JP4968970B2 - 地盤改良用グラウト材及びスライム処理方法 - Google Patents

地盤改良用グラウト材及びスライム処理方法 Download PDF

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  • Consolidation Of Soil By Introduction Of Solidifying Substances Into Soil (AREA)

Description

本発明は、軟弱地盤を改良する地盤改良工法において用いられるセメントミルク等のグラウト材と、地盤改良工法の施工に際して発生したスライムを処理する技術に関する。
軟弱地盤を改良するに際して、改良するべき軟弱地盤を削孔し、セメントミルク等のグラウト材を地盤中に注入し、地盤中に構造物(地中固結体)を形成する地盤改良工法が広く利用されている。
係る地盤改良工法では、改良するべき地盤にボーリング孔を切削して、地盤を切削しつつグラウト材を注入する装置を有する注入管を目的深度まで挿入する工程と、注入管をゆっくりと回転させながら、水(必要に応じては水と空気)を高圧で噴射して、改良するべき地盤を切削、攪拌しつつグラウト材を注入し、当該切削、攪拌した領域の土壌をグラウト材で置換するグラウト材注入工程とを有しており、最終的に柱状等の地中固結体(グラウト硬化体)を造成している(いわゆる「ジェットグラウト工法」)。
ここで、上述したグラウト材注入工程では、余剰のセメントミルク等を含んだ大量のスライム(排泥土)が、地上側に排出されてしまう。そして、係るスライムは強アルカリ性で且つ自硬性を有するため、その処理が技術的な問題になっている。
また、当該スライムは産業廃棄物として処理しなければならないため、例えばバキューム車等で全量を排出処分するのが一般的である。しかし、産業廃棄物であるスライムの処理施設の用地不足等の問題により、当該スライムを減容化して、処分量を減少する必要がある。また、建設汚泥リサイクルのためには、その様なスライムを再利用することが望まれているが、有効なスライム再利用技術は、未だに提案されていない。
ここで、上述した地盤改良工法のグラウト材注入工程で発生したスライムにおいては、高圧の水(或いは、水と空気)により切削された土壌の土粒子と、地下水と、余剰なグラウト材(セメントミルク等)とが、様々な混合状態を形成している。そしてスライムは、泥水状或いは泥土状の汚泥として地上側に排出される。
そのため、地上側に排出されたスライムの減容化のためには、スライムを固液分離して水分を除去して回収し、回収した水を再利用することが考えられる。
しかし、スライムの比重は1.2〜2.0の高比重であり、凝集沈殿することができない。また、スライムはセメントを含有するため、そのpHが12以上の強アルカリ性である。さらに、スライムに包含されるセメントの水和反応の進行によって自硬性を有するため、スライムが発生後の一定時間内に汚泥処理をしないと硬化してしまう。係る理由により、スライムを直接的に固液分離して再利用することは、実質的に困難である。
従来技術においては、スライムに対して大量に加水して希釈することにより、スライムの比重を低下させ、高分子凝集剤や無機凝集剤等の凝集剤等で凝集沈殿処理する場合がある。
しかし、係る処理を実行するためには、スライムに大量に加水して希釈するための希釈槽、スライムに高分子凝集剤や無機凝集剤等の凝集剤等を添加するための設備、希釈され且つ凝集剤を添加されたスライムが凝集沈殿を行なうための凝集沈殿槽等を有するシステムを設備しなければならず、その様なシステム設置には多大なコストが発生する。そのため、費用対効果の点から、係るシステムによる処理は困難である。
これ等の理由から、上述したスライムを処理するためには、産業廃棄物として全量処分するという簡易な手段を選択せざるを得ない。
その他の従来技術として、例えば、高圧で噴射されて土壌を切削する切削水やセメントミルクに高分子凝集剤を予め添加し、発生するスライムの粘性を低下させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
