(b)において下方向)に移動し、パンチ部12によるプレス成形が進行する。
ダイ20がプレス成形終了点手前の所定位置からプレス成形終了点まで、プレス成形に連動して、しわ押さえ金型25a、25bの第一面31a、31bに設けた溝部30a、30bが、しわ押さえ力増加手段16a、16bと接触することにより、しわ押さえ力増加手段16a、16bを押し込み、その結果、反力が発生し、プレス成形終期のブランク材5に加えるしわ押さえ力を増加させる。
図4は、しわ押さえ力増加手段として皿ばねを複数重ねた場合を示す縦断面図である。図4(a)はしわ押さえ力を増加していない状態、図4(b)はしわ押さえ力を増加している状態を示す。
図4(a)に示すように、しわ押さえ力増加手段16aは、ピン40aと皿ばね42aを有する。本実施形態では、8個の皿ばね42aを並直列に重ねたが、これに限られるものではない。例えば、4個の皿ばねを直列に重ねてもよい。
また、皿ばねに代えて、つるまきばね、ゴム等の弾性体を用いてもよいが、低ストロークで高荷重を得られる点で、皿ばねが好ましい。
図4(b)に示すように、しわ押さえ金型25aの第一面31aに設けた溝部30aが、ピン40aを押し下げることにより皿ばね42aが縮み、しわ押さえ金型25aは皿ばね42aから反力を受け、しわ押さえ金型25aの第二面32aとダイ20との間で把持されたブランク材5(図1及び図3を参照)に反力が伝達され、ブランク材5に付与するしわ押さえ力を増加させることができる。
皿ばね42aから反力を受けたしわ押さえ金型25aは、溝部30aを有するため、しわ押さえ金型25aが、ブランク材5側に凸に弾性変形して撓む。この撓みにより、しわ押さえ金型25aの溝部30aを有する部分が、ピン40aからの反力を効率良くブランク材5に伝達する。仮に、溝部30aがない場合、ピン40aからの反力は、しわ押さえ金型25a全体に拡散し、ブランク材5に対して局所的に、反力を加えることができず、反力を伝達する効率が低い。
図5は、しわ押さえ金型25aの肉厚を説明するための、図2におけるI−I線に沿う断面図である。図5に示すように、溝部30aでのしわ押さえ金型25aの肉厚をL(mm)、溝部30a以外でのしわ押さえ金型25aの肉厚をH(mm)とする。なお、本発明の第1実施形態であるプレス成形金型1においては、肉厚Hは一定であるが、一定でない場合には、最小肉厚をHとする。肉厚Hが一定でない場合とは、図24に示すように、例えばフランジ面の高さが部品で一定でない場合である。
肉厚Lの下限は20mmとすることが必要である。肉厚Lが20mm未満であると、絞り曲げ加工時(プレス成形時)に、しわ押さえ金型25aが塑性変形するか、破損するからである。一方、肉厚Lの上限は0.8Hとすることが必要である。肉厚Hが0.8Hを超えると、溝部30aがピン40aから反力を受けても、しわ押さえ金型25aが弾性変形せず、ピン40aからの反力をブランク材5に効率よく伝達することができないからである。なお、好ましい肉厚Lの上限は0.6Hである。しわ押さえ力増加手段16aの能力が小さい場合でも、ピン40aから効率良く、しわ押さえ力増加手段16aが発する反力を、ブランク材5に伝達させるためである。
ただし、肉厚Hが50mm超の場合には、肉厚Hに関係なく、肉厚Lの上限は40mmとする必要がある。溝部30aがピン40aから受ける反力の最大値は、6.5MPaである。したがって、肉厚Hが50mmを超える場合に、肉厚Lの上限が40mmを超えると、溝部30aの剛性が高くなり、反力の最大値でも、しわ押さえ金型25が弾性変形しないからである。
また、肉厚Hが40mm未満であると、しわ押さえ金型25a全体の剛性が不足する。
一方、肉厚Hが80mmを超えると、しわ押さえ金型25aの剛性が必要以上に大きくなり、また、しわ押さえ金型25aの材料費も無駄になる。
以上をまとめると、肉厚Lと肉厚Hの関係は、次の(1)及び(2)の関係を満足する必要がある。
40≦H≦50のとき、20≦L≦0.8H ・・・(1)
50<H≦80のとき、20≦L≦40 ・・・(2)
