JP5123088B2 - ゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体 - Google Patents

ゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体 Download PDF

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本発明は、ゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体に関する。
ゲスト化合物を取り込む空孔構造を持つ材料に、多種類の有機化合物を含有する混合物を通過又は接触させることによって、選択的に特定の有機化合物を取り出すことができる。このような材料としては、有機配位子を遷移金属で集合させた有機金属錯体やゼオライト等が知られており、選択的可逆的吸着剤、触媒担体等の多くの用途がある。
ゲスト成分の取り込み及び放出の機能を利用したものとして、イオン伝導特性を有する電解質が挙げられる。このような電解質は、電池、二次電池、センサデバイス等、エレクトロニクス分野における幅広い応用が可能である。
特許文献1は、ディスコチック液晶性メソーゲン基を有する高分子化合物と金属塩を含有する電解質の技術を開示している。
特開2001−338527号公報
特許文献1は、電解質の室温(30℃)でのイオン伝導率について開示しているが、そのオーダーは10−5〜10−6S/cm程度であり、例えば燃料電池の電解質膜に一般的に用いられるようなナフィオン(商品名)と比較して(10−2S/cm程度)、必ずしも高いイオン伝導率を示すものではない。また、特許文献1は、高温(たとえば100℃以上)における発電性能試験結果は開示しておらず、高温下における耐久性が必要とされる電池などへの応用が可能であるか否かについては、疑問の余地がある。
本願発明者のうちの一部は、上記実情を鑑みて、配位性部位を2つ以上有する配位子としての芳香族化合物、中心金属としての金属イオン、及び、非配位性の芳香族化合物を含む高分子錯体であって、前記芳香族化合物配位子が前記中心金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造内に、前記芳香族化合物配位子の間に前記非配位性芳香族化合物が挿入されてなる積み重ね構造を含む三次元格子状構造を有し、当該三次元格子状構造内に、ゲスト成分に対して固有の親和性を有する互いに同一な細孔からなる細孔群を2種以上備えていることを特徴とする高分子錯体を開発し、すでに特許出願を行っている(特開2006−188560)。
本発明は、上記開発の経緯を経て、さらに発展したものであり、イオンやガス状の小分子からタンパク質やその他の生体由来分子のような大分子までの特定のゲスト成分を、選択的に取り込む及び/又は放出することができる細孔群を2種以上有し、且つ、取り込んだゲスト成分を輸送することができる高分子錯体を提供することを目的とする。
本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、配位性部位を2つ以上有する配位子としての芳香族化合物、中心金属としての金属イオン、及び、非配位性の芳香族化合物を含む高分子錯体であって、前記芳香族化合物配位子が前記中心金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造内に、前記芳香族化合物配位子の間に前記非配位性芳香族化合物が挿入されてなる積み重ね構造を含む三次元格子状構造を有し、前記三次元格子状構造内に、ゲストイオンに対して同等の親和性を有する互いに同一な細孔からなる細孔群を、細孔群A及び細孔群Bを含む2種以上備え、前記芳香族化合物配位子は、下記式(2)で表される芳香族化合物であり、前記中心金属は、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、鉄及び銀から選ばれる少なくとも1つであり、前記非配位性芳香族化合物は、下記式(5)の5(a)〜5(i)から選ばれる芳香族化合物の芳香環上の、前記積み重ね構造を形成する複数の非配位性芳香族化合物間で互いに同一1ヶ所又は2ヶ所以上の位置に下記式(1)で表されるカルボン酸エステル基を有し、前記非配位性芳香族化合物は、前記カルボン酸エステル基が前記2種以上の細孔群のうち前記細孔群A又は前記細孔群Bの内面に向くように規則的に配置され、前記カルボン酸エステル基が内面に向く前記細孔群A又は前記細孔群B中に、ゲストイオンを選択的に取り込み、輸送し及び/又は放出することを特徴とする。
Figure 0005123088

上記式(1)中、波線は前記非配位性芳香族化合物の芳香環との結合部位を、Rは、直鎖脂肪族炭化水素構造、分枝鎖脂肪族炭化水素構造、直鎖脂肪族フッ化炭素構造、及び分枝鎖脂肪族フッ化炭素構造から選ばれる少なくとも一つの構造をそれぞれ示す。
上記式(2)中、Arは芳香環を有する構造である。Xは2価の有機基であるか又はArとYの間を直接結ぶ単結合である。Yは配位原子又は配位原子を含む原子団である。nは3〜6の数を表す。一分子内に含まれる複数のX同士は互いに異なっていてもよく、且つ、複数のY同士は互いに異なっていてもよい。
このような構成のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、当該高分子錯体内に形成される細孔群が、同等の親和性を有する互いに同一な複数の細孔から構成されており、2種以上のイオンを含む混合物に接触すると、接触した混合物に含まれる複数のイオンのうち、上記細孔群を構成する細孔が親和性を有する特定のゲストイオンを当該細孔内に選択的に取り込むことができ、したがって、上記式(1)で表されるカルボン酸エステル基の有するカルボニル基近傍に集合した前記ゲストイオンを、前記カルボン酸エステル基が有する前記直鎖脂肪族炭化水素構造、分枝鎖脂肪族炭化水素構造、直鎖脂肪族フッ化炭素構造、及び/又は分枝鎖脂肪族フッ化炭素構造のセグメント運動により輸送することができる。また、本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、当該高分子錯体内に2種以上の細孔群が存在するため、高分子錯体全体として2種以上のゲストイオンを取り込むことができ、且つ、1つの高分子錯体内に取り込まれた2種以上のゲストイオンは、各細孔群内で分離した状態で高分子錯体内に存在させることができる。さらに、本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、前記細孔内に取り込んだゲストイオンを選択的に放出することもできる。
本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体の一形態としては、前記三次元ネットワーク構造は、2つ以上の独立した三次元ネットワーク構造が複合化してなる、複合化三次元ネットワーク構造であるという構成をとることができる。
本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体の一形態としては、前記複合化三次元ネットワーク構造が、相互貫通構造であるという構成をとることができる。
本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、前記2種以上の細孔群から任意に選ばれる2つの細孔群間の対比において、細孔のサイズ、細孔の形状、並びに、細孔を形成する壁の内面における、前記芳香族化合物配位子及び/又は前記非配位性芳香族のπ平面が露出している領域と、前記芳香族化合物配位子及び/又は前記非配位性芳香族の水素原子が露出している領域との占有比のうち少なくとも一つが異なることが好ましい。
このような構成のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、それぞれの前記細孔群を構成する細孔の、特定のゲストイオンに対する親和性を高め、各細孔がより選択的に特定のゲストイオンを取り込むことができる。
本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体の一形態としては、前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔が、細長いチャンネル形状を有しているという構成をとることができる。
本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接円の直径が、2〜70Åであることが好ましい。
このような構成のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、イオンを細孔内に効率よく取り込むことができる。
本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接楕円の長径が、5〜70Åであり、当該内接楕円の短径が、2〜50Åであることが好ましい。
このような構成のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、イオンを細孔内に効率よく取り込むことができる。
本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、前記芳香族化合物配位子としての前記式(2)で表される芳香族化合物が、トリス(4−ピリジル)トリアジンであり、前記非配位性芳香族化合物としての前記縮合多環芳香族化合物が、トリフェニレン誘導体及びペリレン誘導体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
このような構成のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、前記芳香族化合物配位子として、比較的電子不足な配位子である、トリス(4−ピリジル)トリアジン[2,4,6−トリス(4−ピリジル)1,3,5−トリアジン]を有することから、非配位子芳香族化合物との電荷移動による相互作用が強く、より強固に安定化した非配位子芳香族化合物との積み重ね構造を形成することができる。また、本発明の高分子錯体は、前記非配位性芳香族化合物として、ある程度広がりを持った平面形状を有する縮合多環芳香族化合物である、トリフェニレン誘導体及びペリレン誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物を有することから、前記芳香族化合物配位子との積み重ね構造を安定なものとすることができる。
