JP5020239B6 - インスリン抵抗性病態を示す疾患の検出方法 - Google Patents

インスリン抵抗性病態を示す疾患の検出方法 Download PDF

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本発明は、インスリン抵抗性病態を示す疾患、特に2型糖尿病の検出方法に関し、より詳しくは血中ガングリオシドGM3量を測定することによる2型糖尿病の検出方法に関する。
糖尿病は現在生活慣習病の中核として現代の国民病と呼ばれ、その予防・治療方法の開発は急務である。糖尿病の発症機構は解明されていないが、血糖を低下させるホルモンであるインスリンの不足(インスリン分泌不全)とインスリン作用障害(インスリン抵抗性)という2つの病態が混在していると言われている。また、通常、糖尿病は、(1)インスリンをつくる膵臓のβ細胞まで破壊され、インスリンを補充し続けなければならない1型;(2)インスリンの分泌不足やインスリンの働きが悪くなっている2型;(3)特定の原因によるその他の糖尿病;(4)妊娠糖尿病等に分類されている。
1型糖尿病は、自己免疫疾患の一つであり、臨床的にインスリン依存型糖尿病と呼ばれることもある。1型糖尿病では、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が自己の免疫系から攻撃を受け破壊される。インスリンは、血液中の糖を細胞に吸収させ、血糖値を下げる働きをもっているホルモンで、その分泌が減ると、血液中の糖は増え、細胞中の糖は不足する。この状態が続くと、細胞は生命活動を維持できなくなるので、さまざまな臓器障害、失明や足の壊死がもたらされることになる。1型糖尿病のモデルマウスは公知であり、そのモデルマウスを用いて1型糖尿病の治療に関する研究も進んでいる(例えば、Science.2003 Nov14;302(5648):1223−7参照)。
2型糖尿病は、臨床的視点からインスリン非依存型糖尿病と呼ばれることもあり、膵臓のβ細胞におけるインスリン分泌不全と、インスリン抵抗性とによって発症する。インスリン分泌不全とインスリン抵抗性のどちらが強く関わっているかは個々の症例あるいは各症例の経過によって異なるが、混在していることも多い。インスリン分泌不全は、正常な場合は、食事をとりブドウ糖が吸収され血糖値が上がり始めると、それに対応して瞬時にインスリンが分泌されるが、インスリン分泌不全の状態では、この反応が欠如し、血糖の上昇に遅れてインスリンが分泌される。
2型糖尿病は、インスリン作用の相対的な不足が原因で発症する。多くの場合、全身のインスリン抵抗性が認められるが、以前は経験的にしか理解されていなかった肥満、過食あるいは運動不足と全身のインスリン抵抗性発症の関連性が、最近になって、分子レベルで解明されてきた。インスリン抵抗性は、「インスリン感受性の細胞または臓器が生理的レベルのインスリンに対する反応性が低下している状態」と定義され、2型糖尿病の病態生理の最も上流に位置する。
これまで、単なるエネルギー貯蔵臓器としてしか捉えられてこなかった脂肪組織は、実はアディポサイトカインと総称される多彩な生理活性物質を産生する生体最大の内分泌臓器であることが知られるようになってきた。特に、肥満における内蔵脂肪の過剰蓄積に伴う脂肪細胞の機能異常、すなわちアディポサイトカインの分泌異常(例えば、炎症性サイトカインTNFαの過剰分泌やアディポネクチンの分泌低下など)が、インスリン抵抗性を惹起し2型糖尿病や動脈硬化性疾患の多彩な病態の成因として重要な役割を果たしていることが明らかにされている。最近、白色脂肪組織においてマクロファージが浸潤され脂肪組織中に侵入し炎症性サイトカインを分泌し、その結果インスリン抵抗性を惹起することが見いだされ、脂肪組織に潜在する骨髄系細胞の病態生理が注目されている。
インスリン受容体はガングリオシド(スフィンゴ糖脂質)、スフィンゴミエリン、コレステロールなどの相転移温度が高い脂質群が集積して形成される細胞膜カベオラマイクロドメインに存在している。脂肪組織の主要なガングリオシドはGM3と呼ばれるものである。TNFαで刺激した脂肪細胞や典型的な肥満糖尿病モデル動物の脂肪組織では、ガングリオシドGM3およびその合成酵素遺伝子の発現が著しく増加している事が報告されている(Tagami et al.J.Biol.Chem.Vol.277,3085−3092,2002)。また、インスリン代謝性シグナルの欠損とGM3の過剰蓄積によるインスリン受容体のマイクロドメインからの解離との関係についても報告されている(Kabayama et al.Glycobiology Vol.15,21−29,2005)。
