JP5361132B2 - 免疫グロブリンgを含有する経口用免疫調節剤、その製造方法及び経口用免疫調節剤を配合してなる飲食品 - Google Patents

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Description

本発明は、免疫グロブリンG(以下、IgGという。)を含有する搾乳動物の乳、又はその乳から調製した組成物の利用に関し、より詳しくは、過免疫した搾乳動物の乳、又はその乳から調製した組成物を経口的に摂取することで、免疫の調節異常に起因する病態を予防し、症状を改善する技術に関する。
アレルギー症や自己免疫疾患は、一般に、免疫の調節異常に起因する病態であると考えられており、個々の免疫応答が不適切、過剰あるいは不足であることによって、免疫系のバランスの調節が損なわれた状態であると考えられている。
例えば、関節リウマチや全身性エリテマトーデス等に代表される自己免疫疾患は、「自己」と「非自己」の組織を区別する免疫システムの正常なコントロール系が十分に機能しない場合に起こる。また、花粉症、ダニアレルギー、食物アレルギー等に代表されるアレルギー症は、ヒトに自然的に備わっているアレルゲンに対する免疫寛容の機能が十分に機能しない場合に起こる。
一方、従来から、哺乳動物の初乳には、タンパク質等の栄養素の他に、ラクトフェリンやリゾチーム等の生理活性物質やIgGが豊富に含まれており、生まれたばかりの赤ちゃんを病原菌等の感染から保護していることが知られている。また、病原菌で免疫した家禽類の卵にも該病原菌に対する免疫グロブリンY(IgY)が移行・蓄積することが知られている。そこで、このような免疫グロブリンを含む乳や、卵、あるいはそれらから調製された免疫グロブリン含有組成物を、アレルギー症や自己免疫疾患等の免疫の調節異常に起因する病態を予防し、症状を改善するための医薬品や健康食品等に利用しようとする試みが検討されている。
例えば、下記特許文献1には、微生物性抗原で感作した雌乳牛から搾取した、該抗原に対する抗体を含有する乳を調製することが記載され、その乳又はその乳の加工組成物を自己免疫モデルマウスに摂食させて腎炎発症を抑制できることが記載されている。
また、下記特許文献2には、ニワトリなどの産卵動物に免疫増進物質を接種して採卵して、糖類もしくは糖鎖付加卵黄抗体からなる過剰自己抗体産生抑制物質を調製することが記載され、当該過剰自己抗体産生抑制物質を自然発症自己免疫疾患マウスに摂食させて血清中IgG型マウスリウマチ因子濃度や血中IgE抗体濃度を抑制できることが記載されている。
上記の従来技術のように、過免疫した動物から得られた免疫グロブリンは、自己免疫疾患モデルマウスの症状の抑制に有効である。その詳細な機構は明らかではないが、経口的に摂取されたIgG等の免疫グロブリンは、経口摂取された異物に対する免疫システムとしてはたらく腸管免疫系に影響を及ぼすと考えられている。すなわち、腸内で腸管免疫系を担うパイエル板を介して、免疫調節機能を発揮していると考えられている。
他方、腸内で腸管免疫系を担うパイエル板に存在する免疫担当細胞の細胞表面には、細胞外に存在するIgG分子からのシグナルを伝達するレセプターとして機能するFcγレセプターが存在することが知られている。Fcγレセプターは、IgGのFc領域を認識するレセプターであり、ヒトの免疫システムにおける免疫応答やその調節に関与していることが知られている。
Fcγレセプターには、FcγレセプターI(FcγRI)、FcγレセプターIIa(FcγRIIa)、FcγレセプターIIb(FcγRIIb)、FcγレセプターIIIa(FcγRIIIa)、FcγレセプターIIIb(FcγRIIIb)の5種類が存在することが知られている。これらのレセプターは、それぞれの異なる機能又は関連する機能を有することにより、免疫応答やその調節に関与している。一般に、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIaを介して、抗体産生細胞のB細胞からの免疫グロブリンA(IgA)や免疫グロブリンE(IgE)の産生能を向上させる等の液性免疫が促進され、FcγRIIbを介して、液性免疫が抑制され、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)や細胞障害性T細胞(CTL)等による細胞性免疫が促進されると考えられている。
Fcγレセプターに関する技術として、例えば、下記特許文献3には、Fcγレセプターの1つであるFcγレセプターIIbの遺伝子を染色体上で欠損したマウスを用いて、リウマチ関節炎好発モデルマウスを作成する技術が開示されている。
特開平4−198136号公報 再公表02/026256号公報 特開2001−178308号公報
免疫グロブリンを含有してなる、上記特許文献1や特許文献2に代表されるような従来の搾乳動物の乳等、又はその調製組成物では、摂取者の健康状態や病態によっては、必ずしもその免疫調節効果が十分に得られない場合もあった。
また、上記特許文献3のようにFcγレセプターに関する知見を応用した技術が知られているが、その技術はFcγレセプターを介した免疫応答・調節機能を制御するものではなかった。
