JP4914200B2 - 感染症の予防又は治療のための薬剤及びその製造方法、評価方法及びスクリーニング方法、並びに、病原性細菌の病原性の評価方法及び感染症の検査方法 - Google Patents
感染症の予防又は治療のための薬剤及びその製造方法、評価方法及びスクリーニング方法、並びに、病原性細菌の病原性の評価方法及び感染症の検査方法 Download PDFInfo
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Description
特に、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、化膿性疾患、肺炎、食中毒等の起因菌として知られるが、抗生物質メチシリン等、多くの薬剤に対する耐性を獲得した、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の出現が臨床上大きな問題となっている。このMRSAは、通常の抵抗力をもつ健康な人にはほぼ無害であるが、抵抗力の低下した状態では感染症を引き起こし、一旦発症すると、多くの抗生物質に対して耐性を有するため、治療は困難であり、死に至ることもある。
また、MRSAに対しては更に新たな薬剤の開発も広く行われており、例えば、キネオスポリア(Kineosporia)属に属する放線菌の培養液から得られた新規な抗生物質等も提案されているが(特許文献1参照)、このような新たな薬剤についても、その使用により更に新たな耐性菌を生じさせる危険性を依然として有していると考えられる。
このように、新たな薬剤の使用に対する更に新たな耐性菌の出現の問題は、いわゆる「いたちごっこ」の状態であり、このような問題の根本的な克服が待ち望まれているのが現状である。
また、従来の感染症の検査方法では、感染症に罹患した患者体内の病原性細菌の病原性の高低を定量的に評価し、患者の症状の重篤化の有無を的確に予想することは困難であった。
また、本発明者らによる前記知見を利用すると、例えば、感染症に罹患した患者から分離された前記病原性細菌の滑走活性の高低を指標として、患者体内に存在する前記病原性細菌の病原性の高低を定量的に評価することができる。これにより、患者の症状の重篤化の有無を的確に予想することができ、より適切な治療方法を選択することが可能となる。即ち、前記知見を利用すれば、従来とは全く異なる新たな感染症の検査方法を提供することが可能である。
<1> 被検物質が、滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有するか否かを評価する方法であって、
(a)前記被検物質が、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させるか否かを評価する工程
を含むことを特徴とする方法である。
<2> 滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有する物質をスクリーニングする方法であって、
(a)被検物質が、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させるか否かを評価する工程、及び、
(b)前記工程(a)で前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させると評価された物質を選択する工程
を含むことを特徴とする方法である。
<3> 滑走能を有する病原性細菌に起因する感染症の予防又は治療のための薬剤の製造方法であって、
(a)被検物質が、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させるか否かを評価する工程、
(b)前記工程(a)で前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させると評価された物質を選択する工程、
(c)前記工程(b)で選択された物質を生成する工程、及び、
(d)前記工程(c)で生成された物質と、薬学的に許容され得る担体とを混合する工程
を含むことを特徴とする製造方法である。
<4> 滑走能を有する病原性細菌に起因する感染症の予防又は治療のための薬剤であって、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させる作用を有する物質を有効成分とすることを特徴とする薬剤である。
<5> 滑走能を有する病原性細菌の病原性を評価する方法であって、
(a’)前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を評価する工程
を含むことを特徴とする方法である。
<6> 滑走能を有する病原性細菌に起因する感染症の検査方法であって、
(a’’)被検体から被検試料を採取する工程、
(b’’)前記被検試料から前記滑走能を有する病原性細菌を分離する工程、及び、
(c’’)分離された前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を評価する工程
を含むことを特徴とする方法である。
