工業的に操業しているテレフタル酸およびイソフタル酸の製造工程においては、反応溶媒である酢酸の回収系では、前記した酸化反応の熱回収過程からの凝縮液のみならず、製造工程内の多くのセクションから集められた酢酸含有の流体が、酢酸回収系に輸送される。そして、蒸発処理、あるいは、そのまま原料として回収系における脱水蒸留塔に供給され、塔底缶出液として水を低濃度(2〜8wt%)にまで脱水した酢酸を回収するともに、塔頂留出分として酢酸が1000ppm以下含有された水が排出されることを目的としている。その際、蒸留塔の建設費低減、ならびに蒸留のためのエネルギー消費を抑えるため、酢酸イソブチルなどの共沸剤を用いた共沸蒸留法が近年行われている。
溶媒酢酸の回収系に集積されてくる酢酸含有流体とは、反応器からの発生蒸気の凝縮液の一部のみならず、該凝縮後の排ガスに含まれる酢酸などの含有成分を水で吸収させた吸収塔(高圧吸収塔)の排出水、反応生成物の降圧−冷却により、生成芳香族ジカルボン酸の結晶を熟成させる晶析槽などからの発生蒸気の凝縮液の一部、生成結晶スラリーから芳香族ジカルボン酸結晶を分離した後の反応母液の一部、さらに該分離芳香族ジカルボン酸結晶の乾燥器からの発生蒸気、そして結晶分離器および各貯槽などの酸素排除用シールガスなど各工程からの排ガス中の酢酸含有成分を吸収させた吸収塔(低圧吸収塔)の排出水などである。そのため、これらに含有される酢酸ならびに水の含有量はそれぞれ大きく異なる(酢酸含有量:数wt%〜90wt%)とともに、酸化反応の未反応物であるジアルキルベンゼンを主成分とするアルキルベンゼンならびに副生物の酢酸メチルなどが含有されている。
そして、近年の酸化反応技術の進歩により未反応のジアルキルベンゼンの含有量はそれぞれ少量であり、最大でも数100ppmとされる。また、副生成物である酢酸メチルにおいては酢酸の回収されるセクションによって異なるが、0.1〜1.5wt%の範囲で含有されている。
以上のように、芳香族ジカルボン酸の製造工程での各セクションから集められた多量の含水酢酸(あるいは酢酸含有水)を脱水し、酢酸を回収する共沸蒸留塔では、回収酢酸の容量に比べパラキシレンなどの未反応ジアルキルベンゼンの流入量は極少量であるとともに、該蒸留塔への供給量ならびに塔内での滞留量については定量性が確保されたものでない。
そのため、上記特許文献5及び特許文献6の提案のような炭化水素前駆物質(ジアルキルベンゼン)の濃度の高い留分の抜き出しが可能とした蒸留塔中段抜き出しにおいても、該濃度を安定して継続的に抜き出すことは困難であり、抜き出し回収された炭化水素前駆物質を、ストリッピングなどの処理が行なわれ、共沸剤を分離処理したものにしなければならなかった。
それは、ジアルキルベンゼンなどのアルキルベンゼンの流入は、酸化反応による未反応物である上に、上記酢酸流入の複数個所から少量づつであり、流入量の把握、ならびにコントロールすることはなされていない。そのため蒸留塔から定量的に抜き出すための、蒸留塔でのジアルキルベンゼンの収支バランスのとれた運転は不可能である。
また、上記提案には芳香族炭化水素(アルキルベンゼン)と共沸剤との濃度比を上げるため、共沸蒸留域の下限界の近くからの抜き出しを目標とされるが、共沸蒸留塔での僅かな動特的変動において、該下限界域の位置(段)の移動が起こり、アルキルベンゼンを安定した濃度で抜き出すことをさらに困難にしてきた。
さらに、アルキルベンゼンの流入量に対して蒸留塔各段への蓄積滞留量が膨大であるため(アルキルベンゼンが高濃度であればより膨大となる)、蒸留塔内の崩れた組成のバランス(特に低濃度になったケース)を回復することに長時間を要することが濃度の安定的抜き出しを困難なものと見なされてきた。
そのため、本発明者らは、酢酸の共沸蒸留による脱水法から未反応のジアルキルベンゼンを安定した濃度で回収し、再使用する方法について、蒸留塔内の解析などについて鋭意検討を行い以下の方法を発明した。
本発明は、酢酸−水−酢酸イソブチレンの共沸蒸留において、パラキシレンが定常的に少量導入された系の数値計算による多成分系蒸留のシミュレーションを行い、該共沸蒸留系では蒸留域内にパラキシレンが、共沸剤濃度の低下が伴われて高濃度(約70重量%)にまで濃縮されること、また、理論段の僅かの差によって、殆どが水となり、パラキシレンの濃度が低下してしまい、パラキシレンの留出が殆どしないことが推測された。
