JP5438880B2 - 機能蛋白質を代替する二種特異性抗体 - Google Patents

機能蛋白質を代替する二種特異性抗体 Download PDF

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本発明は、酵素反応を増強する補因子の作用を代替する二種特異性抗体、および該抗体を有効成分として含有する医薬組成物に関する。
抗体は血中での安定性が高く、抗原性も低いことから医薬品として注目されている。その中には二種類の抗原を同時に認識できる二種特異性抗体がある。二種特異性抗体は提唱されて久しい。しかしながらこれまでに、NK細胞、マクロファージ、T細胞のretargetingを目的とするなど、二種類の抗原を単に繋ぐだけの抗体しか報告されていない(非特許文献7参照)。例えば、臨床試験が行なわれているMDX−210は、FcγRIを発現しているmonocyte等をHER−2/neuを発現している癌細胞にretargetingする二種特異性抗体であるに過ぎない。従って現在まで、二種特異性抗体を、酵素反応を増強する補因子の代替手段として利用した例はなかった。
補因子としては、例えば、組織因子(TF)、血液凝固第V因子(F.V)、活性化血液凝固第V因子(F.Va)、血液凝固第VIII因子(F.VIII)、活性化血液凝固第VIII因子(F.VIIIa)、トロンボモデュリン(TM)、プロテインS(PS)、プロテインZ(PZ)、ヘパリン、補体C4b、補体制御タンパクH因子(Complement Regulatory Factor H)、Membrane Cofactor Protein(MCP)、Complement Receptor 1(CR1)等が挙げられる。
これらのうち、F.VIII/F.VIIIaは、十分な活性化血液凝固第IX因子(F.IXa)の活性発現に必要な補因子である。Scheiflinger Fらは、ある種の抗F.IX/F.IXa抗体に、chromogenic assayにおいてF.IXaによる血液凝固第X因子(F.X)活性化を促進する作用があることを見出している(特許文献1参照)。しかしながら、F.VIII欠乏血漿の凝固回復能測定においては、この抗体単独による凝固回復能は示されておらず、外来的にF.IXaを添加した状態でのみ凝固回復能を示している。
F.VIIIaは、F.IXaと相互作用するだけでなくF.Xとも相互作用することが知られている(非特許文献5および6参照)。この点で、Scheiflinger Fらの抗体は、F.VIII/F.VIIIaの機能を十分に代替しているといえず、その活性も不十分であると推測される。
本発明者らは、鋭意研究の結果、酵素活性を増強する補因子の作用を代替する二種特異性抗体の作製に成功し、本発明に至った。
国際公開第01/19992号 米国特許第4,474,893号公報 EP404,097号 国際公開第93/11161号 特願2002−112369号公報 特願2003−012648号公報 特開平5−304992号公報 特開平2−145187号公報 特開平5−213775号公報 特開平10−165184号公報 特開平11−71288号公報 特表2002−518041号公報 特表平11−506310号公報 特開平5−199894号公報 特表平10−511085号公報 特開平5−184383号公報 Nilsson IMら著、「J.Intern.Med.」、1992年、Vol.235、p.25−32 Lofqvist Tら著、「J.Intern.Med.」、1997年、Vol.241、p.395−400(左記「Lofqvist T」の「o」はウムラウトがつく文字である) 第24回日本血栓止血学会学術集会 学術専門部会 血友病標準化検討部会 ミニシンポジウム、2001年、http://www.jsth.org Medical Bulletin #193 1994 Mertens Kら著、「Thromb.Haemost.」、1999年、Vol.82、p.209−217 Lapan KAら著、「Thromb.Haemost.」、1998年、Vol.80、p.418−422 Segal DMら著、「Journal of Immunological Methods」、2001年、Vol.248、p.1−6 Bos RおよびNieuwenhuitzen W著、「Hybridoma」、1992年、Vol.11、No.1、p.41−51 Brennan Mら著、「Science」、1985年、Vol.229、No.1708、p.81−3 Karpovsky Bら著、「J.Exp.Med.」、1984年、Vol.160、No.6、p.1686−701 Suresh MRら著、「Methods Enzymol.」、1986年、Vol.121、p.210−28 Massimo YSら著、「J.Immunol.Methods」、1997年、Vol.201、p.57−66 Brennan Mら著、「Science」、1985年、Vol.229、p.81 Shalaby MRら著、「J.Exp.Med.」、1992年、Vol.175、p.217−25 Holliner Pら著、「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」、1993年、Vol.90、p.6444−8 Ridgway JBら著、「Protein Eng.」、1996年、Vol.9、p.617−21 Hammerling Uら著、「J.Exp.Med.」、1968年、Vol.128、p.1461−73 Kurokawa Tら著、「Bio/Technology」、1989年、Vol.7、p.1163 Link BKら著、「Blood」、1993年、Vol.81、p.3343 Nitta Tら著、「Lancet」、1990年、Vol.335、p.368−71 deLeij Lら著、「Foundation Nationale de Transfusion Sanguine,Les Ulis France」、1990年、p.249−53 Le Doussal JMら著、「J.Nucl.Med.」、1993年、Vol.34、p.1662−71 Stickney DRら著、「Cancer Res.」、1991年、Vol.51、p.6650−5 Weiner LMら著、「Cancer Res.」、1993年、Vol.53、p.94−100 Kroesen BJら著、「Br.J.Cancer」、1994年、Vol.70、p.652−61 Weiner GJら著、「J.Immunol.」、1994年、Vol.152、p.2385 Suresh MRら著、「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」、1986年、Vol.83、p.7989−93 Milstein CおよびCuello AC著、「Nature」、1983年、Vol.305、p.537 Xiang Jら著、「Mol.Immunol.」、1990年、Vol.27、p.809 Bebbington CRら著、「Bio/Technology」、1992年、Vol.10、p.169 Huse WDら著、「Science」、1989年、Vol.246、p.1275 McCafferty Jら著、「Nature」、1990年、Vol.348、p.552 Kang ASら著、「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」、1991年、Vol.88、p.4363
本発明は、酵素反応を増強する補因子の機能を代替する二種特異性抗体の提供を課題とする。
本発明者らは鋭意研究を行った結果、F.IX/F.IXa及びF.Xの双方に特異的に結合し、F.VIIIaの補因子作用、すなわちF.IXaによるF.X活性化を促進する作用を代替する二種特異性抗体を見出すことに成功した。即ち、本発明者らは、酵素および該酵素の基質の両者を認識し、該酵素の補因子の機能を代替し得る二種特異性抗体の作製に成功した。
即ち本発明は、酵素反応を増強する補因子の機能を代替する二種特異性抗体に関し、より具体的には、
〔1〕酵素、および該酵素の基質の両方を認識する抗体であって、酵素反応を増強する補因子の機能を代替する二種特異性抗体、
〔2〕酵素が蛋白質分解酵素である、〔1〕に記載の抗体、
〔3〕蛋白質分解酵素、基質ならびに補因子が血液凝固線溶関連因子である、〔2〕に記載の抗体、
〔4〕血液凝固線溶関連因子の酵素が血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子で、基質が血液凝固第X因子で、補因子が血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子である、〔3〕に記載の抗体、
〔5〕抗血液凝固第IX/IXa因子抗体における下記(a1)もしくは(a2)のCDR3のアミノ酸配列からなる相補性決定領域またはこれと機能的に同等の相補性決定領域と、抗血液凝固第X因子抗体における下記(b1)〜(b9)のいずれかに記載のCDR3のアミノ酸配列からなる相補性決定領域またはこれと機能的に同等の相補性決定領域とを含む、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の抗体、
(a1)H鎖CDR3が配列番号:16に記載のアミノ酸配列
(a2)H鎖CDR3が配列番号:20に記載のアミノ酸配列
(b1)H鎖CDR3が配列番号:24に記載のアミノ酸配列
(b2)H鎖CDR3が配列番号:28に記載のアミノ酸配列
(b3)H鎖CDR3が配列番号:32に記載のアミノ酸配列
(b4)H鎖CDR3が配列番号:36に記載のアミノ酸配列
(b5)H鎖CDR3が配列番号:40に記載のアミノ酸配列
(b6)H鎖CDR3が配列番号:44に記載のアミノ酸配列
(b7)H鎖CDR3が配列番号:48に記載のアミノ酸配列
(b8)H鎖CDR3が配列番号:52に記載のアミノ酸配列
(b9)H鎖CDR3が配列番号:56に記載のアミノ酸配列
〔6〕抗血液凝固第IX/IXa因子抗体における下記(a1)もしくは(a2)のCDRのアミノ酸配列からなる相補性決定領域またはこれと機能的に同等の相補性決定領域と、抗血液凝固第X因子抗体における下記(b1)〜(b9)のいずれかに記載のCDRのアミノ酸配列からなる相補性決定領域またはこれと機能的に同等の相補性決定領域とを含む、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の抗体、
(a1)H鎖CDR1,2,3が配列番号:14、15、16に記載のアミノ酸配列
(a2)H鎖CDR1,2,3が配列番号:18、19、20に記載のアミノ酸配列
(b1)H鎖CDR1,2,3が配列番号:22、23、24に記載のアミノ酸配列
(b2)H鎖CDR1,2,3が配列番号:26、27、28に記載のアミノ酸配列
(b3)H鎖CDR1,2,3が配列番号:30、31、32に記載のアミノ酸配列
(b4)H鎖CDR1,2,3が配列番号:34、35、36に記載のアミノ酸配列
(b5)H鎖CDR1,2,3が配列番号:38、39、40に記載のアミノ酸配列
(b6)H鎖CDR1,2,3が配列番号:42、43、44に記載のアミノ酸配列
(b7)H鎖CDR1,2,3が配列番号:46、47、48に記載のアミノ酸配列
(b8)H鎖CDR1,2,3が配列番号:50、51、52に記載のアミノ酸配列
(b9)H鎖CDR1,2,3が配列番号:54、55、56に記載のアミノ酸配列
〔7〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物、
〔8〕出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療に用いられる医薬組成物である、〔7〕に記載の組成物、
〔9〕出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患である、〔8〕に記載の組成物、
〔10〕血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血友病Aである、〔9〕に記載の組成物、
〔11〕血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子に対するインヒビターが出現している疾患である、〔9〕に記載の組成物、
〔12〕血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、後天性血友病である、〔9〕に記載の組成物、
〔13〕血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下によって発症および/または進展する疾患が、フォンビルブランド病である、〔9〕に記載の組成物、
〔14〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕〜〔13〕のいずれかに記載の組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患を予防および/または治療する方法、
〔15〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の抗体の、〔7〕〜〔13〕のいずれかに記載した組成物の製造のための使用、
〔16〕少なくとも〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を含む、〔14〕に記載の予防および/または治療する方法に用いるためのキット、
〔17〕〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕〜〔13〕のいずれかに記載の組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患を、血液凝固第VIII因子と併用して、予防および/または治療する方法、
〔18〕少なくとも〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を含み、かつ血液凝固第VIII因子を含む〔17〕に記載の予防および/または治療する方法に用いるためのキット、を提供するものである。
図1はpcDNA4−g4Hの挿入領域を表した図である。 図2はpcDNA4−g4LおよびpIND−g4Lの挿入領域を表した図である。 図3はpIND−g4Hの挿入領域を表した図である。 図4は抗F.IXa抗体XB12と抗F.X抗体SB04、SB21、SB42、SB38、SB30、SB07、SB05、SB06、SB34により作製した抗F.IXa/抗F.X二種特異性抗体の、F.VIIIa様活性を測定した結果を示している。抗体溶液の濃度は10μg/mL(最終濃度1μg/mL)である。結果、9種の二種特異性抗体でF.VIIIa様活性の上昇を示し、XB12/SB04、XB12/SB21、XB12/SB42、XB12/SB38、XB12/SB30、XB12/SB07、XB12/SB05、XB12/SB06、XB12/SB34の順に活性が強かった。 図5は抗F.IXa抗体XT04と抗F.X抗体SB04、SB21、SB42、SB38、SB30、SB07、SB05、SB06、SB34により作製した抗F.IXa/抗F.X二種特異性抗体またはXT04抗体の、F.VIIIa様活性を測定した結果を示している。抗体溶液の濃度は10μg/mL(最終濃度1μg/mL)である。結果、XT04/SB04、XT04/SB21、XT04/SB42、XT04/SB38、XT04/SB30、XT04/SB07、XT04/SB05、XT04/SB06、XT04/SB34はF.VIIIa様活性の上昇を示した。 図6は、図4の中で最も活性の高かったXB12/SB04について、様々な濃度でのF.VIIIa様活性を測定した結果を示している。結果、XB12/SB04は濃度依存的にF.VIIIa様活性の上昇を示した。 図7はXB12/SB04、XB12/SB21、XB12/SB42、XB12/SB38、XB12/SB30、XB12/SB07、XB12/SB05、XB12/SB06、XB12/SB34存在下での、血漿凝固時間(APTT)を測定した結果を示している。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度はXB12/SB06に関しては1.7μg/mL、それ以外は10μg/mLである。結果、XB12/SB04、XB12/SB21、XB12/SB42、XB12/SB38、XB12/SB30、XB12/SB07、XB12/SB05、XB12/SB06、XB12/SB34は、抗体非存在下と比較して、凝固時間の短縮効果を示した。 図8はXT04/SB04、XT04/SB21、XT04/SB42、XT04/SB38、XT04/SB30、XT04/SB07、XT04/SB05、XT04/SB06、XT04/SB34存在下での、血漿凝固時間(APTT)を測定した結果を示している。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度はXT04/SB06に関しては5μg/mL、それ以外は10μg/mLである。