JP5383832B2 - 建物の換気量及び温度予測システム - Google Patents

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Description

本発明は、建物内部の換気状況及び熱の移動による温度状況を計算により予測するための予測システムに関するものである。
従来において、建物内部の換気状況を予測するには、換気回路網計算が使用されている。図10に従来の換気回路網計算の概念図を示す。図10(a)は建物の間取りのレイアウト図であり、各室を1点としてネットワークモデルとしたものを図10(b)に示している。
図においてネットワークは室と通気経路のみからなり、換気量は外気の温度、風速と室内各部温度を仮定し、各室間の圧力差と通気経路の抵抗から、1室ごとに算出する。各室の圧力差は外気風、室間又は内外温度差によって生じる。ここで換気回路網計算は、内外温度差の効果を簡易に取り扱うため、外気温度と室内の代表的温度一定で計算を行うのが一般的である。
また同様に、建物内部の温度状況を算出する熱負荷計算プログラムも従来から使用されている。かかる計算にあって室内気流が熱の伝達要素として考慮されるが、初期条件として設定しているに過ぎず、換気状況の把握をすることはできない。
しかし、建物の中では暖房機、電気器具、日照などの発熱により空気温が上昇し、室間の温度差から気流を生じるなど、換気状況には熱的な影響が大きいにもかかわらず、そのような建物内部の温度分布や発熱などの熱的影響を考慮したものがない。
また、より詳細な計算を行おうとした場合、室内の換気状況と温度状況は本来相互に影響するため、両者を関連づけながら解くことが望ましい。しかし従来において換気量と温度の計算を同時に予測することは行われておらず、換気状況を予測するときは温度状況を条件として与え、逆に温度状況を予測するときは換気状況を条件として与えていた。
特に、換気量の比較的小さい24時間計画換気の状況を計算する場合には、上記のような建物内部の発熱などによる温度ムラは換気の動力として無視できないレベルである。なお、窓開放など通風による掃気であれば、換気量が大きく、内部発熱が問題となる場合は少ない。
そこで本発明は、換気回路網計算に熱移動、熱発生の影響を考慮することにより、建物内の換気状況及び温度状況を高い精度で予測し、合わせて室内空気質の状況を的確に予測するシステムを提供することを目的としている。
上記課題を解決するために、本発明にかかる建物の温度及び換気予測システムの代表的な構成は、任意の時間の、建物の各室の温度及び室間若しくは建物内外間の換気量を予測するシステムであって、各室の形状及び壁、床、開口部など室相互の接続関係を含む邸別データと、風速及び外気温度を含む気象データとを入力する入力手段と、所定時間間隔毎に各室毎の温度および換気量を計算する計算手段と、計算結果を出力する出力手段とを有し、前記計算手段は、温度による空気の密度の違いによる浮力を考慮して、各室における空気の換気量を求め、かつ各室における空気の流出入の総和を0に維持することにより各開口部毎の換気量を計算し、換気による空気に伴う熱の移動を考慮して各室相互の熱の入出量により各室毎の温度を計算し、前記換気量の計算にて前記温度による空気の密度の違いによる浮力を考慮するにつき、当該温度は、前記各室毎の温度の計算から得られる温度を用いることとし、所定時間間隔毎に、毎回、収束するまで上記換気量と温度とを交互に複数回計算することにより、換気量及び温度を計算することを特徴とする。
また本発明に係る建物の温度及び換気予測システムの他の代表的な構成は、任意の時間の、建物の各室の温度及び室間若しくは建物内外間の換気量を予測するシステムであって、
各室の形状及び開口部を含む邸別データと、風速及び外気温度を含む気象データとを入力する入力手段と、
