本発明の発明者らは、複数チャネルの送信信号を、複数の送受信アンテナ間の空間相関行列の固有値に属する固有ベクトルに応じたウェイトによって重み付け合成して、複数のアンテナに供給することにより、複数の送信ビームを形成するマルチアンテナ送信装置(すなわち、固有モードを用いてビーム送信するマルチアンテナ送信装置)において、固有値の大きさを積極的に活用すれば、比較的簡単な選択手順で、データ伝送速度と伝送品質とを両立させることができると考え、本発明に至った。
本発明の骨子は、他の信号に比して高い品質が要求される送信信号を送信する際には、送信ビーム数を減らすと共に、当該高い品質が要求される送信信号を大きな固有値に属する固有ベクトルを優先的に用いてベクトル多重して送信ビームを形成するようにしたことである。
先ず、本発明に係る実施の形態を具体的に説明する前に、本発明で用いる固有モードについて簡単に説明する。
MIMOシステムでは、受信局だけでなく送信局側においてもチャネル状態情報(CSI:Channel State Information)が既知である場合に、送信局が送信のチャネルシグネチャベクトル(channel signature vector)を用いてベクトル化した信号を送信アレーアンテナより受信局に対して送信し、受信局が受信アレーアンテナの受信信号から送信のチャネルシグネチャベクトルに対応付けられた受信のチャネルシグネチャベクトルを用いて送信信号を検出し復調する、通信方法を実現できる。
特に、通信空間に複数のチャネルを構成し信号を同一時間で多重伝送する通信モードとして、チャネル行列(複数の送受信アンテナ間の空間相関行列、換言すれば、送信アレーアンテナの各アンテナ素子と受信アレーアンテナの各アンテナ素子の全て又は一部の組み合わせの複素チャネル係数を要素とする行列)の固有値に属する特異ベクトル(singular vector)又は固有ベクトル(eigen vector)を利用した固有モード(eigenmode)がある。なお本実施の形態では、上記特異ベクトルと固有ベクトルをまとめて固有ベクトルと呼ぶことにする。この固有モードは、固有ベクトルを前述したチャネルシグネチャベクトルとして利用する方法である。この固有モードを用いれば、通信空間で同一時間で多重された各チャネルは、独立のパスと見なすことができるようになる。
固有モードは、特にMIMOシステムの無線チャネルが狭帯域のフラットフェージング過程として扱える場合には、MIMOシステムのチャネルキャパシティを最大にできるという特徴がある。例えば、OFDMを採用した無線通信システムでは、マルチパス遅延波によるシンボル間干渉を取り除くためガードインターバルを挿入し、OFDMの各サブキャリアはフラットフェージング過程となるような設計を行うのが一般的である。したがって、MIMOシステムにおいてOFDM信号を送信する場合、固有モードを用いることによって、例えば各サブキャリアで複数の信号を空間的に多重化して伝送することが可能となる。
因みに、送信局(基地局を想定する)が下り回線のチャネル状態情報を得る方法としては、無線回線の上りと下りで同一の周波数キャリアを利用するTDDでは、チャネルの双対性(reciprocity)により、受信局(端末を想定する)からの上り回線を用いて送信局においてチャネル状態情報の推定(estimating)又は測定(measuring)をすることが可能である。一方で、上りと下りで異なる周波数キャリアを利用するFDDでは、受信局において下り回線のチャネル状態情報を推定または測定し、その結果を送信局へ通知(reporting)することにより、送信局において下り回線の正確なCSIを得ることできる。
MIMOシステムを利用した通信方法としては、送信局及び受信局において下り回線のチャネル状態情報を既知とする固有モードに対して、受信局においてのみ無線チャネルのチャネル状態情報を既知とする方法がいくつか提案されている。固有モードと同じ目的である空間的に信号を多重化して伝送する方法としては、例えばBLASTが知られている。また信号の多重度を犠牲にし、つまりキャパシティを増加させるためでなくアンテナの空間ダイバーシチ効果得る方法としては、例えば時空間符号を用いた送信ダイバーシチが知られている。固有モードが送信アレーアンテナで信号をベクトル化して送信する、言い換えると信号をビーム空間(beam space)にマッピングしてから送信するビーム空間モードであるのに対して、BLASTや送信ダイバーシチは信号をアンテナエレメント(antenna element)にマッピングすることからアンテナエレメントモードであると言うことができる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1に、本発明の実施の形態1に係るマルチアンテナ送信装置と、マルチアンテナ受信装置の構成を示す。本実施の形態では、マルチアンテナ送信装置100が基地局に設けられ、マルチアンテナ受信装置200が端末に設けられた場合を例に説明する。
マルチアンテナ送信装置100とマルチアンテナ受信装置200は、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)システムを構成し、固有モードに代表されるビーム空間モードを用いたチャネル多重通信を行うようになっている。
マルチアンテナ送信装置100はチャネル解析部107を有する。チャネル解析部107は、マルチアンテナ送信装置100とマルチアンテナ受信装置200の複数の送受信アンテナ間の伝搬チャネルの推定結果であるチャネル状態情報に基づいて、複数の送受信アンテナ間のチャネル行列(空間相関行列)を求め、このチャネル行列の特異値を解析(SVD(SVD:Singular Value Decomposition))することで、チャネル行列の固有値(例えば、λA、λB、λC、・・・、λX)を求める。ここでこのチャネル行列の固有値は、各チャネルの固有パス(例えば、パスA、パスB、パスC、・・・、パスX)のパスゲインを示すものでもある。またチャネル解析部107は、チャネル状態情報に基づいて、多重化チャネルを構成するために複数の送信チャネルのチャネルシグネチャベクトル(本実施の形態の場合、固有ベクトル)を算出する。チャネル解析部107は、求めた固有値及びチャネルシグネチャベクトル(固有ベクトル)を制御部108に送出する。
