JP4725209B2 - 生物誘引システム及びこれを用いて行う生物誘引方法 - Google Patents

生物誘引システム及びこれを用いて行う生物誘引方法 Download PDF

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Description

本発明は、反射面及び/又は透過面からの光によってアザミウマ目、カメムシ目、又はハエ目の生物を誘引する生物誘引システム及びこれを用いて行う生物誘引方法に関するものである。
従来から、所定の分光分布を有する光が、ある種の昆虫に対して誘引性を示すことが知られており、捕虫用粘着シート等に応用されている。例えば、特許文献1に記載される害虫防除材は、色調が青色から黄色であることを特徴としている。また、特許文献2には、金色系色調を基調とした虫取りシートが記載されており、特許文献3には、蛍光黄色板よりなる農業用害虫防除資材が記載されている。
これら特許文献1乃至特許文献3では、人間の色の見え方に基づいた顕色系の表色系で表現した各色に対し、それぞれの昆虫に対する誘引性を実験等により測定して、その結果に基づいて最適な色(以下、誘引色ともいう)を定義している。
また、例えば、特許文献4においては、昆虫の誘引に効果的な色を分光反射率で定義しており、波長380nmで5〜30%の反射率、波長500〜520nmで60%以上の最大反射率を示すと共に、波長280〜700nmの範囲の平均反射率が40%以上である場合に、誘引効果が得られるとしている。
特開2003−95824号公報 特開2000−48号公報 特開平9−135号公報 特開平8−51909号公報
ところで、人間と昆虫では色覚系の特性が異なる。例えば、人間の可視光領域は380〜780nmであるのに対し、昆虫の可視光領域は、その種類にもよるが、およそ300〜700nmであることが多い。このため、人間の表色系では異なる色であるとされる分光分布を有する2つの光が、昆虫は同じ色として感じている可能性がある。逆に、昆虫は異なると感じる分光分布を有する2つの光を、人間の表色系では同じ色として表現してしまう可能性がある。
以上のような理由により、人間の表色系で表現した各色について、その誘引性を評価した結果に基づく特許文献1乃至特許文献3の誘引色は、必ずしも昆虫の誘引色を適切に定義しているとは言えず、最適でない可能性がある。
また、特許文献4に記載される害虫防除材は、市販品の捕虫用粘着シートより誘引性の高い分光反射率を、各波長領域の反射率の範囲を規定することで定義している。分光反射特性の組合せは無数にあるため、全ての分光反射特性について誘引性を調べることは困難である。特許文献4でも、2つの実施例について市販品に対する優位性を示しているが、他の様々な分光反射特性と比較して最適であることは示されていない。以上のように、従来例で定義されている色すなわち分光反射特性は、いずれも昆虫を誘引する上で最適な特性ではない可能性があった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、誘引対象となる生物の色覚に則した分光分布を有する光を利用することにより誘引効果の高い生物誘引システムを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために請求項1の発明は、光源からの光を反射する反射面及び/又は光源からの光を透過する透過面を有し、前記反射面及び/又は前記透過面からの光によってアザミウマ目又はカメムシ目の生物を誘引する生物誘引システムであって、前記生物の複眼内の紫外線光受容器の分光感度Suv(λ)と、緑色光受容器の分光感度S(λ)と、青色光受容器の分光感度S(λ)と、前記反射面及び/又は前記透過面からの光の分光分布φ(λ)とから以下の式(1)乃至式(5)で算出される、第1の評価値gと第2の評価値bの関係が、式(6)乃至式(8)のいずれかを満たすことを特徴とする生物誘引システム。
uv=∫visuv(λ)φ(λ)dλ (1)
=∫vis(λ)φ(λ)dλ (2)
=∫vis(λ)φ(λ)dλ (3)
g=O/(Ouv+O+O) (4)
b=O/(Ouv+O+O) (5)
b≦−0.185g+0.213 (6)
b≦−0.346g+0.307 (7)
b≧ 1.125g−0.493 (8)
(但し、式(1)乃至式(3)において、visはそれぞれSuv(λ)>0,S(λ)>0,S(λ)>0となる波長範囲)
