JP4696241B2 - 電波の生体影響試験用動物全身曝露装置 - Google Patents

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Description

本発明は、電波の生体影響試験用動物全身曝露装置に関するものである.
近年の携帯電話や無線LAN(Local Area Network)に代表される移動通信の爆発的な普及に伴い,それらの基地局の設置が急増し,基地局からの電波が引き起こすであろう人体影響への関心が公共の間で高まっている.世界保健機関 (WHO) は,微弱電波による人体影響の科学的な根拠はないとしながらも,日常生活空間における基地局からの永続的な電波曝露については必ずしも十分な知見が得られているとはいえず,更なる研究の推進と同時に長期的な電波曝露に対する動物実験の必要性を指摘している.このような電波に対する動物の曝露装置に関しては,従来,共振導波管構造やTEM (Transverse ElectroMagnetic)セル構造のものが設計され,動物実験に提供されている.
藤田雅則,王 建青,藤原 修,和氣加奈子,渡辺聡一,"電波影響試験用小動物全身曝露装置の基礎検討,"電子情報通信学会技術研究報告,EMCJ2005,2005.12.
しかし,上記従来の曝露装置内では一定方向の偏波面をもつ電波にしか動物を曝露できず,基地局からヒトが受ける電波を必ずしも模擬するものではないという問題点を有していた.また、それ故に最近では3次元的に一様な偏波の電波環境を実現し得る完全反射箱の使用が提案・検討されてはいるが,装置内の電磁界は反射波で時間的に激しく変動するので,この場合も基地局からの電波を正しく模擬しているとは云えないという問題点を有していた.
また、移動通信の基地局から受ける電波は,垂直偏波が支配的である.これによるヒトへの全身曝露については,昼間には電界がヒトの身長方向に対して平行し,いわゆるE偏波曝露となるが,夜間にはヒトの身長方向に直交するので,いわゆるH偏波曝露となる.このことから考えると,動物の全身曝露装置の設計に際しては,多様な偏波をもつ電波への曝露が必須条件の解決課題となる.
本発明は、上記従来例の実情に鑑みてなされたものであって、多様な偏波をもつ電波への曝露を可能とする動物の全身曝露装置を提供することを解決すべき課題としている.
第1の発明の電波曝露装置は、3/2波長ダイポールアンテナを2本水平に直交配置する直交ダイポール構造で、直交アンテナ間の位相差を90°とする曝露用アンテナを曝露箱内に配し、該曝露用アンテナにより円偏波の電波を形成し,これに動物を曝露することを特徴とする.これにより曝露箱内の電界分布の均一性が最適であり,ばらつきの小さい全身曝露ができる.
第2の発明の電波曝露装置は、曝露用アンテナの上方約1/4波長の位置に金属反射板を配した曝露箱を備えることを特徴とする.金属反射板を配することで、金属反射板がない場合に比べて半分以下の入射電力で済むことができる。
第3の発明の電波曝露装置は、第1又は2の発明の曝露箱の壁及び底面に平面型電波吸収材を配したことを特徴とする.無反射の自由空間を実現するためである.
被曝露動物をラットとして,図1の構造に対して計算機シミュレーションによる評価結果を説明する.4匹のラットの所在空間を図2に示す丸1〜丸4とする.ラットが存在しないときのアンテナ下方20cmの水平断面における電界分布の計算結果を図12に示す.電界分布の均一性の観点からみれば,相対電界強度0.75±15%が占める空間はラット所在空間の80%以上に達している.また,生体影響の評価指標は一般に生体の全身平均SAR(Specific Absorption Rate)であるため,高精度な曝露量の制御が不可欠であり,曝露箱内で自由に動けるラットの動きによる平均SARの変動量をできるだけ抑える必要がある.図13に本アンテナ構造による39通りのラット配置に対する全身平均SARの計算結果を示す.これは全身平均SARを39通りの平均値に対する各配置時の相対値でプロットしたものである.その結果,全身平均SARの変動は±40%以内であり,基地局の電波による生体影響を調べるための動物曝露装置としての不確定性は十分小さいものである.
以下、本発明を具体化した実施例1を図面を参照しつつ説明する.
図1は、円偏波を用いた曝露装置の2GHzでの実施例で,3/2波長ダイポールアンテナを2本水平に直交配置する直交ダイポール構造である.直交アンテナ間の位相差を90°とする.曝露用アンテナの構造をこのようにした理由は、後述する.円偏波とは電界の偏波面が時間と共に回転する電波を云う.円偏波曝露は,電界方向と被曝露動物との間にはE偏波,H偏波などあらゆる向きの電磁結合を含むので,基地局からヒトが受ける電波環境を効果的に模擬できる.
また,アンテナ効率を向上させるために,アンテナ上方約1/4波長の位置に金属反射板を設置する.この構造では,アンテナ下方から十分離れた位置(1波長以上)においては円偏波となる.
