磁気共鳴イメージングは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数のRF信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するMR信号から画像を再構成する撮像法である。
この磁気共鳴イメージングの分野において、画像コントラストを制御する技術として脂肪抑制法がある。従来から一般的に広く用いられる脂肪抑制法には、化学シフト選択(CHESS: chemical shift selective)法、SPIR (spectral presaturation with inversion recovery)法(SPECIRとも言う)、短時間反転回復(STIR: short TI inversion recovery)法がある。
脂肪抑制法のうち、CHESS法は、水プロトンと脂肪プロトンの共鳴周波数が3.5ppm異なることを利用して脂肪信号のみを周波数選択的に抑制する手法であることから、周波数選択的脂肪抑制法と呼ばれる(例えば特許文献1、特許文献2および特許文献3参照)。CHESS法では、イメージング用のデータ収集に先立って、RFプリパルスとしてCHESSパルスが印加される。
また、SPIR法も水プロトンと脂肪プロトンの共鳴周波数の差を利用する周波数選択的脂肪抑制法である(例えば特許文献4参照)。SPIR法では、脂肪信号の共鳴周波数に合わせた周波数選択的反転RFパルスであるSPIRパルスがRFプリパルスとして印加される。
一方、STIR法は、脂肪信号と水信号との間におけるT1緩和時間の差を利用する脂肪抑制法であり、非周波数選択的脂肪抑制法である。
図1は、RFプリパルスとして周波数選択的脂肪抑制パルスの印加を伴う従来のFSE (fast spin echo)法によるパルスシーケンスのタイムチャートである。
図1において、RFはRFパルスを、Gss、Gro、Gpeはそれぞれスライス選択(slice selection)傾斜磁場、リードアウト(RO: readout)傾斜磁場、位相エンコード(PE: phase encode)傾斜磁場を印加する軸を、ECHOは、エコー信号を示す。
図1に示すように、脂肪からの不要な信号を除去するためのα°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc1がRFプリパルスとしてイメージング用のFSEシーケンスに先立って印加される。また、α°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc1に続いてスライス選択傾斜磁場方向にスポイラー傾斜磁場Gsp1が印加される。
FSEシーケンスでは、通常フリップアングル(FA: flip angle)が90度のFlipパルスRFI1がRF励起パルスとして印加される。また、FlipパルスRFI1に続いて複数のリフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …がエコー間隔ETS (Echo Tlain Space)で印加される。リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …のFAは通常180°に設定される。また、FlipパルスRFI1と最初のリフォーカスパルスRFI2との間の間隔はETS/2とされる。
一方、FlipパルスRFI1に対応するスライス選択傾斜磁場パルスGss1、リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …にそれぞれ対応するスライス選択傾斜磁場パルスGss2, Gss3, Gss4, …が印加される。FlipパルスRFI1に対応するスライス選択傾斜磁場パルスGss1は、ディフェーズ(Dephase)部分を有する。また、リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …にそれぞれ対応するスライス選択傾斜磁場パルスGss2, Gss3, Gss4, …は、両側にスポイラー(spoiler)傾斜磁場部分を有する。
また、リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …に続いて互に面積Sが等しいリードアウト傾斜磁場パルスGro2, Gro3, Gro4, …がそれぞれ印加される。さらに、FlipパルスRFI1に続いてディフェーズ用のリードアウト傾斜磁場パルスGro1が印加される。ディフェーズ用のリードアウト傾斜磁場パルスGro1の面積は、リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …に続いて印加されるリードアウト傾斜磁場パルスGro2, Gro3, Gro4, …の面積の半分S/2である。
