JP4763280B2 - 蝸牛に加える電気刺激の発生 - Google Patents

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Description

本発明は、一般に、聴覚補助装置の電極配列(electrode array)を介して蝸牛に加える電気刺激の発生に関する。
マルチチャンネルの移植蝸牛刺激装置が最初に移植されたのは1978年である。早期の信号処理設計は、電極刺激を制御するために第2フォルマント(F2)及びピッチ(F0)を抽出した。F2の周波数は電極刺激の位置を制御し、F0は刺激率を制御した。改良は、第1フォルマント(F1)も抽出し、ピッチ時間毎に第2の刺激電極を加えることによって行なわれた。高周波の情報をより良く表わすために、「マルチピーク」刺激法により、多数の固定電極の刺激が加えられた。開発の次の段階は、オーストラリア特許第657,959号に記載された「最大スペクトル音声処理装置(SMSP)」法、及び米国特許第5,597,380号に記載された「スピーク」法である。これらは、固定の刺激率及び音声スペクトルの最大値に対応する刺激電極を用いることで他のものを脱却していた。固定率によるもう1つの方法であるCISは、米国特許第4,207,441号に記載されている。この方法は、音声スペクトルを表わすために少数の電極全てを刺激するものである。上記の処理方法は、全て固定率の音声処理を伴っている。
北澤他(北澤S、村本K及び伊藤J(1994年)「移植蝸牛刺激装置システムのための聴覚モデルに基づく発語処理装置の音響シミュレーション」、発語言語処理に関する国際会議会報、ICSLP’94、2043〜2046ページ)は、刺激する電極を選択し、刺激率を制御する基本周波数を抽出するための聴覚モデルを使用した、スペクトル/CI−22システムに関する方法を説明している。この方法は、健常聴力者に刺激を加えることによって試験された。刺激は低い率に制限され、ピッチ情報の明確な抽出を必要とした。成績は、「マルチピーク」を実行する「ウェアラブル音声処理装置(WSP)」と比較した単語認識にまとめられた。
SMSP法は、「短期遷移性発語特性の強勢」(PCT/AU00/01310、国際公開番号WO 01/31632 A1)という名称の発明により更に拡充された。この方法は、SMSPと共に、「遷移性強勢スペクトル最大値音声処理装置」(TESM)と呼ばれている。この方法は、短く小さな振幅の語音の認識を助けるために、短期振幅遷移の相対的振幅が電極選択前に増大することを除き、SMSPと同一の信号処理及び電極選択の方法を用いていた。
より最近、固定の刺激率を用いない「複数率の蝸牛刺激の方法及び装置」(PCT/AU00/00838、国際公開番号WO 01/03622 A1)が開発されている。この方法は、各帯域に関し濾波された信号の正のゼロ交差間の平均間隔を測定することによって、各移植電極に関する刺激率を決定するものである。
最近のもう1つの開発は、「進行波方法」と呼ばれる「移植蝸牛刺激装置のための音声処理装置」(PCT/AU01/00723、国際公開番号WO 01/99471 A1)である。この装置は、移植蝸牛刺激装置の使用者のための電気刺激パターンを作り出すために、健常聴力者の基底膜の運動により誘発される時空的な神経刺激パターンをモデルとしたものである。装置は、健常聴力者のパターンによく似た三次元(位置、時間、振幅)の刺激パターンを提供する、基底膜の運動モデルと、内部及び外部の有毛細胞モデルと、を含んでいる。