皿ばね42aからの反力は、しわ押さえ金型25aに設けた溝部30aがピン40aに接触してから、プレス成形終了点に達するまで発生する。しわ押さえ金型30aがピン40aに接触する位置を、プレス成形終了点手前の所定位置とすればよい。
図4(a)に示した、ピン40aの先端がプレート14の表面から突出する長さGは、プレート部14の第一面31aと対向する面と、プレス成形終了点手前でしわ押さえ力を増加させたい所定位置との間の距離に、溝部30aの溝深さを加えた長さにすればよい。
上記所定位置は、プレス成形終了点の手前で、プレス成形全高さの2%以上である必要がある。所定位置が2%未満であると、しわ押さえ力の増加量が少なすぎ、スプリングバック低減効果が不安定になる。
一方、所定位置が30%を超えると、しわ押さえ力を増加させる区間が長すぎ、プレス成形全高さ中で、しわ押さえ力の強弱の差が小さくなり、プレス成形終期のみにしわ押さえ力を増加する効果が薄れ、スプリングバック量がかえって増加する。したがって、所定位置は、プレス成形全高さの30%以下とすることが好ましい。
これまで、しわ押さえ金型25aが有する溝部30aについて説明したが、しわ押さえ金型25bが有する溝部30bについても同様である。
図6は、本発明のプレス成形金型1で成形されるプレス成形品を示す。図6(a)は斜視図、図6(b)は図6(a)中のA−A線に沿う断面図である。図6中、符号50はプレス成形品を示す。
プレス成形品50は、フランジ部54a、54b、縦壁部55a、55b、頂部55cを有する。また、プレス成形品50の両端に直辺部51a、51bと、これら直辺部を挟んで湾曲部52とを有する。プレス成形品50は、いわゆるハット形状であり、プレス成形品50の両端は開口している。
プレス成形の際、プレス成形品50の形状によって、ブランク材5の塑性流動が起こり易い部位と、起こり難い部位があり、この塑性流動の起こり易さの差異によって、プレス成形品50の板厚方向や面内方向の応力差が生じる。そしてこの応力差によって、縦壁部55a、55bの開き、ねじれ、反りなどのスプリングバックが生じる。特にプレス成形品50の形状に湾曲した部位があると、プレス成形中に長手方向の縮み変形や伸び変形が付与され、面内の不均一応力が増大し、ねじれ、キャンバー、うねりといったスプリングバックの原因となる。
プレス成形品50においては、後工程(後述するリストライク加工)でプレス成形品57のようにコの字断面(後述する図13を参照)に加工すると、湾曲部52の縦壁部に顕著なうねりが発生する。ズプリングバックがうねりである場合、金型設計にスプリングバック分を予め見込んでおくことは困難である。また、うねりを解決するために行う金型修正は試行錯誤を伴うため、金型修正に多大な工数と費用を費やすこととなる。
このうねりの原因は、湾曲部52が絞り曲げ加工(プレス成形)によって、伸びフランジ部となり、プレス成形品50の長手方向に引張応力となること、プレス成形品50の板厚方向の応力差によって、プレス成形品50の断面に開きが発生することの2つが重なるからである。したがって、湾曲部52の応力差を解消するため、プレス成形終期のしわ押さえ力増加が必要な部位は、湾曲部52である。
湾曲部52におけるしわ押さえ力を、直辺部51a、51bに比べて、より一層増加させるため、図1及び図2に示したように、しわ押さえ金型25a、25bそれぞれに、溝部30a、30bを設けた。そして、溝部30a、30bで、反力を受けることができるように、しわ押さえ力増加手段16a、16bを配設した。
プレス成形終了点手前の所定位置からプレス成形終了点までの間で、ブランク材5の長手方向に伸びフランジ変形や縮みフランジ変形される部位、即ち湾曲部52において、しわ押さえ力を増大させることにより、縦壁部55a、55bの張力が増大し、スプリングバックの原因であるプレス成形品50の板厚方向や面内方向の応力差が低減される。