係る従来技術(特許文献1)では、スライムが高分子凝集剤を包含するため、スライムをフロック(凝集体)化させるという点で、固液分離のために有効である。しかし、当該フロックは親水性であるために、高比重のスライムでは離水率が低く、脱水効果が殆ど得られないと言う問題を有している。
また、係る方法で回収した脱離水を回収水として利用する場合、当該回収水には凝集剤が残留してしまうので、セメントミルクの調合水として再利用することができない、と言う問題も有している。
また、回収水の凝集剤の量を調整する方法を開示した従来技術も存在する(特許文献2参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献2)では、施工毎に地盤の土質やグラウト材の回収量が異なるため、スライムの性状も施工毎に変動し、その結果、凝集剤の吸着量や適正量も施工毎に異なってしまい、凝集剤残留量の管理が困難であるという問題が存在する。
特開2001−214430号公報 特開平9−158167号公報
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、地盤改良工法の施工に際して発生したスライムを容易に処理することが出来るようなグラウト材と、スライム処理方法の提供を目的としている。
発明者等は、種々研究の結果、アルカリ増粘性エマルションをセメントミルク等のグラウト材に混合して使用すれば、発生するスライムが脱水可能な性状で、地上側に排出されることを見出した。
本発明によれば、軟弱地盤を改良するために、改良すべき地盤にボーリング孔を切削し、そのボーリング孔にグラウト材を注入する注入管を挿入して、その注入管を回転させながら水を高圧で噴射して地盤を切削・撹拌しつつグラウト材を注入して、その切削・撹拌した領域の土壌をグラウト材で置換して、その地盤中に構造物を形成する地盤改良工法で使用される地盤改良用グラウト材において、アルカリ増粘性エマルションとしてカルボキシル基、スルホン酸基、フェノール性水酸基、リン酸基の酸性基やカルボン酸エステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基を分子内に含有するポリマーが水媒体中で分散されているエマルション、またはアクリル酸メチルを含みグラウト材中でカルボキシル基を生成するアクリル系エマルションがグラウト材用混和剤としてグラウト材に混入されており、その混合される割合いはグラウト材100kgに対して前記アルカリ増粘性エマルションが0.05kg〜5kgである。
本発明において、セメントミルク等のグラウト材には、セメント減水材と呼ばれる分散剤が併用されるのが好ましい。
ここで、グラウト材としてはセメント類が好ましい。そして、セメント類としては、普通ポルトランドセメントのほかに、高炉セメント、フライアッシュセメント、早強セメントなどのセメント類を用いることが出来る。
それに加えて、セメントの他に、各種の混和剤、たとえばフライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ、膨張材などを含む硬化材も、上述したグラウト材と同様に、本発明の混和剤を使用することができる。
すなわち、本発明のグラウト材用混和剤を混入するグラウト材としては、セメント等の種類は特に限定されるものではない。
また、グラウト材としてはセメントミルク等も包含される。ここで、セメントミルク等とは、セメントミルクに分散剤や増粘剤及び消泡剤を含有したものを含んでいる。
分散剤とは、例えばメラミンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物、ナフタリンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物、ポリカルボン酸系重合体、リグニンスルホン酸塩などを含んでおり、減水剤あるいは流動化剤とも呼ばれる分散剤も包含している。分散剤の種類は特に限定されるものではない。
