JP5069548B2 - 溶射皮膜の検査方法及びその装置 - Google Patents
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このような溶射皮膜の形成に際しては、溶射に先立ち、ブラスト処理による基材の清浄・粗面化を行うことや、形成した溶射皮膜に存在する孔を、溶射後に封孔処理することは、防食・防錆を目的とした溶射では不可欠な処理である。
しかし、現状において、このような前処理や、溶射後の封孔処理の優劣を現場で非破壊的に調べる方法は、確立していない。
即ち、基材と溶射皮膜との間の、良好な密着力を担保するためには,清浄な粗面化が必要であるが、ブラスト材の汚染、ブラスト処理後の飛散オイルや粉塵などによる汚染を完全に避けることは非常に難しい。その一方で、供用中にプロセス流体が基材界面まで浸透して、損傷を与えることもあるので、溶射施工後や定期保守時に迅速に界面性状を検査することが重要である。
また、封孔剤が全面に一様に浸透していることを保証することは防食性能を担保する上で極めて重要であるが、この点についても、非破壊的に調べる確立された方法はない。
しかしこの方法は、非鉄金属やセラミックス溶射膜のみに適用でき、鉄成分を含む合金溶射膜に適用できない。
更に、溶射層を切断して断面を金属顕微鏡や電子顕微鏡で調べる方法があるが、封孔剤が空孔中に浸透して封孔しているか否かを調べるのは容易ではない。この方法は破壊試験であるため、製品には使用できない。
分極曲線や腐食電位を測定するなどの電気化学試験法は、小さな面積に適用できても大面積に適用することは不可能であるし、溶射層に損傷を与えるため製品には応用できない。
パルスレーザで励起した表面波をレーザ干渉計で測定し、その速度分散から膜質を評価する方法(竹本らの過去の研究)があるが、高価なレーザ装置が必要になること、溶射膜のような粗面への適用には制限がある。また,接触式超音波センサを用いる検査法(パルスエコー法や表面弾性波法)では、溶射層表面が粗面であるため効率的に超音波を投入できないこと、粗面の影響を著しく受けること、特殊なカプラント剤を必要とするため製品に使用できない。
本願発明者は、上記の点を鑑みて、非破壊検査法として、このような超音波探傷法を利用することにより、簡便に溶射皮膜の剥離の有無を検査できる方法がないか検討した。
通常の超音波探傷は、被検材の内部に超音波を入射させるのに、探触子と被検材との間に超音波を伝搬する水や油といった超音波の媒介液を必要とする。
このような媒介液は、溶射皮膜を汚染する原因となる。また、溶射が施されたプラント設備について、現地において、媒介液を用いて、超音波探傷法により、溶射皮膜の剥離を調べるのは、検査装置に大掛かりなものが必要となり、現場の作業者において、簡便に検査を行うという訳にはいかない。
この空中超音波という技術は、例えば、特許文献2に見られるように、空気中に超音波を伝搬させて、空気中の対象物にて反射してきた超音波を受信することにより、対象物の位置や対象物までの距離を測定するのに利用されている。
一般に、超音波を伝搬する、異種の媒体同士が接する場合において、媒体間の音響インピーダンス(音波の速度×媒体密度)の差が大きいと、一方の媒体中に伝搬させた超音波は、他方の媒体へ伝搬し難いことが知られている。
鋼材の内部欠陥を調べる従来の超音波探傷法は、上記の通り、探触子と被検材との間の超音波の媒介液に伝搬させて超音波を被検材中に入射させるものであり、固体である圧電素子は音響インピーダンスが大きく、気体である空気は、音響インピーダンスが小さく、その差は大きなものであるため、上記の従来の探触子を、そのまま、空中超音波に用いる送信部(トランスデューサ)や受信部(レシーバ)の探触子として用いることはできず、空中超音波を利用する場合、専用の探触子が用いられる。
その一つは、ジルコン・チタン酸鉛でできた圧電素子と空気の双方に対して、音響インピーダンスの差が比較的小さい、クレイ(粘土)を圧電素子の表面に設けたものである(米国Ultran社製)。
また、他の一つは、コンポジットと呼ばれるセンサで、複合圧電トランスデューサと呼ばれるものであり、圧電素子の一部を音響インピーダンスの低い樹脂に置き換えたものである。この樹脂は、一般に1−3型複合材と呼ばれている。また、このような樹脂として、米国では、エポキシが主として用いられており、日本では、ポリウレタンを用いた複合素材が、主として用いられている(株式会社検査技術研究所販売)。
更に他の一つは、キャパシター(絶縁性樹脂や空気層)を利用するものであり、キャパシターを挟み込む電極に、バイアス電圧をかける必要がある(英国ワービック大学開発)。
又更に他の一つは、高分子圧電膜(PVDF/ポリフッ化ビニリデン)を使用するものであり、超音波顕微鏡と呼ばれる、水を媒体として高周波数の超音波を材料表面に入れて検査する方法の送受信センサに使用されている。
このように溶射皮膜内への空中超音波の入射が可能である点については、溶射皮膜への入射後、超音波を伝搬するメカニズムが内部の均一な中実の材料と異なるからであると考えられる。
具体的には、溶射皮膜は、一般に、高温にて溶けた溶射材料を、空気中被覆する基材に向けて噴射して形成されたものであり、噴射により空気中を飛散してる間、溶射材料は、冷却されて細かな燐片状になり、基材表面に順次重なって固まることにより、溶射皮膜となる。このため、形成された溶射皮膜は、微視的には、材料が均一な膜を形成しているのではない。即ち、燐片状の複数の粒塊同士は、夫々一部分が溶解により一体となり材料が均一になっているが、他の一部分は、依然燐片状の粒塊としての形態が残存している。このような隣接する粒塊間の境界に沿って、超音波が伝搬すると考えられるのである。
従って、このようなメカニズムにより、上の通り、溶射皮膜に空気超音波を入射させることができるのである。
このため、本願発明者は、送受信兼用の探触子を用いる場合を含め、トランスデューサとレシーバーとを溶射皮膜の表面側に配し、溶射皮膜に入射させた超音波の反射波を、入射側で受信する、上記の反射法による検査を検討した。