そのため、その濃縮されたパラキシレン濃度を安定して取り出すのに好ましい領域範囲として、塔内温度範囲約94℃以上から約100℃以下で、且つパラキシレンと共沸剤の濃度比の範囲が約0.5以上乃至約6以下、好ましくは約1.0以上乃至約4以下であることを推定した。
また、このとき、ある程度の共沸剤の存在が好ましく、抜き出し有機相中の共沸剤の濃度が約15重量%以上、好ましくは約20重量%以上であることを推定した。
それらの結果に基づき、芳香族ジカルボン酸製造工程における溶媒酢酸の回収系の共沸蒸留においては、パラキシレンなどの未反応ジアルキルベンゼンを、共沸領域の下限界域(共沸剤濃度0.1wt%)からでなく、そして直接連続して抜き出すことをせず、共沸蒸留塔内に未反応ジアルキルベンゼンと共沸剤との濃度比が上記範囲内に滞留するまで待つこと、そして、その蓄積濃度比を確認した後、該系内を該濃度比に保持したまま貯槽内に蓄積された留分を間歇的あるいは回分的に抜き出すことにより、ジアルキルベンゼンを高濃度に、安定した留出液として、回収出来ることを見出した。
即ち、未反応のジアルキルベンゼンは共沸蒸留塔の共沸領域に蓄積される留分であり、該域内への目標濃度比に蓄積するまで抜き出すことなく保持し、該蓄積された貯槽内留分を間歇的に抜き出す方法を見出した。
以上説明したように本発明は、芳香族ジカルボン酸の製造における溶媒酢酸の回収系において、酢酸の脱水にあたって酢酸イソブチルを共沸剤とする共沸蒸留で酢酸を回収する方法であって、該共沸領域からアルキルベンゼン含有留分を留出液貯槽へ留出を行い、該留出液貯槽の底部より水相を分離したのち、留出液貯槽の上部の有機相留分を前記共沸領域に循環させながら、循環有機相留分のアルキルベンゼンと共沸剤との濃度比の確認を行い、該濃度比が目標範囲に到達するまで蓄積させて、前記留出液貯槽内の留分を間歇的あるいは回分的に抜き出しを行って高濃度のジアルキルベンゼンを安定した濃度で回収することを特徴とする。
また、本発明は、前記未反応のジアルキルベンゼン回収方法において、前記アルキルベンゼンと共沸剤との濃度比の目標範囲が、約0.5重量比以上乃至約6重量比以下、好ましくは約1.0重量比以上乃至約4重量比以下であることを特徴とする。
また、本発明は、前記未反応のジアルキルベンゼン回収方法において、前記留出液貯槽から間歇的あるいは回分的に抜き出す前記有機相留分中における前記共沸剤の濃度が約15重量%以上、好ましくは約20重量%以上であることを特徴とする。
また、本発明は、前記未反応のジアルキルベンゼン回収方法において、前記共沸蒸留塔の共沸領域における94〜100℃の温度範囲の留分を前記留出液貯槽への留出及び循環を行わせることを特徴とする。
また、本発明は、前記未反応のジアルキルベンゼン回収方法において、前記留出液貯槽から回収されたジアルキルベンゼン含有留分を、芳香族ジカルボン酸の製造に再使用することを特徴とする。
本発明に係る共沸蒸留塔の共沸領域からのアルキルベンゼンを安定した濃度での間歇的あるいは回分的回収法によれば、蒸留塔内の蒸留特性に変動を起こすことがないため、蒸留目的である塔底缶出酢酸中の水分および塔頂留出水中の酢酸混入量の安定性が向上し、かつ共沸剤の同伴を抑えた高濃度アルキルベンゼンの留分を安定的に回収することができる。特に回収留分のアルキルベンゼンと共沸剤との濃度比が約0.5重量比以上乃至約6重量比以下になれば塔頂留出水中の酢酸含有量が低濃度に安定し、酢酸の損失を抑え、排水の処理負荷を低減することができる。
そして、回収したジアルキルベンゼンを酸化反応に再使用することを可能にし、反応に影響を与えることなく製品収率の向上に寄与することとなる。
なお、本発明に使用する共沸剤である酢酸イソブチルは、酸化反応に混入することによって反応促進剤としての効果を有するため、混入したとしても安定した量での存在が好ましい。そのため、安定した量の酢酸イソブチルの存在した回収アルキルベンゼンの再使用は酸化反応への影響は安定したものとなり、直接(処理することなく)再使用することを可能にした。
また、さらにジアルキルベンゼンの濃度を上げるため、蒸留法などの分離、精製を定量的に行って、酢酸イソブチルの混入を抑えて再使用することも可能である。
