JP5299816B2 - ナット - Google Patents

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本発明は、ナット、例えばトルシア形高力ボルト(摩擦接合ボルト)など安定した締付軸力を必要とするねじ部材に用いるナットに関するものである。
従来、例えばトルシア形高力ボルトは、図10、11に示すように頭部71と、軸部72と、軸部72の先端に破断溝73を介して連設されたピンテール部74とを有し、軸部72外周にねじ山の角度か60°で両斜面が共に平面となるおねじ75が形成され、かつピンテール部74外周にセレーション76が形成された構成となっている。一方、これに使用されるナット8はその中心部に貫通するめねじ81を有し、めねじ81のねじ山の角度は60°で両ねじ山斜面が共に平面となるように形成された構成となっている。
そして、使用に際しては、図10に示すように被締付け体2と被締付け体3の両貫通孔2a,3aに高力ボルト7を貫通状に差し込む一方、該ボルト7のおねじ75側に座金4を介してナット8を螺装し仮止めする。その後、仮想線で示す専用電動レンチ6を用い、そのインナースリーブ61をピンテール74に嵌め込み、レンチ6を押しながらアウタースリーブ62をナット8に嵌め込む。然る後、電動レンチ6のスイッチを入れると、アウタースリーブ62が回り、ナット8を回転させて締め付けが行われる。その後、所定トルクに達するとピンテール部74で締付トルクの反力を受け破断溝73が破断し、ボルト7の締め付けが完了するようになっている。
ところで、上記した高力ボルト7は建築、土木分野等において多量に使用されている。この建築、土木分野等では特に安全性が重視されるため、締付軸力範囲の上限・下限を、締付軸力のばらつきを考慮して設計軸力を上回り、捻じ切れを生じない値に設定されている。その際、締付軸力と比例関係にあるトルク係数を制御することにより締付軸力の確保を行うようにしている。ここでトルク係数はボルト7とナット8のねじ接触部で50%、ナット8と座金4の間で50%が決定される。
しかし、通常ナット及びボルトのねじ山はそれぞれ60°の角度で製作しているが、その角度には製造上のばらつきがはいるため、図11に示すように締結時におけるボルト7のおねじ75とナット8のめねじ81との接触位置が常に一定化されにくくトルク係数にばらつきが発生し易い問題があった。つまり、ボルト7の中心から接触位置までの距離の一定化が得られにくいと共に接触面積も一定化が困難であり、そのためトルク係数にばらつきが発生する。トルク係数がばらつきを有すると締付軸力もばらつくといった問題を有していた。
特に、ナット8のめねじ81は通常タップによる切削によって製造されるため、ボルト7との接触位置によっては切削表面の粗い突起部がボルト7のおねじ75にあたると、焼き付きが発生して余計にトルク係数をばらつかせる要因になっていた。
なお、上記した問題に対して従来では、ナット8やボルト7に潤滑処理を施すことにより、トルク係数を一定の範囲内に制御しようとすることも行われているが、ナット8の潤滑処理だけではトルク係数のばらつきを多少は制御できるものの、依然として締付軸力の変動係数をごく狭い範囲に抑えるまでには至っていないのが現状である。
そこで、本発明は、ナットのねじ部材(ボルト)へのねじ接触部を改良してトルク係数のばらつきを積極的に抑え、締付軸力を効果的に安定させることができるナットの提供を課題とする。
上記問題を解決するため願の請求項1の発明は、めねじにおけるねじ山斜面の少なくともナットへの荷重の伝わる側に、外膨らみに膨出するトルク係数安定部が設けられている一方、トルク係数安定部における有効径部分に膨出頂部となり、かつおねじ側のねじ山斜 面と平行となる所定長さの係合突面が形成されていることを特徴とする。
また、本願の請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成において、めねじにおけるね じ山斜面の両側に係合突面が形成されている一方、各係合突面の長さが1mm以内になっ ていると共に、隣り合う係合突面がV字状に対向し、その開放角度が60°±20´の範 囲に設定されており、かつ、隣り合う係合突面から谷径に至る上側ねじ山斜面がV字状に 対向し、その開放角度が45°〜58°の範囲に設定されていると共に、隣り合う係合突 面から内径側に至る下側ねじ山斜面がV字状に対向し、その開放角度が62°〜75°の 範囲に設定されていることを特徴とする。
