JP4943908B2 - 葛根繊維の製造方法及び該製造方法により得られた葛根繊維 - Google Patents
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Description
葛はマメ科クズ属に属する多年草で、1日に10cm、1年で10mにも生長するつる性植物であり、河原や野原で他の木などにからみついて繁茂している。また、古来より人間生活と深くかかわってきた植物であり、その花・茎・根の全てが利用できる大変有益な植物である。すなわち、葛の葉は家畜の飼料となり,また花は高尚優雅を誇り、古くから秋の七草の一つにも数えられ、お茶花としても親しまれ、また煎じたものは薬草・二日酔いのおう吐緩和などを目的とした漢方薬としての効果もある。蔓(つる)は強靭で、民具を作るときの材料とされ、茎の靭皮繊維は葛布(静岡県掛川市特産・民芸品・古代布)の原料として用いられている。根は多量の澱粉を含んでおり葛澱粉(クズコ:葛粉)が採れ、葛きりや葛餅などの菓子づくり、ならびに高級な日本料理や京料理の材料として利用され、日本独特の文化のみならず、全国の葛・和菓子産業をも支えている。特に、奈良県においては、葛は大和の国(現奈良県)の国栖(くず)地方が葛粉の産地であったことから命名されたといわれ、吉野葛を代表とした特産品として広く知られている。
葛根はカッコン(葛根)と呼ばれ、平安時代から薬用として珍重されており、現在でも葛根湯などとして、解熱の漢方薬や風邪薬の原材料として使用されている。
しかし、葛粉と同様に前記成分を抽出した後の多量の絞りかすは産業廃棄物となる。
食品、漢方、薬剤としての葛や葛根に関する製品、製造方法および装置としては、例えば、特開2004−344030号公報(特許文献1)、特開2006−262889号公報(特許文献2)、特開2005−287323号公報(特許文献3)、特開2005−143367号公報(特許文献4)、特開2001−299251号公報(特許文献5)がある。
特開2006−152524号公報(特許文献7)には葛茎・靭皮繊維の光沢度を向上させた葛繊維およびその製法が提供されている。
特開2005−14332号公報(特許文献8)にはヘミセルロース類とカーボンナノチューブを含む積層体とその製造方法が提供されている。
特開2005−237305号公報(特許文献9)にはヘミセルロースを熱分解した多孔質構造の水稲育苗用不織布が提供されている。
一般的に、植物体は、細胞壁及び繊維で骨格の役割をなすセルロース、該骨格を支えるヘミセルロース、接着剤の働きをもち樹木などの褐色部に多く含まれているリグニンを三大成分としており、ヘミセルロースはセルロースに類似した化学構造をもつ鎖状多糖類であるがセルロースとは似て否なるものである。
澱粉を除去した後の葛根(すなわち廃棄葛根)も、他の一般的な植物体と同様、ヘミセルロース、リグニン、セルロースを三大成分としているが、このうちヘミセルロース含有量が多いという特徴を有する。具体的には、ヘミセルロースとリグニンが80%以上を占め、セルロース含有量は約10%と非常に少ない。一般にヘミセルロースの結合はセルロースとの比較して弱く、脆い素材であるため、ヘミセルロースを多量に含有する葛根や廃棄葛根を繊維として利用するのは従来困難であり、従来繊維材料として利用されている綿や麻などの植物由来の天然繊維はほとんど全てがセルロースのみを利用するものであった。
このように、ヘミセルロースを多量に含有する葛根や廃棄葛根を原材料とした繊維は、未だ利用されていない。
その結果、廃棄葛根の繊維化法の一つとして化学的処理法を考え、ヘミセルロースを分離分解あるいは調整することにより、あるいは、リグニンを脱処理することにより、廃棄葛根を柔軟化・細繊維化し、白色化した葛根繊維を得ることができることを知見した。
前記原料に含まれるヘミセルロースを分離分割または調整するアルカリ処理(1)、
および/または前記原料に含まれるリグニンの脱処理として酸化処理(2)を行って白色化した繊維とし、
さらに、取得した前記白色化した繊維を柔軟処理(4)し、該柔軟処理(4)は両性および/またはカチオン系柔軟加工剤に浸漬または浸透させて、該柔軟加工剤を付着させていることを特徴とする葛根繊維の製造方法を提供している。