さらに、リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …の各印加間において符号が逆で面積が等しい位相エンコード傾斜磁場パルスGpe1, Gpe2, Gpe3, Gpe4, …が印加される。
そして、このようなパルスシーケンスにおいて、リードアウト傾斜磁場パルスGro2, Gro3, …の印加によってエコー信号Echo1, Echo2, …が発生する。
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図2は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23およびRFコイル24を備えている。
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31およびコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35および記憶装置36が備えられる。
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
RFコイル24は、送信器29および/または受信器30と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場GzおよびRF信号を発生させる機能を有する。
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波およびA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムによらず、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
図3は、図2に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
コンピュータ32は、プログラムにより撮像条件設定部40、シーケンスコントローラ制御部41、k空間データベース42、画像再構成部43、画像データベース44および画像処理部45として機能する。
撮影条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいて、脂肪抑制パルス等の画像コントラストを制御するための周波数選択的あるいはスライス選択的なRFパルスの印加を伴うパルスシーケンスを撮影条件として設定し、設定した撮影条件をシーケンスコントローラ制御部41に与える機能を有する。ここで、画像コントラストを制御するためのRFパルスは、少なくともイメージング用のNMR信号を収集するためのイメージングシーケンス上においてRF中間パルスとして設定される。具体的には、画像コントラストを制御するためのRF中間パルスの印加タイミングは、少なくともイメージングデータの収集用のRF励起パルスの印加後に設定される。
例えば、エコー時間(TE: echo time)やETSに応じて決定されるk空間中心におけるデータの収集前にRF中間パルスの印加タイミングを設定すれば、画像コントラストに最も影響のあるk空間中心におけるデータに対してRF中間パルスの効果を与えることによって、より良好なコントラスト制御を行うことができる。従って、全てのイメージングデータの収集前およびk空間中心におけるデータの収集前の双方において複数回RF中間パルスを印加しても良い。ただし、k空間中心におけるデータの収集前のみのタイミングでRF中間パルスを印加すれば、イメージング時間の短縮化に繋がる。
さらに、必要に応じて、例えばより良好または複雑な画像コントラストの制御を行うことが望ましいような場合には、イメージングシーケンスに先立って、すなわちイメージングデータの収集用のRF励起パルスの印加前に画像コントラストを制御するための周波数選択的あるいはスライス選択的なRFプリパルスの印加を付加することができる。逆に、撮影時間の短縮化が望まれる場合には、RFプリパルスを印加せずにRF中間パルスを印加する撮影条件を設定することができる。
また、RF中間パルスやRFプリパルスの印加後には、脂肪等の不要な代謝物からの横磁化信号成分を抑制するためのスポイラー傾斜磁場パルスが印加されるようにパルスシーケンスが設定される。
RF中間パルスやRFプリパルスとして印加されるRFコントラストコントロールパルスは、イメージングスライスと異なるスライスに印加するスライス選択的パルスおよびイメージング用に収集するNMR信号の共鳴周波数と異なる共鳴周波数を有する物質に印加する周波数選択的パルスのいずれかであれば、任意のパルスとすることができる。従って、RFコントラストコントロールパルスの例としては、水選択励起パルス、脂肪抑制パルス、サチュレーションパルス、スピンラベリングパルス、MTC (magnetization transfer contrast)パルス、SORS (slice-selective off-resonance sinc pulse)が挙げられる。