したがって、本発明の目的は、ヒトの免疫調節のために、搾乳動物の乳に含まれるIgGを経口摂取する場合において、その免疫調節効果をより好ましく発揮させる技術を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、免疫グロブリンG(IgG)と、該IgGと抗原−抗体複合体を形成できる抗体標的物質とを共存させて、腸管免疫を担当する樹状細胞に接触させることで、Fcγレセプター、特にFcγレセプターIIbを介した免疫応答機能を調節できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の経口用免疫調節剤は、搾乳動物を大腸菌を含む免疫原性物質で過免疫した後、搾乳して得た乳、又はその乳から調製した組成物であって、前記免疫原性物質を特異的に認識するIgGを含有するものに、大腸菌死菌体を添加したことを特徴とする。
また、本発明の経口用免疫調節剤の製造方法は、搾乳動物を大腸菌を含む免疫原性物質で過免疫した後、搾乳して、前記免疫原性物質を特異的に認識するIgGを含有する乳又はその乳から調製した組成物を得、この乳又は組成物に、大腸菌死菌体を添加することを特徴とする。
本発明によれば、その経口用免疫調節剤大腸菌を含む免疫原性物質で過免疫した動物からのIgGと、該IgGと抗原−抗体複合体を形成できる抗体標的物質となる大腸菌死菌体とを有効成分として含有するので、これを経口的に摂取することにより、IgGと、該IgGと抗原−抗体複合体を形成できる抗体標的物質とを共存させて、腸管免疫を担当する樹状細胞に接触させることができる。そして、樹状細胞の細胞表面上のFcγレセプター、特にFcγレセプターIIbを介して、ヒトの免疫系における細胞性免疫を促進し、一方、過剰な液性免疫を抑えて、ヒトに本来的に備わる免疫応答機能を調節することができる。
また、前記抗体標的物質となる大腸菌死菌体が、前記過免疫するために用いた免疫原性物質に含まれる大腸菌と同一物質であり、この免疫原性物質で過免疫した搾乳動物から得られる乳には、該抗体標的物質に対する認識力の高いIgGが多く移行し蓄積するので、より有効に免疫応答・調節機能を発揮することができる。
また、日常の食物摂取や大気環境に曝されること等による経験によって生じた免疫応答系を調節して、より有効に免疫応答・調節機能を発揮することができる。
本発明においては、前記搾乳動物が、ウシ、ヤギ、ヒツジ、及びウマから選ばれた1種であることが好ましい。これによれば、免疫原性物質で過免疫した搾乳動物の乳に該免疫原性物質を特異的に認識するIgGが移行し蓄積するので、その乳から本発明の経口用免疫調節剤を工業的に大量に調製することができる。
本発明においては、前記乳から調製した組成物が、脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、及び乳たんぱく質濃縮物から選ばれた1種であることが好ましい。これによれば、上記のIgGを含有する食品加工組成物を、現行の製造設備や流通システムを利用して提供することができるので、本発明の経口用免疫調節剤を工業的に大量に調製することが容易である。
一方、本発明の飲食品は、上記の経口用免疫調節剤を配合してなる飲食品を提供する。
本発明の飲食品は、上記の経口用免疫調節剤を配合してなる練乳、アイスクリーム、ヨーグルト、酸乳等の乳製品を提供する。
本発明は、搾乳動物の乳に含まれる免疫グロブリンG(IgG)を経口的に摂取して、免疫調節異常に起因した病態の治療及び/又は予防のために用いる場合において、その有効性を高めるための新たな技術を提供するものである。本発明によれば、IgGと、該IgGと抗原−抗体複合体を形成できる抗体標的物質とを共存させて、腸管免疫を担当する樹状細胞に接触させることができるので、樹状細胞の細胞表面上のFcγレセプター、特にFcγレセプターIIbを介して、ヒトに本来的に備わる細胞性免疫を促進し、一方、過剰な液性免疫を抑えて、ヒトに本来的に備わる免疫応答機能を調節することができる。また、この効果によって、例えば、花粉症、ダニアレルギー、食物アレルギー等のアレルギー症や、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、全身性エリテマトーデスのような自己免疫疾患の症状改善及び/又は予防効果が期待できる。
本発明の経口用免疫調節剤は、(1)搾乳動物を免疫原性物質で過免疫した後、搾乳して得た乳、又はその乳から調製した組成物であって、前記免疫原性物質を特異的に認識するIgGを含有するもの、及び(2)該IgGに特異的に認識される抗体標的物質を含有する。
本発明において、「過免疫」とは、当該分野において用いられる用語の意味において、通常よりも自然に又は人工的に免疫反応が進んだ状態を意味する。そして、本発明において、「動物を過免疫し」とは、動物に筋肉注射、皮下注射、静脈注射、腹腔注射、経口摂取等の方法により任意の物質を投与し、その物質に対する免疫反応状態を誘導して、その動物を過免疫の状態とすることを意味する。
本発明において、「免疫原性物質」とは、動物に筋肉注射、皮下注射、静脈注射、腹腔注射、経口摂取等の方法により投与すると、その物質に対する免疫反応状態を誘導して、その動物を過免疫の状態とすることができる物質を意味する。そのような作用を有するものであれば特に制限されないが、本発明においては、免疫原性物質として、例えば、大腸菌、酵母、乳酸菌、納豆菌、花粉等を用いることができる。なお、免疫原性物質が細菌や微生物である場合には、加熱、加圧処理等することで殺菌してその死菌体を用いることが好ましい。
本発明において、「搾乳動物を免疫原性物質で過免疫した後、搾乳して得た乳」とは、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等の搾乳動物を、任意の免疫原性物質で過免疫した後、搾乳により採取される乳を意味する。
