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本発明は、紫外線遮蔽機能を有する金属酸化物を複合化した紫外線遮蔽用粒子に関するものである。
従来から紫外線照射による皮膚等の人体への悪影響が知られている。地球上に届く太陽光のうちの5〜6%が紫外線であり、その紫外線波長域のうち、UV−A(320〜400nm)は強い作用を起こさない代わりに、肌の奥(深部)まで浸透して紅斑を伴った黒化現象を起こし、肌の老化の主原因になると言われている。一方、UV−B(280〜320nm)は、皮膚がんやシワの形成に関与すると言われており、シミ、ソバカスや皮膚の乾燥の原因にもなる。なお、波長域が280nm以下のUV−Cはオゾン層で吸収され地表には届かない。
紫外線遮蔽材料は、大きく有機系の紫外線吸収剤と無機系粒子に分類されるが、無機系粒子は有機系材料に比べて熱的、化学的、時間的に安定である利点がある。無機系の紫外線遮蔽粒子は、300nm付近に吸光度のピークを有するUV−B波長域遮蔽能に優れた酸化チタン(TiO)、380nm付近に吸光度のピークを有するUV―A波長域遮蔽能に優れた酸化亜鉛(ZnO)、400nm付近に吸光度のピークを有するUV―A波長域遮蔽能に優れた酸化セリウム(CeO)等の金属酸化物を複合させたものであり、例えば紫外線カット用のクリーム等の化粧料に配合し、あるいは、ガラス・フィルム等の基材に配合させる紫外線防止用のフィラー等として使用されている。
紫外線遮蔽用粒子として、酸化亜鉛の微粒子に酸化珪素(不定形シリカ)を複合させた二層のシリカ・酸化亜鉛複合粒子(特許文献1参照)や、二酸化チタン粉末に酸化セリウムさらには二酸化珪素を被覆させた二層又は三層構成の複合粉体(特許文献2参照)や、コア側は大部分が二酸化チタンで、シェル側に二酸化珪素が多く分布したコアシェル型のケイ素チタン混合酸化物粒子(特許文献5参照)などが知られている。
さらに、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等の金属酸化物粒子をシリカ粒子に対して互いに微分散するように複合させた金属酸化物シリカ複合体(特許文献3参照)や、酸化セリウムに他の金属元素イオンを固溶(ドープ)させた金属酸化物固溶酸化セリウム(特許文献4参照)も知られている。
特開平11−349467号公報 特開2000−212054号公報 国際特許出願公開WO02/24153号公報 特開2002−160920号公報 特開2003−267723号公報
しかし、特許文献1、4及び5に記載の複合粒子では、配合された金属酸化物の種類から、UV−AとUV−Bの一方の波長域に対する紫外線遮蔽機能が強くなるため、両波長域の紫外線をバランス良く遮蔽するには、UV−A遮蔽機能が強い粒子とUV−B遮蔽機能が強い粒子を併用して化粧料や基材に使用する必要があり、その結果、種類の異なる各粒子が凝集しないよう均一に分散させるための取扱いが難しくなると共に、全体として粒子材料の充填量即ち使用量が増加するという不都合があった。
特許文献1、2及び5に記載の複合粒子においては、各金属酸化物成分が層状に分かれて形成されているので、紫外線遮蔽機能が不均一になるおそれがあった。また、特許文献4に記載の酸化セリウム複合粒子は、粒子表面側のセリウムが他の金属イオンに置換された層構造であるため、同様に紫外線遮蔽機能が不均一になるおそれがあった。また、特許文献3に記載の複合粒子は、各金属酸化物粒子が凝集した構造であるため、紫外線遮蔽機能が不均一になるおそれがあった。
さらに、酸化亜鉛、酸化チタン及び酸化セリウムには触媒活性作用があるため、酸化亜鉛や酸化チタンや酸化セリウムの触媒活性作用による皮膚や基材等の劣化を防止、抑制させる保護剤も必要である。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、単一粒子で広い波長域の紫外線に対して均一な遮蔽機能を実現し、しかも取扱いが容易で使用量を減少させることができる紫外線遮蔽用粒子を提供することにある。