所定時間間隔毎に各室毎の温度および換気量を計算する計算手段と、計算結果を出力する出力手段とを有し、前記計算手段は温度による空気の密度の違いによる浮力を考慮して各室における空気の換気量を求め、かつ各室における空気の流出入の総和を0に維持することにより各開口部毎の換気量を計算し、換気による空気に伴う熱の移動を考慮して各室相互の熱の入出量により各室毎の温度を計算し、前記換気量の計算にて前記温度による空気の密度の違いによる浮力を考慮するにつき、当該温度は、前記各室毎の温度の計算から得られる温度を用いることとし、所定時間間隔毎に、前時間で算出した温度を用いて換気量を先に計算し、その換気量の計算結果を用いて温度を計算することを特徴とする。
上記説明した如く、本発明に係る建物の換気量及び温度予測システムは、換気回路網計算に熱移動、熱発生の影響を考慮することにより、建物内の換気状況及び温度状況を高い精度で予測し、合わせて室内空気質の状況を的確に予測することができる。
本願にかかる予測システムの概念図である。 第一実施形態にかかる熱及び換気回路網計算のフローチャートである。 熱的に厚い部位周辺の変数定義を説明する図である。 土間床のモデルを説明する図である。 第二実施形態にかかる熱及び換気回路網計算のフローチャートである。 建物内の標準状態における温度分布の計算例を示す図である。 建物内の標準状態における換気回数分布の計算例を示す図である。 すきま面積が拡大した場合の換気回数分布の計算例を示す図である。 すきま面積が拡大した場合の温度分布の計算例を示す図である。 従来の換気回路網計算の概念図である。
[第一実施形態]
本発明に係る建物の換気量及び温度予測システムの第一実施形態について、図を用いて説明する。本実施形態にかかる建物の換気量及び温度予測システムは具体的にはコンピュータ上で動作するソフトウェアであり、入力手段とはキーボードや入出力装置、ネットワーク回線などを意味し、計算手段とはCPU及びRAMを意味し、また出力手段とはモニタやプリンタ又は記録装置などを意味している。
(全体構成)
図1は熱及び換気回路網計算の概念を示す図であって、図1(a)は建物の間取りのレイアウト図であり、各室を1点としてネットワークモデルとしたものを図1(b)に示している。通気経路においては室内外及び各室間の扉や隙間などの開口部、及び換気扇などによる強制換気の通路を考慮する。熱の移動経路においては壁や床天井等から伝達される熱量、及び換気に乗って移動する熱量を考慮する。また図に示すように、各部屋には定量的な発熱源若しくは吸熱源、及び湿度や化学物質の発生源も考慮することにより、室内空気質の予測も行う。
図2に熱及び換気回路網計算のフローチャートを示している。なお、具体的な個々の計算については後述する。図2に示すように、対象とする建物の邸別データと気象データを入力手段より読み込み(S1、S2)、これらを用いて以下の計算を行う。邸別データとは図1(a)に示した如く建物の間取りや各室の形状及び壁、床、開口部など室相互の接続関係、更に建物を構成する部材若しくは部位の熱容量、室内に配置された任意の発熱源を含むものである。気象データとは市販のデータを用いることができ、風速及び外気温度、外気湿度、日射又は放射量の情報を利用する。なお風速のデータがなくとも、無風状態として計算することは可能である。
邸別データと気象データを読み込んだ後に、まず計算すべき時刻の気象条件を取得し(S3)、日射から建物に与えられる放射量を計算する(S4)。次に換気回路網計算を行って各室毎の換気量を計算し、各室間の換気量を算出する(S5)。次にS5で算出された換気量を用いて、熱回路網計算による各室毎の温度(S6)を計算する。そしてS6で算出した温度を用いて、換気回路網計算(S5)に戻り、さらに換気量を算出する。これらの換気回路網計算(S5)と熱回路網計算(S6)は、収束するまで繰り返し計算を行う。それから湿度等回路網計算による湿度や化学物質の濃度(S7)を算出し、あわせて得られた温度から熱負荷計算をも行った後に(S8)、算出結果を出力する(S9)。
これら一連の計算(S3〜S8)は、所定時間間隔毎に繰り返し行い、各回毎に出力(S9)を行う。所定時間間隔とは、たとえば30分ごと、1時間ごとなど、適宜設定することができる。ここで、換気回路網計算(S5)と温度計算(S6)は相互に強い影響を与えるので、安定するまで複数回繰り返し計算する。