本発明においては、上記の乳が、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の反芻動物から搾乳により採取される乳であることが好ましく、より好ましくは乳牛の乳である。これらの搾乳動物を免疫原性物質で過免疫すると、その免疫原性物質を特異的に認識するIgGが乳に移行し蓄積するので、その乳から本発明の経口用免疫調節剤を調製することができる。なお、IgGには、2つのサブクラスIgG1及びIgG2があるが、本発明の経口用免疫調節剤では、どちらのIgGを含有するものであってもよい。牛乳中のIgGはIgG1が殆どである。
免疫原性物質による搾乳動物の過免疫は、特開昭52−1014号公報、特開昭54−113425号公報、特開昭57−188523号公報等に記載されている公知の方法に準じて行うことができる。
すなわち、例えば、下記表1に示す26種類の細菌をそれぞれ常法にしたがって培養し、加熱殺菌した後、各菌体を回収して凍結乾燥する。各凍結乾燥菌体を等量ずつ採取して混合し、滅菌した生理的食塩水に懸濁し、4×10細胞/mlとなるように希釈して死菌体ワクチンを調製して免疫原性物質として用いる。そして、雌乳牛に前記の死菌体ワクチン5ml(20×10細胞)を1週間に1回、連続8週間以上筋肉注射し、乳中に十分な量のIgGが含まれているのを確認してから、乳を採取する。なお、免疫反応状態を誘導した後は、2週間毎に同一量の上記ワクチンをブースター注射すれば、死菌体ワクチンに対する抗体産生を維持できる。
上記の表1右欄には、このように得られた乳中の総IgG量に含まれる各種細菌に対する特異的抗体の含有量について、各種細菌をコーティングしたマイクロプレートを用いたELISA法により定量した結果の一例を示す。これによれば、例えば、エシィリキア コリ(Esherichia coli;ATCC No.26)を特異的に認識するIgGは1,683μg/g(総IgG)の含有量であり、ストレプトコッカス ビオゲネス タイプA14型(Streptococcus pyogenes Atype14;ATCC No.12972)を特異的に認識するIgGは48,368μg/g(総IgG)の含有量であり、それぞれの細菌を特異的に認識するIgGが乳中に移行・蓄積していることがわかる。
本発明において、「乳から調製した組成物」とは、上述のようにして任意の免疫原性物質で過免疫した搾乳動物の乳から調製した、例えば、脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、及び乳たんぱく質濃縮物等の乳加工組成物を意味する。
本発明においては、上記の乳や乳加工組成物から、更にIgGを濃縮・精製して上記の乳加工組成物に代えて用いることもできる。IgGの濃縮、精製は、常法にしたがって分離膜やカラムクロマトグラフィー等を用いて行うことができる。
なお、上記表1に示す26種類の細菌で過免疫した乳牛から採取した乳から調製した脱脂粉乳、あるいは乳清たんぱく質濃縮物は、例えば、脱脂粉乳として商品名「スターリミルク」、乳清たんぱく質濃縮物として商品名「スターリ乳清」、あるいは脱脂粉乳/乳清たんぱく質濃縮物混合物として商品名「スターリミルクゴールド」(いずれも兼松ウェルネス株式会社から販売)等が市販されており、本発明に好ましく用いることができる。
なお、これらの脱脂粉乳や乳清たんぱく質濃縮物は、水に戻して飲用する際の飲用1回分である20〜40g当たりに総IgG換算で96〜192mgのIgGを含有する組成物である。
本発明の経口用免疫調節剤を、上記の脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、及び乳たんぱく質濃縮物で調製した場合は、牛乳の成分からなるものであるので、安全性に優れ、継続的に長期間に摂取するのに適している。また、悪性腫瘍等を患うことによって免疫不全の状態の患者であっても体に負担をかけることなく摂取することができる。
本発明において、「IgGに特異的に認識される」とは、当該分野において用いられる用語の意味における抗原―抗体複合体を形成できる程度に選択性及び親和性を有することを意味する。そして、本発明において、「IgGに特異的に認識される抗体標的物質」とは、上記の乳、又はそれらから調製された組成物に含有するIgGによって、抗原―抗体複合体を形成できる物質を意味する。
前記抗体標的物質は、ヒトに継続的に経口摂取しても有害とならない物質であれば特に制限されることはなく、過免疫するために用いられた免疫原性物質と同一物質であってもよい。また、過免疫するために用いられた免疫原性物質と物質として同一ではないが、共通の認識部位を有することにより、当該IgGに特異的に認識される物質であってもよい。
具体的には、例えば、上記の免疫原性物質として用いられた大腸菌、酵母、乳酸菌、納豆菌、花粉等を用いることができる。なお、ヒトに継続的に経口摂取しても有害とならないように、抗体標的物質が細菌や微生物である場合には、加熱、加圧処理等することで殺菌してその死菌体を用いることが好ましい。また、酵母、乳酸菌、納豆菌等は、従来から食品や健康食品として経口的に摂取されていたものであるので、本発明に好ましく用いることができる。更にまた、免疫原性物質を認識するIgGが認識する上記の抗体標的物質の抗原―抗体認識部分を同定して、上記の抗体標的物質のかわりにその認識部分のみを抗体標的物質として用いることもできる。