本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、前記カルボン酸エステル基は、前記高分子錯体内において、ファンデルワールス力よりも大きい分子間相互作用を発現できるものであることが好ましい。
このような構成のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、前記ゲストイオンを効率よく取り込むことができる。
本発明のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、前記三次元ネットワーク構造内の前記積み重ね構造において、前記非配位性芳香族化合物のHOMO(最高被占軌道)と、前記芳香族化合物配位子のLUMO(最低空軌道)が、軌道形状の重なりを有しており、その積層構造が安定化されたことが好ましい。
このような構成のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体は、前記非配位性芳香族化合物と当該非配位性芳香族化合物に導入される前記カルボン酸エステル基、及び、前記芳香族化合物配位子を適切に選択することで、高分子錯体内に形成される前記積み重ね構造を予測することができ、効率的な分子設計が可能である。
本発明によれば、本発明の高分子錯体内に形成される細孔群が、固有の親和性を有する互いに同一な複数の細孔から構成されており、2種以上の成分を含む混合物に接触すると、接触した混合物に含まれる複数の成分のうち、上記細孔群を構成する細孔が親和性を有する特定のゲスト成分を当該細孔内に選択的に取り込むことができ、したがって、上記式(1)で表されるカルボン酸エステル基の有するカルボニル基近傍に集合した前記ゲスト成分を、前記カルボン酸エステル基が有する前記鎖状分子構造のセグメント運動により輸送することができる。また、本発明によれば、本発明の高分子錯体内に2種以上の細孔群が存在するため、高分子錯体全体として2種以上のゲスト成分を取り込むことができ、且つ、1つの高分子錯体内に取り込まれた2種以上のゲスト成分は、各細孔群内で分離した状態で高分子錯体内に存在させることができる。さらに、本発明によれば、前記細孔内に取り込んだゲスト成分を選択的に放出することもできる。
本発明のゲスト成分伝導特性を有する高分子錯体は、配位性部位を2つ以上有する配位子としての芳香族化合物、中心金属としての金属イオン、及び、非配位性の芳香族化合物を含む高分子錯体であって、前記芳香族化合物配位子が前記中心金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造内に、前記芳香族化合物配位子の間に前記非配位性芳香族化合物が挿入されてなる積み重ね構造を含む三次元格子状構造を有し、前記三次元格子状構造内に、ゲスト成分に対して固有の親和性を有する互いに同一な細孔からなる細孔群を2種以上備えており、前記非配位性芳香族化合物は自己の芳香環上の特定位置に下記式(1)で表されるカルボン酸エステル基を有し、前記非配位性芳香族化合物は、前記カルボン酸エステル基が前記2種以上の細孔群のうち特定の細孔群Qの内面に向くように規則的に配置され、前記細孔群Q中に、ゲスト成分を選択的に取り込み、輸送し及び/又は放出することを特徴とする。
Figure 0005123088
(式中、波線は前記非配位性芳香族化合物の芳香環との結合部位を、Rは鎖状分子構造をそれぞれ示す。)
本発明者らの一部が既に特許出願(特開2006−188560)を行った高分子錯体内に形成される細孔群は、固有の親和性を有する互いに同一な複数の細孔から構成されており、2種以上の成分を含む混合物に接触すると、接触した混合物に含まれる複数の成分のうち、上記細孔群を構成する細孔が親和性を有する成分を当該細孔内に選択的に取り込む。高分子錯体内には2種以上の細孔群が存在するため、高分子錯体全体としては2種以上のゲスト成分を取り込むことができる。しかも、1つの高分子錯体内に取り込まれた2種以上のゲスト成分は、各細孔群内で分離した状態で高分子錯体内に存在する。また、細孔内に取り込んだゲスト成分を選択的に放出又は輸送することも可能である。
ゲスト成分伝導特性を有する高分子錯体は、上記特許出願済みの高分子錯体(特開2006−188560)を改良したものであり、前記非配位性芳香族化合物の芳香環上にカルボン酸エステル基を導入することで、当該カルボン酸エステル基の有するカルボニル基近傍に集合した前記ゲスト成分を、細孔群Qの内面に向くように配向した前記カルボン酸エステル基が有する鎖状分子構造(上記式(1)中のR)のセグメント運動により輸送することができる。
高分子錯体において、2種以上の細孔群は、ゲスト成分に対して固有の親和性を有する細孔からなり、この固有の親和性によって、細孔群ごとに異なるゲスト成分を選択的に取り込むことができる。すなわち、前記高分子錯体は、1つの高分子錯体中に含まれる2種以上の細孔群内に、それぞれ1種以上、つまり高分子錯体全体として2種以上のゲスト成分を選択的に取り込むことができる。また、細孔内に取り込んだゲスト成分を選択的に放出することも可能である。ここで、ゲスト成分を細孔内に選択的に取り込む及び細孔内から選択的に放出するとは、細孔内の雰囲気や細孔のサイズ、形状等によって、特定の成分を細孔内に取り込む及び/又は放出することの他、ゲスト交換の温度条件や雰囲気、さらには、時間によって細孔内に取り込まれるゲスト成分及び/又は細孔内から放出されるゲスト成分が選択されることも含む。
さらに、前記高分子錯体は、高分子錯体内に形成される細孔群に含まれる細孔のサイズを適宜調節することによって、イオン、ガス状の小分子等からタンパク質やその他の生体由来分子のような大分子までも細孔内に取り込むことができる。すなわち、2種以上の小分子や大分子の化合物を含む混合物から、細孔群ごとに選択的に特定の化合物を取り込むことが可能である。
従って、上記高分子錯体によれば、例えば、2種以上の成分を含有する混合物から、特定の2種以上の成分を分離し且つ当該高分子錯体中に貯蔵することが可能である。また、1種又は2種以上の成分を含有する混合物1から、特定の成分のみをある細孔群1の細孔内に取り込み、当該成分を細孔群1の細孔内に保持したまま、混合物1とは異なる1種又は2種以上の成分を含有する混合物2から、他の特定の成分をある細孔群2の細孔内に取り込むことができる。或いは、高分子錯体を、隔壁を構成する材料として用いる場合には、当該隔壁によって隔たれた領域間において、細孔群Aに選択的に取り込まれる化合物aを、細孔群A内を通して、一方、細孔群Bに選択的に取り込まれる化合物bを、細孔群B内を通して輸送させることもできる。このとき、各化合物の濃度分布や温度分布に従って化合物が移動するようにすれば、その輸送方向は、化合物aの輸送方向と化合物bの輸送方向を同じにすることも可能であるし、化合物aの輸送方向と化合物bの輸送方向が対向するようにすることも可能である。
また、細孔群ごとにそれぞれ取り込んだ2種以上のゲスト成分を、異なる条件下で、別々に放出させることができる。例えば、2種以上の細孔群にそれぞれゲスト成分を取り込んだ高分子錯体を所定条件下におく場合、この条件下に晒す時間によって、放出されるゲスト成分が異なってくる。具体的には、細孔群1及び細孔群2にそれぞれ異なる成分を取り込んだ高分子錯体を加熱することによって、まず、細孔群1に含まれる細孔内に取り込まれた成分を放出し、さらに加熱を続けることによって、細孔群2に含まれる細孔内に取り込まれた成分を放出することができる。
なお、ここでは、説明の便宜上、混合物1、細孔群1等の表現を用いて、上記高分子錯体の作用について説明したが、これら混合物1等の表現は特定の混合物、細孔群等を指すものではない。
非配位性芳香族化合物の芳香環上に導入されたカルボン酸エステル基は、その詳細な機構は完全には解明できていないものの、通常、規則性を持って2種以上の細孔群のうちの特定の細孔群の細孔内面を向いて配向する。上記カルボン酸エステル基と、上記2種以上の細孔群のうちの特定の細孔群との間に作用する相互作用、例えば、水素結合、イオン結合、双極子相互作用、四極子相互作用のような静電相互作用や、立体的相互作用に加えて、前記積み重ね構造における前記非配位性芳香族化合物のHOMOと前記芳香族化合物配位子のLUMOの節面や電子分布等の軌道形状の重なり(π−π相互作用)による安定化効果が当該カルボン酸エステル基の配向を決定している。カルボン酸エステル基が特定の細孔群の細孔内面の一部を構成することによって、当該細孔群の形状、サイズ、雰囲気が大きく変化する。その結果、同時に細孔群の細孔内環境の特性、例えば、酸塩基性、親水疎水性、極性、キラリティ、流動性等が大きく変化し、当該細孔群の特定のゲスト成分に対する親和性が変化する。
この細孔内の環境特性は、非配位性芳香族化合物の芳香環上に導入するカルボン酸エステル基の性質や、数、大きさ、さらに、2つ以上のカルボン酸エステル基を導入する場合にはその組み合わせ等によって、自在に制御可能である。例えば、カルボン酸エステル基の導入によって、カルボン酸エステル基が導入されていない非配位性芳香族化合物により構成された高分子錯体では輸送が不可能であったゲスト成分の取り込みが可能となり、また、カルボン酸エステル基が導入されていない非配位性芳香族化合物により構成された高分子錯体において、各細孔群が有している細孔内の雰囲気のみでは分離不可能な2種以上のゲスト成分を、カルボン酸エステル基の導入による細孔内の形状やサイズの変更により、分離することが可能となる。また、非配位性芳香族化合物の芳香環上に導入するカルボン酸エステル基の種類や数、導入位置等の制御により、2種以上の細孔群間の細孔内環境特性を大きく異ならしめることが可能であり、大きく特性の異なる2種以上のゲスト成分を各細孔群内に取り込み、放出及び/又は輸送等することが可能となる。
本発明の高分子錯体は、細孔を有する他の高分子との比較において、例えば、ゼオライト等のような、硬い骨格を持った材料とは非常に対照的な性質を示すと考えられる。
