本発明は、植物の着粒数を増加させ、且つ植物を矮性化させる遺伝子、および、該遺伝子を含む着粒数が増加し、且つ矮性化した形質転換植物体に関する。また、該遺伝子を利用した、植物の着粒数を増加させ、且つ植物を矮性化させる方法に関する。さらに、植物体のDN1遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域における変異を検出する工程を含む、植物体の着粒数が増加、および/または矮性化するか否かを判定する方法に関する。
農作物生産においては一般に、高品質植物の安定生産および生産性の向上が要望されている。
生産性の向上という観点では、植物体の着粒数(籾数、頴花数、果実数、種子数の意味を含む)を増加させることが、大きな意義を有する。これまでにイネの籾数を増加させる量的遺伝子座(QTL)をマップベーストクローニングで単離したところ、籾数の増加に関与する遺伝子の一つとしてサイトカイニンオキシダーゼ/デヒドロゲナーゼ(OsCKX2)が確認されている(非特許文献1)。着粒数の増加は、そのまま穀類の収量を増加させる形質に繋がり、それらの形質は農業的に極めて重要な形質である。
また、植物体を小型化することは、農作物生産において様々な意義を有する。例えば、草丈または稈長を小型化することで、新たな美的価値を有する観賞用植物を作出することが可能であり、また、野菜や果実を小型化することで一口サイズなどの新たな商品価値を有する作物を作ることもできる。また、イネ等においては多肥料によって生育を促しても背丈が伸びすぎて倒伏してしまうこともなくなり、収量の大幅な増加が期待できる。さらに、このような産業上の利用以外でも、例えば、実験用植物の小型化は、その取り扱いやすさが収穫や生育管理の作業の効率化に繋がるだけでなく、植物の栽培空間の減少による実験空間の有効利用という観点から重要である。
植物の小型化において、特に植物の草丈あるいは稈長が野生型(正常型)より短くなる特性は矮性と呼ばれる。この特性を示すイネ品種や系統はγ-線や化学物質による突然変異誘起処理において数多く見い出されており、それらの遺伝解析も古くから進められてきた。これまでに60種類以上の遺伝子がこの矮性に関与することが知られている(非特許文献2)。しかしながら、なぜ矮性形質を表現するのかについての知見は少なく、少数の矮性変異体が、植物成長ホルモンであるジベレリンあるいはブラシノステロイドの生合成に関与するタンパク質やそうしたホルモンの受容体の遺伝子における変異によって生じていることが明らかになっているにすぎない(非特許文献3〜8)。
植物を矮化する方法としては、化学物質や放射線を用いた人為的突然変異によって得ることも可能であるが、矮性を支配している遺伝子のみならず、他の遺伝子にも変異を与える可能性が高い。また、この矮性遺伝子は劣性ホモ、すなわち母本由来のアレルおよび花粉親由来のアレル両方に変異があって始めて矮化が見られる場合が多く、交配により他の遺伝形質をさらに付加しようとする場合には、交配当代ではなく、もっと後代から劣性ホモ個体を選抜しなくてはならず、時間がかかる。
優性の矮性遺伝子を用いた矮化技術は上記の欠点を克服するものである。両親由来のアレルの少なくともいずれか一つに変異があれば植物を矮化できるため、交配した当代で矮化植物を得ることができる。矮化した性質はメンデルの法則にしたがい、優性形質として後代に引き継がれる。
これまで、着粒数の増減に関与する遺伝子、または矮性に関与する遺伝子はそれぞれ別個に同定が行われていたが、着粒数の増減および矮性という二つの形質に同時に関与する遺伝子の同定はこれまでに行われていなかった。
イネ密穂型変異体の一つDense panicle 1 (Dn1)は不完全優性で、穂が短縮して密になる形質が形態マーカーとしてイネ連鎖地図上に位置づけられてきた(非特許文献9)。表現型解析はこれまでほとんど行われていないが、北海道大学(日本)由来のDn1変異体では品種「しおかり」背景で二次枝梗数が増加し、穂当たりの穎花数が増加したという報告がある(非特許文献10)。しかしながら、九州大学(日本)由来Dn1変異体と北大由来Dn1変異体との間で同座性検定は行われておらず、単に穂が密になるという形質を共有すること、およびイネ古典的連鎖地図上の位置が、非常に疎な地図ではあったが似通っていたこと(非特許文献11)から、歴史的に同座として(同じ原因遺伝子として)扱われてきた。Dn1変異体の原因遺伝子については、これまで単離が行われておらず、その構造および活性が明らかにされていなかった。
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
Motoyuki Ashikari, et al., Science vol. 309: 741-745 (2005)
Rice Genetic Newsletter. Vol.12:30-32 (1995)
Michael G. Mason, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. vol. 97: 11638-11643 (2000)
Chizuko Yamamuro, et al., Plant Cell. vol. 12: 1591-1606 (2000)
Akira Ikeda, et al., Plant Cell. vol. 13: 999-1010 (2001)
Motoyuki Ashikari, et al., Breed Sci. vol. 52: 143-150 (2002)
Zhi Hong, et al., The Plant Journal. vol.32:495-508 (2002)