本発明の経口用免疫調節剤は、他の成分として、例えば、免疫調節作用を有することが知られている、ラクトフェリン、カゼイン、ラクトアルブミン等、又はそれらに由来するカゼインホスホペプチド、グリコマクロペプチド、パラ−κ−カゼイン等の生物活性ペプチド又はその誘導体等を含むことができ、後述する本発明の経口用免疫調節剤による作用効果について、これらの成分による相乗効果を期待することができる。
本発明の経口用免疫調節剤は、これを経口的に摂取することで、ヒトに本来的に備わる免疫応答・調節機能に影響を与えることができる。
図1には、本発明の経口用免疫調節剤の作用機序モデルを示す。なおこの図1及び下記に説明する図2は、本発明の作用機序モデルを説明するために用いる概念図を示すものであり、最新の知見に基づくものであるが、今後、そのモデルは修正されることも考えられる。本発明は、この概念的モデルの妥当性の如何にかかわらず、その実施をすることができる。
図1に示すように、ヒトの腸管免疫を担うパイエル板10には通常の腸管上皮とはやや性質を異にする微絨毛の発達していないM細胞20が存在する。このM細胞20は腸管内の微生物などを取り込んでリンパ球等の免疫担当細胞に受け渡すことにより、免疫応答の調節に重要な役割を果たすと考えられている。そのM細胞20の基底部側にはパイエル板の免疫担当細胞であるパイエル板樹状細胞30が存在する。
したがって、本発明の経口用免疫調節剤を経口的に摂取すると、免疫グロブリンG(IgG)40が、該IgGに特異的に認識される抗体標的物質41とともに腸管に達し、貪食作用等によってM細胞20の基底部側に取り込まれ、パイエル板樹状細胞30の表面に到達する。なお、経口的に摂取されたIgG、及びそれに特異的に認識される抗体標的物質は、消化酵素等による分解を受けるが、分解を免れてパイエル板樹状細胞30の表面に到達したもの及び/又はその部分分解物によって以下に説明する作用効果がもたらされる。
パイエル板樹状細胞30の表面に到達した抗原―抗体複合体は、後述する実施例において明らかとされるように、パイエル板樹状細胞30の細胞表面上に発現しているFcγレセプターIIb(図1中では符号50で示す。)との相互作用によって、パイエル板樹状細胞30に免疫応答シグナルを生じさせる。その結果、パイエル板樹状細胞30の細胞表面上に発現しているCD83抗原の量が減少する。
一方、抗原―抗体複合体を形成しないIgGによっては、上記のようなFcγレセプターIIbを介した免疫応答を生じない。すなわち、図2に示すように、免疫グロブリンG(IgG)40は、FcγレセプターIIbではなく、パイエル板樹状細胞30の細胞表面上に発現しているFcγレセプターI(図2中では符号60で示す。)と相互作用して、パイエル板樹状細胞30に免疫応答シグナルを生じさせる。その結果、パイエル板樹状細胞30の細胞表面上に発現しているCD80抗原の量が増加する。
このようなレセプターへの結合様式の相違は、IgGのレセプター認識部位の構造変化によることが考えられるが、明らかではない。
一般に、パイエル板の免疫担当細胞の細胞表面に発現するCD80抗原及びCD83抗原は、腸管内に存在する異物を認識することによって生じる免疫応答シグナルをその下流に伝達して、IgA産生やIgE産生等の液性免疫促進のために重要な役割をはたすことが知られている。したがって、パイエル板の免疫担当細胞の細胞表面に発現するCD80抗原が増加して、図2に示すような免疫応答シグナルが生じれば液性免疫が促進される。
また、ヒトの免疫系においては、液性免疫が抑制されると細胞性免疫が昂進すると言う一種のバランス機構が存在すると考えられている。したがって、CD83抗原の減少によって液性免疫が抑制され、図1に示すような免疫応答シグナルが生じれば、細胞性免疫が昂進すると考えられる。
本発明の経口用免疫調節剤は、上記の作用機序モデルで説明したような免疫応答・調節機能に影響を与えることができる。すなわち、IgGと、該IgGと抗原−抗体複合体を形成できる抗体標的物質とを共存させて、腸管免疫を担当する樹状細胞に接触させることで、樹状細胞の細胞表面上のFcγレセプター、特にFcγレセプターIIbを介して、細胞性免疫を促進し、一方、過剰な液性免疫を抑えて、ヒトに本来的に備わる免疫応答機能を調節することができる。
この場合、IgGと、該IgGと抗原−抗体複合体を形成できる抗体標的物質とを、腸管免疫を担当する樹状細胞に対して、物理的、化学的、又は化学量論的に有効に共存させるようにするために、本発明においては、上述したように、(1)搾乳動物を免疫原性物質で過免疫した後、搾乳して得た乳、又はその乳から調製した組成物であって、前記免疫原性物質を特異的に認識するIgGを含有するもの、及び(2)該IgGに特異的に認識される抗体標的物質を経口的に摂取する。
そして、本発明によれば、例えば、花粉症、ダニアレルギー、食物アレルギー等のアレルギー症や、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、全身性エリテマトーデスのような自己免疫疾患の症状改善及び/又は予防効果期待できる。
本発明の経口用免疫調節剤の成人1日当りの有効摂取量は、摂取者の健康状態、症状、体重、性別、年齢等によって適宜選択すればよいが、通常、免疫原性物質を特異的に認識するIgG換算で0.1mg〜10mgである。
また、その有効摂取量において、抗体標的物質の有効摂取量は、その抗原―抗体複合体の特性に応じて有効な抗原―抗体複合体が形成されるように適宜選択すればよいが、通常、成人1日当り0.1μg〜10gとすることが好ましい。
