発明の詳細な説明
本出願は、1996年2月13日出願のMELT-IRRADIATED ULTRA HIGH MOLECUL AR WEIGHT POLYETHYLENE PROSTHETIC DEVICESと題する米国特許出願第08/600,74 4号の一部継続である1996年10月2日出願のRADIATION AND MELT TREATED ULTRA HIGH MOLECULAR WEIGHT POLYETHYLENE PROSTHETIC DEVICESと題する米国特許出願第08/726,313号の一部継続である。それら特許出願の全内容は、参照により本明細書中に組み入れられるものとする。
発明の分野
本発明は、整形外科分野および、股関節部および膝インプラントなどのプロテーゼの提供、並びにこのようなデバイスおよびそこで用いられる材料の製造方法に関する。
発明の背景
合成ポリマー、例えば、超高分子量ポリエチレンを金属合金と共に使用することは、プロテーゼインプラントの分野、例えば、股関節部または膝の全体的関節代替品におけるそれらの使用に革命をもたらした。しかしながら、関節の金属に対して合成ポリマーを装着することは、数年後に主として現れる重大な悪影響をもたらすことがある。様々な研究は、このような装着が、プロテーゼ周辺組織中へのポリエチレンの超微粒子の遊離をもたらすことがあると結論した。磨耗は、鎖が折り重なった微結晶を伸張して、関節表面で異方性フィブリル構造を形成することが示唆された。次いで、伸張しきったフィブリルは破断することがあり、サブミクロンの大きさの粒子の生産をもたらす。プロテーゼと骨との間のこれらポリエチレン粒子の漸進的侵入に応答して、マクロファージに誘導されたプロテーゼ周辺骨吸収が開始される。これらポリエチレン粒子をしばしば消化できないマクロファージは、多数のサイトカインおよび成長因子を合成して放出し、最終的に破骨細胞および単球による骨吸収を引き起こすことがある。この破骨細胞は、プロテーゼ構成部品の機械的ゆるみの原因となることによって、時々、その付随する問題で修正手術が必要となり得る。
発明の要旨
本発明の目的は、プロテーゼ装着中のプロテーゼからの微粒子の生成を減少させるように、検出可能なフリーラジカルを有しない放射線処理された超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から少なくとも部分的に形成されるインプラント可能なプロテーゼデバイスを提供することである。
本発明のもう一つの目的は、プロテーゼインプラントに起因する骨溶解および炎症反応を減少させることである。
本発明の更にもう一つの目的は、人体内に長期間インプラントされたままあることができるプロテーゼを提供することである。
本発明の更にもう一つの目的は、前述の目的のプロテーゼにおいておよび/または他の二次加工品において用いることができる改良されたUHMWPEを提供することである。
本発明の更にもう一つの目的は、高い架橋密度を有し且つ検出可能なフリーラジカルを有しない改良されたUHMWPEを提供することである。
本発明のまた更にもう一つの目的は、向上した耐摩耗性を有する改良されたUHMWPEを提供することである。
本発明によれば、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない放射線処理された超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から形成される体内使用のための医療用プロテーゼが提供される。放射線は、例えば、γ線または電子線でありうる。このUHMWPEは、架橋構造を有する。好ましくは、このUHMWPEは、実質的に酸化されないので、実質的に耐酸化性である。例えば、UHMWPEには、3の融解ピーク、2の融解ピークまたは1の融解ピークを有するUHMWPEが含まれる。一定の実施態様において、このUHMWPEは、プロテーゼ装着中のプロテーゼからの微粒子の生成を減少させるために、約50%未満の結晶化度、約290Å未満のラメラ厚みおよび約940MPa未満の引張弾性率を有するポリマー構造を有する。プロテーゼの部材は、例えば、このUHMWPEから作られた耐力表面を有するカップまたはトレー造形品の形でありうる。この耐力表面は、金属またはセラミック材料の嵌め合い耐力表面を有するプロテーゼの第二部材と接触することができる。
本発明のもう一つの側面は、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない放射線処理されたUHMWPEである。このUHMWPEは架橋構造を有する。好ましくは、このUHMWPEは実質的に酸化されないので、実質的に耐酸化性である。UHMWPEには、例えば、3の融解ピーク、2の融解ピークまたは1の融解ピークを有するUHMWPEが含まれる。
本発明の他の側面は、例えば、このようなUHMWPEから作られた耐力表面および耐磨耗性コーティングを有する二次加工品である。一つの実施態様は、二次加工品が、慣用法、例えば、機械加工によって製品に形状化されうる棒材の形である場合である。
本発明の更にもう一つの側面には、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない架橋UHMWPEを製造する方法が含まれる。ポリマー鎖を有する慣用的なUHMWPEが提供される。このUHMWPEは、それらポリマー鎖を架橋させるように照射する。そのUHMWPEは、UHMWPEの融解温度を越えて加熱されるので、そのUHMWPE中には検出可能なフリーラジカルが実質的に存在しない。次に、そのUHMWPEは室温まで冷却される。一定の態様において、その冷却されたUHMWPEは機械加工および/または滅菌される。
この方法の一つの好ましい態様は、いわゆるCIR−SM、すなわち、低温照射と引続く融解である。与えられるUHMWPEは、室温または室温未満である。 この方法のもう一つの好ましい態様は、いわゆるWIR−SM、すなわち、加温照射と引続く融解である。与えられるUHMWPEは、そのUHMWPEの融解温度未満の温度まで予熱される。
この方法のもう一つの好ましい態様は、いわゆるWIR−AM、すなわち、加温照射と断熱融解である。この態様では、与えられるUHMWPEは、そのUHMWPEの融解温度未満、好ましくは約100℃からそのUHMWPEの融解温度未満の温度まで予熱される。そのUHMWPEは、加工中のUHMWPEからの熱損失を減少させるために、断熱材中にあるのが好ましい。次に、予熱されたUHMWPEに、その材料中の結晶を実質的に全て融解させるのに充分な熱をポリマー中で生じるように、充分に高い総線量までおよび充分に速い線量率で照射し、かくして、例えば照射工程によって生じる検出可能なフリーラジカルを実質的に全て確実に除去する。照射工程は、このような断熱加熱を生じるように電子照射を用いるのが好ましい。
本発明のもう一つの側面は、上記の方法によって製造された製品である。
いわゆるMIR、すなわち、溶融照射である、本発明の更にもう一つの側面は、架橋したUHMWPEを製造する方法である。慣用的なUHMWPEが提供される。好ましくは、そのUHMWPEは、酸素を実質的に含まない不活性物質で取り囲まれている。そのUHMWPEを、全ての結晶構造を完全に融解させるようにUHMWPEの融解温度を越えて加熱する。加熱されたUHMWPEは照射され、そして照射されたUHMWPEは約25℃まで冷却される。
MIRの態様では、高度に絡み合い且つ架橋したUHMWPEが製造される。慣用的なUHMWPEが提供される。好ましくは、そのUHMWPEは、酸素を実質的に含まない不活性物質で取り囲まれている。そのUHMWPEを、UHMWPE中で絡み合ったポリマー鎖が形成できるのに充分な時間、そのUHMWPEの融解温度を越えて加熱する。加熱されたUHMWPEは、絡み合った状態のポリマー鎖を止めるために照射され、そして照射されたUHMWPEは約25℃まで冷却される。
本発明は、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない放射線処理されたUHMWPEから医療用プロテーゼを製造する方法も特徴とし、そのプロテーゼは、プロテーゼの装着中のプロテーゼからの粒子の生成を減少させる。検出可能なフリーラジカルを有しない放射線処理されたUHMWPEが提供される。医療用プロテーゼは、プロテーゼの装着中のプロテーゼからの粒子の生成を減少させるために、このUHMWPEから形成され、そのUHMWPEはプロテーゼの耐力表面を形成する。プロテーゼの形成は、当業者に知られている標準法、例えば機械加工によって行うことができる。
本発明において更に提供されるのは、医療用プロテーゼを必要とする身体を治療する方法である。検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない放射線処理されたUHMWPEから形成された形状化されたプロテーゼが提供される。そのプロテーゼは、プロテーゼを必要とする身体に適用される。そのプロテーゼは、プロテーゼの装着中のプロテーゼからの粒子の生成を減少させる。好ましい態様において、UHMWPEは、プロテーゼの耐力表面を形成する。
本発明の以上および他の目的、特徴および利点は、以下の記載を添付の図面と共に読めば、よりよく理解されるであろう。
詳細な説明
本発明は、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない放射線処理された超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から形成される体内で用いるための医療用プロテーゼを提供する。
股関節プロテーゼの形の医療用プロテーゼは、概して、図1の10で図示される。示されたプロテーゼは、大腿骨16に慣用的なセメント17によって取付けられているステム15にネック部分により連結された慣用的なボールヘッド14を有する。そのボールヘッドは、慣用的な設計で、しかも当該技術分野において知られているステンレス鋼または他の合金から形成することができる。ボールヘッドの丸みは、骨盤11に直接にセメント13で取付けることができる寛骨臼カップ12の内側カップ丸みにとぴったり一致する。或いは、金属製寛骨臼シェルを骨盤11にセメント付けしてもよく、そして寛骨臼カップ12が、当該技術分野において知られている手段によってその金属製寛骨臼シェルに連結されたコーティングまたはライナーを形成してもよい。
プロテーゼの具体的な形は、当該技術分野において知られているように大きく異なることができる。多くの股関節構造物が知られているし、そして膝関節、肩関節、課関節、肘関節および指関節などの他のプロテーゼが知られている。このような先行技術のプロテーゼは、全て、本発明による高分子量ポリエチレン材料からこのようなプロテーゼの少なくとも一つの耐力表面を製造することによって、利益を得ることができる。このような耐力表面は、層であっても、ライニングであっても、図1に示したような実際の完全デバイスの形であってもよい。いずれの場合にも、その耐力表面は、プロテーゼの金属製またはセラミック製嵌合部材と連絡して働けるように、それらの間に滑り面が形成されるのが好ましい。そのような滑り面は、当該技術分野において知られているポリエチレンでは分解を受けやすい。そのような分解は、本発明の材料の使用によって大きく減少させることができる。
図2は、図3の横断面で一層よく分かる半中空ボール形デバイスの形の寛骨臼カップ12を示す。先に説明したように、寛骨臼カップの外面20は、円形または半球形である必要はなく、四角であっても、骨盤に直接に若しくは当該技術分野において知られている金属製シェルを介して骨盤に密着できるいずれの形状であってもよい。好ましい態様の図3の21で示された寛骨臼カップの半径は、約20mm〜35mmである。概して半球形の中空部分から外面20までのこの寛骨臼カップの厚みは、好ましくは約8mmである。外半径は、好ましくは約20mm〜約35mmのオーダーである。