以上、本発明によれば、芳香族ジカルボン酸製造において、溶媒回収工程に集められた未反応ジアルキルベンゼンを高濃度で安定して抜き出し、回収することができ、回収アルキルベンゼンを該ジカルボン酸製造工程に再使用することができる。そして、共沸蒸留塔の蒸留特性と系内組成に変動を起こすことなく、蒸留目標となる酢酸の脱水組成を安定させ、塔頂留出水を安定した低酢酸含量として排出することを可能にした。
本発明に係る芳香族カルボン酸の製造における未反応アルキルベンゼンの回収方法及びそのシステムの実施の形態について図面を用いて説明する。なお、シミュレーションの条件については後述する。
図1は、本発明に係る酢酸−水−酢酸イソブチレンの共沸蒸留において、パラキシレンが定常的に少量導入された系の数値計算による多成分系蒸留のシミュレーションの結果に基づく蒸留塔内の組成分布を共沸蒸留塔の理論段数との関係で示した図である。この図1は、アルキルベンゼン(パラキシレン)が共沸蒸留塔内に蓄積した一時的な濃度パターンであり、アルキルベンゼンの少ない濃度から段々に蓄積してきた結果を表しており、その蓄積度合いの指標として図2に濃度比を表している。水と酢酸イソブチルの共沸点は、水が16.5wt%、酢酸イソブチルが83.5wt%であり、アルキルベンゼンが存在しない共沸蒸留塔1の共沸領域では殆どの場合水が10数wt%、酢酸イソブチルが約80wt%で推移することになる。しかし、アルキルベンゼンが存在することにより、水濃度は若干下がり、水が約5wt%、アルキルベンゼンが約70wt%となり、アルキルベンゼンの濃度は殆ど酢酸イソブチルの濃度低下と背反の関係にあり、殆ど有機相の関係として現れる。
図2は、本発明に係る蒸留のシミュレーションの結果を基に作成した蒸留塔内組成とパラキシレン/酢酸イソブチルの重量比とを蒸留塔の理論段数との関係で示した図である。この図2は、蒸留塔の理論段数20〜44段について目盛りを入れて拡大し、パラキシレン/酢酸イソブチル(wt比)と水および酢酸イソブチルの割合(wt%)を図示した。
図3は、本発明に係る蒸留のシミュレーションの結果を基に作成した蒸留塔内温度とパラキシレン/酢酸イソブチルの重量比との傾向とを蒸留塔の理論段数との関係で示す図である。この図3は、蒸留塔の理論段数20〜44段について目盛りを入れて拡大し、パラキシレン/酢酸イソブチル(wt比)と共沸蒸留塔内温度を図示した。
図4は、本発明に係る酢酸−水−酢酸イソブチレンの共沸蒸留による酢酸の脱水とジアルキルベンゼン回収のための一実施の形態を示す流れ図である。
ところで、芳香族ジカルボン酸製造における未反応ジアルキルベンゼンは、運転開始当初は酢酸回収工程内には少なく、共沸蒸留塔1系内には低濃度にしか蓄積されていない。そのため、共沸蒸留系内の共沸領域からの留出液を留出液循環ライン18を用いて二相分離型の留出液貯槽3に抜き出し、分離水相を底部から水相抜き出しライン21を用いて排出する。そして、留出液貯槽3内の有機相留分を上記共沸蒸留系内に留出液循環ライン19を用いて循環しながら共沸蒸留塔1内ならびに留出液貯槽3内のアルキルベンゼン留分の滞留量を増やし、留出液貯槽3内のアルキルベンゼンと共沸剤との濃度比を測定器40で測定し、該測定された濃度比の目標範囲が、図2及び図3に示すように、約0.5重量比以上乃至約6重量比以下、好ましくは約1.0重量比以上乃至約4重量比以下に上昇するまで制御器24は該循環の継続の制御を行う。留出液貯槽3内のアルキルベンゼンと共沸剤との濃度比が目標範囲に達した後には制御器24は例えば制御バルブ23を制御してその循環を停止し、共沸蒸留塔1と留出液貯槽3との連結を遮断した後、例えば制御バルブ25を開いて留出液貯槽3内の有機相留分を有機相抜き出しライン20から間歇的に抜き出し、回収する。
なお、共沸蒸留塔1の共沸領域からの抜き出し位置は図3に示す塔内温度が94〜100℃の温度範囲の領域(理論段数が約31段から約41段)であること、有機相の留出液貯槽3から共沸蒸留系内への循環は蒸留塔抜き出し段(位置:例えば理論段数34段)およびその近辺の位置であることが好ましく、通常は抜き出し段の一段上(例えば理論段数35段)にもどされる。また、排出分離水21には共沸剤(酢酸イソブチル)などが溶解しているため、有機相と同様に蒸留塔内の抜き出し段近辺の位置に循環することが好ましいが、蒸留塔供給原料(例えば13)に混合して処理をすることも可能である。