Zhi Hong, et al., The Plant Cell. vol.15: 2900-2910 (2003)
Toshiro Kinoshita, Biology of Rice. S. Tsunoda and N. Takahashi eds. JSSP/Elsevier, Tokyo. p187-274 (1984)
Masayuki Murai et al., Breed Sci vol.44: 247-255 (1994)
Nobuo Iwata et al., Japanese Journal of Breeding vol.21: 19-28 (1971)
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物の着粒数を増加させ、且つ植物を矮性化させる遺伝子、および、該遺伝子を含む、着粒数が増加し、且つ矮性化した形質転換植物体を提供することにある。また、該遺伝子を利用した、植物の着粒数を増加させ、且つ植物を矮性化させる方法の提供を課題とする。さらに、植物体のDN1遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域における変異を検出する工程を含む、植物体の着粒数が増加、および/または矮性化するか否かを判定する方法の提供を課題とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、植物体の着粒数および矮性化に関与する遺伝子の解析を行った。
本発明者らは、まず、九州大学(日本)が入手し、維持してきたDn1系統HO576(Oryzabaseによる)を日本晴及びコシヒカリに戻し交雑し、BC2F3個体を材料として表現型解析に用いた。その結果、Dn1変異体の穂では、一次枝梗長が短くなることがわかった(図1)。また、比較的二次枝梗の少ない日本晴背景では、二次枝梗数と二次枝梗に付く穎花数が増加し、穂当たりの穎花数が増加することがわかった。一方、二次枝梗が比較的多いコシヒカリの背景では、二次枝梗に付く穎花数は減少したため、穂当たり穎花数の増加は見られなかった。稔実率は日本晴背景で低下したが、花器構造と花粉には異常は見られなかった。
また、Dn1変異体は遺伝的背景を問わず短桿となることが明らかとなった。全生育期間を通じて日本晴背景では野生型の約80%、コシヒカリ背景では約70%に草丈が短縮した(図2)。いずれの背景でも上位節間ほど短縮率が高いことが明らかとなった(図3)。また、短桿となる既知の変異体の多くはジベレリンないしはブラシノステロイド関連のものであるが、ブラシノライド反応性試験および暗所発芽試験の結果、Dn1変異体は活性型ブラシノステロイドであるブラシノライドに対する感受性が若干落ちていることがわかった(図4)。
Dn1の原因遺伝子は、第9染色体短腕に座乗することが既知であったため、次に、この領域にKasalath断片が導入された日本晴背景のSL系統にDn1を交配した雑種集団約1,200個体を用いた連鎖分析により、Dn1の座乗領域を解析した。その結果、Dn1の座乗領域は第9染色体短腕の約10.4 kbの領域であることが明らかとなった(図5)。この候補領域の塩基配列を決定したところ、既知のドメインをコードしない機能未知の遺伝子の第5エクソンに1塩基置換による終止コドンが生じていることが確認された(図5)。
次に、Dn1変異体の候補遺伝子領域(4.1 kb)を野生型に形質転換したところ、形質転換当代でDn1変異体と同様な短桿化と密穂化が見られたことから、この遺伝子がDN1遺伝子そのものであることが明らかとなった(図6)。
RT-PCRによりDN1遺伝子の発現を確認した所、DN1遺伝子は、根、葉鞘、葉では発現がほとんど見られなかったが、茎頂では強く発現していることがわかった(図7)。茎頂から抽出したRNAを用いたノーザンハイブリダイゼーションでは、1.3-1.4kbのシングルバンドが検出された。アミノ酸配列の情報より、N末側にタンパク質間相互作用に関わるとされるコイルドコイル、C末側にシステインリッチ領域、それらの間に1回貫通型の膜貫通型ドメインが存在することが予想された。また、膜貫通型ドメインの両側2カ所に核移行配列が存在することが予想された。
次にIn situ hybridizationを行い、DN1遺伝子の発現部位の特定を行った。その結果、DN1遺伝子は栄養成長期から生殖成長期にわたって茎頂の葉原基および葉的器官原基に特異的に発現していることがわかった(図8および9)。また、Dn1変異体は短桿となるが、非常によく伸長する出穂2〜3日前の第1節間では発現は見られなかった。
即ち、本発明者らは植物体の着粒数および矮性化に関与する遺伝子を単離することに成功した。さらに、Dn1変異体型の該遺伝子を植物体で過剰に発現させることにより、植物体の着粒数を増加させ、且つ矮性化させることに成功し、これにより本発明を完成するに至った。
本発明は、より具体的には以下の(1)〜(17)を提供するものである。
(1)下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域からなるDNA。
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
(2)植物の着粒数の増加、および/または植物の矮性化を引き起こす機能を有する植物由来のタンパク質をコードする(1)に記載のDNA。
(3)植物が単子葉植物由来である、(2)に記載のDNA。
(4)(1)から(3)のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
(5)(4)に記載のベクターが導入された宿主細胞。
(6)(1)から(3)のいずれかに記載のDNA、または(4)に記載のベクターが導入された植物細胞。