水選択励起パルスは、水を選択的に励起するRFコントラストコントロールパルスであり、脂肪抑制パルスは脂肪からの信号を抑制するためRFコントラストコントロールパルスである。また、サチュレーションパルスは、所望の物質のスピンを飽和させて所望の物質からの信号を抑制するためのRFコントラストコントロールパルスであり、ディフェージンググラジエント傾斜磁場の印加前に印加される。スピンラベリングパルスは、撮像断面に流入する動体にタグ付けを行うためのRFコントラストコントロールパルスである。また、MTCパルスは、結合水のプロトンの磁化を飽和させ、実質臓器の信号を抑制するためのRFコントラストコントロールパルスである。スライス選択傾斜磁場とともに印加されるMTCパルスは、SORSと呼ばれる。
RF中間パルスおよびRFプリパルスは互に同種のRFコントラストコントロールパルスとしても良いし、互に異なるRFコントラストコントロールパルスとしても良い。RF中間パルスおよびRFプリパルスを同種のRFコントラストコントロールパルスとすれば、撮影時間を増加させることなく、より良好にコントラスト制御を行うことが可能である。逆に、RF中間パルスおよびRFプリパルスを異種のRFコントラストコントロールパルスとすれば、撮影時間を増加させることなく、複数種のコントラスト制御を行うことが可能となる。
また、複数のRF中間パルスや複数のRFプリパルスが印加されるように撮影条件を設定することができる。この場合でも、複数のRF中間パルスを互に同種または異種のRFコントラストコントロールパルスに設定できる。同様に、複数のRFプリパルスも互に同種または異種のRFコントラストコントロールパルスに設定できる。
ただし、RFコントラストコントロールパルスとしては、脂肪抑制パルスが最も需要が大きいと考えられる。このため、以下、単一のRFプリパルスおよび単一のRF中間パルスとして2つの脂肪抑制パルスを印加する場合の例について説明するが、他のRFコントラストコントロールパルスを単一または複数のRFプリパルスおよびRF中間パルスとして印加する場合についても同様である。
図4は、図3に示す撮像条件設定部40において設定される、RFプリパルスおよびRF中間パルスとして2つの脂肪抑制パルスの印加を伴うFSEシーケンスの一例を示すタイムチャートである。
図4において、RFはRFパルスを、Gss、Gro、Gpeはそれぞれスライス選択傾斜磁場、リードアウト傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場を印加する軸を、ECHOは、エコー信号を示す。
図4に示すように、脂肪からの不要な信号を除去するためのα1°周波数選択的(ケミカルシフト選択的)脂肪抑制パルスRFc1がRFプリパルスとしてイメージング用のFSEシーケンスに先立って印加される。また、α1°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc1に続いてスライス選択傾斜磁場方向にスポイラー傾斜磁場Gsp1が印加される。脂肪抑制パルスRFc1のFAは、必要とされる脂肪抑制効果に応じてα1°=90°〜130°程度に設定される。
FSEシーケンスでは、通常FAが90度のFlipパルスRFI1がRF励起パルスとして印加される。また、FlipパルスRFI1に続いて複数のリフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …がETSで印加される。リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …のFAは通常180°に設定される。また、FlipパルスRFI1と最初のリフォーカスパルスRFI2との間の間隔はETS/2とされる。
さらに、FlipパルスRFI1の印加後におけるFSEシーケンス上の任意の位置にRF中間パルスとしてα2°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc2が印加される。図4は、最初のリフォーカスパルスRFI2と2番目のリフォーカスパルスRFI3との間にα2°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc2が印加される例を示している。ただし、任意のリフォーカスパルスの印加後にα2°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc2を印加することができる。
