JP5024823B2 - 細胞運動性評価セルチップ - Google Patents
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Description
細胞の運動は白血球細胞、神経細胞などにおいても生理的な条件下で観察されるが、癌を含む多くの病的状態の進行における主要な細胞プロセスの1つの走化性として観察され、癌細胞が原発巣から転移する際に必須の性質である。原発性癌の生存率は比較的高いが、一旦癌が転移してしまうと生存率は格段に落ちることが疫学的な調査からも報告されており、癌細胞の走化性は癌の悪性度の指標ともなっている。したがって、癌転移を抑制する治療戦略は有効であるが、そのためには、癌細胞の走化性抑制因子のスクリーニングに用いることのできるスループット性の高い細胞運動性の評価システムは必須である。
また、免疫細胞などで、薬剤投与の影響は細胞の運動性の変化として観察可能であることから、スループット性の高い細胞運動性の評価システムは、各種薬剤に対する副作用の研究においてもきわめて有効である。
しかしながら、これらのBoyden chamberや Wound-healingアッセイによる細胞評価システムでは、各ウェルもしくはディッシュごとに目的遺伝子などをそれぞれ導入することが必須となるため、スループット性が非常に低い上にその検討に多量の試料が必要になる点が問題であり、かつ細胞運動の経時的な変化を正確に追うことが難しい。またBoyden chamberでは細胞を最終的に固定化などし、その数をカウントする作業が煩雑である点、また走化性と重力によりウェルへ移動した細胞の分離評価が難しく再現性に欠けるという欠点もある。現在までにこのような問題点に対してBoyden chamberを改良したものとしては(特許文献1、特許文献2)のような取り組み、Wound-healingアッセイについては(非特許文献3)もある。このような取り組みにも関わらず、上記技術を用いて製薬業界などにおいてブレイクスルーとなるような発見、製品の上市が行われなかったのには、単純な技術面での問題だけではないと思われる。すなわち、上記の手法を用いた場合、Boyden chamberでは誘引物質を感知するレセプター関連や、プロテアーゼ分泌に関わるもの、またWound-healingアッセイではcontact inhibition解除や細胞増殖に関与する遺伝子群も多く含まれた形で、スクリーニングされてくることが容易に察することができる。このような因子群は細胞内情報伝達の初期やもしくは細胞の恒常性そのものを支配することが多いため、こと創薬ターゲットとしては副作用の観点などからも適さない。そこで、上述した遺伝子群やそれに対する化合物がスクリーニング結果に含まれないようにするためには、評価系の単純化が求められていたのが現状である。
このように、従来の細胞評価システムでは、一度に多数の被検物質に応答した細胞の運動性を経時的に観察したいという要求には十分応じられるものではなかったこと、またより複雑な評価系しか存在しなかったため、ハイスループット性が高く、経時的に観察することのできる細胞運動性のみに特化した評価システムの開発が強く望まれていた。
TFA法は、基板上に細胞のライブラリーをアレイ化している点で細胞アレイに分類されるが、基板上に播種する細胞自体は単一の形質を持つものを使用する。あらかじめ基板上に細胞の形質を変えうる可能性を持つ候補物等の混合物(例えばトランスフェクション試薬とプラスミドDNAやsiRNA、もしくは低分子化合物)へ接着試薬(ゼラチンや細胞外マトリクス(ECM)[フィブロネクチン、TypeIVコラーゲン、ビトロネクチン、ラミニン]など)を加えた後に固定化しておき、固定化試薬に接触した細胞は候補物の影響でその形質が転換するため、種々の形質を持つ細胞群を容易に獲得できる技術である。この細胞群を用いてある形質を獲得した細胞だけをあぶりだすもしくは残すような刺激をかければ、短時間低コストで有用な結果つまり創薬ターゲット分子などの情報を得ることができる。(特許文献3、特許文献4、非特許文献3)
現在TFA法を用いたアッセイ系としては、sabatiniらのdAKT/dPKBのリン酸化を制御し、細胞の増殖や形状に影響する遺伝子のスクリーニング(特許文献5,6、非特許文献3,5)、EllenbergらのGFPラベルしたHistonをプローブとした細胞周期制御の観察(非特許文献6、7)などが提案されているが、いずれも静止状態の細胞を観察するものであり、細胞の運動性に着目し、細胞の運動性の経時的解析にTFA法を利用しようとする発想は本発明がはじめてである。