このように各回ごとに温度状況と換気状況を繰り返し解いて収束させることにより、換気量と温度の相関をとってバランスのとれた結果を得ることができ、精度の高い有意義な予測を行うことができる。
繰り返し計算の初回には利用すべき前回の算出結果がないため、各室の温度は適切な初期値を与えて計算する。従って結果の欲しい時刻よりもある程度前の時刻(例えば1月半前)から計算を開始し、繰り返し計算をすることにより、実際の値に近づけることができる。
また、室内の湿度や化学物質の発生速度は温度、湿度、周辺の化学物質濃度の影響を受けるため、換気状況に加えて温度情報は重要である。従ってかかる発生速度に換気による化学物質の排除能力(移動速度及び拡散速度)を合わせて予測計算を行うことにより、精度の高い空気質の予測をすることができる。
また建物内の熱回路網計算をするにあたっては、建物各部位の断熱性能を考慮し、内外温度差、室内温度差から熱流量を求めるなど、冷暖房負荷を算出するに等しい計算を行う必要がある。従って発熱源による投入熱量の積算を行うことにより、暖冷房負荷を求めることができる。
次に、各部計算について説明する。
(放射量の計算)
放射量とは日射を含む輻射を意味し、本実施形態においては直達日射量と天空日射量並びに夜間放射量を使用している。使用する市販の気象データに水平面全天日射量しか含まれていない場合には、太陽高度を元に計算により直達日射量と天空日射量に分離して計算に使用する。また太陽高度は対象となる都市の緯度、経度及び日時より算出する。放射量は、屋外の放射と屋内の放射について考慮する。
屋外の放射について、使用する記号の意味を次表に掲げる。
Figure 0005383832
気象データより各時刻の法線面直達日射量Ib[W/m2]、水平面天空日射量Id[W/m2]、夜間放射量Ix[W/m2]及び太陽高度の正弦(sin h)、余弦(cos h)、太陽方位の正弦(sin A)、余弦(cos A)を得ることができる。太陽の方向を示す単位ベクトルnsは以下のように定義できる。
Figure 0005383832
室iと屋外jをつなぐ接続面ijの外向きの法線ベクトルをneijとおくと、接続面ijのk番目の熱的に厚い部位Hijkが受ける放射量JHjik[W/m2]は以下のように表される。
Figure 0005383832
熱的に薄い部位であるドアの場合も同様に計算できる。窓については全てが反射又は透過すると考え、ガラスで吸収する放射量は常に0と考える。
屋内の放射について、使用する記号の意味を次表に掲げる。
Figure 0005383832
屋内の放射は、(1)室内に進入する放射量(窓からの日射の侵入)を積算し、(2)電灯などの室内で発生する放射量を加え、(3)積算した放射量を室を構成する壁、床、天井などに按分することで算出する。
(1)室内に侵入する放射量は、基本的に外壁の場合と同じ考え方をする。室iと室jをつなぐ接続面ijのk番目の窓Gijkを通して室iに侵入する日射量IGijk[W]は、次式で表される。
Figure 0005383832
放射遮蔽係数SCR、対流遮蔽係数SCCは、物性値としてあらかじめ与える。η*は標準板ガラスの日射侵入率であり、日射角度の関数となっている。窓の面積AGijk[m2]は窓のうち日の当たっている部分(陰になっていない部分)の面積であり、その面積は窓及び庇の形状から幾何学的に算出できる。
(2)室内で発生する放射量Ii0[W]は境界条件として与えられており、その値をそのまま加える。以上から室内の全放射量Ii[W]は下記の式のようになる。
Figure 0005383832
(3)室内放射量の積算と按分は、たとえば上記で求まった室内に存在する放射量の合計Iiの按分にあたっては、放射量の50%が床に、残りの50%がそれ以外の面に、面積に比例して配分される。配分された放射は実際には一部が反射するが、最終的にはいずれかの壁に吸収されると考え、吸収係数にかかわらず全てが吸収されるものとする。ただし、窓に当たった放射はそのまま屋外にでていく。すなわち、次式で表すことができる。
