JP4997492B2 - 4−アルキルウンベリフェロンの新規医薬用途 - Google Patents
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Description
Nakamura, T., Takagaki, K., Shibata, S., Tanaka, K., Higuchi, T., and Endo, M. (1995) Biochem. Biophys. Res. Commun., 208, 470-475
また、ヒアルロン酸合成能の高いリンフォーマ細胞であるOHK細胞をMUの存在下または非存在下において培養し、培養後の細胞から調製したホモジネートに対してヒアルロン酸を基質としたザイモグラフィーを行うことで、MUによるOHK細胞のヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ)活性への影響を調べるとともに、この細胞から総RNAを抽出し、ヒアルロン酸分解酵素HYAL1の遺伝子発現をRT-PCRにより調べた。その結果、MUにはHYAL1の遺伝子発現抑制作用に基づくヒアルロン酸分解抑制活性があることを見出した。
また、OHK細胞をMUの存在下または非存在下において培養し、培地に分泌されたマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)について、ザイモグラフィーおよびウエスタンブロットを行った。その結果、OHK細胞の分泌する主なMMPはMMP-9(ゼラチナーゼB)であり、MUはこのMMP-9を濃度依存的に抑制することを見出した。また、この細胞から総RNAを抽出し、RT-PCRを行ったところ、MUにはMMP-9の遺伝子発現抑制作用があることを見出した。
また、本発明のMMP−9遺伝子発現抑制剤は、請求項2記載の通り、4−アルキルウンベリフェロンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする(但し、がんの予防・治療の用途と皮膚外用剤としての用途を除く)。
ヒアルロン酸合成酵素には、HAS1、HAS2、HAS3の3種類が存在し、HAS2は、非常に多量の高分子ヒアルロン酸(分子量100万以上)を産生することが知られている。がん組織にはヒアルロン酸が多く存在し、がん細胞は正常細胞と接触することで高分子ヒアルロン酸を産生させ、構造蛋白質を押し広げることで自身の増殖空間を確保するとともに、自身の細胞表面にあるヒアルロン酸結合蛋白質を介して正常組織に浸潤していく(必要であればKnudson, W., Biswas, C., and Toole, B.P. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 6767-6771. または Knudson, W., Biswas, C., Li, X-Q., Nemec, R.E., and Toole, B.P. (1989) The Biology of Hyaluronan, Wiley, Chichester (Chiba Found Symp 143) p 150-169を参照のこと)。本発明のHAS2遺伝子発現抑制剤は、HAS2の遺伝子発現抑制作用に基づいて、高分子ヒアルロン酸の産生を抑制することで、がん細胞の増殖・浸潤を阻害する効果を持つことから、がんの予防・治療に有用である。また、本発明のHAS2遺伝子発現抑制剤は、ヒアルロン酸の過剰産生に起因する各種の線維化疾患、例えば、慢性肝炎をはじめとする、肝、肺、腎などの各種臓器における慢性炎症性疾患に伴う線維化、胸膜中皮腫などの予防・治療にも有用である。
ヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ)は、組織における分子量100万以上の高分子ヒアルロン酸をオリゴ糖や低分子ヒアルロン酸に分解する酵素であり、1980年代、低分子ヒアルロン酸が血管新生を誘導する機能を有することが報告されて以来、これを支持する種々の研究成果が蓄積されている。血管新生は、がん組織においてはがん細胞に栄養を導く上において極めて重要であり、ヒアルロニダーゼ遺伝子を破壊したがん細胞と破壊していないがん細胞を動物に移植した場合、ヒアルロニダーゼ遺伝子を破壊したがん細胞は、ヒアルロニダーゼ遺伝子を破壊していないがん細胞と比較して、増殖の程度が極めて悪いという報告もある(必要であればSimpson, M.A., Wilson, C.M., McCarthy, J.B. (2002) Am. J. Pathol., 161, 849-57.を参照のこと)。本発明のHYAL1遺伝子発現抑制剤は、HYAL1の遺伝子発現抑制作用に基づいて、低分子ヒアルロン酸による血管新生の誘導に基づくがん細胞の増殖を阻害する効果を持つことから、がんの予防・治療に有用である。また、本発明のHYAL1遺伝子発現抑制剤は、ヒアルロン酸分解酵素に起因する各種の疾患、例えば、炎症やアレルギーの予防・治療の他、皮膚老化防止、慢性関節リウマチの予防・治療(高分子ヒアルロン酸との関節胞内混合投与による)などにも有用である。
