以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1および図2はそれぞれ、本発明の第1実施形態によるリニアモータ1の正面図および平面図を概略的に示している。以下の説明では、図1の手前側を「前」、奥側を「後」とし、図1および図2の左側を「左」、右側を「右」とし、図2の上側を「後」、下側を「前」とする。このリニアモータ1は、いわゆる搬送装置に適用されたものであり、ケース2と、板状の可動部3と、ケース2内に設けられた第1〜第3の電機子列4〜6、第1および第2のコア列7,8とを備えている。
このケース2は、移動不能になっており、前後方向を長手方向とする板状の底壁2aと、底壁2aの左右の端部からそれぞれ上方に延び、互いに対向する左壁2bおよび右壁2cとを一体に有している。第2電機子列5はケース2内の中央に配置され、第1および第2のコア列7,8は、第2電機子列5の両側に所定の間隔を存して対向するように配置され、第1および第3の電機子列4,6は、第1および第2のコア列7,8の外側に所定の間隔を存して対向するように配置されている。すなわち、第1および第2の電機子列4,5は互いに対向するように配置されるとともに、第1コア列7は、第1電機子列4と第2電機子列5の間に配置されている。また、第2および第3の電機子列5,6は互いに対向するように配置されるとともに、第2コア列8は、第2電機子列5と第3電機子列6の間に配置されている。
第1電機子列4は、電力の供給に伴って単一の移動磁界を発生させるものであり、3n個(nは整数)の第1電機子4aを有している。各第1電機子4aは、左右方向に若干延びる円柱状の鉄芯4bと、鉄芯4bに集中巻で巻回されたコイル4cなどで構成されており、3n個のコイル4cは、n組のX相、Y相およびZ相の3相コイルを構成している。また、第1電機子4aは、底壁2aの上面の左端部に固定部4dを介して取り付けられるとともに、左壁2bに取り付けられており、前後方向に等間隔で、ケース2の全体にわたって一列に並んでいる。
また、各第1電機子4aは、第1パワードライブユニット(以下「第1PDU」という)11を介してバッテリ14に接続されている。この第1PDU11は、インバータから成る電気回路で構成されており、このバッテリ14は、直流電源で構成されている。また、第1PDU11には、後述するECU13が接続されている。第1電機子4aは、第1PDU11を介してバッテリ14から電力が供給されたときに、鉄芯4bの第2電機子列5側の端部に、磁極が発生するように構成されており、この磁極の発生に伴って、第2電機子列5との間に、第1移動磁界が前後方向に連続的に移動するように発生する。以下、第1移動磁界の発生に伴って第1電機子4aの第2電機子列5側の端部に発生する磁極を、「第1電機子磁極」という。また、この第1電機子磁極の数は2nである。
第2電機子列5は、電力の供給に伴って2つの移動磁界を発生させるものであり、第1電機子4aと同数(3n)の第2電機子5aを有している。第2電機子5aは、第1電機子4aと同様、左右方向に若干延びる円柱状の鉄芯5bと、鉄芯5bに集中巻で巻回されたコイル5cなどで構成されており、3n個のコイル5cは、n組のU相、V相およびW相の3相コイルを構成している。鉄芯5bの径は、第1電機子4aの鉄芯4bと同じ大きさに設定されている。また、第2電機子5aは、底壁2aの上面の中央部に、固定部5dを介して取り付けられている。さらに、第2電機子5aは、前後方向に等間隔で、ケース2の全体にわたって一列に並んでおり、その中心が、第1電機子4aの中心と前後方向の同じ位置に位置するように配置されている(図2参照)。
また、各第2電機子5aは、第2パワードライブユニット(以下「第2PDU」という)12を介してバッテリ14に接続されている。この第2PDU12は、第1PDU11と同様、インバータから成る電気回路で構成されており、第2PDU12には、ECU13が接続されている。第2電機子5aは、第2PDU12を介してバッテリ14から電力が供給されたときに、鉄芯5bの第1および第3の電機子列4,6側の端部に、磁極が発生するように構成されており、この磁極の発生に伴って、第1および第3の電機子列4,6との間にそれぞれ、第2移動磁界および第4移動磁界が、前後方向に連続的に移動するように発生する。これらの第2および第4の移動磁界は、共通の第2PDU12から第2電機子5aへの電力供給によって発生するので、両移動磁界の移動方向および速度は、互いに同じである。以下、第2および第4の移動磁界の速度を総称して「第2移動磁界速度VMF2」という。また、第2移動磁界および第4移動磁界の発生に伴って第2電機子5aの第1および第3の電機子列4,6側の端部に発生する磁極をそれぞれ、「第2電機子磁極」および「第4電機子磁極」という。また、これらの第2および第4の電機子磁極の数はいずれも、第1電機子磁極と同じ2nである。
第3電機子列6は、電力の供給に伴って単一の移動磁界を発生させるものであり、第1電機子4aと同数(3n)の第3電機子6aを有している。各第3電機子6aは、第1電機子4aと同様、左右方向に若干延びる円柱状の鉄芯6bと、鉄芯6bに集中巻で巻回されたコイル6cなどで構成されており、3n個のコイル6cは、n組のX相、Y相およびZ相の3相コイルを構成している。鉄芯6bの径は、第1および第2の電機子4a,5aの鉄芯4b,5bと同じ大きさに設定されている。また、第3電機子6aは、底壁2aの上面の右端部に固定部6dを介して取り付けられるとともに、右壁2cに取り付けられている。さらに、第3電機子6aは、前後方向に等間隔で、ケース2の全体にわたって一列に並んでおり、その中心が、第1電機子4aの中心と前後方向の同じ位置に位置するように配置されている(図2参照)。
また、各第3電機子6aは、第1PDU11を介してバッテリ14に接続されている。第3電機子6aは、第1PDU11を介してバッテリ14から電力が供給されたときに、鉄芯6bの第2電機子列5側の端部に、磁極が発生するように構成されており、この磁極の発生に伴って、第2電機子列5との間に、第3移動磁界が前後方向に連続的に移動するように発生する。以下、第3移動磁界の発生に伴って第3電機子6aの第2電機子列5側の端部に発生する磁極を、「第3電機子磁極」という。また、この第3電機子磁極の数は、第1電機子磁極と同じ2nである。以上のように、第1および第3の移動磁界は、共通の第1PDU11からの電力供給によって発生するので、両移動磁界の移動方向および速度は、互いに同じである。以下、第1および第3の移動磁界の速度を総称して「第1移動磁界速度VMF1」という。