ビーム制御手段としての制御部108は、固有値の大きさの順序を参考にして、多重フレーム生成部101、符号化・変調部103A〜103X及びベクトル多重化部105を制御する制御信号109を形成する。実際上、制御部108は、制御信号109として、多重フレーム生成部101には多重フレーム構成を制御するための信号を、符号化・変調部103A〜103Xには符号化率及び変調方式を制御するための信号を、ベクトル多重化部105にはベクトル多重に使用するチャネルシグネチャベクトル(固有ベクトル)を送出する。
マルチアンテナ送信装置100は、多重フレーム生成部101に送信ディジタル信号及び制御信号109を入力する。多重フレーム生成部101は、制御信号109に基づき、多重化チャネルへマッピングするための複数の送信フレームとして、チャネルAの送信ディジタル信号102A、チャネルBの送信ディジタル信号102B、・・・、チャネルXの送信ディジタル信号102Xを形成し、これらを符号化・変調部103A〜103Xに送出する。
各符号化・変調部103A〜103Xは、制御信号109に基づき、符号化率及び変調方式を決定し、その符号化率及び変調方式で符号化及び変調を行うことにより、チャネルAのベースバンド信号104A〜チャネルXのベースバンド信号104Xを得、これをベクトル多重化部105に送出する。
ベクトル多重化部105は、制御信号109に基づき、チャネルA〜Xのベースバンド信号104A〜104Xに個別にチャネルシグネチャベクトルを乗算し加算することで、ベースバンド信号104A〜104Xをベクトル多重し、ベクトル多重後の信号を送信アレイアンテナ106に供給する。換言すると、ベクトル多重化部105は、複数チャネルの送信信号を、複数の送受信アンテナ間の空間相関行列の固有値に属する固有ベクトルを用いてベクトル多重して、複数のアンテナに供給することにより、送信ビーム(固有パスの信号)を形成する。
このようにして、マルチアンテナ送信装置100は、マルチアンテナ受信装置200に対して、固有モードでの送信を行う。
次に、マルチアンテナ受信装置200の構成について説明する。マルチアンテナ受信装置200はチャネル解析部208を有する。チャネル解析部208は、複数の送受信アンテナ間の伝搬チャネルの推定結果であるチャネル状態情報に基づいて、多重化された送信信号を分離するために複数のチャネルシグネチャベクトル209を算出し、これを多重信号分離部202に送出する。
多重信号分離部202は、受信アレーアンテナ201で受信した各受信信号に、各々のチャネルシグネチャベクトルを掛け合わせることにより、チャネルA〜Xについての受信信号203A〜203Xを得、これらを復号化部204A〜204Xに送出する。
各復号化部204A〜204Xは、チャネルA〜Xの受信信号203A〜203Xを、送信方法情報(変調方式、符号化率の情報)211に基づいて復号することにより、チャネルA〜Xのディジタル信号205A〜205Xを得、これらを受信データ合成部206に送出する。
ここで、送信方法情報211は、送信方法情報検出部210によって、チャネルAのディジタル信号205Aから抽出される。送信方法情報211には、変調方式や符号化率の情報に加えて、多重フレームの情報等も含まれる。
受信データ合成部206は、チャネルA〜Xのディジタル信号205A〜205X及び送信方法情報211を入力し、ディジタル信号205A〜205Xを送信方法情報(多重フレームの情報)211に基づいて合成することにより、受信ディジタル信号を得る。
かかる構成に加えて、マルチアンテナ送信装置100は、他の信号に比して高い品質が要求される信号は、大きな固有値に属する固有ベクトルを優先的に用いてベクトル多重するようになっている。これにより、高い品質が要求される信号の固有パス(送信ビームと呼ぶこともできる)を太くすることができるので、この信号の伝送品質を高めることができる。因みに、固有値λの固有パスの振幅利得(パスゲイン)は√λとなる。
さらに、マルチアンテナ送信装置100は、他の信号に比して高い品質が要求される信号を送信している時間は、他の信号を送信しないようになっている。つまり、高い品質が要求される信号をパスゲインの大きな固有パスで送信している時間は、他の固有パスで他の信号を送信しないようになっている。これにより、固有パス間での干渉がなくなるので、高い品質が要求される信号の伝送品質を一段と高めることができる。
つまり、本実施の形態のマルチアンテナ送信装置100においては、他の信号に比して高い品質が要求される送信信号を送信する際には、送信ビーム数を減らす(送信に用いる固有パス数を減らす)と共に当該送信信号を大きな固有値に属する固有ベクトルを優先的に用いてベクトル多重して送信ビームを形成する(すなわち高い品質が要求される信号を優先的にパスゲインの大きな固有パスで送信する)ことにより、高い品質が要求される信号の伝送品質を高めることができる。
図2を用いて、マルチアンテナ送信装置100の動作を具体的に説明する。本実施の形態では、他の信号に比して高い品質が要求される送信信号を、プリアンブル及び制御情報シンボルとする。すなわち、プリアンブルは受信側で伝搬路や時間による伝送路の変動及び周波数オフセット量の変動を推定するために用いられ、制御情報シンボルは受信側に変調方式、符号化率、データ伝送量等の送受信機間のプロトコルに関する制御情報を通知するために用いられるので、これらの信号は通信を確立するために重要な信号なので、データシンボル等の他の信号に比して高い品質で正確に伝送する必要がある。
図2は、マルチアンテナ送信装置100(以下これを基地局と呼ぶこともある)から送信する信号のフレーム構成を示すものである。図2の中で、201はプリアンブルを示し、マルチアンテナ受信装置200(以下これを端末と呼ぶこともある)はこのプリアンブルを利用することで、信号の検出や周波数オフセットの推定等を行う。202は制御情報シンボルを示し、基地局はこのシンボルによって端末に各チャネルの変調方式、符号化率、送信するデータの伝送量等の情報を伝送する。203はデータシンボルを示す。204はパイロットシンボルを示し、既知のシンボルであり、端末はこのシンボルを用いてデータシンボルの伝送路歪みによる影響(チャネル変動)を推定する。