本発明の評価方法は、被検物質が、滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有するか否かを評価する方法であり、以下の工程(a)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
また、本発明のスクリーニング方法は、滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有する物質をスクリーニングする方法であり、以下の工程(a)〜工程(b)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
前記評価方法及び前記スクリーニング方法(以下、単に「方法」と総称することがある)は、滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有する物質の評価乃至スクリーニングを、前記物質が前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させるか否かを指標として行うことを特徴とする。
前記評価方法及び前記スクリーニング方法においては、まず、前記被検物質が、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させるか否かを評価する(工程(a))。
前記「被検物質」としては、特に制限はなく、前記滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有するか否かを評価したい任意の物質を用いることができ、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製蛋白質、粗精製蛋白質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、天然化合物、既存の抗生物質、既存の合成抗菌薬などが挙げられる。
前記「滑走能」とは、細菌が軟寒天培地表面を滑走し、自ら移動できる能力のことをいい、また、前記「病原性」とは、細菌等の病原体が、他の生物に感染して、感染症を引き起こし得る性質のことをいう。また、前記軟寒天培地とは、通常の寒天培地(例えば、1.5%程度の寒天を含む)に比べて低い濃度の寒天を含む寒天培地(例えば、0.24%程度の寒天を含む)をいう。したがって、前記「滑走能を有する病原性細菌」としては、前記軟寒天培地表面を滑走する能力を有し、かつ、他の生物に感染して感染症を引き起こし得る性質を有する細菌であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)等のブドウ球菌(Staphylococcus)、マイコバクテリウム スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)等のマイコバクテリウム(Mycobacteria)、ストレプトコッカス ミレリ(Streptococcus milleri)等の連鎖球菌(Streptococci)、枯草菌(Bacillus subtilis)、大腸菌(Escherichia coli)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、セラチア菌(Serratia marcescens)などが挙げられる。なお、前記黄色ブドウ球菌が前記滑走能を有することは、近年、本発明者らによって初めて見出された事実である(例えば、第78回日本生化学会大会(2005)要旨集、Kaitoら、12th International Symposium on Staphylococci&Staphylococcal Infections,3−6 September 2006,Maastricht,The Netherlands,Poster number:P028)。
前記被検物質が前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させるか否かを評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、軟寒天培地を用いた細菌の固体培養技術を利用することができる。例えば、図1に示すように、滑走活性の高い病原性細菌(図1中、RN4220)は、培養時に軟寒天培地表面を広く滑走し、大きく広がったコロニー状態を示す。一方で、滑走活性の低い病原性細菌(図1中、NI−6〜10)は、軟寒天培地表面をあまり滑走することなく、小さくまとまったコロニー状態を示す。したがって、例えば、被検物質の存在・非存在以外はある一定の条件下で、前記滑走能を有する病原性細菌を軟寒天培地上で培養した際に、前記被検物質の存在下では、前記被検物質の非存在下と比較して、前記滑走能を有する病原性細菌のコロニー状態が小さいとき、前記被検物質は、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させると評価することができる。