MMPは、コラーゲンやエラスチンやフィブロネクチンやラミニンなどの繊維状蛋白質やプロテオグリカンなどの、細胞外マトリックスの構造蛋白質を分解する亜鉛含有酵素である。中でも、MMP-9は、基底膜成分であるタイプIVコラーゲンを分解する活性が非常に高く、この活性が高いがん細胞は、血管を破壊してその内部に侵入することで転移・浸潤を起こしやすいとされている(必要であればOkada, Y., Gonoji, Y., Naka, K., Tomita, K., Nakanishi, I., Iwata, K., Yamashita, K., and Hayakawa, T. (1992) J. Biol. Chem., 267, 21712-21719.を参照のこと)。本発明のMMP-9遺伝子発現抑制剤は、MMP-9の遺伝子発現抑制作用に基づいて、このようなMMP-9によるがん細胞の転移・浸潤を阻害する効果を持つことから、がんの予防・治療に有用である。また、本発明のMMP-9遺伝子発現抑制剤は、MMP-9に起因する各種の疾患、例えば、創傷治癒の遅延の他、湿疹皮膚炎や紫外線皮膚炎や角化異常症といった皮膚の炎症性疾患、血管壁プラークの不安定化による急性心筋梗塞などの予防・治療にも有用である。
(実験方法)
1.細胞培養
ヒト線維芽細胞HDFとヒト大腸癌細胞WiDrを用いた。これらの細胞を、10%ウシ胎仔血清(Biofluid, Australia)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(100units/ml Penicilin G + 100μg streptomycin sulfate, Gibco BRL)、1%ファンギゾン溶液(Gibco BRL)を含むイーグルMEM培地(IWAKI)にて5%CO2-95%air中、37℃で培養した。培養は、それぞれの細胞の50万個ずつを単独あるいは1:1で混合して100mmシャーレに播種して行った。24時間後に培地を除き、細胞層をダルベッコのCa2+およびMg2+不含リン酸緩衝液にて洗浄した後、1mMのMU(ナカライテスク)/ジメチルスルフォオキシドの存在下または非存在下で無血清イーグルMEM培地(上記の培地から血清のみを除いたもの)に交換して培養を続けた。MUの非存在下における培養は、MU溶液の溶媒として用いたジメチルスルフォオキシドのみを最終濃度が0.1%になるように加えた培地を用いて行った。
それぞれの培養系で3日間培養した後の培地を回収し、以下のようにグリコサミノグリカン画分の分画を行った。培地を2000rpmで5分間遠心し、その上清7.5mlの3倍量(22.5ml)のエタノール(食塩飽和)を加え、-20℃で1時間放置した後、4℃、10000rpmで20分間遠心した。得られた沈殿を200μlの50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0, 5mMのCaCl2を含む)に懸濁し、5%アクチナーゼ溶液10μlを加え、45℃で1時間イキュベートした。インキュベート後の反応液を氷冷し、これに氷冷した50%トリクロール酢酸30μlを加え、0℃で30分間放置した。4℃、12000rpmで20分間遠心し、上清200μlに4倍量(800μl)のエタノール(食塩飽和)を加え、-20℃で1時間放置した後、4℃、15000rpmで20分間遠心した。得られた沈殿を20μlの蒸留水に溶解し、これをグリコサミノグリカン画分とした。このグリコサミノグリカン画分を0.1Mのギ酸-ピリジン緩衝液(pH3.0)中、1mA/cmで30分間電気泳動を行った。泳動後の膜はアルシアンブルーで染色した。
グリコサミノグリカン画分を10000rpmで1分間遠心し、その上清の10μlをShodex OHpak SB-805 HRカラム(Showa Denko, 8mm×30cm)を用いたゲルろ過HPLC(HITACHI L-7100)にかけた。溶出液0.2MのNaCl、流速1ml/minで操作を行い、溶出プロフィールはHITACHI L-7400 UV Detecterにてモニターした。