上記目的を達成するための本発明に係る紫外線遮蔽用粒子の第一特徴構成は、単一粒子であって、少なくともUV−AとUV−Bの両波長域の紫外線を遮蔽するための複数種の金属酸化物成分が、それぞれ分子あるいは分子集合体の状態で当該単一粒子中に一定の組成比で分散されている点にある。
すなわち、本発明の複数種の金属酸化物成分が単一粒子中に分散されている粒子を化粧料や各種基材等に使用することにより、UV−AとUV−Bの両波長域の紫外線がバランスよく遮蔽される。また単一粒子であるので、各粒子が凝集しないよう均一に分散させるための取扱いが容易であり、また、凝集したとしても、UV−AとUV−B用の別々の紫外線遮蔽粒子を混合させた場合に比較して、各波長域の紫外線の遮蔽能のバラツキが小さい。その結果、全体として使用量も減少させることができる。
従って、単一粒子で広い波長域の紫外線に対して均一な遮蔽機能を実現し、取扱いが容易で使用量を減少させることができる紫外線遮蔽用粒子が提供される。
同第二特徴構成は、上記第一特徴構成において、UV−A波長域の紫外線遮蔽能に優れた金属酸化物成分として、酸化セリウムと酸化亜鉛のいずれか一方若しくは両方を含み、UV−B波長域の紫外線遮蔽能に優れた金属酸化物成分として酸化チタンを含み、さらに安定保護材成分として酸化珪素を含む点にある。
すなわち、酸化セリウムや酸化亜鉛によってUV−A波長域の紫外線を効率よく遮蔽し、酸化チタンによってUV−B波長域の紫外線を効率よく遮蔽しながら、酸化珪素によって酸化チタンや酸化亜鉛や酸化セリウムによる触媒活性作用を抑制して表面活性を低下させた単一粒子が実現できる。
従って、UV−AおよびUV−B波長域の紫外線を良好に遮蔽しつつ、酸化チタンや酸化亜鉛や酸化セリウムの触媒活性作用による悪影響を防止できる紫外線遮蔽用粒子が得られる。
同第三特徴構成は、上記第二特徴構成において、前記金属酸化物成分の組成比は、酸化セリウムと酸化亜鉛の合計が40〜90重量%、酸化チタンが5〜20重量%、酸化珪素が5〜40重量%の範囲にある点にある。
すなわち、各成分の組成比を上記範囲にすることによって、UV−AおよびUV−B波長域の紫外線に対する遮蔽特性を種々調整することができる。例えば、酸化セリウム50%、酸化亜鉛30%、酸化チタン10%、酸化珪素10%にすることにより、UV−B波長域の紫外線を遮蔽しつつ、従来の無機粒子では比較的難しかったUV−A波長域の紫外線を効果的に遮蔽することができる。
従って、第二特徴構成の紫外線遮蔽用粒子に対する好適な実施形態が得られる。
同第四特徴構成は、上記第一から第三特徴構成のいずれかにおいて、紫外線遮蔽用粒子表面を疎水化処理した点にある。
すなわち、当該粒子表面を疎水化処理することにより、表面活性を抑制することができる。また、プラスチックや油などの有機物と無機物である粒子の親和性を高め、分散性や安定性を向上させることができる。
従って、酸化珪素による触媒活性作用抑制に加えて更に表面活性を抑制させ、また、有機物中に均一分散し、安定して存在できる紫外線遮蔽用粒子が得られる。
本発明に係る紫外線遮蔽用粒子の実施形態について、以下、図面に基づいて具体的に説明する。
本発明の紫外線遮蔽用粒子は、単一粒子中に、少なくともUV−AとUV−Bの両波長域の紫外線を遮蔽するための複数種の金属酸化物成分が分散されている。具体的には、上記UV−A波長域の紫外線遮蔽能に優れた金属酸化物成分として、酸化セリウム(CeO)と酸化亜鉛(ZnO)のいずれか一方若しくは両方を含み、UV−B波長域の紫外線遮蔽能に優れた金属酸化物成分として酸化チタン(TiO)を含み、さらに安定保護材成分として酸化珪素(SiO)を含む。つまり、本発明の粒子は、少なくともUV−AとUV−Bの両波長域の紫外線を遮蔽するための複数種の金属酸化物が、それぞれ分子あるいは分子集合体の状態で単一粒子中に分散して存在し、ある組成比で構成されたものである。具体的には、酸化セリウムと酸化亜鉛の少なくとも一方、酸化チタン及び酸化珪素のそれぞれの分子あるいは分子集合体が単一粒子中に分散して存在している。