ここで、本実施の形態では、固有値λA、λB、λC、・・・、λXが、λA>λB>λC>・・・>λXの関係にあったと仮定する。このとき、マルチアンテナ送信装置100は、図2(A)に示すように、最大固有値λAが得られる固有パス(パスAつまりチャネルAに相当)でプリアンブル201、制御情報シンボル202を送信する。加えて、図2(B)、(C)に示すように、残りの固有パス(パスB〜XつまりチャネルB〜Xに相当)では、信号を送信しない。
このように、高い伝送品質が求められるプリアンブル201、制御情報シンボル202を、最もパスゲインの高い固有パスで送信しかつ他の固有パスでは信号を送信しないようにしたことにより、プリアンブル201、制御シンボル202を高品質伝送できるようになる。
因みに、図2中の時間0〜4の期間はチャネルAからのみ信号を送信し、この期間は他のチャネルB〜Xでは信号を送信しないので、その分だけデータ伝送量が少なくなるが、プリアンブル201や制御情報シンボル202のシンボル数はデータシンボルのシンボル数と比較して非常に少ないので、データ伝送速度の低下は僅かである。最終的なデータ伝送速度を考えると、プリアンブル201、制御情報シンボル202のみを送信する期間を設けることに起因する伝送速度の低下よりも、プリアンブル201、制御情報シンボル202を高品質伝送できることによってシステムが安定化ことによる伝送速度の向上効果の方が大きくなる。
さらに、本実施の形態においては、図2からも分かるように、固有値の大きなチャネルのデータほど変調多値数の大きな変調方式で変調するようになっている。図2の場合には、チャネルAの固有値λAの方がチャネルBの固有値λBよりも大きいので、チャネルBのデータはQPSKで変調するのに対して、チャネルAのデータはそれよりも変調多値数の大きい16QAMで変調するようになっている。これにより、誤り率特性を劣化させずに一段と多くのデータをできるようになる。すなわち、チャネルAは固有値λAが大きい固有パスで送信されるので、変調多値数を大きくしても誤りは生じ難い。よって、チャネルAに関しては、変調多値数の大きな変調方式を用いて高速データ伝送を行う。これに対して、チャネルBはチャネルAよりも小さな固有値λBの固有パスで送信されるので、チャネルAと同じ変調多値数の変調方式を用いる誤り率特性が劣化するおそれがある。よって、チャネルBに関しは、チャネルAよりも変調多値数の小さな変調方式を用いる。これにより、高速データ伝送と高品質伝送とを一段と両立できるようになる。
かくして本実施の形態によれば、他の信号に比して高い品質が要求される送信信号を送信する際には、送信ビーム数を減らす(すなわち送信に用いる固有パス数を減らす)と共に当該送信信号を大きな固有値に属する固有ベクトルを優先的に用いてベクトル多重して送信ビームを形成する(すなわち高い品質が要求される信号を優先的にパスゲインの大きな固有パスで送信する)ようにしたことにより、比較的簡単な選択手順で、データ伝送速度と伝送品質とを両立させることができるマルチアンテナ送信装置100を実現できる。
また固有値の大きな固有パスで送信されるデータの変調多値数を、固有値の小さな固有パスで送信されるデータの変調多値数よりも大きくしたことにより、一段とデータ伝送速度と伝送品質を両立させることができるようになる。
なお本実施の形態では、本発明をシングルキャリア通信に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、OFDMやスペクトル拡散通信方式に適用した場合でも同様の効果を得ることができる。
最後に、参考のために、マルチアンテナ送信装置100とマルチアンテナ受信装置200とでのチャネル状態情報を共有するための一つの方法を、図3を用いて説明する。
<1>はじめに、端末は、基地局に対し、通信の要求を行う。
<2>次に、基地局は、端末に対し、チャネル情報を推定するためのトレーニングシンボル(例えば既知信号)の送信を要求する。
<3>端末は、トレーニングシンボルを送信する。
<4>基地局は、端末が送信したトレーニングシンボルから、チャネル状態を推定する。
<5>基地局は、推定したチャネル状態の情報を端末に送信する。
<6>端末は、チャネル状態の情報を取得したことの通知、及び、データ送信の要求を基地局に対し行う。
<7>基地局は、各ビーム(各チャネル)の変調方式、符号化率を決定し、データを端末に送信する。
以上のような方法をとることで、基地局と端末はチャネル状態情報を共有することができる。
(実施の形態2)
本実施の形態では、比較的簡単な手順で、データ伝送速度と伝送品質を両立させることができる再送方法について説明する。
本実施の形態の特徴は、再送信号を送信する際には、前回送信時よりも送信ビーム数を減らす(すなわち送信に用いる固有パス数を減らす)と共に再送信号を前回送信時よりも大きな固有値に属する固有ベクトルを用いてベクトル多重して送信ビームを形成する(前回よりもパスゲインの大きな固有パスで送信する)ようにすることである。
図4に、本実施の形態のマルチアンテナ送信装置の構成を示す。また図5に、本実施の形態のマルチアンテナ受信装置の構成を示す。本実施の形態では、マルチアンテナ送信装置400が基地局に設けられ、マルチアンテナ受信装置500が端末に設けられた場合を例に説明する。よって、以下の説明では、マルチアンテナ送信装置400を基地局と呼び、マルチアンテナ受信装置500を端末と呼ぶことがある。
マルチアンテナ送信装置400は、受信アンテナ418及び受信部419を介してチャネル解析部420にチャネル状態情報を入力する。また受信アンテナ418及び受信部419を介してフレーム構成部416に端末からのACK(Acknowledge)/NACK(Negative Acknowledge)信号415を入力する。
因みに、受信部419では、上述した図3でも説明したように、端末が送信したトレーニングシンボルに基づいてチャネル状態を推定し、推定結果をチャネル状態情報として出力する。