増粘剤とは、例えばカルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロースなどの水溶性セルロース誘導体、グアガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンなどの水溶性天然ゴムおよびその誘導体、α化デンプン、カルボキシメチル化デンプンなどの水溶性デンプンおよびその誘導体、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコールなどの水溶性合成高分子などを含んでいる。そして、セメントミルクの配合や地盤条件によって、各種の水溶性増粘剤を選択して使用することができ、特に限定されるものではない。
消泡剤とは、グラウト材の高圧噴射時に巻き込み気泡によって発生する多量の気泡がグラウト性を阻害する場合に、当該気泡の発生を抑制するものであり、例えばシリコーン系消泡剤や、鉱物系消泡剤、界面活性剤系消泡剤等を選択して使用することができる。消泡剤についても、特に限定されるものではない。
本発明のグラウト材用混和剤に含有されるアルカリ増粘性エマルションとしては、水媒体中にアルカリ増粘性ポリマーが分散されているエマルション、すなわち、水性エマルションを用いることが出来る。
ここでアルカリ増粘性ポリマーは、分子内にアルカリ性物質により親水性が高まる基を有するポリマーである。アルカリ性物質により親水性が高まる基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、フェノール性水酸基、リン酸基等の酸性基やカルボン酸エステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基等を分子内に含有するポリマーが該当する。また、アルカリ性物質により容易に加水分解してカルボキシル基を生成するポリマーが該当する。
本発明の実施に際して、前記グラウト材は分散剤を含有しているのが好ましい。
この場合、前記分散剤は、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物、ナフタリンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物、ポリカルボン酸系重合体、芳香族アミノスルホン酸系重合体及びニグリンスルホン酸塩の何れかより選択される(一種又は二種以上よりなる)のが好ましい。
本発明のグラウト材用混和剤は、グラウト性を向上させるための他の混和剤、例えば遅延剤、硬化促進剤等と併用することが可能である。
また、本発明によれば、軟弱地盤を改良するために、改良すべき地盤にボーリング孔を切削し、そのボーリング孔にグラウト材を注入する注入管を挿入して、その注入管を回転させながら水を高圧で噴射して地盤を切削・撹拌しつつグラウト材を注入して、その切削・撹拌した領域の土壌をグラウト材で置換してその地盤中に構造物を形成する際に排出されるスライムのスライム処理方法において、アルカリ増粘性エマルジョンとしてカルボキシル基、スルホン酸基、フェノール性水酸基、リン酸基の酸性基やカルボン酸エステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基を分子内に含有するポリマーが水媒体中で分散されているエマルション、またはアクリル酸メチルを含みグラウト材中でカルボキシル基を生成するアクリル系エマルションを用い、前記グラウト材100kgに対して前記アルカリ増粘性エマルション0.05kg〜5kgを混合し、その地盤の土壌をその混合したグラウト材で置換して排出した前記スライムを減容化処理し、発生したスライムから水分を回収し、その回収した回収水を再利用するようになっている。
上述した地盤改良工法のスライム処理方法において、発生したスライムは、自然重力脱水と機械的脱水によって脱水することが出来る。ここで、スライムは高比重であるため、フィルタープレス、ベルトプレス、遠心脱水等の機械的脱水設備で固液分離を強制的に行って、脱離水を回収することが好ましい。
ここで、スライム中のセメント粒子が(スライム中の)水と水和反応して、スライム発生後の数時間内に硬化反応を進行するため、スライムの処理に長時間が費やされてしまうと、配管設備が閉塞し、汚泥ピット内のスライムが固化して強度発現してしまう恐れがある。従って、発生したスライムの処理については、全ての処理作業を短時間で完了することが望ましい。
