JP5028690B2 - オフアングル中性子積分フラックス測定演算装置及びその方法 - Google Patents

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Description

本発明は、中性子の測定装置に関するものであり、より詳しくは、宇宙線起因中性子による半導体デバイスの、メモリ、CPUのソフトエラーや、パワーデバイスの焼損などの故障のための評価試験に用いられる、白色および準単色の大強度(高フラックス)高エネルギー中性子照射場において、その中性子ビームの積分フラックスを中性子ビームからオフアングルの位置で測定して演算するための可搬型のオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置に関するものである。
近年、半導体デバイステクノロジが進歩するにつれて、半導体の高集積化、微細化、低消費電力化などが進んでいる。これら高集積化などを原因として、宇宙線起因中性子が半導体に影響するようになってきた。また、安全性及び信頼性が強く要求される分野(例:自動車、鉄道)つまり、半導体の誤動作や故障の発生率を低くする必要がある分野においても電力素子として半導体が使われることが多くなってきた。従って、宇宙線起因中性子を原因とする半導体の誤動作や故障の発生を抑える必要がある。
宇宙線起因中性子を原因とする半導体の誤動作や故障の発生を抑えること、また、短時間で効率的に評価を行うことを目的として、高フラックス(大強度)の中性子を人工的に照射して試験する加速故障評価の必要性が非常に高まっている。従って、従来は重要とされていなかった、高フラックスの中性子を測定する装置及び方法が必要となっている。また、加速器で発生する中性子はフラックスが変動する場合が多いため、中性子の測定は、半導体デバイスへの照射と同時に行う必要がある。
ここで、中性子は電荷を有しておらず、物質との相互作用の確率が非常に小さい。従って、他の放射線のように中性子を直接検出することは難しい。そのため、中性子の検出には、中性子と他の原子核との反応によって発生する荷電粒子を検出するという間接的な方法がとられる。
従来の高エネルギー中性子検出器の典型的なものとしては、液体シンチレーションカウンタ、反跳陽子テレスコープが挙げられる。また、高フラックスの中性子検出器として、フィッションチャンバーが挙げられる。
液体シンチレーションカウンタはシンチレータ内部で発生する荷電粒子が引き起こす発光現象を利用して、中性子を測定する。液体シンチレーションカウンタは中性子検出効率が高いが、原理上中性子ビームライン上に設置するため、高フラックスであるとオーバーフローが発生する。従って、液体シンチレーションカウンタは、高フラックスの中性子測定には使用できない。測定可能な中性子フラックスは、106[n/cm2/s]以下である。また、シンチレーションカウンタは中性子ビームライン上に設置されるため、半導体デバイスへの照射と測定を同時に行うことができない。そして、シンチレーションカウンタが放射化する可能性がある。
反跳陽子テレスコープは水素を多く含むラジエータと中性子との核反応により発生した反跳陽子から中性子を半導体検出器などで測定する。反跳陽子テレスコープは、検出器を中性子ビームライン上に設置又は、ビームライン外に設置して用いることが可能であるが、従来は中性子検出効率を上げるため、検出器を中性子ビームライン上に設置している。従来の中高エネルギーの中性子を測定するための中性子測定器101の構成の概略を図1に示す。この中性子測定器101は、シンチレーションカウンタ111bの前面に薄い透過型半導体検出器111aを組み合わせたカウンターテレスコープ111であり、中高中性子エネルギーの強度及びエネルギースペクトルを測定する。透過型半導体検出器111aにて、中高中性子エネルギーの強度を、シンチレーションカウンタ111bにて中高中性子エネルギースペクトルを測定する。このような構成の場合、中性子ビームに伴う荷電粒子やγ線(随伴γ線)などの影響を多く受けるため、その影響を軽減するため、検出器の前面にシャドーバーを設置する、薄い透過型半導体検出器を用いる、などの工夫が行われている。しかし、透過型半導体検出器を中性子ビームライン上に設置するため、半導体デバイスへの照射と測定を同時に行うことができない。また、シンチレーションカウンタが放射化する可能性がある。
従来の高エネルギーの中性子を測定するためのフィッションチャンバー201の構成を図2に示す。図2に示されるように、中性子ビームライン上に検出器であるフィッションチャンバー201を設置し、中性子が235U、238Uや239Puからなるホイル263に当たって起こる核分裂反応で生成される核分裂片のエネルギーを電気信号として検出し、得られる信号から入射中性子数を測定する。しかし、フィッションチャンバーにはウランやプルトニウムの核燃料物質を用いるため、核拡散防止条約などの法令の制限によって、容易に国内及び海外において輸送することができず、可搬性が劣るという制約を受ける。
