JP5058496B2 - 新規ラクタム開環酵素およびその用途 - Google Patents
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Description
Waksman, S. A. (1943) J. Bacteriol. 46, 299-310 Partridge, S. R., & Hall, R. M. (2005) J. Clin. Microbiol. 43, 4298-4300 Singh, R., Schroeder, C. M., Meng, J., White, D. G., McDermott, P. F., Wagner, D. D., Yang, H., Simjee, S., Debroy, C., Walker, R. D., & Zhao, S. (2005) J. Antimicrob. Chemother. 56, 216-219 Peirano, G., Agerso, Y., Aarestrup, F. M., & dos Prazeres Rodrigues, D. (2005) J. Antimicrob. Chemother. 55, 301-305 Vakulenko, S. B., & Mobashery, S. (2003) Clin. Microbiol. Rev. 16, 430-450 Horinouchi, S., Furuya, K., Nishiyama, M., Suzuki, H., & Beppu, T. (1987) J. Bacteriol. 169, 1929-1937 Fernandez-Moreno, M. A., Vallin, C., & Malpartida, F. (1997) J. Bacteriol. 179, 6929-6936 Krugel, H., Fiedler, G., Haupt, I., Sarfert, E., & Simon, H. (1988) Gene. 62, 209-217 Grammel, N., Pankevych, K., Demydchuk, J., Lambrecht, K., Saluz, H. P., & Krugel, H. (2002) Eur. J. Biochem. 269, 347-357 Inamori, Y., Tominaga, H., Okuno, M., Sato, H., & Tsujibo, H. (1988) Chem. Pharm. Bull. (Tokyo) 36, 1577-80 Taniyama, H., Sawada, Y., & Kitagawa, T. (1971) J. Antibiot. (Tokyo) 24, 662-666
(1) 以下の(a)〜(f)のいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
(2) 以下の(g)〜(i)のいずれかである上記(1に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列または配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(i)配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
(3) 配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する上記(1)に記載のポリヌクレオチド、
(4) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する上記(1)に記載のポリヌクレオチド、
(5) DNAである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリヌクレオチド、
(6) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質、
(7) 配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列からなる上記(6)に記載のタンパク質。
(8) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる上記(7)に記載のタンパク質。
(9) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、
(10) 上記(9)に記載の組換えベクターが導入された形質転換体、
(11) 上記(10)に記載の形質転換体を培養し、上記(6)に記載のタンパク質を生成させる工程を含む、上記(6)に記載のタンパク質の製造方法、
(12) 上記(6)に記載のタンパク質を用いてラクタムを開環する工程を含む、ラクタムが開環したストレプトスリシン誘導体またはその塩の製造方法、
(13) ラクタムが開環したストレプトスリシン誘導体が、式(I)
で表される化合物である、上記(12)に記載の製造方法、
(14) 式(I)で表される化合物が、式(II)
(15) 式(II)
などを提供する。
また、本発明のポリヌクレオチドは、ストレプトスリシンに対する耐性を真核細胞(例えば、酵母)に付与することができるので、抗生物質耐性マーカー遺伝子として、組換えDNA技術に好適に使用することができる。
さらに、ST-D-acidは、原核細胞に対する抗生物質活性を保持しつつ真核細胞に対する抗生物質活性(すなわち、毒性)が低減されているので、臨床開発可能な抗菌剤として、または、そのような抗菌剤の創薬におけるリード化合物として使用することができる。
本発明者らは、ストレプトスリシン(ST)非産生菌株と考えられているStreptomyces albulus NBRC14147からの、新たな機序を示すST耐性付与遺伝子(sttH)の単離に成功した。SttHのin vivoおよびin vitroでの分析により、この酵素がstreptolidineラクタムのアミド結合の加水分解を触媒することにより、ST耐性が付与されることが証明された。興味深いことに、ST-F(β-リジン残基1個)では、SttHの作用により原核細胞と真核細胞(酵母)の両方に対する毒性が失われるが、3個のβ-リジン残基をもつST-Dの選択毒性は、streptolidine lactamの加水分解により広域性から細菌特異性に変換する。STは哺乳類に毒性を示すことから、臨床開発されたことはない。しかし、本研究において、SttHにより加水分解され、ラクタムが開環されたST-D(ST-D-acidと称することがある)は、真核細胞に対する毒性が減少しても、依然として強い抗菌活性を示すことが明らかにされ、ST-D-acidを臨床開発できる、または創薬における新たなリード化合物にできる可能性が示唆された。さらに、sttH遺伝子と組み合わせたST-Dの使用は、酵母などの真核細胞を用いる組換えDNA技術における非常に有力な手法となると考えられる。