培養後、それぞれの細胞層からAGPC(acid guanidinium-phenol chloroform)変法により総RNAを抽出した。このRNAからOligo(dT)15primerを用いた逆転写反応(37℃60分、95℃5分)を行ってcDNAを得た。これをテンプレートとしてQiagen HotStarTaq DNA polymeraseを用いて、i Cycler (BIO RAD)によりPCRを行った。PCRに用いたプライマーは、HAS1遺伝子検出用としてsense:5-’GTGAGTGGCTGTACAACGCG-3’(配列番号1)/antisense:5’-AGAGGGACGTAGTTAGCGGC-3’(配列番号2)、HAS2遺伝子検出用としてsense:5’-TGGCATCACACCTCATCATC-3’(配列番号3)/antisense:5’-ACCAATTGCGTTACGTGTTG-3’(配列番号4)、HAS3遺伝子検出用としてsense:5’-TTGGCTGTGTGCAGTGTATTAGT-3’(配列番号5)/antisense:5’-GGTCTCTGTGAGGCACTTGG-3’(配列番号6)とした(Calabro, A., Oken, M.M., Hascall, V.C., and Masellis, A.M. (2002) Blood, 100, 2578-2585.に記載のもの)。また、コントロールとするGAPDH遺伝子検出用のプライマーとしてsense:5’-CCACCCATGGCAAATTCCATGGCA-3’(配列番号7)/antisense:5’-TCTAGACGGCAGGTCAGGTCCACC-3’(配列番号8)を用いた。なお、PCRの条件は熱変性(denature)94℃1分、アニーリング(annealing)61℃1分、伸長反応(extension)72℃1分を35サイクルとした。合成されたPCR産物5μl、ローディングバッファー1μlを混合したものを2%アガロースゲルにアプライし、Mupid(コスモ・バイオ)を用いて100Vで約30分間電気泳動を行った。泳動後のゲルをエチジウムブロマイドで室温、遮光下で30分間染色した。その後、蒸留水ですすいでから落射式蛍光読取装置Epi-Light UV FA1100でバンドを検出し、IMAGE CONTROLLERMC-1100で泳動像をプリントした。
1.ヒアルロン酸合成における線維芽細胞とがん細胞との相互作用
HDFとWiDrをそれぞれ単独あるいは1:1で混合して3日間培養し、それぞれのコンディション培地からグリコサミノグリカン画分を分画し、そのセルロース・アセテート膜電気泳動およびHPLCを行った。セルロース・アセテート膜電気泳動の結果を図1に示す(Mu(-)欄)(なお図1における縦軸のChSはコンドロイチン硫酸を、DSはデルマタン硫酸を、HAはヒアルロン酸を表す)。図1から明らかなように、HDFとWiDrの単独培養(HDFとWiDr)では、ヒアルロン酸を明確なバンドとして検出することができなかった。一方、これらの混合培養(HDF+WiDr)では、ヒアルロン酸の明らかなバンドが検出された。また、HPLCの結果を図2(A)に示す。図2(A)から明らかなように、HDFとWiDrの単独培養では、ヒアルロン酸の溶出位置に検出されうる量のヒアルロン酸は認められなかった。しかし、これらの混合培養では、ヒアルロン酸の溶出位置にピークが検出された。以上の結果から、HDFとWiDrのそれぞれの単独培養におけるヒアルロン酸合成量よりも、これらの混合培養におけるヒアルロン酸合成量が顕著に亢進していることがわかった。
HDFとWiDrの混合培養においてヒアルロン酸合成の亢進が観察されたので、このヒアルロン酸合成がどのヒアルロン酸合成酵素によるものであるかを知るために、それぞれの培養系における細胞層から総RNAを調製し、3種のヒアルロン酸合成酵素についてRT-PCRを行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動により調べた結果を図3に示す。図3から明らかなように、HAS1については、HDF、WiDrおよび混合培養(HDF+WiDr)の3者の間には顕著な差はみられなかった。HAS3の混合培養(HDF+WiDr)における発現量は、HDFとWiDrの単独培養の発現量のちょうど中間程度であった。しかし、HAS2については、混合培養(HDF+WiDr)の発現量は、HDFとWiDrの単独培養の発現量に比べ顕著に多かった。以上の結果から、HDFとWiDrを混合培養することにより、WiDrがHDFに何らかのシグナルを送り、その結果、3種のヒアルロン酸合成酵素のうちHAS2の遺伝子発現量が亢進し、これによりヒアルロン酸合成が増加したことが推測された。
セルロース・アセテート膜電気泳動の結果を図1に示す(Mu(+)欄)。図1から明らかなように、MU非存在下でのHDFとWiDrの混合培養により検出されたヒアルロン酸のバンドは、MU存在下では著しく減弱した。また、HPLCの結果を図2(B)に示す。図2(B)から明らかなように、MU非存在下でのHDFとWiDrの混合培養により検出されたヒアルロン酸のピークは、MU存在下では著しく減弱した。以上の結果から、HDFとWiDrの混合培養により亢進されるヒアルロン酸合成をMUは顕著に抑制することがわかった。