仮に、しわ押さえ金型25a、25bに溝部30a、30bを設けない場合には、しわ押さえ金型25a、25bが撓む(弾性変形する)ことがないため、しわ押さえ力増加手段16a、16bからの反力は、しわ押さえ金型25a、25b全体に分散する。したがって、湾曲部52にしわ押さえ力を集中的に増加させることができず、湾曲部52に必要なだけのしわ押さえ力を付与することができない。
その結果、湾曲部52に対応する縦壁部55a、55bにスプリングバックを抑えるために必要なだけの張力を付与することができず、プレス成形品50のスプリングバックを低減する効果が著しく低下する。
しわ押さえ力増加手段16a、16bからの反力の分散を、しわ押さえ力増加手段16a、16bの能力を高めることで補おうとした場合、例えば、皿ばね42a、42bの直径を大きなものとする、あるいは、重ねた皿ばね42a、42bの本数を多くすることが必要であり、しわ押さえ力増加手段16a、16bが大きくなる。
高張力鋼や高強度アルミニウム合金等の塑性流動抵抗が大きく、スプリングバックが大きい金属板材をプレス成形する場合においては、縦壁部55a、55bにおける張力が不足している部位や、プレス成形品50の形状が湾曲しており、伸びフランジ変形や縮みフランジ変形される部位には、しわ押さえ力の増加を特に大きくする必要がある。したがって、しわ押さえ力増加手段16a、16bが非常に大きくなり、スプリングバックを低減するのに必要な、しわ押さえ力増加手段をプレス成形金型に配設することが困難となる。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。図7は、本発明の第2実施形態であるプレス成形金型1の概略構成を示す図であり、図7(a)は斜視図、図7(b)はパンチ金型10の上面図である。図8は、本発明の第2実施形態であるプレス成形金型のしわ押さえ金型を、その第一面側から見た斜視図である。
第2実施形態のプレス成形金型1は、プレート部14に、1つだけしわ押さえ力増加手段16bを配設したこと、及び、しわ押さえ金型25aのみに溝部30aを配設したこと以外は、上記第1実施形態のプレス成形金型1と同じである。
本発明のプレス成形金型は、しわ押さえ金型に溝部を設けることで、しわ押さえ力の増加が必要な部位のみに、しわ押さえ力を増加させることができる。したがって、スプリングバック低減の効率が高いため、ブランク材5の引張強さがそれ程高くない場合や、プレス成形品50の湾曲部52の曲率等によっては、しわ押さえ力増加手段を1つとすることができる。
次に、しわ押さえ力増加手段及び溝部を配設する位置として、有効な位置がどこであるかについて説明する。図9は、しわ押さえ力増加手段を備えず、しわ押さえ金型に溝部を設けない従来のプレス成形金型の概略構成を示す。図8(a)は斜視図、図8(b)は従来のプレス成形金型を構成するパンチ金型を示す上面図である。図8(a)中、符号91は、従来のプレス成形金型を示す。
図10は、図9に示した従来のプレス成形金型91を使用して、板厚1.0mmのブランク材5を絞り曲げ加工(プレス成形)したときの、プレス成形品50のフランジ部54a、54bの板厚分布を示す説明図である。即ち、図10は、ブランク材5を図9のプレス成形金型91で絞り曲げ加工(プレス成形)した後のプレス成形品50の状態についてダイ20を省略して示したものに、フランジ部54a、54bの板厚測定結果を記したものである。フランジ部54a、54bは、図9に示したように、湾曲外側部6a、湾曲内側部6b、直線部6c、6d、6e、6fを有する。
図10から明らかなように、湾曲外側部6aの中央部は板厚が厚くなっており、プレス成形品50のフランジ部54a、54bの中で、最大板厚部となっている。これに対し、湾曲内側部6bの中央部は板厚が薄くなっている。被プレス成形材であるブランク材5が挟まれるしわ押さえ金型90a、90bの第二面22a、22bとダイ20との間隙(クリアランス)は一定であるため、プレス成形中にフランジ部54a、54bの板厚が変化した場合に、しわ押さえ金型90a、90bのような溝部を設けないしわ押さえ金型91では、しわ押さえ力が強く作用する部位と弱く作用する部位が存在することになる。しわ押さえ力の大きさが部位によって異なると、塑性変形したブランク材5の流入量のバランスが崩れ、その結果、プレス成形後の寸法精度が低下する。