結果、XT04/SB04、XT04/SB21、XT04/SB42、XT04/SB38、XT04/SB30、XT04/SB07、XT04/SB05、XT04/SB06は、抗体非存在下と比較して、凝固時間の短縮効果を示した。XT04/SB34は凝固時間の短縮は認められなかった。 図9は図7、図8の中で最も凝固時間(APTT)の短縮効果の高かったXB12/SB04について、様々な濃度での凝固時間を測定した結果を示している。結果、XB12/SB04は濃度依存的に凝固時間の短縮効果を示した。図中の抗体濃度は抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の数値を表す。 図10はSB04またはSB06のGST−APウェスタンブロッティングの結果を示している。転写されたGST−APに対し、1はSB04、2はSB06、3は抗体を含まないサンプルと反応させたものである。結果、SB04のみGST−APとの結合反応が検出された。 図11はpELBGlacIベクターを表した図である。ColE1ori:ColE1系プラスミド複製開始領域、f1ori:f1ファージ複製開始領域、lacI:ラクトースリプレッサータンパク質コード領域、Plac:ラクトースプロモーター、pelBss:大腸菌PelBタンパクシグナル配列、scFv:一本鎖抗体分子コード領域、gene III:f1ファージGeneIIIタンパク質コード領域、Amp:アンピシリン耐性遺伝子。Sfi I:制限酵素Sfi I切断部位。 図12は抗F.IXa抗体(A19,A25,A31,A38,A39,A40,A41,A44,A50,A69,XB12)と抗F.X抗体(B2,B5,B9,B10,B11,B12,B13,B14,B15,B16,B18,B19,B20,B21,B23,B25,B26,B27,B31,B34−1,B34−2,B35,B36,B38,B42,SB04,SB15,SB27)とを組み合わせて発現させた二種特異性抗体の培養上清を用いてF.VIIIa様活性を測定した結果を示す。+はF.VIIIa様活性が0.1以上である場合を表す。 図13は、抗F.IXa抗体(A19,A25,A31,A38,A39,A40,A41,A44,A50,A69,XB12)と抗F.X抗体(B2,B5,B9,B10,B11,B12,B13,B14,B15,B16,B18,B19,B20,B21,B23,B25,B26,B27,B31,B34−1,B34−2,B35,B36,B38,B42,SB04,SB15,SB27)とを組み合わせて発現させた二種特異性抗体の精製物を用いて血漿凝固アッセイを行った結果を示す。抗体無添加時と比較し、抗体添加時の凝固時間の短縮が10秒〜20秒を+、20秒〜40秒を++、40秒〜50秒を+++、そして50秒以上を++++で表す。 図14は図13の中で凝固時間(APTT)の短縮効果の高かったA44/B26について、様々な濃度での凝固時間を測定した結果が示されている。抗体無添加時の凝固時間は113秒である。結果、A44/B26は濃度依存的に凝固時間の短縮効果を示した。図中の抗体濃度は抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の数値を表す。 図15は図13の中で凝固時間(APTT)の短縮効果の高かったA69/B26について、様々な濃度での凝固時間を測定した結果が示されている。抗体無添加時の凝固時間は109.6秒である。結果、A69/B26は濃度依存的に凝固時間の短縮効果を示した。図中の抗体濃度は抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の数値を表す。 図16はA44/B26またはXB12/SB04とF.VIIIの共存下での、血漿凝固時間(APTT)を測定した結果を示している。結果、A44/B26またはXB12/SB04とF.VIIIの混合溶液は、F.VIII単独と比較して、凝固時間の短縮効果を示した。 図17はA44/B26またはXB12/SB04存在下での、インヒビター血漿における凝固時間(APTT)を測定した結果を示している。結果、A44/B26またはXB12/SB04は抗体非存在下と比較して、凝固時間の短縮効果を示した。 図18はXB12/SB04とヒト化XB12/ヒト化SB04について、様々な濃度での凝固時間を測定した結果を示している。抗体無添加時の凝固時間は111.3秒である。測定の結果、ヒト化XB12/ヒト化SB04はXB12/SB04と同程度の凝固時間の短縮効果を示した。図中の抗体濃度は抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の数値を表す。
本発明における二種特異性抗体(bispecific抗体)は、異なる抗原に対して特異性を有する2種類の抗体もしくは抗体断片からなる分子である。二種特異性抗体は特に制限されないが、モノクローナルであることが好ましい。
本発明の二種特異性抗体は、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体であることが好ましい。(例えば、Borrebaeck CAK and Larrick JW,THER APEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES,Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD,1990参照)。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ、または抗体を産生する感作リンパ球等の抗体産生細胞からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
さらに、本発明における抗体は、その抗体断片や抗体修飾物であってよい。抗体断片としては、ダイアボディ(diabody;Db)、線状抗体、一本鎖抗体(以下、scFvとも記載する)分子などが含まれる。ここで、「Fv」断片は最小の抗体断片であり、完全な抗原認識部位と結合部位を含む。「Fv」断片は1つの重(H)鎖可変領域(V)および軽(L)鎖可変領域(V)が非共有結合により強く連結されたダイマー(V−Vダイマー)である。各可変領域の3つの相補鎖決定領域(complementarity determining region;CDR)が相互作用し、V−Vダイマーの表面に抗原結合部位を形成する。6つのCDRが抗体に抗原結合部位を付与している。しかしながら、1つの可変領域(または、抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位よりも親和性は低いが、抗原を認識し、結合する能力を有する。
また、Fab断片(F(ab)とも呼ばれる)はさらに、L鎖の定常領域およびH鎖の定常領域(CH1)を含む。Fab’断片は、抗体のヒンジ領域からの1またはそれ以上のシステインを含むH鎖CH1領域のカルボキシ末端由来の数残基を付加的に有する点でFab断片と異なっている。Fab’−SHとは、定常領域の1またはそれ以上のシステイン残基が遊離のチオール基を有するFab’を示すものである。F(ab’)断片は、F(ab’)ペプシン消化物のヒンジ部のシステインにおけるジスルフィド結合の切断により製造される。化学的に結合されたその他の抗体断片も当業者には知られている。
ダイアボディは、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の抗体断片を指す(Holliger P et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448(1993)、EP404,097号、WO93/11161号等)。ダイアボディは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーであり、ポリペプチド鎖は各々、同じ鎖中でL鎖可変領域(V)及びH鎖可変領域(V)が、互いに結合できない位に短い、例えば、5残基程度のリンカーにより結合されている。同一ポリペプチド鎖上にコードされるVとVとは、その間のリンカーが短いため単鎖可変領域フラグメントを形成することが出来ず二量体を形成するため、ダイアボディは2つの抗原結合部位を有することとなる。
一本鎖抗体またはscFv抗体断片には、抗体のVおよびV領域が含まれ、これらの領域は単一のポリペプチド鎖中に存在する。一般に、FvポリペプチドはさらにVおよびV域の間にポリペプチドリンカーを含んでおり、これによりscFvは、抗原結合のために必要な構造を形成することができる(scFvの総説については、Pluckthun『The Pharmacology of Monoclonal Antibodies』Vo.113(Rosenburg and Moore ed(Springer Verlag,New York)pp.269−315,1994)を参照)。本発明におけるリンカーは、その両端に連結された抗体可変領域の発現を阻害するものでなければ特に限定されない。
IgGタイプ二種特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが出来る(Milstein C et al.Nature 1983,305:537−540)。また目的の二種のIgGを構成するL鎖及びH鎖の遺伝子、合計4種の遺伝子を細胞に導入することによって共発現させることによって分泌させることが出来る。
しかし、これらの方法で産生されるIgGのH鎖とL鎖の組合せは理論上10通りにもなる。10種類のIgGから目的の組み合わせのH鎖L鎖からなるIgGを精製することは困難である。さらに目的の組み合わせのものの分泌量も理論上著しく低下するため、大きな培養規模が必要になり、製造上のコストはさらに増大する。
この際H鎖のCH3領域に適当なアミノ酸置換を施すことによってH鎖についてヘテロな組合せのIgGを優先的に分泌させることも出来る(Ridgway JB et al.Protein Engineering 1996,9:617−621、Merchant AM et al.Nature Biotechnology 1998,16:677−681)。
また、L鎖に関しては、H鎖可変領域に比べてL鎖可変領域の多様性が低いことから、両H鎖に結合能を与え得る共通のL鎖が得られることが期待される。この共通L鎖と両H鎖遺伝子を細胞に導入することによってIgGを発現させることで効率の良い二種特異性IgGの発現が可能となる(Nature Biotechnology.1998,16,677−681)。しかし任意に2種の抗体を選んだ場合、同じL鎖を含む可能性は低く上記のアイデアを実行することは困難であり、任意の異なるH鎖に対応し高い結合能を示す共通L鎖を選択する方法も提案されている(WO2004/065611)。上記変異(Nature Biotechnology.1998,16,677−681)CH3を有するH鎖は、相手側のH鎖が存在しない場合ほとんど分泌されない。この特徴を利用してまず右腕のL鎖とH鎖を誘導発現させ、これを止めた後、左腕のL鎖とH鎖を誘導発現させることによって目的の組み合わせのIgGの発現比率を高めることが出来る(PCT/JP2004/008585)。
Fab’を化学的に架橋することによっても二種特異性抗体を作製し得る。例えば一方の抗体から調製したFab’をo−PDM(ortho−phenylenedi−maleimide)にてマレイミド化し、これともう一方の抗体から調製したFab’を反応させることにより、異なる抗体由来Fab’同士を架橋させ二種特異性F(ab’)を作製することが出来る(Keler T et al.Cancer Research 1997,57:4008−4014)。またFab’−チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体とFab’−チオール(SH)等の抗体断片を化学的に結合する方法も知られている(Brennan M et al.Science 1985,229:81−83)。
化学架橋の代りにFos,Junなどに由来するロイシンジッパーを用いることも出来る。Fos,Junはホモダイマーも形成するが、ヘテロダイマーを優先的に形成することを利用する。Fosロイシンジッパーを付加したFab’とJunのそれを付加したもう一方のFab’を発現調製する。温和な条件で還元した単量体Fab’−Fos,Fab’−Junを混合し反応させることによって二種特異性F(ab’)が形成できる(Kostelny SA et al.J of Immunology,1992,148:1547−53)。この方法はFab’には限定されず、scFv,Fvなどにおいても応用可能である。
ダイアボディにおいても二種特異性抗体を作製し得る。二種特異性ダイアボディは二つのcross−over scFv断片のヘテロダイマーである。つまり二種の抗体A,B由来のVとをVを5残基前後の比較的短いリンカーで結ぶことによって作製されたV(A)−V(B),V(B)−V(A)を用いてヘテロダイマーを構成することによって出来る(Holliger P et al.Proc of the National Academy of Sciences of the USA 1993,90:6444−6448)。
この際、二種のscFvを15残基程度の柔軟な比較的長いリンカーで結ぶ(一本鎖ダイアボディ:Kipriyanov SM et al.J of Molecular Biology.1999,293:41−56)、適当なアミノ酸置換(knobs−into−holes:Zhu Z et al.Protein Science.1997,6:781−788)を行うことによって目的の構成を促進させることも出来る。
二種のscFvを15残基程度の柔軟な比較的長いリンカーで結ぶことによって作製できるsc(Fv)も二種特異性抗体となり得る(Mallender WD et al.J of Biological Chemistry,1994,269:199−206)。
抗体修飾物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を挙げることができる。本発明の抗体修飾物においては、結合される物質は限定されない。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
本発明の抗体は、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体など、その由来は限定されない。またキメラ抗体やヒト化抗体などの遺伝子改変抗体でもよい。
ヒト抗体の取得方法は既に知られており、例えば、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を目的の抗原で免疫することで目的のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227,WO 92/03918,WO 94/02602,WO 94/25585,WO 96/34096,WO 96/33735参照)。
遺伝子改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。具体的には、たとえばキメラ抗体は、免疫動物の抗体のH鎖、およびL鎖の可変領域と、ヒト抗体のH鎖およびL鎖の定常領域からなる抗体である。免疫動物由来の抗体の可変領域をコードするDNAを、ヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることによって、キメラ抗体を得ることができる。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される改変抗体である。ヒト化抗体は、免疫動物由来の抗体のCDRを、ヒト抗体の相補性決定領域へ移植することによって構築される。その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato K et al,Cancer Research 1993,53:851−856)。また、様々なヒト抗体由来のフレームワーク領域に置換してもよい(国際特許出願公開番号WO 99/51743参照)。
本発明は、酵素および該酵素の基質の両方を認識するような補因子の機能を代替する二種特異性抗体を提供する。
本発明における補因子は、酵素に作用し酵素反応を増強し得るものであれば特に制限されない。本発明における補因子としては、例えば、蛋白質分解酵素の補因子を挙げることができる。蛋白質分解酵素の補因子の具体例としては、血液凝固線溶関連因子における補因子(F.VIII/F.VIIIa、F.V/F.Va、PZ、TM、TM/PSシステム)や補体反応の補因子(C4b、MCP、CR1、H因子)等を挙げることができる。
本発明における酵素、および該酵素の基質、および該酵素の補因子の具体例としては、例えば、以下の組合せを挙げることができる。
(a)血液凝固線溶関連因子における補因子の例1
