JP5411455B2 - 全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物 - Google Patents
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(1)生分解性の基準が、部分的生分解試験「CEC法」(基準:67%以上)から、本質的生分解試験「OECD301C法」(基準:生分解率60%以上)に変更。
(2)ヒメダカによる急性毒性試験JIS K 0102(基準:LC50値≧100mg/L)の追加。
一方、従来の生分解性潤滑油は、大豆油やナタネ油のような一般的な植物油をベースにしているため、低温で固化したり、粘度が低く潤滑性が不足するという問題があった。そのため、合成ポリオールエステルを併用したり、PMAやポリブテンを添加して粘度を上げることでこれらの問題の改善を図ってきた(例えば、特許文献1、2参照)。
そこで、本発明は、潤滑性に優れるとともに、より生分解性が高く、さらに防錆性や低温流動性にも優れた全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物を提供することを目的とする。
また、本発明の全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物では、−10℃で24時間放置しても固化しない性質を有する植物油が、85質量%以上含まれるので、組成物としても低温流動性に優れる。
さらに、該組成物の40℃粘度が所定の範囲にあるので、潤滑性にも優れているだけでなく、使用する機械の動力損失が過大となることもない。この40℃粘度は、46〜220mm2/sであることが好ましく、55〜190mm2/sであることがより好ましい。
それ故、本発明の生分解性潤滑油組成物は、戸外で使用されるコンバインやチェーンソーのような全損給油型の農業用機械の潤滑油として好適に用いることができる。
この発明によれば、基油として所定の植物油が選択されることで、生分解性および潤滑性に優れた組成物を提供できる。なお、上述した、中程度の粘度範囲の植物油を得るためには、低粘度タイプの植物油と高粘度タイプの植物油を混合するとよい。例えば、前記した菜種油(ハイオレイック菜種油)のような低粘度油と、ひまし油のような高粘度油とを混合して所定の粘度範囲の植物油を得ることができる。
この発明によれば、添加剤として、所定の構造を有する脂肪酸部分エステルを配合しているので、潤滑油組成物としたときに、水による拡散性に優れる。すなわち、潤滑油組成物が土壌に散布されたときに、基油を構成する植物油の生分解性を促進することが可能となる。それ故、本発明の生分解性潤滑油組成物は、戸外で使用されるコンバインやチェーンソーのような全損給油型の農業用機械の潤滑油として好適である。また、このような部分エステルは防錆性も期待できる。上述の脂肪酸部分エステルの添加量は、組成物全量基準で0.5質量%であると十分な拡散性を示す。ただし、15質量%を超えて添加すると組成物が固化するおそれがあるので注意が必要である。なお、部分エステルでなく完全エステルであると、水による拡散性が低いため好ましくない。
この発明によれば、脂肪酸部分エステルを構成する脂肪酸を不飽和脂肪酸とすることで、低温流動性に優れ、基油の低温流動性を阻害することがないため、組成物全体としても低温流動性に優れる。
ここで、前記不飽和脂肪酸としては、オレイン酸が好ましい。また、脂肪酸部分エステルとしては、水による拡散性や防錆性の点でグリセリンエステルまたはソルビタンエステルが好ましい。
また、本発明の全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物では、添加剤は、脂肪酸の炭化水素部分が直鎖構造であることが好ましい。
この発明によれば、炭化水素部分が直鎖構造であることから生分解を促進できる。
イオン系界面活性剤やポリオキシエチレン非イオン系界面活性剤が該組成物中に含まれると、空気中の水分を強く吸収して機械を錆びさせるおそれがある。
この発明によれば、添加剤中に硫黄およびリンが実質的に含有されないことで、添加剤自身の生分解性を阻害したり、該組成物の生分解性を阻害することが少ない。
そして、本発明の全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物では、前記植物油は、高粘度の植物油と、低粘度の植物油とを混合したものであることが好ましい。
この発明によれば、高粘度の植物油と、低粘度の植物油とを混合することで、所定の粘度範囲の植物油を得ることができる。
本発明は、所定の植物油を基油として、これに所定の添加剤を配合してなる全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物である。以下に、この植物油と添加剤、および得られる生分解性潤滑油組成物について説明する。
本発明の生分解性潤滑油組成物の基油として用いられる植物油としては、OECD301C法による生分解度が80%以上でなければならず、−10℃で24時間放置しても固化しない性質を有しなければならない。
このような条件を満たす植物油としては、例えば、菜種油、ひまわり油、大豆油、トウモロコシ油、キャノーラ油、アプリコット核油、いちい種子油、オリーブ油、クルミナッツ油、つばき油、ハシバミナッツ油、バターナッツ油、ハナモモ種子油およびひまし油の中から選ばれる少なくとも一種であって、上述した生分解度を有するものが好ましい。
菜種油としては、低温流動性に優れる点でオレイン酸含有量の高いハイオレイック菜種油が特に好適である。