本明細書中、配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを「sttH遺伝子」と称することがある。
まず、本発明は、(a)配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド(具体的には、DNA、以下、これらを単に「DNA」とも称する);及び(b)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを提供する。本発明で対象とするDNAは、上記のStreptomyces albulus NBRC14147由来の新規ラクタム開環酵素をコードするDNAに限定されるものではなく、このタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする他のDNAを含む。機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(c)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質が挙げられる。このようなタンパク質としては、配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16のアミノ酸配列において、例えば、1〜100個、1〜70個、1〜50個、1〜30個、1〜15個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的には小さい程好ましい。また、このようなタンパク質としては、(d)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16のアミノ酸配列と約80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、92%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.3%以上、99.5%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつラクタム開環活性を有するタンパク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。 なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、BLAST(例えば、Altzshul S. F. et al., J. Mol. Biol. 215, 403 (1990)、など参照)やFASTA(Pearson W. R., Methods in Enzymology 183, 63 (1990)、など参照)等の解析プログラムを用いて決定できる。BLASTまたはFASTAを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。ここで、ラクタム開環活性は、通常の方法またはそれに準じた方法によって、例えば、後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。本発明におけるラクタム開環活性は、より具体的にはストレプトスリシンのラクタムを開環する活性であり、さらに具体的には、ストレプトスリシンのstreptolidineラクタムを開環する活性である。ラクタムの開環は、具体的には、加水分解によって行われる。
また欠失変異体の一種であるタンパク質の部分断片をコードするポリヌクレオチドは、そのタンパク質をコードするポリヌクレオチド中の作製したい部分断片をコードする領域の5’端の塩基配列と一致する配列を有するオリゴヌクレオチドおよび3’端の塩基配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、そのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを鋳型にしたPCRを行うことにより取得できる。
本発明は、上記本発明のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質も提供する。より具体的には、上記ポリヌクレオチド(a)〜(i)のいずれかにコードされるタンパク質であり、好ましくは、配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、または配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質であり、より好ましくは、配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である。なかでも、ラクタム開環活性の点で、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質が好ましい。
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン; B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸; C群:アスパラギン、グルタミン; D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸; E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン; F群:セリン、スレオニン、ホモセリン; G群:フェニルアラニン、チロシン。
さらに、本発明は、上述した本発明のポリヌクレオチド(DNA)を含有する組換えベクター及び形質転換体を提供する。本発明の組換えベクターは、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA)を含有する。本発明の形質転換体には、本発明の組換えベクターが、本発明のポリヌクレオチド(DNA)が発現可能なように導入されている。