(7)(6)に記載の植物細胞を含む形質転換植物体。
(8)(7)に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
(9)(7)または(8)に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
(10)(1)から(3)のいずれかに記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、(7)または(8)に記載の形質転換植物体の製造方法。
(11)(1)から(3)のいずれかに記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の着粒数を増加、および/または植物を矮性化させる方法。
(12)植物体のDN1遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域に塩基種の変異を導入する工程を含む、植物の着粒数を増加、および/または植物を矮性化させる方法。
(13)植物体のDN1遺伝子領域上の部位であって、配列番号:3に記載の塩基配列における3380位の部位に変異を導入する、(12)に記載の方法。
(14)塩基種の変異が、植物体のDN1遺伝子領域上の部位であって、配列番号:3に記載の塩基配列における3380位の塩基種を、シトシンからアデニンに変異させるものである、(12)または(13)に記載の方法。
(15)以下の工程(a)および(b)を含む、植物体の着粒数が増加、および/または植物体が矮性化するか否かを判定する方法。
(a)植物体のDN1遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域の塩基配列を決定する工程。
(b)(a)で決定された塩基配列において、塩基種の変異が検出された場合に、植物体は着粒数が増加、および/または植物体が矮性化すると判定する工程。
(16)塩基種の変異が、植物体のDN1遺伝子領域上の部位であって、配列番号:3に記載の塩基配列における3380位の部位における変異である、(15)に記載の方法。
(17)塩基種の変異が、植物体のDN1遺伝子領域上の部位であって、配列番号:3に記載の塩基配列における3380位の塩基種が、シトシンからアデニンに変異したものである、(15)または(16)に記載の方法。
本発明において、イネのDN1遺伝子が植物体の着粒数および矮性化に関与することを見出し、Dn1変異体型の該遺伝子をイネの野生型で過剰に発現させることにより、植物体の着粒数が増加し、且つ矮性化が引き起こされることが示された。本発明のDn1変異体型の遺伝子を植物体に導入することにより、穂当たりの着粒数の増加や、品種を問わない半矮性による倒伏防止により、植物体の増収が期待できる。従来育種に利用されている短桿化をもたらす遺伝子の多くは、穂当たりの着粒数は変わらない、あるいは減少させる効果があるのに対し、本発明のDn1変異体型の遺伝子は着粒数を増加させる効果がある。そのことから、従来の短桿化をもたらす遺伝子よりもより良い効果が期待される。
また、本発明の遺伝子のホモログは、イネのみならずトウモロコシやムギ等の主要穀物に存在するため、本発明の遺伝子を利用することにより、主要穀物で短桿化および穂型を改変した形質転換体の作出が可能となり、増収につながる品種が確立できるものと考えられる。
本発明は、植物の着粒数の増加、および/または植物の矮性化を引き起こす機能を有する植物由来のタンパク質をコードするDNAを提供する。
本発明において、植物は特に限定されるものではないが、好ましくは単子葉植物であり、より好ましくはイネ科植物であり、最も好ましくはイネである。
本発明において、「植物の着粒数」とは、籾数(頴花数)、果実数、種子数の意味を含む。着粒数の増加は、そのまま穀類の収量を増加させる形質に繋がり、それらの形質は農業的に極めて重要な形質である。
本発明において、「矮性化」とは、野生型植物と比較して草丈あるいは稈長が短くなることを意味する。
着粒数の増加および矮性化の効果は、植物の生存期間内は継続的に続く効果であってもよいし、ある一定期間(例えば、生育初期段階のみ)に発現する効果であってもよい。
また、着粒数の増加効果、または矮性化効果がそれぞれ別個に発現するものであってもよいし、二つの効果が同時に発現するものであってもよい。
本発明の「植物の着粒数の増加、および/または植物の矮性化を引き起こす機能を有する植物由来のタンパク質」としては、より好ましくはDn1変異体におけるDN1遺伝子によりコードされるタンパク質を挙げることが出来る。
本発明のDn1変異体におけるDN1遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号:1に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。また、野生型のDN1遺伝子のゲノムDNAを配列番号:3に、cDNAを配列番号:4に、アミノ酸配列を配列番号:5に示す。今回同定された、Dn1変異体におけるDN1遺伝子のゲノムDNA全長を配列番号:6に示す。
本発明のDn1変異体におけるDN1遺伝子は、植物の着粒数の増加、および/または植物の矮性化を引き起こす作用を有していることから、該タンパク質をコードするDNAで植物を形質転換することにより、着粒数が増加、および/または矮性化した植物の育成が可能である。