第1コア列7は、前後方向に並んだ複数、例えば5個の第1コア7aを有している。第1コア7aの数は、第1電機子4aよりも小さい。各第1コア7aは、軟磁性体、例えば複数の鋼板を積層した直方体状のものであり、その前後方向の長さが、鉄芯4b〜6bの径とほぼ同じ大きさに設定されている。また、第1コア7aの底部には、車輪7bが設けられている。第1コア7aは、この車輪7bを介して底壁2aのレール(図示せず)に載置されており、それにより、前後方向に移動自在であるとともに、左右方向に移動不能になっている。さらに、第1コア7aは、その上端部に設けられた連結部7cを介して、可動部3に取り付けられている。
また、第1コア7aは、前後方向に所定のピッチPで等間隔に並ぶように配置されている。このピッチPは、ある1つの第1電機子4aと、それから3つめの同相のコイルを有する第1電機子4aとの間の間隔の1/2に設定されている(図2参照)。すなわち、所定のピッチPは、第1〜第3の電機子4a〜6aに供給される交流電流の位相が1周期分、変化するまでの第1〜第4の電機子磁極の移動距離の1/2に設定されている。
第2コア列8は、第1コア7aと同数、すなわち5個の第2コア8aを有している。各第2コア8aは、第1コア7aと同様、軟磁性体、例えば複数の鋼板を積層した直方体状のものであり、その前後方向の長さが、鉄芯4b〜6bの径とほぼ同じ大きさに設定されている。また、第2コア8aの底部には、車輪8bが設けられている。第2コア8aは、この車輪8bを介して底壁2aのレール(図示せず)に載置されており、それにより、前後方向に移動自在であるとともに、左右方向に移動不能になっている。さらに、第2コア8aは、その上端部に設けられた連結部8cを介して、可動部3に取り付けられている。以上のように、可動部3は、第1および第2のコア7a,8aとともに、前後方向に移動自在であるとともに、左右方向に移動不能になっている。また、可動部3の前後方向の長さは、ケース2よりも小さくなっている。
さらに、第2コア8aは、前後方向に第1コア7aと同じ所定のピッチPで等間隔で、第1コア7aに対して互い違いに並んでおり、その中心が、第1コア7aの中心に対し、所定のピッチPの半ピッチP/2分、ずれている。
また、リニアモータ1には、位置センサ21が設けられており、位置センサ21は、ケース2に対する可動部3の位置を表す検出信号をECU13に出力する。ECU13は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、検出された可動部3の位置に応じ、第1〜第3の電機子4a〜6aと、第1および第2のコア7a,8aとの相対的な位置関係を求めるとともに、この位置関係に基づいて、第1〜第3の電機子4a〜6aの3相コイル4c〜6cへの通電を制御し、それにより、第1〜第4の移動磁界を制御する。また、ECU13は、検出された可動部3の位置に応じ、可動部3の速度(以下「可動部速度VMM」という)を算出する。
なお、本実施形態では、ケース2および可動部3が、本発明における不動部材および可動部材にそれぞれ相当し、第1および第2のコア列7,8が、本発明における第1および第2の軟磁性体列にそれぞれ相当する。また、第1PDU11およびECU13が、本発明における第1制御装置に相当し、第2PDU12およびECU13が、本発明における第2制御装置に相当する。
以上の構成のリニアモータ1では、図2に示すように、第1〜第4の移動磁界の発生中、各第1電機子磁極の極性が、それに対向する各第2電機子磁極の極性と異なるときには、各第3電機子磁極の極性は、それに対向する各第4電機子磁極の極性と同じになる。また、第1コア7aが、第1電機子磁極とそれに対向する第2電機子磁極の間に位置しているときには、第2コア8aが、前後方向に隣り合う2組の第3電機子磁極と第4電機子磁極の間に位置する。さらに、図示しないが、上記とは逆に、各第3電機子磁極の極性が、それに対向する各第4電機子磁極の極性と異なるときには、各第1電機子磁極の極性は、それに対向する各第2電機子磁極の極性と同じになる。また、第2コア8aが、第3電機子磁極とそれに対向する第4電機子磁極の間に位置しているときには、第1コア7aが、前後方向に隣り合う2組の第1電機子磁極と第2電機子磁極の間に位置する。なお、図2では、便宜上、連結部7c,8cを省略して図示するものとする。また、実際には、2n個の第1〜第4の電機子磁極がそれぞれ、前後方向に所定のピッチPで等間隔に発生するが、図2では、便宜上、対応する鉄芯4b〜6bに、第1〜第4の電機子磁極を(N)および(S)で表記している。
また、第1コア7aは、第1および第2の電機子列4,5の間に配置されているので、第1および第2の電機子磁極によって磁化される。このことと、隣り合う各2つの第1コア7aの間には、所定の間隔が開いていることから、第1電機子磁極、第1コア7aおよび第2電機子磁極の間に、磁力線(以下「第1磁力線」という)G1が発生する(図3参照)。同様に、第2コア8aは、第2および第3の電機子列5,6の間に配置されているので、第3および第4の電機子磁極によって磁化される。このことと、隣り合う各2つの第2コア8aの間には、所定の間隔が開いていることから、第3電機子磁極、第2コア8aおよび第4電機子磁極の間に、磁力線(以下「第2磁力線」という)G2が発生する(図3参照)。
このため、第1〜第4の移動磁界をいずれも同じ方向に同じ速度で移動するように制御することによって、第1および第2のコア7a,8aが、上述した第1および第2の磁力線G1,G2による磁力で吸引され、それにより、可動部3が、第1〜第4の移動磁界の移動方向に駆動され、第1〜第4の移動磁界と同じ速度で移動する。すなわち、可動部3に推力が出力される。この場合、可動部3に出力される推力(以下「可動部推力FMM」という)は、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力の和に等しく、ほぼ一定になる。また、第1および第3の電機子4a,6aに供給された電力ならびに第1移動磁界速度VMF1(第1および第3の移動磁界の速度)と等価の推力を「第1駆動用等価推力」とし、第2電機子5aに供給された電力ならびに第2移動磁界速度VMF2(第2および第4の移動磁界の速度)と等価の推力を「第2駆動用等価推力」とすると、可動部推力FMMは、第1および第2の駆動用等価推力の和に等しい。
また、第1〜第4の移動磁界をいずれも同方向に移動させ、第2移動磁界速度VMF2を、第1移動磁界速度VMF1よりも高くなるように制御した場合には、リニアモータ1は次のように作動する。以下、この場合の動作について、図3および図4を参照しながら説明する。なお、説明の便宜上、第1〜第4の移動磁界の動きをそれぞれ、それと等価の2n個の仮想の第1〜第4の永久磁石(以下「第1〜第4の仮想磁石」という)VM1〜VM4の物理的な動きに置き換えて説明するものとする。また、第1〜第4の仮想磁石VM1〜VM4の磁極をそれぞれ、第1〜第4の電機子磁極として説明するものとする。