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明のポリヌクレオチド(DNA)を連結(挿入)することにより得ることができる。より具体的には、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入して、ベクターに連結することにより得ることができる。本発明のポリヌクレオチドを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド、バクテリオファージ、動物ウイルス等が挙げられる。プラスミドとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322, pBR325, pUC118, pUC119等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50等)などがあげられる。バクテリオファージとしては、例えば、λファージなどがあげられる。動物ウイルスとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、昆虫ウイルス(例えば、バキュロウイルスなど)などがあげられる。
本発明の組換えベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカーなどを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などがあげられる。
このようにして得られた、本発明のポリヌクレオチド(すなわち、本発明のタンパク質をコードするDNA)を含有する組換えベクターを、適当な宿主中に導入することによって、形質転換体を作成することができる。宿主としては、本発明のDNAを発現できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、シュードモナス属菌、リゾビウム属菌、酵母、動物細胞または昆虫細胞などがあげられる。エシェリヒア属菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)などがあげられる。バチルス属菌としては、例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などがあげられる。シュードモナス属菌としては、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)などがあげられる。リゾビウム属菌としては、例えば、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)などがあげられる。酵母としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などがあげられる。動物細胞としては、例えば、COS細胞、CHO細胞などがあげられる。昆虫細胞としては、例えば、Sf9、Sf21などがあげられる。
また、本発明は、前記形質転換体を培養し、本発明のタンパク質を生成させる工程を含む、本発明のタンパク質の製造方法を提供する。本発明のタンパク質は、前記形質転換体を本発明のタンパク質をコードするDNAが発現可能な条件下で培養し、本発明のタンパク質を生成・蓄積させ、分離・精製することによって製造することができる。
本発明の形質転換体の培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。該培養によって、形質転換体によって本発明のタンパク質が生成され、形質転換体内または培養液中などに本発明のタンパク質が蓄積される。
上記培養物から、本発明のタンパク質を分離・精製することによって、本発明のタンパク質を得ることができる。ここで、培養物とは、培養液、培養菌体もしくは培養細胞、または培養菌体もしくは培養細胞の破砕物のいずれをも意味する。本発明のタンパク質の分離・精製は、通常の方法に従って行うことができる。
さらに、本発明は、本発明のタンパク質を用いてラクタムを開環する工程を含む、ラクタムが開環したストレプトスリシン誘導体(ST-acidと称することがある。)の製造方法を提供する。本発明のタンパク質は、ストレプトスリシンのラクタムを開環する活性を有するので、本発明のタンパク質を用いることにより、ストレプトスリシンを原料として、ラクタムが開環したストレプトスリシン誘導体を製造することができる。
また、本発明は、ラクタムが開環されたストレプトスリシンDの誘導体(ST-D-acid)またはその塩などの、本発明のストレプトスリシン誘導体またはその塩を含有する抗菌剤を提供する。上記の製造方法によって製造することができるラクタムが開環されたストレプトスリシンD誘導体(ST-D-acid)またはその塩などは、真核細胞に対する抗生物質活性(すなわち、毒性)は低減されているが、原核細胞に対する抗生物質活性は保持している。したがって、ヒトを含む哺乳動物(例、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ブタ、ヒツジ、ウシなど)、鳥類、は虫類などの真核生物に対して安全に使用しうる抗菌剤として使用することができる。
まず、本発明で用いた材料、実験方法について説明する。
(1)化学薬品
ストレプトスリシン(ST)(クローンNAT、ST-FとST-Dの混合物;ST-FとST-Dの割合は約5:1)はWERNER BioAgents(Meisenweg、イェナ、ドイツ)から入手した。その他すべての試薬は分析用特級とした。