本発明の経口用免疫調節剤の製剤形態は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、液剤、ゼリー、チュアブル、ペースト等が挙げられ、有効性を損わない範囲で、食品、及び医薬的に許容される担体、賦形剤、糖類、甘味料、香料、酸味料、着色料、その他補助的添加剤を配合することができる。
一方、本発明の飲食品は、上記の経口用免疫調節剤を配合してなるものであるが、そのような飲食品として、練乳、アイスクリーム、ヨーグルト、酸乳等の乳製品が挙げられる。
上記の飲食品への経口用免疫調節剤の配合量は、飲食品の種類及び上述した有効摂取量に基いて適宜設定すればよく、また、食品衛生上許容される賦形剤、安定剤、防腐剤、保存剤、光沢剤、増粘剤、着色剤、ミネラル類、ビタミン類、糖類、香料、油脂、アミノ酸等の添加剤を適宜配合することができる。
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
以下の試験例に用いるためにIgG含有組成物を調製した。すなわち、ホルスタイン種乳牛の初乳に硫酸アンモニウムを33質量%飽和濃度になるように加え、得られた沈殿を蒸留水に対して一晩透析して乳たんぱく質濃縮物を調製した。この乳たんぱく質濃縮物を、常法にしたがってイオン交換カラムクロマトグラフィー(商品名「DEAE Sephadex A−50」、Pharmacia社製)、プロテインGカラムクロマトグラフィー(商品名「UltraLink Protein G plus」、Pierce社製)、プロテインAカラムクロマトグラフィー(商品名「Shodex Afpak APA−894」、昭和電工株式会社製)に供し、IgGを分離して、総IgG濃度3.0mg/ml(IgG1:IgG2=96:4)のIgG含有組成物を調製した。
また、IgGのFcフラグメントを調製するために、上記のようにして得られたIgGのパパイン消化を行った。パパイン消化は、システイン、EDTA及び塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(pH7.3)中で、基質:酵素=50:1にして、55℃で2時間反応を行った。各パパイン消化物をプロテインGカラムクロマトグラフィー(商品名「UltraLink Protein G plus」、Pierce社製)に供し、Fcフラグメントを分離精製した。
一方、抗体標的物質として大腸菌の死菌体を調製した。すなわち、大腸菌を、菌体成分が遊離しない低温度保持殺菌処理(75℃で15分)し、PBS緩衝液で洗浄した後、PBS緩衝液に1×1011個/mlの細胞濃度で懸濁し、これを大腸菌含有組成物とした。
得られたIgG、Fcフラグメント及び大腸菌含有組成物を用いて以下の試験を行った。
<試験例1> (IgGとパイエル板樹状細胞との結合様式)
常法に従い、6週齢のC3H/HeN系雄マウスから無菌的にパイエル板細胞を採取した。すなわち、小腸からパイエル板を切り分け、0.1mMのEDTAを含む37℃のHanks’Balanced Salt Solution(HBSS)中で攪拌することで、パイエル板上皮細胞を上澄みに遊離させ、遠心操作によりパイエル板細胞を沈殿として回収した。そして、抗生物質を含むRPMI―1640培地中で細かくほぐした後、ステンメッシュで残渣を除去した。
得られたパイエル板細胞の懸濁液を、1×10個/mlの細胞濃度で細胞培養フラスコに播種し、100μg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI―1640培地で37℃、5%炭酸ガス下において培養した。
72時間培養後のパイエル板細胞を回収し、5%FBS含むHanks’Balanced Salt Solution(FBS−HBSS)で細胞を洗浄した。遠心操作により洗浄液を除去した後、FBS−HBSSで細胞濃度1×10個/mlとなるように懸濁し、そのうちの100μlを1.5―mlエッペンドルフチューブにとり、非特異的結合を抑制するための抗マウスFc block(商品名「m−Igs−rich fraction for FcRs Blocking」、Biolegend社製)1μlを添加し、混合して、その後4℃で15分間ブロッキングした。
ブロッキング後、FBS−HBSSで細胞を洗浄し、遠心操作により洗浄液を除去した後、900μlのFBS−HBSSに細胞を懸濁し、この細胞懸濁液の100μlを1.5―mlエッペンドルフチューブに分注した。
この分注したものに、上記のIgG含有組成物(IgG濃度3.0mg/ml)、上記の大腸菌含有組成物(1×1011個/ml)、抗−マウスFcγRI抗体(商品名「Goat anti−mouse CD64(E−20)」、Santa Cruz Biotechnology社製)、抗−マウスFcγRII/III抗体(商品名「Purified anti−mouse CD16/CD32」、Biolegend社製)を、下記表2に示すとおりの配合となるようにしてそれぞれのチューブに添加し混合して、試験液1〜試験液6を調製した。なお、試験液2、3又は試験液5、6において、抗−マウスFcγR抗体を添加する場合には、先に抗−マウスFcγR抗体を添加し混合して4℃で15分間反応させてから、その後にIgG含有組成物及び大腸菌含有組成物を添加し混合した。また、何も添加しないものを対照として用いた。