ゼオライトは、温度などの外部環境条件に対してもその骨格を変動させることはほとんどなく、且つ、空孔内には官能基を有していない。したがって、細孔内の雰囲気はどの細孔においてもほぼ均一であり、ゲスト成分の取り込み、放出及び/又は輸送は、どの細孔においても、またどのような外部環境条件に対しても、ほぼ同様に行われる。
しかし、本発明の高分子錯体は、外部環境条件に応じて許容できる範囲において自由にその骨格を動かすことができ、したがって、外部環境条件ごとに、また細孔群ごとに、ゲスト成分の取り込み、放出及び/又は輸送を制御することができる。
以上のように、非配位性芳香族化合物へのカルボン酸エステル基の導入により、あらゆる特性を付与した細孔を有する高分子錯体の構築が可能であり、高分子錯体の細孔内に取り込まれるゲスト成分の種類や量、その配置、さらにはそれらゲスト同士の反応速度や反応選択性等を制御することができる。また、非配位性芳香族化合物にカルボン酸エステル基を導入してなる高分子錯体は、カルボン酸エステル基の種類、数、位置等の選択肢が広く、分子設計性に優れている。
非配位性芳香族化合物の芳香環上へのカルボン酸エステル基導入は、さらに、当該非配位性芳香族化合物の高分子錯体内における配列の規則性を高めるという効果もある。上述したように、非配位性芳香族化合物に導入されたカルボン酸エステル基は、当該カルボン酸エステル基の周囲の物理化学的及び/又は立体的相互作用によって、2種以上の細孔群のうち、特定の細孔群の細孔の内面を向くように配向し、細孔内環境が固有の特性を有することとなる。この際、このような相互作用によって、スタッキングしている非配位子性芳香族化合物と芳香族化合物配位子の配列の規則性が高まり、非配位性芳香族化合物と芳香族化合物配位子とによる積み重ね構造が規則正しく形成され、そして強固な構造となる。
上記積み重ね構造の規則性、すなわち、細孔群の構造上の規則性が高くなることは、高分子錯体内における各細孔群の細孔内環境特性が均一に保たれるということである。つまり、高分子錯体の細孔群のゲスト成分に対する選択性がより高くなることを意味する。
高分子錯体において、芳香族化合物配位子が中心金属に配位してなる三次元ネットワーク構造としては、例えば、2つ以上の独立した三次元ネットワーク構造が複合化、好ましくは同一空間を共有するように複合化してなる複合化三次元ネットワーク構造が挙げられる。具体的には、複合化三次元ネットワーク構造として、2つ以上の独立した三次元ネットワーク構造が同一空間を共有するように互いに絡み合った相互貫通構造を挙げることができる。
また、本発明において、芳香族化合物とは、少なくとも1つの芳香環を有する化合物であり、置換基を有してもよいし、環内ヘテロ原子を含んでいてもよい。また、芳香族化合物配位子とは、配位性部位を2つ以上有する多座配位性の芳香族化合物である。好ましくは、当該芳香族化合物配位子を構成する全配位性部位がほぼ同一平面内に存在する芳香族化合物であり、さらに好ましくは、π共役系により芳香族化合物配位子全体として擬平面形状である、すなわち、芳香族化合物配位子の分子構造の少なくとも一部がπ共役系により一体化して安定な擬平面構造をとり、当該擬平面構造の中に全ての配位性部位が含まれている芳香族化合物配位子である。
このような擬平面状の構造を有する芳香族化合物を配位子として用いることにより、当該芳香族化合物が中心金属イオンに配位結合して形成される三次元ネットワーク構造は、より規則的な構造と剛直性を有するものとなる。三次元ネットワーク構造の規則性が増すことによって、芳香族化合物配位子と非配位性芳香族化合物との積み重ね構造が安定に形成されると同時に、より高い規則性を持った細孔、細孔群を形成することができる。また、独立した2つ以上の三次元ネットワーク構造が複合化した複合化三次元ネットワークを形成することができる場合がある。
一方、三次元ネットワーク構造が剛直性を有することによって、形成される三次元格子状構造の安定性、強度等を高く保持することができる。また、三次元ネットワーク構造が剛直性を有することによって高分子錯体の強度が比較的大きなものとなるため、強度を要するような用途における使用も可能となり、高分子錯体を利用できる技術範囲が広くなる。
以上のような観点から、好適に使用できる芳香族化合物配位子としては、例えば、一つの芳香環を中心として、当該芳香環のπ共役系により形成される平面の広がる方向に向かって等間隔の放射状に配位原子が配置されたもの等が挙げられるが、これに限定されない。
また、非配位性芳香族化合物とは、配位結合以外の結合又は相互作用によって前記芳香族化合物配位子間に入り込み、高分子錯体内に存在する芳香族化合物であり、高分子錯体内において配位結合を形成していないことを意味する。従って、ここで言う非配位性芳香族化合物は、本質的に配位結合を形成する能力を有するものであってもよい。好ましくは、分子構造に含まれる全ての芳香環がπ共役系により一体化して安定な擬平面形状を有する芳香族化合物である。このように擬平面形状を有することによって、前記芳香族化合物配位子により形成される三次元ネットワーク構造内において、非配位性芳香族化合物が芳香族化合物配位子間に挿入されやすくなり、安定した芳香族化合物配位子−非配位性芳香族化合物−芳香族化合物配位子積層構造を形成することができる。
このとき、前記芳香族化合物配位子も擬平面形状を有する場合には、芳香族化合物配位子の平面と、非配位性芳香族化合物の平面とが面しあって積み重なり合い、芳香族化合物配位子−非配位性芳香族化合物−芳香族化合物配位子間にπ−π相互作用が働く。その結果、非配位性芳香族化合物は、芳香族化合物配位子と直接的な結合を有していないが、芳香族化合物配位子間に強固に拘束されることとなり、より安定な三次元格子状構造を形成することができる。
このように芳香族化合物配位子間に強固に拘束された非配位性芳香族化合物は、一般的な芳香族化合物をゲスト成分とするゲスト交換条件下においても抽出されない。そのため、芳香族化合物配位子間に非配位性芳香族化合物が強固に拘束された積み重ね構造を有する三次元格子状構造は、当該三次元格子状構造内の細孔内に取り込まれたゲスト成分をその他のゲスト成分と交換する前後で、その構造を変化させることなく保持することができる。
ゲスト成分伝導特性を有する高分子錯体は、上記非配位性芳香族化合物が自己の芳香環上の特定位置に上記式(1)で表されるカルボン酸エステル基を有している。
カルボン酸エステル基は、非配位性芳香族化合物を構成要素とする高分子錯体内に形成される2種以上の細孔群のうち特定の細孔群Q内に入ることができれば、特に限定されず、細孔群Qの細孔内を所望の環境特性とするために、適宜選択することができる。非配位性芳香族化合物が有するカルボン酸エステル基は、1つであっても2つ以上であってもよい。また、カルボン酸エステル基を2つ以上導入する場合には、カルボン酸エステル基は1種類のみであってもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。さらに、非配位性芳香族化合物の芳香環上におけるカルボン酸エステル基の位置は、特に限定されず、複数のカルボン酸エステル基が1種の細孔群の細孔内面を向くように導入されていてもよいし、2種以上の細孔群の細孔内面にそれぞれのカルボン酸エステル基が向くように導入されていてもよい。
カルボン酸エステル基は、当該カルボン酸エステル基中のカルボニル基(C=O)の有する極性効果により、ゲスト成分とカルボニル基との間に静電的相互作用が生じるため、ゲスト成分をカルボニル基近傍に集合させることができる。
カルボン酸エステル基の有する鎖状分子構造(上記式(1)中のR)とは、化学結合、好ましくは共有結合で連結した原子団の骨格が一次元鎖状である構造をいう。直鎖であるか枝分かれ構造であるかは問わないが、少なくとも、化学結合によって橋掛けされた二次元又は三次元の網目状構造は含まないものとする。
鎖状分子構造は、セグメント運動によりゲスト成分を輸送する。ここでいうセグメント運動とは、鎖状分子構造自体の骨格周りの自由回転及び自由運動のことを指す。このようなセグメント運動により、ゲスト成分自体の拡散を高め、ゲスト成分を輸送することができる。
このような鎖状分子構造は、例えば、上述した三次元ネットワーク構造から分離した独立分子として存在する場合、鎖状分子同士で凝集を起こしてしまい、セグメント運動による輸送の効果は期待できない。本発明の高分子錯体は、このような鎖状分子構造を、三次元ネットワーク構造の細孔内に規則的に一定の間隔を保って配置することで、鎖状分子構造同士の凝集を起こすことなく、セグメント運動によってゲスト成分を輸送することができる。
前記鎖状分子構造が、直鎖脂肪族炭化水素構造、分枝鎖脂肪族炭化水素構造、直鎖脂肪族フッ化炭素構造、分枝鎖脂肪族フッ化炭素構造から選ばれる少なくとも一つの構造であることが好ましい。これらは、前記ゲスト成分をセグメント運動により輸送するために最適な前記鎖状分子構造であるからである。なお、直鎖及び分枝鎖脂肪族フッ化炭素構造は、フッ素化が部分的なものであるか、又は完全にフッ素化されているかを問わず採用することができる。
特に、分子鎖間に適度な相互作用があるという観点、及びフッ化炭素構造と比較して環境負荷が少ないという観点から、前記鎖状分子構造が直鎖脂肪族炭化水素構造であるのが最も好ましい。
また、芳香族化合物配位子間に非配位性芳香族化合物が挿入されてなる積み重ね構造とは、芳香族化合物配位子の間に前記非配位性芳香族化合物が挿入されてなる単位を少なくとも一つ含めばよいが、芳香族化合物配位子と非配位性芳香族化合物とが交互に積み重なる構造がある程度連続することが好ましい。なお、後述する高分子錯体1乃至3では、この積み重ね構造が無限に続いているが、2種以上の細孔群を形成するのに充分な積み重ね単位の数であれば無数に連続していなくてもよい。
芳香族化合物配位子と金属イオンが配位結合した充分な三次元の広がりを持つ三次元ネットワーク構造と、芳香族化合物配位子と非配位性芳香族化合物とが充分に積み重なった積み重ね構造とが形成される場合、細長いチャンネル形状の細孔が形成される。