いくつかの場合、ボール関節は本発明のUHMWPEから製造でそして寛骨臼カップは金属から形成されるが、UHMWPEの寛骨臼カップまたは寛骨臼カップライナーを金属製ボールと嵌合するように製造するのが好ましい。身体の骨にプロテーゼの構成部品をくっ付ける具体的な方法は、当該技術分野において知られているように大きく変動し得る。
本発明の医療用プロテーゼとは、プロテーゼデバイス全体またはそれらの部分、例えば、構成部品、層またはライニングを含む意味である。医療用プロテーゼには、例えば、整形外科用関節および骨代替部材、例えば、股関節、膝、肩、肘、踝または指用の代替品が含まれる。プロテーゼは、例えば、耐力表面を有するカップまたはトレー形物品の形でありうる。当業者に知られている他の形も、本発明に包含される。医療用プロテーゼは、プロテーゼのあらゆる摩耗表面、例えば、プロテーゼが本発明のUHMWPEより他の材料から製造される場合におけるプロテーゼの表面上のコーティングも含む意味である。
本発明のプロテーゼは、例えば、コバルトクロム合金、ステンレス鋼、チタン合金またはニッケルコバルト合金から形成された金属含有部材との、またはセラミック含有部材との接触に有用である。例えば、25mmの内半径を有するカップ形物品が、そのカップ形物品とぴったり嵌合するように25mmの外半径を有する金属ボールと接触する股関節を構築する。この例のカップ形物品の耐力表面は、本発明のUHMWPEから製造され、好ましくは少なくとも約1mmの厚みを有する、より好ましくは少なくとも約2mmの厚みを有する、より好ましくは少なくとも約1/4インチ(6.35mm)の厚みを有する、そしてより好ましくは少なくとも約1/3インチ(8.47mm)の厚みを有する。
本プロテーゼは、あらゆる標準的な既知の形、形状または配置も有することができるし、または注文設計でありうるが、本発明のUHMWPEの耐力表面を少なくとも一つ有する。
本発明のプロテーゼは、ヒトに対して無毒性である。それらは、正常な体成分、例えば、血液または間隙液によって劣化しにくい。それらは、例えば、熱またはエチレンオキシドを含めた標準的な手段によって滅菌することができる。
UHMWPEにより、約500,000を越える、好ましくは約1,000,000を越える、そしてより好ましくは約2,000,000を越える分子量を有するエチレンの線状非分岐状鎖が意味される。しばしば、その分子量は、少なくとも約8,000,000程度に高いことがありうる。初期平均分子量により、何等かの照射の前のUHMWPE出発物質の平均分子量が意味される。
慣用的なUHMWPEは、チーグラー・ナッタ触媒によって標準的に生成され、そしてポリマーが表面触媒部位から生成されるにつれて、それらは結晶化し、鎖が折り畳まれた結晶として重なり合う。既知のUHMWPE粉末の例には、約2,000,000g/モルの分子量を有し且つステアリン酸カルシウムを全く含有しないHifa x Grade 1900ポリエチレン(デラウェア州ウィルミントンのMontellから入手される);約4,000,000〜5,000,000g/モルの分子量を有し且つ500ppmのステアリン酸カルシウムを含有するGUR 415としても知られるGUR 4 150(テキサス州ヒューストンのHoescht Celanese Corp.から入手される);約4,000,000〜5,000,000g/モルの分子量を有し且つステアリン酸カルシウムを全く含有しないGUR 4050(テキサス州ヒューストンのHoescht Cela nese Corp.から入手される);約2,000,000g/モルの分子量を有し且つ500ppmのステアリン酸カルシウムを含有するGUR 4120(テキサス州ヒューストンのHoescht Celanese Corp.から入手される);約2,000,000g/モルの分子量を有し且つステアリン酸カルシウムを全く含有しないGUR 4020(テキサス州ヒューストンのHoescht Celanese Corp.から入手される);約4,000,000〜5,000,000g/モルの分子量を有し且つステアリン酸カルシウムを全く含有しないGUR 1050(ドイツのHoescht Celanese Corp.から入手される);約4,000,000〜5,000,000g/モルの分子量を有し且つ500ppmのステアリン酸カルシウムを含有するGUR 1150(ドイツのHoescht Celanese Corp.から入手される);約2,000,000g/モルの分子量を有し且つステアリン酸カルシウムを全く含有しないGUR 1020(ドイツのHoescht Celanese Corp.から入手される);および約2,000,000g/モルの分子量を有し且つ500ppmのステアリン酸カルシウムを含有するGUR 1120(ドイツのHoescht Ce lanese Corp.から入手される)が含まれる。医療用途に好ましいUHMWPEは、GUR 4150、GUR 1050およびGUR 1020である。樹脂により、粉末が意味される。
UHMWPE粉末は、種々の異なった技法、例えば、ラム押出法、圧縮成形法または直接圧縮成形法を用いて固めることができる。ラム押出法では、UHMWPE粉末を加熱バレルを介して加圧することによって、それをロッド素材、すなわち、棒材に固める(例えば、PA州LenniのWestlake Plasticsから入手できる)。圧縮成形法では、UHMWPE粉末を高圧下において金型中で固める(例えば、IN州Fort Way neのPoly−Hi Solidurまたは英国StanmoreのPerplasから入手できる)。金型の形状は、例えば、厚いシートでありうる。直接圧縮成形法は、好ましくは、ネット形製品、例えば、寛骨臼構成部品または脛側膝インサートを製造するのに用いることができる(例えば、IN州WarsawのZimmer,Inc.から入手できる)。この技法では、UHMWPE粉末を直接的に圧縮して最終形状にする。“ホッケーパック”すなわちパックは、一般に、ラム押出された棒材からまたは圧縮成形シートから機械加工される。
放射線処理されたUHMWPEにより、そのUHMWPEのポリマー鎖間に架橋結合を誘導するように、放射線、例えば、γ線または電子線で処理されたUHMWPEが意味される。
検出可能なフリーラジカルが実質的にないことにより、Jahanら,J.Biomedica l Materials Research 25:1005(1991)も記載の電子常磁性共鳴によって、フリーラジカルが実質的に測定されないことが意味される。フリーラジカルには、例えば、不飽和トランスビニレンフリーラジカルが含まれる。融点未満において電離線で照射されたUHMWPEは、架橋結合を含有するだけでなく、長生きの止められたフリーラジカルも含有する。これらフリーラジカルは、長期にわたって酸素と反応し、そして酸化崩壊によるUHMWPEの脆化を引き起こす。本発明のUHMWPEおよび医療用プロテーゼの利点は、検出可能なフリーラジカルを有しない放射線処理されたUHMWPEを用いることである。それらフリーラジカルは、この結果を与えるいずれの方法によっても、例えば、残留結晶構造が実質的に残らないようにUHMWPEをその融点を越えて加熱することによって除去することができる。結晶構造を除去することにより、フリーラジカルは再結合することができ、したがって除去される。
本発明において用いられるUHMWPEは、架橋構造を有する。架橋構造を有する利点は、プロテーゼの装着中のプロテーゼからの粒子の生成を減少させることである。
UHMWPEは、実質的に酸化されないことが好ましい。実質的に酸化されないことにより、架橋試料のFTIRスペクトルの1740cm−1でのカルボニルピークの面積のFTIRスペクトルの1460cm−1でのピークの面積に対する比率が、架橋する前の試料の比率と同じオーダーの大きさであることが意味される。
UHMWPEは、実質的に耐酸化性であるのが好ましい。実質的に耐酸化性により、それが、少なくとも約10年間実質的に酸化されないままであることが意味される。好ましくは、それは、少なくとも約20年間、より好ましくは少なくとも約30年間、そして最も好ましくは患者の全生涯の間、実質的に酸化されないままであることが意味される。
一定の態様において、UHMWPEは3の融解ピークを有する。第1融解ピークは、好ましくは約105℃〜約120℃であり、より好ましくは約110℃〜約120℃であり、そして最も好ましくは約118℃である。第2融解ピークは、好ましくは約125℃〜約140℃であり、より好ましくは約130℃〜約140℃であり、またより好ましくは約135℃であり、そして最も好ましくは約137℃である。第3融解ピークは、好ましくは約140℃〜約150℃であり、より好ましくは約140℃〜約145℃であり、そして最も好ましくは約144℃である。一定の態様において、UHMWPEは2の融解ピークを有する。第1融解ピークは、好ましくは約105℃〜約120℃であり、より好ましくは約110℃〜約120℃であり、そして最も好ましくは約118℃である。第2融解ピークは、好ましくは約125℃〜約140℃であり、より好ましくは約130℃〜約140℃であり、またより好ましくは約135℃であり、そして最も好ましくは約137℃である。一定の態様において、UHMWPEは1の融解ピークを有する。その融解ピークは、好ましくは約125℃〜約140℃であり、より好ましくは約130℃〜約140℃であり、またより好ましくは約135℃であり、そして最も好ましくは約137℃である。好ましくは、UHMWPEは2の融解ピークを有する。融解ピークの数は、10℃/分の加熱速度の示差走査熱量測定(DSC)によって測定される。
本発明のプロテーゼに用いられるUHMWPEのポリマー構造は、プロテーゼ装着中のプロテーゼからのUHMWPE粒子の生成の減少をもたらす。体内に放出される粒子の数が制限される結果として、そのプロテーゼは、より長いインプラント寿命を示す。好ましくは、プロテーゼは、少なくとも10年間、より好ましくは、少なくとも20年間、そして最も好ましくは患者の全生涯の間、体内にインプラントされたままである。
本発明は、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない放射線処理されたUHMWPEから製造された他の二次加工品も包含する。好ましくは、それら二次加工品を製造するのに用いられるUHMWPEは、架橋構造を有する。好ましくは、そのUHMWPEは、実質的に耐酸化性である。一定の態様において、そのUHMWPEは3の融解ピークを有する。一定の態様において、そのUHMWPEは2の融解ピークを有する。一定の態様において、そのUHMWPEは1の融解ピークを有する。好ましくは、このUHMWPEは2の融解ピークを有する。二次加工品には、造形品および非造形品が含まれ、例えば、機械加工物、例えば、カップ、ギヤ、ナット、スレッドランナー、ボルト、ファスナー、ケーブル、パイプ等、および棒材、フィルム、円筒バー、シート材料、パネル、および繊維が含まれる。造形品は、例えば、機械加工によって第2の製品に形状化することができる棒材の形でありうる。それら二次加工品は、耐力用途、例えば、高耐摩耗用途に、例えば、耐力表面として、例えば、関節表面、および金属代替品として特に適している。本発明のUHMWPEのフィルムまたはシートは、例えば、グルーで支持体表面上に接着することもでき、したがって、耐摩耗性耐力表面として用いられる。