前記工程(a)で、前記被検物質が前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させると評価された場合に、前記被検物質は前記滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有すると評価することができる。なお、ここで評価される前記病原性細菌の病原性の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、羊、ウサギ、ヒト等の赤血球を用いて判定される溶血活性、生物に対する殺傷能力、生物体内での細菌の増殖、発熱や炎症、白血球数の増加等で判定される免疫系の亢進、各種臓器機能の低下などが挙げられる。
前記評価方法によれば、被検物質が滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有する物質であるか否かを、効率的に評価することができる。
また、前記スクリーニング方法においては、更に、前記工程(a)で前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させると評価された物質を選択する(工程(b))。
種々の被検物質を用いて前記工程(a)による評価を行い、次いで、本工程(b)において、種々の被検物質の中から前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させると評価された物質を選択することにより、前記滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有する物質を効率的にスクリーニングすることができる。
本発明の薬剤の製造方法(以下、単に「製造方法」と称することがある)は、滑走能を有する病原性細菌に起因する感染症の予防又は治療のための薬剤の製造方法であり、以下の工程(a)〜工程(d)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
前記製造方法における工程(a)及び工程(b)は、前記した本発明の評価方法及びスクリーニング方法における工程(a)及び工程(b)とそれぞれ同様である。前記工程(a)〜(b)により、前記滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有する物質を、効率的に選択することができる。
前記製造方法においては、次いで、前記工程(a)〜(b)で選択された、前記滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有する物質を生成する(工程(c))。
前記生成の手段としては、特に制限はなく、例えば、前記物質の構造や由来などに応じて、化学合成や、分離精製などの公知の生成手段から適宜選択することができる。
前記製造方法においては、次いで、前記工程(c)で生成された物質を、薬学的に許容され得る担体と混合する(工程(d))。
−薬学的に許容され得る担体−
前記薬学的に許容され得る担体としては、特に制限はなく、例えば、製造する薬剤の所望の剤型等に応じて適宜選択することができる。また、前記剤型としても、特に制限はなく、例えば、後述する本発明の薬剤の項目で列挙される剤型などが挙げられる。
前記工程(c)で生成された物質と前記薬学的に許容され得る担体との混合方法としては、特に制限はなく、例えば、公知の薬剤の製造方法における各成分の混合方法から適宜選択することができる。
また、前記混合時の、前記物質と前記薬学的に許容され得る担体との使用量比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記工程(d)で得られた混合物を成形する成形工程、などが挙げられる。
前記製造方法により得られた薬剤の使用形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する本発明の薬剤と同様に使用することができる。
本発明の薬剤は、滑走能を有する病原性細菌に起因する感染症の予防又は治療のための薬剤であり、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させる作用を有する物質を有効成分として含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。なお、前記薬剤は、前記した本発明の製造方法により製造された薬剤であってもよい。
前記「滑走能を有する病原性細菌」としては、前記した本発明の評価方法及びスクリーニング方法の項目に記載した通りである。後述する実施例において示されるように、前記病原性細菌の滑走活性の高さと前記病原性細菌の病原性の高さには密接な関係性がある。したがって、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させる作用を有する物質は、前記滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させることができ、前記病原性細菌に起因する感染症の予防又は治療のための薬剤の有効成分となり得る。