チャネル解析部420は、マルチアンテナ送信装置400とマルチアンテナ受信装置500の複数の送受信アンテナ間の伝搬チャネルの推定結果であるチャネル状態情報に基づいて、複数の送受信アンテナ間のチャネル行列(空間相関行列)を求め、このチャネル行列の特異値を解析することで、チャネル行列の固有値を求める。またチャネル解析部420は、チャネル状態情報に基づいて、多重化チャネルを構成するために複数の送信チャネルのチャネルシグネチャベクトル(本実施の形態の場合、固有ベクトル)を算出する。チャネル解析部420は、求めた固有値及びチャネルシグネチャベクトル(固有ベクトル)を制御部421に送出する。
ビーム制御手段としての制御部421は、固有値の大きさの順序を参考にして、ベクトル多重化部406を制御する制御信号422を形成する。実際上、制御部421は、制御信号422として、ベクトル多重に使用するチャネルシグネチャベクトル(固有ベクトル)を送出する。
フレーム構成信号生成部416は、端末が送信したACK(Acknowledge)/NACK(Negative Acknowledge)信号415の情報に基づき、フレーム構成を制御するためのフレーム構成信号417を生成し、これを符号化・変調部404A、404Bに送出する。フレーム構成については図7を用いて後で詳しく説明する。
またマルチアンテナ送信装置400は、チャネルAの送信ディジタル信号401A、チャネルBの送信ディジタル信号401Bをそれぞれ、符号化・変調部404A、404B及び記憶部402A、402Bに入力する。記憶部402A、402Bは記憶した送信ディジタル信号403A、403Bを符号化・変調部404A、404Bに送出する。記憶部402A、402Bに記憶された送信ディジタル信号403A、403Bは再送信号として用いられる。
符号化・変調部404Aは、チャネルAのディジタル信号401A、記憶されたチャネルAのディジタル信号403A、フレーム構成信号417を入力とし、フレーム構成信号417に従って、チャネルAのディジタル信号401A又は記憶されたチャネルAのディジタル信号403Aのいずれかを符号化及び変調し、これにより得たチャネルAの変調信号405Aをベクトル多重化部406に送出する。同様に、符号化・変調部404Bは、チャネルBのディジタル信号401B、記憶されたチャネルBのディジタル信号403B、フレーム構成信号417を入力とし、フレーム構成信号417に従って、チャネルBのディジタル信号401B又は記憶されたチャネルBのディジタル信号403Bのいずれかを符号化及び変調し、これにより得たチャネルBの変調信号405Bをベクトル多重化部406に送出する。
ベクトル多重化部406は、制御情報422に基づき、チャネルA、Bの変調信号405A、405Bにチャネルシグネチャベクトルを乗算し加算することで、変調信号405A、405Bをベクトル多重し、ベクトル多重後の変調信号#1(407_1)、#2(407_2)を出力する。
ベクトル多重後の変調信号#1(407_1)、#2(407_2)はそれぞれ、シリアルパラレル変換部(S/P)408_1、408_2によってシリアルパラレル変換されてパラレル信号409_1、409_2とされ、逆フーリエ変換部(ifft)410_1、410_2によって逆フーリエ変換されてOFDM信号411_1、411_2とされる。OFDM信号411_1、411_2は、無線部412_1、412_2によって周波数変換等の所定の無線処理が施されることで送信信号#1(413_1)、#2(413_2)とされ、各送信信号#1(413_1)、#2(413_2)がアンテナ414_1、414_2から送信される。
図5のマルチアンテナ受信装置500は、アンテナ501_1、501_2で受信した受信信号#1(502_1)、#2(502_2)を、無線部503_1、503_2に入力する。無線部503_1、503_2は、受信信号#1(502_1)、#2(502_2)に対して、周波数変換等の所定の無線処理を施すことで、ベースバンドのOFDM信号#1(504_1)、#2(504_2)を得、これをフーリエ変換部(fft)505_1、505_2に送出する。
フーリエ変換部505_1、505_2は、ベースバンドのOFDM信号#1(504_1)、#2(504_2)をフーリエ変換する。フーリエ変換後の信号#1(506_1)、#2(506_2)は、多重信号分離部509及びチャネル状態情報検出部507に送出される。
チャネル状態情報検出部507は、図3のように手続きを取った場合に、フーリエ変換後の信号#1(506_1)、#2(506_2)に挿入された基地局からのチャネル状態情報を検出し、さらに、多重化された送信信号を分離するために複数のチャネルシグネチャベクトル508を算出し、これを多重信号分離部509に送出する。
多重信号分離部509は、フーリエ変換後の信号#1(506_1)、#2(506_2)に、各々のチャネルシグネチャベクトルを掛け合わせることにより、チャネルAの変調信号510A、チャネルBの変調信号510Bを得、これらを復号部515A、515B、伝送路推定部511A、511B、周波数オフセット推定部513A、513Bに送出する。またチャネルAの変調信号510Aを制御情報検出部517に送出する。
制御情報検出部517は、チャネルAの変調信号510Aから図2における制御情報シンボル202を検出し、各復号部515A、515Bに、変調方式、符号化率等の情報を含む制御情報518を送出する。
各伝送路推定部511A、511Bは、チャネルA、Bの変調信号510A、510Bから図2におけるチャネルA、Bのパイロットシンボル204を抽出し、パイロットシンボルに基づいて各チャネルのチャネル変動を推定し、推定結果をチャネルA、Bのチャネル変動推定信号512A、512Bとして復号部515A、515Bに送出する。
各周波数オフセット推定部513A、513Bは、チャネルA、Bの変調信号510A、510Bから図2におけるプリアンブル201、パイロットシンボル204を抽出し、これらの信号に基づいて各チャネルの周波数オフセットを推定し、推定結果を周波数オフセット推定信号514A、514Bとして復号部515A、515Bに送出する。この実施の形態の場合には、無線部503_1、503_2にも周波数オフセット推定信号514A、514Bを送出し、無線部503_1、503_2でも周波数オフセット除去を行うようになっている。