本発明は、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない放射線処理されたUHMWPEも包含する。そのUHMWPEは架橋構造を有する。好ましくは、そのUHMWPEは実質的に酸化されないので、実質的に耐酸化性である。一定の態様において、そのUHMWPEは3の融解ピークを有する。一定の態様において、そのUHMWPEは2の融解ピークを有する。一定の態様において、そのUHMWPEは1の融解ピークを有する。好ましくは、UHMWPEは2の融解ピークを有する。そのUHMWPEを製造するのに用いられる具体的な処理に依存して、本発明のUHMWPE中には、例えば、ステアリン酸カルシウム、離型剤、エキステンダー、抗酸化剤および/またはポリエチレンポリマーへの他の慣用的な添加剤を含めた一定の不純物が存在し得る。
本発明は、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない架橋したUHMWPEを製造する方法も提供する。好ましくは、このUHMWPEは、高耐摩性を有する耐力製品として用いるためのものである。ポリマー鎖を有する慣用的なUHMWPEを提供する。慣用的なUHMWPEは、例えば、棒材、形状化された棒材、例えば、パック、コーティング、または二次加工品、例えば、医療用プロテーゼで用いるためのカップまたはトレー形物品の形でありうる。慣用的なUHMWPEにより、約500,000を越える分子量の商業的に入手可能な高密度(線状)ポリエチレンが意味される。好ましくは、UHMWPE出発物質は、約2,000,000を越える平均分子量を有する。初期平均分子量により、何等かの照射の前のUHMWPE出発物質の平均分子量が意味される。UHMWPEは、ポリマー鎖を架橋させるように照射される。照射は、不活性または非不活性環境中で行うことができる。好ましくは、照射は、非不活性環境、例えば、空気中で行われる。照射されたUHMWPEは、そのUHMWPE中では検出可能なフリーラジカルが実質的に存在しなくなるように、UHMWPEの融解温度を越えて加熱される。次に、加熱されたUHMWPEは室温まで冷却される。好ましくは、冷却工程は、約0.1℃/分を越える速度である。場合により、冷却されたUHMWPEを機械加工することができる。例えば、照射工程中に何等かのUHMWPEの酸化が起こった場合、それを、所望ならば、当業者に知られているいずれかの方法によって機械加工して除去することができる。そして場合により、冷却されたUHMWPEまたは機械加工されたUHMWPEを、当業者に知られているいずれかの方法によって滅菌することができる。
この方法の一つの好ましい態様は、いわゆるCIR−SM、すなわち、低温照射と引続く融解である。この態様において、与えられるUHMWPEは、室温または室温未満である。好ましくは、それは約20℃である。UHMWPEの照射は、例えば、 γ線照射または電子照射でありうる。一般に、γ線照射は高い透過度を与えるが、より長時間を要し、より深遠な酸化の可能性をもたらす。一般に、電子照射はより限定された透過度しか与えないが、より短時間であるので、広範な酸化の可能性は減少する。照射は、ポリマー鎖を架橋させるために行われる。照射線量を変動させて、最終UHMWPE製品の架橋度および結晶化度を調節することができる。好ましくは、照射の総吸収線量は、約0.5〜約1,000Mrad、より好ましくは約1〜約100Mrad、またより好ましくは約4〜約30Mrad、またより好ましくは約20Mrad、そして最も好ましくは約15Mradである。好ましくは、UHMWPEを融解させるほどの熱を生じない線量率を用いる。γ線照射を用いる場合、好ましい線量率は、約0.05〜約0.2Mrad/分である。電子照射を用いる場合、好ましくは、線量率は約0.05〜約3,000Mrad/分、より好ましくは約0.05〜約5Mrad/分、そして最も好ましくは約0.05〜約0.2Mrad/分である。電子照射における線量率は、次のパラメータによって決定される。(i)kWで表される加速器の出力、(ii)コンベヤー速度、(iii)照射検体表面と走査ホーンとの間の距離、および(iv)走査幅。eビーム装置での線量率は、しばしば、ラスタeビーム下においてMrad/パスで測定される。本明細書中においてMrad/分として示される線量率は、次の等式:
DMrad/min=DMrad/パス×Vc÷l
(式中、DMrad/minはMrad/分で表される線量率であり、DMrad/ハ゜スはMrad/パスで表される線量率であり、Vcは、コンベヤー速度であり、そしてlは、eビームラスタ面を移動する検体の長さである)を用いることによってMrad/パスに変換され得る。電子照射を用いる場合、電子のエネルギーを変動させて、電子の透過度を変化させることができる。好ましくは、電子のエネルギーは約0.5MeV〜約12MeV、より好ましくは約5MeV〜約12MeVである。このような操作性は、照射対象が種々の厚みまたは深さを有する製品、例えば、医療用プロテーゼの関節用カップである場合に特に有用である。
照射されたUHMWPEは、そのUHMWPEの融解温度を越えて加熱されるので、UHMWPE中に検出可能なフリーラジカルは存在しない。加熱は、分子に充分な移動度を提供してUHMWPEの結晶に由来する束縛を排除し、それによって残留するフリーラジカルは実質的に全て再結合することができる。好ましくは、UHMWPEは、約137℃〜約300℃、より好ましくは約140℃〜約300℃、またより好ましくは約140℃〜約190℃、またより好ましくは約145℃〜約300℃、またより好ましくは約145℃〜約190℃、またより好ましくは約146℃〜約190℃、そして最も好ましくは約150℃の温度まで加熱される。好ましくは、加熱工程中の温度は、約0.5分間〜約24時間、より好ましくは約1時間〜約3時間、そして最も好ましくは約2時間維持される。加熱は、例えば、空気中で、不活性ガス、例えば、窒素、アルゴン若しくはヘリウム中で、増感雰囲気、例えば、アセチレン中で、または真空中で行うことができる。より長い加熱時間には、不活性ガス中または真空下で加熱を行うのが好ましい。
この方法のもう一つの好ましい態様は、いわゆるWIR−SM、すなわち、加温照射と引続く融解である。この態様では、与えられるUHMWPEは、そのUHMWPEの融解温度未満の温度まで予熱される。予熱は、不活性または非不活性環境中で行うことができる。この予熱は空気中で行うのが好ましい。好ましくは、UHMWPEは、約20℃〜約135℃の温度まで、より好ましくは約20℃を越える温度〜約135℃まで、そして最も好ましくは約50℃の温度まで予熱される。他のパラメーターは、電子線を用いる照射工程についての線量率が、好ましくは約0.05〜約10Mrad/分、そしてより好ましくは約4〜約5Mrad/分であり;そしてγ線照射を用いる照射工程についての線量率が、好ましくは約0.05〜約0.2Mrad/分、そしてより好ましくは約0.2Mrad/分であることを除いて、CIR−SMに関して上に記載された通りである。
この方法のもう一つの好ましい態様は、いわゆるWIR−AM、すなわち、加温照射および断熱融解である。この態様では、与えられるUHMWPEは、そのUHMWPEの融解温度未満の温度まで予熱される。予熱は、不活性または非不活性環境中で行うことができる。この予熱は空気中で行うのが好ましい。予熱は、例えば、オーブン中で行うことができる。予熱は、約100℃からUHMWPEの融解温度未満の温度までであるのが好ましい。好ましくは、UHMWPEを約100℃〜約135℃の温度まで予熱する。より好ましくはその温度は約130℃であり、そして最も好ましくは約120℃である。好ましくは、そのUHMWPEを、加工中にUHMWPEからの熱損失を減少させるために断熱材中に入れる。熱とは、例えば、照射前に加えられる予熱および照射中に生じる熱を含む意味である。断熱材により、断熱性を有するあらゆる材料、例えば、ガラス繊維パウチが意味される。
次に、予熱されたUHMWPEに、ポリマー中において材料中の結晶を実質的に全て融解させるのに充分な熱を生じるように充分に高い総線量を充分に速い線量率で照射すると、例えば照射工程によって生じる検出可能なフリーラジカルが実質的に全て確実に除去される。照射工程は、このような断熱加熱を生じるように電子照射を用いるのが好ましい。断熱加熱により、照射中に周囲への熱損失がないことが意味される。断熱加熱は、その温度が融点を越える場合、断熱融解を引き起こす。断熱融解とは、完全なまたは部分的な融解を含む意味である。最小の総線量は、ポリマーをその初期温度(すなわち、上で論及された予熱温度)からその融解温度まで加熱するのに必要な熱、および全ての結晶を融解させるのに必要な熱、およびポリマーをその融点を越える所定の温度まで加熱するのに必要な熱の量によって決定される。次の等式は、総線量の量をどのように計算するかを示すものである。
総線量=CPs(Tm−Ti)+ΔHm+CPm(Tf−Tm)
式中、CPs(=2J/g/℃)およびCPm(=3J/g/℃)は、固相状態および溶融状態のそれぞれのUHMWPEの熱容量であり、ΔHm(=146J/g)は、未照射Hoescht Celanese GUR 415棒材の融解熱であり、Tiは初期温度であり、そしてTfは最終温度である。最終温度は、UHMWPEの融解温度を越えるはずである。
好ましくは、UHMWPEの最終温度は、約140℃〜約200℃であり、より好ましくは、それは約145℃〜約190℃であり、またより好ましくは、それは約146℃〜約190℃であり、そして最も好ましくは、それは約150℃である。160℃を越えると、ポリマーは気泡および亀裂を形成し始める。好ましくは、電子線の線量率は、約2〜約3,000Mrad/分であり、またより好ましくは約2〜約30Mrad/分、またより好ましくは約7〜約25Mrad/分、またより好ましくは約20Mrad/分、そして最も好ましくは約7Mrad/分である。好ましくは、総吸収線量は約1〜約100Mradである。上の等式を用いると、130℃の初期温度および150℃の最終温度についての吸収線量は、約22Mradであると計算される。
この態様において、その方法の加熱工程は、上記の断熱加熱から生じる。
一定の態様において、断熱加熱は、UHMWPEを完全に融解させる。一定の態様において、断熱加熱は、UHMWPEを部分的に融解させるだけである。好ましくは、照射で誘発される断熱加熱の後に、その照射されたUHMWPEの追加加熱を行なって、追加加熱後のUHMWPEの最終温度をUHMWPEの融解温度を上回るようにし、UHMWPEの完全な融解を確実にする。追加の加熱からのUHMWPEの温度は、約140℃〜約200℃であり、より好ましくは約145℃〜約190℃であり、またより好ましくは約146℃〜約190℃であり、そして最も好ましくは約150℃である。
本発明の更にもう一つの態様は、いわゆるCIR−AM、すなわち、低温照射と断続的加熱である。この態様では、室温または室温未満のUHMWPEは、断熱加熱によって、その後の追加加熱をしてまたはしないで融解される。
本発明は、上記の方法によって製造された製品も包含する。
本発明において更に提供されるのは、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEから医療用プロテーゼを製造する方法であり、そのプロテーゼは、プロテーゼの装着中のプロテーゼからの粒子の生成を減少させる。検出可能なフリーラジカルを有しない放射線処理されたUHMWPEが提供される。医療用プロテーゼが、プロテーゼの装着中にプロテーゼからの粒子の生成を減少させるようにこのUHMWPEから形成され、UHMWPEはプロテーゼの耐力表面を形成する。プロテーゼの形成は、当業者に知られている標準操作、例えば、機械加工によって行うことができる。