ここで、複眼内の光受容器とは、複眼内の個眼を構成する視細胞を指し、光を吸収し、光のエネルギーを生体情報に変換する感覚受容細胞をいう。また、光受容器の分光感度とは、各波長の光に対する光受容器の反応のしやすさをいい、厳密には、各波長の光が光受容器に一定の基準反応を生じさせるために必要なエネルギー量の逆数である。光受容器はその分光感度の違いから3種類に分類できるが、そのうち最も短波長側に分光感度のピークを持つものを紫外線光受容器、次に短波長側に分光感度のピークを持つものを青色光受容器、最も長波長側に分光感度のピークを持つものを緑色光受容器と呼び、それぞれの分光感度をSuv(λ)、S(λ)、S(λ)と表記する。
また、光の分光分布φ(λ)とは、個々の波長に関する、単位波長当たりの放射量と波長との関係であり、各波長のエネルギーが、それぞれどの程度、光に含まれているかを表したものをいう。
請求項2の発明は、光源からの光を反射する反射面及び/又は光源からの光を透過する透過面を有し、前記反射面及び/又は前記透過面からの光によってハエ目の生物を誘引する生物誘引システムであって、前記生物の複眼内の紫外線光受容器の分光感度Suv(λ)と、緑色光受容器の分光感度S(λ)と、青色光受容器の分光感度S(λ)と、前記反射面及び/又は前記透過面からの光の分光分布φ(λ)とから以下の式(1)乃至式(5)で算出される、第1の評価値gと第2の評価値bの関係が、式(9)乃至式(13)の全てを満たすことを特徴とする生物誘引システム。
uv=∫visuv(λ)φ(λ)dλ (1)
=∫vis(λ)φ(λ)dλ (2)
=∫vis(λ)φ(λ)dλ (3)
g=O/(Ouv+O+O) (4)
b=O/(Ouv+O+O) (5)
b≦−0.9162g+0.8109 (9)
b≦ 0.2736g+0.2257 (10)
b≦ 0.1996g+0.2582 (11)
b≦ 1.1988g−0.1340 (12)
b≧ 0.2934g+0.1758 (13)
(但し、式(1)乃至式(3)において、visはそれぞれSuv(λ)>0,S(λ)>0,S(λ)>0となる波長範囲)
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の生物誘引システムにおいて、前記光源が人工光源であることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の生物誘引システムにおいて、前記反射面及び/又は前記透過面が、前記光源と共に照明器具を構成することを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の生物誘引システムにおいて、前記反射面及び/又は前記透過面からの光によって誘引された生物を捕獲するために、前記反射面及び/又は前記透過面が粘着性を有することを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の生物誘引システムを用いて行う生物誘引方法である。
請求項1に記載の生物誘引システムによれば、反射面及び/又は透過面からの光を、誘引対象であるアザミウマ目又はカメムシ目の生物の複眼内の光受容器の分光感度に基づいて算出された第1の評価値g及び第2の評価値bで評価するようにしたので、反射面及び/又は透過面からの光の分光分布を、アザミウマ目又はカメムシ目の生物の色覚に則して制御することができ、高い誘引効果が得られるように最適化することができる。このため、人間とアザミウマ目又はカメムシ目との色覚の相違によらず、アザミウマ目又はカメムシ目の生物に対して高い誘引効果が得られる光を確実に得ることができる。
請求項2に記載の生物誘引システムによれば、反射面及び/又は透過面からの光を、誘引対象であるハエ目の生物の複眼内の光受容器の分光感度に基づいて算出された第1の評価値g及び第2の評価値bで評価するようにしたので、反射面及び/又は透過面からの光の分光分布を、ハエ目の生物の色覚に則して制御することができ、高い誘引効果が得られるように最適化することができる。このため、人間とハエ目との色覚の相違によらず、ハエ目の生物に対して高い誘引効果が得られる光を確実に得ることができる。
請求項3に記載の生物誘引システムによれば、光源が人工光源であるので、夜間や水中のような自然光源を利用しにくい環境であっても、アザミウマ目、カメムシ目又はハエ目の誘引を効率よく行うことができる。
請求項4に記載の生物誘引システムによれば、反射面及び/又は透過面が、光源と共に照明器具を構成するので、システムの小型化を図ることができる。