S. albulus NBRC14147のDNAをsttH遺伝子のクローニングに使用した。S. albulus NBRC14147の培地と生育条件は以前報告したとおりである(Takagi, H., Hoshino, Y., Nakamori, S., & Inouye, S. (2000) J. Biosci. Bioeng. 89, 94-96)。E. coli−StreptomycesシャトルベクターであるpWHM3(Kieser, T., Bibb, M. J., Buttner, M. J., Chater, K. F., & Hopwood, D. A. (2000) Practical Streptomyces Genetics (John Innes Foundation, Norwich, U.K))とS. lividans TK23(Kieser, T., Bibb, M. J., Buttner, M. J., Chater, K. F., & Hopwood, D. A. (2000) Practical Streptomyces Genetics (John Innes Foundation, Norwich, U.K))をsttH遺伝子のクローニングに使用した。ST産生株として、S. lavendulae NBRC12789を使用した。STに対するNATをコードするnat遺伝子は、pHN15プラスミド(WERNER BioAgents)から切り出した。pQE30プラスミド、E. coli M15(pREP4)(Qiagen)、およびE. coli XL1-Blue MRF((東洋紡、日本、大阪府)を組換えタンパク質の過剰発現に用いた。 E. coli 菌株とStreptomyces 菌株のDNA組換えは標準的な技術を用いて行った(Kieser, T., Bibb, M. J., Buttner, M. J., Chater, K. F., & Hopwood, D. A. (2000) Practical Streptomyces Genetics (John Innes Foundation, Norwich, U.K),Sambrook, J., & Russell, D. W. (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Lab. Press, Plainview, New York))。サザンブロット分析はECL直接核酸標識・検出システム(Amersham Bioscience、ニュージャージー州ピスカタウェイ)を用いて行った。S. cerevisiae におけるsttHとnat遺伝子の発現には、S. cerevisiae CKY8菌株(MAT( ura3-52 leu2-3、112)と酵母エピソーム様pAD4プラスミドを使用した。このプラスミドはアンピシリン耐性遺伝子(E. coli用)およびLEU2遺伝子(酵母用)の選択マーカーを含むE. coli−Saccharomycesシャトルベクターである。CKY8菌株の形質転換はBD Yeastmaker Yeast Transformation System 2(BD Biosciences Clontech、カリフォルニア州パロアルト)を用いて実施した。pAD4誘導体を保有するS. cerevisiae CKY8菌株は、L-leucine(SC-Leu)を含まない合成完全培地(Sherman, F. (1991) Methods Enzymol. 194, 3-21)またはYPD培地(Sherman, F. (1991) Methods Enzymol. 194, 3-21)で生育させた。STおよびST-acidの最小発育阻止濃度(MIC)試験では、微生物としてS. cerevisiae S288C(CKY8菌株と同じ遺伝子背景のもの)、S. pombe L972、E. coli W3110、B. subtilis NBRC13169、S. aureus AB、およびS. aureus FIR1169(Igarashi, H., Fujikawa, H., Usami, H., Kawabata, S., & Morita, T. (1984) Infect. Immun. 44, 175-181)を使用した。
S. lavendulae(Horinouchi, S., Furuya, K., Nishiyama, M., Suzuki, H., & Beppu, T. (1987) J. Bacteriol. 169, 1929-1937)、 S. rochei(Fernandez-Moreno, M. A., Vallin, C., & Malpartida, F. (1997) J. Bacteriol. 179, 6929-6936)、S. noursei(Krugel, H., Fiedler, G., Haupt, I., Sarfert, E., & Simon, H. (1988) Gene. 62, 209-217, Grammel, N., Pankevych, K., Demydchuk, J., Lambrecht, K., Saluz, H. P., & Krugel, H. (2002) Eur. J. Biochem. 269, 347-357)の高度に保存されたNATのアミノ酸配列に基づいて、5(-GACGC(G/C)GA(A/G)GC(G/C)ATCGA(A/G)G(G/C)(G/C)CT(G/C)GA-3( (配列番号:17)および 5(-GTTST(C/T)GTT(G/C)GT(G/C)AC(C/T)TC(G/C)AGCCA-3( (配列番号:18)の、2つのプライマーを設計した。PCR増幅は、94℃で1分間変性、60℃で1分間アニーリング、72℃で1分間伸長を30サイクルの条件で実施した。
S. albulus NBRC14147のゲノムDNAをSau3AIを用いて部分的に消化した。2.0 kb を超えるSau3AI断片を、thiostrepton 耐性遺伝子をもつpWHM3プラスミドのBamHI部位に組込んだ。このようにして作製した組込みDNAを用いてS. lividans TK23を形質転換させ、ST(100 μg/mL)およびthiostrepton(20 μg/mL)の両方に対して耐性を示す形質転換体をR5寒天培地(Kieser, T., Bibb, M. J., Buttner, M. J., Chater, K. F., & Hopwood, D. A. (2000) Practical Streptomyces Genetics (John Innes Foundation, Norwich, U.K)から単離した。13個の形質転換体から、2.9 kb挿入断片(pWHM3-st11)をもつプラスミドを保有する形質転換体の1つを、その後の実験用に選出した。この2.9 kb断片の完全なヌクレオチド配列を決定後、pWHM3を用いて、ORF2-ORF3(pWHM3-orf2-3)、ORF1(pWHM3-orf1)のそれぞれをもつ2つのプラスミドを作製した。