しかし、1mm以下の肉厚の溶射皮膜において、調べる範囲は狭く、検査部分、即ち、基材と溶射皮膜との間の界面や溶射皮膜内の層間の界面から、直接反射してくる超音波(エコー)を受信し、当該反射波から界面の状態を調べようとすると、溶射皮膜表面の入射位置において生ずる反射波といったノイズ(反射ノイズ)に隠れて、上記界面からの反射波を、弁別するのは極めて困難であった。特に、上記の通り、粒塊にて構成された溶射皮膜では、溶射皮膜表面の入射位置での反射波のみならず、当該当該反射波による表面の入射位置付近における粒塊間の多重反射が顕著であり、そのため、ノイズの減衰時間は、比較的長く、上記の界面からの反射波をより検出し難くしている。
尚、引用文献3に示す通り、構造物の表面に形成されている溶射被膜の健全部上にAE装置の受信用探触子を置き、上記溶射被膜の検査個所の上に超音波発振器の送信用探触子を順次当接させて超音波発振器の作動で検査位置の溶射被膜を加振し、そのとき構造物を伝搬する振動を、上記溶射被膜の健全部上に配置した受信用探触子を介してAE装置で受信させてから表示器にその振動波形を表示させて、その波形の周波数をFFT演算し、FFT演算した後の波形のピーク周波数領域の位置から溶射被膜の剥離部と健全部とを区別して、剥離部を検出する構造物表面の溶射被膜剥離検出方法が提案されているが、これは、空中超音波を溶射皮膜へ入射し皮膜内を伝播する表面波を生じさせることにより方向性を持つ当該表面波を利用して剥離の検出を行おうとするものではなく、AE装置により圧電素子を当接させて直接皮膜と基体の双方を振動させ、振動波形の周波数を、FFT演算検査を行うことにより、剥離の有無を検出するというものであり、現実には、精度の高い、剥離の検出は困難である。
また、特許文献3に示すものは、振動による皮膜への影響は考慮されておらず、高温で焼き付けられた皮膜には用いることができるかも知れないが、そうでない皮膜については、非破壊検査として実施することは困難である。
そして、当該漏れて出てきた表面波を調べたところ、上記の界面が密着していると、入射させた超音波は、基体や下層に侵入するので、空中に漏れ出てくる超音波の強さは小さく、界面において剥離があると、基体や下層への伝達が弱まり、そのエネルギが表面波の発生に転化されるので、空中に漏れ出てくる表面波の強さは大きなものであり、このような超音波の強さの違いにより、剥離を検出することができるという、画期的な事実を確認した。
また、本願の発明者は、一般に用いられる、封孔剤については、適切な封孔がなされていれば、送信した空中超音波の強い反射波を受信することができ、封孔が適切になされていないと、反射波は弱いものであることを見出した。この現象について、現状では十分に解明されている訳ではないが、適切な封孔がなされていれば、封孔剤表面にて、空中超音波が強く反射し、封孔が適切でないと、孔内にて超音波が多重反射して、封孔剤表面から帰ってくる超音波が微弱となっていると考えられる。従って、本願発明者は、封孔処理の適否については、空中超音波の反射波を利用することにより、正確な判定ができることを見出した。
即ち、この方法は、基材上を被覆する少なくとも一層以上の溶射層を備えた溶射皮膜について、当該溶射皮膜と基材との間の界面における剥離、又は溶射層間の界面における剥離を、調べるものであり、溶射皮膜に向けて超音波を発する送信部と、溶射皮膜からの超音波を受信する受信部と、走査部とを用いるものであり、送信部には、超音波を空中に伝搬させて溶射皮膜内へ入射させる、空中超音波の探触子1を備えたものを、受信部には、溶射皮膜から空中を伝搬してくる超音波を受信する、空中超音波の探触子2を備えたものを、夫々採用し、上記走査部には、上記送信部と受信部の上記両探触子を一体に保持し、上記送信部と受信部とを、溶射皮膜の上にて前後に走査させ、送信部と受信部の両探触子1,2を、溶射皮膜よりも上方に配置し、送信部の探触子1を、溶射皮膜の膜面に対して、斜めに向け、溶射皮膜の膜面を平面視した状態において、受信部の探触子2を、送信部の探触子1の向きの延長線上に配置するものを採用する。そして、送信部の上記探触子1から溶射皮膜内に超音波を入射させて、溶射皮膜中に表面波を伝播させ、受信部の上記探触子2にて受信した表面波の強さを、剥離がない場合の表面波の強さと比べることにより、剥離の有無を調べる。更に上記走査部にて、上記走査方向について、送信部の上記探触子の前方又は後方に受信部の上記探触子を配置し、平面視において送信部の上記探触子と受信部の上記探触子とを結ぶ線を上記走査の方向と一致させて、走査方向に沿ってのみ空中超音波の送受信を行う。
尚、基材の上に溶射皮膜が位置するものとし、更に溶射皮膜の上方に両探触子1,2が配置されるものとしたが、このような上下の位置は、単に各部の相対的な位置関係を説明するために便宜上用いたものであり、重力のかかる方向を下方に限定して、上下の位置を規定するものではない。
即ち、上記の表面波は、剥離を調べる界面と溶射皮膜表面との間を多重反射しながら、当該界面に沿った方向に進行するものであり、この方法は、入射時に溶射皮膜表面にて発生する反射ノイズ減衰後の表面波を調べることを特徴とする。
即ち、受信部の探触子2は、溶射皮膜表面から漏れ出てくる表面波を受信するものであり、送信部の探触子1と受信部の探触子2との間の上記間隔は、溶射皮膜の厚みの3倍以上である。
即ち、空気超音波の両探触子1,2は、電圧の印加により振動して超音波を発する振動部と、音響整合部材とを備え、音響整合部材が振動部に設けられることにより、振動部と空気との音響インピーダンスの差を抑制して、超音波を空中に伝搬させることができ、送信部の探触子1と受信部の探触子2との当該間隔、及び、送信部と受信部の各探触子と溶射皮膜表面との間の間隔は、伝搬中の超音波の減衰により剥離の判別が、不能とならない範囲内であり、側面視した状態において、送信部の探触子1は、検査する界面に対して、30度以上89.5度以下の角度をなすものであり、受信部の探触子2の向きは、側面視した状態において、両探触子1,2間の中間点における溶射皮膜の膜面と垂直な線について、上記の送信部の探触子1の向きと、略線対称となるものである。
