JP5418038B2 - 地震リスク評価方法 - Google Patents
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Description
このような地震リスク評価方法によれば、PMLの基となる地震動の大きさに対する建物の損失分布は、建物の各層各部位間における損失発生の相関係数と、建物の各層各部位における損失分布とに基づいて算出されるので、建物の各層各部位において、地震動の大きさごとの発生する損失とその発生確率に基づいて地震リスクを評価することが可能である。このとき、各層各部位間における損失発生の相関係数は、地震動の大きさと建物の各層各部位間ごとの応答値との相関係数、及び、建物の各層各部位間ごとの耐力値の相関係数、とに基づいて算出されているので、建物の各層に存在する各部位間の相関を任意に設定することが可能である。このため、建物の各層に存在する各部位間の相関を独立あるいは完全相関と仮定してPMLを算出した場合より正確なPMLを得ることが可能であり、評価対象となる建物に適合したPMLに基づいて、より適切な評価をすることが可能である。
このような地震リスク評価方法によれば、各層各部位における損失分布が、各層各部位における損失分布の平均値、及び、各層各部位における損失分布の標準偏差なので、各層各部位における損失分布の信頼性が高い。このため、より信頼性の高い評価結果を得ることが可能である。
このような地震リスク評価方法によれば、応答値は、複数の地震動に対する応答値の中央値、及び、複数の地震動に対する応答値の対数標準偏差であり、耐力値は、耐力値の中央値、及び、耐力値の対数標準偏差なので、さらに信頼性の高い評価結果を得ることが可能である。
本実施形態の地震リスク評価方法は、地表面最大速度にて示される種々の大きさの地震の発生確率と地震の大きさに対する建物の損失率との相関を示すイベントリスク曲線に示されるPMLにより評価する。このイベントリスク曲線の基となる地表面最大速度に対する建物の損失分布は、建物の応答値と耐力値とを用いて算出されるが、応答値と耐力値は、建物全体において一様ではなく、建物の各層各部位においてばらつきが生じている。このため本発明の地震リスク評価方法では、まず、建物を基礎固定の多質点等価せん断型にモデル化して、建物の各層各部位間の応答値及び耐力値の相関係数を求める。次に求められた各層各部位間の応答値及び耐力値の相関係数に基づいて各層各部位間における損失発生の相関係数を求める。そして、求められた各層各部位間における損失発生の相関係数と、建物の各層各部位における損失分布とに基づいて、地震動の大きさに対する建物の損失分布を求めてイベントリスク曲線を作成する。作成されたイベントリスク曲線から求められるPMLにより地震リスクを評価する。
以下に、本実施形態の地震リスク評価方法において指標となるPMLの求め方を図1に基づいて説明する。
<震源のモデル化>
・震源モデル及び地震発生確率の設定
地震リスクの評価にあたり、まず、建設地の地震危険度を評価する際の震源モデル及び地震発生確率を設定する。
本実施形態では、震源モデルとして地震調査研究推進本部・地震調査委員会が作成した震源モデルを採用し(図1におけるS1)、地震発生確率は、地震調査研究推進本部・地震調査委員会にて提案されているものを採用している(図1におけるS6)。
地震が発生した際の建設地の地震の大きさを示す「地表面最大速度」を算出する。
地表面の最大速度についても、地震調査研究推進本部・地震調査委員会にて作成された手法に基づいて算出する。
上記手法によれば、地表面の最大速度Vは、基準地盤における最大速度V0に、表層地盤による速度増幅率ampを乗じることで求められる。
(2.3)式において、地表から地下30mまでの平均S波速度AVSは(2.4)式より求める。
本実施形態においては、入力地震動として、目標スペクトルを設定し、設定した目標スペクトルに適合するように地震動を作成する手法を採用する(図1におけるS7)。目標スペクトルとしては、震源特性,伝播特性,地盤特性の影響を簡易的に考慮するため、建築物荷重指針(1993年版)の加速度応答スペクトルを採用した。
建築物荷重指針(1993年版)では、地表面の加速度応答スペクトルSA(T,h)を(2.7)〜(2.9)式で設定する。
設定された目標となる加速度応答スペクトルSA(T,h)に適合する地震動を作成する。地震動の作成は、まず、フーリエ位相スペクトルを、一様乱数で与える。そして、設定されたフーリエ振幅とフーリエ位相を用いて、フーリエ逆変換により時刻歴波形を作成する。つぎに、地震のマグニチュードを与えて、地震動の包絡関数E(t)を「新・地震動のスペクトル解析入門」(鹿島出版会,2002)の手法により(2.11)〜(2.17)式で設定する。
