JP4900839B2 - 多層皮膜被覆部材及びその製造方法 - Google Patents

多層皮膜被覆部材及びその製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP4900839B2
JP4900839B2 JP2008197107A JP2008197107A JP4900839B2 JP 4900839 B2 JP4900839 B2 JP 4900839B2 JP 2008197107 A JP2008197107 A JP 2008197107A JP 2008197107 A JP2008197107 A JP 2008197107A JP 4900839 B2 JP4900839 B2 JP 4900839B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
coating
hard
film
hard coating
value
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2008197107A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2010031340A (ja
Inventor
正和 伊坂
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Moldino Tool Engineering Ltd
Original Assignee
Hitachi Tool Engineering Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Hitachi Tool Engineering Ltd filed Critical Hitachi Tool Engineering Ltd
Priority to JP2008197107A priority Critical patent/JP4900839B2/ja
Publication of JP2010031340A publication Critical patent/JP2010031340A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4900839B2 publication Critical patent/JP4900839B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Cutting Tools, Boring Holders, And Turrets (AREA)
  • Physical Vapour Deposition (AREA)

Description

本願発明は、切削工具、金型、燃焼機関用の摩耗部材として航空機または地上タービン、エンジン、ガスケット、歯車、ピストン等の耐熱性及び耐摩耗性が要求される部材に多層の皮膜を施した多層被覆部材及び該多層皮膜被覆部材の製造方法に関する。
皮膜の密着性、耐熱性及び耐摩耗性を改善することを目的として、様々な皮膜の開発が進められてきている。特許文献1から特許文献4を代表に皮膜特性の改善を主目的とした皮膜が開示されている。特許文献1は、硬質炭素皮膜の密着性を改善する為に、中間層と最外層の界面部に存在する酸素濃度を制限した皮膜が提案されている。硬質炭素皮膜を成膜する際に、製膜装置内を減圧することにより酸素含有量の抑制を図っている。特許文献2は、SiO2及びB2O3を用いたガラス質マトリックス中にY及びSiの酸化物を分散させた皮膜が提案されている。この皮膜はSiを用いた耐熱性皮膜である。特許文献3は、(TiAl)N皮膜の耐熱性、耐摩耗性の改善を目的として耐熱性、耐摩耗性に優れるSiC粉末を用いたターゲット材を使用して成膜した(TiAl(SiC))N皮膜が提案されている。特許文献4は、更なる耐摩耗性、耐熱性の改善を目的として、Si(BCN)系の皮膜を提案している。しかし、過酷な切削条件に適応させるためには、皮膜の密着強度の更なる改善が必要である
特開2000−8155号公報 特開2002−87896号公報 特許第3370291号公報 特開2007−126714号公報
本願発明の目的は、十分な耐熱性と耐摩耗性を備えながら、より過酷な切削環境においても皮膜の性能を十分に発揮できる密着強度を有する多層皮膜被覆部材を提供することである。