各復号部515A、515Bは、チャネル変動推定信号512A、512B、周波数オフセット推定信号514A、514Bに基づいて、変調信号510A、510Bから歪み成分を除去した後、制御情報518の変調方式、符号化率等の情報に基づいて、変調信号510A、510Bを復調及び復号することにより、チャネルA、Bのディジタル信号516A、516Bを得る。チャネルA、Bのディジタル信号516A、516Bは、CRCチェック部519A、519Bに送出される。
各CRCチェック部519A、519Bは、ディジタル信号516A、516BのCRCチェックを行う。つまり、チャネルA、Bのディジタル信号516A、516Bはそれぞれ、図6に示すように、データとパリティで構成されており、CRCチェック部519A、519Bは、このように構成されたディジタル信号をチェックすることで、誤りが発生していたか否かをチェックすることができる。そしてCRCチェック部519A、513Bは、受信データ520A、520Bと共に、ACK/NACK信号521A、521Bを出力する。
次に、本実施の形態のマルチアンテナ送信装置400による再送動作(ARQ(Automatic Repeat Request))について説明する。
図7は、本実施の形態のARQ方法を説明するための、基地局(マルチアンテナ送信装置400)と端末(マルチアンテナ受信装置500)のデータのやりとりの一例を示す図である。ここでは、条件として、パス#1の固有値λ1がパス#2の固有値λ2よりも大きいと仮定する。また再送でないデータの変調方式は、パス#1を用いるときには16QAMとし、パス#2を用いるときにはQPSKとする。
<1>先ず、基地局は、パス#1でチャネルAのデータ1Aを、パス#2でチャネルBのデータ1Bを送信する。
<2>端末は、データ1Aに誤りがあったので、基地局に、データ1Aの再送を要求する。
<3>基地局は、パス#1を用いて、チャネルAのデータ1Aの再送データに相当するデータ1A’を送信する。
<4>端末は、データ1Aに誤りがないため、再送要求をしない。
<5>基地局は、パス#1でチャネルAのデータ2Aを、パス#2でチャネルBのデータ2Bを送信する。
<6>端末は、データ2A、データ2Bに誤りがあったので、基地局に、データ2A、データ2Bの再送を要求する。
<7><8>基地局は、パス#1を用いて、チャネルAのデータ2Aの再送データに相当するデータ2A’、及び、チャネルBのデータ2Bの再送データに相当するデータ2B’を送信する。
<9>端末は、データ2A、データ2Bに誤りがないため、再送要求をしない。
<10>基地局は、パス#1でチャネルAのデータ3A、パス#2でチャネルBのデータ3Bを送信する。
<11>端末は、データ3Bに誤りがあったので、基地局に、データ3Bの再送を要求する。
<12>基地局は、パス#1を用いて、チャネルBのデータ3Bの再送データに相当するデータ3B’を送信する。
なお、再送データ(例えば、データ1A’)は、元のデータ(例えば、データ1A)と同一のデータであってもよいし、復元可能なデータ(例えば、パンクチャしたデータ等)であってもよい。
以上の処理で重要なことは、次の2点である。
第1に、再送する際に、パス数を減少させている点である。図7の例では、データ送信時はパス数2、再送時はパス数1としている。これにより、再送時に、パス数が減少する、つまり、干渉が減るため、データの受信品質が向上する。この結果、再送回数を減少させることができ、データのスループットを向上させることができる。
第2に、再送する際、再送データを前回送信時よりも固有値の大きいパスを優先的に用いて再送している点である。これは、上記第1の点と組み合わせて考えると、パス数を減少させる際に、固有値の小さいパスを優先的に削除して、再送データは固有値の大きいパスを使用して再送していると言うこともできる。これにより、固有値の大きいパス、つまり、パスゲインの大きいパスを利用して、再送データを伝送するため、データの受信品質が向上する。この結果、再送回数を減少させることができ、データのスループットを向上させることができる。
因みに、元のデータと再送するデータの変調方式を同一とすると、送信装置の構成を簡単化することができる。つまり、図7において、例えばチャネルAのデータ1Aと再送データ1A’の変調方式を同一とし、チャネルBでデータ2Bと再送データ2B’の変調方式を同一とする。本実施の形態では、再送時には、パス数を減少させたり、再送信号を前回送信時よりも固有値の大きい固有パスで再送するようにしているので、再送時に変調多値数を小さくしなくても、十分な誤り率特性の向上が期待できる。このように、元のデータと再送するデータの変調方式を同一とすることで、送信装置で再送データを生成するのに、再度、符号化やインターリーブを施す必要がなくなるので、送信装置の構成を簡単化できるようになる。
ただし、送信装置の構成を簡略化することよりも、データの品質を向上させることを優先させる場合には、再送データの変調多値数を減少させたほうがよい。
なお図7では、送信アンテナ数が2つの場合を例にとって、本発明のARQ方法について説明したが、本発明のARQ方法は、当然、送信アンテナ数が3つ以上の場合にも適用できる。以下では、送信アンテナ数が3つで、3つの変調信号を送信するときのARQ方法を、図8、図9を例にとって説明する。
先ず、図8における基地局と端末のデータのやりとりについて詳しく説明する。図8では、条件として、パス#1の固有値λ1、パス#2の固有値λ2、パス#3の固有値λ3が、λ1>λ2>λ3の関係にあると仮定する。また再送でないデータの変調方式は、パス#1を用いるときには16QAMとし、パス#2を用いるときにはQPSKとし、パス#3を用いるときにはBPSKとする。
<1>先ず、基地局は、パス#1でチャネルAのデータ1A、パス#2でチャネルBのデータ1B、パス#3でチャネルCのデータ1Cを送信する。
<2>端末は、データ1Cに誤りがあったので、基地局に、データ1Cの再送を要求する。
<3>基地局は、パス#1を用いて、チャネルCのデータ1Cの再送データに相当するデータ1C’を送信する。
<4>端末は、データ1Cに誤りがないため、再送要求をしない。
<5>基地局は、パス#1でチャネルAのデータ2A、パス#2でチャネルBのデータ2B、パス#3でチャネルCのデータ2Cを送信する。