なお、従来、生分解性潤滑油として用いられてきた合成ポリオールエステルは生分解性が十分ではなく、土壌に蓄積するおそれがある。また、生分解性潤滑油として用いられる合成コンプレックスエステルも生分解性が十分ではなく、潤滑性もあまり期待できない。
本発明の生分解性潤滑油組成物に用いられる添加剤としては、OECD301C法による生分解度が80%以上である必要がある。前記した植物油のOECD301C法による生分解度が80%以上であっても、添加剤の生分解性が低いと、該組成物を戸外でチェーンソー等に使用した場合に、土壌中に未分解物として残留してしまうおそれがあるからである。
このような添加剤としては、多価アルコールの脂肪酸部分エステルであって脂肪酸の炭化水素部分が直鎖構造で不飽和炭化水素からなり、炭素数が16〜22であるものが好ましく適用できる。
多価アルコールの脂肪酸部分エステルであると、潤滑油組成物を構成したときに、優れた水分散性を付与することができる。すなわち、本組成物が土壌に散布された場合に、速やかに土中に拡散するので、基油である植物油の生分解を促進できる。ただし、脂肪酸の炭化水素部分に分岐構造があると生分解性が低くなり、脂肪酸の炭化水素部分が飽和炭化水素であると低温で析出し易くなる。また、脂肪酸の炭素数は、植物由来のものは一般に16以上であるが、炭素数が22を超えると低温で析出しやすくなるので、好ましくない。
また、上述した添加剤は、食品衛生法第4条第2項における食品添加物相当であることが好ましい。
このような添加剤としては、オレイン酸モノグリセライドやソルビタンモノグリセライドなどが挙げられる。
本発明の生分解性潤滑油組成物は、前記した植物油の配合量が組成物全量基準で85〜99.5質量%であり、前記した添加剤の配合量が組成物全量基準で0.5〜15質量%である。このように特定の植物油の配合量が多く、一方、添加剤の配合量が所定の範囲にあるので、組成物の基油としての植物油の効果を損なうことがない。
ここで、前記した生分解性や潤滑油特性をより強く発揮させるためには、植物油の配合量が90〜99.5質量%であることが好ましく、95〜99質量%であることがより好ましい。
また、前記した添加剤が脂肪酸部分エステルであり、その配合量が組成物全量基準で0.5質量%以上であると、十分な拡散性を示す。ただし、配合量が15質量%を超えると組成物が固化するおそれがあるので注意が必要である。それ故、脂肪酸部分エステルを配合する場合は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
また、本発明の生分解性潤滑油組成物では、−10℃で24時間放置しても固化しない性質を有する植物油が、85質量%以上含まれるので、組成物としても低温流動性に優れる。
さらに、該組成物の40℃粘度が所定の範囲にあるので、潤滑性にも優れているだけでなく、使用する機械の動力損失が過大となることもない。この40℃粘度は、46〜220mm2/sであることが好ましく、55〜190mm2/sであることがより好ましい。
このような所定の粘度範囲の組成物は、高粘度の植物油と、低粘度の植物油とを混合することで得られる。例えば、最終的な組成物の粘度を考慮して高粘度のひまし油と低粘度の菜種油を所定の割合で混合すればよい。
鉱物油としては、通常、パラフィン基系原油、中間基系原油、ナフテン基系原油などから得られたものが例示される。
合成炭化水素油としては、ポリブテン、ポリプロピレンのほか、オレフィン共重合体、更には、炭素数8〜14のα−オレフィンオリゴマーおよびこれらの水添化合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどが挙げられる。動物油としては、牛脂や豚脂などが挙げられる。ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、オキシエチレン−オキシプロピレン共重合体、ポリエーテルエステル、ポリフェニルエーテルなどが挙げられる。シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、変性ポリシロキサンなどが挙げられる。
潤滑油組成物中における鉱物油、合成炭化水素油、動植物油、併用エステル、ポリエーテル、シリコーン油の含有量としては、20質量%以下であることが好ましい、鉱物油、合成炭化水素、シリコーン油の場合、生分解性を損なわないように10質量%以下とするのが望ましい。
これらの中でも、生分解性の観点や、潤滑油組成物の酸化劣化を効果的に抑え、熱安定性も高いなどの点から、特にビタミンEが好ましい。
なお、以上に説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な組成は、本発明の目的および効果を達成できる範囲内において、他の組成としても問題はない。
なお、各例における潤滑油組成物(試料油)の性状は以下のような方法で求めた。
(1)40℃動粘度:
JIS K 2283の方法により測定した。
(2)低温流動性
試料油を−10℃の環境下に24時間放置して、固化するか否かを観察した。
OECD/TG/301Cに準拠して測定した。
(4)水面での拡散性
内径10cm、高さ7cmのポリ容器中に、高さ5cm程度になるように水を入れ静置した。その後、試料油を容器中の水面中央部に5cmの高さから一滴滴下した。そして、水面での試料油の拡散状態を5秒間観察し、以下の基準で拡散性を評価した。
○:試料油の水面における拡がりが直径25mm以上
△:試料油の水面における拡がりが直径5mm以上〜25mm未満の範囲
×:試料油の水面における拡がりが直径5mm未満