本発明は接着試薬でコートした基板上へ蛍光試薬で標識したDNA−トランスフェクション試薬をスポットして固相化し、別の蛍光を発する蛍光蛋白発現ベクターを導入した細胞を播種して乾燥させた細胞運動評価チップを提供するものであり、当該細胞運動評価チップを用いて、蛍光蛋白発現ベクターが発現する条件下で細胞を培養し、固相化した領域を経時的に観察することで、細胞が発現する蛍光蛋白の移動度を指標に細胞運動性を評価するシステムが提供できる。
そして、細胞運動関与因子WAVE2のsiRNAを用いた検討により、本発明の細胞運動評価チップが、細胞運動性に関わる遺伝子群、および促進的・抑制的性質を持つ化合物のスクリーニングに対して有効であることが確認された。
(1) 被検物質に応じた細胞の運動性の変化を評価するためのチップであって、基板表面の複数の決められた位置に、それぞれ異なる被検物質が、第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸、トランスフェクション試薬、接触試薬、及び第2の標識により標識化されたトランスフェクション促進剤と共に、固相化したスポットとして設けられていることを特徴とする、細胞運動性評価用チップ。
(2) 前記基板表面が、あらかじめ細胞運動促進剤でコートされていることを特徴とする前記(1)に記載の細胞運動性評価用チップ。
(3) 前記細胞運動促進剤がTypeIコラーゲンであることを特徴とする、前記(2)に記載の細胞運動性評価用チップ。
(4) 前記トランスフェクション促進剤が細胞外マトリクス(ECM)及び多糖類から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の細胞運動性評価用チップ。
(5) 前記接触試薬がゼラチン又は細胞外マトリクス(ECM)であることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞運動性評価用チップ。
(6) 前記トランスフェクション試薬が、カチオン性ポリマーである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の細胞運動性評価用チップ。
(7) 前記第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子がEGFPをコードする遺伝子であることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の細胞運動性評価用チップ。
(8) 前記第2の標識が蛍光色を示す標識であって、かつ当該蛍光色が第1の標識の蛍光色と異なることを特徴とする、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の細胞運動性評価用チップ。
(9) 前記第2の標識がローダミンであることを特徴とする、前記(8)に記載の細胞運動性評価用チップ。
(10) 被検物質が被検核酸であることを特徴とする、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の細胞運動性評価用チップ。
(11) 前記被検核酸が、発現ベクターに挿入されたもしくは挿入されていないDNA分子であることを特徴とする、前記(10)に記載の細胞運動性評価用チップ。
(12) 前記被検核酸が、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、もしくはリボザイム、又は細胞内でこれらのRNA分子を放出できる発現ベクターであることを特徴とする、前記(10)に記載の細胞運動性評価用チップ。
(13) 前記被検核酸が発現ベクターに挿入されている場合に、第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子も同一の発現ベクター中に挿入されていることを特徴とする、前記(10)〜(12)のいずれかに記載された細胞運動性評価用チップ。
(14) 前記固相化されたスポットにおいて、第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸が、又は被検物質が被検核酸の場合には当該核酸と共に被検核酸が、トランスフェクション試薬と静電的に結合していることを特徴とする、前記(1)〜(13)のいずれかに記載された細胞運動性評価用チップ。
(15) 前記(1)〜(14)に記載のいずれかに記載の細胞運動性評価チップを製造する方法であって、下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする細胞運動性評価チップの製造方法、