本願発明は、基材の表面に硬質皮膜を2層以上被覆した多層皮膜被覆部材において、該硬質皮膜は外層である第1硬質皮膜と、内層である第2硬質皮膜を有し、該第1硬質皮膜は、Siで示され、但し、a、b、c、d、eは原子比を示し、a+b+c+d+e=1を満たし、0.1≦a≦0.5、0.01≦b≦0.2、0.05≦c≦0.6、0.1≦d≦0.7、0<e≦0.2、であり、該第2硬質皮膜は、金属成分がAl、Ti、Cr、Nb、W、Si、V、Zr、Moから選択される2種以上、非金属成分がNと、硼素、C、O、Sから選択される1種以上を有し、該第1硬質皮膜と該第2硬質皮膜との界面から少なくとも500nmまでの該第1硬質皮膜を低酸素濃度域とし、該低酸素濃度域における酸素含有量を原子比でfとしたとき、0<f≦0.05、且つ、該低酸素濃度域におけるB−O結合を示すピークから求めた面積をXとし、B−N結合を示すピークから求めた面積をYとし、比をX/Yとしたとき、X/Y≦0.2であることを特徴とする多層皮膜被覆部材である。上記の構成を採用することによって、十分な耐熱性と耐摩耗性を備えながら、より過酷な切削環境においても皮膜の性能を十分に発揮できる密着強度を有する多層皮膜被覆部材を提供することができる。
本願発明の多層皮膜被覆部材は、該低酸素濃度域におけるB−O結合を示すピークから求めた面積をXとし、B−N結合を示すピークから求めた面積をYとし、比をX/Yとしたとき、X/Y≦0.2であることが好ましい。このX/Y値は、界面近傍に硼素の酸化物が多数存在すると、密着強度の低下が著しいので、硼素の酸化物の界面での存在を一定以下に制限することが好ましいからである。硬質皮膜の特定位置におけるO分布の制御によって、耐熱性と耐摩耗性とを兼備する硬質皮膜の密着強度を大幅に改善できることが出来るため好ましい。
本願発明の多層皮膜被覆部材の製造方法において、該製造方法の工程は、該第1硬質皮膜、第2硬質皮膜の被覆ソース毎に備えたシャッターを閉じ、該基材をイオンクリーニングする第1の工程、第2硬質皮膜の被覆ソース毎に備えたシャッターを開き該第2硬質皮膜を被覆する第2の工程、該第1硬質皮膜被覆用ターゲット表面をクリーニングする第3の工程、及び、第1硬質皮膜の被覆ソース毎に備えたシャッターを開き該第1硬質皮膜を被覆する第4の工程とからなり、該第3の工程は該第2の工程と同時に処理が進行し、該第4の工程の該第1硬質皮膜の該低酸素濃度域は、スパッタリング法を用い基材温度T(℃)をT≦400とし、少なくとも該低酸素濃度域の厚さ5nmまではスパッタリング出力値P(W)をP≦2500とし、その後漸次P値をP>2500へ増加させ該低酸素濃度域を含む第1硬質皮膜を被覆したことを特徴とする多層皮膜被覆部材の製造方法であることが好ましい。
本願発明の多層皮膜被覆部材は、十分な耐熱性と耐摩耗性を備えながら、より過酷な切削環境においても皮膜の性能を十分に発揮できる密着強度を有する多層皮膜被覆部材を提供することができた。例えば、本願発明を被覆切削工具へ適用すれば、皮膜の密着強度が得られ耐熱性と耐摩耗性が発揮できるので、切削加工の高速化・高送り化に対応できた。また、難削材の切削は被加工物の刃先への付着に起因する突発的な損傷や皮膜の剥離を抑制することができた。更に、本願発明の多層皮膜被覆部材の製造方法によって、優れた特性を有する硬質皮膜を被覆することができた。
本願発明の第1硬質皮膜は、Si、硼素、C、N、Oを必須成分としてSiaBbNcCdOeで示され、但し、a、b、c、d、eは原子比を示し、a+b+c+d+e=1を満たす。硼素、C、Nは硬質皮膜の高硬度化、耐熱性改善、潤滑性改善に有効な成分である。Oは潤滑性改善及び耐熱性改善に効果のある成分である。 Si含有量のa値は、0.1≦a≦0.5である。a値が0.1未満であると耐熱性及び硬度の改善効果が十分でない。a値が0.5を超えると硬度が低下する。硼素含有量のb値は、0.01≦b≦0.2である。硼素を含まない場合は、硬度並びに耐熱性改善が十分ではなく、硬質皮膜が脆くなり過ぎてしまい、剥離が発生する傾向にあり切削性能の改善が認められないので、b≧0.01とする。また、硼素は潤滑特性の向上にも効果がある。しかし、硼素はOと反応しやすい為に、多く添加すると硬度などの特性や密着強度の低下を招くため、硼素の量は皮膜特性を向上させるのに必要最低限な量を添加するのがよいのでb値の上限は0.2までとする。より好ましくは、0.05≦b≦0.2である。Siと硼素を同時に添加することによって、硬度と耐熱性を同時に改善することができる。これはSiが硼化物として存在する場合に特に顕著である。N含有量のc値は、0.05≦c≦0.6である。Nを含まない場合は、高硬度化と耐熱性の改善効果に乏しくなるため、c≧0.05とする。多量添加によってSi−N結合が増加して硬度の低下を招くため、c値の上限は0.6までとする。より好ましくは、0.1≦c≦0.35である。C含有量のd値は、0.1≦d≦0.7である。