矩形の鋼板(7cm×5cm、SPCC−SD)の表面に試料油を塗布し、室内に2箇月間放置し、表面の錆具合を目視で観察し、以下の基準で拡散性を評価した。
○:塗布面の色に変化無し
△:塗布面が薄い褐色に変化
×:塗布面が褐色に変化
ASTM D2174に記載されたブロックオンリング試験機(LFW−1)を用いて、金属間摩擦係数を測定し、試料油の潤滑性を評価した。具体的な試験条件を以下に示す。
・試験治具:
リング:Falex S-10 Test Ring(SAE4620 Steel)
ブロック:Falex H-60 Test Block(SAE01 Steel)
・運転条件:
油温:60℃
荷重:176.4N(40lbs)
回転数:500rpm
表1に示す各種基油を用いて、表2に示す潤滑油組成物(試料油)を調製し、前記した方法で各性状を評価した。結果を表2に示す。なお、基油として用いたハイオレイック菜種油のオレイン酸含有量は73質量%である。また、市販の生分解性潤滑油(2種類)について参考例として併せて表2に示す。
表2の結果からわかるように、比較例1では、基油としてひまし油の割合が少なく、低温流動性の悪い大豆白絞油が多く含まれているため、−10℃で固化してしまう。比較例2では、基油として所定の植物油の割合が少なく、合成コンプレックスエステルの割合が多いので、組成物としての生分解性に劣っている。比較例3では、所定の部分エステルが配合されていないため、水分散性に劣っている。比較例4では、添加剤としてPOE(ポリオキシエチレン)オレイルエーテルを配合しており、防錆性に劣っている。なお、参考例1、2は市販の生分解性潤滑油であるが、生分解性および防錆性に劣っており、また潤滑性もよくない。これはおそらく、添加されているリン系化合物やイオン系界面活性剤によるものと思われる。
一方、実施例1、2の試料油は、いずれも、低温流動性、生分解性、水面での拡散性、防錆性および潤滑性に優れることがわかる。
Claims (8)
- 植物油に添加剤を配合してなる全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物であって、
前記植物油は、OECD301C法による生分解度が80%以上であって、−10℃で24時間放置しても固化しない性質を有し、
前記添加剤は、脂肪酸部分エステルを構成する脂肪酸の炭素数が16〜22である多価アルコールの脂肪酸部分エステルで、OECD301C法による生分解度が80%以上であり、
前記植物油の配合量が組成物全量基準で85〜99.5質量%であり、
前記添加剤の配合量が組成物全量基準で0.5〜15質量%であり、
該組成物は、40℃粘度が30〜250mm2/sである
ことを特徴とする全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物。 - 請求項1に記載の全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物において、
前記植物油が、菜種油、ひまわり油、大豆油、トウモロコシ油、キャノーラ油およびひまし油の中から選ばれる少なくとも一種である
ことを特徴とする全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物。 - 請求項1または請求項2に記載の全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物において、
前記添加剤は、脂肪酸の炭化水素部分が直鎖構造である
ことを特徴とする全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物。 - 請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物において、
前記脂肪酸部分エステルを構成する脂肪酸が不飽和脂肪酸である
ことを特徴とする全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物。 - 請求項4に記載の全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物において、
前記不飽和脂肪酸がオレイン酸である
ことを特徴とする全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物。 - 請求項4または請求項5に記載の全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物において、
前記脂肪酸部分エステルがグリセリンエステルまたはソルビタンエステルである
ことを特徴とする全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物。 - 請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物において、
イオン系界面活性剤およびポリオキシエチレン非イオン系界面活性剤を実質的に含有しないことを特徴とする全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物。 - 請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物において、
前記添加剤が硫黄およびリンを実質的に含有しない
ことを特徴とする全損給油型の農業用機械に用いられる生分解性潤滑油組成物。
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