HDFとWiDrの混合培養において、MUの存在により抑制されたヒアルロン酸合成が、どのヒアルロン酸合成酵素の抑制によるものであるのかを知るために行った、1mMのMUの存在下におけるmRNAの発現量をRT-PCRにより分析した結果を図4(A)〜(C)に示す。図4から明らかなように、HDFとWiDrの単独培養においては、HDFでは、3種のヒアルロン酸合成酵素遺伝子のうちHAS1とHAS3の発現量にはMUの存在の有無による差異は見られなかったが、HAS2の発現量は、MUの存在により減少した(A)。また、WiDrでは、HAS1の発現量の増加傾向がMUの存在により見られたものの、HAS3の発現量には変化がなかった。しかし、HAS2の発現量の減少は、HDFのそれよりも顕著であった(B)。一方、これらの混合培養では、MUの存在によりHAS1の発現量は増加し、HAS3の発現量は減少しているように見られたが、HDFとWiDrの単独培養と同様に、MUの存在によりHAS2の発現量の減少が中でも最も顕著に認められた(C)。以上の結果から、MUの非存在下におけるHDFとWiDrの混合培養において発現量が増加したHAS2は、MUの存在によりその発現量が顕著に減少し、それにより、ヒアルロン酸合成量が減少したと考えられた。
(実験方法)
1.細胞培養
OHK細胞は大阪医科大学の桑原宏子博士から供与されたものを用いた。この細胞を10%ウシ胎仔血清(Biofluid, Australia)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(100units/ml Penicilin G + 100μg streptomycin sulfate, Gibco BRL)を含むRPMI1640培地(GIBCO)中で5%CO2-95%air、37℃の条件で培養した。培養は、100mmシャーレに50万個の細胞を播種して行った。3日間培養した後、遠心(1200rpm, 4℃, 5min)により細胞を回収し、これを無血清RPMI1640培地で洗浄した後、1mMのMU(ナカライテスク)/ジメチルスルフォオキシドを含む無血清RPMI1640培地に交換して3日間培養した。また、この時、溶媒に用いたジメチルスルフォオキシドの濃度は培地に対して0.1%になるので、コントロール細胞については、ジメチルスルフォオキシドのみをその濃度が0.1%となるように加えて3日間培養した。
OHK細胞を遠心(1200rpm, 4℃, 5min)により回収し、これを無血清RPMI1640培地で洗浄した。得られた細胞にlysis buffer(20mMトリス塩酸緩衝液, pH7.5, 15mMのNaClおよび0.01%TritonX-100を含む)を2ml加えた後、ソニケーター(TOMY model UR-20P)で10秒×3回、計30秒間ソニケートし、得られたホモジネートを試料とした。
試料を試料バッファー(0.27Mトリス塩酸緩衝液, pH6.8, 8.7%SDS, 30%グリセールおよび適量のブロモフェノールを含む)と7:3に混合した(容量比)。これを0.13%〜0.20%のヒアルロン酸を含むSDS-ポリアクリルアミドゲル(10%アクリルアミド, 0.1cm×6.5cm×9.0cm)でゲル1枚あたり15mAの定電流で2時間泳動した。泳動後のゲルを2.5%Triton X-100中で、室温で1時間緩やかに振盪し、SDSにより変性した蛋白質の再生を行った。再生後のゲルを、50mMクエン酸緩衝液(pH4.0)に浸し、37℃で一晩インキュベートした。インキュベート後のゲルを0.2Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)中で、15分間緩やかに振盪した後、0.1mg/mlアクチナーゼを含む0.2Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)中で、緩やかに振盪しながら37℃で2時間インキュベートした。その後、ゲルを25%エタノール-10%酢酸中で室温、15分間振盪した後、0.5%アルシアンブルー/25%エタノール-10%酢酸により室温で1時間染色した。染色後のゲルは25%エタノール-10%酢酸で適度になるまで脱色した。酵素活性は青色背景に透明なバンドとして検出された。
試料100μlを、0.2%ヒアルロン酸50μlおよび、0.25Mクエン酸緩衝液(pH3.0〜4.0)または0.25M酢酸緩衝液(pH4.0〜6.5)100μlと混合し、37℃で種々の時間インキュベートした。100℃で1分間処理することにより酵素反応を停止し、10000rpmで3分間遠心した。上清の10μlをShodex OHpak SB-805 HRカラム(Showa Denko, 8mm×30cm)を用いたゲルろ過HPLC(HITACHI L-7100)にかけた。溶出液0.2MのNaCl、流速1ml/minで操作を行い、溶出プロフィールはHITACHI L-7400 UV Detecterにて波長210nmでモニターした。