本発明のDNAには、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって公知の方法を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、本発明のDn1変異体におけるDN1遺伝子を有するイネ品種からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、本発明のDN1タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、本発明のDn1変異体におけるDN1タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1)に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRをおこなうことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、本発明の該タンパク質を有するイネ品種から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
本発明は、配列番号:2に記載のタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを包含する。ここで「配列番号:2に記載のタンパク質と同等の機能を有する」とは、対象となるタンパク質が、植物の着粒数の増加、および/または植物の矮性化を引き起こす機能を有することを指す。このようなDNAは、好ましくは単子葉植物由来であり、より好ましくはイネ科植物由来であり、最も好ましくはイネ由来である。
このようなDNAには、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログが含まれる。
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAを調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、部位特異的変異法が挙げられる。また、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。このように天然型のDn1変異体におけるDN1タンパク質をコードするアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであっても、Dn1変異体におけるDN1タンパク質(配列番号:2)と同等の機能を有するタンパク質をコードする限り、本発明のDNAに含まれる。また、たとえ、塩基配列が変異した場合でも、それがタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)もあり、このような縮重変異体も本発明のDNAに含まれる。
あるDNAが着粒数の増加、および/または植物の矮性化を引き起こす機能を有するタンパク質をコードするか否かは以下のようにして評価することができる。
着粒数の増加させる機能有するか否かの評価を行う上で一般的な方法としては、該DNAを植物体に導入した上で栽培を行い、着粒数を調べる手法である。すなわち該DNAを植物体に導入した条件と、該DNAを植物体に導入しない条件で栽培し、着粒数を比較する方法である。着粒数が変わらないかほとんど同じ場合は、該DNAは着粒数の増減に関与しないと判断する。該DNAが着粒数の増減に関る場合は、着粒数はより増加し、その差を着粒数の増減の程度とみなすことができる。
また、矮性化させる機能を有するか否かの評価を行う上で一般的な方法としては、該DNAを植物体に導入した上で栽培を行い、草丈あるいは稈長を調べる手法である。すなわち該DNAを植物体に導入した条件と、該DNAを植物体に導入しない条件で栽培し、草丈あるいは稈長を比較する方法である。草丈あるいは稈長が変わらないかほとんど同じ場合は、該DNAは植物の矮性化に関与しないと判断する。該DNAが植物の矮性化に関る場合は、草丈あるいは稈長はより減少し、その減少度合いを矮性化の程度とみなすことができる。
配列番号:2に記載のタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、該遺伝子の塩基配列(配列番号:1)もしくはその一部をプローブとして、また該遺伝子(配列番号:1)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネや他の植物から該遺伝子と高い相同性を有するDNAを単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうる該タンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、 0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いることにより、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、Dn1変異体におけるDN1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
本発明のDNAは、例えば、組み換えタンパク質の調製や、着粒数の増加および/または矮性化が引き起こされた形質転換植物体の作出などに利用することが可能である。
