JP4676679B2 - 人工軟骨 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、未分化細胞への物理的・機械的刺激負荷による分化誘導作用に関する。さらに詳しくは、未分化細胞への超音波照射により、未分化細胞から軟骨細胞への分化を促進することで、軟骨細胞移植、軟骨組織移植、骨軟骨細胞移植、骨軟骨組織移植等の治療に使用するため作製した、人工軟骨を製造する方法及びその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
軟骨傷害の治療には主として運動制限などの保存療法が行われているが、しばしば保存療法では効果が見られない場合もあり、その場合には手術による治療も行われている。
【0003】
軟骨障害部位の手術には、非障害部位から軟骨組織あるいは骨軟骨組織を採取しその組織を移植する方法(非特許文献1:Hangody et al.:Foot Ankle Int Oct;18(10):628-34, 1997)や、非障害部位より採取した軟骨細胞を体外培養して増殖させ、障害部位へ移植する方法(非特許文献2:Brittberg et al.:New Eng. J. Med. 331, 889-895, 1994)などが行われていた。しかし、非障害部位から軟骨組織を採取する方法では、その採取量に限りがあり、また採取した軟骨細胞を体外培養で増殖させる場合にも、十分な量の軟骨細胞を得るまで長期間を要していた。
【0004】
一方、培養軟骨細胞に超音波を照射すると、軟骨基質の生合成が高まることが報告されている(非特許文献3:Parvizi et al.: J Orthop. Res., 17(4):488-94, 1999、 非特許文献4:Nishikori et al.: J Biomed. Master Res., 59(2) 201-206, 2002、 非特許文献5:Zi-Jun Zhang et al.: 4th Symposium International Cartilage Repair Society, Tront, 15-18/Jun, 2002)。
【0005】
このような作用をもたらす超音波は、Duarteらにより骨折治療への研究が行われ(特許文献1:米国特許第4,530,360号)、その後米国Exogen社により超音波骨折治療機セーフスTM(SAFHSTM)が開発されている。超音波骨折治療機セーフスTM(SAFHSTM)は、臨床試験において、脛骨骨幹部骨折(非特許文献6:Heckman et al.: J Bone and Jiont Surg, 76A: 25-34, 1994)ならび橈骨遠位端骨折(非特許文献7:Kristiansen et al.: J Bone and Joint Surg, 79A: 961-973, 1997)などの治癒促進効果が証明されている。
【0006】
また、Pittengerらにより、未分化間葉系細胞をIn vitroで脂肪細胞、軟骨細胞および骨細胞へ分化させ得ることができ、これら3種類の細胞への分化をもたらす培地組成も知られている(非特許文献8:SCIENCE 284(2): 143-147, 1999、特許文献2:WO 98/32333)。さらに、未分化間葉系細胞を骨分化誘導倍地中で培養する際に、超音波骨折治療機セーフスTM(SAFHSTM)による超音波を照射することで骨分化が促進されることも報告されている(非特許文献9:岡田 他:第4回 日本組織工学会、川崎、7月6-7日、2001)。
【0007】
【特許文献1】
米国特許第4,530,360号
【特許文献2】
WO 98/32333号パンフレット
【非特許文献1】
Foot Ankle Int Oct;18(10):628-34, 1997
【非特許文献2】
New Eng. J. Med. 331, 889-895, 1994
【非特許文献3】
J Orthop. Res., 17(4):488-94, 1999
【非特許文献4】
J Biomed. Master Res., 59(2) 201-206, 2002
【非特許文献5】
4th Symposium International Cartilage Repair Society, Tront, 15-18/Jun, 2002
【非特許文献6】
J Bone and Jiont Surg, 76A: 25-34, 1994
【非特許文献7】
J Bone and Joint Surg, 79A: 961-973, 1997
【非特許文献8】