マイヤー=ベーゼ他(マイヤー=ベーゼU、マイヤー=ベーゼA及びシャイヒH(1997年)「移植蝸牛刺激装置のための聴覚神経細胞モデル」、SPIEエアロセンス、1997年4月、米国フロリダ州オーランド;第3077巻582〜593ページ; マイヤー=ベーゼU(1998年)「神経発火からの発語信号を計算するためのスパイク間間隔法」、SPIEエアロセンス、1998年4月、米国フロリダ州オーランド;第3390巻560〜571ページ;マイヤー=ベーゼU、マイヤー=ベーゼA及びシャイヒH(2000年)「神経発火からの位相固定を計算するためのスパイク間間隔法」、Biol. Cybern. 82、283〜290)は、移植蝸牛刺激装置の刺激を制御するためのスパイク間間隔の抽出を目的とした神経モデルを開発した。しかし、この取組みは、聴覚モデルを実現するためのハードウェアの開発に関するものであり、論文には移植蝸牛刺激装置の実現方法の詳細については何ら記載されていない。
健常聴覚者の蝸牛への刺激をより正確に複製した聴覚補助装置の電極配列を介して蝸牛に加えるための電気刺激を発生させるための方法及びシステムを提供することが望ましい。
また、既知の電気的刺激発生の方法及びシステムの1つ以上の欠点を緩和又は克服する、蝸牛に加えるための電気刺激発生の方法及びシステムを提供することが望ましい。
本発明の一態様は、複数の電極を含む聴覚補助装置の電極配列に対して電気刺激を発生するために音声信号を処理するための方法を提供する。該方法は、
入音声信号の1つ以上の濾波された表示を導出することと、
濾波された信号表示が正方向の所定の閾値と交差する瞬間に基づいて各スパイクが時間位置を取る、電極刺激を直接制御するために各濾波された信号表示から一連のスパイクを発生することと、
を含む。
各スパイクの振幅は、閾値交差後の濾波された信号表示のピークの振幅から導出することができる。スパイクの振幅を所定の閾値と閾値交差後の濾波された信号表示のピークの振幅との差分に等しくすることができる。そうする代わりに、スパイクの振幅を閾値交差後の濾波された信号表示のピークの振幅に等しくすることができる。
一実施例において、各スパイクは、濾波された信号表示が正方向のゼロ軸と交差する瞬間に基づいて時間位置を取ることができる。ゼロ軸交差後の濾波された信号表示のピークの振幅から各スパイクの振幅を導出することができる。スパイクの振幅を所定の閾値とゼロ軸交差後の濾波された信号表示のピークの振幅との差分に等しくすることができる。そうする代わりに、スパイクの振幅をゼロ軸交差後の濾波された信号表示のピークの振幅に等しくすることができる。
この方法には、電極配列の長さに沿った健常聴覚者に対する進行波遅延に従い各スパイクの時間位置を遅延することが更に含まれる。
この方法には、濾波された信号表示の長期平均エネルギーに基づいて閾値を順応させることが更に含まれる。
この方法には、
一連のスパイク中の以前のスパイクの積分から及び減衰関数から神経順応変数を計算することと、
神経順応変数から導出した利得値を各スパイクの振幅に適用することと、
が更に含まれる。
この方法には、特定の電極が刺激シーケンス・ウインドウ内で刺激される回数が固定最大平均率を超えないように各電極に対する電気刺激を発生させるために使用されるスパイク数を制限することが更に含まれる。
この方法には、刺激シーケンス・ウインドウ内で発生するスパイクを重要度の順序に並べ替えることと、電気刺激を発生するために電極刺激シーケンスを導出すべく重要度の順序に並べ替えられたスパイク数を選択することと、が更に含まれる。スパイクの重要度は、規格化された振幅により決定される。
この方法には、異なる周波数領域内でのスパイクの比較及び優先順位決定のための規格化係数を設定することが更に含まれる。
この方法には、スパイクの時間位置に対応する刺激時間スロット内で、規格化された振幅スパイクの並べ替え済みリストからの重要度の減少する順序に、刺激シーケンス・ウインドウ内で生じるスパイクを漸進的に設置することにより、電極刺激シーケンスを得ることが更に含まれる。
この方法には、特定の利用者に対する音量増大関数及び蓄積閾値及び快適性のレベルを使用して特定の利用者に対して電気信号を電流のレベルにマッピングすることであって、神経反応順応中に増大した刺激レベルを与えるために短期の遷移性事象に対する特別の快適性のレベルを使用する、マッピングすることが更に含まれる。