また、共沸蒸留塔1の運転の継続中、系内のバランスの崩れなどの蒸留特性の変動によって、循環継続中においても、アルキルベンゼンの蒸留塔1内ならびに留出液貯槽3内の濃度が低下することがあるが、その時においても留出液貯槽3内の有機相留分の抜き出しをすることなく、留出液貯槽3の底部からの分離水21の排出と留出液貯槽3の上部の有機相の循環を継続してアルキルベンゼン(パラキシレン:PX)と共沸剤(酢酸イソブチル:IBA)との濃度比が、約0.5重量比(アルキルベンゼンの濃度が約30wt%)以上、好ましくは約1.0重量比(アルキルベンゼンの濃度が約50wt%)以上に到達するまで留出液循環ライン18、19を用いて循環を継続する。
これは酢酸イソブチルによる水の共沸蒸留において、温度が94〜100℃の共沸領域にアルキルベンゼンが滞留されるため、芳香族ジカルボン酸の製造における共沸蒸留による溶媒酢酸の回収の脱水塔1では、留出有機相の循環の継続による未反応ジアルキルベンゼンの蓄積と共沸領域内での組成の安定を図ることになる。
一方、図1に示すシミュレーション結果に見られるように、蒸留系内の共沸領域においてもジアルキルベンゼンの高濃度の留出領域の範囲が限られるため、また、共沸領域下限界側での濃度変化が急激であるため、実施にあたっての安定した濃度での抜き出しには蒸留塔1内からの留出位置に注意を要する。それには蒸留塔1における温度を94〜100℃であること、ならびに、ある程度の共沸剤の存在が好ましく、抜き出し有機相中の共沸剤(酢酸イソブチル)の濃度が約15wt%以上、好ましくは約20wt%以上存在することが好ましい。そのため、本発明の方法による安定した、高濃度のアルキルベンゼンの回収には、アルキルベンゼンと共沸剤の濃度比が約0.5重量比以上乃至約6重量比以下、好ましくは約1.0重量比以上乃至約4重量比以下の範囲となる共沸領域が好適である。
なお、図2及び図3から明らかなように、共沸領域の上限界を示すアルキルベンゼンと共沸剤の濃度比が約0.5重量比の場合は、PX/IBA比カーブの一方の変曲点(理論段数38段と39段との間)であり、後述する表1(実施例1)に示すように塔頂酢酸濃度が0.03wt%と低下する安定点である。
他方、アルキルベンゼン濃度が濃縮される領域であっても、アルキルベンゼンと共沸剤の濃度比が約6重量比(理論段数約32段)を超える共沸領域の下限界付近では、後述する表4に示すように、水濃度が急激に高くなり、酢酸濃度も約10wt%と高くなり、蒸留塔内の相の安定性ならびに分留性能の低下が起こるため、安定した組成で留出することが困難になる。従って、共沸領域の下限界は、アルキルベンゼンと共沸剤の濃度比が約6重量比以下、好ましくは約4重量比以下で、有機相中の共沸剤の濃度が約15wt%以上、好ましくは約20wt%以上の領域を選択することになる。
さらに、アルキルベンゼンと共沸剤との所定濃度比に達した留出液貯槽3内の有機相留分の間歇的な回収には、蒸留塔1と留出液貯槽3との連結、例えば制御バルブ23による循環流れを遮断し、蒸留塔1の共沸領域内のアルキルベンゼンの濃度変動を抑えて回収しなければならない。そして、循環再開には共沸領域からの急激な抜き出しを行うことなく、予定循環量以下の量から始めて循環することが好ましい。
さらに、共沸領域からの留出留分には留出温度での溶解水ならびに分離水が混入してくるため、留出液留分を冷却システム4による予めの冷却ならびに貯槽3内での自然冷却により、分離水(約10wt%以下)が底部に滞留するので、留出液貯槽3は底部に水相の分離可能なデカンター方式の二相分離の可能な構造にしておくことが必要である。その形式は縦型、横型何れでもよいが、留出液中の水を分離可能な静置時間を確保できる容量が必要である。
そのため、その有機相の容量を、未反応ジアルキルベンゼンの流入量および回収の濃度などによるが、その流入量のバランスの少なくとも約3日分程度の留分を貯めることのできる容量があればよい。そして、その分離水相の抜き出しは、有機相の安定した循環を確保するため、自動あるいは手動にかかわらず水相界面でのコントロールが好ましい。
次いで、抜き出された高濃度で安定したジアルキルベンゼン含有有機相留分はそのまま処理することなく酸化反応原料に混合調製され、循環再使用することができるが、上記したように、酸化反応の反応性能ならびに反応生成物に影響与えないように連続定量性のある混合調製をすることが好ましい。
