JP5338294B2 - 水中音響送受波器 - Google Patents

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本発明は、主として水中の音響伝搬媒質で使用され、圧電振動子を備えた電気音響変換器であって、低周波でハイパワーかつ高効率に音波放射する水中音響送受波器に関する。
従来のこの種の水中音響送受波器に関する周知技術としては、図7に示すような付加質量としてのフロントマスやリアマスとを用いて複数の圧電振動子を挟み込んでボルトにより固定して成るボルト締めランジュバン型送受波器(別名:トンピルズトランスジューサ(Tonpilz Transducer))(例えば、非特許文献1参照)が広く普及している。図7(a)、(b)は、従来のボルト締めランジュバン型送受波器の斜視図および縦断面図である。図7において、51は圧電セラミック積層体、52はリアマス、53はフロントマス、54はボルト−ナットである。
圧電セラミック積層体51は、リング状の圧電セラミック体を積層したものである。リアマス52には貫通孔が、フロントマス53には有底の穴が開けられており、両者間に圧電セラミック積層体51を配して、ボルトとナットにより緊締して、圧電セラミック積層体51に圧縮応力を印加している。水中において、圧電セラミック体に電圧が印加されると、圧電セラミック積層体51は、伸縮しこれに伴ってフロントマス53も振動する。それにより、フロントマス53の前面より水中へ音波が放射される。
R.S.Woolett,"Power Limitations of Sonic Transducers",IEEE Transactions on Sonics and Ultrasonics,Vol.su−15,No.4,pp.218−229,Oct. 1986)
近年、音波を水中に放射する送受波器には探知能力向上のための低周波化が大きな課題となっている。音響送受波器の低周波化には音源サイズが密接な関係にあり、低周波化するためにはサイズが大きくなる傾向となるのは周知のことである。非特許文献1記載の従来のボルト締めランジュバン型送受波器においても低周波化によりサイズが大きくなる傾向にあり、したがって音響放射面も大きくなる傾向にある。このような従来のボルト締めランジュバン型送受波器では、圧電セラミック積層体51の伸縮に伴い、図8に示すようにフロントマスおよびリアマスが並進振動を繰り返す振動モードとなる。この並進振動の繰り返しにより、フロントマス前方音響放射面において音波が放射される仕組みとなっている。しかし、図9に示すように従来のボルト締めランジュバン型送受波器では、そのフロントマス前面の音響放射面の振動変位は、完全な並進振動ではなく、音響放射面上において変位分布を持っている。中心付近の変位より4つの角部の変位のほうが大きく振動している。これは駆動力となっている圧電セラミック積層体51の断面積と、フロントマス53の断面積が異なることによるモーメント力の発生や、フロントマス前方音響放射面に対する音響負荷のかかり方が均一でないことによるものである。このような音響放射面の中心付近と四隅との変位の差は、低周波化に伴う音響放射面サイズの拡大により、さらに顕著に現れることになる。このような変位分布は、音響放射効率という観点では不利となり、効率の低下を招くことになる。高効率に音響放射を行なうには、音響放射面全体で音響負荷を受け、全面で、同変位で媒質を押し出し−吸引を繰り返す並進ピストン振動を行なうことが望ましい。
本発明の課題は、上述した従来技術の問題点を解決することであって、その目的は、音響放射面が並進ピストン振動を行なうようにして、低周波でハイパワーかつ高効率に音波放射する水中音響送受波器を提供することである。
上記の目的を達成するため、本発明によれば、圧電振動子と、前記圧電振動子の一方に設けられたリアマスと、前記圧電振動子の他方に設けられたフロントマスと、前記フロントマスの前記圧電振動子とは反対側に設けられた放射板と、前記フロントマスと前記放射板の間に設けられた複数の圧電アクチュエータと、を備え、前記圧電アクチュエータは前記フロントマスの変位の大きい部分と変位の小さい部分とに選択的に設けられていることを特徴とする水中音響送受波器、が提供される。
また、上記の目的を達成するため、本発明によれば、圧電セラミックの積層体の一方の側にリアマスを、他方の側にフロントマスを配したランジュバン型振動子と、前記フロントマスの前記圧電セラミックの積層体とは反対側に設けられた放射板と、前記フロントマスと前記放射板の間に設けられた複数の圧電アクチュエータと、を備え、前記圧電アクチュエータは前記フロントマスの変位の大きい部分と変位の小さい部分とに選択的に設けられていることを特徴とする水中音響送受波器、が提供される。

そして、好ましくは、前記フロントマス前面の表面積と前記放射板の表面積とが等しい。また、好ましくは、前記複数の圧電アクチュエータは、フロントマスの4隅および中央付近に配される。また、好ましくは、前記複数の圧電アクチュエータは、前記複数の圧電アクチュエータを駆動させずにあらかじめ測定した前記放射板前面の変位分布に基づいて、その印加電界が制御される。
