JP5339347B2 - 医療用生体吸収性部材とその製造方法。 - Google Patents
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さらに、チタン合金やステンレス鋼の融点はマグネシウム材よりも非常に高いことから、アパタイト結晶のコーティング方法に、プラズマ溶射やスパッタリングのように基材が高温になる方法を用いることができる。
さらに、マグネシウムはアパタイトの結晶化を阻害する元素であるために、マグネシウム材表面に水溶液中で直接アパタイトを析出させるのは困難と考えられてきた。このために、マグネシウム材表面にアパタイト結晶を主成分とする皮膜を直接に析出させた材料、およびアパタイト結晶を主成分とする皮膜を作製する水溶液および作製方法は報告されていない。
このため、生体吸収性部材表面にアパタイト結晶を比較的低温で直接析出させる溶液系の表面処理技術が求められている。
また、このような高濃度の溶液を生成するのに、カルシウムイオンのキレート化合物を用いることにより中性付近からアルカリ性の水溶液中でのカルシウムイオンの溶解性を増加させて、実現した。
このようにすることで、基材の溶出を抑えながら、その表面にアパタイト結晶を析出させることができたもので、部材としての形状変形を伴わずに医療用生体吸収性部材の表面にアパタイト結晶を主成分とする皮膜を生成することができた。
本発明の生体吸収性部材は、最表面にアパタイト結晶が存在するため、生体組織との適合性が高い。また、生体内に埋入後も表面でのアパタイト形成を促進することができる。これにより、骨折固定材などの骨に沿わせて使用するデバイスの場合、骨折の治癒を促進する可能性がある。また、生体内でのアパタイト析出により耐食性がさらに向上するため、比較的長期間にわたって強度を保持する必要のあるデバイスに適した表面処理方法となる。
また、処理条件によって基材との境界層に結晶性水酸化マグネシウム層を介在させた場合は、通常大気中で形成されるアモルファス状態の水酸化マグネシウムよりも溶解度が非常に低いため、マグネシウム材の腐食抑制を増進する。
XRD測定やSEM観察レベルで水酸化マグネシウム層がみられない試料の処理条件は、処理時間が2時間以下で短い場合(試料K)や、カルシウムイオンおよびリン酸イオン濃度が高くてかつ処理溶液のpHが比較的低い場合(試料M)、基材がマグネシウム合金であった場合(試料P〜S)、カルシウムイオンおよびリン酸イオン濃度が非常に低い場合(試料T)であった。
しかし、これらの知見は、あくまでもXRD測定やSEM観察レベルで水酸化マグネシウム層の確認にすぎず、水溶液中で表面近傍のpHが上昇すると、不可避に水酸化マグネシウムが形成されることから考えれば、ナノレベルでみれば、全ての条件で水酸化マグネシウムが存在していることを否定するものではない。
ただし、生体為害性元素であっても、その溶出によっても実質的に生体に害を及ぼさない程度のわずかな量が含まれることを否定するものではない。
マグネシウム基材の減肉や表面の荒れを抑制しながら処理を行うためには、処理溶液に塩化物イオンなどのマグネシウムの腐食の原因となるイオンを含まないことが望ましい。チタンなどの生体用金属材料表面への水溶液からのアパタイト析出処理には、通常Simulated Body Fluid (SBF)やHanks液などが用いられるが、これらは塩化カルシウムを含むため、マグネシウム基材の処理溶液としては望ましくない。
本発明では、アパタイトの結晶化を阻害するマグネシウム元素が存在する環境で処理を行うため、処理溶液中のカルシウムイオンおよびリン酸イオン濃度は、チタン合金などの表面処理に用いられるSBFやHanks液などの疑似体液中よりも高いことが望ましい。
