本発明は、乳アレルギーモデル動物とその作製方法に関する。
牛乳アレルギーは、乳タンパク質抗原の経口的な摂取(感作)に伴う主として牛乳特異的IgE抗体産生を介して発症する疾患であると言われている。乳タンパク質のうちαs1−カゼインとβ-ラクトグロブリン(β-Lg)は牛乳中に多量に含まれているが、母乳中には通常全く含まれておらずヒトにとっては異種性の高いタンパク質である。このことがこれら乳タンパクのアレルゲン活性が強い原因であるとされる。牛乳アレルギー患者では血清中に主として乳清タンパク質中のβ-Lgやカゼインに特異的なIgE抗体産生が誘導されていることが報告されている。
IgE抗体産生を介したヒトのアレルギーの発症にはサイトカインのIL-4、IL-5、IL-6などを産生するヘルパーT細胞であるTh2細胞が関与することが知られている。一方、慢性関節リウマチ、糖尿病などの自己免疫疾患の発症にはもう一つのヘルパーT細胞であるTh1細胞(サイトカインのIL-2、インターフェロン-γなどを産生する)が関与することが知られている。そのため、アレルギー疾患はTh2病、自己免疫疾患はTh1病と呼ばれることがある。ところが、近年、アレルギー患者ではTh2細胞ばかりでなくTh1細胞も活性化されている場合があること、また、いったん自己免疫疾患が発症した患者ではTh2細胞が活性化されていることが明らかとなってきた。
アレルギーの機構解明や治療・予防のためにアレルギー反応の促進物質または抑制物質のスクリーニングが行われている。そのようなスクリーニングでは、動物又は動物体の一部に被験物質を投与してアレルギー反応の指標を評価する。
アレルギーの予防法や治療法を検討するために、アレルギーの動物モデルの作出が試みられてきた。一般に、動物において抗体産生を効率良く誘導するためには、抗原をアジュバントとともに非経口的に免疫する方法が採用されている。しかし、そのような免疫方法は、牛乳アレルギーで生じる経口感作を忠実に反映するものとは言えない。牛乳アレルギーなどの食物アレルギー動物モデルの作出においては、アレルゲンの投与ルートや投与方法がアレルギー発症の状況にできるだけ適合するように、アジュバントなどアレルゲン以外の付加的な物質を投与することなく、経口投与によってアレルギーモデル動物を安定的に作出できることが望ましい。しかしながら、経口免疫法では、通常、各種抗体産生を誘導することがかなり困難であることが知られている。
牛乳アレルギーの機構解明や予防・治療を目指して、動物で牛乳アレルギーを発現させる試みは数多く報告されてきているが、これまでのところ牛乳中の乳清タンパク質あるいは牛乳そのものを、アジュバント等の免疫修飾作用のある物質を併用せずに経口投与する方法では、非ヒト哺乳動物の血清中に抗原特異的IgE抗体産生を誘導させることができた例は報告されていない。
動物で牛乳アレルギーを発現させる試みとして、例えば、BALB/cマウスに牛乳ホエイタンパク質を45日以上連続給餌することにより大量の抗原を摂取させたところ、血中にIgG抗体が産生されたが、IgAやIgM抗体は産生されなかったとの報告がある(非特許文献1)。発明者らが追試したところ、この方法では、牛乳や乳タンパクを経口摂取してもBALB/cマウスはIgE抗体を産生しなかった。
またマウスの腹腔内へ、牛乳アレルゲン(特異的IgE抗体産生誘導抗原)をアジュバントと共に免疫する系が報告されている(非特許文献2)が、この方法は、アジュバントを併用している点と感作ルートが経口ではない点が、牛乳アレルギーとは状況が異なる。
さらに、マウスにアレルゲンとアジュバントとしてのコレラトキシンの混合物を経口投与させる系が報告されている(非特許文献3)。この方法は、感作ルートは牛乳アレルギーなどの食物アレルギーと同様であるが、抗体産生を増強させるアジュバントを用いている点が、食物アレルギーの発症機序とは異なる。
また、BALB/cマウスに、油脂を用いて乳化した抗原液を胃内投与するとIgG1抗体が産生されるが、乳化しない抗原水溶液の投与では抗体産生されなかったことから、アレルゲンとともに植物油脂を人工的に乳化した状態で投与することにより免疫修飾作用が発現したとの報告がある(非特許文献4)。しかしこの系も、投与するアレルゲンに特殊な前処理を行うことによって、油脂とアレルゲンの複合作用を利用している点が、食物アレルギーとは状況が異なる。
DBA/2マウスに牛乳由来のカゼインを25%も含む食餌を長期に連続して摂取させることによりカゼインに対するIgE抗体産生が誘導されるという報告(非特許文献5)がある。しかし、発明者らが再現実験を試みたが、このような連続摂取によりカゼインに対するIgE抗体産生は誘導されなかった。さらに、β-Lgやβ-Lgを含む乳清タンパク質を大量に摂取させても、DBA/2マウスにおけるβ-Lg特異的IgE抗体産生は誘導されなかった。
ラットについては、卵白アレルゲンの胃内投与で高頻度に特異的IgE抗体が誘導されるBNラットに対して牛乳抗原を胃内投与すると特異的IgE抗体産生が誘導されるとの報告がある(非特許文献6)が、その誘導頻度は牛乳抗原を投与したラット34匹中わずかに2匹と非常に低く牛乳アレルギー動物モデルとしては実用的ではない。
このように従来技術では、牛乳アレルゲンを実験動物に経口投与して、IgE抗体を安定的に産生させることは困難であった。カゼイン特異的IgE抗体については、カゼイン抗原を不自然なほど大量に連続摂取させるか、油脂で乳化させた特殊な形態で投与することでしか産生させることができなかった。またカゼインと並ぶ乳アレルゲンであるβ-Lgについては実験動物に大量連続摂取させても経口投与でβ-Lg特異的IgE抗体を産生させることはできなかった。
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本発明は、乳アレルギーモデル動物の作製方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため、実際の牛乳アレルギーの病態にできるだけ近い状態でかつ簡便な手法でアレルゲンを経口投与することにより、動物において乳タンパク特異的IgE抗体を誘導できる方法を見出すべく検討を行った。自己免疫疾患モデル動物に着目して近交系マウスに乳タンパク質を一定期間経口摂取させた後、乳タンパク質を全く給与しない期間を設け、さらに再度乳タンパク質を経口摂取させたところ、5割以上という驚くべき高率でDBA/1マウスに乳タンパク質特異的IgE抗体が誘導されることを見出した。さらに、乳タンパク質特異的IgE抗体が誘導されたそのマウスにおいては、その後の乳タンパク抗原負荷によってアナフィラキシー反応の誘導も確認された。本発明は、この知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 非ヒト哺乳動物に、異種動物由来の乳、乳タンパク質又はそれらの処理物を、間欠経口投与することを特徴とする、非ヒト哺乳動物において乳タンパク質特異的IgE抗体の産生を誘導する方法。
この方法で行う間欠経口投与は、好ましくは、経口投与後に、少なくとも2週間の投与中止期間を挟んでさらに経口投与することを1回以上行うものである。このような間欠経口投与において、投与中止期間前の前記経口投与は、少なくとも1週間にわたって行うことが好ましい。さらに、その投与中止期間後の前記経口投与は、少なくとも2週間にわたって行うことが好ましい。本発明の好ましい一実施形態では、間欠経口投与として、1週間〜4週間にわたり経口投与した後に、2〜14週間の投与中止期間を挟んでさらに2週間〜4週間にわたり経口投与することを1回以上行う。この方法においては、乳タンパク質特異的IgE抗体の産生が誘導された非ヒト哺乳動物に、間欠経口投与後に異種動物由来の乳、乳タンパク質又はそれらの処理物をさらに投与し、アナフィラキシー反応を誘導することも好ましい。