Cを含まない場合は、高硬度化が十分でないため、d≧0.1とする。多量添加は低硬度のフリーカーボンの存在により、硬度低下を招くため、d値の上限は0.7までとする。より好ましくは、0.15≦d≦0.4である。O含有量のe値は、0<e≦0.2である。皮膜の構成元素はOを取り込みやすいものを多く含んでおり、不純物としてOが必ず含まれるため、e>0となる。予めOを添加することにより、摩耗環境下においてOの拡散が減り、高温においても耐酸化性が改善される。但し、多量添加は低硬度化を招くため、e値の上限は0.2までとする。より好ましくは、0.01≦e≦0.15である。Oを多く含む場合の含有形態は、第1硬質皮膜の表面から膜厚方向に内側へ500nm以下までとなる表面近傍が、最も高濃度となるようにすることが、摩耗環境下における潤滑性の点から好ましい形態である。OはSiや硼素の酸化物として皮膜に介在していることが好ましい。皮膜にOが固溶した状態で存在していると、例えば、切削加工においては、切削温度の上昇に伴い、Si酸化物及び硼素の酸化物を形成する。その際に、被加工物成分の皮膜内部へ内向拡散が発生して、溶着を引き起こし、また皮膜の機械的特性の低下を引き起こす。その為、予め酸化物の形態で皮膜に存在しているのが好ましい。
本願発明は、高速切削や被加工物の高硬度化により温度が上昇するような摩耗環境下においても、密着性が良いので、長期に亘り耐摩耗性と耐熱性が発揮できる。その理由は、本願発明の第1硬質皮膜は、耐熱性に優れ、温度が上昇する環境下においてその効果を発揮するからである。また、第1硬質皮膜は高温環境下における摩擦係数が低く、基材への熱影響を低減するからである。高温環境下において摩擦係数が低くなる理由は、摩耗環境下においてSiO2とB2O3を形成することによる。また、SiO2とB2O3は450℃程度の低温でSiO2とB2O3を含む低融点の液相を形成する。これが、切削工具への被覆の場合には、刃先近傍の潤滑特性を向上させ、刃先への被加工物の付着を抑制して、刃先の安定性を向上させるのである。実用環境下において、第1硬質皮膜のみでは基材との密着強度、耐摩耗性に課題を有しているため、少なくとも第2硬質皮膜と組み合わせた多層硬質皮膜とすることが重要である。
本願発明の第2硬質皮膜は、実用環境下において第1硬質皮膜を被覆する事により優れた密着強度、耐摩耗性を発揮する。本願発明の硬質皮膜が、第1硬質皮膜と第2硬質皮膜を有するとすることにより、密着強度、耐摩耗性の効果が発揮される。第2硬質皮膜の役割は、第1硬質皮膜の耐摩耗性、耐熱性などの効果が十分に発揮できるようにすることである。従って、第2硬質皮膜は低残留圧縮応力化による、基材との密着強度を維持しつつ、高硬度化によって耐摩耗性も満たすことが必要になる。そこで、組成の選択は、低残留圧縮応力化、耐摩耗性の双方に優れたものでなければならない。第1硬質皮膜は残留圧縮応力の点から、硬質皮膜全体に占める割合を増加させることができない場合があり、その場合は第2硬質皮膜を厚く設定する。第1硬質皮膜と第2硬質皮膜との好ましい膜厚比は、全体を100%としたとき、第1硬質皮膜の占める比率が2%以上、50%以下が好ましい。特に好ましい第2硬質皮膜の組成系は、基材との密着強度及び第1硬質皮膜との密着強度の点から、(AlTi)N、(AlCr)N、(AlCrSi)N、(TiSi)N、(AlTiSi)Nが挙げられる。但し、第2硬質皮膜がSiを含有する場合に、第1硬質皮膜と第2硬質皮膜とを区別する目安は、第2硬質皮膜の金属成分が2種以上を含有していることである。
図1に本願発明の積層構造を示す。図1は硬質皮膜1が2層の積層構造からなり、多層皮膜被覆部材は切削工具や耐摩部材からなる基材2の上に、第2硬質皮膜3、第1硬質皮膜4の順で積層されている。そして、該第1硬質皮膜が内層の該第2硬質皮膜と接している界面5から、膜厚方向に表面側へ少なくとも500nmまでは、低酸素濃度域6が存在している。本願発明の多層皮膜被覆部材は、該低酸素濃度域6のf値が、f≦0.05に制限される。この理由は、例えば、第1硬質皮膜の膜厚が1000nmのとき、その半分の500nmまでの範囲のO含有量が少ないことが、密着性の改善に効果があるからである。第1硬質皮膜の膜厚が500nmよりも薄い場合は、界面より100nmの範囲、それよりも膜厚が薄い場合には界面より25nmの範囲におけるf値が0.05以下であることが必要となる。また、f値がより小さければ密着性改善効果が大きく、0.04以下、より好ましくは0.035以下である。