上述したとおり、半導体デバイスの加速故障評価では加速器で発生する高フラックスかつ高エネルギー中性子を使用するので、それを精度良く測定する必要がある。また、加速器で発生する中性子はフラックスが変動する場合が多いため、半導体デバイスへの照射と同時にその場で測定する必要がある。半導体デバイスの信頼性評価試験では、多数のデバイスを多様なパラメータで試験する必要があり、試験全体として中性子照射量が極めて大きい。このため、検出器の放射化が問題となる。照射試験に用いられる加速器施設は多数あり、それぞれ中性子スペクトルが若干異なると共に中性子フラックス評価方法も異なる。このため、施設間の中性子照射量の整合性を評価するため、同じ中性子検出器を複数の加速器施設で使用する必要がある。従って、国内・国外で簡単に可搬できる装置が求められている。
従来のシンチレーションカウンタによる中性子測定では、飛行時間差法と併用することにより高いエネルギー分解能を得ることができる。しかし、オーバーフローが生じることにより高フラックス中性子の測定は非常に困難であるため、中性子フラックスを106[n/cm2/s]以下まで下げる必要があり、半導体デバイス照射で使用するフラックスには使用できない。また、原理上、シンチレーションカウンタは中性子ビームライン上に設置するため、半導体デバイスとの同時照射・その場測定ができず、また、検出器が放射化するという問題もある。
従来の反跳陽子テレスコープ法は、中性子ビームライン外に検出器を設置する手法は使われておらず、中性子ビームライン上に検出器を設置する手法が採用されていたが、この手法では中性子ビームに伴う荷電粒子やγ線(随伴γ線)などの影響を受けやすいと同時に、半導体デバイスとの同時照射・その場測定ができない、かつ検出器が放射化する問題があった。
フィッションチャンバーは高フラックスかつ高エネルギー中性子が測定可能だが、ウランやプルトニウムといった核燃料物質を用いるため、国内および海外の輸送に核拡散保障措置関連法令の制約を受ける。従って、可搬性に欠ける。
上記の次第であり、従来においては、高フラックスかつ高エネルギー中性子の照射量の測定においては、フィッションチャンバーなどは放射性物質を含むため可搬性が限られた条件でしか行えず、また、シンチレーションカウンタや反跳陽子テレスコープ法では半導体デバイスとの同時照射によるその場測定は不可能であった。さらに、従来においては、測定機器の放射化を防止することが難しかった。従って、そのような問題を解決した高フラックスかつ高エネルギー中性子の照射量を測定する装置が必要とされるようになって来た。
上記の問題を解決する手法として、反跳陽子テレスコープ法において、中性子ビームライン外に検出器を設置するという手法を採用することが考えられる。この手法によれば、可搬性、放射化などの問題は解決されることが見込まれる。しかし、この手法は、中性子ビームラインから外れた位置に検出器を配置するため、検出効率が悪いという問題があり、従来、通常は行われなかったものである。しかし、新たなニーズである半導体デバイスの加速照射試験に対しては、測定範囲の中性子フラックスが高いため、パラメータを最適化することで十分な計数量が得られることが見込まれる。しかし、検出効率を挙げるためには、S/N比を増大させるために、ノイズ対策を行う必要がある。
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、中性子ビームライン外に配置された半導体検出器を使用することによって、大強度高エネルギーの中性子ビームの積分フラックスのその場測定を可能とする、放射性物質を使用しない可搬型の測定演算装置を提供することを目的とする。
本発明は上記の問題を解決するために以下のような特徴を有する。すなわち、本発明は、ラジエータから中性子ビームに対して所定の角度(オフアングル角度)をおいて配置され、ノイズを防止する放射線遮蔽体に覆われた半導体検出器によって、ラジエータから発生する反跳陽子で所定のエネルギー以上のものの強度を測定し、それに所定の校正定数を乗ずることによって中性子ビームの積分フラックスを求めることを特徴とする。また本発明は、オフアングル角度を30乃至60度とすることもできる。また本発明は、ラジエータと半導体検出器の距離を30乃至50cmとすることもできる。また本発明は、放射線遮蔽体における反跳陽子の入射口の材質をポリイミドとし、反跳陽子の入射口に対向する面の材質をアルミニウムとし、放射線遮蔽体の胴体部の材質を鉛とすることもできる。また本発明は、ラジエータの材質をポリエチレンとすることもできる。また本発明は、ラジエータの厚みを1乃至5mmとすることもできる。また本発明は、ラジエータを交換可能とすることもできる。またその際に、本発明は、交換するための他のラジエータの材質を交換前のラジエータの材質と同一の製造過程で同時に製造されたものを用いることもできる。
