JP4931286B2 - 眼科用剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、天然成分を含有する眼科用製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
点眼剤等の眼科用製剤は、製造時或いは使用開始後に細菌汚染が発生するおそれがあり、細菌の増殖を抑える抗菌力のある物質を保存剤として配合する必要がある。従来、眼科製剤用の保存剤としては、塩化ベンザルコニウムや塩化ベンゼトニウムのような第4級アンモニウム型の陽イオン界面活性剤が効果的であることが知られており、数多くの点眼剤において利用されている。
【0003】
しかし、斯かる陽イオン界面活性剤は、高い保存効果を持つ一方で、角膜障害を引き起こしたり、コクタクトレンズに吸着されやすいこと等から眼刺激などを引き起こす副作用が知られ、また主薬の無効化や沈殿を引き起こし配合不可となる場合があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、眼科用製剤に対して陽イオン界面活性剤と同等な保存力を示すと共に高い安全性を有し、陽イオン界面活性剤に代替し得るか或いはその使用量を低減し得る眼科製剤用保存剤を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、眼刺激がなく眼科用製剤に使用可能な天然成分について探索したところ、スギ精油成分に陽イオン界面活性剤と同等の抗菌力があり、安全性の高い眼科製剤用保存剤となり得ることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、スギ精油成分の1種又は2種以上を有効成分とする眼科製剤用保存剤を提供するものである。
【0007】
また本発明は、シトロネラル、l−p−メンテン、テルピネン−4−オール、リモネン、エレモール、ノポール、α−テルピニルアセテート、p−シメン及びカルボンから選ばれるスギ精油成分の1種又は2種以上を含有する点眼剤を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明において用いられるスギ精油成分とは、スギ科(Taxodiaceae)のスギ(Cryptomeria japonica (L. fi1. ) D. DON)の精油成分であり、具体的には、シトロネラル(Citronellal)、l−p−メンテン(l-p-Menthene)、カルボン(Carvon)、テルピネン−4−オール(Terpinene-4-ol)、エレモール(Elemol)、ロンギフォレン(Longifolene)、β−カリオフィレンアルコール(β−Caryophylene alcohol)、α−ピネン(α−Pinene)、β−ピネン(β−Pinene)、カンフェン(Camphene)、ミルセン(Myrcene)、リモネン(Limonene)、リナロール(Linalool)、イソボルニルアセテート(Isobornyl acetate)、p−メンタン(p-Menthane)、p−シメン(p-Cymene)、アローオシメン(Allo-ocimene)、ジヒドロミルセノール(Dihydromyrcenol)、ノポール(Nopol)、α−テルピニルアセテート(α−Terpinyl acetate)、α−テルピネオール(α−Terpineol)が挙げられ、リナロールを除きこれらが眼科用製剤に使用できることは全く知られていない。
【0009】
このうち抗菌力及び眼組織に対する安全性の点から、シトロネラル、l−p−メンテン、テルピネン−4−オール、リモネン、リナロール、エレモール、ノポール、α−テルピニルアセテート、p−シメン及びカルボンが好ましく、特にテルピネン−4−オール、リナロール、ノポール及びカルボンが好ましい。
【0010】
尚、上記精油成分のうち、テルピネン−4−オール、p−シメン、リナロール、シトロネラル及びリモネン他、幾つかの成分については、抗菌活性を有することが報告されているが(フランス国特許出願公開第2748204号公報、特開平10−338630号公報、特開平4−21606号公報等)、角膜損傷作用が少なく眼組織に対して安全に使用できるという報告は全くない。
【0011】
本発明の各種スギ精油成分は、スギ葉油を減圧蒸留により分画した後、遠心液々分配クロマトグラフィーやODSカラムを用いた分取液体クロマトグラフィー等の分離精製手段を適宜組み合わせることにより、或いは化学合成により取得することができる。また、光学活性体については、例えばキラルカラムを用いた分取液体クロマトグラフィーを用いて光学分割することにより得ることができる。