尚、ここでは、0度〜90度の範囲で全ての角度を定め、鈍角、負数は用いない。例えば、80度には、80度±90度×nを含む(nは整数)。従って、80度というとき、100度、−80度を含む。
即ち、この装置は、基材上を被覆する少なくとも一層以上の溶射層を備えた溶射皮膜について、当該溶射皮膜と基材との間の界面における剥離、又は溶射層間の界面における剥離を、調べるものであり、溶射皮膜に向けて超音波を発する送信部と、溶射皮膜からの超音波を受信する受信部と、走査部とを備え、送信部は、超音波を空中に伝搬させて溶射皮膜内へ入射させる、空中超音波の探触子1を備え、受信部は、溶射皮膜から空中を伝搬してくる超音波を受信する、空中超音波の探触子2を備え、上記走査部は、上記送信部と受信部の上記両探触子を一体に保持し、上記送信部と受信部とを、溶射皮膜の上にて前後に走査させることができるものであり、上記走査部は、上記走査方向について、送信部の上記探触子の前方又は後方に受信部の上記探触子を配置するものであり、上記走査部は、送信部の探触子1を、溶射皮膜の膜面に対して、斜めに向け、上記走査部は、平面視において、受信部の探触子2を、送信部の探触子1の向く先に、送信部の探触子1に対して間隔を開けて配置する。送信部の探触子と受信部の探触子との間の上記間隔は、溶射皮膜の厚みの3倍以上とする。そして、この装置は、送信部の上記探触子から溶射皮膜内に超音波を入射させて、溶射皮膜中に表面波を発生させ、受信部の上記探触子にて受信した表面波の強さを、剥離がない場合の表面波の強さと比べることにより、剥離の有無を調べるものであり、平面視において送信部の上記探触子と受信部の上記探触子とを結ぶ線を、上記走査の方向と一致させることにより、走査方向に沿ってのみ空中超音波の送受信を行うことが可能なことを特徴とする。
即ち、上記の基材は、金属又はセラミックであり、溶射皮膜は、金属、高分子、セラミック又はサーメットの溶射により形成されたものである。各探触子の振動周波数は、200〜800kHzである。送信部と受信部の両探触子1,2を保持し、且つ、両探触子1,2を溶射皮膜表面に沿って走査し得る走査部10を備える。走査部10は、送信部と受信部の両探触子1,2同士を、溶射皮膜の厚みの5倍以上であり、且つ、200mm以下の間隔を採るように保持するものである。更に、走査部10は、各探触子1,2を溶射皮膜表面から5mm以80mm以下の間隔を開けて保持するものである。そして、この装置は、走査中、受信した表面波の強さの変化により、界面における剥離を検出する。
即ち、走査部10は、主として透明な素材にて形成され、送信部の探触子1を保持する送信側保持部4と、受信部の探触子2を保持する受信側保持部5と、前輪及び後輪となる少なくとも2つのキャスター7,7とを備え、手で持って溶射皮膜の膜面に当てキャスター7,7を溶射皮膜に倣わせることにより、両探触子1,2を、溶射皮膜の膜面に沿って走査することができるものである。両キャスター7,7は、少なくとも表面がテフロン(登録商標)樹脂にて形成されている。送信側保持部4は、両キャスター7,7の下端同士を結ぶ下端線(仮想線)に対して、送信部の探触子1を30度以上89.5度以下の角度をなすように保持し、受信側保持部5は、側面視において、当該下端線と直交する垂線(仮想線)について、送信部の探触子1の向きと線対称となる向きを向くように受信部の探触子2を保持する。更に、送信側保持部4と受信側保持部5は、上下方向について、上記の下端線から上方へ、5mm以上50mm以下の間隔を開けて探触子1,2の夫々を保持するものである。
即ち、この装置は、溶射皮膜に向けて超音波を発する副送信部と、溶射皮膜からの超音波を受信する副受信部とを備え、副送信部は、超音波を空中に伝搬させて溶射皮膜内へ入射させる、空中超音波の探触子を備え、副受信部は、溶射皮膜から空中を伝搬してくる超音波を受信する、空中超音波の探触子を備える。副送信部と副受信部の両探触子は、溶射皮膜より上方に配置される。副送信部の探触子の向きは、溶射皮膜の膜面に対して、略垂直であり、副送信部の探触子にて、溶射皮膜に向けて空中に超音波を発し、副受信部の探触子にて、溶射皮膜から帰ってくる超音波を受信することにより、溶射皮膜の封孔処理の状態を検出することを特徴とする。
このため、媒介液にて、溶射皮膜を汚すことがない。また、媒介液の供給手段を設ける必要がないので、装置を小型化でき、現場において検査を行うことができ、また、迅速に検査が行える。
特に、溶射皮膜内において皮膜表面と界面との間をジグザグに伝播する表面波を利用して、溶射皮膜内から漏れ出てくる表面波の強弱を調べることにより、剥離の有無を検出できる。
また、送受信の両探触子を溶射皮膜の上方に配して検査を行うことができるので、空気超音波を透過させて検査する方法では探触子の配置が困難な、プラント設備に施された溶射皮膜について、このような設備の現地での検査を可能とした。
本願発明は、上記の通り、斜めに超音波を入射させることにより積極的に表面波を生じさせ、平面視において、当該波の進行先に、受信側の探触子を配置することにより、表面波として伝搬中に漏れて来る超音波を確実に検出するものとした。
上記の通り、本願発明は、超音波の媒介液の排除により、当該液による皮膜の汚染を防止するものであるが、若し、従来の超音波検査法のように、超音波の媒介液を、受信側の探触子と溶射皮膜との間に介した場合、空中では検出できた、溶射皮膜の表面に漏れ出てくる上記の表面波は、減衰が著しく、検出することができない。従って、空中超音波を用いることにより、皮膜の汚染を排除することは勿論、表面波をより確実に検出することを可能としたのである。
本願第2の発明では、溶射皮膜への超音波の入射によって生じるノイズに阻害されることなく表面波を検出して、精度良く、界面の剥離を調べることができる。
本願第3の発明では、上記ノイズに阻害されずに、表面波を確実に検出する、より具体的な方法を提供した。