前記ヘミセルロースを分離分割または調整するアルカリ処理(1)、リグニンの脱処理として酸化処理(2)のいずれか一方あるいは両方を行うことにより、廃棄葛根の柔軟化と細繊維化を図るものである。アルカリ処理(1)と酸化処理(2)の順序は問わない。
すなわち、本発明の製造方法はヘミセルロースを完全に除去しなくても、僅かなセルロースと共にヘミセルロースを多く含む繊維を作製することができる。
前記酸化処理(2)においても同様であり、リグニンは完全除去する必要はなく、繊維化できる限りにおいて、リグニンを酸化分解すればよい。
より柔軟で、細繊維化し、白色度を上げた葛根繊維を得るには、前記アルカリ処理(1)と前記酸化処理(2)の双方を行うことが好ましい。
前記酸化処理(2)も、同様にリグリンを分解除去することができるものであればよく、一般的な酸化剤の水溶液を常温あるいは加熱して使用することができる。
なかでも、前記アルカリ処理(1)が水酸化ナトリウム水溶液によることが好ましい。
また、前記酸化処理(2)は亜塩素酸ナトリウム水溶液による70〜90℃の加温処理あるいは次亜塩素酸ナトリウム水溶液による10〜40℃の処理が有効である。
前記処理によれば、使用薬品が安価で、かつ、処理時間も短縮できるため、製造コストを下げることができる。
また、前記酸化処理(2)は、前処理として0.005〜0.015mol/Lの塩酸処理後、0.001〜0.005mol/Lの亜塩素酸ナトリウム水溶液により処理することが好ましい。
酸化処理(2)の前処理として塩酸処理を行うことで、脱リグニン処理の短縮化と効率化を図ることができる。
前記酵素処理(3)は、アルカリ処理(1)、酸化処理(2)のいずれか一方もしくは両方を行う前、または、アルカリ処理(1)、前記酸化処理(2)のいずれか一方もしくは両方を行った後に行えばよい。
具体的には、デンプン分解酵素により残存しているデンプン分を除き、ペクチン分解酵素により細胞間物質であるペクチンを除くことができる。さらに、セルロース分解酵素によりヘミセルロースを除くことができる。
本発明者の実験によると、葛根繊維からなる短繊維を適量のビクロン(商品名;一方社油脂工業(株)製)、レスパン(商品名;東海製油工業(株))などの紡績柔軟剤で処理すると、既存の麻繊維のような紡績原料としての短繊維状になることが確認できた。
前記原料に含まれるヘミセルロースを分離分割または調整するアルカリ処理(1)、
および/または前記原料に含まれるリグニンの脱処理として酸化処理(2)を行って白色化した繊維とし、
さらに、前記アルカリ処理(1)、前記酸化処理(2)、酵素処理(3)、柔軟処理(4)のいずれかの処理の後に、天然熱硬化性樹脂を付着させて強度を付与している葛根繊維の製造方法を提供している。
前記天然熱硬化性樹脂の加工は、柔軟処理(4)の前後いずれでもよいが、柔軟処理前に行なうことが好ましい。
天然熱硬化性樹脂を付与することにより、適度な強さと柔らかさを兼ね備えた葛根繊維を得ることができる。
また、本発明者の実験によると、適度なセラックなどの天然熱硬化性樹脂に浸漬・浸透した後に、乾燥した場合も、適度な強さと柔らかさをもつ細長い紡績原料を容易に得ることができた。
前記平均繊維長、平均繊度は、JIS L1015,1019に準拠して測定している。
前述したように、葛根原料にはイソフラボン誘導体であるダイゼイン・ダイズイン・プェラリン等が微量成分として含まれているため、前述した処理で除去されなかった前記微量成分は、葛根繊維に残存している。
なかでも、葛根繊維と同様の天然繊維である、綿、麻、絹、毛等と共に混紡糸とするのが好ましく、特に、綿、麻等の植物繊維と共に混紡糸とするのが好ましい。
例えば、葛根繊維を40〜60質量%、綿繊維を60〜40質量%の割合で含有した葛根/綿混紡糸とすることで、強度0.6〜0.9N/tex、伸度11〜15%の糸とすることができる。
本発明の葛根繊維、または繊維複合体は、人間と地球に優しい生体適合性、環境適合性に優れており、衣料用の繊維や糸などの繊維製品として使用できるほか、医療用、農業用、産業用に好適に使用でき、天然資源の有効利用や生分解性、保水性等を必要とする環境対応材料等の設計・開発に資することができる。