尚、FlipパルスRFI1と最初のリフォーカスパルスRFI2との間にα2°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc2を印加してもよい。ただし、FlipパルスRFI1と最初のリフォーカスパルスRFI2との間に比べてリフォーカスパルス間の方が長い。従って、周波数選択的脂肪抑制パルスRFc2をリフォーカスパルス間において印加すれば周波数選択的脂肪抑制パルスRFc2のパルス長を所望のパルス長に設定できる可能性が高い。よって、所望のコントラストを容易に得るためには、周波数選択的脂肪抑制パルスRFc2をリフォーカスパルス間において印加することが望ましい。
また、脂肪抑制パルスRFc2のFAは、リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …のFAに応じてコントラストコントロール効果が定常的に維持されるように決定することが望ましい。例えば、リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …のFAが180°である場合には、脂肪抑制パルスRFc2のFAをα2°=180°とすることが望ましい。この場合、脂肪抑制パルスRFc2の印加によって脂肪領域の磁化が脂肪以外の領域の磁化に対して180°反転するため、180°リフォーカスパルスが繰り返し印加されても脂肪領域の磁化が抑制された状態が定常的に維持される。
そして、α1°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc1が第1の脂肪抑制パルス、α2°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc2が第2の脂肪抑制パルスとして機能する。
一方、FlipパルスRFI1に対応するスライス選択傾斜磁場パルスGss1、リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …にそれぞれ対応するスライス選択傾斜磁場パルスGss2, Gss3, Gss4, …が印加される。FlipパルスRFI1に対応するスライス選択傾斜磁場パルスGss1は、ディフェーズ(Dephase)部分を有する。また、リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …にそれぞれ対応するスライス選択傾斜磁場パルスGss2, Gss3, Gss4, …は、両側にスポイラー(spoiler)傾斜磁場部分を有する。
また、α2°脂肪抑制パルスRFc2の印加直前に印加されるリフォーカスパルスを除くリフォーカスパルス(図4の例ではRFI3, RFI4, …)に続いて互に面積Sが等しいリードアウト傾斜磁場パルス(図4の例ではGro3, Gro4, …)がそれぞれ印加される。さらに、FlipパルスRFI1に続いてディフェーズ用のリードアウト傾斜磁場パルスGro1が印加される。ディフェーズ用のリードアウト傾斜磁場パルスGro1の面積は、リフォーカスパルス(図4の例ではRFI3, RFI4, …)に続いて印加されるリードアウト傾斜磁場パルス(図4の例ではGro3, Gro4, …)の面積の半分S/2である。
また、α2°脂肪抑制パルスRFc2の印加直前に印加されるリフォーカスパルス(図4の例ではRFI2)とα2°脂肪抑制パルスRFc2の印加直後に印加されるリフォーカスパルス(図4の例ではRFI3)との間において、任意数のリードアウト傾斜磁場パルスが印加される。図4は、α2°脂肪抑制パルスRFc2の前後に2つのリードアウト傾斜磁場パルスGsp2, Gsp3が印加される例を示している。但し、α2°脂肪抑制パルスRFc2の前後に印加される任意数のリードアウト傾斜磁場パルス(図4の例ではGsp2, Gsp3)の合計の面積は、他のリフォーカスパルス(図4の例ではRFI3, RFI4, …)に続いて印加されるリードアウト傾斜磁場パルス(図4の例ではGro3, Gro4, …)の面積Sと等しくなるように設定される。従って、図4に示すように、α2°脂肪抑制パルスRFc2の前に印加されるリードアウト傾斜磁場パルスGsp2の面積がS1であれば、α2°脂肪抑制パルスRFc2の後に印加されるリードアウト傾斜磁場パルスGsp3の面積はS-S1となる。
つまり、α2°脂肪抑制パルスRFc2の印加タイミングにおいてリードアウト傾斜磁場パルスが印加されないように、α2°脂肪抑制パルスRFc2が印加されるリフォーカスパルスRFI2, RFI3間において本来印加されるべきリードアウト傾斜磁場パルスが面積一定のまま分割されてα2°脂肪抑制パルスRFc2の前後に分配設定されたと考えることができる。そうすると、簡易な撮影条件の調整によって、α2°脂肪抑制パルスRFc2の後に印加されるリードアウト傾斜磁場パルスGsp3を、α2°脂肪抑制パルスRFc2に対応するスポイラー傾斜磁場パルスとして機能させることができる。従って、α2°脂肪抑制パルスRFc2の後に印加されるリードアウト傾斜磁場パルスGsp3の面積S-S1は、リードアウト傾斜磁場パルスGsp3がスポイラー傾斜磁場パルスとして十分に機能するように決定されることが望ましい。