Figure 0005383832
ただし、AFi[m2]は室iを構成している床の面積であり、Ai[m2]はAFiを含む室iを構成する全表面積である。
(換気回路網計算)
換気回路網計算において、使用する記号の意味を次表に掲げる。
Figure 0005383832
本実施形態においては、室を出入りする空気量を(1)換気設備による機械換気に合わせた設定値、(2)すきま風を考慮して算出した値としている。(1)強制的な換気とは、換気扇などの機械的なものや、使用者による室間若しくは建物内外間の換気をいい、流量を明示的に指定する。また、(2)すきま風は、屋外風速と、室内外、室間温度差を機動力として開口部を流れるものであり、この項目には各室の温度が影響するものである。換気回路網においては、空気の非圧縮性から換気量は瞬時に平衡に達するものと考え、擬似的に定常計算を行う。
室iと室jに存在するk番目の開口部(隙間)Mijkを流れる換気流量Vijk[m3/s]と圧力差△pijk[Pa]は次式の関係にある。
Figure 0005383832
nは通常1〜2であるが、単純な開口の場合はn=2であり、本実施形態においてもn=2としている。一方、空気密度ρA及び開口部面積AMijk[m3]は、開いている扉のような場合は大きな開口部として取り扱い、小さい隙間は相当隙間面積を代入する。
一方、圧力差△pijkは次の式から計算される。
Figure 0005383832
ただし、p* ijk、p* jikは開口部のi側及びj側の浮力を考慮した圧力[Pa]、hi、hijkは室i及び開口部Mijkの高さ[m]である。δρiは標準温度(θ0=20℃)の時と密度差[kg/m3]であり、以下の式で表される。
Figure 0005383832
kρ=0.00411kg/m3℃であり、室iの温度θi[℃]は後述する熱回路網から求められる。この式を7に代入すると、次式のようになる。
Figure 0005383832
圧力piは室iが文字通り屋内の「室」であるときは未知数であるが、外部空間である場合は外気温度と風速から境界条件として与える。風による外圧は次式に示す動圧として表現される。
Figure 0005383832
これが9のpiに相当すると考え、壁の圧力は次式となる。
Figure 0005383832
ここでhiは屋外の中心高さであり、どこに定義しても相対的に全ての圧力が平衡移動するだけなので、hi=0としている。
一方α*は風圧係数(変数であり、形状により入力する)であり、壁と風向きとの位置関係の関数となる。一例として文献によれば風上で+0.8、風下で-0.4なので、それを滑らかに繋ぐと、単位風向ベクトルをv/|v|、壁の単位法線ベクトルをneとして、次式で表すことができる。
Figure 0005383832
また、各室についての質量保存の式、すなわち次式が室の数だけできる。
Figure 0005383832
上記説明した6が各開口部について1つづつ、13が室の数だけ作成され、未知数は各開口部の流量Vijkが開口部の数だけ、圧力piが室数だけ存在する。従って、式の数と未知数の数が一致するので、この連立方程式は原理的に解くことができる。なお、表3においては、室jから室iに流れる流量との観点から各項が定義付けられているが、図1(b)等に示す如く、当該室iや室jは当然に屋外も含み、そうすると、屋外に接する部屋においては、屋外と室との関係についても上記処理により演算処理されることとなる。
6から明らかなように、換気回路網は二次の連立方程式となり、熱回路網や湿気回路網のように線形でない。そこで本回路網は繰り返し解法による収束計算を行っている。最終的に解を求められるならどのような方法を用いてもよいが、本実施形態においてはNewton法を基礎にMarquardt法の考え方を応用している。
(熱回路網計算)
熱回路網計算において、使用する記号の意味を次表に掲げる。