請求項5に記載の生物誘引システムによれば、反射面及び/又は透過面が粘着性を有するので、誘引した生物を確実に捕獲することができる。
請求項6に記載の生物誘引方法によれば、反射面及び/又は透過面からの光の分光分布を、アザミウマ目、カメムシ目、又はハエ目の色覚に則して制御することができ、高い誘引効果が得られるように最適化することができるので、アザミウマ目、カメムシ目、又はハエ目の生物の誘引を効率よく行うことができる。
以下、本発明の第1の実施形態に係る生物誘引システムについて図1乃至図7を参照して説明する。本実施形態の生物誘引システムは、アザミウマ目又はカメムシ目の生物を誘引するための捕虫用照明器具10であり、人工光源となる紫外線ランプ11と、紫外線ランプ11に対向するように配置された反射板12とを備えている。図2に示されるように、反射板12は、アクリル樹脂等により形成された基材13と、基材13の表面にアルミニウム等を蒸着することにより形成された反射膜14と、反射膜14の表面に積層された紫外線透過フィルム等からなる透過膜15とを備えている。本実施形態において、透過膜15の表面が反射面1に相当する。ただし厳密には、紫外線ランプ11から出射された光R1は、透過膜15の表面を透過して反射膜14で反射され、さらに透過膜15の表面を透過してから捕虫用照明器具10の外部に出射される。
本実施形態では、誘引対象となるアザミウマ目又はカメムシ目の生物の色覚メカニズムを考慮して、反射面1からの光R2の分光分布を、アザミウマ目又はカメムシ目の生物に対して高い誘引効果が得られるように最適化する。なお、誘引対象となるカメムシ目としては、例えば、キジラミ上科、アブラムシ上科、アブラムシ科、カサアブラムシ科、ネアブラムシ科、及びコナジラミ上科を例示することができ、誘引対象となるアザミウマ目には、これに属する全ての科が含まれる。
反射面1からの光R2の分光分布は、紫外線ランプ11の分光分布と反射面1である透過膜15の表面の分光反射率により決定される。ただし厳密には、反射面1である透過膜15の表面の分光反射率は、反射膜14の分光反射率と透過膜15の分光透過率の積となるが、分光反射率測定時には、反射膜14と透過膜15は一体不可分となるので、この状態で測定された分光反射率を用いて構わない。例えば、図3に示される分光分布を有する紫外線ランプ11と、図4に示される分光反射率を有する反射板12を用いた場合、反射面1からの光R2は、図5に示される分光分布を有することになる。なお、光源は、放電灯や自然光源のように一定の分布を有するものに限られず、単一の波長から構成されるものであっても構わない。
本実施形態で誘引対象とするアザミウマ目又はカメムシ目の生物は、複眼内に、紫外線光受容器、青色光受容器、及び緑色光受容器を備えており、これら3つの光受光器は、図6に例示されるような分光感度Suv(λ),S(λ),S(λ)をそれぞれ有している。同図は、3つの分光感度Suv(λ),S(λ),S(λ)について、それぞれの波長範囲が250〜450nm、300〜650nm、300〜550nm、それぞれの波長のピークが355nm、525nm、470nm、それぞれの波長ピークの強度比が0.8:3:0.5のものを示している。なお、これら分光感度Suv(λ),S(λ),S(λ)は、対象生物の個体差や生息地域等によって波長範囲、波長のピーク等の分光感度を特徴付けるパラメータを補正しても構わない。
アザミウマ目又はカメムシ目の生物の光受容器の分光感度Suv(λ),S(λ),S(λ)は、例えば、文献(冨永佳也,「昆虫の脳をさぐる」, 共立出版, pp.60-64, 1995)に記載の方法に従って対象生物の網膜全体の分光感度を測定し、文献(Stavenga, et.al., Vision Res. Vol.33, No.8, pp.1011-1017,1993)記載の方法に従って求められる。
これらの光受容器の応答値Ouv,O,Oの割合が、対象生物の色感覚に対応し、応答値の組み合わせ(ベクトル(Ouv,O,O))によって色感覚を表記可能である。これら応答値Ouv,O,Oは以下の式(1)乃至式(3)で表される。
uv=∫visuv(λ)φ(λ)dλ (1)
=∫vis(λ)φ(λ)dλ (2)
=∫vis(λ)φ(λ)dλ (3)
但し、上記式(1)乃至式(3)において、λは波長、φ(λ)は反射面又は透過面からの光の分光分布、visはそれぞれSuv(λ)>0,S(λ)>0,S(λ)>0となる波長範囲を示している。