高分子錯体内の2種以上の細孔群が固有に有するゲスト成分に対する親和性は、2種以上の細孔群から任意に選ばれる2つの細孔群間の対比において、細孔のサイズ、細孔の形状及び細孔内雰囲気のうち少なくとも一つが異なれば、互いに異なるものとなる。それぞれの細孔群を構成する細孔の、特定のゲスト成分に対する親和性を高め、各細孔がより選択的に特定のゲスト成分を取り込むようにするためには、2種以上の細孔群から任意に選ばれる2つの細孔群間の対比において、細孔のサイズ、形状、細孔内雰囲気のうち2つ以上が互いに異なることが好ましい。特に、各細孔群を構成する細孔のサイズ、細孔の形状及び細孔内雰囲気の3つ全てが互いに異なる細孔群は、ゲスト成分に対してより高い選択性を示すため好ましい。
細孔群間において、細孔内雰囲気を異ならしめる要素は、それによって細孔内雰囲気が互いに異なり、ゲスト成分に対する親和性が異なるようなものであれば特に限定されず、各ゲスト成分の性質(例えば、極性等)によって様々なものがある。非配位性芳香族化合物に導入されたカルボン酸エステル基が有する特性によって細孔内雰囲気は大きく変化するが、当該カルボン酸エステル基の特性による細孔内の修飾以外にも、例えば、細孔を形成する壁の内面において、当該壁を構成する芳香族化合物(芳香族化合物配位子及び/又は非配位性芳香族化合物)のπ平面が露出している領域と、芳香族化合物の水素原子が露出した領域との占有比が異なることによっても、細孔内の雰囲気は異なってくる。
また、細孔群間において細孔のサイズが異なる場合、ゲスト成分のサイズによって、各細孔群を構成する細孔内に取り込まれるゲスト成分の種類や当該ゲスト成分の取り込まれる量が異なってくる。細孔のサイズは、連続した1つの細孔であっても高分子錯体内における位置によって異なり、細孔サイズの最小値は細孔内に取り込めるゲスト成分の最小サイズ、細孔サイズの最大値は細孔内に取り込めるゲスト成分の最大サイズや取り込めるゲスト成分の量に大きく影響する。従って、細孔サイズの範囲はゲスト成分に対する親和性を左右する重要な要素である。
高分子錯体の三次元格子状構造内に形成される細孔は、局所的には多少蛇行しているが、その三次元格子状構造上、全体として見たときには一定の方向に伸びており、方向性を持っている。そこで、本発明においては、細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面(以下、平行面ということがある。)における細孔の内接円(以下、単に細孔の内接円ということがある。)の直径を細孔サイズの指標とすることができる。ここで細孔の延在する方向とは、細孔の局所的な蛇行を無視した1つの連続する空隙全体の方向である。
このような細孔の延在する方向は、例えば、以下のようにして決定することができる。まず、サイズを測定するチャンネルを横切る適当な方向の結晶面X(A面、B面、C面かそれぞれの対角面など)及び当該結晶面Xと一単位胞ずれた結晶面Yを選び、それぞれの結晶面X,Yにおけるチャンネルの断面図を描く。次に、それぞれの結晶面におけるチャンネルの断面形状の中心間を、立体図において直線(一点鎖線)で結ぶ(図3参照)。このとき得られる直線の方向が、チャンネルが延在する方向と一致する。そして、この得られた直線に対して最も垂直に近い角度で交差する結晶面を選び、その結晶面における細孔の内接円の直径を細孔のサイズとすることができる。
細孔のサイズのみを、細孔がゲスト成分に対して有する選択性を決定する要素として考慮した場合、この内接円の直径以下のサイズを有するゲスト成分であれば、通常細孔内に難なく取り込めることができるため、細孔のサイズを内接円の直径で定義することは大きな意味を持つ。各細孔群間の細孔サイズは、互いに異なっていればよく、その差などに限定はない。
ゲスト成分伝導特性を有する高分子錯体内に形成される細孔のサイズは、選択的に取り込みたい成分によって、適宜設計すればよく、そのサイズによって、イオン及びガス状の小分子、並びにタンパク質及びその他の生体由来分子のような大分子の成分を、細孔内に取り込むことができる。具体的には、上記内接円の直径を2〜70Å、好ましくは2〜20Åとすることができる。又は、上記平行面における細孔の内接楕円(以下、単に細孔の内接楕円ということがある)の長径を5〜70Å、当該細孔の内接楕円の短径を、2〜50Åとすることができる。各細孔群の細孔サイズが異なる場合は、上記範囲内において各細孔群の細孔サイズが互いに異なることが好ましい。
異なる細孔群間の比較要素として、上記細孔の内接円の直径と共に、細孔形状の上記内接円からのずれを規定する尺度として、上記細孔の内接楕円の短径及び長径を考慮することがさらに好ましい。
ここで、図1(b)を用いて、細孔のサイズの測定(算出)方法について、説明する。図1(b)は、高分子錯体1{[(ZnI(C)(D)](ニトロベンゼン)4(メタノール)n(C:トリス(4−ピリジル)トリアジン、D:1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン、n、zは不定比組成)の主骨格のうち、Dのみ空間充填モデルを用いて描いた図の結晶面(010)における投影図であり、細孔A及び細孔B内に取り込まれたゲスト成分は省略している。
図1(b)より、高分子錯体1において、細孔A及び細孔Bは結晶面(010)に対して垂直な方向(局所的な方向ではなく、上記したような全体的な方向)、すなわち、図1(b)の紙面に対して垂直に延びている。つまり、図1(b)の紙面が上記平行面であることから、図1(b)に示された細孔の内接円の直径、及び/又は内接楕円の長径、短径を測定し、実際のスケールに換算した値が細孔のサイズということになる。
細孔のサイズは、分子設計、例えば、三次元格子状構造を構成する芳香族化合物配位子や非配位性芳香族化合物の分子サイズ、中心金属イオンと芳香族化合物配位子の配位力、非配位性芳香族化合物に導入するカルボン酸エステル基の種類、数及び位置等によって、調節することが可能である。
また、細孔群間において細孔の形状が異なる場合、例えば、上記内接円の直径や上記内接楕円の長径及び短径がほぼ同一であっても、ゲスト成分の形状によって、各細孔群を構成する細孔内に取り込まれるゲスト成分が異なってくる。細孔の形状は、細孔群間において、少なくとも一箇所において互いに異なればよく、連続した細孔の全領域で互いに異ならなくてもよい。
細孔の形状もまた、分子設計、例えば、三次元格子状構造を構成する芳香族化合物配位子や非配位性芳香族化合物の形、非配位性芳香族化合物に導入するカルボン酸エステル基の種類、数及び位置等によって、調節することが可能である。
三次元ネットワーク構造内の前記積み重ね構造において、前記非配位性芳香族化合物のHOMO(最高被占軌道)と前記芳香族化合物配位子のLUMO(最低空軌道)が、その節面の数や位置、電子分布、エネルギーレベルについて軌道形状の重なりを有し(上述した先行技術文献(特開2006−188560)の図6参照)、その積層構造が安定化されるように、非配位性芳香族化合物と当該非配位性芳香族化合物に導入するカルボン酸エステル基、及び、芳香族化合物配位子を選択することで、高分子錯体内に形成される前記積み重ね構造を予測することができ、効率的な分子設計が可能である。なお、上述した先行技術文献(特開2006−188560)の図2Bから、非配位性芳香族化合物は、芳香族化合物配位子間のπ−π相互作用によって、芳香族化合物配位子のπ平面間に強固に挿入(インターカレート)されており、非配位性芳香族化合物と芳香族化合物配位子とは、直接の結合を有していないものの、2つの芳香族化合物配位子のπ平面間に非配位性芳香族化合物が挿入した積み重ね構造が無数連なった構造によって、高分子錯体の固体構造が安定化していると考えられる。この非配位性芳香族化合物の強固な拘束は、芳香族化合物配位子−非配位性芳香族化合物−芳香族化合物配位子間の電荷移動(CT)相互作用によるものである。
以下、高分子錯体を構成する芳香族化合物配位子、非配位性芳香族化合物、中心金属となる金属イオンについて、具体的に説明する。
芳香族化合物配位子としては、例えば、下記式(2)で表される芳香族化合物が挙げられる。
Figure 0005123088
(式中、Arは芳香環を有する構造である。Xは2価の有機基であるか又はArとYの間を直接結ぶ単結合である。Yは配位原子又は配位原子を含む原子団である。nは3〜6の数を表す。一分子内に含まれる複数のX同士は互いに異なっていてもよく、且つ、複数のY同士は互いに異なっていてもよい。)
ここで、式(2)において、Arは、擬平面構造を形成するπ平面を有し、非配位性芳香族化合物とのπ−π相互作用を有するものである。Arとしては特に限定されず、芳香族化合物配位子の分子サイズが高分子錯体内に形成される細孔のサイズにある程度影響することを考慮して適宜選択すればよい。具体的には、単環性の芳香環、特に6員環の芳香環、或いは、2〜5環性の縮合多環性の芳香環、特に6員環の芳香環が2〜5個縮合した縮合多環性の芳香環が挙げられる。
合成の容易性から、Arとしては、6員環の芳香環等の単環性芳香環が好ましい。単環性の6員環の芳香環としては、例えば、ベンゼン環、トリアジン環、ピリジン環、ピラジン環等が挙げられる。
Arは、芳香環を有する構造であればよく、一部に脂環式環状構造を含んでいてもよいし、環内ヘテロ原子を含んでいてもよい。また、−(X−Y)以外の置換基を有していてもよい。
式(2)において、ArとYとの間に介在するXについて、2価の有機基としては、高分子錯体中に形成される細孔に要求されるサイズ等によって適宜その鎖長等を選択すればよいが、比較的大きな分子サイズを有する有機化合物を取り込める細孔を形成するためには、例えば、炭素数2〜6の2価の脂肪族基、6員環の2価の単環性芳香環、6員環の芳香環が2〜4個縮合した縮合多環性芳香環が挙げられる。
ここで芳香環は、環内ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよい。また、一部に脂環式構造を含むものであってもよい。脂肪族基は、分岐構造を有していてもよいし、不飽和結合を含んでいてもよいし、ヘテロ原子を含んでいてもよい。
上記2価の有機基の具体例としては、フェニレン基、チオフェニレン、フラニレン等の単環性芳香環や、ナフチル基及びアントラセン等のベンゼン環が縮合した縮合多環性芳香環、アセチレン基、エチレン基、アミド基、エステル基等の脂肪族基、並びにこれらの基が任意の数及び順序で連結した構造を有するものが挙げられる。一分子中に含まれる複数のXは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、通常、合成の容易性の観点から、同一であることが好ましい。