上述した地盤改良工法のスライム処理方法において、発生したスライムから分離して回収した回収水において、回収水中の固形物(通称SS成分:地盤条件等によって含有量が異なる)が多い時には、ろ布や布製袋等を使用してろ過することが好ましい。
また、回収水をグラウト材の調合水以外の現場用水や、機械設備等の洗浄水として利用する場合には、回収水をpH調整して、アルカリ性を中和することが好ましい。
さらに、水質調整のため、凝集剤等を使用して2次的に後処理を行い、回収水をより清澄にせしめることが可能である。
上述した構成を具備する本発明のグラウト材(例えばセメントミルク等)用混和剤は、アルカリ増粘性エマルションを含有している。グラウト材中におけるアルカリ増粘性エマルションのポリマー粒子の作用に関するメカニズムは明らかではないが、グラウト時のポリマー粒子はグラウト材のセメントミルク等から生成するカルシウム等のアルカリ成分の存在下で親水性が高まり、一部又は全部が溶解するか、ポリマー粒子が膨潤して広がって、セメント粒子に作用し、それにより、グラウト材が適度に増粘して、ブリージング抑制の効果を発現すると推定される。
そしてグラウト材の粘性が増加することにより、地盤に注入されて原位置土と混合、攪拌された際に、グラウト材として収束性(噴流或いはジェットとして噴射された際に拡散しない性質)が向上する。
次いで、地盤中では切削土とグラウト材が置換されるが、切削土と共に余剰のグラウト材もスライムとして排出される。
したがって、係るスライム中では、グラウト材に地盤土粒子や様々な侠雑物質が加わって混在するので、アルカリ性物質の相対量が減少して、アルカリ増粘性エマルションのアルカリ可溶作用に寄与した親水性が失われ、ポリマー粒子は増粘作用や吸着作用等を奏しなくなる。そして、ポリマー粒子が親水性を失うことによって、スライムも疎水性となり、スライム中の水分が分離され易くなって、スライムを直接的に固液分離することや脱水することが容易になると考えられる。
本発明において、グラウト材(例えばセメントミルク)100kgに対して、アルカリ増粘性エマルションを0.01〜10kg、より好ましくは0.05〜5kg添加すれば、アルカリ増粘性エマルションを添加しない場合に比較して、排出されるスライムが適度に疎水性となり、離水性が良好となり、脱水可能となる。
本発明において、セメントミルク等のグラウト材にアルカリ増粘性エマルションを添加した際に、改良するべき地盤を切削、攪拌しつつグラウト材を注入し、切削、攪拌した領域の地盤をグラウト材で置換して、当該地盤中に構造物(地中固結体)を形成する地盤改良工法における基準である「Pロート落下時間が12秒以下」という基準を超えてしまったとしても(Pロート落下時間が12秒を超えたとしても)、分散剤(セメント減水剤、流動化剤)を併用すれば、「Pロート落下時間が12秒以下」という基準を充足することが可能である。
当該分散剤は、アルカリ増粘性エマルションと相反する作用効果を奏するからである。
また、本発明の地盤改良工法によれば、当該アルカリ増粘性エマルションが混和されたグラウト材を地盤に注入するため、上述したのと同様に、スライムに含まれる水分に離水性が向上する。
そのため、公知の手段によってスライムを脱水処理することにより、固形分の減容化が可能となり、産業廃棄物の発生が抑制される。
さらに、本発明の地盤改良工法では、凝集剤を使用していないため、発生したスライムを脱水処理することによって得られた回収水を、そのままグラウト材(セメントミルク)の調合水として再利用できる。
そして、本発明において、発生したスライムから回収水をpH調整して、アルカリ性を中和すれば、pH調整した上澄み水をグラウト材の調合水以外の用途、例えば、現場用水や機械設備等の洗浄水として利用することが可能である。
発明者等は、発生スライムの脱水可能性について種々検討を重ねた結果、セメントミルク等へのアルカリ増粘性エマルションの混合割合を、セメントミルク100kgに対して、0.01〜10kg、より好ましくは0.05〜5kgにすると、アルカリ増粘性エマルションを添加していない場合に比べて、排出したスライムが適度に疎水性となり離水性が良く、脱水可能であることを見出した。