一方、現在2型糖尿病の血液診断は、一般的に血糖値、HbAlc値、グリコアルブミン値などを指標に診断されている。血糖値は、血液中のブドウ糖濃度を測定した値である。HbA1cは、赤血球のヘモグロビンにブドウ糖が結合した糖化タンパク質を意味し、これが全ヘモグロビンに対してどのような割合で存在するかを測定する。赤血球寿命(120日)から、過去1乃至2ヶ月の血糖コントロール状態を反映するものと考えられる。
また、グリコアルブミン(GA)は、アルブミンの半減期が17日であるため、過去2週間から1ヶ月の血糖コントロール状態を反映すると考えられる。HbA1cと比較すると、早く大きな変動を観察できるので、治療効果の把握、薬剤投与量の指標として有用である。
しかし、2型糖尿病の病状を正確に把握するためには、これらの測定方法を組合わせる必要がある。
また、原島らは、特開2005−253434号公報において、各種遺伝子の発現解析による診断方法を開示している。しかし、この方法の場合、各種遺伝子の発現解析を要するもので簡便な操作で診断をすることはできない。
上記のような状況において、より簡便かつ正確な2型糖尿病の検出方法の開発が望まれている。
本発明者は、2型糖尿病の検出方法について鋭意研究した結果、血中ガングリオシドGM3の定量によって、簡便にインスリン抵抗性病態を示す疾患、特に2型糖尿病を検出することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下に示す、インスリン抵抗性病態を示す疾患の検出方法、インスリン抵抗性病態を示す疾患発症リスクの予測方法などを提供する。
(1)生体から分離した血液試料中のガングリオシドGM3を定量することを含む、インスリン抵抗性病態を示す疾患の検出方法。ここで、「インスリン抵抗性病態を示す疾患」とは、インスリンの代謝性シグナルが抑制され、インスリン非依存性となった病態を示す疾患をいい、例えば2型糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満等を含む。以下、「インスリン抵抗性病態を示す疾患」を「インスリン抵抗性疾患」と略記することもある。
(2)生体から分離した血液試料がヒトから分離したものである、上記(1)記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の検出方法。
(3)ヒトから分離した血液試料がヒト血漿又は血清である、上記(2)記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の検出方法。
(4)(a)採取したヒト血液から血漿又は血清を分離する工程、
(b)分離した血漿又は血清中のガングリオシドGM3を定量する工程、及び
(c)定量したGM3量を健常人由来の血液試料における平均的ガングリオシドGM3量と比較する工程、
を含む、上記(1)記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の検出方法。
(5)前記ガングリオシドGM3の定量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)、高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)またはガスクロマトグラフィー−マススペクトロメトリー(GC−MS)によって行う、上記(4)記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の検出方法。
(6)インスリン抵抗性病態を示す疾患が2型糖尿病、高脂血症、高血圧または肥満である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の検出方法。
(7)インスリン抵抗性病態を示す疾患が2型糖尿病である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の検出方法。
(8)被験者から採取した血液試料中のガングリオシドGM3量の変動を調べることによってインスリン抵抗性病態を示す疾患の発症リスクを予測する方法。
(9)被験者から分離した血液試料がヒト血漿又は血清である、上記(8)記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の発症リスクを予測する方法。
(10)(a)採取したヒト血液から血漿又は血清を分離する工程、
(b)分離した血漿又は血清中のガングリオシドGM3を定量する工程、及び
(c)工程(b)で測定したガングリオシドGM3量と、被験者の正常時の血中ガングリオシドGM3量とを比較する工程、
を含む、上記(9)記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の発症リスクを予測する方法。