このベクトルの長さ|Ouv,Og,Ob|は、光放射の強度に対応する。 強度を除いた色相及び彩度にあたる相対的な色感覚を表記するためには、ベクトルの向きの成分だけを抽出すれば十分である。そこで、各光受光器に対応する軸をそれぞれUV,G,Bとして、平面UV+G+B=1とベクトル(Ouv,O,O)の交点をとることで、相対的な色感覚を表すベクトル(g,b)を得ることができる。以下、g及びbを、それぞれ第1の評価値及び第2の評価値という。これら評価値は、それぞれ以下の式(4)及び式(5)で表される。
g=O/(Ouv+O+O) (4)
b=O/(Ouv+O+O) (5)
以上のようにして得られたベクトル(g,b)は、分光分布が異なる光による刺激であっても、誘引対象となる生物の光受容器が同じ応答を示せば、同じベクトルを得ることができる。すなわち、誘引対象となる生物の色感覚に対応した表記であると言える。以下、ベクトル(g,b)を色度、色度あらわす座標系を色度図という。
図7は、アザミウマ目又はカメムシ目の色覚に則した色度図を示す。同図においては、400〜560nmの単色光の色度を中抜き四角で示している。また、アザミウマ目又はカメムシ目の生物についてY迷路を用いて行動実験を行い、行動実験の結果を補間、補外して得られた誘引率を、その値と共に等高線で示している。なお、同図においては、後述する実施例1乃至実施例11、並びに、比較例1及び比較例2の色度についても併せて示している。
このような第1の評価値g及び第2の評価値bの組み合わせは、紫外線ランプ11及び反射板12を形成する材料等の組み合わせを適宜変更することで制御することができる。例えば、紫外線ランプ11としては、松下電器産業株式会社製のFL20S・BA・37Kや、同FL20S・BL−B等を用いることができる。
また、透過膜15には、光学フィルタ等として用いられている公知の材料を用いることができる。このような材料は特に限定されるものではなく、例えば、ガラスフィルタ(株式会社ケンコー光学製、紫外透過・可視吸収フィルタU−330等)として用いられている公知の材料や、樹脂フィルタとして用いられている公知の材料を用いることができる。また、上記材料の微粒子(例えば、上記株式会社ケンコー光学製、紫外透過・可視吸収フィルタU−330を粉砕したもの)をバインダ(フッ素系、シリコン系塗料等)に分散する等して、光透過膜15を形成するようにしてもよい。また、薄膜による光の干渉を利用して特定の波長領域の光のみを選択的に透過又は反射させる干渉フィルタ等を用いてもよい。この場合、例えば、SiOやTiOなどの非金属の多層膜や、金属膜と非金属膜とを重ね合せ、膜厚及び屈折率を変えることにより、任意の中心波長に対して任意の半値幅をもつフィルタが得られる。なお、図3に示す分光分布は紫外線ランプ11として、松下電器産業株式会社製のFL20S・BA・37Kを用いたものであり、図4に示す分光反射率は、反射膜14としてアルミニウムの蒸着膜を、紫外線透過フィルム15としてガラスフィルタ(株式会社ケンコー光学製、紫外透過・可視吸収フィルタU−330)を用いたものである。
上記Y迷路を用いた行動実験は、Y迷路の左右どちらか一方に任意のリファレンス刺激を呈示し、他方に色度図上の各点に対応したテスト刺激を呈示することにより行われる。Y迷路内の刺激を呈示していない枝に検体昆虫を放つと、検体昆虫はテスト刺激、又はリファレンス刺激に誘引され、刺激を呈示した枝に移動する。この際、それぞれの呈示刺激により誘発される走光性の強度に応じて、左右の枝に移動する検体昆虫の数に差が生じる。例えば、リファレンス刺激よりテスト刺激の方がより強い誘引性を引き起こすのであれば、 テスト刺激に多くの検体昆虫が集まる。逆にテスト刺激があまり誘引性を持たない色であれば、テスト刺激に集まる検体昆虫はリファレンス刺激のそれより有意に小さくなる。よって、 様々なテスト刺激についてリファレンス刺激の誘虫数との比率を調べることで、色度図上の各点について誘引率を知ることができる。
本実施形態においては、第1の評価値g及び第2の評価値bが、以下の式(6)乃至式(8)のいずれかを満たすように反射面1からの光R2の分光分布を制御して、アザミウマ目又はカメムシ目の生物に対して高い誘引効果が得られるようにする。なお、式(6)乃至式(8)は、図7において点線で示される直線A,B,Cにそれぞれ対応している。
b≦−0.185g+0.213 (6)
b≦−0.346g+0.307 (7)
b≧ 1.125g−0.493 (8)
また、より高い誘引効果を得るためには、反射面1からの光R2の第1の評価値g及び第2の評価値bは、同図において一点差線で示される直線D,Eによって規定されるように、以下の式(14)又は式(15)を満たすことが好ましい。