酵素:F.IXa
基質:F.X
補因子:F.VIII/F.VIIIa
補因子F.VIIIaは、F.IXaとF.Xの両方に結合することによって、F.IXaによるF.Xの活性化を増強する。上記の酵素F.IXa、基質F.Xの両方を認識する二種特異性抗体の中には、F.Xの活性化を増強する作用を有するものがある。このような抗体の中には、補因子F.VIII/F.VIIIaの作用機能を代替する作用を有するものが存在すると考えられる。
(b)血液凝固線溶関連因子における補因子の例2
酵素:ZPI
基質:F.X/F.Xa
補因子:PZ
補因子PZは、serpinファミリーのZPIと活性化血液凝固第X因子(F.Xa)に結合することで、ZPIによるF.Xa阻害活性を増強する。すなわち、ZPIとF.X/F.Xaの両方を認識する二種特異性抗体の中には、PZの機能を代替する作用を有するものが存在すると考えられる。
(C)血液凝固線溶関連因子における補因子の例3
酵素:トロンビン
基質:TAFI
補因子:TM
補因子TMは、トロンビンによるTAFIの活性化を増強する。すなわち、トロンビンとTAFIの両方を認識する二種特異性抗体の中には、TMの機能を代替する作用を有するものが存在すると考えられる。
(d)血液凝固線溶関連因子における補因子の例4
酵素:トロンビン
基質:PC
補因子:TM/PS
TM/PSシステムは、トロンビンによるPCの活性化を増強する。すなわち、トロンビンとPCの両方を認識する二種特異性抗体の中には、TM/PSシステムの機能を代替するものが存在すると考えられる。
(e)血液凝固線溶関連因子における補因子の例5
酵素:F.Xa
基質:プロトロンビン
補因子:F.V/F.Va
補因子F.Vaは、F.Xaとプロトロンビンの両方に結合することによって、F.Xaによるプロトロンビンの活性化を増強する。上記の酵素F.Xa、基質プロトロンビンの両方を認識する二種特異性抗体の中には、プロトロンビンの活性化を増強する作用を有するものがある。このような抗体の中には、補因子F.V/F.Vaの作用機能を代替する作用を有するものが存在すると考えられる。
(f)補体反応の補因子の例1
酵素:C1s
基質:C2
補因子:C4b
C4bはC1sによるC2の分解促進作用を有する。すなわちC1sとC2の両方を認識する二種特異性抗体の中には、C4bの機能を代替するものが存在すると考えられる。
(g)補体反応の補因子の例2
酵素:補体制御タンパクI因子(Complement Regulatory Factor I)
基質:C3b
補因子:補体制御タンパクH因子(Complement Regulatory Factor H)
Membrane Cofactor Protein(MCP)
Complement Receptor 1(CR1)
Complement Regulatory Factor H、MCP、CR1は、Complement Regulatory Factor IによるC3b分解促進作用を有する。すなわち、Complement Regulatory Factor IとC3bの両方を認識する二種特異性抗体の中には、Complement Regulatory Factor H、MCP、CR1の機能を代替するものが存在すると考えられる。
上記補因子の中で、特に好ましいのはF.VIII/F.VIIIaである。F.VIII/F.VIIIaは、トロンビン等の蛋白分解酵素により限定分解を受けるが、F.VIII/F.VIIIaの補因子活性を有している限り、その形態は問わない。また、変異F.VIII/F.VIIIaや、遺伝子組換技術により人為的に改変したF.VIII/F.VIIIaに関しても、F.VIII/F.VIIIaの補因子活性を有している限り、F.VIII/F.VIIIaに含まれる。
本発明の補因子機能代替二種特異性抗体を得る方法は特に制限されず、どのような方法で取得されてもよい。例えば、酵素A及び基質Bに対する補因子機能代替二種特異性抗体を得る場合、酵素A、基質Bそれぞれを免疫動物に免疫し、抗酵素A抗体及び抗基質B抗体を取得する。その後、抗酵素A抗体のH鎖とL鎖及び抗基質B抗体のH鎖とL鎖を含む二種特異性抗体を作製する。ここで、抗酵素A抗体と抗基質B抗体はそれぞれ複数種得られていることが望ましく、これらを用いてなるべく多くの組合せの二種特異性抗体を作製することが好ましい。二種特異性抗体を作製後、補因子機能代替活性を有する抗体を選択する。
酵素あるいは基質に対する抗体は、当業者に公知の方法により得ることができる。例えば、免疫動物に対して抗原を免疫することにより調製することができる。動物を免疫する抗原としては、免疫原性を有する完全抗原と、免疫原性を有さない不完全抗原(ハプテンを含む)が挙げられる。本発明においては、本発明の補因子機能代替抗体が補因子として作用すると考えられる酵素あるいは基質を、上記抗原(免疫原)として使用する。免疫する動物として、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリまたはアカゲザル等を用いることができる。これら動物に対して、抗原を免疫することは、当業者においては、周知の方法によって行うことができる。本発明において好ましくは、免疫された動物または該動物の細胞から抗体のL鎖およびH鎖の可変領域の回収を行う。この操作は、当業者においては一般的に公知の技術を用いて行うことができる。抗原によって免疫された動物は、とりわけ脾臓細胞において該抗原に対する抗体を発現する。従って、例えば、免疫された動物の脾臓細胞からmRNAを調製し、該動物の可変領域に対応するプライマーを用いて、RT−PCRによりL鎖およびH鎖の可変領域の回収を行うことができる。
詳細には、動物に酵素、基質それぞれを免疫する。免疫原とする酵素、基質は、蛋白質全体、もしくは該蛋白質の部分ペプチドであってもよい。また、動物を免疫するのに用いる免疫原としては、場合により抗原となるものを他の分子に結合させ可溶性抗原とすることも可能であり、また、場合によりそれらの断片を用いてもよい。
免疫されたマウスの脾臓から脾細胞を単離し、マウスミエローマ細胞と融合し、ハイブリドーマを作製する。抗原に結合するハイブリドーマをそれぞれ選択し、可変領域に対応するプライマーなどを用いてRT−PCRにてL鎖、H鎖の可変領域を回収することが出来る。CDRに対応するプライマー、CDRよりも多様性の低いフレームワークに対応するプライマー、あるいはシグナル配列とCH1もしくはL鎖定常領域(C)に対応するプライマーを用いることもできる。
あるいは、免疫された動物の脾細胞からmRNAを抽出し、可変領域付近に対応するプライマーを用いてRT−PCRにてL鎖、H鎖可変領域のcDNAを回収する。また、in vitroにおいてリンパ球を免疫することもできる。これを用いてscFvもしくはFabを提示するライブラリーを構築する。パンニングによって抗原結合抗体クローンを濃縮・クローン化し、可変領域を得ることが出来る。この際、ヒトや免疫していない動物の末梢血単核球、脾臓、扁桃腺などに由来するmRNAを材料とする同様のライブラリーを用いてスクリーニングを行うことも可能である。
その可変領域を用いて抗体発現ベクターを作製する。抗酵素抗体発現ベクターと抗基質抗体発現ベクターを同一の細胞に導入し、抗体を発現させることにより二種特異性抗体を得ることができる。
補因子機能代替活性を有する抗体の選択は、例えば、以下のような方法により行うことができる。
(1)該酵素・該基質を含む反応系を用い、該抗体を加えることによる該酵素活性(基質分解能)の上昇を指標とし、選択する。
(2)該酵素・該基質・該補因子が関わる生体機能を測定するあるいは模倣する系(例えば、血漿凝固測定系)を用い、該補因子非存在条件下にて該抗体を加えることによる機能回復活性を指標とし、選択する。
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組合せれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)が、これらに限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムなどが挙げられる。
本発明の二種特異性抗体は、例えば代替する補因子がF.VIII/F.VIIIaである場合、すなわち酵素および基質の組合せが、血液凝固線溶関連因子のF.IXa、及びF.Xである場合には、好ましくは、抗F.IXa抗体における可変領域と、抗F.X抗体における可変領域とを含む構造を有する。
本発明のF.VIII/F.VIIIa機能代替二種特異性抗体は以下の方法で作製した。市販のF.IXa及びF.Xをそれぞれマウスの皮下に免疫した。抗体価の上昇した免疫マウスの脾臓から脾細胞を単離し、マウスミエローマ細胞と融合し、ハイブリドーマを作製した。抗原(F.IXa、F.X)に結合するハイブリドーマをそれぞれ選択し、可変領域に対応するプライマーを用いてRT−PCRにてL鎖、H鎖の可変領域を回収した。L鎖可変領域はCを含むL鎖発現ベクターに、H鎖可変領域はH鎖定常領域を含むH鎖発現ベクターにそれぞれ組み込んだ。また、この免疫マウスの脾臓からmRNAを抽出し、可変領域に対応するプライマーを用いてRT−PCRにてL鎖、H鎖可変領域のcDNAを回収した。これら可変領域を用いてscFvを提示するファージライブラリーを構築した。パンニングによって抗原結合抗体クローンを濃縮・クローン化し、その可変領域を用いて抗体発現ベクターを作製した。抗F.IXa抗体(H鎖、L鎖)の発現ベクターとF.X抗体(H鎖、L鎖)の発現ベクターを同一の細胞に導入し、抗体を発現させることにより二種特異性抗体を得た。
得られた二種特異性抗体に関しては、F.XIa(F.IX活性化酵素)、F.IX、F.X、F.Xaの合成基質(S−2222)、リン脂質から成る測定系で、F.VIII/F.VIIIa(F.IXaによるF.X活性化の補因子)を代替する活性を評価した。その結果を以って、F.VIII/F.VIIIa代替活性を有する二種特異性抗体として、原則本測定系で0.1以上のF.VIIIa様活性を示したものを選択した。なお、ここでいうF.VIIIa様活性とは、抗体溶液または抗体発現培養上清の30分間または60分間の吸光度変化値から、溶媒または抗体非発現培養上清の30分間または60分間の吸光度変化値を引いた値である。
上記で選択された二種特異性抗体あるいはその類縁の二種特異性抗体に関しては、F.VIII欠乏ヒト血漿を用いた凝固時間測定系を用い、凝固回復能を測定した。その結果、抗体無添加時に比べて、凝固時間を短縮する二種特異性抗体を得た。ここでいう凝固時間は実施例7に示したように、F.VIII欠乏ヒト血漿を用いた活性化部分トロンボプラスチン時間を測定したものである。それら二種特異性抗体の中で、好ましい二種特異性抗体は10秒以上の、より好ましい二種特異性抗体は20秒以上の、さらに好ましい二種特異性抗体は40秒以上の、最も好ましい二種特異性抗体は50秒以上の凝固時間短縮能を有していた。
本発明の抗体のH鎖CDR3は、特に制限されないが、具体的には、後述の実施例に記載のXB12、XT04、A19、A25、A31、A38、A39、A40、A41、A44、A50、もしくはA69のH鎖CDR3配列(配列番号:16、20、60、64、68、72、76、80、84、88、92もしくは96)のいずれかのアミノ酸配列からなる相補性決定領域またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を有し、且つ、SB04、SB05、SB06、SB07、SB21、SB30、SB34、SB38、SB42、B2、B5、B9、B10、B11、B12、B13、B14、B15、B16、B18、B19、B20、B21、B23、B25、B26、B27、B31、B34−1、B34−2、B35、B36、B38、B42、SB15もしくはSB27のH鎖CDR3配列(それぞれの配列番号:24、28、32、36、40、44、48、52、56、100、104、108、112、116、120、124、128、132、136、140、144、148、152、156、160、164、168、172、176、180、184、188、192、196、200もしくは204)のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる相補性決定領域またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を有する。
さらに、本発明の上記抗体は具体例としては、XB12、XT04、A19、A25、A31、A38、A39、A40、A41、A44、A50、もしくはA69(配列番号:14〜16、18〜20、58〜60、62〜64、66〜68、70〜72、74〜76、78〜80、82〜84、86〜88、90〜92もしくは94〜96)のH鎖CDR配列のいずれかのアミノ酸配列からなる相補性決定領域、またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を有するものと、SB04、SB05、SB06、SB07、SB21、SB30、SB34、SB38、SB42、B2、B5、B9、B10、B11、B12、B13、B14、B15、B16、B18、B19、B20、B21、B23、B25、B26、B27、B31、B34−1、B34−2、B35、B36、B38、B42、SB15もしくはSB27のH鎖CDR配列(配列番号:22〜24、26〜28、30〜32、34〜36、38〜40、42〜44、46〜48、50〜52、54〜56、98〜100、102〜104、106〜108、110〜112、114〜116、118〜120、122〜124、126〜128、130〜132、134〜136、138〜140、142〜144、146〜148、150〜152、154〜156、158〜160、162〜164、166〜168、170〜172、174〜176、178〜180、182〜184、186〜188、190〜192、194〜196、198〜200もしくは202〜204)のいずれかのアミノ酸配列からなる相補性決定領域、またはこれと機能的に同等の相補性決定領域を有するものとの組合せによる抗体を好適に示すことができる。
本発明記載のXB12、XT04、A19、A25、A31、A38、A39、A40、A41、A44、A50、A69、SB04、SB05、SB06、SB07、SB21、SB30、SB34、SB38、SB42、B2、B5、B9、B10、B11、B12、B13、B14、B15、B16、B18、B19、B20、B21、B23、B25、B26、B27、B31、B34−1、B34−2、B35、B36、B38、B42、SB15もしくはSB27のH鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号:13、17、57、61、65、69、73、77、81、85、89、93、21、25、29、33、37、41、45、49、53、97、101、105、109、113、117、121、125、129、133、137、141、145、149、153、157、161、165、169、173、177、181、185、189、193、197ならびに201で示される。
本発明記載のA44、B26、XB12、SB04のL鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号:205、209、213、217で示される。また、A44、B26、XB12、SB04のL鎖CDR配列は、配列番号:206〜208、210〜212、214〜216、218〜220で示される。また、XB12、SB04、A44、B26のH鎖CDRの塩基配列(括弧内は該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列)は、配列番号:221(222)、223(224)、225(226)、233(234)、235(236)、237(238)、245(246)、247(248)、249(250)、257(258)、259(260)、261(262)で示され、L鎖CDRの塩基配列は、配列番号:227(228)、229(230)、231(232)、239(240)、241(242)、243(244)、251(252)、253(254)、255(256)、263(264)、265(266)、267(268)で示される。
なお、配列番号:58、62、66、70、74、78、82、86、90、94、98、102、106、110、114、118、122、126、130、134、138、142、146、150、154、158、162、166、170、174、178、182、186、190、194、198、202、206、210、214、218、222、228、234、240、246、252、258、264は、CDR1を表す。
配列番号:59、63、67、71、75、79、83、87、91、95、99、103、107、111、115、119、123、127、131、135、139、143、147、151、155、159、163、167、171、175、179、183、187、191、195、199、203、207、211、215、219、224、230、236、242、248、254、260、266は、CDR2を表す。