Yは、中心金属となる中心金属イオンに配位することができる配位原子又は配位原子を含む原子団であり、中心金属イオンに配位して三次元ネットワーク構造を形成できるものであれば、特に限定されない。例えば、下記式(3)で表される基が挙げられる。
Figure 0005123088
式(3b)、(3c)及び(3d)は、共鳴構造をとることにより、中心金属イオンに孤立電子対を供与できる。以下に、式(3c)の共鳴構造を代表例として示す。
Figure 0005123088
Yは、配位原子そのものであってもよいし、配位原子を含む原子団であってもよい。例えば、上記4−ピリジル基(3a)は、配位原子(N)を含む原子団である。Yの配位原子が有する孤立電子対により、中心金属イオンに配位結合する際、適度な配位力が得られる点からは、上記式のうちピリジル基(3a、3f)が特に好ましい。
一分子中に含まれる複数のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
上述したように、芳香族化合物配位子は、当該芳香族化合物配位子を構成する全配位性部位がほぼ同一平面内に存在する芳香族化合物であることが好ましく、特にπ共役系により芳香族化合物配位子全体として擬平面形状であることが好ましい。すなわち、上記式(2)式で表される芳香族化合物配位子に含まれる全てのYは、ほぼ同一平面内に存在することが好ましい。特に、Arと共に、Arに結合する複数の−(X−Y)がπ共役系により一体化して安定な擬平面構造をとり、当該擬平面構造の中に全てのYが存在することが好ましい。
Arと複数の−(X−Y)がπ共役系により一体化して擬平面構造をとる芳香族化合物配位子において、−(X−Y)は剛直な直線状の構造を有し、使用を意図する環境において、その軸周り回転が制限されるものであることが、非配位性芳香族化合物との効果的なπ−π相互作用の発現の観点から好ましい。
このような観点から、上記にて例示されたもののうち、Xとしては、ArとYを直接結ぶ単結合、フェニレン基等の単環性芳香環やナフチル基及びアントラセン等の縮合多環性芳香環のような芳香環、アセチレン基及びエチレン基等の脂肪族基、並びにこれらの基が任意の数及び順序で連結した構造を有するものが好ましい。−(X−Y)が芳香環、アセチレン基、エチレン基からなる構造或いはこれらが連結した構造を有する場合には、立体障害により軸回転が制限される。さらに、芳香環、アセチレン基、エチレン基からなる構造が、π電子が非局在化した共役系を形成する場合には、立体配座のエネルギー障壁によっても軸回転が制限される。従って、上記式(2)で表される芳香族化合物配位子が一体化して擬平面構造をとることができ、安定した三次元ネットワーク構造を形成することができる。
また、Yで表される配位原子又はYに含まれる配位原子は、高分子錯体の設計の容易性の点から、上記剛直な直線状の構造を有する−(X−Y)の軸の延長方向に孤立電子対を有していることが好ましい。
Arに結合する−(X−Y)の数は、Arの構造にもよるが、通常、3〜6個である。また、−(X−Y)は、Arを中心とするほぼ同一平面内に等間隔の放射状に配位原子が配置されるように、Arに結合していることが好ましい。
以上のような、一つの芳香環含有構造Arを中心として、当該芳香環のπ共役系により形成される平面の広がる方向に向かって等間隔の放射状に配位原子が配置された構造を有する芳香族化合物配位子としては、以下の式(4)で表されるものが挙げられる。
Figure 0005123088
上記式(4)中、その電子不足状態のため、非配位子芳香族化合物との電荷移動による相互作用が強く、より強固に安定化した非配位子芳香族化合物との積み重ね構造を形成することができることから、特にトリス(4−ピリジル)トリアジン(式4a)[2,4,6−トリス(4−ピリジル)1,3,5−トリアジン]が好ましい。
一方、非配位性芳香族化合物として、具体的には、縮合多環芳香族化合物が挙げられる。既述したような理由から、分子構造に含まれる全ての環がπ共役系により一体化して安定な擬平面形状を有する芳香族化合物であることが好ましいためである。
縮合多環芳香族化合物としては、2〜7環性の化合物が挙げられる。芳香族化合物配位子との積み重ね構造が安定なものとなるように、縮合多環芳香族化合物はある程度広がりを持った平面形状を有することが好ましい。このような縮合多環芳香族化合物が有する芳香環としては、下記式(5)で表されるものが挙げられる。その中でも、トリフェニレン(5(a))及びペリレン(5(e))を用いるのが特に好ましい。
Figure 0005123088
非配位性芳香族化合物の芳香環上に導入されるカルボン酸エステル基としては、特に限定されず、高分子錯体内に形成される細孔内に入る大きさであればよい。従って、高分子錯体内に形成される細孔のサイズによって、置換基導入の効果が得られるカルボン酸エステル基は異なってくるが、カルボン酸エステル基は、上記式(1)に示す構造を有するものであり、具体的には、例えば、鎖状分子構造Rが脂肪族炭化水素及び脂肪族フッ化炭素より選ばれる少なくとも1つの基であるカルボン酸エステル基が挙げられる。
鎖状分子構造Rとしては、得られるカルボン酸エステル基が特定の細孔B内に入る大きさであれば特に限定されないが、低級炭素鎖、具体的には炭素数1〜10の炭素鎖が好ましく、特に、炭素数1〜5の炭素鎖が好ましい。
カルボン酸エステル基として、水素結合、イオン結合、静電相互作用(双極子相互作用、四極子相互作用)等の比較的強い相互作用を有するものを選択することによって、当該カルボン酸エステル基の配向及び非配位性芳香族化合物の配列を制御することが可能となる。静電相互作用や立体作用のように、ファンデルワールス力よりも大きな原子間又は分子間相互作用を発現できるカルボン酸エステル基を非配位性芳香族化合物の芳香環上に導入することにより、芳香族化合物配位子が金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造内において、芳香族化合物配位子と非配位性芳香族化合物の自己組織化による分子配列がより精密に制御され、カルボン酸エステル基自身の配向性や、芳香族化合物配位子と非配位性芳香族化合物とのスタッキング構造等の規則性が高まる。
なお、上記したような比較的強い相互作用は、上記したカルボン酸エステル基の例のいずれも発現することができる。
また、カルボン酸エステル基がその内面に配向する細孔が、ゲスト成分を取り込む、すなわち、包接挙動を示すためには、当該細孔がカルボン酸エステル基によって占有されないことが重要である。このような観点から、細孔のサイズに合わせて、カルボン酸エステル基の大きさを決定することが好ましい。なお、カルボン酸エステル基の大きさによって、カルボン酸エステル基が配向する細孔内の空間の大きさも変わってくるため、取り込みたいゲスト成分にあわせてカルボン酸エステル基の大きさを決定することもできる。
細孔の大きさ、包接しようとするゲスト成分の大きさ等によって、好ましいカルボン酸エステル基の大きさは異なってくるが、包接挙動を示す細孔を形成するという観点からは、カルボン酸エステル基は、水素原子を除く総原子数が10以下の原子団であることが好ましい。具体的には、上記鎖状分子構造Rが1〜5の炭素鎖であるカルボン酸エステル基が最も好ましい。
非配位性芳香族化合物に導入されるカルボン酸エステル基の数もまた特に限定されず、1つのみでも、複数であってもよい。カルボン酸エステル基を2つ以上導入する場合、これら複数のカルボン酸エステル基は互いに異なっていてもよいし、或いは、同じであってもよい。導入するカルボン酸エステル基の数によって、細孔の形状やサイズ、雰囲気を調整することが可能であることは既に述べた。
また、カルボン酸エステル基を導入する非配位性芳香族化合物の芳香環上の位置は特に限定されない。カルボン酸エステル基の導入位置によって、細孔の形状やサイズが変化する他、立体作用によってカルボン酸エステル基そのものの配向性が変化する可能性が考えられる。非配位性芳香族化合物に複数のカルボン酸エステル基を導入する場合には、各カルボン酸エステル基の導入位置によって、複数のカルボン酸エステル基が同一の細孔内を向くようにして、これら複数のカルボン酸エステル基で1つの細孔群を修飾したり、又は、それぞれのカルボン酸エステル基が異なる細孔内を向くようにし、各カルボン酸エステル基で異なる細孔群を修飾したりすることもできる。
上記芳香族化合物配位子が配位する中心金属イオンとしては、様々な金属イオンを適宜選んで用いればよいが、遷移金属イオンが好ましい。本発明において遷移金属とは、周期表の12族の亜鉛、カドミウム、水銀も含むものであり、中でも、周期表の8〜12族のものが好ましく、具体的には、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、鉄、銀等が好ましい。
本発明においては、中心金属イオンは、通常、金属塩等の化合物の形で三次元格子状構造内に存在する。これら中心金属イオン含む金属化合物としては、ハロゲン金属塩が挙げられ、具体的には、ZnI、ZnCl、ZnBr、NiI、NiCl、NiBr、CoI、CoCl、CoBr等が好ましく用いられる。
芳香族化合物配位子として上記式(2)、特に上記式(4)に示したような芳香族化合物、非配位性芳香族化合物として縮合多環芳香族化合物、特に上記式(5)に示したような芳香族化合物を用いた場合、高分子錯体内に形成される2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔のサイズは、上記平行面における内接円の直径を3〜10Å、特に4.5〜7.0Åの範囲、上記平行面における細孔の内接楕円の長径を5〜15Å、特に8.5〜10.0Åの範囲、当該細孔の内接楕円の短径を3〜13Å、特に6.0〜8.0Åの範囲とすることができる。このようなサイズの細孔が形成された高分子錯体は、有機化合物のような比較的大きなサイズの化合物を取り込むことができる。