本発明の製造方法によれは、産業廃棄物である廃棄葛根を有効利用することができるため、産業廃棄物の削減に資することができ、環境問題へ対応した繊維を製造することができる。
第一参考実施形態の葛根繊維の製造方法は、葛根あるいは葛粉の製造工程中で得られる廃棄葛根を原料とし、アルカリ処理(1)を施し、原料に含まれるヘミセルロースを分離分割して葛根繊維を製造している。
アルカリ処理(1)は、1〜25質量%の水酸化ナトリウム水溶液に原料を所要時間浸漬して行っている。
以下に、アルカリ処理(1)により葛根繊維を製造した実施例(及び比較例)を記載する。なお、以下の全ての材料に対する試験および測定は、JIS試験法(L1015、L1019、L1069、L1095、L1916など)に準拠して行った。
表1(実施例1〜4)に、葛根原料を水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の濃度及び処理時間を変えて、アルカリ処理(1)した実験例を示す。
葛根原料5gを濃度1〜30%の水酸化ナトリウム水溶液(一定温度95℃)に対して、浴比1:50で1〜6時間浸漬し、煮沸処理を行った。処理後、直ちに流水で20分間、丁寧に原料のぬめりや夾雑物を除去し、室温において1日間自然乾燥した。
得られた繊維塊は、JIS試験法(L1015あるいはL1019)に準拠して、葛根原料からの質量減少率を繊維減少量(%)として求めた。処理条件と共に結果を表1に示す。
そこで、濃度20〜25%の間である濃度23%でも繊維溶解について調べたところ、濃度23%でも繊維が溶解し始めていることを認められた。また、濃度23%で5時間以上の処理を行うと、約85%を超える繊維減少量を示した。
一般に、植物の主成分はセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンであるが、脱脂綿のように精製されてヘミセルロースやリグニンが除去された綿セルロースは水酸化ナトリウム水溶液に溶解しない。したがって、葛根繊維のセルロース含有率は約10%程度と低く、ヘミセルロース等の含有率が約90%と高いことが確認できた。
したがって、葛根では、綿や麻の天然繊維のようにセルロースのみを繊維として用いることは好ましくなく、僅かなセルロースを含むヘミセルロースを繊維としてうまく利用することが必要となるのである。
実施例5〜7,比較例1について、得られた繊維塊は、JIS試験法(L1015,L1019)に準拠して、平均繊維長(mm)、平均繊度(tex)、圧縮率(%)を測定した。なお、単繊維の測定は無作為に採取した単繊維200本×試験回数5、計1000本についての平均値を採用した。
また、アルカリ処理を行っていない比較例1の圧縮率は2.8%であったが、2時間のアルカリ処理を行った実施例5の圧縮率は10%、3時間のアルカリ処理を行った実施例6の圧縮率は16.7%となり、アルカリ処理により圧縮率が増加した。一方、4時間処理では圧縮率が10%となり、3時間処理よりも減少した。これは、4時間の処理時間ではヘミセルロースの溶解による細繊化に続き、短繊維化が起こるために圧縮率が低下したものと認められる。
前記酸化処理(2)は、亜塩素酸ナトリウム水溶液による70〜90℃の加温処理あるいは次亜塩素酸ナトリウム水溶液による10〜40℃の処理としている。
また、前記酸化処理(2)は、前処理として0.005〜0.015mol/Lの塩酸処理後、0.001〜0.005mol/Lの亜塩素酸ナトリウム水溶液による処理をしている。
表3(実施例8,9及び比較例2,3)に、アルカリ処理(1)とリグニンの脱処理としての酸化処理(2)を行った実験例を示す。
酸化処理の前処理として、葛根繊維10gを、浴比1:50として、液温度75℃の0.01mol/l塩酸中で1時間処理した。
次に本処理となる酸化処理(2)として、液温度75℃の0.04mol/l亜塩素酸ナトリウム水溶液(添加0.002mol/l)中で1時間の処理を、計3回実施した。水量減少時には,0.01mol/l塩酸を添加した。処理後は、水洗い後、室内で3日間自然乾燥を行った。
このようにして得られた酸化処理(2)済み繊維を、実施例8(短繊維)、実施例9(長繊維)とした。