図3(a)に示すように、各第2電機子磁極を、各第1電機子磁極と対向させ、両者の極性を互いに異ならせるとともに、各第4電機子磁極を、各第3電機子磁極と対向させ、両者の極性を同じにする。また、各第1コア7aが、第1電機子磁極とそれに対向する第2電機子磁極の間に位置するとともに、各第2コア8aが、前後方向に隣り合う2組の第3電機子磁極と第4電機子磁極の間に位置するように、第1〜第4の電機子磁極を発生させる。この状態から、第2および第4の移動磁界すなわち第2および第4の仮想磁石VM2,VM4を、第1および第3の移動磁界すなわち第1および第3の仮想磁石VM1,VM3に対して、図3の下方に移動させる。なお、図3および図4は、第1および第3の移動磁界から見た各要素の動きを示しており、このため、これらの図では、第1および第3の仮想磁石VM1,VM3は停止しているように描かれている。
図3(a)に示す状態では、第1磁力線G1は、第1電機子磁極、第1コア7aおよび第2電機子磁極を結ぶように発生し、第2磁力線G2は、前後方向に隣り合う各2つの第4電機子磁極と両者の間に位置する第2コア8aを結ぶように、また、前後方向に隣り合う各2つの第3電機子磁極と両者の間に位置する第2コア8aを結ぶように発生する。その結果、この状態では、図5(a)に示すような磁気回路が構成される。この状態では、第1磁力線G1が直線状であることにより、第1コア7aには、第1電機子磁極に対して前後方向に移動させるような磁力は作用しない。また、前後方向に隣り合う各2つの第4電機子磁極と第2コア8aの間の2つの第2磁力線G2の曲がり度合いおよび総磁束量が互いに等しく、同様に、前後方向に隣り合う各2つの第3電機子磁極と第2コア8aの間の2つの第2磁力線G2の曲がり度合いおよび総磁束量も、互いに等しく、バランスしている。このため、第2コア8aにも、第3電機子磁極に対して前後方向に移動させるような磁力は作用しない。
そして、第2および第4の仮想磁石VM2,VM4が、図3(a)に示す位置から図3(b)に示す位置に移動すると、第4電機子磁極、第2コア8aおよび第3電機子磁極を結ぶような第2磁力線G2が発生するとともに、第1コア7aと第2電機子磁極の間の第1磁力線G1が、曲がった状態になる。また、これに伴い、第1および第2の磁力線G1,G2によって、図5(b)に示すような磁気回路が構成される。
この状態では、第1磁力線G1の曲がり度合いは小さいものの、その総磁束量が多いため、比較的強い磁力が第1コア7aに作用する。これにより、第1コア7aは、第2仮想磁石VM2の移動方向、すなわち第2移動磁界の移動方向に、比較的大きな駆動力で駆動され、その結果、可動部3が、第1電機子磁極に対して、第2移動磁界の移動方向に移動する。また、第2磁力線G2の曲がり度合いは大きいものの、その総磁束量が少ないため、比較的弱い磁力が第2コア8aに作用し、それにより、第2コア8aは、第4移動磁界の移動方向に比較的小さな駆動力で駆動され、その結果、可動部3が、第3電機子磁極に対して、第4移動磁界の移動方向に移動する。以下、第2および第4の移動磁界の移動方向を総称して「磁界移動方向」という。
次いで、第2および第4の仮想磁石VM2,VM4が、図3(b)に示す位置から、図3(c),(d)および図4(a),(b)に示す位置に順に移動すると、第1および第2のコア7a,8aはそれぞれ、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力によって磁界移動方向に駆動され、その結果、可動部3が、第1および第3の電機子磁極に対して、磁界移動方向に移動する。その間、第1コア7aに作用する磁力は、第1磁力線G1の曲がり度合いが大きくなるものの、その総磁束量が少なくなることによって、徐々に弱くなり、第1コア7aを第1電機子磁極に対して磁界移動方向に駆動する駆動力が、徐々に小さくなる。また、第2コア8aに作用する磁力は、第2磁力線G2の曲がり度合いが小さくなるものの、その総磁束量が多くなることによって、徐々に強くなり、第2コア8aを第3電機子磁極に対して磁界移動方向に駆動する駆動力が、徐々に大きくなる。
そして、第2および第4の仮想磁石VM2,VM4が図4(b)に示す位置から図4(c)に示す位置に移動する間、第2磁力線G2が曲がった状態になるとともに、その総磁束量が最多に近い状態になり、その結果、最強の磁力が第2コア8aに作用し、第2コア8aを第3電機子磁極に対して磁界移動方向に駆動する駆動力が最大になる。その後、図4(c)に示すように、第2および第4の仮想磁石VM2,VM4が第1および第3の仮想磁石VM1,VM3に対向する位置に移動すると、互いに対向する第2電機子磁極および第1電機子磁極が互いに同一極性になり、第1コア7aが、前後方向に隣り合う2組の同一極性の第1電機子磁極と第2電機子磁極の間に位置するようになる。この状態では、第1磁力線G1の曲がり度合いが大きいものの、その総磁束量が少ないことによって、第1コア7aには、第1電機子磁極に対して磁界移動方向に移動させるような磁力が作用しない。また、互いに対向する第3電機子磁極および第4電機子磁極が互いに異なる極性になる。
この状態から、第2および第4の仮想磁石VM2,VM4が、第1および第3の仮想磁石VM1,VM3に対してさらに移動すると、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力によって、第1および第2のコア7a,8aが磁界移動方向に駆動され、可動部3が、第1および第3の電機子磁極に対して、磁界移動方向に移動する。その際、第2および第4の仮想磁石VM2,VM4が図3(a)に示す位置まで移動する間、以上とは逆に、第1コア7aに作用する磁力は、第1磁力線G1の曲がり度合が小さくなるものの、その総磁束量が多くなることによって強くなり、第1コア7aに作用する駆動力が大きくなる。逆に、第2コア8aに作用する磁力は、第2磁力線G2の曲がり度合が大きくなるものの、その総磁束量が少なくなることによって弱くなり、第2コア8aに作用する駆動力が小さくなる。
以上のように、第1および第3の仮想磁石VM1,VM3に対する第2および第4の仮想磁石VM2,VM4の移動、すなわち、第1および第3の移動磁界に対する第2および第4の移動磁界の移動に伴い、第1および第2のコア7a,8aにそれぞれ作用する駆動力が、交互に大きくなったり、小さくなったりする状態を繰り返しながら、可動部3が、第1および第3の電機子磁極に対して、磁界移動方向に移動する。この場合、第1および第2のコア7a,8aに作用する駆動力(以下、それぞれ「第1駆動力」「第2駆動力」という)F7a,F8a、可動部推力FMMの関係は、例えば図6のように示される。同図に示すように、第1および第2の駆動力F7a,F8aは、同じ周期でほぼ正弦波状に変化するとともに、位相が半周期分、互いにずれている。また、可動部3には第1および第2のコア7a,8aが連結されているため、可動部推力FMMは、上記のように変化する第1および第2の駆動力F7a,F8aの和に等しく、ほぼ一定になる。すなわち、可動部3に、ほぼ一定の推力が出力される。また、この場合にも、可動部推力FMMは、前述した第1および第2の駆動用等価推力の和に等しい。