配列番号:60、64、68、72、76、80、84、88、92、96、100、104、108、112、116、120、124、128、132、136、140、144、148、152、156、160、164、168、172、176、180、184、188、192、196、200、204、208、212、216、220、226、232、238、244、250、256、262、268は、CDR3を表す。
本発明の抗体は、特に制限されないが、好ましくは上記抗体と同じもしくは近傍のエピトープを有する抗体で、抗Factor IXa抗体と抗Factor X抗体による組合せの二種特異性抗体が挙げられる。ここでいう同じもしくは近傍のエピトープを有する抗体とは、例えば、競合ELISAなどで結合が拮抗する抗体等を指す。この競合ELISAの手法は特に制限はされないが、Factor IX/IXaもしくはFactor Xを96−wellマイクロウェルプレートに固相化させ、適当な標識をした該抗体と評価すべき抗体を同時に添加し、標識を利用して結合している抗体を検出する。この標識は特に制限はされないが、アルカリホスファターゼ標識、ペルオキシダーゼ標識、ビオチン標識−ストレプトアビジン結合酵素(アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ等)、あるいはFITCなどが挙げられる。該抗体に対して、評価すべき抗体の100,000倍過剰までの濃度において少なくとも50%の競合が見られる場合、エピトープ重なりが存在する。
本発明で開示されている可変領域を用いて全長抗体を作製する場合、定常領域は特に限定されず、当業者に公知の定常領域を用いることが可能であり、例えば、Sequences of proteins of immunological interest,(1991),U.S.Department of Health and Human Services.Public Health Service National Institutes of Healthや、An efficient route to human bispecific IgG,(1998).Nature Biotechnology vol.16,677−681、等に記載されている定常領域を用いることができる。
本発明における抗体の1つの態様としては、補因子の機能を代替する作用を有することから、本発明の抗体は、該補因子の活性(機能)低下に起因する疾病に対して、有効な薬剤となることが期待される。本発明の抗体の代替する補因子が血液凝固線溶関連因子である場合には、上記疾病として、例えば、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患等を挙げることができる。特に、F.VIII/F.VIIIa、F.IX/F.IXa、F.XI/F.XIaの機能低下や欠損は、血友病と呼ばれる出血異常症を引き起こすことで知られる。
血友病のうち、先天性のF.VIII/F.VIIIa機能低下または欠損による出血異常症は、血友病Aと呼ばれる。血友病A患者が出血した場合、F.VIII製剤の補充療法が行われる。また、激しい運動や遠足の当日、頻回に関節内出血を来たす場合、あるいは重症血友病に分類される場合には、F.VIII製剤の予防投与が行われることがある(非特許文献1および2参照)。このF.VIII製剤の予防投与は、血友病A患者の出血エピソードを激減させるため、近年、大きく普及しつつある。出血エピソードを減らすことは、致死性及び非致死性の出血の危険及びそれに伴う苦痛を低下させるだけでなく、頻回の関節内出血に起因する血友病性関節障害を未然に防ぐ。その結果、血友病A患者のQOL向上に大きく寄与する。
F.VIII製剤の血中半減期は短く、約12〜16時間程度である。それ故、継続的な予防のためには、F.VIII製剤を週に3回程度投与する必要がある。これは、F.VIII活性として、概ね1%以上を維持することに相当する(非特許文献3および4参照)。また、出血時の補充療法においても、出血が軽度な場合を除き、再出血を防ぎ、完全な止血を行うため、一定期間、F.VIII製剤を定期的に追加投与する必要がある。
また、F.VIII製剤は、静脈内に投与される。静脈内投与実施には、技術的な困難さが存在する。特に年少の患者に対する投与においては、投与に用いられる静脈が細い故、困難さが一層増す。
前述の、F.VIII製剤の予防投与や、出血の際の緊急投与においては、多くの場合、家庭療法・自己注射が用いられる。頻回投与の必要性と、投与の際の技術的困難さは、投与に際し患者に苦痛を与えるだけでなく、家庭療法・自己注射の普及を妨げる要因となっている。
従って、現存の血液凝固第VIII因子製剤に比し、投与間隔が広い薬剤、あるいは投与が簡単な薬剤が、強く求められていた。
さらに、血友病A患者、特に重症血友病A患者には、インヒビターと呼ばれるF.VIIIに対する抗体が発生する場合がある。インヒビターが発生すると、F.VIII製剤の効果がインヒビターにより妨げられる。その結果、患者に対する止血管理が非常に困難になる。
このような血友病Aインヒビター患者が出血を来たした場合は、通常、大量のF.VIII製剤を用いる中和療法か、複合体製剤(complex concentrate)あるいはF.VIIa製剤を用いるバイパス療法が、実施される。しかしながら、中和療法では、大量のF.VIII製剤の投与が、逆に、インヒビター(抗F.VIII抗体)力価を上げてしまう場合がある。また、バイパス療法では、複合体製剤やF.VIIa製剤の短血中半減期(約2〜8時間)が問題となっている。その上、それらの作用機序が、F.VIII/F.VIIIaの機能、すなわちF.IXaによるF.X活性化を触媒する機能に非依存であるため、場合によっては、止血機構をうまく機能させられず、不応答になってしまうケースがある。そのため、血友病Aインヒビター患者では、非インヒビター血友病A患者に比し、十分な止血効果を得られない場合が多いのである。
従って、インヒビターの存在に左右されず、且つF.VIII/F.VIIIaの機能を代替する薬剤が、強く求められていた。
ところで、F.VIII/F.VIIIaに関係する出血異常症として、血友病、抗F.VIII自己抗体を有する後天性血友病のほかに、vWFの機能異常または欠損に起因するフォンビルブランド病が知られている。vWFは、血小板が、血管壁の損傷部位の内皮下組織に正常に粘着するのに必要であるだけでなく、F.VIIIと複合体を形成し、血漿中F.VIIIレベルを正常に保つのにも必要である。フォンビルブランド病患者では、これらの機能が低下し、止血機能異常を来たしている。
さて、(i)投与間隔が広く、(ii)投与が簡単であり、(iii)インヒビターの存在に左右されず、(iv)F.VIII/F.VIIIa非依存的にその機能を代替する医薬品の創製には、抗体を利用する方法が考えられる。抗体の血中半減期は、一般に、比較的長く、数日から数週間である。また、抗体は、一般に、皮下投与後に血中に移行することが知られている。すなわち、一般に抗体医薬品は、上記の(i)、(ii)を満たしている。
本発明では、本発明の抗体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。例えば、本発明の抗体がF.IXもしくはF.IXa、およびF.Xの両方を認識する抗体のうち、F.VIIIaの機能を代替する抗体である場合には、該抗体は、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防あるいは治療のための医薬品(医薬組成物)もしくは薬剤となることが期待される。また、F.XもしくはF.Xa、およびプロトロンビンの両方を認識する抗体のうち、F.Vaの機能を代替する抗体である場合には、該抗体は、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防あるいは治療のための医薬品(医薬組成物)もしくは薬剤となることが期待される。
一方で、ZPIとF.Xに結合してPZの機能を代替する抗体は抗血栓作用を有する医薬品(医薬組成物)もしくは薬剤、トロンビンとTAFIに結合してTMの機能を代替する抗体は止血促進作用を有する医薬品(医薬組成物)もしくは薬剤、トロンビンとPCに結合してPS/TMシステムの機能を代替する抗体は凝固調節作用を有する医薬品(医薬組成物)もしくは薬剤となることが期待される。
また、補体C4の欠損は全身性エリテマトーデス(SLE)を引き起こすことから、C4bの作用を代替する抗体はSLE発症抑制作用を有する医薬品(医薬組成物)もしくは薬剤となることが期待される。H因子の欠損は易化膿性感染症、自己免疫性の糸球体腎炎を引き起こすことから、H因子の作用を代替する抗体はこれら疾患の発症抑制作用を有する医薬品(医薬組成物)もしくは薬剤となることが期待される。
治療または予防目的で使用される本発明の抗体を有効成分として含む医薬組成物は、必要に応じて、それらに対して不活性な適当な薬学的に許容される担体、媒体等と混和して製剤化することができる。例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、防腐剤、界面活性剤(PEG、Tween等)、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、マンニトールやソルビトール等の糖アルコールを含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO−50)等と併用してもよい。
また、必要に応じ本発明の抗体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる(″Remington’s Pharmaceutical Science 16th edition″,Oslo Ed.(1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明の抗体に適用し得る(Langer et al.,J.Biomed.Mater.Res.15:267−277(1981);Langer,Chemtech.12:98−105(1982);米国特許第3,773,719号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号;Sidman et al.,Biopolymers 22:547−556(1983);EP第133,988号)。
本発明の抗体または医薬組成物は、血液凝固第VIII因子と併用することができる。本発明の抗体または医薬組成物は、血液凝固第VIII因子と同時に投与してもよく、または、時期をずらして投与してもよい。また、本発明の抗体または医薬組成物と血液凝固第VIII因子を組み合わせたキットとして実施してもよい。さらに、本発明の抗体または医薬組成物と血液凝固第VIII因子を併用する場合は、いずれかを単独で用いる場合に比べて、所望により各々の投与量を少なくすることも可能である。
本発明の医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状、疾患の種類や進行の程度等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定されるものであるが、一般に大人では、1日当たり、0.1〜2000mgを1〜数回に分けて投与することができる。より好ましくは1〜1000mg/日、更により好ましくは50〜500mg/日、最も好ましくは100〜300mg/日である。これらの投与量は患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。投与期間も、患者の治癒経過等に応じて適宜決定することが好ましい。
また、本発明の抗体をコードする遺伝子を遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与方法としては、nakedプラスミドによる直接投与の他、リポソーム等にパッケージングするか、レトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、ワクシニアウィルスベクター、ポックスウィルスベクター、アデノウィルス関連ベクター、HVJベクター等の各種ウィルスベクターとして形成するか(Adolph『ウィルスゲノム法』,CRC Press,Florid(1996)参照)、または、コロイド金粒子等のビーズ担体に被覆(WO93/17706等)して投与することができる。しかしながら、生体内において抗体が発現され、その作用を発揮できる限りいかなる方法により投与してもよい。好ましくは、適当な非経口経路(静脈内、腹腔内、皮下、皮内、脂肪組織内、乳腺組織内、吸入または筋肉内の経路を介して注射、注入、またはガス誘導性粒子衝撃法(電子銃等による)、点鼻薬等粘膜経路を介する方法等)により十分な量が投与される。ex vivoにおいてリポソームトランスフェクション、粒子衝撃法(米国特許第4,945,050号)、またはウィルス感染を利用して血液細胞及び骨髄由来細胞等に投与して、該細胞を動物に再導入することにより本発明の抗体をコードする遺伝子を投与してもよい。遺伝子治療では、本発明の抗体をコードする任意の遺伝子を使用することが可能であり、例えば、前述のXB12、SB04、A44、B26のCDRの塩基配列を含む遺伝子が挙げられる。
また本発明は、本発明の抗体もしくは組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患、または出血に起因する疾患の予防および/または治療するための方法を提供する。抗体もしくは組成物の投与は、例えば、前記の方法により実施することができる。
また本発明は、本発明の抗体の、本発明の(医薬)組成物の製造のための使用に関する。
さらに本発明は、少なくとも本発明の抗体もしくは組成物を含む、上記方法に用いるためのキットを提供する。該キットには、その他、注射筒、注射針、薬学的に許容される媒体、アルコール綿布、絆創膏、または使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕 Factor IXa(F.IXa)に対する非中和抗体の作製
1−1.免疫およびハイブリドーマ作製
BALB/cマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)8匹およびMRL/lprマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)5匹に、human Factor IXa β(Enzyme Research Laboratories,Inc.)を以下の通り免疫した。初回免疫としてFCA(フロイント完全アジュバントH37 Ra(Difco laboratories))でエマルジョン化したFactor IXa βを40μg/head皮下投与した。2週間後にFIA(フロイント不完全アジュバント(Difco laboratories))でエマルジョン化したFactor IXa βを40μg/head皮下投与した。以後1週間間隔で追加免疫を3〜7回行った。Factor IXa βに対する血清抗体価の上昇を1−2に示したELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)で確認後、最終免疫としてPBS(−)(カルシウムイオン、マグネシウムイオンを含まないphosphate buffered saline)に希釈したFactor IXa βを40μg/head静脈内投与した。最終免疫の3日後、マウスの脾臓を摘出し、その一部は実施例10−2で使用し、残りの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞P3X63Ag8U.1(P3U1と称す、ATCC CRL−1597)を、PEG1500(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いた常法に従い細胞融合した。
10%FBS(Invitrogen)を含むRPMI1640培地(Invitrogen)(以下、10%FBS/RPMI1640と称す)に懸濁した融合細胞を96 well culture plateに播種し、融合1,2,3,5日後にHAT選択培地(10%FBS/RPMI1640/2%HAT 50x concentrate(大日本製薬)/5%BM−Condimed H1(ロシュ・ダイアグノスティックス))への置換を行うことにより、ハイブリドーマの選択培養を行った。融合後8日目または9日目に採取した培養上清を用いて、1−2に示したELISAによりFactor IXaに対する結合活性を測定することにより、Factor IXa結合活性を有するハイブリドーマを選択した。続いて1−3に示した方法でFactor IXaの酵素活性に対する中和活性を測定し、Factor IXaに対する中和活性を有さないハイブリドーマを選択した。ハイブリドーマは、96 well culture plateに1wellあたり1個の細胞を播種することによる限界希釈を2回行ってクローン化した。顕微鏡観察により単一コロニーであることが確認された細胞について、1−2、1−3に示したELISAおよび中和活性測定を行い、クローンを選択した。1−4に示した方法により、クローン化した抗体の腹水を作製し、腹水から抗体を精製した。精製抗体が、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)を延長させないことを、1−5に示した方法で確認した。