[実験例1]
発明者等はセメントミルク100kgに対して、アルカリ増粘性エマルションを10kg添加した試料と、11kg添加した試料を作成して、各々の試料について、複数回に亘ってグラウト材を高圧噴射する実験を行なった。
セメントミルク100kgに対して、アルカリ増粘性エマルションを10kg添加した試料については、高圧噴射をする際に特に問題を生じなかった。
これに対して、セメントミルク100kgに対して、アルカリ増粘性エマルションを11kg添加した試料については、セメントミルクの粘度が高くなり過ぎて、噴射できないケースが存在した。
実験例1により、アルカリ増粘性エマルションの添加量は、グラウト材であるセメントミルク100kgに対して、10kgが上限となることが分かった。
[実験例2]
発明者等はセメントミルク100kgに対して、アルカリ増粘性エマルションを0.01kg添加した試料と、0.005kg添加した試料を作成して、各々の試料について、30分間でブリージングを生じるか否かの実験を行なった。
セメントミルク100kgに対して、アルカリ増粘性エマルションを0.005kg添加した試料では、微小なフロックを生成し難い傾向が確認された。そして、セメントミルク単体であれば固液分離が可能であっても、土壌粒子等と混合したスライムの状態では、アルカリ増粘性エマルションの絶対量が不足し、良好な微小フロックが得られないことが確認された。
これに対して、セメントミルク100kgに対して、アルカリ増粘性エマルションを0.01kg添加した試料については、スライムの状態でも微小フロックが生成され、固液分離が可能となった。
実験例2より、アルカリ増粘性エマルションの添加量は、グラウト材であるセメントミルク100kgに対して、0.1kgが下限となることが分かった。
[実験例3]
セメントミルク100kgに対して、アルカリ増粘性エマルションの添加量を変更して、グラウト材濃度が薄い場合(W/C=150%)、濃い場合(W/C=80%)、施工地盤が砂質地盤の場合、粘性地盤の場合について、実験例1〜実験例3と類似する実験を行なった。
その結果、セメントミルク100kgに対して、アルカリ増粘性エマルションを0.05kg以上加えると、グラウト材濃度が薄い場合(W/C=150%)、濃い場合(W/C=80%)、施工地盤が砂質地盤の場合、粘性地盤の場合の全ての場合について、粘度が不足してしまうことは無いことが確認できた。
また、セメントミルク100kgに対して、アルカリ増粘性エマルションの添加量が5.0kg以下であれば、グラウト材濃度が薄い場合(W/C=150%)、濃い場合(W/C=80%)、施工地盤が砂質地盤の場合、粘性地盤の場合の全ての場合について、粘度が過多になってしまうことがない旨が確認できた。
さらに、セメントミルク100kgに対して、アルカリ増粘性エマルションの添加量が0.5〜5.0kgの範囲内であれば、粘性地盤に施工した場合のスライムに脱水処理を施した際に脱水不足となってしまうことがなく、グラウト材の固化作用が良好に発揮されることが確認出来た。
同様に、スライムの比重が1.5以上の高い数値であっても、脱水処理を施した際に脱水不足となってしまうことがなく、粘性が過多にはならないことが確認できた。
換言すれば、実験例3により、アルカリ増粘性エマルションの添加量は、グラウト材であるセメントミルク100kgに対して、0.5kg〜5.0kgが好ましいことが分かった。
[実験例4]
実験例4は、セメントミルク注入時のPロート流下時間とブリージング率を求める実験である。
実験例4では、水セメント比(W/C)が100%となるように、普通ポルトランドセメント100重量部に対して、水および混和剤の合計を100重量部として配合した試験用グラウト材を、サンプル1〜4として調整して、実験に供している。ここで、サンプル1〜4は、グラウト材用混和剤として添加したアルカリ増粘性エマルションが異なっている。混和剤の添加量は、試験用グラウト材に対する混和剤量の重量比率で、1.0重量%である。
そして、アルカリ増粘性エマルション以外の混和剤(無添加の場合を含む)をセメントミルクに添加したグラウト材を、比較例1〜6として、実験例4に供している。