組み換えタンパク質を調製する場合には、通常、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な細胞に導入し、形質転換細胞を培養して発現させたタンパク質を精製する。組み換えタンパク質は、精製を容易にするなどの目的で、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることも可能である。例えば、大腸菌を宿主としてマルトース結合タンパク質との融合タンパク質として調製する方法(米国New England BioLabs社発売のベクターpMALシリーズ)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として調製する方法(Amersham Pharmacia Biotech社発売のベクターpGEXシリーズ)、ヒスチジンタグを付加して調製する方法(Novagen社のpETシリーズ)などを利用することが可能である。宿主細胞としては、組み換えタンパク質の発現に適した細胞であれば特に制限はなく、上記の大腸菌の他、例えば、酵母、種々の動植物細胞、昆虫細胞などを用いることが可能である。宿主細胞へのベクターの導入には、当業者に公知の種々の方法を用いることが可能である。例えば、大腸菌への導入には、カルシウムイオンを利用した導入方法を用いることができる。宿主細胞内で発現させた組み換えタンパク質は、該宿主細胞またはその培養上清から、当業者に公知の方法により精製し、回収することが可能である。組み換えタンパク質を上記のマルトース結合タンパク質などとの融合タンパク質として発現させた場合には、容易にアフィニティー精製を行うことが可能である。また、後述する手法で、本発明のDNAが導入された形質転換植物体を作成し、該植物体から本発明のタンパク質を調製することも可能である。
得られた組換えタンパク質を用いれば、これに結合する抗体を調製することができる。例えば、ポリクローナル抗体は、精製した本発明のタンパク質若しくはその一部のペプチドをウサギなどの免疫動物に免疫し、一定期間の後に血液を採取し、血ぺいを除去することにより調製することが可能である。また、モノクローナル抗体は、上記タンパク質若しくはペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞と骨腫瘍細胞とを融合させ、目的とする抗体を産生する単一クローンの細胞(ハイブリドーマ)を単離し、該細胞から抗体を得ることにより調製することができる。これにより得られた抗体は、本発明のタンパク質の精製や検出などに利用することが可能である。本発明には、本発明のタンパク質に結合する抗体が含まれる。これらの抗体を用いることにより、植物体における本発明のタンパク質の発現部位の判別、もしくは植物体が着粒数の増加および/または矮性化を引き起こす機能を持ったタンパク質を発現するか否かの判別を行うことが出来る。
本発明のDNAを利用して着粒数の増加および/または矮性化が引き起こされた形質転換植物体を作製する場合には、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。本発明者等により単離されたDn1変異体におけるDN1遺伝子は、着粒数の増加および/または矮性化を引き起こす作用を有するが、この該遺伝子を任意の品種に導入し過剰に発現させることにより、それらの系統において着粒数の増加および/または矮性化を引き起こさせることが可能である。この形質転換に要する期間は、従来のような交配による遺伝子移入に比較して極めて短期間であり、また、他の形質の変化を伴わない点で有利である。
また、本発明は、上記本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターとしては、組み換えタンパク質の生産に用いる上記したベクターの他、形質転換植物体作製のために植物細胞内で本発明のDNAを発現させるためのベクターも含まれる。このようなベクターとしては、植物細胞で転写可能なプロモーター配列と転写産物の安定化に必要なポリアデニレーション部位を含むターミネーター配列を含んでいれば特に制限されず、例えば、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」(いずれもClontech社製)などが挙げられる。また、pBI121を骨格としてイネアクチンプロモーターを導入したプラスミドも、プラスミドの好ましい例として挙げることが出来る。
植物細胞の形質転換に用いられるベクターとしては、該細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。ここでいう「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
本発明のベクターは、本発明のタンパク質を恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有しうる。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター、イネのアクチンプロモーター、トウモロコシのユビキチンプロモーターなどが挙げられる。
また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーターやタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター、高温によって誘導されるイネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、「rab16」は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。
また、本発明は、本発明のベクターが導入された形質転換細胞を提供する。本発明のベクターが導入される細胞には、組み換えタンパク質の生産に用いる上記した細胞の他に、形質転換植物体作製のための植物細胞が含まれる。植物細胞としては特に制限はなく、例えば、イネ、シロイヌナズナ、トウモロコシ、ジャガイモ、タバコなどの細胞が挙げられる。本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法、およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