次に、図1乃至図3に示す本発明に至る酢酸脱水塔での共沸蒸留シミュレーションを実施した条件等について説明する。
本発明に係る共沸蒸留による酢酸脱水塔シミュレーションはパラキシレンの酸化反応によるテレフタル酸の実際の製造工程を想定し、水含有量の異なる複数の酢酸原料(11、12、13)を、酢酸イソブチルを共沸剤とした脱水蒸留塔1の複数位置から導入して、脱水した酢酸14を缶出液として回収するケースにおいて行った。なお、その際、夫々の原料酢酸にパラキシレンと酢酸メチルが微量混入させて行った。
そのシミュレーションは、各成分の平衡係数、ならびに水−酢酸イソブチル、(共沸点:87.4℃、H2O:16.5wt%)、水−パラキシレン(共沸点:92℃、H2O:45.1wt%)、水−酢酸メチル(共沸点:56.5℃、H2O:3.5wt%)、酢酸−パラキシレン(共沸点:115℃、酢酸:72.0wt%)の共沸特性を加味して、多成分系の逐次計算によって実施した。
シミュレーションにあたっての設定条件ならびに結果は次の通りである。
脱水蒸留塔1への原料供給は100重量部/時で、その内、(1)H2O濃度21重量%の原料11を58重量部/時、(2)H2O濃度46重量%の原料12を35重量部/時、そして(3)H2O濃度87重量%の原料13を7重量部/時に分けて供給し、塔底缶出液14としてH2O濃度5重量%の酢酸68重量部/時を回収した。一方、塔頂蒸気を凝縮し、凝縮液受槽2で二相分離し、酢酸含有濃度0.3重量%の水相32重量部/時が留出水排出ライン15から排出されるよう行った。なお、供給原料11にはパラキシレン170重量ppm、酢酸メチル0.07重量%、供給原料12にはパラキシレン230重量ppm、酢酸メチル1.2重量%、供給原料13にはパラキシレン70重量ppmが定常的に含有させ、蒸留塔供給段の位置はそれぞれの供給原料の水濃度と塔内同濃度相当段に供給し、塔頂凝縮液受槽2の酢酸イソブチル主成分の有機相16の200重量部/時と水相17の12重量部/時とを蒸留塔1の塔頂に還流する設定で行った。
その結果、共沸蒸留塔1の理論段数45段において、パラキシレン濃度が蓄積される理論段数33段から0.35重量部/時の割合で留出し、0.026重量部/時で系外に取り出した後、残りを理論段数34段に循環することによって、パラキシレンは約70wt%にまで濃縮されることが可能になると同時に、図1に示されるような組成分布が算出、推定された。なお、酢酸メチルの組成は図示しなかった。
これらの結果をもとに、蒸留塔内における蒸留塔内組成(水および酢酸イソブチル)及びパラキシレン/酢酸イソブチルの重量比の関係を示したのが図2(理論段数20〜44段)であり、蒸留塔内におけるパラキシレン/酢酸イソブチル重量比及び塔内温度を点綴したのが図3(理論段数20〜44段)である。
従って、酢酸の共沸蒸留による脱水塔に微量のパラキシレンの混入において、蒸留塔1内にパラキシレンが約70重量%の高濃度に蓄積される可能性が推定された。そして、パラキシレンと酢酸イソブチルの濃度比を0.5重量以上、好ましくは1.0重量以上になる温度範囲は94〜100℃であることが予測された。
しかし、実際の脱水塔1からパラキシレンを安定的に取り出すには、上記温度範囲であっても、共沸剤である酢酸イソブチルが有機相中少なくとも15重量%以上、好ましくは約20重量%以上含まれていることが留出組成の安定性から好ましいことも予想された。
次に、本発明に係る芳香族カルボン酸の製造における未反応アルキルベンゼンの回収方法及びそのシステムの具体的実施例について図4及び図5を用いて説明する。
[実施例1]
テレフタル製造工程における酢酸回収系において、棚段式(実際段数80段)の共沸蒸留塔1を用い、共沸剤として酢酸イソブチルを用いた共沸蒸留法により酢酸を脱水し、図4に示す流れのプロセスで酢酸を回収し、パラキシレン含有留分を抜き出し、回収した。図5には、本発明に係るジアルキルベンゼン回収のための操作ステップを示す。