(a)複数の被検物質を用意し、各被検物質と共に、第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸、トランスフェクション試薬、接触試薬、第2の標識により標識化されたトランスフェクション促進剤を含む懸濁液を調製する工程、
(b)基板上の決められた複数の位置に、工程(a)で得られた各懸濁液をスポットする工程、
(c)工程(b)でスポットされた懸濁液を乾燥させ、固相化する工程。
(16) 前記工程(a)に先立ち、基板表面を細胞運動促進剤でコーティングする工程を設けることを特徴とする前記(15)に記載の細胞運動性評価チップの製造方法。
(17) 前記(1)〜(14)に記載のいずれかに記載の細胞運動性評価チップを用いて、当該チップ表面の各スポット領域に存在する被検物質による対象細胞に対する運動性の変化の程度を評価する方法であって、当該チップ表面の全スポット領域に対象細胞を播種し、当該細胞を培養しながら、又は培養終了後に、チップ表面の各スポットの領域において、第1の蛍光標識タンパク質遺伝子が導入され発現している細胞の位置を示す第1の蛍光標識と、スポットが占める領域を示す第2の標識との位置関係の変化の程度を観察することを特徴とする、被検物質による対象細胞に対する運動性の変化の程度を評価する方法。
(18) 前記第2の標識が第1の蛍光標識の蛍光色と異なる蛍光色を示す標識であって、かつこれら2種類の蛍光標識の位置関係の変化の程度を、蛍光顕微鏡を用いて観察することを特徴とする、前記(17)に記載の、被検物質による対象細胞に対する運動性の変化の程度を評価する方法。
(19) 前記(17)又は(18)に記載の、被検物質による対象細胞に対する運動性の変化の程度を評価する方法を用いることを特徴とする、対象細胞に対する細胞運動性抑制物質のスクリーニング方法。
(20) 前記(19)に記載の対象細胞に対する細胞運動性抑制物質のスクリーニング方法において、被検物質が低分子化合物であることを特徴とする、細胞運動性抑制物質のリード化合物のスクリーニング方法。
(21) 前記(19)に記載の対象細胞に対する細胞運動性抑制物質のスクリーニング方法において、被検物質が遺伝子を含む核酸であることを特徴とする、対象細胞の細胞運動性抑制物質をコードする遺伝子のスクリーニング方法。
(22) 前記(19)に記載の対象細胞に対する細胞運動性抑制物質のスクリーニング方法において、被検物質がsiRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、又は細胞内でこれらのRNA分子を発現できるDNA分子であることを特徴とする、対象細胞に対し細胞運動性抑制機能を有するsiRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNAもしくはリボザイムのスクリーニング方法。
(23) 前記(19)〜(22)のいずれかに記載の対象細胞に対する細胞運動性抑制物質のスクリーニング方法において、前記対象細胞が癌細胞であることを特徴とする、癌細胞の走化性抑制物質のスクリーニング方法。
したがって、本発明は、細胞運動性に関わる遺伝子群、および促進的・抑制的性質を持つ化合物のスクリーニングに対して有効である。
たとえば、解析したい遺伝子を標的とするsiRNAを細胞へベクターと同時にトランスフェクションしたり、低分子を固定化し導入したりすることで、簡便かつ効率的に創薬ターゲット遺伝子やリード化合物の同定が可能となる。特に癌をターゲットにした創薬の開発への応用が期待できる。
本明細書において、「トランスフェクション法」とは、遺伝子やsiRNAを発現・機能させるために細胞内にこれら分子を導入する手法である。DNAのサイズや電荷、あるいは細胞に備わっている酵素や膜といった防御機構により取り込み効率が左右されるが真核細胞の適切な環境下でおける外来のDNAを取込み及びその一部の核移行するとい現象を利用した、DEAE-dextran法、リン酸カルシウム法、プロトプラスト融合法、ウイルスベクター法や、より直接的に核酸を導入するマイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法が挙げられる。特に広く普及しているのがリポフェクション法である。陽イオン性の脂質(トランスフェクション試薬)にリポソームを形成させ、そのリポソームが核酸と相互作用して複合体をつくり、その複合体が細胞に取込まれることで、核酸が細胞導入される。本明細書においてトランスフェクション法を用いた細胞の機能解析手法を「トランスフェクションアレイ(TFA)」といい、そこに用いるチップを「トランスフェクション用チップ」ともいう。