なお、単繊維の測定は無作為に採取した単繊維200本×試験回数5回、計1000本についての平均値を採用した。
また、木質化試料の分析で最もよく用いられている硫酸法を用いて、洗浄後における葛根原料のリグニン成分を定量した結果は約12%であり、質量減少量からするとリグニンが完全に除去できたことになる。なお、原材料である葛根の良否は、採取された天然葛根の大きさや太さに依存するために、葛根原料は安定しておらず、原材料にあわせた適度な脱リグニン処理が必要となる。すなわち、若く細く短い葛根に対しては低濃度・短時間の処理、逆に老いた太く長い葛根に対しては高濃度・長時間の処理となる。
酵素処理(3)は、原料に含まれるペクチン、デンプン、あるいは/および、ヘミセルロースを分離分割または調整する処理(3)である。
前記酵素処理(3)では、デンプン、ペクチン、あるいは/およびセルロースの分解酵素を用いて処理している。
表4及び図1に示す実施例10〜15に、酸化処理(2)後に、さらに酵素処理(3)を行った実験例を示す。
実施例11は実施例10の葛根繊維を、ペクチナーゼXP−534(ナガセケムテックス(株)、最適条件:pH7〜8,40〜50℃)で酵素処理したものである。
実施例12は実施例10の葛根繊維を、ペクチナーゼSS(ヤクルト薬品工業(株)製、最適条件:pH3〜5,40〜50℃)で酵素処理したものである。
実施例13は実施例10の葛根繊維を、ペクチナーゼG(アマノ(株)製、最適条件:pH4〜5,40〜50℃)で酵素処理したものである。
手で触った評価では、酵素未処理のリグニン処理済み葛根繊維(実施例10)に比べて、ペクチナーゼで処理した実施例11〜13は、乾燥後においても繊維が固まらず、ほぐれやすく、さらさらとした感触であった。しかし、ビクロンなどの柔軟剤処理を行った方がより好ましいと考えられた。さらに、酵素処理を行うことにより、葛根繊維の白度が向上した。
なお、水洗した葛根原料に対し、前記リグニン定量と同様に、ペクチン成分の定量を行ったところ約5%であったことから、葛根原料中にペクチンは5%程度含まれているといえる。
葛根原料を水洗後、酸化処理(2)のみを行った実施例10について、ペクチナーゼ酵素(XP−534)の濃度と処理時間を表4のように、変化させて処理を行ったものを実施例14,15とした。
実施例14,15について、JIS試験法(L1015あるいはL1019)に準拠して平均繊維長と平均繊度を測定した。なお、単繊維の測定は無作為に抽出した500本について行った。
即ち、アルカリ処理(1)および酸化処理(2)を行わずに、複数の酵素処理(3)を組み合わせて、葛根原料中のペクチン、デンプン、あるいは/および、ヘミセルロースを分離分割または調整して葛根繊維を得た。
表5(実施例16〜20)に、実験例を示す。
前記実施例で用いた酵素の具体的な商品名は以下のとおりである。
α−アミラーゼ酵素;大和化成(株)製「クライスターゼT10S(商品名)」(T10Sと称した)
ペクチナーゼ酵素;ナガセケムテックス(株)製「プロトペクチナーゼナガセ(XP−534)(商品名)」(XP−534と称した)
セルラーゼ酵素;ヤクルト薬品工業(株)製「セルラーゼY−NC(商品名)」(Y−NCと称した)、ナガセケムテックス(株)製「セルレースナガセ(商品名)」
実施例16に対して、表5に示すように、セルラーゼ酵素の種類、濃度及び処理時間を変化させて処理を行ったものをの実施例17〜20とした。
表6(実施例21〜23)に実験例を示す。
柔軟剤として、ビクロンL−8(一方社油脂工業(株)製)を用いたものを実施例21、トセノール(東海製油工業(株)製)を用いたものを実施例22、ハミング(花王(株))を用いたものを実施例23とし、各々の試料について、柔軟処理前からの質量増加により求めた付着量を測定すると共に、手触り、色、においを評価した。
図2(A)は、葛粉の製造工程から廃棄された比較例4の葛根原料を示しており、泥や根表皮などを多量に含んでおり、その色は濃い茶褐色を呈している。
図2(B)は、図2(A)の葛根原料に対し、前記実施例8,9と同様の方法で処理時間を3時間とした酸化処理(2)を行った後、23%濃度の水酸化ナトリウム水溶液で5分間のアルカリ処理(1)を行い、その後、ビクロン5%溶液に30分間浸漬して柔軟処理(4)を行って得られた実施例24の葛根繊維である。