この方法には、電極刺激シーケンスを符号化することと、聴覚神経すなわち蝸牛神経を刺激できるように聴覚補助装置の電極配列に符号化された電極刺激シーケンスを送ることと、が更に含まれる。
本発明の別の態様は、聴覚補助装置の電極配列を刺激するためのシステムを提供する。該システムは、
電極配列内で電極を選択的に刺激するための刺激装置と、
上記の一方法を実行することにより受取った音声信号を処理し刺激装置の動作を制御するための処理装置と、
を含む。
本発明の更に別の態様は、聴覚補助装置の電極配列を刺激するためのシステムにおいて使用するための処理装置であって、該システムは電極配列内で電極を選択的に刺激するための刺激装置を含み、上記の一方法を実行することにより受取った音声信号を処理し刺激装置の動作を制御するためのデジタル信号処理手段を含む、処理装置を提供する。
本質的に、本発明が実施する方法は、聴覚神経内で発生される活動電位に基づいてモデル化されるスパイクに準拠した表示を作り出すように、蝸牛及び聴覚神経の有毛細胞の動きをシミュレートする。蝸牛は、装置の制限の範囲内でできる限り正確にこのスパイク準拠の表示を複製する電気パルスのシーケンスを使用して電気的に刺激される。
本発明のスパイク準拠時間聴覚表示(STAR)法は、擬似静止ランダム・ノイズ及び複数の話し手の言葉の両方を含むノイズの中での発語認識能力を改良する。これは、きめ細かい時間情報の改良された表示、特に複数の刺激チャンネルにわたるフォルマントヘの位相固定を提供することにより達成される。順応効果は、破裂音の開始及びフォルマント遷移のような遷移性事象の検知を改良し、差スペクトルに類似する神経順応法により擬似静止ノイズを克服することを助長する。
入音響信号は、中心周波数が聴覚/精神物理準拠の周波数分布に従って分布するフィルター・バンクを通過させることができる。このフィルターは、同等の長方形状帯域幅に基づいて著しい重なりを有する。線形フィルター又は非線形フィルターのいずれかを使用することができる。
一連の「スパイク」は、信号の各濾波された表示から抽出される。信号が正方向の閾値と交差する瞬間に基づいて、各スパイクは、時間位置すなわち「スパイク時刻」を取る。スパイクの振幅は、閾値と引き続く信号の最大値との間の差分により決定することができる。
生理学研究において観察されるように、定常状態の振幅に対する信号の開始を強調するために神経順応効果を組み入れることができる。時間に依存する積分は、各チャンネルの一連のスパイク(引き続くスパイクがない場合には、やがて、この積分値は減衰する)及びこの合計に関する測定によって各スパイクの振幅に適用される利得値から計算することができる。
異なる聴取状態及び背景ノイズのレベルを考慮するために、信号履歴に基づいて閾値の値を調節することができる(すなわち、閾値順応)。また、神経順応効果をモデル化し聴覚刺激の開始における増大した反応を可能とするために、最新の信号履歴に基づいてスパイクの振幅も調節することができる。
順応した振幅に比例する刺激レベルを使用して、(ピーク検知ができるように最大10msec.だけ全ての電極にわたって遅延された)閾値交差時刻において、電極を刺激することができる。既存の移植蝸牛刺激装置内の制限により、最高の規格化された平均振幅を有するチャンネルを選択することによって、制限された電極数を刺激に対して選ぶことができる。規格化された振幅を使用して決定される重要度に基づいて、スパイクを別の時刻に体系的に移動させることが、時間の競合(すなわち、同時スパイク)の原因となることがある。高周波チャンネル内のスパイクが固定最大平均率を上回って刺激されないことを保障することによって、各電極上で平均刺激率を制限することができる。
本発明は、豊富な聴覚モデルの歴史に基づいて構築されている。こうしたモデルの最も優れたものの1つは、ヒトの聴覚システムに基づいた自動発語認識に対する改良された方法の開発との関連で、アレン&ギッツァ(米特許第4,905,285号)によって開発されたものである。類似のシステムは、キム他(キムD−S、リーS−Y及びリーM(1999年)「現実世界のノイズ環境での健全な発語認識に対する発語信号の聴覚処理」、IEEE T−SAP7(1)、55〜69)によって開発された。それは、濾波された信号の引き続くピークを使用してスパイクを位置づけその振幅を決定するために、単一のゼロ交差測定を使用したものである。