形質転換された植物細胞は、再分化させることにより植物体を再生させることが可能である。再分化の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))が挙げられ、ジャガイモであればVisserら(Theor.Appl.Genet 78:594 (1989))の方法が挙げられ、タバコであればNagataとTakebe(Planta 99:12(1971))の方法が挙げられ、シロイヌナズナであればAkamaら(Plant Cell Reports12:7-11 (1992))の方法が挙げられ、ユーカリであれば土肥ら(特開平8-89113号公報)の方法が挙げられる。
一旦、ゲノム内に本発明のDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
また本発明は、本発明のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の着粒数を増加、および/または植物を矮性化させる方法に関する。本発明のDNAを植物体の細胞内で発現させる方法としては、上記に記載の方法を挙げることが出来る。また、実施例に記載の具体的な方法により、本発明のDNAを植物体の細胞内で発現させることも出来るが、この方法に限定されるものではない。
また本発明は、植物体のDN1遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域に塩基種の変異を導入する工程を含む、植物の着粒数を増加、および/または植物を矮性化させる方法に関する。塩基種の変異は、当業者に公知の方法で行うことができ、その方法は特に制限はされないが、例えば部位特異的変異法等を用いて行うことができる。
好ましい変異の導入としては、対象となる植物体のDN1遺伝子領域上の部位であって、配列番号:3に記載の塩基配列における3380位の部位に変異を導入する方法を挙げることが出来る。また、より好ましい変異の導入としては、対象となる植物体のDN1遺伝子領域上の部位であって、配列番号:3に記載の塩基配列における3380位の塩基種を、シトシンからアデニンに変異させる方法を挙げることが出来る。
さらに、本発明は、植物体の着粒数が増加、および/または植物体が矮性化するか否かを判定する方法を提供する。植物の着粒数または植物体が矮性化は植物の収穫量に密接に係わり、上記二つの形質を判定することは収穫量の増大を目的とした植物の品種育成において非常に重要なことである。
本発明において「植物体の着粒数が増加、および/または植物体が矮性化するか否かを判定」とは、これまでに栽培されていた品種における上記の2つの形質の判定のみならず、交配や遺伝子組換え技術による新しい品種における着粒数の増減の判定も含まれる。
本発明の上記二つの形質を評価する方法は、植物においてDN1遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域に変異が導入されているか否かを検出することを特徴とする。植物においてDN1遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域に変異が導入されているか否かは、DN1遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域に相当する塩基配列の違いを検出することにより評価することが可能である。
本評価方法においては、まず被検植物からDNA試料を調製する。次いで、DN1遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域を含むDNAを単離する。該DNAの単離は、例えば、DN1遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、染色体DNA、あるいはRNA由来cDNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。次いで、単離したDNAの塩基配列を決定し、決定したDNAの塩基配列を対照と比較する。
本発明のDN1遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域に相当する塩基配列を直接決定し、該塩基配列に変異が導入されている場合には、着粒数が増加している品種および/または矮性化が引き起こされている品種と判定し、変異が導入されていない場合には、着粒数が増加していない品種、および/または、矮性化が引き起こされていない品種であると判定する。
例えば、被検植物のDN1遺伝子領域上の部位であって、配列番号:3に記載の塩基配列における3380位の部位において変異が確認された場合には、この被検植物は着粒数が多く、矮性化した品種であると診断される。また、被検植物のDN1遺伝子領域上の部位であって、配列番号:3に記載の塩基配列における3380位の塩基種が、シトシンからアデニンに変異していることが確認された場合には、この被検植物は着粒数が多く、矮性化した品種であると診断される。