通常、疑似体液は、溶解度が比較的高い塩化カルシウムを用いることで過飽和の濃度のカルシウムイオンを溶解させている。これに対し、本発明ではカルシウムキレート化合物を用いることで、水溶液中でのカルシウムのイオン状態を安定化させ、疑似体液以上〜疑似体液の250倍の濃度のカルシウムイオンを含んだ水溶液を得ることに成功している。高濃度のカルシウムイオンの存在が、アパタイト結晶化を阻害するマグネシウム元素を放出するマグネシウム材表面へのアパタイト結晶の析出を可能にしていると考えられる。
また、中性付近から酸性の処理溶液であれば、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、リン酸2水素カルシウム、チオ硫酸カルシウムなどの無機塩を用いることもできる。
このときは、無機塩とともにキレート剤を加えることで、カルシウムイオン濃度を増加させることもできる。ただし、キレート剤濃度が高いと、基材マグネシウム表面が荒れる傾向がある。例えば、純マグネシウムにおいてEDTA濃度が2.5×102mMより高いと、マグネシウム基材表面の荒れが大きく、アパタイト結晶を主成分とする皮膜は表面を均質に覆うことができなかった。一方、キレート剤の存在により、皮膜形成と併行して基材表面の脱脂やスマットの除去を進めるため、形成される皮膜中の不純物が軽減されることが期待できる。
このようなことより、キレート剤は、最大でも2.5×102mM以下、好ましくは1.5×102mM以下、より好ましくは5×101mM以下とするのが望ましい。
またその下限は、疑似体液中よりも高い濃度のカルシウムイオンを溶解するために、1mMよりも高いことが望ましい。
また、溶液中のカルシウムイオン濃度は、1mM〜2.5×102mM、好ましくは5×100mM〜1.5×102mM、さらに好ましくは5×100mM〜5×101mMとするのが望ましい。
この範囲を超えると、カルシウムキレート化合物により基材表面が荒れるという問題が生じ、範囲未満であるとマグネシウム材表面でのpH上昇によるアパタイト析出が起こらない問題が生じる。
カルシウム塩およびリン酸塩濃度がHanks液などの疑似体液中よりも低く、5×10−1mM未満であると、アパタイト結晶の析出量が非常に小さい傾向がみられた。この場合は、浸漬時間を長くする必要がある。
このようなことより、無機リン酸塩濃度は、最小でも5×10−1mM以上、好ましくは2.5×100mM以上、より好ましくは2.5×101mM以上とするのが望ましい。
またその上限は、アパタイト結晶中のCa/P比は1.67であることから、カルシウムイオンに対してリン酸イオンが過剰な環境ではアパタイト結晶は生成しにくいと考えられるため、カルシウムイオン濃度を超えないことが望ましい。
処理溶液中のCa/P比をアパタイトのCa/P比である1.67に近づけるとアパタイトが形成されやすくなる。Ca/P比は、0.8〜2.0、好ましくは、1.0〜1.8とするのが望ましい。
調整するpHの範囲はpH4以上、好ましくはpH5以上、より好ましくはpH6以上とするのが望ましい。
これは、処理溶液に浸漬したマグネシウム基材の溶解が起こり、溶解反応によるpH上昇により、マグネシウム基材表面近傍のpHが、アパタイト結晶相が安定なpH7以上になりうるpHだからである。pH11以上の水酸化マグネシウムが不溶になるpH範囲においてもアパタイト結晶相が安定なため、マグネシウム基材表面にアパタイトを析出させることができる。
また、pHが大きすぎると、マグネシウム基材の微量な溶解に伴うpHの上昇が起こらず、アパタイト結晶が析出する駆動力がなくなる問題が生じるので、pH13以下、好ましくはpH12以下、より好ましくはpH11以下とするのが望ましい。
pHを高くするとアパタイト結晶相の安定性が増加する。所望する皮膜の耐食時間を考慮した場合は、これも調整要素の一つである。