本発明は、ラジエータから中性子ビームに対して所定の角度(オフアングル角度)をおいて配置され、ノイズを防止する放射線遮蔽体に覆われた半導体検出器によって、ラジエータから発生する反跳陽子で所定のエネルギー以上のものの強度を測定し、それに所定の校正定数を乗ずることによって中性子ビームの積分フラックスを求めるように校正したため、大強度高エネルギーの中性子ビームの積分フラックスのその場測定を可能とする、放射性物質を使用しない可搬型の測定演算装置を提供することが可能となる。
従来の反跳陽子法は、中性子とラジエータ(ポリエチレンを使用)の核反応により発生する反跳陽子を薄い透過型半導体検出器などを用いて検出する。これに対して本発明では、検出部に大面積の半透過型半導体検出器を採用し、これを中性子ビームライン外に配置することを特徴とする。これにより、109[n/cm2/s]までの高フラックス高エネルギー中性子を測定することが可能となる。また半透過型半導体検出器のみを使用するため、小型・軽量・構成品の低減化(低コスト)を実現し、従来の技術では実現不可能であった、半導体検出器のみで中性子数を測定することが可能となる。また、本発明においては、核燃料物質を用いないため、核拡散保障措置関連法令の制約を受けず、国内及び海外で簡単に輸送でき、可搬性に優れている。
これから図面を参照して本発明の実施形態に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301の説明を行う。まず、オフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301の構成を説明する。図3は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301の構成を表わす模式図である。図4は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301の放射線遮蔽体313の構成を表わす模式図である。図5は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301の演算部314のブロック図である。本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301は、ラジエータ311、半導体検出器312、放射線遮蔽体313、演算部314、から構成される。
ラジエータ311は、試験対象の試料371に照射される中性子ビーム351の発生源と試料371との間に配置され、発生源で生成された中性子ビーム351の中性子とラジエータ311を構成する水素等の原子との衝突によって反跳陽子352を放出するとともに、生成された中性子ビーム351の大部分を試料371の方へ通過させる板状の構成体であり、原子番号が小さく、水素原子を多く含む材料から構成される。反跳陽子352の個数すなわち強度は、入射する中性子の強度を反映したものであり、反跳陽子352のエネルギーは、入射する中性子のエネルギーを反映したものである。ラジエータ311の材料としては、ポリエチレンが好適である。ラジエータ311の厚みは適切に設定する必要がある。薄すぎるとラジエータ311の水素原子が中性子と衝突する確率が低くなり、反跳陽子352の発生する割合が低くなるため、中性子の検出感度が低下する。一方、厚すぎると、ラジエータ311内の原子と衝突してエネルギーを失った中性子が反跳陽子352をたたき出したり、たたき出された反跳陽子352がラジエータ311内の原子と衝突してエネルギーを失ったりする確率が高くなるため、ラジエータ311から放出される反跳陽子352が入射した中性子のエネルギーを正確に反映しなくなり、検出エネルギーの分解能が劣化する。1mm、3mm、5mmの厚みのポリエチレンのラジエータで検証した結果、いずれも感度とエネルギー分解能のバランスが良好であるという結果が得られたが、3mm程度の厚みが特に良好であった。
ラジエータ311には、直接中性子ビーム351が照射されるため、放射化が発生する。放射化が進むと、放射性同位元素に関する法令の制約を受けるようになってしまうため、それを防止するために、ラジエータ311は交換可能に設置されている。なお、交換するための他のラジエータの材質は、交換前のラジエータの材質と同一の製造過程で同時に製造されたものを用いることによって、ラジエータ311の微妙な組成の違いによって測定結果が変化することを防止できる。
半導体検出器312は、そこに入射する陽子などの荷電粒子のエネルギー及び強度を検出するための半導体の検出素子からなる検出器であり、好適には、比較的厚いシリコン半導体検出素子を使用した半透過型半導体検出器(SSD)である。半導体検出器312は、生成された中性子ビームがラジエータ311上を通過する領域を「中性子ビーム通過領域」と呼んだ場合、その中性子ビーム通過領域から中性子ビームに対して所定の角度(オフアングル角度)で所定の距離を空けて配置されている。そのように中性子ビーム通過領域から中性子ビームに対して所定の適切なオフアングル角度で配置することにより、半導体デバイスなどの試料との同時照射・その場測定が可能となる。半導体検出器312は、高い検出効率(感度)を得るために、中性子ビーム351が直接当たらない範囲で、極力ラジエータに近い距離に配置し、かつ、小さなオフアングル角度(反跳角)の位置に配置する。オフアングル角度は、30度から60度位が好適であり、45度が特に好適である。また、中性子ビーム通過領域から所定の適切な距離を空けて配置することにより、ラジエータで発生した反跳陽子352を高感度で検出することが可能となる。その所定の距離は、30cmから50cmが好適である。