その後4℃で15分間反応させてから、FBS−HBSSで細胞を洗浄し、遠心操作により洗浄液を除去した後、抗―ウシIgG抗体(商品名「Rabbit−Anti−Bovine IgG1」、Bethyl Laboratories社製)に、架橋剤2−iminothiolane塩酸塩(Far East Bio−Tec社製)と架橋剤N−Succinimidyl−3−(2−pyridyldithio)−propionate(SPDP)(Far East Bio−Tec社製)とを用いて、常法に従い、蛍光物質B−phycoerythrin(Far East Bio−Tec社製)を架橋結合して調製した、抗―ウシIgG抗体のフィコエリスリン標識体1μl、及び樹状細胞マーカーである抗―マウスCD11cのビオチン標識体(商品名「Biotin−anti−mouse−CD11c」、Biolegend社製)1μlを添加し4℃で15分間反応させた。洗浄後の各試験液をフローサイトメトリー分析装置、Guava Personal Cell Function Analyzer(Guava Technologies、Hayward、CA、USA)にかけて、CD11cを発現しているパイエル板樹状細胞当たりのフィコエリスリン蛍光を指標にしたフローサイトメトリー分析を行った。なお、パイエル板樹状細胞の細胞サイズは大腸菌の10〜20倍であり、このフローサイトメトリー分析においては、大腸菌サイズの細胞からのシグナルはノイズとして排除されている。
図3には、大腸菌含有組成物を存在させずにIgG含有組成物をパイエル板細胞に接触させた場合(試験液1〜3)の結果を示す。この場合、試験液1において、フィコエリスリン標識抗ウシIgG抗体による最も強いシグナルが得られ、IgGがパイエル板樹状細胞に結合していることがわかる。また、抗―マウスFcγRII/III抗体で細胞を前処理した試験液3においても、その細胞数―蛍光強度分布の示す蛍光発色シグナルの強度は維持されていた。
一方、抗―マウスFcγRI抗体で細胞を前処理した試験液2においては、その細胞数―蛍光強度分布の示す蛍光発色シグナルの強度の減少が認められた。したがって、大腸菌含有組成物が存在しない場合、IgGとパイエル板樹状細胞との結合様式はFcγRIを介するものであることが明らかとなった。
図4には、IgG含有組成物を大腸菌含有組成物とともにパイエル板細胞に接触させた場合(試験液4〜6)の結果を示す。この場合、試験液4において、フィコエリスリン標識抗ウシIgG抗体による最も強いシグナルが得られ、IgGがパイエル板樹状細胞に結合していることがわかる。また、抗―マウスFcγRI抗体で細胞を前処理した試験液5においても、その細胞数―蛍光強度分布の示す蛍光発色シグナルの強度は維持されていた。
一方、抗―マウスFcγRII/III抗体で細胞を前処理した試験液6においては、その細胞数―蛍光強度分布の示す蛍光発色シグナルの強度の減少が認められた。したがって、大腸菌含有組成物の存在下、大腸菌を特異的に認識するIgGは、パイエル板樹状細胞に結合することができ、その結合様式はFcγRIを介するものでなく、FcγRII又はFcγRIIIを介するものであることが示唆された。
以上の結果から、大腸菌を特異的に認識するIgGは、大腸菌の存在の有無によって、そのパイエル板樹状細胞への結合様式が異なることが明らかとなった。すなわち、IgGに特異的に認識される抗体標的物質が存在しない場合には、そのIgGはFcγRIを介する結合様式により結合し、IgGに特異的に認識される抗体標的物質(大腸菌)が存在する場合には、そのIgGはFcγRIを介さない結合様式により結合することが明らかとなった。
<試験例2> (IgGによるパイエル板樹状細胞からの免疫応答シグナル)
IgGとパイエル板樹状細胞との結合様式の違いによって、パイエル板樹状細胞から生じる免疫応答シグナルがどのように異なるかを調べる目的で、以下の試験を行った。
すなわち、まず、下記の表3に示す試験液7〜9として、上記のIgG含有組成物(IgG濃度3.0mg/ml)、上記の大腸菌含有組成物(1×1011個/ml)を、下記の表3に示すの配合割合でそれぞれ混和して、遠心操作により大腸菌を回収したもの(大腸菌を認識するIgGを含む)を調製した。また、下記の表3に示す試験例10〜12として、上記の試験液7〜9を調製する際の遠心操作により得られるそれぞれの上澄みを、更に0.25μmのメンブレンフィルターで大腸菌を除去したもの(大腸菌を認識しないIgGを含む)に、新たにIgGの前処理に用いた大腸菌含有組成物と同じ濃度で大腸菌を添加したものを調製した。
試験例1と同様にして調製したパイエル板細胞の懸濁液の100μlをエッペンドルフチューブに分注し、上記の試験液を添加し、混合した。なお、下記表3のIgG濃度は、初発添加量換算濃度で表した。また、何も添加しないものを対照として用いた。
その後4℃で15分間反応させてから、FBS−HBSSで細胞を洗浄し、遠心操作により洗浄液を除去した後、抗―マウスCD80抗体のフィコエリスリン標識体(商品名「Anti−mouse CD80−PE」、Biolegend社製)1μl、及び樹状細胞マーカーである抗―マウスCD11c抗体のビオチン標識体(商品名「Biotin−Anti−mouse−CD11c」、Biolegend社製)1μlを添加し、4℃で15分間反応させた。洗浄後の各試験液をフローサイトメトリー分析装置、Guava Personal Cell Function Analyzer(Guava Technologies、Hayward、CA、USA)にかけて、CD11cを発現しているパイエル板樹状細胞当たりのフィコエリスリン蛍光を指標としたフローサイトメトリー分析を行った。図5には、細胞表面にCD80抗原を提示している細胞の割合を示す。