サンプル1は、アクリル系のアルカリ増粘性エマルション「アロンB−300K」(商品名:東亞合成社株式会社製:固形分44%:表1では「記号1」と表記)を、混和剤として用いている。
サンプル2は、アクリル系のアルカリ増粘性エマルション「アロンA−7055」(商品名:東亞合成社株式会社製:固形分35%:表1では「記号2」と表記)を、混和剤として用いている。
サンプル3は、アクリル系のアルカリ増粘性エマルション「ボンコートHV−E」(商品名:DIC株式会社製:固形分30%:表1では「記号3」と表記)を、混和剤として用いている。
サンプル4は、アクリル系のアルカリ増粘性エマルション「ボンコートTA−96」(商品名:DIC株式会社製:固形分30%:表1では「記号4」と表記)を、混和剤として用いている。
比較例1は、混和剤を含まないグラウト材であり、表1では「ブランク」と示されている。
比較例2は、アルカリ増粘性を示さない非アルカリ増粘性エマルション類(アクリル系)である「モビニール7700」(商品名:日本合成化学工業株式会社製:固形分45%:表1では「記号5」と表記)を、混和剤として用いている。
比較例3は、EVA系の非アルカリ増粘性エマルション類である「モビニール106E」(商品名:日本合成化学工業株式会社製:固形分45%:表1では「記号6」と表記)を、混和剤として用いている。
比較例4は、カチオン性アクリル系の非アルカリ増粘性エマルション類「ボンドCAT18」(商品名:コニシ株式会社製:固形分36%:表1では「記号7」と表記)を、混和剤として用いている。
なお、非アルカリ増粘性エマルション類(表1:記号5〜7)は、ポリマーセメントモルタル用の混和剤として用いられている。
比較例5では、無機凝集剤であるポリ塩化アルミ(例えば、多木化学株式会社製の商品名「PAC250A」)が、グラウト材に添加されている。
比較例6では、高分子凝集剤(例えば、三洋化学工業株式会社の商品名「サンフロックAH−200P」)が、グラウト材に添加されている。
実験例4の結果として、サンプル1〜4、比較例1〜6の各々について、セメントミルク注入時のPロート流下時間とブリージング率が、下表1に示されている。
表1
Figure 0004968970
実験例4において、流動性は、Pロートを用いて、混練直後の流下時間を測定した。
ブリージング率は、土木協会基準のグラウト袋にサンプル1〜4、比較例1〜6の各々を充填して、3時間後のブリージング水の量(%)を測定した。
表1で示す実験例4の実験結果によれば、アルカリ増粘性エマルション類(記号1〜記号4)は、何れもセメントミルクに対して増粘作用を発現し、Pロート流下時間が、セメントミルクを噴射して地盤改良を行なう工法の施工基準に適合する範囲になる。すなわち、増粘はするが、使用可能な範囲になっている。
ブリージング率については、比較例のブランク(混和剤無添加)の52%に対して、サンプル1は35%と低下しており、良好なグラウト性状に改善できた。
実験例4の結果から、アルカリ増粘性エマルション類は、何れもグラウト性に悪影響を及ぼさない範囲で使用できることが判明した。
実験例4において、非アルカリ増粘性エマルション類を添加した比較例2、3では、ブリージング率が53%、50%と大きく、グラウト材の安定性に改善が見られなかった。
非アルカリ増粘性エマルション類(記号7)を添加した比較例4、無機凝集剤を添加した比較例5は、Pロートの流下時間が13.0秒、15秒であり、ジェットグラウト協会基準の12秒以下という要件を充足しておらず、グラウト材の流動性に関する基準を満足していない。
比較例4、比較例5、高分子凝集剤を添加した比較例6のブリージング率は、それぞれ60%、62%、49%であり、ブリージング性が悪いことが判明した。
これにより、本発明の混和剤を添加したグラウト材は、グラウト材として必要な性状を具備していることが判明した。
[実験例5]
実験例5では、スライム処理における脱水量に関して、実験を行なった。
実験例5において、水100gに混和剤として、各種エマルション類1gを予め混合して、次いで、普通ポルトランドセメント100gと混合して試験用グラウト材とした。