半導体検出器312には高電圧(180V程度)が印加されており、そこに入射した荷電粒子によって発生させられたシリコン中の電子−正孔対をその電圧で加速することにより、入射した荷電粒子のエネルギーに対応した波高のパルスを発生して出力する。入射した荷電粒子のエネルギーが大きいほど、多くの電子−正孔対が発生するための、波高の高い(電流の大きい)パルスが発生する。本実施形態で使用する半透過型半導体検出器(SSD)のシリコン半導体検出素子は比較的厚く(500μm)、8.2MeV程度以下のエネルギーを有する陽子はその中で完全にストップさせることができ、それのエネルギーに応じた大きさのパルスを発生させることができる。従って、大きいエネルギーの陽子に対してエネルギーごとの強度の分布(エネルギースペクトル)を検出することができる。エネルギーが8.2MeV以上の陽子は、半導体検出器312を通過するが、その際に8.2MeV以下のエネルギーを半導体検出器312中に落とし、電子−正孔対を生成させる。半導体検出器312からは8.2MeV以下のエネルギーの範囲におけるエネルギーごとの強度の分布を表わし得る電流パルスが生成される。
放射線遮蔽体313は、反跳陽子352の入射口を有する包囲体であって、半導体検出器312を包囲することによって、バックグラウンドの放射線が半導体検出器312に入射してノイズを発生させることを防止する構成である。放射線遮蔽体313により、随伴γ線・バックグラウンドγ線・空気やコリメータなど周辺物質から発生する荷電粒子を遮蔽し、S/N比を向上させることができる。放射線遮蔽体313は、典型的には、筒状の物体であり、胴体を構成する遮蔽体胴体部313a、反跳陽子352の入射口である遮蔽体陽子入射口313b、遮蔽体陽子入射口313bの対向面である遮蔽体陽子入射口対向面313cから構成される。遮蔽体胴体部313aは、ガンマ線や荷電粒子などの放射線を遮蔽する効果の高い材料を含んでいる。そのような材料は、原子番号の大きい物質であり、鉛などが使用される。遮蔽体胴体部313aは、金属やプラスチックなどの形状を保つ強度を有する材料に対して鉛のシートを貼り付けたものとすると好適である。陽子の入射口は、中性子ビーム通過領域の方向に向けられて配置される。遮蔽体陽子入射口313bは、好適には、蛍光灯、非常灯などによる周囲の光によるノイズを防止するために遮光性のある物質のシートで構成される。また、その物質は陽子を良好に通過させる必要もある。そのようなものとして、非常に薄い有機物が適しており、例えば優れたカプトン(登録商標)などのポリイミド樹脂のシートが好適である。ポリイミド樹脂のシートは、数十μmの厚みの非常に薄いものが入手可能である。遮蔽体陽子入射口対向面313cは、光を遮蔽し、ガンマ線や荷電粒子などの放射線を遮蔽する効果の高い材料で構成されると好ましいが、反跳陽子352が衝突する部分であるため、ノイズの発生を防止するために放射化の少ない材料で構成されると好適である。そのような材料として、アルミニウムなどが好適である。
演算部314は、半導体検出器312と接続され、そこで発所定の測定時間の間に生したパルス信号に基づいて、所定のカットオフ値以上のエネルギーを有する反跳陽子352の強度を算出し、当該強度に所定の校正定数を乗ずることによって中性子ビームにおける所定のエネルギー以上の中性子の積分フラックスを演算するための構成である。演算部314は、典型的には、入出力インターフェースを備え、半導体検出器312からのパルスの信号の入力手段と演算結果の出力手段とを備えた、演算のためのプログラムをCPUによって実行する情報処理部を有するコンピュータである。そのプログラムは、ハードディスクに格納されていて、実行時にRAM(メモリ)にローディングされる。そのプログラムはROMに格納されていてもよい。入力手段から入力されたデータは、ハードディスクに格納された後にRAMにローディングされるか、あるいはRAMに直接ローディングされた後、CPUによって実行されるプログラムの指示に基づいて処理され、出力手段から出力される。演算部314は、機能的なブロックとしては、半導体検出器312からのパルスの信号の入力手段としての増幅器314a及びA/D変換器314b、情報処理部としての積分/変換演算部314c、演算結果の出力手段としての中性子積分フラックス表示部314dから構成される。