またこの方法で用いる非ヒト哺乳動物としては、限定するものではないが、齧歯類又はウサギ類が好ましい。非ヒト哺乳動物は、特に好ましくはマウスである。この方法で用いる非ヒト哺乳動物としては、DBA/1系統がとりわけ好ましい。この方法の1つの実施形態では、非ヒト哺乳動物は、これらの動物のうち自己免疫疾患を発症しているか又は自己免疫疾患の素因のある動物である。
[2] 上記[1]に記載の方法により乳タンパク質特異的IgE抗体の産生が誘導された非ヒト哺乳動物である、乳アレルギーモデル動物。この乳アレルギーモデル動物の一実施形態としては、上記のように乳タンパク質特異的IgE抗体の産生が誘導された非ヒト哺乳動物に間欠経口投与後に異種動物由来の乳、乳タンパク質又はそれらの処理物をさらに投与し、アナフィラキシー反応を誘導することにより得られた、乳タンパク質特異的IgE抗体の産生が誘導され、かつアナフィラキシー反応が誘導された非ヒト哺乳動物である乳アレルギーモデル動物も挙げられる。ここで、アナフィラキシー反応としては、好ましくは、直腸温度の低下及び/又は体液中のヒスタミン濃度の上昇が挙げられる。
[3] 上記[2]に記載の乳アレルギーモデル動物から得られる、乳タンパク質特異的IgE抗体を含む体液、分泌物又は排泄物。この体液は、好ましくは血液、血清、血漿又はリンパ液である。
[4] 上記[2]に記載の乳アレルギーモデル動物に被験物質を投与し、さらに該動物におけるアレルギー反応を評価することを特徴とする、乳アレルギー反応を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
このスクリーニング方法の1つの好ましい態様は、乳アレルギー予防剤及び/又は治療剤のスクリーニング方法である。また、このスクリーニング方法の別の好ましい態様は、乳アレルギー予防用食品及び/又は治療用食品のスクリーニング方法である。このスクリーニング方法のさらに別の好ましい態様は、乳アレルギーに対する経口免疫寛容を誘導する物質のスクリーニング方法である。
本発明の方法によれば、牛乳アレルギーのモデル動物を効率良く作製することができる。このモデル動物は、アジュバントの共投与を伴わず経口感作によってアレルギーを発現できることから、実際の牛乳アレルギーの病態を良好に再現するものである。また乳タンパク質特異的IgE抗体を含有する生体サンプルの調製方法を用いれば、目的の乳タンパク質特異的IgE抗体を容易に調製することができる。さらに本発明のスクリーニング方法は、牛乳アレルギーの発症機序を良好に再現できるモデル動物を用いることから、アレルギー反応の生起過程に影響を及ぼす物質をうまく取得できるものと思われる。
本発明では、非ヒト哺乳動物に、異種動物由来の乳、乳タンパク質又はそれらの処理物を間欠経口投与することにより、該非ヒト哺乳動物において乳タンパク質特異的IgE抗体の産生を誘導することができる。
本発明の方法で用いる非ヒト哺乳動物は、飼養動物であることが好ましい。本発明の非ヒト哺乳動物は、野生型動物であってもよいし、変異型動物であってもよい。本発明の非ヒト哺乳動物は、遺伝的改変動物、例えばトランスジェニック動物、ノックアウト動物、ノックイン動物等であってもよい。本発明の非ヒト哺乳動物は、近交系(純系)動物であってもよい。ここで近交系動物は兄妹交配を20世代以上継代し、遺伝子背景を同一にした系統である。限定するものではないが、非ヒト哺乳動物として、齧歯類又はウサギ類は、例えば実験動物としての利用が確立されている点で、より好ましい。齧歯類の例としては、実験用マウスなどのハツカネズミ、実験用ラットなどのドブネズミ、スナネズミ、モルモット、ハムスター等が挙げられる。本発明の方法でより利用しやすい非ヒト哺乳動物は、マウス、特に近交系マウスである。高い確率で近親交配の継続が可能なマウスやラットにおいては、近交系の各種系統が商業的に入手でき、種々の疾患モデルとして利用されている。例えば近交系マウスのうちDBA/1マウスは組織適合抗原のタイプがqであり、コラーゲン関節炎の誘導が容易(II型)である。DBA/2マウスは組織適合抗原のタイプがBALB/cマウスと同様dであり、また聴覚ストレスをあたえるとけいれんを起こすため、聴覚試験研究に用いられている。本発明の一実施形態では、特にDBA/1系統を有利に用いることができる。さらに、本発明の一実施形態では、これらの動物のうち自己免疫疾患を発症しているか又は自己免疫疾患の素因のある動物を用いることが有利である。自己免疫疾患としては、例えば、慢性関節リウマチなどの関節炎、糖尿病、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症等が挙げられる。本発明において「自己免疫疾患の素因がある」とは、その個体が自己免疫疾患を発症しやすい遺伝的又は環境的条件下に置かれていることを意味する。自己免疫疾患を発症しているか又は自己免疫疾患の素因のある動物の一例としては、例えば関節炎モデルであるDBA/1マウス系統、SKGマウス系統、STRマウス系統、LEWラット系統、DAラット系統、糖尿病モデルであるNODマウス系統、KKマウス系統、BKS.Cgマウス系統、GKラット系統、SDTラット系統、全身性エリテマトーデスモデルであるNZBマウス系統、NZBWF1マウス系統、MRL/Mjpマウス系統、潰瘍性大腸炎と多発性硬化症のモデルであるSJLマウス系統等の自己免疫疾患モデル動物が挙げられる。これらの様々な非ヒト哺乳動物は、例えば、日本チャールズリバー社、日本エスエルシー社、日本クレア社、The Jackson Laboratories(USA)などから購入して用いることができる。あるいは非ヒト哺乳動物は、国立遺伝学研究所 系統生物研究センター 哺乳動物遺伝研究室、大阪大学遺伝情報実験センター等の実験動物系統維持機関から分与を受けることもできる。
本発明において、非ヒト哺乳動物に投与する「異種動物由来の乳、乳タンパク質又はそれらの処理物」とは、当該非ヒト哺乳動物とは生物種が異なる哺乳動物が産生する乳、若しくはその成分である乳タンパク質、又はそのいずれかの処理物を意味する。異種動物由来の乳としては、牛乳、羊乳、山羊乳等が挙げられるが、例えば牛乳アレルギーモデル動物を作製する場合には、牛乳を用いることがより好ましい。一般に、乳タンパク質は、通常、カゼインと乳清(ホエー)タンパク質に大別される。搾乳直後の乳(pH7.0付近)を遠心分離して脂肪を除去した後、酸を加えて乳のpHを4.6近くまで下げると、脱脂乳が凝集して沈殿物が生じるが、この沈殿物の主成分がカゼインであり、カゼイン除去後の溶液がホエーまたは乳清と呼ばれる。カゼインには、例えば、αs-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン等の様々なカゼインタンパク質が含まれる。一方、乳清に含まれる乳清タンパク質としては、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン、血清アルブミン等が挙げられる。本発明で用いる乳タンパク質は、これらのカゼイン及び乳清タンパク質並びに乳に含まれる他のタンパク質のうちの任意の1種又は複数種であってもよい。本発明の乳タンパク質としては、牛乳アレルギー患者の血清中に特異的IgE抗体が誘導されることが知られているβ-ラクトグロブリン及び/又はカゼインが特に好ましい。