実験例4におけるサンプル1と同じアルカリ増粘性エマルション(表1、2における記号1)を混合した試験用グラウト材を、サンプル5とした。
実験例4におけるサンプル2と同じアルカリ増粘性エマルション(表1、2における記号2)を混合した試験用グラウト材を、サンプル6とした。
実験例4におけるサンプル3と同じアルカリ増粘性エマルション(表1、2における記号3)を混合した試験用グラウト材を、サンプル7とした。
実験例4におけるサンプル4と同じアルカリ増粘性エマルション(表1、2における記号4)を混合した試験用グラウト材を、サンプル8とした。
また、混和剤を添加しない(表1、2において「ブランク」と表記)試験用グラウト材を、比較例7とした。
実験例4における比較例2と同じ非アルカリ増粘性エマルション(表1、2における記号5)を混合した試験用グラウト材を、比較例8とした。
実験例4における比較例3と同じ非アルカリ増粘性エマルション(表1、2における記号6)を混合した試験用グラウト材を、比較例9とした。
実験例4における比較例4と同じ非アルカリ増粘性エマルション(表1、2における記号7)を混合した試験用グラウト材を、比較例10とした。
実験例5では、グラウト材が地盤の切削土と混合されて、スライムとして排出される場合を想定して、サンプル5〜8、比較例7〜10の試験用グラウト材に粘土(栃木産粘土、トチクレー)40gを混練して模擬的なスライムを作成した。
この模擬的なスライムを、フィルタープレス機用の濾布により、濾過することにより、固液分離処理を行なった。
実験例5では、容器を重量秤の上に静置し、上述の模擬スライムの全量をフィルタープレス機用の濾布に包み込んで、容器内で手絞りを行なった。そして、手絞りした濾液を採取して重量を計測した。その際に、手絞りで濾液が出なくなるまで、絞り切った。
実験例5の結果を表2で示す。
表2
Figure 0004968970
[実験例6]
次に実験例6について説明する。
実験例6では、試験に際しては、水370gに混和剤として前述したサンプル1、サンプル5と同一のアルカリ増粘性エマルションを混合し、次いで普通ポルトランドセメント380gと混合して実験例5における試験用グラウト材とした。アルカリ増粘性エマルションの添加量は、試験用グラウト材に対する重量比率で2.0重量%である。
そして、グラウト材が地盤の土砂と混合されて、スライムとして排出される場合を想定して、この試験用グラウト材に粘土(栃木産粘土、トチクレー[M30]:サンプル番号9)152gを混練して模擬的なスライムを作成した。
そして、実験例6における試験用グラウト材と栃木産粘土とを混練したスライムが、サンプル9である。
豊洲付近から産出した粘土と混練したスライムが、サンプル10である。
名古屋港南区砂質土と混練したスライムが、サンプル11である。
ベントナイトと混練したが、サンプル12である。
実験例6において、水370gと普通ポルトランドセメント380gを混合して、栃木産粘土とを混練したスライムが、比較例11である。
実験例4における比較例2及び実験例5における比較例8と同じ非アルカリ増粘性エマルション(表1、2、3における記号5)と水370gを混合し、普通ポルトランドセメント380gを混合して、栃木産粘土とを混練したスライムが、比較例12である。
実験例6においても、実験例5と同様に、手絞りして濾液重量を計測した。
実験例6の結果は、下表3で示されている。
表3
Figure 0004968970
表3から明らかなように、本発明によれば、栃木産粘土と混合したスライムのみならず、豊洲付近から産出した粘土、名古屋港南区砂質土、ベントナイトと混合したスライムであっても、相当量の濾液を絞ることが出来て、固液分離(或いは、水の回収)が行なわれ、分離された(回収された)水の分だけ減容化が達成できた。
換言すれば、実験例6から、本発明におけるスライムの減容化という作用は、多種類のスライムについて発揮されることが予想される。
それに対して、比較例11、12では、濾過そのものが困難であり、固液分離(或いは、水の回収)が行なわれず、減容化は困難である。すなわち、アルカリ増粘性エマルションを添加しなければ、本発明におけるような減容化は不可能であることが分った。