そこで、溝部を設けないしわ押さえ金型90a、90bを使用したときの寸法精度の低下を防止するため、図9で示した、溝部を設けないしわ押さえ金型90a、90bで、しわ押さえ力増加手段を設けずにプレス成形したプレス成形品のフランジ部の最大板厚部に対し97%以下の板厚となる伸びフランジ部の少なくとも一部を、しわ押さえ金型の溝部を有する部分でしわ押さえし、その溝部が、プレス成形終了点手前の所定位置からプレス成形終了点までの間で、しわ押さえ力増加手段が接触する位置に、しわ押さえ力増加手段を配設することが好ましい。即ち、97%以下の板厚となる部分を含む伸びフランジ部のしわ押さえ力を集中的に増加させる。
図11は、図9に示した、しわ押さえ力増加手段を備えず、しわ押さえ金型に溝部を設けない従来のプレス成形金型91を使用して、板厚1.0mmのブランク材5を成形したときにおける、プレス成形品のフランジ部の板厚分布に、溝部としわ押さえ力増加手段を配設する位置を併記した説明図である。
図11に示したように、プレス成形品50のフランジ部54a、54bのうち、最大板厚である1.01mmとなる湾曲外側部6aに対し板厚が97%以下となる部分を少なくとも一部に含む湾曲内側部6bを、しわ押さえ金型の溝部を有する部分でしわ押さえできるように、しわ押さえ金型25a、25bのうち、しわ押さえ金型25bに溝部30bを設けることが好ましい。即ち、湾曲内側部6bの少なくとも一部を、しわ押さえ金型25bの溝部30bを有する部分でしわ押さえする。具体的には、図3(a)及び図3(b)に示したように、しわ押さえ金型25bとダイ20とでブランク材5を挟んでしわ押さえする。そして、プレス成形終了点手前の所定位置からプレス成形終了点までの間(プレス成形終期)で、溝部30bとしわ押さえ力増加手段16bとが接触するように、しわ押さえ力増加手段16bを配設することが好ましい。
このように、溝部30bとしわ押さえ力増加手段16bとを配設することにより、プレス成形終期に、しわ押さえ金型25bが溝部30bでブランク材5の側に凸に撓み(弾性変形し)、しわ押さえ力を湾曲内側部6bで局所的かつ集中的に増加させることができる。
次に、本発明の第3実施形態について説明ずる。図12は、本発明の第3実施形態であるプレス成形金型を示す図である。図12(a)は斜視図であり、図12(b)は本発明の第3実施形態であるプレス成形金型を構成するパンチ金型の上面図である。なお、図12(a)に示すプレス成形金型を構成するしわ押さえ金型25a、25bは、図2に示した第1実施形態のプレス成形金型1のしわ押さえ金型25a、25bと同一である。
図12に示すように、第3実施形態のプレス成形金型1は、プレス成形終期に溝部30a、30bと接触するしわ押さえ力増加手段の他に、しわ押さえ力増加手段16c〜16fを有する。溝部30a、30b以外の部分と接触するしわ押さえ力増加手段16c〜fは、溝部30a、30bと接触するしわ押さえ力増加手段16a、16bと比較して、しわ押さえ力増加効果は小さい。即ち、溝部30a、30bにしわ押さえ力増加手段16a、16bを配設することは必須であるが、溝部30a、30b以外の部分にしわ押さえ力増加手段を配設するかは任意である。
本発明を実施例でさらに説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
ブランク材5として、板厚が1.0mm、引張強さが590MPaの高張力鋼板を選定し、このブランク材5を、図6に示した伸びフランジ部を有する形状(ハット形状)に絞り曲げ加工(プレス成形)した。
ブランク材5は、仕上げ加工(リストライク加工)後の断面幅が60mm、高さが80mmとなるように(図13(a)及び図13(b)を参照)、上記の高張力鋼板をレーザーカットして製作した。なお、仕上げ加工(リストライク加工)については後述する。