電波の生体影響の評価指標は、一般に生体の全身平均SAR(Specific Absorption Rate)である.曝露箱一つに対して図2に示すようにラットを4匹 (丸1〜丸4) 配置し,ラットの動きによる平均SARの変動量をできるだけ小さくする.曝露の際には高曝露と低曝露の2種類とした.高曝露は全身平均SARが0.4W/kgとなる曝露とし,低曝露は同様に0.08W/kgとする.曝露量は電波防護指針(郵政省電気通信技術審議会答申,諮問第38号,“電波利用における人体の防護指針,”1990.)より決定した.周波数は2.14GHzを使用する.また,また,無反射の自由空間を実現するために,曝露箱の壁,底面は平面型電波吸収材に置き換える.
曝露用アンテナの構造を前記のようにした理由を次に述べる.
曝露用アンテナの構造は,曝露箱内の電界分布をできるだけ均一に作れることが望ましい.これにより,曝露箱内で自由に動けるラットの全身平均SARの変動を小さく抑えることができる.また,ラットが任意の向きを取れることから,円偏波を用いることで多様な電界方向とラットとの結合関係に対応できる.このような考え方に基づき,ダイポールアンテナを2本水平に直交配置する直交ダイポール構造を考案した.アンテナ長はそれぞれ1/2波長と3/2波長とし,直交アンテナ間の位相差を0°と90°の2通りにした.なお,位相差が90°の場合,遠方界において円偏波となる.
上述の直交ダイポールアンテナに対して,FDTD (Finite Difference Time Domain)シミュレーションより電界分布を比較した.計算領域の概略を図3に示す.図4にアンテナ下部20cm (1.4波長) における電界強度分布の計算結果を示す.電界強度は最大値で規格化し,ラット所在空間以外は黒く塗りつぶした.
図4は、上列から1/2波長・位相差0°,3/2波長・位相差0°,1/2波長・位相差90°,3/2波長・位相差90°の電界強度分布の計算結果を示す.図4から,3/2波長ダイポールアンテナを2本直交配置し,2本のアンテナの位相差が90°のときに電界分布の均一性が最もよく,ばらつきの小さい全身曝露ができることがわかる.曝露用アンテナの構造を前記にように決めた理由は、このことによる.
次に、かかる曝露用アンテナの構造によるラット全身平均SARをFDTD法で計算した.図5にラットの数値モデルの断面図,図6にFDTD計算の数値モデルを示す.ラット数値モデルは妊娠日数16日の妊娠ラットで,MRI画像を基に作成された.生体組織は11種類で構成され,胎児は11体存在する.体重は325g,分解能は2mmである.生体組織の電気定数は,文献 (C. Gabriel, “Compilation of the dielectric properties of body tissues at RF and microwave frequencies,” Brooks Air Force Technical Report AL/OE-TR -1996-0037,1996.) から引用し,表1にまとめて示す.また,曝露装置内で各ラットは図2に示した丸1〜丸4の範囲内で自由に動けるため,FDTDシミュレーションでは39通りのラット配置を想定し,これらに対してFDTD法によりSAR計算を行った.図7にその配置の一部を示す.FDTD計算ではアンテナ入力電力は1本につき0.5W (全体1W) で規格化し,金属天井の有無による検証も行った.
図8〜11に平均SARの計算結果を示す.これは全身平均SAR或いは脳平均SARを39通りの平均値に対する各配置時の相対値でプロットしたものである.全身平均SARについては,図8の金属天井がない場合で-35%〜+32%,図9の金属天井がある場合では-46%〜+44%の変動がみられ,金属天井の存在によりSAR変動が1割程度大きくなったことがわかる.なお,各ラットで変動に偏りがあるのは,検討した39通りの配置において,各ラットをランダム的に配置していないためだと考える.また,脳平均SARについては,図10の金属天井がない場合で0.5〜2.4倍の変動,図11の金属天井がある場合で0.5〜2.3倍の変動がみられ,金属天井の有無による変動への影響はないものといえる.全身平均SARに比べ,脳平均SARの変動幅が大きいのは,例えば,ラット頭部と尾部を逆にして配置した場合のように,配置の仕方によって脳の位置が極端に異なるためである.
表2に全身平均SARと脳平均SARの39通りにおける平均値を示す.アンテナ入力電力は1本につき0.5Wで規格化されたものである.表2から,天井がある場合は,そうではない場合に比べ,全身平均で2.3倍強い曝露を行うことができるといえる.これは,金属天井が反射板の役割をしているためだと考える.表3に設計指針で要求される高曝露 (0.4W/kg) と低曝露 (0.08W/kg) の場合に所要するアンテナ1本当たりの入力電力を示す.表3から,金属天井がない場合,高曝露を実現する場合にはアンテナ1本に付き,14.19Wの入力電力が必要となることがわかる.一方,金属天井がある場合は6.19Wで済むことから,金属天井がある場合が望ましいといえる.