上述したような動作は、第1〜第4の移動磁界をいずれも同方向に移動させるとともに、第1移動磁界速度VMF1を、第2移動磁界速度VMF2よりも高くなるように制御した場合にも同様に行われる。
また、リニアモータ1では、これまでに述べたような第1および第2の磁力線G1,G2による磁力によって、第1コア7aが、第1磁力線G1で結ばれた第1電機子磁極と第2電機子磁極の中間に位置し、かつ、第2コア8aが、第2磁力線G2で結ばれた第3電機子磁極と第4電機子磁極の中間に位置した状態を保ちながら、可動部3が移動する。このため、第1移動磁界速度VMF1と、第2移動磁界速度VMF2と、可動部3の速度(以下「可動部速度」という)VMMとの間には一般に、次式(1)が成立する。
VMM=(VMF1+VMF2)/2 ……(1)
この式(1)から明らかなように、可動部速度VMMは、第1移動磁界速度VMF1と第2移動磁界速度VMF2との平均速度に等しく、換言すれば、第1移動磁界速度VMF1と可動部速度VMMの差は、可動部速度VMMと第2移動磁界速度VMF2の差に等しい。このように、可動部速度VMM、第1および第2の移動磁界速度VMF1,VMF2は、共線関係にある。
また、第2および第4の移動磁界を発生させるとともに、第1および第3の電機子4a,6aにおいて相間短絡を行うことによって、第1移動磁界速度VMF1を値0に制御(第1および第3の電機子4a,6aにおいて磁界は発生しているが、移動していない状態)した場合には、可動部3は、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力によって、第2および第4の移動磁界の移動方向に1/2の速度で移動する。このことは、上記式(1)においてVMF1=0とすることによって、VMM=VMF2/2が得られることから明らかである。さらに、この場合、可動部推力FMMは、前述した第2駆動用等価推力の2倍になる。以上から明らかなように、第1移動磁界速度VMF1を値0に制御した状態で第2電機子5aに電力を供給した場合には、この電力はすべて、可動部3に動力として伝達される。
上記とは逆に、第1および第3の移動磁界を発生させるとともに、第2電機子5aにおいて相間短絡を行うことによって、第2移動磁界速度VMF2を値0に制御(第2電機子5aにおいて磁界は発生しているが、移動していない状態)した場合には、可動部3は、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力によって、第1および第3の移動磁界の移動方向に1/2の速度で移動する。このことは、上記式(1)においてVMF2=0とすることによって、VMM=VMF1/2が得られることから明らかである。また、この場合、可動部推力FMMは、前述した第1駆動用等価推力の2倍になる。以上から明らかなように、第2移動磁界速度VMF2を値0に制御した状態で第1および第3の電機子4a,6aに電力を供給した場合には、この電力はすべて、可動部3に動力として伝達される。
さらに、第1および第3の電機子4a,6aにおいて相間短絡を行うことによって、第1移動磁界速度VMF1を値0に制御するとともに、可動部3に推力を入力した場合には、第2電機子5aにおいて誘導起電力が発生し、発電が行われる。この場合、第2および第4の移動磁界は、可動部3の移動方向に2倍の速度で移動する。このことは、上記式(1)においてVMF1=0とすることによって、VMF2=2・VMMが得られることから明らかである。また、この場合、第2電機子5aで発電された電力および第2移動磁界速度VMF2と等価の推力を第2発電用等価推力とすると、この第2発電用等価推力は、可動部推力FMMの1/2になる。以上から明らかなように、この場合には、可動部3に入力された推力はすべて、第2電機子5aに電力として伝達される。
また、第2電機子5aにおいて相間短絡を行うことによって、第2移動磁界速度VMF2を値0に制御するとともに、可動部3に推力を入力した場合には、第1および第3の電機子4a,6aにおいて誘導起電力が発生し、発電が行われる。この場合、第1および第3の移動磁界は、可動部3の移動方向に2倍の速度で移動する。このことは、上記式(1)においてVMF2=0とすることによって、VMF1=2・VMMが得られることから明らかである。また、この場合、第1および第3の電機子4a,6aで発電された電力および第1移動磁界速度VMF1と等価の推力を第1発電用等価推力とすると、この第1発電用等価推力は、可動部推力FMMの1/2になる。以上から明らかなように、この場合には、可動部3に入力された推力はすべて、第1および第3の電機子4a,6aに電力として伝達される。
さらに、可動部3を第1および第2のコア7a,8aとともに移動不能に固定した状態で、第1および第3の電機子4a,6aへの電力供給によって第1および第3の移動磁界を発生させた場合には、第2電機子5aにおいて誘導起電力が発生し、発電が行われる。この場合にも、式(1)が成立する。この式(1)においてVMM=0とすることによって、VMF2=−VMF1が得られることから明らかなように、この発電に伴って発生した第2および第4の移動磁界は、第1および第3の移動磁界と同じ速度で逆方向に移動する。この場合、第2発電用等価推力は、第1駆動用等価推力と等しくなる。以上のように、この場合には、第1および第3の電機子4a,6aに供給された電力はすべて、第2電機子5aに伝達される。
上記とは逆に、第2電機子5aへの電力供給によって第2および第4の移動磁界を発生させた場合には、第1および第3の電機子4a,6aにおいて誘導起電力が発生し、発電が行われる。この場合には、VMF1=−VMF2が成立し、換言すれば、この発電に伴って発生した第1および第3の移動磁界は、第2および第4の移動磁界と同じ速度で逆方向に移動する。この場合、第1発電用等価推力は、第2駆動用等価推力と等しくなる。以上のように、この場合には、第2電機子5aに供給された電力はすべて、第1および第3の電機子4a,6aに伝達される。
これまでに述べた動作から明らかなように、第1および第3の電機子4a,6aと第2電機子5aと可動部3との間におけるエネルギ(電力・動力)の入出力関係は、遊星歯車装置におけるサンギヤおよびリングギヤの一方と他方とキャリアとの間におけるエネルギの入出力関係に相当する。