本願発明の第1硬質皮膜の膜厚は、50nm以上、1000nm以下、より好ましくは100nm以上、600nm以下である。第2硬質皮膜の膜厚は、100nm以上、5000nm以下、より好ましくは100nm以上、3000nm以下である。また、下部層は、第1硬質皮膜と接している層であり、図1の場合には第2硬質皮膜のことである。しかし、用途に応じては第2硬質皮膜と第1硬質皮膜の間に中間層を持たせる場合もあり、その場合は第1硬質皮膜と接する中間層が下部層となることもある。この他の皮膜構造は、図2に示すように第2硬質皮膜が複数の層構造となるものが考えられる。例えば、図2において(TiAl)N/(TiSi)Nのように、複層構造を有しても良い。第1硬質皮膜と(AlTi)Nの間に(TiSi)Nを中間層として入れることで耐摩耗性及び密着性が向上する。中間層も組み合わせた望ましい第2硬質皮膜としては、(TiAl)N/(TiSi)N、(AlCrSi)N/(TiSi)N、(TiAl)N/(CrSi)BNが挙げられる。また、図3に示すように第1硬質皮膜が複数の層構造となるものなどが考えられる。第1硬質皮膜及び第2硬質皮膜の双方が複数の層構造となるものも考えられる。基材は、切削工具、金型、燃焼機関用の摩耗部材が挙げられる。例えば、切削工具には超硬合金、サーメット、高速度鋼、窒化硼素焼結体、セラミックスが、金型には金型用鋼材が、また燃焼機関用部材である耐熱合金にはチタン合金、インコネル、アルミニウム合金等が挙げられる。
本願発明における第1硬質皮膜のX/Y値が、X/Y≦0.2、であることによって、密着強度の改善に有効であり好ましい。ピークから求めた面積のX値及びY値は、X線光電子分光分析(以下、XPS分析と記す。)において硼素の1s軌道のピークをB−O結合、B−N結合などにピーク分離することから求められる。ここで、X値、Y値夫々の値は各結合状態の存在割合を反映した値と考えられる。X/Y値は第1硬質皮膜におけるB−O結合とB−N結合との存在比を定量化したものと考えられる。X/Y値を0.2以下にするためには、皮膜中にOを取り込まないことが重要である為、例えば、T値を測定しながら成膜を行い、T値が400℃以下になるように、温度を制御することである。ターゲット表面に付着したOも膜中に取り込まれる為、予備放電によってターゲット表面のクリーニングを実施するのも良い。また温度制御と予備放電を併用すると良い。第1硬質皮膜は成膜初期にOを取り込みやすい為、予備放電を行う際はRFスパッタリング出力を500Wから2500W程度の比較的高出力で行い、その後の成膜初期では低出力の100W程度とし、成膜速度は時間あたり0.25nm以下で開始することが好ましい。
本願発明の被覆方法は、該製造方法の工程は、該第1硬質皮膜、第2硬質皮膜の被覆ソース毎に備えたシャッターを閉じ、該基材をイオンクリーニングする第1の工程、第2硬質皮膜の被覆ソース毎に備えたシャッターを開き該第2硬質皮膜を被覆する第2の工程、該第1硬質皮膜被覆用ターゲット表面をクリーニングする第3の工程、及び、第2硬質皮膜の被覆ソース毎に備えたシャッターを開き該第1硬質皮膜を被覆する第4の工程とからなる。
該第3の工程は該第2の工程と同時に処理が進行させ、ターゲット表面に付着したOも膜中に取り込まれる為、予備放電によってターゲット表面のクリーニングを実施する。
該第4の工程の該第1硬質皮膜の該低酸素濃度域は、スパッタリング法を用い、基材温度T(℃)をT≦400としたのは、第1硬質皮膜の密着強度低下を回避するためである。即ち、本願発明の第1硬質皮膜は、耐摩耗性と耐熱性の特性を付与するためにSi、硼素、C、N、Oを必須成分としており、特にSi、硼素、Cは酸化物を形成しやすい元素であり、成膜初期に上記の酸化物が基材表面に成膜されると、密着強度が低下するためである。そのため、該第1硬質皮膜を成膜する際は、T値がSiOとBの共晶温度の450℃を超えないように温度制御するのである。皮膜に含有される元素で特にSiと硼素の酸化物が密着強度低下に影響が大きい。Siの代表的な酸化物のSiOは1700℃程度まで安定であるが、硼素の代表的な酸化物のBは500℃程度で液相化する。更に、SiOとBは共晶反応を有しており、450℃程度で共晶融液を生成し、この融液が生成されて密着強度が劣化するのである。次に、界面から厚さ5nmまでの該低酸素濃度域の被覆は、スパッタリング出力値P(W)をP≦2500、すなわち、低出力の100W程度、即ち成膜速度は時間当たり0.25nm以下とすることが望ましい。更に、所定時間経過後漸次P値をP>2500へ増加させ、第1硬質皮膜を被覆する。以上を実施することで、f値が、f≦0.05に制限される。以下、本願発明を実施例に基づいて説明する。