本発明において更に提供されるのは、医療用プロテーゼを必要とする身体を治療する方法である。検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない放射線処理されたUHMWPEから形成された形状化されたプロテーゼが提供される。このプロテーゼは、プロテーゼを必要とする身体に適用される。そのプロテーゼは、プロテーゼの装着中のプロテーゼからの粒子の生成を減少させる。好ましい態様において、超高分子量ポリエチレンが、プロテーゼの耐力表面を形成する。
本発明の更にもう一つの態様において、プロテーゼ装着中にプロテーゼからの微粒子の生成を減少させるように、約50%未満の結晶化度、約290Å未満のラメラ厚みおよび約940MPa未満の引張弾性率を有するポリマー構造を有する超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から形成される体内使用のための医療用プロテーゼが提供される。
この態様のUHMWPEは、約50%未満の結晶化度、好ましくは約40%未満の結晶化度のポリマー構造を有する。結晶化度により、ポリマーの結晶性である分率が意味される。結晶化度は、試料の重量(w,gで表される)、融解中に試料によって吸収される熱(E,calで表される)および100%結晶状態にあるポリエチレンの計算された融解熱(ΔH°=69.2cal/g)を知り、そして次の等式を用いることによって計算される。
この態様のUHMWPEは、約290Å未満のラメラ厚み、好ましくは約200Å未満のラメラ厚み、そして最も好ましくは約100Å未満のラメラ厚みのポリマー構造を有する。ラメラ厚み(l)により次の式を用いて計算されるポリマー中の推定メラ構造の厚みが意味される。
式中、σeはポリエチレンの最終自由表面エネルギー(end free surface energy)(2.22×10−6cal/cm2)であり、ΔH°は100%結晶状態にあるポリエチレンの計算された融解熱(69.2cal/g)であり、ρは晶性部分の密度(1.005g/cm3)であり、Tm°は完全ポリエチレン結晶の融点(418.15K)であり、そしてTmは試料の実験的に決定される融点である。
この態様のUHMWPEは、約940MPa未満の引張弾性率、好ましくは約600MPa未満の引張弾性率、より好ましくは約400MPa未満の引張弾性率、そして最も好ましくは約200MPa未満の引張弾性率を有する。引張弾性率により、標準試験法ASTM 638 M IIIを用いて測定したときの0.5%未満の歪についての対応する歪に対する法線応力の比率が意味される。
好ましくは、この態様のUHMWPEは、約40%の結晶化度、約100Åのラメラ厚みおよび約200MPaの引張弾性率を有するポリマー構造を有する。
この態様のUHMWPEは、止められたフリーラジカル、例えば、不飽和トランスビニレンフリーラジカルを有していない。この態様のUHMWPEは、ショアーDスケールで約65未満の硬度、より好ましくはショアーDスケールで約55未満の硬度、そして最も好ましくはショアーDスケールで約50未満の硬度を有するのが好ましい。硬度により、ASTM D2240に記載のジュロメーターを用いてショアーDスケールで測定される瞬間押込硬度が意味される。この態様のUHMWPEは、実質的に酸化されないのが好ましい。そのポリマー構造は、広範な架橋を有するので、ポリマー構造のかなりの部分はデカリン中に溶解しない。かなりの部分により、ポリマー試料乾量の少なくとも50%が意味される。デカリン中に溶解しないことにより、150℃で24時間にわたってデカリン中に溶解しないことが意味される。好ましくは、この態様のUHMWPEは、不完全な結晶の生成を引き起こし且つ結晶化度を減少させるように高い絡み合い密度を有する。絡み合い密度により、単位容積中のポリマー鎖の絡み合い点の数が意味され、より高い絡み合い密度は、そのポリマー試料が慣用的なUHMWPEと同程度まで結晶化できないことによって示されるので、より小さい結晶化度をもたらす。
本発明は、約50%未満の結晶化度、約290Å未満のラメラ厚みおよび約940MPa未満の引張弾性率を有するポリマー構造を有するこの態様のUHMWPEから製造される他の二次加工品も包含する。そのような製品には、造形品および非造形品が含まれ、例えば、機械加工物、例えば、カップ、ギヤ、ナット、スレッドランナー、ボルト、ファスナー、ケーブル、パイプ等、および棒材、フィルム、円筒バー、シート材料、パネル、および繊維が含まれる。造形品は、例えば、機械加工によって製造することができる。それら二次加工品は、耐力用途に、例えば、耐力表面としておよび金属代替品として特に適している。溶融照射されたUHMWPEの薄いフィルムまたはシートは、例えば、グルーで支持体表面上に接着することもでき、したがって、透明な耐摩耗性耐力表面として用いられる。
本発明は、UHMWPEが、約50%未満の結晶化度、約290Å未満のラメラ厚みおよび約940MPa未満の引張弾性率を特徴とする独特のポリマー構造を有する態様も包含する。そのUHMWPEを製造するのに用いられる具体的な処理に依存して、本発明のUHMWPE中には、例えば、ステアリン酸カルシウム、離型剤、エキステンダー、抗酸化剤および/またはポリエチレンポリマーへの他の慣用的な添加剤を含めた一定の不純物が存在し得る。一定の態様において、本UHMWPEは、光の高い透過率、好ましくは1mm厚の試料を通る517nmの光の約10%を越える光の透過率、より好ましくは1mm厚の試料を通る517nmの光の約30%を越える光の透過率、そして最も好ましくは1mm厚の試料を通る517nmの光の約40%を越える透過率を有する。このようなUHMWPEは、種々の製品の支持体表面上にくっ付けることができる薄いフィルムまたはシートに特に有用であり、そのフィルムまたはシートは透明で耐摩耗性となる。
本発明のもう一つの態様において、架橋したUHMWPEを製造する方法が提供される。この方法は、いわゆる溶融照射(MIR)である。慣用的なUHMWPEが提供される。好ましくは、そのUHMWPEは、酸素を実質的に含まない不活性物質で取り囲まれている。そのUHMWPEは、全ての結晶構造を完全に融解させるためにそのUHMWPEの融解温度を越えて加熱される。加熱されたUHMWPEは照射され、そして照射されたUHMWPEは約25℃まで冷却される。
好ましくは、この態様から製造されたUHMWPEは、約50%未満の結晶化度、約290Å未満のラメラ厚みおよび約940MPa未満の引張弾性率を有するポリマー構造を有する。慣用的なUHMWPE、例えば、棒材、形状化された棒材、コーティングまたは二次加工品が提供される。慣用的なUHMWPEにより、約500,000を越える分子量の商業的に入手可能な高密度(線状)ポリエチレンが意味される。好ましくは、このUHMWPE出発物質は、約2,000,000を越える平均分子量を有する。初期平均分子量により、何等かの照射の前のUHMWPE出発物質の平均分子量が意味される。このUHMWPEは、実質的に酸素を含まない不活性物質、例えば、窒素、アルゴンまたはヘリウムで取り囲まれているのが好ましい。一定の態様では、非不活性環境を用いることができる。このUHMWPEは、その融解温度を越える温度で、その結晶を全て融解させるのに充分な時間加熱される。好ましくは、その温度は約145℃〜約230℃であり、そしてより好ましくは約175℃〜約200℃である。好ましくは、その加熱は、ポリマーを好ましい温度で約5分間〜約3時間、そしてより好ましくは約30分間〜約2時間保持するように維持される。次に、そのUHMWPEに、γ線または電子線で照射する。概して、γ線照射は高い透過度を与えるが、より長時間を要し、若干の酸化の可能性をもたらす。概して、電子照射はより限定された透過度しか与えないが、より短時間であるので、酸化の可能性は減少する。照射線量を変動させて、最終UHMWPE製品の架橋度および結晶化度を調節することができる。好ましくは、約1Mradを越える線量を用い、より好ましくは約20Mradを越える線量を用いる。電子照射を用いる場合、電子のエネルギーを変動させて、電子の透過度を変化させることができ、それによって最終UHMWPE製品の架橋度および結晶化度を調節することができる。好ましくは、そのエネルギーは、約0.5MeV〜約12MeV、より好ましくは約1MeV〜約10MeV、そして最も好ましくは約10MeVである。このような操作性は、照射対象が種々の厚みまたは深さを有する製品、例えば、プロテーゼの関節用カップである場合に特に有用である。次に、照射されたUHMWPEは約25℃まで冷却される。好ましくは、冷却速度は、約0.5℃/分またはそれより大きく、より好ましくは約20℃/分またはそれより大きい。一定の態様において、冷却されたUHMWPEは機械加工することができる。好ましい態様において、冷却された照射UHMWPEは、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない。実施例1、3および6は、この方法のいくつか好ましい態様を記載している。実施例2、4および5、および図4〜7は、これら好ましい態様から得られる溶融照射UHMWPEのいくつかの特性を慣用的なUHMWPEと比較しながら示している。
本発明は、上記の方法によって製造された製品も包含する。
MIRの態様では、高度に絡み合って架橋したUHMWPEが製造される。慣用的なUHMWPEが提供される。好ましくは、そのUHMWPEは、酸素を実質的に含まない不活性物質で取り囲まれている。その冊MWPEは、UHMWPEの融解温度を越える温度で、UHMWPE中のポリマー鎖の絡み合いが形成されるのに充分な時間加熱される。加熱されたUHMWPEは、ポリマー鎖を絡み合った状態に止めるために照射される。照射されたUHMWPEは約25℃まで冷却される。
本発明は、上記の方法によって製造された製品も包含する。
本発明において更に提供されるのは、プロテーゼの装着中にプロテーゼからの微粒子の生成を減少させるようにUHMWPEからプロテーゼを製造する方法である。約50%未満の結晶化度、約290Å未満のラメラ厚みおよび約940MPa未満の引張弾性率を有するポリマー構造を有するUHMWPEが提供される。プロテーゼは、このUHMWPEから形成され、そのUHMWPEはプロテーゼの耐力表面を形成する。プロテーゼの形成は、当業者に知られている標準操作、例えば、機械加工によって行うことができる。本発明において更に提供されるのは、プロテーゼを必要とする身体を治療する方法である。約50%未満の結晶化度、約290Å未満のラメラ厚みおよび約940MPa未満の引張弾性率を有するポリマー構造を有する超高分子量ポリエチレンから形成された形状化されたプロテーゼが提供される。このプロテーゼは、プロテーゼを必要とする身体に適用される。そのプロテーゼは、プロテーゼの装着中のプロテーゼからの微粒子の生成を減少させる。好ましい態様において、この超高分子量ポリエチレンは、そのプロテーゼの耐力表面を形成する。
本発明の製品および方法は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンおよびポリプロピレンなどの他のポリマー材料にも当てはまる。
次の非限定実施例は、本発明を更に詳しく説明するものである。
実施例1:溶融照射UHMWPEを製造する方法(MIR)
この実施例は、溶融UHMWPEの電子照射を例示する。
慣用的なラム押出UHMWPE棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたHoescht Celanese GUR 415棒材)から調製された10mm×12mm×60mm寸法の立方形検体(パック)をチャンバー中に入れた。チャンバー内雰囲気は、低酸素窒素ガス(<0.5ppm酸素ガス)(NJ州Murray HillのAIRCOから入手された)から成るものであった。チャンバー内圧は約1atmであった。試料および照射チャンバーの温度は、ヒーター、バリアックおよび熱電対表示器(手動)または温度調節器(自動)を用いて調節された。チャンバーを270W加熱マントルで加熱した。チャンバーは、試料の定常状態温度が約175℃となるような速度で加熱された(バリアックによって調節された)。試料を定常状態温度で30分間保持した後、照射を開始した。