また、前記式(1)から、可動部速度VMMと第1移動磁界速度VMF1と第2移動磁界速度VMF2の関係は、例えば図7のように示される。同図は、いわゆる速度共線図であり、この速度共線図では、値0を示す横線に交わる縦線は、各パラメータの速度を表すためのものであり、この縦線上に表される白丸と横線との隔たりが、各パラメータの速度に相当する。なお、図7では、便宜上、この白丸の付近に、各パラメータの符号を表記するとともに、前進方向を「+」、後進方向を「−」で示している。また、第1移動磁界速度VMF1を表す縦線から可動部速度VMMを表す縦線までの距離と、可動部速度VMMから第2移動磁界速度VMF2を表す縦線までの距離との比は、前記式(1)から明らかなように、1:1である。以下、図7に示すような速度共線図を用いて、可動部3を停止状態に保持する動作と、停止状態の可動部3の駆動を開始する始動時の動作について説明する。
図8は、可動部3を停止状態に保持している状態での可動部速度VMM、第1および第2の移動磁界速度VMF1,VMF2の関係の一例を示している。この場合、第1〜第3の電機子4a〜6aに電力を供給し、図8に示すように、第1および第3の移動磁界を前進方向に移動させ、第2および第4の移動磁界を後進方向に移動させるとともに、第1および第2の移動磁界速度VMF1,VMF2が互いに等しくなるように(VMF1=−VMF2)制御する。これにより、第1〜第4の移動磁界が発生した状態(VMF1≠0、VMF2≠0)で、可動部3が停止状態(VMM=0)に保持される。
また、上述した制御により停止している可動部3の駆動を開始する始動時には、次のような制御動作を行う。図9は、この始動時における各要素の速度関係の一例を示している。具体的には、第1および第3の電機子4a,6aへの電力供給と第1および第3の移動磁界の制御を、上述した停止状態と同様に行うとともに、第2電機子5aにおいて発電を行う。この始動の開始時、図9に破線で示すように、この発電に伴って発生する第2および第4の移動磁界は、第1および第3の移動磁界が前進方向に移動し、可動部速度VMMが値0であるため、後進方向に移動する。一方、上述したように、第1および第3の電機子4a,6aと第2電機子5aと可動部3との間におけるエネルギの入出力関係は、遊星歯車装置におけるサンギヤおよびリングギヤの一方と他方とキャリアとの間におけるエネルギの入出力関係に相当する。このため、この状態では、前述した第1駆動用等価推力および第2発電用等価推力は、可動部3を前進方向に駆動するように作用する。この状態から、後進方向に移動する第2および第4の移動磁界の第2移動磁界速度VMF2を、値0になるように制御する。以上により、図9に太い実線で示すように、可動部速度VMMが前進方向に上昇する。
そして、第2移動磁界速度VMF2が値0になった後には、第2電機子5aにバッテリ14から電力を供給し、第2および第4の移動磁界を前進方向に移動させる。この場合、図7の速度共線図や前記式(1)から明らかなように、第1および第2の移動磁界速度VMF1,VMF2を制御することによって、可動部速度VMMを任意の大きさに制御することができる。
また、可動部3を後進方向に移動させる場合には、上記とは逆の制御動作が行われる。以下、この場合の制御動作を簡単に説明すると、上述した停止時と同様、第2電機子5aにバッテリ14から電力を供給するとともに、第2および第4の移動磁界を後進方向に移動させる。また、第1および第3の電機子4a,6aにおいて発電を行うとともに、前進方向に移動する第1および第3の移動磁界の第1移動磁界速度VMF1を、値0になるように制御する。以上により、可動部速度VMMが後進方向に上昇する。そして、第1移動磁界速度VMF1が値0になった後には、第1および第3の電機子4a,6aにバッテリ14から電力を供給するとともに、第1および第3の移動磁界を後進方向に移動させる。このように可動部3を後ろ方向に移動させる場合にも、第1および第2の移動磁界速度VMF1,VMF2を制御することによって、可動部速度VMMを任意に制御することができる。なお、以上のように可動部3を前進および後進方向に移動させるいずれの場合においても、第1および第2の移動磁界速度VMF1,VMF2は、前記式(1)が成立するように制御される。
以上のように、本実施形態によれば、可動部3の停止中、第1〜第4の移動磁界を移動している状態に保持できる。したがって、可動部3の停止中、前述した従来の場合と異なり、第1〜第3の電機子4a〜6aに供給される電流を、直流状態に制御せずに、交流状態に制御するとともに、その位相を変化した状態に保持できる。これにより、停止状態の可動部3の駆動を開始する始動時および可動部3の停止中に、第1〜第3の電機子4a〜6aにより大きな電流を供給でき、したがって、可動部3のより大きな推力および停止保持力をそれぞれ得ることができる。また、第1PDU11およびECU13によって第1移動磁界速度VMF1を制御するとともに、第2PDU12およびECU13によって第2移動磁界速度VMF2を制御するので、リニアモータ1を適切に作動させることができる。同じ理由により、第1〜第4の移動磁界の速度を制御するための制御装置を別個に設ける場合と比較して、部品点数を削減でき、それにより、製造コストを削減できるとともに、リニアモータ1を小型化することができる。
さらに、第2および第4の移動磁界を発生させる電機子列として、単一の第2電機子列5を用いるので、それぞれ別個の電機子列を用いる場合と比較して、部品点数を削減でき、それにより、製造コストを削減できるとともに、リニアモータ1を小型化することができる。また、可動部3に複数の第1および第2のコア7a,8aを設けるだけなので、界磁用の複数の電機子や電源、電気回路を設ける場合と比較して、可動部3を軽量化することができる。
図10は、第1実施形態の変形例を示している。この変形例では、バッテリ14に代えて、三相の交流電源16が設けられている。また、第1PDU11が省略されており、第1および第3の電機子4a,6aは、スイッチ(図示せず)を介して交流電源16に接続されている。このスイッチは、第1および第3の電機子4a,6aと交流電源16の間を接続・遮断するものであり、その動作はECU13によって制御される。さらに、第2PDU17は、第1実施形態と異なり、コンバータおよびインバータから成る電気回路で構成されている。
この変形例では、ECU13および第2PDU17が、本発明における制御装置に相当し、コイル4c,6cが、本発明における界磁巻線に相当する。