sttH遺伝子の開始コドンを推定するため、7つのフォワードプライマーと1つのリバースプライマーを図2に模式的に示したとおりに設計し、sttH遺伝子の増幅に使用した。BamHI部位(5(-GGGGGATCC-3()をすべてのフォワードプライマーに付加し、HindIII部位(5(-ACCAAGCTT-3()をリバースプライマーに付加した。PCRは標準的な条件で実施した。配列の確認後、7つの増幅断片のそれぞれをpQE30プラスミドの同じ部位に挿入し、pQE30-SHF1R(SH-F1とSH-Rプライマーで増幅したPCR断片をもつ)、pQE30-SHF2R(SH-F2とSH-R)、pQE30-SHF3R(SH-F3とSH-R)、pQE30-SHF4R(SH-F4とSH-R)、pQE30-SHF5R(SH-F5とSH-R)、 pQE30-SHF6R(SH-F6とSH-R)、およびpQE30-SHF7R(SH-F7とSH-R)プラスミドを作製した。各プラスミドをE. coli XL1-Blue MRF(に導入した。これらの形質転換体におけるSTのMICを、アンピシリン(100 (g/mL)、isopropyl-(-D-thiogalactoside(IPTG)0.1 mM、ST(0〜100 (g/mL)を含むLuria-Bertani(LB)寒天平板(Sambrook, J., & Russell, D. W. (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Lab. Press, Plainview, New York))上で決定した。
製造者(Qiagen)のプロトコルに従って、反応液(500 μL)は、リン酸ナトリウム緩衝液100 mM(pH 6.5)、ST-FまたはST-D 1 mg/mL、pQE30-SHF6Rを保有する E. coli M15(pREP4)から精製したrSttH 100 μg/mLを用いて作製した。反応液をrSttHとともに、またはrSttHを添加せずに、30℃で1時間反応させた後、タンパク質除去のためのクロロフォルム抽出を行った。イオン対試薬を用いた逆相HPLCにより水層を分析した。分析条件は、カラム、C18逆相カラム[COSMOSIL 5C18-AR-II(250×4.6 mm)(ナカライテスク、日本、京都府)];カラム温度、30℃;検出、210 nm;流速、1mL/分、とした。ヘプタフルオロ酪酸0.1%+アセトニトリル18%(ST-F反応用)、およびヘプタフルオロ酪酸0.1%+アセトニトリル23%(ST-D反応用)の、2つの異なる移動相を使用した。反応速度試験は、安定状態の反応速度パラメータの測定に適合させるために酵素濃度(2 μg/mL)と反応時間(5分)を減少させた以外は、上述と同様の条件で実施した。全試験は直線性の範囲内で実施した。2N HClを15 μl添加して反応を終了させたあとに、HPLCを用いて分析した。ラインウィーバー-バークプロットを用いて反応速度定数を推定した。硫酸ナトリウム100 mMを含むリン酸ナトリウム緩衝液20 mM(pH 7.0)で緩衝化したCOSMOSIL 5Diol-300(7.8 mm×600 mm)カラム(ナカライテスク)を用いたゲルろ過により、rSttHのネイティブの分子量を推定した。
逆相HPLCにより、カラムサイズ(250×10 mm、流速(4.72 mL/min)、アセトニトリル濃度(25%)以外は基本的に上述と同様の条件で、市販のSTからST-FおよびST-Dを精製した。HPLC分画から有機溶媒を除去後、水相を凍結乾燥して化合物の白色粉末を作製した。酵素的に合成したST-F-acidおよびST-D-acidを、ST-FおよびST-Dの精製について記した手順と同様の手順で精製した。
Finnigan MAT TSQ 7000(四重極型タンデム質量分析計)を用いてST化合物のESI-MS/MSスペクトルを算出した。ST-F-acidおよびST-D-acidの1H-NMRスペクトルデータは、JEOL LNM-LA500 分光計を用いて500 MHzで記録した。(i) ST-F-acid, 1H-NMR (500 MHz, D2O) δ: 1.60 (4H, m, H-17, 18), 2.51 (1H, dd, J = 8 and 17 Hz, H-15), 2.62 (1H, dd, J = 5 and 17 Hz, H-15), 2.86 (2H, br s, H-19), 2.94 (1H, dd, J = 10 and 13 Hz, H-4), 3.08 (1H, dd, J = 3 and 13 Hz, H-3), 3.49 (1H, m, H-16), 3.55 (2H, d, J = 6 Hz, H-12), 3.98 (2H, m, H-5), 3.99 (1H, t, J = 3 Hz, H-9), 4.05 (1H, dd, J = 3 and 10 Hz, H-8), 4.14 (1H, t, J = 6 Hz, H-11), 4.31 (1H, d, J = 5 Hz, H-2), 4.59 (1H, d, J = 4 Hz, H-10), 4.95 (1H, d, J = 9 Hz, H-7). (ii) ST-D-acid, 1H-NMR (500 MHz, D2O) δ: 1.43 (4H, m, H-18, 24), 1.51 (4H, m, H-17, 23), 1.60 (4H, m, H-29, 30), 2.40 (1H, dd, J = 8 and 16 Hz, H-27), 2.43 (1H, dd, J = 8 and 16 Hz, H-21), 2.48 (1H, dd, J = 8 and 16 Hz, H-15), 2.50 (1H, dd, J = 5 and 17 Hz, H-27), 2.53 (1H, dd, J = 5 and 17 Hz, H-21), 2.57 (1H, dd, J = 5 and 17 Hz, H-15), 2.85 (2H, m, H-31), 2.86 (2H, br s, H-19), 2.94 (1H, dd, J= 10 and 13 Hz, H-4), 3.05 (3H, m, Acetyl), 3.08 (1H, dd, J= 3 and 13 Hz, H-3), 3.45 (4H, m, H-19, 25), 3.48 (3H, m, H-16, 22, 28) , 3.54 (2H, d, J= 6 Hz, H-12), 3.98 (1H, t, J= 3 Hz, H-9), 3.99 (2H m, H-5), 4.06 (1H, dd, J= 3 and 10 Hz, H-8), 4.14 (1H, t, J= 6 Hz, H-11), 4.31 (1H, d, J= 5 Hz, H-2), 4.58 (1H, d, J= 4 Hz, H-10), 4.94 (1H, d, J= 9 Hz, H-7).