b≦−0.185g+0.198 (14)
b≦−0.346g+0.283 (15)
また、更により高い誘引効果を得るためには、反射面1からの光R2の第1の評価値g及び第2の評価値bは、同図において二点差線で示される直線F,Gによって規定されるように、以下の式(16)又は式(17)を満たすことがより好ましい。
b≦−0.185g+0.168 (16)
b≦−0.346g+0.237 (17)
本実施形態の捕虫用照明器具10によれば、反射面1からの光R2を、誘引対象であるアザミウマ目又はカメムシ目の生物の複眼内の光受容器の分光感度に基づいて算出された第1の評価値g及び第2の評価値bで評価するようにしたので、反射面1からの光R2の分光分布を、アザミウマ目又はカメムシ目の生物の色覚に則して制御することができ、高い誘引効果が得られるように最適化することができる。このため、人間とアザミウマ目又はカメムシ目との色覚の相違によらず、アザミウマ目又はカメムシ目の生物に対して高い誘引効果が得られる光を確実に得ることができる。
また、光源が紫外線ランプ(人工光源)11であるので、夜間や水中のような自然光源を利用しにくい環境であっても、アザミウマ目又はカメムシ目の誘引を効率よく行うことができる。また、反射面1が、光源と共に捕虫用照明器具を構成するので、システムの小型化を図ることができる。
次に、本発明の第2の実施形態に係る生物誘引システムについて図8及び図9を参照して説明する。本実施形態は、誘引対象となる生物がハエ目の生物である点で上記第1の実施形態と異なる。本実施形態の生物誘引システムは、ハエ目の生物を誘引するための捕虫用照明器具10であり、図1及び図2に示される第1の実施形態と同様、人工光源となる紫外線ランプ11と、紫外線ランプ11に対向するように配置された反射板12とを備えており、反射板12は、基材13と、反射膜14と、透過膜15とを有している。
本実施形態では、対象生物となるハエ目の生物の色覚メカニズムを考慮して、反射面1からの光R2の分光分布を、ハエ目の生物に対して高い誘引効果が得られるように最適化する。なお、誘引対象となるハエ目には、これに属する全ての科が含まれる。
本実施形態で対象とするハエ目の生物は、複眼内に、紫外線光受容器、青色光受容器、及び緑色光受容器を備えており、これら3つの光受光器は、図8に例示されるような分光感度Suv(λ),S(λ),S(λ)をそれぞれ有している。同図は、3つの分光感度Suv(λ),S(λ),S(λ)について、それぞれの波長範囲が250〜450nm、300〜600nm、300〜550nm、それぞれの波長のピークが350nm、500nm、465nm、それぞれの波長ピークの強度比が、0.8:6:2.5のものを示している。なお、個体差や生息地域等によって波長範囲、波長のピーク等の分光感度を特徴付けるパラメータを補正しても構わない。
ハエ目の生物の光受容器の分光感度Suv(λ),S(λ),S(λ)は、例えば、文献(冨永佳也,「昆虫の脳をさぐる」, 共立出版, pp.60-64, 1995)に記載の方法に従って、対象生物の網膜全体の分光感度を測定し、文献(Stavenga, et.al., Vision Res. Vol.33, No.8, pp.1011-1017,1993)記載の方法に従って求められる。
図9は、ハエ目の色覚に則した色度図を示す。同図においては、380〜500nmの単色光の色度を中抜き四角で示している。また、ハエ目の生物について上記行動実験を行い、行動実験の結果を補間、補外して得られた誘引率を、その値と共に等高線で示している。なお、同図においては、後述する実施例12乃至実施例21、並びに、比較例3及び比較例4の色度についても併せて示している。
本実施形態においては、紫外線ランプ11及び反射板12を形成する材料等の組み合わせを適宜変更することにより、上記式(1)乃至式(5)により表される第1の評価値g及び第2の評価値bが、以下の式(9)乃至式(13)の全てを満たすように、反射面1からの光R2の分光分布を制御して、ハエ目の生物に対して高い誘引効果が得られるようにする。なお、式(9)乃至式(13)は、図9において点線で示される直線H,I,J,K,Lにそれぞれ対応している。
b≦−0.9162g+0.8109 (9)
b≦ 0.2736g+0.2257 (10)
b≦ 0.1996g+0.2582 (11)
b≦ 1.1988g−0.1340 (12)
b≧ 0.2934g+0.1758 (13)