SCIENCE 284(2): 143-147, 1999
【非特許文献9】
岡田 他:第4回 日本組織工学会、川崎、7月6-7日、2001
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、軟骨傷害の治療のうち、運動制限などの保存療法に効果が無く手術による治療を行う際、必要となる十分な量の軟骨細胞を短期間に得る方法及びその装置を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはかかる課題に対して鋭意検討した結果、培養未分化間葉系細胞へ超音波照射という機械的・力学的刺激を与えることにより軟骨分化を促進することを見出し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、未分化細胞に対して超音波を照射することを特徴とする細胞分化誘導方法に基づき、未分化間葉系細胞を軟骨分化誘導培地で培養し、且つ超音波を照射することを特徴とする人工軟骨製造方法を提供するものである。特に照射する超音波が超音波パルスであり、該超音波の周波数が20kHz〜10MHz、バースト幅が10μsec〜1msec、繰返し周期が5Hz〜10kHz、超音波出力が5〜120mW/cm2であること、更に該超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰返し周期が1.0kHz、超音波出力が5〜120mW/cm2であることを特徴とする人工軟骨製造方法を提供するものである。
【0011】
また本発明は、未分化間葉系細胞を培養した培養容器、該容器に対して超音波を照射する超音波トランスデューサー、該超音波の制御をする制御手段、該超音波トランスデューサー及び該培養容器を水槽内で接触設置するための保持水槽を備えた人工軟骨製造装置を提供するものである。
【0012】
また本発明は、該制御手段が、該制御手段から超音波パルスを出力制御する手段であることを特徴とし、該超音波の周波数が20kHz〜10MHz、バースト幅が10μsec〜1msec、繰返し周期が5Hz〜10kHz、超音波出力が5〜120mW/cm2であることを特徴とする人工軟骨製造装置を提供するものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、未分化細胞の分化誘導、特に骨髄に由来する未分化間葉系細胞を軟骨細胞に分化誘導し、人工軟骨を製造する方法、およびそれに使用する超音波照射装置、すなわち人工軟骨製造装置に関するものである。
【0014】
超音波を照射する超音波トランスデューサーは圧電セラミック製であり、電圧をかけると微小な歪みが生じる性質を利用して、超音波波形合成装置で作られた電気信号をトランスデューサーの圧電セラミックに与え、トランスデューサー表面に縦方向の振動(超音波)を作り出している。
【0015】
使用する超音波は低出力超音波パルスであり、超音波周波数が20kHz〜10MHz、バースト幅が10μsec〜1msec、繰り返し周期が5Hz〜10kHz、超音波出力が5〜120mW/cm2の範囲のものが分化誘導効果が期待できるものであり、その中でも特に、超音波周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0kHz、超音波出力が5〜120mW/cm2のもの、特に出力が30mW/cm2が好ましい。
【0016】
超音波の制御手段は、かかる超音波トランスデューサーから照射する超音波を合成する超音波波形合成機能、出力制御、記憶演算手段、電源のON/OFF制御機能を備える。各機能は本体部に一体内蔵させても、超音波トランスデューサー側と本体部に分割しても良い。
【0017】
未分化培養細胞の容器は、本発明では実験の都合上ポリプロピレンチューブを使用したが、材質、形状については細胞培養に使用可能であれば適用可能である。超音波トランスデューサー培養容器は超音波を確実に照射させる為に水槽中に接触固定させる。
【0018】
図1に本発明の人工軟骨製造装置の超音波照射に係るブロックダイアグラムを示す。電源、記憶演算装置、入出力装置、発信装置及び超音波波形合成装置で構成される本体部分、および超音波トランスデューサーを内蔵した超音波生成装置から構成される。実施例では、6つの超音波生成装置を水槽内にフレームで固定し、上記培養ヒト未分化間葉系細胞を入れたポリプロピレンチューブに超音波を照射する装置を使用した。
【0019】
1)電源:
電池は充電不可能な高容量タイプのリチウム電池を用いる。電源スイッチはなく、前面パネルの操作により電源が入り、所定時間の超音波照射が完了すると自動的に電源が切れる。なお、超音波生成装置も同じ電池から電力を供給される。
【0020】
操作スイッチ、液晶表示盤、ブザーの他に、接続ケーブルを通して超音波生成装置の制御信号の送信と電力供給が行われる。
【0021】
2)記憶演算装置:
プリント基板にはCPU(中央制御装置)が搭載されており、超音波照射時間の管理ばかりでなく、超音波発生装置の動作や装着状態の監視および自己診断を行う。また、バックアップメモリに使用記録が記憶され、必要に応じて取り出せるよう設計する。
【0022】
3)超音波波形合成装置:
超音波発生装置の制御信号としては、超音波パルスバースト巾200μsec、繰返し周期1KHzの信号を送る。発振装置で1.5MHzの超音波信号を生成する。制御信号と1.5MHz超音波信号を合成して、超音波周波数:1.5MHz、超音波出力:0〜150mW/cm2の範囲で可変、バースト幅:200μsec、繰返し周波数:1kHzの信号特性を有する波形の電気信号を生成する。
【0023】
4)超音波生成装置
超音波生成装置は、圧電セラミック製のトランスデューサーからなり、本体と接続ケーブルで結合されている。圧電セラミックには電圧をかけると微小な歪みが生じる性質がある。これを利用して超音波波形合成装置で作られた電気信号をトランスデューサー内部の圧電セラミックに与え、トランスデューサー表面に縦方向の振動(超音波)を作り出して軟骨細胞に照射する。圧電セラミックの背面には、超音波吸収体を貼り付け、超音波もれを防止する。
【0024】
【実施例】
1.超音波照射による軟骨分化誘導能の検証
[細胞培養]
ヒト未分化間葉系細胞を、15mLのポリプロピレンチューブ内で懸濁し、常温下1,500RPM、5分間遠心沈降後、37℃、5%CO2環境下で24時間静置し、その後、培地交換を行い、引き続き培養を行った。培地には軟骨形成分化用基礎培地(DMEM-high glucose, 0.17mM Ascorbic acid-2-phosphate, 0.35mM Proline, 1mM Sodium pyruvate, 0.1μM Dexamethasone, 6.25μg/mL Bovine insulin, 6.25μg/mL Transferrin, 6.25μg/mL Selenous acid, 5.33μg/mL Linoleic acid, 1.25mg/mL Bovine serum albumin)を使用した。
【0025】
[試験群]
かかる培養ヒト未分化間葉系細胞を、以下の3グループに分けて、超音波照射による軟骨分化誘導能を検証した。
Group 1 (n=6) :TGF-β3無添加群
Group 2 (n=6) :TGF-β3添加による軟骨分化誘導群
Group 3 (n=6) :TGF-β3添加+超音波刺激群
グループ1として無処置群(TGF-β3無添加群)、TGF-β3を10 ng/mL存在下で培養を行った軟骨分化誘導群(グループ2)、及びグループ2と同じ条件で培養しかつ超音波を照射したグループ3の3群とした。各群n=6とし、培養は37℃、5%CO2下で行い、軟骨形成分化用基礎培地は3日ごとに交換した。
【0026】
[超音波照射条件]
超音波周波数:1.5MHz、バースト幅:200μsec、繰り返し周期:1.0kHz、超音波出力:120mW/cm2の超音波パルスを、グループ3の超音波照射群の培養ヒト未分化間葉系細胞を入れたポリプロピレンチューブに対して、直接、水中に設置した超音波生成装置(図2)の上におき、1日20分間、10日間毎日照射した。
【0027】
[測定方法]
1)ペレットサイズの測定
10日間の培養後、実体顕微鏡下にてペレットの写真撮影を行った(n=6)。ペレットサイズはその最大断面積とした。
【0028】
2)組織学的検討
ペレットを10%ホルマリンにて48時間固定後、脱水、パラフィン包埋し、アルシアンブルー染色、抗アグリカン抗体染色を行った。
【0029】
3)DNA、総タンパク質、及びアグリカンの定量
ペレットはPBSにて2回洗浄後、4℃、24時間、4Mグアニジン塩酸にて抽出し、可溶性抽出画分は、タンパク質及びアグリカンの定量に使用した。また抽出残渣はProteinase K 処理後、DNA定量に使用した。尚、可溶性抽出画分には、DNAは殆ど検出されない。
【0030】
[結果]
アルシアンブルー染色(軟骨基質である酸性ムコ多糖染色法)では、Group 1のペレットは、微かに染色されたが、分化誘導群であるGroup 2、3では強く染色された。超音波刺激群(Group 3)では極性の強い染色が見られた(図3)。