前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させる作用を有する物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コンゴーレッド、クリスタルバイオレット、サフラニン、メチレンブルー、クロルプロマジン、塩化ベルベリンなどが挙げられる。前記物質としては、前記病原性細菌の増殖は阻害せず、前記病原性細菌の滑走活性のみを低下させる作用を有する物質であってもよいし、また、前記病原性細菌の滑走活性を低下させると同時に前記病原性細菌の増殖をも阻害する物質であってもよいが、中でも、前記薬剤に対する新たな耐性菌が出現する危険性を低減させる観点から、前記病原性細菌の増殖は阻害せず、前記病原性細菌の滑走活性のみを低下させる(即ち、前記病原性細菌の生存は妨げずに、前記病原性細菌の病原性のみを低下させる)物質であることが好ましい。
また、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させる作用を有する物質としては、例えば、前記した本発明の評価方法及びスクリーニング方法により選択された物質を使用することもできる。
また、前記有効成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の、前記薬剤中の各々の有効成分の含有量比にも、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬学的に許容され得る担体などが挙げられる。前記担体としても、特に制限はなく、例えば、後述する前記薬剤の剤型等に応じて適宜選択することができる。また、前記薬剤中の前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
前記薬剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶液、懸濁液、用時溶解用固形剤等)、軟膏剤、貼付剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤などが挙げられる。
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。前記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。前記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。前記着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。前記等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。前記局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
前記基剤としては、例えば、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィンなどが挙げられる。前記保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルなどが挙げられる。
前記薬剤は、例えば、前記滑走能を有する病原性細菌に起因する感染症患者に投与することにより使用することができる。
前記薬剤の投与対象動物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サルなどが挙げられる。
前記薬剤の投与方法としては、特に制限はなく、前記薬剤の剤型等に応じ、適宜選択することができ、例えば、経口投与、腹腔内投与、血液中への注射などが挙げられる。
前記薬剤の投与量としては、特に制限はなく、投与対象である患者の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、成人への1日の投与あたり、有効成分の量として、1μg〜10gが好ましく、1μg〜100mgがより好ましい。
前記薬剤の投与時期としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、感染症に対して予防的に投与されてもよいし、治療的に投与されてもよい。
本発明の病原性の評価方法(以下、単に「評価方法」と称することがある)は、滑走能を有する病原性細菌の病原性を評価する方法であり、以下の工程(a’)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
前記評価方法では、まず、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を評価する(工程(a’))。
ここで、前記「滑走能を有する病原性細菌」としては、前記した本発明の評価方法及びスクリーニング方法の項目に記載した通りであり、その病原性の高低を評価したい任意のものを選択することができる。
前記工程(a’)で、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性が高い(低い)と評価された場合に、前記病原性細菌の病原性は高い(低い)と評価することができる。なお、ここで評価される前記病原性細菌の病原性の種類としては、特に制限はなく、前記した本発明の評価方法及びスクリーニング方法の項目に記載した通りである。