1−2.Factor IXa ELISA
Coating buffer(100mM sodium bicarbonate,pH9.6,0.02% sodium azide)で1μg/mLに希釈したFactor IXa βを、Nunc−Immuno plate(Nunc−ImmunoTM 96 MicroWellTM plates MaxiSorpTM(Nalge Nunc International))に100μL/wellで分注後、4℃で一晩インキュベーションした。Tween(R) 20を含むPBS(−)で3回洗浄後、diluent buffer(50mM Tris−HCl,pH8.1,1% bovine serum albumin,1mM MgCl,0.15M NaCl,0.05% Tween(R) 20,0.02% sodium azide)でplateを室温で2時間blockingした。Bufferを除去後、plateにdiluent bufferで希釈したマウスの抗血清またはハイブリドーマの培養上清を100μL/well添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを3回洗浄後、diluent bufferで1/2000希釈したアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG(H+L)(Zymed Laboratories)を100μL/well添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを6回洗浄後、発色基質Blue−PhosTM Phosphate Substrate(Kirkegaad & Perry Laboratories)を100μL/well添加し、室温で20分インキュベーションした。Blue−PhosTM Stop Solution(Kirkegaad & Perry Laboratories)を100μL/well添加した後、595nmにおける吸光度をMicroplate Reader Model 3550(Bio−Rad Laboratories)で測定した。
1−3.Factor IXa中和活性測定
Phospholipid(Sigma−Aldrich)を注射用蒸留水で溶解し、超音波処理を施すことにより、400μg/mLのphospholipid溶液を調製した。0.1%ウシ血清アルブミンを含むトリス緩衝生理食塩液(以下、TBSB)40μLと30ng/mL Factor IXa β(Enyzme Research Laboratories)10μLと400μg/mL phospholipid溶液5μLと100mM CaCl、20mMMgClを含むTBSB5μLとハイブリドーマ培養上清10μLを96穴プレート中で混和し、室温で1時間インキュベーションした。この混合溶液に、50μg/mL Factor X(Enzyme Research Laboratories)20μLおよび3U/mL Factor VIIIa(Amrican diagnostica)10μLを加え、室温で30分間反応させた。これに10μLの0.5M EDTAを添加することにより反応を停止させた。この反応溶液に、50μLのS−2222溶液(Chromogenix)を添加し、室温で30分間インキュベーションした後、測定波長405nm、対照波長655nmにおける吸光度をMicroplate Reader Model 3550(Bio−Rad Laboratories,Inc.)により測定した。
1−4.腹水の作製および抗体の精製
樹立したハイブリドーマの腹水作製は常法に従って行った。すなわち、in vitroで培養したハイブリドーマ2 x 10個を、あらかじめプリスタン(2,6,10,14−tetramethylpentadecane;和光純薬工業)を2回腹腔内に投与しておいたBALB/cマウス(雄、実験開始時5〜7週齢、日本チャールス・リバー)またはBALB/cヌードマウス(雌、実験開始時5〜6週齢、日本チャールス・リバーおよび日本クレア)の腹腔内に移植した。移植後1〜4週目で腹部が肥大したマウスから腹水を回収した。
腹水からの抗体精製はProtein G SepharoseTM 4 Fast Flow(Amersham Biosciences)カラムを用いて行った。Binding Buffer(20mM sodium acetate,pH5.0)にて2倍希釈した腹水をカラムにアプライし、10カラム容量のBinding Bufferで洗浄した。5カラム容量のElution Buffer(0.1M glycine−HCl,pH2.5)にて抗体を溶出し、Neutralizing Buffer(1M Tris−HCl,pH9.0)で中和した。これをCentriprepTM 10(Millipore)にて濃縮し、TBS(50mM Tris−buffered Saline)に溶媒を置換した。抗体濃度は、280nmの吸光度から、A(1%,1cm)=13.5として算出した。吸光度の測定は、DU−650(Beckman Coulter)にて測定した。
1−5.APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)の測定
APTTはCR−A(Amelung)を接続したKC10A(Amelung)により測定した。TBSBで希釈した抗体溶液50μL、標準ヒト血漿(Dade Behring)50μL及びAPTT試薬(Dade Behring)50μLの混合液を37℃で3分間加温した。20mMのCaCl(Dade Behring)50μLを同混合液に加えることにより凝固反応を開始させ、凝固時間を測定した。
〔実施例2〕 Factor X(F.X)に対する非中和抗体の作製
2−1.免疫およびハイブリドーマ作製
BALB/cマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)8匹およびMRL/lprマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)5匹に、human Factor X(Enzyme Research Laboratories)を以下の通り免疫した。初回免疫としてFCAでエマルジョン化したFactor Xを40μg/head皮下投与した。2週間後にFIAでエマルジョン化したFactor Xを20または40μg/head皮下投与した。以後1週間間隔で追加免疫を合計3〜6回行った。Factor Xに対する血清抗体価の上昇を2−2に示したELISAで確認後、最終免疫としてPBS(−)に希釈したFactor Xを20または40μg/head静脈内投与した。最終免疫の3日後、マウスの脾臓を摘出し、その一部を実施例10−2で使用し、残りの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞P3U1を、PEG1500を用いた常法に従い細胞融合した。10%FBS/RPMI1640培地に懸濁した融合細胞を96well culture plateに播種し、融合1,2,3,5日後にHAT選択培地への置換を行うことにより、ハイブリドーマの選択培養を行った。融合後8日目に採取した培養上清を用いて2−2に示したELISAによりFactor Xに対する結合活性を測定した。Factor X結合活性を有するハイブリドーマを選択し、2−3に示した方法でFactor Xaの酵素活性に対する中和活性を測定した。Factor Xaに対する中和活性を有さないハイブリドーマを、限界希釈を2回行うことによりクローン化した。1−4に示した方法により、クローン化した抗体の腹水を作製し、腹水から抗体を精製した。精製抗体が、APTTを延長させないことを、2−5に示した方法で確認した。
2−2.Factor X ELISA
Coating bufferで1μg/mLに希釈したFactor Xを、Nunc−Immuno plateに100μL/wellで分注後、4℃で一晩インキュベーションした。Tween(R) 20を含むPBS(−)で3回洗浄後、diluent bufferでplateを室温で2時間blockingした。Bufferを除去後、plateにdiluent bufferで希釈したマウスの抗血清またはハイブリドーマの培養上清を添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを3回洗浄後、diluent bufferで1/2000希釈したアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG(H+L)を添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを6回洗浄後、発色基質Blue−PhosTM Phosphate Substrate(Kirkegaad & Perry Laboratories)を100μL/well添加し、室温で20分インキュベーションした。Blue−PhosTM Stop Solution(Kirkegaad & Perry Laboratories)を100μL/well添加した後、595nmにおける吸光度をMicroplate Reader Model 3550(Bio−Rad Laboratories)で測定した。
2−3.Factor Xa中和活性測定
TBSBで1/5希釈したハイブリドーマ培養上清10μLと40μLの250pg/mL Factor Xa(Enzyme Research Laboratories)を含むTBCP(2.78mM CaCl、22.2μMリン脂質(フォスファチジルコリン:フォスファチジルセリン=75:25、Sigma−Aldrich)を含むTBSB)を混和し、室温で1時間インキュベーションした。この混合溶液に、20μg/mLプロトロンビン(Enzyme Research Laboratories)および100ng/mL活性化凝固第V因子(Factor Va(Haematologic Technologies))を含むTBCPを50μL添加して室温で10分間反応させた。0.5M EDTAを10μL添加することにより反応を停止させた。この反応溶液に、1mM S−2238溶液(Chromogenix)を50μL添加し、室温で30分間インキュベーションした後、405nmにおける吸光度をMicroplate Reader Model 3550(Bio−Rad Laboratories)で測定した。
〔実施例3〕 キメラ二種特異性抗体発現ベクターの構築
3−1.ハイブリドーマからの抗体可変領域をコードするDNA断片の調製
抗F.IXa抗体あるいは抗F.X抗体を産生するハイブリドーマから、QIAGEN(R) RNeasy(R) Mini Kit(QIAGEN)を用いて説明書記載の方法に従い全RNAを抽出した。全RNAを40μLの滅菌水に溶解した。精製されたRNA1〜2μgを鋳型に、SuperScript cDNA合成システム(Invitrogen)を用いて説明書記載の方法に従いRT−PCR法により一本鎖cDNAを合成した。
3−2.抗体H鎖可変領域のPCRによる増幅と配列解析
マウス抗体H鎖可変領域(VH)cDNAの増幅用プライマーとして、Krebberらの報告(J.Immunol.Methods 1997;201:35−55)に記載のHBプライマー混合物、およびHFプライマー混合物を用意した。各0.5μLの100μM HBプライマー混合物および100μM HFプライマー混合物を用いて、反応液25μL(3−1で調製したcDNA溶液2.5μl、KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2mM dNTPs,1.5mM MgCl,0.75 units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を調製した。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、cDNA断片の増幅の効率性に応じて、条件A(98℃で3分間加熱後、98℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして32サイクル)ないし条件B(94℃で3分間加熱後、94℃ 20秒、46℃ 20秒、68℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして5サイクル、さらに94℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして30サイクル)のいずれかの条件で行った。PCR後、反応液を1% アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。本方法により決定した配列群を解析ソフトGENETYX−SV/RCVersion 6.1(Genetyx)にて比較解析し、異なる配列を有するものを選択した。
3−3.クローニング用抗体可変領域DNA断片の調製
クローニング用制限酵素Sfi I切断サイトを抗体可変領域増幅断片の両末端へ付加するために、以下の操作を行った。
Sfi I切断部位付加VH断片(Sfi I−VH)増幅のために、プライマーHBの(Gly4Ser)2−リンカー配列をSfi I切断部位を有するに示す配列(配列番号:5)へ変更したもの(プライマーVH−5’end)を用意した。各0.5μlの10μM配列特異的プライマーVH−5’endおよび10μM プライマーscfor(J.Immunol.Methods 1997;201:35−55)を用いて、反応液20μL(3−2で調製した精製VH cDNA増幅断片溶液1μl,KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2mM dNTPs,1.5mM MgCl,0.5units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を調製した。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、断片の増幅の効率性に従い、条件A(98℃で3分間加熱後、98℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして32サイクル)ないし条件B(94℃で3分間加熱後、94℃ 20秒、46℃ 20秒、68℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして5サイクル、さらに94℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして30サイクル)のいずれかの条件で行った。PCR後、反応液を1% アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)にて添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μLで溶出した。