得られたブランク材5を、図1及び図2に示したプレス成形金型1(上記第1実施形態のプレス成形金型1)、図7及び図8に示したプレス成形金型1(上記第2実施形態のプレス成形金型1)、図12及び図8に示したプレス成形金型1(上記第3実施形態のプレス成形金型)で絞り曲げ加工(プレス成形)した。
しわ押さえ力増加手段16a〜16fは、図4に示した、皿ばね42aを組み合わせた皿ばねユニット16a〜16fとした。プレス成形終了点における、皿ばねユニット16a〜16fそれぞれが、しわ押さえ金型25a、25bそれぞれに付与する荷重(反力)は、皿ばね42aの個数及び組合せ方法(並列、直列、並直列)で変化させた。なお、図12及び図8に示したプレス成形金型1(上記第3実施形態のプレス成形金型)については、溝部30b以外にも、しわ押さえ力増加手段16a、16c〜16fを配設した。
各プレス成形金型1の、溝部30a、30b以外でのしわ押さえ金型25a、25bの肉厚Hと、溝部30a、30bでのしわ押さえ金型25a、25bの肉厚Lと、その比L/Hを、表1に示す。
表1には、皿ばねユニット16a〜16fでしわ押さえ金型25a、25bに付与する荷重を併記した。この荷重は、プレス成形金型1に配設された皿ばねユニットの、荷重の合計値で示した。
例えば、No.6の場合、図12及び図8で示したプレス成形金型1には、6個の皿ばねユニット16a〜16fが配設される。皿ばねユニット16a〜16fそれぞれが、しわ押さえ金型25a、25bに加える荷重は100kNであり、それらの合計は600kN(100kN×6個)である。
また、従来例として、図9に示した溝部を有さないしわ押さえ金型90a、90bを備えたプレス成形金型91、及び、図9に示したプレス成形金型91に、図1(b)に示したのと同様の位置に皿ばねユニット16a、16bを配設したプレス成形金型の概略構成を表1に併記した。
絞り曲げ加工(プレス成形)は、プレス成形金型1を、能力1960kN(200トン)のプレス成形装置に設置し、しわ押さえ荷重(しわ押さえ金型25a、25bに付与する荷重の合計値):196kN(20トン)を加えながら、プレス成形品50の高さが60mm(図6(b)参照)になるまでプレス成形した。従来例についても同様である。なお、使用したプレス成形装置は、可変ダイクッション装置等を備えない、一般的なものである。
しわ押さえ力の増加については、プレス成形の終了点手前9mmから開始するように、図4(a)の長さGを設定した。即ち、長さGは、9mmに溝部30aの深さを加えた長さである。ここで、溝部30aの深さは、上述した肉厚H及び肉厚Lで表すと、H−Lである。このようにGを設定したときの、しわ押さえ力増加手段16aがしわ押さえ力を増加させている区間は、プレス成形全高さ60mmの15%である。なお、ここでは、しわ押さえ力増加手段16aについて説明したが、しわ押さえ力増加手段16bについても同様である。
このようにして絞り曲げ加工(プレス成形)して得られたプレス成形品50(ハット形状)を、その後、仕上げ加工(リストライク加工)し、図13に示す形状(コの字断面形状)とした。
図13は、仕上げ加工(リストライク加工)後のプレス成形品を示す。図13(a)は斜視図、図13(b)は図13(a)中のB−B線に沿う断面図である。図13中、符号57は仕上げ加工(リストライク加工)後のプレス成形品を示す。
図14は、仕上げ加工(リストライク加工)を行うリストライク加工金型を示す斜視図である。図14中、符号3はリストライク加工金型を示す。
絞り曲げ加工(プレス成形)して得られたプレス成形品50(ハット形状)は、縦壁部55a、55bと頂部55cとで囲まれるハット部を、リストライク加工金型3のパンチ部12にはめ込まれ、パッド18でプレス成形品50(ハット形状)を押さえられながら、パンチ部12とダイ20とで仕上げ加工(リストライク加工)され、プレス成形品57(コの字断面形状)とされる。なお、仕上げ加工(リストライク加工)は、しわ押さえを行わない。