nat遺伝子を過剰発現するE. coli菌株を作製するため、以下のプライマーを設計してPCRに使用した。5(-GGGGGATCCACCACTCTTGACGACACGGCT-3((フォワード)(配列番号:19)、5(-ACCAAGCTT TCAGGGGCAGGGCATGCTCAT-3((リバース)(配列番号:20)。制限酵素部位(GGATCCまたはAAGCTT、下線)と停止コドン(TCA、下線)をこれらのプライマーに挿入した。pQE30を用いてこれらのプライマーをもつ増幅断片を組込んだ発現ベクター(pQE30-nat)を作製した。pQE30-natおよびpQE30-SHF6Rのそれぞれを保有する E. coli XL1-Blue MRF(菌株におけるST-FおよびST-DのMICを、アンピシリン(100 (g/mL)、IPTG 0.1 mM、ST(0〜4 mM)を含むLB寒天平板上で決定した。また、nat遺伝子およびsttH遺伝子のそれぞれを過剰発現するS. cerevisiae CKY8菌株を、以下の手順で作製した。制限部位(AAGCTTまたはCTGCAG、下線)と停止コドン(TCA、下線)を付加した以下の2セットのプライマーを設計し、PCRに使用した:
5(-ACCAAGCTTAATATGACCACTCTTGACGACACG-3((nat遺伝子のフォワードプライマー)(配列番号:21)、
5(-AAACTGCAG TCAGGGGCAGGGCATGCTCAT-3((nat遺伝子のリバースプライマー)(配列番号:22)、
5(-ACCAAGCTTACCATGCCCCCCGAGACCGCCGCG-3((sttH遺伝子のフォワードプライマー)(配列番号:23)、
5(-AAACTGCAG TCAGCGCGCTGGAGCGGGCGG-3((sttH遺伝子のリバースプライマー)(配列番号:24)。
配列を確認後、増幅断片をpAD4の同じ部位に挿入し、酵母アルコール脱水素酵素の恒常的プロモーターの調節下でこれらの遺伝子が発現するpAD4-natおよびpAD4-sttHを作製した。pAD4-natおよびpAD4-sttHのそれぞれを保有するS. cerevisiae CKY8菌株を、ST(ST-FまたはST-D、0〜4 mM)を含むSC-Leu培地で生育させ、ST-FおよびST-DのMICを決定した。
興味深いことに、ST非産生菌株であると考えられているStreptomyces菌株を用いたSTの最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration、MIC)試験により、Streptomyces albulus NBRC14147がST産生菌株のS. lavendulae NBRC12789よりST耐性が高いことが判明した(表1)。さらに、STに作用するN−アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferese、NAT)をコードするnat遺伝子などの遺伝子用に設計されたプライマーを使用し、NBRC14147菌株のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行ったところ、増幅断片が認められなかった。一方で、S. lavendulae NBRC12789のゲノムDNAを鋳型に用いた場合には、特定の増幅断片が検出された。NBRC14147菌株にはNATをコードしている相同遺伝子が存在しないと考えられたため、この菌株をST耐性遺伝子の単離用に選択した。thiostrepton耐性遺伝子をもつpWHM3プラスミドを用いて作製したNBRC14147菌株のゲノムライブラリーと、STおよびthiostrepton感受性を示す異種宿主としてStreptomyces lividans TK23菌株を用いることにより、thiostrepton(20 μg/mL)とST(400 μg/mL超、ST-FとST-Dの混合物)の両方に耐性を示すTK23菌株の形質転換体が多数単離された。2.9 kb断片をプローブとして実施したサザンブロット分析により、これらの形質転換体から単離されたすべてのプラスミドにこの2.9 kb断片が認められたため、その後の実験用に、これらの形質転換体から、2.9 kb断片をもつpWHM3プラスミド(pWHM3-st11、図2および表1)を保有する形質転換体の1つを選出した。
2.9 kb DNA断片の塩基配列決定とStreptomyces菌株のコドンフレーム解析(Bibb, M. J., Findlay, P. R., & Johnson, M. W. (1984) Gene. 30, 157-166)により、2つのORF(ORF1および2)と1つの部分ORF(ORF3)が示された(図2)。個別のORFの機能を解明するため、BLAST(Altschul, S. F., Gish, W., Miller, W., Myers, E. W., & Lipman, D. J. (1990) J. Mol. Biol. 215, 403-410)および3D-PSSM(Kelley, L. A., MacCallum, R. M., & Sternberg, M. J. (2000) J. Mol. Biol. 299, 499-520)を用いてこれらの翻訳産物についてのデータベース(UniPro)検索を行った。結果を図2にまとめた。要約すると、各ORFは、エステラーゼおよびβ-ラクタマーゼ(ORF1)、isochorismataseなどの加水分解酵素(ORF2)、リパーゼ(ORF3)と類似していた。したがって、いずれの遺伝子についてもnat遺伝子に対する相同性はこの断片上では認められなかった。どの遺伝子がST耐性に関与しているかを確認するため、ORF1およびORF2〜3のそれぞれをもつpWHM3-orf1 およびpWHM3-orf2-3プラスミドを作製し(図2)、S. lividans TK23に導入した。MIC試験により、pWHM3-orf2-3を保有する形質転換体がST耐性を示すことが確認された(表1)。pWHM3-orf2-3プラスミドがORF3の一部をもつという事実から考えて、ORF2がST耐性を付与することが示された。本研究では、加水分解酵素遺伝子に対する類似性が認められたORF2をsttHと名付けた。