本発明において乳タンパク質は、乳から精製したもの、粗精製したもの、又は部分精製したもののいずれの形態であってもよい。さらに、本発明に係る乳又は乳タンパク質の「処理物」とは、前述した乳又は乳タンパク質を、分離、濃縮、精製、乾燥、加温、加圧、凝乳酵素などを用いた酵素処理、酸添加などの化学的処理、紫外線照射、脱脂、発酵等の、乳加工技術などの各種方法によって処理して得られる産物を言う。本発明の乳又は乳タンパク質の処理物は、通常、少なくとも1種の乳タンパク質又はその断片を含有する。本発明の「異種動物由来の乳、乳タンパク質又はそれらの処理物」は、飼養動物(牛、ヤギ、ヒツジ等)を含む哺乳動物から搾乳して用いてもよいし、市販の乳製品を入手して用いてもよい。例えば、本発明の方法で用いる「異種動物由来の乳、乳タンパク質又はそれらの処理物」の具体例には、生乳、牛乳、UHT牛乳(超高温瞬間殺菌牛乳)、低温殺菌牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、乳飲料、カゼイン、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、濃縮ホエー、アイスクリーム類、濃縮乳、れん乳、粉乳、調製粉乳、加糖粉乳、全粉乳、部分脱脂粉乳、脱脂粉乳、ホエー、ホエータンパク濃縮物(WPC)、ホエータンパク精製物(WPI)、発酵乳、乳酸菌飲料、羊乳、山羊乳等が包含されるが、これらの例に限定されない。またこれらを含む食品も、「異種動物由来の乳、乳タンパク質又はそれらの処理物」に含まれる。
なお本明細書では、「異種動物由来の乳、乳タンパク質又はそれらの処理物」を、場合により、便宜的に「乳タンパク質含有物質」と別称する。
乳タンパク質含有物質の経口投与方法としては、いずれの方法を用いてもよく、例えば、飲用水(飲水)又は餌として自由摂取させる方法、あるいは一定の量や一定の時間に摂取させる方法でもよく、ゾンデやカテーテル等の器具を用いて強制的に摂取させてもよい。
本発明の方法では、非ヒト哺乳動物に、乳タンパク質含有物質を間欠経口投与する。本発明において「間欠経口投与」とは、乳タンパク質含有物質を投与しない投与中止期間を挟んで再度乳タンパク質含有物質を一定期間連続的に経口投与することを、乳タンパク質含有物質を一定期間連続的に経口投与した後で、1回又は2回以上反復して行うことを意味する。限定するものではないが、本発明における間欠経口投与では、投与中止期間は、少なくとも1週間、例えば1〜20週間、好ましくは2〜16週間、より好ましくは2〜14週間、さらに好ましくは2〜8週間とすることができる。本発明において、「一定期間連続的に経口投与する」とは、少なくとも2日以上、例えば2日〜6週間、好ましくは1週間〜4週間、より好ましくは2〜4週間、さらに好ましくは2〜3週間の期間にわたり、乳タンパク質含有物質を、1日(24時間)当たり1回以上の頻度で経口的に投与するか、又は自由摂取させることを意味する。本発明の方法に係る間欠経口投与においては、投与中止期間前に行う経口投与(1回目の乳タンパク質経口投与)は、限定するものではないが、乳タンパク質特異的IgE抗体を産生する非ヒト動物が得られる確率をより向上させるためには、少なくとも1週間、好ましくは2週間以上、とりわけ2〜4週間、特に2〜3週間にわたって行うことが好ましい。一方、投与中止期間後に(すなわち、投与中止期間を挟んでその後に引き続いて)行う再度の乳タンパク質含有物質の経口投与(2回目以降の乳タンパク質経口投与)は、限定するものではないが、乳タンパク質特異的IgE抗体を産生する非ヒト動物をより確実に得るためには、少なくとも2週間、とりわけ2〜4週間にわたって行うことが好ましい。本発明でとりわけ好ましい間欠経口投与のスケジュールの一例は、乳タンパク質含有物質を、2週間にわたり経口投与した後に、2週間以上の投与中止期間を挟んで、さらに2〜4週間にわたり経口投与するものである。また、2週間にわたり経口投与した後で、2週間以上(例えば2〜14週間、より好ましくは2〜8週間)の投与中止期間を挟んでさらに2週間にわたり経口投与することを2回以上繰り返して行うスケジュールも、本発明の好ましい間欠経口投与のスケジュールの1つに含まれる。本発明の方法における乳タンパク質含有物質の1日の投与量は、特に限定されないが、一般的には、非ヒト哺乳動物の体重1g当たり、乳タンパク質の量が2μg〜0.3g、好ましくは20μg〜0.2gとなる量であればよい。
本発明では、上記のような乳タンパク質含有物質の間欠経口投与法により、非ヒト哺乳動物において乳タンパク質特異的IgE抗体の産生を誘導することができる。
ここで、非ヒト哺乳動物において乳タンパク質特異的IgE抗体の産生が誘導されたか否かは、任意のアレルギー反応評価法、例えばPCA法等を利用して、確認することができる。
PCA法は、血清中のIgE抗体産生能を評価する方法として一般的に用いられる方法であり、PCA反応(受身皮膚アナフィラキシー反応、passive cutaneous anaphylaxis reaction)に基づく方法である。PCA法では、目的の抗体を含んだ血清(本発明の方法では、間欠経口投与を施した非ヒト哺乳動物から得た血清)を正常なラットの皮内に注射して皮膚を受身に感作し、24時間後に抗原(本発明の方法では、乳タンパク質含有物質又はそれに含まれる乳タンパク質)とエバンスブルーなどの色素液を静脈内に注射すると、注射した抗原が皮内の抗体と反応して抗原−抗体反応が起こり、さらに血管の透過性が亢進され、抗体を注射した部位に青い斑点(スポット)が現れる。この斑点の色の濃さと大きさに基づいて、血清中のIgE抗体産生量を評価することができる。この方法では、血清の皮内投与後2時間もするとIgGなどの他の抗体は皮膚から離れてしまうので、IgE抗体の反応のみを、確実かつ高い信頼性をもって検出できる。このPCA法に基づくIgE抗体価は、血清の最大希釈倍率によって決定できる。具体的には、血清を何点か希釈してPCA法を行ったときの陽性となる最大希釈倍率とすることができる。
上記のような方法により、間欠経口投与を施した非ヒト哺乳動物の血清において、投与した乳タンパク質に特異的なIgE抗体の産生が確認された場合には、乳タンパク質特異的IgE抗体の産生が誘導されたと判断することができる。なお算出されたIgE抗体価が高いほど、その非ヒト哺乳動物における乳タンパク質特異的IgE抗体産生能は高い。
さらに本発明では、上記方法によって乳タンパク質特異的IgE抗体の産生が誘導された非ヒト哺乳動物を作製することにより、乳アレルギーモデル動物を作製することができる。牛乳アレルギー患者の血清中に、β-Lgやカゼインに特異的なIgE抗体産生が誘導されることが知られているように、乳タンパク質特異的IgE抗体の産生が誘導された非ヒト哺乳動物は、乳アレルギーモデル動物として好適である。特に牛乳アレルギーモデル動物としては、β-ラクトグロブリン(β-Lg)に特異的なIgE抗体産生が誘導されることが望ましく、さらにβ-Lgおよびカゼインに特異的なIgE抗体産生が誘導されることがより望ましい。