照射は、バンドグラーフ高圧発生装置を用いて2.5MeVのエネルギーの電子および1.67MRad/分の線量率で行った。試料は、試料の60mm×12mm表面上に衝突する電子ビームで20MRadの線量を受けた。ヒーターのスイッチを照射後に切り、そして試料をチャンバー内の不活性雰囲気、つまり窒素ガス下において25℃まで約0.5℃/分で冷却させた。対照として、慣用的なUHMWPEの未加熱および未照射の棒材を用いて同様の検体を調製した。
実施例2:GUR 415 UHMWPE棒材および溶融照射(MIR)GUR 415 UHMWPE棒材 (20MRad)の特性の比較
この実施例は、実施例1から得られたUHMWPE棒材(GUR 415)の照射および未照射試料の種々の特性を例示する。試験された試料は、次の通りであった:試験試料は、溶融した後に溶融中に照射した棒材;対照は棒材(未加熱/未融解、未照射)であった。
(A)
示差走査熱量測定(DSC)
Perkin−Elmer DSC7を、氷水冷却用放熱器、および連続窒素パージで10℃/分での加熱および冷却速度とともに用いた。実施例1から得られた試料の結晶化度を、試料の重量およびポリエチレン結晶の融解熱(69.2cal/g)から計算した。吸熱量のピークに対応する温度を融点とした。ラメラ厚みは、ラメラ結晶形態を推定し、そして100%結晶ポリエチレンの融解熱ΔH°(69.2cal/g)、完全結晶の融点(418.15K)、結晶部分の密度(1.005g/cm3)およびポリエチレンの最終自由表面エネルギー(2.22×10−6cal/cm2)を知ることによって計算された。結果を表1および図4に示す。
これら結果は、溶融照射された試料が、より低い結晶化度、より低いラメラ厚みおよびより低い融点によって示されるように、未照射試料よりも多い絡み合いおよび少ない結晶ポリマー構造を有したことを示す。
(B)
膨潤比
試料を2mm×2mm×2mm寸法の立方体に切断し、そしてデカリン中に150℃で24時間浸漬したまま保持した。抗酸化剤(1%N−フェニル−2−ナフチルアミン)をデカリンに加えて、試料の分解を妨げた。膨潤比および抽出パーセントは、試料の重量を実験前、24時間膨潤後、および膨潤した試料を真空乾燥した後に測定することによって計算された。結果を表2に示す。
これら結果は、溶融照射されたUHMWPE試料が高度に架橋したため、ポリマー鎖は24時間後でも熱溶媒中へ溶解できなかったが、未照射試料は同じ時間内に熱溶媒中に完全に溶解したことを示す。
(C)
引張弾性率
試料についてASTM 638 M IIIを行った。置換速度は1mm/分であった。実験はMTS試験機で行った。結果を表3に示す。
これら結果は、溶融照射されたUHMWPE試料が、未照射対照より有意に低い引張弾性率を有したことを示す。溶融照射されたUHMWPE試料のより低い破断点歪が、その試料中の鎖の架橋についての更にもう一つの証拠である。
(D)
硬度
試料の硬度は、ジュロメーターを用いてショアーDスケールで測定された。硬度は、瞬間押込について記録された。結果を表4に示す。
これら結果は、溶融照射されたUHMWPEが、未照射対照より柔軟であったことを示す。
(E)
光透過率(透明性)
試料の透明性は、次のように測定された:光透過率は、2枚のガラススライドの間に置かれた厚さ約1mmの試料を通る517nmの波長の光について検討された。試料は、それら表面を600グリット紙で磨くことによって調製された。シリコーン油を試料の表面上に塗布した後、その試料を2枚のスライドの間に置いた。シリコーン油は、ポリマー試料の表面ざらつきによって拡散光の散乱を減少させるために用いられた。この目的で用いられる対照は、シリコーン油の薄いフィルムによって隔てられた2枚の類似のガラススライドであった。透過率は、Perkin−Elmer Lambda 3B uv−vis分光光度計を用いて測定された。正確に1mm厚さの試料の吸光係数および透過率は、ランベルト・ベールの法則を用いて計算された。結果を表5に示す。
これら結果は、溶融照射されたUHMWPE試料が、それを通る光を対照よりはるかに多く透過したので、対照よりはるかに透明であることを示す。
(F)環境走査型電子顕微鏡(ESEM)
ESEM(ElectroScan,3型)は、試料上について10kV(試料にへの放射線損傷を減少させる低電圧)で極めて薄い金コーティング(画質を高める約20Å)を用いて行った。金コーティングを用いておよび用いることなくESEM下でポリマー表面を研究することにより、薄い金コーティングは人為的結果物を全く生じないことが示された。
1:1の硫酸/オルトリン酸比率および0.7%(w/v)濃度の過マンガン酸カリウムでの過マンガン酸塩蝕刻を用いて試料を蝕刻した後、ESEM下で観察した。
図4は、慣用的なUHMWPE(GUR 415;未加熱;未照射)の蝕刻面のESEM(10,000×の倍率)を示す。図5は、溶融照射されたUHMWPE(GUR 415;溶融;20MRad)の蝕刻面のESEM(10,000×の倍率)を示す。ESEMは、慣用的なUHMWPEと比較して、溶融照射されたUHMWPEの結晶化度の大きさの減少および不完全結晶化の発生を示した。
(G)フーリエ変換赤外分光分析法(FTIR)
試料のFTIRは、ヘキサンで濯ぎ洗浄して表面の不純物を除去された試料についてマイクロサンプラーを用いて行われた。約1740〜1700cm−1で観察されたピークは、酸素含有基に関係したバンドである。したがって、1740cm−1でのカルボニルピークの面積の1460cm−1でのメチレンピークの面積に対する比率は、酸化度の尺度になる。
FTIRスペクトルは、溶融照射されたUHMWPE試料が、慣用的な未照射UHMWPE対照より多くの酸化を示したが、空気中において室温で照射され溶融照射された試料と同じ照射線量を与えられたUHMWPE試料よりはるかに少ない酸化を示したことを示している。
(H)電子常磁性共鳴(EPR)
EPRは、気密石英試験管中の窒素雰囲気中に置かれた試料について室温で行われた。用いられた計測器はBruker ESP 300 EPR分光計であり、用いられた試験管はNJ州BuenaのWilmad Glass Companyから入手されたTaperlok EPR試料管であった。
照射は、ポリマー中でフリーラジカルを生成する処理であるので、未照射試料はそれらの中にフリーラジカルを全く含んでいない。照射で、適当な条件下で数年間存続しうるフリーラジカルが生成される。 EPR結果は、溶融照射された試料が、照射直後にEPRを用いて実験された場合にフリーラジカルを全く示さなかったが、窒素雰囲気下の室温で照射された試料は、室温で266日貯蔵した後でも、トランスビニレンフリーラジカルを示したことを示す。溶融照射されたUHMWPE試料におけるフリーラジカルの不存在は、酸化的分解がこれ以上は不可能であったことを意味する。
(I)耐摩耗性
試料の耐摩耗性は、二軸ピンオンディスク摩耗試験機を用いて測定された。摩耗試験は、Co−Cr合金ディスクに対するUHMWPEピン(直径=9mm;高さ=13mm)の摩擦作用を包含した。これら試験は、合計200万サイクルまで行った。未照射のピンは、8mg/100万サイクルの摩耗率を示したが、照射されたピンは、0.5mg/100万サイクルの摩耗率を有した。これら結果は、溶融照射されたUHMWPEが、未照射対照よりはるかに優れた耐摩耗性を有することを示す。
実施例3:溶融照射(MIR)UHMWPEの慣用的な関節用カップの製造方法
この実施例は、溶融UHMWPEの慣用的な関節用カップの電子照射を例示する。
内径26mmを有し且つGUR 415ラム押出棒材から調製された慣用的な関節用カップ(IN州WarsawのZimmer,Inc.によって調製された高適格未滅菌UHMWPEカップ)を、底部にチタンカップホルダーおよび上部に薄いステンレス鋼箔(0.001インチ厚)を有する気密チャンバー内で制御された雰囲気および温度条件下で照射した。このチャンバ一内の雰囲気は、低酸素窒素ガス(<0.5ppm酸素ガス)(NJ州Murray HillのAIRCOから入手された)から成るものであった。そのチャンバー内圧は約1atmであった。そのチャンバーは、270W加熱マントルをチャンバーの底部に用いて加熱され、これは、温度調節器およびバリアックを用いて調節された。チャンバーは、カップ上面の温度が約1.5℃〜2℃/分で上昇して、最終的に約175℃の定常状態温度に漸近的に達するように加熱された。試料カップの厚みおよび用いられる装置の具体的な設計により、カップの定常状態温度は、底部の200℃から上部の175℃まで変動した。そのカップをこれらの温度で30分間保持した後、照射を開始した。
照射は、バンドグラーフ高圧発生装置を用いて2.5MeVのエネルギーの電子および1.67MRad/分の線量率で行った。ビームは、上面の薄い箔を通ってチャンバーに入り、そしてカップの凹面に衝突した。カップに与えられた線量は、電子が衝突したカップ表面から約5mm下で20MRadの最大線量が受けられるようにした。照射後、加熱を停止し、そして窒素ガスを含むチャンバー内のままでカップを室温(約25℃)まで冷却させた。冷却速度は約0.5℃/分であった。チャンバーおよび試料が室温に達した後、試料をチャンバーから取出した。
容積が増加している(溶融照射後の結晶化度の減少に伴う密度の減少のため)上記の照射カップは、適当な寸法に再度機械加工することができる。
実施例4:
溶融照射(MIR)UHMWPE関節用カップの種々の深さでの膨潤比および抽出パーセント
この実施例は、実施例3から得られた溶融照射された関節用カップの種々の深さでの膨潤比および抽出パーセントを例示する。2mm×2mm×2mm寸法の試料を、カップの軸に沿った様々な深さでカップから切取った。次に、これら試料をデカリン中に150℃で24時間浸漬したまま保持した。抗酸化剤(1%N−フェニル−2−ナフチルアミン)をデカリンに加えて、試料の分解を妨げた。膨潤比および抽出パーセントは、実験前、24時間膨潤後、および膨潤した試料を真空乾燥した後に試料重量を測定することによって計算された。結果を表6に示す。
これら結果は、ポリマー鎖が熱デカリン中に24時間にわたって溶解しないような程度までの溶融照射処理のために、カップ中のUHMWPEが12mmの深さまで架橋していたことを示す。
実施例5:溶融照射(MIR)UHMWPE関節用カップの種々の深さでの結晶化度および融点
この実施例は、実施例3から得られた溶融照射されたカップの種々の深さでの結晶化度および融点を例示する。
試料は、カップの軸に沿った様々な深さでカップから得られた。結晶化度は、結晶性であるポリマーの分率である。結晶化度は、試料重量(w,gで表される)、融解中に試料によって吸収される熱(示差走査熱量測定法を用いて10℃/分で実験的に測定されたE,calで表される)および100%結晶状態にあるポリエチレンの融解熱(ΔH°=69.2cal/g)を知り、そして次の等式を用いることによって計算された。
融点は、DSC吸熱量のピークに対応する温度である。結果を図7に示す。
これら結果は、実施例3から得られた関節用カップ中の溶融照射されたUHMWPEの結晶化度および融点が、1cmの深さ(カップの厚みは1.2cmである)まででさえ、慣用的なUHMWPEの対応する値よりはるかに低かったことを示す。
実施例6:溶融照射(MIR)UHMWPE関節用カップの第二製造法
この実施例は、溶融照射されたUHMWPEを用いて関節用カップを製造する方法を例示する。