本発明によれば、ナットのめねじにおけるねじ山斜面のたとえば両側に、外膨らみに膨出するトルク係数安定部が設けられているから、ナットのボルトへの締め込み時に、トルク係数安定部がボルトにおけるおねじのねじ山斜面と接触することになる。これにより、ナットにおけるめねじのボルトにおけるおねじとの接触位置を積極的に特定することができ、トルク係数を安定させることができる。つまり、積極的にナット中心から接触位置までの距離を一定化させると共に接触面積も一定化させることによってトルク係数をばらつきを狭い範囲に抑えることができる。その結果、トルク係数を安定させることによって安定した締付軸力を確保することができ、安全性も向上する。その上、締付軸力の変動係数が下ることにより、より高い軸力でかつ狭い範囲での締付管理が可能となるため、使用するナットやボルトの削減、省資源につながる。
しかも、トルク係数安定部における有効径部分にその膨出頂部となり、かつおねじ側のねじ山斜面と平行となる所定長さの係合突面を形成しているので、積極的に有効径部分、つまり最適な位置において接触させることができると共に、その接触もめねじ側のねじ山斜面に沿った一定の面積で安定よく接触させることができる。これによりトルク係数ばらつきを一層狭い範囲に抑えることができる。
さらに、ねじ山斜面の両側に形成する係合突面の長さをそれぞれ1mm以内にすると共に、隣り合う係合突面をV字状に対向させ、その開放角度を60°±20′の範囲に設定する一方、隣り合う係合突面から谷径に至る上側ねじ山斜面をV字状に対向させ、その開放角度が45°〜58°の範囲に設定すると共に、隣り合う係合突面から内径側に至る下側ねじ山斜面をV字状に対向させ、その開放角度を62°〜75°の範囲に設定するようにすれば、トルク係数安定部の有効径部分に位置する係合突面のみを確実かつ正確におねじ側のねじ山斜面に一定の面積で安定よく接触させることができ、トルク係数をばらつきをより効果的に狭い範囲に抑えることができるのでこのましい。
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1〜3は、本発明に係るナットを示すもので、該ナット1はトルシア形高力ボルトの締付用ナットとして用いられ、その中心部には貫通するめねじ11が形成されている。
そして、図1及び図2に示すようにめねじ11におけるねじ山斜面の両面に、外膨らみに膨出するトルク係数安定部11a,11aが設けられている。トルク係数安定部11a ,11aにおける有効径部分Dには、膨出頂部となり、かつ後記するボルトのおねじにおけるねじ山斜面と平行な係合突面11b,11bが形成されている。このとき各係合突面11b,11bの長さが1mm以内になっていると共に、隣り合う係合突面11b,11bがV字状に対向し、その開放角度が60°±20´の範囲に設定されており、かつ、隣り合う係合突面11b,11bから谷径Dに至る上側ねじ山斜面がV字状に対向し、その開放角度が45°〜58°の範囲に設定されていると共に、隣り合う係合突面11b,11bから内径D側に至る下側ねじ山斜面がV字状に対向し、その開放角度が62°〜75°の範囲に設定されている。
図4〜6は、ナット1の使用状態を示す説明図で、各図中において符号2,3は被締付け体、4は座金、5はトルシア形高力ボルト、6はインナースリーブ61とアウタースリーブ62を有する専用電動レンチである。高力ボルト5は、図4に示すように大径の頭部51と、軸部52と、軸部52の先端に破断溝53を介して連設される小径のピンテール部54とを有し、軸部52外周におねじ55が、またピンテール部54外周にセレーション56が形成されている。なお、専用電動レンチ6は既存のものであるのでその詳細については省略する。また、トルク係数安定部11aは例えばタップによるめねじの切削時に同時に形成される。
次に、上記したナットの作用について説明する。
まず、図4に示すように、被締付け体2と被締付け体3の取付孔2a,2bに高力ボルト5を差し込む一方、該ボルト5のおねじ55側に座金4を介してナット1を螺装し仮止めする。
次に、図5に示すように、専用電動レンチ6を用い、そのインナースリーブ61をピンテール部54に嵌め込み、電動レンチ6を押しながらアウタースリーブ62をナット1に嵌め込む。その後、電動レンチ6のスイッチを入れると、アウタースリーブ62が回り、ナット1を回転させて締め付けが行われる。所定トルクに達するとピンテール部54で締付トルクの反力を受け破断溝53が図6に示すように破断し、ナット1による締め付けが完了する。破断溝53が破断したら、電動レンチ6のスイッチを離し、レンチ6を手前に引いてアウタースリーブ62をナット1から外して作業を終える。
