JP4648740B2 - フジツボキプリス幼生のセメント腺に発現するプロテアーゼインヒビター遺伝子とそれらがコードするペプチド - Google Patents
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Description
このプロテアーゼインヒビターを、分解もしくは阻害することができれば、フジツボが基盤等に付着するのを抑制できる可能性があり、フジツボ付着の防御剤の開発に大きな進展をもたらすことが期待される。
そこで、本発明は、フジツボ付着の防御剤の開発に利用可能なペプチド資源および遺伝子資源である、フジツボキプリス幼生のセメント腺に発現するプロテアーゼインヒビターペプチドおよびこれをコードする遺伝子を提供することを目的とする。
従って、本発明は下記の[1]〜[5]に関する。
[2](a)配列番号1もしくは3に記載の塩基配列で表されるDNA、または(b)前記(a)のDNAもしくはこれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフジツボキプリス幼生のセメント腺に発現し、プロテアーゼ阻害活性および抗菌活性を有するペプチドをコードするDNAを特徴とする遺伝子。
[3](a)配列番号2もしくは4に記載のアミノ酸配列により表されるペプチド、または(b)配列番号2もしくは4に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列により表され、かつフジツボキプリス幼生のセメント腺に発現し、プロテアーゼ阻害活性および抗菌活性を有するペプチド。
[5] [4]に記載のベクターを用いるペプチドの製造方法。
(1)遺伝子
本発明の遺伝子は、以下の(a) または(b)のペプチドをコードする遺伝子である。
(a) 配列番号2もしくは4に記載のアミノ酸配列により表されるペプチド
(b) 配列番号2もしくは4に記載のアミノ酸配列において、一若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列により表され、かつ(a)のペプチドと同様の性質を有するペプチド
配列番号1および3に示されるDNA配列を有する遺伝子は、海洋微生物が生産するプロテアーゼを阻害する活性を持つペプチドをコードする。これらのペプチドを分解、阻害することができれば、基盤等に付着しているフジツボを容易に剥がすことができる可能性があるため、フジツボの付着防御剤を開発するためのペプチド資源として有用である。
これらの遺伝子は、例えば、タテジマフジツボ、チシマフジツボ、ハナカゴなど蔓脚類のキプリス幼生のセメント腺から市販のRNA抽出キットを用いてRNAを抽出し、実施例1と同様にcDNAライブラリーを構築する。一方、配列番号1もしくは3に記載の塩基配列に基づいて、市販のキットを用いて、DIGプローブまたは放射性プローブを作製し、ストリンジェントな条件でコロニーハイブリダイゼーションを行うことにより、得ることができる。
本発明のペプチドは、以下の(c)、 (d)、または(e)に示すタンパク質を包含する。
(c)配列番号2もしくは4に記載のアミノ酸配列により表されるペプチド
(d)配列番号2もしくは4に記載のアミノ酸配列において、一若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列により表され、かつ(a)のペプチドと同様の性質を有するペプチド
(e)配列番号1もしくは3に記載の塩基配列で表されるDNAまたはそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするフジツボ由来のペプチドであって、配列番号2もしくは4に記載のアミノ酸配列により表されるペプチドと同様の性質を有するタンパク質
ここで、「欠失、置換若しくは付加」および、「(a)と同様の性質を有する」の意味は、上述の遺伝子の場合と同様である。
なお、本発明の遺伝子はすべてシグナルペプチド配列を含むため、ORF全長配列を持つペプチドを発現させる場合は、そのペプチドは、宿主細胞外へ分泌される。ペプチドを細胞内で生産させる場合は、シグナルペプチド配列部分を除去した後、発現ベクターに挿入する必要がある。
[実施例1]アカフジツボキプリス幼生のセメント腺の全長cDNAライブラリーの作製
変態直後(0〜2日令)の若いキプリス幼生50個体からセメント腺100個を単離(Okano et al., J. Exp. Biol., vol. 199, 2131-2137, 1996)後、集積し、市販のRNA抽出キット(NucleoSpin RNA II kit, MN社)を用いてトータルRNAを抽出した。このRNAを用いて、全長配列のライブラリー化に適するCreator SMART cDNA library construction kit(BD Clontech社)を使用し、cDNAライブラリーを構築した。使用したベクターはBD社のマニュアルに従い、pDNR-LIBを用いた。形質転換には、大腸菌JM109を用いた。ただし、セメント腺から抽出されるトータルRNA量が微量であったため、sscDNAの段階でNucleospin extraction kit (MN社)による精製と濃縮のプロセスを導入した。この操作を除き、他の操作はCreator SMART cDNA library construction kitのマニュアルに従った。作製したライブラリーは、cg1f(Cement Gland-derived 1st Full length cDNA library) ライブラリーと命名した。
cDNAライブラリーからランダムに576クローンを選択し、#1A1~#6H12と命名し、それぞれからプラスミド抽出機を用いてプラスミドを抽出した。得られたプラスミドは、シークエンス用プライマーTCGACGGTACCGGACATATG(pDNR-LIB vector 46-65)を用いて、ABI 377シークエンサー(秋田県立大学支援センター)を用いて、それぞれの挿入5’端配列を決定した。