塩基配列決定とフレーム解析の結果に基づいて、8つの開始コドン候補(図2に示した第1〜8ポジションのATGおよびGTG)がsttH遺伝子中に確認された。さらに、一般的に知られているStreptomyces菌株のプロモーター領域とリボソーム結合部位のセットの明白で特徴的な塩基配列がないため、塩基配列の情報による開始コドンの予測が困難であった。そこでわれわれは、それぞれ異なるN末端領域をもつ6種類のSttHの組換え酵素(「rSttH」と略記する場合がある。)を、N末端6×His Tag融合タンパク質として作製し、MIC値により判断したそれぞれの酵素活性に基づいて、開始コドンを推定した。E. coliの発現プラスミドとなるpQE30-SHF1R(第1ポジションからsttH遺伝子をもつ)、pQE30-SHF2R(第2ポジション)、pQE30-SHF3R(第3および第4ポジション)、pQE30-SHF4R(第5ポジション)、pQE30-SHF5R(第6および第7ポジション)、pQE30-SHF6R(第8ポジション)を作製した。第9ポジションのGTGコドンは、翻訳産物のペプチド鎖が極めて短かったため開始コドン候補とはみなされなかったが、pQE30-SHF7Rも作製した。これらの7つのプラスミドとpQE30(挿入なし)をE. coliに導入後、STのMICは、12.5μg/mL(pQE30を保有するE. coli菌株)、50μg/mL(pQE30-SHF1R)、50μg/mL(pQE30-SHF2R)、 50μg/mL(pQE30-SHF3R)、100μg/mL(pQE30-SHF4R)、100μg/mL(pQE30-SHF5R)、 >100μg/mL(pQE30-SHF6R)、および12.5μg/mL(pQE30-SHF7R)であり、第8ポジションのコドンがS.albulus NBRC14147の開始コドンであることが示唆された。
Ni アフィニティクロマトグラフィを用いて高度精製したrSttHをST-Fと反応させた。溶出したrSttH依存性生成物は、逆相HPLC上の保持時間がST-Fより長く、特に補因子や金属イオンなどのいかなる添加物も含まない反応液で検出された(図3C)。同様に、ST-Dを基質に用いた場合にも、rSttH依存性生成物が検出された。このようにして得られたrSttH依存性生成物の構造を決定するため、これらの化合物を精製し、正イオンモードのエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)およびNMRにより分析した。ESI-MS分析の結果、ST-F由来化合物の分子量は521であり、ST-Fの分子量(503 Da)より分子量が18増加していることが確認された(図4)。また、タンデム質量分析(ESI-MS/MS)により、この分子量変化はstreptolidineラクタム基で起こっていることが示された。同様の事象がST-D由来化合物でもみられた。これらの結果から、rSttHがstreptolidineラクタムのアミド結合の加水分解を触媒することが強く示唆された。これらの予測された構造を確認するためにNMR分析を行ったところ、得られたstreptolidine基の1H NMRスペクトルの特徴(「材料と方法」を参照)は、Zabriskieら(Jackson, M. D., Gould, S. J., & Zabriskie, T. M. (2002) J. Org. Chem. 67, 2934-2941)により報告された化学合成streptolidineの特徴と完全に一致していた。したがって、rSttHの作用により生成されたST-FおよびST-D由来化合物は、それぞれ、ST-F-acid(前記式(I)において、n=1である化合物)およびST-D-acid(前記式(I)において、n=3である化合物)であることが確認された。
pHの異なる数種類の緩衝液100 mM(リン酸ナトリウム(NaPB)、pH 4.5〜7;トリス塩酸、pH 7〜10)を用いて最適pHを測定した。pH 6.5で最大活性が認められ、pHが低下(約4)すると、活性は急速に低下した。また、温度が酵素活性に与える影響を、NaPB緩衝液100 mM(pH 6.5)を用いて25〜75℃の範囲で検討した。酵素活性は45℃で最大であったが、65℃でも最大活性の約90%が検出された。反応速度パラメータを表2にまとめた。rSttHのKm値はST-Fで0.96±0.19 mM、ST-Dで5.74±0.99 mMと算出され、この酵素は短鎖β-リジンポリマーをもつST化合物に対する親和性が高いことが示された。しかし、rSttHのVmax値は、ST-DのほうがST-Fと比べてわずかに高かった。ST-Fとの反応におけるVmax/Km値を算出したところ、ST-Dより4倍高かった。rSttH ORF2のネイティブの分子量は、ゲルろ過により50 kDaと推定され、rSttHがホモダイマーとして存在していることが示唆された。
化学合成ST-F-acidの生物学的活性は、微生物や植物において無視できるレベルであることが以前に報告されているが(20,21)、ST-D-acidについては依然として不明である。そこでわれわれは、sttH遺伝子またはnat遺伝子を過剰発現するE. coliおよびSaccharomyces cerevisiaeにおけるST-FおよびST-DのMICをそれぞれ検討した(表3)。以前報告されたとおり、nat遺伝子をもつE. coli(pQE-nat)およびS. cerevisiae(pAD4-nat)の菌株は、ST-FおよびST-Dの両方に耐性を示した。しかし、興味深いことに、ST-DのMIC値は、rSttHを過剰発現するS. cerevisiae(pAD4-sttH)での結果とは対照的に、rSttHを過剰発現するE. coli(pQE30-SHF6R)では極めて低いことが判明し、ST-D-acidは依然として原核細胞に対して抗生物質活性を示すことが示唆された。このことを確認するため、グラム陽性およびグラム陰性細菌、臨床的に単離された病原細菌、酵母などのさまざまな微生物に対するST-acidとSTの選択毒性を検討した。MIC試験により、ST-F-acidの抗生物質活性が原核細胞および真核細胞のどちらにおいてもほぼ完全に失われていたのとは対照的に、ST-D-acidは、S. cerevisiaeやSchizosaccharomyces pombeなどの真核細胞に対しては活性を示さなかったが、E. coli、Bacillus subtilis、およびStaphylococcus aureusなどの細菌に対しては実際高い活性を示した(表3)。表中のカッコ内のc/aはST-F -acidとST-Fの最小発育阻止濃度の比を表し、d/bはST-D -acidとST-Dの最小発育阻止濃度の比を表す。
また、本発明のポリヌクレオチドは、ストレプトスリシンに対する耐性を真核細胞(例えば、酵母)に付与することができるので、組換えDNA技術に使用しうる抗生物質耐性マーカー遺伝子として有用である。現在STとnat遺伝子が、原核生物と真核生物の組換えDNA技術に用いられているが、真核細胞、特に酵母において、ST-D(ST-Fより活性が高い抗生物質)とsttH遺伝子の組合せに代わっていくことになるだろう。