【0012】
斯かる本発明のスギ精油成分は、後記実施例に示すように、抗菌力を有し、第4級アンモニウム型界面活性剤と同等の保存力を持ち、且つ角膜損傷作用が少なく眼組織に対して安全であることから、眼科用製剤の保存剤となり、これを配合すれば、眼刺激を引き起こしたり沈殿を引き起こす可能性のある既存の保存剤を使用せずとも眼科用製剤の細菌汚染を防ぐことができる。ここで、眼科用製剤とは点眼剤の他、洗眼剤、眼軟膏剤等が挙げられ、本発明の保存剤はこれら何れの製剤についても用いることができるが、特に点眼剤に用いるのが好ましい。
【0013】
尚、本発明のスギ精油成分を含有した点眼剤には、本発明の効果を妨げない限り、通常点眼剤に用いられる薬効成分(例えばビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンE、パントテン酸カルシウム等のビタミン類、グリチルリチン酸二カリウム、イプシロンアミノカプロン酸、アズレンスルホン酸ナトリウム、塩化リゾチーム等の抗炎症剤、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン剤、塩酸エピネフリン、塩酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン等の血管収縮剤他、L−アスパラギン酸カリウム、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム等、タウリン等)、pH調節剤、緩衝剤、等張化剤、可溶化剤等の添加剤を配合することができる。また斯かる点眼剤には、溶解補助剤として、例えばポリソルベート80等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン界面活性剤を添加することが好ましい。
【0014】
本発明の眼科製剤用保存剤は、配合する眼科用製剤全体に対して、0.06w/v%〜2.4w/v%、好ましくは0.12w/v%〜0.24w/v%配合することが好ましい。
また、本発明の眼科製剤用保存剤は、従来から用いられている保存剤、例えば塩化ベンザルコニウムや塩化ベンゼトニウム等の第4級アンモニウム型界面活性剤、パラベン、クロロブタノール、ソルビン酸等と併用することもでき、その場合はこれら保存剤の添加量を減らすこと、具体的には0.001〜0.01w/v%とすることができる。
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
実施例1〜15、比較例1〜2
以下の表1及び表2に示すような点眼剤を調製した。
尚、スギ精油成分は、市販の合成精油又は立山杉葉油より分画精製したものを使用した。
【0016】
【表1】
Figure 0004931286
【0017】
【表2】
Figure 0004931286
【0018】
試験例1 保存効力試験
試験方法:実施例1〜15、比較例1〜2の点眼剤及びリン酸緩衝液(PBS)の各被験試料19.5mLに接種菌液0.5mLを接種し、よく混合した後、細菌(Escherichia coil、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococus aureus)を接種した試料を30〜32℃に、真菌(Candida albicans、Aspergillus niger)を接種した試料を20〜25℃にそれぞれ保存し、0.6時間、1、4、7、14及び28日間よく攪拌し、無菌的にサンプリングを行い、菌数の経時的消長を測定した。菌数の測定は寒天平板混釈法に従い求め、残存率を算出した。実施例1〜12及び比較例1〜2の点眼剤の結果を表3〜7に、実施例13〜15の点眼剤の結果を表8〜12に示す。
尚、試料中の細菌の生菌数が最初の14日の試験期間内に接種した菌数に比べて0.1%以下に減少し、その後28日間までの試験終了時までそのレベルと同等若しくはそれ以下の生菌数にとどまっていた場合、及び試料中の真菌の生菌数が接種後14日と28日目で、接種した菌数と同レベル若しくはそれ以下にとどまっていた場合に、当該試料は保存抗菌力があると判定される(保存抗菌力試験法)。
【0019】
【表3】
Figure 0004931286
【0020】
【表4】
Figure 0004931286
【0021】
【表5】