本発明は、入波形の前処理に対して北澤他(1994年)の類似の聴覚モデルを使用するが、電極配列にわたる刺激率を制御するためにF0を明確に抽出するのではなく、電極刺激を制御するためにスパイク列を直接使用している。ピッチの明確な抽出は、全体的な刺激率の制御を要しないが、より多くの先端電極の刺激シーケンスによって及び電極配列全体にわたる振幅変調によって、表示することができる。きめ細かい時間情報を有するスパイク列の直接抽出はまた、複数率法から本発明を区別するものである。
進行波法は、蝸牛神経内でのより高い処理レベル及び脳幹の他の段階に対して有用な正確なタイミング情報を抽出するという点で、本発明のSTAR法と類似する。しかしながら、進行波法は、STARで使用されていない特定の基底膜特性に依存する一方で、STARは、聴覚神経の作用に、より依存する。STARで使用されるモデルによって、神経反応順応及び閾値順応のような種々の非線形特性を実現することができる。また、STARの刺激時刻は、進行波音声処理装置に対して特化した極大の時刻ではなく、閾値交差時刻に基づいている。
TESM法は、本発明の一部である神経順応効果に類似する要素を含んでいる。しかしながら、TESM法での短期振幅遷移の振幅増大は、ゆっくり変化する信号包絡線の直接推定に基づいており、その規則が利得要素を適用するために用いられる。TESMで使用される方法の結果は、30msの遅延が信号に導入されるというものである。一実施例において、本発明は、順応関数をスパイクのシーケンスに連続的に適用し、TESMとは違い、利得を予測するために時間の長さの検証には依存しない。このように、技術が異なるだけでなく、余分な時間の遅延は導入されない。
以下の説明では本発明の電気刺激発生のための方法及びシステムの種々の特長をより詳しく説明する。本発明を容易に理解するために、本発明の望ましい実施例が図示されている添付の図面を参照して説明が行われる。しかしながら、本発明は図面で示される望ましい実施例に限定されるものでないことを理解されたい。
図1を参照すると、処理された信号に従い電極配列を刺激するためのシステムが一般的に示されている。電極配列1は、蝸牛に移植されており、ケーブル2を介して受信刺激装置(RSU)3に接続する。移植されたシステムは外部発語処理装置から制御信号及び電力を受取るが、図示したように調整したコイルRFシステム5、6を介するのが望ましい。しかしながら、経皮接続等の代替の接続技術を用いることもできる。
コイル6は、RSU3に所望のシーケンス、タイミング及び振幅で電極配列内の電極を刺激させるように、処理装置7により変調された信号を送る。今度は、処理装置7は利用者が身につけたマイク8から電気アナログ信号を受取る。本発明は、処理装置の動作、特に入電気信号の処理方法に関する。
図2は、前濾波&ADCブロック9、フィルター・バンク10、スパイク発生ブロック11、スパイク順応ブロック12、刺激選択&順序付けブロック13及び音量増大関数ブロック14を含む処理装置7の種々の機能ブロックを図示する。前濾波&ADCブロック9は、既知の電子回路類及びアナログ信号標本化技術を用いて実現することができるが、一方で機能ブロック10乃至14は既知のデジタル信号処理技術を用いて実現することができる。
前濾波及びアナログ・デジタル変換
音声はマイク8で録音される。マイクは本来的に入信号にプリエンファシスを与えることができる。標本化中の折り返し雑音を防止するために、この信号は低域通過濾波され、それから前濾波&ADCブロック9内のアナログ・デジタル変換器により標本化が行われる。CI−24M移植蝸牛刺激装置を使用する本発明の実施例において、信号は14.4kHzでアナログ・デジタル変換器により標本化される。
フィルター・バンク