慣用的なラム押出UHMWPE棒材(PA州LenniのWest Lake Plasticsから入手されたGUR 415棒材)を機械加工して、高さ4cmおよび直径5.2cmの円筒形にした。その円筒の一つの円形面を機械加工して、直径2.6cmの正確に半球形孔を含み、その孔の軸と円筒が一致するようにした。この検体を、上面に薄いステンレス鋼箔(0.001インチ厚)を有する気密チャンバー中に封入した。円筒形検体を、半球形孔が箔に面するように入れた。次に、チャンバーを、低酸素窒素ガス(<0.5ppm酸素ガス)(NJ州 Murray HillのAIRCOから入手された)でフラッシュして充満させた。このフラッシングおよび充満の後、チャンバー内圧を1atmで保持しながら、窒素の遅い連続流を維持した。270W加熱マントルをそのチャンバーの底部に用いて加熱し、これは、温度調節器およびバリアックを用いて調節された。円筒形検体の上面の温度が約1.5℃〜2℃/分で上昇して、最終的に約175℃の定常状態温度に漸近的に達するようにチャンバーを加熱した。次に、検体をこの温度で30分間保持した後、照射を開始した。
照射は、バンドグラーフ高圧発生装置を用いて2.5MeVのエネルギーの電子および1.67MRad/分の線量率で行った。ビームは、上面の薄い箔を通ってチャンバーに入り、そして半球形孔を有する表面に衝突した。検体に与えられた線量は、電子が衝突したポリマー表面から約5mm下で20MRadの最大線量が与えられたようにした。照射後、加熱を停止し、そして窒素ガスを含むチャンバー内に入れたままで検体を室温(約25℃)まで冷却させた。冷却速度は約0.5℃/分であった。チャンバーおよび試料が室温に達した後、試料をチャンバーから取出した。
次に、この円筒形検体を機械加工して、IN州WarsawのZimmer,Inc.によって、半球形孔の凹面が再度機械加工されて関節面になるように製造された内径26mmの高適格UHMWPE関節用カップの寸法を有する関節用カップにした。この方法は、溶融照射中に比較的大きく寸法を変化させることを可能にする。
実施例7:UHMWPEパックの電子照射
この実施例は、UHMWPEパックの電子照射が、不均等な吸収線量プロフィールを与えることを例示する。
慣用的なUHMWPEラム押出棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたHoescht Celanese GUR 415棒材)を用いた。棒材に用いられたGUR 415 樹脂は、5,000,000g/モルの分子量を有し且つ500ppmのステアリン酸カルシウムを含有した。その棒材を、“ホッケーパック”形の円筒(高さ4cm,直径8.5cm)に切断した。
それらパックに、室温において、10MeVおよび1kWで操作された直線電子加速器(AECL,ピナワ,マニトバ,カナダ)でパックの円形底面の一方へ入射する電子ビームを用い、30cmの走査幅および0.08cm/秒のコンベヤー速度を用いて照射した。カスケード効果のために、電子ビーム照射は、不均等な吸収線量プロフィールを生じる。表7は、10MeV電子で照射されたポリエチレンの検体の種々の深さでの計算された吸収線量を示す。吸収線量は、上面(eビーム入射面)で測定された値であった。
実施例8:低温照射と引続く融解(CIR−SM)を用いるUHMWPEの製造方法
この実施例は、UHMWPEを低温照射した後、融解させることによって、架橋構造を有し且つ検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEを製造する方法を例示する。
慣用的なUHMWPEラム押出棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたHoescht Celanese GUR 415棒材)を用いた。棒材に用いられたGUR 415樹脂は、5,000,000g/モルの分子量を有し且つ500ppmのステアリン酸カルシウムを含有した。その棒材を、“ホッケーパック”形の円筒(高さ4cm,直径8.5cm)に切断した。
それらパックに、室温において2.5Mrad/パスの線量率で、上面(電子ビーム入射)で測定される2.5、5、7.5、10、12.5、15、17.5、20、30および50Mradの総吸収線量まで照射した(AECL,ピナワ,マニトバ,カナダ)。それらパックは包装されなかったし、そして照射は空気中で行われた。照射に続いて、ポリマーを融解させることによってフリーラジカルの再結合を引き起こして、残留する検出可能なフリーラジカルを実質的にようにするために、それらパックを真空下において150℃まで2時間加熱した。次に、それらパックを室温まで5℃/分の速度で冷却した。
残留するフリーラジカルは、Jahanら,J.Biomedical MaterialsResearch 25: 1005(1991)で記載のように電子常磁性共鳴によって測定される。
実施例9:加温照射と引続く融解(WIR−SM)を用いるUHMWPEの製造方法
この実施例は、融点未満まで加熱されたUHMWPEに照射した後、そのUHMWPEを融解させることによって、架橋構造を有し且つ検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEを製造する方法を例示する。
慣用的なUHMWPEラム押出棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたHoescht Celanese GUR 415棒材)を用いた。棒材に用いられたGUR 415 樹脂は、5,000,000g/モルの分子量を有し且つ500ppmのステアリン酸カルシウムを含有した。その棒材を、“ホッケーパック”形の円筒(高さ4cm,直径8.5cm)に切断した。
それらパックを、オーブン中において空気中で100℃まで加熱した。次に、加熱されたパックに、2.5Mrad/パスの線量率で20Mradの総線量まで電子ビームを用い(NJ州CranburyのE−Beam Services)、30cmの走査幅および0.08cm/秒のコンベヤー速度を用いて照射した。照射に続いて、それらパックを真空下において150℃まで2時間加熱し、それによってフリーラジカルを再結合させて、残留する検出可能なフリーラジカルが実質的にないようにした。次に、それらパックを室温まで5℃/分の速度で冷却した。
実施例10:加温照射と断熱融解(WIR−AM)を用いるUHMWPEの製造方法
この実施例は、UHMWPEの断熱融解を生じるように、融点未満まで加熱されたUHMWPEに照射することによって、架橋構造を有し且つ検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEを製造する方法を例示する。
慣用的なUHMWPEラム押出棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたHoescht Celanese GUR 415棒材)を用いた。棒材に用いられたGUR 415樹脂は、5,000,000g/モルの分子量を有し且つ500ppmのステアリン酸カルシウムを含有した。その棒材を、“ホッケーパック”形の円筒(高さ4cm,直径8.5cm)に切断した。
それらパックをガラス繊維パウチ(PA州PittsburghのFisher Scientific Co.)中に入れて、次の加工工程での熱損失を最小限にした。最初に、それら包まれたパックを、120℃で保持された空気対流オーブン中で一晩中加熱した。パックをオーブンから取出して直ぐに、それらを、10MeVおよび1kWで操作された直線電子加速器(AECL,ピナワ,マニトバ,カナダ)からパックの円形底面の一方へ入射する電子ビーム下に置き、そして直ちに、それぞれ21および22.5Mradの総線量まで照射した。線量率は2.7Mrad/分であった。したがって、21Mradの放射線は7.8分間、そして22.5Mradの放射線は8.3分間であった。照射後、それらパックを室温まで5℃/分の速度で冷却し、その時点でガラス繊維パウチを除去し、そして検体を分析した。
実施例11:GUR 415棒材パック、およびCIR−SMおよびWIR−AM処理された棒材パックの特性の比較
この実施例は、実施例8および10から得られたUHMWPE棒材GUR 415の照射および未照射試料の種々の特性を例示する。試験された試料は次の通りであった:(i)室温で照射され、続いてポリエチレン結晶を完全に融解させるために約150℃まで加熱された後、室温まで冷却された試験試料(パック)(CIR−SM)、(ii)パックからの熱損失を最小限するためにガラス繊維パウチ中で120℃まで加熱された直後にポリエチレン結晶の断熱融解を生じた棒材からの試験試料(パック)(WIR−AM)、および(iii)対照棒材(未加熱/未融解、未照射)。
A.フーリエ変換赤外分光分析法(FTIR)
試料の赤外(IR)分光分析法は、実施例8および10から得られた試料の薄形材について、BioRad UMA 500赤外顕微鏡を用いて行った。それら薄形材(50μm)は、スレッジミクロトームで製造された。IRスペクトルを、10×50μm2の窓寸法でパックの照射面より20μm、100μmおよび3mm下で集めた。約1740〜1700cm−1で観察されたピークは、酸素含有基に関係している。したがって、1740cm−1でのカルボニルピークの面積の1460cm−1でのメチレンピークの面積に対する比率は、対応するベースラインを差引いた後、酸化度の尺度である。表8および9は、実施例8および10で記載された検体の酸化度を要約する。
これらデータは、架橋操作の後に、約100μm厚さの薄層中に若干の酸化があったことを示す。この層を機械加工して除去すると、その最終製品は未照射対照と同様の酸化レベルを有するであろう。
B.
示差走査熱量測定(DSC)
Perkin−Elmer DSC7を、氷水冷却用放熱器、および連続窒素パージで10℃/分の加熱および冷却速度とともに用いた。実施例8および10から得られた検体の結晶化度を、試料の重量および、最初の加熱サイクル中に測定されたポリエチレン結晶の融解熱から計算した。結晶化度パーセントは、次の等式によって与えられた。
式中、Eおよびwは、それぞれ融解熱(Jまたはcal)および試験された検体の重量(グラム)であり、そしてΔH°は、ジュール/グラムでの100%結晶ポリエチレンの融解熱(291J/gまたは69.2cal/g)である。吸熱量のピークに対応する温度を融点とした。多数の吸熱量ピークが存在した若干の場合、これら吸熱量ピークに対応する多数の融点が報告された。実施例8および10で記載された検体の結晶化度および融点を、表10および11に示す。
データは、結晶化度が20Mradの吸収線量まで実質的に変化しないことを示す。したがって、架橋材料の弾性は、架橋時に実質的に未変化のままのはずである。他方、より高い線量で結晶化度を変化させることによって弾性を注文通りにしうる。データは、WIR−AM材料が3の融解ピークを示したことを示す。
C.
摩耗率のためのピンオンディスク実験
ピンオンディスク(POD)実験は、二軸ピンオンディスク摩耗試験機において2Hzの周波数で行われ、そこでポリマーのピンは、高度に磨かれたCo−Crディスクに対するピンの摩擦作用によって試験された。円筒形のピン(高さ13mm,直径9mm)を製造する前に、照射中および加工の前後に酸化された外層を除去するためにパック表面から1ミリメートルを機械加工して除去した。次に、それらピンをパックの心部から機械加工し、そしてeビーム入射面がCo−Crディスクに面するようなPODで試験した。摩耗試験は、ウシ血清中で合計2,000,000サイクルまで行われた。500,000サイクル毎にピンを秤量したが、その損失重量(摩耗率)平均値は、実施例8および10それぞれから得られた検体について表12および13で報告される。
これら結果は、架橋UHMWPEが、未照射対照よりはるかに優れた耐摩耗性を有することを示す。
D.