<6>端末は、データ2A、データ2Bに誤りがあったので、基地局に、データ2A、データ2Bの再送を要求する。
<7><8>基地局は、パス#1を用いて、チャネルAのデータ2Aの再送データに相当するデータ2A’、及び、チャネルBのデータ2Bの再送データに相当するデータ2B’を送信する。
<9>端末は、データ2A、データ2Bに誤りがないため、再送要求をしない。
<10>基地局は、パス#1でチャネルAのデータ3A、パス#2でチャネルBのデータ3B、パス#3でチャネルCのデータ3Cを送信する。
<11>端末は、データ3Bに誤りがあったので、基地局に、データ3Bの再送を要求。
<12>基地局は、パス#1を用いて、チャネルBのデータ3Bの再送データに相当するデータ3B’を送信する。
次に、図9における基地局と端末のデータのやりとりについて詳しく説明する。図9では、図8と場合と同様に、条件として、パス#1の固有値λ1、パス#2の固有値λ2、パス#3の固有値λ3が、λ1>λ2>λ3の関係にあると仮定する。また再送でないデータの変調方式は、パス#1を用いるときには16QAMとし、パス#2を用いるときにはQPSKとし、パス#3を用いるときにはBPSKとする。
<1>先ず、基地局は、パス#1でチャネルAのデータ1A、パス#2でチャネルBのデータ1B、パス#3でチャネルCのデータ1Cを送信する。
<2>端末は、データ1A、データ1B、データ1Cに誤りがあったので、基地局に、データ1A、データ1B、データ1Cの再送を要求する。
<3>基地局は、はじめに、パス#1を用いて、チャネルBのデータ1Bの再送データに相当するデータ1B’を、パス#2を用いて、チャネルCのデータ1Cの再送データに相当するデータ1C’を送信する。基地局は、次に、チャネルAのデータ1Aの再送データに相当するデータ1A’をパス#1を用いて送信する。このとき、パス2#では、他の変調信号は存在しない。
<4>端末は、データ1A、1B、1Cに誤りがないため、再送要求をしない。
<5>基地局は、パス#1でチャネルAのデータ2A、パス#2でチャネルBのデータ2B、パス#3でチャネルCのデータ2Cを送信する。
<6>端末は、データ2B、データ2Cに誤りがあったので、基地局に、データ2B、データ2Cの再送を要求する。
<7>基地局は、パス#1を用いて、チャネルBのデータ2Bの再送データに相当するデータ2B’、パス#2を用いて、チャネルCのデータ2Cの再送データに相当するデータ2C’を送信する。
<8>端末は、データ2B、データ2Cに誤りがないため、再送要求をしない。
<9>基地局は、パス#1でチャネルAのデータ3A、パス#2でチャネルBのデータ3B、パス#3でチャネルCのデータ3Cを送信する。
<10>端末は、データ3Cに誤りがあったので、基地局に、データ3Cの再送を要求する。
<11>基地局は、パス#1を用いて、チャネルCのデータ3Cの再送データに相当するデータ3C’を送信する。
ここで図8で説明したARQ方法の特徴は、再送データを、固有値が最大の固有パスを用いて送信するようにしたことである。また再送データを送信している間は、他の固有パスでは信号を送信しないようにしたことである。これにより、再送データの品質を、データを送信したとき(すなわち通常送信時)より高めることができるため、再送回数を減少させることができる。その結果、データのスループットを向上させることができるようになる。
また図9で説明したARQ方法の特徴は、以下の点である。
・再送時には、使用するパス数を減少させる。
・再送時には、パスゲインの大きいパスを優先的に使用する。
・前回送信時に最大ゲインのパスで送信したデータ以外のデータの再送は、前回送信時よりもパスゲインの大きいパスを用いて行う。
・前回送信時に最大ゲインのパスで送信したデータの再送は、再び最大ゲインのパスを用いるのに加えて、他のパスを用いずに単独で行う。
このようにすることで、再送データの品質を、前回送信時よりも向上させることができるため、再送回数を減少させることができる。その結果、データのスループットを向上させることができるようになる。また、再送データを前回送信時よりもパスゲインの大きいパスを用いて行うことで再送時の品質向上を達成しつつ、再送データを複数のパスを用いて送信することも実現しているので(例えば図9の<3>や<7>)、図8のARQ方法と比較し、再送データの伝送速度を高速化できる効果もある。
このように本実施の形態によれば、再送信号を送信する際には、前回送信時よりも送信ビーム数を減らす(すなわち送信に用いる固有パス数を減らす)と共に再送信号を前回送信時よりも大きな固有値に属する固有ベクトルを用いてベクトル多重して送信ビームを形成する(前回よりもパスゲインの大きな固有パスで送信する)ようにしたことにより、比較的簡単な選択手順で、再送回数を減らすことができ、データのスループットを上げることができるようになる。
なお、本実施の形態では、便宜上、図2のフレーム構成を流用して説明したが、本実施の形態はOFDM方式を用いた例なので、図2のシンボルは複数のサブキャリアで構成されたシンボルに相当するものとする。
また本実施の形態では、本発明をOFDM方式に適用した場合を例に説明したが、本発明はこれに限らず、スペクトル拡散通信方式やシングルキャリア方式に適用した場合にも同様の効果を得ることができる。
また本実施の形態では、チャネル状態情報の共有の仕方について詳しく触れていないが、チャネル状態の情報の共有は、再送時に行ってもよいし、再送時に行わなくてもよい。つまり、チャネル状態の情報の共有の仕方は、本実施の形態の特徴に影響を与えない。
さらに本実施の形態では、送信方法のパラメータとして、特に変調方式について説明しているが、それ以外に符号化方法、符号化率等のパラメータも考慮して再送を行ってもよく、これらのパラメータが加わった場合でも、本発明を同様に実施することができる。
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1や実施の形態2のような送信方法を実施するにあたっての、変調方式の好適な決定、設定方法について説明する。
本実施の形態では、基地局のアンテナ数が2で、2つの変調信号を送信する場合を例に説明する。