本願発明の硬質皮膜の製造方法に使用する被覆装置15は、図4より、スパッタリング法(以下、SP法と記す。)による被覆ソース7、9とアークイオンプレーティング法(以下、AIP法と記す。)による被覆ソース8、10とを備え、被覆ソース毎にシャッター16、18と17、19を備え、シャッターは互いに独立して稼動する機能を有した。プロセスガスとしてアルゴン、反応性ガスとしての窒素ガス、酸素ガス、アセチレンガスを減圧容器12に供給するために、開閉機構を設けた吸気管14を有する。回転機構を有する基材ホルダー13には、DCバイアス電源またはRFバイアス電源11に接続されている。
本発明例1は、Co含有量が重量%で8%の超硬合金の基材2を、基材ホルダー13にセットした後、第1の工程は、500℃に加熱し、負の電圧が200V、正の電圧が30V、周波数が20kHz、パルス/ポーズ比が4のパルスバイアス電圧を印加してイオンクリーニングを約30分間処理した。その間、各ソースのシャッターは全て閉じた。
第2の工程は、第1の工程のクリーニング後、AIP法被覆ソース8、10のシャッター1719を開き、第2硬質皮膜である(AlTi)Nを被覆した。成膜時に印加するDCバイアス電圧値は、約10Vから400Vが好ましい。
第3の工程は、第2の工程の途中で、シャッター17と19は閉じた状態でSP法被覆ソース7、9を稼動させターゲット表面の酸化物などの不純物を除去した。更に、第2硬質皮膜の成膜途中から温度制御した。
第4の工程は、第2硬質皮膜の成膜完了後、SP法被覆ソース7、9のシャッター1618を開き成膜を開始した。SP法被覆ソース7、9はSiCBNターゲットとして用いSiCBNのモル混合比が1としたSP法は、RFバイアスに加えて、負の電圧が50VのDCバイアスを付加することによって、RFバイアスとDCバイアスの併用した。第4の工程、第1硬質皮膜の厚さ5nmまでの成膜初期におけるP値は、低出力の100Wとし、その後漸次P値を増加させて、最終的に5000Wまで増加させた。本発明例1の層構造は、第2硬質皮膜(AlTi)Nが約2μm第1硬質皮膜が920nm、第1硬質皮膜の低酸素濃度域5nm、SP法の出力を高めた第1硬質皮膜915nm、硬質皮膜の厚さを約3μmとした。
本発明例2から35、比較例36、37、従来例38、39は、ことわりのない限り本発明例1の被覆方法に準拠して作成し、第1硬質皮膜の膜厚は1000nm程度になるように成膜条件を調整して成膜を実施した。
本発明例2から10、14から22及び25から35は第2硬質皮膜の組成が異なるものである。本発明例11から13は、第1硬質皮膜の成膜時に、反応ガスとして夫々窒素ガス、酸素ガス、アセチレンガスを用いた。そして、プロセスガスのアルゴンと反応ガスの混合ガスとして用いて成膜した。プロセスガスと反応ガスの比率は、反応ガス/プロセスガスの比を、0.025程度とした。但し、本発明例12、14、第1硬質皮膜の表層近傍を成膜する際に、反応ガスとして酸素ガスを追加したものである。酸素ガスなどのプロセスガスが吸気管14を通って減圧容器12に供給することによって、Oを含有させた。本発明例25は第1硬質皮膜の膜厚を500nm程度、総膜厚を3μm程度になるように成膜条件を調整して成膜を実施した。本発明例23、24は、第2硬質皮膜をDCバイアスのSP法で成膜し第1硬質皮膜をRFバイアスのSP法で成膜した。
比較例36は、第1硬質皮膜を成膜する際に、成膜初期より反応ガスとして酸素ガスを用いて、f値が0.05を超えるように成膜したもの、比較例37は、SP法被覆の際のT値が500℃以上になるように温度調整し、第1硬質皮膜の成膜初期の5nmまでのRF出力を500Wと設定したものである。従来例38は、第1硬質皮膜を成膜する際のT値が500℃程度になるように温度調整し、第1硬質皮膜の成膜初期の5nmまでのRF出力を4000Wと設定して成膜したもの、従来例39はターゲットのSiCとBNの比率を変え、SiC対BNのモル混合比が1対1のものを用いて成膜したものである。
本願発明の第1硬質皮膜を被覆する製造方法は、SP法により被覆することが有効である。この場合、炭化珪素と窒化硼素を含有した複合ターゲットとすることが好ましいが、炭化珪素と窒化硼素を別の蒸発源に設置し、同時にスパッタリングすることによっても製造することが可能である。更に、多層皮膜を被覆する方法は、第1硬質皮膜をSP法により被覆し、第2硬質皮膜をAIP法、SP法、AIP法とSP法を併用した方法のいずれかにより被覆することが好ましい。例えば、第2硬質皮膜は基材との密着強度改善が重要であることから、第2硬質皮膜と基材との界面部近傍はAIP法が好適である。界面部以外はSP法で被覆することも耐摩耗性改善に有効である。AIP法と併用することもできる。これらの被覆におけるSP法、AIP法の電源は、高周波電源若しくは直流電源でも可能であるが、被覆プロセスの安定性の観点からスパッタリング電源は高周波電源を用いることが好ましい。バイアス電源としては、硬質皮膜の電気伝導性、及び硬質皮膜の機械的特性を考慮して高周波バイアス電源を用いることがより好ましい。更に、第1硬質皮膜においてアルゴンをプロセスガスとして成膜を開始させ、所定時間経過後にアルゴンと酸素ガスの混合ガスをプロセスガスとして使用することで、O含有量の少ない層、多い層といったようにO含有比率を膜厚方向に傾斜させることも可能である。この場合は表面側の層ほどOが増加することが好ましい。この層は潤滑性を有した摩耗保護層として機能する。