ゲル含有量および膨潤比
試料を2×2×2mm3寸法の立方体に切断し、そしてキシレン中に130℃で24時間浸漬したまま保持した。抗酸化剤(1%N−フェニル−2−ナフチルアミン)をキシレンに加えて、試料の分解を妨げた。膨潤比およびゲル含有量は、試料重量を実験前、24時間膨潤後、および膨潤した試料を真空乾燥後に測定することによって計算された。結果を、実施例8および10から得られた検体について表14および15に示す。
これら結果は、膨潤比が、架橋密度の増加を示す吸収線量の増加に伴い減少したことを示す。増加したゲル含有量は、架橋構造の生成を示す。
実施例12:引続く融解を伴うおよび伴わない低温照射(CIR−SM)によって製造されたUHMWPEのフリーラジカル濃度
この実施例は、フリーラジカル濃度に対するUHMWPEの低温照射に続く融解の作用を例示する。電子常磁性共鳴(EPR)は、気密石英試験管中の窒素雰囲気中に置かれた後の試料について室温で行われた。用いられた計測器は、Bruker ESP 300 EPR分光計であり且つ用いられた試験管は、Taperlok EPR試料管(NJ州Bu enaのWilmad Glass Co.から入手された)であった。 未照射試料は、それらの中に検出可能なフリーラジカルを全く有していなかった。照射工程中に、適当な条件下において少なくとも何年間か存続しうるフリーラジカルが生成される。
低温照射UHMWPE検体は、EPR技法で試験した場合、強いフリーラジカルシグナルを示した。同様の試料を融解サイクル後にEPRで調べた場合、そのEPRシグナルは検出できないレベルまで減少していることが判った。低温照射後に融解した(再結晶した)UHMWPE試料中のフリーラジカルの不存在は、捕捉された基に対する攻撃によってこれ以上酸化的分解が起こりえないことを意味する。
実施例13:
低温照射と引続く融解(CIR−SM)によって製造されたUHMWPEの種々の深さでの結晶化度および融点
この実施例は、20Mradの全放射線量を用いて実施例8から得られた架橋UHMWPE検体の種々の深さでの結晶化度および融点を例示する。試料は、架橋検体から種々の深さで得られた。結晶化度はおよび融点は、実施例10(B)で記載のPe rkin−Elmer示差走査熱量計を用いて測定された。結果を表16に示す。
これら結果は、結晶化度が、表面から離れた深さの関数として変化したことを示す。16mmの場合の突然の降下は、カスケード作用の結果である。吸収線量のピークは、線量レベルが27Mrad程度も高いかも知れない16mm付近に位置した。
実施例14:真空下融解に対して空気中融解を用いるCIR−SMによって製造されたUHMWPEの比較
この実施例は、CIR−SMによって製造されたUHMWPEパックの酸化レベルが、空気中で融解したにせよ真空下で融解したにせよ、パック表面から3mm下の深さでの未照射パックと同様であることを示す。
慣用的なUHMWPEラム押出棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたHoescht Celanese GUR 415棒材)を用いた。棒材に用いられたGUR 415 樹脂は、5,000,000g/モルの分子量を有し且つ500ppmのステアリン酸カルシウムを含有した。その棒材を、“ホッケーパック”形の円筒(高さ4cm,直径8.5cm)に切断した。
2個のパックに、室温において2.5Mrad/パスの線量率で、上面(電子ビーム入射)で測定される17.5Mradの総吸収線量まで(AECL,ピナワ,マニトバ,カナダ)、30cmの走査幅および0.07cm/秒のコンベヤー速度を用いて照射した。それらパックは包装されなかったし、そして照射は空気中で行われた。照射に続いて、残留する結晶性含有物が検出されないおよび残留する検出可能なフリーラジカルを有しない状態になるように、一方のパックを真空下において150℃まで2時間加熱し、そしてもう一方のパックを空気中において150℃まで2時間加熱した。次に、それらパックを室温まで5℃/分の速度で冷却した。次に、それらパックの酸化度について実施例11(A)で記載のように分析した。表17は、酸化度について得られた結果を纏めたものである。
これら結果は、自由表面下3mmの範囲内で、照射UHMWPE検体の酸化レベルが、未照射対照UHMWPEで観察される酸化レベルまで降下したことを示した。これは、照射後の融解雰囲気(空気または真空)とは無関係の問題であった。したがって、照射後融解は、照射パックの心部を酸化することなく空気対流オーブン中で行いうる。
実施例15:γ線照射を用いる低温照射と引続く融解(CIR−SM)を用いるUHMWPEの製造方法
この実施例は、UHMWPEをγ線で低温照射した後に融解させることによって、架橋構造を有し且つ検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEを製造する方法を例示する。
慣用的なUHMWPEラム押出棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたHoescht Celanese GUR 415棒材)を用いた。棒材に用いられたGUR 415樹脂は、5,000,000g/モルの分子量を有し且つ500ppmのステアリン酸カルシウムを含有した。その棒材を、“ホッケーパック”形の円筒(高さ4cm,直径8.5cm)に切断した。
それらパックに、室温において0.05Mrad/分の線量率で、上面(γ線入射)で測定される4Mradの総吸収線量まで照射した(MA州NorthboroのIsomedix)。それらパックは包装されなかったし、そして照射は空気中で行われた。照射に続いて、ポリマーを融解させることによってフリーラジカルの再結合を引き起こして、残留する検出可能なフリーラジカルが実質的にないようにするために、それらパックを真空下において150℃まで2時間加熱した。
実施例16:I.加温照射と引続く完全融解を伴う部分断熱融解(WIR−AM)を用いるUHMWPEの製造方法
この実施例は、UHMWPEの断熱部分融解を生じるように融点未満まで加熱されたUHMWPEに照射し、そして引続きそのUHMWPEを融解させることによって、架橋構造を有し、示差走査熱量測定法(DSC)において二つの異なった融解吸熱量を示し、そして検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEを製造する方法を例示する。
GUR 4050棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたHoescht Cela nese GUR 4050樹脂から製造された)を機械加工して、直径8.5cmおよび厚さ4cmのホッケーパックにした。25個のホッケーパック、25個のアルミニウムホルダーおよび25個の20cm×20cmガラス繊維ブランケットを空気対流オーブン中において125℃まで一晩中予熱した。予熱されたパックを予熱されたアルミニウムホルダーにそれぞれ入れ、これを予熱されたガラス繊維ブランケットで覆って、照射中の周囲への熱損失を最小限にした。次に、それらパックに、空気中において10MeV、1kW電子ビームを用いて30cmの走査幅で照射した(AECL,ピナワ,マニトバ,カナダ)。コンベヤー速度は0.07cm/秒であり、70kGy/パスの線量率を与えた。それらパックに、ビーム下の二つのパスで照射して、140kGyの総吸収線量に達しさせた。第二パスでは、パックが電子ビームラスタ面から出たら直ぐにコンベヤーベルト運動を逆にして、パックからの熱損失を免れた。加温照射後、15個のパックは、結晶を完全に融解させ且つフリーラジカルを実質的に除去するために150℃まで2時間加熱された。
A.実施例16で調製された検体の熱的性質(DSC)
Perkin−ElmerDSC7を、氷水冷却用放熱器、および連続窒素パージで10℃/分の加熱および冷却速度とともに用いた。実施例16から得られた試料の結晶化度を、試料重量およびポリエチレン結晶の融解熱(69.2cal/gm)から計算した。吸熱量のピークに対応する温度を融点とした。多数の吸熱量ピークがある場合、多数の融点を示した。
表18は、eビーム入射面から離れた深さの関数としてポリマーの融解挙動および結晶化度で得られた変化を示す。図8は、引続く融解の前後両方で得られたeビーム入射面より2cm下で得られた代表的なDSC融解吸熱量を示す。
これらの結果は、UHMWPEの融解作用が、WIR−AM法のこの態様における引続く融解工程後に激しく変化することを示す。引き続く融解の前に、ポリマーは3の融解ピークを示したが、引続く融解後にはそれは2の融解ピークを示した。
B.実施例16で調製した検体の電子常磁性共鳴(EPR)
EPRは、実施例16で得られた試料について、気密石英試験管中の窒素雰囲気中に試料を置いた後に室温で行われた。用いられた計測器は、Bruker ESP 300 EPR分光計であり且つ用いられた試験管は、Taper1okEPR試料管(Wi1mad Glass Co.,ブエナ,NJから入手された)であった。
未照射試料は、それらの中にフリーラジカルが全く検出されなかった。照射工程中に、適当な条件下において少なくとも何年間か存続しうるフリーラジカルが生成される。
引続く融解の前に、EPR結果は、エポキシおよび一次フリーラジカル両方から成る複合フリーラジカルピークを示した。引続く融解後、EPRフリーラジカルシグナルは検出できないレベルまで減少した。これらの結果は、照射処理によって誘導されたフリーラジカルが、引続く融解工程後に実質的に除去されたことを示した。したがって、UHMWPEは極めて耐酸化性であった。
実施例17:II.加温照射と引続く完全融解を伴う部分断熱融解(WIR−AM)を用いるUHMWPEの製造方法
この実施例は、UHMWPEの断熱部分融解を生じるように融点未満まで加熱されたUHMWPEに照射し、そして引続きそのUHMWPEを融解させることによって、架橋構造を有し、DSCにおいて二つの異なった融解吸熱量を示し、そして検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEを製造する方法を例示する。
GUR 4020棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたラム押出Hoes cht Celanese GUR 4020樹脂から製造された)を機械加工して、直径8.5cmおよび厚さ4cmのホッケーパックにした。25個のホッケーパック、25個のアルミニウムホルダーおよび25個の20cm×20cmガラス繊維ブランケットを空気対流オーブン中において125℃まで一晩中予熱した。予熱されたパックを予熱されたアルミニウムホルダーにそれぞれ入れ、これを予熱されたガラス繊維ブランケットで覆って、照射中の周囲への熱損失を最小限にした。次に、それらパックに、空気中において10MeV、1kW電子ビームを用いて30cmの走査幅で照射した(AECL,ピナワ,マニトバ,カナダ)。コンベヤー速度は0.07cm/秒であり、70kGy/パスの線量率を与えた。それらパックに、ビーム下の二つのパスで照射して、140kGyの総吸収線量に達しさせた。第二パスでは、パックが電子ビームラスタ面から出たら直ぐにコンベヤーベルト運動を逆にして、パックからの熱損失を免れた。加温照射後、15個のパックは、結晶を完全に融解させ且つフリーラジカルを実質的に除去するために150℃まで2時間加熱された。
実施例18:III.加温照射と引続く完全融解を伴う部分断熱融解(WIR−AM)を用いるUHMWPEの製造方法
この実施例は、UHMWPEの断熱部分融解を生じるように融点未満まで加熱されたUHMWPEに照射し、そして引続きそのUHMWPEを融解させることによって、架橋構造を有し、DSCにおいて二つの異なった融解吸熱量を示し、そして検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEを製造する方法を例示する。
GUR 1050棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたラム押出Hoes cht Celanese GUR 1050樹脂から製造された)を機械加工して、直径8.5cmおよび厚さ4cmのホッケーパックにした。18個のパック、18個のアルミニウムホルダーおよび18個の20cm×20cmガラス繊維ブランケットを、空気対流オーブン中において125℃、90℃または70℃まで一晩中予熱した。6個のパックをそれぞれ異なった予熱温度に用いた。予熱されたパックを予熱されたアルミニウムホルダーにそれぞれ入れ、これを予熱されたガラス繊維ブランケットで覆って、照射中の周囲への熱損失を最小限にした。次に、それらパックに、空気中において10MeV、1kW電子ビームを用いて30cmの走査幅で照射した(AECL,ピナワ,マニトバ,カナダ)。コンベヤー速度は0.06cm/秒であり、75kGy/パスの線量率を与えた。それらパックに、ビーム下の二つのパスで照射して、合計150kGyの吸収線量に達しさせた。第二パスでは、パックが電子ビームラスタ面から出たら直ぐにコンベヤーベルト運動を逆にして、パックからの熱損失を免れた。加温照射後、半数のパックは、結晶を完全に融解させ且つフリーラジカルを実質的に除去するために150℃まで2時間加熱された。