変調方式として、BPSK、QPSK、16QAM、64QAMの中で変更が可能な通信方法を採用している場合について考える。また固有値の大きいパスにおいて送信するチャネルをチャネルA、固有値の小さいパスにおいて送信するチャネルをチャネルBと名付ける(ただし、再送データを送信する場合を除く)。このとき、送信チャネルと変調方式との全ての組み合わせを考えた場合、図10のような変調方式の設定表を作成することができる。そして、図10が規格としてサポートされている送信方法であるものとする。
ところで、例えば、図10の設定#2と設定#5、設定#3と設定#9は、同一の送信速度である。このように同一伝送速度の送信方法を2種類以上存在させたり、図10のように送信方法の選択できる可能性を多くすると(すなわち全組合せを用意すると)、送信方法の決定が複雑になるという課題が発生する。
そこで、本実施の形態では、例えばパーソナルコンピュータ等で、変調方式の選択方法を、規格でサポートされている送信方法の中からユーザの要望に合った送信方法に限定できる方法について説明する。
図4との対応部分に同一符号を付して示す図11に、本実施の形態のマルチアンテナ送信装置の構成を示す。パーソナルコンピュータ(PC)1101は、送信方法設定情報1102をフレーム構成信号生成部416に送出する。フレーム構成信号生成部416は、送信方法設定情報1102に基づいて、送信方法を限定する。
図12に、PC1101による送信方法の設定画面の一例を示す。ここで特に重要となる点は、品質優先モードと高速伝送優先モードが選択できる点、及び、最大遅延時間を設定できる点である。
これらがシステムにおいて重要となる理由について以降で詳しく説明する。
1チャネルのみでBPSKを用いて伝送することで、例えば500kビット/秒を送信できるシステムを考える。そして、50kビットのデータを伝送する際に、伝搬環境を考慮した際、図10の設定#14でデータを送信できる環境であったとする。そして、設定#14で送信したとする。しかし、設定#14でデータを送信すると、誤る可能性は非常に高く、再送を要求される可能性が高く、再送による伝送時間を費やしてしまい、図10の設定#1の送信方法で送信した方が結果的にデータの伝送時間が短くなる場合がある。
このような状況は、データの伝送速度に対し、データ量が非常に少ない場合に発生する。この課題のために、外部から(例えばPCを使用して)以下のような設定を行う機能を有することが重要となる。
(方法1)品質優先モード、高速伝送優先モード等の設定を可能とする。
(方法2)最大遅延時間を設定することを可能とする。
図10において、1チャネルの信号のみを送信した場合の方が、2チャネルの信号を送信した場合と比較し、データの品質が良い。そこで、(方法1)のように設定できる構成を採り、ユーザが、容量の小さいデータを伝送することを目的として主に利用する場合、品質優先モードを選択し、容量の大きいデータを伝送することを目的として主に利用する場合は、高速データ伝送モードを選択する、というようにすることで、上記課題を回避することができる。このとき、図12のように、品質優先モードは、設定#1から#4を中心に構成されたテーブルとなり、高速伝送優先モードは、設定#5から設定#14からを中心に構成されたテーブルとなる。そして、品質優先モードでは、1チャネルの信号のみを送信する送信方法を優先的に割り当てるようにする。
このとき、重要な役割を果たすことになるのが、最大遅延時間の設定である。最大遅延時間とは、ユーザが許容する最大の遅延時間である。このとき、図13のような送信方法の決定を行うことになる。
先ず、ステップSP1において、送信するデータの伝送量から、テーブル(例えば、図12に示したテーブル)における各送信方法で送信した場合の送信に要する時間を計算する。
次に、ステップSP2において、最大遅延時間より送信に要する時間が短い送信方法がテーブルに存在するか否か判断する。
そして、最大遅延時間より送信に要する時間が短い送信方法がテーブルに存在しない場合には、ステップSP4に移って、伝搬環境等から伝送速度、伝送品質を両立する送信方法を選択する。
これに対して、最大遅延時間より送信に要する時間が短い送信方法がテーブルに存在する場合には、ステップSP3に移って、最大遅延時間より短い送信時間となる送信方法の中から、最も受信品質がよい送信方法を選択する。
以上のように、最大遅延時間に基づき送信方法を選択することで、データ量が少ないときに過大な伝送速度の送信方法を選択する可能性なくなり、これによりデータ伝送速度と伝送品質が安定したシステムを構築することができることになる。
品質優先モード、高速伝送優先モード以外にもシステム上、有効なモードとして、学習モード、ユーザ設定モード、セーブモードを提案する。
学習モード、ユーザ設定モードがある場合、図14のような構成を採るとよい。図14において、図4と同様に動作するものについては同一符号を付している。マルチアンテナ送信装置1400のパーソナルコンピュータ(PC)1401は、モード設定情報1402を送信方法設定・学習部1403に送出する。送信方法設定・学習部1403は、モード設定情報1402に基づいた設定モードに設定され、設定モードの方法に基づいて、ACK/NACKから送信方法を決定し、これを送信方法決定情報1404としてフレーム構成信号生成部416に送出する。
フレーム構成信号生成部416は、送信方法決定情報1404を参照して、決定された送信方法に基づくフレーム構成に関する情報であるフレーム構成信号417を出力する。
このとき、例えば、セルラの基地局や無線LANのアクセスポイント等の場合、学習モードの設定を送信方法テーブルを学習して作成すると、送信方法の決定が簡略化できるというメリットがある。
セルラの基地局や無線LANのアクセスポイントは、移動することは少ない。したがって、伝搬環境は設置された場所に大きく依存することになる。そこで、通信を確立できる可能性の大きい送信方法を学習し、テーブルを作成することで、送信方法の決定の簡略化を図ることができる。そこで、学習モードを設定する方法が有効となる。