さらに、ST-D-acidは、原核細胞に対する抗生物質活性を保持しつつ真核細胞に対する抗生物質活性(すなわち、毒性)が低減されているので、臨床開発可能な抗菌剤として、または、そのような抗菌剤の創薬におけるリード化合物として有用である。すなわち、表3に示されるように、酵母においては、ST-D-acidの生理活性が不活化された割合は、細菌よりも約4〜17倍高かった。特に、臨床的に単離された病原細菌であるS. aureus AB(未報告のエンテロトキシンAB産生菌株)およびS. aureus FIR 1169(トキシックショックシンドローム外毒素産生菌株)(Igarashi, H., Fujikawa, H., Usami, H., Kawabata, S., & Morita, T. (1984) Infect. Immun. 44, 175-181.)に対するST-D-acidの強い坑菌活性が認められた。STは、さまざまな細菌に対する強力な抗生物質であるが、哺乳類に対して毒性を示すため、臨床開発されたことはない。しかし、本発明において、ST-D-acidは、真核細胞に対する毒性が減少しても、依然として抗菌活性が強いことが示されたため、ST-D-acidを臨床開発できる、または創薬における新規のリード化合物にできる可能性が明らかとなった。
[配列番号:2]配列番号:1に記載の塩基配列からなるsttH遺伝子にコードされるSttHタンパク質のアミノ酸配列を示す。
[配列番号:3]図2の第7ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:4]配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:5]図2の第6ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:6]配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:7]図2の第5ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:8]配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:9]図2の第4ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:10]配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:11]図2の第3ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:12]配列番号:11に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:13]図2の第2ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:14]配列番号:13に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:15]図2の第1ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:16]配列番号:15に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:17]上記実施例の[材料と方法](3)において用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:18]上記実施例の[材料と方法](3)において用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:19]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:20]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:21]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:22]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:23]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:24]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの塩基配列を示す。
Claims (13)
- 以下の(a)〜(d) のいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(d) 配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。 - 以下の(e)又は(f)である請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(e)配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列または配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列に対して98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。 - 配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する請求項1に記載のポリヌクレオチド。
- 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する請求項1に記載のポリヌクレオチド。
- DNAである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
- 配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列からなる請求項6に記載のタンパク質。
- 配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる請求項7に記載のタンパク質。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
- 請求項9に記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
- 請求項10に記載の形質転換体を培養し、請求項6に記載のタンパク質を生成させる工程を含む、請求項6に記載のタンパク質の製造方法。
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