したがって本明細書における「トランスフェクションアレイ」とは先行特許国際公開番号:WO2005/001090(特許文献4)にあるように、リポフェクション法を改良しコーティングされた基板上にトランスフェクション試薬と核酸の複合体をトランスフェクション促進剤、接触試薬とともに固定化し、そこに目的とする細胞を播種することで簡便に多様な遺伝子やsiRNA、また低分子化合物を発現した種々の細胞をアレイ化できる手法である。
たとえば、本発明の「基板の素材」としては、スライドガラスが一般的であり、その表面を細胞運動促進剤として知られている、TypeIコラーゲンなどのECMでコーティングして用いることが好ましい。
また本発明の「接触試薬」としては、本明細書の実施様態ではゼラチンを用いているが、フィブロネクチン、TypeIVコラーゲン、ビトロネクチン、ラミニンなどの「細胞外マトリックス(ECM)」も同様に用いることができる。(特許文献3)
本発明の「トランスフェクション試薬(TF試薬)」としては、一般的に核酸キャリアとして用いられるものであれば何でもよいが、カチオン性ポリマーであるポリエチレンイミン、ポリリシンなどが好ましく、DNAなど核酸との複合体として用いられる。
本発明の「トランスフェクション促進剤」としてはフィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなどのECMやグルコース、シュークロースなどの多糖類が用いられる。(特許文献3、非特許文献8)本明細書中では、フィブロネクチンを用いている。フィブロネクチンは、ほぼどのような細胞種であってもトランスフェクション効率を高めるので通常もっとも好ましいが、ラットPC12細胞などの場合はコラーゲンIVが有効であるという例外もある。(非特許文献4)。
本発明の細胞運動性評価チップは、
(a)複数の被検物質を用意し、各被検物質と共に、第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸、トランスフェクション試薬、接触試薬、第2の標識により標識化されたトランスフェクション促進剤を含む懸濁液を調製する工程、
(b)基板上の決められた複数の位置に、工程(a)で得られた各懸濁液をスポットする工程、
(c)工程(b)でスポットされた懸濁液を乾燥し、固相化する工程、
の少なくとも3段階で作成することができる。
ここで、工程(a)における懸濁液では、第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸とトランスフェクション試薬は、静電的に結合した状態である。被検物質が被検核酸である場合には、当該被検核酸も同様にトランスフェクション試薬と静電的結合される。被検核酸が発現ベクター中に挿入されている場合、蛍光タンパク質をコードする遺伝子と同一ベクター上に存在することが好ましい。
これらの核酸物質の導入方法としては、本発明の実施態様ではリポフェクション試薬を用いた固相からのトランスフェクション法により導入したが、ウイルスベクターを用いてもよく、さらにトランスフェクション試薬(核酸キャリア)を適宜選択することで、直接核酸物質を静電結合により結合させた状態で導入することも可能である。
工程(a)に先立ち、細胞運動促進剤で基板をコーティングする工程を設けることもできる。
このようにして作成した細胞運動性評価チップは、対象となる細胞の培養液に浸して、被検物質による対象細胞に対する運動性の変化の程度を評価する方法、及び/又は対象細胞に対する細胞運動性抑制物質のスクリーニング方法に、直ちに供することもできるが、凍結保存が可能である。たとえば、-20℃で半年間凍結保存した後でも用いることができる。
細胞の培養液に浸すための手法としては、まずプラスチックディッシュ上にチップを置き、その上に細胞含有培養液をかけることで行う。
本発明の播種する「細胞」としては、遺伝子導入可能な細胞であればどのような細胞であっても適用できるが、細胞運動性の高いいわゆるケラトサイト様運動を示す細胞が望ましい。本発明においては、ラット膀胱癌由来細胞NBT−L2a、NBT-L2b、NBT-L1やヒト膀胱癌由来細胞T24などを用いる。
また、本発明で観察細胞への運動性を変化させるスクリーニング対象物質としては、典型的には、各種遺伝子を含むプラスミドDNA、オリゴヌクレオチド、リボザイム、siRNA等の核酸、抗体、酵素、サイトカイン類などのタンパク質、又は各種低分子化合物の薬剤などである。これら対象物質により細胞を刺激(Input)する手法としては、通常のトランスフェクションアレイと同様の手法が適用できる。たとえば、shRNA発現ベクターやsiRNAのトランスフェクション法、cDNAライブラリー発現ベクターのトランスフェクションによる遺伝子過剰発現法を用いる。また、対象物質が薬剤、リガンドなどの化学物質の場合、直接懸濁液中に添加する。そして、ロボットによる自動化システム、384ウェルなど多数ウェル分析による集積化、アレイ化により、さらなるハイスループット化が可能である。