前記病原性の評価方法によれば、前記滑走能を有する病原性細菌の病原性の高低を効率的に評価することができる。また、後述する実施例に示すように、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性と病原性との間には正の相関関係が成り立つため、前記評価方法を用いることにより、前記病原性細菌の病原性を、定量的に評価することも可能となる。
前記評価方法は、例えば、当該技術分野における基礎実験等に好適に利用可能であり、また、後述する本発明の感染症の検査方法等、臨床においても好適に利用可能である。
本発明の感染症の検査方法(以下、単に「検査方法」と称することがある)は、滑走能を有する病原性細菌に起因する感染症の検査方法であり、以下の工程(a’’)〜工程(c’’)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
前記検査方法では、まず、被検体から被検試料を採取する(工程(a’’))。
−被検体−
前記被検体としては、前記検査の対象となり得る生物であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記滑走能を有する病原性細菌に起因する感染症に罹患した患者、前記感染症に罹患した疑いのある患者、などが挙げられる。なお、前記被検体の生物種としても特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
−被検試料−
前記被検試料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記被検体の、鼻腔粘膜組織、血液、喀痰、糞便、カテーテル先端、気管チューブ、開放性膿、口腔内分泌液、咽頭粘液などが好適に挙げられる。
前記被検体から前記被検試料を採取する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記被検体から採取された前記被検試料は、例えば、そのまま後述する工程(b’’)に供されてもよいし、洗浄、保存などの操作が行われた後に、工程(b’’)に供されてもよい。
前記検査方法では、次いで、前記工程(a’’)で採取した被検試料について、前記滑走能を有する病原性細菌を分離する(工程(b’’))。
ここで、前記「滑走能を有する病原性細菌」としては、前記した本発明の評価方法及びスクリーニング方法の項目に記載した通りである。
前記被検試料からの前記滑走能を有する病原性細菌の分離方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の細菌培養技術を用いて行うことができる。
前記検査方法では、次いで、前記工程(b’’)で分離した前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を評価する(工程(c’’))。
ここで、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性の評価方法としては、前記した本発明の病原性の評価方法の項目に記載した通りである。
本発明の検査方法によれば、例えば、滑走能を有する病原性細菌に起因する感染症に罹患した患者体内に存在する前記病原性細菌のうち、病原性の高いものを効率的に特定することができ、これにより、例えば、病原性の高い前記細菌に対する治療を優先的に行う等、より有効な治療法の選択が可能となる。なお、前記検査方法を利用し、病原性の高い前記細菌を体内に有すると判断された感染症罹患患者の予防又は治療には、例えば、前記した本発明の薬剤の適用が効果的であると考えられる。
また、後述する実施例に示すように、前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性と病原性との間には正の相関関係が成り立つことから、前記感染症の検査方法によれば、患者体内に存在する前記病原性細菌の病原性を、定量的に評価することができ、これにより、前記患者の症状の重篤化の有無を、的確に予想することができると考えられる。
本発明の評価方法及びスクリーニング方法によれば、被検物質が前記滑走能を有する病原性細菌の滑走活性を低下させるか否かを指標として、効率的に、滑走能を有する病原性細菌の病原性を低下させる作用を有する物質を評価乃至スクリーニングすることができる。また、本発明の製造方法によれば、前記評価乃至スクリーニングされた物質を有効成分として、前記滑走能を有する病原性細菌に起因する感染症の予防又は治療のための薬剤を効率的に製造することができる。したがって、前記評価方法、スクリーニング方法、及び製造方法は、新たな感染症用薬剤の開発に非常に有用である。