本発明の方法による植物の着粒数の増減の評価、または植物の矮性化の評価は、例えば、植物の交配による品種改良を行なう場合において利点を有する。例えば、着粒数を増加させる形質の導入を望まない場合に、着粒数を増加させる性質を有する品種との交配を避けることができ、逆に、着粒数を増加させる形質の導入を望む場合に、着粒数を増加させる性質を有する品種との交配を行うことができる。また交雑後代個体から望ましい個体を選抜する際にも有効である。植物の着粒数の増減または植物の矮性化を、その表現型により判断することに比して、遺伝子レベルで判断することは簡便で確実であるため、本発明の着粒数の増減およびの植物の矮性化の評価方法は、植物の品種改良において大きく貢献し得る。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕DN1遺伝子を導入したBC2F3個体の表現型解析
本発明者らは、まず、九州大学(日本)が入手し、維持してきたDn1系統HO576(国立遺伝学研究所Oryzabase: http://www.shigen.nig.ac.jp/rice/oryzabase/top/top.jsp による)を日本晴及びコシヒカリに戻し交雑し、DN1遺伝子を導入したBC2F3個体を材料として表現型解析に用いた。日本晴またはコシヒカリはコントロールとして用いた。
圃場試験は2004年夏に行った(図1〜3)。4月26日に播種、5月18日に30cm間隔の正条植えで本田に移植した。穂(図1)と稈長(図3)のデータは最長稈3穂/個体を5個体より採って測定した。草丈と分げつ数(図2)は10個体のデータを取った。
その結果、Dn1変異体の穂では、一次枝梗長が短くなることがわかった(図1)。また、比較的二次枝梗の少ない日本晴背景では、二次枝梗数と二次枝梗に付く穎花数が増加し、穂当たりの穎花数が増加することがわかった。一方、二次枝梗が比較的多いコシヒカリの背景では、二次枝梗に付く穎花数は減少したため、穂当たり穎花数の増加は見られなかった。稔実率は日本晴背景で低下したが、花器構造と花粉には異常は見られなかった。
また、Dn1変異体は遺伝的背景を問わず短桿となることが明らかとなった。全生育期間を通じて日本晴背景では野生型の約80%、コシヒカリ背景では約70%に草丈が短縮した(図2)。分げつ数については、日本晴背景では生育後期で増加し、コシヒカリ背景では野生型と同様であった(図2)。
さらに、いずれの背景でも、Dn1変異体では上位節間ほど、穂長・節間長の短縮率が高いことが明らかとなった(図3)。
以上の結果より、稔実率が若干低下したが、花器構造と花粉の充実度は正常だったことから、sinkが増加してもsourceが増加しないために稔実率が低下するものと考えられる。従って、DN1遺伝子は、穎花数に比べて余剰なsourceがある品種に導入された時、あるいは収穫指数を向上させるような遺伝子(例えばsd1)と共存する場合に収量増加が期待できる。
〔実施例2〕ブラシノライド反応性試験および暗所発芽試験
ブラシノライド反応性試験は、活性型ブラシノステロイドであるブラシノライド(BL)を0, 10-3, 10-2, 10-1, 1 μM含有した寒天培地に種籾を播種し、3日後に7〜10粒の発芽を観察することで行った。
暗所発芽試験は、培養土に種籾を播種し、光を遮断し、インキュベータ内で28℃ 12hr, 22℃ 12hrの条件で2週間栽培し、中茎と第一節間の伸長を観察することで行った。
上記の結果、野生型では活性型ブラシノステロイド(BL)により根の伸長が抑制されるが、Dn1変異体ではBLの感受性が低下することがわかった。また、イネOsBRl1変異体は暗所で中茎と第一節間の伸長が見られないが、Dn1変異体は野生型より伸長しなくなった(図4)。
短桿となる既知の変異体の多くはジベレリンないしはブラシノステロイド関連のものであるが、Dn1変異体は活性型ブラシノステロイドであるブラシノライドに対する感受性が若干落ちていた。従って、Dn1変異体は弱い表現型のブラシノステロイド関連変異体である可能性が示唆された(図4)。
〔実施例3〕マップベーストクローニング
Dn1の原因遺伝子は、第9染色体短腕に座乗することが既知であったため、次に、この領域にインディカ品種「カサラス」断片が導入された日本晴背景のSL系統にDn1を交配した雑種集団F2(SL/HO576)約1,200個体を用いた高精度マッピング連鎖分析により、Dn1の座乗領域を解析した。
公開されているRFLPマーカー2個の間にDn1座乗領域を絞った後、領域内のBACないしはPACクローンの塩基配列に基づいてCAPSマーカーを順次作成していき、最終的に10.4kbの領域に絞り込んだ(Rice Genome Research Program database; http://rgp.dna.affrc.go.jp/ を使用)。イネ完全長cDNAデータベース (http://cdna01.dna.affrc.go.jp/cDNA/) でこの領域に1個のORFがあるのを確認し、Dn1変異体と日本晴との間で塩基配列を比較した。
その結果、Dn1の座乗領域は第9染色体短腕の約10.4 kbであることが明らかとなった(図5)。この候補領域の塩基配列を決定したところ、既知のドメインをコードしない機能未知の遺伝子の第5エクソンに1塩基置換により終止コドンが生じていることが確認された(図5)。野生型のDN1遺伝子のゲノムDNAを配列番号:3に、cDNAを配列番号:4に、アミノ酸配列を配列番号:5に示す。今回同定された、Dn1変異体におけるDN1遺伝子のゲノムDNA全長を配列番号:6に示す。本変異により終止コドンが生じ、C末端が欠損したタンパク質が発現されることが明らかとなった。この新規のC末端欠損タンパク質のcDNAを配列番号:1に、アミノ酸配列を配列番号:2に示す。
また、九州大学由来のHO577では、上記の変異に加えて第一イントロンに12bpの欠失が見られた。一方、北海道大学由来Dn1変異体N53においては、メチオニン上流3.0kbも含めて野生型と全く同じ塩基配列であることが明らかとなった。このことから、従来同座として扱われてきた九州大学由来Dn1変異体と北海道大学由来Dn1変異体では、原因遺伝子が異なる可能性がある。