(11)前記ガングリオシドGM3の定量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)、高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)、ガスクロマトグラフィー−マススペクトロメトリー(GC−MS)または抗GM3抗体を用いた酵素免疫複合体測定法(ELISA)によって行う、上記(10)記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の発症リスクを予測する方法。
(12)被験者から定期的に血液試料を採取し、採取した血液試料中のガングリオシドGM3量の変動をモニターする、上記(8)記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の発症リスクを予測する方法。
(13)インスリン抵抗性病態を示す疾患が2型糖尿病、高脂血症、高血圧または肥満である、上記(8)〜(12)のいずれかに記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の発症リスクを予測する方法。
(14)インスリン抵抗性病態を示す疾患が2型糖尿病である、上記(8)〜(12)のいずれかに記載のインスリン抵抗性病態を示す疾患の発症リスクを予測する方法。
(15)標準物質としてのガングリオシドを含有する、インスリン抵抗性病態を示す疾患の検出キット。
図1は、血漿中のGM3量を定量した結果を表す。
図2は、血漿中のGM3値とGA値の相関関係を調べた結果を表す。
図2Aは、健常人の血漿中のGM3値とGA値の相関関係を調べた結果を表す。
図2Bは、2型糖尿病患者の血漿中のGM3値とGA値の相関関係を調べた結果を表す。
図3は、BMI値とGM3値(A)、およびアディポネクチン値(B)の相関関係を示す。GM3値は図1と同様に測定し,血漿アディポネクチンは,アディポネクチン測定キット(大塚製薬株式会社試薬診断薬事業部:http://www.otsuka.co.jp/shindan/kenkyu/mouse/index.html)を用いて行った。
1.発明の概要
現在、2型糖尿病の血液診断は、血糖値、HbA1c値、グリコアルブミン値などの測定により行われている。本発明者は、2型糖尿病/肥満モデル動物では、正常動物に比較して、ガングリオシドGM3の著しい発現増加が起きており、さらに、このGM3の増加はインスリン抵抗性の原因となっている可能性を見出した。すなわち、インスリン抵抗性の病態を示す生活習慣病、例えば2型糖尿病、高脂血症、高血圧、あるいは肥満などへのGM3の関与が示唆された。この知見を基に、ヒトの血漿中のガングリオシドを分析したところ、ガングリオシドGM3が有意に増加していることが明らかとなり、この結果から新規のインスリン抵抗性病態を示す疾患、特に2型糖尿病の診断方法を開発した。
より詳しく述べると、血液中の血球成分を除いた血漿または血清中には、ガングリオシドGM3を主成分として、GD3、GD1a、GM2およびGT1bなどが存在していることが知られている(Arch.Biochem.Biophys.vol.238,388−400,1985,Eur.J.Biochem.181,657−662)。また、血漿または血清中のガングリオシド量は、自己免疫疾患(Sera et al.,J.Neurological Sciences,vol.52,143−148,1982)や胃がん(J.Clin.Lab.Anal.Vol.3,301−306,1989)で増加傾向が認められることが報告されているが、2型糖尿病患者におけるガングリオシドに関する報告は現在までない。さらに、血漿または血清中のガングリオシドの由来は肝臓やマクロファージなどの血球系細胞が推定(Bergelson,Immunology Today,vol.16,483−486,1995)されているが明確ではなかった。従って、肥満およびインスリン抵抗性状態における脂肪細胞または脂肪組織のガングリオシドGM3発現の増加が血液試料において検知し得るか否かは全く不明であった。このような状況で、本発明者は、インスリン抵抗性病態を示す疾患、特にヒト2型糖尿病の患者の血漿中には、ガングリオシドGM3が高値かつ血液中のガングリオシド分子群の中でも選択的に増加していることを見いだしたものである。さらに、ヒト2型糖尿病の患者の血漿中のガングリオシドGM3量の増加は、高血糖のパラメーターとは相関せず、2型糖尿病をはじめとする複雑なメタボリック症候群の病態を新たな角度から検出することが出来る新規な診断方法として有用であることを見いだし、本発明を完成させたものである。以下、2型糖尿病を標的として、詳細に記述する。
2.インスリン抵抗性疾患の検出・診断方法