また、より高い誘引効果を得るためには、反射面1からの光R2の第1の評価値g及び第2の評価値bは、同図において一点鎖線で示される直線M,N,O,P,Qによって規定されるように、以下の式(18)乃至式(22)の全てを満たすことが好ましい。
b≦−0.9162g+0.7685 (18)
b≦ 0.1565g+0.2601 (19)
b≦ 0.1247g+0.2749 (20)
b≦ 2.9050g−0.9925 (21)
b≧ 0.3070g+0.1837 (22)
本実施形態の捕虫用照明器具10によれば、反射面1からの光R2を、誘引対象であるハエ目の生物の複眼内の光受容器の分光感度に基づいて算出された第1の評価値g及び第2の評価値bで評価するようにしたので、反射面1からの光R2の分光分布を、ハエ目の生物の色覚に則して制御することができ、高い誘引効果が得られるように最適化することができる。このため、人間とハエ目との色覚の相違によらず、ハエ目の生物に対して高い誘引効果が得られる光を確実に得ることができる。
次に、本発明の第3の実施形態に係る生物誘引システムについて図10及び図11を参照して説明する。本実施形態に係る生物誘引システムは、農場や工場等で発生予察の目的等で用いられる捕虫用粘着シート20である。図11に示されるように、捕虫用粘着シート20は、アルミ板21と、このアルミ板21の両面に張り合わされた紫外線透過ガラス22と、これら紫外線透過ガラス22の表面に張り合わされた紫外線透過性の粘着フィルム23とを備えている。本実施形態において、粘着フィルム23の表面が反射面1に相当する。ただし厳密には、太陽(自然光源)からの光R1は、粘着フィルム23の表面を透過してアルミ板21で反射され、さらに粘着フィルム23の表面を透過してから出射される。
本実施形態においては、紫外線透過ガラス22及び/又は粘着フィルム23を形成する材料等を適宜変更することにより、第1の評価値gと第2の評価値bが、上記式(6)乃至式(8)のいずれか、式(14)若しくは式(15)、又は、式(16)若しくは式(17)を満たすようにして、反射面1からの光R2の分光分布を、アザミウマ目又はカメムシ目の生物に対して高い誘引効果が得られるように最適化する。または、第1の評価値gと第2の評価値bが、上記式(9)乃至式(13)の全て、又は、式(18)乃至式(22)の全てを満たすようにして、反射面1からの光R2の分光分布を、ハエ目の生物に対して高い誘引効果が得られるように最適化する。紫外線透過ガラス22及び粘着フィルム23を形成する材料としては、上述した光学フィルタ等として用いられている公知の材料を用いることができる。
本実施形態の捕虫用粘着シート20によっても、人間とアザミウマ目、カメムシ目、又はハエ目との色覚の相違によらず、アザミウマ目、カメムシ目又はハエ目の生物に対して高い誘引効果が得られる光を確実に得ることができる。また、反射面1が粘着性を有するので、誘引した生物を確実に捕獲することができる。このため、例えば、発生予察において、対象となる生物の発生を早期に検出することができる。
次に、本発明の第4の実施形態に係る生物誘引システムについて図12を参照して説明する。本実施形態の生物誘引システムは、誘引したアザミウマ目、カメムシ目又はハエ目の生物を、高電圧のかかった電撃格子33で殺虫する電撃殺虫器30であり、人工光源となる白色蛍光ランプ31と、紫外線透過樹脂からなる筐体32とを備えている。筐体32の表面には塗装が施されている。この筐体32の塗面が透過面に相当する。
本実施形態においては、筐体32を形成する材料及び/又は筐体32に塗られた塗料を適宜変更することにより、第1の評価値gと第2の評価値bが、上記式(6)乃至式(8)のいずれか、式(14)若しくは式(15)、又は式(16)若しくは式(17)を満たすようにして、透過面からの光の分光分布を、アザミウマ目又はカメムシ目の生物に対して高い誘引効果が得られるように最適化する。または、第1の評価値gと第2の評価値bが、上記式(9)乃至式(13)の全て、又は、式(18)乃至式(22)の全てを満たすようにして、透過面からの光の分光分布を、ハエ目の生物に対して高い誘引効果が得られるように最適化する。筐体32を形成する材料としては、上述した光学フィルタ等として用いられている公知の材料を用いることができ、塗料としては、上述した光学フィルタ等として用いられている公知の材料の微粒子をバインダ(フッ素系、シリコン系塗料等)に分散したもの等を用いることができる。