以上により、交流電源16と第1および第3の電機子4a,6aの間がスイッチで接続されることによって、交流電源16から第1および第3の電機子4a,6aに電力が供給されると、第1および第3の移動磁界が、交流電源16から供給される電流の周波数に基づく一定の速度で、前進方向に移動する。この場合、第2および第4の移動磁界の第2移動磁界速度VMF2を制御することによって、第1実施形態で述べたようなリニアモータ1の各種の動作が行われる。
以上により、この変形例によれば、第1実施形態の効果を同様に得ることができる。また、スイッチは、インバータで構成された第1PDU11と比較して、安価かつ小型である。したがって、第1実施形態と比較して、製造コストを削減できるとともに、リニアモータ1を小型化することができる。
次に、図11および図12を参照しながら、本発明の第2実施形態によるリニアモータ31について説明する。このリニアモータ31は、第1実施形態と比較して、次の点が主に異なっている。すなわち、前述したように、第1実施形態のリニアモータ1では、第1および第2のコア7a,8aが移動可能で、かつ、第1〜第3の電機子4a〜6aが移動不能になっているのに対し、このリニアモータ31では、これとは逆に、第1および第2のコア列7,8が移動不能で、かつ、第1〜第3の電機子列4〜6が移動可能になっている。図11および図12において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下の説明では、図11の手前側を「前」、奥側を「後」とし、図11および図12の左側を「左」、右側を「右」とし、図12の上側を「後」、下側を「前」とする。また、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
このリニアモータ31は、前後方向に延びる軌道TR上を走行する車両に適用されたものである。このリニアモータ31では、可動部32は、板状の天板32aと、天板32aの左右の端部からそれぞれ下方に延び、互いに対向する左壁32bおよび右壁32cとを一体に有している。また、左右の壁32b,32cの底部には、車輪32d,32eがそれぞれ設けられている。可動部32は、これらの車輪32d,32eを介して軌道TRのレール(図示せず)に載置されており、それにより、軌道TRに対して前後方向に移動自在であるとともに、左右方向に移動不能になっている。
第1〜第3の電機子列4〜6はそれぞれ、6つの第1〜第3の電機子4a,6aを有している。第1電機子4aは、天壁32aの下面の左端部に固定部4dを介して取り付けられるとともに、左壁32bに取り付けられている。また、第2電機子5aは、天壁32aの下面の中央部に、固定部5dを介して取り付けられている。さらに、第3電機子6aは、天壁32aの下面の右端部に固定部6dを介して取り付けられるとともに、右壁32cに取り付けられている。
第1および第2のコア列7,8は、多数の第1および第2のコア7a,8aを有している。これらの第1および第2のコア7a,8aはそれぞれ、軌道TRの所定位置に固定されており、前後方向に軌道TRの全体にわたって一列に並んでいる。また、図12と前述した図2との比較から明らかなように、第1〜第3の電機子列4〜6と第1および第2の軟磁性体列7,8の位置関係、および第1〜第3の電機子4a〜6aと第1および第2のコア7a,8aの位置関係は、第1実施形態の場合と同様であり、その説明については省略する。
さらに、リニアモータ31には、位置センサ22が設けられており、位置センサ22は、軌道TRに対する可動部32の位置を表す検出信号をECU13に出力する。ECU13は、検出された可動部32の位置に応じ、第1〜第3の電機子4a〜6aと、第1および第2のコア7a,8aとの相対的な位置関係を求めるとともに、この位置関係に基づいて、3相コイル4a〜6cへの通電を制御し、それにより、第1〜第4の移動磁界を制御する。
なお、本実施形態では、軌道TRおよび可動部32が、本発明における不動部材および可動部材にそれぞれ相当する。
以上の構成のリニアモータ31では、第1実施形態と同様、図12に示すように、第1〜第4の移動磁界の発生中、各第1電機子磁極の極性が、それに対向する各第2電機子磁極の極性と異なるときには、各第3電機子磁極の極性は、それに対向する各第4電機子磁極の極性と同じになる。また、第1コア7aが、第1電機子磁極とそれに対向する第2電機子磁極の間に位置しているときには、第2コア8aが、前後方向に隣り合う2組の第3電機子磁極と第4電機子磁極の間に位置する。さらに、図示しないが、上記とは逆に、各第3電機子磁極の極性が、それに対向する各第4電機子磁極の極性と異なるときには、各第1電機子磁極の極性は、それに対向する各第2電機子磁極の極性と同じになる。また、第2コア8aが、第3電機子磁極とそれに対向する第4電機子磁極の間に位置しているときには、第1コア7aが、前後方向に隣り合う2組の第1電機子磁極と第2電機子磁極の間に位置する。なお、図12では、便宜上、車輪32d,32eを省略して図示するものとする。また、実際には、2n個の第1〜第4の電機子磁極がそれぞれ、前後方向に所定のピッチPで等間隔に発生するが、図12では、便宜上、対応する鉄芯4b〜6bに、第1〜第4の電機子磁極を(N)および(S)で表記している。
また、上述したように、リニアモータ31では、第1〜第3の電機子列4〜6と第1および第2の軟磁性体列7,8の位置関係、および第1〜第3の電機子4a〜6aと第1および第2のコア7a,8aの位置関係が、第1実施形態の場合と同様である。このため、第1実施形態の場合と同様、第1電機子磁極、第1コア7aおよび第2電機子磁極の間に、第1磁力線G1が発生するとともに、第3電機子磁極、第2コア8aおよび第4電機子磁極の間に、第2磁力線G2が発生し、これらの磁力線G1,G2による磁力が、第1および第2のコア7a,8aに作用する。このため、この場合にも、前述したような可動部推力FMMと第1および第2の駆動用等価推力と第1および第2の発電用等価推力の関係が成立する。ただし、リニアモータ31では、第1実施形態と異なり、第1および第2のコア7a,8aが移動不能になっているとともに、第1〜第3の電機子4a〜6aが可動部32とともに移動可能になっている。したがって、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力が第1および第2のコア7a,8aに作用するのに伴い、第1および第2のコア7a,8aから第1〜第3の電機子4a〜6aに反力が作用し、この反力が、第1〜第3の電機子4a〜6aを介して可動部32に推力として作用することによって、可動部32が移動する。