まず、本発明は、生体から分離した血液試料中のガングリオシドGM3を定量することを含む、インスリン抵抗性病態を示す疾患、特に2型糖尿病の検出方法を提供する。ガングリオシドとは、シアル酸残基を含むスフィンゴ糖脂質の総称をいい、哺乳動物の細胞壁の成分である。血漿中のガングリオシドとしてはGM3が最も多く存在し、続いてGD3、GD1a、GM2、GT1bなどが存在することが知られているが(Senn et al.,Eur.J.Biochem.181,657−662,1989)、本発明は、その内、GM3の血中量を指標としてインスリン抵抗性疾患の検出を行うものである。インスリン抵抗性疾患としては、2型糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満等をあげることができる。特に、高脂血症を伴う2型糖尿病の検出には有効である。
本発明の検出方法は、ヒトの診断方法に限定されず、ネコ、ウサギ、ヒツジ、イヌ、サル、ウマ、ウシなどの哺乳動物の診断に適用することができる。しかしながら、インスリン抵抗性疾患の診断方法は生活習慣病であり、本発明の検出方法は特にヒトにおける診断を対象としている。この場合は、ヒトから分離した血液試料を用い、好適にはヒト血漿又はヒト血清を血液試料として診断に用いる。
より具体的には、本発明は、
(a)採取したヒト血液から血漿又は血清を分離する工程、
(b)分離した血漿又は血清中のガングリオシドGM3を定量する工程、及び
(c)定量したGM3量を健常人由来の血液試料における平均的ガングリオシドGM3量と比較する工程、
を含む、インスリン抵抗性病態を示す疾患、特に2型糖尿病の検出方法を提供する。
ここで「ヒト」とは健常者および被験者の両者を指し、両者から得られた結果を比較することにより、インスリン抵抗性病態を示す疾患、特に2型糖尿病の是非を診断することができる。「被験者」とは、本発明の診断を受ける対象者をいい、インスリン抵抗性病態を示す疾患、特に2型糖尿病患者および2型糖尿病の疑いがある患者を含む。
また、「健常人由来の血液試料における平均的ガングリオシドGM3量」は、その地域、国など特定の領域に在住の健常人をランダムに抽出し、それらの健常人の血中ガングリオシドGM3量を測定することによって求めることができる。一般的に、健常人由来の血液試料における平均的ガングリオシドGM3量は、3.0〜6.5nmol/mlの範囲に入るので、この数値を指標として、被験者がインスリン抵抗性病態を示す疾患、特に2型糖尿病患者であるか、2型糖尿病の疑いがある患者であるか診断することができる。
まず、上記工程(a)において、採取したヒト血液から血漿又は血清を分離する。血液試料から血漿又は血清を分離する方法は、当業者に既知の方法、例えば、臨床検査技術学第3版(菅野剛史・松田信義著、医学書院)に記載の方法(真空採血またはシリンジ採血)を用いることができる。具体的には、全血をEDTA添加採血管にに採取し、転倒混和後、1,500 x g,10分間遠心することによって、全血から血漿を分離することができる。また、全血を血清分離剤の入った採血用試験管に採取し、転倒混和後、室温で20分間放置後、上記と同様に遠心分離後、上清を採取し、血清を得ることが出来る。測定対象となる血液試料は、前処理を行うことによって、より高感度かつ、より高精度な測定が可能となるので、適当な方法によって前処理してから測定を行うことが好ましい。前処理においては、例えば、遠心分離、有機溶剤等による除蛋白、有機溶剤による抽出、酸または塩基による振分け、アミノプロピルカラムの利用等を挙げることができる。
次に、工程(b)において、工程(a)において分離した血漿又は血清中のガングリオシドGM3を定量する。ガングリオシドGM3の定量は、特にこれに限定するわけではないが、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)、高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)、ガスクロマトグラフィー−マススペクトロメトリー(GC−MS)または抗GM3抗体を用いた酵素免疫複合体測定法(ELISA)によって行うことができる。本発明においては、特に、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)が好適である。
血漿または血清中のガングリオシドGM3の定量は、例えば、(1)血漿又は血清からガングリオシド画分を精製し、(2)そのガングリオシド画分を、例えば、高性能薄層クロマトグラフィーによって展開し、ガングリオシドGM3量を測定することによって実施することができる。
血漿又は血清からガングリオシド画分を精製する方法としては、公知の方法を用いることができる。そのような公知の方法として、Ladischらの方法(Anal.Biochem.Vol.146,220−231,1985;Methods in Enzymology vol 138,300−306,1987)を用いることができる。より具体的には、後述する実施例に記載の方法によって血漿又は血清からガングリオシド画分を精製することができる。