次に、得られた皮膜の評価について、組成分析は電子プローブマイクロアナライザー(以下、EPMAと記す。)を用いて測定を行った。夫々被覆条件と組成分析結果を表1に示す。
Figure 0004900839
また、皮膜深さ方向の組成分析はオージェ電子分光分析(以下、AESと記す。)を用いてf値の測定を行った。深さ方向の長さについてはSiO2のエッチング速度を用いて換算を行った。XPS分析も行い、硼素の1s軌道のピーク分離から求められるB−O結合のピークから求めた面積XとB−N結合のピークから求めた面積Yの比X/Yを算出した。更に皮膜の密着強度を評価する為に、皮膜表面について、ロックウェル圧痕試験を行い、圧痕周辺部の皮膜の状態から、以下の基準で密着性を評価した。条件は、圧子をロックウェルCスケール、押し付け荷重を1471Nとした。評価はAからDの4段階評価で行った。A表記は、圧痕周辺部に欠陥が認められなかったもの、B表記は、圧痕周辺部の全周の〜1/2の範囲に剥離等の欠陥が見られたもの、C表記は、圧痕周辺部の全周の〜3/4の範囲に剥離等の欠陥が見られたもの、D表記は、圧痕周辺部の全周に渡って剥離等の欠陥が発生したもの、とした。密着強度はA>B>C>Dとなり、A表記が最も良好な結果である。評価結果を表2に示す。
Figure 0004900839
表2に示す密着強度の評価結果より、本発明例1から35は良好な密着強度を示した。いずれの本発明例も、本願発明の規定する皮膜組成範囲を満たし、第1硬質皮膜の表層側へ向う方向に少なくとも500nmの範囲におけるf値も、0<f≦0.05、であることから、硼素の酸化物の抑制が図られている為に、密着強度が十分であった。本発明例2、9は本発明例1に対して、第2硬質皮膜の組成を変えたもの、本発明例12は第1硬質皮膜の表層近傍を成膜する際に、反応ガスとして酸素ガスを追加したものである。界面近傍では酸素ガスを用いずにO含有量を制限している為に、密着性への影響は確認されなかった。本発明例14は、界面から600nmまでの範囲のf値が0.05を超えておらず、700nm以降のf値が0.05を超えているものであるが、密着強度は良好であった。本発明例25は、第1硬質皮膜の膜厚が500nm程度のものであるが、本願発明に規定の条件等を満たすことにより、薄膜におけるf値の制御も可能であった。
一方、比較例36は、400nmまでの範囲のf値が0.05を超え、500nm以降の範囲のf値が0.05を超えていないものであり、密着強度は劣った。500nmまでの範囲で1度でもf値が0.05を超えてしまうと密着強度は劣った。比較例37は、500nmまで範囲のf値が0.05を超え、従来例38と39は皮膜の厚さ方向の全範囲に渡ってf値が0.05を超えていた為に、いずれも密着強度は劣った。
これら結果より、該第1硬質皮膜が下部層と接している界面から、該第1硬質皮膜の表層側へ向う方向に少なくとも500nmの範囲におけるf値が、0<f≦0.05、であることにより密着強度が向上することを確認した。
また、何れの本発明例も、X/Y≦0.2を満たしており、硼素の酸化物の抑制がはかられている為に、密着強度が十分であった。しかし、比較例36、37、従来例38、39では、X/Y≦0.2を満たしておらず、硼素の酸化物が多数存在する為に、密着強度が十分でなくロックウェル圧痕試験において皮膜の剥離が確認された。
図1は、本願発明の積層構造の概略図を示す。 図2は、第2硬質皮膜が複数の層構造を有する概略図を示す。 図3は、第1硬質皮膜が複数の層構造を有する概略図を示す。 図4は、本願発明の方法に用いた被覆装置の概略図を示す。
符号の説明
1:硬質皮膜
2:基材
3:第2硬質皮膜
4:第1硬質皮膜
5:界面
6:低酸素濃度域
7:SP法被覆ソース
8:AIP法被覆ソース
9:SP法被覆ソース
10:AIP法被覆ソース
11:DCバイアス電源もしくはRFバイアス電源
12:減圧容器
13:基材ホルダー
14:ガス導入口もしくは排気管
15:被覆装置
16:SP法被覆ソース7のシャッター
17:AIP法被覆ソース8のシャッター
18:SP法被覆ソース9のシャッター
19:AIP法被覆ソース10のシャッター