ここで、芳香族化合物配位子としてトリス(4−ピリジル)トリアジン、非配位性芳香族化合物として一位にカルボキシエチルエステル基を導入したトリフェニレン(1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン)、中心原子となる金属イオンを含む金属化合物としてZnI、を用いて得られる高分子錯体を例として、高分子錯体の製造方法、高分子錯体の構造をより具体的に示す。
下記式(6)において、トリス(4−ピリジル)トリアジン(C)は、トリアジン環と3つのピリジル環がほぼ同一平面内に存在する擬平面構造を有する化合物であり、3つの4−ピリジルの窒素原子において金属イオンに配位することができる。1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)もまた、擬平面形状を有する化合物であり、トリフェニレン骨格の芳香環上の1位にカルボキシエチルエステル基(−C(O)OCHCH)が結合している。トリス(4−ピリジル)トリアジン(C)(以下、式中において、単に(C)と表すことがある)、ZnI、及び1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)(以下、式中において、単に(D)と表すことがある)から形成される三次元格子状構造を有する高分子錯体は、トリス(4−ピリジル)トリアジン(C)と1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)を共存させた状態で、ZnIと作用させることによって、生成する(式6)。
Figure 0005123088
例えば、{[(ZnI(C)(D)](ニトロベンゼン)(メタノール)(n、zは不定比組成)で表される単結晶構造を有する高分子錯体(以下、高分子錯体1ということがある)は、三層溶液(上層:ZnIのメタノール溶液、中間層:メタノール、下層:トリス(4−ピリジル)トリアジンと1−カルボキシエチルエステルトリフェニレンのニトロベンゼン−メタノール溶液)を用いて製造することができる。中間層であるメタノール層は、ZnIとトリス(4−ピリジル)トリアジン及び1−カルボキシエチルエステルトリフェニレンとが急激に混ざり合わないようにするための緩衝剤である。この三層溶液を静置し、徐々にZnIとトリス(4−ピリジル)トリアジン及び1−カルボキシエチルエステルトリフェニレンとを混ぜ合わせる(二層拡散法)ことにより、高分子錯体1を生成させる。
図1に高分子錯体1のX線結晶構造解析により得られた図を示す。図1(a)は、1−カルボキシエチルエステルトリフェニレンの空間充填モデルを示した図である。図1(b)は、紙面(結晶010面)に対して垂直な方向を軸bとするものであり、高分子錯体1の三次元格子状構造内の相互貫通構造を、後述するチャンネルA及びBが伸びる方向(軸b)に対して垂直な面において切断したものである。また、図1(c)は、細孔Bの様子を示すために、前記相互貫通構造を図1(b)とは別の角度で切断した図である。なお、図1(b)及び(c)では、チャンネルAとチャンネルBに取り込まれたゲスト成分は省略されている。
図1(b)に示すように、高分子錯体1は、複数のトリス(4−ピリジル)トリアジンとZnIが配位結合により三次元的に結びついた三次元ネットワーク構造1aと1bとが相互貫通して形成された複合化三次元ネットワーク構造を有している。三次元ネットワーク構造1aと三次元ネットワーク構造1bはZnIを共有する等の間接的或いは直接的な結合を有しておらず、互いに独立したものであり、同一の空間を共有するように互いに入り組んだ状態である。
なお、特開2006−188560のトリス(4−ピリジル)トリアジンとトリフェニレンとZnIからなる高分子錯体のゲスト交換実験において、トリフェニレンが抽出されなかったことから、積み重ね構造を形成する1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)も、高分子錯体1の主骨格の一部として機能していると考えられる。
高分子錯体1には、図1(b)に示すように、その三次元格子状構造内に規則的に配列した2種のチャンネル(A及びB)が存在する。チャンネルA及びBは、トリス(4−ピリジル)トリアジン(C)と1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)が交互に積み重なった積み重ね構造の間に、それぞれ規則的に形成されている。チャンネルAは、ほぼ円筒型であり、且つ、積み重なった無数のトリス(4−ピリジル)トリアジン(C)及び1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)のπ平面の側縁に存在する水素原子でほぼ取り囲まれている。1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)のカルボキシエチルエステル基は、チャンネルAの内面を向いて配向していない。
一方、チャンネルBは、擬三角柱型であり、且つ、その三角柱を形成する3方の面のうち、2つはトリス(4−ピリジル)トリアジン(C)のπ平面に取り囲まれ、もう1つは積み重なった無数のトリス(4−ピリジル)トリアジン(C)及び1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)のπ平面の側縁に存在する水素原子で取り囲まれている。図1(b)及び(c)に黒丸で示すように、1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)のカルボキシエチルエステル基は、チャンネルBの内面を向いており、チャンネルBの内面の一部を形成している。従って、チャンネルBは、カルボキシエチルエステル基による修飾を受け、チャンネルAと比較してゲスト成分伝導性が高くなっている。また、これらチャンネルAとチャンネルBは、若干蛇行した細長い形状を有している。
高分子錯体1において、芳香族化合物配位子であるトリス(4−ピリジル)トリアジン(C)と、非配位性芳香族化合物である1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)により形成される積み重ね構造は、X線構造解析により、D分子を構成する各原子の温度因子が小さく、結晶内におけるD配置の乱れ(ディスオーダー)がほとんど存在しないことがわかっている。この結果は、高分子錯体1において、非常に規則性の高い構造が構築できていることを示している。
さらに、チャンネルAに内接する楕円の長径と短径、及びチャンネルBに内接する円の直径は、それぞれ異なっている(チャンネルA:内接楕円長径8.5〜10.0Å、内接楕円短径6.0〜8.0Å、チャンネルB:内接円直径4.5〜7.0Å)
このように、{[(ZnI(C)(D)](ニトロベンゼン)(メタノール)(n、zは不定比組成)で表される単結晶構造を有する高分子錯体1内に形成されたチャンネルAとチャンネルBは、形状、サイズ及び雰囲気の3つが共に異なる上に、1−カルボキシエチルエステルトリフェニレンのカルボキシエチルエステル基はチャンネルBの内面にのみ向かって配向しているものである。
前記高分子錯体1とは対照的に、下記式(7)に示されるような、トリス(4−ピリジル)トリアジン(C)、ZnI、及び2−カルボキシメチルエステルトリフェニレン(D)(以下、式中において、単に(D)と表すことがある)から形成される三次元格子状構造を有する、{[(ZnI(C)(D)](ニトロベンゼン)(メタノール)(n、zは不定比組成)で表される単結晶構造を有する高分子錯体(以下、高分子錯体3ということがある)は、カルボキシメチルエステル基をチャンネルAの内面にのみ向かって配向させるものである。
Figure 0005123088
図2に高分子錯体3のX線結晶構造解析により得られた図を示す。図2(a)は、2−カルボキシメチルエステルトリフェニレンの空間充填モデルを示した図である。図2(b)は、紙面(結晶010面)に対して垂直な方向を軸bとするものであり、高分子錯体3の三次元格子状構造内の相互貫通構造を、チャンネルA及びBが伸びる方向(軸b)に対して垂直な面において切断したものである。また、図2(c)は、細孔Aの様子を示すために、前記相互貫通構造を図2(b)とは別の角度で切断した図である。なお、図2(b)及び(c)では、チャンネルAとチャンネルBに取り込まれたゲスト成分は省略されている。
図2(b)に示すように、高分子錯体3は、高分子錯体1同様に複合化三次元ネットワーク構造を有している。しかし、図2(b)及び図2(c)に示すように、高分子錯体3は、高分子錯体1とは異なり、ゲスト成分伝導特性を有するカルボキシメチルエステル基が、チャンネルBではなくチャンネルAの内面を向いており、チャンネルAの内面の一部を形成している。従って、高分子錯体3においては、チャンネルAは、カルボキシメチルエステル基による修飾を受け、チャンネルBと比較してゲスト成分伝導性が高くなっている。
後述する実施例に示すように、非配位性芳香族化合物として2−カルボキシエチルエステルトリフェニレンを有する高分子錯体2においても、高分子錯体3同様に、ゲスト成分伝導特性を有する基であるカルボキシエチルエステル基が、チャンネルAのみの内面を向いている。このことから、非配位性芳香族化合物に置換するカルボン酸エステル基の位置によって、異なるチャンネル内を区別して修飾することが可能であることが分かった。
積み重ね構造を形成しているトリス(4−ピリジル)トリアジン[芳香族化合物配位子]と1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン[非配位性芳香族化合物]との間の積層距離(最も近いもの)が3.4Åであり、ファンデルワールス力による原子間距離(3.5Å)よりも小さいことから、これら芳香族化合物配位子であるトリス(4−ピリジル)トリアジンと非配位性芳香族化合物である1−カルボキシエチルエステルトリフェニレンとの間には、ファンデルワールス力以外の相互作用、すなわち、π−π相互作用が働いていることが分かった。
以上のような高分子錯体1に代表されるゲスト成分伝導特性を有する高分子錯体は、一分子内にゲスト成分に対する親和性が異なる2種以上の細孔群を有するため、混合物と接触させると、混合物中の2種以上のゲスト成分が、ゲスト交換を経てそれぞれ異なる細孔群内に別々に包含される。これらの細孔群内に取り込まれたゲスト成分は、三次元格子状構造を構成する剛直な主骨格によって互いに隔たれている。そのため、ゲスト成分伝導特性を有する高分子錯体は、共存することができない2つ以上の成分、例えば、酸と塩基、酸化剤と還元剤等を、1つの高分子錯体内に安定した状態で貯蔵したり、高分子錯体内を別個に輸送したりすることが可能である。