その際のフィブロネクチンなどECMに対する第1の標識は、ローダミンなどの蛍光色素や量子ドットなど蛋白を標識できるものであれば特に限定はされない。
また、第2の標識となる細胞に対して導入する蛍光蛋白遺伝子としては、EGFP、mCherryなどフィブロネクチンの標識に用いた蛍光色素と蛍光波長がかぶらないものであれば、光変換タイプであっても特に限定はされない。また、トランスフェクションにより導入され細胞が標識される物質であれば、蛍光蛋白遺伝子でなくてもかまわない。
たとえば、スポット場所をローダミンラベルによる赤色の蛍光で標識し、スポット場所に接着した細胞を緑色蛍光標識できるEGFP発現ベクターをスポットの際の混合液に加えておけば、その後細胞を播種すると、EGFP遺伝子が導入されている細胞は、緑色蛍光を発しているのでスポット場所からの移動が容易に、しかも経時的に観察可能である。系に添加したsiRNAや薬剤が細胞の運動性に変化を及ぼす様子が赤色のスポット場所から緑色の蛍光を発する細胞がどれだけ移動したのかで評価することができる。
量子ドットなどは表面を化学的に修飾することでタンパク質や抗体へ直接標識し、第1もしくは第2の標識として用いることができる。本発明における細胞の観察は、第1及び第2標識のいずれもが蛍光色の場合には、蛍光顕微鏡を用いることができる。発光の場合には、高感度カメラで検出する。
(基板の前処理)
トランスフェクションアレイ基板としては、未処理のスライドガラス;Matsunami Glass Ind.,LTD.,JPN)を室温で一晩MHDS処理したものを、アセトン続いて超純水中で超音波洗浄し、乾燥させたものを0.001%のtype I コラーゲンに浸し37度で一晩置いた後に、PBSで2度洗浄したものを用いる。なお、NBT-L2a、 T24については上記コラーゲン濃度が最適であるが、細胞によりその濃度は変動することが予想されるため、限定はされない。またType Iコラーゲン以外のECMを用いてもかまわない。
フィブロネクチンへのローダミンラベルはEZ-LabelTM Rhodamine Protein Labeling Kit (PIERCE)を用いて同社のプロトコルに従い行った。フィブロネクチン(1mg/vial; ライフ研究所)をBupHTM Borate Buffer 250 μlに溶解した。Rhodamine液は、No-WeighTM Pre-Measured Rhodamine Protein Labeling RegentにDMFを100μl加えて調整した。溶解したフィブロネクチン100μlにRhodamine液10μlを加え混合した。室温で1時間静置した後に、Slide-A-LyzerR MINI Dialysis Unitsに混合液を移し、500mLのBupHTM Phosphate Buffered Salineで一晩透析した。回収量に応じてPBSを加え、終濃度2mg/mlとなるよう調整した。
プロトコルの詳細は、特願2001−511153や国際公開番号 : WO2005/001090を参照のこと。
トランスフェクションマイクロアレイは、プラスミドDNAやsiもしくはshRNAなどの被験物質をトランスフェクション試薬、接着試薬、トランスフェクション促進剤と混合した懸濁液を、インクジェットプリンタの要領でガラス基板上にプリントすることで作成する。
この基板上に任意の細胞を播種し培養することで、上記懸濁液がプリントされた領域においては、細胞に懸濁液中の核酸物質などの被験物質が導入され、細胞が形質転換を起こす。ガラス基盤上へ最大1500種の懸濁液の集積化が可能であるため、1枚の基板上で1500通りに形質転換した細胞を観察することが理論上可能となる。
具体的には、トランスフェクション試薬としてLipofectAMINE 2000(11668−019、Invitrogen corporation、CA)を含有する試薬を選択した。7.5μlのDMEMでpEGFP(1μg/μl) 1μlおよびsiRNA(20μM)7.5μlを希釈した。希釈液に2μlのLipofectAMINE2000を添加し、得られた混合物を室温にて静置して脂質DNA複合体を形成させた。さらに蛍光ラベルしたフィブロネクチン(2μg/μg)を5μlさらにゼラチンを5μl加え、ピペッティングを5回行い混合した。10μl用ピペットチップを用いて、30μlのトランスフェクション複合体を基盤にスポットし、これを斜光しデシケータ内で乾燥させた。