テレフタル酸の製造から集められた水濃度が約20重量%、約46重量%、および約88重量%と想定される酢酸の回収ライン11、12、13を、それぞれ蒸留塔1の塔底からの実際段数7段(理論段数約4段)、実際段数15段(理論段数約9段)、および実際段数36段(理論段数約22段)に連結、供給するように構成した。そして、運転を開始し(S51)、塔頂から蒸気の抜き出しを開始する(S52)。該抜き出された塔頂蒸気を冷却器5により冷却して凝縮液ライン22により移送された凝縮液は、凝縮液受槽(二相分離型槽)2で相分離され、共沸剤(酢酸イソブチル)主成分の有機相を還流(有機相)ライン16により制御器29が弁28を制御して約20,000kg/hr、下相の水相を還流(水相)ライン17により制御器31が弁30を制御して約1,200kg/hrの流量で塔頂に還流を行った。更に、蒸留塔1の塔底から水濃度5〜8重量%の酢酸を酢酸回収ライン14により約5,700kg/hrの割合で回収しながら、塔頂凝縮液受槽2の水相部を留出水(水相)排出ライン15により制御部33が弁32を制御して約3,000kg/hrの割合で排出する運転を行った。
その結果、凝縮液受槽2の底部から留出水(水相)排出ライン15により排出する水には酢酸が0.03重量%以下、酢酸イソブチルが0.4〜1重量%、酢酸メチルが1〜3重量%含有され、パラキシレンは0.1重量%以下であった。そのため、水相を簡易蒸留塔(図示せず)に導入、酢酸イソブチル、酢酸メチルを夫々個別に留出除去し、その含有有機物を除去された水は廃液として処理したのち排出した。そして上記簡易蒸留塔から回収された酢酸イソブチルは上記塔頂蒸気の凝縮液受槽2に循環再使用された。
そして、蒸留塔1の温度96〜98℃を示す実際段数57段(理論段数約34段に相当する)の共沸領域から留出液を留出液貯槽3に抜き出す(S53)。即ち、実際段数57段の留出液(液相部)を約15kg/hrの割合で留出させ、冷却器4を通し約50℃に冷却後、内容量約1.5m3(溢流有機相容量0.7m3)の二相分離可能な横型留出液貯槽3に導入しのち、溢流有機相留分をレベル検出器26の液面制御によりポンプ27を用いて蒸留塔1の実際段数58段(理論段数約35段)に還流する方法で行った(S55)。該溢流有機相留分中のパラキシレン含有炭化水素濃度(パラキシレン含有率95wt%以上のアルキルベンゼン濃度;PX濃度と称す)と共沸剤の濃度(酢酸イソブチルの濃度;IBA濃度と称す)との濃度比を測定器40で測定しながら、例えば制御器24は、該濃度比が約0.6重量比(PX濃度が約36wt%で、IBA濃度が約60wt%に相当する)になるまで蒸留塔1(実際段数57段)−貯槽3−蒸留塔1(実際段数58段)の留出液循環ライン18、19による循環を継続するように制御した(S56、S57、S58No)。表1に示すように、運転開始から17日目にPX濃度が36wt%を超え、PX/IBAの濃度比が約0.6を超えたので(S58Yes)、制御器24は、上記留出液貯槽3への循環の出入りを例えば制御バルブ23を制御して遮断し(停止し)、蓄積された貯槽3内の留出液有機相留分について弁25を制御することによって有機相抜き出しライン20から排出して回収液受槽(図示せず)に高PX濃度溶液として回収した(S59)。なお、上記循環継続中に貯槽3の分離槽底部に分離してくる水相をライン21を通して抜き出して蒸留塔1の実際段数36段への供給の原料13に適時排出して混入した(S54)。
そして、制御器24の制御に基づき、留出液貯槽3の有機相内容物排出後、上記と同様の留出液貯槽3への導入を約10kg/hrの割合で開始し、留出液貯槽3の溢流有機相が所定液面に到達後循環を再開し、約15kg/hrの割合で循環をした。次いで、制御器24は、蓄積されてアルキルベンゼンが更に高濃度になるのを待ち(3〜5日)(S56)、留出液貯槽3内のPX/IBAの濃度比の測定を測定器40で行い(S57)、確認して濃度比の少なくとも目標(約0.6)を超えたとき弁23を制御して循環の遮断(ポンプ27停止)を行い、留出液有機相の回収操作(S59)を、弁25を制御して上記の通りに回収操作を繰り返し行った。
その結果、表1に示されるように運転開始から17日目以降、留出液貯槽3への循環を3〜5日置きに遮断、内容物の回収を間歇的に行えば、アルキルベンゼンが高濃度(PX濃度:35.45〜37.5wt%)で、且つ共沸剤との濃度比(PX/IBA=0.57〜0.62重量)の安定した有機相の回収できることが確認できた。
そして、留出液貯槽3から回収されたパラキシレン含有液を回収液受槽(図示せず)に移送し、該回収液受槽からそのままテレフタル酸製造工程の酸化反応原料調製槽(図示せず)に10kg/hr以下(原料パラキシレンの約0.5wt%以下)の割合で変動を少なく定量性を持たせて導入し、酸化反応の再使用に供した。