本発明の方法では、上記の通り乳タンパク質特異的IgE抗体産生が誘導された非ヒト哺乳動物である乳アレルギーモデル動物において、間欠経口投与後にさらに乳タンパク質抗原を用いた刺激(抗原負荷)を加えて、その結果、アナフィラキシー反応を誘導することもできる。具体的には、この乳タンパク質抗原による刺激は、上記乳タンパク質含有物質を当該動物に投与することにより与えてもよい。アナフィラキシー反応を誘導するための乳タンパク質含有物質の投与は、任意の投与経路で行えばよく、限定するものではないが、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、若しくは筋肉内投与等の任意の非経口投与、又は経口投与によって行うことができる。アナフィラキシー反応は、例えば、乳タンパク質特異的IgE抗体の体液濃度が大幅に上昇している場合に乳タンパク質抗原刺激が与えられると誘導されやすいが、これに限定されるものではない。ここでアナフィラキシー反応とは、I型アレルギー反応であり、特に限定されないが、蕁麻疹、喘息様症状、呼吸異常、けいれん、連続的なひっかき行動、心拍数上昇、血圧低下、失神、悪寒、かゆみ、皮膚の紅潮、耳の中の鼓動、せき、くしゃみ、血管性浮腫、気管(上気道)の収縮、気管(上気道)の腫脹、呼吸困難、虚脱、呼吸停止、意識消失などのアナフィラキシー症状の他、直腸温度の低下、ヒスタミン濃度の上昇などのアナフィラキシー反応を示す生体指標の変化も含まれるものとする。
アナフィラキシー反応を評価する具体的な方法の例としては、直腸温度の測定、体液中のヒスタミン含量の測定を挙げることができる。また、ひっかき行動やけいれん等の行動をスコア化して評価することもできる。あるいは、ピークフローメーター等で呼吸異常を観察して評価に用いてもよい。アナフィラキシー反応の評価は、どの時点で行ってもよいが、抗原負荷後1〜60分後、好ましくは5〜50分後、より好ましくは10〜40分後に行うのが好ましい。
本発明の方法によって作製される乳アレルギーモデル動物では、アジュバントを共投与することなく乳タンパク質または乳タンパク質を含有する食品の経口投与によって乳アレルギーを発現させることができる点で、患者の乳アレルギーの発症機序及び病態を良く反映している。本発明の方法によって作製される乳アレルギーモデル動物に乳アレルギーを発現させることができる乳タンパク質としては、αs-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン等の様々なカゼインタンパク質、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン、血清アルブミン等の乳清タンパク質を挙げることができる。乳タンパク質として、これらのカゼイン及び乳清タンパク質並びに乳に含まれる他のタンパク質のうちの任意の1種又は複数種を用いてもよく、それらを1種ずつ単独で又は混合物として用いてもよい。乳タンパク質を含有する食品としては、生乳、牛乳、UHT牛乳(超高温瞬間殺菌牛乳)、低温殺菌牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、乳飲料、カゼイン、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、濃縮ホエー、アイスクリーム類、濃縮乳、れん乳、粉乳、調製粉乳、加糖粉乳、全粉乳、部分脱脂粉乳、脱脂粉乳、ホエー、ホエータンパク濃縮物(WPC)、ホエータンパク精製物(WPI)、発酵乳、乳酸菌飲料、羊乳、山羊乳等が包含されるが、これらの例に限定されない。
本発明の方法によって作製される上記のような乳アレルギーモデル動物も本発明に含まれる。一実施形態として、本発明の方法により作製される、乳タンパク質特異的IgE抗体の産生が誘導され、かつアナフィラキシー反応が誘導された乳アレルギーモデル動物も本発明の範囲に含まれるものとする。
また本発明では、上記方法によって乳アレルギーモデル動物を作製し、該動物から体液、分泌物又は排泄物を採取することにより、乳タンパク質特異的IgE抗体を含有する生体サンプル(体液、分泌物又は排泄物)を容易に調製することができる。ここで、体液としては、血液、血清、血漿、リンパ液、腹水等が挙げられる。分泌物としては、汗、唾液等が挙げられる。排泄物としては、糞便、尿等が挙げられる。この本発明の方法を用いれば、乳タンパク質特異的IgE抗体を含む生体サンプルを容易に得ることができる。乳タンパク質特異的IgE抗体を含む生体サンプルを得ることができれば、その生体サンプルからは乳タンパク質特異的IgE抗体を容易に大量に取得することができる。本発明は、この方法によって得られる乳タンパク質特異的IgE抗体を含有する生体サンプル、特に血液、血清、血漿又はリンパ液等の体液のサンプルにも関する。
本発明は、上記方法により作製した乳アレルギーモデル動物に被験物質を投与し、さらに該動物におけるアレルギー反応を評価することによって、アレルギー反応を促進又は抑制する物質をスクリーニングする方法にも関する。
より具体的には、本発明は、非ヒト哺乳動物に予め被験物質を投与してからその動物を用いて上記のように乳アレルギーモデル動物の作製を行い、又は、非ヒト哺乳動物に被験物質を投与するのと並行してその動物を用いて上記のように乳アレルギーモデル動物の作製を行い、次いでその動物におけるアレルギー反応(例えば、血中のIgE抗体含量)を評価して、アレルギー反応を促進又は抑制する物質をスクリーニングする方法にも関する。この方法では、作製した乳アレルギーモデル動物に、乳タンパク質抗原による刺激(負荷)をさらに与えて、その結果として生じ得るアナフィラキシー反応の有無及び程度等を評価することも好ましい。この方法において得られたアレルギー反応の評価及びアナフィラキシー反応の評価を、被験物質を投与せずに作製された乳アレルギーモデル動物で得られた同様の評価と比較することにより、その被験物質がアレルギー反応及びアナフィラキシー反応を促進するか又は抑制するかを判断することができる。この方法に従って得られた、アレルギー反応及び/又はアナフィラキシー反応を抑制する物質は、乳アレルギー反応及び/又はそれに伴うアナフィラキシー反応の誘導を予防可能である。従って、このようなスクリーニング方法は、乳アレルギー予防剤のスクリーニング方法として使用することができる。
あるいは、本発明は、上記のようにして乳アレルギーモデル動物を作製した後に、被験物質を投与し、次いでその動物におけるアレルギー反応(例えば、血中のIgE抗体含量)を評価して、アレルギー反応を抑制する物質をスクリーニングする方法にも関する。この方法では、作製した乳アレルギーモデル動物に、乳タンパク質抗原による刺激(負荷)をさらに与えて、その結果として生じ得るアナフィラキシー反応の有無及び程度等を評価することも好ましい。この方法において得られたアレルギー反応の評価及びアナフィラキシー反応の評価を、被験物質を投与せずに作製された乳アレルギーモデル動物で得られた同様の評価と比較することにより、その被験物質がアレルギー反応及びアナフィラキシー反応を促進するか又は抑制するかを判断することができる。この方法に従って得られた、アレルギー反応及び/又はアナフィラキシー反応を抑制する物質は、乳アレルギー反応及び/又はそれに伴うアナフィラキシー反応を低減させることが可能である。従って、このようなスクリーニング方法は、乳アレルギー治療剤のスクリーニング方法として使用することができる。