上記のように調製して得られた固相系トランスフェクションアレイ に、細胞を播種し、培養し、形質転換細胞を得ることができる。細胞の種類としては所望の遺伝子の宿主となり、かつ細胞運動性の高いいわゆるケラトサイト様運動を示す細胞が望ましく、例えば酵母菌、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等を使用することができる。添加する細胞は、例えばNBT-L2a (RIKEN Bioresource center; RCB1372)の場合、37℃、5%CO2下で抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)、終濃度10%のFBS、0.1mM Non Essential Amino Acid (NEAA)、1mM Sodium pyruvateを含有するMEM培地にて培養した。T24(RIKEN Bioresource center; RCB0431)は37℃、5%CO2下で抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)、終濃度10%のFBSを含有するMEM培地にて培養した。固相系トランスフェクションアレイへは2〜4×105cells/ 1 Arrayの条件で播種し、3時間後に10%のFBS を含有するF12/DMDM培地に交換しその後24時間培養した。
細胞は蛍光顕微鏡を用いて経時観察を行った。
上記方法を用いて、以下に示す実施例を行った。
(実施例1)コラーゲンコートしたガラス基板上での細胞運動性(NBT-L2a, T24)の経時観察
トリプシン処理によりプラスチックディッシュからはがしたNBT-L2a細胞、T24およびHela細胞を、NEAA、血清を含むMEM培地に懸濁し、0.001%Type Iコラーゲンでコートしたガラス基板にそれぞれ播種した。3時間CO2インキュベータ内で培養したのちに血清を含むF12/DMDM培地に交換し、蛍光顕微鏡を内包したインキュベーター型画像取得装置(EVE: Olimpusとの試作品)にセットした。それぞれの細胞は10分おきに24時間にわたり位相差画像を取得した(図では0分から190分までの画像を示す)。各矢印はそれぞれ典型的なケラトサイト様運動をする細胞を連続的に示した。結果、種々の解析に用いられる細胞であるHela細胞は播種された場所に定着して増殖を行うといった、静的な動態をとるが、一方NBT-L2aやT24はケラトサイト様運動を活発に行い、播種後正着した場所にとどまらない動的な動態を取ることが明らかとなった。(図1)
<結果>
平均的なNBT-L2aは1時間で約100μm, T24は約20μm運動することが判った。コントロールとしてHeLa細胞を同様の条件で培養したが、その運動は全く観察されなかった。
固相系トランスフェクションアレイにおけるプラスミドDNAの導入効率、およびsiRNA量の検討
<方法>
トランスフェクション試薬としてLipofectAMINE 2000(11668−019、Invitrogen corporation、CA)を含有する試薬を選択し、7.5μlのDMEMでpEGFP(1μg/μl) 1μlおよびsiRNA(20μM)7.5μlを希釈した。希釈液に2μlのLipofectAMINE2000を添加し、得られた混合物を室温にて静置して脂質−核酸複合体を形成させた。さらに蛍光ラベルしたフィブロネクチン(2μg/μg)を5μlさらにゼラチンを5μl加え、ピペッティングを5回行い混合した。10μl用ピペットチップを用いて、30μlのトランスフェクション複合体を基板にスポットし、これを斜光しデシケータ内で乾燥させた。
被検核酸モデルとして、Anti-GFP siRNAを用いた。
その際、懸濁中へ加えるsiRNA量を変化させることにより、有効な遺伝子発現抑制効果を得られるsiRNA量の最適化を行った。懸濁中に20nMのnon-target siRNAおよびEGFPに特異的なsiRNA(anti-GFP siRNA)をそれぞれ0、3.5、7、10.5 μlずつ添加し、基盤へスポットした。