さらに、ゲスト成分に対する親和性が異なる2種以上の細孔群を有するため、高分子錯体の細孔群の細孔内空間を反応場として利用する場合には、細孔内の特性制御により反応場の精密制御が可能であり、化学反応の高度制御が実現できる。例えば、特定の細孔群に特定の触媒成分を包接させたり、或いは、2種以上の細孔群間において、異なる触媒成分を包接させたりすることもできる。また、細孔群の細孔内空間を反応場として利用する場合には、特定の細孔群に反応原料を取り込んで、当該細孔群に特有の細孔内雰囲気を利用して、高選択的な物質変換も可能である。
本発明によれば、本発明の高分子錯体内に形成される細孔群が、固有の親和性を有する互いに同一な複数の細孔から構成されており、2種以上の成分を含む混合物に接触すると、接触した混合物に含まれる複数の成分のうち、細孔群を構成する細孔が親和性を有する特定のゲスト成分を当該細孔内に選択的に取り込むことができ、したがって、上記式(1)で表されるカルボン酸エステル基の有するカルボニル基近傍に集合したゲスト成分を、カルボン酸エステル基が有する鎖状分子構造のセグメント運動により輸送することができる。また、本発明によれば、本発明の高分子錯体内に2種以上の細孔群が存在するため、高分子錯体全体として2種以上のゲスト成分を取り込むことができ、且つ、1つの高分子錯体内に取り込まれた2種以上のゲスト成分は、各細孔群内で分離した状態で高分子錯体内に存在させることができる。さらに、本発明によれば、細孔内に取り込んだゲスト成分を選択的に放出することもできる。
以下に、非配位性芳香族化合物1乃至3の合成、並びに高分子錯体1乃至3の合成及び分析、さらに高分子錯体1へのゲスト成分導入に関する詳細について述べる。なお、非配位性芳香族化合物1及び2の合成に関しては、非特許文献である、Larock, R. C. et al. The Journal of Organic Chemistry,2007,72,223−232.を参考にした。
(非配位性芳香族化合物1の合成)
アルゴン雰囲気下、酢酸パラジウム81.2mg(0.36mmol)、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン200.4mg(0.36mmol)、フッ化セシウム4890.7mg(32.2mmol)、2−ブロモ安息香酸エチルエステル1662.7mg(7.3mmol)、2−(トリメチルシリル)フェニルトリフルオロメタンスルホネート6448.5mg(21.6mmol)、脱水トルエン86.4mL、脱水アセトニトリル9.6mLを混合し、110℃で24時間加熱攪拌した。その後、飽和食塩水96mLを加えて反応を停止し、ジエチルエーテル250mLを加えた後、混合溶液を分液ろうとで分離し、有機層(エーテル溶液)を取った。このエーテル溶液をシリカゲルカラムにより精製し、エーテルを留去することで、目的生成物である1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(非配位性芳香族化合物1)を382.9mg、収率17%で得ることができた。
続いて、得られた目的生成物のガスクロマトグラフ質量分析(以下、GC−MSと略す。)測定、及び核磁気共鳴(以下、NMRと略す。)分光測定を行った。
図4は、前記目的生成物のGC−MSスペクトルである。イオンの質量が300であるピークが観測され、このことから、分子式がC2116である1−カルボキシエチルエステルトリフェニレンの生成が確認された。また、255及び227のピークは、それぞれ、生成物である1−カルボキシエチルエステルトリフェニレンからエトキシ基が脱離したフラグメントイオンと、同じく生成物からエチルエステルが脱離したフラグメントイオンを示すことが分かった。
図5は、前記目的生成物のHNMRスペクトルである(300MHz、重クロロホルム中で測定)。1.28ppmにメチル基上の3つの水素を示すシグナル(t)が、4.42ppmにメチレン基上の2つの水素を示すシグナル(q)が、7.52ppmにトリフェニレン骨格上の11位の水素を示すシグナル(dd)が、7.61〜7.67ppmの範囲にトリフェニレン骨格上の3位、6位、7位、10位の4つの水素を示すシグナル(m)が、7.81ppmにトリフェニレン骨格上の2位の水素を示すシグナル(d)が、8.12ppmにトリフェニレン骨格上の12位の水素を示すシグナル(d)が、8.57〜8.61ppmの範囲にトリフェニレン骨格上の5位、8位、9位の3つの水素を示すシグナル(m)が、8.72ppmにトリフェニレン骨格上の4位の水素を示すシグナル(d)が、それぞれ観測された。
(高分子錯体1の合成)
試験管にニトロベンゼン4.0mlと、メタノール0.5mlをとり、そこに、2,4,6−トリス(4−ピリジル)−1,3,5−トリアジン(C)6.4mg(0.02mmol)を溶解し、さらに、1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(非配位性芳香族化合物1)(D)を42.0mg(0.14mmol)加えた。
次に、ZnI9.6mg(0.03mmol)をメタノール1.0mlに溶かした溶液を上層として静かに加え、約23〜25℃(室温)で約3日間静置し、高分子錯体1{[(ZnI(C)(D)](ニトロベンゼン)(メタノール)(n、zは不定比組成)を得た。
(高分子錯体1の分析)
得られた高分子錯体1について、X線結晶構造解析を行った。結果を図6に示す。図6には、結晶のデータを併せて示す。図6は、紙面(結晶010面)に対して垂直な方向を軸bとするものであり、高分子錯体1の三次元格子状構造内の相互貫通構造をチャンネルA及びBが伸びる方向(軸b)に沿って示したものである。なお、図6では、チャンネルAとチャンネルBに取り込まれたゲスト成分は省略されている。
高分子錯体1は、上述したように、それぞれ規則的に配列した2種のチャンネル(A及びB)を有しており、1−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)のカルボキシエチルエステル基は、チャンネルBの内面のみを向いて配向しており、チャンネルBの内面の一部を形成している。
(非配位性芳香族化合物2の合成)
アルゴン雰囲気下、酢酸パラジウム27.7mg(0.12mmol)、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン66.7mg(0.12mmol)、フッ化セシウム1507.1mg(9.9mmol)、4−ブロモ安息香酸エチルエステル560.1mg(2.4mmol)、2−(トリメチルシリル)フェニルトリフルオロメタンスルホネート2178.1mg(7.3mmol)、脱水トルエン28.8mL、脱水アセトニトリル3.2mLを混合し、110℃で24時間加熱攪拌した。その後、飽和食塩水30mLを加えて反応を停止し、ジエチルエーテル130mLを加えた後、混合溶液を分液ろうとで分離し、有機層(エーテル溶液)を取った。このエーテル溶液をシリカゲルカラムにより精製し、エーテルを留去することで、目的生成物である2−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(非配位性芳香族化合物2)を255.7mg、収率35%で得ることができた。
続いて、得られた目的生成物のGC−MS測定、及びNMR測定を行った。
図7は、前記目的生成物のGC−MSスペクトルである。イオンの質量が300であるピークが観測され、このことから、分子式がC2116である2−カルボキシエチルエステルトリフェニレンの生成が確認された。また、255及び227のピークは、それぞれ、生成物である2−カルボキシエチルエステルトリフェニレンからエトキシ基が脱離したフラグメントイオンと、同じく生成物からエチルエステルが脱離したフラグメントイオンを示すことが分かった。
図8は、前記目的生成物のHNMRスペクトルである(300MHz、重クロロホルム中で測定)。1.49ppmにメチル基上の3つの水素を示すシグナル(t)が、4.50ppmにメチレン基上の2つの水素を示すシグナル(q)が、7.24〜7.71ppmの範囲にトリフェニレン骨格上の6位、7位、10位、11位の4つの水素を示すシグナル(m)が、8.23ppmにトリフェニレン骨格上の3位の水素を示すシグナル(d)が、8.60〜8.72ppmの範囲にトリフェニレン骨格上の4位、5位、8位、9位、12位の5つの水素を示すシグナル(m)が、9.31ppmにトリフェニレン骨格上の1位の水素を示すシグナル(s)が、それぞれ観測された。
(高分子錯体2の合成)
試験管にニトロベンゼン4.0mlと、メタノール0.5mlをとり、そこに、2,4,6−トリス(4−ピリジル)−1,3,5−トリアジン(C)0.5mg(0.02mmol)を溶解し、さらに、2−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(非配位性芳香族化合物2)(D)を23.1mg(0.08mmol)加えた。
次に、ZnI9.6mg(0.03mmol)をメタノール1.0mlに溶かした溶液を上層として静かに加え、約23〜25℃(室温)で約3日間静置し、高分子錯体2{[(ZnI(C)(D)](ニトロベンゼン)(メタノール)(n、zは不定比組成)を得た。
(高分子錯体2の分析)
得られた高分子錯体2について、X線結晶構造解析を行った。結果を図9及び図10に示す。図10は、図9に示された結晶構造の一部分を抜き出した図であり、結晶のデータを併せて示す。図9中の結晶の向き及びゲスト成分の省略などについては、上述した高分子錯体1に関する図6と同様である。
高分子錯体2は、上述したように、それぞれ規則的に配列した2種のチャンネル(A及びB)を有しており、高分子錯体1とは異なり、2−カルボキシエチルエステルトリフェニレン(D)のカルボキシエチルエステル基は、チャンネルAの内面のみを向いて配向しており、チャンネルAの内面の一部を形成している。
(非配位性芳香族化合物3の合成)