Figure 0005383832
本実施形態においては、室iに伝わってくる熱量として(1)熱的に厚い部位から伝わる熱量、(2)熱的に薄い部位から伝わる熱量、(3)土間床を通って地中から伝わる熱量、(4)換気によって移動する熱量、(5)発熱源から発せられる熱量を考慮して算出する。(1)熱的に厚い部位とは壁や床天井などをいい、熱容量を考慮して計算するものであり、熱緩衝となって熱伝達の経時変化を追うことができる。(2)熱的に薄い部位とはドアやガラスなどをいい、熱容量を考慮せずに計算を行うものである。(3)土間床とは地盤に接している床から伝達される熱である。(4)換気によって移動する熱量には、上記換気回路網によって算出される空気の流量を用いて計算する。(5)発熱源とは暖冷房機器や人などを意味し、熱量を明示的に指定する。
(1)熱的に厚い部位の算出にあたっては、熱的に厚い部位の有効熱容量について、部位の熱伝導抵抗の中心を熱的な境界として、部位を分割する。室iとjを結ぶk番目の厚い部位Hijkのi側及びj側の熱容量CHijk[J/m2℃]、C Hjik [J/m2℃]は以下のように定義される。
Figure 0005383832
ここで、pは部位Hijkの幅d以内の値であって、
Figure 0005383832
となるような値である。分割した部位の両側について、それぞれ表面温度THijk、THjikをその代表温度とする(図3参照)。
Hijkのi側及びj側の熱収支式は次式となる。
Figure 0005383832
ここでJHijk等は放射により部位Hijkのi側表面に得られる熱量であり、上記放射量の計算によって得られた値を用いる。この式を後退差分
Figure 0005383832
を用いて離散化すると、次式となる。
Figure 0005383832
18が熱的に厚い部位の数だけできるため、室iに流入する熱量qHijkは次式となる。
Figure 0005383832
(2)熱的に薄い部位の算出にあたっては、室iとjをつなぐ接合面ijのk番目の熱的に薄い部位(ドア、ガラスなど)Lijkについての壁の左半分と右半分の収支式は、熱的に薄い部位の熱容量はゼロと見なせることから、次式のようになる。
Figure 0005383832
従って室iに流入する熱量qLijは、次式となる。
Figure 0005383832
(3)土間床を伝って地中から伝わる熱量も壁の場合と同じく熱回路網で計算するが、壁の場合は両面空気層であるのに対し、土間床は地盤に接している点が異なっている。土間床は図4に示す如きイメージでモデル化している。壁の内側半分だけを取り出して直接地盤にくっつけたようなモデルを考え、さらに外周部分と中央部分に分けて計算している。
内側半分だけなので、壁の場合の屋外側の境界層熱抵抗γHjikや、CHjikT Hjik 相当するものがない。計算手法上は、γHjik=CHjik=0、T Hjik jとなった壁と考えると壁と同じ計算となる。θjは土間床の場合は地盤温度(θG)で表され、γ Hijk 、C Hijk THijkはそれぞれγGik、CGik、TGik等に置き換えられる。
従って土間床Gikの熱収支式は、以下のようになる。
Figure 0005383832
従って室iに流入する熱量q Gik
Figure 0005383832
以上2式に使われた変数のうち、γGik、AGikは条件として入力され、JGikは上記(1)と同様にして算出される。γGikには土間床の境膜抵抗の他に内装材の熱抵抗も含まれているため、TGikの定義点は内装材の裏側になる。結果として床への放射は現実と異なり内装材の裏側に当てられていることになる。
(4)換気によって移動する熱量は、開口部Mijkを室jからiに通過する流量をVijk[m3/s]とすると、次式となる。
Figure 0005383832
室間の流量Vijkは換気回路網により計算されるか、又は境界条件として与えられる。
(5)発熱源とは暖冷房機器や人などの発する定量的な熱源をいい、発熱量Qを条件として入力する。