また、TaとTbは、地震動の継続時間Tdを用いて(2.16)式と(2.17)式で与える。
そして、時刻歴波形にE(t)を乗じて、第1次の地震動を作成する。このようにして得られた第1次の地震動に対して加速度応答スペクトルを計算し、目標応答スペクトルへ適合するようにフーリエ振幅を補正する。この操作を繰り返して、目標の加速度応答スペクトに適合する地震動を作成する。
次に、建物を、基礎固定の多質点等価せん断型にモデル化し(図1におけるS8)、設定した地震動を用いて地震応答解析を行い、建物各層の応答値を計算する。このとき、建物の降伏耐力と地震動特性のバラツキを反映して応答値の分布を評価するため、建物の降伏耐力と地震動のサンプル値を抽出してモンテカルロシミュレーションを行う(図1におけるS9)。
ここで、降伏耐力のサンプル値の総数をny,地震動のサンプル値の総数をngとし、地震動g(地表面最大速度をVgとする)に対する応答値の中央値Ms(Vg)と応答値の対数標準偏差ζ(Vg)を計算する(図1におけるS10)。
このとき、各層各部位ごとに耐力値の分布を設定して、地表面最大速度Vに対する各層各部位の損傷確率Pを評価する。
応答値の対数平均値λsは、(2.19)式の応答値の中央値MSの自然対数をとることで求められる。
(2.23)式の応答値の対数平均値λsと、(2.20)式の応答値の対数標準偏差ζsを(2.22)式に代入すると、信頼性指標βは(2.24)式より計算できる。
本実施形態の地震リスク評価方法では、建物全体の損失分布を各層及び各部位ごとの損失発生の相関係数に基づき地震リスクを評価する。ここでは、評価対象となる建物の層数をiにて部位数をkとして、i層の建物が有するk部位について各層及び各部位ごとの損失発生の相関係数に基づき地震リスクを評価する。
ここで、ΔPL,ikは、被災度Lに応じて次式より求める。
建物の損失は、各層各部位の損失の和となるので、地表面最大速度Vに対する建物の損失分布の平均値μc(V)と標準偏差σc(V)は、次式より求められる。図4は、損失発生の相関係数の概念を説明するための図である。
このとき、応答値と耐力値の分布がともに対数正規分布でモデル化されているので、損失発生の相関係数ρik, jlは次式から計算できる。
一方、応答値の相関係数ρSik, jl(Vg)は、地震動g(g=1〜ng)の地表面最大速度Vgごとに次式より計算される(図1におけるS18)。
このとき、(2.32)式における応答値の相関係数ρSik, jlは、地震動g(g=1〜ng)ごとに計算された応答値の相関係数ρSik, jl(Vg)の平均値を用いて評価する。
同様に、90%非超過確率に相当する地震損失曲線SLM(V)は、地表面最大速度を変化させて損失分布の90%非超過確率に相当するCM (v)を連続的に計算することにより評価できる。
<比較のための条件>
上述した発明に係る地震リスク評価方法(以下、発明評価方法という)の結果と従来の地震リスク評価方法(以下、従来評価方法という)との結果を比較するにあたり、地震リスク評価の条件を次のように設定する。発明評価方法では、各層各部位における損失発生の相関を任意に設定する。従来評価方法は、2つのケースについて解析する。具体的には、従来の地震リスク評価方法の一方(以下、従来評価方法1という)は、各層各部位における損失が独立して発生すると仮定し、他方(以下、従来評価方法2という)は各層各部位における損失が完全に相関して発生すると仮定して解析する。
そして、各層の降伏耐力の間に相関が生じたときの、発明評価方法と従来評価方法による地震リスク結果を比較する。
本地震リスク評価にて評価の対象となる建物モデルは、例えばRC造10階とする(図1におけるS8)。図7は、降伏耐力の分布を示す図である。
降伏ベースシアー係数は0.3とし、高さ方向の降伏せん断力係数はAi分布で与える。各層の復元力特性は、図7に示すように、ひび割れ耐力QCを降伏耐力Qyの1/3に、ひび割れ変形角を1/1500,降伏変形角を1/150に設定し、復元力特性はTakedaモデルで与える。建物の減衰は、1次の減衰定数が3%の剛性比例型で与え、地震応答解析を行う際は瞬間剛性比例型とした。
このとき、降伏耐力のサンプル値の総数nyは、100ケースとする。図8は、降伏耐力の相関図の一例を示す図である。
建設地は、東京(緯度:35.678,経度:139.770)に設定する。このとき、基準地盤に対する速度増幅率は2.273となるので、<目標スペクトルの設定>にて上述した手法に従い加速度応答スペクトルSA(T,h)を求める(図1におけるS7)。また、地表面最大速度の中央値と平均マグニチュードの関係を求めると、表4となる。