デジタルに標本化された音声信号は、おおよそ200〜7200Hzの領域に広がるフィルター・バンク10を通過する。フィルター数は、使用される移植蝸牛刺激装置及び特定の移植装置の利用者の利用に供される電極数によって決まる。フィルター数は典型的にはコクリア・リミテッドのニュークレオス(商標)の電極配列においては22チャンネルであるが、装置に応じて変化する。フィルターの中心周波数(CFs)は、普通に使用されている蝸牛移植周波数電極マップにおける電極に関する標準周波数分布と同じ方法で、メル・スケール(mel-scale)又はバーク・スケール(bark scale)等の精神物理学的ピッチ・スケール(pitch scale)を用いて分布される。フィルターの帯域は、精神物理的臨界帯域測定から得られる同等の長方形状帯域に釣り合う。フィルター・バンクは、自動発語認識に関するキム他(1999年上記)により設計されたものと同じように設計されているが、フィルター数が異なり、かつIIRフィルターをFIRフィルターの代わりに使用することができる点を除く。
スパイク発生
スパイクは、キム他(1999年上記)により使用されているものと同じ方法で濾波された信号表示からスパイク発生ブロック11において発生されるが、ゼロ交差時刻ではなく閾値交差時刻が使用される点を除く。これによって、周囲の長期ノイズ・レベルにこの方法を合せることができる。図3において見られるように、スパイクは閾値θの正方向交差の時刻tTで発生させられる。振幅asはピーク振幅apを閾値θから引くことによりスパイクに割当てられる。ピーク振幅は、次の負方向の閾値交差の前に濾波された信号表示の最大振幅をチャンネル前方で探すことにより見つけられる。このように探すことは、10msすなわち1440個の標本に限られ、この方法における重要な処理のタイムラグを防止する。
スパイク時刻すなわちスパイクの時間位置は、閾値交差時刻プラス特定のフィルターに対応する電極の電極配列に沿った距離と関連づけられた進行波遅延に対応する標本化時間数に最も近い標本化時刻である。この遅延時間がα(n)の場合、ここでnはフィルター数であるが、スパイク時刻はts=tT+α(n)である。従って、各スパイクの時間位置は、電極配列の長さに沿った健常聴覚者に対して存在する進行波遅延により遅らされ、
α(n)=CDCLx(n)
となる。ここでCDは進行波遅延係数、CLは進行波遅延に関する長さ係数であり、x(n)は電極nに関する伝達距離である。CD及びCLに関する典型的な数値は、文献で報告されている測定から得ることができる。例えば、ドナルドソンGS及びルースRA(1993年、ヒトの進行波速度に関する導出帯域聴覚脳幹反応予測値I:健常聴覚被験者、J. Acoust. Soc. Am. 93(2):940〜951) において説明されている1名の者について、係数は、CD=0.3631、CL=0.11324であり、x(n)はmmでのアブミ骨からの距離である。望ましい実施例において、x(n)は、使用されている最も底部の電極からの電極nの距離である。本発明の他の実施例において、x(n)は、周波数設定マップ関数を使用して、当該電極用のフィルターの中心周波数の通常の蝸牛内の位置に基づく丸ウインドウ(round window)からの電極nの有効距離を決定することにより計算される。
この実施例において、各スパイクは、濾波された信号表示が正方向で閾値θと交差する瞬間に基づく時間位置を取る。各スパイクの振幅は閾値交差後の濾波された信号表示のピークの振幅apから導出される。この場合、スパイクの振幅は閾値θと振幅apとの間の差分に等しいが、そうするのではなくスパイクの振幅を振幅apそのものに等しくすることができる。
しかし、他の実施例では、閾値をゼロ軸とし、各スパイクは、濾波された信号表示が正方向でゼロ軸(図3では0)と交差する瞬間に基づく時間位置を取ることができる。各スパイクの振幅は、ゼロ軸交差後の濾波された信号表示のピークの振幅apから導出することができる。スパイクの振幅は閾値θと振幅apとの差分に等しくすることができる。そうする代わりに、スパイクの振幅を振幅apそのものに等しくすることができる。