増幅器314aは、半導体検出器312から出力される、それぞれの反跳陽子352に発生させられたパルス信号を増幅し、絶対値の大きい電圧パルスに変換する増幅器である。それぞれのパルスの波高はそれぞれの反跳陽子352のエネルギーに対応し、パルスの密度が反跳陽子352の強度を表わす。A/D変換器314bは、増幅器314aから出力された増幅されたパルスをサンプリングして波高を表わすデジタル信号に変換し、さらにそれにキャリブレーションを行うことにより、反跳陽子352のエネルギーを表わすデジタル信号に変換する。エネルギーを表わすデジタル信号への変換は、例えば波高分析装置(図示せず)に含まれる機能を用いて実現することができる。
なお、波高分析装置によって、それぞれのパルスが複数に分割されたエネルギーの領域のどこに入るのかを決定し、パルスを計数することにより、エネルギーごとの強度の分布(エネルギースペクトル)を求めることが可能である。ただし、本発明においては、エネルギースペクトルの詳細な情報は必要なく、カットオフ値以上のエネルギーを有する反跳陽子のパルス信号だけを抽出すれば十分であるため、半導体検出器312から出力されたパルス信号の波高と反跳陽子352のエネルギーとの対応付けだけを行えばよい。なお、波高分析装置は、求めた反跳陽子352のエネルギースペクトルを、横軸をエネルギー、縦軸を強度としたグラフ上にプロットした画像を生成して表示させることができる。このエネルギースペクトルを用いると、後述するように、シミュレーションとの正確な比較を行うことができ、本発明に係る測定演算装置の正確さを検証することが可能となる。図6から11は、波高分析装置を用いて、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301で、種々の条件(ラジエータ311の厚さ、オフアングル角度、PE−SSD間距離)において測定された反跳陽子352のエネルギースペクトル(プロット点)、およびPHITSシミュレーションによるエネルギースペクトル(線グラフ)を表わす図である。図6は、ラジエータ311の厚さ:1mm,オフアングル角度:30°,距離:40cmの場合、図7は、ラジエータ311の厚さ:1mm,オフアングル角度:45°,距離:40cmの場合、図8は、ラジエータ311の厚さ:3mm,オフアングル角度:45°,距離:50cmの場合である。それぞれの図に示されたプロット点は、波高分析装置314cから送られた反跳陽子352のエネルギースペクトルを表わす。それらの図において、1MeV以下および8.2MeV以上の信号は、バックグラウンドのノイズである。図の縦軸は計測したカウント数であり、1MeV以上の中性子数かつ単位面積当たりで規格化したものである。約8.2MeVにある立下がり部分は、SSDの厚さ(500um)に相当する飛程を持つ陽子エネルギーに対応する。従って、8.2MeV以下の陽子は、半導体検出器312内にフルストップし、その全エネルギーに対応する信号を出力する。一方、8.2MeV以上の陽子は半導体検出器312を透過し、エネルギーの一部(8.2MeV以下)に対応する信号を出力する。後述するが、1MeV〜8.2MeVの反跳陽子の強度の積分量は、約10MeV以上の中性子積分フラックスに対応するため、10MeV以上のエネルギーを有する中性子の積分フラックスを求めるためには、反跳陽子のエネルギースペクトルを考慮する必要はなく、1MeV以上の反跳陽子全体の強度の積分量(合計カウント数)を使用する。
積分/変換演算部314cは、A/D変換器314bから送られたそれぞれの反跳陽子352のエネルギーを表わすデジタルデータを受けて、バックグラウンドノイズ成分を除去するために1MeVのエネルギーをカットオフ値としてそれ以下のエネルギーのデータを無視し、1MeVから、半導体検出器312により出力される最大のエネルギーである8.2MeVまでの範囲の強度を積分する。これによって、1MeV以上のエネルギーを有する反跳陽子352の合計の強度、すなわち積分強度(積分フラックス)が算出される。次に、算出された反跳陽子352の積分強度に所定の校正定数を乗ずることにより、中性子ビームの積分強度を算出する。求めた中性子ビームの積分強度を表わすデータは、中性子積分フラックス表示部314dに送られる。
その所定の校正定数は、以下のようにして決定される。中性子ビームは、サイクロトロンで加速器した陽子ビームをタングステンターゲットに当てることにより発生させられるが、これによって発生する白色中性子のスペクトルYn(加速器陽子ーム1μC当たりの中性子数)は既知であるため、これを基準とする。
この白色中性子のスペクトルでエネルギーEn(=10MeV)から加速器陽子のエネルギーEmaxの間の中性子の数を積算し、この値をSn(En)とする。Sn(En)は加速器ビーム1μC当たりの積分スペクトルである。ここでは、Emax=400MeV,Sn(En)=ΣY(En,Emax)である実験設備で測定を行った。
本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301で白色中性子を測定して半導体検出器の出力スペクトルYssdを得る。ここで、加速器陽子ビーム1μAで600秒間測定するとする。半導体検出器の出力スペクトル上でエネルギーEssd(=1MeV)から8.2MeVの間の計数数を積算し、この値をSssd(Essd)とする。すなわち、以下のようにする。