マウス抗体L鎖可変領域(VL)cDNA断片増幅のために、まずKrebberらの報告(J.Immunol.Methods 1997;201:35−55)記載の各0.5μLの100μM LBプライマー混合物および100μM LFプライマー混合物を用いて、反応液25μL(3−1で調製したc−DNA溶液2.5μL,KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2mM dNTPs,1.5mM MgCl,0.75units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を調製した。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、断片の増幅の効率性に従い、94℃で3分間加熱後、94℃ 20秒、46℃ 20秒、68℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして5サイクル、さらに94℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。PCR後、反応液を1% アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400bp)の増幅断片をQIAqucick Gel Extractio Kit(QIAGEN)にて添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μLで溶出した。該断片はそのC末端にプライマーLF由来の(Gly4Ser)3−リンカー配列が付加された状態にある。該断片C末端へSfi I切断部位を付加する目的で、プライマーLFの(Gly4Ser)3−リンカー配列をSfi I切断部位を有するに示す配列(配列番号:6)へ変更したもの(プライマーVL−3’end)を用意した。Sfi I切断部位付加VL断片(Sfi I−VL)増幅のために、各0.5μLの10μM VL−3’endプライマー混合物および10μM scbackプライマーを用いて、反応液20μL(精製VL cDNA増幅断片溶液1μL,KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2mM dNTPs,1.5mM MgCl,0.5units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を調製した。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、94℃で3分間加熱後、94℃ 20秒、46℃ 20秒、68℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして5サイクル、さらに94℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。PCR後、反応液を1% アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μLで溶出した。
精製Sfi I−VHおよびSfi I−VL断片はSfi I(タカラバイオ)にて添付説明書記載の方法に従い反応液を調製し、50℃で一晩消化を行った。その後、反応液をQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて添付説明書記載の方法で精製し、該キット添付のBuffer EB 30μLで溶出した。
3−4.二種特異性IgG抗体発現用プラスミド
目的の二種特異性IgG抗体を産生する際に、各H鎖のヘテロ分子を形成させるためにIgG1のknobs−into−holes技術(Ridgway et al.,Protein Eng.1996;9:617−621)を参考にIgG4のCH3部分へのアミノ酸置換体を作製した。タイプa(IgG4γa)はY349C、T366W置換体であり、タイプb(IgG4γb)はE356C、T366S、L368A、Y407Vの置換体である。さらに、両置換体のヒンジ領域にも置換(−ppcpScp−−>−ppcpPcp−)を導入した。本技術により、殆どヘテロ体となり得るが、L鎖についてはその限りでなく、不必要な抗体分子の生成がその後の活性測定へ影響を及ぼしかねない。そのため、本方策では各特異性を有する抗体分子片腕(HL分子と称する)を別々に発現させ細胞内で目的型二種特異性IgG抗体を効率的に作らせる為に各HL分子に対応する発現ベクターとして異なる薬剤で誘導がかかるものを用いた。
抗体分子片腕(便宜上右腕HL分子と称する)の発現用として、テトラサイクリン誘導型ベクターpcDNA4(Invitrogen)へH鎖ないしL鎖それぞれの該領域(図1ないし図2)、すなわち動物細胞用シグナル配列(IL3ss)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1984;81:1075)の下流に適当なマウス抗体可変領域(VHないしVL)とヒトIgG4γa定常領域(配列番号:7)ないしκ定常領域(配列番号:8)を組み込んだもの(pcDNA4−g4HないしpcDNA4−g4L)を作製した。まず、pcDNA4をそのマルチクローニングサイトに存在する制限酵素切断サイトEco RVおよびNot I(タカラバイオ)で消化した。適当な抗体可変領域を有するキメラ二種特異性抗体右腕H鎖ないしL鎖発現ユニット(それぞれ約1.6kbないし約1.0kb)をXho I(タカラバイオ)で消化した後に、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)にて添付説明書記載の方法で精製し、DNA polymerase KOD(東洋紡績)を用いて添付説明書記載の反応液組成にて72℃10分間反応させ、末端を平滑化した。該平滑化末端断片をQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)にて添付説明書記載の方法で精製し、Not I(タカラバイオ)で消化した。該Not I−blunt断片(それぞれ約1.6kbないし1.0kb)と該Eco RV−Not Iで消化したpcDNA4を、Ligation High(東洋紡績)を用いて添付説明書記載の方法に従い連結反応を行った。該反応液により大腸菌DH5α株(Competent high DH5α(東洋紡績))を形質転換した。得られたアンピシリン耐性クローンよりQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いて各々プラスミドDNAを単離した。
もう一方の片腕(便宜上左腕HL分子と称する)はエクダイソン類似体誘導型ベクターpIND(Invitrogen)へH鎖ないしL鎖それぞれの(図2ないし図3)、すなわち動物細胞用シグナル配列(IL3ss)(EMBO.J.1987;6:2939)の下流に適当なマウス抗体可変領域(VHないしVL)とヒトIgG4γb定常領域(配列番号:9)ないしκ定常領域(配列番号:8)を組み込んだもの(pIND−g4HないしpIND−g4L)を前述の方法に則り作製し、各々のプラスミドDNAを単離した。
3−5.二種特異性抗体発現ベクター構築
3−4で調製されたテトラサイクリン誘導型発現プラスミド(pcDNA4−g4HないしpcDNA4−g4L)をSfi Iで消化し、反応液を1% アガローズゲル電気泳動に供した。もともと有していた抗体可変領域部分(VHないしVL(図1ないし図2参照))が除かれた断片(約5kb)をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μLで溶出した。該断片と、それぞれに対応する3−3で調製されたSfi I消化抗F.IXa抗体由来Sfi I−VHないしSfi I−VL断片をQuick Ligation Kit(New England Biolabs)を用いて添付説明書記載の方法に従い連結反応を行った。該反応液により大腸菌DH5α株(Competent high DH5α(東洋紡績))を形質転換した。また、3−4で調製されたSfi I消化エクダイソン類似体誘導型発現プラスミド(pIND−g4HないしpIND−g4L)から、上述と同様の手法で抗体可変領域部分(VHないしVL(図2ないし図3参照))を除いた断片と、それぞれに対応する3−3で調製されたSfi I消化抗F.X抗体由来Sfi I−VHないしSfi I−VL断片を、同様の手法にて組込んだ。
得られた各々のアンピシリン耐性形質転換体は、挿入断片を挟み込むようなプライマーを用いて、コロニーPCR法にて目的断片の挿入を確認した。まず、抗F.IXa抗体キメラH鎖ないしL鎖発現ベクターのために、挿入部位上流に存在するCMV Forward priming siteへアニールする21−merのプライマーCMVF(配列番号:10)と挿入部位下流に存在するBGH Reverse priming siteへアニールする18−merのプライマーBGHR(配列番号:11)を合成した(Sigma Genosys)。抗F.X抗体キメラH鎖ないしL鎖発現ベクターのために、挿入部位上流へアニールする24−merのプライマーEcdF(配列番号:12)と挿入部位下流に存在するBGH Reverse priming siteへアニールする18−merのプライマーBGHR(配列番号:11)を合成した(Sigma Genosys)。コロニーPCRのために、反応液20μL(各10μMプライマー0.2μL、KOD dash buffer(東洋紡績)、0.2mM dNTPs、0.75units DNA polymerase KOD dash(東洋紡績))を調製した。該反応液へ、形質転換株細胞を適量投入しPCRを行った。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、96℃で1分間加熱後、96℃ 10秒、55℃ 10秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして30サイクル反応させる条件より行った。PCR後、反応液を1% アガローズゲル電気泳動に供し、目的サイズの増幅断片が得られたクローンを選択した。該PCR産物は、EXoSAP−IT(Amersham Biosciences)を用いて添付説明書に従い、過剰のプライマーとdNTPsの不活性化を行った。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)にて添付説明書記載の方法に従い決定した。本方法により決定した配列群を解析ソフトGENETYX−SV/RC Version 6.1(Genetyx)にて解析し、VHについて挿入欠失変異等の入っていない目的クローンを、また、VLについてハイブリドーマで使用されたP3U1由来偽VL遺伝子とは異なり挿入欠失変異等のはいっていない目的クローンを選択した。
該目的クローンから、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いて各々プラスミドDNAを単離し、100μLの滅菌水へ溶解した。抗F.IXa抗体キメラH鎖発現ベクター、抗F.IXa抗体キメラL鎖発現ベクター、抗F.X抗体キメラH鎖発現ベクター、そして抗F.X抗体キメラL鎖発現ベクターを、それぞれpcDNA4−g4IXaHn、pcDNA4−g4IXaLn、pIND−g4XHnそしてpIND−g4XLnと名付けた。各プラスミド溶液は、使用するまで4℃で保存した。
〔実施例4〕 キメラ二種特異性抗体の動物細胞での発現
4−1.DNA溶液の調製
抗体右腕HL分子発現用ベクター(pcDNA4−g4IXaHnそしてpcDNA4−g4IXaLn)はテトラサイクリンにより発現誘導がかかる。テトラサイクリンが存在しない状況下で発現を完全に抑制する為にTetリプレッサーをコードするプラスミドpcDNA6/TR(Invitrogen)が要求される。また、抗体左腕HL分子発現用ベクター(pIND−g4XHnそしてpIND−g4XLn)は昆虫ホルモンであるエクダイソン類似体(ポナステロンA)により発現誘導がかかる。このとき、ポナステロンAと反応し誘導を行うエクダイソンレセプターとレチノイドXレセプターをコードするプラスミドpVgRXR(Invitrogen)が要求される。従って、動物細胞のトランスフェクションの為に計6種類のプラスミドDNA混液を調製した。細胞培養液1mLの為に、pcDNA4−g4IXaHn、pcDNA4−g4IXaLn、pIND−g4XHnそしてpIND−g4XLnを各218.8ng、pcDNA6/TRそしてpVgRXRを各1312.5ng用いた。
4−2.動物細胞のトランスフェクション
ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10%FCS(MOREGATE)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5×10個/mLの細胞密度で接着細胞用12−wellプレート(CORNING)の各wellへ1mLずつ蒔きこみCOインキュベーター(37℃、5%CO)内で培養した。4−1で調製したプラスミドDNA混液をトランスフェクション試薬、Lipofectamine 2000(Invitrogen)7μLとOpti−MEM I培地(Invitrogen)250μLの混液へ加えて室温20分間静置したものを各wellの細胞へ投入し、4〜5時間、COインキュベーター(37℃にて5%CO)内でインキュベートした。
4−3.二種特異性IgG抗体の発現誘導
前項のようにトランスフェクションした細胞培養液から培地を吸引除去し、1μg/mLのテトラサイクリン(和光純薬工業)を含む1mL CHO−S−SFM−II(Invitrogen)培地を投入し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内で1日培養して、抗体右腕HL分子の第一次発現誘導を行った。その後、培地を吸引除去し、一旦1mL CHO−S−SFM−II培地にて洗浄した後、5μMのポナステロンA(Invitrogen)を含む1mL CHO−S−SFM−II培地を投入し、COインキュベーター(37℃、5% CO)内で2日ないし3日培養して、抗体左腕HL分子の第ニ次発現誘導を行い培地中へ二種特異性IgG抗体を分泌させた。培養上清は回収された後、遠心分離(約2000g、5分間、室温)して細胞を除去し、必要に応じてMicrocon(R) YM−50(Millipore)で濃縮を行った。該サンプルは使用するまで4℃で保存した。
〔実施例5〕 ヒトIgG濃度の定量
Goat affinity purified antibody to human IgG Fc(Cappel)をcoating bufferにて1μg/mLに調製し、Nunc−Immuno plateに固相化した。Diluent buffer(D.B.)にてブロッキング処理した後、D.B.を用いて適当に希釈した培養上清サンプルを添加した。また、抗体濃度算出のためのスタンダードとして、1000ng/mLから2倍系列でD.B.にて11段階希釈したヒトIgG4(ヒト型化抗TF抗体、WO 99/51743参照)を同様に添加した。3回洗浄したのち、Goat anti−human IgG,alkaline phosphatase(Biosource International)を反応させた。5回洗浄したのち、Sigma 104(R) phosphatase substrate(Sigma−Aldrich)を基質として発色させ、吸光度リーダーModel 3550(Bio−Rad Laboratories)により、参照波長655nmとして405nmの吸光度を測定した。Microplate Manager III(Bio−Rad Laboretories)ソフトウェアを用いて、スタンダードの検量線から培養上清中のヒトIgG濃度を算出した。
〔実施例6〕 F.VIIIa(活性化凝固第VIII因子)様活性アッセイ
二種特異性抗体のF.VIIIa様活性は、以下の酵素アッセイで評価した。また、以下の反応は全て室温で行った。3.75μg/mLのFactor IX(Enzyme Research Laboratories)40μLと抗体溶液10μLの混合液を96穴プレート中で1時間インキュベーションした。さらにその混合液に、10ng/mLのFactor XIa(Enzyme Research Laboratories)10μL,50μg/mLのFactor X(Enzyme Research Laboratories)20μL,400μg/mLのphospholipid(実施例1−3参照)5μL,5mM CaClと1mM MgClを含むTBSB(以下、TBSB−Sと称す)15μLを添加し、酵素反応を開始させた。30分間反応させたのち、0.5M EDTA 10μLを加えることにより停止させた。
発色基質溶液50μLをそれぞれのウェルに加えた後、0分、30分の405nm(参照波長655nm)における吸光度をModel 3550 Microplate Reader(Bio Rad Loboratories)により測定した。F.VIIIa様活性は、抗体添加の30分間の吸光度変化値から抗体無添加の30分間の吸光度変化値を引いた値で表した(図4および5参照)。
Phospholipidの溶媒にはTBSB、Factor XIa、Factor IX及びFactor Xの溶媒にはTBSB−Sを用いた。発色基質溶液は、添付説明書に従い溶解したテストチーム発色基質S−2222(Chromogenix)とポリブレン液(0.6mg/L hexadimethrine bromide(Sigma))の1:1混合液である。
さらに、最も活性の高かったXB12/SB04について、F.VIIIa様活性の濃度依存性を測定した(図6)。
〔実施例7〕 血漿凝固アッセイ
血友病A血液の凝固能を二種特異性抗体が是正するか明らかにするために、F.VIII欠乏血漿を用いた活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)に対する同抗体の影響を検討した。様々な濃度の抗体溶液50μL、F.VIII欠乏血漿(Biomerieux)50μL及びAPTT試薬(Dade Behring)50μLの混合液を37℃で3分間加温した。凝固反応は20mMのCaCl(Dade Behring)50μLを同混合液に加えることにより開始させた。CR−A(Amelung)が接続されたKC10A(Amelung)により凝固するまでの時間を測定した(図7および8)。