総RNAの抽出はAGPC変法で行った。簡単に述べると、2-メルカプトエタノールを含むグアニジンチオシアネートで細胞をホモジネートした。RNAはクロロホルムに抽出され、イソプロパノールで沈殿された。RNAは260nmに最大吸収をもち、抽出されたRNAの純度は260nm/280nmで評価した。総RNA1μgから、Omniscript RT kit(Qiagen)およびOligo(dT)15primerを用いた逆転写反応(37℃60分、95℃5分)により1st strand cDNA合成を行った。ヒアルロン酸分解酵素に対応するcDNAをPCRによって増幅した。増幅は10×PCR buffer、5×Q solution、dNTP mixture、sense primerとantisense primer、およびHotStarTaq DNAポリメラーゼ(Qiagen)を含む反応液中で行った。PCRに用いたプライマーは、HYAL1遺伝子検出用としてsense:5’-TCAGCCCCAAGGTTGTCCTCGACCA-3’(配列番号9)/antisense:5’-CTGCCAGCCAGGGTAGCATCGACAT-3’(配列番号10)とした(Nicoll, S.B., Barak, O., Csoka, A.B., Bhatnagar, R.S., and Stern, R. (2002) Biochem. Biophys. Res. Commun., 292, 819-825.に記載のもの)。また、コントロールとするGAPDH遺伝子検出用のプライマーとしてsense:5’-CCACCCATGGCAAATTCCATGGCA-3’(配列番号7)/antisense:5’-TCTAGACGGCAGGTCAGGTCCACC-3’(配列番号8)を用いた。PCRサイクルは、HYAL1については1サイクル(95℃15分)、35サイクル(94℃1分, 62℃1分, 72℃1分)、1サイクル(72℃10分)とし、GAPDHについては1サイクル(95℃15分)、25サイクル(94℃1分, 62℃1分, 72℃1分)、1サイクル(72℃10分)とした。
1.OHK細胞のヒアルロン酸分解活性へのMUの影響
OHK細胞をMU非存在下(MU-)または1mMのMU存在下(MU+)に無血清RPMI1640培地中で3日間培養し、培養後の細胞を回収し、Triton X-100を含むTris buffer中でソニケートして調製したホモジネートを、pH4にてヒアルロン酸を基質としたザイモグラフィーにかけた結果を図5に示す。図5から明らかなように、MU非存在下で培養した細胞のホモジネートではヒアルロン酸分解活性を示すバンドが検出されたが、1mMのMU存在下で培養した細胞のホモジネートではこのようなバンドは認められず、ヒアルロン酸分解活性がMUにより抑制されたことわかった。
OHK細胞のホモジネートとヒアルロン酸をミクロチューブ内でpH4にて経時的にインキュベートした後、ゲルろ過HPLCにかけた結果を図6に示す。図6から明らかなように、MU非存在下(MU-)で培養した細胞のホモジネートではヒアルロン酸のピークが反応時間とともに右側、即ち、低分子領域にシフトしており、ヒアルロン酸分解酵素による低分子化が進行していた。一方、1mMのMU存在下(MU+)で培養した細胞のホモジネートではこのようなピークの低分子領域へのシフトが顕著に抑制された。このMU非存在下(MU-)で培養した細胞における低分子化は、pH3.5〜4.0で顕著であり、pH5.0以上ではほとんど認められないことから、この作用はヒアルロン酸分解酵素のうちHYAL1によるものである可能性が強く示唆された。
OHK細胞をMU非存在下または1mMのMU存在下に無血清RPMI1640培地中で3日間培養し、培養後の細胞から総RNAを調製し、これを用いたRT-PCRを行い、HYAL1遺伝子発現へのMUの影響を調べたPCR産物のアガロースゲル電気泳動の結果を図7に示す。図中、レーン1は分子量マーカー、レーン2はMU非存在下で培養した際のHYAL1の検出結果、レーン3は1mMのMU存在下で培養した際のHYAL1の検出結果、レーン4はMU非存在下で培養した際のGAPDHの検出結果、レーン5は1mMのMU存在下で培養した際のGAPDHの検出結果を表す。図7から明らかなように、レーン2で認められたHYAL1のバンドがレーン3では検出感度以下であったことから、MUがOHK細胞のHYAL1の遺伝子発現を抑制することにより、この細胞のヒアルロン酸分解活性を抑制していることがわかった。なお、データは示さないが、このMUによるHYAL1の遺伝子発現抑制作用は、ヒト大腸癌細胞WiDrとヒト乳癌細胞CRL-1500でも確認することができた。
(実験方法)
1.細胞培養