スパイク順応
神経順応をモデル化した順応効果は、各チャンネル内のスパイク列の以前の履歴に基づいて、スパイク順応ブロック12により各発生スパイクに適用される。この順応は、適切な減衰関数を用いて以前のスパイク全てを積分することによって得られる変数により制御される。順応変数から導出された利得値をスパイクの振幅(as)に適用して、その積分が小さい場合の元の振幅よりも大きい順応バージョン(as A)を得る。作業を続けると、積分が増加し、そうすることでas Aを減少させてasまで戻る。この完全な操作に対する式は次の通りである。
s A=as+CA/Cs・as(1 - ΓA), ΓA=γAΣas’-(ts-ts’)/τA
ts’<ts
ここでCAは、順応スパイクについて認められる最大値、Csはスパイク・シーケンスについて認められる最大維持振幅、γAは順応率を制御するための規格項であり、τAは現スパイクに対する以前のスパイク列の影響の減衰率を制御する時定数、ts は現スパイクの時刻、tsは以前のスパイクの時刻を表し、asは以前のスパイクの振幅を表す。総和は、各スパイクの到着と共に連続して更新される各チャンネルに関する単一の数値として、デジタル信号処理装置において帰納的に実行される。
またスパイク順応ブロック12は、濾波された信号表示の長期平均エネルギーに基づく閾値の数値を順応させるように作用する。
この手順の一実施例において、閾値θは、各フィルターについて発生されたスパイクの以前のシーケンスにより調節される。下記の形式の式を用いることができる。
θs=θs-1-(ts-ts-1)τn+Cns
ここで、θsは、以前のスパイク時刻ts-1で計算された以前の閾値θs-1に基づく、時刻tsにおける現スパイクs発生後に計算される新しい閾値である。時定数τnは、閾値の減衰率を制御するためにフィルターの中心周波数に基づいて、各フィルターについて設定されている。数値asは現スパイクの振幅であり、以前のスパイクについて設定された閾値を利用して計算されたものであり、Cnは閾値の増大率を制御するための各フィルターの定数である。
刺激の選択及び順序付け
電極刺激シーケンスを選択するに当って考慮すべき重要な多くの問題がある。それらは次の通りである。
1. 単一の移植蝸牛刺激装置の電極に与えられる最大パルス率は固定最大平均率に限定される。これは、通常は電極毎の最大平均刺激率を、例えば2000パルス毎秒(pps)まで、制限することにより制御される。
2. 移植蝸牛刺激装置は最大可能総刺激率を有する。例えば、コクリアCI−24M装置では、14,400ppsである。
3. 複数電極の刺激は蝸牛内での電流の相互影響を避けるために非同時でなければならない。従って、同時到着時刻を有するスパイク間の競合を調停する手段がなければならない。
4. 各移植蝸牛刺激装置の利用者は各電極上の電流のレベルと認識した音量との間の異なるマッピングを有している。このように、閾値(T)及び快適性(C)のレベルを各利用者について及び各電極について設定しなければならない。T及びCのレベルの全体的調節は、装置が実際に音声入力と共に使用される際に、複数の電極を通過する音量の総和を占めるようにマップを適合させた後に、通常は下方に行われることが多い。スパイクの高さを電流のレベルに変換するように、音量増大関数(LFG)を適用しなければならない。
刺激選択&順序付けブロック13による刺激シーケンスの作成は、継続時間Tw=mxEの刺激選択ウインドウを設定することにより各サイクルにおいて始まる。ここで、TEは最大平均刺激率の境界内で認められる刺激間隔数である。電極当りの2000Hzの最大刺激平均率については、単一の電極上の連続する刺激間の最小時間は、平均で0.5ms以上である。14,400Hzの移植装置に関する最大総刺激率は、刺激当りおおよそ0.07msを与える。この例では、TE=7.2の刺激間隔である。電極シーケンス選択のサイクルに関する、より長いウインドウを選択するためにmxの整数値、また最大刺激率を超えないような当該ウインドウ内での各電極を刺激する回数に対する制限を使用することができる。本発明の望ましい実施例において、mx=1である。本発明の他の実施例において、より高い総刺激率及びより高い最大平均刺激率を使用することができることが理解される。