しかしながら、α2°脂肪抑制パルスRFc2の後に印加されるリードアウト傾斜磁場パルスGsp3の面積には上限があるため、十分な面積を確保できない場合もあり得る。そこで、スライス選択傾斜磁場方向および位相エンコード傾斜磁場方向の一方または双方に任意面積のスポイラー傾斜磁場パルスを設定することもできる。これにより、スポイラー傾斜磁場パルスの強度を任意に設定することが可能となる。この場合には、スポイラー傾斜磁場パルスの印加軸方向かつα2°脂肪抑制パルスRFc2の前に、スポイラー傾斜磁場パルスと面積が同じで極性が逆のプリスポイラー傾斜磁場パルスを印加すれば、スポイラー傾斜磁場パルスによるディフェーズ量をキャンセルして観測すべき代謝物からのエコー信号を良好に取得することができる。
尚、スライス選択傾斜磁場方向または位相エンコード傾斜磁場方向にスポイラー傾斜磁場パルスを設定する場合には、α2°脂肪抑制パルスRFc2の後にスポイラー傾斜磁場パルスとして印加されるリードアウト傾斜磁場パルスGsp3の面積S-S1をゼロとして、α2°脂肪抑制パルスRFc2の前にのみ面積がSのリードアウト傾斜磁場パルスGsp2を印加しても良い。一方、リードアウト傾斜磁場方向以外の方向にスポイラー傾斜磁場パルスが印加されるか否かに関わらず、α2°脂肪抑制パルスRFc2の前にリードアウト傾斜磁場パルスGsp2を印加せずに、α2°脂肪抑制パルスRFc2の後にのみ面積がSのリードアウト傾斜磁場パルスGsp3を印加しても良い。つまり、α2°脂肪抑制パルスRFc2が印加されるリフォーカスパルスRFI2, RFI3間において印加されるべきリードアウト傾斜磁場パルスを必ずしも分割しなくても良い。
さらに、リフォーカスパルスRFI2, RFI3, RFI4, …の各印加間において符号が逆で面積が等しい位相エンコード傾斜磁場パルスGpe1, Gpe2, Gpe3, Gpe4, …が印加される。ただし、α2°脂肪抑制パルスRFc2が印加されるリフォーカスパルスRFI2, RFI3間において印加される位相エンコード傾斜磁場パルスGpe1, Gpe2を削除し、上述したプリスポイラー傾斜磁場パルスおよびスポイラー傾斜磁場パルスを設定することもできる。
図4は、α2°脂肪抑制パルスRFc2の前後において位相エンコード傾斜磁場方向に、互に面積が同じで極性が逆のプリスポイラー傾斜磁場パルスGsp4およびスポイラー傾斜磁場パルスGsp5の印加を設定した例を示している。そして、スポイラー傾斜磁場パルスGsp5の印加によって脂肪からの不要な信号成分が抑制される一方、プリスポイラー傾斜磁場パルスGsp4の印加によって、スポイラー傾斜磁場パルスGsp5によるディフェーズ量をキャンセルして脂肪以外の所望の観測代謝物からのNMR信号を良好に抽出することができる。尚、上述したように、プリスポイラー傾斜磁場パルスおよびスポイラー傾斜磁場パルスをスライス選択傾斜磁場方向に印加しても良い。
そして、このようなパルスシーケンスにおいて、α2°脂肪抑制パルスRFc2が印加されないリフォーカスパルスRFI3, RFI4, RFI5, …間におけるリードアウト傾斜磁場パルスGro3, Gro4, …の印加によってエコー信号が発生する。
ところで、イメージングシーケンスとしては、FSEシーケンスに限らず他のイメージング技術に基づく任意のパルスシーケンスを用いることができる。すなわち、FLIPパルス、FLOPパルス、リフォーカスパルス等のRF励起パルスの印加後にRF中間パルスの印加を設定することができる。また、必要に応じてFLIPパルスやFLOPパルスの印加前にRFプリパルスの印加を設定することもできる。
この場合、RF中間パルスの印加タイミングにおいて、傾斜磁場パルスが印加されないように傾斜磁場パルスを決定する必要があるが、RF中間パルスの直後に印加されるリードアウト傾斜磁場パルス等の傾斜磁場パルスをスポイラー傾斜磁場パルスとして利用することができる。一方、RF中間パルスの後にスポイラー傾斜磁場パルスとして利用可能なパルスが存在しない場合には、RF中間パルスの前後においてリードアウト傾斜磁場方向、位相エンコード傾斜磁場方向およびスライス選択傾斜磁場方向のうち単一または複数の任意軸方向にスポイラー傾斜磁場パルスおよびプリスポイラー傾斜磁場パルスを設定することができる。
そして、RF中間パルスの後におけるリードアウト傾斜磁場パルスの印加によって、コントラストをコントロールするために脂肪等の不要な代謝物からの信号をより良好に抑制しつつデータを収集することができる。