仕上げ加工は、リストライク加工金型3を、能力1960kN(200トン)のプレス成形装置に設置し、プレス成形品57(コの字断面形状)の高さが80mm(図13(b)を参照)になるまでリストライク加工した。なお、使用したプレス成形装置は、可変ダイクッション装置等を備えない、一般的なものである。
次に、絞り曲げ加工(プレス成形)後のプレス成形品50(ハット形状)と、仕上げ加工(リストライク加工)後のプレス成形品57(コの字断面形状)の、スプリングバック評価方法について説明する。
絞り曲げ加工(プレス成形)後に、プレス成形品50(ハット形状)外表面の点群の座標値を、非接触式のCCD3次元測定装置を用いて取得し、図6(a)で示したA−A断面で、縦壁部55aと縦壁部55bとの開きを測定して、Wh’とした。そして、CADデータでの縦壁部55aと縦壁部55bとの開きをWhとし、△Wh=Wh’−Whを求めた。
図15は、Wh、Wh’及び△Whの定義を示す説明図である。図15中、Wh’は非接触式のCCD3次元測定装置を用いて取得したA−A断面(図6(a)を参照)を、Whは断面A−AのCADデータを示す。縦壁部55aと伸びフランジ部54aとの交点をP、縦壁部55bと縮みフランジ部54bとの交点をQとしたとき、線分PQをWhとする。また、縦壁部55a’と伸びフランジ部54a’との交点をP’、縦壁部55b’と縮みフランジ部54b’との交点をQ’としたとき、線分P’Q’をWh’とする。
このようにして求めた△Whに基づき、絞り曲げ加工(プレス成形)後のスプリングバックを、次の基準で評価した。
○:△Whが10mm以下
△:△Whが10mm超15mm未満
×:△Whが15mm以上
そして、仕上げ加工(リストライク加工)後に、プレス成形品57(コの字断面形状)外表面の点群の座標値を、非接触式のCCD3次元測定装置を用いて取得し、図13(a)で示したB−B断面で、縦壁部55aと縦壁部55bとの開きを測定して、WC’とした。そして、CADデータでの縦壁部55aと縦壁部55bとの開きをWCとし、△WC=WC’−WCを求めた。
図16は、WC、WC’及び△WCの定義を示す説明図である。図16中、WC’は非接触式のCCD3次元測定装置を用いて取得したB−B断面(図13(a)参照)を、WCは断面B−BのCADデータを示す。縦壁部55aの端部54aを点R、縦壁部55bの端部を点Sとしたとき、線分RSをWhとする。また、縦壁部55a’の端部を点R’、縦壁部55b’の端部を点S’としたとき、線分R’S’をWC’とする。
このようにして求めた△WCに基づき、仕上げ加工(リストライク加工)後のスプリングバックを、次の基準で評価した。
○:△WCが7mm以下
△:△WCが7mm超15mm未満
×:△WCが15mm以上
さらに、仕上げ加工(リストライク加工)後に、プレス成形品57(コの字断面形状)外表面の点群の座標値を、非接触式のCCD3次元測定装置を用いて取得し、図17に示す湾曲面60で、プレス成形品57(コの字断面形状)外表面の点群のCADデータ座標値(設計形状)との誤差の最大値と最小値の差の絶対値△Yw(うねり61)を求め、次の基準で評価した。
◎:△Ywが3mm以下
○:△Ywが3mm超7mm以下
△:△Ywが7mm超15mm未満
×:△Ywが15mm以上
なお、△Yw(うねり61)は、図18(a)に示すように、プレス成形品57(コの字断面形状)の頂部55cから70mmの位置62で評価した。また、CADデータ座標値(設計形状)との誤差の最大値と最小値の差の絶対値△Ywは、図18(b)に示す値である。
絞り曲げ加工結果(プレス成形結果)を表2に示す。
表2から明らかなように、本発明のプレス成形金型1で絞り曲げ加工(プレス成形加工)した本発明例は、いずれも、絞り曲げ成形加工後の△Whが良好で、スプリングバックが小さいことを確認できた。
No.3とNo.6から明らかなように、溝部30a、30bに皿ばねユニット30a、30bを配設することが、スプリングバックの低減に一層有効であることを確認できた。即ち、溝部30a、30bに皿ばねユニット16a、16bを配置すると、溝部30a、30b以外に皿ばねユニット16c〜16fを配置した場合に比べて、しわ押さえ金型25a、25bが顕著に撓む。したがって、溝部30a、30bに配設された皿ばねユニット16a、16bの方が、しわ押さえ力をより大きく増加させることができ、その結果、プレス成形品50のスプリングバックをより低減できることを確認できた。