一般的には、処理温度を高くするとアパタイト結晶が形成されやすくなるので、溶液の処理温度は、得るべき皮膜の厚さや部材の大きさ(溶液の使用量に対する)などに対応して、40〜100℃、好ましくは、60〜100℃の範囲で調整するのが望ましい。
処理時間を長くするとアパタイトの結晶化度および析出量が増加するので、得るべき皮膜の厚さや部材の大きさ(溶液の使用量に対する)などに対応して、0.5〜168時間、好ましくは、1〜24時間の範囲で調整するのが望ましい。
以上要するに、溶液のpH、処理温度、処理時間及びCa/P比は、皮膜生成の調整要素であり、これらを適宜調整することで、所望する皮膜の耐食時間を持った医療用生体吸収性部材を製造することができるものである。
本発明のアパタイト結晶を主成分とする皮膜の厚さは、1×10−2μm〜5×101μmが好ましい。より好適には1×10−1μm以上であり、さらに好適には5×10−1 μm以上である。また、より好適には2.5×101μm以下であり、さらに好適には1×101μm以下である。皮膜の厚さが薄すぎると表面を均一に覆うことができずに耐食性が悪くなるおそれがあり、厚すぎると基材表面から剥離しやすくなる。
基材表面の脱脂、スマット除去や活性化処理などの前処理は行う方が望ましいが、必ずしも行わなくてもアパタイト結晶を主成分とする皮膜を形成することができる。前処理方法は、基材のマグネシウム合金の組成や合金組織、デバイスの用途や所望の腐食速度などに合わせて選択する。
これらのデバイスでは、決められた所定形状にマグネシウム基材を成型加工した後に、以下の実施例に示す皮膜生成処理を施すことで、本発明を実施することができる。
図1に処理した試料A〜DのXRDパターンを示す。いずれの試料においても、ヒドロキシアパタイト(HAp)およびMg(OH)2 (Brucite型)のピークが観察された。処理溶液のpHの上昇にともないHApピーク強度は増加し、Mg(OH)2 (Brucite)ピーク強度は減少した。
試料BおよびCの表面および断面の電子顕微鏡写真を図2〜5に示す。いずれの試料も表面をアパタイト結晶が均一に覆っていることが確認された。アパタイトは径1μmから10μm程度の板状もしくは針状結晶であった。断面観察、EDS分析およびXRD測定より、処理皮膜はCa、PとO濃度が高いアパタイト結晶を主成分とする層と、OとMg濃度が高いMg(OH)2が主成分の境界層で構成されていた。形成された皮膜の厚さを表1に示す。処理溶液のpHの上昇にともない、厚さが増加する傾向がみられた。
これらの結果より、処理溶液のpH制御により、アパタイト結晶のサイズや皮膜の厚さを制御できることが示された。
処理時間の増加に伴いHApピークは先鋭になり、強度が大きく増加した。Mg(OH)2ピーク強度も処理時間の増加にともない増加した。一方、基材のマグネシウムピーク強度は、処理時間の増加にともない大きく減少した。pH6.1〜6.5溶液で処理した試料E〜Gにおいてもほぼ同様の結果が得られた。形成された皮膜の厚さを表2に示す。処理時間が2時間と短い場合でも、アパタイト結晶は表面を均一に覆っており、処理時間が長くなるのにともない、アパタイト結晶層の厚さが増加する傾向がみられた。また、処理時間が96時間以上と長い場合では、アパタイト結晶の析出量は増加したが、基材表面から皮膜の一部又は全部が剥離する場合が多かった。
これらの結果は、処理時間が短くてもアパタイト結晶層を作製できること、および処理時間を変化することによりアパタイトの結晶の析出量を変化させて膜厚を調整できることを示している。しかし、処理時間が長すぎて皮膜厚さが50μmを超えると皮膜の剥離の原因になることがわかった。