作製されたESTデータベースからBLAST検索を行い、既知のプロテアーゼインヒビターと相同性があるペプチドをコードする遺伝子を探索した。ついで、特に機能ドメインを確実に有するペプチドをコードする遺伝子cg1f#2E11、cg1f#4D5を選び出し、適切なプライマーを用いて、5’非翻訳領域からポリA部分にいたる完全長配列を得た。さらに選抜されたcg1f#2E11、cg1f#4D5についてのDNA配列情報は、遺伝子情報管理ソフトDNASIS Pro(Hitachi )を用いて、ORF検索をまた、Signal P プログラムにより、シグナルペプチド部分の同定をおこなった。
配列番号1はcg1f#2E11のORF部分の塩基配列、配列番号2は演繹的に求めたORF部分のアミノ酸配列,配列番号3はcg1f#2E11のシグナルペプチド配列部分を除いた成熟ペプチドをコードする塩基配列、配列番号4は、演繹的に求めた成熟ペプチド配列である。
一方、配列番号5はcg1f#4D5のORF部分の塩基配列、配列番号6は演繹的に求めたORF部分のアミノ酸配列,配列番号7はcg1f#4D5のシグナルペプチド配列部分を除いた成熟ペプチドをコードする塩基配列、配列番号8は、演繹的に求めた成熟ペプチド配列である。
BLAST検索の結果では、配列番号4はWAP(whey acidic protein)型のプロテアーゼインヒビターに特徴的な一定間隔で並んだ8個のシステインからなる”four-disulfide domain“を有していたが、N末端、C末端部分にはフジツボ特徴的なアミノ酸配列を持っていた(図1)。配列番号8はKunitz型セリンプロテアーゼインヒビターに特徴的なsignature配列を有していたが、N末端にはフジツボに特徴的なアミノ酸配列を有していた(図2)。
配列番号4のペプチドをコードする遺伝子(配列番号3)を増幅するため、プライマーセット(f-WAP-2E11-pET32exp、5’-GG GAATTC TACCCAAGCGGTTCCAGC-3'、r-WAP-2E11-pET32exp、5’-GGG CTCGAG TTAGCTTCGGCACTGATT-3’)を用いた。PCR産物は制限酵素消化、精製後、大腸菌発現系pET32aベクター(Novagen)のEcoRI-XhoI部位にライゲートし、大腸菌Rossetta-gami(DE3)pLysS(Novagen)を用いて大量発現した。その結果得られたタグ付きタンパク質(23kDa)は、可溶化された状態で、大量に発現させることができることが明らかとなった(図3)。この組換え融合タンパク質はHis(6)タグに対するaffinity chromatographyにより、精製した後、タグ部分をエンテロキナーゼで除去し、再度タグ部分だけをHis(6)タグに対するaffinity chromatographyにより除去することにより、活性の測定が可能なレベルまで精製することができた。
配列番号2、6および8のペプチドをコードする遺伝子(配列番号1、5、7)を増幅するため、プライマーセット(f-WAP-2E11-pET32exp、5’-GG GAATTC TACCCAAGCGGTTCCAGC-3'、r-WAP-2E11-pET32exp、5’-GGG CTCGAG TTAGCTTCGGCACTGATT-3’)を用いた。PCR産物は制限酵素消化、精製後、大腸菌発現系pET32aベクター(Novagen)のEcoRI-XhoI部位にライゲートし、大腸菌Rossetta-gami(DE3)pLysS(Novagen)を用いて大量発現した。その結果得られたタグ付きタンパク質(23kDa)は、可溶化された状態で、大量に発現させることができることが明らかとなった。この組換え融合タンパク質はHis(6)タグに対するaffinity chromatographyにより、精製した後、タグ部分をエンテロキナーゼで除去し、再度タグ部分だけをHis(6)タグに対するaffinity chromatographyにより除去することにより、活性の測定が可能なレベルまで精製することができた。
尚、これらのペプチドは抗菌活性も有している。従って、抗菌剤等の開発等にも利用可能である。
また、本発明のプロテアーゼインヒビターペプチドは海洋微生物に対する抗菌性を持つことが考えられるため、例えば、魚介類による食中毒防止用の抗菌剤等の開発に有用な遺伝子資源、ペプチド資源を提供することが可能である。
さらに、プロテアーゼインヒビターは医薬品としてもっとも利用価値の高いターゲットの1つであるが、本発明のプロテアーゼインヒビターペプチドは構造的に新規性が高く、これまでのプロテアーゼインヒビターと異なった基質特異性を有する可能性が高い。よって、新たな医薬品開発に有用な遺伝子資源、ペプチド資源を提供することが可能である。
Claims (5)
- (a)配列番号2もしくは4に記載のアミノ酸配列により表されるペプチド、または
(b)配列番号2もしくは4に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列により表され、かつフジツボキプリス幼生のセメント腺に発現し、プロテアーゼ阻害活性および抗菌活性を有するペプチド
をコードする遺伝子。 - (a)配列番号1もしくは3に記載の塩基配列で表されるDNA、または
(b)前記(a)のDNAもしくはこれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフジツボキプリス幼生のセメント腺に発現し、プロテアーゼ阻害活性および抗菌活性を有するペプチドをコードするDNA
を特徴とする遺伝子。 - (a)配列番号2もしくは4に記載のアミノ酸配列により表されるペプチド、または
(b)配列番号2もしくは4に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列により表され、かつフジツボキプリス幼生のセメント腺に発現し、プロテアーゼ阻害活性および抗菌活性を有するペプチド。 - 請求項2に記載の遺伝子を含むベクター。
- 請求項4に記載のベクターを用いるペプチドの製造方法。
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