[作用]
本発明は、フロントマスとリアマスとの間に圧電振動子を含む、あるいは圧電セラミックの積層体を配したランジュバン型振動子を含む水中音響送受波器において、フロントマス前方部にフロントマスと同面積の放射板を設け、該放射板の一面を音響放射面とし、該放射板とフロントマスの間に複数の圧電アクチュエータを配した構造とした水中音響送受波器であるので、フロントマス前面の屈曲振動を圧電アクチュエータによって相殺することが可能になり、放射板に並進ピストン振動を行なわせることが可能になる。圧電アクチュエータには、圧電アクチュエータを駆動させずに圧電振動子ないしはランジュバン型振動子を駆動させてあらかじめ測定した放射板の変位量に応じた電圧を印加する。この測定時の放射板の変位量は、フロントマス前面の変位量に倣うものであるため、上記のように電圧を印加することにより、フロントマス前面の変位量は、圧電振動子ないし圧電セラミックの積層体の変位量によって相殺される。その結果、放射板は、並進ピストン振動で振動することになり、従来の水中音響送受波器において音響放射面が撓み振動することで音響放射効率が低下するという欠点は解消され、効率の高い音響放射が可能となると共に送波音圧レベルの向上を図ることが可能となる。
本発明によれば、フロントマス前方の放射板を並進ピストン振動で振動させることが可能になり、水中音響送受波器の音響放射面の変位量は面内で均一化される。従って、本発明によれば、音響放射効率を向上させ、さらには送波音圧レベルの向上を図ることができる。
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態の水中音響送受波器を示す斜視図、図2は、図1に示す水中音響送受波器のフロントマス部分を分解して示した斜視図、図3は、図1に示す水中音響送受波器の縦断面図である。圧電振動子11の下部にはリアマス12が、上部にはフロントマス13が配されており、これらはボルト−ナット14により締め付けられ一体化されている。なお、圧電振動子11はリング状の複数の圧電セラミックの積層体で構成されているが、円筒形の圧電振動子であってもよい。フロントマス13の上段部には、圧電アクチュエータ15を介して音響放射板16が設置されている。圧電アクチュエータ15は、フロントマス13の上段部の中央部と四隅に配置され、計5個の圧電アクチュエータ15は、接着剤によりフロントマス13の上段部および音響放射板16の底面に強固に固着されている。各圧電アクチュエータの固定は接着剤による方法に代え、各圧電アクチュエータごとにネジ止め等で行なうこともできる。
このような水中音響送受波器構成において、従来同様に圧電振動子11にのみ、本送受波器の共振周波数の交流電界を印加すると、図8および図9で示すように音響放射面は屈曲変形をし、音響放射面内に変位分布が発生する。この変位分布の変位量を計測し、この変位量に応じて、圧電アクチュエータ15に印加する電界をそれぞれに制御する。具体的には、あらかじめ計測した変位分布の変位量の大きい音響放射面4隅に配された圧電アクチュエータ15への印加電界は小さめに、変位量の小さい中央付近に配された圧電アクチュエータ15への印加電界は大きめに印加する。
図4は、本実施の形態の水中音響送受波器の音響放射部の状態を示す断面図であって、図4(a)は非動作時の、図4(b)は圧電振動子11および圧電アクチュエータ15の伸長時の、図4(c)は圧電振動子11および圧電アクチュエータ15の収縮時の状態が示されている。なお、図4(b)、(c)において、非動作時でのフロントマス13と音響放射板16の位置が点線にて示されている。図4(b)に示す、圧電振動子11と圧電アクチュエータ15とが共に伸長する伸長時においては、フロントマス13前面の四隅は中央部に対し大きく上側に変位する。この変位差を打ち消すべく、中央部の圧電アクチュエータ15は大きく伸長し、四隅の圧電アクチュエータ15は小さく伸長するように各圧電アクチュエータ15に電界が印加される。その結果、音響放射板16の音響放射面は、屈曲変形のない状態で前方に並進する。また、図4(c)に示す、圧電振動子11と圧電アクチュエータ15とが共に収縮する収縮時においては、フロントマス13の四隅は中央部に対し大きく下側に変位する。この変位差を打ち消すべく、中央部の圧電アクチュエータ15は大きく縮小し、四隅の圧電アクチュエータ15は小さく縮小する電界が印加される。その結果、音響放射板16の音響放射面は、屈曲変形のない状態で後退する。図4の(b)と(c)に示される状態が交互に繰り返されることにより、音響放射板16上面の音響放射面は並進ピストン振動を行なうことになる。
このような音響放射面の並進ピストン振動は、音響負荷を受けている面全面が均一に変位をし、媒質(水)の排除、すなわち音波放射を効率よく行なうことができる。また、圧電アクチュエータ15に印加する電圧を圧電振動子11に印加する電圧と同相とし、その電圧をコントロールすることで、従来構造の水中音響送受波器よりも送波音圧レベルを向上させることも可能である。