以上で定まった熱流速の式を用いた室iにおける熱収支式は、次式のようになる。
Figure 0005383832
この25に19、21、23、24を代入することにより、Tとθに関する式ができる。更に18、20を用いることによりθ={θ12,…θN}を変数とする以下のような連立一次方程式ができる。
Figure 0005383832
ここでAはNxNの行列、b、θは長さNのベクトルである。これを解けば時刻ステップnにおける室温θiが求められる。本実施形態ではこの解法として直接法(ガウス消去法)を用いている。
(湿度等回路網計算)
湿度等回路網計算において、使用する記号の意味を次表に掲げる。
Figure 0005383832
湿度等回路網は湿度や化学物質の濃度を算出するものであるが、本質的には熱回路網と同じである。ただし壁を通しての移動がないため、その分簡単になる。水蒸気濃度についての室iの保存式は次式のようになる。
Figure 0005383832
27において、Ci/R=1、ρA=1、Li/R=0とすると化学物質の保存式となる。
ここでVijkは室jからiへのk番目の開口部からの換気量[m3/s]である。上記の式は部屋の数Nだけ作ることができ、N元の連立一次方程式を解いて、室湿度または潜熱負荷を計算することができる。
(熱負荷計算)
熱負荷を求めるときは、上記熱回路網計算の26において室温θに維持したい温度を与え、同式の残差(H=Aθ-b)[W]として求められる。すなわち設定温度、室内温度、熱容量が設定されることにより、負荷量=室熱容量[J/m3]*(設定温度−室内温度)で求められる。なお、冷房の場合は−1倍となる。
[第二実施形態]次に、本発明に係る建物の換気量及び温度予測システムの第二実施形態について、図5を用いて説明する。図5は本実施形態に係る熱及び換気回路網計算のフローチャートであって、上記第一実施形態と説明の重複する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
上記第一実施形態においては所定時間間隔毎の各回の計算においては、換気回路網計算(S5)及び熱回路網計算(S6)は各回において収束するまで複数回繰り返すよう説明した。
しかし本実施形態においては、図5に示すように、換気回路網計算(S5)と熱回路網計算(S6)を各回において1回のみ行い、結果を出力し、次の時刻の計算に進む。
上記の如く構成することにより、第一実施形態に示したよりも若干の精度低下にはなるものの、より短い期間で計算結果を得ることができる。換気回路網は時間とともに刻々と変化する風向風速の影響によって時間間隔毎の変化が激しいため、前の時刻の換気量を用いて温度計算を行うことは大きな誤差を招く可能性が高いのに対し、温度の変化は時間に対して比較的穏やかであり、前の時刻の温度を用いて換気量を計算してもそれほど大きな誤差はおきないと考えられ、実際の計算でも第一実施形態と第二実施形態では殆ど差はなかった。
[計算例]図6は図で示されているようなレイアウトにおける建物内の温度分布を計算した例である。屋外の条件は東京地方の寒い時期の気候であり、前日の22時までエアコンをつけて各部屋の温度を20℃にし、その後エアコンを切って成り行きに任せ、翌朝6時における温度分布を示している。なおドアや窓などは閉めた状態とし、換気扇などの強制換気は考慮する(以下において、これを標準状態とする)。
図6に示すように、1階よりも2階の方が冷えていることがシミュレーションによって示され(または予測され)ている。これは単なる伝熱による熱移動のほかに、暖かい空気が浮力により上昇するために、1階は外気に比べて負圧、2階は正圧になる傾向をもっていることによる影響が考慮されている。また便所など機械的な排気を行っている部屋は負圧になるためそれを補うために隣の廊下から空気の流入があり、さらにこの影響で、廊下も負圧になりそれを補うために居間などの比較的高温の部屋から気流が入ってきていて、このため他の部屋と比べて室温が高くなっていることがシミュレーションによって示されている。