また、ガングリオシド画分は、高性能薄層クロマトグラフィーにて展開し、それぞれの成分に分離することができる。血漿中には、ガングリオシドGM3を主成分として、GD3、GD1a、GM2およびGT1bなどが存在しており、これらは例えば、メルク社製の高性能薄層シリカゲルクロマトグラフィー用プレートに、スポットし、当業者に既知の展開溶媒、例えば、クロロホルム:メタノール:0.2% 塩化カルシウムの比率が55:45:10(v/v)または50:35:8(v/v)を用いて、室温で展開し、分離することができる。展開後に検出された成分のスポットは、例えば、島津製作所製フライングスポットスキャナーのようなデンシトメーターを用いて、あるいはイメージアナライザーにより定量することができる。本発明においては、デンシトメーターを用いる方法が望ましい。
さらに、工程(c)においては、工程(b)において定量したGM3量を健常人由来の血液試料における平均的ガングリオシドGM3量と比較する。健常人由来の血液試料における平均的ガングリオシドGM3量は、3.0〜6.5nmol/mlの範囲に入るので、この上限を超えた場合は、インスリン抵抗性疾患、例えば2型糖尿病に罹患している、あるいは将来罹患する可能性が高いと診断することができる。
3.インスリン抵抗性疾患発症リスクを予測する方法
次に、本発明は、被験者から採取した血液試料中のガングリオシドGM3量の変動を調べることによってインスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病の発症リスクを予測する方法を提供する。
上述のインスリン抵抗性疾患の検出方法は、健常人の血中ガングリオシドGM3量と比較することによってインスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病を検出する方法に関する。しかしながら、種々の遺伝子、タンパク質などの発現レベルには個人差がある。したがって、そのような個人差を考慮した場合は、健常人の血中ガングリオシドGM3量と比較するよりも、自己の血中ガングリオシドGM3量を定期的に測定し、その血中ガングリオシドGM3量の変動をモニターすることによって、インスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病の発症リスク、あるいはインスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病に罹患しているか否かを判断したほうがより的確な場合もあり得る。そこで、この実施態様においては、自己の血中ガングリオシドGM3量の変動を調べることによってインスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病の発症リスクを予測する。
血中ガングリオシドGM3量の定量は上述した方法によって行うことができる。本発明においては、定期的(例えば、3ヶ月毎、6ヶ月毎、1年毎)に血中ガングリオシドGM3量を測定し、正常時より、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上または50%以上血中ガングリオシドGM3量が増加した場合に、インスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病の発症リスクがある、あるいはインスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病に罹患していると予測することができる。
ここで、例えば2型糖尿病の発症リスクがある、あるいは2型糖尿病に罹患していると予測された場合は、さらに、その他の2型糖尿病の診断方法によって総合的に診断し、2型糖尿病に罹患しているか否か診断することもできる。
このようなインスリン抵抗性疾患発症リスクを予測する方法によって、簡便な方法で早期にインスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病の発症リスクを検知し、2型糖尿病の発症を予防することが可能となる。
4.インスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病検出キット
本発明はさらに、上記の方法を用いることを特徴とする、インスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病の検出キットを提供する。本発明のキットには、使用説明書のほか、標準物質としてGM3、GD3、GD1a、GM2およびGT1bを含有することができる。また、GM1、シアリルパラグロボシド等の他のガングリオシドを含有してもよい。また、高性能薄層シリカゲルクロマトグラフィー用プレート、展開溶媒とするための原液(クロロホルム、メタノール、塩化カルシウム水溶液等)を含有できる。