さらに、最も凝固時間の短縮効果の高かったXB12/SB04について濃度依存性を測定した(図9)。
〔実施例8〕 抗体精製
実施例4に記載の方法で得られた10mLの培養上清をCentricon(R) YM−50(Millipore)により、1mLまで濃縮した。これに10μLの10%BSA、10μLの1% Tween(R) 20及び100μLのrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を添加し、4℃で一晩転倒混和した。その溶液を0.22μmのフィルターカップUltrafree(R)−MC(Millipore)に移し、0.01% Tween(R) 20を含むTBS500μLにて3回洗浄後、rProtein A SepharoseTM樹脂を100μLの0.01% Tween(R) 20を含む10mM HCl,pH2.0に懸濁して3分間静置したのち、抗体を溶出させた。直ちに、5μLの1M Tris−HCl,pH8.0を加えて中和した。Microplate Manager III(Bio−Rad Laboretories)ソフトウェアを用いて、スタンダードの検量線から培養上清中のヒトIgG濃度を算出した。抗体濃度は実施例5に従い定量した。
〔実施例9〕抗F.X抗体のGST−AP ウエスタンブロッティング
F.Xの活性化ペプチド(AP)とグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク(GST−AP)を発現する組換え大腸菌を構築した。ヒトF.Xの全長翻訳領域をカバーするcDNAをヒト肝臓Marathon−Ready cDNA(Clontech)からPCR法により増幅後、これを鋳型にさらにAP領域(Leytus et al.,Biochemistry 1986;25:5098)をコードする領域をPCR法により増幅しpGEM−Tベクター(Promega)へサブクローニングしGST−APをコードするpGEX−F10APを得た。該プラスミドを形質転換した大腸菌を培養し、OD=0.8にて1mM IPTGを添加しGST−APの発現誘導を行った。培養液を遠心(3,000 x g,30分間、4℃)後、菌体を回収し使用に供するまで−20℃にて保存した。
その菌体ペレットを培養量の1/20量のPBSで再懸濁し、懸濁液0.1mLに対し、2.4mLの割合でSDS−PAGEサンプルバッファー(IWAKI)を加え、95℃、5分間ボイルした。SDS−PAGE mini(14%)ゲル(旭テクノグラス)の各ウェルにその反応溶液10μLを加え、電気泳動を行った。電気泳動後のゲルをセミドライブロッター(BIO−RAD)を用いてImmobilon−PTM Transfer Membrane(MILLIPORE)へ転写し、BT−PBS(2% BSAと0.05% Tween(R) 20を含むPBS)でブロッキングした。ブロッキング終了後、実施例1−4で精製された抗F.Xマウス抗体SB04またはSB06をBT−PBSで2μg/mLに希釈したものと1時間反応させた。0.05% Tween(R) 20を含むPBSで洗浄後、BT−PBSで2000倍希釈したアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG(H+L)(Zymed Laboratories)と1時間反応させた。0.05% Tween(R) 20を含むPBSで洗浄後、発色基質BCIP/NBTPhosphatase Substrate(Kirkegaad & Perry Laboratories)で発色させた(図10を参照)。
〔実施例10〕 免疫マウス脾臓由来scFvライブラリーからの二種特異性抗体の取得
10−1.抗原および免疫
BALB/cマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)3匹、MRL/lprマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)3匹、およびC57BL/6Nマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)3匹に、抗原であるFactor IXa β(Enzyme Research Laboratories,Inc.)もしくはFactor X(Enzyme Research Laboratories,Inc.)を以下の通り免疫した。初回免疫としてFCA(フロイント完全アジュバントH37 Ra(Difco laboratories))でエマルジョン化した抗原を40μg/head皮下投与した。2週間後にFIA(フロイント不完全アジュバント(Difco laboratories))でエマルジョン化した抗原を40μg/head皮下投与した。以後1週間間隔で追加免疫を3回行い、最終免疫の8日後にマウスより脾臓を摘出した。
10−2.ファージライブラリーの構築
実施例1−1および2−1で作出した免疫マウス摘出脾臓の一部、ならびに実施例10−1にて作出した免疫マウスからの摘出脾臓をTrizol Reagent(Invitrogen)へ投入(50mg spleen/ml of the reagent)し、ガラスホモジナイザーを用いて均質化した。その後、試薬添付マニュアル記載の方法に従い、Total RNAを抽出した。抽出溶液からPolyATract System 1000キット(Promega)を用いて添付マニュアル記載の方法に従いpolyA(+)RNAを抽出した。RT−PCR(SuperScript III First−Strand Synthesis System for RT−PCR,Invitrogen)にてc−DNAを合成し、使用に際するまで−20℃で保存した。
マウス抗体重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)cDNAの増幅用プライマーとして、実施例3−2および3−3で用いたHBプライマー混合物、HFプライマー混合物、LBプライマー混合物、そしてLFプライマー混合物を用意した。VH増幅用として各1μLの100μM HBプライマー混合物および100μM HFプライマー混合物を用いて、反応液50μL(cDNA溶液2.5μl、KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2mM dNTPs,1.5mM MgCl,3.75units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を調製した。また、VL増幅用として各1μLの100μM LBプライマー混合物および100μM LFプライマー混合物を用いて、上記と同様の組成反応液(50μL)を調製した。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、98℃で3分間加熱後、98℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして32サイクルを行った。PCR後、反応液を2% アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水50μlで溶出した。次にscFv断片を増幅するために、反応液100μL(VH断片溶液3μl、VL断片溶液3μl、KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2mM dNTPs,1mM MgCl,5units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を10本調製し、1stPCR(94℃で3分間加熱後、94℃ 1分、63℃ 4分、からなる反応を1サイクルとして7サイクル)を行った後、63℃に保温した状態で各チューブへ10μM scforプライマー、および10μM scbackプライマーを各2.5μlずつ添加し、さらに2nd PCR(94℃で35秒加熱後、94℃ 2分、63℃ 2分、からなる反応を1サイクルとして30サイクル)を行った。PCR後、反応液をQIAquick PCR purification kit(QIAGEN)にて精製し、精製産物を制限酵素Sfi I(タカラバイオ)にて50℃で一晩消化を行った。消化物は2% アガローズゲル電気泳動に供した後、目的のサイズ(約800bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し適量の滅菌水にて溶出した。ファージgene IIIタンパク上にscFvを提示させるため、ファージミドベクターとして、pELBGlacI(図11参照)を用いた。該ベクター10μgを制限酵素Sfi I(タカラバイオ)にて50℃で一晩消化を行った後、目的のサイズ(約5kb)の切断断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し適量の滅菌水にて溶出した。精製PCR産物と精製ベクター断片を、Ligation High(東洋紡績)を用いて添付説明書記載の方法に従い、16℃一晩連結反応を行った。該反応液により大腸菌XL1blue electrocompetent cell(Stratagene)あるいはエレクトロマックスDH12s(Invitrogen)を添付説明書記載の方法に従いエレクトポレーション法による形質転換を行った。得られたアンピシリン耐性形質転換体を全て回収し、組換え大腸菌ライブラリーとして使用に供するまで−20℃にて保存した。
該大腸菌ライブラリー(2 x 10cfu)を50mL 2xYTAG(100μg/mLアンピシリン、2%グルコースを含む2xTY)に植菌し、OD 600 0.4〜0.5まで37℃にて培養した。4 x 1011のヘルパーファージVCSM13(Stratagene)を加え37℃、15分間静置して感染させた。ここに450mL 2xYTAK(100μg/mLアンピシリン、25μg/mLカナマイシンを含む2xTY)、25μL 1mol/L IPTGを添加し、30℃10時間培養した。遠心分離にて培養上清を回収し、100mL PEG−NaCl溶液(10%ポリエチレングリコール8000,2.5mol/L NaCl)を混合後、4℃、60分間静置した。10,800 x g、30分間遠心にてファージを沈殿させ、沈殿物を40mLの水に懸濁し、8mL PEG−NaCl溶液を混合後、4℃、1時間静置した。10,800 x g、30分間遠心にてファージを沈殿させ5mL PBSに懸濁しファージライブラリーを得た。該ファージは使用に際するまで、4℃にて保存した。
10−3.パンニング法による結合ファージ濃縮
Factor IXa βもしくはFactor XをNo−Weigh Premeasured NHS−PEO−Biotin Microtubes(Pierce)を用いてビオチン標識した。10−2で作成されたファージライブラリー溶液600μlに100pmolのビオチン標識Factor IXa βもしくはFactor Xを加え、60分間抗原と接触させた。5% M−PBS(5%w/vスキムミルクを含むPBS)で洗浄したDynabeads M−280 Streptavidin(DYNAL)600μLを加え、15分間結合させた。ビーズ結合ファージを1mLのPBST(0.1% Tween−20を含むPBS)にて何回か洗浄した後、PBSにて洗浄した。0.8mLの0.1mol/Lグリシン/HCl(pH2.2)中にビーズを5分間懸濁し、ファージを溶出した。
あるいは、イムノプレート(MaxiSorp,Nunc)へ固相化したFactor IXa βもしくはFactor X(10μg/well x 5)に、2.5%w/vスキムミルクで15分間インキュベートしたファージライブラリー(80μl/well x 5)を加え、60分間抗原と接触させた。抗原結合ファージを1mLのPBST(0.1% Tween−20を含むPBS)にて何回か洗浄した後、PBSにて洗浄した。0.8mLの0.1mol/Lグリシン/HCl(pH2.2)にて5分間インキュベートし、ファージを溶出した。
回収したファージ溶液に45μL 2mol/L Trisを添加して中和し、対数増殖期(OD600=0.4〜0.5)XL1−Blue 10mLに添加、37℃、30分間静置することで感染させた。これを2xYTAGプレートに広げ、30℃で培養した。コロニーを回収し、2xYTAGに植菌、OD 600=0.4〜0.5まで37℃にて培養した。培養液10mLに5μL 1mol/L IPTG、1011pfuヘルパーファージ(VCSM13)を添加し37℃30分間静置した。遠心集菌後、2xYTAK 100mLに再懸濁し、30℃、10時間培養した。遠心分離にて培養上清を回収し、20mL 10%PEG−5mol/L NaCl溶液を混合後、4℃、20分間静置した。10,800 x g、30分間遠心にてファージを沈殿させ、2mL PBSに懸濁したものを次のパンニングに供した。
10−4.ファージELISA
上記のシングルコロニーを100μL 2xYTAGに植菌し、30℃で一晩培養した。この5μLを500μL 2xYTAGに植菌、37℃、5時間培養後、ヘルパーファーシ2 x 10pfuを投入し37℃にて30分間静置、さらに37℃にて30分間攪拌培養後、0.5mM IPTGを含む2xYTAKを120μL添加した。30℃にて一晩培養し、遠心上清をELISAに供した。ビオチン標識抗原のパンニングにて得られたクローンのELISAのために、1.0μg/mLのビオチン標識抗原でコートしたStreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)を用いた。また、ネイティブ抗原のパンニングにて得られたクローンのELISAのために、1.0μg/mLのネイティブ抗原を固相化したイムノプレート(MaxiSorp,Nunc)を用いた。
PBSTにて洗浄し抗原を除いた後、ブロッキングバッファーとして2% M−PBS 200μLあるいは2% BSA−PBS(2%w/v BSAを含むPBS)で室温1時間ブロッキングした。バッファーを除き、ここに培養上清を加え60分間静置しファージを結合させた。洗浄後、結合ファージはブロッキングバッファーにて希釈したHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)とTMB基質(Zymed)で検出し、1mol/L HSO添加により反応を停止した後、プレートリーダーにてA450の値を測定した。
10−5.配列決定とクローン選択
ELISAにて陽性であったクローンの組換え大腸菌2xYTAG培養液からプライマーPBG3−F1(5’−CAGCTATGAAATACCTATTGCC−3’/配列番号:1)とPBG3−R1(5’−CTTTTCATAATCAAAATCACCGG−3’/配列番号:2)を用いてPCRにてscFv領域を増幅し、その塩基配列決定した。培養液1μL、10 x KOD Dash緩衝液1.5μL、10μmol/Lプライマーを0.2μLづつ、KOD Dashポリメラーゼ(東洋紡績、2.5U/μL)0.3μLを含むPCR反応液15μLを、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Perkin Elmer)で96℃、10秒、55℃、10秒、72℃、30秒、30サイクルの増幅を行った。PCR後、5μLの反応液にExoSAP−IT(アマシャム)を3μL添加し、37℃、15分間、引き続き80℃、15分間保温した。このサンプルについてPBG3−F2(5’−ATTGCCTACGGCAGCCGCT−3’/配列番号:3)あるいはPBG3−R2(5’−AAATCACCGGAACCAGAGCC−3’/配列番号:4)をプライマーとしてBigDye Terminator Cycle Sequencing kit(Applied Biosystems)にて反応を行い、Applied Biosystems PRISM 3700 DNA Sequencerで泳動した。塩基配列から推定されるアミノ酸配列のCDR3の異なるクローンを抗Factor IXaについて52クローン、及び抗Factor Xについて33クローンを選択した。
10−6.二種特異性IgG抗体発現ベクターの構築
scFv抗体をIgG型として発現させるために、実施例3−3、3−4、そして3−5に示す同様の方策にて抗体可変領域(VH,VL)を誘導型発現ベクターにクローニングを行った。抗F.IXa抗体可変領域(VHおよびVL)はテトラサイクリン誘導型ベクター(それぞれpcDNA4−g4HおよびpcDNA4−g4L)へ組み込まれた。抗F.X抗体可変領域(VHおよびVL)はエクダイソン類似体誘導型ベクター(それぞれpIND−g4HおよびpcDNA4−g4L)へ組み込まれた。目的クローンからQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いて各々プラスミドDNAを単離し、100μLの滅菌水へ溶解した。