具体的には、入射後、剥離を検査する界面から直接反射してきた反射波を調べるのではなく、本願第3発明は、本願発明者が鋭意研究し更に試行錯誤の上知見した、送受信部の両探触子の間隔の設定により、表面波として当該溶射層と界面に沿って伝搬した超音波で、伝搬中、溶射皮膜を通じて空中(溶射皮膜の上方)に漏れ出てきた超音波のうち、入射時に溶射皮膜表面にて生じた反射波の影響が少ないものを確実に検出できるものとした。
即ち、表面波は、進行方向の各位置において、溶射皮膜の粒塊間を経て溶射皮膜表面側から空中に漏れ出てくるものであるが、上記の探触子間の間隔を設定することにより、漏れ出てくる超音波のうち、上記入射位置付近のノイズと重ならないものを検出することで、剥離の有無を調べることを可能としたものである。
尚、溶射皮膜の表面を微視的に見ると起伏があるが、溶射皮膜の膜面として巨視的に見ると溶射皮膜の膜圧は各位置においてほぼ均一に形成されるものであり、当該膜面は、基体表面、即ち溶射皮膜と基体との界面に対して、ほぼ平行となっている。従って、界面を外部から見ることはできないが、膜面に対して探触子が採る角度は、界面に対する角度と考えることができる。
複数の溶射層にて形成された溶射皮膜についても、溶射層の夫々について、各位置の厚みは、ほぼ均一であるので、上記の各層の界面は、巨視的には膜面平に対してほぼ平行であり、上記の探触子の膜面に対する角度は、層間の界面に対する角度と考えることができる。
また、通常の均一な素材では、界面に対して一方の側の素材中の音速と、界面に対して他の一方の側の素材中の音速との差により、入射時に超音波の屈折が生じるが、粒塊間を伝搬する溶射皮膜中での超音波については、このような屈折角は考慮する必要はない。
特に、本願第6の発明では、走査部により、両探触子を溶射皮膜表面に沿って走査し、受信部の探触子が受信した溶射皮膜表面から漏れ出てくる超音波の強さの変化にて、界面における剥離を検出するものであり、溶射皮膜の各部について、隈なく、界面における剥離の有無をチェックすることができる。
また、本願第7の発明では、界面の剥離を検査するより具体的な手段を提供し得たものである。特に、この発明にあっては、手で持って走査することができる走査部に、送受信の探触子の夫々を保持させることにより、プラント設備などの現地における剥離検査をより、円滑に行うことができる。また、走査部を透明とすることにより、溶射皮膜の表面を見ながら、走査を行うことができ、確実に溶射皮膜表面をトレースすることができる。
本願第8の発明では、溶射皮膜の封孔の状況を、チェックすることができる。即ち、溶射皮膜の空孔が、適切に封孔されていると、内部が均一な封孔剤から強い反射波を受けることができるが、適切に封孔されておらず空孔が基体に達していると、封孔剤から反射してくる超音波は弱いものとなる。このような反射波の強弱により、封孔の適否を調べることができる。
従って、溶射時に清浄なブラスト処理面に溶射がされたかの確認、皮膜の膨れや剥離の検出など、目視観察の出来ない皮膜下損傷の早期検出を可能にし、溶射膜の品質管理法として溶射工業会の広い分野での利用を期待することができる。
またこのような利点に加えて(本願第8の発明では)、封孔が不十分な箇所が迅速に検出できるので、封孔処理のやり直しが可能になるほか、最も適した封孔剤の選定にも威力を発揮する。また経年化した溶射層が十分な絶縁機能を有しているか否かも現場で簡単に調べることができる。
図中、Uは上方を、Sは下方を、Fは前方を、Bは後方を示す。
詳しくは、図1へ示す通り、この装置は、空中超音波の送信用探触子1と、空中超音波の受信用探触子2と、空中超音波の送受信用の副探触子3と、これらの探触子1〜3とエンコーダとを保持する走査部10と、走査部10と別体に形成され且つ各探触子1〜3と接続された信号処理部11と、信号処理部11に接続された波形表示部12と、波形表示部12に接続されたデータ処理部13とを備える。
空中超音波の、上記受信用探触子2は、空中を伝搬してくる超音波を受けて振動する振動子を備え、振動を信号に変換して信号処理部11に送る。
空中超音波の、上記送受信用の副探触子3は、空中に超音波を伝搬させると共に空中を伝搬してきた超音波を受信する振動子を備える。
上記の通り、副探触子3は、空中超音波の送信と受信とを兼ねるものを示したが、副探触子についても、他の探触子1,2と同様、送信と受信とが夫々別個独立したものであっても実施できる。但し、送信と受信とを1つの探触子にて兼用するほうが、溶射皮膜の膜面に対して、垂直に超音波を入射させる配置を採るのが容易であり、また、走査部10の省スペースの面で好ましい。
上記の各空中超音波探触子1〜3は、振動部と、当該振動部の振動面に設けられた音響整合部材とを備える。
振動部は、圧電素子であり、送信部の探触子1において、信号電圧の印加により振動し、受信部の探触子2において振動を信号電圧に変換する。音響整合部材は、空気よりも大きく上記圧電素子よりも小さな音響インピーダンスを備えた部材である。このような振動部には、ジルコン・チタン酸鉛(PZT)や、コンポジット振動子を採用することができる。音響整合部材は、粘土、樹脂、ポリウレタンを用いた素材にて、振動部の振動面の表面に層として形成したものや、或いは、振動部の一部として、振動部に設けられるものを作用することができる。
尚、前述のキャパシターを利用するものを採用することも可能であるが、このタイプのものは、前述の通り、キャパシターを挟み込む電極にバイアス電圧を掛ける必要があり、実用性の面で、上記の2種を採用するのが好ましい。
また、高分子圧電膜(PVDF)を採用するタイプは、金属やセラミック用の顕微鏡では、周波数が通常数メガになり、空中超音波用としては、減衰が大きく利用しにくい。
制御部の指令を受けたパルサー11が、送信用探触子1へ励振信号を送って、送信用探触子1の振動子を振動させ、空中超音波を発信させる。
レシーバー11bが、受信用探触子2から信号を受け、当該信号を増幅し、A−D変換器へ送る。
波形表部12は、信号処理部11のA−D変換器12を経て得た信号を受けて、Aスコープ(Aモード)にて波形の表示を行う。波形表示部12には、デジタルオシロスコープを採用するのが好ましい。