実施例2に記載の方法によってOHK細胞を3日間培養した後、遠心(1200rpm, 4℃, 5min)により細胞を回収し、これを無血清RPMI1640培地で洗浄後、種々の濃度のMU(ナカライテスク)/ジメチルスルフォオキシドを含む無血清RPMI1640培地に交換し、3日間培養した。この時、全てのMU濃度においてジメチルスルフォオキシドの最終濃度が0.1%となるように調製した。また、MU含有培地とは別に、ストレプトミセス・ヒアルロニダーゼ(生化学工業, 5TRU/ml)を含む無血清RPMI1640培地でも、上記と同様に3日間培養した。
ヒト大腸がん細胞WiDrは、10%ウシ胎仔血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、1%ファンギゾン溶液を含むイーグルMEM培地(IWAKI)にて100mmシャーレに培養した。24時間後に培地を除き、細胞層をダルベッコのCa2+およびMg2+不含リン酸緩衝液にて洗浄した後、1mMのMU/ジメチルスルフォオキシドを含む無血清イーグルMEM培地に交換して3日間培養した。
ヒト乳がん細胞(SK-BR-3, MCF7, CRL1500およびHMC-1-8)は、10%ウシ胎仔血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を含むRPMI1640培地にて35mmシャーレに培養した。24時間後に培地を除き、細胞層をダルベッコのCa2+およびMg2+不含リン酸緩衝液にて洗浄した後、1mMのMU/ジメチルスルフォオキシドを含む無血清RPMI1640培地に交換して3日間培養した。
OHK細胞の培地を回収し、1200rpm、4℃、5分間遠心した。回収した上清にストレプトミセス・ヒアルロニダーゼ(1TRU/1ml)とphenylmethane sulfonylfluoride(PMSF, 0.1mM/ml)を加え、37℃で2時間インキュベートした。その後、10000rpm、4℃、20分間遠心し、得られた上清に硫安飽和70%になるように硫安を加えて4℃に一晩静置した。これを、12000rpm、4℃、20分間遠心し、培地に分泌された蛋白質を沈殿として回収した。得られた沈殿をlysis buffer(20mMトリス塩酸緩衝液, pH7.5, 15mMのNaClおよび0.01%TritonX-100を含む)200μlに溶解し、試料(約100倍濃縮)とした。
大腸がん細胞(WiDr)の培地を回収し、これにPMSF(0.1mM/ml)を加え、硫安飽和70%になるように硫安を添加して4℃にて一晩静置した。これを、12000rpm、4℃、20分間遠心し、培地に分泌された蛋白質を沈殿として回収した。得られた沈殿を上記lysis buffer 200μlに溶解し、試料(約50倍濃縮)とした。
乳がん細胞(SK-BR-3, MCF7, CRL1500およびHMC-1-8)の培地1mlずつを、それぞれ倒立式遠心濾過チューブ(ADVANTEC ARTKISS 倒立式遠心濾過チューブシステム MWCO10000)にとり、6000rpm、4℃、90分間遠心した。得られた濃縮溶液(約100μl)を試料とした。
試料を試料バッファー(0.27Mトリス塩酸緩衝液, pH6.8, 8.7%SDS, 30%グリセールおよび適量のブロモフェノールを含む)に溶解した。これを0.147%のゼラチンを含むSDS-ポリアクリルアミドゲル(10%アクリルアミド, 0.1cm×6.5cm×9.0cm)でゲル1枚あたり15mAの定電流で2時間泳動した。泳動後のゲルを50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5, 0.1MのNaClおよび2.5%Triton X-100を含む)中で、室温で1.5時間緩やかに振盪し、SDSにより変性した蛋白質の再生を行った。再生後のゲルを、50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5, 10mMのCaCl2を含む)に浸し、37℃で一晩インキュベートした。その後、クマシーブリリアントブルーR-250で染色後、エタノール-酢酸-H2O(25:8:65)中で30分脱色、さらにエタノール-酢酸-H2O(10:15:175)中で適度になるまで脱色した。酵素活性は青色背景に透明なバンドとして検出された。
試料を上記試料バッファー溶解した後、SDS-ポリアクリルアミドゲル(10%アクリルアミド, 0.1cm×6.5cm×9.0cm)でゲル1枚あたり15mAの定電流で2時間泳動した。ゲル中の蛋白質をニトロセルロース膜(BIO-RAD, 8.5cm×9cm)にセミドライブロッター(AE-6677S;ATTO, Tokyo, Japan)を用いて転写した。分子量マーカーとしてはFull Range Rainbow protein molecular markers(Amersham International)を用いた。転写されたニトロセルロース膜は、ブロッキング溶液(0.05%Tween20および3%スキムミルクを含むトリス塩酸緩衝液)中に4℃で一晩静置した。その後、ブロッキング溶液で溶解した抗ヒトMMP-9マウスモノクローナル抗体(第一ファインケミカル)と室温で1時間反応させた。膜をTBST(0.05%Tween20を含むトリス塩酸緩衝液)で洗浄後、二次抗体(マウスIgGに対するヤギ抗体・アルカリホスファタ−ゼ結合, ZYMED)と室温で一時間反応させた。膜をTBSTで洗浄後、さらにAPバッファーで洗浄した。APバッファーを除いた後、基質液(ニトロブルーテトラゾリウムおよび5-ブロモ-4-クロロ-インドールフォステート含有, Bio-Rad)を加え、発色させた。