Claims (2)

  1. 基材の表面に硬質皮膜を2層以上被覆した多層皮膜被覆部材において、該硬質皮膜は外層である第1硬質皮膜と、内層である第2硬質皮膜を有し、該第1硬質皮膜は、Siで示され、但し、a、b、c、d、eは原子比を示し、a+b+c+d+e=1を満たし、0.1≦a≦0.5、0.01≦b≦0.2、0.05≦c≦0.6、0.1≦d≦0.7、0<e≦0.2、であり、該第2硬質皮膜は、金属成分がAl、Ti、Cr、Nb、W、Si、V、Zr、Moから選択される2種以上、非金属成分がNと、硼素、C、O、Sから選択される1種以上を有し、該第1硬質皮膜と該第2硬質皮膜との界面から少なくとも500nmまでの該第1硬質皮膜を低酸素濃度域とし、該低酸素濃度域における酸素含有量を原子比でfとしたとき、0<f≦0.05、且つ、該低酸素濃度域におけるB−O結合を示すピークから求めた面積をXとし、B−N結合を示すピークから求めた面積をYとし、比をX/Yとしたとき、X/Y≦0.2であることを特徴とする多層皮膜被覆部材。
  2. 請求項1記載の多層皮膜被覆部材の製造方法において、該製造方法の工程は、該第1硬質皮膜、第2硬質皮膜の被覆ソース毎に備えたシャッターを閉じ、該基材をイオンクリーニングする第1の工程、第2硬質皮膜の被覆ソース毎に備えたシャッターを開き該第2硬質皮膜を被覆する第2の工程、該第1硬質皮膜被覆用ターゲット表面をクリーニングする第3の工程、及び、第1硬質皮膜の被覆ソース毎に備えたシャッターを開き該第1硬質皮膜を被覆する第4の工程とからなり、該第3の工程は該第2の工程と同時に処理が進行し、該第4の工程の該第1硬質皮膜の該低酸素濃度域は、スパッタリング法を用い基材温度T(℃)をT≦400とし、少なくとも該低酸素濃度域の厚さ5nmまではスパッタリング出力値P(W)をP≦2500とし、その後漸次P値をP>2500へ増加させ該低酸素濃度域を含む第1硬質皮膜を被覆したことを特徴とする多層皮膜被覆部材の製造方法。
JP2008197107A 2008-07-31 2008-07-31 多層皮膜被覆部材及びその製造方法 Active JP4900839B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2008197107A JP4900839B2 (ja) 2008-07-31 2008-07-31 多層皮膜被覆部材及びその製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2008197107A JP4900839B2 (ja) 2008-07-31 2008-07-31 多層皮膜被覆部材及びその製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2010031340A JP2010031340A (ja) 2010-02-12
JP4900839B2 true JP4900839B2 (ja) 2012-03-21