また、データ処理部13は、波形表示部12から、波形データを取得し、保存し、また、プリントアウトすることができる。データ処理部13には、市販のコンピュータを採用することができる。特に、データ処理部13に、ノートパソコンを採用するのが、可搬性の面で好ましい。
検査を行う者即ち、オペレータは、波形表示部12を見て、或いはプリントアウトされた波形データを見て、検査対象の剥離の有無、封孔処理の適否の判定を行うことができる。剥離の有無の判断において、受信波の強さ、即ち、Aスコープにおける波形の振幅の大きさの変化を調べることによって、確認することができる。
この実施の形態において、副処理探触子3は、信号処理部11の上記パルサー11aと、上記のレシーバー11bとに接続されており、剥離検査と封孔検査の何れにするかのオペレータの選択を受けた制御部により、パルサー11aは送信用探触子1と副探触子3の何れかに、その探触子に対応する励振の信号を送り、レシーバー11bは、受信用探触子2と副探触子3の何れかから送られてくる信号を処理する。
剥離検査と封孔検査の選択は、制御部にて指令する探触子を切り替えることにより行う。
尚、図示はしないが、送信用探触子1及び受信用探触子2と、副探触子3とは、夫々別々のパルサーとレシーバーに接続して使用されるものとしても実施できる。また、この装置を、剥離検査専用の装置として、副探触子3を設けずに実施することもできる。
走査部10は、片手で掴める寸法と重さを有するものである。走査部10の本体は、把持部として形成される。このような走査部10の本体(キャスター7…7とエンコーダを除いた部分)は、プラスチックにて形成することができ、透明な高分子材料にて形成するのが好ましい。透明な材料を採用することにより、溶射皮膜の表面を観察しながら走査できるからである。特に、このような走査部10本体には、アクリル製のものを採用するのが好ましい。
この実施の形態において、走査部10は、図1へ示す通り、上面10a、下面10b、左右側面、前面10c、後面10dを備えた直方体であり、前後の幅(長さw1)は約100mm、上下の幅(下面10bから上面の高さw2)は約40mm、左右の幅は約60mmである。このような数値は、種々に変更できる。但し、剥離検査に必要な、送受信の探触子1,2間の間隔w3の確保と、把持し易さとを考慮すると、前後の幅を50〜300mm、上下の幅を10〜100mmとするのが好ましく、左右(側面間)の幅を40〜70mm特に60〜70mmとするのが好ましい。
走査部10には、左右の前輪と左右の後輪とを構成する、4つのキャスター7…7を設けておくのが好ましい。この実施の形態では、図1に示す通り、前後方向について、後輪となるキャスター7,7の前方に送信側保持部4が設けられ、送信側保持部4の前方に副保持部6が設けられ、副保持部6の前方に受信側保持部5が設けられ、受信側保持部5の前方に前輪となるキャスター7,7が設けられている。この前後方向は、走査方向であり、送信部側保持部4と受信側保持部5の前後の位置関係は、上記と逆であってもよい。
また、上記の通り、走査方向に対して、探触子1,2は、前後の位置関係を採るものに限定するものではない。例えば、走査方向を前後方向として、走査方向と交差する左右方向に、探触子1,2を配列するものであっても実施できる。
エンコーダには、キャスター7の回転にて走査部10の進行位置を示すロータリエンコーダを採用することができる。
具体的には、円柱状の探触子1〜3について、各保持部4〜6は、当該探触子の外径とほぼ等しい内径を有する、円柱状の中空部分として走査部10本体に形成される。
各探触子1〜3は、振動面1a,2a,3aを下方に向けた状態にして、各保持部4〜6へ嵌合される。
各探触子1〜3の走査部10への固定は、ボルトを用いて行う。但し、各探触子の固定には、ボルト・ナットや螺子以外の周知の固定手段、たとえば接着剤を採用することができる。
この送信側保持部4へ、上記の通り送信用探触子1を嵌合することによって、送信用探触子1の振動面1aを、上記下端線xに対して、30度〜89.5度の角度θを以って、下方から斜め前方に向けるものである。即ち、送信用探触子1は、下端線xに対して30度〜89.5度の角度θの方向に空中超音波のビームを発信することができる。尚、空中超音波の送信用探触子1は、指向性を有するものであるが、ある程度の超音波の広がりがあるので、ここでの下端線xに対する30度〜89.5度という、超音波の発信方向は、振動面1aが発する超音波の中心ビームの向きとする。
下端線xに対し、上記の角度θが、30度未満であると傾きが大きすぎて、空中超音波が溶射皮膜内に適切に入射させることができず、89.5度より大きいと界面に対してほぼ垂直となり、表面波を生じさせることができない。
走査部10の側面視において、受信側保持部5は、図1へ示す通り、上記の下端線xの垂直二等分線yについて、送信側保持部4の軸方向と、線対称となるように、その軸方向(図1の受信側保持部5において示す一点鎖線の方向)を向ける。
従って、送信側保持部4が後方に82度(図1において反時計回りにθ=82度となるよう)傾いている場合、受信側保持部5は前方に82度(図1において時計回りにφ=82となるように)傾けた状態に形成するのが好ましい。
尚、表面波を発生させるために送信側の探触子を上記の通り傾ける必要があるが、その一方で、表面波の受信を行うことができれば、受信側の探触子の向きは、上記の通り、送信側探触子と対称の位置関係を採るものでなくても実施でき、例えば、両探触子1,2間の間隔が小さければ、傾けずに実施することもできる。
図2(A)へ示す通り、この間隔w3は、受信用の探触子2が受信する音波
のうち、皮膜表面の入射位置での反射ノイズ(以下表面反射波tと呼ぶ。)が減衰した後の上記表面波KWを受信できるものとする。