この際、ナット1のめねじ11におけるねじ山斜面の有効径D部分が膨出頂部となるように、外膨らみに膨出するトルク係数安定部11aが設けられているから、ナット5のボルト1への締め込み時に、図7に示すようにナット1におけるめねじ11のトルク係数安定部11aがボルト5のねじ山斜面と接触することになる。これにより、ナット1におけるめねじ11のボルト5におけるおねじ55との接触位置を積極的に特定することができ、トルク係数を安定させることができる。つまり、積極的にボルト5の中心から接触位置までの距離を一定化させることができると共に接触面積も一定化させることができる。これによってトルク係数のばらつきを狭い範囲に抑えることができる。その結果、トルク係数を安定させることで安定した締付軸力を確保することができ、安全性も向上する。その上、締付軸力の変動係数が下ることにより、より高い軸力でかつ狭い範囲での締付管理が可能となる。このため、使用するボルトの削減、省資源につながる顕著な効果が得られる。
また、特にトルク係数安定部11aにおける有効径D部分にその膨出頂部となり、かつめねじ11側のねじ山斜面と平行となる係合突面11bを形成しているので、積極的に有効径D部分、つまり最適な位置において接触させることができると共に、その接触も高力ボルト5におけるおねじ55のねじ山斜面に沿った一定の面積で安定よく接触させることができ、トルク係数のばらつきを一層狭い範囲に抑えることができる。
さらに、係合突面11bの長さをそれぞれ1mm以内にすると共に、隣り合う係合突面11b,11bをV字状に対向させ、その開放角度を60°±20′の範囲に設定する一方、隣り合う係合突面11b,11bから谷径Dに至る上側ねじ山斜面をV字状に対向させ、その開放角度が45°〜58°の範囲に設定すると共に、隣り合う係合突面から内径D側に至る下側ねじ山斜面をV字状に対向させ、その開放角度を62°〜75°の範囲に設定するようにしているので、トルク係数安定部11aの有効径D部分に位置する係合突面11b,11bのみを確実かつ正確にボルト5のおねじ55側のねじ山斜面に一定の面積で安定よく接触させることができ、トルク係数のばらつきをより効果的に狭い範囲に抑えることができる。
なお、上記した実施の形態では、トルク係数安定部11aをナット1のめねじ11におけるねじ山斜面の両側に設けたものについて説明したけれども、ナット1のめねじ11におけるねじ山斜面のボルト5(おねじ部材)へ荷重の伝わる側だけに設けるようにしてもよい。また、上記した説明では、本発明に係るナット1をトルシア形高力ボルト5に用いた場合についてのみ説明したけれども、何らトルシア形高力ボルト5に限られるものではなく、例えば軸部におねじが形成されただけ通常のボルトなどにも広く適用できることは勿論である。
因みに、ナットサイズがM20の本発明ナットを製造し、ナットサイズがM20の通常ナットとの締付軸力の比較実験を行った。その実験結果は、下記の[表1]及び図8、9の通りであった。
Figure 0005299816
Figure 0005299816
上記した表1及び図8、9から明らかなように、通常ナット(従来品)では、締付変動係数が4.61程度であるが、本発明ナット1では、めねじ11の斜面に外膨らみに膨出するトルク係数安定部11aを設けることにより変動係数を1.73まで下げることができた。このように変動係数が下がることにより、高い軸力でかつ狭い範囲での締付管理が可能となる。
本発明に係るナットのめねじ部分の拡大縦断面図である。 同めねじにおける要部の拡大縦断面図である。 同ナット全体の一部省略正面図である。 同ナットの仮止め状態を示す説明図である。 同ナットの締付け作業中の状態を示す説明図である。 同ナットの締付け完了時の状態を示す説明図である。 同ナットの締付け完了時における要部の拡大縦断面図である。 締付軸力の比較実験結果の折れ線グラフである。 変動係数の比較実験結果の説明図である。 従来の説明図である。 同要部拡大縦断面図である。
符号の説明
1 ナット
11 めねじ
11a トルク係数安定部
11b 係合突面
D 谷径
内径
有効径

Claims (2)

  1. 中心部にめねじが形成されたナットにおいて、めねじにおけるねじ山斜面の少なくともナットへの荷重の伝わる側に、外膨らみに膨出するトルク係数安定部が設けられている 方、トルク係数安定部における有効径部分に膨出頂部となり、かつおねじ側のねじ山斜面 と平行となる所定長さの係合突面が形成されていることを特徴とするナット。
  2. めねじにおけるねじ山斜面の両側に係合突面が形成されている一方、各係合突面の長さが 1mm以内になっていると共に、隣り合う係合突面がV字状に対向し、その開放角度が6 0°±20´の範囲に設定されている一方、隣り合う係合突面から谷径に至る上側ねじ山 斜面がV字状に対向し、その開放角度が45°〜58°の範囲に設定されていると共に、 隣り合う係合突面から内径側に至る下側ねじ山斜面がV字状に対向し、その開放角度が6 2°〜75°の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1記載のナット。
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