図2(B)に示されるように、上述した各種の化学的処理法を施すことにより得られた本発明の葛根繊維は、白色繊維として得ることができた。
引張強度;単繊維の引張試験はインストロン5565を用いて、試長10mm、引張速度1mm/min、試験本数54本の条件とした。
白色度;ミノルタ製色彩色差計 CR−100を用いて、繊維総質量15gを円筒型容器(内径70mm、高さ100mm)に敷き詰めた状態で測定することを5回繰り返した。
一方、平均白色度は60〜70であり、水洗後における廃棄葛根原料(比較例4)の白色度20〜23から極めて向上していた。
図3(実施例25,26)に実験例を示す。
図3(A)は、セラック5g/エタノール50mlで加工した実施例25の葛根繊維、図3(B)は、セラック10g/エタノール50mlで加工した実施例26の葛根繊維の走査電子顕微鏡写真(観察倍率:2500倍)を示す。
実施例26は、セラックの配合量を10gとした以外は実施例25と同様にした。
本実験例で用いた葛根繊維は、実施例8,9と同様の方法で酸化処理(2)を行ったのち、95℃の水酸化ナトリウム水溶液(濃度23%)で5分間アルカリ処理(1)することにより得たものである。
実施例25では、セラック加工後の葛根繊維は質量が0.25g増加した。通常のアルカリ処理(1)後の葛根繊維に比べ、葛根繊維はやや硬くなった。しかし、一本一本の葛根繊維の引張強度はかなり強く感じた。
実施例26では、セラック加工後の葛根繊維は質量が0.54g増加した。実施例25に比べて、さらに繊維が硬いと感じた。葛根繊維の繊維間にセラックの付着が見られるため乾燥前に単繊維を確実にほぐすことが必要となる。また、セラックの付着量が多くなることで、葛根繊維の色目はやや黄味を帯び、セラックの淡黄色が影響を及ぼしていた。
図4に葛根繊維から紡績中間生産物・カードラップを作製した実験例を示す。
葛根原料を約40℃の温水・流水を用いて、10分間丁寧に洗浄した後、葛根細胞の接着剤であり、褐色を呈するリグニンを次の(イ)〜(ハ)の方法で酸化処理(2)を行い、除去した。
(イ)前処理;塩酸 0.01mol/l、浴比 1:50、液温度 75℃、1時間処理
(ロ)本処理;亜塩素酸ナトリウム 0.04 mol/l(添加 0.002mol/l)、液温度 75℃、1時間処理(水量減少時には、塩酸 0.01 mol/lを添加)を3回実施
(ハ)水洗い後、室内で自然乾燥(3日間)
ついで、ヘミセルロースを細繊化するために、次の(ニ)(ホ)の方法でアルカリ処理(1)を行った。
(二)水酸化ナトリウム 23%、浴比 1:50、液温度 98℃、5分間処理
(ホ)水洗い後、室内で自然乾燥(3日間)
さらに、適度な柔軟性を付与して紡績原料とするために、次の(へ)(ト)の方法で柔軟処理(3)を施した。
(へ)ビクロン 5%、液温度 35℃、浴比 1:50、30分間処理
(ト)手で軽く脱水後、室内で自然乾燥(3日間)
ビクロンの付着量は4.3%であった。
(チ)前記葛根繊維と綿繊維は、それぞれにハンドカードを用いて優しく丁寧にほぐした。なお、葛根繊維と共に使用した綿繊維の平均繊維長は26.3mm(標準偏差2.36)、平均繊度は1.3dtex(標準偏差0.03)であった。
(リ)綿紡用ミニチュアフラットカード機に、フィードテーブル上で綿繊維/葛根繊維/綿繊維の三層状態をつくり、合計で綿繊維及び葛根繊維を(綿繊維:葛根繊維)=(40〜60%:60〜40%)となるように計30gを供給した。できあがった第一回混綿ラップはリバース状態でカード機に再度供給し、平均質量23.3gの第二回ラップを得た。カード機処理前の葛根繊維を参考例、カード機処理後の葛根繊維を実施例27とし、これらの平均繊維長、平均繊度、質量を表7に示す。
なお、綿紡用ミニチュアフラットカード機のシリンダー回転速度を適当に調整することにより、葛根繊維・綿繊維混合原料の歩留量の増加、および葛根繊維における平均繊維長の増加を実現させることもできた。
図4に示すように、葛根繊維60%/綿繊維40%、葛根繊維40%/綿繊維60%のカードラップとも、葛根繊維と綿繊維とが均一に混合され、紡績が可能な状態とすることができた。