表面反射波tは、送信用の探触子1から発信された超音波が入射時溶射皮膜表面MSにて反射することにより生ずるものであり、送信用の探触子1が受信用の探触子2に近すぎると、当該表面反射波tの影に、上記の表面波KWといった界面位置から反射してくる超音波が隠れて、剥離の検出が困難となる。従って、上記の間隔W3は、表面反射波tがノイズとなって邪魔とならないように、表面反射波tが減衰した後の表面波KWを受信することができる十分な大きさとする。
前記の通り、送信用の探触子1を送信側保持部4へ装着し、受信用の探触子2を受信側保持部5へ装着することにより、上記の間隔w3を確保することができるように送信側保持部4と受信側保持部5の間隔を設定しておく。
この実施の形態において、送信部の探触子1の上記下端線xに対する距離w4は、受信部の探触子2の上記下端線xに対する距離w5と同じである(図1)。
具体的には、探触子1,2の振動周波数は、200〜800kHzとすることができ、パルサの出力電圧(スパイク電圧)を、150〜300Vとすることができ、この場合、上記の傾斜角θ,φを持った送受信の両探触子1,2の間隔、即ち、送受信の両探触子1,2の振動面1a,2aの中心間の間隔w3は、10〜100mmとする。
また、この場合、下端線xに対する送信用探触子1の振動面1aの中心の(最短)距離w4、下端線xに対する受信用探触子2の振動面2aの中心の(最短)距離w5は、夫々5〜30mmであり、特に、w4,w5を10〜25mmとするのが好ましく、10mmとするのが最も好ましい。
尚、市販の探触子を用いる場合、パルサーの出力電圧が200Vのものを採用することができる。
また、副探触子3についても、振動周波数200〜800kHz、好ましくは振動周波数200〜500kHzとするものを採用することができる。
尚、上記範囲内であれば、距離w4と距離w5とは異なる値を採るものであっても実施できる。
走査部10の送信側保持部4は、受信側保持部5に対して、探触子1,2が上記の位置関係を採るように、設けられているのである。
このとき、各キャスター7…7を溶射皮膜Mの表面と当接させることにより、各探触子1〜3において、溶射皮膜の膜面に対し、上記の各角度θ,φ、距離w4,w5,w6を採ることができる。そして、走査部10を手動で、溶射皮膜上を摺動させることにより、溶射皮膜の各部において、剥離の有無を検査することができるのである。
図2(B)へ示す通り、送信用探触子1から発信された空中超音波は、溶射皮膜内へ斜めに入射し、入射後の超音波は、表面波KWとして、溶射皮膜M及び基体Nの界面Kと、溶射皮膜表面MSとの間を、反射しながら、当該界面Kに沿って伝播する。このとき、溶射皮膜表面MSから、表面波KWの一部が空中に漏れ、受信用探触子2にて当該漏れ出てきた表面波KWを検出することができる。
上記の表面波は、レイリー波である。また、この表面波と共に界面波が発生する(図示しない)。界面波は、基体と溶射皮膜との界面に沿って直線的に伝播する音波である。上記の界面波と共に、溶射皮膜から漏れ出てくる、界面波(ストンリー波)の強さを、溶射皮膜中界面に沿って伝播する音波の強さとして検出することにより、剥離の有無を調べることができる。
上記のストンリー波とは、一般に異種接合境界面にエネルギーを集中し、両物質の内部へのレイリー波に類似した形で減衰しながら境界に沿って伝播する波である。
上記の通り、界面波(ストンリー波)と表面波(レイリー波)とは、巨視的には、何れも、溶射皮膜中を界面に沿って伝播する音波という点で、同様であり、当該界面波について上記の表面波と共に剥離の検出に利用することができる。
剥離検査と封孔検査とは、夫々、前述の通り、切り替えて行う。剥離検査と封孔検査の双方を行う場合、何れの検査を先に行ってもよい。何れかの一方の検査が完了した際、制御部を通じて、使用する探触子を切り替えて、何れか他方の検査を行えばよい。
特に、鋼材を基材とする場合、金属溶射として代表的なアルミの溶射皮膜や、セラミックの溶射皮膜について、良好な検査を行うことができる。
例えば、金属溶射による皮膜としては、アルミニウム、アルミナ、アルミニウム合金、ニッケル−コバルト合金やニッケル−クロム合金に代表されるニッケル合金、チタニアや、この他の金属や合金による溶射皮膜を検査対象とすることができる。また、セラミック溶射による皮膜としては、酸化セラミック、炭化セラミック、窒化物や、この他のセラミックによる皮膜の検査を行うとができる。
また、この封孔検査において、一般に用いられている封孔剤の全般を、検査の対象とすることができる。
具体的には、シリコン−エポキシ、シリコン−ウレタン、シリコン−フェノールなどの有機系シリコン、無機系シリコン、エポキシ、タール−エポキシ、ビニール系樹脂を、成分とする封孔剤を、検査の対象とすることができる。
界面状態の検査において、本願発明の有効性を調べるために、次の2種類のサンプル(試験片)を用いた。
ブラスト後に平面視において正方形の試験片の表面中央にオイル斑点(油膜)を付けた後アルミニウムを溶射したもの
(サンプルNo,2)
ブラスト後に平面視において正方形の試験片の表面中央にオイル斑点(油膜)を付けた後アルミニウムを溶射し、メタラクトとシール剤処理したもの
この試験で用いた走査部10(図示は省略する。)は、送信側探触子1と受信側探触子2とを走査方向(図4の左から右)について、60mm離して保持するものである。送受信の両探触子1,2と皮膜表面との間隔は、何れも10mmである。走査部10の各部の寸法設定についても、前述の通りであり、送信用探触子1の角度θを82度(鉛直線yに対して8度)とした。また、受信用探触子2の角度φは、送信用探触子1の向きと前期線対称となるものとした。
この走査部10を、図5へ示す通り、夫々平行なI,II,III,VI,V,VI,VIIの7 本の走査ラインに沿って、順次左から右に走査して検査を行った。
この検査において、走査ラインIV上にオイル斑点があるので、この走査線上で密着不良箇所としてオイル斑点が検出されれば、適切な剥離の検出が行えるものと言える。走査ラインIV以外の走査線上には欠陥はない。
図5に示す通り、各走査ラインの左右(走査方向について)の位置を5mm間隔で設定した目盛a〜wにて示す。