Sssd(Essd)=ΣYssd(Essd:8.2MeV)
なお、8.2MeVは反跳陽子の飛程が500μm(SSDの厚さ)となるエネルギーである。
Sn(En)とSssd(Essd)から校正定数Kを以下の通り求める。
K=Sn(En)÷{Sssd(Essd)÷(1μA×600sec)}
半導体の照射試験では、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301を使ってその場・同時測定で半導体検出器の出力スペクトルを測定する。それを使ってS’ssd(Essd)を計算し、これに校正定数Kを掛けて半導体に照射した白色中性子の積分フラックスS’n(En)を以下のように求める。
S’n(En)=K×S’ssd(Essd)
なお、校正定数Kの値は、ポリエチレンの面積と厚さ、ポリエチレンと半導体検出器の距離、半導体検出器の面積と厚さ、空気の密度で変わるため、それらを予め実測しておく。また、EnとEssdの値は中性子ソフトエラーが10MeV以上で起こること、半導体検出器の出力のノイズを排除する必要があることを考慮してEn=10MeVとEssd=1MeVとしている。
中性子積分フラックス表示部314dは、積分/変換演算部314cから送られた求めた中性子ビームの積分フラックス(積分強度)を表わすデータを表示する構成であり、典型的には、LCDなどのモニタである。ここで、最終結果である、反跳陽子のカットオフ値のエネルギーに対応する所定のエネルギー以上の中性子の積分フラックスが表示される。
次に、オフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301による測定がどのように実施されるのかについて説明する。
中性子の発生源で大強度高エネルギーの白色中性子ビーム351を生成し、それを中性子ビームの発生源と試験対象の試料371との間に配置されたラジエータ311に入射させ、発生源で生成された中性子ビームの中性子とラジエータ311を構成する原子との衝突によって反跳陽子352を放出させるとともに、入射した中性子ビーム351の大部分を試料371の方へ通過させる。ラジエータ311では反跳陽子352が発生し、中性子ビーム351となす角度のcosに比例した強度の分布で反跳陽子352が放出される(キネマティクスによる)。
中性子ビーム351はコリメータ361を通過させられて平行なビームとされ、ラジエータ311を通過して試料371に照射され、宇宙線起因中性子による半導体の誤動作や故障の評価についての加速試験が実施される。試料を通過した中性子ビームは、その後方に設置されたビームダンプ362で吸収される。
生成された中性子ビーム351がラジエータ311上を通過する領域である中性子ビーム通過領域から中性子ビーム351に対して所定のオフアングル角度で所定の距離を空けて配置され、中性子ビーム通過領域の方向に向けられた反跳陽子352の入射口を有する放射線遮蔽体313に覆われた半透過型半導体検出部312に、その方向に飛来した反跳陽子352を入射させる。図示しないが、半導体検出器312の前にエネルギー吸収体(アブソーバ)を設置して、反跳陽子352のエネルギーを吸収させることによって検出する中性子ビームのエネルギーの範囲を変化させることもできる。
半透過型半導体検出部312は、個々の反跳陽子352のエネルギーに対応した波高を有するパルス信号を発生する。
演算部314は、半透過型半導体検出部312で発生したパルス信号を反跳陽子のエネルギーを表わすデータに変換し、そのデータに基づいて、所定のカットオフ値(1MeV)以上のエネルギーを有する反跳陽子352のデータを抽出し、そのパルス数をカウントすることによって反跳陽子352その合計の強度を算出する。その合計の強度に対して、所定の校正定数を乗ずることによって中性子ビーム351における所定のエネルギー(10MeV)以上の中性子の積分フラックスを演算する。
本発明における大強度高エネルギーの中性子積分フラックスの測定演算結果が正確であることは、シミュレーションによって確認されている。図6〜11の実戦の線グラフはPHITSシミュレーションの結果である。PHITSは、粒子・重イオンの物質中の輸送を記述する3次元モンテカルロシミュレーションコードであり、国内外の加速器施設や医療分野、航空宇宙分野、半導体の放射線によるソフトエラー評価などに利用など、世界的に幅広い分野で利用されており世界的に実績があるものである。モンテカルロ計算とは、放射線の衝突・輸送といった事象を整備した物理モデルと評価済みのデータを用いて計算するものである。ここでのPHITSシミュレーションにおいては、液体シンチレーションカウンタにて測定した白色中性子フラックスデータを用いて、インプットで作成した3次元空間に中性子を生成・輸送させ、衝突(物質との相互作用)と輸送を繰り返すことによりエネルギー損失等を計算している。図6〜11より、プロット点で示された波高分析装置から得られた実験結果のエネルギースペクトルは、線グラフで示されたPHITSシミュレーション結果と概ね一致している。これより、本発明により得られる中性子の積分フラックスはシミュレーションとよく一致していると言うことができ、本発明による測定演算結果が正確であることが示されている。