これらのスクリーニング方法は、さらに、乳アレルギー予防用食品及び/又は治療用食品のスクリーニング方法として用いることができる。すなわち、食品として摂取可能な被験物質を上記のようなスクリーニング方法に供することにより、乳アレルギー予防/治療効果を有する食品を同定することができる。
このようなスクリーニング方法の一実施形態として、後述の実施例5において、乳アレルギーモデル動物を作製する以前にWPIを投与することにより、乳アレルギーモデル動物を作製した際に該動物における抗原特異的IgE抗体産生が低下したことが示された例を示している。
上記スクリーニング方法に関して、被験物質とは、アレルギー反応を促進又は抑制する可能性のある物質又はその物質を含む組成物を意味する。
被験物質を投与する方法としては常法を用いることができるが、例えば飼料や飲水に混和して摂取させたり、強制的に経口投与したり、あるいは注射器をもちいて体内に注入したりすることができる。
アレルギー反応の評価は、常法によって行えばよい。より具体的には、アレルギー反応の評価は、アレルギー反応の指標として用いられている様々なパラメーター、例えば血清中の抗体レベル、インターロイキンレベル、好酸球増加量などの値を測定し、被験物質を投与した動物におけるその測定値が、被験物質を投与しなかった動物(非投与動物)における測定値と比較して変化した程度を見積もることによって、行うことができる。被験物質を投与した動物における測定値が非投与動物の測定値と比較して改善された場合には、その被験物質によってアレルギー反応は抑制されたと判断でき、一方、被験物質を投与した動物における測定値が非投与動物の測定値と比較して増悪した場合には、その被験物質によってアレルギー反応が促進されたと判断できる。
アレルギー反応の評価は、例えば前述のPCA法等を用いて算出されるIgE抗体価の増減に基づいて行ってもよい。例えば、被験物質を投与した動物におけるIgE抗体価が非投与動物と比較して低下する場合には、その被験物質によってアレルギー反応は抑制されたと判断でき、また被験物質を投与した動物におけるIgE抗体価が非投与動物と比較して増加する場合には、その被験物質によってアレルギー反応は促進されたと判断できる。
乳アレルギーモデル動物が例えば耳介肥厚などの身体症状を呈する場合には、被験物質の投与による症状の悪化または軽減の程度を、非投与動物と比較することにより、アレルギー反応を評価してもよい。また、引っ掻き行動の増加・減少などアレルギー症状に対する身体反応を非投与動物と比較することによりアレルギー反応を評価することもできる。
以上の工程によってアレルギー反応を抑制することが認められた被験物質は、アレルギー反応を抑制する物質として同定されうる。このような物質は、抗アレルギー剤の有力な候補となりうる。一方、アレルギー反応を促進することが認められた被験物質は、アレルギー反応を促進する物質として同定されうる。このような物質は、アレルギー反応を人工的に引き起こす試薬として使用しうる。またこのような物質を同定できれば、例えば食品からその同定物質を排除することにより、食品のアレルゲン性を低下させることができる。このことを利用すれば、低アレルゲン食品を効率良く開発することが可能になるであろう。
アナフィラキシー反応の評価は、上記と同様にして行うことができる。アナフィラキシーは動物の生体機能に対して時に激烈なダメージを与える可能性があるため、アナフィラキシー反応を抑制できることはアレルギー治療剤として非常に有利な効果である。
このように本発明では、本発明の牛乳アレルギーモデル動物を用いることにより、IgE抗体産生を介した牛乳アレルギーの作用機序の解明が可能となるばかりでなく、牛乳アレルギーの予防又は治療に最も適した素材、食品及び/又は薬剤の評価及びスクリーニングも可能となる。さらに、本発明のスクリーニング方法を用いて、乳タンパク質抗原とともに被験物質を投与し、その結果、乳アレルギー反応が抑制されるか否かを判定することにより、例えばWPIのような、乳アレルギーに対する経口免疫寛容を誘導する物質をスクリーニングすることもできる。
さらに本発明では、上記の乳タンパク質特異的IgE抗体の産生を誘導する方法における間欠経口投与の前に、WPI(例えばWPI水溶液)を投与することにより、非ヒト哺乳動物において乳タンパク質特異的IgE抗体産生を抑制することができ、その結果、非ヒト哺乳動物に乳タンパク質に対する経口免疫寛容を誘導することができる。この方法により作製されるモデル動物は、間欠経口投与における経口免疫寛容誘導モデルとして使用できる。この経口免疫寛容誘導モデルを使用すれば、経口免疫寛容誘導能を評価することができる。
[実施例1]β-Lgの間欠経口投与による抗原特異的IgE抗体産生の誘導
自己免疫疾患モデルとして用いられている雌性近交系マウスDBA/1系統(摂取開始時:5週齢、1群5匹)に精製β-Lg(β-ラクトグロブリン;DAVISCO社)を20%含む粉末食(β-Lg食)を間欠的に摂取させた。ここで用いたβ-Lg食の組成は、以下の表1の通りである。
この実験では、まずマウスに、β-Lg食を2週間継続して経口摂取させ、その後乳タンパク質を含まない固形食(MF飼料;オリエンタル酵母社製)を8週間摂取させた後、更にβ-Lg食を2週間経口摂取させた。
その後マウスから血液を採取し、血清を分離した後、次のようにラットを用いたPCA法に供した。F344ラットにその血清を2倍希釈したものを皮内投与し、24時間後に精製β-Lgを混合したエバンスブルー溶液(抗原液)を尾静脈から投与し、30分後、皮下に認められるエバンスブルー溶液のスポットの強度を観察した。スポットが現れた場合に陽性とみなし、該当するマウス個体でβ-Lg特異的IgE抗体産生が誘導されたと判断した。
その結果、DBA/1マウスの5匹中3匹(60%)にβ-Lgに特異的なIgE抗体産生が誘導された。
一方、対照実験として、雌性近交系DBA/1マウス(摂取開始時:5週齢、1群5匹)に上記と同じβ-Lg食を6週間連続摂取させた。その後上記と同様にしてPCA法により特異的IgE抗体産生能を評価したが、β-Lgに特異的なIgE抗体産生は誘導されなかった。
[実施例2]牛乳の間欠経口投与によるβ-Lg特異的IgE抗体産生の誘導
雌性DBA/1マウス(実験開始時:5週齢、n=10)に乳タンパク質を含まない固形食(MF飼料;オリエンタル酵母社製)を12週間摂取させた。その間、同マウスに2週間にわたり飲水の代わりにUHT牛乳を経口的に自由摂取させた後、続く8週間は牛乳投与を中止して水を自由摂取させ、次いで再び牛乳を2週間経口的に自由摂取させた(延べ4週間の間欠摂取)。同様に、雌性DBA/1マウス(実験開始時:5週齢、n=11)に、4週間にわたり飲水の代わりに牛乳を経口的に自由摂取させた後、続く8週間は牛乳を中止して通常の水を自由摂取させ、次いで再び牛乳を4週間経口的に自由摂取させた(延べ8週間の間欠摂取)。
続いて、そのマウスから血液を採取し、血清を分離した後、ラットを用いたPCA法により、各マウス個体におけるβ-Lg特異的IgE抗体産生能を評価した。PCA法は、マウス血清の8倍希釈液をラットに皮内投与すること以外は、実施例1と同様の手順で行った。
その結果、延べ4週間の間欠摂取を施した群で、10匹中9匹(90%)のDBA/1マウスにβ-Lgに特異的なIgE抗体産生が誘導された。また延べ8週間の間欠摂取を施した群では、11匹中9匹(82%)のDBA/1マウスにβ-Lgに特異的なIgE抗体産生が誘導された。