図6を見れば分かる通り、不良箇所(オイル斑点H)が送信用探触子1の真下にあるときや、受信用探触子2の下にあるとき検出波の振幅は極端に大きくなっている。即ち、サンプル表面上において、走査部10を走査しながら波形を観察してみると、大きな振幅の波形が検出される部分の界面性状は、良くないこと(剥離が生じていること)が分かる。
図7及び図8において、黒丸が健全域の走査ラインII,白抜きの三角がオイル斑点のある走査ラインIVでの振幅分布を示している。図7及び図8において、走査ライン上オイル斑点の両端部で大きな振幅の表面波が検出されているので、密着不良箇所は振幅の小さな谷部に存在することが分かる。
図9(A)は、サンプルNo,1のオイル斑点部の縦断面の顕微鏡写真の影像を示している。図9(B)は、サンプルNo,1の健全部の縦断面の顕微鏡写真の影像を示している。図9(A)を見れば分かる通り、オイル斑点部では皮膜と基材との間に剥離が見られるが、図9(B)を見れば分かる通り、健全部では良好な密着組織が観察できる。
尚、均一な固体内部に超音波を入射させる通常の斜角探傷では、屈折角度を考慮して被検材に対する入射角度を決定する必要があるが、溶射皮膜では、超音波が、粒塊内に入射して伝播するのではなく、溶射皮膜を構成する粒塊同士の間を伝播するものであり、屈折角度を考慮する必要はない。
この封孔良否の検査において、封孔の良否は、空中超音波の反射強度から判定する。
次のA,Bの2 種類のサンプルを用いて実証した。
サンプルA−1は、アルミ溶射を行い、封孔処理しない。
サンプルA−2は、アルミ溶射を行い、封孔処理を行った。
サンプルB−1は、セラミック(102)溶射を行い、封孔処理しない。
サンプルB−2は、セラミック(102)溶射を行い、封孔処理を行った。
具体的には、図10へ示す通り、平面視において、サンプル表面の、縦15mm横15mmの矩形の範囲に、縦横夫々5mmの間隔を以って設定した、a 点からs 点までの点を測定点とした。
は封孔してないサンプルA−1の波形を示しており、図11(B)は封孔したサンプルA−2の波形を示している。この図11に示す通り、封孔処理溶射層の最大振幅は封孔のないサンプルよりも大きい。
に依存するので、リフトオフは10mm以上必要である。
また、図13及び図14において、黒四角点が封孔したサンプルの反射振幅、白抜四角点が封孔してないサンプルの反射振幅を示している。
図13及び図14へ示す通り、アルミ溶射、セラミック溶射の何れのサンプルでも封孔したものを示す黒四角点のほうが、封孔していないものを示す白抜四角点よりも大きくなっている。この振幅の大きさの差は、とりわけ、セラミック溶射サンプルBにおいて、顕著である。
図15 は、サンプルBのフェロキシル試験結果である。図15(A)は、セラミック溶射の無封孔サンプルB−1のフェロキシル試験結果を示し、図15(B)は、セラミック溶射の封孔サンプルB−2のフェロキシル試験結果を示す。
図15(A)に示す無封孔サンプルB−1では、大きな斑点が見られるが、その数は少ない。図15(B)に示す封孔処理サンプルB−2では、斑点数は極めて少なく、よく封孔されていることを示している。このことから、図14に示す結果とよく一致していることが確認できる。
次に、サンプルB−2(セラミック溶射に封孔処理)を用いて、フェロキシル試験による斑点数と反射率の関係を調べた。フェロキシル試験での青い斑点は封孔されていない空孔が存在することを意味するので、斑点数と反射率の関係を調べた。
この図16において、サンプルB−2の反射超音波の強度を黒菱形点で示し、フェロキシル試験による青斑点の1平方cm当りの数を黒丸点で示す。図16の横軸は、図10の観測点a〜tと対応している。
図16を見れば、斑点数の多いところでは、反射強度は低下していることが分かる。即ち、この方法では、反射超音波の強度(黒菱形点)と、単位あたりの青斑点の数(黒丸点)とが相反する傾向を示せば、封孔検査が適切に行えることになるが、図16に示す通り、極めてよい相反関係を示しており、極めて高感度で封孔不良場所が検出できることが分かる。
封孔剤によっては、必ずしも溶射されたセラミックには向いていないこともある。
上記の検査方法は、斑点の数で評価するという半定量的な評価法に変わる、新しい定量的評価法になることを意味しており、現場での品質管理だけでなく、研究機関における強力な研究手段になる。
また、上記の実施の形態において、走査方向について、受信部の探触子2は、送信部の探触子1の前方に配置されたが、両探触子1,2の前後を逆としても実施できる。
また、上記の実施の形態において、探触子1〜3は、走査部10の走査方向(キャスター7…7によって転がる方向)に沿って、配列されたものであったが、走査方向と交差する方向に配列されるものであっても実施できる。
2 (受信部の)探触子
3 副探触子
4 送信側保持部
5 受信側保持部
6 副保持部
7 キャスター
Claims (8)
- 基材上を被覆する少なくとも一層以上の溶射層を備えた溶射皮膜について、当該溶射皮膜と基材との間の界面における剥離、又は溶射層間の界面における剥離を、調べる溶射皮膜の検査方法であって、
溶射皮膜に向けて超音波を発する送信部と、溶射皮膜からの超音波を受信する受信部と、走査部とを用いるものであり、
上記送信部には、超音波を空中に伝搬させて溶射皮膜内へ入射させる、空中超音波の探触子を備えたものを、上記受信部には、溶射皮膜から空中を伝搬してくる超音波を受信する、空中超音波の探触子を備えたものを、夫々採用し、
上記走査部には、上記送信部と受信部の上記両探触子を一体に保持し、上記送信部と受信部とを、溶射皮膜の上にて前後に走査させ、送信部と受信部の両探触子を溶射皮膜よりも上方に配置し、送信部の探触子を溶射皮膜の膜面に対して斜めに向け、溶射皮膜の膜面を平面視した状態において、受信部の探触子を、送信部の探触子の向きの延長線上に配置するものを採用し、
送信部の上記探触子から溶射皮膜内に超音波を入射させて、溶射皮膜中に表面波を伝播させ、受信部の上記探触子にて受信した表面波の強さを、剥離がない場合の表面波の強さと比べることにより、剥離の有無を調べるものであり、