本発明は,移動通信などの基地局が発する電波の生体影響調査を目的とした動物への電波曝露装置に利用可能である。
円偏波曝露を生成するための位相差90°の3/2波長直交ダイポールアンテナの構造を示した説明図である. ラットに対する曝露箱の水平断面図である. アンテナを検討するための計算領域の概略を示した説明図である. アンテナ下部20cmにおける電界強度分布を示した説明図である. (上列から1/2波長・位相差0°,3/2波長・位相差0°,1/2波長・位相差90°,3/2波長・位相差90°) ラットの数値モデルの断面図を示した説明図である. FDTD計算の数値モデルを示した説明図である. 曝露装置内におけるラットの配置の一部を示した説明図である.(FDTDシミュレーションでは39通りのラット配置を想定し,これらに対してFDTD法によりSAR計算を行った.その配置の一部を示した説明図である.) 金属天井がない場合の全身平均SARのの相対値を示した説明図である.(39通りの平均値に対する相対値でプロット) 金属天井がある場合の全身平均SARのの相対値を示した説明図である.(39通りの平均値に対する相対値でプロット) 金属天井がない場合の脳平均SARのの相対値を示した説明図である.(39通りの平均値に対する相対値でプロット) 金属天井がある場合の脳平均SARのの相対値を示した説明図である.(39通りの平均値に対する相対値でプロット) ラットが存在しないときのアンテナ下方20cmの水平断面における電界分布の計算結果を示した説明図である. 本アンテナ構造による39通りのラット配置に対する全身平均SARの計算結果を示した説明図である.

Claims (3)

  1. 3/2波長ダイポールアンテナを2本水平に直交配置する直交ダイポール構造で、直交アンテナ間の位相差を90°とする曝露用アンテナを曝露箱内に配し、該曝露用アンテナにより円偏波の電波を形成し,これに動物を曝露することを特徴とする電波曝露装置.
  2. 請求項1の曝露用アンテナの上方約1/4波長の位置に金属反射板を配した曝露箱を備えることを特徴とする請求項1記載の電波曝露装置.
  3. 請求項1又は2の曝露箱の壁及び底面に平面型電波吸収材を配したことを特徴とする請求項1又は2記載の電波曝露装置.
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