学習モードでは、例えば、図10のテーブルにおいて、設定#1から設定#14のそれぞれにおいて、例えば、NACKの回数/ACKの回数の統計をとり、NACKの確率の大きい送信方法からテーブルから削除し、送信方法の種類を限定する。これにより、送信方法の決定の簡略化を図ることができる。そして、PC1401から、あるいは、外部からリセットできる構成とすると、場所を移動させた場合、リセットし、再学習することで、移動した場所に適したテーブルを学習して再作成することができる。
ユーザ設定モードは、ユーザが自ら送信方法の種類を限定しテーブルを作成する方法である。これにより、送信方法の決定の簡略化を図ることができる。また、外部から、テーブルの表のソフトウェアをダウンロードし、入手し、設定するような方法でもよい。
次に、セーブモードについて説明する。これは、特に、端末の受信装置を設定するためのモードである。図5との対応部分に同一符号を付して示す図15に、セーブモードの設定を実現するための、端末のマルチアンテナ受信装置1500の構成例を示す。
マルチアンテナ受信装置1500は、パーソナルコンピュータ(PC)1501によってモードを設定し、これをモード設定情報1502として制御部1503に送出する。制御部1503は、モード設定情報1502と、変調方式、符号化率等の情報を含む制御情報518とを入力とし、セーブモードに設定されており、かつ、制御情報518が一つのチャネルの変調信号しか存在しない送信方法を示しているとき、無線部503_1、503_2のいずれか一方の動作を停止させるような制御信号1504を出力する。
これにより、端末の受信装置の消費電力を低減することができる。ここでは、無線部のみ動作を停止させようにしたが、これに限ったものではなく、ディジタル信号処理を行っている部分の動作を停止させるようにしても同様の効果を得ることができる。
以上のように、外部からの情報に基づいて、送信方法を限定したり、学習モード、セーブモードに設定できるようにすることで、送受信機の簡略化、低消費電力化、データの伝送速度と受信品質の両立を図ることができる。特に、MIMO伝送を用いた送信方法を含んでいる場合に、これらの効果が大きい。
上述の送信方法の切り替えを、再送時に同様に適用しても、上述と同様の効果を得ることができる。
次に、図12のテーブルとは異なる、図16のようなテーブルの作成方法を説明する。図16では、パーソナルコンピュータの画面においてアプリケーションモードを設定できるようになっている。例えば、“動画モード”、“インターネットモード”、“ファイルダウンロードモード”、“ゲームモード”、“学習モード”、“ユーザ設定モード”のうち、ユーザはいずれかのモードを選択することができる。そして、“学習モード”、“ユーザ設定モード”以外のモードを選択したときには、伝送モード、最大遅延時間、再送遅延時間が自動的に設定され、“学習モード”、“ユーザ設定モード”を選択したときには、最大遅延時間、再送遅延時間はユーザが設定できるようにする。このようなテーブルを作成し、パーソナルコンピュータを用いてモードを設定したときも、上述と同様に実施することができ、同様の効果を得ることができる。
なお本実施の形態では、送信方法のパラメータとして、特に変調方式について説明しているが、それ以外に符号化方法、符号化率等のパラメータも考慮して送信方法のテーブルを作成してもよく、これらのパラメータが加わった場合でも、本発明を同様に実施することができる。
また本実施の形態の特徴は、固有モードのMIMOシステムだけでなく、例えばアンテナエレメントモードを利用したMIMO多重方式にも適用可能である。以下では、参考までに、アンテナエレメントモードを利用したMIMO多重方式について説明する。
図17は、アンテナエレメントモードを利用したMIMO多重方式を実現するマルチアンテナ送信装置及びマルチアンテナ受信装置の構成例を示すものである。
マルチアンテナ送信装置1700は、各変調信号生成部1702A、1702B、1702Cに、チャネルA、B、Cの送信ディジタル信号1701A、1701B、1701Cを入力し、これを変調することでチャネルA、B、Cの変調信号1703A、1703B、1703Cを得る。各無線部1704A、1704B、1704Cは、チャネルA、B、Cの変調信号1703A、1703B、1703Cに対して、周波数変換等の所定の無線処理を施すことで送信信号1705A、1705B、1705Cを得、これをアンテナ1706A、1706B、1706Cに供給する。
マルチアンテナ受信装置1800は、無線部1709_1、1709_2、1709_3に、アンテナ1707_1、1707_2、1707_3で受信した受信信号1708_1、1708_2、1708_3を入力する。各無線部1709_1、1709_2、1709_3は、受信信号1708_1、1708_2、1708_3に対して、周波数変換等の所定の無線処理を施すことでベースバンド信号1710_1、1710_2、1710_3を得、これを分離・復調部1711に送出する。
分離・復調部1711は、ベースバンド信号1710_1、ベースバンド信号1710_2、ベースバンド信号1710_3から、送信された元の変調信号1703A、1703B、1703Cを分離し、さらにこれらを復調することで、チャネルA、B、Cの受信ディジタル信号1712A、1712B、1712Cを得る。
ここで、チャネルAの変調信号1703A、チャネルBの変調信号1703B、チャネルCの変調信号1703CをそれぞれTxa(t)、Txb(t)、Txc(t)とし、ベースバンド信号1710_1、ベースバンド信号1710_2、ベースバンド信号1710_3をそれぞれRx1(t),Rx2(t),Rx3(t)とすると、次式の関係式が成立する。但し、h11(t)〜h33(t)は、各送受信アンテナ間のチャネル変動値である。
すなわち、分離・復調部1711は、(1)式の関係式に基づいて、チャネルA、チャネルB、チャネルCの信号を分離する。
ところで、変調信号Txa(t)、Txb(t)、Txc(t)は、それぞれ、独立の変調方式とすることが可能である。すると、本実施の形態で説明したように、送信方法の種類が多くなってしまい、送信方法の選択方法が複雑になってしまうという課題が発生する。しかし、本実施の形態で説明したような処理をこのようなMIMO多重方式に適用することで、送信方法の選択手順を簡略化することができるようになる。