更に上記走査部にて、上記走査方向について、送信部の上記探触子の前方又は後方に受信部の上記探触子を配置し、平面視において送信部の上記探触子と受信部の上記探触子とを結ぶ線を上記走査の方向と一致させて、走査方向に沿ってのみ空中超音波の送受信を行うものであることを特徴とする溶射皮膜の検査方法。 - 上記の表面波は、剥離を調べる界面と溶射皮膜表面との間を多重反射しながら、当該界面に沿った方向に進行するものであり、
入射時に溶射皮膜表面にて発生する反射ノイズ減衰後の表面波を調べることを特徴とする請求項1記載の溶射皮膜の検査方法。 - 受信部の探触子は、溶射皮膜表面から漏れ出てくる表面波を受信するものであり、
送信部の探触子と受信部の探触子との間の上記間隔は、溶射皮膜の厚みの4倍以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の溶射皮膜の検査方法。 - 空気超音波の両探触子は、電圧の印加により振動して超音波を発する振動部と、音響整合部材とを備え、音響整合部材が振動部に設けられることにより、振動部と空気との音響インピーダンスの差を抑制して、超音波を空中に伝搬させることができ、
送信部の探触子と受信部の探触子との当該間隔、及び、送信部と受信部の各探触子と溶射皮膜表面との間の間隔は、伝搬中の超音波の減衰により剥離の判別が、不能とならない範囲内であり、
側面視した状態において、送信部の探触子は、検査する界面に対して、30度以上89.5度以下の角度をなすものであり、受信部の探触子の向きは、側面視した状態において、両探触子間の中間点における溶射皮膜の膜面と垂直な線について、上記の送信部の探触子の向きと、略線対称となるものであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の溶射皮膜の検査方法。
- 基材上を被覆する少なくとも一層以上の溶射層を備えた溶射皮膜について、当該溶射皮膜と基材との間の界面における剥離、又は溶射層間の界面における剥離を、調べる溶射皮膜の検査装置であって、
溶射皮膜に向けて超音波を発する送信部と、溶射皮膜からの超音波を受信する受信部と、走査部とを備え、
送信部は、超音波を空中に伝搬させて溶射皮膜内へ入射させる、空中超音波の探触子を備え、
受信部は、溶射皮膜から空中を伝搬してくる超音波を受信する、空中超音波の探触子を備え、
上記走査部は、上記送信部と受信部の上記両探触子を一体に保持し、上記送信部と受信部とを、溶射皮膜の上にて前後に走査させることができるものであり、
上記走査部は、上記走査方向について、送信部の上記探触子の前方又は後方に受信部の上記探触子を配置するものであり、
上記走査部は、送信部の探触子を、溶射皮膜の膜面に対して、斜めに向け、
上記走査部は、平面視において、受信部の探触子を、送信部の探触子の向く先に、送信部の探触子に対して間隔を開けて配置し、
送信部の探触子と受信部の探触子との間の上記間隔は、溶射皮膜の厚みの3倍以上であり、
送信部の上記探触子から溶射皮膜内に超音波を入射させて、溶射皮膜中に表面波を発生させ、受信部の上記探触子にて受信した表面波の強さを、剥離がない場合の表面波の強さと比べることにより、剥離の有無を調べるものであり、
平面視において送信部の上記探触子と受信部の上記探触子とを結ぶ線を、上記走査の方向と一致させることにより、走査方向に沿ってのみ空中超音波の送受信を行うことが可能な溶射皮膜の検査装置。 - 上記の基材は、金属又はセラミックであり、溶射皮膜は、金属、高分子,セラミック又はサーメットの溶射により形成されたものであり、
各探触子の振動周波数は、200〜800kHzであり、
送信部と受信部の両探触子を保持し、且つ、両探触子を溶射皮膜表面に沿って走査し得る走査部を備え、
走査部は、送信部と受信部の両探触子同士を、溶射皮膜の厚みの3倍以上であり、且つ、200mm以下の間隔を採るように保持するものであり、
更に、走査部は、各探触子を溶射皮膜表面から5mm以上80mm以下の間隔を開けて保持するものであり、
走査中、受信した表面波の強さの変化により、界面における剥離を検出するものであることを特徴とする請求項5記載の溶射皮膜の検査装置。 - 走査部は、主として透明な素材にて形成され、送信部の探触子を保持する送信側保持部と、受信部の探触子を保持する受信側保持部と、前輪及び後輪となる少なくとも2つのキャスターとを備え、手で持って溶射皮膜の膜面に当てキャスターを溶射皮膜に倣わせることにより、両探触子を、溶射皮膜の膜面に沿って走査することができるものであり、
両キャスターは、少なくとも表面がテフロン(登録商標)樹脂にて形成され、
送信側保持部は、両キャスターの下端同士を結ぶ下端線に対して、送信部の探触子を30度以上89.5度以下の角度をなすように保持し、受信側保持部は、側面視において、当該下端線と直交する垂線について、送信部の探触子の向きと線対称となる向きを向くように受信部の探触子を保持し、
更に、送信側保持部と受信側保持部は、上下方向について、上記の下端線から上方へ、5mm以上50mm以下の間隔を開けて探触子の夫々を保持するものであることを特徴とする請求項6記載の溶射皮膜の検査装置。 - 溶射皮膜に向けて超音波を発する副送信部と、溶射皮膜からの超音波を受信する副受信部とを備え、
副送信部は、超音波を空中に伝搬させて溶射皮膜内へ入射させる、空中超音波の探触子を備え、
副受信部は、溶射皮膜から空中を伝搬してくる超音波を受信する、空中超音波の探触子を備え、
副送信部と副受信部の両探触子は、溶射皮膜より上方に配置され、
副送信部の探触子の向きは、溶射皮膜の膜面に対して、略垂直であり、
副送信部の探触子にて、溶射皮膜に向けて空中に超音波を発し、副受信部の探触子にて、溶射皮膜から帰ってくる超音波を受信することにより、溶射皮膜の封孔処理の状態を検出することを特徴とする請求項5乃至7の何れかに記載の溶射皮膜の検査装置。
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