一方、対照実験として、雌性DBA/1マウス(実験開始時:5週齢)に、乳タンパク質を含まない固形食(MF飼料;オリエンタル酵母社製)を与えながら、飲水の代わりに牛乳を2週間(n=5)、4週間(n=5)、8週間(n=5)、12週間(n=10)又は16週間(n=5)連続的に自由摂取させた。その後上記と同様にPCA法を行って特異的IgE抗体産生能を評価したが、β-Lgに特異的なIgE抗体産生は全く誘導されなかった。
図1に、この試験結果をグラフにまとめた。
[実施例3]牛乳の間欠経口投与によるカゼイン特異的IgE抗体産生の誘導
雌性DBA/1マウス(実験開始時:5週齢、n=12)に乳タンパク質を含まない固形食(MF飼料;オリエンタル酵母社製)を12週間摂取させた。その間、同マウスに2週間にわたり飲水の代わりにUHT牛乳を経口的に自由摂取させた後、続く8週間は牛乳投与を中止して水を自由摂取させ、次いで再び牛乳を2週間経口的に自由摂取させた(延べ4週間の間欠摂取)。同様に、雌性DBA/1マウス(実験開始時:5週齢、n=10)に、4週間にわたり飲水の代わりに牛乳を経口的に自由摂取させた後、続く8週間は牛乳を中止して通常の水を自由摂取させ、次いで再び牛乳を4週間経口的に自由摂取させた(延べ8週間の間欠摂取)。
続いて、そのマウスから血液を採取し、血清を分離した後、ラットを用いたPCA法により、各マウス個体における特異的IgE抗体産生能を評価した。PCA法は、β-Lgの代わりにカゼイン(SIGMA社)を抗原液に添加し、マウス血清の8倍希釈液をラットに皮内投与すること以外は、実施例1と同様の手順で行った。
その結果、延べ4週間の間欠摂取を施した群で、12匹中9匹(75%)のDBA/1マウスにカゼインに特異的なIgE抗体産生が誘導された。また延べ8週間の間欠摂取を施した群では、10匹中2匹(20%)のDBA/1マウスにカゼインに特異的なIgE抗体産生が誘導された。
一方、対照実験として、雌性DBA/1マウス(実験開始時:5週齢)に、乳タンパク質を含まない固形食(MF飼料;オリエンタル酵母社製)を与えながら、飲水の代わりに牛乳を2週間(n=5)、4週間(n=5)、8週間(n=5)、12週間(n=10)又は16週間(n=5)連続的に自由摂取させた。その後上記と同様にPCA法を行って特異的IgE抗体産生能を評価したが、カゼインに特異的なIgE抗体産生は全く誘導されなかった。
図2に、この試験結果をグラフにまとめた。
[実施例4]牛乳中止期間の検討
雌性DBA/1マウス(5週齢)に、乳タンパク質を含まない固形食(MF飼料;オリエンタル酵母社製)を与えながら、試験開始から2週間にわたって飲水の代わりにUHT牛乳を自由摂取させた後、0〜8週間にわたり牛乳投与を中止して代わりに水を自由摂取させ、次いで再び飲水の代わりにUHT牛乳を2週間自由摂取させた。続いてマウスから血液を採取し、血清を分離した後、ラットを用いたPCA法により、特異的IgE抗体産生能を評価した。PCA法は、β-Lgとカゼインをそれぞれ抗原液において使用し、マウス血清の8倍希釈液をラットに皮内投与すること以外は、実施例1と同様の手順で行った。
その結果、β-Lgに特異的なIgE抗体は、牛乳投与中止期間が2週間の場合、15匹中7匹(47%)のマウスに産生が誘導された。牛乳投与中止期間が4週間の場合、10匹中6匹(60%)のマウスにβ-Lgに特異的なIgE抗体産生が誘導された。牛乳投与中止期間が6週間の場合、10匹中8匹(80%)のマウスにβ-Lgに特異的なIgE抗体産生が誘導された。牛乳投与中止期間が8週間の場合、12匹中10匹(83%)のマウスにβ-Lgに特異的なIgE抗体産生が誘導された。またカゼインに特異的なIgE抗体は、牛乳投与中止期間が2週間の場合、15匹中7匹(47%)のマウスに産生が誘導された。牛乳投与中止期間が4週間の場合、10匹中5匹(50%)のマウスにカゼインに特異的なIgE抗体産生が誘導された。牛乳投与中止期間が6週間の場合、10匹中6匹(60%)のマウスにカゼイン特異的なIgE抗体産生が誘導された。牛乳投与中止期間が8週間のとき、12匹中9匹(75%)のマウスにカゼイン特異的なIgE抗体産生が誘導された。また、牛乳投与中止期間が0週間(牛乳の投与を中止せず)の場合、β-Lgとカゼインのいずれに対しても特異的IgE抗体産生は誘導されなかった。
図3にβ-Lg、図4にカゼインについての試験の結果(複数の実験の平均値)をグラフで示した。図3及び4に示される通り、β-Lgとカゼインのいずれについても、牛乳投与中止期間が2週間から8週間へと延長するにつれて、抗原特異的IgE抗体産生が誘導されるマウスの割合(PCA陽性率)が増大した。
[実施例5]経口免疫寛容誘導能の評価
WPI(Whey Protein Isolate)(DAVISCO社、150 mg/マウス)水溶液を、DBA/1マウス(5週齢、雌)に胃内に経口投与した。その投与の5日後より、乳タンパク質を含まない固形食(MF飼料;オリエンタル酵母社製)を与えながら2週間にわたって飲水の代わりにUHT牛乳を自由摂取させた後、8週間にわたり牛乳投与を中止して代わりに水を自由摂取させ、次いで再び飲水の代わりにUHT牛乳を2週間自由摂取させて、IgE抗体産生を誘導した(WPI投与群、n=6)。対照実験としては、WPIの代わりに蒸留水を投与する系(水投与群、n=6)を用いた。
牛乳の間欠摂取完了時に、マウスから血液を採取し、血清中のβ-Lg特異的IgE抗体をPCA法で、β-Lg特異的IgG1抗体をELISA法により測定した。
PCA法は、マウス血清の8倍希釈液をラットに皮内投与すること以外は、実施例1と同様の手順で行い、PCAが陽性か否かを判定し、PCA陽性率を算出した。また、血清を何点か希釈してPCA法を行い、この結果を抗体価の算出に用いた。ここでβ-Lg特異的IgE抗体価は、血清を何点か希釈してPCA法を行ったときに陽性となる最大希釈倍率とした。そしてそれらの平均値をβ-Lg特異的IgEの平均抗体価として算出した。
一方、ELISA法は以下の手順で行った。まずβ-LgのPBS溶液(10μg/ml)を100μl/ウェルで96ウェルプレートMaxisorpTM(NUNC社製)に添加し、4℃にて1晩にわたりプレートをコーティングした。その後、そのプレートをPBS-0.1%Tween(以下PBS-Tweenと称する)200μl/ウェルで3回洗浄した。続いて、1%OVA(卵白アルブミン、生化学工業社製)のPBS溶液を200μl/ウェルにてプレートに添加し、室温で1時間にわたりブロッキングした。そのプレートをさらにPBS-Tween 200μl/ウェルで3回洗浄後、各ウェルにPBS-Tweenにて各種濃度に希釈した血清100μl/ウェルを添加し、室温で1時間反応させた。次いでそのプレートを、PBS-Tween 200μl/ウェルで3回洗浄後、AP(アルカリフォスファターゼ)標識ウサギ抗マウスIgG1抗体(Zymed社製)の5000倍希釈液(PBS-Tween)100μl/ウェルを添加し、室温で1時間反応させた。そしてそのプレートをPBS-Tween 200μl/ウェルで3回洗浄後、基質溶液(1mg/ml;用事調製)100μl/ウェルを添加し、室温で15〜20分反応させた。ここで用いた基質溶液は、ニトロフェニルリン酸ナトリウム(東京化成工業社製)のジエタノールアミンバッファー(ジエタノールアミン97ml、MgCl2・6H2O 100mg/1L、pH9.8(HClにより調整))溶液である。基質溶液との反応後、各ウェル中の反応液について、主波長405nm、副波長495nmにおける吸光度を測定した。ここで、β-Lg特異的IgG1抗体価は、血清を何点か希釈してELISA法を行ったときの吸光値が0.5となる希釈倍率とした。そしてそれらの平均値をβ-Lg特異的IgG1の平均抗体価として算出した。