以下本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
本研究目的のインフォームドコンセントによって同意を得られた、表1に示した健常人群(n=14)および2型糖尿病群(n=14)の健常人および2型糖尿病患者から血液を採取し、血漿を得、以下のようにガングリオシド分画を精製し、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)で展開後、分析した。
Figure 0005020239
表1は、図1および図2で血漿GM3を分析した健常人および2型糖尿病患者サンプルの血糖値,HbA1cおよびGA値を示す。
まず、採取した血液にエチレンジアミン4酢酸塩(EDTA)を添加し、混和後、1500 x gで遠心し、その上清を採取することによって血漿を得た。
次に、血漿に100%エタノールを加えて終濃度を70%とし、1,000rpmで、5分間遠心して上清を回収した。その後、再度沈殿に10倍量の70%エタノールを加えて、70℃で10分間インキュベートした。同様に1,000rpmで5分間遠心して上清を回収し、初めの抽出液と合わせてロータリーエバポレーターを用いて窒素乾固して総抽出物とした。
ガングリオシドの精製はLadischらの方法(Anal.Biochem.Vol.146,220−231,1985;Methods in Enzymology vol 138,300−306,1987)によって行った。
具体的には、得られた総抽出物にジイソプロエーテル/ブタノール(3:2)を6ml添加し、1分間超音波処理を施した。50mM NaClを3ml添加し、激しく撹拌(30秒間×2)した。1,200rpmで5分間遠心後、有機溶媒層を除去した。水層に再度ジイソプロエーテル/ブタノール(3:2)を6ml添加し、同様に激しく撹拌後、遠心して有機溶媒層を除去した。残った水層には50mM NaClを5ml添加して注射筒に装着したSep−Pak(登録商標)C18(逆相クロマトグラフィー)に全ての溶液を添加し、精製水40mlにより脱塩操作を行なった。メタノール10ml、クロロホルム/メタノール(1:1)10mlの順に溶出し、エバポレーターで濃縮し、ガングリオシド画分を調製した。
得られたガングリオシド画分は組織0.2g分全量をHPTLCプレートにスポットし、展開を行なった。展開溶媒はクロロホルム/メタノール/0.5% CaCl(60:40:9)を用い、発色試薬としてオルシノール硫酸試薬(120℃、10分間)を使用した。検出後、デンシトメーターにより定量した。その結果を図1に示す。
図1に示したように、血漿中の主要なガングリオシドであるGM3量を定量したところ、糖尿病患者群は健常人群に比較して有意な高値を示した。一方、その他のガングリオシド分子であるGD3、GD1a、GM2およびGT1bなどはHPTLCプレート上では有意な変化を認めなかった。従って、2型糖尿病などの生活習慣病病態では、血漿中のGM3レベルが健常人と比較して有意な高値を示すことが明らかになった。したがって、血漿中のGM3量は2型糖尿病患者で有意に高く2型糖尿病の新たなマーカーである。
次に、表1に示した健常人群または2型糖尿病患者群のそれぞれの群内で個々のGA値とGM3レベルの相関性を検討した。その結果を図2に示す。
図2に示したように、健常人群および2型糖尿病患者群いずれの群においても両者の相関関係は低かった。また、血糖値とGM3レベルも健常人群および2型糖尿病患者群において相関性は認められなかった。これらの結果から、血漿のガングリオシドGM3レベルは2型糖尿病患者で有意な高値を示すが、高血糖のパラメーターであるGA値や血糖値との相関性は無いことが明らかとなった。従って、2型糖尿病患者におけるGM3レベルの測定は、複雑なメタボリック症候群の病態を新たな角度から検出することが出来る新規な検出法として有用であることが明らかとなった。
以上の結果から、表1に示したようなコントロール不良な2型糖尿病患者群(HbA1c:9.6±1.9 GA値:31.5±5.0)で有意な血清GM3レベルの上昇が明らかになったことから、比較的軽度の2型糖尿病患者群における検討を行った。この際、表2に示すように「健常人」、「2型糖尿病」、「高脂血症」および「2型糖尿病+高脂血症」の各群を比較した。
Figure 0005020239
表2中、「健常人」、「2型糖尿病」、「高脂血症」および「2型糖尿病+高脂血症」の血清中のGM3値、血糖値、HbAlc値、ならびにHOMA−R(インスリン抵抗性の指標)値を示した。