また、肉厚Hと肉厚Lの比L/Hが上記(1)(2)を満足していることが必要であることは、No.1〜4における、しわ押さえ金型25a、25bの第二面32a、32bでの面圧から明らかである。
図19は、L/Hが100%における(表1のNo.1)、しわ押さえ金型25a、25bの第二面32a、32bでの面圧分布を示す図である。図20は、L/Hが90%における(表1のNo.2)、しわ押さえ金型25a、25bの第二面32a、32bでの面圧分布を示す図である。図21は、L/Hが80%における(表1のNo.3)、しわ押さえ金型25a、25bの第二面32a、32bでの面圧分布を示す図である。図22は、L/Hが70%における(表1のNo.4)、しわ押さえ金型25a、25bの第二面32a、32bでの面圧分布を示す図である。図19〜図21中、符号71、72、73、及び74は、面圧の最大値が、それぞれ、1.5MPa、2.5MPa、6.5MPa、及び8.7MPaである領域を示す。
表1及び図19〜21で示されるように、肉厚Hが50mmの場合において、L/Hが大きい程、しわ押さえ金型25a、25bの第二面32a、32bでの面圧が大きいことは明らかである。そして、図20及び図21において、溝部30a、30bを設けた部分の面圧が特に大きい。上述したように、ブランク材5のフランジ部54a、54bは、ダイ20としわ押さえ金型25a、25bの第二面32a、32bとの間でしわ押さえされる(図3及び図6を参照)。したがって、フランジ部54a、54bのうち、しわ押さえ力を特に増加させたい部分に、L/Mを上記(1)(2)を満足させつつ溝部30a、30bを設ければよいことは、図20及び図21から明らかである。
そして、本発明例は、いずれも、仕上げ加工(リストライク加工)後の△WC及び△Ywが良好であった。絞り曲げ加工(プレス成形)後のスプリングバックが小さいと、仕上げ加工(リストライク加工)後の、最終的なプレス成形品の寸法精度の改善に有効であることを併せて確認できた。これは、絞り曲げ加工時(プレス成形時)に、絞り曲げ加工終了手前(プレス成形終了手前)で湾曲部52のしわ押さえ力を増加させることにより、湾曲した縦壁面55a、55bにおけるプレス成形品57の長手方向の引張応力を低下させ、断面がスプリングバックによって開いたときに、プレス成形品50の外周の長さに余りが生じることを低減できるからである。
さらに、No.11から明らかなように、突出長さGを35mm(しわ押さえ力増加ストロークがプレス成形全高さの33%)とした場合は、突出長さGが24mm(しわ押さえ力増加ストロークがプレス成形全高さの15%)の場合に比べて、スプリングバックが幾分大きくなることが確認できた。これは、プレス成形終了直前でしわ押さえ力を増加すると、縦壁部の張力増加による曲げ戻し効果は大きいが、プレス成形の途中でしわ押え力を増加すると、曲げ加工時に大きな塑性ひずみが導入され、曲げ戻しの効果が薄れるためである。
また、No.12から明らかなように、突出長さGを16.5mm(しわ押さえ力増加ストロークがプレス成形全高さの2.5%)とすれば、スプリングバック低減の効果が認められることを確認できた。これは、しわ押さえ力増加が縦壁部の張力増加に寄与し、十分な曲げ戻し効果が得られるためである。
これに対し、従来例であるNo.14のしわ押さえ金型25a、25bが溝部を有さないプレス成形金型91は勿論のこと、比較例である溝部30a、30bを有するプレス成形金型1であっても、肉厚H、肉厚L、及びL/Hが上記(1)(2)を満足しない場合には、絞り曲げ加工(プレス成形)後、仕上げ加工(リストライク加工)後ともに、スプリングバックが大きい。即ち、No.1、2、8においては、プレス成形終期において、湾曲部52bに、必要なしわ押さえ力が付与(増加)されていないことが確認できた。