図8に処理した試料M〜OのXRDパターンを示す。いずれの試料においても、HApのピークが観察された。処理溶液のpHの上昇にともない、HApピーク強度が増加した。Mg(OH)2 (Brucite)のピークは試料NおよびOでは観察されたが、処理溶液のpHが比較的低い試料Mでは明瞭に観察されなかった。また、試料NおよびOのMg(OH)2のピークは試料A〜Dに比較して非常に小さかった。これより、カルシウムイオンおよびリン酸イオン濃度が高い溶液中では、水酸化マグネシウム層は形成されにくいことが示された。形成された皮膜の厚さを表3に示す。
実施例1で50mMのCa−EDTA/50mMのKH2PO4溶液で処理した表面と比較すると、HApピーク強度は250mMの溶液中における方が高い傾向がみられた。一方、Mg(OH)2ピーク強度は、250mMの溶液中における方が小さい傾向がみられた。
これらの結果は、処理溶液中のリン酸イオンおよびカルシウムイオン濃度の増加により、アパタイト結晶の析出量を増加できること、および境界層のMg(OH)2層の成長を抑制できることを示している。
疑似体液に0時間および6時間浸漬した試料の腐食抵抗をそれぞれ図9および図10に示す。浸漬時間によらず、本発明の表面処理試料は研磨まま試料よりも高い腐食抵抗を示した。これより、アパタイト結晶を主成分とする皮膜により、マグネシウム材の疑似体液中における耐食性が向上されることが明らかである。
浸漬直後の腐食抵抗は、試料B、CおよびDの方が試料NおよびOよりも高かったが、6時間の浸漬後には処理溶液による差は小さくなった。本耐食性試験の6時間浸漬後では、試料Cの耐食性が最も高かった。これらの結果より、表面の処理条件により、皮膜の耐食性を制御できることが示された。
図11〜14に、疑似体液に6時間浸漬後の試料表面の写真を示す。試料BおよびCの処理皮膜および腐食生成物は除去した。研磨まま試料ではほぼ全面に糸状腐食が形成されていた。一方、表面処理した試料の中央付近には目立った腐食孔はみられなかったが、試料の縁のあたりにいくつかの小さな腐食孔がみられた。試料の縁のあたりは、基材である押出材作製時に欠陥が入りやすく、表面処理時には皮膜に不均一な部分が生じやすい箇所である。したがって、試料中央付近に腐食孔がみられないことから、本発明の皮膜の疑似体液中における耐食性は非常に高いことがわかる。
表面処理した試料の疑似不働態域の電流密度は研磨まま試料よりも小さかったことから、作製した皮膜の保護性は研磨まま表面の大気酸化皮膜よりも高いことが明らかである。また、表面処理した試料の皮膜破壊電位は研磨まま試料よりも貴であったことから、作製した皮膜は大気酸化皮膜よりも局所破壊しにくいことが示された。
実施例4および実施例5の結果より、本発明の皮膜はマグネシウム材の生体環境での耐食性を向上させることが明らかである。
これより、基材であるマグネシウム合金の組成にかかわらず、本発明の処理により表面にアパタイト結晶を主成分とする皮膜を形成できることが明らかになった。
Claims (1)
- 生体内での溶解時期を調整する耐食性皮膜にてマグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が覆われてなる医療用生体吸収性部材であって、前記耐食性皮膜がアパタイト結晶を主成分とする生体吸収性の皮膜であり、前記耐食性皮膜と基材とが水酸化マグネシウム層を介して一体化されてなる医療用生体吸収性部材の製造方法であって、
所定の形状に成型したマグネシウム又はマグネシウム合金基材を、リン酸イオンおよび非塩化系カルシウムイオンが過飽和状態で溶解している水溶液中に浸漬して、前記基材の表面にアパタイト結晶を主成分とする生体吸収性皮膜を析出させる方法であって、
前記水溶液のカルシウムイオンがカルシウムキレート化合物の溶解により得られたものであり、その濃度が10mM以上であることを特徴とする医療用生体吸収性部材の製造方法。
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