A.実施例18で製造された検体の熱的性質(DSC)
Perkin−Elmer DSC7を、氷水冷却用放熱器、および連続窒素パージで10℃/分の加熱および冷却速度とともに用いた。実施例18から得られた試料の結晶化度を、試料重量およびポリエチレン結晶の融解熱(69.2cal/gm)から計算した。吸熱量のピークに対応する温度を融点とした。多数の吸熱量ピークがある場合、多数の融点を示した。
表19は、ポリマーの融解作用および結晶化度に対する予熱温度の作用を示す。図9は、引続く融解の前後両方に125℃の予熱温度でWIR−AM法で処理されたパックのDSCプロフィールを示す。
これらの結果は、UHMWPEの融解作用が、WIR−AM処理のこの態様における引続く融解工程後に激しく変化することを示す。引き続く融解の前に、ポリマーは3の融解ピークを示したが、引続く融解後にはそれは2の融解ピークを示した。
実施例19:IV.加温照射と引続く完全融解を伴う部分断熱融解(WIR−AM)を用いるUHMWPEの製造方法
この実施例は、冊MWPEの断熱部分融解を生じるように融点未満まで加熱されたUHMWPEに照射し、そして引続きそのポリマーを融解させることによって、架橋構造を有し、DSCにおいて二つの異なった融解吸熱量を示し、そして検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEを製造する方法を例示する。
GUR 1020棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたラム押出Hoes cht Celanese GUR 1020樹脂から製造された)を機械加工して、直径7.5cmおよび厚さ4cmのホッケーパックにした。10個のパック、10個のアルミニウムホルダーおよび10個の20cm×20cmガラス繊維ブランケットを空気対流オーブン中において125℃まで一晩中予熱した。予熱されたパックを予熱されたアルミニウムホルダーにそれぞれ入れ、これを予熱されたガラス繊維ブランケットで覆って、照射中の周囲への熱損失を最小限にした。次に、それらパックに、空気中において10MeV、1kW電子ビーム加速器(AECL,ピナワ,マニトバ,カナダ)を用いて照射した。走査幅およびコンベヤー速度は、所望の線量率/パスに達するように調整された。次に、それらパックに、61、70、80、100、140および160kGyの総吸収線量まで照射した。61、70、80kGyの吸収線量での照射は、一つのパスで完了したが、100、140および160でのそれは、二つのパスで完了した。それぞれの吸収線量レベルについて、6個のパックに照射した。2個パス実験中、第二パスでは、パックが電子ビームラスタ面から出たら直ぐにコンベヤーベルト運動を逆にして、パックからの熱損失を免れた。その照射後、半数のパックは、結晶を完全に融解させ且つフリーラジカルを実質的に除去するために、空気対流オーブン中で150℃まで2時間加熱された。
実施例20:V.加温照射と引続く完全融解を伴う部分断熱融解(WIR−AM)を用いるUHMWPEの製造方法
この実施例は、UHMWPEの断熱部分融解を生じるように融点未満まで加熱されたUHMWPEに照射し、そして引続きそのポリマーを融解させることによって、架橋構造を有し、DSCにおいて二つの異なった融解吸熱量を示し、そして検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEを製造する方法を例示する。
GUR 4150棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたラム押出Hoes cht Celanese GUR 4150樹脂から製造された)を機械加工して、直径7.5cmおよび厚さ4cmのホッケーパックにした。10個のパック、10個のアルミニウムホルダーおよび10個の20cm×20cmガラス繊維ブランケットを空気対流オーブン中において125℃まで一晩中予熱した。予熱されたパックを予熱されたアルミニウムホルダーにそれぞれ入れ、これを予熱されたガラス繊維ブランケットで覆って、照射中の周囲への熱損失を最小限にした。次に、それらパックに、空気中において10MeV、1kW電子ビーム加速器(AECL,ピナワ,マニトバ,カナダ)を用いて照射した。走査幅およびコンベヤー速度は、所望の線量率/パスに達するように調整された。それらパックに、61、70、80、100、140および160kGyの総吸収線量まで照射した。それぞれの吸収線量レベルについて、6個のパックに照射した。61、70、80kGyの吸収線量での照射は、一つのパスで完了し;100、140および160でのそれは、二つのパスで完了した。
その照射後、それぞれ異なった吸収線量レベルからの3個のパックを、結晶を完全に融解させ且つフリーラジカルの濃度を検出できないレベルまで減少させるために150℃まで2時間加熱した。
A.実施例20で製造された検体の性質
Perkin−ElmerDSC7を、氷水冷却用放熱器、および連続窒素パージで10℃/分の加熱および冷却速度とともに用いた。実施例20から得られた試料の結晶化度を、試料重量およびポリエチレン結晶の融解熱(69.2cal/gm)から計算した。吸熱量のピークに対応する温度を融点とした。多数の吸熱量ピークがある場合、多数の融点が報告された。
得られた結果は、表20において総吸収線量レベルの関数として示される。それらは、結晶化度が線量レベルの増加に伴い減少することを示す。実験された吸収線量レベルで、ポリマーは、引続く融解工程後に二つの融解ピーク(T1=約118℃,T2=約137℃)を示した。
実施例21:WIR−AM処理中の温度上昇
この実施例は、UHMWPEの断熱部分融解または完全融解をもたらす加温照射処理中に温度が上昇することを示す。
GUR 4150棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたラム押出Hoes cht Celanese GUR 4150樹脂から製造された)を機械加工して、直径8.5cmおよび厚さ4cmのホッケーパックにした。そのパックの体心中に1個孔を開けた。K型熱電対をこの孔に入れた。そのパックを空気対流オーブン中で130℃まで予熱した。次に、そのパックに、10MeV、1kW電子ビーム(AECL,ピナワ,マニトバ,カナダ)を用いて照射した。照射は空気中において30cmの走査幅で行われた。線量率は27kGy/分であり、そしてパックをそのビーム下に静置させた。パックの温度を照射中絶えず測定した。
図11は、照射処理中に得られたパックの温度上昇を示す。最初、その温度は予熱温度(130℃)である。ビームを出すやいなや、温度は増加し、その間にUHMWPE結晶が融解する。130℃から開始するより小形の結晶の融解があり、加熱中に部分融解が起こることが示される。加熱作用に急な変化がある約145℃では、完全融解に達する。その時点後、溶融材料中の温度は上昇し続ける。 この実施例は、WIR−AM処理中に、吸収線量レベル(照射期間)が、ポリマーを部分的にかまたは完全に融解させるように調整することができる。前者の場合、融解は、オーブン中での追加の融解工程で完了してフリーラジカルを除去することができる。
実施例22:低温照射と引続く完全融解を伴う断熱加熱(CIR−AM)を用いるUHMWPEの製造方法
この実施例は、UHMWPEの断熱加熱を生じるのに充分な高い線量率でUHMWPEに照射し、そして引続きそのポリマーを融解させることによって、架橋構造を有し且つ検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEを製造する方法を例示する。
GUR4150棒材(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたラム押出Hoesc ht Celanese GUR 4150樹脂から製造された)を機械加工して、直径8.5cmおよび厚さ4cmのホッケーパックにした。12個のパックに、空気中において60kGy/分の線量率で10MeV、30kW電子(E−Beam Services,クランバリー,NJ)を用いて定置照射した。6個のパックに170kGyの総線量まで照射したが、別の6個には200kGyの総線量まで照射した。照射の最後に、パックの温度は100℃を越えた。
その照射後、各組の1個のパックを、結晶を全て融解させ且つフリーラジカルの濃度を検出できないレベルまで減少させるために150℃まで2時間加熱した。
A.実施例22で製造された検体の熱的性質
Perkin−Elmer DSC7を、氷水冷却用放熱器、および連続窒素パージで10℃/分の加熱および冷却速度とともに用いた。実施例22から得られた試料の結晶化度を、試料重量およびポリエチレン結晶の融解熱(69.2cal/gm)から計算した。吸熱量のピークに対応する温度を融点とした。
表21は、引続く融解工程の前後両方のCIR−AM UHMWPEの熱的性質に対する総吸収線量の作用を示すものである。得られた結果は、引続く融解工程の前後両方でたった一つの融解ピークを示す。
実施例23:未照射UHMWPE、低温照射後融解UHMWPE(CIR−SM)および加温照射および部分断熱融解後融解UHMWPE(WIR−AM)の引張作用の比較
この実施例は、UHMWPEの未照射型、およびCIR−SMおよびWIR−AM法による照射型の引張変形作用を比較する。
ASTM D638V型標準を用いて、引張試験用のイヌ骨試験体を製造した。引張試験は、Instron 4120 Universal Testerにおいて10mm/分のクロスヘッド速度で行った。工学応力−歪関係は、ASTM D638後の加重−置換データから計算された。
イヌ骨試験体は、CIR−SMおよびWIR−AM法によって処理されたGUR 4150ホッケーパック(PA州LenniのWestlake Plasticsから入手されたラム押出 Hoescht Celanese GUR 4150樹脂から製造された)から機械加工された。CIR−SMについては、実施例8で記載の方法にしたがったが、WIR−AMについては、実施例17で記載の方法にしたがった。どちらの場合も、与えられた総線量は150kGyであった。
図12は、未照射対照、CIR−SM処理およびWIR−AM処理された試験体について得られた引張作用を示す。それは、CIR−SMおよびWIR−AMで処理されたUHMWPEにおいて、たとえ両方法において照射が150kGyまで行われた場合でも、引張変形作用に変化があることを示す。この差は、WIR−AM法を用いることによって生じた二相構造のためである。当業者は、常套実験だけを用いて、本明細書中に記載の発明の具体的な態様の多数の均等物を確認できるであろう。これらおよび他の均等物は、次の請求の範囲によって包含されるものである。
図1は、本発明の好ましい態様による医療用股関節プロテーゼの中心を通る横断面図である。
図2は、図1で示される寛骨臼カップライナーの側面図である。
図3は、図2の線3−3を通る横断面図である。
図4は、種々の照射線量で溶融照射されたUHMWPEの結晶化度および融点を示すグラフである。
図5は、慣用的なUHMWPEの蝕刻された表面の結晶性構造を示す環境走査型電子顕微鏡写真である。
図6は、溶融照射されたUHMWPEの蝕刻された表面の結晶性構造を図5とほぼ同様の倍率で示す環境走査型電子顕微鏡写真である。
図7は、溶融照射されたUHMWPEカップの種々の深さでの結晶化度および融点を示すグラフである。
図8は、加温照射および部分断熱融解(WIR−AM)を用いてその後に加熱し又は加熱しないで製造されたHoechst−Celanese GUR 4050 UHMWPEについてのDSC融解吸熱を示すグラフである。
図9は、加温照射および部分断熱融解(WIR−AM)を用いてその後に加熱し又は加熱しないで製造されたHoechst−Celanese GUR 1050 UHMWPEについてのDSC融解吸熱を示すグラフである。
図10は、130℃の予熱温度を用いてWIR−AMによって処理されたUHMWPEの断熱加熱を示すグラフである。
図11は、未照射のUHMWPE、CIR−SMで処理されたUHMWPEおよびWIR−AMで処理されたUHMWPEの引張変形挙動を示すグラフである。