[実施例1]
水セメント比(W/C)100%のセメントミルクに、分散剤(例えば、花王株式会社製の商品名「マイティー150」)を添加して、グラウト材とした。このグラウト材100kg当りに、実験例3のサンプル1、実験例4のサンプル5と同一のアルカリ増粘性エマルション(記号1)を1kg(1重量%)添加して、アジテータで配合して地盤改良に供した。
細砂層の軟弱地盤の上述の地盤改良工法(いわゆる「ジェットグラウト工法」)で地盤改良施工を行った結果、地上に排出されたスライムは、比重1.60、乾燥固形分61.5%、水分38.5%であった。
このスライムを、フィルタープレス型脱水機により脱水したところ、スライム1m当り375kgの水(回収水)と、排土1225kg(含水率19.7%)に分離した。
脱水処理で回収された水は無色透明で、浮遊固形分(SS)は数ppm以下であった。そして、この回収水のpHは約10であり、アルカリ性を示したため、セメントミルクの調合水として再利用した。
[実施例2]
セメントミルクに実施例1で用いられたのと同一のアルカリ増粘性エマルション(実験例3のサンプル1、実験例4のサンプル5と同一のアルカリ増粘性エマルション:記号1)を混和剤として、セメントミルク1m当り10kg(1重量%)をアジテータで混合して、細砂層の軟弱地盤について、上述の地盤改良工法(いわゆる「ジェットグラウト工法」)に施工した。
施工に伴って排出されたスライムは、比重1.35、乾燥固形分42.5%、水分57.5%であった。
このスライムを、スクリュープレス型遠心脱水機に連続的に注入して脱水した。脱水処理水(回収水)の浮遊固形分(SS)は50ppmであった。
脱水処理水を中間タンクに集め、炭酸ガスでpHを約8以下に中和調整して、上澄み水を場内の洗浄用水に再利用した。

Claims (2)

  1. 軟弱地盤を改良するために、改良すべき地盤にボーリング孔を切削し、そのボーリング孔にグラウト材を注入する注入管を挿入して、その注入管を回転させながら水を高圧で噴射して地盤を切削・撹拌しつつグラウト材を注入して、その切削・撹拌した領域の土壌をグラウト材で置換して、その地盤中に構造物を形成する地盤改良工法で使用される地盤改良用グラウト材において、アルカリ増粘性エマルションとしてカルボキシル基、スルホン酸基、フェノール性水酸基、リン酸基の酸性基やカルボン酸エステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基を分子内に含有するポリマーが水媒体中で分散されているエマルション、またはアクリル酸メチルを含みグラウト材中でカルボキシル基を生成するアクリル系エマルションがグラウト材用混和剤としてグラウト材に混入されており、その混合される割合いはグラウト材100kgに対して前記アルカリ増粘性エマルションが0.05kg〜5kgであることを特徴とする地盤改良用グラウト材。
  2. 軟弱地盤を改良するために、改良すべき地盤にボーリング孔を切削し、そのボーリング孔にグラウト材を注入する注入管を挿入して、その注入管を回転させながら水を高圧で噴射して地盤を切削・撹拌しつつグラウト材を注入して、その切削・撹拌した領域の土壌をグラウト材で置換してその地盤中に構造物を形成する際に排出されるスライムのスライム処理方法において、アルカリ増粘性エマルジョンとしてカルボキシル基、スルホン酸基、フェノール性水酸基、リン酸基の酸性基やカルボン酸エステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基を分子内に含有するポリマーが水媒体中で分散されているエマルション、またはアクリル酸メチルを含みグラウト材中でカルボキシル基を生成するアクリル系エマルションを用い、前記グラウト材100kgに対して前記アルカリ増粘性エマルション0.05kg〜5kgを混合し、その地盤の土壌をその混合したグラウト材で置換して排出した前記スライムを減容化処理し、発生したスライムから水分を回収し、その回収した回収水を再利用することを特徴とするスライム処理方法。
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