Figure 0004931286
【0022】
【表6】
Figure 0004931286
【0023】
【表7】
Figure 0004931286
【0024】
【表8】
Figure 0004931286
【0025】
【表9】
Figure 0004931286
【0026】
【表10】
Figure 0004931286
【0027】
【表11】
Figure 0004931286
【0028】
【表12】
Figure 0004931286
【0029】
試験例2 眼粘膜刺激性試験
日本白色種家兎(雄性 約2kg)の下眼瞼を眼球より穏やかに引き離した後、結膜嚢内に各被験物質50μLを適用した。試験物質の流出を防ぐため上下の瞼を穏やかに合わせ1秒間保持した。前眼部刺激症状を投与後1、24及び48時間目に観察し、眼粘膜におけるDraizeによる刺激評点を評価した。
得られた刺激評点の合計を動物被験目球数(n=6)で除して平均値(MTS)を求め、観察期間中の平均値の最大値(MMTS)からKay & Calandaによる眼粘膜刺激分級法により暫定的刺激度を決定した。なお、Kay & Calandaの暫定的刺激度は表13のように分級される。結果を表14に示す。
【0030】
【表13】
Figure 0004931286
【0031】
【表14】
Figure 0004931286
【0032】
試験例3 細胞毒性試験
検体の調製:被験物質(l−p−メンテン、テルピネン−4−オール、エレモール、リナロール、ノポール、α−テルピニルアセテート、l−メントール(比較物質)、塩化ベンザルコニウム(比較物質))それぞれ100μLを10%FBS+MEM培地10mLに溶解した。これを更に同培地を用いて順次希釈し、l−p−メンテン、テルピネン−4−オールにつていは0.2、0.1、0.02、0.01、0.002%の、エレモール、リナロール、ノポール、α−テルピニルアセテート、l−メントールについては0.1、0.04、0.02、0.01%の、塩化ベンザルコニウムについては20×10-5、10×10-5、2×10-5、1×10-5、0.2×10-5%の検体を作製した。
【0033】
細胞の調製:ウサギ角膜細胞SIRC cellを常法に従い1000cells/mLとなるように調製し、この細胞懸濁液60μLを6wellマルチプレート播種し(n=4)、培地1mLを加え48時間CO2インキュベーター内で培養した。この細胞に先に作成した検体1mLを播種し、更に7日間CO2インキュベーター内で培養した。
【0034】
細胞の染色:培養終了後、培養上清をデカンテーションで除去し、ここにメタノールを加え5分間放置する。メタノールを除去し、ギムザ染色液を加え10分間放置する。ギムザ染色液を除去し、軽く水洗し乾燥させる。染色されている細胞が50個以上であるコロニーをカウントし、生存率を求めた。細胞probit法により50%抑制率(IC50)を求めた。
また、下記式
【0035】
【数1】
Figure 0004931286
【0036】
から検体の使用可能最大量を算出した。結果を表15〜22に示す。尚、表中の%はw/v%を表す。
【0037】
【表15】
Figure 0004931286
【0038】
【表16】
Figure 0004931286
【0039】
【表17】
Figure 0004931286
【0040】
【表18】
Figure 0004931286
【0041】
【表19】
Figure 0004931286
【0042】
【表20】
Figure 0004931286
【0043】
【表21】
Figure 0004931286
【0044】
【表22】
Figure 0004931286
【0045】
【発明の効果】
本発明の眼科製剤用保存剤は、塩化ベンザルコニウム等の陽イオン界面活性剤と同等の保存力を持ち、且つ角膜損傷作用が少なく眼組織に対して安全であることから、陽イオン界面活性剤に代替して用いること、或いはその使用量を低減することができ、眼科用製剤の安全性を向上させることができる。また同時に、使用の際の程良い刺激感や清涼感を付与することもでき、眼科用製剤の使用感の向上をもたらすことができる。

Claims (1)

  1. テルピネン−4−オール及びノポールから選ばれる精油成分の1種又は2種以上を、点眼剤全体に対して、0.06w/v%〜2.4w/v%含有する点眼剤
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