また、前記評価方法、スクリーニング方法、及び製造方法によれば、例えば、前記病原性細菌の増殖は阻害せず、前記病原性細菌の病原性のみを低下させる薬剤を得ることも可能となる。このような薬剤は、感染症を効果的に予防又は治療できるとともに、前記病原性細菌の増殖を阻害しないため、新たな耐性菌が出現する可能性の低い、優れた薬剤となり得る。したがって、例えば、現在臨床上大きな問題となっているMRSA、VRSA等の多剤耐性黄色ブドウ球菌に対する薬剤の開発にも、前記評価方法、スクリーニング方法、及び製造方法は好適であると考えられる。
また、前記薬剤は、前記病原性細菌の増殖は阻害せず、前記病原性細菌の病原性のみを低下させる物質を有効成分として使用することにより、前記病原性細菌の増殖を阻害することなく感染症を治療できる、優れた薬剤となり得る。このような薬剤は、新たな薬剤耐性菌が出現する危険性の低い、従来にない新しいタイプの薬剤であるということができる。したがって、例えば、前記したMRSA、VRSA等の多剤耐性黄色ブドウ球菌に対する薬剤としても、前記薬剤は好適であると考えられる。
また、前記病原性の評価方法、及び感染症の検査方法によれば、患者体内に存在する前記病原性細菌の病原性の高低を定量的に評価することができるため、患者の症状の重篤化の有無を的確に予想することができ、より有効な治療方法を選択することが可能となる。したがって、例えば、前記したMRSA、VRSA等の多剤耐性黄色ブドウ球菌に起因する感染症の臨床診断等にも、前記病原性の評価方法、及び感染症の検査方法は好適であると考えられる。
滑走能を有する病原性細菌の滑走活性と前記病原性細菌の病原性との関係性を調べるため、黄色ブドウ球菌における滑走活性と溶血活性との関係性を以下のようにして調べた。なお、黄色ブドウ球菌が滑走能を有することは、近年、本発明者らによって初めて見出された事実である(例えば、第78回日本生化学会大会(2005)要旨集、Kaitoら、12th International Symposium on Staphylococci&Staphylococcal Infections,3−6 September 2006,Maastricht,The Netherlands,Poster number:P028)。
<方法>
MRSA株(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)及びMSSA株(メシチリン感受性黄色ブドウ球菌)は、私立大学附属病院から分与を受けた。RN4220株は、メシチリン感受性黄色ブドウ球菌の東京大学大学院薬学系研究科微生物薬品化学教室の実験室保存株である。それぞれの菌を、1%のNaClを含むLB液体培地中で37℃にて一晩培養し、その2μLを、直径10cmのプラスチック製滅菌シャーレに注入して固めた、0.24%の寒天を含むBHI(ビーフハートインフージョン)培地(25mL)上にスポットし、37℃にて10時間培養した。定規で、形成されたコロニーの直径を測定して、滑走活性とした。また、それぞれの菌をTSB(トリプトンソイビーン)液体培地中で37℃にて一晩培養し、放出されたヘモライシンの活性をVandeneschらの方法(Vandeneschら;J.Bacteriol.173,6313(1991))により測定し、溶血活性とした。
<結果>
結果を図1〜図2Bに示す。
図1は、臨床より分離されたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌株(NI−6、7、8、9、10;MRSA)と、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌株(RN4220;MSSA)との、軟寒天培地上における滑走活性を比較した図である。臨床分離MRSAの大部分の株は、MSSAのRN4220株より低滑走能であることがわかる。
図2A及び図2Bは、臨床分離MRSA株(●)とMSSA株(○)との、滑走活性及び溶血活性を比較した図である。臨床分離MRSA株の軟寒天培地上での滑走活性及び溶血活性は、いずれもMSSA株に比べ有意に低いことがわかる。また、図2Aのグラフから、黄色ブドウ球菌の滑走活性の高さと溶血活性の高さとは、正の相関関係を有していることがわかる。
前記実施例1から、臨床分離メチシリン耐性黄色ブドウ球菌株(MRSA)はメチシリン感受性黄色ブドウ球菌株(MSSA)に比べて比較的低滑走能であったことから、高滑走能を有する黄色ブドウ球菌株に、MRSAに特徴的なmecA遺伝子を導入することにより、滑走活性が抑制されるかどうかを以下のようにして検討した。
<方法>
Newman株及びRN4220株は、東京大学大学院薬学系研究科微生物薬品化学教室の実験室保有株である。mecA遺伝子をpND50に挿入したプラスミド(pmecA)、或いはpND50を、エレクトロポレーション法により導入し、クロラムフェニコールを含む寒天培地上で分離した。それぞれのプラスミドを含む菌をTSB培地中で37℃にて一晩培養し、その2μLを0.24%の寒天を含むTSB培地上にスポットし、37℃にて10時間培養した。生じたコロニーの直径を測定して、滑走活性とした。
<結果>
結果を図3に示す。
図3は、mecA遺伝子の導入により黄色ブドウ球菌の滑走活性が抑制されたことを示す図である。mecA遺伝子を持つプラスミド(pmecA)を導入した黄色ブドウ球菌株では、コントロールベクター(pND50)を導入した黄色ブドウ球菌株に比べて滑走活性が抑制されていることがわかる。