下記の表1に、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化チタン及び酸化珪素を単一粒子中に含む4元系粒子、酸化亜鉛、酸化チタン及び酸化珪素を単一粒子中に含む3元系粒子、酸化亜鉛もしくは酸化チタンと酸化珪素を単一粒子中に含む2元系粒子の試作物について、BET値(実測値)、BET換算径(計算値)、屈折率(計算値)の結果を示す。ここで、4元系又は3元系粒子において、上記各金属酸化物成分の組成比は、酸化セリウムと酸化亜鉛の合計が40〜90重量%、酸化チタンが5〜20重量%、酸化珪素が5〜40重量%の範囲にあることが好ましい。即ち、上記組成比にすることにより、UV−AおよびUV−B波長域の紫外線をバランスよく遮蔽することができ、従来の無機粒子では遮蔽することが比較的困難であったUV−A波長域の遮蔽能に優れた粒子となる。
表1において、試作サンプルでは、BET値(m/g)は9〜61の範囲にあり、これを用いて算出したBET換算径は28〜124nmの範囲にある。また、屈折率は1.68〜2.14の範囲にあるが、屈折率の値が1.5と小さい酸化珪素の含有率が多くなるほど、紫外線遮蔽用粒子としての屈折率は小さくなる。ここで、目的に応じて透明性を確保するには、当該粒子の粒子径を小さくし、配合させる相手側部材(化粧品原料、ガラス基材等)の屈折率と当該粒子の屈折率の差を小さくする必要がある。
次に、上記4元系の紫外線遮蔽用粒子の一例として、表1中の10wt%TiO−30wt%ZnO−50wt%CeO−10wt%SiOについて粒子の元素分析結果を説明する。図1に粒子の透過型電子顕微鏡写真を示し、この写真中のスポット(Spot)(1)(2)(3)に位置する各粒子におけるEDSスペクトル分析結果を図2に示す。尚、EDSの検出径は5nmである。図2より、スポット(1)(2)(3)の各粒子に含まれるTi,Zn,Ce及びSiの量はほぼ均一であることが確認される。つまり、この紫外線遮蔽用粒子は、Ti,Zn,Ce及びSiの酸化物が、それぞれ分子あるいは分子集合体の状態で単一粒子中に一定の組成比を持って分散して存在していることが判る。従って、複数種の金属酸化物成分が各単一粒子に均一に分散形成されており、UV−AとUV−Bの両波長域の紫外線をバランスよく遮蔽することができるものとなる。
次に、例えば化粧品原料としての安全性を確保するために、上記紫外線遮蔽用粒子の表面活性抑制性能評価(1)を行った。
図3(イ)に、紫外線照射時の各紫外線遮蔽用粒子によるヒマシ油の色の変化(色差ΔE)を測定したデータを示し、図3(ロ)に測定系の概略を示す。試料としてヒマシ油60wt%に粒子粉末を40wt%混合した薄膜を形成し、UVランプからUV−A波長域の365nmの紫外線を強度2mW/cmで照射した。グラフより、酸化チタン粒子単体や、酸化チタンと酸化珪素の2元系粒子に比べて、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化チタン及び酸化珪素を含む4元系の紫外線遮蔽用粒子では色差ΔEは初期に少し増加した後はほとんど変化せず安定していることから、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化チタンの活性を酸化珪素が有効に抑制していることが確認された。
次に、上記紫外線遮蔽用粒子の表面活性をUVランプ(中心波長:365nm)照射下(照射強度:2.0mW/cm)でのIPA酸化分解反応により評価した。
評価結果を表2に示す。紫外線照射に伴い、IPA(イソプロピルアルコール:(CH)CHOH)が、プロピレン:CH、アセトン:(CH)2CO、及びその他に分解するときの転化率を測定した。IPAの残存率が大きいほど、表面活性が抑制されていることを表している。試料として粒子毎に、疎水化処理品と疎水化処理無し品を用意した。表2より全粒子が疎水化処理によって活性抑制効果が向上していることが判る。なお、2元系粒子において、酸化チタンの含有率が高い67%TiO2-33%SiO2では、活性抑制効果が低いことが判る。また、67%TiO2-33%SiO2と67%ZnO-33%SiO2を比較すると、酸化チタンの方が酸化亜鉛よりも触媒活性作用(光触媒作用)が高いことが判る。