降伏耐力と地震動のサンプル値の総数を以下で設定し、両者を組み合わせて計100×200=20000ケースの地震応答解析を行い、建物各層の応答値の分布を計算する(図1におけるS9)。なお、応答値として、応答層間変形角を採用する。
・降伏耐力のサンプル総数:ny=100ケース
・地震動のサンプル総数:ng=200ケース
図11は、地震動の地表面最大速度が50cm/sのとき、応答層間変形角の相関図の一例を示す図である。
建物の各層ごとに、地表面最大速度と応答値の中央値の関係、ならびに地表面最大速度と応答値の対数標準偏差の関係を評価する(図1におけるS15)。
図12は、1層,2層,5層,10層における地表面最大速度と応答値の関係の一例を示す図である。
発明評価方法における応答値の相関係数,耐力値の相関係数,ならびに両者の値を用いて計算された損失発生の相関係数は以下のとおりである(図1におけるS16,S17)。
損失発生の相関による地震損失曲線を、発明評価方法と従来評価方法とを比較する。図13は、発明評価方法と従来評価方法とにて求められた地震損失曲線を示したグラフである。図13に示すように、発明評価方法にて求められた損失率は、従来評価方法1(独立としたケース)の損失率と従来評価方法2(完全相関としたケース)の損失率との間の値を示している。すなわち、発明評価方法と比較して、従来評価方法1は損失率を過少に、逆に従来評価方法2は損失率を過大に評価している。
損失発生の相関によるイベントリスク曲線を、発明評価方法と従来評価方法とを比較する。図14は、発明評価方法と従来評価方法とにて求められたイベントリスク曲線を示したグラフである。図14に示すように、年超過確率が約10−2以下の領域では、発明評価方法にて求められた損失率は、従来評価方法1(独立としたケース)の損失率と従来評価方法2(完全相関としたケース)の損失率との間の値を示している。すなわち、年超過確率が約10−2以下の領域では、従来評価方法1は発明手法と比較して損失率を過少に、従来評価方法2は損失率を過大に評価している。
PMLは、年超過確率PKが1/475となる地震EKに対する損失CM(EK)で評価できる。
このため、図14のイベントリスク曲線よりPML値を求め、発明評価方法と従来評価方法とを比較する。発明評価方法と比較して、従来評価方法1(独立としたケース)はPMLを過少に、逆に従来評価方法2(完全相関としたケース)はPMLを過大に評価している。
図15は、発明評価方法と、従来評価方法1と、従来評価方法2とのPMLの比較を示す図である。
S 応答値
R 耐力値
λs 応答値の対数平均値
ζs 応答値の対数標準偏差
λR 耐力値の対数平均値
ζR 耐力値の対数標準偏差
μc(V) 地震動の大きさに対する建物の損失分布の平均値
σc(V) 地震動の大きさに対する建物の損失分布の標準偏差
μik(V)地震動の大きさに対する建物の各層各部位における損失分布の平均値
σik(V)地震動の大きさに対する建物の各層各部位における損失分布の標準偏差
ρik, jl 建物の各層各部位間における損失発生の相関係数
ρSik, jl 地震動の大きさと建物の各層各部位間ごとの応答値との相関係数
ρRik, jl 建物の各層各部位間ごとの耐力値との相関係数
Claims (4)
- 評価対象となる複数の層を有する建物の地震リスクをPMLにて評価する地震リスク評価方法であって、
前記複数の層の各層には、複数の部位が存在しており、
前記PMLの基となる、地震動の大きさに対する前記建物の損失分布を、
前記建物の各層各部位間ごとの応答値との相関係数、及び、前記建物の各層各部位間ごとの耐力値の相関係数、に基づく前記建物の各層各部位間における損失発生の相関係数と、
前記建物の各層各部位における損失分布と、に基づいて算出することを特徴とする地震リスク評価方法。 - 請求項1に記載の地震リスク評価方法であって、
前記建物の各層各部位における損失分布は、前記各層各部位における損失分布の平均値、及び、各層各部位における損失分布の標準偏差であることを特徴とする地震リスク評価方法。 - 請求項1または請求項2に記載の地震リスク評価方法であって、
前記応答値は、複数の地震動に対する当該応答値の中央値、及び、前記複数の地震動に対する当該応答値の対数標準偏差であり、
前記耐力値は、当該耐力値の中央値、及び、当該耐力値の対数標準偏差であることを特徴する地震リスク評価方法。 -
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