ウインドウTwと共に生じる各チャンネルからのスパイクは、電極刺激としての選択のために考慮される。当該スパイクはチャンネルにわたって結合することができ、また規格化された振幅により順序付けされる。異なる周波数領域の優先順位を並べ替え手続に組み入れることができるように、規格化は、補助装置の形状、特にマイク8及びフィルター・バンク10の特徴並びに発語の特性から決定される。
並べ替え後は、並べ替え済みの規格化された振幅スパイクのリストは漸次、検証され、ウインドウTwに関する刺激シーケンスを得る。第1候補が選択され(すなわち、最大の規格化された振幅を有する候補)、刺激パルスがスパイク時刻tsに最も近い時刻に対応する刺激時間スロット内に設定される。この過程は、Tw内の全ての時間スロットが満たされるまで継続する。刺激パルスが既に満たされたスロット内に設定されると、近くのスロットが以下の順序で検証される。[−1+1−2+2−3+3...]。ここで、−1は前のスロットを、+1は次のスロット、−2は二つ前のスロットを表わす。ウインドウTw内のスロットのみをこのように検証することができる。
音量増大関数
電極選択の各サイクルの後に、音量増大関数ブロック14により利用者のための標準的な音量増大関数(LGF)及び蓄積マップ(T及びCのレベル)を使用して、刺激を電流レベルに対してマッピングする。LGFは、主観的音量の適切な増加を得るために、刺激レベルを音量に関連付ける対数関数である。蓄積マップは利用者のために認められる最小及び最大の電流レベルを指定する。順応ステップ中にレベルを増大できるように、短期の遷移性事象のためには、特別なCレベルを指定することができる。
移植装置刺激
次に、移植蝸牛刺激装置と連動し電極選択及び装置に対する電流レベルの情報を符号化する受信刺激装置3に、刺激シーケンスは送られる。
最後に、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、本明細書で説明した電気刺激発生に関する方法及びシステムに対して様々な変形及び/又は追加をなし得ることを理解されたい。
蝸牛に移植された電極配列を刺激するためのシステムに関する一実施例の概略図である。 図1の電極刺激システムの一部を形成する処理装置の機能ブロックを示す概略図である。 図1の電極刺激システムにより受取られた音声信号の例示的な濾波された表示である。

Claims (23)

  1. 処理装置が、複数の電極を含む聴覚補助装置の電極配列に対して電気刺激を発生するために音声信号を処理するための方法であって、
    前記処理装置が、入音声信号の1つ以上の濾波された表示を導出することと、
    前記処理装置が、濾波された信号表示が所定の閾値と交差する瞬間に基づいて各スパイクが時間位置を取る、電極刺激を直接制御するために各濾波された信号表示から一連のスパイクを発生することと、
    を含む方法。
  2. 前記処理装置が、閾値交差後の濾波された信号表示ピークの振幅から各スパイクの振幅を導出すること、を更に含む、請求項1に記載の方法。
  3. スパイクの振幅は、所定の閾値と、前記閾値交差後の濾波された信号表示ピークの前記振幅との間の差分に等しい、請求項2に記載の方法。
  4. スパイクの振幅は、前記閾値交差後の濾波された信号表示ピークの前記振幅に等しい、請求項2に記載の方法。
  5. 前記閾値は、ゼロ軸である、請求項に記載の方法。
  6. 前記処理装置が、前記ゼロ軸交差後の濾波された信号表示ピークの振幅から各スパイクの振幅を導出すること、
    を更に含む、請求項5に記載の方法。