図1は、従来の反跳陽子テレスコープ法による中性子測定装置の構成を表わす模式図である。 図2は、従来の高エネルギー中性子を測定するためのフィッションチャンバーの構成を表わす模式図である。 図3は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301の構成を表わす模式図である。 図4は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301の放射線遮蔽体313の構成を表わす模式図である。 図5は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301の演算部314のブロック図である。 図6は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301(ラジエータ311の厚さ:1mm,オフアングル角度:30°,PE−SSD間距離:40cm)で測定された反跳陽子のエネルギースペクトル(プロット点)、およびPHITSシミュレーションによるエネルギースペクトル(線グラフ)を表わす図である。 図7は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301(ラジエータ311の厚さ:1mm,オフアングル角度:45°,PE−SSD間距離:40cm)で測定された反跳陽子のエネルギースペクトル(プロット点)、およびPHITSシミュレーションによるエネルギースペクトル(線グラフ)を表わす図である。 図8は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301(ラジエータ311の厚さ:3mm,オフアングル角度:30°,PE−SSD間距離:40cm)で測定された反跳陽子のエネルギースペクトル(プロット点)、およびPHITSシミュレーションによるエネルギースペクトル(線グラフ)を表わす図である。 図9は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301(ラジエータ311の厚さ:3mm,オフアングル角度:45°,PE−SSD間距離:40cm)で測定された反跳陽子のエネルギースペクトル(プロット点)、およびPHITSシミュレーションによるエネルギースペクトル(線グラフ)を表わす図である。 図10は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301(ラジエータ311の厚さ:5mm,オフアングル角度:30°,PE−SSD間距離:40cm)で測定された反跳陽子のエネルギースペクトル(プロット点)、およびPHITSシミュレーションによるエネルギースペクトル(線グラフ)を表わす図である。 図11は、本発明に係るオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置301(ラジエータ311の厚さ:5mm,オフアングル角度:45°,PE−SSD間距離:40cm)で測定された反跳陽子のエネルギースペクトル(プロット点)、およびPHITSシミュレーションによるエネルギースペクトル(線グラフ)を表わす図である。
符号の説明
101 中性子測定装置
111 ラジエータ
112 カウンターテレスコープ
112a 透過型半導体検出器
112b シンチレーションカウンター
151 中性子ビーム(中高エネルギー)
161 シャドーバー
201 フィッションチャンバー
251 中性子ビーム(高エネルギー)
263 ホイル(ウラン)
301 オフアングル中性子積分フラックス測定演算装置
311 ラジエータ
312 半導体検出器
313 放射線遮蔽体
313a 遮蔽体胴体部
313b 遮蔽体陽子入射口
313c 遮蔽体陽子入射口対向面
314 演算部
314a 増幅器
314b A/D変換器
314c 積分/変換演算部
314d 中性積分フラックス表示部
351 中性子ビーム(大強度高エネルギー)
361 コリメータ
362 ビームダンプ
371 試料

Claims (9)

  1. 10MeV以上の高エネルギーの中性子ビームが照射される試験対象の試料における照射時の前記中性子ビームのフラックスを前記中性子ビームからオフアングルの位置で空気中において測定し演算する可搬型のオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置であって、