10−7.キメラ二種特異性抗体の動物細胞での発現
実施例4−1に示す同様の方策で調製されたDNA溶液を用いて、実施例4−2および4−3に示す同様の方策にて動物細胞で発現させ、培養上清を回収した。該サンプルは使用するまで4℃で保存した。
〔実施例11〕 抗体精製
実施例10−7に記載の方法で得られた10mLの培養上清に100μLのrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を添加し、4℃で一晩転倒混和した。その溶液を0.22μmのフィルターカップUltrafree(R)−MC(Millipore)に移し、0.01%Tween(R) 20を含むTBS 500μLにて3回洗浄後、rProtein A SepharoseTM樹脂を100μLの0.01% Tween(R) 20を含む10mM HCl,pH2.0に懸濁して3分間静置したのち、抗体を溶出させた。直ちに、5μLの1M Tris−HCl,pH8.0を加えて中和した。
Microplate Manager III(Bio−Rad Laboretories)ソフトウェアを用いて、ヒトIgG4(ヒト型化抗TF抗体、WO 99/51743参照)の検量線から培養上清中のヒトIgG濃度を算出した。抗体濃度は実施例5に従い定量した。
〔実施例12〕 F.VIIIa(活性化凝固第VIII因子)様活性アッセイ
二種特異性抗体のF.VIIIa様活性は、以下の酵素アッセイで評価した。また、以下の反応は全て室温で行った。15μg/mLのFactor IX(Enzyme Research Laboratories)10μLと100mM CaClと20mM MgClを含むTBSB 5μLと実施例10−7記載の方法で得られた培養上清50μLの混合液を96穴プレート中で1時間インキュベーションした。さらにその混合液に、10ng/mLのFactor XIa(Enzyme Research Laboratories)10μL,50μg/mLのFactor X(Enzyme Research Laboratories)20μL,400μg/mLのphospholipid 5μLを添加し、酵素反応を開始させた。30分間反応させたのち、0.5M EDTA 10μLを加えることにより停止させた。
発色基質溶液50μLをそれぞれのウェルに加えた後、0分、60分の405nm(参照波長655nm)における吸光度をModel 3550 Microplate Reader(Bio Rad Loboratories)により測定した。F.VIIIa様活性は、抗体発現培養上清の60分間の吸光度変化値から抗体非発現培養上清の60分間の吸光度変化値を引いた値で表した(図12を参照)。
Phospholipid、Factor XIa、Factor IX及びFactor Xの溶媒にはTBSBを用いた。発色基質溶液は、添付説明書に従い溶解したテストチーム発色基質S−2222(Chromogenix)とポリブレン液(0.6mg/L hexadimethrine bromide(Sigma))の1:1混合液である。
〔実施例13〕 血漿凝固アッセイ
実施例11の方法に従い調製した二種特異性抗体が血友病A血液の凝固能を回復するか明らかにするために、F.VIII欠乏血漿を用いた活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)に対する同抗体の影響を、実施例7で示す同様の方法で評価した(図13を参照)。さらに、凝固時間の短縮効果の高かったA44/B26、A69/B26について濃度依存性を測定した(図14、図15を参照)。
〔実施例14〕 二種特異性IgG抗体とF.VIIIとの併用検討
二種特異性抗体とF.VIIIとの併用検討は、以下の血漿凝固アッセイ条件で評価した。25μg/mL 抗体溶液 40μL、F.VIII欠乏血漿(Biomerieux)50μLの混合液を室温で、30分間インキュベーションした。さらにその混合液に、0.1U/mLの遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子製剤コージネイト(R)FS(BAYER)10μL及びAPTT試薬(Dade Behring)50μLを加え、37℃で3分間加温した。凝固反応は20mMのCaCl(Dade Behring)50μLを同混合液に加えることにより開始させた。CR−A(Amelung)が接続されたKC10A(Amelung)により凝固するまでの時間を測定した(図16を参照)。
〔実施例15〕 インヒビター血漿における二種特異性IgG抗体の効果
インヒビター血漿における二種特異性IgG抗体の効果は、以下の血漿凝固アッセイ条件で評価した。F.VIII欠乏血漿(Biomerieux)50μLに100μg/mL 抗ヒトF.VIII中和抗体(Catalog Number:MAB3440、CHEMICON)10μLの混合液を室温で、30分間インキュベーションした。この血漿をインヒビター血漿として用いた。このインヒビター血漿に、25μg/mL抗体溶液 40μL及びAPTT試薬(Dade Behring)50μLを加え、37℃で3分間加温した。凝固反応は20mMのCaCl(Dade Behring)50μLを同混合液に加えることにより開始させた。CR−A(Amelung)が接続されたKC10A(Amelung)により凝固するまでの時間を測定した(図17を参照)。
〔実施例16〕 二種特異性抗体のヒト化
実施例1〜7で取得した二種特異性抗体の中で、血液凝固時間の短縮効果が最も高かったXB12(マウス抗FactorIXa抗体)/SB04(マウス抗FactorX抗体)について、以下のようにヒト化を実施した。
16−1.ヒト抗体の相同性検索
一般公開されているKabat Database(ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/kabat/)およびIMGT Database(http://imgt.cines.fr/)よりヒト抗体アミノ酸配列データを入手し、構築したDatabaseを用いてマウスXB12−H鎖可変領域、マウスXB12−L鎖可変領域、マウスSB04−H鎖可変領域、マウスSB04−L鎖可変領域に分けてホモロジー検索を行った。その結果、以下に示すヒト抗体配列と高い相同性を持つことが確認されたことからヒト化抗体のフレームワーク領域(以下、FR)に使用することにした。
(1)XB12−H鎖可変領域:KABATID−020619(Kabat Database)
(Marietteら、Arthritis Rheum.1993;36:1315−1324)
(2)XB12−L鎖可変領域:EMBL Accession No.X61642(IMGT Database)
(Markら、J Mol Biol.1991;222:581−597.)
(3)SB04−H鎖可変領域:KABATID−025255(Kabat Database)
(Demaisonら、Immunogetetics 1995;42:342−352)
(4)SB04−L鎖可変領域:EMBL Accession No.AB064111(IMGT Database)
(Unpublished data)
(1)−(4)のヒト抗体のFRに各マウス抗体の相補性抗原決定領域(以下、CDR)を移植したヒト化抗体を作製した。
また、NCBIより一般公開されている相同性検索Web site(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を使用して、(1)−(4)のヒト抗体に相同性の高いヒト抗体の分泌シグナル配列を検索した。検索により得られた以下に示す分泌シグナル配列を使用した。
(1)XB12−H鎖可変領域:GenBank Accession No.AF062120
(2)XB12−L鎖可変領域:GenBank Accession No.M74019
(3)SB04−H鎖可変領域:GenBank Accession No.BC019337
(4)SB04−L鎖可変領域:GenBank Accession No.AY204756
16−2.ヒト化抗体遺伝子発現ベクターの構築
分泌シグナル配列から抗体可変領域にいたるアミノ酸配列をコードする塩基配列において、50base程度の合成オリゴDNAを3’末端側が約20base程度ハイブリダイズするように交互に12本作製した。さらに、抗体可変領域遺伝子の5’末端側にハイブリダイズし、XhoI切断配列を有するプライマーと抗体可変領域遺伝子の3’末端側にハイブリダイズし、SfiI切断配列を有するプライマーを作製した。
2.5μMに調製した合成オリゴDNAを各1μLで混合し、1x TaKaRa Ex Taq Buffer,0.4mM dNTPs,0.5units TaKaRa Ex Taq(全て宝酒造)を加え、反応液48μLになるように調製した。94℃ 5分保温した後に、94℃ 2分、55℃ 2分、72℃ 2分からなる反応を2サイクル行い、各合成オリゴDNAのアッセンブルおよび伸長反応を実施した。次に、抗体遺伝子の5’末端側および3’末端側にハイブリダイズするプライマー(各10μM)を1μL添加し、94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 1分からなる反応を35サイクル行い、72℃5分反応させ、抗体可変領域遺伝子を増幅した。PCR後、反応液全量を1% アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。該断片をpGEM−T Easy Vector Systems(Promega)を用いて、添付説明書記載の方法でクローニングを行った。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。
正しいヒト化抗体可変領域遺伝子配列であることが確認されたプラスミドをXhoIおよびSfiIで消化した後に、反応液を1%アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400bp)のDNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。また、実施例3−4で作製したテトラサイクリン誘導型発現プラスミド(pcDNA4−g4H、pcDNA4−g4L)およびエグダイソン類似体誘導型発現プラスミド(pIND−g4H、pIND−g4L)をXhoIおよびSfiIで消化した後に、抗体定常領域を含む断片(約5kb)をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。XhoIおよびSfiIで消化したヒト化XB12抗体遺伝子断片(H鎖可変領域(以下VH)またはL鎖可変領域(以下VL))とXhoIおよびSfiIで消化したテトラサイクリン誘導型発現プラスミド(pcDNA4−g4H、pcDNA4−g4L)をRapid DNA Ligation Kit(Roche Diagnostics)を用いて添付説明書記載の方法で連結反応を行った。また、XhoIおよびSfiIで消化したヒト化SB04抗体遺伝子断片(H鎖可変領域またはL鎖可変領域)とXhoIおよびSfiIで消化したエグダイソン類似体誘導型発現プラスミド(pIND−g4H、pIND−g4L)をRapid DNA Ligation Kit(Roche Diagnostics)を用いて添付説明書記載の方法で連結反応を行った。各反応液の一部を用いて大腸菌DH5α株(東洋紡績)を形質転換した。
16−3.ヒト化二種特異性抗体の調製
4種類のヒト化抗体発現ベクターとpcDNA6/TR、pVgRXRを用いて、実施例4−2、4−3に示す方法でHEK293Hへ遺伝子導入および発現誘導を行った。さらに、実施例8、5に示す方法で抗体精製および抗体濃度の定量を実施した。
16−4.ヒト化二種特異性抗体の活性評価および抗体配列の改変
調製したヒト化ニ種特異性抗体およびキメラニ種特異性抗体(XB12/SB04)の血漿凝固能を評価するために、実施例7の方法に従って、F.VIII欠乏血漿を用いてAPTTに対する抗体の影響を検討した。血液凝固能が低下したヒト化ニ種特異性抗体について、活性上昇を目指して、ヒト抗体FRのアミノ酸の改変した。また、熱安定性低下などが危惧されるXB12抗体VHのCDR3のシステイン残基についてもアラニン残基に改変した。具体的には、QuikChange Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法でヒト化抗体発現ベクターに変異を導入した。FR配列のアミノ酸改変および血液凝固能の評価を繰り返すことでXB12/SB04と同等の活性を有するヒト化ニ種特異性抗体(ヒト化XB12抗体(VH:hXB12f−A,VL:hXBVL)/ヒト化SB04抗体(VH:hSB04e,VL:hSBVL−F3f)を取得した(図18)。
本発明により酵素および該酵素の基質の両方を認識する抗体であって、酵素活性を増強する補因子の機能を代替する二種特異性抗体が提供された。
本発明の二種特異性抗体は、血中での安定性が高く、抗原性も低いと考えられることから、医薬品となるものと大いに期待される。

Claims (12)

  1. 酵素、および該酵素の基質の両方を認識し、酵素反応を増強する補因子の機能を代替する二種特異性抗体であって、該酵素活性化血液凝固第IX因子で、該基質が血液凝固第X因子で、該補因子活性化血液凝固第VIII因子である抗体
  2. 抗血液凝固第IXa因子抗体における下記(a1)もしくは(a2)のCDRのアミノ酸配列からなる相補性決定領域と、抗血液凝固第X因子抗体における下記(b1)〜(b9)のいずれかに記載のCDRのアミノ酸配列からなる相補性決定領域とを含む、請求項1に記載の抗体。
    (a1)H鎖CDR1, 2, 3が配列番号:14、15、16に記載のアミノ酸配列
    (a2)H鎖CDR1, 2, 3が配列番号:18、19、20に記載のアミノ酸配列
    (b1)H鎖CDR1, 2, 3が配列番号:22、23、24に記載のアミノ酸配列
    (b2)H鎖CDR1, 2, 3が配列番号:26、27、28に記載のアミノ酸配列
    (b3)H鎖CDR1, 2, 3が配列番号:30、31、32に記載のアミノ酸配列
    (b4)H鎖CDR1, 2, 3が配列番号:34、35、36に記載のアミノ酸配列
    (b5)H鎖CDR1, 2, 3が配列番号:38、39、40に記載のアミノ酸配列
    (b6)H鎖CDR1, 2, 3が配列番号:42、43、44に記載のアミノ酸配列
    (b7)H鎖CDR1, 2, 3が配列番号:46、47、48に記載のアミノ酸配列
    (b8)H鎖CDR1, 2, 3が配列番号:50、51、52に記載のアミノ酸配列
    (b9)H鎖CDR1, 2, 3が配列番号:54、55、56に記載のアミノ酸配列
  3. 請求項1または2に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物。
  4. 出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療に用いられる医薬組成物である、請求項に記載の組成物。
  5. 出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患である、請求項に記載の組成物。
  6. 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血友病Aである、請求項に記載の組成物。
  7. 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子に対するインヒビターが出現している疾患である、請求項に記載の組成物。
  8. 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、後天性血友病である、請求項に記載の組成物。
  9. 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下によって発症および/または進展する疾患が、フォンビルブランド病である、請求項に記載の組成物。
  10. 請求項1または2に記載の抗体の、請求項のいずれかに記載した組成物の製造のための使用。
  11. 少なくとも請求項1または2に記載の抗体、または請求項に記載の組成物を含む、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患を予防および/または治療する方法に用いるためのキット。
  12. 少なくとも請求項1または2に記載の抗体、または請求項に記載の組成物を含み、かつ血液凝固第VIII因子を含む、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患を、血液凝固第VIII因子と併用して、予防および/または治療する方法に用いるためのキット。
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