また、比較例は、仕上げ加工(リストライク加工)後の△WC及び△Ywが大きかった。つまり、絞り曲げ加工(プレス成形)後のスプリングバックが大きいと、仕上げ加工(リストライク加工)を行っても、最終的なプレス成形品の寸法精度の改善には限界があることを併せて確認できた。
また、No.13から明らかなように、突出長さGが16.2mm(しわ押さえ力増加ストロークがプレス成形全高さの2%未満)では、しわ押え力増加の効果が認められず、No.1の結果とほぼ同一であることが確認できた。これは、しわ押さえ力増加のタイミングが遅く、縦壁部に張力が伝わらないためである。
(実施例2)
図1に示した本発明のプレス成形金型1において、溝部30a〜30fと皿ばねユニット16a〜16fの配設位置を図23のように変化させて、鋼板を絞り曲げ加工(プレス成形)した。具体的には、板厚が1.0mm、引張強さが590MPaの高張力鋼板をブランク材5とし、このブランク材5を、図6に示した伸びフランジ部を有する形状(ハット形状)に絞り曲げ加工(プレス成形)した。表3に、溝部30a〜30fと、これらの溝部30a〜30fに接触させる皿ばねユニット16a〜16fの配設位置の組合せを示す。例えば、No.16のプレス成形金型1は、肉厚H、肉厚L、及びL/Hを除き、実施例1のNo.5のプレス成形金型と同様の構造である。皿ばねユニットで増加させることができる荷重は、150kNとした。また、突出長さGは19mmとした。絞り曲げ加工条件(プレス成形条件)及びスプリングバックの評価方法は、実施例1と同様とした。
絞り曲げ加工結果(プレス成形結果)を表4に示す。
表4から明らかなように、No.16の本発明例は、絞り曲げ加工(プレス成形)後のスプリングバックΔWh、仕上げ加工後のスプリングバックΔWc、ΔYwのいずれもが最も小さいことを確認した。No.16は、溝部を設けないしわ押さえ金型90a、90bで、しわ押さえ力増加手段を設けずにプレス成形したときに、最大板厚部となる湾曲外側部6aの板厚に対し97%以下の板厚となる部位を一部に有する湾曲内側部6bを、しわ押さえ金型25bの溝部30bを有する部分でしわ押さえし、溝部30bで皿ばねユニット16bを接触させたものである。即ち、No.16は、溝部30bを設けないしわ押さえ金型25bでは、しわ押さえ力を増加させにくい湾曲内側部6bの中央付近に、しわ押さえ力を、局所的かつ集中的に増加させることができることを示している。
これに対し、No.15、17〜20は、ΔWh、ΔWc、ΔYwがいずれも大きかった。ここで、プレス成形品においては、プレス成形品の全域において寸法が許容範囲内であることが必要であることから、一箇所でも許容範囲外のあるNo.15、17〜20はプレス成形品として適正ではない。なお、表4に示したように、No.15、17〜20は、溝部30a〜30f及び皿ばねユニット16a〜16fを設けずに絞り曲げ加工(プレス成形)したときに、ブランク材5の板厚に変化がなかったフランジ部54a、54bの直線部6c、6e、6d、6fの少なくとも一部を、しわ押さえ金型25a、25bの溝部30c、30e、30d、30fを有する部分でしわ押さえ力を増加させるようにしたものである。
表4から明らかなように、溝部30a〜30f及び皿ばねユニット16a〜16fを設けずに絞り曲げ加工(プレス成形)したプレス成形品のフランジ部の最大板厚部に対し97%以下の板厚となる伸びフランジ部の少なくとも一部を、しわ押さえ金型に溝部を設けた部分でしわ押さえし、プレス成形終期に、しわ押さえ力を増加させることが好ましいことを確認できた。即ち、プレス成形品50の湾曲内側部6bの少なくとも一部を、しわ押さえ金型25bの溝部30bを有する部分でしわ押さえし、かつ、プレス成形終期に、溝部30bと皿ばねユニット16bとが接触させることが好ましいことを確認できた。
なお、上述したところは、本発明の実施形態を例示したものにすぎず、本発明は、特許請求の範囲の記載範囲内において種々変更を加えることができる。