図5に明らかなように、大腸菌を認識するIgGと大腸菌組成物とを添加した試験液7〜9においては、パイエル板樹状細胞総数に対するCD80抗原提示細胞の割合は60%程度であり、対照と同程度であった。一方、大腸菌を認識しないIgGと大腸菌組成物とを添加した試験液10〜12においては、CD80抗原提示細胞の割合は、70〜80%程度であり、対照に比べて有意に増加していた。
記のフィコエリスリン標識抗マウスCD80の代わりに抗−マウスCD83抗体のフィコエリスリン標識体1μlを添加して、細胞表面にCD83抗原を提示している細胞の割合についてフローサイトメトリー分析を行った。なお、抗−マウスCD83抗体のフィコエリスリン標識体は、抗−マウスCD83抗体、例えば、市販の「アフィニティー精製抗マウスCD83抗体」(和光純薬株式会社製)に、架橋剤 2―iminothiolane 塩酸塩 (Far East Bio―Tec社製) と架橋剤N―Succinimidyl―3―(2―pyridyldithio)―propionate (SPDP)(Far East Bio―Tec社製)とを用いて、常法に従い、蛍光物質B―phycoerythrin (Far East Bio―Tec社製)を架橋結合して調製した。
腸菌を認識しないIgGと大腸菌組成物とを添加した試験液10〜12においては、パイエル板樹状細胞総数に対するCD83抗原提示細胞の割合は80%程度であり、対照と同程度であった。一方、大腸菌を認識するIgGと大腸菌組成物とを添加した試験液7〜9においては、CD83抗原提示細胞の割合は、大腸菌を認識するIgG及び大腸菌組成物の添加量を増加させるにつれて、80%(試験液7)から、70%(試験液8)、40%(試験液9)と対照に比べて有意に減少した。
なお、試験液7〜9におけるCD83抗原提示細胞の割合の減少は、大腸菌の添加量の増加に伴って認められるが、試験液10〜12においては大腸菌の添加量の増加に伴ってCD83抗原提示細胞の減少は認められないことから、IgGが大腸菌を特異的に認識できるか否が、CD83抗原提示の減少の主な要因となっていることが明らかである。
以上の結果から、大腸菌を認識しないIgGは、パイエル板樹状細胞に接触することで、パイエル板樹状細胞のCD80の抗原提示能を増加させる免疫応答シグナルを生じさせて、CD83の抗原提示能には影響を与えないことが明らかとなった。一方、大腸菌を特異的に認識するIgGは、その抗体標的物質である大腸菌とともにパイエル板樹状細胞に接触することで、パイエル板樹状細胞のCD83の抗原提示能を低下させる免疫応答シグナルを生じさせて、CD80の抗原提示能には影響を与えないことが明らかとなった。
したがって、上記の試験例1の結果を考え合わせると、IgGのパイエル板樹状細胞への結合様式を制御することで、パイエル板樹状細胞に相反する免疫応答シグナルを生じさせることが可能であることが示唆された。すなわち、遊離のIgGによるFcγRIを介するパイエル板樹状細胞への結合によって、CD80の抗原提示能を増加させ、CD83の抗原提示能には影響を与えない免疫応答シグナルをパイエル板樹状細胞に生じさせることができる。一方、大腸菌を特異的に認識するIgGは、その抗体標的物質である大腸菌とともにパイエル板樹状細胞に接触すると、FcγRIIb又はFcγRIIIを介するパイエル板樹状細胞への結合によって、CD83の抗原提示能を低下させ、CD80の抗原提示能には影響を与えない免疫応答シグナルをパイエル板樹状細胞に生じさせることができる。
以上のとおり明らかとなった免疫応答シグナル制御方法を利用すれば、パイエル板樹状細胞に対して、IgGと、該IgGと抗原−抗体複合体を形成できる抗体標的物質とを共存させて、細胞性免疫を促進する免疫応答シグナルを生じさせて、一方、過剰な液性免疫を抑えることができるので、アレルギー症やリウマチ症等の免疫の調節異常に起因する病態を予防し、その症状を改善する効果が期待できる。
<試験例3> (DNAマイクロアレイによる免疫関連遺伝子の解析)
マウス用無蛋白飼料(Purina Mills社製、商品名「Purified Diet」)にオボアルブミンを添加したものをベースにして下記表4に示す試験飼料を調製し、4週齢のC3H/HeN系雄マウスに自由摂取させた。なお、下記表4中の試験飼料1に配合されたIgG及び大腸菌は、上記の試験例2で調製した試験液7〜9で用いられたのと同様に、混和―遠心操作により調製された大腸菌と大腸菌を認識するIgGとの複合体(IgG−大腸菌複合体)である。
そして、その摂取開始から5週目にマウスを麻酔下に解剖し、小腸からパイエル板を切り分け、0.1mMのEDTAを含む37℃のHanks’Balanced Salt Solution(HBSS)中で攪拌することで、パイエル板上皮細胞を上澄みに遊離させ、遠心操作によりパイエル板細胞を沈殿として回収した。
採取したパイエル板細胞から常法に従いmRNAを抽出し、DNAマイクロアレイ法によってそれぞれの試験群又は対照群のパイエル板細胞における遺伝子発現量の相対値を測定した。なお、測定では誤差を最小化するため、各試験群及び対照群につき4匹のマウスを用いてその遺伝子発現量の相対値を測定し、それらの平均を求めた。図は、全33696遺伝子について、試験飼料1を摂取させた試験群と対照群との比較における発現量の相関を示すグラフである。また、図は、全33696遺伝子について、試験飼料2を摂取させた試験群と対照群との比較における発現量の相関を示すグラフである。