その結果、β-Lg特異的IgEの平均抗体価は、WPI投与群で2.1、水投与群では14.1であった。またβ-Lg特異的IgG1の平均抗体価は、WPI投与群で24.0、水投与群では1258.9であった。WPI投与群は、水投与群に比べてβ-Lg特異的IgE抗体価(図5A)及びβ-Lg特異的IgG1抗体価が低値を示した(図5B)。
このことから、WPI水溶液を投与することにより、経口投与された乳タンパク質に対するIgE抗体産生を抑制できることが示された。すなわちこの系を、経口免疫寛容誘導モデルとして使用できることが明らかになった。この経口免疫寛容誘導モデルを使用すれば、例えば、各種物質の経口免疫寛容誘導能を評価することができる。
[実施例6]調製粉乳の間欠経口投与による乳タンパク特異的IgE抗体産生の誘導
DBA/1マウス(雌、5週齢、各群n=20)に、乳タンパク質を含まない固形食(MF飼料;オリエンタル酵母社製)を与えながら、牛乳(牛乳投与群)又は調乳濃度に調整した調製粉乳(調製粉乳投与群)を2週間にわたり飲水の代わりに自由摂取させた後、その牛乳又は調製粉乳の投与を中止して8週間にわたり水を自由摂取させ、次いで再び2週間にわたり水摂取前と同じ牛乳又は調製粉乳を飲水の代わりに自由摂取させた(延べ4週間の間欠摂取)。調乳濃度とは、一般に、母乳代替食品(人工乳)としての乳児の飲用に適した調製粉乳濃度をいう。本実施例では、13.5gの調製粉乳を100mlの水に溶解することにより調乳濃度とし、それを上記試験に供した。
また、牛乳又は調乳濃度に調整した調製粉乳を摂取させず、試験期間中、飲水として水のみを自由摂取させた群を設け、これを陰性対照群とした(n=5)。
続いて、上記各群のマウスから血液を採取し、血清を分離した後、ラットを用いたPCA法により、各マウス個体におけるβ-Lg特異的IgE抗体産生能を測定した。PCA法は、マウス血清の2倍希釈液をラットに皮内投与すること以外は、実施例1と同様の手順で行った。また、実施例5と同様の方法を用いて、血清中のβ-Lg特異的IgEの抗体価を求めた。これらの結果をβ-Lg特異的IgE抗体産生誘導能の評価に用いた。β-Lg特異的IgE抗体産生誘導能を比較した結果を表2に示す。
本実施例で作製したマウスモデルにおいて、牛乳投与群と調製粉乳投与群は、いずれも比較的高いPCA陽性率を示した。しかし調製粉乳投与群は、アレルゲン性の指標となるβ-Lg特異的IgE抗体価において、牛乳投与群に比べて統計的に有意に低い値を示した。
そこで本実施例で用いた牛乳及び調製粉乳について、β-Lgの含量を調べた。牛乳又は上記の通り調乳濃度に調整した調製粉乳又は各種濃度のβ-Lg(Sigma社製)水溶液 20μl、2倍濃縮の試料緩衝液(0.1Mトリス緩衝液、4%ドデシル硫酸ナトリウム、20%グリセロール、2%2-メルカプトエタノール、0.002%ブロモフェノールブルー(BPB))50μl、蒸留水30μlを混合し、100℃にて5分間静置した。その混合液5μl(β-Lg水溶液を用いた混合液は10μl)を15%ポリアクリルアミドゲル(BioRad社)にアプライし、200Vにて40分電気泳動した。その後、ゲルをクーマシーブリリアントブルー(CBB)で染色し、観察した。その結果を図6に示す。図6中、各レーンは以下の通りである。レーン1:タンパク質分子量マーカー(200、115、96、51、37、29、20、7 kD)、レーン2:β-Lg 5μg、レーン3:β-Lg 1μg、レーン4:β-Lg 0.4μg、レーン5及び6:サンプルなし、レーン7:牛乳1μl、レーン8:牛乳1μl、レーン9:サンプルなし、レーン10:調製粉乳(調乳濃度のもの)1μl。
図6に示される通り、本実施例で投与した調製粉乳は、本実施例で投与した牛乳と比較してβ-Lg含有量が大幅に少なかった。この結果から、表2に示される通り、β-Lg投与量がより少ない調製粉乳を投与することにより、PCA陽性率及び平均抗体価が大幅に低下することが示された。よって、本間欠摂取モデルを用いることで、乳製品のアレルゲン性の低減度合を評価できることが示された。
[実施例7]牛乳摂取期間の検討
本実施例では、上記実施例と同様に間欠牛乳投与を行い、その際、1回目の牛乳摂取期間及び2回目の牛乳摂取期間を1週間、2週間、3週間、4週間と様々に変更した実験群を設定してマウスモデルにおけるβ-Lg特異的IgE抗体産生能の差異を調べた。
具体的には、DBA/1マウス(雌、5週齢、各群n=10)に牛乳を一定期間(1週間、2週間、3週間、又は4週間)にわたり飲水の代わりに自由摂取させ(1回目の牛乳摂取期間)、その後、牛乳を与えずに8週間にわたり水を自由摂取させ(牛乳中止期間)、次いで再び一定期間(1週間、2週間、3週間、4週間)にわたり飲水の代わりに牛乳を自由摂取させた(2回目の牛乳摂取期間)。
2回目の牛乳摂取期間を満了したマウスから血液を採取し、血清を分離した後、ラットを用いたPCA法により、各マウス個体における特異的IgE抗体産生能を評価した。PCA法は、実施例1と同様の手順で行った。
その結果得られたPCA陽性率をβ-Lg特異的IgE抗体産生能の指標として、異なる牛乳摂取期間を用いた実験群間で比較した。1回目の牛乳摂取期間を1週間、2週間、3週間、又は4週間とした実験群において示されたPCA陽性率を、それぞれ図7〜図10に示す。
図7〜10に示される通り、1回目の牛乳摂取期間を1週間とした場合でもPCA陽性率は50%を上回ったが、1回目の牛乳摂取期間を2〜4週間とした場合には75〜100%というさらに高いPCA陽性率が示された。
[実施例8]アナフィラキシー反応の発現
DBA/1マウス(雌、5週齢)に、2週間にわたり飲水の代わりに牛乳を自由摂取させた後、牛乳の投与を中止し8週間にわたり水を自由摂取させ、次いで再び2週間にわたり飲水の代わりに牛乳を自由摂取させた(牛乳間欠摂取群;n=10)。一方、対照として、同一の試験期間(12週間)にわたり、牛乳を摂取させることなく水を自由摂取させ続けた群を設け、これをナイーブ群(n=5)とした。試験期間中は、いずれの群にも、乳タンパク質を含まない固形食(MF飼料;オリエンタル酵母社製)を自由摂取させた。実験終了日に、次のようにしてアナフィラキシー反応誘導実験を行った。
まず、アナフィラキシー反応誘導前に、各マウス個体の直腸温度の測定を行った。直腸温度測定後、各マウスにβ-Lg水溶液10mg/mlを0.2ml腹腔内投与し、アナフィラキシー反応の誘導を開始した。β-Lgの腹腔内投与後、10分置きに40分まで直腸温度を測定した。この測定値をアナフィラキシー反応の評価に用いた。
アナフィラキシー反応誘導後の直腸温度の変化、すなわちβ-Lg腹腔内投与前の直腸温度に対するβ-Lg腹腔内投与30分後の直腸温度の差を、図11に示す。牛乳間欠摂取群では、β-Lg投与前と比較して直腸温度が明らかに低下したが、ナイーブ群ではむしろわずかに上昇するという結果が得られた。この牛乳間欠摂取群における直腸温度は、ナイーブ群に比べて有意に低い値であった。この直腸温度の大幅な低下は、典型的なアナフィラキシー反応である。なお、アナフィラキシー反応誘導前の直腸温度については、各群間に差異はみられなかった。このことから、上記のような手順で牛乳間欠経口摂取法により作製した乳アレルギーモデルマウスにさらに乳タンパク質抗原(ここではβ-Lg水溶液)を腹腔内に投与すると、アナフィラキシー反応が誘導されることが示された。