Family

ID=41736163

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2008197107A Active JP4900839B2 (ja) 2008-07-31 2008-07-31 多層皮膜被覆部材及びその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP4900839B2 (ja)

Families Citing this family (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP5239953B2 (ja) * 2009-03-10 2013-07-17 三菱マテリアル株式会社 溶着性の高い被削材の重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具
JP5667176B2 (ja) * 2009-06-18 2015-02-12 スルザー メタプラス ゲーエムベーハー 保護コーティング、保護コーティングを有するコーティング部材、並びに保護コーティングを製造するための方法
EP2792765B1 (en) * 2011-12-15 2018-09-12 Kabushiki Kaisha Kobe Seiko Sho (Kobe Steel, Ltd.) Multilayer hard film and method for producing same

Family Cites Families (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2000008155A (ja) * 1998-06-25 2000-01-11 Sumitomo Electric Ind Ltd 硬質炭素膜被覆部材
JP4380622B2 (ja) * 2005-11-04 2009-12-09 日立ツール株式会社 多層皮膜被覆部材及びその製造方法
EP2149620B1 (en) * 2008-07-31 2020-04-29 Oerlikon Surface Solutions AG, Pfäffikon Multilayer film-coated member and method for producing it

Also Published As

Publication number Publication date
JP2010031340A (ja) 2010-02-12

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP4380622B2 (ja) 多層皮膜被覆部材及びその製造方法
US8309235B2 (en) Multilayer film-coated member and method for producing it
JP4966580B2 (ja) 被覆工具
EP2149620B1 (en) Multilayer film-coated member and method for producing it
JP3934136B2 (ja) 硬質皮膜被覆部材及びその被覆方法
JP4704335B2 (ja) 表面被覆切削工具
JP4440980B2 (ja) 切削工具用硬質皮膜
JP4522285B2 (ja) 耐摩耗皮膜及び耐摩耗皮膜被覆切削工具及び耐摩耗皮膜の製造方法
WO2005053887A1 (ja) 表面被覆切削工具
JP2006152321A (ja) 硬質皮膜被覆部材及びその被覆方法
JP4578382B2 (ja) 硬質皮膜及び硬質皮膜被覆工具
WO2014088096A1 (ja) ピストンリング
JP4441494B2 (ja) 硬質皮膜被覆部材
JPWO2008102663A1 (ja) 表面被膜部材及びその製造方法並びに切削工具及び工作機械
JPH06173009A (ja) 耐摩耗性に優れた被覆超硬合金及びその製造方法
JP2008013852A (ja) 硬質皮膜及び硬質皮膜被覆工具
JP4900839B2 (ja) 多層皮膜被覆部材及びその製造方法
JP3640310B2 (ja) 硬質皮膜
JP2005262389A (ja) チタン合金加工用表面被覆切削工具
WO2016181813A1 (ja) 硬質皮膜および硬質皮膜被覆部材
US20090226715A1 (en) Coated article and method of making the same
JP2010053448A (ja) 多層皮膜被覆部材
JP2011012336A (ja) 多層皮膜被覆部材およびその製造方法
JP2009255234A (ja) 表面被覆切削工具
JP2003291007A (ja) 硬質皮膜被覆工具

Legal Events

Date Code Title Description
A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20110111

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20110126

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20111222

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20111222

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 4900839

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20150113

Year of fee payment: 3

S531 Written request for registration of change of domicile

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313531

S533 Written request for registration of change of name

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

S533 Written request for registration of change of name

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350