(ル)さらに、綿紡用リング精紡機を用いて、平均撚数10.58turns/inch(平均撚係数4.0)、平均番手7Neの葛/綿混紡糸とした。
このように、前記カードラップから葛/綿混紡糸を作製することができた。また、リング精紡機のドラフト比と撚数などを変化させることによって、葛根繊維の含有割合100%未満において葛繊維と異種繊維との混紡糸を作製できた。さらに、ガラ紡精紡機やオープンエンド精紡機などの各種精紡機を用いても、これらの紡績糸や混紡糸、ならびに複合糸を作製できた。
さらに、上述した全ての葛根繊維や混合・複合葛根繊維集合体は、経糸,あるいは緯糸に用いた編織製品などを製造することも可能であった。さらに、それらの繊維や繊維集合体は、セラックなどの天然樹脂や各種の樹脂を付着させることによって、それらの諸特性値が大きく改善・向上した。
Claims (13)
- 葛根あるいは葛粉の製造工程中で得られる廃棄葛根を原料とし、
前記原料に含まれるヘミセルロースを分離分割または調整するアルカリ処理(1)、
および/または前記原料に含まれるリグニンの脱処理として酸化処理(2)を行って白色化した繊維とし、
さらに、取得した前記白色化した繊維を柔軟処理(4)し、該柔軟処理(4)は両性および/またはカチオン系柔軟加工剤に浸漬または浸透させて、該柔軟加工剤を付着させていることを特徴とする葛根繊維の製造方法。 - 前記アルカリ処理(1)が水酸化ナトリウム水溶液による処理であり、
前記酸化処理(2)が亜塩素酸ナトリウム水溶液による70〜90℃の加温処理あるいは次亜塩素酸ナトリウム水溶液による10〜40℃の処理である請求項1に記載の葛根繊維の製造方法。 - 前記アルカリ処理(1)は1〜25質量%の水酸化ナトリウム水溶液による処理とし、前記酸化処理(2)は、前処理として0.005〜0.015mol/Lの塩酸処理後、0.001〜0.005mol/Lの亜塩素酸ナトリウム水溶液による処理としている請求項2に記載の葛根繊維の製造方法。
- 前記アルカリ処理(1)あるいは/及び前記酸化処理(2)に、さらに、前記原料に含まれるペクチン、デンプン、あるいは/および、ヘミセルロースを分離分割または調整する酵素処理(3)を組合わせている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の葛根繊維の製造方法。
- 前記酵素処理(3)は、デンプン、ペクチン、あるいは/およびセルロースの分解酵素による処理としている請求項4に記載の葛根繊維の製造方法。
- 葛根あるいは葛粉の製造工程中で得られる廃棄葛根を原料とし、
前記原料に含まれるヘミセルロースを分離分割または調整するアルカリ処理(1)、
および/または前記原料に含まれるリグニンの脱処理として酸化処理(2)を行って白色化した繊維とし、
さらに、前記アルカリ処理(1)、前記酸化処理(2)、酵素処理(3)、柔軟処理(4)のいずれかの処理の後に、天然熱硬化性樹脂を付着させて強度を付与している葛根繊維の製造方法。 - 請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の製造方法により得られ、平均繊維長20〜70mm、平均繊度1.0〜10texであることを特徴とする葛根繊維。
- 平均白色度が60〜70である請求項7に記載の葛根繊維。
- イソフラボンあるいはイソフラボン誘導体を含有している請求項7または請求項8に記載の葛根繊維。
- 請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の葛根繊維を糸状あるいは織物状や編物状、不織布状として含有する繊維集合体。
- 前記葛根繊維と、天然繊維あるいは/および化学繊維からなる異種繊維とを含有する混紡糸である請求項10に記載の繊維集合体。
- 前記混紡糸は、前記葛根繊維を40〜60質量%、綿繊維を60〜40質量%の割合で含有し、強度が0.6〜0.9N/tex、伸度が11〜15%である請求項11に記載の繊維集合体。
- 請求項7乃至請求項12のいずれか1項に記載の葛根繊維あるいは繊維集合体から形成した繊維製品。
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