図5は、図3に示す撮像条件設定部40において設定される、RFプリパルスおよびRF中間パルスとして2つの脂肪抑制パルスの印加を伴う拡散強調画像(DWI: diffusion weighted imaging)シーケンスの一例を示すタイムチャートである。
図5において、RFはRFパルスを、Gss、Groはそれぞれスライス選択傾斜磁場、リードアウト傾斜磁場を印加する軸を、ECHOは、エコー信号を示す。尚、位相エンコード傾斜磁場および図4に示すパルスと同様なパルスの説明は省略する。
図5に示すように、α1°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc1がRFプリパルスとしてイメージング用のDWIシーケンスに先立って印加される。
DWIシーケンスは、例えばSE (Spin Echo)法およびEPI (echo planar imaging)法に基づくSE-EPIシーケンスにMPG (motion probing gradient)パルスを付加したシーケンスとされる。すなわち、90°RF励起パルスRFI1の印加に続いてTE/2後に180°RFパルスRFI2が印加される。また、90°RF励起パルスRFI1および180°RFパルスRFI2とともにそれぞれスライス選択傾斜磁場パルスGss1, Gss2が印加される。そして、EPI法に基づいて設定されたリードアウト傾斜磁場パルスGepi-roの印加によって90°RF励起パルスRFI1の印加からTE後にエコー信号が連続収集される。
さらに、撮影目的によって任意に設定された任意の傾斜磁場方向に任意数のMPGパルスが印加される。例えば、図5に示すように、90°RF励起パルスRFI1と180°RFパルスRFI2との間において、リードアウト傾斜磁場方向に正極性の第1のMPGパルスMPG1および負極性の第2のMPGパルスMPG2が印加され、180°RFパルスRFI2とEPI法に基づくリードアウト傾斜磁場パルスGepi-roとの間において、リードアウト傾斜磁場方向に正極性の第3のMPGパルスMPG3が印加される。
さらに、90°RF励起パルスRFI1の印加後におけるDWIシーケンス上の任意の位置にRF中間パルスとしてα2°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc2を印加することができる。例えば、図5に示すように、第1のMPGパルスMPG1と第2のMPGパルスMPG2との間にα2°脂肪抑制パルスRFc2を印加すれば、負極性の第2のMPGパルスMPG2をスポイラー傾斜磁場パルスとして利用することができる。加えて、最初のイメージング用のエコー信号の収集前にα2°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc2を印加すれば、全てのエコー信号に対してα2°周波数選択的脂肪抑制パルスRFc2の効果を付与することができる。
また、α2°脂肪抑制パルスRFc2の設定前におけるDWIシーケンスにおいて、適切な位置にMGPパルスが設定されていない場合であっても、全てのMGPパルスの合計の面積を一定としつつα2°脂肪抑制パルスRFc2の後の適切な位置に意図的にMPGパルスをスポイラー傾斜磁場パルスとして利用できるように設定することもできる。さらに、プリスポイラー傾斜磁場パルスおよびスポイラー傾斜磁場パルスのペアを任意軸方向、例えばMGPパルスが印加されない軸に設定することもできる。
また、例えば、180°RFパルスRFI2とEPI法に基づくリードアウト傾斜磁場パルスGepi-roとの間にα2°脂肪抑制パルスRFc2を印加しても、リードアウト傾斜磁場パルスGepi-roの印加により収集されるエコー信号には、α2°脂肪抑制パルスRFc2による脂肪抑制効果が得られる。この場合、第3のMPGパルスMPG3をスポイラー傾斜磁場パルスとして利用することもできる。
次に、コンピュータ32の他の機能について説明する。
シーケンスコントローラ制御部41は、入力装置33またはその他の構成要素からの情報に基づいて、撮影条件設定部40から取得したパルスシーケンスを含む撮影条件をシーケンスコントローラ31に与えることにより駆動制御させる機能を有する。また、シーケンスコントローラ制御部41は、シーケンスコントローラ31から生データを受けてk空間データベース42に形成されたk空間に配置する機能を有する。このため、k空間データベース42には、受信器30において生成された各生データがk空間データとして保存される。
画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能と、再構成して得られた画像データを画像データベース44に書き込む機能を有する。このため、画像データベース44には、画像再構成部43において再構成された画像データが保存される。
画像処理部45は、画像データベース44から画像データを取り込んで必要な画像処理を行って表示用の2次元の画像データを生成する機能と、生成した表示用の画像データを表示装置34に表示させる機能を有する。