その結果、IgG−大腸菌複合体を含有する試験飼料1を摂取させた試験群において、対照群と比較して2倍以上発現が増強した免疫関連遺伝子として、全33696データ中16の遺伝子を見出すことができた。また、対照群と比較して1/2以下に発現が減少した免疫関連遺伝子として、全33696データ中28の遺伝子を見出すことができた。下記表5にはその代表的なものを挙げる。
以上から、牛乳IgG−大腸菌複合体を経口的に摂取すると、上記図1に示す作用機序モデルに則して、細胞性免疫に関連する遺伝子の発現が促進され、液性免疫に関連する遺伝子の発現が抑制されることが明らかとなった。
一方、IgGFcフラグメントを含有する試験飼料2を摂取させた試験群において、対照群と比較して2倍以上発現が増強した免疫関連遺伝子として、全33696データ中20の遺伝子を見出すことができた。また、対照群と比較して1/2以下に発現が減少した免疫関連遺伝子として、全33696データ中14の遺伝子を見出すことができた。下記表6にはその代表的なものを挙げる。
以上から、IgGFcフラグメントを経口的に摂取すると、上記図2に示す作用機序モデルに則して、液性免疫に関連する遺伝子の発現が促進され、細胞性免疫に関連する遺伝子の発現が抑制されることが明らかとなった。
本発明の経口用免疫調節剤の作用機序モデルの一例である。 IgGを含有する経口用免疫調節剤の作用機序モデルの一例である。 パイエル板樹状細胞へのIgGの結合において、Fcγレセプターに対する抗体の影響を示す図表である。 パイエル板樹状細胞へのIgG−抗原複合物の結合において、Fcγレセプターに対する抗体の影響を示す図表である。 パイエル板樹状細胞総数に対するCD80+ 抗原提示細胞の割合を示す図表である マウスに牛乳IgG−大腸菌複合体を摂取させた試験群と対照群との比較における全33696遺伝子の発現量の相関を示すグラフである。 マウスに牛乳IgGFcフラグメントを摂取させた試験群と対照群との比較における全33696遺伝子の発現量の相関を示すグラフである。
符号の説明
10 パイエル板
20 M細胞
30 パイエル板樹状細胞
40 免疫グロブリンG(IgG)
41 抗体標的物質
45 抗原−抗体複合体
50 FcγレセプターIIb
60 FcγレセプターI

Claims (11)

  1. 搾乳動物を大腸菌を含む免疫原性物質で過免疫した後、搾乳して得た乳、又はその乳から調製した組成物であって、前記免疫原性物質を特異的に認識するIgGを含有するものに、大腸菌死菌体を添加したことを特徴とする経口用免疫調節剤。
  2. 前記搾乳動物が、ウシ、ヤギ、ヒツジ、及びウマから選ばれた1種である請求項1記載の経口用免疫調節剤。
  3. 前記乳から調製した組成物が、脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、及び乳たんぱく質濃縮物から選ばれた1種である請求項1又は2記載の経口用免疫調節剤。
  4. 前記大腸菌を含む免疫原性物質は、スタフィロコッカス シムランス、スタフィロッコカス エビデルミディス、ストレプトコッカス ビオゲネス、アエロバクター アイロゲネス、エシィリキア コリ、サルモネラ エンテリティディス、シュードモナス エルギノーザ、クレブジェラ ニューモニエ、サルモネラ チフィムリウム、ヘモフィルス インフルエンゼ、ストレプトコッカス ミチス、プロテウス ブルガリカス、シゲラ ディセンテリエ、プロピオバクテリウム アクネス、ストレプトコッカス サングイス、ストレプトコッカス サリバリウス、ストレプトコッカス ミュータンス、ストレプトコッカス アガラクチエ、及びストレプトコッカス ニューモニエを含む免疫原性物質である請求項1〜3のいずれか1つに記載の経口用免疫調節剤。
  5. 前記請求項1〜のいずれか1つに記載の経口用免疫調節剤を配合してなる飲食品。
  6. 前記飲食品の容器又は包装に、該飲食品が免疫調節のために用いられる旨の表示が付されている請求項記載の飲食品。
  7. 練乳、アイスクリーム、ヨーグルト、酸乳等の乳製品から選ばれた1種である請求項5又は6記載の飲食品。
  8. 搾乳動物を大腸菌を含む免疫原性物質で過免疫した後、搾乳して、前記免疫原性物質を特異的に認識するIgGを含有する乳又はその乳から調製した組成物を得、この乳又は組成物に、大腸菌死菌体を添加することを特徴とする経口用免疫調節剤の製造方法。
  9. 前記搾乳動物が、ウシ、ヤギ、ヒツジ、及びウマから選ばれた1種である請求項記載の経口用免疫調節剤の製造方法。
  10. 前記乳から調製した組成物が、脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、及び乳たんぱく質濃縮物から選ばれた1種である請求項又は記載の経口用免疫調節剤の製造方法。
  11. 前記大腸菌を含む免疫原性物質は、スタフィロコッカス シムランス、スタフィロッコカス エビデルミディス、ストレプトコッカス ビオゲネス、アエロバクター アイロゲネス、エシィリキア コリ、サルモネラ エンテリティディス、シュードモナス エルギノーザ、クレブジェラ ニューモニエ、サルモネラ チフィムリウム、ヘモフィルス インフルエンゼ、ストレプトコッカス ミチス、プロテウス ブルガリカス、シゲラ ディセンテリエ、プロピオバクテリウム アクネス、ストレプトコッカス サングイス、ストレプトコッカス サリバリウス、ストレプトコッカス ミュータンス、ストレプトコッカス アガラクチエ、及びストレプトコッカス ニューモニエを含む免疫原性物質である請求項10のいずれか1つに記載の経口用免疫調節剤の製造方法。
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