その際、塔頂凝縮液受槽2から留出水(水相)排出ライン15により排出される分離留出水中の酢酸含有量を次の表1に示した。この結果からアルキルベンゼン含有液の回分抜き出し中の塔頂留出水中の酢酸は低含量(0.04wt%以下)で安定している。
[実施例2]
実施例1の蒸留塔の運転をさらに継続するとともに、蒸留塔1(実際段数57段)−貯槽3−蒸留塔1(実際段数58段)の循環を実施例1の50日目内容物排出以後、制御器24は、循環を再開し、遮断することなくパラキシレン含有炭化水素を蓄積するため継続した。循環再開から11日目にPX濃度が55.91wt%にまで濃縮され、PX/IBAの濃度比は1.33まで増大した。なお、その時の蒸留塔1の実際段数57段の温度は98.6℃であった。
その後、実施例1と同様に制御器24は上記循環を遮断するように制御し、留出液貯槽3内の留出液有機相の回収を行った。そして、再び実施例1と同様、制御器24は循環を再開し、PX濃度の確認目標濃度を約56wt%とし、PX/IBAの濃度比の確認目標を約1.33として、実施例1と同様に循環と遮断を間歇的に行い、留出液貯槽3からの留出液有機相の回収を繰り返し行った。その結果、表2に示すように留出液貯槽3への循環を5日〜7日置きに、内容物の回収を行うことによって、パラキシレン含有炭化水素を高濃度(55.67〜56.98wt%)で、かつ共沸剤との比(PX/IBA=1.30〜1.37)を安定して回収できた。なお、その間の蒸留塔57段の温度は97〜99℃であった。
さらに、46日目の貯槽3内の留出液の回収後、蒸留塔1(実際段数57段)−貯槽3−蒸留塔1(実際段数58段)の循環を再開し、貯槽3内のPX濃度が70wt%で、PX/IBAの濃度比が2.5を目標に循環を継続した。その結果、55日目(循環再開後9日目)にPX濃度が71.02wt%にまで濃縮された。
上記同様に循環を遮断し、貯槽3内の留出物を回収したのち、再度循環を再開してPX濃度が70wt%で、PX/IBAの濃度比が2.5を目標として循環と遮断を間歇的におこない、貯槽内留出物の回収を間歇的に繰り返し行った。その結果、次の表2に示すように7、8日置きに、70.92wt%、71.32wt%のパラキシレン含有炭化水素が濃縮され、かつ共沸剤との比(PX/IBA=約2.6)と安定して留出物を回収できた。なお、その時の蒸留塔1の実際段数57段の温度は96〜98℃であった。
また、留出液貯槽3から回収されたパラキシレン含有液をその都度回収液受槽(図示せず)に移送し、そのままテレフタル酸製造工程の酸化反応原料調製槽(図示せず)に6kg/hr以下の割合で変動を少なく定量性を持たせて導入し、再使用に供した。
なお、実施例1と同様、塔頂留出水中15の酢酸含有量を次の表2に示したが、低含量(0.03〜0.05重量%)で安定していることが確認された。
以上説明したように、本発明に係るアルキルベンゼンの回収法の実施の形態によれば、共沸蒸留塔における系内の蒸留特性を乱すことなく、また、蒸留特性の変動に対しても、留出液貯槽内アルキルベンゼンの高濃度蓄積を待ち、有機相留分を間歇的あるいは回分的に回収することによって、アルキルベンゼンの高濃度留分を安定的に取り出すことを可能にした。
ちなみに、蒸留系の蒸留特性の変動あるいは蓄積量の減少などによってアルキルベンゼンが留出されない時期があっても、循環を継続して留出液貯槽の有機相留分に高濃度のアルキルベンゼンの滞留を確認して、有機相留分を間歇的あるいは回分的に回収することによって、回収有機相留分の濃度を高濃度に安定化することが可能となる。
また、本発明に係るアルキルベンゼンの回収法の実施の形態によれば、酢酸イソブチルを共沸剤とした共沸蒸留において、高濃度アルキルベンゼンを安定して留出する領域とは、アルキルベンゼンと共沸剤との濃度比で0.5重量比以上(アルキルベンゼン濃度約30wt%以上)で、約6重量比以下で間歇的に抜き出すのが好ましく、その温度範囲は94〜100℃に相当することが分かった。