次に、上記各紫外線遮蔽用粒子の疎水化処理品について光透過率を測定した結果を図4に示す。ここで、測定方法について簡単に説明すると、各粒子を分散媒(具体的には、トリカプリル・カプリン酸グリセリン)中に所定濃度(粒子濃度:10%)で分散させた分散液を膜状(約6μm厚)に形成し、各波長における透過率を測定した。なお、紫外線波長域(280〜400nm)の透過率が低く、可視光波長域(400nm〜800nm)の透過率が高い粒子が、紫外線カット用化粧品や紫外線防止用のガラス・フィルム等の各種基材への配合材料として望ましい。
図4において、酸化チタンの含有率が高いほど、紫外線波長域における透過率が低下しているが、4元系の14%TiO2-28%ZnO-28%CeO-30%SiO2及び10%TiO2-30%ZnO-50%CeO2-10%SiO2において、UV−AからUV−Bに亘る波長域の紫外線をバランス良く遮蔽しつつ、2元系の酸化亜鉛粒子(73%ZnO-27%SiO2)に比べて2元系の酸化チタン粒子(67%TiO2-33%SiO2)の遮蔽能に近づいていることがわかる。また、可視光波長域に対しては、2元系の酸化チタン粒子(67%TiO2-33%SiO2)と同等以上の透過率を示していることがわかる。
上記結果に基づき、各紫外線遮蔽用粒子の総合評価を表3にまとめた。総合的に評価して、4元系粒子が優れた性能を有すると結論される。
なお、詳述はしないが、本発明の紫外線遮蔽用粒子の作製には、例えば気相反応法や、燃焼噴霧法などの各種製法を用いることができる。
〔別実施形態〕
本発明の紫外線遮蔽用粒子において、UV−A波長域の紫外線を遮蔽する金属酸化物成分として、酸化セリウムや酸化亜鉛以外の金属酸化物を含むようにしてもよく、またUV−B波長域の紫外線を遮蔽する金属酸化物成分として酸化チタン以外の金属酸化物を含むようにしてもよく、また安定保護材成分として酸化珪素以外の金属酸化物を含むようにしてもよい。
本発明の紫外線遮蔽用粒子は、単一粒子でありながら、UV―A、UV−Bを含む広い波長域の紫外線に対して均一な遮蔽機能を実現し、しかも取扱いが容易で有機物との親和性も良く、使用量を減少させることができるので、紫外線カット用化粧品や、紫外線防止用のガラス・フィルム等の各種基材への配合材料として好適に使用することができる。
本発明に係る紫外線遮蔽用粒子の一例を示す電子顕微鏡写真 図1に示す各スポットに位置する紫外線遮蔽用粒子の各成分分析結果を示すデータ 表面活性抑制効果を示すグラフと測定条件を示す図 紫外線遮蔽用粒子の透過率のデータを示すグラフであったUV−A波長域の遮蔽能に優れた粒子となる。

Claims (4)

  1. 単一粒子であって、少なくともUV−AとUV−Bの両波長域の紫外線を遮蔽するための複数種の金属酸化物成分が、それぞれ分子あるいは分子集合体の状態で当該単一粒子中に一定の組成比で分散されている紫外線遮蔽用粒子
  2. UV−A波長域の紫外線遮蔽能に優れた金属酸化物成分として、酸化セリウムと酸化亜鉛のいずれか一方若しくは両方を含み、UV−B波長域の紫外線遮蔽能に優れた金属酸化物成分として酸化チタンを含み、さらに安定保護材成分として酸化珪素を含む請求項1記載の紫外線遮蔽用粒子
  3. 前記金属酸化物成分の組成比は、酸化セリウムと酸化亜鉛の合計が40〜90重量%、酸化チタンが5〜20重量%、酸化珪素が5〜40重量%の範囲にある請求項2記載の紫外線遮蔽用粒子
  4. 前記紫外線遮蔽用粒子表面を疎水化処理した請求項1〜3のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽用粒子
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