MSSA低滑走能株から高滑走能株を分離し、それらの病原性(溶血活性及びカイコ幼虫に対する病原性)を以下のようにして評価した。
<方法>
MSSA1株(SP0)は九州大学医学部付属病院から入手した、滑走能が低い臨床分離株である。この株を、0.4%EMSを含むTSB液体培地中で、37℃で一晩培養後、更にTSB液体培地中で100倍希釈して一晩培養液を得た。この菌液を、0.24%寒天を含むBHI軟寒天プレート上にスポットし、37℃で培養したところ、軟寒天上で広がる部分が現れた。その部分から菌を採取してSP1、SP2、SP3、SP4と命名した。それぞれをLB液体培地中で一晩培養後、菌液2μLを、0.24%寒天を含むBHI軟寒天プレート上にスポットし、37℃で培養した(図4)。更に、5%羊赤血球を含むTSB寒天プレート上に菌液2μLを添加し、37℃にて30時間培養し、溶血環の出現の有無を検討した(図5)。更に、生理食塩水(0.9%NaCl)で希釈した種々の濃度の菌液50μLを、カイコ5令幼虫の血液内に注射し、27℃にて38時間飼育し、カイコ幼虫の生存率を調べた(図6)。
<結果>
結果を図4〜6に示す。
図4は、EMSによる変異原処理により、黄色ブドウ球菌の低滑走能株(SP0;MSSA1)から高滑走能変異株(SP1〜SP4)を分離した様子を示す図である。
図5は、分離された高滑走能変異株(SP1〜SP4)の溶血活性を示した図である。高滑走能変異株4株(SP1〜SP4)の内3株が、親株(SP0;MSSA1)に比べて溶血活性が上昇したことがわかる。
図6は、分離された高滑走能変異株(SP1〜SP4)のカイコ幼虫に対する病原性を示した図である。分離された高滑走能変異株(SP1〜SP4)では、親株(SP0;MSSA1)に比べてカイコ幼虫に対する病原性が上昇したことがわかる。
コンゴーレッドによる黄色ブドウ球菌の滑走活性及び病原性の抑制効果を以下のようにして検討した。
<方法>
RN4220は、東京大学大学院薬学系研究科微生物薬品化学教室の実験室保有メシチリン感受性黄色ブドウ球菌株である。NI−30A、NI−30B、NI−30Cは、RN4220から派生した、別々のコロニーとして得られた株である。NI−30は、私立大学附属病院から供与を受けたMRSAの臨床分離株である。それぞれの菌のLB液体培地中での一晩培養液を、0〜160μg/mLのコンゴーレッドを含むBHI寒天プレート上に、白金耳により広げ、37℃にて20時間培養した(図7)。別に、それぞれの菌のLB液体培地中での一晩培養液2μLを、0.24%寒天を含むBHI軟寒天プレート上にスポットし、37℃で培養した(図8、図には、NI−30による結果だけを示す)。更に、TSB液体培地中のRN4220の一晩培養液をTSB液体培地で200倍に希釈し、0〜160μg/mLのコンゴーレッドを加え、37℃にて6時間培養後、遠心(3,000回転、5分)し、上清の溶血活性を調べた。サポニン(1mg/mL)存在下での溶血を100%溶血のコントロールとした(図9)。また、RN4220のLB培地中での一晩培養液を生理食塩水(0.9%NaCl)で10,000倍に希釈し、50μLを、1群10匹のカイコ幼虫の血液内にそれぞれ注射した後、0〜1mg/mLのコンゴーレッドを含む生理食塩水50μL(コンゴーレッドの量として0〜50μg)をカイコ幼虫の血液内にそれぞれ注射し、カイコ幼虫を37℃にて飼育し、生存率の減少を調べた(図10)。
<結果>
結果を図7〜10に示す。
図7は、コンゴーレッドの黄色ブドウ球菌の増殖に対する影響を示した図である。コンゴーレッドは、調べた濃度(〜160μg/mL)では黄色ブドウ球菌の増殖に影響を与えなかったことがわかる。
図8は、コンゴーレッドによる黄色ブドウ球菌の滑走活性の阻害の様子を示した図である。コンゴーレッドにより、黄色ブドウ球菌の軟寒天培地上での滑走活性が阻害されたことがわかる。
図9は、コンゴーレッドによる黄色ブドウ球菌の溶血活性の阻害の様子を示した図である。コンゴーレッド、10μg/mL以上により、黄色ブドウ球菌の溶血活性が低下したことがわかる。
図10は、カイコ幼虫の黄色ブドウ球菌感染に対するコンゴーレッドの治療効果を示した図である。カイコ幼虫においては、コンゴーレッドの用量依存的に、黄色ブドウ球菌感染による殺傷が抑制されたことがわかる。
Claims (2)
- 被検物質が、滑走能を有する黄色ブドウ球菌の病原性を低下させる作用を有するか否かを評価する方法であって、
(a)前記被検物質が、前記滑走能を有する黄色ブドウ球菌の滑走活性を低下させるか否かを評価する工程
を含むことを特徴とする方法。 - 滑走能を有する黄色ブドウ球菌の病原性を低下させる作用を有する物質をスクリーニングする方法であって、
(a)被検物質が、前記滑走能を有する黄色ブドウ球菌の滑走活性を低下させるか否かを評価する工程、及び、
(b)前記工程(a)で前記滑走能を有する黄色ブドウ球菌の滑走活性を低下させると評価された物質を選択する工程
を含むことを特徴とする方法。
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