なお、本実施の形態では、圧電アクチュエータ15は、四角形のものを4隅と中央部の5箇所に配置していたが、形状や配置数については、下記の実施の形態に示されるように変位分布に応じて適宜に選定できる。
図5は、本発明の第2の実施の形態の水中音響送受波器を、音響放射板16を除去して示す平面図である。フロントマス13の四隅には平面形状が扇型の圧電アクチュエータ15が設置され、その内側には平面形状が四つの突起部を有するリング状の圧電アクチュエータ15が設置されている。ここで、フロントマス13上での圧電アクチュエータ15の外形パターンは、振動時におけるフロントマス13表面の変位の等高線に沿うものとなっている。圧電アクチュエータ15の外形パターンをこのように選定することにより、圧電アクチュエータ15が大面積のものとなっても、圧電アクチュエータ15をフロントマス13の屈曲変形に忠実に追随させることが可能になり、音響放射板16の並進性をより高めることができる。
図6は、本発明の第3の実施の形態の水中音響送受波器を、音響放射板16を除去して示す平面図である。第1、第2の実施の形態のフロントマス13の前方側の平面形状が正方形であったのに対し、本実施の形態では、フロントマス13の前方側の平面形状は円形となっている(図示されていないが、音響放射板16も平面形状は円形となっている)。本実施の形態では、2枚のリング状の圧電アクチュエータ15が同心円状に設置されている。
本発明の第1の実施の形態の水中音響送受波器を示す斜視図。 本発明の第1の実施の形態の水中音響送受波器を示すフロントマス部分解斜視図。 本発明の第1の実施の形態の水中音響送受波器の縦断面図。 本発明の第1の実施の形態の水中音響送受波器の圧電アクチュエータ制御駆動時の音響放射板の変形図。 本発明の第2の実施の形態の水中音響送受波器を、音響放射板16を除去して示す平面図。 本発明の第3の実施の形態の水中音響送受波器を、音響放射板16を除去して示す平面図。 従来のボルト締めランジュバン型送受波器の斜視図および縦断面図。 従来のボルト締めランジュバン型送受波器の振動モード変形図。 従来のボルト締めランジュバン型送受波器の音響放射面上面から見た変位分布図。
符号の説明
11 圧電振動子
12、52 リアマス
13、53 フロントマス
14、54 ボルト−ナット
15 圧電アクチュエータ
16 音響放射板
51 圧電セラミック積層体

Claims (7)

  1. 圧電振動子と、
    前記圧電振動子の一方に設けられたリアマスと、
    前記圧電振動子の他方に設けられたフロントマスと、
    前記フロントマスの前記圧電振動子とは反対側に設けられた放射板と、
    前記フロントマスと前記放射板の間に設けられた複数の圧電アクチュエータと、
    を備え
    前記圧電アクチュエータは前記フロントマスの変位の大きい部分と変位の小さい部分とに選択的に設けられていることを特徴とする水中音響送受波器。
  2. 圧電セラミックの積層体の一方の側にリアマスを、他方の側にフロントマスを配したランジュバン型振動子と、
    前記フロントマスの前記圧電セラミックの積層体とは反対側に設けられた放射板と、
    前記フロントマスと前記放射板の間に設けられた複数の圧電アクチュエータと、
    を備え
    前記圧電アクチュエータは前記フロントマスの変位の大きい部分と変位の小さい部分とに選択的に設けられていることを特徴とする水中音響送受波器。
  3. 前記フロントマス前面の表面積と前記放射板の表面積とが等しいことを特徴とする請求項1または2に記載の水中音響送受波器。
  4. 前記複数の圧電アクチュエータは、前記フロントマスの4隅および中央付近に配されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の水中音響送受波器。
  5. 前記複数の圧電アクチュエータの前記フロントマス上での外形パターンは、振動時における前記フロントマスの変位の等高線に添うものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の水中音響送受波器。
  6. 前記複数の圧電アクチュエータを駆動させずにあらかじめ測定した前記放射板前面の変位分布に基づいて、前記複数の圧電アクチュエータの印加電界を制御することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の水中音響送受波器。
  7. 前記複数の圧電アクチュエータに印加される電圧は、前記圧電振動子または前記圧電セラミックの積層体に印加される電圧と同相の電圧であることを特徴とする請求項6に記載の水中音響送受波器。
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