以上から、リニアモータ31では、例えば、第1〜第4の移動磁界をいずれも、同じ方向に同じ速度で移動するように制御することにより、第1〜第3の電機子4a〜6aが、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力によって、第1および第2のコア7a,8a側に吸引される。これにより、可動部32が、第1〜第4の移動磁界の移動方向と逆方向に、同じ速度で移動する。すなわち、可動部32に推力が出力される。この場合、可動部推力FMMは、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力の和に等しく、ほぼ一定になる。また、可動部推力FMMは、第1および第2の駆動用等価推力の和に等しい。
また、第1〜第4の移動磁界をいずれも同方向に移動させ、第2移動磁界速度VMF2を、第1移動磁界速度VMF1よりも高くなるように制御した場合には、第1および第2の磁力線G1,G2が、前述した図3〜図4の場合と同様に発生し、前述した図5に示すような磁気回路が構成される。これにより、第1〜第3の電機子4a〜6aが可動部32とともに、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力によって、第1〜第4の移動磁界の移動方向と逆方向に駆動される。このことは、上記とは逆に、第1移動磁界速度VMF1を、第2移動磁界速度VMF2よりも高くなるように制御した場合にも、同様にあてはまる。
さらに、リニアモータ31では、第1実施形態と同様、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力の作用によって、第1コア7aが、第1磁力線G1で結ばれた第1電機子磁極と第2電機子磁極の中間に位置し、かつ、第2コア8aが、第2磁力線G2で結ばれた第3電機子磁極と第4電機子磁極の中間に位置した状態を保ちながら、可動部32が移動する。一方、この場合、第1および第2の磁力線G1,G2による磁力が可動部32に上述したように作用するので、前記式(1)は成立せず、次式(2)が成立する。
VCR=(VMF1R+VMF2R)/2 ……(2)
ここで、VCRは、可動部32から見た第1および第2のコア7,8の速度(以下「コア相対速度」という)、VMF1Rは、可動部32から見た第1および第3の移動磁界の速度(以下「第1移動磁界相対速度」という)、VMF2Rは、可動部32から見た第2および第4の移動磁界の速度(以下「第2移動磁界相対速度」という)である。コア相対速度VCRと可動部速度VMMの間には、VCR=−VMMが成立する。
この式(2)から明らかなように、コア相対速度VCRは、第1移動磁界相対速度VMF1Rと第2移動磁界相対速度VMF2Rとの平均速度に等しく、換言すれば、第1移動磁界相対速度VMF1Rとコア相対速度VCRの差は、コア相対速度VCRと第2移動磁界相対速度VMF2Rの差に等しい。このように、コア相対速度VCR、第1および第2の移動磁界相対速度VMF1R,VMF2Rは、共線関係にある。
このため、コア相対速度VCRと第1移動磁界相対速度VMF1Rと第2移動磁界相対速度VMF2Rの関係は、例えば図13のように示される。同図において各パラメータの速度を表す白丸がいずれも、値0を示す横線上に位置している(VCR=VMF1R=VMF2R=0)ことは、可動部32に対して、第1〜第4の移動磁界、第1および第2のコアがいずれも移動していないことを表している。また、コア相対速度VCRを表す白丸が値0を示す横線上に位置していることは、可動部32が移動していないことを表し、コア相対速度VCRを表す白丸が−側すなわち後進方向に位置していることは、可動部32が前進方向に移動していることを表し、逆に、+側すなわち前進方向に位置していることは、可動部32が後進方向に移動していることを表している。以下、この図13に示すような速度共線図を用いて、可動部32を停止状態に保持する動作と、停止状態の可動部32の駆動を開始する始動時の動作について説明する。
図14は、可動部32を停止状態に保持している状態でのコア相対速度VCR、第1および第2の移動磁界相対速度VMF1R,VMF2Rの関係の一例を示している。この場合、第1〜第3の電機子4a〜6aに電力を供給し、図14に示すように、可動部32に対して、第1および第3の移動磁界を後進方向に移動させ、第2および第4の移動磁界を前進方向に移動させるとともに、第1および第2の移動磁界相対速度VMF1R,VMF2Rが互いに等しくなるように(VMF1R=−VMF2R)制御する。これにより、第1〜第4の移動磁界が発生した状態(VMF1R≠0、VMF2R≠0)で、コア相対速度VCRが値0に、すなわち、可動部32が停止状態に保持される。
また、上述した制御により停止している可動部32の駆動を開始する始動時には、次のような制御動作を行う。図15は、この始動時における各要素の速度関係の一例を示している。具体的には、第1および第3の電機子4a,6aへの電力供給と第1および第3の移動磁界の制御を、上述した停止状態と同様に行うとともに、第2電機子5aにおいて発電を行う。この始動の開始時、図15に破線で示すように、この発電に伴って発生する第2および第4の移動磁界は、可動部32に対して第1および第3の移動磁界が後進方向に移動することと、可動部32が停止状態にあり、コア相対速度VCRが値0であることから、可動部32に対して前進方向に移動する。一方、前述したように、第1および第2のコア7a,8aへの第1および第2の磁力線G1,G2による磁力の作用に伴って、第1および第2のコア7a,8aから第1〜第3の電機子4a〜6aに作用する反力が、可動部32に推力として作用する。このため、この状態では、前述した第1駆動用等価推力および第2発電用等価推力は、第1および第2のコア7a,8aならびに第1〜第3の電機子4a〜6aを介して、可動部32を前進方向に駆動するように作用する。この状態から、可動部32に対して前進方向に移動する第2および第4の移動磁界の第2移動磁界相対速度VMF2Rを、値0になるように制御する。以上により、図15に太い実線で示すように、コア相対速度VCRが後進方向に上昇し、すなわち、可動部速度VMMが前進方向に上昇する。
そして、第2移動磁界相対速度VMF2Rが値0になった後には、第2電機子5aにバッテリ14から電力を供給し、第2および第4の移動磁界を、可動部32に対して後進方向に移動させる。この場合、図13の速度共線図や前記式(2)から明らかなように、第1および第2の移動磁界相対速度VMF1R,VMF2Rを制御することによって、コア相対速度VCRを任意の大きさに、すなわち、可動部速度VMMを任意の大きさに制御することができる。