[実施例9]牛乳摂取期間及び牛乳中止期間の変更とアナフィラキシー反応の発現
DBA/1マウス(雌、5週齢)に、2週間にわたり飲水の代わりに牛乳を自由摂取させた(1回目の牛乳摂取期間)後、牛乳の投与を中止し6週間にわたり水を自由摂取させ(1回目の牛乳中止期間)、次いで再度2週間にわたり飲水の代わりに牛乳を自由摂取させ(2回目の牛乳摂取期間)、続いてまた牛乳の投与を中止し6週間水を自由摂取させ(2回目の牛乳中止期間)、再度2週間にわたり飲水の代わりに牛乳を自由摂取させた(3回目の牛乳摂取期間)(3回牛乳摂取群;n=10)。一方、2週間にわたり飲水の代わりに牛乳を自由摂取させた(1回目の牛乳摂取期間)後、牛乳の投与を中止し14週間にわたり水を自由摂取させ(牛乳中止期間)、次いで再び2週間にわたり牛乳を自由摂取(2回目の牛乳摂取期間)させた群も設けた(長期牛乳中止群;n=10)。また、対照として、同一の試験期間(18週間)にわたり、牛乳を摂取させることなく水を自由摂取させ続けた群を設け、これをナイーブ群(n=3)とした。試験期間中は、いずれの群にも、乳タンパク質を含まない固形食(MF飼料;オリエンタル酵母社製)を自由摂取させた。実験終了日に、次のようにしてアナフィラキシー反応の誘導実験を行った。
まず、アナフィラキシー反応誘導前に、各マウス個体について部分採血及び直腸温度の測定を行った。測定後、β-Lg水溶液10mg/mlを各マウスに0.2ml腹腔内投与し、アナフィラキシー反応の誘導を開始した。β-Lgの腹腔内投与後、10分置きに30分まで直腸温度を測定した。また、腹腔内投与40分後に部分採血を行い、血清中のヒスタミン濃度を測定した。これらの測定値をアナフィラキシー反応の評価に用いた。
アナフィラキシー反応誘導30分後の直腸温度の変化およびアナフィラキシー反応誘導40分後の血清ヒスタミン濃度の測定結果を図12および図13に示す。
3回牛乳摂取群及び長期牛乳中止群における直腸温度は、ナイーブ群に比べて統計的に有意に低い値であった。また3回牛乳摂取群及び長期牛乳中止群では、ナイーブ群に比べて、血中のヒスタミン濃度が統計的に有意な高値を示した。なお、アナフィラキシー反応誘導前の直腸温度については、各群間に差異はみられなかった。また、アナフィラキシー反応誘導前のヒスタミン含量は各群とも検出限界以下であった。このことから、本発明において乳間欠経口摂取法により乳アレルギーモデル動物を作製する際に、牛乳中止期間を長く設定しても、あるいは間欠的な牛乳摂取期間を3回設けても、β-Lg水溶液を腹腔内に投与することによりアナフィラキシー反応が誘導されることが示された。
本発明の方法は、牛乳アレルギーの発症をうまく再現している牛乳アレルギーのモデル動物を作製するために用いることができる。この方法で作製される牛乳アレルギーのモデル動物は、牛乳アレルギー性の試験や治療薬開発などに有用である。また本発明の乳タンパク質特異的IgE抗体を含有する生体サンプルの調製方法は、乳タンパク質特異的IgE抗体を生産するために用いることができる。本発明のスクリーニング方法は、牛乳アレルギーをはじめとするアレルギー反応を促進又は抑制する物質を探索し、その成果に基づいてアレルギー治療薬や低アレルギー食品を開発する上で、大変有利に用いることができる。
図1は、牛乳を間欠経口投与したマウスにおいて血清中でβ-Lg特異的IgE抗体が産生されたマウスの割合をPCA法で調べた結果(PCA陽性率)を示すグラフである。
図2は、牛乳を間欠経口投与したマウスにおいて血清中でカゼイン特異的IgE抗体が産生されたマウスの割合をPCA法で調べた結果(PCA陽性率)を示すグラフである。
図3は、間欠経口投与法によりβ-Lg特異的IgE抗体産生が誘導されるマウスの割合(PCA陽性率)が、牛乳投与中止期間に依存して増大することを示すグラフである。
図4は、間欠経口投与法によりカゼイン特異的IgE抗体産生が誘導されるマウスの割合(PCA陽性率)が、牛乳投与中止期間に依存して増大することを示すグラフである。
図5は、間欠経口投与法において牛乳投与開始に先立ってWPI水溶液を投与した場合に得られるβ-Lg特異的IgE抗体価及びβ-Lg特異的IgG1抗体価を示すグラフである。
図6は、実施例6における間欠経口投与法に用いた牛乳及び調製粉乳に含まれるβ-Lg含量を示すタンパク質電気泳動写真である。
図7は、1週間の牛乳摂取期間に続く8週間の牛乳中止期間の後に各期間(1週間、2週間、3週間、4週間)の牛乳摂取期間を設けて牛乳を経口投与したマウスにおいて、血清中でβ-Lg特異的IgE抗体が産生されたマウスの割合をPCA法で調べた結果(血清希釈倍率2倍におけるPCA陽性率)を示すグラフである。[1]-8-[4]、[1]-8-[3]、[1]-8-[2]、[1]-8-[1]は、それぞれ、2回目の牛乳摂取期間を4週間、3週間、2週間、1週間として間欠経口投与したマウスを示す。
図8は、2週間の牛乳摂取期間に続く8週間の牛乳中止期間の後に各期間(1週間、2週間、3週間、4週間)の牛乳摂取期間を設けて牛乳を経口投与したマウスにおいて、血清中でβ-Lg特異的IgE抗体が産生されたマウスの割合をPCA法で調べた結果(血清希釈倍率2倍におけるPCA陽性率)を示すグラフである。[2]-8-[4]、[2]-8-[3]、[2]-8-[2]、[2]-8-[1]は、それぞれ、2回目の牛乳摂取期間を4週間、3週間、2週間、1週間として間欠経口投与したマウスを示す。
図9は、3週間の牛乳摂取期間に続く8週間の牛乳中止期間の後に各期間(1週間、2週間、3週間、4週間)の牛乳摂取期間を設けて牛乳を経口投与したマウスにおいて、血清中でβ-Lg特異的IgE抗体が産生されたマウスの割合をPCA法で調べた結果(血清希釈倍率2倍におけるPCA陽性率)を示すグラフである。[3]-8-[4]、[3]-8-[3]、[3]-8-[2]、[3]-8-[1]は、それぞれ、2回目の牛乳摂取期間を4週間、3週間、2週間、1週間として間欠経口投与したマウスを示す。
図10は、4週間の牛乳摂取期間に続く8週間の牛乳中止期間の後に各期間(1週間、2週間、3週間、4週間)の牛乳摂取期間を設けて牛乳を経口投与したマウスにおいて、血清中でβ-Lg特異的IgE抗体が産生されたマウスの割合をPCA法で調べた結果(血清希釈倍率2倍におけるPCA陽性率)を示すグラフである。[4]-8-[4]、[4]-8-[3]、[4]-8-[2]、[4]-8-[1]は、それぞれ、2回目の牛乳摂取期間を4週間、3週間、2週間、1週間として間欠経口投与したマウスを示す。
図11は、実施例8において、マウスに牛乳間欠投与した後のβ-Lg投与によりアナフィラキシー反応が誘導されることによって起こる直腸温度の変化を示すグラフである。各群の平均値±標準偏差を示す。*:p<0.05、スチューデントt検定。
図12は、実施例9において、マウスに牛乳間欠投与した後のβ-Lg投与によりアナフィラキシー反応が誘導されることによって起こる直腸温度の変化を示すグラフである。各群の平均値±標準偏差を示す。*:p<0.05、スチューデントt検定。
図13は、実施例9において、マウスに牛乳間欠投与した後のβ-Lg投与によりアナフィラキシー反応が誘導された際の血清中ヒスタミン量を示すグラフである。各群の平均値±標準偏差を示す。*:p<0.05、スチューデントt検定。