【0031】
抗アグリカン抗体による免疫染色では、Group 1 のペレットは微かに染色されたが、Group 2、3では強く染色された(図4)。超音波刺激群(Group 3)では極性の強い染色が見られた。免疫染色パターンはアルシアンブルー染色と同様であった。
【0032】
ペレットサイズは、Group 1 (1.19±0.10mm2)、Group 2 (1.19±0.05mm2)、Group 3 (1.08±0.04mm2)、であった。分化誘導による差は認めなかったが、超音波刺激群(Group 3)では7%の縮小が認められた(図5)。
【0033】
DNA量は、Group 1 (10.4±0.85μg)、Group 2 (9.36±0.28μg)、Group 3 (9.38±0.42μg)であった。軟骨分化誘導群(Group 2, 3)では、ともに約10%のDNA量低下が見られた。超音波刺激によるDNA産生への影響は認められなかった(図6)。
【0034】
総タンパク質量は、Group 1 (4.52±0.06μg)、Group 2 (4.76±0.47μg)、Group 3 (5.22±0.19μg)であった。TGF-β3無添加群(Group 1)と比較して、Group 2, 3 ではそれぞれ約5%、15%の増加が見られた(図7)。
【0035】
アグリカン量は、Group 1 (0.34±0.38ng)、Group 2 (1.38±0.76ng)、Group 3 (2.55±1.15ng)であった。アグリカン量は分化誘導により約4倍に増加した。さらに超音波刺激により84%の増加を見た(図8)。
【0036】
2.超音波出力と軟骨分化誘導能の検証
上記超音波照射装置を用いて、超音波出力と分化誘導能の指標としてアグリカン量との関係を調べた。
【0037】
超音波周波数:1.5MHz、バースト幅:200μsec、繰り返し周期:1.0kHz、超音波出力:0、30、60、120mW/cm2の4段階の出力で超音波パルスを、グループ3の超音波照射群の培養ヒト未分化間葉系細胞を入れたポリプロピレンチューブに対して、直接、水中に設置した超音波生成装置の上におき、1日20分間、10日間毎日照射した。コントロール群(-)として上記グループ1の結果についても図9に示した。
【0038】
超音波出力とアグリカン量について検討したところ、コントロール群 (図中で(-)表示)、0mW/cm2に比べ、超音波刺激群で有意なアグリカン量増加が見られた(120mW/cm2でP<0.05)。また、もっともアグリカン量増加のみられた超音波出力は30mWであった。(図9)
【0039】
【発明の効果】
本発明は、患者本人より採取した未分化間葉系細胞を、軟骨分化誘導培地をもちいた体外培養系にて培養する際に、超音波を照射することにより、従来の培養法よりも迅速に人工軟骨を作製することが出来る。
【0040】
従来から行われている、供給源の限られた軟骨細胞を軟骨障害部位へ移植する方法に替わり、患者自身の体から豊富に得ることのできる未分化間葉系細胞を利用し、これを速やかに軟骨細胞へ分化させることで人工軟骨を作成し、軟骨修復に使用し得ることができる。この方法を用いれば、同種移植を行う際、常に問題となる拒絶反応を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の人工軟骨製造装置のブロックダイヤグラム。
【図2】本発明の人工軟骨製造装置の超音波生成装置部分の外観図。
【図3】ペレットのアルシアンブルー染色の結果。
【図4】アグリカンの免疫染色の結果。
【図5】各培養群のペレットサイズの結果。
【図6】各培養群のDNA量の結果。
【図7】各培養群の総タンパク質量の結果。
【図8】各培養群のアグリカン量の結果。
【図9】超音波出力とアグリカン量の関係。
Claims (3)
- 未分化間葉系細胞を軟骨分化誘導用培地で培養し、且つ超音波を照射することを特徴とする人工軟骨製造方法。
- 該超音波の周波数が20kHz〜10MHz、バースト幅が10μsec〜1msec、繰返し周期が5Hz〜10kHz、超音波出力が5〜120mW/cm2であることを特徴とする請求項1に記載の人工軟骨製造方法。
- 該超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰返し周期が1.0kHz、超音波出力が5〜120mW/cm2であることを特徴とする請求項2に記載の人工軟骨製造方法。
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