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。
図6は、図2に示す磁気共鳴イメージング装置20によりRF中間パルスの印加を伴うイメージングによって被検体Pの画像を撮像する際の手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
まずステップS1において、撮影条件設定部40において、入力装置33から入力された情報に基づいてコントラストをコントロールするためのRF中間パルスの印加を伴う図4や図5に示すようなパルスシーケンスを含む撮影条件が設定される。また、必要に応じてRFプリパルスも付加される。
次にステップS2において、設定された撮影条件に従ってイメージングスキャンが実行され、データが収集される。
そのために、予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
そして、入力装置33からシーケンスコントローラ制御部41にイメージングスキャンの開始指示が与えられると、シーケンスコントローラ制御部41は撮影条件設定部40からRF中間パルスの印加を伴うパルスシーケンスを取得してシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、シーケンスコントローラ制御部41から受けたパルスシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、所要の信号処理を実行した後、A/D変換することにより、デジタルデータのNMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをシーケンスコントローラ制御部41に与え、シーケンスコントローラ制御部41はk空間データベース42に形成されたk空間に生データをk空間データとして配置する。
次に、ステップS3において、画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んでフーリエ変換を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する。再構成して得られた画像データは、画像データベース44に書き込まれる。
次に、ステップS4において、画像処理部45は、画像データベース44から画像データを取り込んで必要な画像処理を行って表示用の2次元の画像データを生成し、生成した表示用の画像データを表示装置34に表示させる。ここで、画像データは、図4や図5に示すようなコントラストをコントロールするRF中間パルスの印加を伴う撮影条件に従って取得されるため、より短い撮影時間で画像データを得ることができる。さらに、コントラストをコントロールするRFプリパルスを印加すれば、より良好な脂肪抑制効果が画像データにおいて得られる。
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、イメージングシーケンスの実行中において脂肪抑制パルス等のコントラストの制御を行うためのRF中間パルスおよびスポイラー傾斜磁場パルスを印加することによって画像データを収集するものである。
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、RFプリパルスが必ずしも必須とならないため、最初のTRを短縮することができる。特にマルチスライス撮影の場合には、特定のスライスセットの撮像を行うためのminimumTRを短縮することができる。このため、マルチスライス撮像において脂肪抑制等のコントラスト制御を伴ってスライス枚数を増やすことができる。
さらに、磁気共鳴イメージング装置20によれば、RFプリパルスとしてRF中間パルスと同種のコントラストコントロールパルスを印加すれば、より良好なコントラストの制御を行うことができる。例えば、RFプリパルスおよびRF中間パルスとして脂肪抑制パルスを印加すれば、十分な脂肪抑制効果を得ることができる。一方、RFプリパルスとしてRF中間パルスと異種のコントラストコントロールパルスを印加すれば、撮影目的に応じて様々な画像コントラストの制御を行うことができる。
特に、3T以上の高磁場装置においては、ケミカルシフト量が大きくなるため、上述したようなRF中間パルスの印加による画像コントラストの向上が期待できる。
尚、複数のRF要素コイルを用いて形成されたRF送信パルスを送信するというRF送信パルスの多チャンネル化が考案されている。このため、複数のRF要素コイルを用いてRF中間パルスやRFプリパルスを送信すれば、RF中間パルスやRFプリパルスの周波数方向のプロファイルを安定させることができる。このため、より一層良好なコントラストの制御を行うことが可能となる。