その結果、2型糖尿病群(HbA1c:7.4±1.6,GA値:21±5)では血清GM3レベルは上昇傾向を認めたが有意ではなく、インスリン抵抗性の指標であるHOMA−Rも有意な上昇ではなかった。2型糖尿病+高脂血症群(HbA1c:7.3±1.0,GA値:18±6)では、HOMA−Rも3.0±2.1(p=0.03)とインスリン抵抗性を示し、血清GM3レベルは有意に上昇していた。また、高脂血症群における血清GM3値は2型糖尿病群と同様上昇傾向を示したが、健常人群との有意差はなかった。これらの結果から、インスリン抵抗性を示す高脂血症を併発している2型糖尿病群で血清GM3レベルの測定は有用であることが証明された。
次に、インスリン抵抗性の発症や病態と密接に関連するBMI(Body Mass Index)と血漿GM3レベルの関連性を検討した。その結果、図3に示すようにBMI値とアディポネクチン値は逆相関を示したが,血漿GM3値はBM1高値(BMI:>30)の糖尿病群で明らかな高値を示した。この結果からも,GM3はインスリン抵抗性を発症する肥満を伴うメタボリックシンドロームの検出・診断に有用であることが示唆された。
本発明によれば、生体から簡易に採取し得る血液試料を用い、汎用されている測定機器を用いて簡便にインスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病の診断を行うこ
また、本発明によれば、被験者から定期的に血液試料を採取し、血中ガングリオシドGM3量を測定し、血中ガングリオシドGM3量の変動をモニターすることによって、簡便にインスリン抵抗性疾患、特に2型糖尿病発症リスクの予測を行うことができる。
このような本発明の検出方法により、様々な生活習慣病に共通の病態であるインスリン抵抗性を把握できる可能性があり、新たな病態メカニズムの発見に基づく、臨床的に有用性の高い、2型糖尿病をはじめとする生活習慣病の治療戦略に寄与し得る。

Claims (13)

  1. 生体から分離した血液試料中のガングリオシドGM3を定量することを含む、2型糖尿病、高脂血症、高血圧及び肥満からなる群から選択されるインスリン抵抗性病態を示す疾患の検出方法。
  2. 生体から分離した血液試料がヒトから分離したものである、請求項1記載の検出方法。
  3. ヒトから分離した血液試料がヒト血漿又は血清である、請求項2記載の検出方法。
  4. (a)採取したヒト血液から血漿又は血清を分離する工程、
    (b)分離した血漿又は血清中のガングリオシドGM3を定量する工程、及び
    (c)定量したGM3量を健常人由来の血液試料における平均的ガングリオシドGM3量と比較する工程、
    を含む、請求項1記載の検出方法。
  5. 前記ガングリオシドGM3の定量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)、高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)、ガスクロマトグラフィー−マススペクトロメトリー(GC−MS)または抗GM3抗体を用いた酵素免疫複合体測定法(ELISA)によって行う、請求項4記載の検出方法。
  6. インスリン抵抗性病態を示す疾患が2型糖尿病である、請求項1〜5のいずれかに記載の検出方法。
  7. 被験者から採取した血液試料中のガングリオシドGM3量の変動を調べることによって、2型糖尿病、高脂血症、高血圧及び肥満からなる群から選択されるインスリン抵抗性病態を示す疾患の発症リスクを予測する方法。
  8. 被験者から分離した血液試料がヒト血漿又は血清である、請求項記載の方法。
  9. (a)採取したヒト血液から血漿又は血清を分離する工程、
    (b)分離した血漿又は血清中のガングリオシドGM3を定量する工程、及び
    (c)工程(b)で測定したガングリオシドGM3量と、被験者の正常時の血中ガングリオシドGM3量とを比較する工程、
    を含む、請求項記載の方法。
  10. 前記ガングリオシドGM3の定量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)、高速液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)ガスクロマトグラフィー−マススペクトロメトリー(GC−MS)または抗GM3抗体を用いた酵素免疫複合体測定法(ELISA)によって行う、請求項記載の方法。
  11. 被験者から定期的に血液試料を採取し、採取した血液試料中のガングリオシドGM3量の変動をモニターする、請求項記載の方法。
  12. インスリン抵抗性病態を示す疾患が2型糖尿病である、請求項7〜11のいずれかに記載の方法。
  13. 標準物質としてのガングリオシドを含有する、2型糖尿病、高脂血症、高血圧及び肥満からなる群から選択されるインスリン抵抗性病態を示す疾患の検出キット。
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