本実施形態の電撃殺虫器30によっても、人間とアザミウマ目、カメムシ目、又はハエ目との色覚の相違によらず、アザミウマ目、カメムシ目又はハエ目の生物に対して高い誘引効果が得られる光を確実に得ることができ、誘引した生物を電撃格子33で確実に殺傷することができる。
上記第1の実施形態乃至第4の実施形態に係る生物誘引システムを用いて行う生物誘引方法によれば、反射面及び/又は透過面からの光の分光分布を、アザミウマ目、カメムシ目、又はハエ目の色覚に則して制御することができ、高い誘引効果が得られるように最適化することができるので、アザミウマ目、カメムシ目、又はハエ目の生物の誘引を効率よく行うことができる。
なお、本発明は上記各種実施形態の構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、図13に示されるように、ビニルハウスH等に設置される投光器41と粘着式大型反射板42等により生物誘引システムを構成してもよい。また、第1の実施形態及び第2の実施形態の反射板12の透過膜15の表面に紫外線透過性の粘着フィルムを積層するようにしてもよい。
(実施例及び比較例)
以下、上記実施形態をより具体化した実施例について説明する。実施例及び比較例には、紫外線ランプと、紫外線ランプに対向するように配置された反射板とを備える捕虫用照明器具を用いた。反射板は、アクリル樹脂により形成された基材に、アルミニウムを蒸着し、その表面に紫外線透過フィルムを積層し、更に紫外線透過フィルムの表面に透光性の粘着フィルムを積層して形成した。紫外線ランプ及び反射板を形成する材料の組み合わせを適宜変更することで、表1及び表2に示される各実施例及び各比較例の第1の評価値g及び第2の評価値bの組み合わせを得た。
Figure 0004725209

Figure 0004725209
表1に示される実施例1乃至実施例11、並びに、比較例1及び比較例2は、アザミウマ目の生物について実施したものであり、第1の評価値g及び第2の評価値bの組み合わせと共に、誘引効果の評価結果を示している。なお、図7において、実施例1乃至実施例5を黒三角で、実施例6乃至実施例8を黒四角で、実施例9乃至実施例11を黒丸で、比較例1及び比較例2を×印で示している。
表2に示される実施例12乃至実施例21、並びに、比較例3及び比較例4は、ハエ目の生物について実施したものであり、第1の評価値g及び第2の評価値bの組み合わせと共に、誘引効果の評価結果を示している。なお、図9において、実施例12乃至実施例16を黒三角で、実施例17乃至実施例21を黒丸で、比較例3及び比較例4を×印で示している。
誘引効果は、検体昆虫を用いた行動実験により評価を行った。具体的には、アザミウマ目の生物については、暗室内に各実施例に係る捕虫用照明器具と比較例1に係る捕虫用照明器具を並べて設置し、粘着フィルムに捕虫された虫の個体数の割合(比較例1と各実施例に捕虫された合計数を100%とする)を測定することで評価を行った。なお、比較例1については、実施例と同一条件下で、比較例1に係る捕虫用照明器具を2つ並べて設置して評価を行い、比較例2については、実施例と同一条件下で、比較例2に係る捕虫用照明器具と比較例1に係る捕虫用照明器具を並べて設置して評価を行った。
また、ハエ目の生物については、暗室内に各実施例に係る捕虫用照明器具と比較例3に係る捕虫用照明器具を並べて設置し、粘着フィルムに捕虫された虫の個体数の割合(比較例3と各実施例に捕虫された合計数を100%とする)を測定することで評価を行った。なお、比較例3については、実施例と同一条件下で、比較例3に係る捕虫用照明器具を2つ並べて設置して評価を行い、比較例4については、実施例と同一条件下で、比較例4に係る捕虫用照明器具と比較例3に係る捕虫用照明器具を並べて設置して評価を行った。
表1の結果から、第1の評価値gと第2の評価値bが式(6)乃至式(8)のいずれかを満たすとき、式(6)乃至式(8)のいずれも満たさない比較例1に比べて、アザミウマ目の生物に対して高い誘引効果が得られることが分かる。また、第1の評価値gと第2の評価値bが式(14)又は式(15)を満たすとき、より高い誘引効果が得られ、更に、第1の評価値gと第2の評価値bが式(16)又は式(17)を満たすとき、更に高いに誘引効果が得られることが分かる。
また、表2の結果から、第1の評価値gと第2の評価値bが式(9)乃至式(13)の全てを満たすとき、比較例3に比べて、ハエ目の生物に対して高い誘引効果が得られることが分かる。また、第1の評価値gと第2の評価値bが式(18)乃至式(22)を満たすとき、より高い誘引効果が得られることが分かる。