  7. スパイクの振幅は、所定の閾値と前記ゼロ軸交差後の濾波された信号表示ピークの前記振幅との間の差分に等しい、請求項6に記載の方法。
  8. スパイクの振幅は、前記ゼロ軸交差後の濾波された信号表示のピークの前記振幅に等しい、請求項6に記載の方法。
  9. 前記処理装置が、前記電極配列の長さに沿った健常聴覚者に対する進行波遅延に従い各スパイクの前記時間位置を遅延すること、
    を更に含む、請求項1に記載の方法。
  10. 前記遅延は最基部の電極に対する各電極の距離に基づく、請求項9に記載の方法。
  11. 前記遅延は、各電極に対するフィルターの中心周波数の基底膜に沿った有効距離に基づく、請求項9に記載の方法。
  12. 前記処理装置が、前記濾波された信号表示の長期平均エネルギーに基づいて前記閾値を順応させること、を更に含む、請求項1に記載の方法。
  13. 前記処理装置が、一連のスパイク中の以前のスパイクの積分から及び減衰関数から神経順応変数を計算することと、
    前記処理装置が、前記神経順応変数から導出した利得値を各スパイクの振幅に適用することと、
    を更に含む、請求項1に記載の方法。
  14. 前記処理装置が、特定の電極が刺激シーケンス内で刺激される回数が固定最大平均率を超えないように各電極に対する前記電気刺激を発生させるために使用されるスパイク数を制限すること、
    を更に含む、請求項1に記載の方法。
  15. 前記処理装置が、刺激シーケンス・ウインドウ内で発生するスパイクを重要度の順序に並べ替えることと、
    前記処理装置が、電気刺激を発生するために電極刺激シーケンスを導出すべく重要度の順序に並べ替えられたスパイク数を選択することと、
    を更に含む、請求項1に記載の方法。
  16. スパイクの重要度は、規格化された振幅により決定される、請求項15に記載の方法。
  17. 前記処理装置が、異なる周波数領域内でスパイクの比較及び優先順位決定のための規格化係数を設定すること、
    を更に含む、請求項15に記載の方法。
  18. 前記処理装置が、前記スパイクの前記時間位置に対応する刺激時間スロット内で、規格化された振幅スパイクの並べ替え済みリストからの重要度の減少する順序に、前記刺激シーケンス・ウインドウ内で生じるスパイクを漸進的に設置することにより、電極刺激シーケンスを得ること、
    を含む、請求項15に記載の方法。
  19. 前記処理装置が、特定の利用者に対する音量増大関数及び蓄積閾値及び快適性のレベルを使用して電気信号を電流のレベルにマッピングすることであって、神経反応順応中に増大した刺激レベルを与えるために短期の遷移性事象に対する特別の快適性のレベルを使用して、マッピングすること、
    を更に含む、請求項1に記載の方法。
  20. 前記処理装置が、前記電極刺激シーケンスを符号化することと、
    前記処理装置が、聴覚神経すなわち蝸牛神経を刺激できるように前記聴覚補助装置の電極配列に符号化された電極刺激シーケンスを送ることと、
    を含む、請求項15に記載の方法。
  21. 一連のスパイク内の各スパイクは、濾波された信号表示が正方向に所定の閾値と交差する瞬間に基づいて時間位置を取る、請求項1に記載の方法。
  22. 電極配列内で電極を選択的に刺激するための刺激装置と、
    請求項1乃至21のいずれか一項に記載の方法を実行することにより受取った音声信号を処理し前記刺激装置の動作を制御するための処理装置と、
    を含む、聴覚補助装置の電極配列を刺激するためのシステム。
  23. 聴覚補助装置の電極配列を刺激するためのシステムにおいて使用するための処理装置であって、前記システムは前記電極配列内で電極を選択的に刺激するための刺激装置を含み、請求項1乃至21のいずれか一項に記載の方法を実行することにより受取った音声信号を処理し前記刺激装置の動作を制御するためのデジタル信号処理手段を含む、処理装置。
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