その後、実施例1と同じ条件で細胞を播種した。具体的には、NBT-L2a (RIKEN Bioresource center; RCB1372)細胞を、37℃、5%CO2下で抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)、終濃度10%のFBS、0.1mM Non Essential Amino Acid (NEAA)、1mM Sodium pyruvateを含有するMEM培地にて培養した。T24(RIKEN Bioresource center; RCB0431)は37℃、5%CO2下で抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)、終濃度10%のFBSを含有するMEM培地にて培養した。固相系トランスフェクションアレイへは2〜4×105cells/ 1 Arrayの条件で播種し、3時間後に10%のFBS を含有するF12/DMDM培地に交換しその後24時間培養した。
そして、培養27時間後にEGFPの発現量を蛍光顕微鏡で観察し、次いで、NBT-L2aと同様にT24を播種し蛍光顕微鏡で画像を取得した。
<結果>
・ プラスミドDNAの導入効率
培養後、蛍光顕微鏡(IX81; オリンパス)にて蛍光タンパクを発現する細胞を確認したところ、1スポットあたり、EGFPを発現する細胞数はNBT-L2aの場合約80〜300個であった。なお、T24の場合は約30〜110個であった。
・siRNA量の検討
NBT-L2a細胞において、Anti-GFP siRNAが3.5μlの場合、non-targeted siRNA の場合と比較して、EGFPの発現量に差が見られなかった。
7μl, 10.5μlの場合のスポットでは、non-targeted siRNAを含有するスポットではEGFPの蛍光が観察されたが、Anti-GFP siRNAを含有するスポットでは蛍光はほとんど観察されなかった。(図4)
・まとめ
上記二つの結果を総合して、NBT-L2a 、T24はプラスミドDNAおよびsiRNAが固相系トランスフェクションされること、また7μl以上のsiRNAが細胞内に導入されると、遺伝子発現抑制効果がみられることが確認された。
固相系トランスフェクションアレイ基板上での細胞運動性遺伝子阻害時における細胞運動性
<方法>
siRNAとして、wasf2に対する2種のsiRNA(Qianen; Product name: Rn LOC313024 1 HP siRNA, Rn LOC313024 3 HP siRNA)をそれぞれ用いて、実施例2と同様の操作を行った。すなわち、これらsiRNAを含む懸濁液を調製してチップを作成した後に、NBT-L2a細胞を播種し、培養したのちに蛍光顕微鏡(IX81; オリンパス)にて蛍光タンパクを発現する細胞を確認した。
<結果>
Rn LOC313024 1 HP siRNAが導入されたNBT-L2a細胞においてRhodamineラベル下スポット領域内に多くのGFP発現細胞が確認された。一方コントロールであるnon-targeted siRNA, Cy3-labeled siRNAやRn LOC313024 3 HP siRNAを導入させた領域ではスポット領域外に多くのGFP発現細胞が確認された。(図6)
このことから、細胞運動性を抑制するsiRNAが簡便に評価できること、またそのsiRNAを標的とする遺伝子の情報から有用な遺伝子を簡便に同定できることが示された。
Claims (18)
- 被検核酸に応じた細胞の運動性の変化を評価するためのチップであって、基板表面の複数の決められた位置に、それぞれ異なる被検核酸が、第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸、トランスフェクション試薬、接触試薬、及び第1の標識の蛍光色と異なる蛍光色を示す第2の標識により標識化されたトランスフェクション促進剤と共に、固相化したスポットとして設けられていることを特徴とする、細胞運動性評価用チップ。
- 前記基板表面が、あらかじめ細胞運動促進剤でコートされていることを特徴とする請求項1に記載の細胞運動性評価用チップ。
- 前記細胞運動促進剤がTypeIコラーゲンであることを特徴とする、請求項2に記載の細胞運動性評価用チップ。
- 前記トランスフェクション促進剤が細胞外マトリクス(ECM)及び多糖類から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞運動性評価用チップ。
- 前記接触試薬がゼラチン又は細胞外マトリクス(ECM)であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞運動性評価用チップ。
- 前記トランスフェクション試薬が、カチオン性ポリマーである請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞運動性評価用チップ。