本発明の第1の実施形態に係る生物誘引システム(捕虫用照明器具)の斜視図。 同捕虫用照明器具の反射板の断面図。 同捕虫用照明器具の紫外線ランプの分光分布を示す図。 同捕虫用照明器具の反射板の分光反射率を示す図。 同反射板からの光の分光分布を示す図。 アザミウマ目又はカメムシ目の生物の複眼内の光受容器の分光感度を示す図。 アザミウマ目又はカメムシ目の生物の色覚に則した色度図。 ハエ目の生物の複眼内の光受容器の分光感度を示す図。 ハエ目の生物の色覚に則した色度図。 本発明の第3の実施形態に係る生物誘引システム(捕虫用粘着シート)の斜視図。 同捕虫用粘着シートの断面図。 本発明の第4の実施形態に係る生物誘引システム(電撃殺虫器)の斜視図。 本発明の変形例に係る生物誘引システムの概略図。
符号の説明
1 反射面
10 捕虫用照明器具(生物誘引システム)
20 捕虫用粘着シート(生物誘引システム)
30 電撃殺虫器(生物誘引システム)

Claims (6)

  1. 光源からの光を反射する反射面及び/又は光源からの光を透過する透過面を有し、前記反射面及び/又は前記透過面からの光によってアザミウマ目又はカメムシ目の生物を誘引する生物誘引システムであって、
    前記生物の複眼内の紫外線光受容器の分光感度Suv(λ)と、緑色光受容器の分光感度S(λ)と、青色光受容器の分光感度S(λ)と、前記反射面及び/又は前記透過面からの光の分光分布φ(λ)とから以下の式(1)乃至式(5)で算出される、第1の評価値gと第2の評価値bの関係が、式(6)乃至式(8)のいずれかを満たすことを特徴とする生物誘引システム。
    uv=∫visuv(λ)φ(λ)dλ (1)
    =∫vis(λ)φ(λ)dλ (2)
    =∫vis(λ)φ(λ)dλ (3)
    g=O/(Ouv+O+O) (4)
    b=O/(Ouv+O+O) (5)
    b≦−0.185g+0.213 (6)
    b≦−0.346g+0.307 (7)
    b≧ 1.125g−0.493 (8)
    (但し、式(1)乃至式(3)において、visはそれぞれSuv(λ)>0,S(λ)>0,S(λ)>0となる波長範囲)
  2. 光源からの光を反射する反射面及び/又は光源からの光を透過する透過面を有し、前記反射面及び/又は前記透過面からの光によってハエ目の生物を誘引する生物誘引システムであって、
    前記生物の複眼内の紫外線光受容器の分光感度Suv(λ)と、緑色光受容器の分光感度S(λ)と、青色光受容器の分光感度S(λ)と、前記反射面及び/又は前記透過面からの光の分光分布φ(λ)とから以下の式(1)乃至式(5)で算出される、第1の評価値gと第2の評価値bの関係が、式(9)乃至式(13)の全てを満たすことを特徴とする生物誘引システム。
    uv=∫visuv(λ)φ(λ)dλ (1)
    =∫vis(λ)φ(λ)dλ (2)
    =∫vis(λ)φ(λ)dλ (3)
    g=O/(Ouv+O+O) (4)
    b=O/(Ouv+O+O) (5)
    b≦−0.9162g+0.8109 (9)
    b≦ 0.2736g+0.2257 (10)
    b≦ 0.1996g+0.2582 (11)
    b≦ 1.1988g−0.1340 (12)
    b≧ 0.2934g+0.1758 (13)
    (但し、式(1)乃至式(3)において、visはそれぞれSuv(λ)>0,S(λ)>0,S(λ)>0となる波長範囲)
  3. 前記光源が人工光源であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生物誘引システム。
  4. 前記反射面及び/又は前記透過面が、前記光源と共に照明器具を構成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の生物誘引システム。
  5. 前記反射面及び/又は前記透過面からの光によって誘引された生物を捕獲するために、前記反射面及び/又は前記透過面が粘着性を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の生物誘引システム。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の生物誘引システムを用いて行う生物誘引方法。
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