総RNAの抽出はAGPC変法で行った。簡単に述べると、2-メルカプトエタノールを含むグアニジンチオシアネートで細胞をホモジネートした。RNAはクロロホルムに抽出され、イソプロパノールで沈殿された。RNAは260nmに最大吸収をもち、抽出されたRNAの純度は260nm/280nmで評価した。総RNA1μgから、Omniscript RT kit(Qiagen)およびOligo(dT)15primerを用いた逆転写反応(37℃60分、93℃5分)により1st strand cDNA合成を行った。特異的MMPに対応するcDNAをPCRによって増幅した。増幅は10×PCR buffer、5×Q solution、dNTP mixture、sense primerとantisense primer、およびHotStarTaq DNAポリメラーゼ(Qiagen)を含む反応液中で行った。PCRに用いたプライマーは、MMP-9遺伝子検出用としてsense:5’-CACCTTCACTCGCGTGTAC-3’(配列番号11)/antisense:5’-CATCTGCGTTTCCAAACCGAG-3’(配列番号12)とした(Tutton, M.G., George, M.L., Eccles, S.A., Burton, S., Swift, R.I., and Abulafi, A.M. (2003) Int. J. Cancer, 107, 541-550.に記載のもの)。また、コントロールとするGAPDH遺伝子検出用のプライマーとしてsense:5’-CCACCCATGGCAAATTCCATGGCA-3’(配列番号7)/antisense:5’-TCTAGACGGCAGGTCAGGTCCACC-3’(配列番号8)を用いた。PCRサイクルは、MMP-9については1サイクル(95℃15分)、35サイクル(94℃1分, 55℃1分, 72℃1分)、1サイクル(72℃10分)とし、GAPDHについては1サイクル(95℃15分)、25サイクル(94℃1分, 62℃1分, 72℃1分)、1サイクル(72℃10分)とした。
培地を分取し、10000rpmで1分間遠心し、その上清1mlを倒立式遠心濾過チューブ(MWCO10000)にとり、6000rpm、4℃、20分間冷却遠心した。得られた濃縮溶液を試料(グリコサミノグリカン画分)とした。さらに、MU非存在下で培養した培地より得られた試料40μlにストレプトミセス・ヒアルロニダーゼ10μl(2TRU)を加え、37℃で一晩インキュベートした。100℃で3分間処理することにより酵素反応を停止し、これをヒアルロニダーゼ処理試料とした。試料10μlをShodex OHpak SB-805 (Showa Denko, 8mm×30cm)を用いたゲルろ過HPLC(HITACHI L-7100)にかけた。溶出液0.2MのNaCl、流速1ml/minで操作を行い、溶出プロフィールはHITACHI L-3300 RI Monitorにて検出した。
1.MUによるOHK細胞のヒアルロン酸合成阻害
OHK細胞の培地に分泌されたグリコサミノグリカンについてのHPLCの結果を図8に示す。図中、符号1はMU非存在下での培養試料、符号2は1mMのMU存在下での培養試料、符号3はMU非存在下での培養試料にストレプトミセス・ヒアルロニダーゼを加えてインキュベートしたヒアルロニダーゼ処理試料を表す。図8から明らかなように、MU非存在下での培養試料で観察されたピークは、MU存在下での培養試料では認められなかった。また、ヒアルロニダーゼ処理試料では、MU非存在下での培養試料で観察されたピークが消失した。以上の結果から、このピークはヒアルロン酸と同定され、MUはOHK細胞におけるヒアルロン酸の合成を阻害することがわかった。
OHK細胞を種々の濃度のMU存在下で3日間培養し、それぞれの培地を回収し、ゼラチン分解活性をザイモグラフィーで観察した結果を図9に示す。図中、レーン1はMU非存在下での培養試料、レーン2は0.1mMのMU存在下での培養試料、レーン3は0.2mMのMU存在下での培養試料、レーン4は0.5mMのMU存在下での培養試料、レーン5は1mMのMU存在下での培養試料を表す。図9から明らかなように、分子量77kDaの位置に見られるバンドの強度は、MUの濃度依存的に減弱した。