〔実施例4〕Dn1変異体の候補遺伝子領域(4.1 kb)の野生型への導入
次に、Dn1変異体の候補遺伝子領域(4.1 kb)を野生型に形質転換し、過剰発現を行った。具体的には、イネアクチンプロモータ下流にマルチクローニングサイトを持つバイナリーベクターにゲノミック変異型DN1遺伝子を挿入し、日本晴(すなわち野生型)にアグロバクテリウム法で形質転換した。コントロールとして、空のバイナリーベクターを形質転換した。形質転換体は隔離温室で内径17cm, 高さ18cmのポットに5個体の密度で約20個体を栽培した。
その結果、形質転換当代で穂型はDn1型となり、草丈・稈長・穂長は短縮した(図6)。このように、形質転換当代でDn1変異体と同様な短桿化と密穂化が見られたことから、この遺伝子がDN1遺伝子そのものであることが明らかとなった。
〔実施例5〕RT-PCR、ノーザンハイブリダイゼーションによるDN1遺伝子の発現確認
RT-PCRによりDN1遺伝子の発現を確認した。日本晴の葉、葉鞘、根、根端より約3mm、および茎頂より全RNAを抽出し、cDNAに逆転写した。cDNA溶液を鋳型としてPCRを行い、PCR産物をアガロースゲルで分離した。RT-PCRには5’-TGCTTCAAGTCCCAGTGCAA-3’(配列番号:7)と5’- GCACGAGCAGGAGAAGCAGT-3’(配列番号:8)のプライマーセットを使用した。その結果、DN1遺伝子は、根、葉鞘、葉では発現がほとんど見られなかったが、茎頂では強く発現していることがわかった(図7)。
茎頂から抽出したRNAを用いたノーザンハイブリダイゼーションでは、1.3-1.4kbのシングルバンドが検出された(図7)。ノーザンハイブリダイゼーションは、茎頂より抽出した5μgのtotal RNAをアガロースゲルで分離し、Hybond Nにトランスファーしたブロットに、DN1遺伝子の第5エクソンの455bpを5’-TGCTTCAACATCTTTTCATGCT-3’ (配列番号:9)と5’-CACAGGCTCGAGCAGCAG-3’ (配列番号:10)のプライマーセットで増幅したPCR産物を32Pラベルしたプローブをハイブリダイズすることにより行った。
〔実施例6〕Dn1推定アミノ酸配列内のドメイン推定
アミノ酸配列の情報より、新規タンパク質のドメイン推定を行った。ドメイン推定にはSMART (http://smart.embl-heidelberg.de/) を、核移行配列の検出にはPSORT (http://psort.nibb.ac.jp/form.html) を、膜貫通ドメインの検出にはSOSUI (http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosuimenu0.html) を用いた。
その結果、N末側にタンパク質間相互作用に関わるとされるコイルドコイル、C末側にシステインリッチ領域、それらの間に1回貫通型の膜貫通型ドメインが存在することが予想された。また、膜貫通型ドメインの両側2カ所に核移行配列が存在することが予想された(図7)。
〔実施例7〕In situハイブリダイザーションによるDN1遺伝子の発現部位の特定
次にIn situハイブリダイザーションを行い、DN1遺伝子の発現部位の特定を行った。
コシヒカリ組織を4%パラフォルムアルデヒドにより4℃で固定した。エタノールシリーズ、次いでt-ブタノールシリーズで脱水し、パラプラストに包埋した。プローブの鋳型にはノーザンハイブリダイゼーションのプローブと同じ第5エクソンの455bp DNA断片を用い、アンチセンスRNA、およびコントロールとしてDN1遺伝子のセンスRNAをジゴキシゲニンラベルしてプローブとした。
In situハイブリダイザーションの結果、DN1遺伝子は栄養成長期から生殖成長期にわたって茎頂の葉原基および葉的器官原基に特異的に発現していることがわかった(図8および9)。また、Dn1変異体は短桿となるが、非常によく伸長する出穂2〜3日前の第1節間では発現は見られなかった。
以上の結果より、DN1遺伝子は栄養成長期から生殖成長期にわたって茎頂の葉原基および葉的器官原基に特異的に発現していること、非常によく伸長する出穂2〜3日前の第1節間では発現は見られなかったことが明らかとなった。しかし、Dn1変異体では葉だけではなく稈、根、穂、枝梗など様々な器官の長さが短くなるため、栄養成長期では葉原基から茎頂分裂組織へ、生殖成長期では苞原基から一次・二次枝梗原基へと何らかのシグナルが伝達されているものと考えられる。地下部の分裂組織ではDN1遺伝子の発現が見られなかったこと、しばしば稈の大維管束にmRNAが見られたことから(データ示さず)、DN1遺伝子のmRNAが維管束を通じて輸送されている可能性も示唆された。
DN1遺伝子を導入したBC2F3個体の表現型(籾数、穎花数、稔実率、一次枝梗数、二次枝梗数、平均一次枝梗長)を示す図である。
DN1遺伝子を導入したBC2F3個体の表現型(草丈、分げつ数)を示す図である。
DN1遺伝子を導入したBC2F3個体の表現型(穂長、節間長)を示す図である。
Dn1変異体のブラシノライド反応性試験および暗所発芽試験の結果を示す写真である。
Dn1の座乗領域および塩基配列の構造を示す図である。
DN1遺伝子を野生型に形質転換し、過剰発現させた際の表現型を示す写真および図である。
DN1遺伝子の塩基配列の構造、およびタンパク質の推定構造を示す図である。
In situハイブリダイゼーションによるDN1遺伝子の発現部位の特定した結果を示す写真である。
In situハイブリダイゼーションによるDN1遺伝子の発現部位の特定した結果を示す写真である。