50mLのナスフラスコに、上述した非配位性芳香族化合物2である2−カルボキシエチルエステルトリフェニレン61.4mg(0.20mmol)、メタノール2mLを加え、60℃で10分加熱攪拌し、メタノールにカルボン酸エステルを完全に溶かした。その後、0.1M水酸化ナトリウム水溶液2mL(0.2mmol)を加え、70℃で加熱攪拌した後、濃縮乾固し、余分なメタノールを留去した。乾固した後、水で洗浄し、ろ過して乾燥することで、目的生成物である2−カルボキシメチルエステルトリフェニレン(非配位性芳香族化合物3)を50.9mg、収率89%で得ることができた。
続いて、得られた目的生成物のGC−MS測定、及びNMR測定を行った。
図11は、前記目的生成物のGC−MSスペクトルである。イオンの質量が286であるピークが観測され、このことから、分子式がC2014である2−カルボキシメチルエステルトリフェニレンの生成が確認された。また、255及び227のピークは、それぞれ、生成物である2−カルボキシメチルエステルトリフェニレンからメトキシ基が脱離したフラグメントイオンと、同じく生成物からメチルエステルが脱離したフラグメントイオンを示すことが分かった。
図12は、前記目的生成物のHNMRスペクトルである(300MHz、重クロロホルム中で測定)。4.05ppmにメチル基上の3つの水素を示すシグナル(s)が、7.69〜7.76ppmの範囲にトリフェニレン骨格上の6位、7位、10位、11位の4つの水素を示すシグナル(m)が、8.26ppmにトリフェニレン骨格上の3位の水素を示すシグナル(d)が、8.66〜8.79ppmの範囲にトリフェニレン骨格上の4位、5位、8位、9位、12位の5つの水素を示すシグナル(m)が、9.39ppmにトリフェニレン骨格上の1位の水素を示すシグナル(s)が、それぞれ観測された。
(高分子錯体3の合成)
試験管にニトロベンゼン4.0mlと、メタノール0.5mlをとり、そこに、2,4,6−トリス(4−ピリジル)−1,3,5−トリアジン(C)6.5mg(0.02mmol)を溶解し、さらに、2−カルボキシメチルエステルトリフェニレン(非配位性芳香族化合物3)(D)を30.0mg(0.10mmol)加えた。
次に、ZnI9.6mg(0.03mmol)をメタノール1.0mlに溶かした溶液を上層として静かに加え、約23〜25℃(室温)で約3日間静置し、高分子錯体3{[(ZnI(C)(D)](ニトロベンゼン)(メタノール)(n、zは不定比組成)を得た。
(高分子錯体3の分析)
得られた高分子錯体3について、X線結晶構造解析を行った。結果を図13及び図14に示す。図14は、図13に示された結晶構造の一部分を抜き出した図であり、結晶のデータを併せて示す。図13中の結晶の向き及びゲスト成分の省略などについては、上述した高分子錯体1に関する図6と同様である。
高分子錯体3は、上述したように、それぞれ規則的に配列した2種のチャンネル(A及びB)を有しており、高分子錯体1とは異なり、2−カルボキシメチルエステルトリフェニレン(D)のカルボキシメチルエステル基は、チャンネルAの内面のみを向いて配向しており、チャンネルAの内面の一部を形成している。
(ゲスト成分導入)
ニトロベンゼン:メタノールの比が8:1の混合溶媒1mLに、ヨウ化ナトリウム6mg(0.04mmol)を溶かした溶液に、上述した合成方法で得られた高分子錯体2を浸漬させ、約23〜25℃(室温)で約6時間放置したところ、結晶に亀裂が入った。この結晶のX線結晶構造解析の結果から、ナトリウムイオンが高分子錯体2の細孔A内に取り込まれていることが明らかとなった。
したがって、ゲスト成分伝導特性を有するカルボキシエチルエステル基が、細孔Aの内面の一部を形成している高分子錯体2において、細孔Aのみに選択的にイオンが取り込まれていることが分かった。
高分子錯体1の主骨格の投影図である。 高分子錯体3の主骨格の投影図である。 細孔の延在する方向を決定する方法を説明する図である。 非配位性芳香族化合物1のGC−MSスペクトルである。 非配位性芳香族化合物1のHNMRスペクトルである。 高分子錯体1のX線結晶構造解析結果である。 非配位性芳香族化合物2のGC−MSスペクトルである。 非配位性芳香族化合物2のHNMRスペクトルである。 高分子錯体2のX線結晶構造解析結果である。 高分子錯体2のX線結晶構造解析結果の一部分を抜き出した図である。 非配位性芳香族化合物3のGC−MSスペクトルである。 非配位性芳香族化合物3のHNMRスペクトルである。 高分子錯体3のX線結晶構造解析結果である。 高分子錯体3のX線結晶構造解析結果の一部分を抜き出した図である。

Claims (10)

  1. 配位性部位を2つ以上有する配位子としての芳香族化合物、中心金属としての金属イオン、及び、非配位性の芳香族化合物を含む高分子錯体であって、
    前記芳香族化合物配位子が前記中心金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造内に、前記芳香族化合物配位子の間に前記非配位性芳香族化合物が挿入されてなる積み重ね構造を含む三次元格子状構造を有し、
    前記三次元格子状構造内に、ゲストイオンに対して同等の親和性を有する互いに同一な細孔からなる細孔群を、細孔群A及び細孔群Bを含む2種以上備え
    前記芳香族化合物配位子は、下記式(2)で表される芳香族化合物であり、
    前記中心金属は、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、鉄及び銀から選ばれる少なくとも1つであり、
    前記非配位性芳香族化合物は、下記式(5)の5(a)〜5(i)から選ばれる芳香族化合物の芳香環上の、前記積み重ね構造を形成する複数の非配位性芳香族化合物間で互いに同一1ヶ所又は2ヶ所以上の位置に下記式(1)で表されるカルボン酸エステル基を有し、
    前記非配位性芳香族化合物は、前記カルボン酸エステル基が前記2種以上の細孔群のうち前記細孔群A又は前記細孔群Bの内面に向くように規則的に配置され、
    前記カルボン酸エステル基が内面に向く前記細孔群A又は前記細孔群B中に、ゲストイオンを選択的に取り込み、輸送し及び/又は放出することを特徴とする、ゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体。
    Figure 0005123088

    (式中、波線は前記非配位性芳香族化合物の芳香環との結合部位を、Rは、直鎖脂肪族炭化水素構造、分枝鎖脂肪族炭化水素構造、直鎖脂肪族フッ化炭素構造、及び分枝鎖脂肪族フッ化炭素構造から選ばれる少なくとも一つの構造をそれぞれ示す。)
    Figure 0005123088

    (式中、Arは芳香環を有する構造である。Xは2価の有機基であるか又はArとYの間
    を直接結ぶ単結合である。Yは配位原子又は配位原子を含む原子団である。nは3〜6の
    数を表す。一分子内に含まれる複数のX同士は互いに異なっていてもよく、且つ、複数の
    Y同士は互いに異なっていてもよい。)
    Figure 0005123088
  2. 前記三次元ネットワーク構造は、2つ以上の独立した三次元ネットワーク構造が複合化してなる、複合化三次元ネットワーク構造である、請求項1に記載のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体。
  3. 前記複合化三次元ネットワーク構造が、相互貫通構造である、請求項2に記載のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体。
  4. 前記2種以上の細孔群から任意に選ばれる2つの細孔群間の対比において、細孔のサイズ、細孔の形状、並びに、細孔を形成する壁の内面における、前記芳香族化合物配位子及び/又は前記非配位性芳香族のπ平面が露出している領域と、前記芳香族化合物配位子及び/又は前記非配位性芳香族の水素原子が露出している領域との占有比のうち少なくとも一つが異なる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体。
  5. 前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔が、細長いチャンネル形状を有している、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体。
  6. 前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接円の直径が、2〜70Åである、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体。
  7. 前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接楕円の長径が、5〜70Åであり、当該内接楕円の短径が、2〜50Åである、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体。
  8. 前記芳香族化合物配位子としての前記式(2)で表される芳香族化合物が、トリス(4−ピリジル)トリアジンであり、前記非配位性芳香族化合物としての前記縮合多環芳香族化合物が、トリフェニレン誘導体及びペリレン誘導体から選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体。
  9. 前記カルボン酸エステル基は、前記高分子錯体内において、ファンデルワールス力よりも大きい分子間相互作用を発現できるものである、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体。
  10. 前記三次元ネットワーク構造内の前記積み重ね構造において、前記非配位性芳香族化合物のHOMO(最高被占軌道)と、前記芳香族化合物配位子のLUMO(最低空軌道)が、軌道形状の重なりを有しており、その積層構造が安定化された、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のゲストイオン伝導特性を有する高分子錯体。
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