ゼラチンザイモグラフィーにより検出されたゼラチン分解酵素を同定するために、ウエスタンブロットを行った結果を図10に示す。図中、レーン1はMU非存在下での培養試料、レーン2は1mMのMU存在下での培養試料を表す。図10から明らかなように、ザイモグラフィーの活性バンドと対応する位置に抗MMP-9抗体と反応するバンドが見られた。以上の結果から、このMMPはMMP-9であることが同定され、このMMP-9の蛋白質としての産生量がMUの存在により減少することがわかった。なお、MMP-9の分子量は92kDaと報告されているので、77kDaの位置に見られるバンドはMMP-9とは異なるようにも思われるが、抗MMP-9抗体と反応することからMMP-9と同定することには問題はない。
RT-PCRにより、OHK細胞におけるMMP-9のmRNA発現について調べたPCR産物のアガロースゲル電気泳動の結果を図11に示す。図中、(A)の符号1はMU非存在下での培養試料、符号2は1mMのMU存在下での培養試料、(B)の符号1はMU非存在下での培養試料、符号2はMU非存在下かつ5TRU/mlストレプトミセス・ヒアルロニダーゼ存在下での培養試料を表す。図11(A)から明らかなように、1mMのMU存在下での培養試料は、MU非存在下での培養試料に比べてMMP-9のmRNA発現量における顕著な減少が観察された。以上の結果から、MUを培地に加えて培養したOHK細胞ではmRNAレベルでのMMP-9遺伝子発現抑制が認められた。
上記の実験からMUはOHK細胞においてもヒアルロン酸の合成を阻害することが示された。このことから、これまでのMUによるMMP-9の遺伝子発現抑制という結果は、MUのヒアルロン酸合成阻害の二次的影響とも考えられた。しかし、図11(B)から明らかなように、MU非存在下かつヒアルロニダーゼ存在下での培養試料においては、MU存在下での培養試料のようなMMP-9のmRNA発現の減少は見られなかった。よって、MUによるMMP-9の遺伝子発現抑制とヒアルロン酸合成阻害との関連性は極めて薄いことが推測された。
OHK細胞で観察されたMUによるMMP-9の遺伝子発現抑制がOHK細胞に特異的な現象であるのかを知るために、他のいくつかのがん細胞におけるMMP-9の遺伝子発現へのMUの影響を調べた結果を図12と図13に示す。図12は大腸がん細胞WiDrにおけるMMP-9活性へのMUの影響を調べた結果であり、(A)はゼラチンザイモグラフィーの結果、(B)はウエスタンブロットの結果である。(A)(B)とも、符号1はMU非存在下での培養試料、符号2は1mMのMU存在下での培養試料を表す。図12の(A)(B)から明らかなように、1mMのMU存在下での培養試料においては、MMP-9の酵素活性および酵素量の顕著な減少がそれぞれ見られた。図13は4種類の乳がん細胞におけるMMP-9活性へのMUの影響を調べたゼラチンザイモグラフィーの結果であり、図中、レーン1はSK-BR-3についてのMU非存在下での培養試料、レーン2は同1mMのMU存在下での培養試料を表す。レーン3はMCF7についてのMU非存在下での培養試料、レーン4は同1mMのMU存在下での培養試料を表す。レーン5はCRL1500についてのMU非存在下での培養試料、レーン6は同1mMのMU存在下での培養試料を表す。レーン7はHMC-1-8についてのMU非存在下での培養試料、レーン8は同1mMのMU存在下での培養試料を表す。図13から明らかなように、MUによるMMP-9の遺伝子発現抑制はOHK細胞に限った現象ではないことがわかった。
1錠当たり5mgのMUを含む以下の成分組成からなる200mg錠剤を、各成分をよく混合してから打錠することで製造した。
MU 5mg
乳糖 137〃
でんぷん 45〃
カルボキシメチルセルロース 10〃
タルク 2〃
ステアリン酸マグネシウム 1〃
合計200mg/錠
1カプセル当たり20mgのMUを含む以下の成分組成からなる100mgカプセル剤を、各成分をよく混合してからカプセルに充填することで製造した。
MU 20mg
乳糖 53〃
でんぷん 25〃
ステアリン酸マグネシウム 2〃
合計100mg/カプセル
Claims (2)
- 4−アルキルウンベリフェロンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とするヒアルロン酸分解酵素HYAL1遺伝子発現抑制剤(但し、がんの予防・治療の用途と皮膚外用剤としての用途を除く)。
- 4−アルキルウンベリフェロンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とするマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP−9)遺伝子発現抑制剤(但し、がんの予防・治療の用途と皮膚外用剤としての用途を除く)。
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