また、可動部32を後進方向に移動させる場合には、上記とは逆の制御動作が行われる。以下、この場合の制御動作を簡単に説明すると、上述した停止時と同様、第2電機子5aにバッテリ14から電力を供給するとともに、可動部32に対して第2および第4の移動磁界を前進方向に移動させる。また、第1および第3の電機子4a,6aにおいて発電を行うとともに、可動部32に対して後進方向に移動する第1および第3の移動磁界の第1移動磁界相対速度VMF1Rを、値0になるように制御する。以上により、コア相対速度VCRが前進方向に上昇し、すなわち、可動部速度VMMが後進方向に上昇する。そして、第1移動磁界相対速度VMF1Rが値0になった後には、第1および第3の電機子4a,6aにバッテリ14から電力を供給するとともに、第1および第3の移動磁界を、可動部32に対して前進方向に移動させる。可動部32を後進方向に移動させる場合にも、第1および第2の移動磁界相対速度VMF1R,VMF2Rを制御することによって、可動部速度VMMを任意に制御することができる。なお、以上のように可動部32を前進および後進方向に移動させるいずれの場合においても、第1および第2の移動磁界相対速度VMF1R,VMF2Rは、前記式(2)が成立するように制御される。
以上のように、本実施形態によれば、第1実施形態と同様、可動部32の停止中、第1〜第4の移動磁界を移動している状態に保持できる。したがって、前述した従来の場合と異なり、可動部32の停止中、第1〜第3の電機子4a〜6aに供給される電流を、直流状態に制御せずに、交流状態に制御するとともに、その位相を変化した状態に保持できる。これにより、停止状態の可動部32の駆動を開始する始動時および可動部32の停止中に、第1〜第3の電機子4a〜6aにより大きな電流を供給でき、したがって、可動部32のより大きな推力および停止保持力をそれぞれ得ることができる。また、軌道TRに多数の界磁用のコイルを設けるのではなく、鋼板で構成された第1および第2のコア7a,8aを設けているので、非常に高い耐久性を得ることができるとともに、メンテナンスを容易に行うことができる。その他、第1実施形態の効果を同様に得ることができる。
図16は、第2実施形態の変形例を示している。この変形例では、前述した第1実施形態の変形例と同様、バッテリ14に代えて、三相の交流電源16が設けられている。また、第1PDU11が省略されており、第1および第3の電機子4a,6aは、前述したスイッチを介して交流電源16に接続されている。さらに、第2PDU17は、第1実施形態の変形例と同様、コンバータおよびインバータから成る電気回路で構成されている。
この変形例では、ECU13および第2PDU17が、本発明における制御装置に相当し、コイル4c,6cが、本発明における界磁巻線に相当する。
以上の構成により、交流電源16と第1および第3の電機子4a,6aの間がスイッチで接続されることによって、交流電源16から第1および第3の電機子4a,6aに電力が供給されると、第1および第3の移動磁界が、交流電源16からの電流の周波数に基づく一定の速度で、可動部32に対して後進方向に移動する。この場合、第2移動磁界相対速度VMF2Rを制御することによって、第2実施形態で述べたようなリニアモータ31の各種の動作が行われる。
以上から、この変形例によれば、第2実施形態の効果を同様に得ることができる。また、第1実施形態の変形例で述べたように、スイッチは、インバータで構成された第1PDU11と比較して、安価かつ小型である。したがって、第2実施形態と比較して、製造コストを削減できるとともに、リニアモータ31を小型化することができる。
なお、第1および第2の実施形態の変形例では、交流電源16の相数は、値3であるが、第1および第2の移動磁界を発生させられるのであれば、これに限らず任意である。また、これらの変形例において、第1PDU11を省略せずに、第2PDU17を省略し、第2電機子5aをスイッチを介して交流電源16に接続するとともに、第1PDU11をコンバータおよびインバータから成る電気回路で構成してもよい。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、本実施形態では、コイル4c〜6cとして、U相、V相およびW相から成る三相の界磁巻線を用いているが、移動磁界を発生可能なもの、すなわち、複数相であれば、任意の相数の界磁巻線を用いてもよい。また、本実施形態において、第2および第4の移動磁界を発生させる電機子列を、単一の第2電機子列5で構成しているが、それぞれ別個の電機子列で構成してもよい。
さらに、本実施形態では、第1および第2のコア列7,8をそれぞれ、第1電機子列4と第2電機子列5の間および第2電機子列5と第3電機子列6の間に左右方向に挟み込むように、各種の構成要素を配置しているが、図2や図12などを用いて説明した第1〜第4の電機子磁極、第1および第2のコア7a,8aの位置関係が成立するのであれば、この配置はこれに限らず任意である。例えば、第1および第2のコア列7,8を、第1および第3の電機子列4,6と第2電機子列5の間に上下方向に挟み込むように配置してもよい。この場合には、第1および第3の電機子列4,6を単一の電機子列で構成することが可能である。
また、本実施形態では、第1〜第3の電機子4a〜6aを、それらの鉄芯4c〜6cの中心が前後方向の互いに同じ位置に位置するように配置しているが、図2や図12などを用いて説明した第1〜第4の電機子磁極、第1および第2のコア7a,8aの位置関係が成立するのであれば、鉄芯4c〜6cの中心が互いにずれていてもよい。このことは、第1および第2のコア7a,8aの位置関係についても同様であり、第1および第2のコア7a,8aを、本実施形態のようにそれらの中心が所定のピッチPの半ピッチP/2分、互いにずれるように配置せずに、例えば、前後方向の同じ位置に位置するように配置してもよい。さらに、本実施形態では、第1〜第3の電機子4a〜6a、第1および第2のコア7a,8aを前後方向に等間隔で配置しているが、不等間隔で配置してもよい。
また、本実施形態では、第1および第2のコア7a,8aを鋼板で構成しているが、他の軟磁性体で構成してもよい。さらに、本実施形態では、本発明における第1および第2の制御装置や制御装置として、第1および第2のPDU11,12や、ECU13、第2PDU17を用いているが、マイクロコンピュータと電気回路の組み合わせで構成してもよい。また、本実施形態では、リニアモータ1、31に電力を供給する電源として、バッテリ14を用いているが、電力を供給可能なものであれば、例えば、キャパシタや、交流電源の電力を整流回路で直流に変換し、供給するような電源を用いてもよい。さらに、本実施形態は、車輪8a,8bを有する搬送装置や車両に本発明を適用した例であるが、本発明はこれに限らず、例えば、工作機械やベルトコンベアなどに適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。