- 前記第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子がEGFPをコードする遺伝子であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞運動性評価用チップ。
- 前記第2の標識がローダミンであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞運動性評価用チップ。
- 前記被検核酸が、発現ベクターに挿入されたもしくは挿入されていないDNA分子であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞運動性評価用チップ。
- 前記被検核酸が、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、もしくはリボザイム、又は細胞内でこれらのRNA分子を放出できる発現ベクターであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞運動性評価用チップ。
- 前記被検核酸が発現ベクターに挿入されている場合に、第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子も同一の発現ベクター中に挿入されていることを特徴とする、請求項9又は10に記載された細胞運動性評価用チップ。
- 前記固相化されたスポットにおいて、第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸と共に被検核酸が、トランスフェクション試薬と静電的に結合していることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載された細胞運動性評価用チップ。
- 請求項1〜12に記載のいずれか1項に記載の細胞運動性評価チップを製造する方法であって、下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする細胞運動性評価チップの製造方法、
(a)複数の被検核酸を用意し、各被検核酸と共に、第1の標識となる蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸、トランスフェクション試薬、接触試薬、第1の標識の蛍光色と異なる蛍光色を示す第2の標識により標識化されたトランスフェクション促進剤を含む懸濁液を調製する工程、
(b)基板上の決められた複数の位置に、工程(a)で得られた各懸濁液をスポットする工程、
(c)工程(b)でスポットされた懸濁液を乾燥させ、固相化する工程。 - 前記工程(a)に先立ち、基板表面を細胞運動促進剤でコーティングする工程を設けることを特徴とする請求項13に記載の細胞運動性評価チップの製造方法。
- 請求項1〜12に記載のいずれか1項に記載の細胞運動性評価チップを用いて、当該チップ表面の各スポット領域に存在する被検核酸による対象細胞に対する運動性の変化の程度を評価する方法であって、当該チップ表面の全スポット領域に対象細胞を播種し、当該細胞を培養しながら、又は培養終了後に、チップ表面の各スポットの領域において、第1の蛍光標識タンパク質遺伝子が導入され発現している細胞の位置を示す第1の蛍光標識と、第1の標識の蛍光色と異なる蛍光色でスポットが占める領域を示す第2の標識との位置関係の変化の程度を観察することを特徴とする、被検核酸による対象細胞に対する運動性の変化の程度を評価する方法。
- 請求項15に記載の、被検核酸による対象細胞に対する運動性の変化の程度を評価する方法を用いることを特徴とする、対象細胞に対する細胞運動性抑制物質のスクリーニング方法。
- 請求項16に記載の対象細胞に対する細胞運動性抑制物質のスクリーニング方法において、被検核酸がsiRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、又は細胞内でこれらのRNA分子を発現できるDNA分子であることを特徴とする、対象細胞に対し細胞運動性抑制機能を有するsiRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNAもしくはリボザイムのスクリーニング方法。
- 請求項16又は17に記載の対象細胞に対する細胞運動性抑制物質のスクリーニング方法において、前記対象細胞が癌細胞であることを特徴とする、癌細胞の走化性抑制物質のスクリーニング方法。
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