    前記中性子ビームの発生源と前記試料との間に配置されたラジエータであって、前記発生源で生成された中性子ビームの中性子と当該ラジエータを構成する原子との衝突によって反跳陽子を放出するとともに、前記生成された中性子ビームの大部分を前記試料の方へ通過させる前記ラジエータと、
    前記生成された中性子ビームが前記ラジエータ上を通過する領域である中性子ビーム通過領域から前記中性子ビームに対して所定のオフアングル角度で所定の距離を空けて配置され、個々の前記反跳陽子のエネルギーに対応した波高を有するパルス信号を発生する半透過型半導体検出部と、
    前記半透過型半導体検出部を覆い、前記中性子ビーム通過領域の方向に向けられた前記反跳陽子の入射口を有する放射線遮蔽体と、
    前記半透過型半導体検出部で所定の測定時間の間に発生した前記パルス信号に基づいて、所定のカットオフ値以上のエネルギーを有する前記反跳陽子の強度を算出し、当該強度に、前記空気の密度の影響を考慮した所定の校正定数を乗ずることによって前記中性子ビームにおける所定のエネルギー以上の中性子の積分フラックスを演算する演算部と、
    を備えることを特徴とするオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置。
  2. 請求項1に記載のオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置であって、前記所定のオフアングル角度が30乃至60度であることを特徴とする装置。
  3. 請求項1又は2に記載のオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置であって、前記所定の距離が30乃至50cmであることを特徴とする装置。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1つに記載のオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置であって、前記放射線遮蔽体における前記反跳陽子の入射口の材質はポリイミドであり、前記反跳陽子の入射口に対向する面の材質はアルミニウムであり、前記放射線遮蔽体の胴体部の材質は鉛であることを特徴とする装置。
  5. 請求項1乃至4のいずれか一つに記載のオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置であって、前記ラジエータの材質はポリエチレンであることを特徴とする装置。
  6. 請求項5に記載のオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置であって、前記ラジエータの材質である前記ポリエチレンの厚みは1乃至5mmであることを特徴とする装置。
  7. 請求項6に記載のオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置であって、前記ラジエータは交換可能であることを特徴とする装置。
  8. 請求項7に記載のオフアングル中性子積分フラックス測定演算装置であって、交換するための他のラジエータの材質は、交換前のラジエータの材質と同一の製造過程で同時に製造されたものを用いることを特徴とする装置。
  9. 10MeV以上の高エネルギーの中性子ビームが照射される試験対象の試料における照射時の前記中性子ビームのフラックスを前記中性子ビームからオフアングルの位置で空気中において可搬型の装置により測定し演算するオフアングル中性子積分フラックス測定演算方法であって、
    前記生成された中性子ビームを前記中性子ビームの発生源と前記試料との間に配置されたラジエータに入射させ、前記発生源で生成された中性子ビームの中性子と当該ラジエータを構成する原子との衝突によって反跳陽子を放出させるとともに、入射した前記中性子ビームの大部分を前記試料の方へ通過させるステップと、
    前記通過した中性子ビームを前記試料に照射させるステップと、
    前記生成された中性子ビームが前記ラジエータ上を通過する領域である中性子ビーム通過領域から前記中性子ビームに対して所定のオフアングル角度で所定の距離を空けて配置され、前記中性子ビーム通過領域の方向に向けられた前記反跳陽子の入射口を有する放射線遮蔽体に覆われた半透過型半導体検出部に、前記反跳陽子を入射させるステップと、
    前記半透過型半導体検出部が個々の前記反跳陽子のエネルギーに対応した波高を有するパルス信号を発生するステップと、
    前記半透過型半導体検出部で所定の測定時間の間に発生した前記パルス信号に基づいて、所定のカットオフ値以上のエネルギーを有する前記反跳陽子の強度を算出し、当該強度に、前記空気の密度の影響を考慮した所定の校正定数を乗ずることによって前記中性子ビームにおける所定のエネルギー以上の中性子の積分フラックスを演算するステップと、
    を含むことを特徴とするオフアングル中性子積分フラックス測定演算方法。
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