このような気流やその連鎖による熱の移動の影響は熱の計算のために伝熱による熱回路網だけでなく換気回路網の計算を行ったことにより初めて計算できることであり、一方換気回路網の、特に浮力の影響の計算のためには熱回路網の計算が必要である。すなわち両方の回路網を交互に解いた事により初めて可能となるシミュレーション結果である。
図7は、上記レイアウトにおける建物内の換気回数の分布を表している。ここで換気回数とは、所定時間の間に流通する空気の量を部屋等の容積で割った値であり、室内の空気が入れ替わった回数を示している。図7はドアなどを閉めた状態(標準状態)において、自然に発生する風向、風量の風に対応した内部換気程度の分布を示している。
図8は、上記標準状態に対して、二階階段ホールに接する窓を少し開けた場合であって、いずれも適当な一日分の平均値を表示している。図に示すように、閉め切った場合に比して、建物のすきま面積が拡大した場合を想定し、二階階段ホールに接する窓を開けた方が、当該ホールに隣接する部分の換気が増えていることがわかる。
図9は、二階階段ホールに接する窓を少し開けた場合における建物内の温度分布を計算した例である。このように、隙間を変化させた場合の換気性状が異なることにより、これを考慮して計算を行った結果、建物内の温度分布もその影響を受けて変わることがわかる。すなわち、図9に示すように、二階階段ホール及びこれに隣接する廊下、及びこれに連結している一階の階段部分は、換気量が増加すると共に、温度が下がっていることがわかる。
C …熱容量
H …厚い部位
J …表面に得られる熱量
R …有効熱容量
T …表面温度
d …幅
γ …境界層熱抵抗
θ …温度

Claims (2)

  1. 任意の時間の、建物の各室の温度及び室間若しくは建物内外間の換気量を予測するシステムであって、
    各室の形状及び壁、床、開口部など室相互の接続関係を含む邸別データと、風速及び外気温度を含む気象データとを入力する入力手段と、
    所定時間間隔毎に各室毎の温度および換気量を計算する計算手段と、
    計算結果を出力する出力手段とを有し、
    前記計算手段は、
    温度による空気の密度の違いによる浮力を考慮して、各室における空気の換気量を求め、かつ各室における空気の流出入の総和を0に維持することにより各開口部毎の換気量を計算し、
    換気による空気に伴う熱の移動を考慮して各室相互の熱の入出量により各室毎の温度を計算し、
    前記換気量の計算にて前記温度による空気の密度の違いによる浮力を考慮するにつき、当該温度は、前記各室毎の温度の計算から得られる温度を用いることとし、
    所定時間間隔毎に、毎回、収束するまで上記換気量と温度とを交互に複数回計算することにより、換気量及び温度を計算する
    ことを特徴とする建物の換気量及び温度予測システム。
  2. 任意の時間の、建物の各室の温度及び室間若しくは建物内外間の換気量を予測するシステムであって、
    各室の形状及び開口部を含む邸別データと、風速及び外気温度を含む気象データとを入力する入力手段と、
    所定時間間隔毎に各室毎の温度および換気量を計算する計算手段と、
    計算結果を出力する出力手段とを有し、
    前記計算手段は、
    温度による空気の密度の違いによる浮力を考慮して、各室における空気の換気量を求め、かつ各室における空気の流出入の総和を0に維持することにより各開口部毎の換気量を計算し、
    換気による空気に伴う熱の移動を考慮して各室相互の熱の入出量により各室毎の温度を計算し、
    前記換気量の計算にて前記温度による空気の密度の違いによる浮力を考慮するにつき、当該温度は、前記各室毎の温度の計算から得られる温度を用いることとし、
    所定時間間隔毎に、前時間で算出した温度を用いて換気量を先に計算し、その換気量の計算結果を用いて温度を計算する
    ことを特徴とする建物の換気量及び温度予測システム。
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