また、本発明に係るアルキルベンゼンの回収法によれば、共沸蒸留塔への原料供給位置を制限されることなく、共沸蒸留系内蒸留濃度の位置に相当した濃度の原料を供給する通常の方法で行えばよく、また、系内アルキルベンゼンの濃度が安定することによって、塔頂留出水(塔頂凝縮液の底部分離水)中の酢酸含有量も安定することが分かった。そして、そのアルキルベンゼンの回収濃度を高濃度(約30重量%以上)に安定すれば、より分留性能が向上する傾向があり、酢酸含有量も低減することも副次的効果があった。
これは有機相留分の間歇的あるいは回分的抜き出しによって、蒸留系内のアルキルベンゼン濃度を保持し、系内の組成変動が抑制でき、蒸留塔本来の分留性能が安定するためであると考えられる。
なお、芳香族ジカルボン酸の製造における溶媒回収系から分離されるアルキルベンゼン(PXと称す)には未反応ジアルキルベンゼンが95wt%以上含有されており、その他の成分はトルエンなどの脱アルキルされた副生物であった。
従って、芳香族ジカルボン酸製造における溶媒酢酸の回収系において、酢酸イソブチルを共沸剤とした共沸蒸留による脱水塔から未反応ジアルキルベンゼンを高濃度で安定して抜き出すには、該脱水塔共沸領域からアルキルベンゼン含有留分を一旦貯槽に留出し、分離水相を除去したのち、有機相を再び該領域に循環しながらアルキルベンゼン濃度を目標濃度以上にあることを確認し、間歇的あるいは回分的に抜き出すこと。そして、その確認目標濃度をアルキルベンゼンと共沸剤(酢酸イソブチル)との濃度比が約0.5重量以上(アルキルベンゼン濃度約30重量%以上)、好ましくは約1.0重量以上(アルキルベンゼン濃度約50重量%以上)を目標とすることによって、より安定した抜き出しを可能にした。
また、アルキルベンゼンと共沸剤との濃度比が約6重量比を超えてくると、留出液中の有機相留分は少なく(水相割合が多く)、そして、有機相中の酢酸含量が増加など回収操作および回収液組成の不安定の要因となってくることが分かった。
[比較例1]
比較例1は、実施例1と同様の共沸蒸留塔において、蒸留塔1の57段からの抜き出しを行なうことなく、蒸留塔1の57段の留分の試料採取によりPX濃度が約36wt%になったことを確認した後、57段から6kg/hrの割合で定量的に冷却しながら連続して抜き出し、留出液貯槽ならび回収液受槽に蓄積したものである。このようにPX濃度を確認した後、57段から単に連続して抜き出し、その間、4日置きに抜き出し留分の冷却後試料を採取し(上記貯槽に導入前)、有機相部の組成を測定した結果、次の表3に示す36日までの組成となった。
続いて、15kg/hr、8kg/hr、4kg/hrと抜き出し速度を変え、上記同様抜き出し留分の4日置きの有機相組成を測定した。その結果を次の表3の40日以降に示した。それらの間の蒸留塔57段の温度は95〜98℃であった。
これらの結果、比較例である共沸蒸留塔からの単なる連続抜き出しでは、抜き出し留分の有機相の組成が大きく変動し、安定していないことが分かる。そして、塔頂凝縮液の分離水中の酢酸含有量は約0.7wt%以下と低濃度ではあるが、安定していないことが分かる。
なお、それぞれ定量的に連続して貯槽に抜き出した留出液は循環することなく、一旦貯槽ならびに回収液受槽に溜めたのち、アルキルベンゼンの濃度が安定していないため、本テスト終了後共沸蒸留塔の供給原料に混合処理した。
[比較例2]
比較例2は、実施例2において、蒸留塔の実際段数54段(理論段数約32段)の留分の試料を採取した場合であり、該採取された留分の試料を冷却後(約30℃)の有機相の割合ならびその組成分析の結果を表4に示した。なお、その間の54段の温度は98〜102℃であった。
試料採取の運転日数は実施例2の8日目から4日置きに行った。54段の採取試料は水相割合が高く、有機相の採取量が不安定であるとともに、有機相を全く採取できない日もあった。そして、採取有機相のPX濃度は高いが、酢酸濃度も高く(有機相中濃度5wt%以上)、留出後の取り扱いには注意(腐食性)する必要がある。
1…共沸蒸留塔、2…凝縮液受槽(ニ相分離型)、3…留出液貯槽(二相分離型)、4、5…冷却器、11…原料供給ライン、12…原料供給ライン、13…原料供給ライン、14…酢酸回収ライン、15…留出水(水相)排出ライン、16…還流(有機相)ライン、17…還流(水相)ライン、18…留出液循環ライン、19…留出液循環ライン、20…有機相抜き出しライン、21…水相抜き出しライン、22…凝縮液ライン、23…制御バルブ、24…制御器、25、28、30,32…弁、26…レベル検出器、27…ポンプ、29、31、33…制御器。